【解決手段】上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、原盤基材と、原盤基材の表面に形成され、第1の方向に伸びる複数の第1の凹部と、原盤基材の表面に形成され、第1の方向に交差する第2の方向に伸びる複数の第2の凹部と、を備え、第1の凹部及び第2の凹部のうち、少なくとも一方の凹部の底面が曲面となっている、原盤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
<1.原盤の構成>
まず
図1〜
図4に基づいて、本実施形態に係る原盤10の構成について説明する。原盤10は、いわゆる切削加工原盤である。
図1に示すように、原盤10は、原盤基材11と、原盤基材11の周面を被覆する被覆層12と、被覆層12の表面に形成されたラジアル凹部20、スラスト凹部30、及び原盤凸部40とを備える。なお、
図1では、ラジアル凹部20、スラスト凹部30、及び原盤凸部40の一部だけが描かれている。
【0023】
原盤基材11は、円柱または円筒形状となっている。以下の説明では、原盤10の周方向を「ラジアル方向」(第1の方向)とも称する。また、原盤10の周面上の各方向のうち、「ラジアル方向」に交差する方向を「スラスト方向」(第2の方向)とも称する。
【0024】
原盤基材11を構成する材料は特に限定されず、切削加工原盤の原盤基材に使用される材料であれば特に制限されない。例えば、原盤基材11は、SUS(ステンレス鋼)、SC材(炭素鋼鋳鋼材)、SCM材(クロムモリブデン鋼材)等で構成される。また、原盤基材11のサイズも特に制限されない。一例として、原盤基材11の直径は100〜300mmであってもよく、軸方向の長さは250〜500mmであってもよい。
【0025】
被覆層12は、原盤基材11の周面を被覆する層である。被覆層12の表面にラジアル凹部20、スラスト凹部30、及び原盤凸部40が形成される。被覆層12を構成する材料は特に限定されず、切削加工原盤の被覆層に使用される材料であれば特に制限されない。例えば、被覆層12は、Cu、Ni−P合金、アルミニウム材、黄銅(真鍮)等で構成される。なお、詳細は後述するが、被覆層12は、例えば被覆層12の材料を原盤基材11の表面にめっきすることで形成されても良い。
【0026】
図1及び
図2に示すように、被覆層12の表面には、ラジアル凹部20、スラスト凹部30、及び原盤凸部40が形成される。ラジアル凹部20は、被覆層12の表面に複数形成される。各ラジアル凹部20は、互いに平行になっており、ラジアル方向に伸びる。また、
図3に示すように、ラジアル凹部20の底面、すなわちラジアル底面21は曲面となっている。
【0027】
スラスト凹部30は、被覆層12の表面に複数形成される。各スラスト凹部30は、互いに平行になっており、スラスト方向に伸びる。また、
図4に示すように、スラスト凹部30の底面、すなわちスラスト底面31は曲面(より具体的には、原盤10の厚さ方向内側に向けて凸形状となる曲面)となっている。スラスト底面31の曲率は、ラジアル底面21の曲率と同様であることが好ましい。
【0028】
詳細は後述するが、本実施形態では、原盤10を転写型として用いることで、凹凸フィルム200を作製する(
図13参照)。凹凸フィルム200の表面には、原盤10の凹凸構造の反転形状を有する凹凸構造が形成される。すなわち、凹凸フィルム200の表面には、ラジアル凹部20、スラスト凹部30、及び原盤凸部40の反転形状を有するラジアル凸部220、スラスト凸部230、及び凹部240が形成される(
図14〜
図16参照)。
【0029】
ラジアル凸部220は、凹凸フィルム200の長さ方向(第3の方向)に伸び、スラスト凸部230は凹凸フィルム200の面方向のうち、凹凸フィルム200の長さ方向に交差する方向(第4の方向)に伸びる。以下の説明では、本実施形態の理解を容易にするために、凹凸フィルム200の長さ方向も「ラジアル方向」と称する。また、凹凸フィルム200の面方向のうち、凹凸フィルム200の長さ方向に交差する方向を「スラスト方向」とも称する。したがって、ラジアル凸部220はラジアル方向に伸び、スラスト凸部230はスラスト方向に伸びる。
【0030】
さらに、スラスト凸部230の上端面、すなわちスラスト上端面231は曲面となる。このため、例えば凹凸フィルム200を用いてフィラー充填フィルムを作製する際に、フィラー400が凹部240に入り込みやすくなる。さらに、凹部240の開口縁部に引っかかったフィラー400は、布等によってスラスト上端面231から外部に排出されやすくなる(
図20〜21参照)。同様に、ラジアル凸部220の上端面、すなわちラジアル上端面221も曲面となる。これにより、フィラー400が凹部240にさらに入り込みやすくなり、かつ、開口縁部に引っかかったフィラーがさらに外部に排出されやすくなる。
【0031】
原盤凸部40は、ラジアル凹部20及びスラスト凹部30によって囲まれる領域である。原盤凸部40によって、凹凸フィルム200に凹部240が形成される。この凹部240には、例えばフィラー400が充填される。被覆層12の表面構造は、例えば、光学顕微鏡によって観察可能である。また、断面形状は、原盤10を転写型として用いて作製された凹凸フィルム200の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)などにより観察することよって実質的に観察可能である。
【0032】
ラジアル凹部20、スラスト凹部30、及び原盤凸部40の具体的な寸法は特に制限されない。すなわち、これらの寸法は、凹凸フィルム200に要求される特性等に応じて任意に設定されれば良い。
【0033】
例えば、ラジアル凹部20は全て同じピッチで配列されていてもよく、異なるピッチで配列されていてもよい。スラスト凹部30も全て同じピッチで配列されていてもよく、異なるピッチで配列されていてもよい。ラジアル凹部20のピッチとスラスト凹部30のピッチとは互いに同じであっても、異なっていても良い。また、ラジアル凹部20の幅とスラスト凹部30の幅とは互いに同じであっても異なっていても良い。
【0034】
また、凹凸フィルム200がフィラー充填フィルムとして使用される場合、原盤凸部40の対辺間の距離L1、L2は、いずれもフィラー400の直径よりも大きいことが好ましい。凹部240にフィラー400を入り込みやすくするためである。L1、L2は、例えばフィラー400の直径の1.1倍以上であってもよい。また、ラジアル凹部20の深さL3及びスラスト凹部30の深さL4は、いずれもフィラー400の直径よりも大きいことが好ましい。凹部240にフィラー400を入り込みやすくするためである。L3、L4は、例えばフィラー400の直径の1.1倍以上であってもよい。
【0035】
また、ラジアル底面21及びスラスト底面31の曲率は、フィラー400の半径の0.5倍以上1.5倍以下であることが好ましい。この場合、フィラー400が凹部240に入り込みやすくなり、かつ、開口縁部に引っかかったフィラーが外部に排出されやすくなる。なお、スラスト底面31の曲率は、ラジアル上端面221及びスラスト上端面231の曲率と同様の方法により測定されれば良い。ラジアル上端面221及びスラスト上端面231の曲率の測定方法(算出方法)については後述する。
【0036】
なお、
図5に示すように、ラジアル底面21は平面であってもよい。ただし、ラジアル底面21も曲面であることが好ましい。ラジアル底面21及びスラスト底面31の両方を曲面とすることで、フィラー400が凹部240にさらに入り込みやすくなり、かつ、開口縁部に引っかかったフィラーがさらに外部に排出されやすくなるからである。
【0037】
このように、本実施形態では、ラジアル底面21及びスラスト底面31の少なくとも一方が曲面となっている。なお、詳細は後述するが、フィラー400は、布等による掻き取り方向と交差する方向の凸部にフィラー400が引っ掛かりやすい。本実施形態では、例えば、凹凸フィルム200の長さ方向(すなわち、ラジアル方向に対応)に掻き取りを行う。したがって、フィラー400は、スラスト凸部230の上端面、すなわちスラスト上端面231に引っ掛かりやすい。このため、本実施形態では、スラスト上端面231、すなわちスラスト底面31を曲面とすることが好ましい。ただし、ラジアル底面21及びスラスト底面31の少なくとも一方が曲面となっていれば良好な効果が得られる。すなわち、ラジアル方向に掻き取りを行う場合であっても、スラスト底面31は平面であっても良い。この場合、ラジアル底面21が曲面となる。
【0038】
また、布等による掻き取り方向はスラスト方向であってもよい。この場合、ラジアル上端面221、すなわちラジアル底面21を曲面とすることが好ましい。もちろん、この場合であっても、ラジアル底面21は平面であっても良い。この場合、スラスト底面31が曲面となる。
【0039】
また、被覆層12の表面に形成される凹部の方向は上記の例に限られない。例えば、いずれの凹部もスラスト方向に伸びてもよい。そして、布等による掻き取り方向がラジアル方向となる場合、これらの凹部の底面の少なくとも一方を曲面とすることが好ましく、双方を曲面とすることがさらに好ましい。
【0040】
<2.バイトの構成>
本実施形態では、
図6及び
図7に示す曲面作製用バイト500を用いて被覆層12を切削することで、原盤10を作製する。そこで、まず、
図6〜
図7に基づいて、曲面作製用バイト500の構成について説明する。
【0041】
曲面作製用バイト500は、ラジアル凹部20及びスラスト凹部30を被覆層12の表面に形成するために使用される。曲面作製用バイト500は、本体部510及び曲面作製用切削部520を備える。本体部510は、原盤10の製造装置、例えば精密旋盤等に取り付けられる部分である。曲面作製用切削部520は、本体部510の先端に設けられる。曲面作製用切削部520は、被覆層12を切削する部分である。
図6及び
図7に示すように、曲面作製用切削部520の先端部は(正面図視で)曲面となっている。すなわち、曲面作製用切削部520の先端部は、曲面先端部520aとなっている。したがって、曲面作製用切削部520は、この曲面先端部520aで被覆層12を切削することができるので、ラジアル凹部20及びスラスト凹部30を形成することができる。曲面先端部520aの幅W1は特に制限されない。すなわち、この幅W1によってラジアル底面21及びスラスト底面31の幅がほぼ決まるので、凹凸フィルム200に要求される特性に応じてW1を決定すれば良い。曲面作製用切削部520を構成する材料は特に制限されず、切削加工原盤製造用の切削部に適用される材料であればどのようなものであってもよい。例えば、曲面作製用切削部520は、ダイヤモンドで構成される。曲面作製用切削部520は、超硬合金、SKH(ハイスピード工具鋼)等で構成されていてもよい。
【0042】
次に、
図8〜
図9に基づいて、平面作製用バイト600の構成について説明する。平面作製用バイト600は、ラジアル底面21及びスラスト底面31のうち、いずれかを平面としたい場合に使用される。平面作製用バイト600は、本体部610及び平面作製用切削部620を備える。本体部610は、原盤10の製造装置、例えば精密旋盤等に取り付けられる部分である。平面作製用切削部620は、本体部610の先端に設けられる。平面作製用切削部620は、被覆層12を切削する部分である。
図8及び
図9に示すように、平面作製用切削部620の先端部は平面となっている。すなわち、平面作製用切削部620の先端部は、平面先端部620aとなっている。言い換えれば、平面先端部620a及びその周辺形状は矩形となっている。したがって、平面作製用切削部620は、この平面先端部620aで被覆層12を切削することができるので、平面のラジアル底面21あるいはスラスト底面31を形成することができる。平面先端部620aの幅W2は特に制限されない。すなわち、この幅W2によってラジアル底面21あるいはスラスト底面31の幅がほぼ決まるので、凹凸フィルム200に要求される特性に応じてW2を決定すれば良い。平面作製用切削部620は、曲面作製用切削部520と同様の材料で構成されればよい。
【0043】
<3.曲面作製用バイトの製造方法>
つぎに、曲面作製用バイト500の製造方法について説明する。曲面作製用バイト500の製造方法は特に制限されないが、例えば、平面作製用バイト600で被覆層12用の材料で構成された板状部材を切削する方法が挙げられる。平面作製用バイト600の平面作製用切削部620は、切削により摩耗するので、このような方法により曲面作製用バイト500を作製することができる。具体的には、まず、板状部材を構成する材料と平面作製用切削部620を構成する材料との組み合わせ、切削長さ、及び切削深さ等と、曲面先端部520aの曲率との相関を予め相関データとして取得しておく。板状部材を構成する材料と平面作製用切削部620を構成する材料との組み合わせ、切削長さ、及び切削深さ等に応じて平面作製用切削部620の摩耗量が異なる。そして、平面作製用切削部620の摩耗量が大きいほど、曲面作製用切削部520の曲面先端部520aの曲率が大きくなる。したがって、このような相関データの取得が可能となる。また、この曲率によって、スラスト底面31、すなわちスラスト上端面231の曲率が決まる。ついで、曲面先端部520aの目標曲率を決定する。ついで、目標曲率に応じた相関データを取得する。そして、この相関データに基づいて、板状部材及び平面作製用切削部620を選択する。そして、平面作製用切削部620を用いて板状部材を切削する。ここで、切削長さ及び切削深さは相関データに従う。以上の工程により、曲面作製用バイト500を作製する。これにより、所望の曲率を有する曲面作製用切削部520を容易かつ高い再現性で作製することができる。
【0044】
なお、曲面先端部520aの曲率は、ラジアル上端面221及びスラスト上端面231の曲率と同様の方法により測定されれば良い。ラジアル上端面221及びスラスト上端面231の曲率の測定方法(算出方法)については後述する。
<4.原盤の製造方法>
次に、
図10〜
図12に基づいて、原盤の製造方法について説明する。まず、
図10に示すように、原盤基材11の周面に被覆層12を形成する。例えば、被覆層12を構成する材料(例えば、Cu、Ni−P合金等)を原盤基材11の周面にめっきする。めっきの種類は特に問わないが、例えば電解めっき等であればよい。
図10に示すように、めっき直後の被覆層12は、表面が荒れた形状となっていることが多い。そこで、原盤基材11の周面に被覆層12を形成した後に、被覆層12の平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理の内容は特に問われないが、例えば、平滑化用のバイト(切削部が略半球形状となったバイト)を用いて行われても良い。この方法では、例えば、被覆層12が形成された原盤基材11及び平滑化用のバイトを精密旋盤に取り付ける。ついで、原盤基材11を、原盤基材11の中心軸を回転軸として回転させる。ついで、平滑化バイトの切削部を被覆層12の一方の軸方向端部に押し付ける。ここで、軸方向は、原盤基材11の中心軸方向を意味する。その後、原盤基材11を回転させながら、平滑化バイトを一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に移動させる。以上の工程により、被覆層12が平滑化される。
【0045】
ついで、被覆層12の表面にスラスト凹部30を形成する。具体的には、
図11に示すように、被覆層12が形成された原盤基材11及び曲面作製用バイト500を精密旋盤に取り付ける。ついで、曲面作製用切削部520(より厳密には、曲面作製用切削部520の曲面先端部520a)を被覆層12の一方の軸方向端部に押し付ける。その後、原盤基材11を回転させながら、曲面作製用バイト500を一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に移動させる。これにより、スラスト凹部30を被覆層12上に形成する。その後、曲面作製用バイト500を被覆層12の一方の軸方向端部に戻す。そして、曲面作製用バイト500または原盤基材11を今回作製されたスラスト凹部30から1ピッチ分ずらし、上記と同様の処理を繰り返す。以上の工程により、被覆層12の表面に複数のスラスト凹部30を形成する。なお、
図11には、スラスト凹部30の一部を示した。
【0046】
ついで、被覆層12の表面にラジアル凹部20を形成する。具体的には、
図12に示すように、曲面作製用バイト500を精密旋盤に取り付ける。ついで、曲面作製用切削部520(より厳密には、曲面作製用切削部520の曲面先端部520a)を被覆層12の一方の軸方向端部に押し付ける。その後、原盤基材11を1回転させる。これにより、1周分のラジアル凹部20を形成する。その後、曲面作製用バイト500を他方の軸方向に1ピッチ分だけ移動させ、同様の処理を行う。以上の処理を繰り返し行うことで、被覆層12の表面にラジアル凹部20を形成する。なお、
図12には、ラジアル凹部20の一部を示した。以上の工程により、原盤10を作製する。なお、ラジアル凹部20及びスラスト凹部30の作製手順は特に問われず、上記の逆の順序であっても良い。
【0047】
<5.転写装置の構成>
凹凸フィルム200は、ロールツーロール方式の転写装置によって製造可能である。以下では、
図13を参照して、転写装置の一例である転写装置100の構成について説明する。
図13に示す転写装置100では、光硬化性樹脂を用いて凹凸フィルム200を作製する。
【0048】
転写装置100は、原盤10と、基材供給ロール151と、巻取ロール152と、ガイドロール153、154と、ニップロール155と、剥離ロール156と、塗布装置157と、光源158とを備える。
【0049】
基材供給ロール151は、長尺な基材フィルム210がロール状に巻かれたロールであり、巻取ロール152は、凹凸フィルム200を巻き取るロールである。また、ガイドロール153、154は、基材フィルム210を搬送するロールである。ニップロール155は、未硬化樹脂層162が積層された基材フィルム210、すなわち被転写フィルム200aを原盤10に密着させるロールである。剥離ロール156は、凹凸層210aが積層された基材フィルム210、すなわち凹凸フィルム200を原盤10から剥離するロールである。
【0050】
塗布装置157は、コーターなどの塗布手段を備え、未硬化の光硬化樹脂組成物を基材フィルム210に塗布し、未硬化樹脂層162を形成する。塗布装置157は、例えば、グラビアコーター、ワイヤーバーコーター、またはダイコーターなどであってもよい。また、光源158は、光硬化樹脂組成物を硬化可能な波長の光を発する光源であり、例えば、紫外線ランプなどであってもよい。
【0051】
なお、光硬化性樹脂組成物は、所定の波長の光が照射されることにより流動性が低下し、硬化する樹脂である。具体的には、光硬化性樹脂組成物は、アクリル樹脂などの紫外線硬化樹脂であってもよい。また、光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、開始剤、フィラー、機能性添加剤、溶剤、無機材料、顔料、帯電防止剤、または増感色素などを含んでもよい。
【0052】
転写装置100では、まず、基材供給ロール151からガイドロール153を介して、基材フィルム210が連続的に送出される。なお、送出の途中で基材供給ロール151を別ロットの基材供給ロール151に変更してもよい。送出された基材フィルム210に対して、塗布装置157により未硬化の光硬化樹脂組成物が塗布され、基材フィルム210に未硬化樹脂層162が積層される。これにより、被転写フィルム200aが作製される。被転写フィルム200aは、ニップロール155により、原盤10と密着させられる。光源158は、原盤10に密着した未硬化樹脂層162に光を照射することで、未硬化樹脂層162を硬化する。これにより、凹凸層210aが形成される。すなわち、原盤10の外周面に形成された凹凸構造(すなわち、ラジアル凹部20、スラスト凹部30、及び原盤凸部40)が未硬化樹脂層162に転写される。また、凹凸層210aが積層された基材フィルム210、すなわち凹凸フィルム200は、剥離ロール156により原盤10から剥離される。ついで、凹凸フィルム200は、ガイドロール154を介して、巻取ロール152によって巻き取られる。
【0053】
このように、転写装置100では、被転写フィルム200aをロールツーロールで搬送する一方で、原盤10の周面形状を被転写フィルム200aに転写する。これにより、凹凸フィルム200が作製される。凹凸層210aの表面には、ラジアル凹部20の反転形状を有するラジアル凸部220(
図14参照)、スラスト凹部30の反転形状を有するスラスト凸部230(
図12、
図14参照)、原盤凸部40の反転形状を有する凹部240(
図12、
図14参照)が形成される。
図13から明らかな通り、ラジアル凸部220は凹凸フィルム200の長さ方向に伸びており、スラスト凸部230は凹凸フィルム200の長さ方向に交差する方向に伸びている。
【0054】
なお、凹凸フィルム200を熱可塑性樹脂で作製する場合、塗布装置157及び光源158は不要となる。また、基材フィルム210を熱可塑性樹脂フィルムとし、原盤10よりも上流側に加熱装置を配置する。この加熱装置によって基材フィルム210を加熱して柔らかくし、その後、基材フィルム210を原盤10に押し付ける。これにより、原盤10の周面に形成された凹凸構造が基材フィルム210に転写される。なお、基材フィルム210を熱可塑性樹脂以外の樹脂で構成されたフィルムとし、基材フィルム210と熱可塑性樹脂フィルムとを積層してもよい。この場合、積層フィルムは、加熱装置で加熱された後、原盤10に押し付けられる。
【0055】
したがって、転写装置100は、原盤10に形成された凹凸構造が転写された転写物、すなわち凹凸フィルム200を連続的に製造することができる。
【0056】
<6.凹凸フィルムの構成>
つぎに、
図14〜
図17に基づいて、凹凸フィルム200の構成について説明する。
図14〜
図16に示すように、凹凸フィルム200は、基材フィルム210と、凹凸層210aとを備える。基材フィルム210は、凹凸層210aを支持するフィルムである。基材フィルム210を構成する材料は特に制限されないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムやTAC(トリアセチルセルロース)フィルム等が挙げられる。凹凸層210aを構成する材料は、上述した硬化性樹脂であることが好ましい。
【0057】
図14に示すように、凹凸層210aの表面には、ラジアル凸部220、スラスト凸部230、及び凹部240が形成される。ラジアル凸部220は、ラジアル凹部20の反転形状を有する。すなわち、ラジアル凸部220は、凹凸層210aの表面に複数形成される。各ラジアル凸部220は、互いに平行になっており、凹凸フィルム200の長さ方向、すなわちラジアル方向に伸びる。また、
図15に示すように、ラジアル凸部220の上端面、すなわちラジアル上端面221は曲面(より具体的には、凹凸フィルム200の厚さ方向外側に向けて凸形状となる曲面)となっている。
【0058】
スラスト凸部230は、スラスト凹部30の反転形状を有する。すなわち、スラスト凸部230は、被覆層12の表面に複数形成される。各スラスト凸部230は、互いに平行になっており、スラスト方向に伸びる。また、
図16に示すように、スラスト凸部230の上端面、すなわちスラスト上端面231は曲面(より具体的には、凹凸フィルム200の厚さ方向外側に向けて凸形状となる曲面)となっている。スラスト上端面231の曲率は、ラジアル上端面221の曲率と同様であることが好ましい。このため、例えば凹凸フィルム200を用いてフィラー充填フィルムを作製する際に、フィラー400が凹部240に入り込みやすくなる。さらに、凹部240の開口縁部に引っかかったフィラー400は、布等によってスラスト上端面231あるいはラジアル上端面221から外部に排出されやすくなる(
図20〜21参照)。
【0059】
凹部240は、ラジアル凸部220及びスラスト凸部230によって囲まれる領域である。この凹部240には、例えばフィラー400が充填される。凹凸層210aの表面構造は、例えば、光学顕微鏡によって観察可能である。また、断面構造は、SEM(走査型電子顕微鏡)などによって観察可能である。スラスト凸部230の断面写真(BB断面写真)を
図18に示し、ラジアル凸部220の断面写真(AA断面写真)を
図19に示す。これらの写真の倍率は7500倍である。
【0060】
ラジアル凸部220、スラスト凸部230、及び凹部240の具体的な寸法は特に制限されない。すなわち、これらの寸法は、凹凸フィルム200に要求される特性等に応じて任意に設定されれば良い。
【0061】
例えば、凹凸フィルム200がフィラー充填フィルムとして使用される場合、凹部240の対辺間の距離L5、L6は、いずれもフィラー400の直径よりも大きいことが好ましい。凹部240にフィラー400を入り込みやすくするためである。なお、凹部240は、原盤凸部40の反転形状を有するので、L5、L6はL1、L2とほぼ同じ値となる。具体的には、例えば、L5、L6は、例えばフィラー400の直径の1.1倍以上であってもよい。また、ラジアル凸部220の深さL7及びスラスト凸部230の深さL8は、いずれもフィラー400の直径よりも大きいことが好ましい。凹部240にフィラー400を入り込みやすくするためである。なお、ラジアル凸部220は、ラジアル凹部20の反転形状を有し、スラスト凸部230は、スラスト凹部30の反転形状を有する。したがって、L7、L8はL3、L4(
図3、
図4参照)とほぼ同じ値となる。具体的には、例えば、L7、L8は、フィラー400の直径の1.1倍以上であってもよい。
【0062】
また、ラジアル上端面221及びスラスト上端面231の曲率は、フィラー400の半径の0.5倍以上1.5倍以下であることが好ましい。この場合、フィラー400が凹部240に入り込みやすくなり、かつ、開口縁部に引っかかったフィラーが外部に排出されやすくなる。
【0063】
ここで、スラスト上端面231の曲率の算出方法について、
図22に基づいて説明する。ラジアル上端面221の曲率も同様に算出される。まず、いずれかのスラスト上端面231をピックアップする。そしてスラスト上端面231の垂直断面写真(上述したBB断面に相当する断面の写真)を取得する。そして、垂直断面写真にもとづいて、スラスト上端面231の曲面(すなわち、評価上端面)の全体または一部を規定する評価円700を描く。この作業を、評価上端面の全ての領域がいずれかの評価円で定義されるまで繰り返す。そして、これらの評価円の曲率、具体的には半径が、スラスト上端面231の曲率となる。したがって、半径の異なる評価円を複数個描いた場合、スラスト上端面231の曲率はある範囲を有することになる。また、各スラスト上端面231の曲率は略同一であると言えるので、いずれかのスラスト上端面231の曲率を凹凸フィルム200の代表値としてもよい。また、複数個のスラスト上端面231をピックアップし、これらの曲率を算出してもよい。そして、算出値の算術平均値(例えば、下限値の算術平均値及び上限値の算術平均値)を凹凸フィルム200の代表値としてもよい。本実施形態では、上述した方法により算出された曲率が、フィラー400の半径の0.5倍以上1.5倍以下であることがこのましい。曲率が範囲を有する場合、曲率の範囲がフィラー400の半径の0.5倍以上1.5倍以下であることがこのましい。
【0064】
なお、
図17に示すように、ラジアル底面21は平面であってもよい。ただし、ラジアル上端面221も曲面であることが好ましい。ラジアル上端面221及びスラスト上端面231の両方を曲面とすることで、フィラー400が凹部240にさらに入り込みやすくなり、かつ、開口縁部に引っかかったフィラーがさらに外部に排出されやすくなるからである。
【0065】
<7.フィラー充填フィルムの構成>
凹凸フィルムは、例えばフィラー充填フィルム200bとして使用される。そこで、次に、
図20に基づいて、フィラー充填フィルム200bの構成について説明する。
図20に示すように、フィラー充填フィルム200bは、凹凸フィルム200の凹部240にフィラー400が充填されたものである。1つの凹部240には1つのフィラー400が充填されるが、1つの凹部240に充填されるフィラー400の数はこれに限定されない。
【0066】
フィラー400を構成する材料(組成)は特に問われず、フィラー充填フィルム200bの用途に応じて適宜選択されればよい。例えば、フィラー400は、無機物、有機物、無機物が多層構造をとっているもの、無機物(無機材料)と有機物(有機材料)の混在物(例えば、有機物からなる微小固形物を無機物で被覆したもの)などを用いることができる。具体的には、フィラー400は、顔料、染料、結晶性無機物などであってもよい。また、フィラー400は、結晶性の有機材料または無機材料を解砕したものであってもよい。また、全ての凹部240に同種のフィラー400を充填してもよく、異なる種類のフィラー400を充填してもよい。また、フィラー400の形状は特に問われない。フィラー400の形状は、等方性を有するもの、例えば球形であってもよい。フィラー400は種々の物性や機能性が付与されたものであってもよい。また、フィラー400の半径は特に制限されないが、1μm〜30μmであることが好ましく、3μm〜20μmであることがより好ましい。なお、フィラー400の半径が大きい場合、ラジアル凸部220及びスラスト凸部230のピッチを大きくする(言い換えれば、これらの凸部の本数)を低減することができる。したがって、原盤10の製造工程を簡略化できるというメリットが有る。
【0067】
<8.フィラー充填フィルムの製造方法>
つぎに、
図21に基づいて、フィラー充填フィルム200bの製造方法について説明する。
【0068】
まず、凹凸フィルム200上にフィラー400を載置する。ついで、凹凸フィルム200を布等で矢印C2方向にワイプする。これにより、凹凸フィルム200上のフィラー400を掻き取る。したがって、布等による掻き取り方向は矢印C2方向となる。矢印C2方向は、凹凸フィルム200の長さ方向に一致する。言い換えれば、矢印C2方向は、ラジアル凸部220が伸びる方向、すなわちラジアル方向に一致する。一方、矢印C2方向は、スラスト凸部230が伸びる方向、すなわちスラスト方向に交差する。
【0069】
布等が凹凸フィルム200上のフィラー400を掻き取ることで、フィラー未充填の凹部240にフィラー400が充填される。また、凹部240に充填されなかったフィラー400は、凹凸フィルム200の外部に排出される。また、布等による掻き取り方向は、上述したように、スラスト凸部230が伸びる方向、すなわちスラスト方向に交差する。したがって、
図21に示すように、凹部240の開口縁部のうち、スラスト上端面231にフィラー400が引っ掛かりやすい。しかし、スラスト上端面231は曲面となっているので、フィラー400は布等によって容易に開口縁部から掻き出される。すなわち、凹部240に入り込めなかったフィラー400は、布等によって矢印C3方向に容易に掻き出され、凹凸フィルム200の外部に排出される。また、スラスト上端面231は曲面となっているので、フィラー400は、この曲面に沿って移動しやすい。したがって、本実施形態では、フィラー400を容易にフィラー未充填の凹部240に充填することができる。以上の工程により、フィラー充填フィルム200bが作製される。
【0070】
したがって、本実施形態によれば、フィラー充填フィルム200bに残留するフィラー未充填の凹部240の数を低減することができる。すなわち、後述するフィラー充填率を高めることができる。さらに、フィラー充填フィルム200bの表面に残留するフィラー400の数を低減することができる。すなわち、後述するフィラー残留率を低減することができる。したがって、本実施形態によれば、フィラー充填フィルム200bのフィラー充填特性を向上することができ、ひいては、凹凸フィルム200の使い勝手を向上させることができる。
【0071】
<9.凹凸フィルムの他の用途>
凹凸フィルム200は、他の用途に使用することもできる。例えば、凹凸フィルム200は、いわゆるプリンテッド・エレクトロニクスに適用されても良い。例えば、凹凸フィルム200の凹凸部分に回路を形成してもよい。また、凹凸フィルム200は、例えばバイオセンサまたは診断デバイスに適用されても良い。この場合、凹凸フィルム200の凹凸構造は、例えば血液等の生体試料の流路として使用されてもよい。また、凹凸フィルム200は、いわゆる光学素子として使用されてもよい。この場合、凹凸フィルム200の凹凸構造は、例えば光学素子の光学特性を決定づける要素となりうる。
【実施例】
【0072】
<1.実施例1>
つぎに、本実施形態の実施例を説明する。実施例1では、上述した製造方法に基づいて、原盤10を作製した。具体的には、直径130mm、長さ250mmの原盤基材11を準備した。ここで、原盤基材11の材質はSUS鋼とした。
【0073】
ついで、電解めっきにより原盤基材11の周面にCuをめっきした。これにより、被覆層12を原盤基材11の周面に形成した。被覆層12の厚さは100μmとした。また、ラジアル凹部20及びスラスト凹部30を被覆層12に形成する前に、被覆層12の平滑化処理を行った。
【0074】
ついで、曲面作製用バイト500として、曲面先端部520aの幅W1(
図7参照)が3.4μm、3.9μmとなる複数種類の曲面作製用バイト500を使用した。曲面作製用切削部520の材質はダイヤモンドとした。なお、曲面作製用バイト500は、平面先端部620aの幅W2が3.4μmより狭い平面作製用バイト600でNi−P板を切削することにより得た。
【0075】
そして、曲面先端部520aの幅W1が3.4μmの曲面作製用バイト500を用いてラジアル凹部20を形成し、曲面先端部520aの幅W1が3.9μmの曲面作製用バイト500を用いてスラスト凹部30を形成した。ここで、ラジアル凹部20及びスラスト凹部30のピッチを6μmとした。また、ラジアル凹部20の深さL3及びスラスト凹部30の深さL4は、いずれも4μmとした。以上の工程により、実施例1に係る原盤10を作製した。
【0076】
ついで、原盤10及び上述した転写装置100を用いて、凹凸フィルム200を作製した。ここで、基材フィルムとしてPETフィルムを使用し、硬化性樹脂として光硬化性樹脂を使用した。ラジアル上端面221の曲率は1.0〜1.5μmであり、スラスト上端面231の曲率は0.8〜1.0μmであった。ついで、上述した製造方法に基づいて、フィラー充填フィルム200bを作製した。ここで、フィラーの半径を3μmとした。
【0077】
ついで、フィラー充填フィルム200bの表面構造を光学顕微鏡で観察した。具体的には、凹部1000個分の領域を観察した。そして、この結果に基づいて、フィラー充填率及びフィラー残留率を算出した。フィラー充填率は、以下の数式(1)に基づいて算出し、フィラー残留率は以下の数式(2)に基づいて算出した。フィラー充填率が高いほど、また、フィラー残留率が低いほど、フィラー充填特性が優れている事になる。評価結果を表1にまとめて示す。また、表1の判定結果は、表2に示す判定基準に基づいて判定された結果である。
【0078】
フィラー充填率=a/1000 (1)
フィラー残留率=b/1000 (2)
数式(1)中、aは、凹部1000個分の領域中に存在する未充填の凹部240の総数である。数式(2)中、bは、凹部1000個分の領域の表面に存在するフィラー、すなわち凹部240に充填されなかったフィラーの総数である。
【0079】
<2.実施例2>
平面先端部620aの幅W2が3.9μmの平面作製用バイト600を用いてスラスト凹部30を形成した他は、実施例1と同様の処理を行った。結果を表1に示す。
【0080】
<3.実施例3>
平面先端部620aの幅W2が3.2μmの平面作製用バイト600を用いてスラスト凹部30を形成した他は、実施例1と同様の処理を行った。結果を表1に示す。
【0081】
<4.実施例4>
曲面先端部520aの幅W1が3.9μmの曲面作製用バイト500を用いてラジアル凹部20及びスラスト凹部30を形成した他は、実施例1と同様の処理を行った。結果を表1に示す。なお、ラジアル上端面221の曲率は1.0〜1.5μmであり、スラスト上端面231の曲率は0.8〜1.0μmであった。
【0082】
<5.実施例5>
平面先端部620aの幅W2が3.9μmの平面作製用バイト600を用いてスラスト凹部30を形成した他は、実施例4と同様の処理を行った。結果を表1に示す。
【0083】
<6.実施例6>
平面先端部620aの幅W2が3.2μmの平面作製用バイト600を用いてスラスト凹部30を形成した他は、実施例4と同様の処理を行った。結果を表1に示す。
【0084】
<7.比較例>
平面先端部620aの幅W2が3.9μmの平面作製用バイト600を用いてラジアル凹部20及びスラスト凹部30を形成した他は、実施例1と同様の処理を行った。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
実施例1〜6によれば、本実施形態によってフィラー充填フィルム200bのフィラー充填フィルム充填特性が向上することが明らかになった。さらに、実施例1、4と他の実施例とを比較すると、ラジアル底面21及びスラスト底面31の双方が曲面となっていることが最も好ましいことがわかった。また、実施例2、3、5、6と比較例とを比較すると、布等による掻き取り方向と交差する方向の底面が平面であっても、他の底面(ここでは、ラジアル底面21)が曲面であれば、良好な結果が得られることもわかった。
【0088】
<8.実施例7>
実施例7では、ラジアル上端面221の曲率及びスラスト上端面231の曲率を種々に変更して、実施例1と同様の処理を行った。また、フィラー半径を1.5μmとした。結果を表3にまとめて示す。表3中の「曲率」は、ラジアル上端面221の曲率及びスラスト上端面231の曲率を示す。
【0089】
【表3】
【0090】
表3によれば、ラジアル上端面221及びスラスト上端面231の曲率は、フィラー400の半径の0.5倍以上1.5倍以下であることが好ましいことがわかった。
【0091】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。