【課題】第1軸線が中心軸線の第1伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な主軸部及び第2軸線が中心軸線の偏心軸部を連結した偏心回転部材と、第1伝動部材に対向配置され偏心軸部に回転自在に支持した第2伝動部材と、第2伝動部材に対向配置され第1軸線回りに回転可能な第3伝動部材と、第1、第2伝動部材間の第1変速機構と、第2、第3伝動部材間の第2変速機構とを伝動ケース内に備えたものにおいて、第2伝動部材に両変速機構の個別加工を可能として生産性を高め且つ装置の小型化を図る。
【解決手段】第2伝動部材8は、偏心軸部6eに支持した第1半体8aと、第1半体8aに空間SPを挟んで対向する第2半体8bと、両半体8a,8b間の連結部材8cとを備え、第1半体8aと第1伝動部材5間に第1変速機構T1を、第2半体8bと第3伝動部材9間に第2変速機構T2を設け、第1スプラインボスSB1は内端部6jaが空間SPに張出すよう配設される。
前記空間(SP)には、前記偏心軸部(6e)及び前記第2伝動部材(8)の総合重心(G)とは逆位相の重心を有して前記第1スプラインボス(SB1)に連結されるバランスウェイト(W)が配置されることを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の差動装置では、第2伝動部材が一体物で構成されていたので、その一体物の第2伝動部材の一側部及び他側部に第1及び第2変速機構を設けるための加工を別々に行う必要があり、生産性の観点から有利なものではなかった。
【0005】
また上記した第1及び第2スプラインボスの、第1及び第2ドライブ軸との嵌合深さを十分に確保しようとすると、何れのスプラインボスも第2伝動部材の外側で軸方向に長く延ばす必要があり、装置の軸方向小型化を図る観点からも有利なものではなかった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、上記問題を一挙に解決することができる差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、デフケースと共に回転するよう同ケースに支持されて第1軸線回りに回転可能な第1伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な主軸部、および第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が一体的に連結された偏心回転部材と、前記第1伝動部材に対向配置されて前記偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、その第2伝動部材に対向配置されると共に前記デフケースに支持されて第1軸線回りに回転可能な第3伝動部材と、前記第1及び第2伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構と、前記第2及び第3伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構とを備え、前記主軸部には、第1ドライブ軸をスプライン嵌合させる第1スプラインボスが、また前記第3伝動部材には、第2ドライブ軸をスプライン嵌合させる第2スプラインボスがそれぞれ含まれる差動装置であって、前記第2伝動部材は、前記偏心軸部に回転自在に支持されて前記第1伝動部材と対向する第1半体と、その第1半体に空間を挟んで対向する第2半体と、その第1,第2半体間を一体的に連結する連結部材とを備えていて、第1半体と前記第1伝動部材との間に前記第1変速機構が、また第2半体と前記第3伝動部材との間に前記第2変速機構がそれぞれ設けられており、前記第1スプラインボスは、それの内端部が前記第1,第2半体間の前記空間に張出すように配設されることを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、前記第1の特徴に加えて、前記空間には、前記偏心軸部及び前記第2伝動部材の総合重心とは逆位相の重心を有して前記第1スプラインボスに連結されるバランスウェイトが配置されることを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の特徴によれば、第2伝動部材は、偏心回転部材の偏心軸部に回転自在に支持されて第1伝動部材と対向する第1半体と、その第1半体に空間を挟んで対向する第2半体と、その第1,第2半体間を一体的に連結する連結部材とを備えていて、第1半体と第1伝動部材との間に第1変速機構が、また第2半体と第3伝動部材との間に第2変速機構がそれぞれ設けられるので、第2伝動部材の一側部及び他側部に第1及び第2変速機構の加工を行うに当たり、第1及び第2半体に対し個別加工を行うことが可能となり、生産性向上に寄与することができる。また第1スプラインボスは、それの内端部が第1,第2半体間の前記空間(即ち第2伝動部材の中空部)に張出すように配設されるので、第1スプラインボスを第2伝動部材の外側で軸方向に長く延ばさなくても、第1スプラインボスの、第1ドライブ軸との嵌合深さを十分に確保可能となり、差動装置の軸方向小型化を図る上で有利となる。
【0010】
また特に第2の特徴によれば、前記空間には、偏心軸部及び第2伝動部材の総合重心とは逆位相の重心を有して第1スプラインボスに連結されるバランスウェイトが配置されるので、偏心軸部及び第2伝動部材の偏心回転による振動発生を効果的に抑えることが可能となる。しかも前述のように第1スプラインボスの内方張出しに利用した両半体間の前記空間を、バランスウェイトの設置空間として利用できるから、バランスウェイトの設置に因り差動装置が大型化するのを回避可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0013】
先ず、
図1〜
図5に示す本発明の一実施形態を説明する。
図1において、自動車のミッションケース1内には、伝動装置としての差動装置Dが変速装置と共に収容される。
【0014】
この差動装置Dは、前記変速装置の出力側に連動回転するリングギヤCgの回転を、差動装置Dの中心軸線即ち第1軸線X1上に相対回転可能に並ぶ左右の駆動車軸S1,S2(即ち第1,第2ドライブ軸)に対して、両駆動車軸S1,S2相互の差動回転を許容しつつ分配する。尚、各々の駆動車軸S1,S2とミッションケース1との間は、シール部材4,4′でシールされる。
【0015】
差動装置Dは、ミッションケース1に第1軸線X1回りに回転可能に支持される伝動ケースとしてのデフケースCと、そのデフケースC内に収容される後述の差動機構3とで構成される。デフケースCは、短円筒状のギヤ本体の外周に斜歯Cgaを設けたヘリカルギヤよりなるリングギヤCgと、そのリングギヤCgの軸方向両端部に外周端部がそれぞれ接合される左右一対の第1,第2側壁板部Ca,Cbとを備える。
【0016】
また第1,第2側壁板部Ca,Cbは、各々の内周端部において第1軸線X1上に並ぶ円筒状の第1,第2ハブHB1,HB2をそれぞれ一体に有しており、それらハブHB1,HB2の外周部は、ミッションケース1に軸受2,2′を介して回転自在に支持される。また第1,第2ハブHB1,HB2の内周部には第1,第2駆動車軸S1,S2が第1軸線X1回りにそれぞれ回転自在に嵌合、支持される。その嵌合面の少なくとも一方(図示例ではハブHB1,HB2の内周面)には、自動車の少なくとも前進時(即ち駆動車軸S1,S2の正転時)にハブHB1,HB2と各駆動車軸S1,S2との相対回転に伴いミッションケース1内の飛散潤滑油をデフケースC内に引き込むための第1,第2螺旋溝18,19が形成される。その各螺旋溝18,19の外端はミッションケース1内に、またその内端はデフケースC内にそれぞれ開口する。
【0017】
次にデフケースC内の差動機構3の構造を説明する。差動機構3は、第1側壁板部Caに一体的に設けられて第1軸線X1回りに回転可能な第1伝動部材5と、第1駆動車軸S1にスプライン嵌合16されて第1軸線X1回りに回転可能な円筒状の第1スプラインボスSB1を含む主軸部6j、および第1軸線X1から所定の偏心量eだけ偏心した第2軸線X2を中心軸線とする偏心軸部6eが結合一体化された偏心回転部材6と、第1伝動部材5に一側部が対向配置され且つ偏心軸部6eにボール軸受よりなる軸受7を介して回転自在に支持される円環状の第2伝動部材8と、第2伝動部材8の他側部に対向配置されると共に第2駆動車軸S2にスプライン嵌合17されて第1軸線X1回りに回転可能な円環状の第3伝動部材9と、第1及び第2伝動部材5,8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2及び第3伝動部材8,9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを備える。
【0018】
而して、第1軸線X1回りに回転する偏心回転部材6の偏心軸部6eに第2伝動部材8が第2軸線X2回りに回転自在に嵌合支持されることで、第2伝動部材8は、偏心回転部材6の第1軸線X1回りの回転に伴い、それの偏心軸部6eに対し第2軸線X2回りに自転しつつ、主軸部6jに対し第1軸線X1回りに公転可能である。
【0019】
また第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6eに軸受7を介して回転自在に支持される円環状の第1半体8aと、その第1半体8aに間隔をおいて対向する円環状の第2半体8bと、その両半体8a,8b間を一体的に連結する基本的に円筒状の連結部材8cとを備える。そして、第1半体8aと第1伝動部材5との間に前記第1変速機構T1が、また第2半体8bと第3伝動部材9との間に前記第2変速機構T2がそれぞれ設けられる。第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cの相互間には第2伝動部材8の中空部SPが画成される。
【0020】
連結部材8cには、デフケースCの内部空間ICと第2伝動部材8の中空部SPとの間を連通させる複数の第1油流通孔11が周方向に等間隔おきに設けられ、デフケースCの内部空間ICに飛散する潤滑油を第1油流通孔11を通して上記中空部SPに導入可能となっている。また第2半体8bには、上記中空部SPを第2変速機構T2の内周側に連通させる第2油流通孔12が、第2軸線X2を中心とする円形状に形成される。
【0021】
また、第3伝動部材9は、第2駆動車軸S2にスプライン嵌合17されて第1軸線X1回りに回転可能な円筒状の第2スプラインボスSB2を含む主軸部9jと、その主軸部9jの内端部に同軸状に連設される円板部9cとが結合一体化されて構成される。
【0022】
また、連結部材8cの一端部及び他端部の内周面には、第1半体8a及び第2半体8bをそれぞれインロー嵌合させる環状段部8c1,8c2が形成されており、そのインロー嵌合部が溶接、カシメ等の適当な固着手段により固着される。
【0023】
デフケースCの第1側壁板部Caの内側面と偏心回転部材6との相対向面間には、その相互間の相対回転を許容する第1スラストワッシャTH1が介装される。またデフケースCの第2側壁板部Cbの内側面と第3伝動部材9との相対向面間には、その相互間の相対回転を許容する第2スラストワッシャTH2が介装される。
【0024】
更に差動機構3は、第1軸線X1を挟んで偏心回転部材6の偏心軸部6e及び第2伝動部材8の総合重心Gとは逆位相であり且つその総合重心Gの回転半径よりも大なる回転半径を有していて偏心回転部材6の主軸部6jに取付けられるバランスウェイトWを備えている。このバランスウェイトWは、環状の取付基部Wmと、その取付基部Wmの周方向特定領域に固設される重錘部Wwとから構成される。
【0025】
第2伝動部材8(連結部材8c)の中空部SPは、バランスウェイトWを収容する収容空間として利用される。即ち、偏心回転部材6の主軸部6j、特に第1スプラインボスSB1は、それの内端部6jaが前記中空部SPに延出しており、その延出端部(前記内端部6ja)の外周にバランスウェイトWが装着される。そして、前記取付基部Wmは、主軸部6j(第1スプラインボスSB1)の内端部6ja外周に嵌合されており、その嵌合面間には、その間の軸方向摺動は許容するが相対回転を規制する回り止め用の平坦な係合面14が設けられる。バランスウェイトWの主軸部6jへの固定は、前記取付基部Wmの主軸部6jからの離脱を阻止する抜け止め部材としてのサークリップ等の止輪10を上記内端部6jaに着脱可能に装着することで行われる。その装着のために、上記内端部6jaの外周には、止輪10が弾力的に係止可能な係止溝が凹設される。
【0026】
図1〜
図3に示すように、第1伝動部材5の、第2伝動部材8の一側部(第1半体8a)に対向する内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第1伝動溝21が形成され、この第1伝動溝21は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第2伝動部材8の、第1伝動部材5に対向する一側部(第1半体8a)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第2伝動溝22が形成される。この第2伝動溝22は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、上記第1伝動溝21の波数よりも少ない波数を有して第1伝動溝21と複数箇所で交差する。これら第1伝動溝21及び第2伝動溝22の交差部(即ち重なり部)には、第1転動体としての複数の第1転動ボール23が介装されており、各々の第1転動ボール23は、それら第1及び第2伝動溝21,22の内側面を転動自在である。
【0027】
第1伝動部材5及び第2伝動部材8(第1半体8a)の相対向面間には、円環状の扁平な第1保持部材H1が介装される。この第1保持部材H1は、複数の第1転動ボール23の、第1、第2伝動溝21,22相互の交差部での両伝動溝21,22への係合状態を維持し得るように、複数の第1転動ボール23をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の第1保持孔31を周方向で等間隔置きに有している。
【0028】
また、
図1,2,4に示すように、第2伝動部材8の他側部(第2半体8b)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第3伝動溝24が形成され、この第3伝動溝24は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第3伝動部材9の、第2伝動部材8との対向面すなわち円板部9cの内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第4伝動溝25が形成される。この第4伝動溝25は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、上記第3伝動溝24の波数よりも少ない波数を有して第3伝動溝24と複数箇所で交差する。これら第3伝動溝24及び第4伝動溝25の交差部(重なり部)には、第2転動体としての複数の第2転動ボール26が介装されており、各々の第2転動ボール26は、それら第3及び第4伝動溝24,25の内側面を転動自在である。また本実施形態では、第1及び第2伝動溝21,22のトロコイド係数と、第3及び第4伝動溝24,25のトロコイド係数とは互いに異なる値に設定される。
【0029】
第3伝動部材9及び第2伝動部材8(第2半体8b)の相対向面間には、円環状の扁平な第2保持部材H2が介装される。この第2保持部材H2は、複数の第2転動ボール26の、第3、第4伝動溝24,25相互の交差部での両伝動溝24,25への係合状態を維持し得るように、複数の第2転動ボール26をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の第2保持孔32を周方向で等間隔置きに有している。
【0030】
以上説明した本実施形態において、第1伝動溝21の波数をZ1、第2伝動溝22の波数をZ2、第3伝動溝24の波数をZ3、第4伝動溝25の波数をZ4としたとき、下記式が成立するように、第1〜第4伝動溝21,22,24,25は形成される。
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
望ましくは、図示例のように、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とするとよい。
【0031】
尚、図示例では、8波の第1伝動溝21と6波の第2伝動溝22とが7箇所で交差し、この7箇所の交差部(重なり部)に7個の第1転動ボール23が介装され、また6波の第3伝動溝24と4波の第4伝動溝25とが5箇所で交差し、この5箇所の交差部(重なり部)に5個の第2転動ボール26が介装される。
【0032】
而して、第1伝動溝21、第2伝動溝22及び第1転動ボール23は互いに協働して、第1伝動部材5及び第2伝動部材8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1を構成し、また第3伝動溝24、第4伝動溝25及び第2転動ボール26は互いに協働して、第2伝動部材8及び第3伝動部材9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2を構成する。
【0033】
次に、前記実施形態の作用について説明する。
【0034】
いま、例えば右方の第1駆動車軸S1を固定することで偏心回転部材6(従って偏心軸部6e)を固定した状態において、エンジンからの動力でリングギヤCgが駆動され、デフケースC、従って第1伝動部材5を第1軸線X1回りに回転させると、第1伝動部材5の8波の第1伝動溝21が第2伝動部材8の6波の第2伝動溝22を第1転動ボール23を介して駆動するので、第1伝動部材5が8/6の増速比を以て第2伝動部材8を駆動することになる。そして、この第2伝動部材8の回転によれば、第2伝動部材8の6波の第3伝動溝24が第3伝動部材9の円板部9cの4波の第4伝動溝25を第2転動ボール26を介して駆動するので、第2伝動部材8が6/4の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0035】
結局、第1伝動部材5は、
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=(8/6)×(6/4)=2
の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0036】
一方、左方の第2駆動車軸S2を固定することで第3伝動部材9を固定した状態において、デフケース(従って第1伝動部材5)を回転させると、第1伝動部材5の回転駆動力と、第2伝動部材8の、不動の第3伝動部材9に対する駆動反力とにより、第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6e(第2軸線X2)に対し自転しながら第1軸線X1回りに公転して、偏心軸部6eを第1軸線X1回りに駆動する。その結果、第1伝動部材5は、2倍の増速比を以て偏心回転部材6を駆動することになる。
【0037】
而して、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の負荷が相互にバランスしたり、相互に変化したりすると、第2伝動部材8の自転量及び公転量が無段階に変化し、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の回転数の平均値が第1伝動部材5の回転数と等しくなる。こうして、第1伝動部材5の回転は、偏心回転部材6及び第3伝動部材9に分配され、したがってリングギヤCgからデフケースCに伝達された回転力を左右の駆動車軸S1,S2に分配することができる。
【0038】
その際、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とすることにより、差動機能を確保しつゝ構造の簡素化を図ることができる。
【0039】
ところで、この差動装置Dにおいて、第1伝動部材5の回転トルクは、第1伝動溝21、複数の第1転動ボール23及び第2伝動溝22を介して第2伝動部材8に、また第2伝動部材8の回転トルクは、第3伝動溝24、複数の第2転動ボール26及び第4伝動溝25を介して第3伝動部材9にそれぞれ伝達されるので、第1伝動部材5と第2伝動部材8、第2伝動部材8と第3伝動部材9の各間では、トルク伝達が第1及び第2転動ボール23,26が存在する複数箇所に分散して行われることになり、第1〜第3伝動部材5,8,9及び第1、第2転動ボール23,26等の各伝動要素の強度増及び軽量化を図ることができる。
【0040】
差動装置Dの上記したトルク伝達過程においては、ミッションケース1底部の貯溜潤滑油がデフケースC等に掻き回されてミッションケース1内に広範囲に飛散する。そして、その飛散潤滑油の一部は、デフケースCのハブHB1,HB2と駆動車軸S1,S2との相対回転に伴う螺旋溝18,19の引き込み作用により、デフケースC内に積極的に供給され、そこから更にスプライン嵌合部16,17を通して差動機構3の内部空間、即ち第2伝動部材8の中空部SPに導入される。その導入潤滑油は、中空部SP内において、遠心力で径方向外方に流動して第2変速機構T2の内周側や偏心軸部6e上の軸受7に向かって流動し、それらを潤滑する。
【0041】
特に本実施形態によれば、第2伝動部材8が、連結部材8cとこれを挟む第1,第2半体8a,8bとで分割構成されるため、第2伝動部材8に対する第1,第2変速機構T1,T2の加工を各半体8a,8bごとに個別に行うことができ、その加工が頗る容易であって生産性向上が図られる。また偏心回転部材6の主軸部6jの、第1駆動車軸S1をスプライン嵌合16させる第1スプラインボスSB1は、それの内端部6jaが第2伝動部材8の中空部SP(即ち第1,第2半体8a,8bに挟まれた内部空間)に張出すように配設されるので、第1スプラインボスSB1を第2伝動部材8の外側で軸方向に長く延ばさなくても、主軸部6jの第1駆動車軸S1との嵌合深さを十分に確保可能となり、差動装置Dの軸方向小型化を図る上で有利となる。
【0042】
その上、上記した中空部SPには、偏心軸部6e及び第2伝動部材8の総合重心Gとは逆位相の重心を有して第1スプラインボスSB1に連結されるバランスウェイトWが配置されるので、偏心軸部6e及び第2伝動部材8の偏心回転による振動発生を効果的に抑えることが可能となる。しかも前述のように主軸部6j(第1スプラインボスSB1)の内方張出しに利用した両半体8a,8b間の空間、即ち上記中空部SPを、バランスウェイトWの設置空間として利用できるから、バランスウェイトWの設置に因り差動装置Dが大型化するのを回避可能となる。
【0043】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0044】
例えば、前記実施形態では、差動装置Dを自動車のミッションケース1内に収容しているが、差動装置Dは自動車用の差動装置に限定されるものではなく、種々の機械装置用の差動装置として実施可能である。
【0045】
また、前記実施形態では、差動装置Dを、左・右輪伝動系に適用して、左右の駆動車軸S1,S2に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するものを示したが、本発明では、差動装置を、前・後輪駆動車両における前・後輪伝動系に適用して、前後の駆動車輪に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するようにしてもよい。
【0046】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2として何れも転動ボール式の変速機構を用いたものを示したが、前記実施形態の構造に限定されない。即ち、偏心回転部材と、それの回転に連動して第2軸線回りの自転及び第1軸線回りの公転が可能な第2伝動部材とを少なくとも含む種々の変速機構、例えば内接式遊星歯車機構や、種々の構造のサイクロイド減速機(増速機)或いはトロコイド減速機(増速機)を第1,第2変速機構T1,T2の一方または両方に適用するようにしてもよい。
【0047】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の各伝動溝21,22;24,25をトロコイド曲線に沿った波形環状の波溝としているが、これら伝動溝は、実施形態に限定されるものでなく、例えばサイクロイド曲線に沿った波形環状の波溝としてもよい。
【0048】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の第1及び第2伝動溝21,22間、並びに第3及び第4伝動溝24,25間にボール状の第1及び第2転動体23,26を介装したものを示したが、その転動体をローラ状又はピン状としてもよく、この場合に、第1及び第2伝動溝21,22、並びに第3及び第4伝動溝24,25は、ローラ状又はピン状の転動体が転動し得るような内側面形状に形成される。
【0049】
また前記実施形態では、第1,第2保持部材H1,H2を、内・外周面が各々真円の円環状リングより構成したものを示したが、本発明の第1,第2保持部材の形状は、前記実施形態に限定されず、少なくとも複数の第1,第2転動ボール23,26を各々一定間隔で保持し得る環状体であればよく、例えば楕円状の環状体、或いは波形に湾曲した環状体であってもよい。
【0050】
また、第1,第2保持部材H1,H2無しでも第1,第2転動ボール23,26が円滑に転動可能である場合には、第1,第2保持部材H1,H2を省略してもよい。