特開2017-109916(P2017-109916A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特開2017-109916酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置
<>
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000009
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000010
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000011
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000012
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000013
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000014
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000015
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000016
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000017
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000018
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000019
  • 特開2017109916-酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-109916(P2017-109916A)
(43)【公開日】2017年6月22日
(54)【発明の名称】酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/50 20060101AFI20170526BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20170526BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20170526BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20170526BHJP
【FI】
   C04B35/50
   C23C14/34 A
   C23C14/24 E
   H01L21/316 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-200465(P2016-200465)
(22)【出願日】2016年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-240765(P2015-240765)
(32)【優先日】2015年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】安達 裕
(72)【発明者】
【氏名】坂口 勲
【テーマコード(参考)】
4K029
5F058
【Fターム(参考)】
4K029DB05
4K029DB20
4K029DC05
4K029DC09
5F058BC03
5F058BF12
5F058BJ01
(57)【要約】
【課題】 高い耐吸湿性を有する酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置を提供すること。
【解決手段】 本発明によるセラミックス材料は、0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなる。このようなセラミックス材料は、酸化ランタン粉末と、アルカリ土類金属フッ化物粉末とを混合するステップであって、アルカリ土類金属フッ化物粉末は、酸化ランタン粉末に対して0.01mol%より多く5mol%以下の範囲で混合される、ステップと、混合物を1100℃以上1500℃以下の温度範囲の温度で、不活性ガス雰囲気中で、焼成するステップとを包含する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属フッ化物は、0.25mol%以上4mol%以下の範囲で固溶している、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属フッ化物は、0.4mol%以上1.5mol%以下の範囲で固溶している、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属フッ化物は、0.6mol%以上1.0mol%以下の範囲で固溶している、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項5】
前記アルカリ土類金属フッ化物は、マグネシウムフッ化物(MgF)、カルシウムフッ化物(CaF)およびストロンチウムフッ化物(SrF)からなる群から少なくとも1つ選択される、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項6】
前記酸化ランタンには、Q元素(ここで、Q元素は、Inおよび/またはGaである)がさらに固溶している、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項7】
前記Q元素は、0mol%より多く15mol%以下の範囲で固溶している、請求項6に記載のセラミックス材料。
【請求項8】
前記Q元素は、4mol%以上12mol%以下の範囲で固溶している、請求項7に記載のセラミックス材料。
【請求項9】
1次イオンとしてOを用い、2次イオンとして前記酸化ランタンから飛来するプラスイオンを用いた二次イオン質量分析法により前記酸化ランタンを分析した際の、16O(酸素)に対するF(フッ素)のイオン強度比(F/16O)、および、La(ランタン)に対するアルカリ土類元素Mのイオン強度比(M/La)は、それぞれ、
0.0013<F/16O≦0.15、および、
0.0012<M/La≦6
を満たす、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項10】
前記酸化ランタンは、一般式(La1−x−z(O1−y(ここで、Laはランタンであり、Mはアルカリ土類元素であり、Qは、Inおよび/またはGaであり、Oは酸素であり、Fはフッ素である)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、
0.0001<x≦0.05、
0.0002<y≦0.1、および、
0≦z≦0.15
を満たす、請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項11】
前記パラメータxおよびyは、それぞれ、
0.0025≦x≦0.04、および、
0.005≦y≦0.08、
を満たす、請求項10に記載のセラミックス材料。
【請求項12】
前記パラメータxおよびyは、それぞれ、
0.004≦x≦0.015、および、
0.008≦y≦0.03
を満たす、請求項11に記載のセラミックス材料。
【請求項13】
0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料を製造する方法であって、
酸化ランタン粉末と、アルカリ土類金属フッ化物粉末とを混合するステップであって、前記アルカリ土類金属フッ化物粉末は、前記酸化ランタン粉末に対して0.01mol%より多く5mol%以下の範囲で混合される、ステップと、
前記混合するステップで得た混合物を、1100℃以上1500℃以下の温度範囲の温度で焼成するステップと
を包含する方法。
【請求項14】
前記混合するステップは、Q元素を含有する材料(ここで、Q元素は、Inおよび/またはGaである)をさらに含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Q元素を含有する材料は、前記Qの金属、酸化物およびフッ化物からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記Q元素を含有する材料は、前記酸化ランタン粉末および前記アルカリ土類金属フッ化物粉末に対して0mol%より多く15mol%以下の範囲で混合される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
物理的気相成長法で用いる焼結体からなるターゲットであって、
前記焼結体は、請求項1〜12のいずれかに記載のセラミックス材料からなる、ターゲット。
【請求項18】
前記物理的気相成長法は、スパッタ法、パルスレーザ堆積法および蒸着法からなる群から選択される、請求項17に記載のターゲット。
【請求項19】
第1の導電層と、前記第1の導電層に対向する第2の導電層と、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に位置する誘電体薄膜とを備えた半導体装置であって、
前記誘電体薄膜は、請求項1〜12のいずれかに記載のセラミックス材料からなる、半導体装置。
【請求項20】
前記第1の導電層は、表面に離間して形成されたソース/ドレイン領域を有する半導体基板からなり、
前記誘電体薄膜は、前記ソース/ドレイン領域の間の前記半導体基板上に位置しており、
前記第2の導電層は、ゲート電極であり、
前記半導体装置は、MOSFET、MFISFET、MFMISFET、MIFIMISFET、MFIMISFETおよびMIFMISFETからなる群から選択される、請求項19に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の化合物半導体装置では、大気中の水分等を吸収し、不安定化する物質が利用され、その安定性がデバイスの応用で問題となる。例えば、酸化ランタン(La)は比誘電率27を有し、High−k材料の候補でありながら、吸湿性を有する事からそれを用いたデバイスの製作が困難であるとされてきた。
【0003】
酸化ランタン粉末を合成の主成分あるいは微量添加成分として用いる場合、秤量時に水分の影響を考慮する必要があり、これが合成の誤差を生じる要因となる。ここで、酸化ランタンが水分を吸収するメカニズムを説明する。酸化ランタンは、以下の式にしたがって、容易に水酸化ランタンに変質する。
La+HO→2LaO(OH)
2LaO(OH)+2HO→2La(OH)
【0004】
このため、酸化ランタンの粉体は勿論の事、焼結体でも大気中での管理が難しく、一般的なデシケータあるいは真空デシケータでも状態を維持することが難しい。酸化ランタンの焼結体は、薄膜製造用ターゲットに用いられるが、真空度が1x10−8torrの高真空下でも真空容器内に残留する水分を吸収しターゲットの表面状態が変化する。その結果、薄膜製造の再現性に問題を生じる可能性がある。
【0005】
また、酸化ランタンはその融点が2315度であり、しかも大気安定性が悪いために普通には緻密な焼結体を得ることは困難である。上述の反応を参照すれば、無添加の酸化ランタンを焼結する場合、高温下において、水分の生成と蒸発とにより焼結せず回収されることになる。このような焼結体の内部の粒子は、粗の状態で詰まっているに過ぎず、空隙に大気中の水分が容易に侵入し、上記反応を引き起こす。その結果、焼結体の形状を維持することができない。
【0006】
このような問題に対して、耐吸湿性を向上させた酸化ランタン焼結体が開発されている(特許文献1)。特許文献1によれば、酸化ランタンを基本成分とする焼結体であって、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウムの一又は二以上を含有し、残部が酸化ランタン及び不可避的不純物であることを特徴とする。特許文献1によれば、添加される酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウムは、好ましくは10mol%以上であり、合成が困難なだけでなく、酸化ランタン本来の特性が得られない恐れがある。
【0007】
また、耐吸湿性を向上させた酸化ランタン混合膜を用いた半導体装置が開発されている(特許文献2)。特許文献2によれば、酸化ランタンからなる薄膜は、(La1−x(0<x≦0.3、MはSc、Y、Hf、Ti、Ta、Al、Nbの群から選ばれる1又は2以上の金属)で表記される組成を有する。特許文献2によれば、混合膜の成膜には3元コンポジションスプレッド法を採用しているが、これに用いる酸化ランタンのターゲットは、上述したように高真空下においても表面状態が変化し得、薄膜製造の再現性に問題を生じる場合がある。
【0008】
一方、多結晶透明イットリウム・アルミニウム・ガーネット・セラミックス、または、窒化アルミニウム焼結体の製造に、焼結助剤としてフッ化カルシウム、フッ化イットリウムを用いることが知られている(特許文献3および4)。特許文献3および4によれば、焼結助剤の添加により高密度な焼結体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2010/004861号
【特許文献2】特開2003−133523号公報
【特許文献3】特開平5−294724号公報
【特許文献4】特開平8−259328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上より、本発明の課題は、高い耐吸湿性を有する酸化ランタンからなるセラミックス材料、その製造方法、それを用いたターゲット、および、それを用いた半導体装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるセラミックス材料は、0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなり、これにより上記課題を解決する。
前記アルカリ土類金属フッ化物は、0.25mol%以上4mol%以下の範囲で固溶していてもよい。
前記アルカリ土類金属フッ化物は、0.4mol%以上1.5mol%以下の範囲で固溶していてもよい。
前記アルカリ土類金属フッ化物は、0.6mol%以上1.0mol%以下の範囲で固溶していてもよい。
前記アルカリ土類金属フッ化物は、マグネシウムフッ化物(MgF)、カルシウムフッ化物(CaF)およびストロンチウムフッ化物(SrF)からなる群から少なくとも1つ選択されてもよい。
前記酸化ランタンには、Q元素(ここで、Q元素は、Inおよび/またはGaである)がさらに固溶していてもよい。
前記Q元素は、0mol%より多く15mol%以下の範囲で固溶していてもよい。
前記Q元素は、4mol%以上12mol%以下の範囲で固溶していてもよい。
1次イオンとしてOを用い、2次イオンとして前記酸化ランタンから飛来するプラスイオンを用いた二次イオン質量分析法により前記酸化ランタンを分析した際の、16O(酸素)に対するF(フッ素)のイオン強度比(F/16O)、および、La(ランタン)に対するアルカリ土類元素Mのイオン強度比(M/La)は、それぞれ、
0.0013<F/16O≦0.15、および、
0.0012<M/La≦6
を満たしてもよい。
前記酸化ランタンは、一般式(La1−x−z(O1−y(ここで、Laはランタンであり、Mはアルカリ土類元素であり、Qは、Inおよび/またはGaであり、Oは酸素であり、Fはフッ素である)で表され、パラメータx、yおよびzは、それぞれ、
0.0001<x≦0.05、
0.0002<y≦0.1、および、
0≦z≦0.15
を満たしてもよい。
前記パラメータxおよびyは、それぞれ、
0.0025≦x≦0.04、および、
0.005≦y≦0.08、
を満たしてもよい。
前記パラメータxおよびyは、それぞれ、
0.004≦x≦0.015、および、
0.008≦y≦0.03
を満たしてもよい。
本発明による0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料を製造する方法は、酸化ランタン粉末と、アルカリ土類金属フッ化物粉末とを混合するステップであって、前記アルカリ土類金属フッ化物粉末は、前記酸化ランタン粉末に対して0.01mol%より多く5mol%以下の範囲で混合される、ステップと、前記混合するステップで得た混合物を、1100℃以上1500℃以下の温度範囲の温度で焼成するステップとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記混合するステップは、Q元素を含有する材料(ここで、Q元素は、Inおよび/またはGaである)をさらに含有してもよい。
前記Q元素を含有する材料は、前記Qの金属、酸化物およびフッ化物からなる群から選択されてもよい。
前記Q元素を含有する材料は、前記酸化ランタン粉末および前記アルカリ土類金属フッ化物粉末に対して0mol%より多く15mol%以下の範囲で混合されてもよい。
本発明によるターゲットは、物理的気相成長法で用いる焼結体からなり、前記焼結体は、上述のいずれかに記載のセラミックス材料からなり、これにより上記課題を解決する。
前記物理的気相成長法は、スパッタ法、パルスレーザ堆積法および蒸着法からなる群から選択されてもよい。
本発明による半導体装置は、第1の導電層と、前記第1の導電層に対向する第2の導電層と、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に位置する誘電体薄膜とを備え、前記誘電体薄膜は、上述のいずれかに記載のセラミックス材料からなり、これにより上記課題を解決する。
前記第1の導電層は、表面に離間して形成されたソース/ドレイン領域を有する半導体基板からなり、前記誘電体薄膜は、前記ソース/ドレイン領域の間の前記半導体基板上に位置しており、前記第2の導電層は、ゲート電極であり、前記半導体装置は、MOSFET、MFISFET、MFMISFET、MIFIMISFET、MFIMISFETおよびMIFMISFETからなる群から選択されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるセラミックス材料は、0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなる。酸化ランタンのランタンサイトに所定量のアルカリ土類元素が固溶し、その電荷補償のため酸素サイトに所定量のフッ素が固溶することにより、電子が生成し、酸素空孔が低減する。これにより、水と反応し、水素を取り込む酸素空孔が低減するので、耐吸湿性が向上し得る。さらに、生成した電子により水素が酸化ランタンの格子内部への固溶を抑制するので、耐吸湿性が向上し得る。
【0013】
本発明によるセラミックス材料の製造方法は、焼成のための出発原料に所定量のアルカリ土類金属フッ化物粉末を含有させることにより、酸化ランタンの融点が低下し、1100℃以上1500℃以下の温度範囲の温度で焼成するだけで、上述のセラミックス材料が得られるので、既存の加熱炉等を使用するだけでよく、熟練の技術も不要であるため、有利である。
【0014】
本発明による半導体装置は、上述のセラミックス材料からなる薄膜を用いるので、酸化ランタン本来の高い比誘電率を発揮するだけでなく、耐吸湿性に優れており、長期間の安定した動作を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1によるセラミックス材料を製造するプロセスを示すステップフロー
図2】実施の形態2による半導体装置の模式図
図3】実施の形態2による別の半導体装置の模式図
図4】実施例1/比較例2による焼結体の経時変化の様子を示す図
図5】実施例1による焼結体の密度の焼結温度依存性を示す図
図6】実施例1による焼結体のXRDパターンを示す図
図7】実施例3/比較例5による焼結体の経時変化の様子を示す図
図8】実施例3/比較例5による焼結体の密度のCaFの添加濃度の依存性を示す図
図9】実施例3/比較例5による焼結体におけるF/Oおよび44Ca/Laのイオン強度比のCaFの添加濃度の依存性を示す図
図10】実施例6および比較例7による薄膜の経時変化の様子を示す図
図11】実施例6および比較例7による薄膜の経時変化のXRD回折パターンに及ぼす影響を示す図
図12】実施例9によるキャパシタ9−2’〜9−6’の比誘電率のインジウム濃度依存性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0017】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のセラミックス材料およびその製造方法について説明する。
【0018】
本願発明者らは、耐吸湿性の向上のため、酸化ランタンにおける酸素空孔の低減に着目し、アルカリ土類金属フッ化物が固溶した酸化ランタンからなるセラミックス材料を想起した。
【0019】
耐吸湿性の向上のメカニズムを説明する。
【0020】
本願発明者らは、(i)式に示すように、酸化ランタン中の酸素空孔が水と水素とを取り込む活性席となると考え、酸素空孔の低減が耐吸湿性の向上に有効であることを見出した。
O+V×→2H+O ・・・(i)
ここで、V×は酸化ランタン中の酸素空孔であり、Oは酸素空孔に固溶した酸素である。酸素空孔は、水と反応し、水素を生成するが、生成した水素は酸化ランタン内部まで拡散し得る。
【0021】
一方、アルカリ土類金属フッ化物としてMF(Mはアルカリ土類金属元素)が酸化ランタン(La)に固溶する反応式は(ii)式のとおりである。
2MF+V×→2MLa+4F+2e ・・・(ii)
ここで、V×は酸化ランタン中の酸素空孔であり、MLaはランタンサイトに固溶したアルカリ土類金属元素であり、Fは酸素空孔に固溶したフッ素元素である。
【0022】
(ii)式に示すように、酸化ランタン中に固溶するアルカリ土類金属フッ化物は、ランタンサイトにアルカリ土類金属元素が固溶し、酸素空孔にフッ素元素が固溶する。さらに、電荷補償により格子内に電子が生成する。すなわち、アルカリ土類金属フッ化物の固溶により酸素空孔が低減することが分かる。また、酸化ランタンは、6.14eVのバンドギャップを有するため、生成した電子は、フッ素の近傍に局在し、絶縁体となる。
【0023】
(ii)式にしたがって酸素空孔が低減するので、(i)式が進まず、耐吸湿性が向上し得る。また、(i)式は起こったとしても酸化ランタン表面でのみであるため、生成した水素は酸化ランタンの格子内部へ固溶できず、水酸化ランタンの生成は、表面層のみといえる。
【0024】
ここで、特許文献3および4に示す焼結助剤として用いられるフッ化カルシウムまたはフッ化イットリウムと、本発明のアルカリ土類金属フッ化物との違いについて説明する。焼結助剤とは、焼結の促進や安定化のために添加される添加物であるが、本来得たい物質と反応し、異なる物質となることは目的としないので、焼結助剤は、焼成後、粒界のガラス相に偏析する。しかしながら、本発明におけるアルカリ土類金属フッ化物は、粒界のガラス相に偏析するのではなく、酸化ランタンの各サイトに固溶させており、酸化ランタンの特性を制御していることに留意されたい。このような違いは、粒界ガラス相を電子顕微鏡、電子線を用いた元素分析等により観察することに容易に判断できる。
【0025】
このように、酸化ランタンにアルカリ土類金属フッ化物を固溶することにより、酸素空孔が低減するので、水との反応が生じにくくなるだけでなく、電子の生成により、酸化ランタン内部への水素の拡散を抑制できる。
【0026】
本願発明者らは、酸化ランタン中の酸素空孔の制御により、酸化ランタンの耐吸湿性が向上し得ると考え、さらに、上述の効果を奏するアルカリ土類金属フッ化物の固溶量についても精査し、耐吸湿性を向上し得るセラミックス材料を開発した。
【0027】
本発明のセラミックス材料は、0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなる。アルカリ土類金属元素が0.01mol%以下の場合、固溶量が十分でないため、酸素空孔が低減しない恐れがある。アルカリ土類金属元素が5mol%を超える場合、アルカリ土類金属元素が多すぎるため、酸化ランタンの結晶構造が不安定になり得る。
【0028】
本発明のセラミックス材料は、好ましくは、0.25mol%以上4mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなる。この範囲の固溶量であれば、アルカリ土類金属フッ化物が固溶し、耐吸湿性を向上できる。
【0029】
本発明のセラミックス材料は、より好ましくは、0.4mol%以上1.5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなる。この範囲の固溶量であれば、確実にアルカリ土類金属フッ化物が固溶し、耐吸湿性を向上できる。
【0030】
本発明のセラミックス材料は、さらに好ましくは、0.6mol%以上1.0mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなる。この範囲の固溶量であれば、例えば、セラミックス材料が焼結体である場合には、耐吸湿性が向上した高強度な焼結体となり得る。また、この範囲の固溶量であれば、例えば、セラミックス材料が薄膜である場合には、耐吸湿性が特に向上し、長期間の使用に耐える薄膜材料となり得る。
【0031】
本発明のセラミックス材料は、さらに好ましくは、Q元素(ここで、Q元素は、Inおよび/またはGaである)がさらに固溶している酸化ランタンからなる。Q元素がランタンサイトに固溶することにより、酸化ランタンの比誘電率を向上させることができる。
【0032】
Q元素の固溶量は、好ましくは、0mol%より多く15mol%以下の範囲である。わずかでも固溶することによって酸化ランタンの比誘電率の向上が見られる。15mol%を超えて固溶させると、酸化ランタンの結晶構造が維持されない場合がある。
【0033】
Q元素の固溶量は、さらに好ましくは、4mol%以上12mol%以下の範囲である。この範囲の固溶量であれば酸化ランタンの比誘電率を確実に向上させることができる。なお、Q元素の固溶量は4mol%以上8mol%以下の範囲であってもよい。より少ないQ元素であっても同様の効果が得られる。
【0034】
本発明のセラミックス材料は、一般式(La1−x−z(O1−y(ここで、Laはランタンであり、Mはアルカリ土類元素であり、QはInおよび/またはGaであり、Oは酸素であり、Fはフッ素である)で表されてもよい。ここで、パラメータxおよびyは、それぞれ、
0.0001<x≦0.05、
0.0002<y≦0.1、および、
0≦z≦0.15
を満たす。xが0.0001以下である場合、固溶量が十分でないため、酸素空孔が低減しない恐れがある。xが0.05を超える場合、アルカリ土類金属元素が多すぎるため、酸化ランタンの結晶構造が不安定になり得る。yが、この範囲であれば、酸素空孔を埋めることができる。zが0.15を超えると、Inおよび/またはGaが多すぎるため、酸化ランタンの結晶構造が不安定になり得る。パラメータzは0であってもよいが、0を超えると酸化ランタンの比誘電率を向上させることができ、好ましくは、0.04≦z≦0.12を満たす。これにより、酸化ランタンの比誘電率を確実に向上させることができる。
【0035】
本発明のセラミックス材料は、上記一般式において、パラメータxおよびyが、好ましくは、それぞれ、
0.0025≦x≦0.04、および、
0.005≦y≦0.08
を満たす。xおよびyがこの範囲を満たせば、アルカリ土類金属元素の固溶、およびフッ素元素の固溶により、酸素空孔が低減し、耐吸湿性を向上できる。
【0036】
本発明のセラミックス材料は、上記一般式において、パラメータxおよびyが、好ましくは、それぞれ、
0.004≦x≦0.015、および、
0.008≦y≦0.03
を満たす。xおよびyがこの範囲を満たせば、アルカリ土類金属元素の確実な固溶、およびフッ素元素の確実な固溶により、酸素空孔が低減し、耐吸湿性を向上できる。
【0037】
本発明のセラミックス材料は、上記一般式において、パラメータxおよびyが、好ましくは、それぞれ、
0.006≦x≦0.01、および、
0.012≦y≦0.02
を満たす。xおよびyがこの範囲を満たせば、例えば、セラミックス材料が焼結体である場合には、耐吸湿性が向上した高強度な焼結体となり得る。また、例えば、セラミックス材料が薄膜である場合には、耐吸湿性が特に向上し、長期間の使用に耐える薄膜材料となり得る。
【0038】
酸素空孔が完全に除去される場合、好ましくは、y=2xであるが、上述のxおよびyの範囲であれば、いずれも効果を達成できる。なお、後述するように、Q元素を含有する原料としてQ元素のフッ化物を用いた場合には、Q元素のフッ化物は、アルカリ土類金属フッ化物とともに、酸化ランタンの酸素サイトへのフッ素の固溶に寄与する。しかしながら、この場合であっても、Q元素のフッ化物によるフッ素は、アルカリ土類金属フッ化物によるフッ素のうち酸素サイトに固溶しなかった分を補助するよう機能するので、酸素サイトに固溶するフッ素の量は、アルカリ土類金属フッ化物によるフッ素の量を基準として考えてよい。
【0039】
本発明のセラミックス材料は、アルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタン(単に酸化ランタン)を二次イオン質量分析法により1次イオンにO−を用い、2次イオンとして表面から飛来するプラスイオンを測定・分析した場合、16O(酸素)に対するF(フッ素)のイオン強度比(F/16O)、および、La(ランタン)に対するM(Mはアルカリ土類元素であるが、例えばMがカルシウムの場合には、44Caのカルシウム同位体)のイオン強度比(M/La)が、好ましくは、それぞれ、
0.0013<F/16O≦0.15、および、
0.0012<M/La≦6
を満たす。F/16OおよびM/Laのイオン強度比がこの範囲であれば、酸素空孔を埋めることができる。
【0040】
本発明のセラミックス材料は、より好ましくは、イオン強度比(F/16O)およびイオン強度比(M/La)は、それぞれ、
0.01≦F/16O≦0.091、および、
0.13≦M/La≦4.6
を満たす。F/16OおよびM/Laのイオン強度比がこの範囲であれば、アルカリ土類金属元素の固溶、およびフッ素元素の固溶により、酸素空孔が低減するので、耐吸湿性を向上できる。
【0041】
本発明のセラミックス材料は、より好ましくは、イオン強度比(F/16O)およびイオン強度比(M/La)は、それぞれ、
0.016≦F/16O≦0.042、および、
0.25≦M/La≦1.5
を満たす。F/16OおよびM/Laのイオン強度比がこの範囲であれば、アルカリ土類金属元素の確実な固溶、およびフッ素元素の確実な固溶により、酸素空孔が低減するので、耐吸湿性を向上できる。
【0042】
本発明のセラミックス材料は、さらに好ましくは、イオン強度比(F/16O)およびイオン強度比(M/La)は、それぞれ、
0.024≦F/16O≦0.031、および、
0.4≦M/La≦0.75
を満たす。F/16OおよびM/Laのイオン強度比がこの範囲を満たせば、例えば、セラミックス材料が焼結体である場合には、耐吸湿性が向上した高強度な焼結体となり得る。また、例えば、セラミックス材料が薄膜である場合には、耐吸湿性が特に向上し、長期間の使用に耐える薄膜材料となり得る。
【0043】
アルカリ土類金属フッ化物は、フッ化ベリリウム(BeF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、および、フッ化バリウム(BaF)からなる群から選択されるフッ化物がよいが、なかでも、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)およびフッ化ストロンチウム(SrF)からなる群から選択されるフッ化物が好ましい。これらのフッ化物を用いれば、歩留まりよく製造できる。
【0044】
アルカリ土類金属フッ化物は、さらに好ましくは、フッ化カルシウム(CaF)である。フッ化カルシウムであれば、カルシウムが確実にLaサイトに固溶し、フッ素が確実に酸素に固溶するので、耐吸湿性が向上した酸化ランタンからなるセラミックス材料が得られる。
【0045】
本発明のセラミックス材料の形態は、特に制限がないが、粉体、焼結体または薄膜であり得る。本発明のセラミックス材料が粉体である場合、耐吸湿性が改善されているので、秤量時に水分の影響を受けない原料粉末として有効であり、秤量時の誤差を低減し、所望の最終生成物を得ることができる。
【0046】
本発明のセラミックス材料が焼結体である場合、物理的気相成長法で用いる薄膜製造用のターゲットに利用され得る。物理的気相成長法は、ターゲットを用いる方法であれば特に制限はないが、具体的には、スパッタ法、パルスレーザ堆積法および蒸着法からなる群から選択される。この場合も、耐吸湿性が改善されているので、高真空下でもチャンバ内に残留する水分を吸収することはなく、ターゲットの表面状態が変化することはないので、再現性よく薄膜を製造できる。また、ターゲットをデシケータあるいは真空デシケータで保存するなど格別の処理が不要となるので、維持費の削減にも有利である。
【0047】
本発明のセラミックス材料が薄膜である場合、耐吸湿性が改善されているので、酸化ランタン本来の特性である、絶縁性および高い誘電率を発揮でき、半導体装置に用いる絶縁体薄膜または誘電体薄膜として機能する。さらに、水分の影響によって特性が変化しないので、本発明の薄膜であるセラミックス材料を用いた半導体装置は、長期間にわたって大気中でも安定した動作を可能にする。
【0048】
次に、図1を参照し、本発明の少なくとも0.01mol%以上5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料の製造方法を説明する。
【0049】
図1は、実施の形態1によるセラミックス材料を製造するプロセスを示すステップフローである。
【0050】
ステップS110:酸化ランタン粉末と、アルカリ土類金属フッ化物粉末とを混合する。ここで、アルカリ土類金属フッ化物粉末は、酸化ランタン粉末に対して0.01mol%より多く5mol%以下の範囲で混合される。これにより、0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料が得られる。
【0051】
好ましくは、アルカリ土類金属フッ化物粉末は、酸化ランタン粉末に対して0.25mol%以上4mol%以下の範囲で混合される。これにより、0.25mol%以上4mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料が得られ、耐吸湿性を向上できる。
【0052】
より好ましくは、アルカリ土類金属フッ化物粉末は、酸化ランタン粉末に対して0.4mol%以上1.5mol%以下の範囲で混合される。これにより、0.4mol%以上1.5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料が得られ、耐吸湿性を確実に向上できる。
【0053】
さらに好ましくは、アルカリ土類金属フッ化物粉末は、酸化ランタン粉末に対して0.6mol%以上1.0mol%以下の範囲で混合される。これにより、0.6mol%以上1.0mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料が得られ、セラミックス材料が焼結体の場合にはとりわけ高強度となり得る。
【0054】
アルカリ土類金属フッ化物粉末は、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウムおよびフッ化バリウムからなる群から選択されるが、製造の容易さの観点から、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)およびフッ化ストロンチウム(SrF)が好ましい。
【0055】
ここで使用される酸化ランタン粉末およびアルカリ土類金属フッ化物粉末は、いずれも入手可能な市販されているものでよい。市販されている酸化ランタン粉末は、吸湿性を有するので、粉末の秤量および混合は、好ましくは、不活性ガス雰囲気で充填したグローブボックス内で行われる。不活性ガス雰囲気は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンに代表される希ガス元素または窒素ガスであり得る。あるいは、酸化ランタン粉末を秤量前に熱処理し、水分を除去してもよい。熱処理条件に特に制限はないが、例えば、1000℃で1時間で足り得る。
【0056】
秤量された粉末の混合は、湿式または乾式で行われ、乳鉢を用いて手動にて粉砕および混合を行ってもよいし、ボールミルなどの粉砕機を用いて機械的に行ってもよい。ボールミルを用いれば、均一な混合を可能にする。
【0057】
ステップS110で得られた混合物を、窒素フローなどにより乾燥させてもよい。これにより湿式混合でエタノールなどの溶媒を用いた場合には、溶媒を除去できる。
【0058】
なお、ステップS110において、酸化ランタン粉末と、アルカリ土類金属フッ化物粉末とに加えて、Q元素を含有する材料(ここで、Q元素は、Inおよび/またはGa)をさらに混合してもよい。これにより、Q元素がさらに固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料が得られ、このようなセラミックス材料は、高い比誘電率を有する。
【0059】
Q元素を含有する材料として、Q元素の金属、酸化物およびフッ化物からなる群から選択される材料を用いることができる。例えば、Q元素の酸化物(酸化インジウム、酸化ガリウム)は、入手が容易であるため有利である。例えば、Q元素のフッ化物(フッ化インジウム、フッ化ガリウム)は、アルカリ土類金属フッ化物とともに、酸化ランタンの酸素空孔の低減に寄与し、耐吸湿性の向上に有利である。
【0060】
好ましくは、Q元素を含有する原料は、酸化ランタン粉末およびアルカリ土類金属フッ化物に対して0mol%より多く15mol%以下の範囲で混合される。これにより、Q元素がランタンサイトに固溶し、酸化ランタンの比誘電率を向上させることができる。より好ましくは、Q元素を含有する原料は、酸化ランタン粉末およびアルカリ土類金属フッ化物に対して4mol%以上12mol%以下の範囲で混合される。これにより、Q元素がランタンサイトに固溶し、酸化ランタンの比誘電率を確実に向上させることができる。さらに好ましくは、Q元素を含有する原料は、酸化ランタン粉末およびアルカリ土類金属フッ化物に対して4mol%以上8mol%以下の範囲で混合される。これにより、少量のQ元素を含有する原料によっても、酸化ランタンの比誘電率を確実に向上させることができる。
【0061】
ステップS120:ステップS110で得た混合物を1100℃以上1500℃以下の温度範囲の温度で焼成する。注目すべきは、焼成温度が、酸化ランタンの融点(2315℃)よりも顕著に低いにも関わらず、焼成を可能にする点である。これは、ステップS110で混合されたアルカリ土類金属フッ化物粉末に起因する。アルカリ土類金属フッ化物は、原料粉末の酸化ランタン中に含有される水分に作用し、部分的に溶融した水分を含有するアルカリ土類金属フッ化物となり、それが酸化ランタンに作用し、最終的に、焼成温度を劇的に低下できる。なお、焼成に用いる加熱炉は、焼成温度が上述の範囲を達成できれば、特別の制限はないが、例示的には、電気炉等を用いる。本発明の方法は、特別の高温炉などは不要であるので、汎用性が高い。
【0062】
例えば、アルカリ土類金属フッ化物粉末が、フッ化カルシウム粉末である場合、好ましくは、焼成温度は、1340℃以上1440℃以下の範囲である。焼成温度がこの範囲であれば、密度の高い焼結体が得られる。特に、焼成温度が1440℃を超えると、フッ化カルシウムが気化してしまい、フッ化カルシウムの効果を十分に得られない場合があり得る。
【0063】
例えば、アルカリ土類金属フッ化物粉末が、フッ化カルシウム粉末である場合、より好ましくは、焼成温度は、1355℃以上1418℃以下の範囲である。焼成温度が上記範囲であれば、得られる焼結体が十分に緻密(高密度)化し、フッ化カルシウムが酸化ランタンに確実に固溶する。なお、上限を1418℃とするのは、フッ化カルシウムの融点であるためである。
【0064】
すなわち、アルカリ土類金属フッ化物粉末としてフッ化カルシウム以外を用いても、焼成温度の好適な上限は、用いたアルカリ土類金属フッ化物の融点とすればよい。下限は、融点から70℃低い温度とすれば、焼成に問題はない。
【0065】
なお、ステップS110において、Q元素を含有する原料をさらに混合する場合、焼成温度は、好ましくは、1100℃以上1350℃以下の範囲である。Q元素を含有する原料を用いることにより、焼成温度を低下させることができる。例えば、Q元素を含有する原料を4mol%以上12mol%以下の範囲で混合した場合、焼成温度を、1120℃以上1300℃以下の温度範囲に設定しても、焼結体を十分に緻密化できる。
【0066】
焼成雰囲気に特に制限はなく、大気中または不活性ガス雰囲気中であれば焼成できるが、例えば、Q元素を含有する原料を用いない場合には、不活性ガス雰囲気中で焼成することが好ましい。これにより、アルカリ土類フッ化物の蒸発が抑制され、アルカリ土類フッ化物が効果的に酸化ランタンに固溶するので、緻密化できる。例えば、Q元素を含有する原料を用いる場合には、大気中で焼成することが好ましい。このようにして得られた焼結体をターゲットに用いて形成した薄膜は、より高い比誘電率を有することができる。
【0067】
不活性ガス雰囲気は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンに代表される希ガス元素または窒素ガスであり得る。これにより、アルカリ土類金属フッ化物の酸化ランタンへの固溶を促進する。焼成時間は、特に制限はないが、0.5時間以上10時間以下である。焼成時間が0.5時間より短いと、アルカリ土類金属フッ化物が酸化ランタンに十分に固溶しない場合がある。焼成時間が10時間を超えても、それ以上固溶に変化はない場合がある。より好ましくは、焼成時間は1時間以上5時間以下の範囲である。これにより、効率的にアルカリ土類金属フッ化物が酸化ランタンに固溶する。
【0068】
このようなステップS110〜S120により、本発明の、少なくとも0.01mol%以上5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなる粉末状のセラミックス材料が得られる。
【0069】
ステップS120に先立って、混合物を圧粉成形してもよい。圧粉成形には、例えば、冷間静水圧加圧成形(CIP)、1軸加圧成形など通常の装置が採用される。例えば、セラミックス材料がターゲットやペレットなどの焼結体である場合、ステップS120の焼成において、圧粉成形により粉体同士が密着しているので、アルカリ土類金属フッ化物の酸化ランタンへの固溶が促進され、緻密な焼結体が得られる。
【0070】
あるいは、ステップS120において、熱間等方圧加圧法(HIP)またはホットプレスを用いてもよい。これにより、粉体同士がより密着した状態で焼成できるので、アルカリ土類金属フッ化物の酸化ランタンへの固溶が促進され、さらに緻密な焼結体が得られる。
【0071】
本発明のセラミックス材料が薄膜である場合、上述のステップに続いて、本発明の焼結体であるセラミックス材料をターゲットに用い、スパッタ法、パルスレーザ堆積法および蒸着法に代表される物理的気相成長法により所定の基体上に薄膜を得ることができる。所定の基体とは、薄膜が形成可能な表面を有していれば特に制限はないが、例えば、ガラス基板、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウム等の半導体基板、または、それらに金属電極が付与された基板等が挙げられる。
【0072】
上述したように、本発明の製造方法によれば、所定量のアルカリ土類金属フッ化物を用いることにより、酸化ランタンの融点が劇的に低下し、1100℃以上1500℃以下の温度範囲の温度で焼成するだけで、上述のセラミックス材料が得られるので、熟練の技術や特別の装置を不要とし、汎用性が高い。
【0073】
ここまで、酸化ランタンに注目してきたが、本発明は、酸化ランタン以外の希土類酸化物にも適用できる。例えば、酸化ホルミニウム(Ho)、酸化エルビウム(Er)、酸化ユーロピウム(Er)、酸化ルテチウム(Lu)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ツリウム(Tm)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化イットリウム(Y)なども吸湿性を有しており、酸化ランタンと同様に、これらにアルカリ土類金属フッ化物を固溶させれば耐吸湿性を高めることができる。
【0074】
また、酸化ランタン以外の希土類酸化物も融点が高く、焼結体を製造するのが困難とされる。そこで、酸化ランタン以外の希土類酸化物についても、アルカリ土類金属フッ化物とともに焼成すれば、希土類酸化物の融点を下げることができるので、良質な焼結体を得ることができる。
【0075】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明したセラミックス材料の用途について説明する。実施の形態1で説明したように、セラミックス材料が粉末である場合には、固相反応用の原料粉末として利用可能であり、セラミックス材料が焼結体である場合には、物理的気相成長法におけるターゲットとして利用可能である。実施の形態2では、セラミックス材料が薄膜である場合の用途について説明する。
【0076】
図2は、実施の形態2による半導体装置の模式図である。
【0077】
半導体装置200は、コンデンサである。半導体装置200は、第1の導電層210と、第1の導電層210に対向する第2の導電層220と、第1の導電層210と第2の導電層220との間に位置する誘電体薄膜(絶縁体薄膜)230とを備える。
【0078】
第1の導電層210および第2の導電層220は、白金(Pt)、金(Au)、白金イリジウム(Pt−Ir)等の既存の金属電極、または、シリコン、ポリシリコン等の半導体であり得る。ここでは、第1の導電層210および第2の導電層220は、いずれも、金属電極とする。
【0079】
誘電体薄膜230は、実施の形態1で説明したセラミックス材料からなる。誘電体薄膜230は、水分に影響されることなく酸化ランタンの比誘電率を発揮するので、膜厚を厚くすることができ、例えば2nm以上4nm以下の範囲であり得る。例えば、既存の誘電体材料として周知のSiO(比誘電率:3.8)の等価換算膜厚(EOT)は0.5nmであるので、本発明のセラミックス材料を用いれば顕著に膜厚を厚くできることが分かる。
【0080】
このような構造は、金属/絶縁体/金属のMIM構造または金属/絶縁体/半導体のMIS構造(MOSキャパシタとも呼ぶ)として知られており、第1の導電層210および第2の導電層220に接続された端子を介して回路に接続される。
【0081】
半導体装置200の製造方法を説明する。半導体装置200は、物理的気相成長法により製造される。
【0082】
まず、表面が平滑な基板の上に第1の導電層210として金属薄膜を形成する。次いで、第1の導電層210上に、実施の形態1で得られた焼結体であるセラミックス材料をターゲットに用いて、誘電体薄膜230として薄膜状のセラミックス材料を形成する。なお、誘電体薄膜230が所望の形状を有する場合、第1の導電層210上に金属マスクを用いてもよい。次に、誘電体薄膜230上に第2の導電層220として金属薄膜を形成する。
【0083】
図3は、実施の形態2による別の半導体装置の模式図である。
【0084】
半導体装置300は、金属/酸化物/半導体(MOS)型トランジスタ(MOSFET)の構造を有しており、図2を参照して説明した半導体装置200において、第1の導電層210がシリコンなどの半導体である場合である。
【0085】
半導体装置300は、表面に離間して形成されたソース領域310/ドレイン領域320を有する半導体基板330からなる第1の導電層と、第1の導電層に対向する第2の導電層340と、第1の導電層と第2の導電層340との間に位置する誘電体薄膜(絶縁体薄膜)350とを備える。半導体基板330は、既存の半導体基板であれば制限はないが、その上に形成される誘電体薄膜との整合性から、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウム等が好ましい。
【0086】
半導体基板330は、第1の導電型(例えば、p型)を有しており、ソース領域310/ドレイン領域320は、第2の導電型(例えば、n型)を有する。また、ソース領域310およびドレイン領域320の間のチャネル領域には、例えばp型不純物を注入し、所望の閾値電圧となるように制御され得る。なお、導電型は逆もあり得る。
【0087】
誘電体薄膜350は、実施の形態1で説明したセラミックス材料からなる。誘電体薄膜350は、水分に影響されることなく酸化ランタンの比誘電率を発揮するので、膜厚を厚くすることができ、例えば2nm以上4nm以下の範囲であり得る。誘電体薄膜350は、少なくとも、ソース領域310/ドレイン領域320の間の半導体基板330上に位置する。誘電体薄膜350は、ソース領域310/ドレイン領域320の一部にあってもよい。
【0088】
第2の導電層340は、白金(Pt)、金(Au)、白金イリジウム(Pt−Ir)等の既存の金属電極であり、ゲート電極として機能する。
【0089】
半導体装置300の例示的な製造方法を説明する。ここでは、半導体基板330がp型シリコンであり、ソース領域310/ドレイン領域320が第2の導電層340(ゲート電極)よりも後に形成される場合を説明するが、これに限らない。
【0090】
局所酸化膜技術(LOCOS)またはシャロートレンチアイソレーション(STI)により、半導体基板330上に素子分離絶縁膜を形成し、素子領域と素子分離領域とを形成する。素子領域にフッ酸処理を行い、半導体基板330の表面を水素終端する。なお、所望の閾値電圧が得られるように、p型不純物を注入し、チャネル領域を形成してもよい。
【0091】
半導体基板330上に、実施の形態1で得られた焼結体であるセラミックス材料をターゲットに用いた物理的気相成長法により、誘電体薄膜350として薄膜状のセラミックス材料を形成する。誘電体薄膜350上に第2の導電層340として金属薄膜を形成する。
【0092】
公知のリソグラフィ技術またはエッチング技術を用いて、第2の導電層340および誘電体薄膜350を順次パターニングする。その後、n型不純物を注入し、ソース領域310/ドレイン領域320を形成する。
【0093】
図3では、金属/酸化物(絶縁体)/半導体トランジスタ(MOSFET)構造を示したが、本発明はこれに限らない。酸化物(絶縁体)として、実施の形態1で説明したセラミックス材料からなる薄膜を用いる限り、金属/強誘電体/絶縁体/半導体トランジスタ(MFISFET)、金属/強誘電体/金属/絶縁体/半導体トランジスタ(MFMISFET)、金属/絶縁体/強誘電体/絶縁体/金属/半導体トランジスタ(MIFIMISFET)、金属/強誘電体/絶縁体/金属/絶縁体/半導体トランジスタ(MFIMISFET)および金属/絶縁体/強誘電体/金属/絶縁体/半導体トランジスタ(MIFMISFET)に適用できる。なお、ここで用いられる強誘電体は公知の強誘電体材料が適用されるが、本発明のセラミックス材料との整合性の観点から、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、タンタル酸ビスマスストロンチウム(SrBiTa)等が好ましい。
【0094】
本発明のセラミックス材料を上述のトランジスタの少なくとも1つの酸化物または絶縁体に使用すれば、大気中の水分等による影響を受けないので、長期間にわたって安定に動作する半導体装置を提供できる。
【0095】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0096】
まず、実施例/比較例1〜5において、焼結体であるセラミックス材料について検討した。
【0097】
[実施例1]
実施例1では、アルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)が1.5mol%固溶した酸化ランタンからなる、焼結体であるセラミックス材料を製造した。ここで、得られる酸化ランタン焼結体の一般式は、(La0.985Ca0.015(O1−y(0.008≦y≦0.03、z=0)となる。
【0098】
酸化ランタン粉末(レアメタリック製、純度99.99%)と、フッ化カルシウム粉末(和光純薬製、純度99.9%)とを混合した(図1のステップS110)。ここで、酸化ランタン粉末に対してフッ化カルシウム粉末が1.5mol%となるよう混合した。なお、秤量には、1000℃で1時間熱処理した酸化ランタン粉末を用いた。これらの原料粉末を、ジルコニア製のボール(ボールの直径:3mm)を用いたボールミルにより、10時間、粉砕および混合した。なお、混合はエタノールを溶媒に用いた湿式混合であった。粉砕および混合後、混合物を窒素フロー下で乾燥した。
【0099】
次いで、混合物を1軸加圧成形(40MPa)により圧粉成形した。成形した形状は、直径10mm、厚さ2.0mmのペレット状であった。
【0100】
次に、圧粉成形後の混合物(成形体)を1100℃以上1500℃以下の温度範囲で焼成した(図1のステップS120)。詳細には、ペレット状の混合物をジルコニア製のセッターに配置し、シリコニット炉で1280℃、1325℃、1340℃、1360℃、1380℃、1400℃、1425℃および1440℃の各焼成温度にて、不活性ガス雰囲気として窒素ガスをフローしながら2時間焼結した。なお、昇温速度および降温速度は、220℃/時間であった。
【0101】
このようにして得られた焼結体の大気中における経時変化の様子を調べた。結果を図4に示す。焼結体の重さと形状とから密度を計算した。結果を図5に示す。各焼結体を9μmのダイヤモンドスラリーを用いて鏡面仕上げをした。得られた焼結体の大きさは、直径6.95mm、厚さ1.6mmであった。このよう焼結体について、粉末X線回折を行った。結果を図6に示す。
【0102】
[比較例2]
比較例2では、アルカリ土類金属フッ化物が固溶していない、酸化ランタンからなる焼結体のセラミックス材料を製造した。比較例2の焼成条件は、焼成温度が1360℃である以外は、実施例1と同様であった。比較例2の焼結体の大気中における経時変化の様子を調べた。結果を図4に示す。
【0103】
[実施例3]
実施例3では、アルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)が0.25mol%、1mol%、1.5mol%および4mol%固溶した酸化ランタンからなる、焼結体であるセラミックス材料を製造した。実施例3の焼成条件は、焼成温度が1400℃および1440℃とした以外は実施例1と同様であった。
【0104】
ここで得られる酸化ランタン焼結体の一般式は、(La1−x−zCa(O1−y(x=0.0025、0.01、0.015、0.04、0.005≦y≦0.08、z=0)となる。また、x=0.015の焼結体(CaFの固溶量が1.5mol%である焼結体に同じ)は、実施例1の試料と同じであった。
【0105】
得られた焼結体について実施例1と同様に経時変化の様子を調べ、密度を測定した。結果を図7および図8に示す。
【0106】
実施例1と同様に、各焼結体を9μmのダイヤモンドスラリーを用いて鏡面仕上げをした。得られた焼結体の焼結体について、粉末X線回折を行った。さらに、焼結体の表面に厚さ30nmの金薄膜を蒸着した。この試料を用いて、2次イオン質量分析装置(SIMS、装置名)を用いて、酸素、フッ素、カルシウム同位体(44Ca)およびランタンを測定した。詳細には、1次イオンにOを用い、2次イオンとして焼結体表面から飛来するプラスイオンを測定し、イオン強度比(F/16O)およびイオン強度比(44Ca/La)を求めた。結果を表2および図9に示す。
【0107】
[実施例4]
実施例4では、アルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)が1.0mol%固溶した酸化ランタンからなる、焼結体であるセラミックス材料を製造した。実施例4の焼成条件は、焼成雰囲気が大気であり、焼成温度が1400℃である以外は、実施例3と同様であった。実施例4の焼結体を実施例3のそれと比較した。結果を後述する。
【0108】
[比較例5]
比較例5では、アルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)が0.01mol%固溶した酸化ランタンからなる、焼結体であるセラミックス材料を製造した。比較例5の焼成条件は、実施例3と同様であった。実施例3と同様に、経時変化の様子を調べ、SIMS測定をした。結果を表2、図7図9に示す。
【0109】
簡単のため、以上の実施例/比較例1〜5の焼成条件の一覧を表1にまとめて示し、結果を説明する。
【0110】
【表1】
【0111】
図4は、実施例1/比較例2による焼結体の経時変化の様子を示す図である。
【0112】
図4では、実施例1による焼結体として1380℃で焼成した酸化ランタンを示す。図4(a)は、焼成直後の様子を示し、図4(b)は、大気中1日放置した様子を示す。
【0113】
図4(a)によれば、焼成直後の実施例1による焼結体は、硬く取扱いが容易であった。一方、焼成直後の比較例2の焼結体は、脆く、形状の計測も困難であった。図4(b)によれば、実施例1の焼結体は、大気中1日放置しても、形状に変化はなく、大気中でも安定であった。一方、比較例2の焼結体は、大気中1日放置すると、完全に崩壊し、粉体となった。なお、図示しないが、実施例1による他の温度で焼成した焼結体についても同様に大気中でも安定であった。
【0114】
このことから、アルカリ土類金属フッ化物の酸化ランタンへの固溶により耐吸湿性が向上することが示された。
【0115】
図5は、実施例1による焼結体の密度の焼結温度依存性を示す図である。
【0116】
図5によれば、1100℃以上1500℃以下の温度範囲であれば、酸化ランタンおよびアルカリ土類金属フッ化物の混合物は、焼結し、密度5.3g/cm以上を有する焼結体となることが分かった。特に、アルカリ土類金属フッ化物がフッ化カルシウムの場合には、1340℃以上1440℃以下の温度範囲の焼成温度であれば、比較的高い密度の焼結体が得られ、1355℃以上1418℃以下の温度範囲の焼成温度であれば、より高い密度の緻密化した焼結体が得られることを確認した。1420℃以上の温度で焼成した焼結体の密度が顕著に低減したのは、焼成温度がフッ化カルシウムの融点(1418℃)を超え、フッ化カルシウムの溶融による蒸発が起こったためである。このことからも、焼成温度の上限は、アルカリ土類金属フッ化物の融点とすることが望ましいといえる。
【0117】
図6は、実施例1による焼結体のXRDパターンを示す図である。
【0118】
図6では、実施例1の焼結体として1380℃で焼成した酸化ランタンのXRDパターンを示す。図6によれば、すべての回折ピークは、酸化ランタン(La)の回折ピーク(JCPDS#05−0602)に一致した。また、不純物(例えば、未固溶のフッ化カルシウム)を示す回折ピークはなかった。図示しないが、他の温度で焼成した焼結体のXRDパターンも同様であった。このことから、図1に示す製造方法により得られたセラミックス材料は、アルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウムが固溶した酸化ランタンからなることが分かった。また、アルカリ土類金属フッ化物は、焼結助剤として機能し、粒界のガラス相に偏析するものではなく、酸化ランタンのサイトに固溶していることが示唆される。
【0119】
図7は、実施例3/比較例5による焼結体の経時変化の様子を示す図である。
【0120】
図7では、1400℃で焼成した焼結体の経時変化を示す。図7(a)は、比較例5の焼結体のみ焼成直後の様子を示し、実施例3の焼結体はいずれも大気中1日放置した様子を示す。図7(b)は、比較例5の焼結体のみ大気中1日放置した様子を示し、実施例3の焼結体はいずれも大気中2日以上放置した様子を示す。
【0121】
図7(a)および(b)によれば、比較例5の焼結体は、焼成直後は硬く取扱いが容易であったが、1日大気に放置すると、崩壊し、粉体となった。一方、実施例3の焼結体は、大気中2日以上放置しても、形状に変化はなく、大気中の経時変化に対して安定であった。
【0122】
このことから、0.01mol%より多くアルカリ土類金属フッ化物が酸化ランタンに固溶することにより耐吸湿性が向上することが示された。
【0123】
図8は、実施例3/比較例5による焼結体の密度のCaFの添加濃度の依存性を示す図である。
【0124】
図8によれば、CaFの添加量が多いほど、密度が小さくなる傾向を示した。このことから、アルカリ土類金属フッ化物の固溶量が5mol%を超えると、密度が低く、焼結体として好ましくないことが分かった。
【0125】
実施例3で得られた焼結体(窒素雰囲気下で焼成)と実施例4で得られた焼結体(大気中で焼成)との外観を比較した。実施例3で得られた焼結体は、図7に示すように緻密な焼結体であった。同様に、実施例4で得られた焼結体も緻密な焼結体であった。また、実施例4で得られた焼結体も、大気中1日以上放置しても形状に変化はなく、大気中でも安定であった。しかしながら、密度を比較すると、実施例4の焼結体の密度(5.337g/cm)は、実施例3の焼結体のそれ(5.456g/cm)よりもわずかに小さかった。これは、大気中での焼成によりフッ化カルシウムが蒸発し、固溶による緻密化の効果が十分に得られなかったためである。
【0126】
このことから、アルカリ土類金属フッ化物が固溶した酸化ランタンは、大気中であっても不活性ガス雰囲気中であっても得られることが示されたが、緻密な酸化ランタンを得るためには、焼成雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましいことが示された。
【0127】
図9は、実施例3/比較例5による焼結体におけるF/Oおよび44Ca/Laのイオン強度比のCaFの添加濃度の依存性を示す図である。
【0128】
図9によれば、F/Oおよび44Ca/Laの2次イオン強度比は、いずれも、CaFの添加濃度の増大に伴い、線形的に、増大することが分かった。このことから、CaFが固溶した酸化ランタンは、CaがLaサイトに、FがOサイトに固溶していることが示された。
【0129】
【表2】
【0130】
表2によれば、16O(酸素)に対するF(フッ素)のイオン強度比(F/16O)、および、La(ランタン)に対する44Ca(カルシウム同位体)のイオン強度比(M/La)は、それぞれ、
0.0013<F/16O≦0.15、および、
0.0012<44Ca/La≦6
を満していることが分かった。密度の観点から、好ましくは、
0.01≦F/16O≦0.091、および、
0.13≦44Ca/La≦4.6
を好ましくは満たし、密度とともに耐吸湿性の観点から、好ましくは、
0.016≦F/16O≦0.042、および、
0.25≦44Ca/La≦1.5
を満たし、さらに好ましくは、
0.024≦F/16O≦0.031、および、
0.4≦44Ca/La≦0.75
を満たすことが分かった。
【0131】
次に、実施例/比較例6〜8において、薄膜であるセラミックス材料について検討した。
【0132】
[実施例6]
実施例6では、パルスレーザ堆積法(PLD)により、実施例3と同様の方法(焼成温度:1400℃)で得た焼結体(直径:16.5mm、厚さ:2.3mm)をターゲットに用い、ガラス基板上にアルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)が固溶した酸化ランタンからなる薄膜であるセラミックス材料を製造した。
【0133】
PLDのアブレーションには、KrFエキシマレーザ248nm、繰り返し周波数5Hzを用いた。成膜条件は、ターゲット−基板間距離を5cmとし、基板温度を700℃、酸素分圧を1×10−5Torrとした。成膜時間は、60分であった。得られた薄膜の膜厚は、X線反射率法により測定した。
【0134】
得られた薄膜の経時変化を調べた。成膜直後および成膜後1日後の表面の様子を光学顕微鏡で観察し、X線回折パターンを測定した。ここで、薄膜は、デシケータで3日以上保管した。結果を図10および図11に示す。
【0135】
[比較例7]
比較例7では、PLDにより、比較例5と同様の方法(焼成温度:1400℃)で得た焼結体(直径:17.0mm、厚さ:2.1mm)をターゲットに用い、ガラス基板上にアルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)が固溶した酸化ランタンからなる薄膜であるセラミックス材料を製造した。成膜条件は、実施例6と同様であった。得られた薄膜について、実施例6と同様に、光学顕微鏡により表面観察し、XRD回折パターンを測定した。結果を図10および図11に示す。
【0136】
[実施例8]
実施例8では、金属/アルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)が固溶した酸化ランタンからなる薄膜であるセラミックス材料/金属であるMIM構造のキャパシタを製造した。
【0137】
白金(図2の第1の導電層210)を蒸着したシリコン基板を用いたこと、および、成膜時間を120分間としたこと以外は、実施例6と同様の手順でフッ化カルシウム(CaF)が固溶した酸化ランタンからなる薄膜であるセラミックス材料を成膜した。得られた薄膜の表面に金(図2の第2の導電層220)を真空蒸着した。このようにして、本発明のセラミックス材料からなる薄膜を用いたMIM構造のキャパシタを製造した。なお、本実施例では、正確に誘電特性を測定するため十分に厚い膜を得たが、実際の半導体装置では所望の誘電特性および絶縁特性に応じて成膜時間を適宜制御し、例えば、膜厚2nm以上4nm以下となるようにすることを理解されたい。
【0138】
得られたキャパシタの誘電特性を測定した。測定条件は、測定周波数を100kHz、測定信号レベルを0.5Vとした。結果を後述する。
【0139】
簡単のため、以上の実施例/比較例6〜8の成膜条件の一覧を表3に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
図10は、実施例6および比較例7による薄膜の経時変化の様子を示す図である。
【0142】
図10には、実施例6の薄膜として、CaFが1mol%固溶した酸化ランタンを示す。図10(a)および(c)は、それぞれ、比較例7の薄膜の成膜直後、および、1日経過後の様子を示す。図10(b)および(d)は、それぞれ、実施例6の薄膜の成膜直後、および、3日経過後の様子を示す。
【0143】
図10(a)および(b)によれば、比較例7および実施例6の薄膜の表面は、いずれも、平滑であった。図では、グレースケールの濃淡で示されるが、何ら濃淡に差がないことから、平滑であることが分かる。図10(c)によれば、比較例7の薄膜の表面は、1日経過すると、大気中の水分により荒れており、濃淡が明確に表れた。一方、図10(d)に示されるように、実施例6の薄膜の表面は、図10(b)と同様に、3日経過した後であっても、平滑であり、大気に対して安定しており、耐吸湿性が向上していることが確認された。なお、図示しないが、実施例6の他のCaFの固溶量の薄膜についても同様の結果であった。
【0144】
図11は、実施例6および比較例7による薄膜の経時変化のXRD回折パターンに及ぼす影響を示す図である。
【0145】
図11には、実施例6の薄膜として、CaFが1mol%固溶した酸化ランタンを示す。図11(a)および(b)は、それぞれ、比較例7および実施例6の薄膜のXRDパターンを示す。図11(a)によれば、比較例7の成膜直後の薄膜は、酸化ランタンを示す(002)、(100)の回折ピークを示したが、1日経過後、これらの回折ピークは消失した。一方、図11(b)によれば、実施例6の薄膜は、成膜直後も、3日経過後も、いずれも、酸化ランタンを示す(002)のシャープな回折ピークを示し、実質的に変化を示さなかった。なお、図示しないが、実施例6の他のCaFの固溶量の薄膜についても同様の結果であった。
【0146】
以上から、アルカリ土類金属フッ化物が固溶した酸化ランタンからなる焼結体であるセラミックス材料はターゲットとして有効であり、薄膜においても、アルカリ土類金属フッ化物の酸化ランタンへの固溶により耐吸湿性が向上するとともに、アルカリ土類金属フッ化物の固溶量は、0.01mol%より多いことが好ましいが示された。
【0147】
実施例8によるMIM構造のキャパシタの誘電測定によれば、得られたキャパシタンスから、いずれのCaFの固溶量(0.25、1、1.5および4omol%)についても、絶縁体(誘電体)薄膜であるCaFが固溶した酸化ランタンからなるセラミックス材料の比誘電率は、20を超える値を有し、酸化ランタンの固有値として知られる比誘電率(27)に匹敵することが分かった。
【0148】
このことから、アルカリ土類金属フッ化物が固溶した酸化ランタンからなるセラミックス材料は、半導体装置の絶縁体薄膜または高誘電率を有する誘電体薄膜として機能し得ることが示された。
【0149】
[実施例9]
実施例9では、金属/アルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)およびQ元素としてInが固溶した酸化ランタンからなる薄膜であるセラミックス材料/金属であるMIM構造のキャパシタを製造した。
【0150】
キャパシタの製造に先立って、CaFおよびInが固溶した酸化ランタンからなるセラミックス材料として、焼結体9−1〜9−6を製造した。ここで、得られる焼結体の一般式は、(La1−x−zCa(O1−y(QはInであり、x=0.0025、0.0002<y≦0.005、z=0.01、0.03、0.06、0.1)となる。原料に酸化インジウム(和光純薬製、純度99.9%)を用いた以外は実施例1と同様の手順で行った。焼結体の焼成条件を表4に示す。
【0151】
【表4】
【0152】
いずれの焼結体も、焼成後、大気中1日放置しても、形状変化をせず、安定であった。また、得られた焼結体について粉末X線回折を行ったところ、いずれの焼結体の回折ピークも、酸化ランタンの回折ピークに一致し、フッ化カルシウムあるいは酸化インジウムを示す回折ピークは見られなかった。このことから、得られた焼結体は、アルカリ度土類金属フッ化物としてフッ化カルシウムおよびQ元素としてIn(インジウム)が固溶した酸化ランタンからなることが分かった。また、得られた焼結体、例えば、焼結体9−4の密度は、6.249g/cmであり、相対密度が96%まで向上したことを確認した。
【0153】
次に、得られた焼結体9−1〜9−6をターゲットに用いて、実施例8と同様の手順でCaFおよびInが固溶した酸化ランタンからなる薄膜であるセラミックス材料/金属であるMIM構造のキャパシタ9−1’〜9−6’を製造した。表5に成膜条件を示す。実施例8と同様に、得られたキャパシタの誘電特性を測定した。結果を表6および図12に示す。
【0154】
【表5】
【0155】
図12は、実施例9によるキャパシタ9−2’〜9−6’の比誘電率のインジウム濃度依存性を示す図である。
【0156】
【表6】
【0157】
図12および表6には、実施例8のキャパシタ(CaF添加濃度が0.25mol%)の比誘電率の値も併せて示す。図12によれば、Q元素としてInを固溶させることにより、比誘電率が増大する傾向を示した。詳細には、Inが、0mol%より多く15mol%以下の範囲であれば比誘電率が向上する。特に、表6を参照すれば、Inの固溶量が6mol%および10mol%において、30を超える大きな比誘電率が得られたことから、Inの固溶量は、誤差を考慮すれば、4mol%以上12mol%以下の範囲が好ましいことが示され、4mol%以上8mol%以下の少ない固溶量であっても、大きな比誘電率得られることを確認した。
【0158】
さらに、実施例9の9−3’および9−5’と9−4’および9−6’とを比較すると、大気中で焼成した焼結体をターゲットとして用いることにより、より高い比誘電率を有するセラミックス材料からなる薄膜が得られることが分かった。
【0159】
[実施例10]
実施例10では、金属/アルカリ土類金属フッ化物としてフッ化カルシウム(CaF)およびQ元素としてGaが固溶した酸化ランタンからなる薄膜であるセラミックス材料/金属であるMIM構造のキャパシタを製造した。原料に酸化ガリウム(和光純薬製、純度99.9%)を用い、一般式(La1−x−zCa(O1−y(QはGaであり、x=0.0025、0.0002<y≦0.005、z=0.06)で表される焼結体を焼成し、キャパシタ製造(成膜時間は120分であった)に用いた以外は実施例9と同様の手順であった。実施例9と同様にして、誘電特性を測定したところ、酸化ランタンの理論値(27)を超える比誘電率が得られた。
【0160】
以上の実施例9および実施例10から、アルカリ土類金属フッ化物に加えて、Q元素(QはInおよび/またはGaである)が固溶した酸化ランタンからなる焼結体であるセラミックス材料は、耐吸湿性に加えて比誘電率が向上しており、この焼結体をターゲットに用いて得られた薄膜もまた耐吸湿性および高比誘電率を有しており、優れた半導体装置を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の0.01mol%より多く5mol%以下の範囲でアルカリ土類金属フッ化物が固溶している酸化ランタンからなるセラミックス材料は、耐吸湿性に優れるので、原料粉末、焼結体ターゲット、薄膜に有利である。このようなセラミックス材料を用いた、MOSキャパシタ、MOSFET、MFISFET、MFMISFET、MIFIMISFET、MFIMISFETおよびMIFMISFET等の半導体装置は、耐吸湿性に優れ、長期間にわたって安定して動作し、酸化ランタン本来の高い比誘電率を発揮できる。
【符号の説明】
【0162】
200、300 半導体装置
210 第1の導電層
220、340 第2の導電層
230、350 誘電体薄膜/絶縁体薄膜
310 ソース領域
320 ドレイン領域
330 半導体基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12