特開2017-110122(P2017-110122A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-110122ポリ乳酸樹脂組成物、ポリ乳酸樹脂成形体及びポリ乳酸樹脂成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-110122(P2017-110122A)
(43)【公開日】2017年6月22日
(54)【発明の名称】ポリ乳酸樹脂組成物、ポリ乳酸樹脂成形体及びポリ乳酸樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20170526BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20170526BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20170526BHJP
【FI】
   C08L67/04
   C08K5/42
   C08K5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-246299(P2015-246299)
(22)【出願日】2015年12月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】西 佑典
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CF181
4J002EP027
4J002EV256
4J002FD206
4J002FD207
4J002GC00
4J002GF00
4J002GG01
4J002GG02
4J002GP00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】結晶化が速く、結晶化時間が短く、結晶化後も透明性を維持できるポリ乳酸樹脂組成物、ポリ乳酸樹脂成形体の製造方法及びポリ乳酸樹脂成形体の提供。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂に、結晶核剤として下記式で示される芳香族スルホン酸塩を1〜49質量%と、特定のアミド化合物を51〜99質量%と、含有して成るポリ乳酸樹脂組成物。

(Xはベンゼンから3個の水素原子を除いた残基;R1及びR2はC1〜6の炭化水素基;Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属;nは1又は2)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂と結晶核剤とを含有して成るポリ乳酸樹脂組成物であって、該結晶核剤が下記の化1で示される芳香族スルホン酸塩を1〜49質量%及び下記の化2で示されるアミド化合物を51〜99質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物。
【化1】
(化1において、
X:ベンゼンから3個の水素原子を除いた残基
,R:炭素数1〜6の炭化水素基
M:アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子
n:1又は2であって、Mがアルカリ金属原子の場合はn=1、Mがアルカリ土類金属原子の場合はn=2)
【化2】
(化2において、
,R:炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜22のヒドロキシアルケニル基
,R:水素原子
:炭素数1〜6のアルキレン基)
【請求項2】
化1で示される芳香族スルホン酸塩が、化1中のMがカリウム原子、バリウム原子、ルビジウム原子、ストロンチウム原子又はカルシウム原子である場合のものである請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項3】
化1で示される芳香族スルホン酸塩が、化1中のMがカリウム原子又はバリウム原子であり、且つR及びRがメチル基である場合のものである請求項1又は2記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項4】
化2で示されるアミド化合物が、化2中のR及びRが、炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数1〜18のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜18のヒドロキシアルケニル基である場合のものである請求項1〜3のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項5】
結晶核剤が芳香族スルホン酸塩を5〜30質量%及びアミド化合物を70〜95質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものである請求項1〜4のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項6】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対し、結晶核剤を0.05〜5質量部の割合で含有して成る請求項1〜5のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項7】
ポリ乳酸樹脂100質量部に対し、結晶核剤を0.10〜2.5質量部の割合で含有して成る請求項1〜5のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項8】
ポリ乳酸樹脂が、光学純度95〜100%のものである請求項1〜7記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項9】
ポリ乳酸樹脂が、光学純度96〜100%のものである請求項1〜7記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物から成形されているポリ乳酸樹脂成形体であって、JIS K 7136により求められる100μm厚のヘイズ値が20以下であることを特徴とするポリ乳酸樹脂成形体。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一つの項記載のポリ乳酸樹脂組成物を熱処理し、成形することを特徴とするポリ乳酸樹脂成形体の製造方法。
【請求項12】
熱処理温度を50〜150℃で行う請求項11記載のポリ乳酸樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れ、結晶化後も透明性を維持できるポリ乳酸樹脂組成物、ポリ乳酸樹脂成形体及びポリ乳酸樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系樹脂と結晶核剤とを含有して成るポリエステル系樹脂組成物として、脂肪族ポリエステルと、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール及び脂肪族カルボン酸エステルから選ばれる少なくとも一種とを含有するもの(例えば、特許文献1及び2参照)、脂肪族ポリエステル樹脂と、特定の芳香族スルホン酸塩と、特定のアミド化合物とを特定割合で含有して成るもの(例えば、特許文献3参照)、脂肪族ポリエステル樹脂と、特定の芳香族スルホン酸塩とを含有して成るもの(例えば、特許文献4参照)等が提案されている。しかし、これら従来のポリエステル系樹脂組成物には、ポリエステル系樹脂としてポリ乳酸樹脂を用いた場合に特に、結晶化が依然として遅く、そのため成形に長時間を要し、したがってそれだけ生産性が悪く、得られる成形品の透明性も悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−278991号公報
【特許文献2】特開2004−189833号公報
【特許文献3】特開2011−241285号公報
【特許文献4】WO2005/068554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、結晶化が速く、したがってそれだけ結晶化時間が短く、結晶化後も透明性を維持できるポリ乳酸樹脂組成物、ポリ乳酸樹脂成形体の製造方法及びポリ乳酸樹脂成形体を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、ポリ乳酸樹脂に、結晶核剤として特定の芳香族スルホン酸塩と特定のアミド化合物とを特定割合で含有して成るものを用いたものが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、ポリ乳酸樹脂と結晶核剤とを含有して成るポリ乳酸樹脂組成物であって、該結晶核剤が下記の化1で示される芳香族スルホン酸塩を1〜49質量%及び下記の化2で示されるアミド化合物を51〜99質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とするポリ乳酸樹脂組成物に係る。また本発明はかかるポリ乳酸樹脂組成物から成形されているポリ乳酸樹脂成形体及びかかるポリ乳酸樹脂成形体の製造方法に係る。





【0007】
【化1】
【0008】
化1において、
X:ベンゼンから3個の水素原子を除いた残基
,R:炭素数1〜6の炭化水素基
M:アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子
n:1又は2であって、Mがアルカリ金属原子の場合はn=1、Mがアルカリ土類金属原子の場合はn=2
【0009】
【化2】
【0010】
化2において、
,R :炭素数1〜22の炭化水素基、炭素数1〜22のヒドロキシアルキル
基又は炭素数1〜22のヒドロキシアルケニル基
,R :水素原子
:炭素数1〜6のアルキレン基
【0011】
先ず、本発明に係るポリ乳酸樹脂組成物(以下、本発明の組成物という)について説明する。本発明の組成物は、ポリ乳酸樹脂と結晶核剤とを含有して成るポリ乳酸樹脂組成物であって、該結晶核剤が前記の化1で示される芳香族スルホン酸塩を1〜49質量%及び前記の化2で示されるアミド化合物を51〜99質量%(合計100質量%)の割合で含有して成ることを特徴とするものである。
【0012】
化1で示される芳香族スルホン酸塩において、化1中のXは、ベンゼンから3個の水素原子を除いた残基である。化1中のR及びRは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アリル基、シクロヘキセニル基等の炭素数1〜6の炭化水素基である。化1中のMは、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子、セシウム原子等のアルカリ金属原子又はベリリウム原子、マグネシウム原子、カルシウム原子、ストロンチウム原子、バリウム原子等のアルカリ土類金属原子であるが、なかでもカリウム原子、バリウム原子、ルビジウム原子、ストロンチウム原子又はカルシウム原子が好ましく、化1中のMがカリウム原子又はバリウム原子であり、且つR及びRがメチル基がより好ましい。化1中のnは、1又は2であるが、Mがアルカリ金属原子の場合はn=1、Mがアルカリ土類金属原子の場合はn=2である。
【0013】
以上説明した化1で示される芳香族スルホン酸塩の具体例としては、1)スルホフタル酸ジアルキルのアルカリ金属塩、2)スルホイソフタル酸ジアルキルのアルカリ金属塩、3)スルホテレフタル酸ジアルキルのアルカリ金属塩、4)スルホフタル酸ジアルキルのアルカリ土類金属塩、5)スルホイソフタル酸ジアルキルのアルカリ土類金属塩、6)スルホテレフタル酸ジアルキルのアルカリ土類金属塩、7)以上の1)〜6)の任意の混合物が挙げられるが、なかでもスルホイソフタル酸ジアルキルのアルカリ金属塩、スルホイソフタル酸ジアルキルのアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0014】
化1で示される芳香族スルホン酸塩それ自体は、公知の方法で合成できる。これには例えば、特公昭34−10497号公報、特開2010−150365号公報記載の方法が挙げられる。これらの方法で合成された芳香族スルホン酸塩には、硫酸塩、塩化物塩、酢酸塩、炭酸塩等の金属塩等の副生成物、スルホイソフタル酸ジアルキル及びその金属塩等の原料及び中和に使用した水酸化物等の不純物が含有されている。かかる不純物の含有量に特に制限はないが、5%以下であることが好ましい。
【0015】
化2で示されるアミド化合物において、化2中のR及びRは、1)メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ドコシル基、n−プロペニル基、イソプロペニル基、n−ブテニル基、イソブテニル基、sec−ブテニル基、tert−ブテニル基、n−ペンテニル基、n−ヘキセニル基、n−ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、エイコセニル基、ドコセニル基等の炭素数1〜22の炭化水素基、2)ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシトリデシル基、ヒドロキシテトラデシル基、ヒドロキシヘキサデシル基、ヒドロキシオクタデシル基、ヒドロキシエイコシル基、ヒドロキシドコシル基等の炭素数1〜22のヒドロキシアルキル基、又は3)ヒドロキシn−プロペニル基、ヒドロキシイソプロペニル基、ヒドロキシn−ブテニル基、ヒドロキシイソブテニル基、ヒドロキシsec−ブテニル基、ヒドロキシtert−ブテニル基、ヒドロキシn−ペンテニル基、ヒドロキシn−ヘキセニル基、ヒドロキシn−ヘプテニル基、ヒドロキシオクテニル基、ヒドロキシノネニル基、ヒドロキシデセニル基、ヒドロキシウンデセニル基、ヒドロキシドデセニル基、トリデセニル基、ヒドロキシテトラデセニル基、ヒドロキシペンタデセニル基、ヒドロキシヘキサデセニル基、ヒドロキシヘプタデセニル基、ヒドロキシオクタデセニル基、ヒドロキシエイコセニル基、ヒドロキシドコセニル基等の炭素数1〜22のヒドロキシアルケニル基であるが、なかでも、炭素数1〜18の炭化水素基、炭素数1〜18のヒドロキシアルキル基又は炭素数1〜18のヒドロキシアルケニル基が好ましい。化2中のR及びRは、水素原子である。化2中のRは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキサレン基等の炭素数1〜6のアルキレン基である。
【0016】
以上説明した化2で示されるアミド化合物の具体例としては、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス−リシノール酸アミド等が挙げられるが、なかでもエチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス−リシノール酸アミド等が好ましい。これらのアミド化合物は、単独で使用してもよいし、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
結晶核剤は前記したような化1で示される芳香族スルホン酸塩を1〜49質量%及び化2で示されるアミド化合物を51〜99質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものであるが、なかでも芳香族スルホン酸塩を5〜30質量%及びアミド化合物を70〜95質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましい。
【0018】
本発明の組成物に供する結晶核剤は、その平均粒子径を特に制限されないが、0.01〜40μmの範囲内に調整したものが好ましい。ここで平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法により測定して得られえた50%体積径(メジアン径)を意味する。結晶核剤の平均粒子径が40μmより大きいと、結晶化に影響を及ぼすようになり、逆に結晶核剤の平均粒子径が0.01μmより小さいと、取り扱い時の粉立ちによって作業環境が悪くなりやすい。
【0019】
結晶核剤の平均粒子径を0.01〜40μmに調整する方法としては、特に制限されないが、結晶核剤を、1)ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、サイクロンミル等の乾式粉砕機に供してその平均粒子径を調整する方法、2)水、有機溶剤及び水と有機溶剤の混合溶液と共に用い、サンドグラインダー、ボールミル、ビーズミル等の湿式粉砕機に供してその平均粒子径を調整する方法が挙げられる。
【0020】
本発明の組成物において、組成物中のポリ乳酸樹脂及び結晶核剤の含有割合に特に制限はないが、ポリ乳酸樹脂100質量部に対し結晶核剤を0.05〜5質量部の割合で含有して成るものが好ましく、ポリ乳酸樹脂100質量部に対し結晶核剤を0.10〜2.5質量部の割合で含有して成るものがより好ましい。
【0021】
本発明の組成物において、ポリ乳酸樹脂の光学純度に特に制限はないが、95〜100%のものが好ましく、96〜100%のものがより好ましい。光学純度は、「ポリオレフィン等合成樹脂製食品容器包装等に関する自主基準 第3版改訂版 2004年6月追補 第3部 衛生試験法 P12−13」記載のD体含有量の測定方法によって求めることができる。
【0022】
本発明の組成物に用いるポリ乳酸樹脂は、公知の方法で合成できる。これには例えば、特開平5−48258号公報、特開平7−33861号公報、特開昭59−96123号公報、高分子討論会予稿集第44巻の3198−3199頁に記載されているような、1)乳酸を直接脱水縮合反応する方法、2)乳酸のラクチドを開環重合する方法等が挙げられる。前記1)の方法では、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸又はこれらの混合物のいずれの乳酸を用いてもよい。前記2)の方法では、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソ−ラクチド又はこれら混合物のいずれのラクチドを用いてもよい。原料のラクチドの合成、精製及び重合方法にも、公知の方法を適用できる。これには例えば、米国特許第4057537号明細書、公開欧州特許出願第261572号明細書、Polymer Bulletin,14,491−495(1985)、Macromol.Chem.,187,1611−1628(1986)等に記載されている方法が挙げられる。
【0023】
本発明の組成物に用いるポリ乳酸樹脂の質量平均分子量は特に制限されないが、30000以上としたものが好ましく、50000以上としたものがより好ましく、50000〜400000としたものが特に好ましい。得られる成形体の強度や弾性率等の機械特性、更には成形時の流動性をより良く確保するためである。尚、質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法によるポリスチレン換算値である。
【0024】
本発明の組成物に用いるポリ乳酸樹脂は、これに含まれる残存モノマーを5000ppm以下としたものが好ましく、4000ppm以下としたものがより好ましく、3000ppm以下としたものが特に好ましい。得られる成形体の耐湿熱老化性や耐熱性等をより良く確保するためである。
【0025】
本発明の組成物は、得られる成形体の剛性、柔軟性、耐熱性、耐久性等を向上する観点から、その他の樹脂を含有することもできる。かかるその他の樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド等が挙げられる。これらは単独もしくは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0026】
本発明の組成物には、合目的的に他の添加剤を含有することもできる。かかる他の添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、流滴剤、赤外吸収剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤等が挙げられる。
【0027】
本発明の組成物は公知の方法で調製できる。これには例えば、1)粉末又はペレット状のポリ乳酸樹脂、結晶核剤と、要すれば他の添加剤とを、同時にドライブレンドした後、混練する方法、2)粉末又はペレット状のポリ乳酸樹脂と、結晶核剤とを溶融混練した後、更に要すれば他の添加剤をドライブレンドした後、混練する方法、3)粉末又はペレット状のポリ乳酸樹脂を混練溶融した後、サイドフィードにて結晶核剤と、要すれば他の添加剤を添加する方法、4)粉末又はペレット状のポリ乳酸樹脂と、要すれば他の添加剤をドライブレンドし、混練溶融した後、サイドフィードにて結晶核剤を添加する方法、5)粉末又はペレット状のポリ乳酸樹脂と、結晶核剤と、要すれば他の添加剤をドライブレンドした後、混練溶融し、更に要すれば液体の添加物を液体供給装置等により添加する方法、6)粉末又はペレット状のポリ乳酸樹脂と、要すれば他の添加剤をドライブレンドし、混練溶融した後、サイドフィードにて結晶核剤を添加し、要すれば液体の添加物を液体供給装置等により添加する方法等が挙げられる。かかるドライブレンドの装置としては、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー等が挙げられる。また混練機としては、単軸又は二軸押出機等が挙げられる。混練機の混練温度は、通常120〜280℃程度とする。ポリ乳酸樹脂の重合段階で、結晶核剤や要すれば他の添加剤を加えることもでき、また結晶核剤や要すれば他の添加剤を高濃度で含有するマスターバッチを作製しておき、これをポリ乳酸樹脂に加えることもできる。
【0028】
次に、本発明に係るポリ乳酸樹脂成形体(以下、本発明の成形体という)について説明する。本発明の成形体は、本発明の組成物から成形されているポリ乳酸樹脂成形体であって、JIS K 7136により求められる100μm厚のヘイズ値が20以下であるポリ乳酸樹脂成形体である。
【0029】
成形方法は特に制限されず、これには例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、異形押出成形、射出ブロー成形、真空圧空成形、紡糸等が挙げられる。
【0030】
本発明の成形体は、フィルム、袋、チューブ、シート、カップ、ボトル、トレー、糸等を包含し、その形状、大きさ、厚み、意匠等に関して何ら制限はない。具体的には、本発明の成形体は、包装用袋、食器、フォーク、スプーン、トレイ、ボトル、ラップフィルム、化粧品容器、ゴミ袋、かさ、テント、防水シート、テープ、エアーマット、つり糸、魚網、カプセル、肥料用の容器や包装材及びカプセル、種苗用の容器や包装材及びカプセル、農園芸用フィルム、製品包装用フィルム、オーバーヘッドプロジェクター用フィルム、熱線反射フィルム、液晶ディスプレー用フィルム等に用いることができる。この他、本発明の成形体は、多層構造の積層体の層材とすることもできる。
【0031】
最後に、本発明に係るポリ乳酸樹脂成形体の製造方法(以下、本発明の製造方法という)について説明する。本発明の製造方法は、本発明の組成物を熱処理し、成形するポリ乳酸樹脂成形体の製造方法である。熱処理温度に特に制限はないが、50〜150℃で行うことが好ましく、70〜140℃で行うことがより好ましい。
【0032】
本発明の組成物の熱処理方法としては、該組成物の溶融物を金型内に充填し、金型内でそのまま加熱する方法(以下、金型内加熱法という)と、該組成物の非晶性の成形体を熱処理する方法(以下、後加熱法という)を挙げることができる。熱処理方法について特に制限はないが、後加熱法の方が好ましい。
【0033】
後加熱法による熱処理方法としては、ヒーターの輻射熱で加熱する方法、加温した金属板等に接触させて加熱する方法、送風定温乾燥機を用いて加熱する方法、オーブン(加熱炉)中や温水中に連続的に通過させて加熱する方法、高温空気に接触させて加熱する方法、及びこれらを組み合わせた方法等が挙げられる。本発明の組成物はいずれの熱処理方法にも適応できる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明した本発明によると、結晶化が速く、したがってそれだけ結晶化時間が短く、結晶化後も透明性を維持できるポリ乳酸樹脂組成物、かかるポリ乳酸樹脂組成物を用いたポリ乳酸樹脂成形体及びかかるポリ乳酸樹脂成形体の製造方法を提供できるという効果がある。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0036】
・芳香族スルホン酸塩(A−1)の合成と調整
還流管を取り付けた1Lのセパラブルフラスコに、イソフタル酸71.94g(0.43モル)と発煙硫酸190.4gを仕込み、撹拌しながら内温200〜250℃加温してスルホン化物を得た。別に、冷却管を取り付けた1Lのセパラブルフラスコにイオン交換水89.0gを加え60〜90℃に加温し、前記のスルホン化物を滴下して、滴下後に50℃以下まで冷却した後、水溶液を除去して5−スルホイソフタル酸を得た。還流管を取り付けた1Lのセパラブルフラスコに、得られた5−スルホイソフタル酸とメタノール62.0gを仕込み、撹拌しながらメタノール還流下で反応させた。反応後、内温を50℃以下まで冷却し、20%水酸化カリウム水溶液112.2gを加え、pHを6.5に中和した。冷却管を取り付けた3Lのセパラブルフラスコに、得られた中和物を仕込み、イオン交換水1930.0gを加えた後、撹拌しながら加温してメタノールを留去した。メタノール留去後、内温を30℃まで徐冷して析出させたところ、5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウム塩を含む固形分のスラリーを得た。このスラリーから固形分を濾別し、100gのイオン交換水を加えて水洗処理した。水洗処理した固形分を105〜120℃の熱風乾燥機で乾燥して白色粉末121.6gを得た。最後に、得られた白色粉末をジェットミル(セイシン企業社製の商品名シングルトラックジェットミルSTJ−200型)を用いて粉砕圧力0.7Mpaの条件で粉砕処理して、芳香族スルホン酸塩(A−1)を得た。この芳香族スルホン酸塩(A−1)には、液体クロマトグラフィーを用いて分析した結果、不純物として水酸化カリウムを280ppm含有していた。
【0037】
・芳香族スルホン酸塩(A−2)の合成と調整
還流管を取り付けた2Lのセパラブルフラスコに、5−スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩100.0g(0.34モル)とイオン交換水900.0gを仕込み、撹拌しながら70〜90℃に加温し、5−スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩が溶解したことを確認後、塩化バリウム・2水和物41.7g(0.17モル)を加え、3時間撹拌した後、5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウム塩を含む固形分のスラリーを得た。内温30℃以下まで急冷した後、このスラリーから固形分を濾別し、100gのイオン交換水を加えて水洗処理した。水洗処理した固形分を105〜120℃の熱風乾燥機で4時間乾燥して白色粉末101.8gを得た。最後に、得られた白色粉末をジェットミル(セイシン企業社製の商品名シングルトラックジェットミルSTJ−200型)を用いて粉砕圧力0.7Mpaの条件下で粉砕処理して、芳香族スルホン酸塩(A−2)を得た。この芳香族スルホン酸塩(A−2)には、原子吸光分析及び液体クロマトグラフィー分析をした結果、不純物として5−スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム塩を0.8%及び塩化ナトリウムを400ppm含有していた。
【0038】
芳香族スルホン酸塩(A−1)、(A−2)と同様にして、芳香族スルホン酸塩(A−3)〜(A−5)及び(RA−1)〜(RA−2)を得た。
【0039】
試験区分1 (結晶核剤の調製)
・結晶核剤(C−1)の調製
予め所定の粒径に調整した表1に示す芳香族スルホン酸塩(A−1)10部及び表2に示すアミド化合物(B−1)10部をブレンダーを用いてドライブレンドし、表3に示す結晶核剤(C−1)を得た。
【0040】
・結晶核剤(C−2)〜(C−13)及び(RC−1)〜(RC−7)の調製
結晶核剤(C−1)の調製と同様にして、結晶核剤(C−2)〜(C−13)及び(RC−1)〜(RC−7)を調製し、その内容を表1〜3にまとめて示した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1において、
A−1:5−スルホイソフタル酸ジメチルカリウム塩(合成品)
A−2:5−スルホイソフタル酸ジメチルバリウム塩(合成品)
A−3:5−スルホイソフタル酸ジメチルカルシウム塩(合成品)
A−4:5−スルホイソフタル酸ジエチルストロンチウム塩(合成品)
A−5:5−スルホイソフタル酸ジイソプロピルルビジウム塩(合成品)
RA−1:5−スルホイソフタル酸ジオクチルマグネシウム塩(合成品)
RA−2:5−スルホイソフタル酸ジヘキシルマンガン塩(合成品)
【0043】
【表2】
【0044】
表2において、
B−1:エチレンビスオレイン酸アミド(日本化成社製の商品名スリパックスO)
B−2:エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド(日本化成社製の商品名スリパックスH)
B−3:エチレンビスステアリン酸アミド(日本化成社製の商品名スリパックスE)
B−4:ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド(日本化成社製の商品名スリパックスZHS)
RB−1:m−キシリレンビスステアリン酸アミド(日本化成社製の商品名スリパックスPXS)
RB−2:N,N’−メチル−m−キシリレンビスステアリン酸アミド(合成品)

























【0045】
【表3】
【0046】
表3において、
A−1〜A−5及びRA−1〜RA−2:表1に記載のもの
B−1〜B−4及びRB−1〜RB−2:表2に記載のもの
【0047】
試験区分2(ポリ乳酸樹脂組成物の調製及びポリ乳酸樹脂成形体の製造)
・実施例1
・ポリ乳酸樹脂組成物の調製
ポリ乳酸樹脂(Nature Works社製の商品名Ingeo 2500HP)100部及び結晶核剤(C−1)1部をブレンダーを用いてドライブレンドして混合材料を得た。この混合材料をホッパーに投入し、200℃に設定された二軸混練押出機にて溶融混練し、口金よりストランド状に押出し、水で急冷してストランドを得た。このストランドをストランドカッターで切断して、ペレット状のポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0048】
次いで、得られたペレット状のポリ乳酸樹脂組成物を、樹脂温度が200℃に設定されたT−ダイ押出成形機にて溶融し、溶融物を温度を30℃に調整したキャストロール上に押出し、厚み100μmのフィルム状のポリ乳酸樹脂成形体を製造した。
【0049】
・実施例2〜15及び比較例1〜7
実施例1の場合と同様にして、実施例2〜15及び比較例1〜7のポリ乳酸樹脂組成物を調整し、ポリ乳酸樹脂成形体を製造した。これらの内容を表4にまとめて示した。
【0050】
試験区分3(成形体の評価)
・アニーリング時間
試験区分2で調製した各例のフィルム状のポリ乳酸樹脂成形体について、90℃又は130℃に調整した送風定温乾燥機(EYELA社製のWFO−600D)を用い、熱処理時間を10秒〜300秒まで5秒刻みで変更する熱処理を行なった後、80℃のお湯につけ、フィルムが変形しなくなるまでに必要な熱処理時間を求め、次の基準で評価した。結果を表4にまとめて示した。この熱処理時間は短いほど、フィルム状のポリ乳酸樹脂成形体が短時間で結晶化していることを示す。
【0051】
・アニーリング時間の評価基準
熱処理温度90℃
AA:熱処理時間が90秒未満であった。
A:熱処理時間が90〜120秒であった。
B:熱処理時間が120秒超であった。
熱処理温度130℃
AA:熱処理時間が45秒未満であった。
A:熱処理時間が45〜70秒であった。
B:熱処理時間が70秒超であった。
【0052】
・結晶化温度(昇温時)
試験区分1で調製した各例のペレット状のポリ乳酸樹脂組成物3mgをアルミニウムセルに充填し、示差走査熱量計(セイコーインスツル社製のDSC−6200)を用いて、室温から200℃まで30℃/分の昇温速度で昇温し、結晶化ピーク温度を測定し、次の基準で評価した。結果を表4にまとめて示した。かかる結晶化ピーク温度は昇温時の発熱ピークのピークトップ温度を示し、昇温時の結晶化ピーク温度が低い程、昇温時の結晶化が速く、したがってそれだけ昇温時の結晶化時間が短くなることを示す。
【0053】
・昇温時の結晶化温度の評価基準
AA:結晶化ピーク温度が100℃未満であった。
A:結晶化ピーク温度が100〜110℃であった。
B:結晶化ピーク温度が110℃超であった。
【0054】
・結晶化温度(降温時)
試験区分1で調製した各例のペレット状のポリ乳酸樹脂組成物3mgをアルミニウムセルに充填し、示差走査熱量計(セイコーインスツル社製のDSC−6200)を用いて、30℃/分で室温から200℃まで昇温して、5分間保持した後、35℃/分で200℃から降温して、結晶化ピーク温度を測定し、次の基準で評価した。結果を表4にまとめて示した。かかる結晶化ピーク温度は降温時の発熱ピークのピークトップ温度を示し、降温時の結晶化ピーク温度が高い程、降温時の結晶化が速く、したがってそれだけ降温時の結晶化時間が短くなることを示す。
【0055】
・降温時の結晶化温度の評価基準
AA:結晶化ピーク温度が100℃超であった。
A:結晶化ピーク温度が95〜100℃であった。
B:結晶化ピーク温度が95℃未満であった。
【0056】
・透明性
試験区分1で製造した各例の厚み100μmのフィルム状のポリ乳酸樹脂成形体について、ヘーズメーター(日本電色工業製のNDH5000)を用いてヘイズ値を測定し、次の基準で評価した。結果を表4にまとめて示した。
【0057】
透明性の評価基準
AA:ヘイズ値が10未満であった。
A:ヘイズ値が10〜20であった。
B:ヘイズ値が20超であった。
【0058】
【表4】
【0059】
表1〜3に対応する表4の結果からも明らかなように、本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いると、結晶化が速く、したがってそれだけ結晶化時間が短く、結晶化後も透明性を維持できることが解る。