特開2017-109940(P2017-109940A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-109940(P2017-109940A)
(43)【公開日】2017年6月22日
(54)【発明の名称】アミノアルコール合成方法及び触媒
(51)【国際特許分類】
   C07C 213/00 20060101AFI20170526BHJP
   C07D 207/08 20060101ALI20170526BHJP
   C07C 215/18 20060101ALI20170526BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20170526BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20170526BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170526BHJP
【FI】
   C07C213/00
   C07D207/08
   C07C215/18
   B01J35/10 301J
   B01J23/46 301Z
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-244166(P2015-244166)
(22)【出願日】2015年12月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390003001
【氏名又は名称】川研ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】服部 岳
(72)【発明者】
【氏名】石井 博治
(72)【発明者】
【氏名】刈谷 義昭
【テーマコード(参考)】
4C069
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C069AA05
4C069BB02
4C069BB15
4G169AA03
4G169AA11
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169CB02
4G169CB70
4G169DA05
4G169EB18X
4G169EC02X
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA23
4H006BA55
4H006BB14
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC16
4H006BC37
4H006BC40
4H006BE20
4H006BN10
4H006BU32
4H039CA42
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】
【課題】高い収率でアミノアルコールを合成することができる、アミノアルコール合成方法を提供すること。
【解決手段】アミノアルコール合成方法は、アミノ酸を、金属表面積50.0m2/g以上、粒子径10.0nm以下である金属担持触媒存在下にて還元し、アミノアルコールを生成する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸を、金属表面積50.0m2/g以上、粒子径10.0nm以下である金属担持触媒存在下にて還元し、アミノアルコールを生成する工程を含む、アミノアルコール合成方法。
【請求項2】
前記金属担持触媒が、ルテニウムカーボン触媒である、請求項1に記載のアミノアルコール合成方法。
【請求項3】
前記アミノ酸が、α−アミノ酸である、請求項1又は2に記載のアミノアルコール合成方法。
【請求項4】
前記アミノ酸の炭素数が、2〜11である、請求項1から3のいずれかに記載のアミノアルコール合成方法。
【請求項5】
前記アミノ酸が、下記一般式(I)で表され、
式中、R1は、水素原子又は炭素数1〜9の炭化水素基であり、−COOH、−NH2、−SH、−OH、グアニジル基、イミダゾイル基、及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも1個の置換基により置換されていてもよい、請求項1から4のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項6】
前記アミノ酸がグルタミン酸であり、前記アミノアルコールがプロリノールである、請求項1から5のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項7】
前記アミノ酸がリジンであり、前記アミノアルコールがリジノールである、請求項1から5のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項8】
前記アミノ酸が、下記一般式(II)で表され、
式中、環Aは、3〜7員の複素環であり、更に、=O、−COOH、−NH2、−SH、−OH、グアニジル基、イミダゾイル基、及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも1個の置換基により置換されていてもよい、請求項1から4のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項9】
前記アミノ酸がピログルタミン酸であり、前記アミノアルコールがプロリノールである、請求項8に記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項10】
前記生成する工程は、溶媒、前記金属担持触媒、及び前記アミノ酸を混合し、混合物を調製する工程を含む、請求項1から9のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項11】
前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項12】
前記金属担持触媒は、0.01〜50質量%の濃度になるように混合される、請求項10又は11に記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項13】
前記アミノ酸は、0.5〜50質量%の濃度になるように混合される、請求項10から12のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項14】
前記混合物を調製する工程は、更に、pHが0.1〜6.0になるように、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、クエン酸、及びギ酸からなる群から選ばれる酸を混合する工程を含む、請求項10から13のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項15】
前記生成する工程は、更に、前記混合物を水素圧0.1〜20MPaの加圧下で反応させる工程を含む、請求項10〜14のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項16】
前記生成する工程は、更に、前記混合物を30〜250℃の温度下で反応させる工程を含む、請求項10〜15のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項17】
前記金属担持触媒は、5〜30%の分散度を有する、請求項1〜16のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
【請求項18】
アミノ酸からアミノアルコールを生成する工程で使用される金属担持触媒であって、金属表面積が50.0m2/g以上であり、粒子径が10.0nm以下である金属担持触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノアルコール合成方法及び触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノアルコールは、有機合成におけるビルディングブロック等の様々な用途に用いられている。アミノアルコールは、例えば、アミノ酸を水素化することにより、得ることができる。例えば、非特許文献1(Johnathan E. Holladayら、"Catalytic Hydrogenation of Glutamic Acid", Applied Biochemistry and Biotechnology, Vol.113-116, 2004, page 857-869)には、グルタミン酸を水素化することにより、プロリノール等が得られる点が記載されている。また、非特許文献2(Pranit S. Metkarら、"Lysinol:a renewably resourced alternative to petrochemical polyamines and aminoalcholes",Green Chemistry. 2014, 16, page 4575-4586)には、リジンを水素化することにより、リジノールが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Johnathan E. Holladayら、"Catalytic Hydrogenation of Glutamic Acid", Applied Biochemistry and Biotechnology, Vol.113-116, 2004, page 857-869
【非特許文献2】Pranit S. Metkarら、"Lysinol:a renewably resourced alternative to petrochemical polyamines and aminoalcholes",Green Chemistry. 2014, 16, page 4575-4586
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アミノアルコールの合成においては、収率の改善が求められている。
本発明の課題は、高い収率でアミノアルコールを合成することができる、アミノアルコール合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、特定の触媒を用いることで、上記課題が解決できることを見いだした。
すなわち、本発明は、以下の事項を含んでいる。
〔1〕アミノ酸を、金属表面積50.0m2/g以上、粒子径10.0nm以下である金属担持触媒存在下にて還元し、アミノアルコールを生成する工程を含む、アミノアルコール合成方法。
〔2〕前記金属担持触媒が、ルテニウムカーボン触媒である、前記〔1〕に記載のアミノアルコール合成方法。
〔3〕前記アミノ酸が、α−アミノ酸である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のアミノアルコール合成方法。
〔4〕前記アミノ酸の炭素数が、2〜11である、前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のアミノアルコール合成方法。
〔5〕前記アミノ酸が、下記一般式(I)で表され、
【化1】
式中、R1は、水素原子、又は炭素数1〜9の炭化水素基であり、−COOH、−NH2、−SH、−OH、グアニジル基、イミダゾイル基、及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも1個の置換基により置換されていてもよい、前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔6〕前記アミノ酸がグルタミン酸であり、前記アミノアルコールがプロリノールである、前記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔7〕前記アミノ酸がリジンであり、前記アミノアルコールがリジノールである、前記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔8〕前記アミノ酸が、下記一般式(II)で表され、
【化2】
式中、環Aは、3〜7員の複素環であり、更に、=O、−COOH、−NH2、−SH、−OH、グアニジル基、イミダゾイル基、及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも1個の置換基により置換されていてもよい、前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔9〕前記アミノ酸がピログルタミン酸であり、前記アミノアルコールがプロリノールである、前記〔8〕に記載のアミノアルコールの合成方法。
〔10〕前記生成する工程は、溶媒、前記金属担持触媒、及び前記アミノ酸を混合し、混合物を調製する工程を含む、前記〔1〕から〔9〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔11〕前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記〔10〕に記載のアミノアルコールの合成方法。
〔12〕前記金属担持触媒は、0.01〜50質量%の濃度になるように混合される、前記〔10〕又は〔11〕に記載のアミノアルコールの合成方法。
〔13〕前記アミノ酸は、0.5〜50質量%の濃度になるように混合される、前記〔10〕から〔12〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔14〕前記混合物を調製する工程は、更に、pHが0.1〜6.0になるように、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、クエン酸、及びギ酸からなる群から選ばれる酸を混合する工程を含む、前記〔10〕から〔13〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔15〕前記生成する工程は、更に、前記混合物を水素圧0.1〜20MPaの加圧下で反応させる工程を含む、前記〔10〕〜〔14〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔16〕前記生成する工程は、更に、前記混合物を30〜250℃の温度下で反応させる工程を含む、前記〔10〕〜〔15〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔17〕前記金属担持触媒は、5〜30%の分散度を有する、前記〔1〕〜〔16〕のいずれかに記載のアミノアルコールの合成方法。
〔18〕アミノ酸からアミノアルコールを生成する工程で使用される金属担持触媒であって、金属表面積が50.0m2/g以上であり、粒子径が10.0nm以下である金属担持触媒。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高い収率でアミノアルコールを合成することができる、アミノアルコール合成方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施態様について説明する。
本実施態様に係るアミノアルコール合成方法は、アミノ酸を、金属表面積50.0m2/g以上、粒子径10.0nm以下である金属担持触媒存在下にて還元し、アミノアルコールを生成する工程を含んでいる。詳細には、溶媒、金属担持触媒、及びアミノ酸を混合することにより、混合物が調製される。そして、混合物を所定条件下で反応させることにより、アミノアルコールが合成される。このような方法によれば、特定の金属担持触媒を使用することにより、アミノアルコールの収率を著しく高めることができる。
【0008】
以下、本実施態様について詳細に説明する。
1:金属担持触媒
金属担持触媒は、担体と、担体に担持された金属とを含む触媒である。
担体としては、反応条件下で不活性なものであれば特に限定されず、例えば、活性炭、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、シリカ−アルミナ、及び各種の金属酸化物や複合酸化物等を挙げることができる。但し、担体としては、活性炭が好ましく用いられる。
担体に担持される金属としては、例えば、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、及びイリジウム等が挙げられる。このうち、金属としては、ルテニウムが好ましく用いられる。
金属担持触媒としては、活性炭にルテニウムが担持されたルテニウムカーボン触媒がより好ましく用いられる。
金属の担持量(%)は、金属担持触媒の質量を基準として、金属元素換算で1〜20質量%であることが好ましく、2〜15質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることが更に好ましい。
【0009】
金属担持触媒は、好ましくは5〜30%、より好ましくは10〜27%、更に好ましくは13〜25%の分散度を有している。
金属担持触媒の金属表面積(担持金属1g当たりの金属表面積)は、50.0m2/g以上であればよく、好ましくは60.0m2/g以上、より好ましくは70m2/g以上である。また、金属担持触媒の金属表面積は、好ましくは100m2/g以下、より好ましくは95m2/g以下、更に好ましくは90m2/g以下である。金属表面積の値が小さすぎる場合、収率良くアミノアルコールを得ることが困難になる。
金属担持触媒の粒子径は、10.0nm以下であればよく、好ましくは8.0nm以下、より好ましくは7.0nm以下である。また、金属担持触媒の粒子径は、3.0nm以上であることが好ましく、4.0nm以上であることがより好ましく、5.0nm以上であることが更に好ましい。粒子径が大きすぎる場合、収率良くアミノアルコールを得ることが困難になる。
【0010】
尚、本明細書において、金属担持触媒の分散度、金属表面積及び粒子径は、パルス法により測定することができる。
詳細には、試料(金属担持触媒)に対してパルス法でCOあるいはH2ガスを飽和に到達するまで導入し、試料1g当たりのガス吸着量Vchem(cm3・g-1)を求める。
【0011】
分散度Dmは、以下の式により求められる。
(数式1):Dm(%)=Vchem×SF/22414×MW×100/c
ここで、数式1中、SFはストイキオメトリーファクター(化学両論比)を表す。例えば、担持金属がルテニウムである場合、SFは「1」である。
また、MWは、担持金属の原子量(g・mol-1)を表す。例えば、担持金属がルテニウムの場合、MWは101.07である。
cは、金属重量(g)(試料に担持された金属の重量)を表し、以下の式で表される。
(数式2):c=m×p/100
数式2中、mは試料重量(g)であり、pは担持金属の含有率(金属の担持量)(%)である。
【0012】
金属表面積Am(Metal)(m2/g)は、以下の式により求められる。
(数式3):Am(Metal)=Vchem×SF/22414×6.02×1023×σm×10-18/c
尚、数式3中、σmは1原子の金属断面積(nm2)を表す。例えば、担持金属がルテニウムである場合、σmは0.0613である。
【0013】
粒子径d(nm)は、以下の式により求められる。
(数式4):d=6000/(Am(Metal)×ρ)
尚、数式4中、ρは金属密度(g・cm-3)を表す。例えば、担持金属がルテニウムである場合、ρは12.3である。
【0014】
本実施態様に係る金属担持触媒の製造方法には特に制限は無いが、通常、含浸法が用いられる。例えば、水に懸濁させた担体に、所定量の担持量に相当する貴金属含有化合物を添加して担体に吸着させ、還元処理を行った後、乾燥させることにより調製する。
【0015】
2:アミノ酸
本実施態様で出発原料として用いられるアミノ酸は、特に限定されるものではないが、炭素数が2〜11であるアミノ酸であることが好ましい。また、本実施態様のアミノ酸は、α−アミノ酸であることが好ましい。α−アミノ酸としては、下記一般式(I)で表される化合物が好ましく用いられる。
【化3】
尚、式(I)中、R1は、水素原子、又は炭素数1〜9の炭化水素基である。R1は、−COOH、−NH2、−SH、−OH、グアニジル基、イミダゾイル基、及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも1個の置換基により置換されていてもよい。
より好ましくは、アミノ酸は、グルタミン酸又はリジンである。アミノ酸がグルタミン酸である場合、アミノアルコールとしてプロリノールを合成することができる。また、アミノ酸がリジンである場合、アミノアルコールとしてリジノールを合成することができる。
【0016】
あるいは、アミノ酸としては、下記一般式(II)で表される化合物も好ましく用いられる。
【化4】
尚、式(II)中、環Aは、3〜7員の複素環である。環Aは、更に、=O、−COOH、−NH2、−SH、−OH、グアニジル基、イミダゾイル基、及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも1個の置換基により置換されていてもよい。より好ましくは、アミノ酸としては、ピログルタミン酸が用いられ、この場合、アミノアルコールとしてはプロリノールを合成することができる。
【0017】
3:反応条件
上述のように、本実施態様においては、溶媒、金属担持触媒、及びアミノ酸を混合することにより、混合物が調製される。そして、混合物を所定条件下で反応させることにより、アミノアルコールが得られる。
この際、金属担持触媒は、0.01〜50質量%の濃度になるように混合されることが好ましい。金属担持触媒の濃度は、より好ましくは0.05〜40質量%であり、更に好ましくは0.1〜30質量%であり、最も好ましくは1〜20質量%である。
また、グルタミン酸又はピログルタミン酸からプロリノールを合成する場合には、金属担持触媒の濃度は、0.01〜10質量%であることが特に好ましい。
一方、リジンからリジノールを合成する場合、金属担持触媒の濃度は、0.01〜10質量%であることが特に好ましい。
【0018】
アミノ酸は、0.5〜50質量%の濃度になるように混合されることが好ましく、より好ましくは0.5〜30質量%、更に好ましくは1.0〜25質量%、最も好ましくは1.5〜20質量%である。
また、グルタミン酸又はピログルタミン酸からプロリノールを合成する場合には、アミノ酸は、1.5〜20質量%の濃度になるように混合されることが特に好ましい。
リジンからリジノールを合成する場合には、アミノ酸は、1.5〜20質量%の濃度になるように混合されることが特に好ましい。
【0019】
溶媒としては、水、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコールらなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられ、より好ましくは水である。
また、混合物の反応は、酸性水溶液中で行われることが好ましい。すなわち、混合物の調製時には、pHが0.1〜6.0になるように、リン酸、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、クエン酸、及びギ酸からなる群から選ばれる酸を混合することが好ましい。pHは、より好ましくは0.3〜5.0である。pHが高すぎると反応が十分に進行しにくくなり、収率が低下する。
【0020】
反応は、水素加圧下で行われることが好ましい。水素圧は、0.1〜20MPaであることが好ましく、より好ましくは0.2〜17MPa、更に好ましくは0.3〜15MPaである。
反応温度は、好ましくは30〜250℃、より好ましくは30〜230℃、更に好ましくは60〜230℃、最も好ましくは70〜200℃である。
【0021】
反応時間は、例えば1〜50時間、好ましくは2〜40時間、より好ましくは3〜30時間である。反応時間が短すぎると反応が十分に進行し難くなる。
【0022】
反応終了後、例えば濾過により触媒を取り除き、必要に応じて蒸留やカラム精製等を行うことにより、高い収率でアミノアルコールを得ることができる。
【0023】
以下、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。
[実施例1]:グルタミン酸からのプロリノールの合成
下記式で表される反応により、グルタミン酸からプロリノールを合成した。
【化5】
詳細には、金属担持触媒として、分散度が17.46%、金属表面積が63.78(m2/g)、粒子径が7.73(nm)、金属の担持量が5%であるルテニウムカーボン触媒を調製した。
圧力容器中で、水100g、グルタミン酸3.2g、リン酸2.86g、ルテニウムカーボン触媒0.16gを混合した。180℃で水素圧8MPaに加圧しながら、16時間撹拌を行った。反応終了後、反応混合物をろ過した。ろ液に含まれる成分をLC(液体クロマトグラフィー)により分析したところ、35%の収率でプロリノールが得られていた。
[実施例2]:グルタミン酸からのプロリノールの合成
実施例1と同様の条件で、プロリノールを合成した。但し、反応時間を24時間とした。プロリノールの収率は36%であった。
[実施例3]:ピログルタミン酸からのプロリノールの合成
実施例1と同様の条件で、プロリノールを合成した。但し、原料として、グルタミン酸に代えて、ピログルタミン酸2.8gを使用した。また、反応温度を150℃、反応時間を21時間とした。プロリノールの収率は、35%であった。
【0024】
[実施例4]:リジンからのリジノールの合成
下記式で表される反応により、リジンからリジノールを合成した。
【化6】
詳細には、金属担持触媒として、分散度が22.75%、金属表面積が83.11(m2/g)、粒子径が5.78(nm)、金属の担持量が5%であるルテニウムカーボン触媒を調製した。
圧力容器中で、水80g、リジン(50%水溶液)38g、硫酸13g、ルテニウムカーボン触媒4.55gを混合した。100℃で水素圧7MPaに加圧しながら、22.5時間撹拌を行った。反応終了後、反応混合物をろ過した。ろ液に含まれる成分をLCにより分析したところ、93%の収率でリジノールが得られていた。また、残存リジン(リジン回収率)は、4.5%であった。
[実施例5]:リジンからのリジノールの合成
実施例4と同様の条件で、リジノールを合成した。但し、反応温度を120℃とし、反応時間を18時間とした。リジノールの収率は、95%であった。残存リジンは、0.1%未満だった。
[実施例6]:リジンからのリジノールの合成
実施例4と同様の条件で、リジノールを合成した。但し、ルテニウムカーボン触媒の使用量を2.28gとした。また、反応時間を18.5時間とした。リジノールの収率は、98%であった。残存リジンは、0.1%だった。
【0025】
[比較例1]:グルタミン酸からのプロリノールの合成
金属担持触媒として、分散度が9.07%、金属表面積が33.14(m2/g)、粒子径が14.78(nm)、金属の担持量が5%であるルテニウムカーボン触媒を調製した。
圧力容器中で、水100g、グルタミン酸3.2g、リン酸2.86g、及びルテニウムカーボン触媒0.16gを混合した。180℃で水素圧8MPaに加圧しながら、24時間撹拌を行った。反応終了後、反応混合物をろ過した。ろ液に含まれる成分をLCにより分析したところ、プロリノールの収率は2%であった。
[比較例2]:グルタミン酸からのプロリノールの合成
比較例1と同様の条件で、プロリノールを合成した。但し、反応時間を20時間とした。プロリノールの収率は、3%であった。
【0026】
[比較例3]:リジンからのリジノールの合成
比較例1で使用したのと同じルテニウムカーボン触媒を使用した。
圧力容器中で、水40g、リジン(50%水溶液)19g、硫酸6.7g、及びルテニウムカーボン触媒1.14gを混合した。100℃で、水素圧7MPaに加圧しながら21時間撹拌を行った。反応終了後、反応混合物をろ過した。ろ液に含まれる成分をLCにより分析したところ、リジノールの収率は32%であった。残存リジンは、68%であった。
[比較例4]:リジンからのリジノールの合成
比較例3と同様の条件で、リジノールを合成した。但し、反応温度を120℃とし、反応時間を19時間とした。リジノールの収率は、78%であった。残存リジンは、22%であった。
【0027】
下記表1に、実施例及び比較例で使用したルテニウムカーボン触媒の特性を示す。また、下記表2及び3に、各実施例及び比較例における反応条件及び収率を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0028】
実施例1乃至3と比較例1及び2とを比較すると、実施例1乃至3におけるプロリノールの収率は、比較例1及び2よりも極めて高くなっている。すなわち、本発明で特定される物性値を有する金属担持触媒を使用することにより、プロリノールの収率が高まることが確認された。
また、実施例4乃至6を比較例3及び4と比較すると、実施例4乃至5では90%以上のリジノール収率が得られている。これに対し、比較例3及び4のリジノール収率は80%に満たない。すなわち、本発明で特定される物性値を有する金属担持触媒を使用することにより、リジノールの収率が高まることが確認された。