特開2017-11088(P2017-11088A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-11088(P2017-11088A)
(43)【公開日】2017年1月12日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20161216BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20161216BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20161216BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-124675(P2015-124675)
(22)【出願日】2015年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 慎也
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ10
5F102GL04
5F102GM04
5F102GM08
5F102GQ01
5F102GR04
5F102GS01
5F102GV08
(57)【要約】
【課題】通電時間の経過に応じたドレイン電流の減少を抑制できる半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置は、GaNからなるチャネル層3と、チャネル層3上に設けられ、AlGaN、InAlNおよびInAlGaNの何れかからなる電子供給層4と、電子供給層4上に設けられ、n型GaNからなるキャップ層5と、キャップ層5上に設けられ、開口部6cを有する絶縁膜6と、開口部6c内のキャップ層5に接して設けられた、ゲート電極9と、を備える。開口部6c内におけるキャップ層5の厚さは、開口部6c外の領域のキャップ層5よりも小さく、かつ、開口部6c外の領域におけるキャップ層5の厚さは5nm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaNからなるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、AlGaN、InAlNおよびInAlGaNの何れかからなる電子供給層と、
前記電子供給層上に設けられ、n型GaNからなるキャップ層と、
前記キャップ層上に設けられ、開口部を有する絶縁膜と、
前記開口部内の前記キャップ層に接して設けられた、ゲート電極と、を有し、
前記開口部内における前記キャップ層の厚さは、前記開口部外の領域の前記キャップ層の厚さよりも小さく、かつ、前記開口部外の領域における前記キャップ層の厚さは5nm以下である、半導体装置。
【請求項2】
前記開口部外の領域における前記キャップ層の厚さは、3nm以下である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記開口部内における前記キャップ層の厚さは、0.5nm〜2.0nmである、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記開口部内における前記キャップ層の厚さと、前記開口部外の領域における前記キャップ層の厚さとの差は、1nm〜3nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記開口部内における前記キャップ層は、前記絶縁膜の開口部内に露出した前記キャップ層の表層部をエッチングして形成された残存部を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力及び高耐圧を有する窒化ガリウム(GaN)系材料を用いた半導体装置(パワー半導体デバイス)として、高電子移動度トランジスタ(HEMT)が知られている。例えば下記特許文献1に記載されたHEMTは、絶縁性の基板上に順番に形成された、緩衝層、下側障壁層、チャネル層、上側障壁層、及びキャップ層を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−86102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したHEMTの閾値電圧を制御するために、キャップ層の厚さを小さくすることがある。この場合、HEMTに対する通電時間の経過に応じて、該HEMTの電気的特性が顕著に変動する。具体的には、HEMTに対する通電時間の経過に応じて該HEMTの閾値電圧がプラス側にシフトすることにより、所定のゲート電圧に固定した時(ゲート電圧固定時)のHEMT内を流れるドレイン電流が顕著に減少する問題がある。
【0005】
本発明は、通電時間の経過に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の減少を抑制できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る半導体装置は、GaNからなるチャネル層と、チャネル層上に設けられ、AlGaN、InAlNおよびInAlGaNの何れかからなる電子供給層と、電子供給層上に設けられ、n型GaNからなるキャップ層と、キャップ層上に設けられ、開口部を有する絶縁膜と、開口部内のキャップ層に接して設けられたゲート電極と、を有し、開口部内におけるキャップ層の厚さは、開口部外の領域のキャップ層の厚さよりも小さく、かつ、開口部外の領域におけるキャップ層の厚さは5nm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、通電時間の経過に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の減少を抑制できる半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
図2図2の(a)〜(c)は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
図3図3の(a)〜(c)は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
図4図4の(a)、(b)は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
図5図5は、比較例に係るトランジスタの通電時間の経過に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の変化を示すグラフである。
図6図6は、本実施形態に係るトランジスタ1の通電時間の経過に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の減少量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。本願発明の一実施形態は、GaNからなるチャネル層と、チャネル層上に設けられ、AlGaN、InAlNおよびInAlGaNの何れかからなる電子供給層と、電子供給層上に設けられ、n型GaNからなるキャップ層と、キャップ層上に設けられ、開口部を有する絶縁膜と、開口部内のキャップ層に接して設けられたゲート電極と、を有し、開口部内におけるキャップ層の厚さは、開口部外の領域のキャップ層の厚さよりも小さく、かつ、開口部外の領域におけるキャップ層の厚さは5nm以下である半導体装置である。
【0010】
チャネル層、キャップ層及びゲート電極を有する半導体装置において、キャップ層の厚さを小さくする場合、特にキャップ層の厚さを5nm以下にする場合、ゲート電圧固定時におけるチャネル層内を流れるドレイン電流は、通電時間の経過に応じて顕著に減少することを本発明者らは発見した。本発明者らはこの発見に対してさらに検討を行うことにより、開口部内におけるキャップ層の厚さを開口部外の領域のキャップ層の厚さよりも小さくし、且つ、ゲート電極を開口部内におけるキャップ層に接して設けることは、上記ドレイン電流の減少を抑制するために極めて有効であることを見出した。したがって、上記半導体装置によれば、通電時間の経過に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の減少を抑制できる。
【0011】
また、開口部外の領域におけるキャップ層の厚さは、3nm以下であってもよい。開口部外の領域におけるキャップ層の厚さを3nm以下にした場合、ドレイン電流の減少は通電時間の経過に応じて一層顕著となる。この場合であっても、開口部内におけるキャップ層の厚さを開口部外の領域のキャップ層の厚さよりも小さくすることにより、上記ドレイン電流の減少を顕著に抑制できる。
【0012】
また、開口部内におけるキャップ層の厚さは、0.5nm〜2.0nmであってもよい。
【0013】
また、開口部内におけるキャップ層の厚さと、開口部外の領域におけるキャップ層の厚さとの差は、1nm〜3nmであってもよい。
【0014】
また、開口部内におけるキャップ層は、絶縁膜の開口部内に露出したキャップ層の表層部をエッチングして形成された残存部を含んでもよい。
【0015】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。図1に示されるように、半導体装置であるトランジスタ1は、基板2、チャネル層3、電子供給層4、キャップ層5、絶縁膜6、ソース電極7、ドレイン電極8、及びゲート電極9を備えている。トランジスタ1はHEMTであり、チャネル層3と電子供給層4との界面に2次元電子ガス(2DEG:2 Dimensional Electron Gas)が生じることにより、チャネル層3内にチャネル領域が形成される。
【0017】
基板2は、結晶成長用の基板である。基板2として、例えばSi基板、SiC基板、サファイア基板、又はダイヤモンド基板が挙げられる。本実施形態では、基板2はSiC基板である。
【0018】
チャネル層3は、基板2上にエピタキシャル成長した層であり、上述した2次元電子ガスが生じ、ドレイン電流が流れるチャネル領域を有する層である。チャネル層3は、窒化物半導体を有しており、例えばGaNからなる。チャネル層3がGaNからなる場合、チャネル層3には不純物が含まれてもよい。チャネル層3の厚さは、例えば200nm以上2000nm以下である。
【0019】
電子供給層4は、チャネル層3上にエピタキシャル成長した層である。電子供給層4は、チャネル層3よりも電子親和力が大きい窒化物半導体を有しており、例えばAlGaN、InAlNおよびInAlGaNの何れかからなる。電子供給層4がAlGaN、InAlNおよびInAlGaNの何れかからなる場合、電子供給層4には不純物が含まれてもよい。本実施形態では、電子供給層4は、n型のAlGaN層である。電子供給層4の厚さは、例えば5nm以上30nm以下である。
【0020】
キャップ層5は、電子供給層4上にエピタキシャル成長した層である。キャップ層5は、窒化物半導体を有しており、例えばGaN層である。本実施形態では、キャップ層5は、n型GaN(つまり、n型のGaN層)からなる。キャップ層5の厚さの下限値は、例えば1nmである。キャップ層5の厚さの上限値は、例えば5nmである。キャップ層5の厚さは、3nm以下でもよい。
【0021】
絶縁膜6は、キャップ層5上に設けられており、例えば100nm程度の厚さを有する窒化シリコン膜である。絶縁膜6には開口部6a〜6cが設けられている。基板2の厚さ方向(以下、単に厚さ方向とする)において、開口部6a,6bと重なるキャップ層5は除去されており、電子供給層4が露出している。厚さ方向において開口部6cと重なるキャップ層5の表層部は除去されており、キャップ層5の一部である残存部11が該開口部6cによって露出している。この残存部11の厚さは、例えば0.5nm〜2.0nmであり、好ましくは0.5〜1.5nmである。開口部6c内のキャップ層5に含まれる残存部11の厚さと、キャップ層5の開口部6c外の領域の厚さとの差は、1nm〜3nmであってよい。
【0022】
ソース電極7及びドレイン電極8は、少なくとも電子供給層4に接するように設けられている。具体的には、ソース電極7は開口部6aを介して電子供給層4に接するように設けられており、ドレイン電極8は開口部6bを介して電子供給層4に接するように設けられている。ソース電極7及びドレイン電極8は、オーミック電極であり、例えばチタン(Ti)層とアルミニウム(Al)層との積層構造を有する。例えばAl層は、基板2に対するチャネル層3の厚さ方向において、Ti層によって挟まれていてもよい。
【0023】
ゲート電極9は、絶縁膜6上に設けられると共に、キャップ層5上に接するように設けられている。具体的には、ゲート電極9は、開口部6c内のキャップ層5の残存部11に接して設けられている。ゲート電極9は、キャップ層5の残存部11における表面11aの一部に接してもよいし、該表面11aの全体に接してもよい。ゲート電極9は、その厚さ方向と垂直であってソース電極7からドレイン電極8へ向かう方向において、ソース電極7及びドレイン電極8の間に設けられている。ゲート電極9はキャップ層5とショットキ接触する材料であり、例えばニッケル(Ni)層とパラジウム(Pd)層と金(Au)層との積層構造を有する。なお、キャップ層5とショットキ接触できる材料としては、Niの他にPt(白金)が採用され得る。
【0024】
次に、図2図4を用いながら本実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明する。図2の(a)〜(c)、図3の(a)〜(c)、及び図4の(a)、(b)は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。
【0025】
まず、図2の(a)に示されるように、第1ステップとして、チャネル層3、電子供給層4、及びキャップ層5を基板2上に形成する。例えば、有機金属気相成長法(以下、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法とする)によって、チャネル層3として機能するGaN層、電子供給層4として機能するAlGaN層、及びキャップ層5として機能する5nm以下の厚さを有するn型のGaN層を、基板2として機能するSiC基板上に順番に成長する。
【0026】
次に、図2の(b)に示されるように、第2ステップとして、絶縁膜6をキャップ層5上に形成する。例えば、シランガス及びアンモニアガスを用いたプラズマ化学気相成長法(プラズマCVD法)により、絶縁膜6として機能する窒化シリコン膜を形成する。
【0027】
次に、図2の(c)に示されるように、第3ステップとして、絶縁膜6の一部を選択的にエッチングし、開口部6a,6bを形成する。例えば、レジストマスクを用いたドライエッチングにより、絶縁膜6に開口部6a,6bを形成する。これにより、開口部6a,6bを介してキャップ層5の表面5aの一部を露出させる。
【0028】
次に、図3の(a)に示されるように、第4ステップとして、厚さ方向において開口部6a,6bに重なるキャップ層5を除去すると共に、除去されたキャップ層5に重なる電子供給層4の一部を除去する。これにより、リセス31,32を形成する。そして、リセス31に接するようにソース電極7をパターニング形成すると共に、リセス32に接するようにドレイン電極8をパターニング形成する。
【0029】
次に、図3の(b)に示されるように、第5ステップとして、絶縁膜6上にパターニングされたレジストマスク21を形成する。例えば、フォトリソグラフィーによって、絶縁膜6の一部を露出する開口部21aを有するレジストマスク21を形成する。この開口部21aは、電子ビーム露光により形成されてもよい。
【0030】
次に、図3の(c)に示されるように、第6ステップとして、絶縁膜6を選択的にエッチングし、該絶縁膜6に開口部6cを形成する。例えば、フッ素系ガスとしてSF(六フッ化硫黄)を用いたフッ素系プラズマ処理によって、絶縁膜6を選択的にドライエッチングする。上記フッ素系プラズマ処理は、誘導結合型の反応性イオンエッチング(ICP-RIE: Inductive Coupled Plasma-Reactive Ion Etching)である。フッ素系プラズマ処理の条件として、例えば、気圧が1Pa、パワーが100W〜500W、バイアスが10W〜30Wにそれぞれ設定される。このフッ素系プラズマ処理で形成された開口部6cにより、キャップ層5の表面5aの一部が露出する。
【0031】
次に、図4の(a)に示されるように、第7ステップとして、開口部6cによって露出したキャップ層5の表面5aに対して、塩素系プラズマを曝す(塩素系プラズマ処理)。塩素系プラズマは、塩素系ガスを用いることによって発生するプラズマであり、塩素系ガスとして例えばCl及びSiClの少なくとも一方が含まれたガスが用いられる。この塩素系プラズマ処理は、誘導結合型の反応性イオンエッチング(ICP-RIE: Inductive Coupled Plasma-Reactive Ion Etching)であり、絶縁膜6の開口部6c内に露出したキャップ層5の表面5aに重なる表層部22(図3の(c)参照)を除去し、残存部11を形成する。この残存部11の厚さは、塩素系プラズマ処理のエッチングレートと時間とを調整することによって決定される。例えば、なお、塩素系プラズマ処理の条件として、例えば、SiClガスとClガスとの混合ガスをエッチングガスに用い、SiClガスのガス流量を2sccm〜100sccm、Clガスのガス流量を5sccm〜200sccmとし、圧力を0.2Pa〜4Pa、RFパワーを20W〜300W、バイアスを3W〜100Wとする。
【0032】
次に、図4の(b)に示されるように、第8ステップとして、レジストマスク21を除去した後、ゲート電極9をパターニング形成する。例えば、PVD法又はスパッタリング等の蒸着法によって金属層を形成した後、リフトオフ法によるパターニングを行うことにより、ゲート電極9を形成する。以上により、トランジスタ1を形成する。この第8ステップでは、キャップ層5における塩素系プラズマが曝された表面である残存部11の表面11aの全体に接するようにゲート電極9を設ける。本実施形態では、ゲート電極9には、残存部11に接してショットキ接触する部分と、残存部11の周囲の絶縁膜6上に設けられる部分とが存在する。
【0033】
次に、本実施形態に係るトランジスタ1と、比較例に係るトランジスタとのそれぞれに対して、通電時間に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の変化を確認した結果を、図5及び図6を用いながら説明する。なお、比較例に係るトランジスタは、キャップ層5の表層部22が除去されず、残存部11が設けられていないこと以外はトランジスタ1と同様の条件にて製造されたトランジスタである。
【0034】
図5は、比較例に係るトランジスタの通電時間の経過に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の変化を示すグラフである。図6は、本実施形態に係るトランジスタ1の通電時間の経過に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の減少量を示すグラフである。図5及び図6において、縦軸は規格化ドレイン電流を示し、横軸はトランジスタに通電した時間を示す。規格化ドレイン電流とは、トランジスタに通電を開始した際のドレイン電流を100として算出される。図5及び図6において、データ41,51は、キャップ層の厚さが10nmである場合のドレイン電流の変化を示し、データ42,52は、キャップ層の厚さが5nmである場合のドレイン電流の変化を示し、データ43,53は、キャップ層の厚さが3nmである場合のドレイン電流の変化を示す。なお、図6の評価においては、残存部の厚みは、いずれも2nm程度である。また、キャップ層の厚さと、残存部の厚さの差は、1nm〜3nmである。例えば、それぞれのキャップ層の厚みが5nm、3nm、1.5nmとなり、それぞれの残存部の厚みが、2nm、2nm、0.5nmとなる場合、キャップ層の厚さと残存部の厚さとの差が、それぞれ3nm、1nm、1nmとなる。
【0035】
図5のデータ41〜43に示されるように、通電時間の経過に応じたゲート電圧固定時におけるドレイン電流の減少量は、キャップ層の厚さが10nmである場合よりも、キャップ層の厚さが5nm以下である場合の方が大きくなっている。また、キャップ層の厚さが3nmである場合、通電時間の経過に応じたドレイン電流の減少量は、キャップ層の厚さが5nmである場合よりも極めて大きくなっている。これらのデータ41〜43より、キャップ層の厚さが5nm以下である場合、ゲート電圧固定時におけるチャネル層内を流れるドレイン電流は、通電時間の経過に応じて顕著に減少することがわかる。このドレイン電流の減少は、通電時間の経過に応じてトランジスタの閾値電圧がプラス側にシフトすることにより発生するものと考えられる。
【0036】
一方、本実施形態に係るトランジスタ1では、図6のデータ51〜53に示されるように、キャップ層5の厚さが5nm以下である場合であっても、ゲート電圧固定時におけるチャネル層3内を流れるドレイン電流の減少量は、キャップ層5の厚さが10nmである場合と殆ど変化していない。
【0037】
ここで、本実施形態によって形成される残存部11について考察する。トランジスタなどの半導体装置において、ゲート電極が形成される領域の半導体層の厚みを一部除去して、いわゆるゲートリセスを形成することは知られている。一般に、ゲートリセスの目的は、ゲート電極とチャネルとの距離の調整による、しきい値制御にある。いっぽう、本実施形態では、キャップ層5の厚さが5nm以下である場合に、その厚みの一部を除去して残存部11を形成している。したがって、残存部11と、それ以外のキャップ層5の厚みの差は、5nm未満である。このように、キャップ層5に設けられる厚みの差がきわめて小さいことから、しきい値制御による効果が生じたとは認められず、いわゆるゲートリセスとは異なる効果が発揮されているものと推測される。また、図5及び図6に示されるように、キャップ層5の厚さが10nmの場合は、残存部11の形成による効果はほとんど認められない。したがって、残存部11を形成することによる、残存部11の表面11aの清浄化(クリーニング)の効果が発揮されたと見ることも困難である。すなわち、本実施形態による残存部11は、ゲートリセスや清浄化による効果とは別の効果により、通電時間の経過に応じたドレイン電流の減少が抑制されていると推察される。なお、残存部11の厚さと、残存部11以外のキャップ層5の厚さの差は、1nm〜3nmの範囲から選択できる。
【0038】
したがって、以上説明した本実施形態に係る製造方法によって製造される半導体装置によれば、5nm以下の厚さであるキャップ層5の塩素系プラズマが曝された表面11aに接するようにゲート電極9を設ける。このような製造方法によって製造される半導体装置では、通電時間の経過に応じた閾値電圧のプラス側のシフトが抑制されるので、ゲート電圧固定時におけるチャネル層3内を流れるドレイン電流の減少を抑制できる。
【0039】
また、上記第1ステップにて形成されるキャップ層5の厚さは、3nm以下であってもよい。前述のようにキャップ層5の厚さを3nm以下にした場合、ドレイン電流の減少は通電時間の経過に応じて一層顕著となる。この場合であっても、残存部11の厚さを開口部6c外の領域のキャップ層5の厚さよりも小さくすることにより、上記ドレイン電流の減少を顕著に抑制できる。
【0040】
また、開口部6c内におけるキャップ層5の厚さは、0.5nm〜2.0nmであってもよい。
【0041】
また、開口部6c内におけるキャップ層5の厚さと、開口部6c外の領域におけるキャップ層5の厚さとの差は、1nm〜3nmであってもよい。
【0042】
また、開口部6c内におけるキャップ層5は、絶縁膜6の開口部6c内に露出したキャップ層5の表層部22をエッチングして形成された残存部11を含んでもよい。
【0043】
また、ゲート電極9は、キャップ層5の残存部11の表面11aの全体に接していてもよい。この場合、ドレイン電流の減少を好適に抑制できる。
【0044】
また、上記第6ステップでは、フッ素系プラズマによって絶縁膜6を選択的にエッチングして開口部6cを形成してもよい。この場合、開口部6cの形状を好適に制御して形成できる。
【0045】
また、本実施形態に係る製造方法では、第6ステップの前にパターニングされたレジストマスク21を形成すると共に、第7ステップ後にレジストマスク21を除去してもよい。この場合、第6ステップ及び第7ステップを、同一のレジストマスク21を用いて行うことができる。これにより、上記製造方法の簡略化が可能になる。
【0046】
本発明による半導体装置の製造方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態において、基板2とチャネル層3との間にAlNを含むバッファ層を設けてもよい。バッファ層は、例えばエピタキシャル成長によって形成される。
【0047】
また、上記実施形態によれば、第6ステップ及び第7ステップを同一のレジストマスク21を用いて行っているが、レジストマスク21と異なるレジストマスクを用いて第7ステップを実施してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…トランジスタ、2…基板、3…チャネル層、4…電子供給層、5…キャップ層、5a…表面、6…絶縁膜、7…ソース電極、8…ドレイン電極、9…ゲート電極、11…残存部、11a…表面、21…レジストマスク、22…表層部、31,32…リセス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6