【解決手段】血圧計測定システム1においては、脈波センサ5によって測定した脈波波形の時間パラメータのみならず、別体に設けられたデータ処理装置3において、血管の収縮と拡張によって脈波が形成される現象も反映させて最大血圧値及び最小血圧値を求める。
信号源から生体内の血管に入射した波の反射波を検出し、入射波と反射波との間に前記血管の物性に応じて生じる位相差が生じるときに、位相シフト回路によって自例発振振動の周波数を変化させながら位相差をゼロに補償し、当該位相差がゼロに補償された周波数の周期的な時間変化を脈波波形として出力する血管脈波検出部と、
前記血管脈波検出部から得られた前記脈波波形を脈波データとして送信する第1通信部と
を有する脈波測定装置と、
前記第1通信部からの前記脈波データを受信する第2通信部と、
前記第2通信部から得られた前記脈波データに基づく前記血流の一周期の時間の脈波波形について、血管収縮時間の間における脈波波形の時間積分値と、血管拡張時間の間における脈波波形の時間積分値とを用いて、血管収縮時間における血管が血流を押し出すエネルギーを普遍的に表現した規格化最大圧力値と、血管拡張時間における血管が血流を押し出して緩和するエネルギーを普遍的に表現した規格化最低圧力値とを算出し、当該規格化最大圧力値及び規格化最低圧力値に基づいて最大血圧値及び最低血圧値を出力する血圧値算出部と
を有し、前記脈波測定装置と別体に設けられたデータ処理装置と
を備えることを特徴とする血圧測定システム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0023】
(1)本発明による位相シフト法の原理
本発明による位相シフト法とは、信号源から対象物に入射した波の反射波を検出し、入射波と反射波との間に対象物の物性に応じて生じる位相差を位相シフト回路によって周波数を変化させることにより、位相差をゼロに補償し、その位相差をゼロに補償する周波数変化量からの対象物の物性を求めるものである。
【0024】
すなわち検出センサ、増幅器および位相シフト回路の直列接続からなる閉ループの自励発振を維持するために、当該閉ループの周波数を変更して位相差をゼロに補償するものである。
【0025】
生体に光を入射したときの入力信号と出力信号との間に現れる位相差の測定に位相シフト法を適用するカフ無し血圧計については、特登4348467号公報に開示されている。すなわち帰還ループにより位相差をゼロに補償して起こる自励発振振動の周波数を計測し、探触素子による生体からの入射光を受光しているときの周波数と光が生体に入射されていないときの周波数と間の偏差を検出し、これを生体の物質特性として出力する。そして発光素子への入力波形と受光素子からの出力波形との間の位相差を位相シフト法により周波数偏差に変換する。このように位相差の定量測定に比較し、周波数の定量測定の方が格段に精度の優れた計測器を用いることができる。
【0026】
このようなカフ無し血圧計においては、血管の拍動が血管内圧(血圧)に相関していることから、脈波の形状も血管内圧に相関している。このため脈波の特性を位相シフト法を用いて共振現象を形成して周波数に変換すると、血管特性を包含したバネ定数(すなわち血管壁の硬さを示すバネ定数)を反映することがわかる。
【0027】
(2)血圧測定システムの制御系の構成
図1に示すように、血圧測定システム1は、人体の皮膚表面に直接的又は衣服等を介して間接的に装着する脈波測定装置2と、当該脈波測定装置2からの脈波データに基づき所定の演算処理により最大血圧値及び最低血圧値を算出するデータ処理装置3からなる。
【0028】
脈波測定装置2は、脈波センサ5、バイアス回路6、閉ループ回路7、無線通信部8を有する。脈波センサ5は、電流を光に変換する光半導体からなる発光素子10と、高精度で光の強度を検出するフォトンカウンタからなる受光素子11とにより、血管を流れる血流の脈波波形を検出する。
【0029】
この脈波センサ5において、発光素子10の出射光軸と受光素子11の入射光軸との交点Pは、透光板12の表面に対し予め定めた高さ位置に設定されている。交点Pの予め定めた高さ位置は、血流の脈波測定装置2となるため、人体の皮膚表面から血管の位置までの距離の近傍に設定することが望ましい。
【0030】
また発光素子10及び受光素子11の間には遮光部13が配置され、発光素子10の光が受光素子11に回り込んで受光に対する外乱発生をとなるのを抑制する。
【0031】
バイアス回路6は、脈波センサ5の発光素子10のアノードとカソードの間に供給するバイアス電圧を生成し、受光素子11の出力に抵抗素子を接続し、受光素子11に流れる電流を電圧に変換する機能を有する。
【0032】
閉ループ回路7は、受光素子11から出力される電流をDCカットコンデンサ15及び続く増幅器16を介して位相シフト回路17に入力させる。位相シフト回路17は、その入力信号と出力信号との間に位相差があるときは、自励発振回路の発振周波数を変化させて、位相差をゼロとし、自励発振を持続させる機能を有する。位相シフト回路17の詳細な構成と作用については、特開平9−145691号公報に開示されている。
【0033】
このように閉ループ回路7では、人体の皮膚表面近傍の血流−受光素子11−DCカットコンデンサ15−増幅器16−位相シフト回路17−発光素子10−上述の血流の閉ループが形成される。この閉ループ回路7は、増幅器16と位相シフト回路17によって自励発振回路を形成する。
【0034】
位相シフト回路17から出力される脈波データとしての自励発振回路の発振周波数が無線通信部8に供給される。無線通信部8は、脈波データを例えばIEEE802.15規格等の近距離無線通信規格に準拠した通信方式によりデータ処理装置の無線通信部に送信する。
【0035】
脈波測定装置2の無線通信部8は、データ処理装置3の無線通信部20から所定の非接触給電方式によりワイヤレス給電を受ける。この非接触給電方式としては、2つの隣接するコイルの片方に電流を流すと発生する磁束を媒介して隣接したもう片方に起電力が発生する電磁誘導を用いた「電磁誘導方式」、電磁界の共鳴現象を利用した「電磁界共鳴方式」、電力を電磁波に変換しアンテナを介して送受信する技術である「電波方式」などが挙げられる。
【0036】
データ処理装置3は、無線通信部20、制御部21、表示部22、記憶部23を有し、脈波測定装置2から送信される脈波データに基づいて、最大血圧値と最低血圧値と脈拍数を算出する。
【0037】
データ処理装置3において、無線通信部20から受信した脈波データは制御部21に供給される。制御部21は、脈波データの周波数をデフォルト周波数に調整する周波数調整部30と、脈波データの繰り返しの一周期波形を算出する一周期波形算出部31と、一周期波形に基づいて血圧算出のための基本パラメータを算出する基本パラメータ算出部32と、血圧算出のための2次パラメータを算出する2次パラメータ算出部33と、基本パラメータと2次パラメータとを用いて最大血圧値と最低血圧値と脈拍数を算出して出力する血圧算出出力部34とを有する。
【0038】
これらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、血圧算出プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで構成してもよい。ここでは、ソフトウェアで実現できる機能を処理するプロセッサを内蔵した1つのICチップで制御部を構成する。これによって、回路ブロックを小型にできる。
【0039】
制御部21と交信する記憶部23は、制御部21で実行されるプログラムを格納し、また脈波データを一時的に記憶する機能を有するメモリであるが、ここでは特に、発光素子10と受光素子11によって検出される脈波波形に基づいて算出される血圧値と、侵襲法またはマンシェット法によって得られる血圧値とを関連付ける係数を記憶する関連付け係数ファイル35を格納する。係数の詳細な内容については、脈波波形の基本パラメータと2次パラメータと関連付けて後述する。
【0040】
制御部21は、脈波データに基づいて算出した周波数調整信号を無線通信部20を介して脈波測定装置2の無線通信部8に送信する。この周波数調整信号は、脈波データとしての自励発振回路の発振周波数を予め定めたデフォルト周波数となるように、位相シフト回路17の回路定数を変更する信号である。
【0041】
脈波測定装置2における閉ループ回路7の位相シフト回路17は、周波数調整信号に基づいて、被検査者によって皮膚表面近傍の血流から検出される脈波データとしての自励発振回路の発振周波数がかなりばらついても、デフォルト周波数に調整することで、信号処理のダイナミックレンジの増大を抑制できる。
【0042】
データ処理装置3の無線通信部20は、所定の通信網(ネットワーク)40を介して外部のサーバ41と接続可能であり、脈波測定装置2から送信される脈波データ並びに制御部21の血圧算出出力部34から最大血圧値及び最低血圧値を時系列的に蓄積及び管理するようになされている。したがって、データ処理装置3では、制御部21は、サーバ41に記録された被検査者の脈波データや最大血圧値や最低血圧値を時系列的に読み出すことにより、当該被検査者が計測時から長期間までの生涯の脈派データを利用した健康管理、病気の予測、心理状態までを把握することが可能となる。
【0043】
(3)データ処理装置の血圧測定プログラムによる処理
データ処理装置3の制御部21の制御における各機能、記憶部23の係数ファイル35の内容等について、
図2に示す血圧測定プログラムの処理手順SP0を用いて詳細に説明する。
【0044】
まずデータ処理装置3の制御部21が被検査者が希望する測定時間に合わせて、無線通信部20から給電させることにより、脈波測定装置2の無線通信部8を経て、脈波センサ5が作動する。なお、被検査者が常時計測を希望する場合には、上述のような制御部21の起動制御は不要である。
【0045】
脈波センサ5において、発光素子10からの光は、透光板12を介して人体の皮膚表面に入射し、当該皮膚表面近傍の血管のある交点Pで反射し、その反射光は透光板12を介して受光素子11にて受光される。そして閉ループ回路7において、人体の皮膚表面近傍の血流−受光素子11−DCカットコンデンサ15−増幅器16−位相シフト回路17−発光素子10−当該血流の閉ループが形成される。
【0046】
この閉ループは、増幅器16と位相シフト回路17によって自励発振回路を形成する。位相シフト回路17は、その入力信号に対応する受光素子11から出力される検出電気信号と、その出力信号に対応する発光素子10に供給される駆動電気信号との間に位相差があるときは、その位相差をゼロにするように、自励発振回路の発振周波数を変化させる。
【0047】
この発振周波数の変化は、血流の変化を反映したもので、その時間変化の波形は、脈波波形F1である(SP10)。この脈波波形F1は、横軸に時間、縦軸に電圧をとると、例えば
図3のように示される。脈波波形F1は電圧振幅が時間経過に関わらずほぼ一定で、周波数が時々刻々変化する。この周波数変化が血管における収縮と拡張の大きさに対応する。
【0048】
脈波波形F1における周波数変化のダイナミックレンジは、被検査者によって異なる。脈波波形F1の中心周波数に個人差があるため、そのまま脈波波形F1のデータ処理を進めると、メモリ容量も、信号処理回路のダイナミックレンジも、大きなものとなる。このため、脈波波形F1の中心周波数を予め定めたデフォルト周波数f
Dに統一する周波数調整が行われる(SP11)。この処理手順は、制御部21の周波数調整部30の機能によって実行される。
【0049】
具体的には、データ処理装置3の制御部21から脈波測定装置2の位相シフト回路17に対して、回路定数を変更させる周波数調整信号が出力される。デフォルト周波数f
Dは、脈波データのサンプリング周期や、脈波データのばらつきを平均化するのに必要なデータ組数等と、回路ブロックの処理速度、メモリ容量等を考慮して決定することができる。ここでは、脈波データのサンプリング周期を毎秒250回、ばらつき平均化に必要なデータ組数を30組、データ処理のビット数を16ビット、処理速度を10MHzとして、デフォルト周波数f
Dを4kHzとした。
【0050】
デフォルト周波数f
Dは、位相シフト回路17の動作中心周波数f
θと異なるものとする。
図4は、位相シフト回路17のゲインと位相の周波数特性を示す図である。位相シフト回路17のゲイン特性は、動作中心周波数f
θを中心として対称形にゲインが低下するバンドパス特性を有するように設定される。したがって、動作中心周波数f
θ付近では、周波数が変化してもゲインがほとんど変化しない。
【0051】
脈波波形は自励発振回路の発振周波数の時間的変化を示す波形であるため、周波数変化を感度良く検出する必要がある。そこで、デフォルト周波数f
Dは、ゲイン/周波数の勾配の小さい付近を避けて、ゲイン/周波数の勾配の大きい周波数のところに設定する。
図4では、デフォルト周波数f
Dを位相シフト回路の動作中心周波数より高周波側に設定されるが、これを動作中心周波数より低周波側に設定してもよい。
【0052】
このデフォルト周波数f
Dで、脈波波形データのサンプリングを行う。(1/4kHz)=250μsであるが、これを16分割し、250kHzごとにサンプリングして、脈波波形の周波数をカウントする。脈波波形はアナログ波形であるので、適当な閾値を有するコンパレータによるA/D変換を用いて2値化を行い、ディジタル波形に変換し、そのディジタル波形についてサンプリングを行う。
図5にA/D変換された脈波波形の例を示す。
【0053】
サンプリングは、ディジタル波形について4kHzのサンプリングタイミングで4ms分行う。つまり、ディジタル波形について、16ビット分のサンプリングを行う。この16ビット分のサンプリングデータを1組として、同じ被検査者に対し、30組のサンプリングデータを1組として、同じ被検査者に対し、30組のサンプリングデータを取得する。取得した30組のサンプリングデータは一旦記憶部に記憶する。記憶された30組のサンプリングデータを用いて、データのスムージング処理を行う。スムージング処理としては、隣接するサンプリングデータ間で移動平均を取る方法を用いることができる。このようにして、16ビット分のサンプリングデータにおける異常データ等を取り除き、信頼性の高いサンプリングデータとする(SP12)。
【0054】
図6に、スムージング処理後の16ビット分のサンプリングデータの例を示す。横軸は時間、縦軸はデフォルト周波数f
Dからの周波数偏差である。
図6に示されるように、サンプリングデータは、周期性を有するが、時間経過に対し傾斜を有する。この傾斜は、被検査者の測定状態によるものである。
【0055】
そこで、脈波波形F1に相当する16ビットのサンプリングデータについて、繰り返し単位となる一周期の波形を抜き出すために、一周期分判定を行う(SP13)。一周期は、血流の繰り返し周期で、鼓動の周期であるので、経験上、大体の値が分かっている。そこで、サンプリングデータを微分し、得られるゼロクロス点を求める。そして、適当な判定時間間隔を設定して、その間のゼロクロス点の間を一周期と判定する。
【0056】
一周期分のサンプリングデータが得られると、次に傾斜補正を行う(SP14)。傾斜補正は、一周期のサンプリングデータの開始点となるゼロクロス点のΔfの値と、一周期の終了点となるゼロクロス点のΔfの値を同じとするように、各サンプリングデータを補正することで行う。傾斜補正が行われた一周期分の脈波波形F2を算出取得する上記の手順は、制御部の一周期波形算出部の機能によって実行される。
【0057】
図7に、脈波波形F2の例を示す。
図8の横軸は時間、縦軸はΔfである。脈波波形F2は、一周期がT秒で、一周期の開始時点を時間原点として脈波波形F2が最高値となる時間がTaである。脈波波形F2は、時間原点から時間Taまでの間にΔfが急激に増大する。そして、時間Taから一周期が終了する時間Tまでの間は、途中にΔfがほぼ一定となる期間があるが、全体としてはΔfが減少する。
【0058】
そこで、脈波波形F2を特徴づける基本パラメータとして、一周期の時間T秒と、一周期の開始時点を時間原点として脈波波形F2が最高値となる時間Ta秒と、Tb=(TーTa)秒とを算出する。そして、時間原点から時間Ta秒までの脈波波形F2の時間積分値Saと、時間Taから一周期の終了時点である時間Tまでの脈波波形F2の時間積分値を算出する。これらが、脈波波形F2の基本パラメータである。基本パラメータの算出は、制御部21の基本パラメータ算出部32の機能によって実行される(SP15)。具体的には、脈波波形F2のピーク検出を行ってTaを求め、Tb=(TーTa)を求める。そして、Ta、Tbのそれぞれの期間について脈波波形F2の時間積分を行ってSa、Sbを算出する。
【0059】
また、基本パラメータを用い、60秒当たりの脈拍数N=(60/T)と、Taの期間の規格化最大圧力値としてのha=[2{Sa/(Sa+Sb)}/{Ta/(Ta+Tb)}]と、Tbの期間の規格化最低圧力値としてのhb=[2{Sb/(Sa+Sb)}/{Tb/(Ta+Tb)}]を2次パラメータとして算出する。2次パラメータの算出は、制御部21の2次パラメータ算出部33の機能によって実行される(SP16)。
【0060】
具体的には、S15において算出された基本パラメータTa,Tb,Sa,Sbを用いて、演算によりN,ha,hbを算出する。なお、算出されたこれらのパラメータは規格化されたものであり、その単位は、必ずしも時間や圧力ではない。
【0061】
上記基本パラメータと2次パラメータは、既に特許第4680911号公報において示されてるように、血圧が(Ta×Tb)に密接な関係があることの知見をさらに進め、脈波変化の時間パラメータのみではなく、血管の収縮と拡張によって脈波が形成される現象を反映して血圧を算出しようとするためである。
【0062】
すなわち、Taの期間は、血管が血流を押し出す収縮期間であり、Tbは血管が血流を押し出して緩和する拡張期間である。これらの期間について、時間パラメータと波形の積分値、規格化圧力値を求め、これらによって、血管の収縮と拡張に伴って血流がエネルギーを受け取り、またエネルギーを放出することで脈波が形成される現象を血圧算出のモデルとして用いることができる。
【0063】
次に、脈波波形F2についてS15及びS16にて算出されたパラメータに基づいて血圧値と脈波波形F2に基づいて算出される血圧値との間を関連づける係数を用いる。関連付け係数A,α,B,βは、予め侵襲法によって得られる脈波波形F2についてS15及びS16と同じ処理手順で基本パラメータと2次パラメータを求め、これと脈波波形F2の基本パラメータ、2次パラメータとの関連付けを行って得られる。
【0064】
侵襲法によって得られる数多くの脈波波形F2についての基本パラメータと2次パラメータを整理するために、これらのパラメータを含む関係式Yで、X=(Ta×Tb)と密接な関係を有するものを探索した。探索は、YX=一定値となる関係式Yがないかの観点で行った。これは、血管の収縮と拡張によって脈波が形成される現象は、非検査者の個人差を超えて普遍的なものであり、X=(Ta×Tb)は既に特許第4680911号公報によって血圧と密接な関係を有する変数であることが分かっているからである。
【0065】
このような探索の結果、侵襲法によって得られる最大血圧値P
Hについては、Y
H=[(N
2×ha)/{P
H×Sa/(Sa+Sb)}
-1/2]の関係式を用いると、ほぼY
HX=一定値となることが分かった。10点の侵襲法による脈波波形データを整理した結果を
図8に示す。
図8の横軸は、X=(Ta×Tb)、縦軸はY
Hである。Y
H=AX
-αとすると、
図8の例では、A=254、α=1、10点のデータとY
H=254X
-1との相関係数r
2=0.975であった。得られたA、αは記憶部23に記憶される。
【0066】
同様に、侵襲法によって得られる最低血圧値P
Lについて、Y
L=[{N
2×Sb/(Sa+Sb)}/(P
L×hb)
-1/2]の関係式を用いると、ほぼY
LX=一定値となることが分かった。13点の侵襲法による脈波波形データを整理した結果を
図9に示す。
図9の横軸は、X=(Ta×Tb)、縦軸はY
Lである。Y
L=BX
-βとすると、
図9の例では、B=36X、β=1、13点のデータとY
L=36X
-1との相関係数r
2=0.972であった。得られたB、βは記憶部23に記憶される。
【0067】
図8で得られたαがほぼ1の値をとる関係式Y
H=AX
-α、
図9で得られたβがほぼ1の値をとる関係式Y
L=BX
-βを用いると、最大血圧値P
H=[{N
4×(ha)
2}/[A
2×(Ta+Tb)
-2α×{Sa/(Sa+Sb)}]として算出でき、最低血圧値P
L=[N
4×{Sb/(Sa+Sb)}
2]/[B
2×(Ta+Tb)
-2β×(hb)]として算出できる。そこで、記憶部23に記憶されているA、α、B、βを読み出し、脈波波形F2の基本パラメータ、2次パラメータに基づき、最大血圧値P
Hと最低血圧値P
Lを算出し、脈拍数Nと合わせて、表示部22に出力する。この処理手順は、制御部21の血圧算出出力部34の機能によって実行される(SP17)。
【0068】
記憶部23に記憶されているA、αを用いて算出された最大血圧値P
Hについて、Y
Hを再計算し、
図8の侵襲法によるデータと重ね合わせた結果を
図10に示す。
図10の横軸、縦軸は
図8と同じである。黒丸は
図8の侵襲法によるデータと同じで、白丸は23人被検査者について、データ処理装置3の制御部21を用いて算出されたデータに基づいて計算したY
Hの値である。
図10に示されるように、Y
H=254X
-1に対する相関関係は、侵襲法の10点の黒丸と、データ処理装置3の制御部21による23点の白丸とほぼ同じである。
【0069】
同様に、記憶部23に記憶されているB、βを用いて算出された最低血圧値P
Lについて、Y
Lを再計算し、
図9の侵襲法によるデータと重ね合わせた結果を
図11に示す。
図11の横軸、縦軸は
図9と同じである。黒丸は
図9の侵襲法によるデータと同じで、白丸は27人の被検査者について、データ処理装置3の制御部21を用いて算出されたデータに基づいて計算したY
Lの値である。
図11に示されるように、Y
L=36X
-1に対する相関関係は、侵襲法の13点の黒丸と、データ処理装置3の制御部21による27点の白丸とほぼ同じである。
【0070】
このことから、データ処理装置3を用い、脈波波形に基づいて算出した最大血圧値と最低血圧値は、侵襲法によって測定される最大血圧値と最低血圧値に極めてよく一致するものとなることがわかる。なお、脈波測定装置2による測定に並行して、同じ被検査者について、いくつかのメーカ製のマンシェット法電子血圧計でも最大血圧値と最低血圧値を測定したところ、データ処理装置3による値と、マンシェット法電子血圧計による値とよい一致を見た。
【0071】
上記では、A、αを10点の侵襲法のデータからA=254、α=1としたが、相関係数の値から考えると、Aの値は、200〜270の範囲の値でも実用上問題ない。また、B、βを13点の侵襲法のデータからB=36、β=1としたが、相関係数の値から考えると、Bの値は、20〜60の範囲の値でも実用上問題ない。
【0072】
また、A、α、B、βをもっと多くの侵襲法のデータから定め、その値を記憶部23に記憶することで、データ処理装置3の制御部21が算出する血圧値の精度が向上する。そのときには、A=254、α=1、B=36、β=1とは異なる値となる。例えば、Aの値は、100〜400の範囲の値、αの値は0.7〜1.2の範囲の値、Bの値は、20〜80の範囲の値、βの値は0.7〜1.2の範囲の値であってもよい。
【0073】
次に、上記の構成によれば、検査対象の生体の種類(人体や家畜等)や被検査者の個人差(緩慢な脈動や急峻な脈動等)や脈波センサ(光学センサ、振動センサ、変位センサ等)の種類や脈波の検出値の単位(電位、周波数、mm等)によらず、普遍的に最大血圧値と最低血圧値を求められることを説明する。
【0074】
まず、血管の収縮と拡張によって脈波が形成される現象は、被検査者の個人差等を超えて普遍的なものであると考える。被検査者の個人差等を超えて脈波の最大圧力値と最低圧力値を示すには、血管の収縮時間と拡張時間を規格化し、収縮時間において血流が血管から受けるエネルギーと拡張時間において血流が血管に対して吐出するエネルギーを規格化することでできる。
【0075】
上記のように、血流の一周期の時間T秒の脈波波形F2について、血管収縮時間Taの間における脈波波形F2の時間積分値Saと、血管拡張時間Tb=(T−Ta)の間における脈波波形F2の時間積分値Sbを用いると、血管が受ける規格化最大圧力値haと規格化最低圧力値hbは次のように示すことができる。
【0076】
すなわち、ha=[2{Sa/(Sa+Sb)}/{Ta/(Ta+Tb)}]、hb=[2{Sb/(Sa+Sb)}/{Tb/(Ta+Tb)}]である。{Ta/(Ta+Tb)}と{Tb/(Ta+Tb)}は、それぞれ血管の規格化収縮時間と規格化拡張時間であり、{Sa/(Sa+Sb)}と{Sb/(Sa+Sb)}は、それぞれ、収縮時間において血流が血管から受ける規格化エネルギーと拡張時間において血流が血管に吐出する規格化エネルギーである。係数の2は、脈波波形の変化を三角形近似することで生じる値である。
【0077】
このようにして求められる規格化最大圧力値ha、規格化最低圧力値hbは、実測された脈波波形の最大値と最低値と同じものではない。つまり、実測された脈波波形の最大値が小さな値であっても、SaやTa次第では血流が血管から受けるエネルギーが大きく、侵襲法やマンシェット法による最大血圧値が大きいことがある。逆に、実測された脈波波形の最大値が大きな値であっても、SaやTa次第では血流が血管から受けるエネルギーが小さく、侵襲法やマンシェット法による最大血圧値が小さいことがある。
【0078】
規格化最大圧力値ha、規格化最低圧力値hbは、被検査者の個人差が出やすい脈波波形の最大値や最低値、あるいは脈拍数や血管の収縮期間、拡張期間に基づかずに、血管の収縮と拡張によって脈波が形成される現象を普遍的に表現し、その普遍的表現から、侵襲法やマンシェット法によって得られる最大血圧値と最低血圧値に近い値を得ようというものである。
【0079】
このようにして求められる規格化最大圧力値haは、実際の侵襲法によって測定された最大血圧値P
Hとは、普遍的関係式で結ばれていると考えられる。同様に、規格化最低圧力値hbと、実際の侵襲法によって測定された最低血圧値P
Lとは、普遍的関係式で結ばれていると考えられる。その普遍的関係式Yを見つければよい。普遍的関係式は、特許第4680911号公報で既に分かっているX=(Ta×Tb)と関係があるはずである。
【0080】
そこで、XY=一定値となる関係式を探索することを試みた。その試行錯誤から、規格化最大圧力値haと、実際の侵襲法によって測定された最大血圧値P
Hの間の関係式Y
Hは、Y
H=[(N
2×ha)/{P
H×Sa/(Sa+Sb)}
-1/2]がXY
H=A(一定値)となることが分かった。Aは、XY
H=Aの一定値であり、Nは脈拍数である。この関係式を書き直すと、P
H={N
4×(ha)
2}/[A
2×(Ta×Tb)
-2×{Sa/(Sa+Sb)}]となり、P
Hは、Nの四乗に比例、haの二乗に比例、X=(Ta×Tb)の二乗に比例、収縮時間における規格化エネルギーに反比例の関係を有することがわかる。
【0081】
また、規格化最低圧力値hbについて、XY=一定値となる関係式を探索すると、その試行錯誤から、規格化最低圧力値hbと、実際の侵襲法によって測定された最低血圧値P
Lの間の関係式Y
Lは、Y
L={N
2×Sb/(Sa+Sb)}/(P
L×hb)
-1/2]がXY
L=B(一定値)となることが分かった。
【0082】
Bは、XY
L=Bの一定値であり、Nは脈拍数である。この関係式を書き直すと、P
H=[N
4×{Sa/(Sa+Sb)
2]/([B
2×(Ta×Tb)
-2×hb]となり、P
Lは、Nの四乗に比例、hbに比例、X=(Ta×Tb)の二乗に比例、拡張時間における規格化エネルギーの二乗に比例の関係を有することがわかる。
【0083】
理想的には、XY
H=A、XY
L=Bとなるように関係式Y
H、Y
Lを探索することがよいが、脈波センサの特性や、変換過程によっては、Y
HやY
LがXに対しきれいな反比例の関係にまとまらないことがある。統計処理の相関係数からはある程度のばらつきは許される。そこで、Y
HX
α=A、Y
LX
β=Bを満たす関係式Y
H、Y
Lでもα、βが1に近い場合には、その関係式を用いてもよい。α、A、β、Bは、脈波センサ等によって異なる係数である。
【0084】
本実施の形態では、係数として、予め侵襲法またはマンシェット法による最大血圧値及び最低血圧値に対応付けるように、Aの値は、100〜400の範囲の値、αの値は、0.7〜1.2の範囲の値、Bの値は、20〜80の範囲の値、βの値は0.7〜1.2の範囲の値とした。特にAの値は、200〜270の範囲の値、αの値は1、Bの値は、20〜60の範囲の値、βの値は1であることが望ましい。
【0085】
上記では、脈波センサ5として、人体の表面に発光素子10によって光を入射し、反射した光を受光素子11で受光する反射型受光光センサを説明した。これに代えて、人体に向けて発光素子10によって光を入射し、透過した光を受光素子11で受光する透過型受発光センサを用いてもよい。また、受発光素子に代えて、人体に向けて超音波振動子によって超音波を入射し、反射した超音波を振動検出素子で検出する超音波プローブを用いてもよい。
【0086】
これらのように、波形入力部と波形検出部を有するセンサを用いる場合には、位相シフト法を利用できる。例えば、超音波型の脈波センサとして、超音波プローブを用いる場合には、振動検出素子に増幅器を接続し、増幅器の出力端子と超音波振動子との間に位相シフト回路を配置し、人体の血流部と振動検出素子と増幅器と位相シフト回路と超音波振動子とで構成される自励発振回路の発振周波数の中心周波数をデフォルト周波数に調整する周波数調整部を備える構成とすることができる。
【0087】
この他に、位相シフト法を用いない単純なセンサを脈波センサとして用いることもできる。例えば、変位センサ、振動検出センサ等、脈波波形を検出するものであれば、脈波センサとして用いることができる。脈波センサが代わっても、Y
H、Y
Lの関係式は変化しない。変更が必要なのは、α、A、β、Bである。換言すれば、α、A、β、Bの値を変更すれば、様々な脈波検出センサを用いることができる。
【0088】
生体として人体の場合について述べたが、人体以外の生体であっても、血管の収縮と拡張とによって脈波波形が形成されるものであれば、上述のように規格化最大圧力値haと規格化最低圧力値hbとを侵襲法による最大血圧値P
Hと最低血圧値P
Lとに関連付ける関係式Y
H、Y
Lを求めることができる。
【0089】
(4)脈波測定装置のウェアラブル機器への応用展開
本発明における脈波測定装置2を、被検査者の身体に装着する部位としては、常時または長時間装着しながら、人体の動作が影響し難い箇所が望ましい。
【0090】
従来の脈波測定装置と異なり、皮膚表面に対する押圧が不要であり、かつ、非接触でも可能なため、皮膚表面近傍に血管が存在する部位であれば装着可能であり、対応する装置形態も種々のものを広く適用することができる。
【0091】
その際、被検査者の身体のうち活動時に最も皮膚表面の動きの少ない部位に、脈波測定装置を装着することが有効であり、特に胸部中央の骨表層面に絆創膏型の脈波測定装置を貼り付けることが望ましい。比較的長時間(可能であれば常時)装着することが理想的であり、絆創膏のような貼着型のものが特に望ましい。
【0092】
その他にも皮膚表面近傍に血管が存在する部位としては、頭部(特に顔)、胸部、手(指を含む)、腕部、足(特に足裏)、脚部など広く対象となる。これら各部位に対応する脈波測定装置は、絆創膏型や機器内蔵型など小型かつワイヤレス通信及び受電が可能なものを適用すれば良い。
【0093】
具体的には、
図12に示す表のように、右側列に記載した脈波測定装置2を身体の各部位に対応して装着するのが望ましい。例えば顔を中心とした頭部においては、メガネの鼻当てやテンプル等に脈波測定装置2を搭載してもよい。胸部においては、ネックレス、ネクタイ、ネックストラップIDカード、シャツの裏地に脈波測定装置2を搭載してもよい。特に上述したように胸部中央の骨表層面に近い部位に装着できることが望ましい。
【0094】
また手や腕部においては、腕時計、リストバンド、指輪などに脈波測定装置2を搭載するようにしてもよい。特に掌(把持部)においては、自動車のステアリング、二輪車のハンドル、鞄の持ち手、歯ブラシやシェーバーの柄、筆記具、PCのマウス等、被検査者が所定時間把持する対象物に脈波測定装置2を搭載するようにしてもよい。
【0095】
さらに足や脚部においては、靴の中敷き、くつ下、シューズ、アンクルバンド、ズボンなど脈波測定装置2を搭載するようにしてもよい。これ以外にも被検査者の携行品にも脈波測定装置2を搭載してもよく、例えば、スマートフォン(携帯電話)及びそのカバーケース、タブレット及びそのカバーケース等が挙げられる。
【0096】
以上は被検査者に対して非侵襲にて脈波測定装置2を搭載する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば内視鏡を利用したカテーテル(先端から光デバイス信号を放射)のように被検査者に対して侵襲にて搭載するようにしても同様の効果を得ることができる。
【0097】
なお上述のように本実施の形態においては、脈波測定装置2の無線通信部8は、データ処理装置3の無線通信部20から所定の給電方式による非接触給電にて電源供給を受けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、脈波測定装置2の内部に超小型のバッテリを搭載するようにしてもよい。このバッテリは、1次電池でもよく、2次電池の場合には、上述の非接触給電にて無線通信部8を介して充電することが可能となる。
【0098】
また本実施の形態においては、脈波測定装置2内の脈波センサ5として、光半導体素子からなる発光素子10とフォトンカウンタからなる受光素子11とを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、血管を流れる血流の脈波波形を検出することができれば、紫外線(波長:10〜400nm)から遠赤外線(波長:0.7〜1,000μm)までの種々の波長光を発光可能な発光素子と、当該発光素子に対応する受光能力を有する受光素子とに広く適用するようにしてもよい。