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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-109583(P2017-109583A)
(43)【公開日】2017年6月22日
(54)【発明の名称】高速鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61D 17/02 20060101AFI20170526BHJP
   B61D 49/00 20060101ALI20170526BHJP
【FI】
   B61D17/02ZAB
   B61D49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-245038(P2015-245038)
(22)【出願日】2015年12月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】菅野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】森 優智
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 功
(72)【発明者】
【氏名】花井 勝祥
(57)【要約】
【課題】トンネル微気圧波を低減するのに最適な高速鉄道車両の先頭部形状を提供すること。
【解決手段】客室である一般部S8と、中央先端S1から一般部S8にかけて、進行方向に垂直な断面積が変化する先頭部と、軌道に近い位置に側カウルSを備える車両構体と、車両構体を支える台車部を有する高速鉄道車両において、側カウルSは、台車部を覆う側カウル機器覆い部S4と、側カウル機器覆い部S4の直後の位置で、車両構体の中心線に向かって絞られた側カウル絞り部S6を有すること、を特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
客室である一般部と、先端から前記一般部にかけてレール方向に垂直な面で切断した外形線に囲まれた閉曲線のうち、客室床面の最も高い部分の高さより上にある部分の面積がレール方向に変化する先頭部と、前記一般部の前記客室床面の最も高い部分の高さよりも下に配置された機器の側面を覆う側カウルと、を備える車両構体と、前記車両構体を支える2個の台車部を有する高速鉄道車両において、
前記側カウルは、前記先頭部に近い台車の輪軸を覆う位置から、後方にあるもう一方の台車の手前までの範囲では、レール方向に連続して配置され、前記先頭部に近い台車の後方に側カウル絞り部があり、前記側カウル絞り部における、前記側カウルの枕木方向の全幅が、前記先頭部に近い台車における側カウルの枕木方向の全幅より狭く、前記後方にあるもう一方の台車の直前における枕木方向の全幅よりも狭いこと、
を特徴とする高速鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載する高速鉄道車両において、
前記側カウル絞り部のレール方向に垂直な面で切断した外形線には、前記側カウルの上端に、段差があること、
を特徴とする高速鉄道車両。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する高速鉄道車両において、
前記側カウル絞り部は、レール方向で2m以上形成されていること、
を特徴とする高速鉄道車両。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載するいずれか1つの高速鉄道車両において、
前記側カウル絞り部は、前記車両構体の片側のみに形成されていること、
前記先頭部を有する先頭車両が、車両編成の両端に配置されていること、
前記両端に配置された一方の先頭車両の前記側カウル絞り部が、他方の先頭車両の反対側に配置されていること、
を特徴とする高速鉄道車両。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載するいずれか1つの高速鉄道車両において、
前記側カウル絞り部は、レール上面に平行な切断面で切断した外形線が、前記側カウル絞り部の前端と隣接する部分から、後端と隣接する部分にかけて、滑らかな曲面であること、
を特徴とする高速鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、客室である一般部と、先端から一般部にかけてレール方向に垂直な面で切断した外形線に囲まれた閉曲線のうち、客室床面の最も高い部分の高さより上にある部分の面積がレール方向に変化する先頭部と、一般部の前記客室床面の最も高い部分の高さよりも下に配置された機器の側面を覆う側カウルと、を備える車両構体と、車両構体を支える2個の台車部を有する高速鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高速鉄道車両の課題の一つに、トンネルに突入するときに発生するトンネル微気圧波がある。このトンネル微気圧波は、高速鉄道車両がトンネルに突入することによって、主に当該トンネルの出口の近隣で観測される音波であり、可聴周波数(20Hz以上)の成分と超低周波数(5Hz〜20Hz)の成分を含んでいる。トンネル微気圧波の圧力振幅は列車速度の3乗に比例するので、鉄道車両の高速走行化が進むと共に、快適な周辺環境を求める現代においてより重要な課題となっている。その課題を解決するために、車両の先頭部形状に工夫が凝らされている。
【0003】
トンネル微気圧波の振幅は、トンネル出口に到達した圧力波の時間変化率の最大値に比例する性質がある。そのため、トンネル微気圧波を低減するには、トンネル突入時に発生する圧力波の時間変化率(圧力勾配)を低減させることが必要である。
一方、圧力波の時間変化率は、先頭部におけるレール方向に垂直な断面積の変化率と相関関係がある。そのため、圧力波の時間変化率を低減させることを目的として、断面積の変化率を色々変化させることにより、先頭部形状を決定する工夫がなされている。(特許文献1、2参照)
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の技術には、次のような問題があった。
すなわち、従来の技術は、高速鉄道車両の先端部の形状のみを考慮して、トンネルの内壁面と先頭部との間に形成される空間の広がりが列車の上下左右方向面で異なることを問題としていない。そのため、先頭部がトンネルに突入するときに発生する圧力波を正確に把握することができない問題があった。
その問題を解決するために、本出願人は、特許文献3により、一般部の断面を25箇所のポイントに区分して、各ポイントにおける圧力波のインパルス応答を算出することにより、先頭部とトンネル内壁との位置関係を考慮することを提案している。
ここで、インパルス応答とは、トンネルに対し、先端を丸めた円柱状の物体(打ち込み体)が打ち込まれた場合、その各打ち込み体によって生じる圧力波の時間変化率をいう。
【0005】
インパルス応答のサンプル点は、図13に示すように25箇所とした。25箇所のサンプル点は、鉄道車両がトンネル100を通過する位置に対応して配置され、図示するように客室である一般部断面の外形線200に合わせて格子状に配置させている。そして、この平面では、レール面の高さを、z=0とし、車両の幅方向の中心位置を、y=0として、図示するように高さ方向座標値zと幅方向座標値yの位置にそれぞれのサンプル点を設定している。
【0006】
打ち込み体がトンネル100内のサンプル位置に列車速度と同じ速度U=83.333m/s(300km/h)で打ち込まれることによって、図14に示すような波形の圧力波、すなわちインパルス応答が発生する。ここでは、25箇所のサンプル点のうち5箇所について示している。25箇所のサンプル点は、図13に示すように下から上へ、そして左から右へ順に1〜25の番号が付されている。そして図14には、その中から抜き出した中間高さの番号3,8,13,18,23で示された5箇所のインパルス応答が代表的に示されている。
【0007】
図14に示したインパルス応答の波形から分かることは、トンネル100に対する打ち込み体のYZ平面における突入位置、すなわちサンプル点の位置によってインパルス応答が異なるということである。特に、トンネル100の壁面に近いサンプル点P3は、インパルス応答のピーク値が大きく、逆にトンネル壁面から遠ざかるほどピーク値が小さくなっている。そして、トンネル100の側面に近い程、打ち込み体の先端の通過後に値の下がる傾斜が急である。
このことは、特許文献1、2のように、単純に圧力波の時間変化率を低減させることを目的として、断面積の変化率を色々変化させることだけでは、トンネル微気圧波を低減する効果は、3次元形状を工夫することによって得られる潜在的な可能性の一部に限られることを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002-308092号公報
【特許文献2】特開2006-056439号公報
【特許文献3】特開2009-056896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術には、次のような問題があった。
(1)特許文献3の計算方法自体が複雑であり、また、トンネルの形状等(特にトンネル緩衝工の有無等)により大きな影響を受けるため、様々な条件を設定するのが困難である問題があった。そのため、特許文献3の方法を用いて設計された具体的車両形状は、未だ提案されていない。
(2)特許文献2の技術では、トンネル微気圧波を低減することはできるが、車両構体の下部に左右に連通する窪みを形成しているため、車両構体の下部に取り付けるべき機器の配置を制約し、一部に過密に機器を配置しなければならず、製造作業、整備作業において作業性を低下させる問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、トンネル微気圧波を低減するのに最適な高速鉄道車両の先頭部形状を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の高速鉄道車両は、次のような構成を有している。
(1)客室である一般部と、先端から前記一般部にかけてレール方向に垂直な面で切断した外形線に囲まれた閉曲線のうち、客室床面の最も高い部分の高さより上にある部分の面積がレール方向に変化する先頭部と、前記一般部の前記客室床面の最も高い部分の高さよりも下に配置された機器の側面を覆う側カウルと、を備える車両構体と、前記車両構体を支える2個の台車部を有する高速鉄道車両において、
前記側カウルは、前記先頭部に近い台車の輪軸を覆う位置から、後方にあるもう一方の台車の手前までの範囲では、レール方向に連続して配置され、前記先頭部に近い台車の後方に側カウル絞り部があり、前記側カウル絞り部における、前記側カウルの枕木方向の全幅が、前記先頭部に近い台車における側カウルの枕木方向の全幅より狭く、前記後方にあるもう一方の台車の直前における枕木方向の全幅よりも狭いこと、を特徴とする。
ここで、側カウルの幅(または位置)とは、1両の車両を構成する側カウルのうち、レール上面からの高さが最も高い点と最も低い点の中点を通り、水平面で切断した図上における幅(または位置)をいう。
(2)(1)に記載する高速鉄道車両において、前記側カウル絞り部のレール方向に垂直な面で切断した外形線には、前記側カウルの上端に、段差があること、を特徴とする。
ここで、2mという長さは、車体の先頭部の長さには関係せずに、トンネル断面積Aの平方根に比例する。日本の複線トンネルでは、トンネル断面積Aは、定数として扱うことができ、2mという長さを決定することができる。図7において、F1グラフのλの左にあるピークの幅を、頂上の75%の高さになる波形上の2点P、Q間の幅P−Qを読み取り、0.188Lとし、Pからさらに0.188L左の点をRとし、R位置のF1グラフの値を読むと、頂上の50%であることから、λとμの隔たりが0.188Lしかないとき、形状変更による効果(マイナスが望ましい)は、図7を100%としたとき、その25%分しか効果を発揮しないため、ここで線引きを行った。0.188Lは、実尺では、2mとなる。
【0012】
(3)(1)または(2)に記載する高速鉄道車両において、前記側カウル絞り部は、レール方向で2m以上形成されていること、を特徴とする。
(4)(1)乃至(3)に記載するいずれか1つの高速鉄道車両において、前記側カウル絞り部は、前記車両構体の片側のみに形成されていること、前記先頭部を有する先頭車両が、車両編成の両端に配置されていること、前記両端に配置された前記先頭車両の前記側カウル絞り部が、前記先頭車両の反対側に配置されていること、を特徴とする。
具体的には、一方の側カウル絞り部は、複線トンネルにおいて、他方の先頭部が列車進行方向の前向きになる方向に進行する際に、対向列車とすれ違う側の側カウルは、(日本では、その先頭車が前になるときの進行方向右側面) 前記先頭部に近い台車における側カウルの枕木方向の位置より車体中心線に近い位置に配置され、 後方にあるもう一方の台車の直前における側カウルの枕木方向の位置と同一に配置され、対向列車とすれ違う側と反対側の側カウルは 、(その先頭車が前になるときの進行方向左側面) 前記先頭部に近い台車における側カウルの枕木方向の位置より車体中心線に近い位置に配置され、 後方にあるもう一方の台車の直前における側カウルの枕木方向の位置より車体中心線に近い位置に配置されることを特徴とする。
【0013】
(5)(1)乃至(4)に記載するいずれか1つの高速鉄道車両において、前記側カウル絞り部は、レール上面に平行な切断面で切断した外形線が、前記側カウル絞り部の前端と隣接する部分から、後端と隣接する部分にかけて、滑らかな曲面であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記構成を有する本発明の高速鉄道車両の作用、及び効果を説明する。
(1)客室である一般部と、先端から一般部にかけてレール方向に垂直な面で切断した外形線に囲まれた閉曲線のうち、客室床面の最も高い部分の高さより上にある部分の面積がレール方向に変化する先頭部と、一般部の前記客室床面の最も高い部分の高さよりも下に配置された機器の側面を覆う側カウルと、を備える車両構体と、車両構体を支える2個の台車部を有する高速鉄道車両において、側カウルは、先頭部に近い一方の台車の輪軸を覆う位置から、他方の台車の手前までの範囲では、レール方向に連続して配置され、前記一方の台車の後方にカウル絞り部が形成され、前記側カウル絞り部の枕木方向での全幅が、前記一方の台車の位置における枕木方向での幅より狭いこと、を特徴とするので、車両構体の床下を高くすることなく、側カウル絞り部を形成することにより、進行方向と垂直な平面で切断した車両外形上において、車両形状とトンネル内壁との空間的広がりを調整することができ、トンネル微気圧波を低減することができる。同時に、床下を高くすることがないため、床下に配置する機器に影響は軽微である。
【0015】
(2)(1)に記載する高速鉄道車両において、前記側カウル絞り部のレール方向に垂直な面で切断した外形線には、前記側カウルの上端に、段差があること、を特徴とするので、車両構体の底面を利用して、車両構体の側構体の外周面から所定距離入り込んだ位置に側カウルを形成すれば、そのまま側カウル絞り部を形成できるため、製造するのに容易である。
【0016】
(3)(1)または(2)に記載する高速鉄道車両において、前記側カウル絞り部は、レール方向で2m以上形成されていること、を特徴とするので、トンネル内壁面との位置関係を十分調整することができるため、トンネル微気圧波を確実に低減することができる。同時に、側カウル絞り部S6は、客室である一般部S8まで至るが、ホーム下に隠れるため、意匠性を損なうことがない。
ここで、側カウル絞り部の前端に由来する圧力波の緩和効果がある圧力波形グラフの横軸の座標に対して、この緩和効果を相殺する側カウル絞り部の後端に由来する影響が及ぶ圧力波形グラフの横軸の位置を、先頭部および客室部の前方の位置に形成される圧力波形の全体のピーク位置と重ねて圧力勾配の最大値を低減することができる。これは、側カウル絞り部の前端が、車両先端から客室部の直前までの範囲(すなわち、先頭部の範囲)にあることにより奏する効果である。すなわち、本発明の本質的な効果は、「先頭部が作る圧力波形のピークの低減を、客室の容積を損なわずに、床下の形状を変更するだけで達成する」ことにある。
【0017】
(4)(1)乃至(3)に記載するいずれか1つの高速鉄道車両において、前記側カウル絞り部は、前記車両構体の片側のみに形成されていること、前記先頭部を有する先頭車両が、車両編成の両端に配置されていること、前記両端に配置された前記先頭車両の前記側カウル絞り部が、前記先頭車両の反対側に配置されていること、を特徴とする。
トンネルには、一般的に上下線用の2組のレールが配置されている。上りの時には、上り用のレール上を走る先頭部について、トンネル内壁に近い側の側カウルのみに側カウル絞り部を形成し、下りの時には、下り用のレールの上を走る先頭部について、トンネル内壁に近い側の側カウルのみに側カウル絞り部を形成すればよい。これによれば、両側に側カウル絞り部を形成するときと比較して、片側のみの側カウルの絞り量を大きくすること(具体的には、両側に設けた場合の倍の絞り量)ができ、さらに圧力波の時間変化率を低減することができる。
【0018】
床下部分の断面積を共通にすることは、機器を配置する容量を同一にする技術的な特徴があるので、側カウル絞り部の位置において、レール方向に垂直な面で切断した外形線に囲まれる閉曲線の全断面積を同一にしたうえで、側カウル絞り部のレール方向の長さを共通にして比較すると、側カウルの幅を縮小することをしないで車体の最底面の高さを上げることで同じ断面積に構成することと比べて、車体の最底面の高さを一般部と同一に保ったままで左右を均等に幅を縮小する方が、圧力勾配の最大値を低減する効果が大きく、さらに、車体の最底面の高さを一般部と同一に保ったままで、進行方向に向かって複線トンネルで対向列車とすれ違う側の側カウルの枕木方向の位置は一般部と同一にし、左右反対側面にある側カウルを枕木方向の位置より車体中心線に近い位置に構成する方が、さらに圧力勾配の最大値を低減する効果が大きい。
この場合において、側カウル絞り部は左右非対称な形状となるが、通常目に触れる視点からは非対称であることを認識できないため、意匠性を損なうことはない。
【0019】
(5)(1)乃至(4)に記載するいずれか1つの高速鉄道車両において、前記側カウル絞り部は、レール上面に平行な切断面で切断した外形線が、前記側カウル絞り部の前端と隣接する部分から、後端と隣接する部分にかけて、滑らかな曲面であること、を特徴とするので、流線を乱す要素が小さく、空気抵抗の増加、流体騒音の発生、氷雪が側カウル表面に付着することを惹起することがない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】高速鉄道車両の先頭部を側カウルが位置する高さで切断した時の外周形状を示す図である。
図2図1のAA断面図、及びBB断面図である。
図3図2の変形例で、片側のみ絞った実施例の図1のAA断面図である。
図4】先頭部の台車を覆う機器覆い部S4の中央付近より後方の車両構体及び側カウルを床下方向から見た図である。
図5】断面積の変化を示す図である。
図6図5の一部拡大図である。
図7】形状変更による効果を示す全体図である。
図8図7の一部を示す図である。
図9】正規化された圧力波の時間変化率を示す図である。
図10図9の一部拡大図である。
図11】正規化された圧力波の時間変化率を示す図である。
図12図11の一部拡大図である。
図13】トンネル内壁と先頭車両との関係を示す図である。
図14図13の各点における正規化された圧力勾配(圧力波の時間変化率)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の1つの実施形態である高速鉄道車両について、図面を参照しながら、詳細に説明する。図1に、高速鉄道車両の先頭部を側カウルが位置する高さで切断したときの外周形状を示す。図2(a)に、図1のBB断面図を示し、図2(b)に、図1のAA断面図を示す。図4に、先頭部の台車を覆う機器覆い部S4の中央付近より後方の車両構体及び側カウルを床下方向から見た図を示す。
図1に示すように、先頭部の外周形状は、中央先端S1から横に広がった先端部S2、車輪21、22を支持する台車部を覆う側カウル機器覆い部S4、先端部S2と側カウル機器覆い部S4とを接続する接続部S3、車両構体のセンターラインCLに向かって絞られた側カウル絞り部S6、側カウル機器覆い部S4と側カウル絞り部S6とを滑らかに連続して接続する絞り前接続部S5、客室である一般部S8、側カウル絞り部S6と一般部S8とを滑らかに連続して接続する絞り後接続部S7を有する。
【0022】
図2(a)に示すように、一般部S8の断面形状は、正方形の四隅が丸くされた形状である。それに対して、(b)に示すように、側カウル絞り部S6は、車両構体12の下面に幅が約100mmの段差11が形成され、段差11の内側端から側カウル絞り部S6が軌道中心方向に向かって円弧状に形成されている。
図1では、横軸が中央先端S1からの距離を示すが、先頭部の長さL=約10mを基準として距離を表している。側カウル機器覆い部S4は、0.4Lから始まって0.8Lまで形成されている。側カウル機器覆い部S4は、台車部を覆うために形成されている。
側カウル絞り部S6は、λLから始まってμLまで形成されている。ここで、λは1.0よりも小さい。また、μは1.0より大きく1.5よりも小さい。λとμについては、後で詳細に説明する。
【0023】
図4に示すように、側カウル機器覆い部S4は、外側方向に膨らんで台車部を覆っている。側カウル機器覆い部S4に連続して、絞り前接続部S5が内側かつ後方に向かって滑らかに連続して、側カウル絞り部S6へと接続している。側カウル絞り部S6の上部には、段差11が見えている。
側カウル絞り部S6の後方には、外側かつ後方に向かって滑らかに連続して、一般部S8へと接続している。
【0024】
次に、図1、2の変形例を図3に示す。本変形例である図3は、図2の(b)の形状のみ相違するので、(b)に対応するものを図3に示す。
側カウル絞り部S6´は、先頭車両の車両構体の片側のみに形成されている。先頭部を有する先頭車両が、車両編成の両端に配置されている。例えば、16両編成の場合、先頭車両は1号車と16号車に配置されている。1号車の方向に列車が進行するときに、1号車の車両構体の側カウル絞り部S6´が進行方向の左側に配置されていれば、16号車の車両構体の側カウル絞り部S6´は、同じ進行方向に対して右側に配置されている。
ただし、16号車が先頭になった場合には、トンネル内を通過するレールの位置が異なるため、各々の側カウル絞り部S6´は、常にトンネル内壁に近い位置に配置されている。
ここで、図3の側カウル絞り部S6´の段差の長さは、図2(b)の段差の長さb=100mmの2倍である、2b=200mmとしている。
【0025】
次に、側カウル絞り部S6のない従来のタイプの先頭形状(以下、ベース形状と呼ぶ。)、特許文献1で本出願人が提案した床下切り上げ形状、及び本発明の側カウル絞り部S6(図2)が形成された先頭形状、本発明の変形例の側カウル絞り部S6´が形成された先頭形状の4タイプについて検討する。
図5に、先頭形状の断面積の変化を示す。横軸は、中央先端S1からの距離Xを先頭部の長さLで除した値X/Lを示し、縦軸に位置Xにおける横断面積Aを一般部における横断面積A0で除した値A/A0を示す。ベース形状の場合を点線Bで示し、床下切り上げ形状の場合を破線Eで示し、側カウル絞り部S6を設けた場合、及び側カウル絞り部S6´を設けた場合を実線F示す。ここで、発明の効果を明確に説明するために、破線Eと実線Fが同一になるように形状を構成しているため、破線Eと実線Fとは重なっている。
【0026】
側カウル絞り部S6を設けた場合は、両側で断面積が減少し、側カウル絞り部S6´を設けた場合は、片側のみ断面積が減少するが、側カウル絞り部S6´を設けた場合では、段差の長さを倍にしているため、断面積の変化は、ほぼ同じであるため、同じ実線でF表記している。
図6図5の一部を拡大して示す。ベース形状と比較して、λの少し前の位置から始まって、μの少し後の位置まで、床下切り上げ形状の場合と本発明との場合は共に、断面積を減少させている。
これは、λの少し前から断面積を減少させることにより、圧力波の時間変化率を減少することができ、トンネル微気圧波を低減させることができる。
【0027】
次に、形状変更(断面積の減少)による圧力波の時間変化率の減少について説明する。図7に、形状変更による効果を示す。横軸は、中央先端S1からの距離Xを先頭部の長さLで除した値X/Lを示し、縦軸は、圧力波の時間変化率を減少させる効果(%)を示す。
床下切り上げ形状の場合、及び側カウル絞り部S6を設けた場合、側カウル絞り部S6´を設けた場合については、各々の場合とベース形状の場合との差を求め、ベース形状の場合の圧力波の時間変化率のピーク値で除することにより、正規化している。
先頭部形状には色々な形状があり、その先頭形状の違いにより、圧力波の時間変化率のピーク値が現れる位置は、0.8Lから1.0Lの間付近で変化する。圧力波の時間変化率のピーク値が現れる位置に、λを対応させることにより、圧力波の時間変化率を低減させることを目的としているので、λとμの値は、先頭部の形状に対応して各々決定される。
【0028】
図7では、ベース形状の場合を点線Bで示し、床下切り上形状の場合を細い破線Eで示し、側カウル絞り部S6の場合(図2の場合)を太い破線F1で示し、側カウル絞り部S6´の場合(図3の場合)を実線F2で示している。
本実施の形態では、ベース形状の圧力波の時間変化率のピーク値は、0.8より少し前にあるので、λの値も、0.8より少し前としている。λ=0.8付近において、床下切り上げの場合(E)の減少率は、−1.8%である。そして、側カウル絞り部S6を設けた場合(F1)の減少率は、−2.5%である。さらに、側カウル絞り部S6´を設けた場合(F2)の減少率は、−4%である。
【0029】
側カウル絞り部S6を設けた場合(F1)には、床下切り上げの場合(E)よりも、減少率が1.5倍程度と高いことがわかる。すなわち、側カウル絞り部S6を設けることにより、従来の床下切り上げよりも、1.5倍も圧力波の時間変化率の最大値を減少させることができるのである。
さらに、側カウル絞り部S6´を設けた場合(F2)には、床下切り上げの場合(E)よりも、減少率が2.2倍程度と高いことがわかる。すなわち、側カウル絞り部S6´を設けることにより、従来の床下切り上げよりも、2.2倍も圧力波の時間変化率を減少させることができるのである。
図8に、側カウル絞り部S6を設けた場合(F1)と、側カウル絞り部S6´を設けた場合(F1)のデータを抽出して比較する。側カウル絞り部S6´を設ける場合(F2)は、側カウル絞り部S6を設ける場合(F1)よりも、1.6倍も圧力波の時間変化率を減少させることができるのである。
【0030】
ここで、客室の床下に取り付ける機器は、枕木方向に比べ鉛直方向に大きいことから、鉛直方向の空間的な制約が厳しく、枕木方向には空間的な余裕がある。したがって、床下切り上げの場合(E)では、機器の取り付け位置を大幅に変更しなければならない等の大きな制約があったのと比較して、側カウル絞り部S6を設ける場合(F1)、側カウル絞り部S6´を設ける場合(F2)では、取り付け位置を枕木方向に並行移動させるだけで対応できることから、機器の取り付けへの制約が緩和された利点がある。
μの値については、先頭部を過ぎたあたりで、断面積を一般部S8に合わせる必要があり、1.0以上、1.5以下の範囲で適宜選択される。その付近の位置では、圧力波の時間変化率は比較的大きくないため、形状変化による効果がプラスに3%程度出ても、圧力波の時間変化率に与える影響は少ない。
【0031】
図9に、正規化された圧力波の時間変化率を示す。横軸は、断面の位置をベース形状の最大値で正規化した値である。縦軸は、正規化された圧力波の時間変化率を、ベース形状の最大値で正規化した値を示す。この図は、図6、7の圧力波の時間変化率への影響を取り出して説明するための図である。
ベース形状の場合を点線Bで示し、床切り上げの場合を細い破線Eで示し、側カウル絞り部S6を設けた場合を太い破線F1で示す。図10に、図9の一部拡大図を示す。図10に示すように、λの少し手前の位置で、側カウル絞り部S6を設けた場合のF1は、床切り上げの場合Eよりも、0.7〜1%程度減少している。
【0032】
図11に、側カウル絞り部S6を設けた場合と、側カウル絞り部S6´を設けた場合との比較を示す。
ベース形状の場合を点線Bで示し、側カウル絞り部S6を設けた場合を太い破線F1で示し、側カウル絞り部S6´を設けた場合F2の場合を実線で示す。図12に、図11の一部拡大図を示す。図12に示すように、λの少し手前の位置で、側カウル絞り部S6´を設けた場合(F2)は、側カウル絞り部S6を設けた場合(F1)よりも、1.5%程度減少している。
【0033】
本実施の形態によれば、(1)客室である一般部S8と、中央先端S1から一般部S8にかけてレール方向に垂直な面で切断した外形線に囲まれた閉曲線のうち、客室床面の最も高い部分の高さより上にある部分の面積がレール方向に変化する先頭部と、一般部S8の客室床面の最も高い部分の高さよりも下に配置された機器の側面を覆う側カウルと、を備える車両構体と、車両構体を支える2個の台車部を有する高速鉄道車両において、側カウルSは、先頭部に近い一方の台車の輪軸を覆う位置から、他方の台車の手前までの範囲では、レール方向に連続して配置され、一方の台車の後方に側カウル絞り部S6が形成され、側カウル絞り部S6の枕木方向での幅が、一方の台車の位置における枕木方向での全幅より狭いこと、を特徴とするので、車両構体の床下を高くすることなく、側カウル絞り部を形成することにより、進行方向と垂直な平面で切断した車両外形上において、車両形状とトンネル内壁との空間的広がりを調整することができ、トンネル微気圧波を低減することができる。同時に、床下を高くすることがないため、床下に配置する機器への影響は軽微である。
【0034】
(2)(1)に記載する高速鉄道車両において、側カウル絞り部S6のレール方向に垂直な面で切断した外形線には、側カウルSの上端に、段差11があること、を特徴とするので、車両構体の底面を利用して、車両構体の側構体の外周面から所定距離入り込んだ位置に側カウルSを形成すれば、そのまま側カウル絞り部S6を形成できるため、製造するのに容易である。
【0035】
(3)(1)または(2)に記載する高速鉄道車両において、側カウル絞り部S6は、レール方向で2m以上形成されていること、を特徴とするので、トンネル内壁面との位置関係を十分調整することができるため、トンネル微気圧波を確実に低減することができる。同時に、側カウル絞り部S6は、客室である一般部S8まで至るが、ホーム下に隠れるため、意匠性を損なうことがない。
【0036】
(4)(1)乃至(3)に記載するいずれか1つの高速鉄道車両において、側カウル絞り部S6は、車両構体の片側のみに形成されていること、先頭部を有する先頭車両が、車両編成の両端に配置されていること、両端に配置された先頭車両の前記側カウル絞り部が、先頭車両の反対側に配置されていること、を特徴とする。トンネルには、一般的に上下線用の2組のレールが配置されている。上りの時には、上り用のレール上を走る先頭部について、トンネル内壁に近い側の側カウルSのみに側カウル絞り部S6´を形成し、下りの時には、下り用のレールの上を走る先頭部について、トンネルに近い側の側カウルSのみに側カウル絞り部S6´を形成すればよい。これによれば、両側に側カウル絞り部S6を形成するときと比較して、片側のみの側カウル絞り部S6´の絞り量を大きくすることができ、さらに圧力波の時間変化率を低減することができる。
【0037】
(5)(1)乃至(4)に記載するいずれか1つの高速鉄道車両において、側カウル絞り部S6は、レール上面に平行な切断面で切断した外形線が、側カウル絞り部S6の前端と隣接する部分から、後端と隣接する部分にかけて、滑らかな曲面であること、を特徴とするので、流線を乱す要素が小さく、空気抵抗の増加、流体騒音の発生、氷雪が側カウル表面に付着することを惹起することがない。
【0038】
本発明の高速鉄道車両については、上記実施例に限定されることなく、色々な応用が可能である。
【符号の説明】
【0039】
S1 中央先端
S4 台車を覆う側カウル機器覆い部
S5 絞り前接続部
S6 側カウル絞り部
S6´ 側カウル絞り部(片側のみに設けられている変形例)
S7 絞り後接続部
S8 一般部
11 段差
図1
図2
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