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  • 特開2017001119-マイクロ化学チップ及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-1119(P2017-1119A)
(43)【公開日】2017年1月5日
(54)【発明の名称】マイクロ化学チップ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B81B 1/00 20060101AFI20161209BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20161209BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20161209BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20161209BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20161209BHJP
   C09D 11/03 20140101ALI20161209BHJP
   C09D 11/101 20140101ALI20161209BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20161209BHJP
【FI】
   B81B1/00
   G01N37/00 101
   G01N35/08 A
   B81C3/00
   B01J19/00 321
   C09D11/03
   C09D11/101
   C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-115836(P2015-115836)
(22)【出願日】2015年6月8日
(71)【出願人】
【識別番号】595015890
【氏名又は名称】株式会社朝日FR研究所
(71)【出願人】
【識別番号】597096161
【氏名又は名称】株式会社朝日ラバー
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】高野 努
(72)【発明者】
【氏名】生方 優也
【テーマコード(参考)】
2G058
3C081
4G075
4J039
4J040
【Fターム(参考)】
2G058CC02
2G058CC05
2G058CC08
3C081AA18
3C081BA23
3C081BA30
3C081CA05
3C081CA31
3C081CA32
3C081DA10
3C081DA22
3C081EA27
3C081EA28
4G075AA39
4G075AA56
4G075BA10
4G075BB05
4G075BB10
4G075BD01
4G075CA02
4G075CA03
4G075DA02
4G075EB50
4G075FA01
4G075FA12
4G075FB12
4G075FB13
4J039AD04
4J039BC52
4J039BC57
4J039BD02
4J039DA05
4J039EA04
4J039FA02
4J039GA01
4J039GA02
4J039GA03
4J039GA10
4J039GA16
4J040HC25
4J040HD30
(57)【要約】
【課題】微細流路を形成するのに大掛かりな加工装置や高価な金型が不要で、速やかにかつ安価に製造でき、さらに微細流路の形状や配置の変更に簡易に対応できるマイクロ化学チップを提供する。
【解決手段】マイクロ化学チップ1は、活性エネルギー線硬化性樹脂と分子接着剤とを含んで硬化した筋状のマスキング層40が、重ねられた流路シート10,20の向合せ面の一方に分子接着剤を介した共有結合をしつつ接着によって付され、それら流路シート10,20の向合せ面の他方に非接着性となっており、流路シート10,20同士が、マスキング層40の領域外で接合していることによって、流路シート10,20の向合せ面同士の間に筋状の流路11が形成されているものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性樹脂と分子接着剤とを含んで硬化した筋状のマスキング層が、重ねられた流路シートの向合せ面の一方に前記分子接着剤を介した共有結合をしつつ接着によって付され、前記向合せ面の他方に非接着性となっており、
前記流路シート同士が、前記マスキング層の領域外で接合していることによって、前記向合せ面同士の間に筋状の流路が形成されていることを特徴とするマイクロ化学チップ。
【請求項2】
前記分子接着剤が、活性化処理により前記向合せ面の一方に生じた活性基及び前記活性エネルギー線硬化性樹脂の重合性官能基と前記共有結合を夫々形成するカップリング剤であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項3】
前記マスキング層がエンボスを有していることによって、前記非接着性となっていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項4】
前記インクが0.05〜5μmの平均粒径を有する離型性樹脂粉末を含んでいることによって、前記マスキング層がそれの表面で前記離型性樹脂粉末を露出させて前記非接着性となっていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項5】
前記流路シート同士が、活性化処理により前記向合せ面に夫々生じた活性基同士の化学結合をしつつ、又は前記分子接着剤と同種若しくは異種の分子接着剤を介した共有結合をしつつ、接着によって接合していることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項6】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂が、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、及び/又は放射線硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ化学チップ。
【請求項7】
第1流路シートの片面に、活性エネルギー線硬化性樹脂と分子接着剤とを含むインクを、形成すべき筋状の流路の通りに付して筋状のインク層を形成する工程と、
前記インク層に活性エネルギー線を照射して前記活性エネルギー線硬化性樹脂を硬化させ、筋状のマスキング層を形成しつつ前記第1流路シートと前記マスキング層とを前記分子接着剤を介して接着する工程と、
前記第1流路シートの前記片面を第2流路シートに向けつつそれら両シートを重ねて前記マスキング層の領域外で接合し、前記両シートの向合せ面同士の間に前記流路を形成する工程とを、
有することを特徴とするマイクロ化学チップの製造方法。
【請求項8】
前記第1流路シートの前記片面に、活性化処理を施して活性基を生成させてから前記インクを付すことを特徴とする請求項7に記載のマイクロ化学チップの製造方法。
【請求項9】
スクリーン印刷により前記インクを付して前記インク層にエンボスを形成し、前記マスキング層を前記第2流路シートに非接着性とすることを特徴とする請求項7に記載のマイクロ化学チップの製造方法。
【請求項10】
前記両シートを重ねる前に、前記両シートの前記向合せ面に活性化処理を施し、生成させた活性基同士で化学結合をしつつ接着させることにより、前記両シートを接合することを特徴とする請求項7に記載のマイクロ化学チップの製造方法。
【請求項11】
前記両シートを重ねる前に、前記両シートの前記向合せ面に前記分子接着剤と同種又は異種の分子接着剤を付し、前記同種又は異種の分子接着剤を介した共有結合をしつつ接着させることにより、前記両シートを接合することを特徴とする請求項7に記載のマイクロ化学チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来検体を被験物としそのバイオ成分を微量分析する装置や、薬理作用を示すバイオ成分等の有用物質を化学的に微量合成するマイクロリアクターに装着して用いられるマイクロ化学チップ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液や尿などの生体由来試料のような被験液を微量だけ用いて、酵素の特異的基質選択性を利用し、試料中の基質と作用する酵素反応量やその基質量を酵素又は基質で発色する試薬による着色度合いで定量したり、酵素含有膜を用い酵素反応量を電極で電気信号に変換して基質量を定量したりする分析や、DNA抽出・そのPCR増幅(ポリメラーゼ連鎖反応増幅)や、イオン濃度測定や、DNA又はタンパク質又はペプチドの微量合成などを行うのに、マイクロ化学チップが用いられている。
【0003】
マイクロ化学チップは、ステンレス基材、シリコン基材、石英基材又はガラス基材である無機基材や、樹脂基材又はゴム基材である有機基材に、被験液を加圧して送り込み流動させて混合、反応、分離、検出するための微細流路を有している。この微細流路は、これらの基材を所望のパターンに切削したり、微細流路を形成すべき部位を残してマスキング剤を塗布した後にエッチングを施したり、また微細流路の形状を模った金型のキャビティ内に溶融させた原材料を射出したりして形成されている。
【0004】
例えば特許文献1にシリコン基板上の二酸化シリコン膜をレジスト膜で被覆してから、パターン化したフォトマスクで被覆し、フッ酸でエッチングして、バイオセンサ収容領域と液状被検体の流路となる溝を形成するリソグラフィーの後、再びリソグラフィーによりバイオセンサ用電極・配線を形成してから、そこに生体触媒等を固定し、ガラス基板でカバーして、エポキシ系接着剤でシリコン基板を固定したバイオセンサが、開示されている。
【0005】
このようなバイオセンサやマイクロ化学チップの微細流路を形成するのに、リソグラフィーに用いる大掛かりな露光装置が必要であり、フッ酸のような高い腐食性を有し人体にとって危険な薬品を取扱わなければならない。一方、シリコン基板を切削することによって微細流路を形成する方法では、緻密な切削加工が可能な切削加工装置が必要である。また基板を樹脂製とする場合、射出成形によって微細流路を形成することができるものの、微細流路を模った高価な金型が必要である。
【0006】
さらに微細流路の形状や配置のようなパターンを変更しようとする際、その都度、露光装置や切削加工装置のプログラムを書き換えたり、新たな金型を作製したりしなければならないため、微細流路の形状等を容易に変更できなかった。これらのことは、マイクロ化学チップの製造時間を長引かせたり、製造コストを高騰させたりしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−279153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、微細流路を形成するのに大掛かりな加工装置や高価な金型が不要で、速やかにかつ安価に製造でき、さらに微細流路の形状や配置の変更に簡易に対応できるマイクロ化学チップおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた本発明のマイクロ化学チップは、活性エネルギー線硬化性樹脂と分子接着剤とを含んで硬化した筋状のマスキング層が、重ねられた流路シートの向合せ面の一方に前記分子接着剤を介した共有結合をしつつ接着によって付され、前記向合せ面の他方に非接着性となっており、前記流路シート同士が、前記マスキング層の領域外で接合していることによって、前記向合せ面同士の間に筋状の流路が形成されているものである。
【0010】
マイクロ化学チップは、前記分子接着剤が、活性化処理により前記向合せ面の一方に生じた活性基及び前記活性エネルギー線硬化性樹脂の重合性官能基と前記共有結合を夫々形成するカップリング剤であることが好ましい。
【0011】
マイクロ化学チップは、前記マスキング層がエンボスを有していることによって、前記非接着性となっていてもよい。
【0012】
マイクロ化学チップは、前記インクが0.05〜5μmの平均粒径を有する離型性樹脂粉末を含んでいることによって、前記マスキング層がそれの表面で前記離型性樹脂粉末を露出させて前記非接着性となっていることが好ましい。
【0013】
マイクロ化学チップは、前記流路シート同士が、活性化処理により前記向合せ面に夫々生じた活性基同士の化学結合をしつつ、又は前記分子接着剤と同種若しくは異種の分子接着剤を介した共有結合をしつつ、接着によって接合していてもよい。
【0014】
マイクロ化学チップは、前記活性エネルギー線硬化性樹脂が、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、及び/又は放射線硬化性樹脂であることが好ましい。
【0015】
本発明のマイクロ化学チップの製造方法は、第1流路シートの片面に、活性エネルギー線硬化性樹脂と分子接着剤とを含むインクを、形成すべき筋状の流路の通りに付して筋状のインク層を形成する工程と、前記インク層に活性エネルギー線を照射して前記活性エネルギー線硬化性樹脂を硬化させ、筋状のマスキング層を形成しつつ前記第1流路シートと前記マスキング層とを前記分子接着剤を介して接着する工程と、前記第1流路シートの前記片面を第2流路シートに向けつつそれら両シートを重ねて前記マスキング層の領域外で接合し、前記両シートの向合せ面同士の間に前記流路を形成する工程とを、有するものである。
【0016】
マイクロ化学チップの製造方法は、前記第1流路シートの前記片面に、活性化処理を施して活性基を生成させてから前記インクを付すことが好ましい。
【0017】
マイクロ化学チップの製造方法は、スクリーン印刷により前記インクを付して前記インク層にエンボスを形成し、前記マスキング層を前記第2流路シートに非接着性としてもよい。
【0018】
マイクロ化学チップの製造方法は、前記両シートを重ねる前に、前記両シートの前記向合せ面に活性化処理を施し、生成させた活性基同士で化学結合をしつつ接着させることにより、前記両シートを接合することが好ましい。
【0019】
マイクロ化学チップの製造方法は、前記両シートを重ねる前に、前記両シートの前記向合せ面に前記分子接着剤と同種又は異種の分子接着剤を付し、前記同種又は異種の分子接着剤を介した共有結合をしつつ接着させることにより、前記両シートを接合してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のマイクロ化学チップは、重ねられた流路シートの向合せ面同士の間にマスキング層が挟まれているという簡素な構成を有するものであるので、速やかにかつ安価に製造することができる。このマスキング層は、分子接着剤を介しつつ流路シートに接着されて剥がれないので、DNA解析のような緻密な解析に影響を与えない。
【0021】
本発明のマイクロ化学チップの製造方法は、流路シートにインクを付してマスキング層を形成する工程によって微細流路形成するものであるので、微細流路のパターンを変更したい場合であっても、インクを付すパターンを変更するだけで済むので、切削加工装置のプログラム変更や新たな金型を作製する必要なく、安価にかつ速やかに様々な流路パターンを有するマイクロ化学チップを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明を適用するマイクロ化学チップの模式的な分解斜視図である。
図2】本発明を適用するマイクロ化学チップの製造工程及び使用状態を示す模式的な断面図、並びに模式的な部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0024】
本発明を適用するマイクロ化学チップ1の模式的な分解斜視図を図1に示す。マイクロ化学チップ1は、第1流路シート10と、第2流路シート20と、基板30とが、この順に積層されて接合し、一体化しているものである。両流路シート10,20は、柔軟で弾性を有するシリコーンゴムで成形されている。基板30は、硬質なシクロオレフィン樹脂で成形されており、両流路シート10,20を支持している。このマイクロ化学チップ1は、DNAのような核酸を増幅するPCR増幅(ポリメラーゼ連鎖反応増幅)に用いられる所謂PCRチップである。
【0025】
第1流路シート10の上面10aは活性化処理であるコロナ放電処理が施されている。そのためマスキング層40の表面を除いて、上面10aはヒドロキシ基のような活性基を有している。第2流路シート20の下面20bも同様にコロナ放電処理が施されている。第1流路シート10と第2流路シート20との重ね合わせにより、それらの向合せ面同士で、ヒドロキシ基同士が脱水反応によるエーテル結合を形成したり、水素結合を形成したりしている。その結果、第1流路シート10と第2流路シート20とが、マスキング層40の領域外で強固にかつ直接に接合している。
【0026】
筋状のマスキング層40が、スクリーン印刷によって第1流路シート10の上面10aに付されている。マスキング層40の表面に、スクリーンの網目模様の跡が残っていることにより、マスキング層40はエンボスを有している。マスキング層40は硬化した紫外線硬化性樹脂と、分子接着剤と、離型性樹脂であるフッ素樹脂粉末とを含んでいる。フッ素樹脂粉末は、マスキング層40の表面で露出している。この分子接着剤の反応性官能基が、紫外線硬化性樹脂の重合性官能基及び第1流路シート10の上面10aの表面で露出したヒドロキシ基と、共有結合を形成している。それによりマスキング層40は、物理的な吸着や、分子間力に加えて、分子接着剤を介した共有結合によって上面10aに強固に接着している。
【0027】
マスキング層40は、硬化した紫外線硬化樹脂、及び低表面張力のフッ素樹脂を含んでいるため、それの表面は不活性であり、表面に活性基が生成していない。そのためマスキング層40は、第2流路シート20の下面20bに非接着性となっている。それにより、第1流路シート10の上面10aと第2流路シート20の下面20bとの間に、被験液送液開始部12と、それを始点末端としそこから下流側へ延びる流路11と、流路11の途中に設けられた反応部13a,13bと、流路11の終点末端とする排出部14とが形成されている。さらに、反応部13a,13bにプライマー層P,Pが夫々付されている。流路11は、被験液のような流体が加圧されて被験液送液開始部12から送り込まれることにより膨れて、あたかも管のように変形する(図2(e)参照)。
【0028】
マスキング層40はエンボスを有していることにより、それの大部分が下面20bと点接触及び/又は線接触している。しかもマスキング層40は表面で、高い離型性を有するフッ素樹脂粉末を露出させている。このようにマスキング層40がフッ素樹脂粉末を露出させかつエンボスを有していることによって、マスキング層40が下面20bに密着したり粘着したりすることが、防止されている。その結果、マスキング層40が下面20bから離れ易いので、被験液のような流体は、3kPaのような低圧であったとしてもスムーズに流路11を流れる。
【0029】
紫外線硬化性樹脂は、紫外線の照射によって硬化する樹脂であり、(メタ)アクリルモノマーを主成分とする樹脂が好適に用いられる。例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂及び多価アルコールの多官能化合物のアクリレートが挙げられ、具体的に、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、およびシリコーン(メタ)アクリレート、及びペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートを挙げることができるが、弾性に富む第1流路シート10に追従する観点から、柔軟なウレタン(メタ)アクリレート樹脂が好ましい。これらの樹脂は、紫外線の他、電子線、放射線、赤外線及び/又は遠赤外線の照射によって硬化する電子線硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂、及び/又は熱硬化性樹脂であってもよい。なお(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートをいう。
【0030】
分子接着剤は、その分子中の官能基が被着体と化学反応することによって、単分子又は多分子の分子接着剤分子による共有結合を形成し、直接的に又は間接的に被着体同士を接合するものである。分子接着剤は少なくとも2つの反応性官能基を有しており、この反応性官能基が被着体であるマスキング層40中の紫外線硬化性樹脂と第1流路シート10とに夫々化学反応して共有結合を形成する。このような両官能性の分子として、具体的には、シランカップリング剤をはじめとする各種カップリング剤が挙げられる。
【0031】
分子接着剤は、より具体的には、
トリエトキシシリルプロピルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(TES)、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノ基含有化合物;トリエトキシシリルプロピルアミノ基のようなトリアルコキシシリルアルキルアミノ基とメルカプト基又はアジド基とを有するトリアジン化合物、下記化学式(I)
【化1】
(式(I)中、Wは、スペーサ基、例えば置換基を有していてもよいアルキレン基、アミノアルキレン基であってもよく、直接結合であってもよい。Yは、OH基又は加水分解や脱離によりOH基を生成する反応性官能基、例えばトリアルコキシアルキル基である。−Zは、−N又は−NRである(但し、R,Rは同一又は異なりH又はアルキル基、−RSi(R(OR3−m[R,Rはアルキル基、RはH又はアルキル基、mは0〜2]。なお、アルキレン基、アルコキシ、アルキル基は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖状及び/又は環状の炭化水素基である。)で表わされるトリアジン化合物、例えば2,6−ジアジド−4−{3−(トリエトキシシリル)プロピルアミノ}−1,3,5−トリアジン(P−TES);
トリアルコキシシリルアルキル基を有するチオール化合物;
トリアルキルオキシシリルアルキル基を有するエポキシ化合物;
CH2=CH-Si(OCH3)2-O-[Si(OCH3)2-O-]n-Si(OCH3)2-CH=CH2 (n=1.8〜5.7)で例示されるビニルアルコキシシロキサンポリマーのようなシランカップリング剤
が挙げられる。
【0032】
シランカップリング剤として、ビニルアルコキシシロキサンポリマーのようなシランカップリング剤;アルコキシ基を有するアミノ基含有のシランカップリング剤が挙げられる。このようなシランカップリング剤として、具体的に、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-602)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-603)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE-603)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE-903)、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン(KBE-9103)、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-573)、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(KBM-575)で例示されるアミノ基含有アルコキシシリル化合物(以上、信越シリコーン株式会社製;製品名)が挙げられ、また3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6610)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6611)、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6094)、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(Z-6883)、N-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-N’-[(エテニルフェニル)メチル-1,2-エタンジアミン・塩酸塩(Z-6032)で例示されるアミノ基含有アルコキシシリル化合物(以上、東レ・ダウコーニング株式会社製;製品名)を好適に用いることができる。
【0033】
離型性樹脂粉末のフッ素樹脂として具体的に、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ化エチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体のようなフッ素系樹脂を挙げることができる。
【0034】
このような離型性樹脂粉末の平均粒径は、0.05〜5μmであることが好ましく、0.2〜2μmであることがより好ましい。また離型性樹脂粉末の含有比は、紫外線硬化性樹脂100質量部に対して、30〜200質量部であることが好ましく、60〜150質量部であることがより好ましい。平均粒径がこの下限値よりも小さい又は含有比がこの上限値よりも大きいと、マスキング層40を形成するインク40a(図2(b)参照)の粘度が高くなり過ぎたり、離型性樹脂粉末による十分な効果が得られなかったりする。一方平均粒径がこの上限値よりも大きいと、マスキング層40の厚さが厚くなり過ぎて流路11の断面積が小さくなったり、両流路シート10,20がマスキング層40に沿って接合し難くなったりする。そのため流路11が所望の幅で一定に形成されず、被験液等の圧力、流速、及び流量がばらつき、被験液等を安定してスムーズに流すことができない。
【0035】
流路11は、始点末端である被験液送液開始部12から終点末端である排出部14へ延びている。流路11は、被験液送液開始部12の先方で2つに枝分かれし、その先方で、流路11の途中に夫々設けられた反応部13a,13bを夫々経て、排出部14に夫々至っている。被験液送液開始部12及び排出部14は、第2流路シート20に開けられた貫通孔22,24を夫々経て、基板30に開けられた被験液注入口32及び排出口34に夫々至り、外界へ繋がっている。これらの注入口や排出口は、夫々被験液を注入・排出したり、被験液と反応する薬液を注入したりするものである。
【0036】
マイクロ化学チップ1の製造方法を、それの製造工程、及び使用状態を示す模式的な断面図である図2を参照しつつ説明する。まずシリコーンゴムシートから、レーザーカッターにて第1流路シート10の外形に切り出す。別なシリコーンゴムシートに貫通孔22,24を打ち抜きによって開けてから、第2流路シート20の外形に切り出す。さらに基板30となるシクロオレフィン樹脂基材に、被験液注入口32及び排出口34を開けて、基板30の外形に切り出す。
【0037】
図2(a)に示す第1流路シート10の上面10aに、コロナ放電処理を施して活性化させ、ヒドロキシ基のような活性基を生成させる。同図(b)に示すように、枠51に張られた網目スクリーン52を、第1流路シート10の上方で上面10aを覆うように配置する。網目スクリーン52は、流路11等を形成すべき筋状のパターンの通りに網目52aを露出させている。網目スクリーン52の網目52aの領域外は、乳剤のような薬剤によって塞がれている。網目スクリーン52に、紫外線硬化性樹脂と分子接着剤とフッ素樹脂粉末とを含むインク40aを盛り、インク40aを網目スクリーン52の上で往復させるように、スキージ53を第1流路シート10に押し付けながら移動する。それによりインク40aが網目52aを通過して上面10aに付される。このとき上面10aに活性基が存在しているので、上面10aはインク40aと濡れ易くなっている。そのためインク40aは、はじかれることなく上面10aに付され、流路11等を表わしたインク層40bを形成することができる。
【0038】
スキージ53が網目52aを通過することによって、網目52aがインク層40bから離反する。このときインク40aは、それの粘性によって網目52aの繊維に追従した後、そこから引き剥がされるので、インク層40bの表面に、網目52aのパターンで並んだ尖った突起状の跡が残る。
【0039】
次いで、インク層40bに紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂を硬化させるとともに、分子接着剤のカップリング剤と紫外線硬化性樹脂の重合性官能基及び上面10aの表面に露出した活性基とを共有結合させる。それにより、分子接着剤を介して上面10aに接着したマスキング層40を形成する(図2(c))。このとき、インク層40bの表面に残った網目52aの跡はそのまま残るので、マスキング層40に細かなエンボスが形成される。
【0040】
図2(c)にマスキング層40の部分拡大図を示す。マスキング層40において、上面10aからエンボスの最も高い点までの厚さTは3〜20μmであることが好ましく、エンボスの高さHは2〜15μmであることが好ましい。マスキング層40の厚さTがこの下限値よりも薄いと、スクリーン印刷によってインク層40bを形成することが困難である。一方、この上限値よりも厚いと流路11の断面積が小さくなったり、両流路シート10,20がマスキング層40に沿って接合し難くなったりする。そのため流路11が所望の幅で一定に形成されず、被験液等の圧力、流速、及び流量がばらつき、被験液等を安定してスムーズに流すことができない。また、エンボスの高さHがこの下限値よりも低いとエンボスの効果が得られず、この上限値よりも高いとエンボスが下面20bに接触して潰れ易くなってしまう。
【0041】
マスキング層の厚さT、及びエンボスの高さHは、インク40aの粘度(チキソトロピーの高低)や印刷条件によって設定される。具体的に網目スクリーン52は、ポリエステル(例えばテトロン;登録商標)、ナイロン、ポリアリレート、又はステンレス製であり、50〜635メッシュであることが好ましい。また網目スクリーン52を形成している繊維の形状は線形であることが好ましく、それの繊維径は0.02〜0.2mmであることが好ましい。厚さT及び高さHは、その他に網目52aの領域外で網目スクリーン52を塞ぐ乳剤の厚さを適宜調整することによっても、設定することができる。
【0042】
第2流路シート20の上面20a及び下面20b、並びに基板30の下面30bにコロナ放電処理を施して活性化させ、活性基を生成させる。図2(c)に示すように第1流路シート10、第2流路シート20、及び基板30を治具(不図示)に嵌めて位置合わせしながら、被験液送液開始部12と貫通孔22と被験液注入口32とが重なり合い、排出部14と貫通孔24と排出口34とが重なり合うように重ね合わせる。
【0043】
重ね合わされて積層された両流路シート10,20及び基板30を、加熱しながら加圧する。コロナ放電処理によって両流路シート10,20及び基板30の表面に生成した活性基であるヒドロキシ基同士が脱水反応し、共有結合であるエーテル基を生成するので、これらを強固に接合することができる。このとき、マスキング層40の紫外線硬化性樹脂は硬化し、最早重合性官能基を有していないので、第2流路シート20の下面20bで露出した活性基と反応しない。そのためマスキング層40は、下面20bに接着しない。このようにして同図(d)に示すように、両流路シート10,20の向合せ面同士の間に、流路11等が挟まれて形成されたマイクロ化学チップ1を得る。
【0044】
このようにマイクロ化学チップ1の製造方法は、流路11等を形成するのに、インク40aをスクリーン印刷で印刷し、両流路シート10,20を重ねて接合するという簡素なものであるので、大掛かりな加工装置も、緻密で高度な加工技術も、高価な金型も不要である。しかも流路11等のパターンを変更したい場合であっても、網目スクリーン52を交換するだけで済むので、加工装置や金型の変更を要することなく、安価にかつ速やかに様々な流路パターンを有するマイクロ化学チップ1を製造することができる。
【0045】
マイクロ化学チップ1は、PCR増幅を例として、図1及び図2を参照して説明すると、以下のようにして使用される。
【0046】
マイクロ化学チップ1をマイクロリアクター(不図示)に装着する。被験液注入口32から基質(デオキシヌクレオチド)、酵素(ポリメラーゼ)、鋳型DNAを混合した被験液が加圧されつつ注入される。2つの反応部13a,13bで、互いに異なる遺伝子座を増幅させるため、第1流路シート10と第2流路シート20との接合前に、予め反応部13a,13bに夫々異なる種類のプライマーを含んだプライマー層P,Pが付される。それにより、プライマー層P,Pは、両流路シート10,20に挟まれて収容されている。
【0047】
被験液注入口32から注入された被験液は、貫通孔22を経て被験液送液開始部12に到達する。第1流路シート10及び第2流路シート20は柔軟なシリコーンゴムで形成されているので、加圧された被験液によって圧縮・伸長し、流路11は、図2(e)に示すように管状に変形する。マスキング層40は伸縮性を有するウレタンアクリレート系の紫外線硬化性樹脂を含んでおり、かつ分子接着剤によって上面10aに強固に接着しているので、伸縮する第1流路シート10に追従して変形し、剥がれない。被験液は流路11を押し広げつつ分枝点へ向かって流れる。被験液は、分枝点で等量に分けられてさらにその先方で流路11の途中に設けられた幅広の反応部13a,13bへ到達し、そこに溜められる。被験液は、反応部13a,13b内で、予め収容されていたプライマー層P,Pと夫々混合される。
【0048】
反応部13a,13b内の混合液はマイクロリアクター上で、まず室温から94℃に昇温される。それにより、二本鎖DNAを一本鎖にする変性反応が生じる。次いで混合液が40〜60℃まで降温されることにより、プライマーと一本鎖DNAとを結合させるアニーリング反応が生じる。最後に60〜70℃に昇温されることにより、一本鎖DNAに結合したプライマーが、ポリメラーゼによって伸長する。この昇降温が繰り返されることにより、一本鎖DNAが増幅される。所期の増幅量に達したところで、増幅されたDNAを含む反応液は、排出部14へと送られ、貫通孔24を経て2つの排出口34から夫々排出される。排出された反応液は、電気泳動等の解析に供される。その後、マイクロ化学チップ1は廃棄される。
【0049】
なおRNAを増幅する場合、一本鎖RNAのRT−PCR(逆転写)を行い、cDNAを合成してから、DNAと同様のPCR増幅操作を行う。
【0050】
紫外線硬化性樹脂の硬化反応を促すのに、インク40aに重合開始剤が含まれていてもよい。重合開始剤として例えば有機過酸化物触媒やアゾ化合物を挙げることができる。有機過酸化物触媒の具体例として、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、及びパーオキシジカーボネートを挙げることができる。アゾ化合物の具体例として、アゾビスイソブチロニトリル、及びアゾビスカルボンアミドを挙げることができる。
【0051】
活性エネルギー線硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂を挙げたが、これに代えて又はこれとともに熱硬化性樹脂を用いてもよい。熱硬化性樹脂として具体的に、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、及びこれらの変性樹脂を挙げることができる。
【0052】
離型性樹脂粉末としてフッ素樹脂粉末の他、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドの重合体のようなシリコーン系樹脂の粉末であってもよい。
【0053】
マスキング層40を形成するインク40aは、活性エネルギー線硬化性樹脂、分子接着剤、及び離型性樹脂粉末の他、被験液やそれに用いられる薬剤に不活性なものを更に含んでいてもよい。例えば、フルオロプロパノール、パーフルオロアルキルシランのようなフッ素化合物含有コーティング剤;アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアミンオキシドのような界面活性剤;塩化メチレンやクロロホルム、1−ブロモプロパン、ハイドロフルオロエーテルのようなハロゲン系溶媒を挙げることができる。インク40aが、フッ素化合物含有コーティング剤や界面活性剤を含んでいると、マスキング層40と第2流路シート20の下面20bとの離型性が向上する。またインク40aがハロゲン系溶媒を含んでいると、マスキング層40が光散乱されるようになるので、目視し易くなる。またインク40aは、被験液やプライマーのような試薬に不活性な染料や顔料で着色されていてもよい。
【0054】
両流路シート10,20及び基板30同士の接合は、それらの表面に生成した活性基同士の直接的な結合の他、マスキング層40に含まれるシランカップリング剤による分子接着剤を介した間接的な共有結合であってもよい。
【0055】
分子接着剤は、シランカップリング剤の他、反応性基含有ポリシロキサンとして、下記化学式(2)
【化2】
(式(1)中、p及びqは0又は2〜200の数でrは0又は2〜100の数であってp+q+r>2である。-A,-A及び-Aは、-CH、-C、-CH=CH、-CH(CH)2、-CHCH(CH)、-C(CH)、-C又は-C12と、-OCH、-OC、-OCH=CH、-OCH(CH)、-OCHCH(CH)、-OC(CH)、-OC及び-OC12から選ばれヒドロキシ基と反応し得る反応性基との何れかである。-B及び-Bは、-N(CH)COCH又は-N(C)COCHと、-OCH、-OC、-OCH=CH、-OCH(CH)、-OCHCH(CH)、-OC(CH)、-OC、-OC12、-OCOCH、-OCOCH(C)C、-OCOC、-ON=C(CH)及び-OC(CH)=CHから選ばれヒドロキシ基と反応し得る反応性基との何れかである。p,q及びrを正数とする-{O-Si(-A)(-B)}p-と-{O-Ti(-A)(-B)}-と-{O-Al(-A)}-との繰返単位中の-A,-A,-A,-B及び-Bの少なくとも何れかが前記反応性基であり、両流路シート10,20及び基板30同士の接合の際、表面のヒドロキシ基と反応するものである)で模式的に示される化合物が挙げられる。この化合物は、繰返単位が、ブロック共重合、又はランダム共重合したものであってもよい。この場合、このようなヒドロキシ基と反応する反応性基含有ポリシロキサンの溶液に、両流路シート10,20及び基板30を浸漬することによってこれらに付すことができる。その後熱処理することにより、両流路シート10,20及び基板30の表面のヒドロキシ基に、反応性基含有ポリシロキサンが結合し、単層の分子膜を形成する結果、接合すべき他方のヒドロキシ基との反応性基が増幅される。両流路シート10,20及び基板30の一方の表面上のヒドロキシ基が、反応性基含有ポリシロキサンに化学的結合する結果、両流路シート10,20及び基板30のヒドロキシ基が反応性基含有ポリシロキサンを介して間接的に結合して、両流路シート10,20及び基板30同士が接合される。浸漬処理に代えて、反応性基含有ポリシロキサン溶液の噴霧処理、引続く乾燥処理、及び必要に応じて加熱処理するものであってもよい。
【0056】
両流路シート10,20及び基板30は、コロナ放電処理されるだけで、十分に活性基が発現するので直接接合してもよいが、前記シランカップリング剤のような分子接着剤を用いて、接合してもよい。一方、何れかが非シリコーンゴム製の樹脂である場合、前記シランカップリング剤のような分子接着剤の0.01〜1質量%のアルコール溶液例えばメタノール溶液へ浸漬され乾燥された後、接合されることが好ましい。
【0057】
両流路シート10,20及び基板30同士を接合する際、それらの接合面がコロナ放電処理されて、常圧で重ねられた後、常圧下のまま共有結合させてもよいが、減圧下又は加圧下で共有結合させてもよい。例えば、50〜10torrの減圧条件、10torr未満〜1×10−2torrの真空条件下で、10〜200kgfを加え、さらに接触界面を加熱して共有結合させることが好ましい。
【0058】
両流路シート10,20及び基板30の表面に施すコロナ放電処理としては、例えば大気圧コロナ表面改質装置(信光電気計装株式会社製、製品名;コロナマスター)を用いて、例えば、電源:AC100V、出力電圧:0〜20kV、発振周波数:0〜40kHzで0.1〜60秒、温度0〜60℃の条件で行われる。このようなコロナ放電処理は、水、アルコール類、アセトン類、エステル類等で濡れている状態で、行われてもよい。両流路シート10,20及び基板30の表面を活性化させるのに施す処理は、大気圧プラズマ処理及び/又は紫外線照射処理であってもよい。
【0059】
両流路シート10,20及び基板30は、これらの接合面同士の少なくとも一方が、コロナ放電処理されて生じた活性基同士で、共有結合し易くなるように、白金触媒、例えば1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン白金(0)触媒(Pt(dvs))2.1−2.4%キシレン溶液(Gelest社製)のような白金錯体を、白金換算で10〜1000ppmの濃度で含んでいてもよい。
【0060】
両流路シート10,20及び基板30の接合面同士の少なくとも一方が、ビニルアルコキシシリル基を有するビニルアルコキシシランユニットを有するシランカップリング剤、例えばポリビニルメトキシシロキサンを、0.5〜10質量部の濃度で含んでいてもよい。シランカップリング剤のビニル基と、シリコーンゴムポリマー内のビニル基やハイドロジェンシロキサン基とがパーオキサイドや白金触媒により共有結合するエーテル結合とは別な共有結合によって一層強固に接合できるようになる。このとき、白金触媒を含んでいると一層、共有結合し易くなるので好ましい。
【0061】
両流路シート10,20の材料は、エラストマーであることが好ましく、シリコーンゴムがより好ましく、三次元化シリコーンゴムであるとより一層好ましい。このシリコーンゴムとして具体的に、ビニルメチルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PVMQ)、フルオロメチルシリコーンゴム(FVMQ)、及びジメチルシリコーンゴム(MQ)が挙げられる。三次元化シリコーンゴムとして、具体的に、主としてパーオキサイド架橋型シリコーンゴム、付加架橋型シリコーンゴム、縮合架橋型シリコーンゴム、紫外線架橋型シリコーンゴムで例示されるシリコーンゴム、これらのシリコーンゴムとオレフィン系ゴムとの共ブレンド物を、成形金型等に入れて、架橋させることにより製造された、立体的な架橋構造を有する三次元化シリコーンゴム弾性体が挙げられる。
【0062】
シリコーンゴム以外のエラストマーとして、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、1,2−ポリブタジエン、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、及びウレタン系熱可塑性エラストマーを挙げることができる。これらのエラストマーは、単独で用いられてもよいし、複数の種類が混合されて用いられてもよい。
【0063】
基板30の樹脂は、シクロオレフィン樹脂の他、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブテレンテレフタレート樹脂、セルロース及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、二酢酸セルロース、表面ケン化酢酸ビニル樹脂、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、i−ポリプロピレン、石油樹脂、ポリスチレン、s‐ポリスチレン、クロマン・インデン樹脂、テルペン樹脂、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、ABS樹脂、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリルニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリシアノアクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン・エチレン共重合体、フッ化ビニリデン・プロピレン共重合体、1,4‐トランスポリブタジエン、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・フォルマリン樹脂、レゾルシン樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂、グリプタル樹脂、変性グリプタル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリルエステル樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンズイミダゾール、ポリアミドイミド、ケイ素樹脂、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリジメチルフェニレンオキサイド、ポリフェニレンオキサイドまたはポリジメチルフェニレンオキサイドとトリアリルイソシアヌルブレンド物、(ポリフェニレンオキサイドまたはポリジメチルフェニレンオキサイド、トリアリルイソシアヌル、パーオキサイド)ブレンド物、ポリキシレン、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PPI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液晶樹脂、アラミド繊維、炭素繊維とこれら複数材料のブレンド物で例示される高分子材料、その架橋物が挙げられる。
【0064】
インク40aの印刷方法としてスクリーン印刷のような孔版印刷の他、活版印刷、凹版印刷、及び平版印刷を挙げることができ、具体的に例えば、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷を挙げることができる。またインクジェットプリンタやレーザープリンタを用いた所謂デジタル印刷でもよい。さらに、流路パターンに切り取られたラベルの貼り付けでもよく、必要な流路11等のパターンが打抜かれたマスクでパターン領域外を覆って刷毛塗りや噴霧で第1流路シート10の上面10aに付されてもよい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
紫外線硬化樹脂(帝国インキ製造株式会社製、製品名;UV−TEC410クリアー)を100質量部、シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、製品名;XIAMETER OFS−6020 SILANE)を0.025質量部、フッ素樹脂粉末(旭硝子株式会社製、製品名;Fluon PTFE ルブリカントL173JE)を100質量部加え、三本ロールミル(株式会社永瀬スクリーン印刷研究所製、製品名;EXAKT M−80E)を用いて混合し、インク40aを得た。
【0067】
シリコーンゴムとしてメチルビニルシリコーンゴム(東レ・ダウコーニング株式会社製、製品名;SH851)の100質量部と、パーオキサイド系加硫剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(東レ・ダウコーニング株式会社製、製品名;PC−4、50%シリカ溶液)の0.5質量部とを混練し、両流路シート10,20用の組成物を得た。これを加圧加熱して、両流路シート10,20を成形した。
【0068】
第1流路シート10の上面10aに、コロナ放電表面改質装置(信光電気計装株式会社製、製品名;コロナスキャナー)を用いて、ギャップ長1mm、電圧13.5kV、70mm/秒の条件で1回コロナ放電処理を施し、活性化した。305メッシュのポリエステル製網目スクリーン52(スクリーン印刷版)を用いて、第1流路シート10の上面10aにインク40aをスクリーン印刷し、インク層40bを形成した。
【0069】
次いで、第1流路シート10の上面10aに紫外線照射装置(アイグラフィックス株式会社製、使用ランプ名;M04−L41)を用いて、300mJ/cm、波長365nmの紫外線を照射し、インク層40bを硬化させてマスキング層40を形成するとともに、これと第1流路シート10とを接着した。
【0070】
第1流路シート10の上面10aと第2流路シート20の下面20bとに、コロナ放電表面改質装置を用いて、3.5kV、70mm/秒の条件で3回コロナ放電処理を施し、活性化した。その後、上面10aと下面20bとを向合せた状態で、第1流路シート10と第2流路シート20とを位置合わせしつつ重ね合わせた。これを、80℃で10分間、70kgfで熱圧着し、第1流路シート10と第2流路シート20とを接合した。
【0071】
ポリカーボネート板(タキロン株式会社製、製品名;PC1600)を基板30の外形に切り出した。これをエタノールで洗浄した後、0.1質量%の2,6−ジアジド−4−{3−(トリエトキシシリル)プロピルアミノ}−1,3,5−トリアジン(P−TES)のエタノール溶液に浸漬し、エアーガンで風乾した。その後、基板30の下面30bに、紫外線照射装置を用いて、200mJ/cm、波長254nmの紫外線を照射した。
【0072】
両流路シート10,20の接合品の第2流路シート上面20aに、コロナ放電表面改質装置を用いて、1.5kV、70mm/秒の条件で3回コロナ放電処理を施し、活性化した。この上面20aと基板30の下面30bとを向合せた状態で、両流路シート10,20の接合品と基板30とを位置合わせして重ね合わせた。これを、80℃で10分間、70kgfで熱圧着して接合し、マイクロ化学チップ1を得た。
【0073】
得られたマイクロ化学チップ1の被験液注入口32から、100kPaに加圧された圧縮空気を送り込んだ。流路11が管状に変形し、非接着流路が形成されていることを確認した。また、被験液注入口32から、イオン交換水を150mL/時の流速で送り込み、マスキング層40が剥離しないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のマイクロ化学チップは、迅速に分析結果を知る必要がある救急医療現場での患者の生体成分の分析、犯罪現場で微量な血痕・体液・毛髪・生体組織細胞等の遺留品からDNAを抽出し、そのDNAを増やすPCR増幅し、電気泳動でDNAを特定するDNA解析、新規医薬品探索のための各種医薬候補品の物性・薬効評価、オーダーメード医療のための診断、ペプチドやDNAや機能性低分子の微量合成などに、用いられる。またこのマイクロ化学チップは、それらの分析装置やマイクロリアクターに装着して、遺伝子診察・治療を行う医療分野や、生体試料を用いた犯罪捜査分野における各種分析、海洋や湖沼等の遠隔地での水中ロボットを用いた微生物探索、医薬品開発における各種合成に用いることができる。
【0075】
本発明のマイクロ化学チップの製造方法は、上記のような分析、解析、評価、及び合成に用いられるマイクロ化学チップの製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1はマイクロ化学チップ、10は第1流路シート、10aは上面、11は流路、12は被験液送液開始部、13a,13bは反応部、14は排出部、20は第2流路シート、20aは上面、20bは下面、22,24は貫通孔、30は基板、30bは下面、32は被験液注入口、34は排出口、40はマスキング層、40aはインク、40bはインク層、51は枠、52は網目スクリーン、52aは網目、53はスキージ、P,Pはプライマー層、Hは高さ、Tは厚さである。
図1
図2