【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り、「質量%」を表す。
【0065】
(実施例1)
<ダイヤモンド砥石の作製>
ダイヤモンド砥粒として、平均粒径dが、1.5μm、3.0μm、7.5μm、14μm、17μmのものをそれぞれ使用し、
図1および
図2に示した形状のロッド状のダイヤモンド砥石を作製した。ろう材の組成はNi−4.2%Si−3.0%B−1.0%P−2.0%Tiであり、大きさが38μmアンダ−の粉末ろうを使用した。
【0066】
図1または
図2に示した形状のSUS304製の金属製支持材(先端部の直径は1.0mm、長さ40mm、チャックに固定する部位の直径は6.0mm、
図2の砥石の面取り加工用のくぼみは、深さ0.15mmと幅0.7mm)を用意し、ダイヤモンド砥粒を固着させる部位にセルロ−ス系の有機系バインダーを塗布した。次に粉末ろう材を有機系バインダーに付着させた。粉末ろう材はほぼ単層に付着させた。この時、ろう材層の厚みは、ダイヤモンド砥粒径の約40%の厚みになるように調整した。次に、ろう材の上に有機系バインダーを塗布し、そこにダイヤモンド砥粒を固着させた。具体的には、2枚の電極板に交流電圧を印加して電極間に交流の静電気を発生させ、その中にダイヤモンド砥粒を投入すると、投入された砥粒は空間に浮遊された状態となった。この中に有機バインダーを塗布した金属製支持材を挿入すると、バインダーに砥粒が付着された。挿入している時間を変えることによって、砥粒付着量が変わるため、砥粒の付着間隔を変えることができた。砥粒の中心間距離はLと、Lの中心間距離を持つ砥粒の割合は表1に記載した。
【0067】
その後、加熱炉を用いて、1000℃〜1030℃、20分〜40分間加熱してろう材を溶融させた。雰囲気は10
−3Paの真空中とした。温度と時間を変えることによって、ダイヤモンド砥粒の頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合を変えることができた。具体的な加熱条件については、表1に記載した。
昇温過程において、有機系バインダーは揮発した。外見上、溶融後の凝固したろう材の厚みはほぼ均一となった。
ダイヤモンド砥粒の頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合は、マイクロスコ−プ、あるいは、元素分析機能(EDX)を有する走査電子顕微鏡を用いて、ろう付け後の砥石の所定範囲内にあるダイヤモンド砥粒を数え、砥粒総数に対する頂部にカーバイド層を有する砥粒数の割合から求めた。
【0068】
各砥石に付いて、使用した砥粒の平均粒径d、ろう付け条件、頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合、および砥粒間隔を、表1に示した。
【0069】
<ダイヤモンド砥石の評価方法>
上記で作製した孔開け加工用砥石と面取り加工用砥石について、ガラスの孔開け加工とそれに続く面取り加工によるチッピングの有無によって、砥石の性能を評価した。
【0070】
1)孔開け加工
図1に示した形状の孔開け用砥石を用いて、携帯端末用カバーガラスへの孔開け加工を実施した。穿孔方法は、所定の板厚方向の切り込み量でダイヤモンド砥石を横方向に移動させて、ガラス表面からガラスを削り取っていく方法を用いた。加工条件は以下の通りであり、切削部位に中性の水系クーラントをかけながら、切削を実施した。
ガラスサイズ:50mm×100mm×0.55mm
ガラス材質:化学強化ガラス
孔形状:約1mm×9.8mmの長孔
工具回転数:50,000rpm
工具送り速度:60mm/分
板厚方向切り込み量:0.05mm
【0071】
各穴開け加工用砥石について、上記加工条件で10孔づつ孔開け加工を行った。発明例の穴開け加工用砥石で作製した孔は、砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石や、頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合が50%未満の穴開け加工用砥石で作製した孔と比べて、加工面の表面性状が滑らかだった。
【0072】
2)限界送り速度の計測
上記1)の条件で砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石で作製した孔について、孔の拡張と加工面の形状を整えるための面取り加工を実施し、限界送り速度を計測した。限界送り速度とは、それ以上送り速度を上げると、砥石が焼きつき、研削できなくなるか、もしくはチッピングが100μm以上に粗大化する速度と定義した。尚、面取り加工には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した、頂部にカーバイド層を有していない面取り加工用砥石を使用した。
【0073】
具体的には、孔開け加工用砥石で携帯端末用カバーガラスに作製した孔の加工面の形状を整えるための面取り加工を、所定の切り込み量でダイヤモンド砥石を横方向および縦方向に移動させる方法で実施した。工具送り速度を増加させながら、下記の加工条件で面取り加工を行った。尚、面取り加工は、切削部位に中性の水系クーラントをかけながら実施した。
ガラスサイズ:50mm×100mm×0.55mm
ガラス材質:化学強化ガラス
孔形状:約1mm×9.8mmの長孔を面取し、1.2mm×10.0mmの長孔に加工
工具回転数:50,000rpm
切込量:0.10mm
【0074】
3)面取り加工におけるチッピングの評価
次に、穴開け加工用砥石で作製した孔の面取り加工を実施した。面取り加工には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した、頂部にカーバイド層を有する面取り加工用砥石を使用した。面取り加工は、工具送り速度を上記で求めた頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度を超えた速度に設定する以外は、上記と同じ加工条件で行った。また、使用した工具送り速度の、頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度に対する倍率も計算した。
面取り加工後の孔をマイクロスコープで観察し、100μm以上の粗大なチッピングの有無を確認した。尚、10孔について面取り加工を行い、チッピングの生じた孔が1つでも存在した場合に、チッピング有りと評価した。
【0075】
頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度、頂部にカーバイド層を有する砥石による面取り加工に用いた送り速度および100μm以上の粗大なチッピングの有無を表1に示した。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から明らかなように、砥粒径が3μm未満では、砥粒の頂部のカ−バイド層の有無にかかわらず、焼き付きが生じた(比較例No.1とNo.2)。また、砥粒径が15μm超では、砥粒の頂部のカ−バイド層の有無にかかわらず、100μm以上の粗大なチッピングが発生した(比較例No.24〜No.27)。
一方、砥粒径が3〜15μmの範囲内であり、さらに頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合が50%以上の場合には、頂部にカ−バイド層の被覆が無い砥石と比べて、限界送り速度の1.2倍〜1.3倍の速度でも、100μm以上の粗大なチッピングの発生は抑性された(発明例No.6〜No.9、No.13〜No.16、No.20〜No.23)。しかしながら、砥粒径が3〜15μmの範囲内であっても、頂部にカーバイド層を有する砥粒割合が50%未満の場合には、粗大なチッピングの発生を抑えることはできなかった(比較例No.4とNo.5、No.11とNo.12、No.18とNo.19)。
【0078】
(実施例2)
<ダイヤモンド砥石の作製>
ダイヤモンド砥粒として、平均粒径dが、4.5μm、7.5μm、14μmのものをそれぞれ使用し、面取り用砥石をそれぞれ作製した。ろう材の組成をNi−4.2%Si−3.0%B−0.2〜2.0%P−2.0%Tiとし(即ち、Pの量を砥石によって変化させ)、ろう付けのための熱処理条件を1030℃×30分として、ダイヤモンド砥粒の頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合を80%以上としたこと以外は、実施例1と同様に穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。更にカーバイド層の厚みを調整するために、表2示した条件で拡散熱処理を実施した。
【0079】
尚、比較例No.31、No.42、No.53の砥石は、ろう付けのための熱処理条件を1000℃×20分とする以外は実施例1と同様にして、砥粒の頂部にカーバイド層を有していない穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。
【0080】
<カーバイド層の厚みの測定>
砥石のカーバイド層の厚みは、次のようにして測定した。砥石の表面を元素分析機能(EDX)付き走査電子顕微鏡で観察し、頂部にカーバイド層を有する砥粒を選定した。選定した砥粒を集束イオンビーム(FIB)加工によって輪切りにした後、その切断面の元素マッピングを行い、TiとCとが重なり合っている厚みを、カーバイド層の厚みとした。
【0081】
<ダイヤモンド砥石の評価方法>
上記で作製した孔開け加工用砥石と面取り加工用砥石について、実施例1と同様に、ガラスの孔開け加工とそれに続く面取り加工によるチッピングの有無によって、砥石の性能を評価した。
尚、発明例の穴開け加工用砥石で作製した孔は、砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石で作製した孔と比べて、加工面の表面性状が滑らかだった。
また、穴開け加工用砥石で作製した孔の面取り加工を実施する際には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した面取り加工用砥石を使用した。
【0082】
各砥石に付いて、使用した砥粒の平均粒径d、拡散熱処理条件、カ−バイド層の厚みt、平均粒径dに対するカ−バイド層の厚みt(t/d)と共に、砥石の評価結果(頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度、頂部にカーバイド層を有する砥石による面取り加工に用いた送り速度および100μm以上の粗大なチッピングの有無)を表2に示した。
【0083】
【表2】
【0084】
表2から明らかなように、砥粒の頂部にカーバイド層を有する発明例の砥石(発明例No.32、No.34〜No.39、No.41、No.43、No.45〜No.50、No.52、No.54、No.56〜No.61、No.63)では、カーバイド層を有していない比較例の砥石(比較例No.31、No.42、No.53)と比べて、送り速度を1.1倍以上に設定した場合においても、粗大なチッピングの発生は無かった。また、t/dが0.01未満または0.3超である砥石の場合には、送り速度が1.1倍では粗大なチッピングの発生は無かったが(発明例No.32、No.41、No.43、No.52、No.54、No.63)、送り速度を1.2〜1.3倍に設定した場合には、粗大なチッピングが発生することがあった(発明例No.33、No.40、No.44、No.51、No.55、No.62)。一方、t/dが0.01〜0.3の範囲内である砥石の場合には、送り速度を1.2倍または1.3倍に設定しても粗大なチッピングの発生は無かった(発明例No.34〜No.39、No.45〜No.50、No.56〜No.61)。
【0085】
(実施例3)
<ダイヤモンド砥石の作製>
ダイヤモンド砥粒として、平均粒径dが7.5μmのものを使用し、ろう材の組成をNi=bal、Si=7.5%、B=3.0%であり、PとXの含有量を表3に示したように変更し、ろう付け熱処理条件を1030℃×30分とした以外は、実施例1と同様に穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。尚、ろう材のXはCr、Ti、Nb、Ta、VおよびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、表3に示したように、Xとして上記元素の単独添加または2種の複合添加を行った。ろう材の組成における元素の合計量が100となるように、Ni量で調整した。
上記熱処理条件によって、頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合を80%以上に調整した。更に、表3示した条件で拡散熱処理を実施することで、カーバイド層の厚みを調整した。
得られた砥石において、ろう材層の厚みはダイヤモンド砥粒径の約40%であり、砥石の砥粒間距離Lは1.2d〜3.0dであった。
【0086】
比較例においては、ろう付けのための熱処理条件を1000℃×20分とする以外は実施例1と同様にして、砥粒の頂部にカーバイド層を有していない穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。
【0087】
<カーバイド層の厚みの測定>
実施例2と同様にカーバイド層の厚みを測定した。但し、カーバイド層の厚みは、切断面の元素マッピングにおいて、使用した元素XとCとが重なり合っている厚みとした。
【0088】
<ダイヤモンド砥石の評価方法>
上記で作製した孔開け加工用砥石と面取り加工用砥石について、実施例1と同様に、ガラスの孔開け加工とそれに続く面取り加工によるチッピングの有無によって、砥石の性能を評価した。
尚、発明例の穴開け加工用砥石で作製した孔は、砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石で作製した孔と比べて、加工面の表面性状が滑らかだった。
また、穴開け加工用砥石で作製した孔の面取り加工を実施する際には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した面取り加工用砥石を使用した。
【0089】
各砥石に付いて、ろう材中のXの種類と含有量、拡散熱処理条件、カ−バイド層の厚みt、t/dと共に、砥石の評価結果(頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度、頂部にカーバイド層を有する砥石による面取り加工に用いた送り速度および100μm以上の粗大なチッピングの有無)を表3に示した。
【0090】
【表3】
【0091】
表3から明らかなように、同じ組成のろう材を使用した砥石の場合、砥粒の頂部にカーバイド層を有し、その厚みt/dが0.01〜0.3の範囲である発明例の砥石は、工具送り速度を比較例の限界送り速度の1.2〜1.3倍に設定した場合でも、粗大なチッピングの発生は無かった。
【0092】
(実施例4)
<ダイヤモンド砥石の作製>
ダイヤモンド砥粒として、平均粒径dが7.5μmのものを使用し、ろう材の組成を、P=1.0%、Ti=2.0%であり、Ni、Fe、SiおよびBの含有量を表4−1に示したように変更し、ろう付け熱処理条件を1030℃×30分とした以外は、実施例1と同様に穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。
上記熱処理条件によって、頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合を80%以上に調整した。更に、表4−2示した条件で拡散熱処理を実施することで、カーバイド層の厚みを調整した。
得られた砥石において、ろう材層の厚みはダイヤモンド砥粒径の約40%であり、砥石の砥粒間距離Lは1.2d〜3.0dであった。
【0093】
比較例においては、ろう付けのための熱処理条件を1000℃×20分とする以外は実施例1と同様にして、砥粒の頂部にカーバイド層を有していない穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。
【0094】
<カーバイド層の厚みの測定>
実施例2と同様にカーバイド層の厚みを測定した。
【0095】
<ダイヤモンド砥石の評価方法>
上記で作製した孔開け加工用砥石と面取り加工用砥石について、実施例1と同様に、ガラスの孔開け加工とそれに続く面取り加工によるチッピングの有無によって、砥石の性能を評価した。
尚、発明例の穴開け加工用砥石で作製した孔は、砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石で作製した孔と比べて、加工面の表面性状が滑らかだった。
また、穴開け加工用砥石で作製した孔の面取り加工を実施する際には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した面取り加工用砥石を使用した。
【0096】
各砥石に付いて、ろう材の組成を表4−1に示し、拡散熱処理条件、カ−バイド層の厚みt、t/d、および砥石の評価結果(頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度、頂部にカーバイド層を有する砥石による面取り加工に用いた送り速度および100μm以上の粗大なチッピングの有無)を表4−2に示した。
【0097】
【表4-1】
【0098】
【表4-2】
【0099】
表4−1と表4−2の結果から明らかなように、同じ組成のろう材を使用した砥石の場合、砥粒の頂部にカーバイド層を有し、その厚みt/dが0.01〜0.3の範囲である発明例の砥石は、工具送り速度を比較例の限界送り速度の1.3倍に設定した場合でも、粗大なチッピングの発生は無かった。
【0100】
また、ろう材が、70%≦Ni+Fe≦95%(ただし、0≦Fe/(Ni+Fe)≦0.4)および2%≦Si+B≦15%(ただし、0≦B/(Si+B)≦0.8)の全ての要件も満たす発明例No.106、No.108、No.110、No.114、No.118、No.120のダイヤモンド砥石では、600孔の面取りを行う間にダイヤモンド砥粒の脱落は生じなかった。
一方、Ni+Feが70%未満であり、且つSi+Bが15%超の発明例No.102、Si+Bが15%超の発明例No.104、Ni+Feが95%超であり、且つSi+Bが2%未満の発明例No.112、Fe/(Ni+Fe)が0.4超の発明例No.116、およびB/(Si+B)が0.8超の発明例No.122のダイヤモンド砥石においては、400孔の面取りを行う間にダイヤモンド砥粒の脱落は見られなかったが、それ以降は、砥粒の脱落が生じた。
【0101】
(実施例5)
<ダイヤモンド砥石の作製>
ダイヤモンド砥粒として、平均粒径dが7.5μmのものを使用し、ろう材の組成を、P=3.6%、Ti=2.7%であり、Ni、Fe、SiおよびBの含有量を表5−1に示したように変更し、ろう付け熱処理条件を1030℃×30分とした以外は、実施例1と同様に穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。
上記熱処理条件によって、頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合を80%以上に調整した。更に、表5−2示した条件で拡散熱処理を実施することで、カーバイド層の厚みを調整した。
得られた砥石において、ろう材層の厚みはダイヤモンド砥粒径の約40%であり、砥石の砥粒間距離Lは1.2d〜3.0dであった。
【0102】
比較例においては、ろう付けのための熱処理条件を1000℃×20分とする以外は実施例1と同様にして、砥粒の頂部にカーバイド層を有していない穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。
【0103】
<カーバイド層の厚みの測定>
実施例2と同様にカーバイド層の厚みを測定した。
【0104】
<ダイヤモンド砥石の評価方法>
上記で作製した孔開け加工用砥石と面取り加工用砥石について、実施例1と同様に、ガラスの孔開け加工とそれに続く面取り加工によるチッピングの有無によって、砥石の性能を評価した。
尚、発明例の穴開け加工用砥石で作製した孔は、砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石で作製した孔と比べて、加工面の表面性状が滑らかだった。
また、穴開け加工用砥石で作製した孔の面取り加工を実施する際には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した面取り加工用砥石を使用した。
【0105】
各砥石に付いて、ろう材の組成を表5−1に示し、拡散熱処理条件、カ−バイド層の厚みt、t/d、および砥石の評価結果(頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度、頂部にカーバイド層を有する砥石による面取り加工に用いた送り速度および100μm以上の粗大なチッピングの有無)を表5−2に示した。
【0106】
【表5-1】
【0107】
【表5-2】
【0108】
表5−1と表5−2の結果から明らかなように、同じ組成のろう材を使用した砥石の場合、砥粒の頂部にカーバイド層を有し、その厚みt/dが0.01〜0.3の範囲である発明例の砥石は、工具送り速度を比較例の限界送り速度の1.3倍に設定した場合でも、粗大なチッピングの発生は無かった。
【0109】
また、ろう材が、70%≦Ni+Fe≦95%(ただし、0≦Fe/(Ni+Fe)≦0.4)および2%≦Si+B≦15%(ただし、0≦B/(Si+B)≦0.8)の全ての要件も満たす発明例No.132、No.134のダイヤモンド砥石では、600孔の面取りを行う間にダイヤモンド砥粒の脱落は生じなかった。
一方、Si+Bが2%未満の発明例No.136のダイヤモンド砥石においては、400孔の面取りを行う間にダイヤモンド砥粒の脱落は見られなかったが、それ以降は、砥粒の脱落が生じた。
【0110】
(実施例6)
<ダイヤモンド砥石の作製>
ダイヤモンド砥粒として、平均粒径dが7.5μmのものを使用し、ろう材の組成を、Ni=bal、Fe=0.07%、Si=7.5%、B=3.0%であり、PおよびXとしてのTiの含有量を表6−1〜表6−3に示したように変更し、ろう付け熱処理条件を1030℃×30分とした以外は、実施例1と同様に穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。尚、ろう材の組成における元素の合計量が100となるように、Ni量で調整した。更に、900℃×30分の拡散熱処理を実施することで、カーバイド層の厚みを調整した。
上記熱処理条件によって、頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合を80%以上に調整した。得られた砥石において、ろう材層の厚みはダイヤモンド砥粒径の約40%であり、砥石の砥粒間距離Lは1.2d〜3.0dであった。
【0111】
比較例においては、ろう付けのための熱処理条件を1000℃×20分とする以外は実施例1と同様にして、砥粒の頂部にカーバイド層を有していない穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。
【0112】
<カーバイド層の厚みの測定>
実施例2と同様にカーバイド層の厚みを測定した。
【0113】
<ダイヤモンド砥石の評価方法>
上記で作製した孔開け加工用砥石と面取り加工用砥石について、実施例1と同様に、ガラスの孔開け加工とそれに続く面取り加工によるチッピングの有無によって、砥石の性能を評価した。
尚、発明例の穴開け加工用砥石で作製した孔は、砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石で作製した孔と比べて、加工面の表面性状が滑らかだった。
また、穴開け加工用砥石で作製した孔の面取り加工を実施する際には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した面取り加工用砥石を使用した。
【0114】
各砥石に付いて、ろう材中のXとPの含有量、X/P、カ−バイド層の厚みt、t/dと共に、砥石の評価結果(頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度、頂部にカーバイド層を有する砥石による面取り加工に用いた送り速度および100μm以上の粗大なチッピングの有無)を表6−1〜表6−3に示した。
【0115】
【表6-1】
【0116】
【表6-2】
【0117】
【表6-3】
【0118】
表6−1〜表6−3から明らかなように、同じ組成のろう材を使用した砥石の場合、砥粒の頂部にカーバイド層を有し、その厚みt/dが0.01〜0.3の範囲である発明例の砥石は、工具送り速度を比較例の限界送り速度の1.2〜1.3倍に設定した場合でも、粗大なチッピングの発生は無かった。
【0119】
また、ろう材が、0.5%≦P≦8.0%、0.2%≦X≦3.0%、および0.2≦X/P≦4.0の全ての要件も満たす発明例No.158、No.160、No.162、No.164、No.166、No.172、No.174、No.176、No.178、No.180、No.186、No.188、No.190、およびNo.200の砥石では、600孔の面取りを行う間にダイヤモンド砥粒の脱落は生じなかった。
一方、Pが0.5%未満および/またはX/Pが4.0%超のろう材を用いた発明例No.142、No.156、No.170、No.184、No.198の砥石においては、400孔の面取りを行う間にダイヤモンド砥粒の脱落は見られなかったが、それ以降は、砥粒の脱落が生じた。
更にPが8%超、Xが0.2%未満および/またはX/Pが0.2未満である発明例No.154、No.168、No.182、No.192、No.194、No.196、No.202、No.204、No.206、No.210、No.212、No.214の砥石においては、工具送り速度を比較例の限界送り速度の1.3倍に設定した場合、少数ではあるが、粗大なチッピングが発生する場合があった。
【0120】
(実施例7)
<ダイヤモンド砥石の作製>
ダイヤモンド砥粒として、平均粒径dが7.5μmのものを使用し、ろう材の組成を、Ni=bal、Fe=0.07%、Si=7.5%、B=3.0%であり、PおよびXの含有量を表7−1と表7−2に示したように変更し、ろう付け熱処理条件を1030℃×30分とした以外は、実施例1と同様に穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。尚、ろう材の組成における元素の合計量が100となるように、Ni量で調整した。
更に、900℃×30分の拡散熱処理を実施することで、カーバイド層の厚みを調整した。
尚、上記熱処理条件によって、頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合を80%以上に調整した。得られた砥石において、ろう材層の厚みはダイヤモンド砥粒径の約40%であり、砥石の砥粒間距離Lは1.2d〜3.0dであった。
【0121】
比較例においては、ろう付けのための熱処理条件を1000℃×20分とする以外は実施例1と同様にして、砥粒の頂部にカーバイド層を有していない穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。
【0122】
<カーバイド層の厚みの測定>
実施例2と同様にカーバイド層の厚みを測定した。但し、カーバイド層の厚みは、切断面の元素マッピングにおいて、使用した元素XとCとが重なり合っている厚みとした。
【0123】
<ダイヤモンド砥石の評価方法>
上記で作製した孔開け加工用砥石と面取り加工用砥石について、実施例1と同様に、ガラスの孔開け加工とそれに続く面取り加工によるチッピングの有無によって、砥石の性能を評価した。
尚、発明例の穴開け加工用砥石で作製した孔は、砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石で作製した孔と比べて、加工面の表面性状が滑らかだった。
また、穴開け加工用砥石で作製した孔の面取り加工を実施する際には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した面取り加工用砥石を使用した。
【0124】
各砥石に付いて、ろう材中のXとPの含有量、X/P、カ−バイド層の厚みt、t/dと共に、砥石の評価結果(頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度、頂部にカーバイド層を有する砥石による面取り加工に用いた送り速度および100μm以上の粗大なチッピングの有無)を表7−1と表7−2に示した。
【0125】
【表7-1】
【0126】
【表7-2】
【0127】
表7−1と表7−2から明らかなように、ろう材の組成にかかわらず、砥粒の頂部にカーバイド層を有し、その厚みt/dが0.01〜0.3の範囲である発明例の砥石は、工具送り速度を比較例の限界送り速度の1.3倍に設定した場合でも、粗大なチッピングの発生は無かった。
【0128】
(実施例8)
<カーバイド層を有する砥粒の作製>
平均粒径dが7.5μmのダイヤモンド砥粒の表面に、スパッタ法を用いて、X元素からなる皮膜層を形成させた。
初めに、純度99.9%のCr、Ti、Nb、Ta、およびVのそれぞれから直径4インチのターゲットを作製した。
次に、ダイヤモンド砥粒をガラス板の上に互いに重なり合わないように散布して、その上に、スパッタによって皮膜を形成させた。スパッタは、先に作製したターゲットと一般的な高周波マグネトロンスパッタ装置を用い、スパッタ電力は600W、雰囲気は0.3PaのArとし、1回のスパッタ時間を10分として行った。1回のスパッタでは、砥粒の下側の部位には皮膜が形成されないため、1回目のスパッタが終了した後、ガラスの上の砥粒を一旦回収し、再び、ガラスの上に散布して、再スパッタを行うことを3回繰り返した。1回10分のスパッタを3回繰り返すことによって、0.5〜0.7μmの皮膜を有する、被覆率80%以上の砥粒が得られた。
次に、それぞれの金属が皮膜された砥粒を10
−3Paの真空中で1060℃×30分熱処理し、皮膜元素とダイヤモンドの炭素とを反応させて、カ−バイド層を形成させ、カーバイド層を有する砥粒を得た。
【0129】
<ダイヤモンド砥石の作製>
ダイヤモンド砥粒として、上記のカーバイド層を有する砥粒を使用し、ろう材の組成を、Ni=bal、Si=7.5%、B=3.0%、P=1.0%に変更し、ろう付け熱処理条件を1000℃×20分とした以外は、実施例1と同様に穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。尚、ろう材の組成における元素の合計量が100となるように、Ni量で調整した。
尚、得られた砥石においては、頂部にカーバイド層を有する砥粒の割合は97%以上であった。ろう材層の厚みはダイヤモンド砥粒径の約40%であり、砥石の砥粒間距離Lは1.2d〜3.0dであった。
【0130】
比較例においては、皮膜無しのダイヤモンド砥粒を用いる以外は上記と同様にして、砥粒の頂部にカーバイド層を有していない穴あけ加工用砥石と面取り加工用砥石をそれぞれ作製した。但し、砥粒の接合強度を確保するために、ろう材には2.0%のTiを加えた。得られた砥石は、砥粒の頂部にカ−バイドを有していなかった。
【0131】
<カーバイド層の厚みの測定>
実施例2と同様にカーバイド層の厚みを測定した。但し、カーバイド層の厚みは、切断面の元素マッピングにおいて、使用した元素XとCとが重なり合っている厚みとした。
【0132】
<ダイヤモンド砥石の評価方法>
上記で作製した孔開け加工用砥石と面取り加工用砥石について、実施例1と同様に、ガラスの孔開け加工とそれに続く面取り加工によるチッピングの有無によって、砥石の性能を評価した。
尚、発明例の穴開け加工用砥石で作製した孔は、砥粒頂部にカーバイド層を有しない比較例の穴開け加工用砥石で作製した孔と比べて、加工面の表面性状が滑らかだった。
また、穴開け加工用砥石で作製した孔の面取り加工を実施する際には、穴開け加工用砥石と同じ砥粒、ろう材、および製造条件を用いて作製した面取り加工用砥石を使用した。
【0133】
各砥石に付いて、皮膜の形成に用いた元素、カ−バイド層の厚みt、t/dと共に、砥石の評価結果(頂部にカーバイド層を有していない砥石の限界送り速度、頂部にカーバイド層を有する砥石による面取り加工に用いた送り速度および100μm以上の粗大なチッピングの有無)を表8に示した。
【0134】
【表8】
【0135】
表8から明らかなように、砥粒の97%以上が頂部にカーバイド層を有する発明例No.282〜No.287の砥石においては、砥粒頂部にカ−バイド層の被覆が無い比較例No.281の砥石の限界送り速度の1.2倍の速度でも、100μm以上の粗大なチッピングの発生は抑性された。