樹脂、ホスフィン酸塩、および球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムを含有することを特徴とする、加熱成形時のホスフィン酸由来の金属腐食抑制作用が優れ、且つ、難燃性に優れた樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
樹脂に難燃性を付与するため、難燃剤(防燃剤)が使用されており、ホスフィン酸塩は、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂に対する有効な難燃剤として知られている。
【0003】
しかしながら、ホスフィン酸塩と熱可塑性樹脂を混合または射出する際、可塑化機器や成形機などの金属製機器類、金型、ノズルなどが著しく摩耗(金属腐食)するという問題がある。また、ガラス繊維などの充填剤で強化した熱可塑性樹脂を使用する場合、硬質なガラス繊維が機器類の金属表面を激しく摩耗して金型などが劣化するという問題もある。
その結果、機器類などの寿命が大幅に低下する。
【0004】
これまで、ホスフィン酸塩と樹脂を含む組成物の改良技術が種々提案されている。
【0005】
例えば特許文献1は、耐燃性、非腐食性、良好な流動性のポリアミドおよびポリエステル成形材料を製造する方法に関し、金属Al、Mg、Ca、Ti、Zn、またはNaのホスフィン酸塩(成分A)と、所定の金属石けんおよび金属塩(成分B)とからなる混合物が、ポリエステルおよび部分芳香族耐熱性ポリアミドを含むポリアミドにおいて効果的な防燃剤になり、そして、金属のホスフィン酸塩単独で使用する場合に比べて、明らかに低減された材料摩耗、およびより高い流動性を達成できることが記載されている。上記成分Bとして、例えば、亜リン酸ナトリウムなどのナトリウム化合物、硫酸バリウムなどのバリウム化合物、炭酸亜鉛などの亜鉛化合物、ステアリン酸アルミニウムなどの金属石けんが例示されている。特許文献1では、プレートレット法による腐食試験により摩耗量を測定している。上記プレートレット法は、可塑性成形材料の腐食強度および摩耗強度を比較評価するためのモデル試験に用いられる方法である旨記載されている。
【0006】
特許文献2は、難燃性ばかりでなく、良好な機械的値並びに低いポリマー分解を示し、プラスチックに安定化作用を発揮し、金型付着物及びプラスチックからの浸出物を生じさせない、熱可塑性プラスチック、特にポリアミド及びポリエステルのための難燃剤(成分A)−安定化剤(成分B)の組み合わせに関する。特許文献2には、成分Aとして所定のホスフィン酸塩、成分Bとして亜リン酸塩が開示されている。特許文献2によれば、ポリマーの分解は阻止されるかまたは強く低減され、そして金型付着物及び浸出物は観察されないと記載されており、実施例の表2には14日間 100%湿度 70℃下での浸出物結果が示されている。
【0007】
特許文献3は難燃剤と亜リン酸アルミニウムとを含有する難燃剤混合物に関し、当該混合物は熱安定性に優れることが記載されている。上記難燃剤混合物の熱安定性に関する重要な基準は、分解が開始し毒性のホスフィン(PH
3)が形成される温度であることが記載されており、具体的には、試料の温度を徐々に上げて加熱したとき1ppm超のPH
3を検出することができたときの温度を分解温度としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ホスフィン酸と樹脂を含む樹脂組成物では、加熱成形時にホスフィン酸由来のガスが発生して成形機などの金属が腐食する。そのため、このような金属腐食を抑制可能な樹脂組成物の提供が望まれているが、前述した特許文献1〜3はいずれも、このような観点から提供されたものではない。
【0010】
例えば特許文献1の実施例において、プレートレット法による腐食試験により腐食の減少が見られたと報告されている成分のうち硫酸バリウムおよびステアリン酸アルミニウムは、本発明者らの実験結果によれば、ホスフィン酸添加による顕著な腐食を全く改善できないことが判明した。特許文献2も上記特許文献1と同様、プレートレット法によって腐食を評価した結果が記載されているに過ぎない。また、特許文献3は熱安定性向上の観点から提案された技術であり、熱安定性の基準として、樹脂混合物が分解してホスフィンが形成される温度(分解温度)を測定しているに過ぎない。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ホスフィン酸塩単独使用の場合に比べて難燃性が向上すると共に、加熱成形時のホスフィン酸由来の金属腐食抑制作用に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決し得た本発明に係る加熱成形時のホスフィン酸由来の金属腐食抑制作用が優れ、且つ、難燃性に優れた樹脂組成物は、樹脂、ホスフィン酸塩、および球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムを含有する点に要旨を有する。
【0013】
本発明の好ましい実施形態において、前記ホスフィン酸塩100質量部に対する前記球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムの含有比率は、5〜40質量部である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、前記樹脂は熱可塑性樹脂である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、前記樹脂はポリアミドまたはポリエステルである。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、前記樹脂は、更に無機充填材を含む。
【0017】
本発明の好ましい実施形態において、前記加熱成形時の温度は260〜320℃である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ホスフィン酸塩単独使用の場合に比べて難燃性が向上すると共に、加熱成形時のホスフィン酸由来の金属腐食抑制作用に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するため、検討を行なった。その結果、球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムを用いれば上記課題が達成されて、難燃性および金属腐食抑制作用の両方が改善されることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
本発明による金属腐食抑制作用の詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように考えられる。まず、ホスフィン酸塩の金属腐食は、押出機内などで加熱されたホスフィン酸塩由来のホスフィン酸によるものであり、これが金属を腐食させると考えられる。更に樹脂中に強度、剛性などを補強する目的で、無機充填材を含有する場合がある。無機充填材のなかでもガラス繊維などの硬質材が含まれる場合は、上記機器類がガラス繊維によって削られて摩耗すると考えられる。これに対し、本発明に用いられる亜リン酸アルミニウムは球状であり、亜リン酸アルミニウム粉末の流動性に優れるため、加熱成形時の流動性が増加して金型の摩耗が減少すると考えられる。更に上記亜リン酸アルミニウムは機械的強度にも優れるため、樹脂組成物自体の機械的強度を低下させることはない。更に本発明に用いられる亜リン酸アルミニウムは発泡性を有しているため、難燃性の向上にも寄与していると考えられる。
【0022】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、樹脂、ホスフィン酸塩、および球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムを含有する点に特徴がある。以下、上記樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0023】
(球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウム)
本発明に用いられる亜リン酸アルミニウムは、球状であり、発泡性を有している。ここで「球状」とは、球体および球体に近似する形状を有しており、直径が約2〜125μmの範囲に分布し、平均直径が20μm程度のものを意味する。本発明に用いられる亜リン酸アルミニウムの詳細は、特許第2899916号公報に記載されており、亜リン酸アルミニウムの形状は
図1〜3を参照することができる。また「発泡性」とは、約300℃〜1350℃に加熱したときに発泡するものを意味する。本発明の亜リン酸アルミニウムは、約1200℃まで安定して発泡する。
【0024】
上記亜リン酸アルミニウムは、不定型のものに比べて、亜リン酸アルミニウム粉末の流動性に優れ、且つ機械的強度も高い。そのため、上記亜リン酸アルミニウムを用いれば、塗料製造時における混和作業などの作業性向上、顔料などの添加剤の高濃度配合化、塗料の塗布時における作業性向上、塗料の防火効果向上などの効果が得られる。
【0025】
本発明に用いられる亜リン酸アルミニウムの製造方法は、前述した特許第2899916号公報に記載されており、例えば、50℃以上に加熱した亜リン酸水溶液にアルミナ水和物を添加し反応させて得られた粘稠な亜リン酸アルミニウムスラリーを、50〜90℃で撹拌しながら微細な結晶を徐々に析出させて球状体に成長させた後、遠心脱水したものを、200℃で16時間乾燥することにより製造することができる。製造方法の詳細は、上記公報を参照すれば良い。
【0026】
上記球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムは市販品を用いても良く、例えば太平化学産業(株)社製のAPA−100などが挙げられる。
【0027】
本発明に用いられる亜リン酸アルミニウム添加による上記作用を有効に発揮させるため、前記ホスフィン酸塩100質量部に対する前記球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムの含有比率は、5〜40質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると上記亜リン酸アルミニウムの添加効果が有効に発揮されず、難燃性および金属腐食抑制作用の両方が低下する。一方、上記比率を超えると金属腐食抑制作用は有効に発揮されるが、難燃性が低下する。上記含有比率は、より好ましくは11〜25質量部である。
【0028】
(ホスフィン酸塩)
前述したように本発明の特徴は球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムを用いた点にあり、使用するホスフィン酸塩の種類は特に限定されないが、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、イソブチルメチルホスフィン酸、オクチルメチルホスフィン酸、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸などが挙げられる。これらのうち、価格や取扱い面などを考慮すると、ジエチルホスフィン酸が好ましく用いられる。
【0029】
上記ホスフィン酸塩は、上述したホスフィン酸の塩であり、例えばカルシウム塩、アルミニウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩などが挙げられる。
【0030】
本発明に用いられるホスフィン酸塩のうち、難燃性、電気特性のバランスなどを考慮すると、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムがより好ましい。
【0031】
上記ホスフィン酸塩は市販品を用いても良く、例えば、Exolit OP−1230(クラリアント社製)などが用いられる。
【0032】
本発明において、樹脂組成物100質量部に対するホスフィン酸塩の含有比率は、15〜50質量部であることが好ましい。上記比率を下回るとホスフィン酸塩添加による難燃性向上作用が有効に発揮されない。一方、上記比率を超えると混錬トルクが上昇し、作業性が著しく低下する。上記含有比率は、より好ましくは20〜30質量部である。
【0033】
(樹脂)
本発明では、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリオレフィンオキシド樹脂、ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましく用いられ、ポリアミド樹脂またはポリエステル樹脂がより好ましく用いられる。前述したように本発明は球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムを用いた点に特徴があり、使用する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。例えば、前述した特許文献2に記載のポリアミドまたはポリエステルを用いることができる。
【0034】
上記樹脂は市販品を用いても良く、例えば、ノバデュラン5010R5(三菱エンジニアプラスチック製)、アミランCM3001N(東レ製)などが用いられる。
【0035】
本発明において、樹脂組成物100質量部に対する樹脂の含有比率は、40〜85質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると混錬トルクが上昇し、作業性が著しく低下する。一方、上記比率を超えると、所望とする難燃性が得られない。上記含有比率は、より好ましくは50〜80質量部である。
【0036】
上記樹脂は、樹脂の強度、剛性などを補強する目的で無機充填材を更に含有しても良い。前述したように本発明の特徴は球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムを用いた点にあり、無機充填材の種類は特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカ−、アラミド繊維、マイカ、タルク、カオリン、ワラストナイトなど通常用いられるものを使用することができる。これらは単独で用いても良いし、二種以上の混合物を用いても良い。これらのなかでも、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、タルク、カオリン、ワラストナイト、およびこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0037】
上記無機充填材は市販品を用いても良く、例えば、ECS03−631K(セントラルグラスファイバー株式会社製)などが用いられる。
【0038】
本発明において、樹脂組成物100質量部に対する無機充填材の含有比率は、5〜60質量部であることが好ましい。上記比率を下回ると無機充填材の添加効果が有効に発揮されず、樹脂の強度等の補強が困難となる。一方、上記比率を超えると回ると混錬作業が困難になる。上記含有比率は、より好ましくは10〜45質量部である。
【0039】
本発明の樹脂組成物を用いれば、ホスフィン酸塩単独使用の場合に比べて難燃性が向上すると共に、加熱成形時のホスフィン酸由来の金属腐食抑制作用、更には当該樹脂に含まれるガラス繊維由来の摩耗による金属腐食抑制作用が向上する。上記加熱成形時の温度は、例えば260〜320℃である。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、例えば塗料、接着剤、電気電子部品、自動車、建築物内装品などの様々な分野に適用可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
実施例1
以下の樹脂、ホスフィン酸塩、および球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウムを用意し、二軸混練押出機TEX30α(株式会社日本製鋼所製)の主原料フィーダー口から投入して混合した。これらの質量比率は表1または表2のとおりであり、押出機の温度は、ポリアミド樹脂では300℃であり、ポリエステル樹脂では280℃であった。次に、上記押出機の副原料フィーダーから、ガラス繊維を表1または表2の質量比率で投入して、吐出されたストランドをストランドカットペレタイザー(株式会社日本製鋼所製)にて切断して、コンパウンドペレットを作製した。なお、上記押出機の処理量は樹脂組成物として、20kg/hrで行なった。
【0043】
比較のため、亜リン酸アルミニウムの代わりに以下の添加剤を加えた。これらの添加剤は、前述した特許文献1の成分Bとして開示されているものである。
【0044】
(樹脂)
・表1のポリアミド6,6樹脂(東レ製のアミランCM3001N)
・表2のポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(三菱エンジニアプラスチック製のノバデュラン5010R5)
(無機充填材)
・ガラス繊維 ECS03−631K(セントラルグラスファイバー製)
(ホスフィン酸塩)
・ジエチルホスフィン酸アルミニウム(以下DEPALと表記)(特許第4926399号公報の例8に基づいて調整した。
(球状且つ発泡性の亜リン酸アルミニウム)
・APA−100(太平化学産業株式会社製)
(添加剤)
・試薬特級 亜リン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)
・試薬一級 硫酸バリウム(和光純薬工業株式会社製)
・試薬一級 塩基性炭酸亜鉛(和光純薬工業株式会社製)
・ステアリン酸Al,ジ(和光純薬工業株式会社製)
【0045】
このようにして得られたペレットを60℃で12時間乾燥した後、以下の試験を行なった。
【0046】
(1)難燃性の評価
上記の各コンパウンドペレットを、射出成型機PNX−40(日精樹脂工業製)にて厚さ0.8mmの試験片を加工した後、UL規格(Underwriters Laboratories;アメリカ保険業者安全試験所)に準じたJIS K6911の5.24.2(耐燃性、B法)に基づいて難燃性を評価した。
【0047】
難燃性の評価基準は、難燃性の高い順にV−0、V−1、V−1未満である。ここで、V−1未満とは、UL94V試験のV−2以下のものを意味する。本実施例では表1および表2のNo.1(APA−100の添加なし)の基準(V−1)よりも難燃性に優れるもの(V−0)を合格と評価した。
【0048】
(2)金属腐食性の評価
銅箔(株式会社ニコラ製、純度99.9%、厚み0.05mm)を2cm×2cmのサイズにカットした試験片、および上記のようにして得られたコンパウンドペレット2gをルツボ(30mL、径45mm、高さ36mm)に加熱炉に入れた。加熱炉の温度を、表1のポリアミド6,6樹脂では300℃、表2のPBT樹脂では280℃に設定して60分間加熱処理した後、自然冷却で室温まで冷却した。その後、加熱炉から上記試験片を取出してその表面状態を、マイクロスコープBS−D8000II(ソニック株式会社製)を用いて倍率50倍または200倍で観察して、下記基準で金属腐食の程度を評価した。
・無 :銅箔の表面状態に変化が認められない。
・僅か:銅箔の表面が多少変色した。
・若干:銅箔の所々に錆が生じた。
・顕著:銅箔の表面に明瞭な斑点状の錆が生じた。
【0049】
これらの結果を表1、表2に併記する。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
まず、表1を参照する。表1では、ポリアミド樹脂50質量部にガラス繊維30質量部を配合した樹脂中に、DEPALとAPA−100などの添加剤との合計量が20質量部となるように配合したペレットを用いたときの結果を示している。
【0053】
これらのうち、表1のNo.2は樹脂中にDEPALを添加せずAPA−100を添加した例であり、No.13〜15は樹脂中にDEPALおよび所定量のAPA−100を添加した本発明例である。No.2に示すように、APA−100の添加によりガラス繊維に基づく金属腐食は抑制されたが、No.1(樹脂とDEPALのみであり、添加剤ゼロ)に比べて難燃性は低下した。これに対し、No.13〜15はいずれも、No.1に比べて難燃性が向上する共に、DEPALによる金属腐食も著しく抑制された。
【0054】
参考のため、上記金属腐食試験の結果を
図1に示す。
図1の上段はDEPALを添加せずに樹脂(ポリアミド樹脂およびガラス繊維)のみ配合したときの結果であり、
図1の中段は表1のNo.1の結果を、
図1の下段は表1のNo.14の結果をそれぞれ示す。これらの図より、樹脂にDEPALを加えると顕著な金属腐食が見られた(
図1の中段をご参照)のに対し、APA−100を配合することによりDEPALによる金属腐食が抑制されていることが分かる(
図1の下段を参照)。
【0055】
一方、No.3〜10は、APA−100の代わりに特許文献1に記載の成分Bを添加した例である。これらは、上記文献に記載のプレートレット法による腐食試験によれば、いずれも腐食が僅少と評価されたものであるが、表1の結果より、硫酸バリウムおよびステアリン酸アルミニウムを用いた場合は、DEPALによる金属腐食抑制作用は全く認められないことが分かる。例えばNo.5および6は硫酸バリウムを添加した例であり、硫酸バリウムの添加によりガラス繊維による金属腐食抑制作用は認められた(No.5を参照)が、DEPAL添加による金属腐食抑制作用は全く認められず、No.1と同程度のままであった(No.6を参照)。同様の結果は、ステアリン酸アルミニウムを用いたNo.9および10でも見られた。
【0056】
更に上記No.3〜10はいずれも、No.1に比べて難燃性が低下した。
【0057】
これらの結果より、所望とする難燃性および金属腐食抑制作用の両方を発揮させるためには、APA−100の添加が有効であることが分かる。
【0058】
なお、No.11および12は、APA−100の配合比率が本発明の好ましい要件を外れる例である。すなわち、No.11はDEPALに対するAPA−100の配合比率が少ないため、APA−100の添加効果が有効に発揮されず、難燃性および金属腐食抑制作用の両方が低下した。また、No.12はDEPALに対するAPA−100の配合比率が多いため、APA−100添加による金属腐食抑制作用は有効に発揮されたが、難燃性が低下した。
【0059】
表1と同様の結果は、熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂の代わりにPBTを用いた表2の場合も同様に見られた。
【0060】
よって、本発明の樹脂組成物を用いれば、ホスフィン酸塩単独使用の場合に比べて難燃性が向上すると共に、加熱成形時のホスフィン酸由来の金属腐食抑制作用に優れた樹脂組成物を提供することができた。