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特開2017-112080非水電解液二次電池用正極活物質と非水電解液二次電池および、その製造方法と製造システム。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-112080(P2017-112080A)
(43)【公開日】2017年6月22日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用正極活物質と非水電解液二次電池および、その製造方法と製造システム。
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/583 20100101AFI20170526BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20170526BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170526BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20170526BHJP
   C01B 32/205 20170101ALI20170526BHJP
【FI】
   H01M4/583
   H01M10/0566
   H01M10/052
   H01M4/587
   C01B31/04 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】書面
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-257786(P2015-257786)
(22)【出願日】2015年12月15日
(71)【出願人】
【識別番号】514298689
【氏名又は名称】株式会社パワージャパンプリュス
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】武谷 要
(72)【発明者】
【氏名】外園 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】城戸 政美
【テーマコード(参考)】
4G146
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB01
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AC20B
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA31
4G146BB06
4G146BC03
4G146BC04
4G146BC07
4G146BC23
4G146BC33B
4G146BC35B
4G146BC36B
4G146CB09
5H029AJ01
5H029AJ14
5H029AK06
5H029AK07
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029CJ30
5H050AA01
5H050AA19
5H050CA14
5H050CA15
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA27
5H050GA29
(57)【要約】
【課題】植物質由来の炭素材料は、化石資源から得られる炭素材料と異なり再生産性があり、地球環境の保全や改善という観点から、その利用を計ることが好ましいとされており、これらを非水電解液二次電池の電極材料に用いる試みがある。
しかしながら、植物質由来の炭素材料は非水電解液二次電池の負極活物質としての使用が可能であるものの、負極よりも高電位が必要とされる正極活物質に用いることは出来ないとされていた。
【解決手段】黒鉛成分を含有する植物炭素化物、特に木綿炭素化物であれば非水電解液二次電池用正極活物質として使用可能であることが分かった。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛成分を含有し、かつ、アニオンを挿入及び脱離可能な植物炭素化物であることを特徴とする非水電解液二次電池用正極活物質。
【請求項2】
該植物炭素化物が木綿炭素化物である、請求項1記載の非水電解液二次電池用正極活物質。
【請求項3】
黒鉛成分を含有し、かつ、アニオンを挿入及び脱離可能な植物炭素化物の、非水電解液二次電池用正極活物質としての使用。
【請求項4】
該植物炭素化物が木綿炭素化物である、請求項3記載の非水電解液二次電池用正極活物質としての使用。
【請求項5】
黒鉛成分を含有し、かつ、アニオンを挿入及び脱離可能な植物炭素化物を正極活物質として含む正極と、
金属リチウム、またはリチウムイオンを挿入及び脱離可能な炭素材料を負極活物質として含む負極と、
該正極と該負極に挟持されたセパレータと、
リチウム塩を含んだ非水電解液を備えたことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項6】
該植物炭素化物が木綿炭素化物である、請求項5記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
該負極が木綿炭素化物を負極活物質として含む、請求項5または請求項6に記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
植物質原料を第一の加熱方式を用いた第一の加熱炉を用いて不活性雰囲気下にて第一温度まで加熱する第一加熱工程と、
該第一加熱工程によって得られた炭素化物を第二の加熱方式を用いた第二の加熱炉を用いて不活性雰囲気下にて該第一温度よりも高い第二温度まで加熱して黒鉛成分を含有する炭素化物とする第二加熱工程を有することを特徴とする非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
該植物質原料が綿花、綿花から採れる綿繊維、綿繊維から紡がれた綿糸および綿糸から作られた綿布の少なくとも一種である、請求項8記載の非水電解液二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
該第一の加熱炉で該第一温度まで加熱して製造した木綿炭素化物の一部を負極活物質として使用し、それ以外の該木綿炭素化物を該第二の加熱炉で該第二温度まで加熱して製造した黒鉛成分を含有する木綿炭素化物を正極活物質として使用する、非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項11】
植物質原料を第一の加熱方式を用いた第一の加熱炉を用いて不活性雰囲気下にて第一温度まで加熱して炭素化物とする第一工場と、
該炭素化物を第二の加熱方式を用いた第二の加熱炉を用いて不活性雰囲気下にて該第一温度よりも高い第二温度まで加熱して黒鉛成分を含有する炭素化物とする第二工場を備え、該炭素化物を該第一工場から該第二工場に、車両、船舶、飛行機のいずれか1つ以上を用いて輸送することを特徴とする非水電解液二次電池用正極活物質の製造システム。
【請求項12】
非水電解液二次電池の製造装置をさらに有する、請求項11記載の非水電解液二次電池の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液二次電池用正極活物質とそれを用いた非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質として炭素材料を用いた正極、リチウム塩を含んだ電解液、負極活物質として金属リチウムを用いた負極から構成された非水電解液二次電池が知られており、このような非水電解液二次電池の負極活物質としてリチウムイオンの挿入及び脱離が可能な炭素材料を使ってサイクル特性を向上させる方法も知られている。
【0003】
このような非水電解液二次電池に用いる正極用炭素材料の例としては、グラファイト(特許文献1)、炭素繊維(特許文献2、3)やホウ素化黒鉛(特許文献4)が挙げられる。
【0004】
このような非水電解液二次電池においては、充電時に非水電解液中から正極活物質である炭素材料中にLiPF等のリチウム塩由来のアニオン(PF等)が挿入され、かつ、非水電解液中から負極活物質中にリチウムイオンが挿入される(負極活物質が炭素材料の場合)か、あるいは非水電解液中から金属リチウムが析出する(負極活物質が金属リチウムの場合)。
【0005】
放電時には正極活物質からPF等のアニオン、負極活物質からリチウムイオンが非水電解液へ脱離する
【0006】
負極活物質が炭素材料の場合における充放電反応を下記反応式1、2に示す(左辺から右辺が充電反応、右辺から左辺が放電反応)。
【0007】
【反応式1】
正極:PF +nC = Cn(PF)+ e
【反応式2】
負極:Li +nC +e = LiCn
【0008】
このような非水電解液二次電池の利点と1つとして、容量が大きく高電圧(すなわち高エネルギー)化が可能であることが挙げられ、この具体例として、特許文献1の記載を一部引用する。
【0009】
「上述した構成のセルにおいて、最高電圧5.0V〜5.4Vの範囲にて充放電を行うことにより、既知のリチウムイオン電池等の蓄電デバイスよりも大きな蓄電容積を発生させることができる。例えば、本発明に係る蓄電デバイスによれば、従来のハイブリッドキャパシタ(充放電電圧範囲0V〜3.5V程度)、EDLC(充放電電圧範囲0V〜2.7V程度)、リチウムイオンキャパシタ(充放電電圧範囲2.8V〜3.8V程度)に比べて、また従前の高容積型リチウムイオン電池(充放電電圧範囲2.8V〜3.6V程度)に比べても、容積密度、出力密度のどちらか一方、あるいは両方の点で大きいという効果を有する」。
【0010】
なお、上記の特許文献1引用部(括弧内表記)における「上述した構成のセル」とは、特許文献1の実施例に記載の「正極活物質として炭素材料を用いた正極、リチウム塩を含んだ電解液、負極活物質としてリチウムイオンの挿入及び脱離が可能な炭素材料を適用した非水電解液二次電池」のことである。
【0011】
また、このような非水電解液二次電池とは別に、リチウム複合酸化物からなる正極と、負極活物質としてリチウムイオンの挿入及び脱離が可能な炭素材料を含んだ非水電解液二次電池(リチウムイオン二次電池)において、負極用炭素材料として珈琲豆、茶葉、サトウキビ、トウモロコシ、果実、及び籾殻から選択される少なくとも一種を炭素化して用いることが開示されている(特許文献5)。
【0012】
特許文献5に示されるような植物質由来の炭素材料は、化石資源から得られる炭素材料と異なり再生産性があり、地球環境の保全や改善という観点からもその利用を計ることが好ましいとされている。さらに植物質由来の炭素材料は合成高分子に比べて重合度のばらつきが少なく、焼成物のばらつきが小さいという利点も知られている。
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許5578532
【特許文献2】特開昭62−103991
【特許文献3】特許2612320
【特許文献4】特許4392169
【特許文献5】特許4022926
【特許文献6】特許5467264
【特許文献7】特開2009−105186
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、これまで植物質由来の炭素材料は非水電解液二次電池の負極活物質として用いられており、負極よりも高電位が必要とされる正極活物質に用いることは出来ないと考えられていた(特許文献6)。
【0015】
これに対し、植物質由来の炭素材料を非水電解液二次電池の正極活物質として使用する方法として特許文献6には「植物性廃棄物と硫黄単体とを混合して混合物とする混合工程と、前記混合物を密閉容器に入れ250℃〜600℃で1時間以上加熱する加熱工程とを有し、前記植物性廃棄物は、コーヒー豆、茶葉、サトウキビ類、トウモロコシ類、果実類、穀物の藁類、糠および籾殻類から選択される少なくとも一種である非水電解液二次電池の正極活物質の製造方法」が示されている。
【0016】
すなわち「植物性廃棄物の低温焼成体と硫黄とを含む複合体」を作製することにより、初めて非水電解液二次電池の正極活物質として使用可能な炭素材料となることが示されている。
【0017】
なお、特許文献7には木綿を炭素化した電極が開示されているが、ここに開示された素子は電気二重層キャパシタ(EDLC)であり、非水電解液二次電池とは蓄電原理と特性が異なる。両者が異なる蓄電デバイスであることは、上記特許文献1の引用部に明記されていることからも明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池用正極活物質は、黒鉛成分を含有し、かつ、アニオンを挿入及び脱離可能な植物炭素化物(好ましくは木綿炭素化物)である。言い換えれば、黒鉛成分を含有し、かつ、アニオンを挿入及び脱離可能な植物炭素化物の、非水電解液二次電池用正極活物質としての使用により上述した課題を解決できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の非水電解液二次電池用正極活物質は、黒鉛成分を含有し、かつ、アニオンを挿入及び脱離可能な植物炭素化物であって、従来は使用できないと考えられていた非水電解液二次電池の正極活物質として使用可能となる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態1の非水電解液二次電池用正極活物質を用いた充放電曲線
図2】実施形態1の正極活物質のSEM写真
図3】実施形態1の黒鉛成分を含む木綿炭素化物のX線回折データ
図4】1400℃加熱により得られた木綿炭素化物のX線回折データ
図5】実施形態2の非水電解液二次電池用負極活物質を用いた充放電曲線
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者は鋭意検討の結果、黒鉛成分を含有する植物炭素化物、特に木綿炭素化物であれば非水電解液二次電池用正極活物質として使用可能であることを見出した。
【0022】
具体的には綿花、綿花から採れる綿繊維、綿繊維から紡がれた綿糸および綿糸から作られた綿布の少なくとも一種を焼成し、黒鉛成分を含有する炭素化物とすることが好ましい。
【0023】
黒鉛成分を含有する炭素化物とするためには、木綿焼成の最高温度を2000℃より高くすればよい(好ましくは2500℃以上3200℃以下、特に好ましくは2800℃以上3000℃以下)。
【0024】
すなわち黒鉛成分を含有する木綿炭素化物は、アニオンを挿入及び脱離可能であり、さらに非水電解液二次電池用正極活物質として使用可能であることが分かった。
【0025】
この場合、負極としては金属リチウムを用いるか、またはリチウムイオンを挿入及び脱離可能な炭素材料を負極活物質として含む負極を用いることが出来るが、特に負極においても木綿炭素化物を負極活物質として含むようにすることは、再生産性、地球環境の保全や改善という観点から見て、さらに好ましい。
【0026】
<炭素化物の原料について>
本発明における「黒鉛成分を含有し、かつ、アニオンを挿入及び脱離可能な植物炭素化物」の原料(植物質原料)としては、木材(おが屑や紙等の加工品を含む)、竹、稲藁、および木綿や麻などの繊維を挙げることができ、これらをそれぞれ単独で、あるいは混合して用いることができる。また、従来は非水電解液二次電池の負極材料として用いられている珈琲豆、茶葉、サトウキビ、トウモロコシ、果実、及び籾殻であっても良い。これらのうち、好ましい原料として木綿を挙げることができる。
【0027】
<木綿について>
木綿とは、ワタの種子(種子が弾けたものを綿花という)から取れる繊維のことで、種類や形状は特に限定されない。すなわち、木綿は世界各地で栽培されており、アジア綿・インドデシ綿・パキスタンデシ綿・アプランド綿・アメリカ綿・旧ソ連綿・オーストラリア綿・中国綿・シーアイランド綿(海島綿)・エジプト綿・ペルー綿・インド綿・スーダン綿・スーピマ綿などが知られている。形状としては綿花そのもの、あるいは綿花から採れた塊状の綿繊維(たとえば医療用に用いられる脱脂綿)であっても良いし、それらから綿糸、綿布等に加工されていても良い。
【0028】
<綿糸について>
綿糸としては、単繊維糸であっても複数の繊維の捻糸であってもよく、糸の太さも特に限定されるものではないが、通常は番手10〜100番程度のものが用いられる。
【0029】
さらに、綿糸は着色等の加工が施されていないものが好ましいが、一部加工品であっても利用不可能ではない。
【0030】
<綿布について>
綿布の織り方、編み方も特に限定されるものではなく、織り方としては、平織り、綾織り、繻子織り等、編み方としてはシングルニット、ダブルニット等、およびこれらを組合せたものが用いられる。これ以外に不織布であっても構わない。
【0031】
さらに、綿布は着色等の加工が施されていないものが好ましいが、一部加工品であっても利用不可能ではない。
【0032】
<黒鉛成分を含有する植物炭素化物の製造方法について>
本発明における、黒鉛成分を含有する植物炭素化物の製造方法は、不活性雰囲気下(減圧環境および/または不活性ガス環境)で、最高温度が2000℃よりも高い焼成条件を含んでいれば特に限定はないが、好ましい製造方法として、植物質原料を第一の加熱方式を用いた第一の加熱炉を用いて第一温度まで加熱して製造した炭素化物を、第二の加熱方式を用いた第二の加熱炉を用いて第二温度(第一温度よりも高い)まで加熱して黒鉛成分を含有する植物炭素化物とする方法を挙げることができる。
【0033】
具体的には、以下のAからDの工程を含む方法を挙げることができる。
【0034】
なお、本明細書において「数値1〜数値2」で示された範囲は「1以上、2以下」を示すものとする。
【0035】
A)植物質原料を第一の加熱炉において、不活性雰囲気下で300〜500℃まで昇温、加熱する予備加熱工程。
B)引き続き第一の加熱炉において不活性雰囲気下で1000〜1600℃まで昇温、加熱して炭素化物とする炭素化工程。
C)第一の加熱炉を、少なくとも200℃まで不活性雰囲気下で冷却する冷却工程。
D)炭素化物を第二の加熱炉において、不活性雰囲気下で最高温度を2000℃より高く(好ましくは2500℃以上3200℃以下、特に好ましくは2800℃以上3000℃以下)昇温、加熱する黒鉛化工程。
【0036】
A)の予備加熱工程において、植物質材料が乾燥し、さらに植物の主成分であるセルロースの一部が熱分解され、タール状の分解生成物が生じる。このタールの主成分はレボグルコサンであると考えられており、これは更なる加熱により水や二酸化炭素に分解、あるいは炭素化する。
【0037】
B)の炭素化工程において、炭素六員環網状平面構造が主に発達すると考えられている。ただし上記予備加熱工程においても、一部の芳香族化と縮合による多環芳香族化は進んでいると考えられている。
【0038】
最後にD)の黒鉛化工程において、木綿炭素化物の少なくとも一部が黒鉛化する。
【0039】
なお、C)の冷却工程後に200℃より低い温度で大気開放する大気開放工程があっても良く、大気開放後、室温にて炭素化後の焼成対象を第二の加熱炉に装填する移動工程があることが好ましい。
【0040】
ここで、C)の冷却工程、さらには大気開放工程および移動工程は、以下の理由により好ましい工程であると言える。
【0041】
すなわち、木綿などの植物質原料を炭素化する際には、その体積および重量が減少する(=収率が低い)ことが知られている。セルロースの炭素化を(C10の脱水反応と見做すと、その理論収率は44.4%になるが、実際には15%程度、場合によっては10%以下となる。
【0042】
よって、木綿を原料とし、これを炭素化し、さらに2000℃よりも高温で黒鉛化を行う一連の工程を同一の加熱炉で連続して行うと、後工程になるにつれて加熱炉と加熱対象との容積比が大きく(すなわち加熱対象に比べて加熱炉の容積が無駄に大きく)なることが分かる。
【0043】
これに対し、炭素化工程時点で第一の加熱炉から加熱対象物を取り出し、第二の加熱炉に移し替えることで、この容積比を改善でき、加熱炉のムダを省け、コストダウンが期待できる。
【0044】
また、加熱炉はその最高温度などの違いにより、最適な加熱方法や周辺機器が異なることがある。たとえば加熱炉用発熱体として比較的安価な炭化ケイ素は、最高温度が1600℃程度とされ、炭素化工程までは使用できても黒鉛化工程には用いることができない。
【0045】
あるいは木綿などの植物原料そのものは導電性を有さないため、誘導加熱によって直接加熱(導電性容器を介する熱伝導ではなく加熱対象そのものの発熱により高温化すること)できないが、一旦炭素化すれば誘導加熱炉により直接加熱が可能となる。
【0046】
また、たとえば上述の予備加熱工程における分解生成物の排出の際には、排出物を環境中(大気中や下水など)にそのまま廃棄せず、回収装置が必要となる。この回収装置は炭素化工程、黒鉛化工程においては不要となり(あるいは回収対象および回収方法が異なる装置が必要な場合がある)、全加熱工程中、稼働していない無駄な期間が多くなる。
【0047】
これに対し、予備焼成工程から炭素化工程までを第一の加熱炉で行い、黒鉛化工程を第二の加熱炉で行うことにより、それぞれの加熱方法や周辺機器を最適化できる。
【0048】
さらに、本発明の好ましい例として、正極活物質として2000℃よりも高い温度で焼成した黒鉛成分を含有する木綿炭素化物を用い、負極活物質として2000℃以下の温度で焼成した木綿炭素化物を用いた非水電解液二次電池を挙げることができるが、このような非水電解液二次電池を作製する際にも、第一の加熱炉で炭素化工程までを行った木綿炭素化物の一部を負極活物質として使用し、残りを第二の加熱炉で加熱して正極活物質に用いれば電池製造上効率が良い。
【0049】
ここで、木綿の炭素化物が黒鉛成分を含有することは、X線回折分析により確認できる。
【0050】
また、予備焼成工程、炭素化工程および黒鉛化工程における、各所定温度までの昇温時間と所定温度での維持時間は、加熱対象である木綿の状況(綿花なのか糸なのか布なのか、その太さや厚み、織り方等)や重量、および加熱炉の種類や容積などにより変わってくるので適宜調整が必要であるが、一例として以下の範囲を挙げることができる。
【0051】
予備焼成工程:昇温時間0.5〜4時間。維持時間0〜10時間。
炭素化工程:予備焼成温度からの昇温時間2〜15時間。維持時間2〜20時間。
黒鉛化工程:炭素化温度からの昇温時間5〜20時間。維持時間5〜24時間。
【0052】
不活性雰囲気としては0.5気圧〜1.5気圧程度のアルゴンまたは窒素ガス中、あるいは30Pa〜750Pa程度の減圧環境を挙げることができる。好ましい加熱工程としては、予備焼成工程開始前に加熱炉内部を0.5〜1時間程度減圧した後、アルゴンまたは窒素ガスを導入して加熱開始する工程を挙げることができる。
【0053】
<正極活物質/正極活物質層/正極集電体/正極について>
本発明における正極活物質とは、非水電解液中のアニオンを挿入及び脱離可能な炭素材料であり、黒鉛成分を含有する植物質(好ましくは木綿)炭素化物である。
【0054】
この正極活物質に、他の炭素材料粉末などからなる導電剤や、粉末同士の結合性を上げるため、および/または正極集電体への接着性をあげるためのバインダを必要に応じて加え、水系または有機系溶媒により混合することで正極スラリとし、この正極スラリを正極集電体に塗布、乾燥して正極活物質層を形成することで正極を製造する。
【0055】
正極集電体には、ステンレス、アルミニウム、またはチタン等の金属からなる、10〜100ミクロン程度の厚さの金属箔、メッシュ等が用いられる。
【0056】
<負極活物質/負極活物質層/負極集電体/負極について>
本発明における負極活物質とは、非水電解液中のリチウムイオンを挿入及び脱離可能な炭素材料であるか、または金属リチウムである。
【0057】
負極活物質に用いられる炭素材料としては、天然または人造黒鉛、あるいは炭素繊維を挙げることが出来るが、植物質(好ましくは木綿)炭素化物を用いてもよい。
【0058】
このような炭素材料を、他の炭素材料粉末などからなる導電剤や、粉末同士の結合性を上げるため、および/または負極集電体への接着性をあげるためのバインダを必要に応じて加え、水系または有機系溶媒により混合することで負極スラリとし、この負極スラリを負極集電体に塗布、乾燥して負極活物質層を形成することで負極を製造する。
【0059】
負極集電体には銅、ステンレス、チタン、またはニッケル等の金属からなる、10〜100ミクロン程度の厚さの金属箔、メッシュ等が用いられる。
【0060】
負極活物質が金属リチウムである場合は、負極集電体上に金属リチウム皮膜を形成するか、あるいはリチウムと、アルミニウムや錫などとの合金を負極として用いればよい。
【0061】
<セパレータについて>
本発明におけるセパレータとは、電子絶縁性とイオン透過性を有する多孔質のフィルムまたは薄板であり、ポリエチレンやポリプロピレン製フィルムが好ましく用いられる。
【0062】
<非水電解液について>
本発明における非水電解液は、エチレンカーボネートやジエチルカーボネートなどの有機溶媒にLiPFなどのリチウム塩を溶解させた溶液である。
【0063】
<製造システムについて>
本発明者は検討の結果、植物質原料を第一の加熱方式を用いた第一の加熱炉を用いて不活性雰囲気下にて第一温度まで加熱して炭素化物を生産する第一工場と、その炭素化物を第二の加熱方式を用いた第二の加熱炉を用いて不活性雰囲気下にて第一温度よりも高い第二温度まで加熱して黒鉛成分を含有する炭素化物とする第二工場を備え、炭素化物を第一工場から第二工場に、車両、船舶、飛行機のいずれか1つ以上を用いて輸送することにより、低コストかつコンパクトな非水電解液二次電池用正極活物質およびこれを用いた非水電解液二次電池の製造システムが構築可能であることを見出した。
【0064】
すなわち、非水電解液二次電池用正極活物質として使用する植物質原料のうち、木材、竹や木綿、麻などを伐採あるいは収穫し、これらを非水電解液二次電池用正極活物質や非水電解液二次電池の製造工場に輸送する際にコスト的、あるいは立地的、地形的に大量輸送に適さないなど、問題が生じる場合がある。
【0065】
これに対し、植物質原料を伐採あるいは収穫する場所の比較的近くに上記第一工場を建設し、そこで炭素化物を製造することにより、この問題は解決できる。
【0066】
すなわち第一工場は比較的低温加熱を行う工場であり、工場建設に伴うインフラ(電力や工場用水の確保等)がそれほど困難ではないからである。
【0067】
さらに、木材や竹などのように、計画的に育成、伐採が可能な植物を植物質原料として採用し、その育成地近傍に第一工場を建設すれば、植物が持つ資源の再生産性を高度に利用できるとともに、地域の安定的な雇用も確保でき、地域全体としての発展と持続可能性を得ることも期待できる。
【0068】
また、上述のように植物質原料を炭素化する際には、その体積および重量が減少するので輸送が容易となる。よって低コストで第一工場から炭化物を車両、船舶、飛行機のいずれか1つ以上を用いて輸送することが可能となる。
【0069】
ここでの輸送先は上記第二工場であり、これは高温加熱を行う工場であるためインフラが重要となるが、第一工場と輸送ラインを確保することにより、植物質原料の育成地との距離が離れていても問題が生じにくく、インフラ優先で立地を選択できる。
【実施形態1】
【0070】
<1:木綿炭素化物の作製>
市販の綿布を脱気およびアルゴンガス導入可能な炭素化炉内に装填し、30分間の減圧後、アルゴンガスを導入しつつ500℃まで昇温し、2時間保持、その後1400℃まで昇温して6時間保持、その後加熱を停止して室温まで放冷、得られた炭素化物を取り出す。
【0071】
この綿布装填から炭素化物取り出しまでの工程を複数回繰り返し、得られた炭素化物の一部を黒鉛化炉に装填してアルゴンガスを導入しつつ、それぞれ2000℃、2500℃および3000℃まで昇温し、6時間保持することで黒鉛成分を含有する木綿炭素化物とした。
【0072】
3000℃加熱により得られた黒鉛成分を含有する木綿炭素化物をボールミル(伊藤製作所製LP−4)にて粉砕し(粉砕条件:200rpm、30分間)、得られた粉末を正極活物質とした。
【0073】
なお、得られた正極活物質のSEM(日本電子(株)JSM−6060LA/VIを使用した)写真を図2に示す。
【0074】
また、2000℃および3000℃加熱により得られた黒鉛成分を含有する木綿炭素化物のX線回折データ((株)リガクultraX−18/HGを使用した)を図3に示す。
【0075】
2000℃および3000℃加熱により得られた木綿炭化物には、市販の電極材料(人造黒鉛)に比べれば明瞭ではないものの、X線回折において黒鉛由来のピークが得られている事が分かる。
【0076】
なお、参考例として1400℃加熱により得られた木綿炭素化物のX線回折データ(上記と同じ装置を使用した)を図4に示す。
【0077】
<2:正極の作製>
正極活物質と、バインダ(カルボキシメチルセルロースの3質量%水溶液)と、導電剤(アセチレンブラック)をそれぞれ同重量で混合し、水で混錬して正極スラリを作製した。
【0078】
この正極スラリを正極集電体である厚さ20μmの多孔アルミニウム箔(市販品)の片面に塗布し、200℃で4時間真空乾燥して正極活物質層とすることで、正極を作製した。
【0079】
<3:正極テスト用ハーフセルの作製>
上記正極に対し、金属リチウムを対極としたハーフセルを作製した。
【0080】
セパレータに市販のポリエチレン多孔質フィルムを、非水電解液としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の体積比EC:DMC=1:2混合溶媒によるLiPFの1mol/l溶液を、さらに容器としてCR2032タイプのステンレス製コイン型容器を用いた。
【0081】
<4:正極テスト用ハーフセルのテスト結果>
上記ハーフセルを、0.1Cで5.2Vまで充電後、0.1Cで放電することにより、上記で調製した黒鉛成分を含有する木綿炭素化物がアニオン挿入および脱離が可能な炭素材料であり、非水電解液二次電池の正極として動作していることが確認できた。
【0082】
すなわち充放電結果(図1)の充電カーブ(Chargeと記載)において、矢印で示す電圧よりも高電圧領域においては傾きが緩やかになっており、これはアニオンの挿入反応による電圧増加と考えられるからである。
【実施形態2】
【0083】
<5:負極の作製>
実施形態1において2000℃、2500℃および3000℃まで加熱した木綿炭素化物を、それぞれ実施形態1同様にボールミルにて粉砕し、得られた粉末を負極活物質とした。
【0084】
この負極活物質96質量%と、バインダ(カルボキシメチルセルロースの3質量%水溶液)と、導電剤(アセチレンブラック)を重量比90:6:4で混合し、水で混錬して負極スラリを作製した。
【0085】
この負極スラリを負極集電体である厚さ15μmの多孔銅箔(市販品)の片面に塗布し、160℃で1時間真空乾燥して負極活物質層とすることで、負極を作製した。
【0086】
<6:負極テスト用ハーフセルの作製>
上記負極に対し、金属リチウムを対極としたハーフセルを作製した。
【0087】
セル構成は正極テスト用ハーフセルと同じである。
【0088】
<7:負極テスト用ハーフセルのテスト結果>
上記ハーフセルを、0.1Cで3.0Vまで充電後、0.1Cで放電することにより、上記で調製した黒鉛成分を含有する木綿炭素化物が非水電解液二次電池の負極として動作していることが確認できた。
【0089】
充放電結果を図5に示す。
図1
図2
図3
図4
図5