特開2017-115067(P2017-115067A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-115067(P2017-115067A)
(43)【公開日】2017年6月29日
(54)【発明の名称】表面処理組成物および表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/02 20060101AFI20170602BHJP
【FI】
   C08J7/02 ZCER
   C08J7/02CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-253674(P2015-253674)
(22)【出願日】2015年12月25日
(71)【出願人】
【識別番号】515237120
【氏名又は名称】吹田 浩記
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】吹田 浩記
【テーマコード(参考)】
4F073
【Fターム(参考)】
4F073AA06
4F073AA10
4F073BA06
4F073BA18
4F073BA19
4F073BA23
4F073BA26
4F073BA29
4F073BB01
4F073DA05
4F073HA05
(57)【要約】
【課題】高光沢の表面を有する樹脂成形品を得るために用いられる表面処理組成物、および該表面処理組成物を用いた樹脂成形品の表面処理方法の提供。
【解決手段】塩素化炭化水素類、ハイドロフルオロカーボン類、および液体臭素を含む、樹脂成形品の表面光沢を高めるための表面処理組成物。樹脂成形品を、少なくともその表面温度が30〜70℃の範囲になるように加熱する工程と、少なくとも表面温度が所定の範囲内である樹脂成形品と、上記表面処理組成物の蒸気と、を接触させる工程と、を含む、樹脂成形品の表面を高光沢化するための表面処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品の表面光沢を高めるための表面処理組成物であって、
塩素化炭化水素類、ハイドロフルオロカーボン類、および液体臭素を含む、表面処理組成物。
【請求項2】
前記塩素化炭化水素類20〜90重量%、前記ハイドロフルオロカーボン類3〜30重量%、および前記液体臭素1〜60重量%を含む、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項3】
前記樹脂成形品が、ポリスチレン、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、および(メタ)アクリル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む、請求項1又は2に記載の表面処理組成物。
【請求項4】
前記塩素化炭化水素類が、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエタン、およびテトラクロロエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項5】
前記ハイドロフルオロカーボン類が、ジフルオロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、および1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項6】
さらに有機溶剤を含み、前記有機溶剤が芳香族炭化水素類、脂環式炭化水素類、鎖式飽和炭化水素類、酢酸エステル類、ケトン類、及び低級アルコール類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面処理組成物。
【請求項7】
樹脂成形品の表面光沢を高める表面処理方法であって、
前記樹脂成形品を、少なくともその表面温度が30〜70℃の範囲になるように加熱する工程と、
少なくとも表面温度が前記所定の範囲内である前記樹脂成形品と、請求項1〜のいずれか1項に記載の表面処理組成物の蒸気と、を接触させる工程と、を含む、表面処理方法。
【請求項8】
前記表面処理組成物の蒸気と接触後の前記樹脂成形品の表面に金属被膜を真空蒸着させる工程をさらに含む、請求項7に記載の表面処理方法。
【請求項9】
前記表面処理組成物の蒸気が、前記表面処理組成物を30〜70℃の範囲の温度で加熱することにより発生するものである、請求項7又は8に記載の表面処理方法。
【請求項10】
前記樹脂成形品が、ポリスチレン、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、および(メタ)アクリル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理組成物および表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂、特に汎用される熱可塑性樹脂は、金属に比べて軽量かつ安価で、比較的高い機械特性を有し、任意の形状への成形が容易で量産性に優れることから、樹脂成形品は、日常生活だけでなく、非常に広範な工業分野においても欠くことのできない工業製品となっている。そして、樹脂成形品の商品価値や耐用寿命の向上を目的として、従来から種々の方法が提案されている。
【0003】
該方法の一つとして、めっき法や金属蒸着法等を利用して、樹脂成形品表面に金属被膜を形成する方法が挙げられる。金属被膜の形成により、美麗な金属様外観が付与され、また、風雨や太陽、その他の光などの環境的な要因による樹脂成形品の経時的な劣化が抑制される。しかしながら、めっき法を用いる場合、ABS樹脂を除く一般的な合成樹脂の表面にはめっきを付けることができず、めっきを付けたとしても非常に剥がれ易いという問題がある。また、金属蒸着法を用いる場合は、形成された金属被膜(蒸着膜)が樹脂成形品表面の微細な凹凸形状を反映し、その光反射率が低下することに起因して、美麗な金属様外観を得ることができないという問題がある。蒸着膜に含まれる金属が高価な場合は、樹脂成形品の高コスト化という問題もある。
【0004】
特許文献1は、蒸着法やスパッタリング法により樹脂成形品の表面に金属被膜を形成するための前処理として、樹脂成形品を有機溶剤の蒸気と接触させる、樹脂成形品表面の平滑化方法を開示する。ここで、有機溶剤として、ジクロロメタン、アセトンおよびトリクロロエチレンが例示され、樹脂成形品に含まれる樹脂として、アクリル樹脂、ABS樹脂およびポリスチレン樹脂等が例示される。しかしながら、特許文献1の技術は、平滑化処理後に形成される金属被膜の光沢を向上させようとするものであり、平滑化処理後の樹脂成形品の表面光沢は十分ではない。
【0005】
特許文献2は、特許文献1と同様に金属被膜を形成するための前処理として、真空室内に樹脂成形品を設置する工程と、樹脂成形品設置後の真空室内を真空排気する工程と、真空排気後の真空室内に塩素系溶剤又は石油系溶剤の蒸気を導入し、樹脂成形品表面を膨潤又は軟化させる工程と、を含む樹脂成形品の表面処理方法を開示する。ここで、樹脂成形品を構成する樹脂としてアクリル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレンおよびポリエステル樹脂が例示され、塩素系溶剤としてジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレンおよびパークロロエチレンが例示され、石油系溶剤としてはメタノールおよびアセトンが例示されている。しかしながら、特許文献2の技術も、表面処理後に形成される金属被膜の光沢を向上させようとするものであり、平滑化処理後の樹脂成形品の表面光沢は十分ではない。
【0006】
また、鏡面金型を用いた射出成形法等により得られた、ある程度の表面光沢を有する樹脂成形品が市販されているが、表面光沢のより一層の向上した樹脂成形品が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−128398号公報
【特許文献2】特開2002−256090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術では、樹脂成形品を表面処理するための主溶剤として、ジクロロメタンが多く用いられている。ジクロロメタンは、非常に強い樹脂溶解能力を有しているため、例えば、特許文献1及び特許文献2のように表面処理後に金属被膜を形成する場合にはある程度の効果を発揮し得る。しかし、表面処理により樹脂成形品の表面光沢を高めようとする場合には、ジクロロメタンが樹脂成形品表面を溶解し過ぎることから、樹脂成形品の表面光沢を十分に向上させることはできない。
【0009】
本発明の目的は、高光沢の表面を有する樹脂成形品を得るために用いられる表面処理組成物、および該表面処理組成物を用いた樹脂成形品の表面処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来から樹脂成形品の表面処理の主溶剤として用いられている塩素化炭化水素類に、樹脂溶解能力を有しないハイドロフルオロカーボン類および該塩素化炭化水素類よりも樹脂溶解能力が相対的に低い液体臭素を混合した表面処理組成物を見出し、該表面処理組成物を用いて樹脂成形品の表面処理を行なえば、塩素化炭化水素類のみを用いた場合に比べて、表面処理後の樹脂成形品の表面光沢が向上することを見出した。
【0011】
すなわち、本発明者は、塩素化炭化水素類よりも樹脂溶解能力の低い特定の2種の溶剤を塩素化炭化水素類に混合し、塩素化炭化水素類の樹脂溶解能力を緩和することにより、予想外にも、樹脂成形品表面の表面粗度が、高光沢が得られる程度に適度に高くなって、樹脂成形品の表面光沢を高め得ることを見出した。
【0012】
さらに本発明者は、上記表面処理組成物を用いる樹脂成形品の高光沢化方法について研究を重ねた結果、樹脂成形品の少なくとも表面温度が所定の範囲になるように、該樹脂成形品を加熱した上で、該樹脂成形品を上記表面処理組成物の蒸気に晒すことにより、表面に金属被膜を有しない市販の樹脂成形品の中でも、最も高い表面光沢を有する樹脂成形品よりも、表面光沢が一層向上した樹脂成形品が得られること、さらに得られた樹脂成形品の表面に真空蒸着により金属被膜を形成する場合には、従来技術のように金属被膜の光反射率を向上させるアンダーコート層を設けることなく、光反射率が顕著に高い金属被膜を樹脂成形品表面に直接形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は下記(1)〜(6)の表面処理組成物、および下記(7)〜(10)の表面処理方法を提供する。
(1)樹脂成形品の表面光沢を高めるための表面処理組成物であって、塩素化炭化水素類、ハイドロフルオロカーボン類、および液体臭素を含む、表面処理組成物。
(2)塩素化炭化水素類20〜90重量%、ハイドロフルオロカーボン類3〜30重量%、および液体臭素1〜60重量%を含む、上記(1)の表面処理組成物。
(3)樹脂成形品が、ポリスチレン、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、および(メタ)アクリル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む、上記(1)又は(2)の表面処理組成物。
(4)塩素化炭化水素類が、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエタン、およびテトラクロロエチレンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)〜(3)のいずれかの表面処理組成物。
(5)ハイドロフルオロカーボン類が、ジフルオロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC365)、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、および1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10mee)よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)〜(4)のいずれかの表面処理組成物。
(6)さらに有機溶剤を含み、有機溶剤が芳香族炭化水素類、脂環式炭化水素類、鎖式飽和炭化水素類、酢酸エステル類、ケトン類、及び低級アルコール類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)〜(5)のいずれかの表面処理組成物。
(7)樹脂成形品の表面光沢を高める表面処理方法であって、樹脂成形品を、少なくともその表面温度が30〜70℃の範囲になるように加熱する工程と、少なくとも表面温度が所定の範囲内である樹脂成形品と、上記(1)〜(6)のいずれかの表面処理組成物の蒸気と、を接触させる工程と、を含む、表面処理方法。
なお、本発明では、本発明表面処理組成物の沸点が比較的低い範囲にあることから、本発明表面処理組成物を加熱せずに放置しておいても自然揮発分としての蒸気が発生する。また、本発明表面処理組成物を加熱しても蒸気が発生する。本明細書における蒸気とは、自然揮発分である蒸気、沸点未満の加熱によって発生する蒸気及び沸点以上の加熱によって発生する蒸気を含む。いずれの蒸気を用いても本発明の効果を得ることができるが、各蒸気の樹脂溶解能力が異なるので、樹脂成形品を構成する樹脂材料の種類や、樹脂成形品の形状、寸法等に応じて使用する蒸気を適宜選択することが好ましい。
(8)表面処理組成物の蒸気と接触後の前記樹脂成形品の表面に金属被膜を真空蒸着させる工程をさらに含む、上記(7)の表面処理方法。
(9)表面処理組成物の蒸気が、表面処理組成物を30〜70℃の範囲の温度で加熱することにより発生するものである、上記(7)又は(8)の表面処理方法。
(10)樹脂成形品が、ポリスチレン、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、および(メタ)アクリル樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む、上記(7)〜(9)のいずれかの表面処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高光沢の表面を有する樹脂成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例2におけるポリカーボネート製樹脂成形品の表面処理前後での光透過率を示すグラフである。
図2】実施例3におけるポリメチルメタクリレート製樹脂成形品の表面処理前後での光透過率を示すグラフである。
図3】実施例2におけるポリカーボネート製樹脂成形品の表面処理前後での光反射率を示すグラフである。
図4】実施例3におけるポリメチルメタクリレート製樹脂成形品の表面処理前後での光反射率を示すグラフである。
図5】実施例4および比較例1で作製した樹脂成形品の表面に真空蒸着により形成したアルミニウム被膜の光反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の表面処理組成物は、塩素化炭化水素類、ハイドロフルオロカーボン類、及び液体臭素という特定の3種の溶剤を含むことを特徴とする。本発明の表面処理組成物と樹脂成形品の表面とを接触させると、樹脂成形品表面が溶解されて単に平滑化するのではなく、該表面の高光沢化を図ることができる。本発明の表面処理組成物を用いた処理により、樹脂成形品表面の光透過率及び光反射率、特に700nm周辺又はそれ以下の可視光領域における光透過率及び光反射率が共に向上し、これにより樹脂成形品の高光沢化がもたらされる。本発明において、このような効果が得られる理由は現状では十分明らかではないが、ハイドロフルオロカーボン類及び液体臭素が塩素化炭化水素の強過ぎる樹脂溶解能力を緩和することによって、樹脂成形品表面を単に平滑化するのでなく、該表面の表面粗度が光透過率及び光反射率を共に向上させ得るような所定の領域まで低下することが要因の一つになっているものと推測される。
【0017】
また、本発明では、本発明の表面処理組成物の効果を十分に発揮させる方法として、樹脂成形品を、少なくともその表面温度が30〜70℃の範囲になるように加熱した後、該樹脂成形品と、本発明の表面処理組成物の蒸気と、を接触させる表面処理方法を提供する。この方法を利用すれば、現在市販されている中でも最も表面光沢の高い樹脂成形品を表面処理した場合でも、表面光沢が更に向上した樹脂成形品を、寸法精度良く得ることができる。なお、ここでの蒸気は、上述したように、自然揮発分である蒸気、沸点未満の加熱により発生する蒸気、及び沸点を超える温度での加熱により発生する蒸気を含む。
【0018】
以下、本発明の表面処理組成物、および表面処理方法について、さらに詳しく説明する
【0019】
[表面処理組成物]
本発明の表面処理組成物(以下単に「本発明組成物」と呼ぶことがある)は、樹脂成形品の表面光沢を向上させるための表面処理に用いられ、塩素化炭化水素類、ハイドロフルオロカーボン類、および液体臭素という3種の特定の溶剤を必須成分として含有する。
【0020】
塩素化炭化水素類は、樹脂溶解能力が非常に高い溶剤であり、本発明組成物でも主に樹脂成形品表面の樹脂成分を溶解する機能を示すものと考えられる。しかし、塩素化系炭化水素類単独では表面処理後における樹脂成形品表面の表面粗度は大きなものとなってしまうため、表面を高光沢にすることができない。そこで、本発明では、塩素化炭化水素類の強い樹脂溶解能力を利用しながら、樹脂溶解能力を有しないハイドロフルオロカーボン類及び塩素化炭化水素類よりも低い樹脂溶解能力を有する液体臭素という特定の2種の溶剤と併用して、表面処理組成物全体としての樹脂溶解能力を塩素化炭化水素類よりも弱めることを着想した。そして、このような本発明組成物を用いることにより、予想外にも、樹脂成形品の表面処理後の表面の表面粗度が所定の領域に低下すると共に、滑らかな平滑面が得られ、表面の高光沢化を実現できることが判明した。なお、塩素化炭化水素類は、樹脂溶解能力だけでなく、本発明組成物の沸点を下げるためにも用いられている。
【0021】
塩素化炭化水素類とは、炭化水素類に1又は複数の塩素原子が置換した有機化合物である。ここで、炭化水素類としてはメタン列炭化水素類、およびエチレン列炭化水素類が好ましく、炭化水素類の炭素数としては1〜4が好ましく、塩素原子の置換個数としては1〜4個が好ましい。すなわち、塩素化炭化水素類の中でも、炭素数1〜4のメタン列炭化水素類又はエチレン列炭化水素類であり、塩素原子が1〜4個置換した塩素化炭化水素類が好ましい。塩素化炭化水素類の具体例としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエタン、テトラクロロエチレンなどが挙げられる。これらの中でも、表面処理後の成形品における表面粗度を所定の領域に低下させるといった観点から、ジクロロメタンが好ましい。塩素化炭化水素類は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
本発明組成物における塩素化炭化水素類の含有量は特に限定されず、それ自体及びハイドロフルオロカーボン類の種類、他の2つの溶剤の含有量、表面処理される樹脂成形品の材質等に応じて適宜選択されるが、本発明組成物全量に対し、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜80重量%、さらに好ましくは40〜75重量%である。塩素化炭化水素類の含有量を前記範囲内とすることにより、樹脂成形品の表面を高光沢化させることができる。
【0023】
塩素化炭化水素類の含有量が20重量%未満では、本発明組成物全体としての樹脂溶解能力が低下し、樹脂成形品を構成する樹脂の種類によっては十分な表面光沢を得ることができないおそれがある。一方、塩素化炭化水素類の含有量が90重量%を超えると、表面処理後における樹脂成形品表面の表面粗度が大きくなり、表面光沢の向上を得ることができないおそれがある。
【0024】
ハイドロフルオロカーボン類は、それ自体は樹脂溶解能力を殆ど有さず、塩素化炭化水素類の樹脂溶解能力を緩和するという主要な機能を有している。しかし、ハイドロフルオロカーボン類のみで塩素化炭化水素類の樹脂溶解能力を緩和しても樹脂成形品の表面光沢の向上は得られず、表面光沢の向上にはハイドロフルオロカーボン類と塩素化炭化水素類よりも弱いものの樹脂溶解能力を有する液体臭素との併用が必須である。
【0025】
なお、ハイドロフルオロカーボン類は、上記以外にも、本発明組成物全体としての沸点を低下させて比較的低い加熱温度でもその蒸気を得ることができるようにする機能や、樹脂成形品表面の超微細なゴミやその他の物質を除去し、表面処理の円滑な進行を補助する機能や、塩素化炭化水素類と液体臭素との相溶性を高め、これらの本発明組成物中での均一混合性を高める機能等をも有するものと考えられる。塩素化炭化水素類の本発明組成物中における均一混合性が不十分であると、例えば、塩素化炭化水素類を多く含む蒸気と、塩素化炭化水素類をあまり含まない蒸気とが発生したりして、不均一な表面処理が施されるおそれがある。
【0026】
ハイドロフルオロカーボン類は、フルオロカーボン(炭素とフッ素との化合物)のうち、オゾン層に悪影響を及ぼさない代替フロンとして公知の有機化合物である。ハイドロフルオロカーボン類としては特に限定されないが、例えば、ジフルオロメタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC365)、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10mee)等が挙げられる。これらの中でも、他の溶剤成分との親和性といった観点から、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC365)、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10mee)等が好ましい。ハイドロフルオロカーボン類は1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
本発明組成物におけるハイドロフルオロカーボン類の含有量は特に限定されず、それ自体及び塩素化炭化水素類の種類や、他の2つの溶剤の含有量、表面処理される成形品の材質等に応じて適宜選択されるが、本発明組成物全量に対し、好ましくは3〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは10〜25重量%である。ハイドロフルオロカーボン類の含有量を前記範囲内とすることにより、樹脂成形品の表面光沢を従来にはない水準まで向上させることができる。
【0028】
ハイドロフルオロカーボン類の含有量が3重量%未満では、本発明組成物の蒸気を発生させるための加熱温度が高くなり過ぎ、本発明組成物による樹脂成形品の表面処理が不十分になり、高い表面光沢が得られなかったり、また、塩素化炭化水素類の本発明組成物における溶剤同士の均一混合性が不十分になること等に起因して、表面処理後の表面光沢が不均一になったりするおそれがある。一方、ハイドロフルオロカーボン類の含有量が30重量%を超えると、本発明組成物の樹脂溶解能力が低下し過ぎ、表面処理が不十分になるおそれがある。
【0029】
液体臭素は常温液状物であり、有機化合物や合成樹脂を臭素化して難燃化するための反応試薬として用いられるのが一般的である。また、液体臭素が樹脂を溶解することは周知であるが、その樹脂溶解能力は塩素化炭化水素類の樹脂溶解能力よりも低い。従って、本発明では、液体臭素はハイドロフルオロカーボン類と共に、主に塩素化炭化水素類の強過ぎる樹脂溶解能力を緩和するために用いられる。なお、ハイドロフルオロカーボン類を用いることなく、液体臭素のみを用いても、樹脂成形品の表面光沢を高水準で向上させる効果は得られない。また、液体臭素の比較的高い沸点を、塩素化炭化水素類、及びハイドロフルオロカーボン類で緩和することにより、本発明組成物全体としての沸点を低下させることができる。
【0030】
本発明組成物における液体臭素の含有量は特に限定されず、塩素化炭化水素類及びハイドロフルオロカーボン類の種類や、これらの各含有量、表面処理される樹脂成形品の材質等に応じて適宜選択されるが、本発明組成物全量に対し、好ましくは1〜60重量%、より好ましくは1〜50重量%、さらに好ましくは3〜30重量%である。液体臭素の含有量を前記範囲内とすることにより、本発明組成物のハンドリング性を損なうことなく、表面光沢が顕著に向上した樹脂成形品を得ることができる。
【0031】
液体臭素の含有量が1重量%未満では、樹脂成形品の表面光沢を高める効果が不十分になるおそれがある。一方、液体臭素の含有量が60重量%を超えると、本発明組成物の粘度が高くなり、ハンドリング性が低下するおそれがあり、また、本発明組成物における必須3成分の相溶性や均一混合性が低下し、蒸気の組成が不均一になるおそれがある。
【0032】
本発明組成物は、樹脂成形品の表面光沢を顕著に高める効果を損なわない範囲で、例えば、本発明組成物の粘度等の物性を調整するために、塩素化炭化水素類、ハイドロフルオロカーボン類、及び液体臭素以外の有機溶剤を含んでいてもよい。このような有機溶剤としては特に限定されないが、本発明組成物の3種の必須成分と相溶可能な有機溶剤が好ましく、例えば、べンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、テトラリン、デカリン、シクロヘキサン、シクロヘキサノンなどの脂環式炭化水素類、n―ブタン、n―ペンタン、n―ヘキサン、n一ヘブタン、n―オクタンなどの鎖式飽和炭化水素類、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリット、シンナー等の脂肪族炭化水素と芳香族炭化水素との混合物、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸インブチルなどの酢酸エステル類、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイゾブチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、n―プロパノール、イソプロパノール、n―ブタノール、イソブタノール、tert―ブタノールなどの低級アルコール類などが挙げられる。これらの中でも、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シンナーなどが好ましい。有機溶剤は1種を単独で又は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。なお、塩素化炭化水素類、ハイドロフルオロカーボン類、液体臭素、及び有機溶剤は、いずれも、市販品を特に限定なく使用でき、再生品を用いてもよい。
【0033】
本発明組成物は、例えば、塩素化炭化水素類、ハイドロフルオロカーボン類、及び液体臭素を混合し、さらに必要に応じて上述の有機溶剤を混合することにより製造できる。本発明組成物の沸点は、好ましくは30〜60℃、より好ましくは35〜55℃の範囲になるように調整される。本発明組成物による表面処理の対象となる樹脂成形品は、合成樹脂の1種又は2種以上を、公知の樹脂成形方法により任意の形状に成形したものである。また、樹脂成形品は、複数の樹脂製部品を含む構造体であってもよい。ここで、合成樹脂としては特に限定されず、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、スチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリル蓋レート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、珪素樹脂、熱硬化性ポリイミド等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0034】
上記した各種合成樹脂の中でも、本発明組成物による表面光沢の向上効果が大きいことから、熱可塑性樹脂が好ましく、液体臭素が溶解可能な熱可塑性樹脂がより好ましい。液体臭素が溶解可能な熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン樹脂(AS樹脂、ABS樹脂その他)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂,ポリオレフィン樹脂、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の1種又は2種以上を含む樹脂成形品を本発明組成物で表面処理することにより、表面光沢の優れた向上効果が得られる。
【0035】
樹脂成形品を得るための樹脂成形方法としては特に限定されず、例えば、押出成形、射出成形、カレンダー成形、ブロー成形、FRP成形、積層成形、注型成形、粉末成形、溶液流延法、真空・圧空成形、押出複合成形、延伸成形、発泡成形などが挙げられる。
【0036】
また、樹脂成形品は、上記した樹脂成分以外に、一般的な樹脂用添加剤の1種又は2種以上を含んでいてもよい。樹脂用添加剤としては特に限定されず、例えば、繊維状又は板状又は粒状の形状を有する充填剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、滑剤、安定剤、耐候剤、光安定剤、熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、撥水剤、撥油剤、消泡剤、抗菌剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)、蛍光増白剤、導電性付与剤等が挙げられる。
【0037】
本発明組成物による樹脂成形品の表面処理方法としては、本発明組成物と樹脂成形品表面とを接触させる方法であれば特に限定されず、種々の方法を利用できる。該方法の具体例としては、例えば、本発明組成物に樹脂成形品を浸漬する方法、本発明組成物を樹脂成形品に塗布する方法、樹脂成形品を本発明組成物の蒸気に晒す方法等が挙げられる。これらの中でも、樹脂成形品を本発明組成物の蒸気に晒す方法は、樹脂成形品を非常に効率良くかつ確実に処理でき、表面光沢の向上効果が大きく、さらに本発明組成物の消費量を減らし、使用した本発明組成物の一部を回収して再利用可能に構成できるので、工業的に非常に有利な方法である。
【0038】
[表面処理方法]
次に、樹脂成形品を本発明組成物の蒸気に晒す方法を更に改良した、本発明の表面処理方法を詳しく説明する。本発明の表面処理方法は、本発明組成物を用いて樹脂成形品の表面光沢をより一層高め、本発明組成物の効果を最大限に発揮させる方法であり、樹脂成形品を、少なくともその表面温度が30〜70℃の範囲になるように加熱する工程(1)と、少なくとも表面温度が所定の範囲内である樹脂成形品と、本発明組成物の蒸気と、を接触させる工程(2)と、を含み、さらに必要に応じて、本発明組成物の蒸気と接触後の樹脂成形品の表面に金属被膜を真空蒸着させる工程(3)を含んでいてもよい。本発明の表面処理方法は、樹脂成形品と本発明組成物の蒸気とを接触させる前に、樹脂成形品の表面温度を上記所定の範囲に加熱することを最大の特徴とする。
【0039】
工程(1)では、樹脂成形品の少なくとも表面温度が30〜70℃、好ましくは35〜60℃、より好ましくは40〜55℃になるように、樹脂成形品を加熱する。樹脂成形品の表面温度を前記所定の範囲とすることによって、本発明組成物の蒸気が樹脂成形品表面に万遍なく行き渡り、表面全体が均一に過不足なく高水準で高光沢化されるものと考えられる。表面温度が30℃未満では、本発明組成物の蒸気による表面光沢の向上効果は得られるものの、該向上効果は最大限にはならないおそれがある。表面温度が70℃を超えると、本発明組成物の蒸気の樹脂成形品表面への付着性が低下すること等から、該蒸気による表面光沢の向上効果が最大限にならないおそれがある。また、表面処理時間の調整が難しくなるおそれもある。ここで、樹脂成形品の加熱には、各種ヒータや恒温器、恒温室等を利用できる。
【0040】
工程(2)では、表面温度が上記所定範囲内に調整された樹脂成形品を、本発明組成物の蒸気に晒し、表面処理を行なう。ここで、本発明組成物の蒸気には、上述のように、自然揮発分である蒸気、本発明組成物の沸点未満での加熱により生成する蒸気、及び本発明組成物の沸点以上の加熱により生成する蒸気があり、いずれの蒸気を用いても本発明の効果が得られるが、本発明組成物を30〜70℃の範囲の温度で加熱して得られた蒸気であることが好ましい。本発明組成物を前記範囲の温度で加熱することにより、本発明組成物の蒸気が樹脂成形品表面に万遍なく付着するとともに、該表面での該蒸気の流動性が高まり、該表面全体をほぼ均一に高光沢化することができるものと考えられる。本発明組成物の加熱温度が30℃未満では、自然揮発分である蒸気が主体となるが、それでも本発明の効果が得られるものの、効果を得るために長時間を要するおそれがある。一方、本発明組成物の加熱温度が70℃を超えると、蒸気による樹脂溶解能力が大きくなり過ぎ、表面処理に要する時間の調整等が難しくなるおそれがある。工程(2)は、減圧下又は常圧下のいずれでも実施できるが、常圧下で実施することが好ましい。
【0041】
工程(2)において、樹脂成形品を蒸気に晒す時間は特に限定されず、本発明組成物の組成、樹脂成形品の材質、樹脂成形品の表面温度、目的とする表面光沢等の条件に応じて適宜選択できるが、例えば、0.1秒〜5分、好ましくは0.1秒〜3分、より好ましくは0.3秒〜1分程度とすればよい。表面処理を施された樹脂成形品には、適宜、洗浄、乾燥等が実施される。
【0042】
工程(2)は、例えば、形状が円柱状又は角柱状(例えば直方体状)であり、上部が開放された表面処理槽内にて実施される。このような表面処理槽を用いることにより、該処理槽内の本発明組成物の蒸気圧がほぼ一定になるので、蒸気圧管理に注意を要することなく本発明の表面処理方法を実施できる。表面処理槽はその長さ方向が設置面に対してほぼ垂直になるように設置される。設置面は水平面とほぼ平行な平面である。設置された表面処理槽の下部を、本発明組成物を貯留する液体浴とする。液体浴に貯留した本発明組成物の中に、本発明組成物を加熱してその蒸気を発生させるための加熱装置が設けられる。加熱装置には公知のものを使用でき、例えば、スチームヒータ、シースヒータ等が挙げられる。
【0043】
表面処理槽の内部において、液体浴の上方には、樹脂成形品をほぼ水平に保持する保持部が設けられる。保持部で、少なくとも表面温度が所定範囲にある樹脂成形品を液体浴の上方に保持することにより、該樹脂成形品表面を本発明組成物の蒸気で表面処理する。保持部には、例えば、その面がほぼ水平方向に固定された金網等が用いられる。金網は樹脂成形品の保持が可能であれば、出来るだけ目の粗いものが好ましい。金網に樹脂成形品を載置して保持する場合には、金網の周縁の少なくとも2箇所に金網面に対して略垂直に立ち上がる側壁(好ましくは肉薄の側壁)を設け、金網面と樹脂成形品との間に隙間が空くように構成することが好ましい。また、樹脂成形品を上下方向に挟持して保持してもよい。表面処理槽における、樹脂成形品の保持位置と同じ高さ位置の側壁には、開閉自在な樹脂成形品出し入れ口が設けられる。
【0044】
表面処理槽における、樹脂成形品の保持位置よりも上方の側壁の外側表面には、冷却部が設けられ、前記保持位置を通り過ぎてきた本発明組成物の蒸気を液化して液体浴に落下させ、回収する。冷却部は、表面処理槽の外周に接して、周回するように設けられる冷却水配管と、冷却水配管に接続されたポンプと、熱交換器と、を含む。熱交換器で冷却された水はポンプにより冷却配管に供給され、本発明組成物の蒸気を液化した後、熱交換器に戻される。ここで、冷却配管は、表面処理槽の外周に設けられているので、本発明組成物の液滴が樹脂成形品に落下し、表面処理の不均一化をもたらすことはない。
上述のような、表面処理用の装置構成は公知であり、例えば、特開平6−128398号公報等、多数の文献に記載されている。
【0045】
工程(3)では、本発明組成物の蒸気で処理された樹脂成形品表面に、真空蒸着により金属被膜を形成する。本工程では、金属被膜の光反射率を向上させるために、樹脂成形品表面にアンダーコート層を形成する必要はなく、樹脂成形品表面に高光反射率の金属被膜を直接形成できる。もちろん、必要に応じて、アンダーコート層を形成してもよい。アンダーコート層の材質としては、通常、樹脂成形品を構成する樹脂材料よりも光反射率の高い樹脂材料が選択される。
【0046】
真空蒸着の方法としては、公知の方法を採用できる。例えば、電熱装置を備える真空蒸着装置を用い、該装置内に本発明組成物で処理した樹脂成形品を設置し、電熱装置に蒸着したい金属を設置し、蒸着したい金属に応じて真空蒸着装置内の真空度を設定し、電熱装置を通電して金属を蒸発させる。例えば、真空度は金属種に応じて適宜選択されるが、アルミニウムを蒸着させる場合には10−5hpa前後の範囲に設定される。これにより、蒸発した金属が樹脂成形品表面に付着し、光反射率が高く、光輝性を有する金属被膜が形成される。本発明では、金属被膜は樹脂成形品表面に強固に付着する。真空蒸着により、例えば、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、クロム等の金属からなる金属被膜を形成できる。
【0047】
金属被膜の表面には、必要に応じてトップコート層を形成してもよい。トップコート層は、例えば、無色透明な樹脂材料を有機溶剤に溶解させた塗料を、樹脂成形品の表面に形成された金属被膜表面に塗布し、得られた塗膜を乾燥させることにより形成することができる。無色透明な樹脂材料としては例えばアクリル樹脂等が挙げられる。また、アクリルラッカーなどの市販のラッカー類を用いることもできる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
塩素化炭化水素類及びハイドロフルオロカーボン類としてそれぞれメチレンクロライド及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC365)を用い、メチレンクロライド120重量部(66.5重量%)、液体臭素50重量部(28重量%)、及び1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン10重量部(5.5重量%)を混合し、本発明組成物を調製した。本発明組成物は、成分の分離等もなく、ほぼ均一な液体であった。また、得られた本発明組成物の沸点は約46℃であった。
【0049】
(実施例2)
現在市販されているポリカーボネート樹脂成形品の中で、最も高光沢であるポリカーボネート製樹脂成形品(商品名:レキサン(商標名)シート、寸法:100mm×100mm×2mm、SABICジャパン合同会社製)を、50℃に設定した恒温器内で1分間加熱し、その表面温度を40〜50℃の範囲とした。一方、実施例1で得られた本発明組成物を容器に貯留し、この容器を60℃に設定したヒータで加熱し、蒸気を継続的に発生させた。本発明組成物を貯留した容器の上方に上記樹脂成形品を保持し、本発明組成物の蒸気に1秒間晒した後、水洗し風乾した。得られた表面処理後の樹脂成形品は、目視観察しただけでも、表面処理前の樹脂成形品よりも高光沢化され、艶やかで美麗な外観を有することを明確に確認できた。
【0050】
表面処理前後のポリカーボネート樹脂成形品の表面粗度を測定した。結果を表1に示す。なお、表面粗度の測定条件は次の通りである。
【0051】
〔表面粗度測定条件〕
測定機:表面粗度測定機(商品名:サーフコム130A、(株)東京精密製)
粗さ測定方法:JIS B0601 1994、JIS B0031 1994
評価長さ:4000mm
測定速度:0.3mm/s
カットオフ値:0.8mm
フィルタ種別:ガウシアン
測定レンジ:±400.0μm
傾斜補正:R面
カットオフ比:300
【0052】
【表1】
【0053】
表1から、Ra、Ry及びRzの全ての値が表面処理前よりも表面処理後に約1/2となり、本発明により表面粗度が顕著に小さくなったことが判る。
【0054】
また、顕微紫外可視近赤外分光光度計(商品名:MSV−5200DGK、日本分光(株)製)を用い、表面処理前後のポリカーボネート樹脂成形品の光透過度、及び光反射率を調べた。結果を図1及び図3に示す。図1は本実施例におけるポリカーボネート製樹脂成形品の表面処理前後での光透過率を示すグラフである。図3は本実施例におけるポリカーボネート製樹脂成形品の表面処理前後での光反射率を示すグラフである。
【0055】
図1及び図3から、従来技術では最高水準の表面光沢を有する樹脂成形品に対して、本発明の表面処理を実施することにより、樹脂成形品表面の光透過率及び光反射率が共に向上することが明らかである。特に700nm周辺及びそれ以下の可視光領域での光透過率及び光反射率の更なる向上が顕著であり、これにより樹脂成形品表面の高光沢化が得られる。
なお、光透過度、及び光反射率の測定条件は次の通りである。
【0056】
〔光透過度及び光反射率の測定条件〕
測定波長範囲:200nm〜2700nm
光源:重水素ランプ(200〜340nm)、ハロゲンランプ(340〜2700nm)
検出器:冷却型PbS光導電素子(200〜850nm)、光電子増倍管(850〜2700nm)
ベースライン補正:透過測定;空気を100%として測定、反射測定;Alミラーを100%として測定
【0057】
(実施例3)
ポリカーボネート製樹脂成形品に代えて、現在市販されている中で表面光沢及び光反射率が最も高いと考えられているポリメチルメタクリレート樹脂成形品(商品名、商標名:アクリライト、寸法:100mm×100mm×2mm、三菱レイヨン(株)製)を用いる以外は、実施例2と同様にして本発明の表面処理を行なった。得られた表面処理後の樹脂成形品は、目視観察しただけでも、表面処理前の樹脂成形品よりも艶やかで美麗な外観を有することを明確に確認できた。
【0058】
実施例2と同様にして、表面処理前後の樹脂成形品の光透過率及び光反射率を測定した。結果を図2及び図4に示す。図2は本実施例におけるポリメチルメタクリレート製樹脂成形品の表面処理前後での光透過率を示すグラフである。図4は本実施例におけるポリメチルメタクリレート製樹脂成形品の表面処理前後での光反射率を示すグラフである。
【0059】
図2及び図4から、従来技術では最高水準の表面光沢を有する樹脂成形品に対して、本発明の表面処理を実施することにより、特に700nm周辺及びそれ以下の可視光領域における樹脂成形品表面の光透過率及び光反射率の向上が顕著であることが明らかである。
【0060】
(実施例4)
真空ポンプ及び電熱装置を備えた真空蒸着装置(商品名:CAP−S1200、クラフト(株)製)を用い、実施例2で得られた表面処理後のポリカーボネート樹脂成形品の表面にアルミニウム被膜を蒸着した。すなわち、該樹脂成形品を真空蒸着装置内に設置し、タングステンを電熱装置に設置した。真空蒸着装置内の真空度を真空ポンプにより、10−3〜10−5hpaとした後、電熱装置に通電してアルミニウムの蒸気を生成させ、その状態を5分間維持した。その後、真空蒸着装置内を常圧に戻し、厚さ約1μmのアルミニウム被膜が形成された樹脂成形品を取り出した。
【0061】
得られた該樹脂成形品の表面にアクリルラッカー(商品名:UT−210N、東洋工業塗料(株)製)を塗布し、厚さ約5μmのトップコート層を形成し、本発明のアルミニウム蒸着樹脂成形品を得た。
【0062】
(比較例1)
実施例2で用いた表面処理前のポリカーボネート樹脂成形品の表面にUV硬化塗料(商品名:CH−3019、東洋塗料工業(株)製)を塗布し、紫外線を照射し、厚さ約5μmのアンダーコート層を形成した。このアンダーコート層を形成した樹脂成形品を用いる以外は、実施例5と同様にして、アンダーコート層の表面に厚さ約1μmのアルミニウム被膜を形成し、さらに厚さ約5μmのトップコート層を形成し、比較用のアルミニウム蒸着樹脂成形品を得た。
【0063】
実施例4及び比較例1で得られたアルミニウム蒸着樹脂成形品の光反射率を実施例2と同様にして測定した。結果を図5に示す。図5によれば、本発明組成物で表面処理された樹脂成形品に直接アルミニウム蒸着を行なうことにより(実施例4)、本発明組成物で表面処理されていない樹脂成形品にアンダーコート層を介してアルミニウム蒸着を施した場合(比較例1)よりも、光反射率が顕著に向上することが明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5