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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-110160(P2017-110160A)
(43)【公開日】2017年6月22日
(54)【発明の名称】重合禁止剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/40 20060101AFI20170526BHJP
   C08F 20/00 20060101ALI20170526BHJP
【FI】
   C08F2/40
   C08F20/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-247749(P2015-247749)
(22)【出願日】2015年12月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000195616
【氏名又は名称】精工化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(72)【発明者】
【氏名】田辺 剛
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011NA23
4J011NB01
(57)【要約】
【課題】酸素濃度が低い環境下において、沸点が高いビニル系単量体を蒸留して精製する場合であっても優れた重合禁止性能を発揮する重合禁止剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物(一般式(I)中、R1は、炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基、又は、炭素原子数4〜9のアリール基、R2は、水素原子、又は炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基、又は、炭素原子数4〜9のアリール基である。)を含有し、ビニル系単量体の重合を禁止する重合禁止剤。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含有し、ビニル系単量体の重合を禁止する重合禁止剤。
【化1】
(一般式(I)中、R1は、炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基、又は、炭素原子数4〜9のアリール基であり、R2は、水素原子、炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基、又は、炭素原子数4〜9のアリール基である。)
【請求項2】
前記一般式(I)中のR1、R2が共にオクチル基であるか、R1、R2が共にフェニル基であるか、或いは、R1、R2が共にクミル基である請求項1に記載の重合禁止剤。
【請求項3】
前記ビニル系単量体が、アクリル酸又はアクリル酸誘導体であるか、或いは、メタクリル酸又はメタクリル酸誘導体である請求項1または2に記載の重合禁止剤。
【請求項4】
アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体は、それぞれ、常圧で沸点が120℃以上の化合物である請求項3に記載の重合禁止剤。
【請求項5】
アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体は、それぞれ、常圧で沸点が150℃以上の化合物である請求項4に記載の重合禁止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合禁止剤に関する。更に詳しくは、酸素濃度が低い環境下において、沸点が高いビニル系単量体を蒸留して精製する場合であっても優れた重合禁止性能を発揮する重合禁止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アクリル酸、メタクリル酸及びその誘導体に代表されるビニル系単量体を原料とする光硬化性樹脂は、その用途を広げている。そして、このような用途の広がりに伴い、光硬化性樹脂に様々な機能を付与する目的で多様なビニル系単量体の開発が行われている。
【0003】
そのような技術開発の中で、開発される新しいビニル系単量体は、分子量が大きくなったり、置換基が付与されたりして、沸点が高くなる傾向にある。
【0004】
そして、多くの場合、ビニル系単量体は、製造後に精製されるが、経済的な理由等から蒸留による方法が採用されている。一方で、蒸留時の熱によりビニル系単量体が重合してしまうことを防ぐため、ビニル系単量体の蒸留時には重合禁止剤が添加される。
【0005】
ここで、新しいビニル系単量体は、高沸点化する傾向があり、これに伴い、蒸留温度が上がるか、或いは、蒸留時の減圧度が下がることが行われる。これにより、蒸留のために添加した重合禁止剤がビニル系単量体とともに留出してしまうという問題が生じている。
【0006】
更に、蒸留時に用いられる重合禁止剤は、着色しているものが多く、ビニル系単量体の蒸留に際して留出すると、ビニル系単量体を着色してしまい、ビニル系単量体の製品価値を下げてしまうという問題がある。
【0007】
このような問題に対して、TEMPO(2,2,6,6−tetramethylpiperidine 1−oxyl)の誘導体(以下、「TEMPO誘導体」と記す場合がある)を重合禁止剤として用いることが知られている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−300031号公報
【特許文献2】特開2001−106708号公報
【特許文献3】特開2001−39925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の重合禁止剤(TEMPO誘導体)は、特定の分野では高い重合禁止性能を示すが、汎用的でなく、また、高価であり、工業的に用いるには現実的でないという問題がある。
【0010】
また、沸点が高いビニル系単量体の蒸留は、減圧下で行われる場合が多い。そのため、敢えて酸素を導入する操作を行わない場合、蒸留系内は酸素濃度が下がる傾向にある。このような低酸素濃度下では、p−メトキシフェノールやフェノチアジンなどの従来公知の重合禁止剤は、十分な重合禁止効果を発揮しない場合がある。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の重合禁止剤は、特定のp−ベンゾキノン誘導体(一般式(I)で表される化合物)を含有することにより、酸素濃度が低い環境下において、沸点が高いビニル系単量体を蒸留して精製する場合であっても優れた重合禁止性能を発揮するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下に示す重合禁止剤が提供される。
【0013】
[1]下記一般式(I)で表される化合物を含有し、ビニル系単量体の重合を禁止する重合禁止剤。
【0014】
【化1】
(一般式(I)中、R1は、炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基、又は、炭素原子数4〜9のアリール基であり、R2は、水素原子、炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基、又は、炭素原子数4〜9のアリール基である。)
【0015】
[2]前記一般式(I)中のR1、R2が共にオクチル基であるか、R1、R2が共にフェニル基であるか、或いは、R1、R2が共にクミル基である前記[1]に記載の重合禁止剤。
【0016】
[3]前記ビニル系単量体が、アクリル酸又はアクリル酸誘導体であるか、或いは、メタクリル酸又はメタクリル酸誘導体である前記[1]または[2]に記載の重合禁止剤。
【0017】
[4]アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体は、それぞれ、常圧で沸点が120℃以上の化合物である前記[3]に記載の重合禁止剤。
【0018】
[5]アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体は、それぞれ、常圧で沸点が150℃以上の化合物である前記[4]に記載の重合禁止剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明の重合禁止剤は、一般式(I)で表される化合物を含有するものであるため、酸素濃度が低い環境下において、沸点が高いビニル系単量体を蒸留して精製する場合であっても優れた重合禁止性能を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0021】
[1]重合禁止剤:
本発明の重合禁止剤は、下記一般式(I)で表される化合物を含有する。
【0022】
【化2】
(一般式(I)中、R1は、炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基、又は、炭素原子数4〜9のアリール基であり、R2は、水素原子、炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基、又は、炭素原子数4〜9のアリール基である。)
【0023】
このような重合禁止剤は、酸素濃度が低い環境下において、沸点が高いビニル系単量体を蒸留して精製する場合であっても従来の重合禁止剤にはない優れた重合禁止性能を発揮する。つまり、酸素濃度が低い環境下においては、重合禁止性能を発揮し難い重合禁止剤も存在するが、本発明の重合禁止剤は、酸素濃度が低い環境下においても優れた重合禁止性能を発揮する。そして、本発明の重合禁止剤は、高温蒸留精製時においても、ビニル系単量体とともに留出し難く、ビニル系単量体を良好に分留ができる。
【0024】
そして、本発明の重合禁止剤は、ビニル系単量体とともに留出し難いので蒸留精製後のビニル系単量体に含まれ難くなるため、仮に重合禁止剤が着色していたとしてもこの重合禁止剤(有色の重合禁止剤)に起因してビニル系単量体が着色してしまうことを防止できる。
【0025】
更に、従来、TEMPO誘導体等の重合禁止剤が知られているが、このTEMPO誘導体は、高価であり、工業的に用いるには現実的でないという問題がある。一方で、本発明の重合禁止剤は、工業的に簡単に入手可能であるため、ビニル系単量体の工業的な蒸留精製に十分使用可能である。
【0026】
[1−1]一般式(I)で表される化合物:
一般式(I)中、R1は、炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基である。R2は、水素原子、又は炭素原子数4〜9の飽和又は不飽和のアルキル基である。なお、R1、R2で示される炭素原子数4〜9のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のいずれであってもよい。
【0027】
R1、R2で示される炭素原子数4〜9のアルキル基としては、例えば、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、イソブチル基、イソペンチル基、シクロペンチル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基、イソノニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、クロロブチル基、クロロペンチル基、2−エチルヘキシル基、2−メトキシブチル基、クロロシクロブチル基、クロロシクロペンチル基等が挙げられる。
【0028】
R1、R2で示される炭素原子数4〜9のアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、クミル基、ベンジル基、フェネシル基、シナミル基、シクロアリール基、ヘテロアリール基、モノクロロベンジル基、ジクロロベンジル基、モノメチルベンジル基等が挙げられる。なお、R1、R2は、同一であっても異なっていてもよい。
【0029】
一般式(I)で表される化合物においてR1、R2で示されるアルキル基とアリール基について、それぞれ、炭素原子数3以下であると、高沸点のビニル系単量体の高温蒸留において、ビニル系単量体とともに留出し、高温蒸留精製時の重合禁止剤としての効果を得ることが難しい。又、R1、R2が、炭素原子数10以上であると、重合禁止特性を有するが、製造上、現実的でない。
【0030】
これらのうちでも、R1、R2が共にオクチル基であるか、R1、R2が共にフェニル基であるか、或いは、R1、R2が共にクミル基であることが好ましい。このような化合物は、沸点が高いことから、高沸点ビニル系単量体の高温蒸留精製時において、ビニル系単量体とともに留出することがない。そのため、ビニル系単量体の重合を確実、かつ有効に禁止して蒸留精製によりほぼ完全にビニル系単量体を単離、精製すること(分留)ができる。そして、重合禁止剤が蒸留精製後のビニル系単量体に含まれるようなことがないことから、重合禁止剤が混入することに起因して蒸留精製後のビニル系単量体(蒸留精製されたビニル系単量体)が着色してしまうことを防止できる。
【0031】
一般式(I)で示される化合物としては、具体的には、2,5−ジフェニルp−ベンゾキノン、2,5−ジクミルp−ベンゾキノン、2,5−ジオクチルp−ベンゾキノン、2,5−ブチルp−ベンゾキノン等が挙げられる。
【0032】
これらのうちでも、2,5−ジフェニルp−ベンゾキノン、2,5−ジクミルp−ベンゾキノン、2,5−ジオクチルp−ベンゾキノンが好ましく、これらは、蒸留精製時の蒸留温度が高いビニル系単量体について、酸素濃度が低い環境下で蒸留精製する際に用いる重合禁止剤の成分として有効である。
【0033】
なお、本発明の重合禁止剤は、一般式(1)で表される化合物を1種類含んでいても良いし、2種類以上含んでいても良い。
【0034】
[1−2]その他の成分:
本発明の重合禁止剤は、一般式(I)で表される化合物以外に、その他の成分を更に含有していてもよい。
【0035】
その他の成分としては、例えば、2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノール(BHT)、t−ブチルカテコール、ハイドロキノン、4−メトキシフェノール、2−メチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、4−ベンゾキノン、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−4−エチルフェノール)、2,2’−メチレンビス[6−(1−メチルシクロヘキシル)−4−メチルフェノール]、ジフェニルアミン、N−ニトロソジフェニルアミン、N−ニトロソ−N−シクロヘキシルアニリン、4−アミノジフェニルアミン、4−オキシジフェニルアミン、4−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−4−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−4−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−4−フェニレンジアミン、フェノチアジン、ジエチルヒドロキシルアミンに代表されるジアルキルヒドロキシルアミン、4−ヒドロシキ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ化合物に代表される2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ化合物、2,4−ジニトロフェノール、2,4−ジニトロクレゾール、2,4−ジニトロ−t−ブチルフェノール、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩、フェノチアジン、3,7−ジブチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、3,7−ジクミルフェノチアジン等を挙げることができる。
【0036】
上記その他の成分の含有割合は、0〜90質量%とすることができる。
【0037】
即ち、本発明の重合禁止剤中の一般式(I)で表される化合物の含有割合は、10〜100質量%とすることができる。
【0038】
本発明の重合禁止剤は、ビニル系単量体の重合を禁止するものである。ここで、「ビニル系単量体の重合を禁止する」とは、ビニル系単量体が、熱や光等を契機に互いに重合反応をして意図せずに重合体を形成してしまうことを防止することを意味する。
【0039】
ビニル系単量体としては、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体などを挙げることができる。
【0040】
アクリル酸誘導体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−3−メトキシブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−アミノエチル、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ビシクロヘキシル、これらの誘導体等が挙げられる。
【0041】
また、メタクリル酸誘導体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−メトキシエチル、メタクリル酸−3−メトキシブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−アミノエチル、メタクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ビシクロヘキシル、これらの誘導体等が挙げられる。
【0042】
更に、ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸等の芳香族ビニル系単量体、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル系単量体、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シラン類、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリロニトリル系単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0043】
本発明の重合禁止剤は、一般式(I)で表される化合物を含有することにより、酸素濃度が低い環境下であっても、上記ビニル系単量体の重合を良好に禁止することができ、そして、高沸点ビニル系単量体であってもその重合を良好に禁止することができる。更には、高沸点ビニル系単量体の中でも、アクリル酸誘導体、又はメタクリル酸誘導体を、高温蒸留精製する際の重合反応を良好に禁止することができる。
【0044】
更に、アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体の中でも、常圧での沸点が120℃以上であるもの(以下、「第1高沸点誘導体」と記す場合がある)の重合を良好に禁止することができ、常圧での沸点が150℃以上であるもの(以下、「第2高沸点誘導体」と記す場合がある)の重合をも良好に禁止することができる。
【0045】
[2]一般式(I)で表される化合物の製造方法:
一般式(I)で示される化合物は、炭素数4〜9のアルキル基を導入されたハイドロキノンを、公知の製造方法により酸化することによって製造することができる。
【0046】
[3]重合禁止剤の使用方法:
本発明の重合禁止剤は、以下のようにして使用することができる。即ち、蒸留精製時の蒸留精製温度が高いビニル系単量体(高沸点ビニル系単量体)を含む精製前のビニル系単量体含有液に、本発明の重合禁止剤を配合して混合物を得て、得られた混合物からビニル系単量体を蒸留精製し、その際におけるビニル系単量体の重合を本発明の重合禁止剤によって禁止する。
【0047】
このように、本発明の重合禁止剤を用いれば、酸素濃度が低い環境下において、沸点が高いビニル系単量体を蒸留して精製する場合であっても優れた重合禁止性能を発揮する。
【0048】
なお、TEMPO誘導体等の重合禁止剤は、高価であるため工業的に用いるには現実的でないという問題があるが、本発明方法に用いられる重合禁止剤は、工業的に入手可能である。
【0049】
上記のように、ビニル系単量体含有液に、本発明の重合禁止剤を配合して混合物を得るが、これは、例えば、予めビニル系単量体の原料成分中に、上述の重合禁止剤を含有させておき、ビニル系単量体(ビニル系単量体含有液)が製造されたと同時に混合物が得られる場合を含む。また、ビニル系単量体(ビニル系単量体含有液)が製造された後、このビニル系単量体含有液に重合禁止剤を添加して混合物を得る場合を含む。
【0050】
ビニル系単量体としては、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体などを挙げることができる。
【0051】
アクリル酸誘導体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−3−メトキシブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸2−アミノエチル、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸イソボニル、アクリル酸アダマンチル、アクリル酸ビシクロヘキシル、これらの誘導体等が挙げられる。
【0052】
また、メタクリル酸誘導体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸−2−メトキシエチル、メタクリル酸−3−メトキシブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−アミノエチル、メタクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ビシクロヘキシル、これらの誘導体等が挙げられる。
【0053】
更に、ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、スチレンスルホン酸等の芳香族ビニル系単量体、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニル系単量体、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シラン類、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリロニトリル系単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0054】
本発明の重合禁止剤を用いれば、ビニル系単量体の重合を良好に禁止することができ、そして、高沸点ビニル系単量体であってもその重合を良好に禁止することができる。更には、高沸点ビニル系単量体の中でも、アクリル酸誘導体、又はメタクリル酸誘導体を、高温蒸留精製する際の重合反応を良好に禁止することができる。
【0055】
更に、アクリル酸誘導体及びメタクリル酸誘導体の中でも、常圧での沸点が120℃以上であるもの(以下、「第1高沸点誘導体」と記す場合がある)の重合を良好に禁止することができ、常圧での沸点が150℃以上であるもの(以下、「第2高沸点誘導体」と記す場合がある)の重合をも良好に禁止することができる。
【0056】
なお、第1高沸点誘導体や第2高沸点誘導体を原料とする樹脂は、透明性、耐候性、耐薬品性、光学特性、成形性、電気的特性等に優れ、各種の用途において使用されている。
【0057】
第1高沸点誘導体(第2高沸点誘導体に含まれるものを除く)としては、例えば、アクリル酸n−ブチル等を挙げることができる。
【0058】
第2高沸点誘導体(第1高沸点誘導体に含まれるものを除く)としては、例えば、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル等を挙げることができる。
【0059】
本発明の重合禁止方法においては、混合物中の重合禁止剤の濃度を10〜5000ppmとすることが好ましく、10〜300ppmとすることが更に好ましい。上記範囲にすると、ビニル系単量体中に発生したラジカルを重合禁止剤が捕捉するのに十分である。そのため、良好にビニル系単量体の重合反応を禁止することができる。重合禁止剤の濃度が10ppm未満であると、ビニル系単量体に対する重合禁止剤の割合が小さくなるため、十分な重合禁止効果が得られないおそれがある。一方、重合禁止剤の濃度が5000ppm超であると、得られる効果に対して、発生する費用が大きくなり過ぎることがある。即ち、使用量に対して重合禁止効果が十分に向上しないためコストが高くなる傾向がある。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
<重合禁止性能>
市販のメタクリル酸エトキシエチルを10%NaOH水溶液30mlで3回洗浄して抽出し、イオン交換水で3回洗浄してpHが中性になるのを確認した。その後、無水硫酸マグネシウムを加えて良く混ぜ、濾過し、重合禁止剤として添加されているp−メトキシフェノールを除去したメタクリル酸エトキシエチル調整液を得た。なお、メタクリル酸エトキシエチルの常温での沸点は、約170℃である。
【0062】
表1に示す一般式(1)で表される化合物からなる各重合禁止剤10mgを量り、50mlメスフラスコに入れ、上記調整液でメスアップして、200ppmの試験溶液(重合禁止剤)を得た。
【0063】
得られた試験溶液を、TG−DTA装置(リガク社製のTG 8120)の測定用試料容器に入れ、窒素気流下で密栓した。このようにして試験溶液を、酸素濃度の低い状態とした。その後、TG−DTA装置を用いて、所定温度(135℃)での発熱ピークの立ち上がりまでの時間を測定し、これを誘導時間とした。誘導時間(分)の結果を表1に示す。誘導時間が長いほど効果が高いことになる。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果から、2,5−ジフェニルp−ベンゾキノン、2,5−ジクミルp−ベンゾキノン、2,5−ジオクチルp−ベンゾキノンは、p−ベンゾキノンと同様に蒸留時の重合禁止剤として使用するのに十分な重合禁止性能を持っていることが分かる。
【0066】
<重量減少の開始温度>
次に、TG−DTA装置(リガク社製のTG 8120)を用い、温度に対する重量の減少を測定した。重量の減少が観測され始める温度を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2の結果から、2,5−ジフェニルp−ベンゾキノン、2,5−ジクミルp−ベンゾキノン、2,5−ジオクチルp−ベンゾキノンは、ビニル系単量体の蒸留に重合禁止剤として用いた場合、p−ベンゾキノンよりも高い温度あるいは低い減圧度でも留分側への留出なく、蒸留を行うことができることが分かる。つまり、実施例では、優れた重合禁止性能を発揮することに加え、沸点が高いビニル系単量体を蒸留して精製する場合であってもビニル系単量体とともに蒸発し難いことが分かる。
【0069】
表1及び表2から明らかなように、本発明の重合禁止剤は、酸素濃度が低い環境下において、沸点が高いビニル系単量体を蒸留して精製する場合であっても優れた重合禁止性能を発揮することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の重合禁止剤は、蒸留精製時の蒸留温度が高いビニル系単量体について、酸素濃度が低い環境下で蒸留精製する際に用いる重合禁止剤として好適である。