本発明は、エアリフトポンプを備えた曝気装置であって、エアリフトポンプの揚液管の吐出口は、その下端が曝気槽中の液面に接する又は近接する位置にあり、かつ当該液面と並行な方向に開口しており、エアリフトポンプの気体噴出口は、揚液管の内壁面上に又は揚液管内の内壁面に近接する位置にあり、揚液管の内壁面に沿う向きに、かつ揚液管の横断面方向に対して10度〜80度上向きの方向に開口していることを特徴とする、前記曝気装置に関する。本発明によれば、高粘度の汚水、特に家畜糞尿混合スラリーを効率的に曝気して、悪臭を顕著に低減させることができる。
揚液管が、吐出口を備える上管と吸入口及び気体噴出口を備える下管で構成され、下管が上管の内側に摺動可能に挿入された二重構造を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の曝気装置。
揚液管が、吐出口を備える上管と吸入口及び気体噴出口を備える下管で構成され、下管が上管の内側に摺動可能に挿入された二重構造を有する、請求項6から8のいずれか一項に記載のエアリフトポンプ。
【背景技術】
【0002】
工業廃水、ウシやブタなどの家畜の糞尿又は生活雑排水などの汚水の浄化は、環境保護の観点から重要な技術であり、またこれを低コストかつ効率的に行うことは産業経済的にも重要な意義を有する。
【0003】
近年、畜産業規模の巨大化に伴って畜産糞尿の発生量が急激に増加したことから、その処理は大きな問題となっている。家畜糞尿は、その排出量が少量であれば、肥料として草地や畑地に散布されている。このような場合でも、適正な処理を行わずに散布したり、残余を河川などに放流したりすれば、上水源と農業用水の汚染、さらには悪臭の発生などの問題を引き起こすことがある。近年の家畜糞尿の排出量増加は、こうした問題をさらに深刻化させている。
【0004】
家畜糞尿の排出量の増大に合わせ、平成16年に「家畜排せつ物の管理の適正化および利用の促進に関する法律(家畜排せつ物法)」が施行され、家畜糞尿の適切な処理が求められるようになった。しかし、排出量の増加に処理が追いついていない、また低コストかつ迅速に処理できる有効な方法がいまだ確立されていないなどの事情から、未処理の家畜糞尿が放置されて悪臭源となっているのが現状である。
【0005】
液状の家畜糞尿である糞尿混合スラリーは、エジェクターポンプ又は曝気レータなどを備えた曝気装置を用いて処理されることが多い。しかし、特に糞尿混合スラリーは牧草の繊維質系の固形物を多く含み粘度が高いという特徴を有するために、かかる機械式ポンプを利用した曝気法は、ポンプが固形物によって直ぐに目詰まりを起こし、循環不良となって処理効率が低下するという問題を伴う。
【0006】
また、曝気法は原理的に液の表面上で液が泡化する(起泡)という問題を伴うが、特に糞尿混合スラリーは粘度が高く、いったん生じた泡は容易には消えないので、糞尿混合スラリーの曝気処理は多量の泡が蓄積するという問題を抱えやすい。多量の泡は、曝気処理の中断、中止を頻繁に招き、処理効率を低下させるのみならず、起泡を抑制するために界面活性剤などの消泡剤、旋回式消泡機、散水消泡などを必要とし、これらはさらなるコストの増加をもたらす。
【0007】
前述した機械式ポンプの代わりに、機械的な駆動部を有さず詰まり等の問題が少ないエアリフトポンプを利用した曝気法も知られている(特許文献1)。しかしながら、粘度が高いという特徴を有する糞尿混合スラリーにエアリフトポンプを使用しても、必要十分な強制循環を達成することが難しい他、泡化がより生じやすくなるという問題がある。
【0008】
起泡を抑制するために、曝気前に大量の水を添加して糞尿を希釈し粘度を低下させることが、処理現場で試みられている。しかしながら希釈は、処理すべき糞尿の体積がさらに増加し、曝気処理に長時間を要することと、草地や畑地への散布に更なる労力を必要とさせるという別の問題を生じさせる。
【0009】
また、固液分離装置を使用して糞尿を固体と液体とに分離し、固体は発酵させて堆肥等として使用し、液体は曝気処理等を施した後、液状肥料としたり浄化処理後に放流したりする方法も行われている(例えば特許文献2など)。しかしながら、まず固液分離という工程作業が必要となることに加え、分離した固体と液体とを別々に処理しなければならず、増加する家畜糞尿の迅速かつ低コストでの処理という要望に応えることができない。
【0010】
そして、上記の従来法の最も大きな問題は、これらの処理によっても悪臭を必要十分に消すことができないことである。したがって、大量に排出される家畜糞尿の悪臭を迅速かつ十分に消すことができる処理技術の開発は、依然として解決すべき課題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、効率的にかつ低コストで汚水の悪臭を消すことができる曝気装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、エアリフトポンプを用いた曝気法において、エアリフトポンプの構造に工夫を加えることによって、汚水、特に家畜糞尿を固液分離処理や大幅な加水を行うことを特に必要とせず、起泡を抑制しつつ効率よく曝気処理することができ、かつ悪臭を劇的に消すことができることを見いだし、下記の各発明を完成させた。
【0014】
(1)エアリフトポンプ及び曝気槽を備えた曝気装置であって、
エアリフトポンプの揚液管の吐出口は、その下端が曝気槽中の液面に接する又は近接する位置にあり、かつ当該液面と並行な方向に開口しており、
エアリフトポンプの気体噴出口は、揚液管の内壁面上に又は揚液管内の内壁面に近接する位置にあり、揚液管の内壁面に沿う向きに、かつ揚液管の横断面方向に対して10度〜80度上向きの方向に開口している
ことを特徴とする、前記曝気装置。
(2)揚液管が曝気槽の内壁に沿う位置にあり、その吐出口が曝気槽の中心方向に向けて開口している、(1)に記載の曝気装置。
(3)気体噴出口が揚液管の横断面方向に対して30度〜60度上向きの方向に開口している、(1)又は(2)に記載の曝気装置。
(4)複数の気体噴出口を有する、(1)から(3)のいずれか一項に記載の曝気装置。
(5)揚液管が、吐出口を備える上管と吸入口及び気体噴出口を備える下管で構成され、下管が上管の内側に摺動可能に挿入された二重構造を有する、(1)から(4)のいずれか一項に記載の曝気装置。
(6)曝気装置において用いられるエアリフトポンプであって、
エアリフトポンプの揚液管の吐出口は、揚液管に対して垂直な方向に開口しており、
エアリフトポンプの気体噴出口は、揚液管の内壁面上に又は揚液管内の内壁面に近接する位置にあり、揚液管の内壁面に沿う向きに、かつ揚液管の横断面方向に対して10度〜80度上向きの方向に開口している
ことを特徴とする、前記エアリフトポンプ。
(7)気体噴出口が揚液管の横断面方向に対して30度〜60度上向きの方向に開口している、(6)に記載のエアリフトポンプ。
(8)複数の気体噴出口を有する、(6)又は(7)に記載のエアリフトポンプ。
(9)揚液管が、吐出口を備える上管と吸入口及び気体噴出口を備える下管で構成され、下管が上管の内側に摺動可能に挿入された二重構造を有する、(6)から(8)のいずれか一項に記載のエアリフトポンプ。
(10)(1)から(5)のいずれか一項に記載の曝気装置を用いた、汚水の曝気処理方法。
(11)汚水がスラリー状である、(10)に記載の曝気処理方法。
(12)汚水が糞尿混合スラリーである、(10)又は(11)に記載の曝気処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高粘度の汚水、特に家畜糞尿混合スラリーを効率的に曝気して、悪臭を顕著に低減させることができる。本発明の曝気装置は、比較的単純な構造を有するエアリフトポンプを使用することから、従来の曝気装置を用いた場合と比べて遥かに低コストでの汚水処理が可能になる。さらに、本発明のエアリフトポンプは、畜産農場の既存の曝気槽やスラリー貯留槽に設置することが可能である点も、汚水処理コストの低減に有利に働く。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の曝気装置に備えられるエアリフトポンプの構造を模式的に表したもので、エアリフトポンプの揚液管を通る縦断面を横方向から見た図である。
【
図2】本発明の曝気装置の使用態様を表した模式図である。
【
図3】本発明の曝気装置に備えられるエアリフトポンプの揚液管部分を拡大して、揚液管の吐出口と曝気槽中の液面との位置関係を模式的に表した模式図である。
【
図4】本発明の曝気装置の使用態様を上から見た模式図である。黒色の矢印は吐出された液を、白色の矢印は液の流れ(旋回流)を表す。
【
図5】本発明の曝気装置に備えられるエアリフトポンプの気体噴出口の近傍を表した模式図である。(a)は吸入口正面方向からみた図、(b)は(a)を90度右横方向から見た図、(c)は(a)を真上から見た図である。矢印は気体噴出口から噴出される気体によって生じる螺旋状の上昇流を表す。
【
図6】本発明の曝気装置及び従来型エジェクタポンプを備えた曝気装置を用いてウシ糞尿混合スラリーを処理したときの、スラリー水分及び粘度のプロット図である。
【
図7】本発明の曝気装置及び従来型エジェクタポンプを備えた曝気装置を用いてウシ糞尿混合スラリーを処理したときの、臭気指数の減少度合いを示すグラフである。
【
図8】本発明の曝気装置を用いてウシ糞尿混合スラリーを処理したときの、硫化水素濃度の減少度合いを示すグラフである。
【
図9】本発明の曝気装置で曝気処理中のスラリーを上から見た写真である。
【
図10】本発明の曝気装置及び気体噴出口を90度上向きにした比較例の曝気装置において、ブロワからの出力(送風量)を変化させた場合の脈動回数を示すグラフである。
【
図11】実施例1で作製した曝気装置において、液面の高さと吐出口下端との距離を変化させた場合の脈動回数を示すグラフである。
【
図12】実施例1で作製した曝気装置において、液面の高さと吐出口下端との距離を変化させた場合の、曝気槽内の家畜糞尿スラリーの泡部分を含めた高さの経過日数毎の変動を示すグラフである。
【
図13】本発明におけるエアリフトポンプの吐出口の高さを調節するための機構の例を模式的に表したもので、エアリフトポンプの揚液管を通る縦断面を横方向から見た図である。aは気体噴出前の揚液管を、bは気体を噴出させたときの揚液管をそれぞれ示す。
【
図14】本発明におけるエアリフトポンプの吐出口の高さを調節するための、フロートを利用した機構の例を模式的に表したもので、エアリフトポンプの揚液管を通る縦断面を横方向から見た図である。
【
図15】実施例2で作製した曝気装置の作動試験時の構成を模式的に表したもので、エアリフトポンプの揚液管を通る縦断面を横方向から見た図である。
【
図16】実施例2で作製した曝気装置を作動させたときの、吐出口が液面から露出する割合(直径比)と気体送気量/吐出口面積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第一の態様は、エアリフトポンプ及び曝気槽を備えた曝気装置であって、
エアリフトポンプの揚液管の吐出口は、その下端が曝気槽中の液面に接する又は近接する位置にあり、かつ当該液面と並行な方向に開口しており、
エアリフトポンプの気体噴出口は、揚液管の内壁面上に又は揚液管内の内壁面に近接する位置にあり、揚液管の内壁面に沿う向きに、かつ揚液管の横断面方向に対して10度〜80度上向きの方向に開口している。
ことを特徴とする、前記曝気装置に関する。
【0018】
本発明の曝気装置は、エアリフトポンプを備えている。エアリフトポンプは、その基本的構造として、目的とする物(汚水等)を輸送する揚液管(揚水管又はエアリフト管などとも表される)と、気体(通常は圧縮空気)を供給するブロワと、圧縮空気を揚液管内に送り込む送気管と、気体を噴出する噴出口を有する。その原理としては、目的物に対して縦(通常は垂直)に設置される揚液管の内部にブロワによって供給され送気管を通じて送られる圧縮空気を噴出口から噴出することで、揚液管内部に空気の上昇に伴う水流を発生させ、揚液管の下方部に開口する吸入口から目的物を汲み上げ、揚液管上方部に開口する吐出口から吐出する、というものである。
【0019】
本発明の曝気装置におけるエアリフトポンプは、上記の基本原理に基づく他に、揚液管の吐出口が、その下端が曝気槽中の液面に接する又は近接する位置にあり、かつ吐出口が当該液面と並行な方向に開口していることを特徴の一つとする。以下、本発明の曝気装置、特にエアリフトポンプにかかる特徴を
図1〜5を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明にかかる曝気装置に備えられるエアリフトポンプの構造を模式的に表した、エアリフトポンプの揚液管を通る縦断面を横方向から見た図であり、
図2は曝気装置の使用態様を表した模式図である。符号1はエアリフトポンプの揚液管を、符号2は揚液管の吐出口を、符号3は揚液管の吸入口を、符号11はエアリフトポンプの送気管を、符号12は気体噴出口を、符号21はブロワを、符号31は曝気槽を、それぞれ示す。なお、
図2には示されないが、曝気槽31は上部に蓋のない円筒型の槽である。
【0021】
図3は、エアリフトポンプの揚液管1を通る縦断面を横方向から見たときの、エアリフトポンプの揚液管1の吐出口2と曝気槽31中の液面との位置関係を模式的に表した図である。
【0022】
本発明における揚液管の吐出口は、その下端が曝気槽中の液面に接する又は近接する位置にある。「吐出口の下端が曝気槽中の液面に接する又は近接する位置にある」とは、吐出口の下端と液面との距離が吐出口の内径(一般的な吐出口ではその直径)の25%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下となる位置に吐出口があることを意味する。吐出口の下端が曝気槽中の液面に接する位置にある本発明の一態様では、
図2及び
図3に模式的に示されるように、吐出口2の下端が曝気槽31中の液面と同じ高さとなるように設置される。
【0023】
本発明における曝気槽中の液面とは、曝気槽内に収容されている、曝気前の、すなわち泡が生じていない状態の液の表面を意味する。曝気槽中の液面の高さは、処理される液量や曝気処理条件によって変動することがあるので、本発明におけるエアリフトポンプは、吐出口の高さを自動又は手動によって調節するための機構をそなえているものが好ましい。または、液面の高さを自動又は手動で調節するための機構を備えた曝気槽を用いてもよい。
【0024】
本発明におけるエアリフトポンプの吐出口の高さを調節するための機構の例を
図13に示す。この例では、揚液管は、吐出口2を備える上管41と吸入口3及び気体噴出口12を備える下管42で構成され、下管42が上管41の内側に摺動可能に挿入された二重構造を有する。下管42にある気体噴出口12から圧縮空気を噴出させることで、空気の上昇に伴う水流によって上管41が浮き上がり、吐出口2が、その下端が曝気槽中の液面に接する又は近接する位置、すなわち吐出口2の下端と液面との距離が吐出口2の内径(一般的な吐出口ではその直径)の25%以下となる位置に配置される。吐出口の下端を曝気槽中の液面に接する又は近接する位置に配置するための圧縮空気の送気量は、液面から上管の最上端までの深さや汚水の比重・粘度等に応じて調節すればよく、例えば汚水が水と同程度の比重を有する液体である場合は、吐出口の揚液管1分あたりの送気量(リットル/分)が吐出口面積(cm
2)の3倍以上、好ましくは5倍以上とすればよい。
【0025】
本発明におけるエアリフトポンプの吐出口の高さを調節するための機構の別の例は、下管が上管の内側に摺動可能に挿入された二重構造を有する前記揚液管の吐出口にフロートを備えた機構である。その機構の一つの例を
図14に示す。フロートが受ける浮力により、曝気槽中の液面の高さの変動にかかわらず、吐出口を曝気槽中の液面に接する又は近接する位置で維持することが可能になる。
【0026】
本発明における揚液管の吐出口は、曝気槽中の液面と並行な方向に開口される。これにより、吐出液が曝気槽中の液面と並行な方向に吐出される。言い換えれば、本発明における揚液管の吐出口は、吐出液が曝気槽中の液面と並行な方向に吐出されるように設置される。
【0027】
図4は、上部に蓋のない円筒型の槽を有する曝気装置を上から見た模式図である。符号1は揚液管を、符号2は揚液管の吐出口を示し、吐出口から吐出される液の流れ(旋回流)を白色の矢印で表している。
【0028】
揚液管の吐出口が上記のように配置されることにより、吐出液は槽中の液面上の泡を巻き込みながら浅い角度で槽に投入されるので、投入時の起泡を抑制するとともに液面上の泡を消す効果が発揮される。また、吐出の勢いで槽中の液面又は液表層部分に
図4に示されるような旋回流が生じるので、液面上に残った又は新たに生じた泡はこの旋回流に乗って再び吐出口近辺に戻り、吐出液に巻き込まれて消えることになる。なお、かかる旋回流を発生させるために、揚液管は曝気槽の内壁に沿う位置にあり、その吐出口が曝気槽の中心方向に向けて開口していることが好ましい。また、同様の目的で、曝気槽の断面形状は
図4に示されるように円であることが好ましいが、旋回流の発生を損なわない限りにおいて楕円又は多角形であっても、また多少の凹凸があってもよい。
【0029】
吐出口の形状には特に制限はなく、その断面形状は円、楕円又は多角形であってもよい。また、吐出口の大きさは、処理される液量、曝気槽の大きさ、揚液管の太さなどに応じて適宜定めればよい。
【0030】
本発明の曝気装置におけるエアリフトポンプは、さらに、気体噴出口が、揚液管の内壁面上に又は揚液管内の内壁面に近接する位置にあり、揚液管の内壁面に沿う向きに、かつ揚液管の横断面方向に対して10度〜80度上向き、好ましくは30〜60度上向き、より好ましくは45度上向きの方向に開口していることを特徴の一つとする。
【0031】
図5は、本発明の曝気装置におけるエアリフトポンプの気体噴出口の近傍を表した模式図であり、(a)は吸入口正面方向からみた図、(b)は(a)を90度右横方向から見た図、(c)は(a)を真上から見た図である。符号1は揚液管を、符号11はエアリフトポンプの送気管を、符号3は揚液管の吸入口を、符号13(点線)は噴出ノズルをそれぞれ示し、噴射される気体によって生じる螺旋状の上昇流が矢印で表される。噴出ノズル13の先端には気体噴出口12が設けられている。
【0032】
図5に示される態様では、揚液管内の内壁面に近接する位置に設けられた噴出ノズル13は、その気体噴出口12が
図5(c)にあるように揚液管の内壁に沿った向きに、かつ
図5(b)にあるように揚液管の横断面方向に対して45度上向きに向くように配置されている。
【0033】
このように気体噴出口が配置されることで、噴出された圧縮空気はその勢いによって揚液管の内壁面に沿って螺旋状に上昇し、これによって揚液管内部に螺旋状の上昇流が生じると推察される。これにより、かかる噴出口の配置を有しない通常のエアリフトポンプと比較して揚液管内部の上昇流の速度が高まり、固形物を多く含み粘度が高い糞尿混合スラリーでも勢いよく汲み上げることができるようになるものと考えられる。なお、かかる螺旋状の上昇流を発生させるために、揚液管の断面形状は円であることが好ましいが、螺旋状の上昇流の発生を損なわない限りにおいて多角形であっても、また多少の凹凸があってもよい。
【0034】
また、本発明にかかる噴出口の配置を有しない通常のエアリフトポンプでは、吐出液の勢いが一定の短い間隔で強弱するという脈動が生じ易く、起泡の原因ともなっているが、本発明にかかる特徴を有するエアリフトポンプは吐出液の脈動が生じにくいので、起泡の抑制においても有利である。
【0035】
本発明において、「揚液管内の内壁面に近接する位置」とは上述の螺旋状の上昇流を揚液管内部に生じさせることができる位置を意味し、揚液管の内壁から、揚液管の内径(一般的な揚液管ではその直径)の30%に相当する距離以下にある位置である。特に、
図5に例示されるような噴出ノズルが用いられるときは、噴出ノズルは揚液管内壁に接触する位置に配置されることが好ましい。
【0036】
気体噴出口は、揚液管の内壁面に沿った向きに、かつ揚液管の横断面方向に対して10度〜80度上向き、好ましくは30度〜60度上向き、より好ましくは45度上向きの方向に開口している。また、気体噴出口は、
図5に例示される噴出ノズルの他、上記の方向に設けられた揚液管内壁の孔又は溝状の開口部であってもよい。
【0037】
気体噴出口は、一つまたは複数設けられる。複数の場合には、螺旋状の上昇流の発生を妨げないように、噴出口は螺旋の向きに揃えて配置されることが好ましい。
【0038】
本発明の曝気装置におけるエアリフトポンプにおいて、気体噴出口と揚液管の吸入口の垂直方向における位置関係に特別な制限はない。例えば、
図5に例示されるように吸入口が下、噴出口が上という位置関係でもよく、逆に吸入口が上、噴出口が下であってもよい。
【0039】
吸入口は
図5に例示されるように水平方向に開口していてもよく、または揚液管の下方に向かって開口していてもよい。さらに、吸入口の形状には特に制限はなく、その断面形状は円、楕円又は多角形であってもよい。また吸入口の大きさは、処理される液量、曝気槽の大きさ、揚液管の太さなどに応じて適宜定めればよい。
【0040】
本発明の曝気装置において、圧縮空気を供給するブロワは、一般に市販されているものの中から、曝気処理の目的となる汚水の種類に応じて、揚液管内部に螺旋状の上昇流を発生させるに必要となる出力を有するブロワを選択すればよい。特に粘度の高い糞尿混合スラリーを処理するときは、例えば1分間当たりの圧縮空気の供給量が2.0m
3以上の出力を有するブロワを利用することが好ましい。そのようなブロワの例としては、ロータリーピストン型(ルーツ式)などを挙げることができる。また、生活雑排水などの低負荷・低粘度の汚水の場合では、ダイヤフラム式なども選択できる。
【0041】
ブロワによって供給される気体は、酸素が含まれる曝気処理に適したものであればどのようなものでもよいが、圧縮空気がコスト的に有利である。
【0042】
本発明の曝気装置における曝気槽は、従来の曝気装置において用いられる曝気槽であればよく、例えば畜産農場の既存の曝気槽やスラリー貯留槽をそのまま利用することができる。曝気槽の断面形状は、前述のように吐出液による旋回流を発生させるために円であることが好ましいが、旋回流の発生を損なわない限りにおいて楕円又は多角形であっても、また多少の凹凸があってもよい。
【0043】
本発明の曝気装置は、家畜糞尿、特に糞尿混合スラリーの曝気処理に適しているが、処理対象は家畜糞尿には限定されず、工業廃水、生活雑排水その他の、曝気処理が求められる汚水であれば、いずれに対しても適用可能である。特に、液の泡化によって処理効率が低下又は制限されるという問題を有する汚水、特に高粘度のスラリー状汚水の処理に有効である。
【0044】
本発明の曝気装置によると、粘度が1〜10000mPa・s、好ましくは1〜5000mPa・s、さらに好ましくは10〜2000mPa・sである汚水を処理することができる。後述の試験例において示されるように、この粘度範囲内には無加水の家畜糞尿混合スラリーが含まれることから、本発明の曝気装置によると、粘度調節のための加水を行うことなく、糞尿混合スラリーを曝気処理することができる。
【0045】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様の曝気装置において用いられるエアリフトポンプであって、
エアリフトポンプの揚液管の吐出口は、揚液管に対して垂直な方向に開口しており、
エアリフトポンプの気体噴出口は、揚液管の内壁面上に又は揚液管内の内壁面に近接する位置にあり、揚液管の内壁面に沿う向きに、かつ揚液管の横断面方向に対して10度〜80度上向きの方向に開口している
ことを特徴とする、前記エアリフトポンプに関し、その詳細は第一の態様において述べたとおりである。
【0046】
本発明の第三の態様は、前記第一の態様の曝気装置を用いた汚水の曝気処理方法に関する。かかる処理方法は、曝気装置のブロワから送気管内に送られた圧縮空気を気体噴出口から噴出させ、これにより揚液管内部に生じた上昇流によって吸入口から吸入された汚水を空気と混合して吐出口から吐出することを含み、その詳細は第一の態様において述べたとおりである。
【0047】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0048】
<実施例1>
内径30cm、長さ約4m、肉厚1cmの塩化ビニル製直管の下端に同径の塩化ビニル製L字継ぎ手(1辺の長さ46cm)、上端に同径の塩化ビニル製T字継ぎ手(1辺の長さ51cm)を連結して、両端に吸入口及び吐出口をそれぞれ有する揚液管を作成した。吸入口から60cmの高さに直径6cmに穴を開け、この穴に適合する外径を有する塩化ビニル製L字管(1辺の長さ9cm)を挿入し、水平面から45度上向きに開口部を向けた状態で揚液管に固定し、噴出口を配置した。揚液管の外側に突出した塩化ビニル製L字管の一端に塩化ビニル製パイプを連結して送気管を用意した。
【0049】
円筒状の曝気槽の中に、上記のように作製したエアリフトポンプを曝気槽の内壁に接する位置に吸入口を下にして固定し、送気管の一端を鶴見製作所製ルーツブロワRSR−65(出力5.5kW)に連結して、本発明にかかる曝気装置を有する曝気槽を作製した。
【0050】
<試験例1>
実施例1で作製したエアリフトポンプ、従来型のエジェクターポンプ(鶴見製作所製80UR42.2)、曝気レータ(鶴見製作所製32TR21.5)のそれぞれを備えた曝気装置について、曝気能力の比較を行った。各曝気装置を設置した貯留槽内に無酸素の水を満たし、吐出口の下端が投入された水の液面の高さと同じになるように調節した後、ブロワを駆動させて1時間曝気処理を行った。処理後の水の溶存酸素濃度から、常法に従って総括酸素移動容量係数(KLa)を算出した。
【0051】
試験条件及びそれぞれの装置の性能を表1に示す。実施例1の曝気装置は、異物通過径が従来型の曝気装置よりも大きいので、スラリー中の異物による閉塞のおそれが少なく、また総括酸素移動容量係数は従来品と同等であり、必要能力値(KLa≧1.0)を上回った。
【表1】
【0052】
<試験例2>
1)牧場から回収したウシ糞尿混合スラリーを実施例1で作製したエアリフトポンプ又は従来型のエジェクタポンプを備えた曝気装置を有する曝気槽に投入し、これら装置を駆動させて7〜63日間曝気処理を行った。エアリフトポンプを備えた曝気装置の場合、曝気処理前に、吐出口の下端が投入されたスラリーの液面より0〜6cm低くなるように調節を行った。試験条件を表2に示す。試験は、エアリフトポンプ曝気装置について5回、エジェクタポンプ曝気装置について3回行った。
【表2】
【0053】
曝気処理中の糞尿混合スラリーの水分及び粘度を経時的に測定した結果を
図6に示す。
図6中で同じシンボルで表される各プロットは、同じ処理群の異なる時間での測定値を表している。本発明のエアリフトポンプ曝気装置では、50〜4700mPa・sという広範囲の粘度を有するスラリーを曝気することができた。
【0054】
一方、エジェクタポンプ曝気装置は、粘度が60mPa・s程度のスラリーを曝気することはできたものの、高粘度スラリー(1300mPa・s以上)の曝気処理を試みたところ、糞尿混合スラリーに含まれる繊維質分によるポンプの吸入口への詰まりや、高い粘度によりポンプに高い負荷がかかり、数分から数時間でポンプの運転が止まり、曝気処理を継続することができなかった(データを図示せず)。
【0055】
曝気処理中の糞尿混合スラリーについて、臭気指数(N)を公定法に従って経時的に測定した。それぞれ3回の試験における臭気指数の推移を
図7に示す。エジェクタポンプ曝気装置では、初期粘度が概ね60mPa.sより低い糞尿混合スラリーにおいて、処理開始後6〜14日で臭気指数37に到達するが、その後、臭気指数の大幅な低下は認められなかった。
【0056】
一方、本発明のエアリフトポンプ曝気装置では、初期粘度が260mPa.s、590mPa・s及び620mPa.sである高粘度の糞尿混合スラリーにおいて、いずれも1日間の処理で臭気指数は46〜48から37〜40に低下し、7日間の処理で臭気指数はさらに22〜26にまで低下した。この臭気指数の低下は、臭気成分の濃度が処理前と比較して1日間の処理で1/6〜1/10に、7日間の処理で1/100〜1/300に低下したことに相当し、本発明による曝気処理が悪臭を顕著に低減させたことを示している。
【0057】
本発明のエアリフトポンプ曝気装置による曝気処理中の糞尿混合スラリーから排出される排気について、悪臭成分である硫化水素を経時的に測定した。1回の試験における硫化水素濃度の推移を
図8に示す。曝気処理開始直後に12.5ppmまで上昇した後、処理開始後1〜3日で2.0ppm以下まで低減し、3日目以降は0.5ppm以下まで低下したことから、本発明による曝気処理が悪臭を顕著に低減させたことが確認された。
【0058】
エアリフトポンプ曝気装置で曝気処理中のスラリーを上から見た写真を
図9に示す。写真中央の吐出口から右方向にスラリーが吐出されている。曝気処理中に液面上に生じた泡が高速で吐出されたスラリー流により巻き込まれながら消泡される様子が観察された。
【0059】
<比較例1>
実施例1で作製したエアリフトポンプ曝気装置と、その気体噴出口の向きだけを90度上向きに変えた比較用曝気装置において、表3に示される試験条件下で、送風量を変動させた場合の吐出流の脈動回数を計測した。試験は、気体噴出口が45度上向きの曝気装置について3回、90度上向きの曝気装置について1回行った。
【表3】
【0060】
結果を
図10に示す。図中、気体噴出口が45度上向きの結果については平均値で表されている。気体噴出口が90度上向きでは、粘度が10mPa・s以下と低く、比重も家畜糞尿スラリーより低く脈動しにくい水道水を用いているにもかかわらず、広範囲の送風量において毎分10回以上の脈動が計測された。一方、気体噴出口が45度上向きでは、粘度が600mPa・sの家畜糞尿スラリーを用いているにもかかわらず、送風量が1.8m
3/分以上であれば、脈動回数を毎分10回以下に低減できることが確認された。
【0061】
<比較例2>
実施例1で作製したエアリフトポンプ曝気装置において、液面の高さを吐出口下端から−60cm〜+60cmの間に変動した際の脈動回数を計測した。液面の高さ以外は、比較例1と同様の条件下で試験を行った。
【0062】
3回の試験の平均値を
図11に示す。エアリフトポンプの吐出口下端よりも液面が低い場合は脈動回数が増える傾向を示し、液面高さ−59cmでは毎分67回の脈動が計測された。一方、吐出口下端よりも液面が高い場合には、脈動回数は平衡状態となるが、吐出口下端より液面が8cmを超えて高くなると、曝気効果が著しく低減し、また吐出流による消泡効果も同様に低減した。
【0063】
<比較例3>
実施例1で作製したエアリフトポンプ曝気装置において、曝気処理を開始する前の液面の高さを吐出口下端から11cm高く設定し、それ以外は試験例2と同じ条件下で曝気試験を行い、曝気槽内の家畜糞尿スラリーの泡部分を含めた高さの経過日数毎の変動を計測した。
【0064】
結果を
図12に示す。
図12中に示される「3〜5回目」は試験例2のエアリフトポンプ曝気装置での3〜5回目の試験結果であり、「6回目」は本比較例の結果である。本比較例の曝気試験、すなわちエアリフトポンプの吐出口下端よりも液面が11cm高い条件で曝気を行った場合は、起泡により泡部分を含むスラリー上面の高さが急激に上昇し3.5日以降は吐出流による消泡効果が発揮されず、消泡機の稼働を要する状況となった。一方、試験例2のエアリフトポンプ曝気装置での3〜5回目の曝気試験、すなわち吐出口下端から0cm〜6cmの液面高さから曝気を開始した条件では、7日間経過後も吐出口上端が露出しており吐出流による消泡効果が維持されていることが確認された。
【0065】
<実施例2>
内径5cm、外径6cm、長さ約25cmの塩化ビニル製直管の一方の端に塩化ビニル製L字継ぎ手(1辺の長さ9cm、内径6cm)を連結して上管を用意した。長さ35cmの塩化ビニル製直管(いずれも外径4.8cm、肉厚1.5mm)を用意し、一方の端に同径の塩化ビニル製L字継ぎ手(1辺の長さ8cm)を連結して、下管を用意した。下管の吸入口から1cmの高さに直径1cmの穴を開け、この穴に適合する外径を有するプラスチック製L字管(1辺の長さ1.5cm)を挿入し、水平面から45度上向きに開口部を向けた状態で揚液管に固定し、噴出口を配置した。下管を上管に挿入して二重構造の揚液管とし、下管の外側に突出したプラスチック製L字管の一端に塩化ビニル製パイプを連結して送気管を用意した。
【0066】
円筒状の槽の中に、上記のように作製したエアリフトポンプを容器の内壁に接する位置に吸入口を下にして固定し、送気管の一端をエアポンプに連結し、本発明のエアリフトポンプ曝気装置を作製した。
【0067】
上記曝気槽に対して、揚液管の上管の上端(吐出口の上端部)より4.2cm、5.2cm、6.3cm、8.5cm又は11.6cm上に液面がくるように水を張り、エアリフトポンプ曝気装置を作動させて、圧縮空気の送気量を調節することで上管を浮き上がらせる試験を行った。試験時の曝気装置の構成を
図15に、試験条件を表4に示す。
【表4】
【0068】
圧縮空気の送気量(リットル/分)と吐出口面積(cm
2)の比を横軸に、吐出口の直径に対して液面から露出した吐出口の径の比(吐出口露出率、直径比)を縦軸としたグラフを
図16に示す。吐出口の下端と液面との距離が吐出口の内径の25%以下となる位置まで揚液管の上端を浮き上がらせるために要する圧縮空気の送気量は、揚液管の上端(突出口の上端部)から液面までの距離によって変動するが、おおむね、圧縮空気の送気量(リットル/分)と吐出口面積(cm
2)の比が3倍〜5倍であればよいことが確認された。