特開2017-116327(P2017-116327A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人 名古屋電気学園の特許一覧

<>
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000003
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000004
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000005
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000006
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000007
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000008
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000009
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000010
  • 特開2017116327-pH測定デバイス 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-116327(P2017-116327A)
(43)【公開日】2017年6月29日
(54)【発明の名称】pH測定デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20170602BHJP
   G01N 27/414 20060101ALI20170602BHJP
   G01N 37/00 20060101ALN20170602BHJP
【FI】
   G01N27/46 353Z
   G01N27/30 301X
   G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-249994(P2015-249994)
(22)【出願日】2015年12月22日
(71)【出願人】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 章
(57)【要約】
【課題】測定用pH−FET及び比較電極をY字流路に配置したpH測定デバイスを、従来に比べて更に小型化する。
【解決手段】pH測定デバイス10は、V字をなす第1及び第2の斜線部分24,26の合流点に直線部分22が繋がったY字流路20を備えている。直線部分22には、測定用pH−FET30が配置され、第1の斜線部分24には、参照用pH−FET32と比較電極34とが近接した状態で配置されている。第1の斜線部分24の注入口25には、ベースライン溶液が充填された第1の細径チューブ41が着脱自在かつ液密に接続されている。第1の細径チューブ41は、渦巻き状に巻回された状態で横置きされている。第2の斜線部分26の注入口27には、サンプル溶液が充填された第2の細径チューブ42が着脱自在かつ液密に接続されている。各細径チューブ41,42の端部は大気開放されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
V字をなす第1及び第2の斜線部分の合流点に直線部分が繋がったY字流路を備え、前記第1の斜線部分の先端がベースライン溶液を注入する第1注入口、前記第2の斜線部分の先端がサンプル溶液を注入する第2の注入口、前記直線部分の先端が排出口であり、前記直線部分には測定用pH−FETが配置され、前記第1の斜線部分には比較電極が配置されたpH測定デバイスであって、
前記第1の注入口には、前記ベースライン溶液が充填された第1の細径チューブが接続され、該第1の細径チューブは渦巻き状に巻回された状態又はジグザグ状に屈曲された状態で横置きされ、該第1の細径チューブの端部は大気開放され、
前記第2の注入口には、前記サンプル溶液が充填された第2の細径チューブが接続され、該第2の細径チューブは横置きされ、該第2の細径チューブの端部は大気開放されている、
pH測定デバイス。
【請求項2】
前記第1の斜線部分には、参照用pH−FETも配置されている、
請求項1に記載のpH測定デバイス。
【請求項3】
前記第1の細径チューブは、第1のコックを介して前記第1の注入口に接続され、
前記第2の細径チューブは、第2のコックを介して前記第2の注入口に接続されている、
請求項1又は2に記載のpH測定デバイス。
【請求項4】
前記第1の細径チューブから前記第1の注入口へ注入する前記ベースライン溶液と前記第2の細径チューブから前記第2の注入口へ注入する前記サンプル溶液との流量比の切り替えは、前記第1の細径チューブと前記第2の細径チューブとの上下位置を調整することにより行う、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のpH測定デバイス。
【請求項5】
前記第2の細径チューブの端部は、大気開放される代わりにサンプル溶液輸送チューブの分岐点に接続されている、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のpH測定デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH測定デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中のプロトン濃度を表すpHは、化学・生物学実験、食品産業、臨床検査、環境計測など至る所で用いられる物理・化学量である。溶液の性質はpHにより大きく変わるため、素性を知るためにはpH値を把握することが肝要である。pHの測定の革新的なテクノロジーとして、半導体をベースとした小型のイオン感応型電界効果トランジスタ(Ion-sensitive field-effect transistor;ISFET)がある。本発明者らはISFETをpH測定センサとして利用した小型のpH測定デバイスを開発し、論文等に発表している(例えば非特許文献1,2)。
【0003】
図9に示す既に発表済みのpH測定デバイス110は、V字をなす第1及び第2の斜線部分の合流点に直線部分が繋がったY字流路120を備えている。第1の斜線部分124の先端は第1のリザーバタンク151からベースライン溶液を注入する第1の注入口、第2の斜線部分126の先端は第2のリザーバタンク152からサンプル溶液を注入する第2の注入口、直線部分122の先端は排出口となっている。また、直線部分122には測定用pH−FET(pH-sensitive field-effect transistor)130が配置され、第1の斜線部分124には参照用pH−FET132と比較電極134であるAg/AgCl電極とが配置されている。各pH−FET130,132の電位は、比較電極134を基準にして測定される。測定用及び参照用pH−FET130,132のリード線や比較電極134のリード線は、それぞれ液密な状態で外部に取り出され、増幅器50及びA/D変換器(図示せず)を介してモニタ付きのコンピュータ52に接続されている。こうしたpH測定デバイス110でサンプル溶液のpHを測定するには、まず、ベースライン溶液で第1の斜線部分124及び直線部分122を満たす。これにより、両方のpH−FET130,132がベースライン溶液に浸される。このときの両pH−FET130,132の電位差を読み取る。次に、サンプル溶液を第2の斜線部分126及び直線部分122に流す。これにより、測定用pH−FET130はサンプル溶液に浸漬され、参照用pH−FET132はベースライン溶液に浸漬される。このときの両pH−FETの電位差を読み取る。そして、これらの電位差の差分を求め、その差分からpHの値を求める。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】三浦 剛資、山田 章,「微小流体デバイスによるインラインイオン濃度モニタ」,第53回日本生体医工学会大会講演要旨集,2014年,p.47,O2−07−6
【非特許文献2】和久田 暁彦、山田 章,「微小流体デバイスによるイオン濃度モニタの線形範囲の拡大」,第54回日本生体医工学会大会講演要旨集,,2015年,pp.407−409,P1−5−3−A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ベースライン溶液を第1のリザーバタンク151に、サンプル溶液を第2のリザーバタンク152に貯蔵していたため、これらのタンクがpH測定デバイス110の小型化の妨げとなっていた。また、これらを小型化できたとしても、サンプル溶液は次から次へと切り替えるがベースライン溶液は同じ組成のものを使い続けるため、ベースライン溶液を貯蔵する容量はできるだけ大きくしておくことが望まれていた。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、測定用pH−FET及び比較電極をY字流路に配置したpH測定デバイスを、従来に比べて更に小型化することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のpH測定デバイスは、
V字をなす第1及び第2の斜線部分の合流点に直線部分が繋がったY字流路を備え、前記第1の斜線部分の先端がベースライン溶液を注入する第1注入口、前記第2の斜線部分の先端がサンプル溶液を注入する第2の注入口、前記直線部分の先端が排出口であり、前記直線部分には測定用pH−FETが配置され、前記第1の斜線部分には比較電極が配置されたpH測定デバイスであって、
前記第1の注入口には、前記ベースライン溶液が充填された第1の細径チューブが接続され、該第1の細径チューブは渦巻き状に巻回された状態又はジグザグ状に屈曲された状態で横置きされ、該第1の細径チューブの端部は大気開放され、
前記第2の注入口には、前記サンプル溶液が充填された第2の細径チューブが接続され、該第2の細径チューブは横置きされ、該第2の細径チューブの端部は大気開放されている、
ものである。
【0008】
このpH測定デバイスは、ベースライン溶液が充填された第1の細径チューブが第1の注入口に接続され、サンプル溶液が充填された第2の細径チューブが第2の注入口に接続されている。従来のリザーバタンクに比べて細径チューブを利用しているため、pH測定デバイスの装置構成を小型化することができる。第1の細径チューブは、渦巻き状に巻回された状態又はジグザグ状に屈曲された状態で横置きされているため、狭いスペースであっても長さを稼いでベースライン溶液の貯蔵容量を大きくすることができる。特に、サンプル溶液が次から次へと切り替えられてもベースライン溶液は同じ組成のものを使うことが多いため、ベースライン溶液の貯蔵容量が大きいことは有意義である。また、第1及び第2の細径チューブはいずれも端部が大気開放されているため、各細径チューブ内の溶液を各注入口へスムーズに注入することができる。
【0009】
本発明のpH測定デバイスにおいて、前記第1の斜線部分には、参照用pH−FETが配置されていてもよい。こうすれば、比較電極に対する測定用pH−FETの電位と比較電極に対する参照用pH−FETの電位とを用いてpHを測定する差動計測が可能になるため、比較電極に対する測定用pH−FETの電位のみを用いる場合に比べて測定精度が高くなる。
【0010】
本発明のpH測定デバイスにおいて、前記第1の細径チューブは、第1のコックを介して前記第1の注入口に接続され、前記第2の細径チューブは、第2のコックを介して前記第2の注入口に接続されていてもよい。こうすれば、第1及び第2のコックを操作することにより、第1の細径チューブから第1の注入口へ注入されるベースライン溶液の液量を調節したり、第2の細径チューブから第2の注入口へ注入されるサンプル溶液の液量を調節したりするのを容易かつ確実に行うことができる。なお、液量の調節には、液量をゼロにすることつまり注入を停止することも含まれる。
【0011】
本発明のpH測定デバイスにおいて、前記第1の細径チューブから前記第1の注入口へ注入する前記ベースライン溶液と前記第2の細径チューブから前記第2の注入口へ注入する前記サンプル溶液との流量比の変更は、前記第1の細径チューブと前記第2の細径チューブとの上下位置を調整することにより行ってもよい。こうすれば、比較的簡単な操作でベースライン溶液とサンプル溶液との流量比を変更することができる。このとき、第1の細径チューブは渦巻き状に巻回された状態又はジグザグ状に屈曲された状態で横置きされているため、水平を保ったまま容易に上下動させることができる。
【0012】
本発明のpH測定デバイスにおいて、前記第2の細径チューブの端部は、大気開放される代わりにサンプル溶液輸送チューブの分岐点に接続されていてもよい。こうすれば、サンプル溶液輸送チューブを流れるサンプル溶液を、サンプル溶液輸送チューブから分岐させて第2の細径チューブへ導入することができる。これにより、計測によるサンプル溶液の汚染を防止することができるし、サンプル溶液のpHを常時モニタすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】pH測定デバイス10の平面図。
図2図1のA−A断面図。
図3】サンプル溶液のpHを測定する前のY字流路20の様子を表す説明図。
図4】サンプル溶液のpHを測定する時のY字流路20の様子を表す説明図。
図5】pHとΔΔVとの関係を表すグラフ。
図6】ジグザグ状に屈曲した第1の細径チューブ141の平面図。
図7】第1及び第2のコック45,46を取り付けたpH測定デバイス10の説明図。
図8】第2の細径チューブ42の端部を輸送チューブ48に繋いだ実施形態の説明図。
図9】従来のpH測定デバイス110の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1はpH測定デバイス10の平面図、図2図1のA−A断面図である。
【0015】
pH測定デバイス10は、ガラス板12とシリコーンゴムブロック14とを接着したものであり、内部にY字流路20を備えている。ガラス板12は、表裏両面ともフラットな板である。シリコーンゴムブロック14は、シリコーンゴムブロック14がガラス板12と接着されたときにY字流路20を形成するための溝や貫通穴を有している。
【0016】
Y字流路20は、V字をなす第1及び第2の斜線部分24,26の合流点に直線部分22が繋がった形状の流路である。流路断面は、0.5mm×1.0mmの四角形であるが、特にこのサイズや形状に限定されるものではない。例えば、このサイズより若干大きくても小さくてもよいし、四角形状ではなく円形状や半円状であってもよい。第1の斜線部分24の先端がベースライン溶液(BLS)を注入する第1注入口25、第2の斜線部分26の先端がサンプル溶液(SS)を注入する第2の注入口27、直線部分22の先端が排出口23となっている。
【0017】
Y字流路20の直線部分22には、測定用pH−FET30が配置されている。第1の斜線部分24には、参照用pH−FET32と比較電極34とが近接した状態で配置されている。測定用及び参照用pH−FET30,32は、内部に感応部を持ちサイズが5.5×0.4×0.2mmの微小センサであり、酸化ケイ素と窒化ケイ素の二重層によって完全に絶縁されている。なお、サイズは特にこれに限定されるものではない。比較電極34としては、Ag/AgCl電極を用いている。測定用及び参照用pH−FET30,32のリード線や比較電極34のリード線は、それぞれ液密な状態で外部に取り出され、増幅器及びA/D変換器を介してモニタ付きのコンピュータに接続されている。この点は、従来のpH測定デバイス110と同様であるため、図9を参照されたい。
【0018】
第1の注入口25には、BLSが充填された第1の細径チューブ41が着脱自在かつ液密に接続されている。この第1の細径チューブ41は、渦巻き状に巻回された状態で横置きつまり水平に置かれている。また、第1の細径チューブ41の端部41aは大気開放されている。第1の細径チューブ41は、横置きされた状態のまま上下動できるようになっている。上下動はミニジャッキを利用してもよいし、手作業で支持台の高さを変更してもよい。第2の注入口27には、SSが充填された直線状の第2の細径チューブ42が着脱自在かつ液密に接続されている。この第2の細径チューブ42も横置きされた状態であり、その状態のまま上下動できるようになっている。また、第2の細径チューブ42の端部42aは、大気開放されている。排出口23には、Y字流路20を通過してきた液体を排出するための排出チューブ43が着脱自在かつ液密に接続されている。いずれのチューブ41,42,43も軟質チューブであっても硬質チューブであってもよい。
【0019】
次に、pH測定デバイス10の作製方法について説明する。まず、シリコーンゴムブロック14を、鋳型を用いて作製する。鋳型は、3D−CADで設計後、ラピッドプロトタイピング装置(Stratasys社製、Object500 Connex)を用いて作製する。鋳型は、全周に壁を備えた四角形状のトレイであって、Y字流路20を形成するためのY字突起を底面に備えたものを用いる。この鋳型に液状のポリジメチルシロキサン(PDMS)を注入し、PDMSを硬化させた後、PDMS構造体を鋳型から取り外す。その後、プラズマ照射により親水化してシリコーンゴムブロック14とする。このシリコーンゴムブロック14をガラス板12に接着する。続いて、シリコーンゴムブロック14のうち第1及び第2の注入口25,27に相当する箇所と排出口23に相当する箇所に穴(φ3mm)をあける。続いて、測定用及び参照用pH−FET30,32と比較電極34を、予め設けておいた小穴からY字流路20へ挿入し、その後、液密になるように小穴を接着剤で塞ぐ。最後に、第1の細径チューブ41を第1の注入口25に接続し、第2の細径チューブ42を第2の注入口27に接続し、排出チューブ43を排出口23に接続して、pH測定デバイス10を得る。
【0020】
次に、pH測定デバイス10の使用例について説明する。BLSとして、7.41pH標準液を蒸留水で500倍に希釈したものを用い、SSとして、pHが1.68,4.01,6.86,7.41,9.18及び10.1の6種類の標準液を用いるものとする。
【0021】
まず、第1の細径チューブ41にBLSを充填し、第2の細径チューブ42にSS(pH1.68)を充填する。第1の細径チューブ41の貯蔵容量は、第2の細径チューブ42の貯蔵容量の数倍から数十倍にするのがよい。
【0022】
次に、第1の細径チューブ41の高さH1が第2の細径チューブ42の高さH2よりも高くなるようにセットして、測定用及び参照用pH−FET30,32が両方ともBLSに浸漬されるようにする。例えば、H1を55mm、H2を25mmとする。このときのY字流路20の様子を図3に示す。図3に示すように、BLSとSSは層流のため流路内で混合することはない。なお、図3のハッチング部分はBLSとSSとの境界面である(図4も同様)。この状態で約1分経過した後、比較電極34に対する測定用pH−FET30の電位Vm(0)と比較電極34に対する参照用pH−FET32の電位Vr(0)を測定する。
【0023】
次に、第2の細径チューブ42の高さH2が第1の細径チューブ41の高さH1よりも高くなるようにセットして、測定用pH−FET30がSSに、参照用pH−FET32がBLSに浸漬されるようにする。例えば、H2を55mm、H1を25mmとする。なお、高さ変更に要する時間は約1秒である。このときのY字流路20内の様子を図4に示す。図4に示すように、BLSとSSは層流のため流路内で混合することはない。高さを切り替えてから約1分経過した後、比較電極34に対する測定用pH−FET30の電位Vm(1)と比較電極34に対する参照用pH−FET32の電位Vr(1)を測定する。
【0024】
そして、ΔΔVを下記式(i)より求める。ΔΔVは、SSとBLSのpHの差を正確に反映した値となる。測定に必要なサンプル量は約2mL、測定時間は約2分である。
ΔΔV=ΔV(1)−ΔV(0)
=Vm(1)−Vr(1)−[Vm(0)−Vr(0)] …(i)
【0025】
以上の測定をすべてのSS(pHが1.68,4.01,6.86,7.41,9.18及び10.1の標準液)について行い、各pHに対するΔΔVの値を求める。第2の細径チューブ42はSSごとに交換する必要があるが、第1の細径チューブ41は容量が大きいためすべてのSSの測定が終わるまで交換する必要はない。各pHに対するΔΔVの値をもとに最小2乗法を用いて直線近似を行い、下記式(ii)を得る。このときのR2(Rは相関係数)は1に近い値になる。直線近似の一例を図5に示す。下記式(ii)を用いることで、pH未知のサンプル溶液のΔΔVを測定すればそのサンプル溶液のpHを知ることができる。式(ii)において、pHは理論的にBLSのpHと等しく、kは測定用pH−FET30のpH感度である。このように、pH測定デバイス10を用いれば、サンプル溶液のpHを、少量のサンプル溶液で短時間かつ高精度で測定することができる。なお、このような測定手法を差動計測という。
pH=−ΔΔV/k + pH …(ii)
【0026】
以上説明したpH測定デバイス10によれば、従来のリザーバタンクの代わりに第1及び第2の細径チューブ41,42を利用しているため、装置構成を小型化することができる。また、第1の細径チューブ41は、渦巻き状に巻回された状態で横置きにされているため、狭いスペースであっても長さを稼いでBLSの貯蔵容量を大きくすることができる。特に、SSが次から次へと切り替えられてもBLSは同じ組成のものを使うことが多いため、BLSの貯蔵容量が大きいことは有意義である。また、第1及び第2の細径チューブ41,42はいずれも端部が大気開放されているため、各細径チューブ41,42内の溶液を各注入口25,27へスムーズに注入することができる。
【0027】
更に、第1の細径チューブ41から第1の注入口25へ注入するBLSと第2の細径チューブ42から第2の注入口27へ注入するSSとの流量比の変更を、第1の細径チューブ41と第2の細径チューブ42との上下位置を調整することにより行うようにしたため、比較的簡単な操作でBLSとSSとの流量比を変更することができる。このとき、第1の細径チューブ41は渦巻き状に巻回された状態で横置きされているため、水平を保ったまま容易に上下動させることができる。
【0028】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0029】
例えば、上述した実施形態では、第1の細径チューブ41を横置した状態で渦巻き状に巻回したが、図6に示すように、Y字流路20の第1の注入口25に接続された第1の細径チューブ141を横置きした状態でジグザグ状に屈曲させてもよい。このようにしても上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0030】
上述した実施形態において、図7に示すように、第1の細径チューブ41を、第1のコック45を介してY字流路20の第1の注入口25に接続し、第2の細径チューブ42を、第2のコック46を介して第2の注入口27に接続してもよい。第1及び第2のコック45,46としては、例えば三方活栓などが挙げられる。こうすれば、第1及び第2のコック45,46を操作することにより、第1の細径チューブ41から第1の注入口25へ注入されるBLSの液量を調節したり、第2の細径チューブ42から第2の注入口27へ注入されるSSの液量を調節したりするのを容易かつ確実に行うことができる。なお、液量の調節には、液量をゼロにすることつまり注入を停止することも含まれる。
【0031】
上述した実施形態では、第2の細径チューブ42を直線状のチューブとしたが、直線状ではなく湾曲していてもよいし巻回あるいは屈曲されていてもよい。但し、測定に必要なSSの量はBLSと比べて少ないため、第2の細径チューブ42の全体の長さは第1の細径チューブ41より短くするのがよい。
【0032】
上述した実施形態では、第1の細径チューブ41と第2の細径チューブ42の高さを調整することで両チューブ41,42から注入される液体の流量比を変更したが、それに代えて、小型電動ポンプや流量可変バルブを利用して流量比を変更するようにしてもよい。
【0033】
上述した実施形態では、第1及び第2の細径チューブ41,42として断面円形のチューブを用いたが、チューブの断面形状は円形に限定されるものではなく、例えば四角形であってもよい。断面四角形の方が体積密度を上げるには有利である。
【0034】
上述した実施形態では、第1の斜線部分24に参照用pH−FET32と比較電極34とを近接した状態で配置したが、特に両者を近接させる必要はなく、両者が第1の斜線部分24に配置されていれば足りる。
【0035】
上述した実施形態では、Y字流路20の第1の斜線部分24に参照用pH−FET32を設けてpH測定を差動計測で行うようにしたが、参照用pH−FET32を省略し、差動計測ではなく測定用pH−FET30と比較電極34とを用いてpH測定を行うようにしてもよい。こうすれば、参照用pH−FET32が不要なためコスト的に有利である。但し、上述した実施形態のように差動計測を採用した方が測定精度は向上する。
【0036】
上述した実施形態では、第2の細径チューブ42の端部42aを大気に開放したが、図8に示すように第2の細径チューブ42の端部42aをプロセス等の溶液を輸送する輸送チューブ48の分岐点に接続してもよい。こうすれば、輸送チューブ48を流れる溶液を、輸送チューブ48から分岐させて第2の細径チューブ42へ導入することができる。これにより、計測による溶液の汚染を防止することができる。また、輸送チューブ48を流れる溶液のpHを常時モニタすることもできる。
【符号の説明】
【0037】
10 pH測定デバイス、12 ガラス板、14 シリコーンゴムブロック、20 Y字流路、22 直線部分、23 排出口、24 第1の斜線部分、25 第1の注入口、26 第2の斜線部分、27 第2の注入口、30 測定用pH−FET、32 参照用pH−FET、34 比較電極、41 第1の細径チューブ、41a 端部、42 第2の細径チューブ、42a 端部、43 排出チューブ、45 第1のコック、46 第2のコック、48 輸送チューブ、50 増幅器、52 コンピュータ、110 pH測定デバイス、120 Y字流路、122 直線部分、124 第1の斜線部分、126 第2の斜線部分、130 測定用pH−FET、132 参照用pH−FET、134 比較電極、141 細径チューブ、151 第1のリザーバタンク、152 第2のリザーバタンク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9