(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-117530(P2017-117530A)
(43)【公開日】2017年6月29日
(54)【発明の名称】アルカリ電池用セパレータ、アルカリ電池、およびアルカリ電池用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 2/18 20060101AFI20170602BHJP
H01M 6/08 20060101ALI20170602BHJP
H01M 2/02 20060101ALI20170602BHJP
【FI】
H01M2/18 Z
H01M6/08 A
H01M2/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-248530(P2015-248530)
(22)【出願日】2015年12月21日
(71)【出願人】
【識別番号】503025395
【氏名又は名称】FDKエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野上 武男
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】夏目 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】安西 晋吾
【テーマコード(参考)】
5H011
5H021
5H024
【Fターム(参考)】
5H011AA03
5H011AA09
5H011CC06
5H021AA02
5H021BB01
5H021BB04
5H021BB11
5H021BB17
5H021BB19
5H021CC02
5H021CC14
5H021CC16
5H021HH10
5H024AA01
5H024AA14
5H024BB01
5H024BB14
5H024BB20
5H024CC02
5H024CC14
5H024DD02
5H024DD04
5H024DD09
5H024FF11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】放電性能を向上させつつ大きな衝撃による内部短絡を防止でき、かつコストダウンも達成可能なアルカリ電池用セパレータを提供する。
【解決手段】上部が開口する有底円筒状のアルカリ電池用のセパレータ4cであって、十字状に積層された帯状の2枚の不織布140、141からなり、2枚の不織布140,141同士の積層領域143をセパレータの底部146として、セパレータの底部146から四方に延長する帯状領域が上方に立ち上げられつつ、前記帯状領域の縁辺142、142同士が重複して円筒状の胴部147に成形され、セパレータの底部146となる2枚の不織布同士の積層領域143の周縁のみで熱溶着されてなる2枚の不織布140,141同士の溶着部分149を備える、アルカリ電池用セパレータ4c。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開口する有底円筒状のアルカリ電池用のセパレータであって、
十字状に積層された帯状の2枚の不織布からなり、
前記2枚の不織布は、前記積層された領域を底部として、当該底部から四方に延長する帯状領域が上方に立ち上げられつつ、当該帯状領域の縁辺同士が重複して円筒状の胴部に成形され、
前記底部となる前記積層された領域の周縁のみで前記2枚の不織布同士が熱溶着されてなる、
ことを特徴とするアルカリ電池用セパレータ。
【請求項2】
正極端子を兼ねて下方を底部とした有底筒状の金属製電池缶内に装填された中空リング状の正極合剤の内方に負極ゲルが請求項1に記載のセパレータを介して収納されているとともに、前記電池缶の開口に負極端子板が封口ガスケットを介して嵌着されてなることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項3】
請求項1に記載の前記アルカリ電池用セパレータの製造方法であって、
前記帯状の2枚の不織布を十字状に直交させた状態で積層する積層ステップと、
前記2枚の不織布において互いに重なり合った積層領域の下方に、上方に開口する有底円筒状で内方に環状の正極合剤が収納された電池缶を配置する電池缶配置ステップと、
前記積層領域に上方から円柱状の治具の先端を押し当てつつ当該積層領域を加熱手段を備えるとともに複数の部材に分割可能な円環状の治具内に挿通して前記積層領域の周縁を熱溶着する溶着ステップと、
前記円環状の治具を分割して前記2枚の不織布から当該治具を取り外すとともに、前記円柱状の治具により前記2枚の不織布を前記積層領域から前記正極合剤の内方に挿入して前記胴部を成形するセパレータ成形ステップと、
を含むことを特徴とするアルカリ電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアルカリ電池用セパレータ、アルカリ電池、およびアルカリ電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池は、正極合剤、セパレータ、負極合剤からなるアルカリ発電要素が有底円筒状の金属製電池缶に収容されているとともに、その電池缶の開口部が樹脂製ガスケットを用いて気密封口された構造を有している。
図1に一般的なLR6型のアルカリ電池1の構造を示した。この
図1では、円筒軸100の延長方向を上下(縦)方向としたときの縦断面図を示しており、アルカリ電池1は、有底筒状の金属製電池缶2、環状に成形された正極合剤3、この正極合剤3の内側に配設された有底円筒状のセパレータ4、亜鉛合金を含んでセパレータ4の内側に充填される負極ゲル5、この負極ゲル5中に挿入された金属製の負極集電子6、皿状の金属製負極端子板7、封口用のガスケット(以下、ガスケット8)などにより構成される。この構造において、正極合剤3、セパレータ4、負極ゲル5が、電解液の存在下でアルカリ電池1の発電要素を形成する。なお
図1含めた以下の各図では、電池缶2の底部側を下方として上下方向を規定することとし、電池缶2の底部を下方にした状態を正立状態とする。また軸100や上下の各方向についての規定、および正立と倒立の定義は、組み立て済みのアルカリ電池や電池缶だけではなく、アルカリ電池を構成する部材(正極合剤、セパレーターなど)に対しても採用することとする。
【0003】
電池缶2は、電池ケースを兼ねるとともに、正極合剤3に直接接触することにより、正極集電体を兼ねる。また電池缶2の底面には正極端子9が形成されている。皿状の負極端子板7は、フランジ状の縁がある皿状で、正極端子9を下方としたとき、その皿を伏せた状態で電池缶2の開口にガスケット8を介してかしめられている。
【0004】
負極ゲル5中に挿入された棒状の負極集電子6は、上端に円板状の頭部61を備えて、その頭部61の下面に下方に延長する棒状の胴部62が一体的に形成されてなり、頭部61の上面63が皿状の負極端子板7の下面71に溶接されて電池缶2内に立設した状態で固定されている。なお負極端子板7、負極集電子6およびガスケット8は、封口体としてあらかじめ一体に組み合わせられており、ガスケット8が電池缶2の開口縁部と負極端子板7におけるフランジ状の縁との間に挟持されて電池缶2が封口される。なお以下の非特許文献1には一般的なアルカリ乾電池の構造や製造手順などが記載されている。
【0005】
ところで上記アルカリ電池1において、セパレータ4は所定の形状に裁断された不織布を熱溶着することで有底円筒状に成形したものであり、このセパレータの基本機能は、正負極間(3−5)を絶縁して内部短絡を防止するとともに、電解液を吸収することで正負極間(3−5)でイオンを透過させることにある。なお不織布を有底円筒状のセパレータに成形する手順の一例を
図2に示した。
図2(A)〜(D)は矩形に裁断された1枚の不織布を用いてセパレータに成形する手順を示しており、まず
図2(A)に示したように、柱状の治具50を用いるなどして不織布40を円筒状に成形する。このとき円筒軸100方向の不織布40の縁辺41が重なり合うようにする。ついで
図2(B)に示したように後に底部となる円筒の下端側43を内方に折り曲げて「癖」をつけ、その上で
図2(C)に示したように、加熱手段を備えた中空半球状の治具51の内面にその癖をつけた領域を押し当てる。また円筒状の胴部44を加熱手段を備えた円環状の治具52に挿通しつつ、その治具52を上下法方向に移動させる。円環状の治具52における加熱手段は、円環状の枠体の内面でセパレータの胴部44における重複領域42に対応する位置にヒーターなどを配置することで構成すればよい。それによって
図2(D)に示したように、上下方向に延長する不織布40の縁辺同士(41−41)の重複領域42の下端側が互いに溶着されるとともに不織布が溶融して半球状の底部45が形成されるとともに、胴部44における重複領域42も選択的に熱溶着される。このようにして上端に開口46を有して下端に半球状の底部45を有する有底円筒状のセパレータ4aが完成する。なお以下では、このように1枚の不織布を円筒状に巻回した後、その不織布における縁辺同士の重複領域を溶着させてなるセパレータを「平巻き方式セパレータ」と称することとする。
【0006】
またセパレータの成形手順としては帯状の2枚の不織布を用いる手順もある。
図3(A)〜(E)に当該手順を示した。まず
図3(A)に示したように、帯状の2枚の不織布(140、141)を用意し、
図3(B)に示したように、その2枚の帯状の不織布(140、141)を十字状に直交させた状態で積層する。また不織布(140、141)の下方に正極合剤3が収納された状態の電池缶を配置しておく。なお図中では正極合剤3と不織布(140、141)との相対的な位置関係が理解できるように電池缶を省略して示している。さらに2枚の不織布(140、141)の積層方向を上下方向とすると、2枚の帯状の不織布(140、141)のそれぞれの長辺(以下、縁辺142)において、上下方向で不織布同士(140−141)が重なり合う領域143に上方に立ち上がるように「癖」をつけた部位(以下、立ち上げ部144)を形成する。そして
図3(C)に示したように、積層状態にある2枚の不織布(140、141)に対し、互いに重なり合った矩形の領域(以下、積層領域143)の中心を上方から円柱状の治具150を押し当てるとともに、その積層領域143を
図3(D)に示したように円環状の正極合剤3の内方に押し込んでいく。すなわち正極合剤3自体を型として用いる。それによって正極合剤3の内方では、
図3(E)に示したように、上端に開口145を有するとともに、2枚の帯状の不織布(140、141)の積層領域143を底面146とし、その底面146から上方に立ち上がった領域を胴部147とした中空円筒状のセパレータ4bが形成される。また胴部147では帯状の2枚の不織布(140、141)の縁辺同士(142−142)が重なり合った重複領域148となっているため、当該胴部147の内外が隔絶され、セパレータ4b内の負極ゲルが外方に漏出しないようになっている。なお以下ではこのように2枚の帯状の不織布を十字状に積層して正極合剤内で成形されるセパレータを「クロス方式セパレータ」と称することとする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】FDK株式会社、”アルカリ電池のできるまで”、[online]、[平成27年12月4日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/denchi_club/denchi_story/arukari.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エレクトロニクスの進歩に伴い、様々な形態の電子機器が出現しており、アルカリ電池はそれらの電子機器の電源の一つとして使用されている。そして近年の電子機器には従来のアルカリ電池が想定する使用状態に対して遙かに苛烈な状態で使用されるものもある。例えば最近の家庭用TVゲーム機のコントローラには、人が手で握れるような太めのスティック形状で、その内部には3軸の加速度センサーが組み込まれたものがある。ゲームをする際には、プレーヤーがTV画面に表示されているテニスプレーヤやゴルファーになってそのコントローラをテニスラケットやゴルフクラブのグリップに見立てて振り回すのである。しかしこのゲームコントローラのように振り回して使用する電子機器では、使用中に誤って機器を放り投げてしまう可能性もあり、実際に放り投げられた電子機器が家具等に激突するという事故も報告されている。そしてこのような事故では、機器の内部に収納されているアルカリ電池にも大きな衝撃が加わり、有底円筒状のセパレータの胴部の一部、とくに当初の不織布の縁辺同士の重複領域から負極ゲルが漏れ出し、内部短絡が発生する可能性がある。
【0009】
なお
図2に示した平巻き方式セパレータ4aでは、不織布40の縁辺同士(41−41)が溶着されているため、電子機器の苛烈な使用態様に起因するアルカリ電池の内部短絡については発生しにくいと考えられる。しかし平巻き方式セパレータでは溶着されている面積が自ずと大きくなりイオン透過性に寄与する面積を大きくすることができず、電池の放電性能を向上させることが難しい。また平巻き方式セパレータでは、不織布を有底円筒状に成形する工程と、セパレータを正極合剤内に収納する工程とが別であり、工程時間を短縮することが難しい。アルカリ電池のように大量生産される消費材では主に量産効果によってコストダウンを達成していることから、平巻き方式セパレータを採用したアルカリ電池ではさらなるコストダウンが難しい。
【0010】
一方
図3に示したクロス方式セパレータ4bでは、溶着部分がないため、放電性能を向上させることが期待できる。溶着工程がない簡略化された工程によりコストダウンもし易い。さらに正極合剤を型として有底円筒状のセパレータを成形しているため、セパレータの成形工程と正極合剤内への収納工程が同時に行え、これもコストダウンに寄与する。しかし溶着部分がないことから上述したような苛烈な使用状況に起因する大きな衝撃によって内部短絡が発生する可能性がある。
【0011】
そこで本発明は、アルカリ電池において、放電性能を向上させつつ大きな衝撃による内部短絡を防止でき、かつコストダウンも達成可能なアルカリ電池用のセパレータとそのセパレータを用いたアルカリ電池、およびそのセパレータの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明は、上部が開口する有底円筒状のアルカリ電池用のセパレータであって、
十字状に積層された帯状の2枚の不織布からなり、
前記2枚の不織布は、前記積層された領域を底部として、当該底部から四方に延長する帯状領域が上方に立ち上げられつつ、当該帯状領域の縁辺同士が重複して円筒状の胴部に成形され、
前記底部となる前記積層された領域の周縁のみで前記2枚の不織布同士が熱溶着されてなる、
ことを特徴とするアルカリ電池用セパレータとしている。
【0013】
また正極端子を兼ねて下方を底部とした有底筒状の金属製電池缶内に装填された中空リング状の正極合剤の内方に負極ゲルが請求項1に記載のセパレータを介して収納されているとともに、前記電池缶の開口に負極端子板が封口ガスケットを介して嵌着されてなることを特徴とするアルカリ電池も本発明の範囲としている。
【0014】
さらに上記アルカリ電池用セパレータの製造方法も本発明の範囲であり、当該製造方法は、
前記帯状の2枚の不織布を十字状に直交させた状態で積層する積層ステップと、
前記2枚の不織布において互いに重なり合った積層領域の下方に、上方に開口する有底円筒状で内方に環状の正極合剤が収納された電池缶を配置する電池缶配置ステップと、
前記積層領域に上方から円柱状の治具の先端を押し当てつつ当該積層領域を加熱手段を備えるとともに複数の部材に分割可能な円環状の治具内に挿通して前記積層領域の周縁を熱溶着する溶着ステップと、
前記円環状の治具を分割して前記2枚の不織布から当該治具を取り外すとともに、前記円柱状の治具により前記2枚の不織布を前記積層領域から前記正極合剤の内方に挿入して前記胴部を成形するセパレータ成形ステップと、
を含むことを特徴とするアルカリ電池用セパレータの製造方法としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアルカリ電池用セパレータによれば、放電性能を向上させつつ大きな衝撃による内部短絡を防止でき、かつコストダウンも達成可能なアルカリ電池を提供することができる。またこのセパレータを用いたアルカリ電池は、安価で、かつ耐衝撃性と放電特性に優れたものとなる。そして本発明のアルカリ電池用セパレータの製造方法によれば、このセパレータをより効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一般的なアルカリ電池の構造を示す図である。
【
図2】アルカリ電池に用いられる平巻き方式セパレータの製造手順を示す図である。
【
図3】アルカリ電池に持ちいらえるクロス方式セパレータの製造手順を示す図である。
【
図4】本発明の実施例に係るアルカリ電池用セパレータの構造を示す図である。
【
図5】上記実施例に係るアルカリ電池用セパレータの製造手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお以下の説明に用いた図面において、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。ある図面において符号を付した部分について、不要であれば他の図面ではその部分に符号を付さない場合もある。
【0018】
===クロス方式セパレータについて===
上述したように、クロス方式セパレータは、アルカリ電池の放電性能を向上させながらコストダウンもし易いという利点を有しているものの、衝撃によって負極ゲルが漏出する可能性がある。すなわちクロス方式を採用しつつ衝撃に強いセパレータがあれば、苛烈な状況でも使用可能な高性能のアルカリ電池をより安価に提供することが可能となる。一方平巻き方式のセパレータではアルカリ電池の高性能化やコストダウンが難しい。したがって潜在的な性能としてはクロス方式のセパレータの方が高いと言える。
【0019】
ここで
図3を参照しつつクロス方式セパレータにおける衝撃による負極ゲルの漏出のメカニズムについて考察してみると、従来のクロス方式セパレータ4bでは、正極合剤3の内方で有底円筒状に成形されており、胴部147の領域では外周面が円環状の正極合剤3の内面に当接し、底面146は電池缶の底部に当接している。そして内方に負極ゲルが充填される。胴部147における重複領域148は負極ゲルと正極合剤とに狭持されているため、ある程度強固にその重複状態が維持されることが予想される。すなわち胴部147については衝撃が加わっても負極ゲルが外方に漏出し難い。一方底面(以下、セパレータ底部146)については、アルカリ電池が成立状態にあるときは負極ゲルと電池缶の内部底面とによって狭持されることで形状が維持されているが、アルカリ電池を倒立させたり、正立状態で落下させたりすると、負極ゲルによるセパレータ底部146を押さえつける力が弱まり、セパレータ底部146では重複領域148における2枚の不織布(140、141)の形状が変形する可能性がある。またセパレータ底部146は胴部147と異なり、不織布(140、141)の縁辺142が折り曲げられた状態で重なり合っており、胴部147とセパレータ底部146との境界近傍は、謂わば隙間のある矩形の箱の隅を丸く潰すことでその隙間を塞いだ状態になっている。そのため、その箱の隅を潰した形状を維持する力が弱くなれば、箱の隅から負極ゲルが漏れ易くなることは想像に難くない。そして本発明に係るアルカリ電池用セパレータはこのような考察に基づいてなされたものである。
【0020】
===実施例===
<構造>
本発明の実施例に係るアルカリ電池用セパレータ(以下、セパレータ)は、クロス方式を採用しつつ溶着箇所に特徴を有して、クロス方式セパレータにおける本来の放電性能を維持しつつ耐衝撃性能を向上させている。また従来とほぼ同様の製造手順によって製造が可能で、コストダウンもし易い構造となっている。
図4に本発明の実施例に係るアルカリ電池用のセパレータを示した。
図4(A)は当該セパレータ4cの外観を示す図であり、
図4(B)にセパレータ4cに成形される前の2枚の不織布(140、141)を示した。
図4(A)に示したように、本実施例のセパレータ4cは
図3(E)に示した従来のクロス方式セパレータ4bとほぼ同様の外観をしているが、胴部147の下端とセパレータ底部146との境界近傍の領域149が熱溶着されている点が異なっている。この熱溶着されている領域149は、
図4(B)に示したように、2枚の帯状の不織布(140、141)を十字状に重ねたとき、その2枚の不織布(140、141)が積層領域143の周縁部分149に対応する。それによって胴部147の下端側が扁平で一体的な有底円筒状に成形されている。なお胴部147の上端から下端側の溶着領域149に至る胴部147の大部分を占める領域における縁辺同士(142−142)の重複領域148については従来のクロス方式セパレータと同様に溶着されていない。
【0021】
このように本実施例のアルカリ電池用セパレータ4cでは、クロス方式を採用しつつ、重複領域148において、衝撃などによって変形し易いセパレータ底部146とその周囲が熱溶着されて扁平で一体的な有底円筒状に成形されている。そのためクロス方式セパレータにおける負極ゲルの漏出経路が確実に閉鎖されて耐衝撃性能が向上し、従来のクロス方式セパレータと同様に優れた放電性能も得られる。
【0022】
<製造手順>
つぎに本実施例のセパレータの製造手順について説明する。
図5は当該製造手順を示す図であり、その製造手順の流れを
図5(A)〜(D)に示した。まず
図5(A)に示したように、従来のクロス方式セパレータと同様にして帯状の2枚の不織布(140、141)の長手方向中央の縁辺142に立ち上げ部144を形成した上で、これら2枚の不織布を十字状に積層する。また最終的にセパレータ底部となる十字に重なり合った積層領域143の上方に円柱状の治具150を、下方に正極合剤3が圧入された状態の電池缶をそれぞれ配置しておく。なおここでも電池缶を省略して示した。さらに円環を径方向に2分割した形状を有する二つの部材(151、152)からなる治具153も適所に用意しておく。なおこの治具153は、円環の内面に加熱手段を備えている。そしてこの例では正極合剤3(電池缶)と十字状に積層された状態にある2枚の不織布(140、141)との間にこの治具(以下、溶着用ヒーター153)を配置しておく。
【0023】
ついで
図5(B)に示したように、円柱状の治具(以下、円柱治具150)によって上記の積層領域143を下方に押圧する。また溶着用ヒーター153の各部材(151,152)を円環状にするとともに、積層領域143の四方から不織布(140、141)が上方に立ち上がった領域、すなわち最終的に胴部(
図4(A)、符号147)の下端部分となる領域を円環状の溶着用ヒーター153内に導入する。そして加熱手段により積層領域143に連続する胴部(
図4(A)、符号147)側面の下端側(
図4(A)、符号149)を加熱する。ここでは350℃の温度で1秒間加熱する。それによって積層領域143を形成する正方形状の周縁部分(
図4(B)、符号149)が熱溶着される。それによって
図5(C)に示したように、溶着用ヒーター153を2分割の状態に戻すと、積層領域143の周縁149が扁平で一体的な有底円筒状に成形される。そして
図5(D)に示したように円柱治具150を下方に押し下げ不織布(140、141)を正極合剤3内に押し込んで、正極合剤の内方に
図4(A)に示した有底円筒状のセパレータ(
図4(A)、符号4c)を成形する。このように本実施例のセパレータでは従来のクロス方式セパレータとほぼ同様の製造工程で作製することができる。そして熱溶着工程が追加されているもののその工程自体は1秒で終了でき、不織布を正極合剤内に押し込む工程に組み込むことができる。すなわち溶着のための工程を追加することによる工程時間の延長は無視できる程度に短い。
【0024】
<性能試験>
上述した手順で作製した本実施例に係るセパレータを用いたアルカリ電池の耐衝撃性能や放電性能を確認するために、構造が異なる各種セパレータをサンプルとして作製した。ここでは本実施例のセパレータ(サンプルA)、平巻き方式セパレータ(サンプルB)、従来のクロス方式セパレータ(サンプルC)、および本実施例のセパレータに対して胴部の重複領域も溶着したセパレータ(サンプルD)を作製した。なおサンプルDの胴部については、例えば、
図2(C)に示した円環状の治具52と同様に、内面に部分的に加熱手段を備えた円環状の治具を溶着用ヒーターとは別に用意しておき、十字状に積層されている2枚の不織布の正極合剤内に挿入する前、あるいは挿通していく過程でその円環状の治具内に2枚の不織布を通せばよい。それによってサンプルBにおける胴部と同様にして不織布の重複領域が選択的に溶着される。
【0025】
そして上述した各サンプルに対し、耐衝撃性能と放電性能に加えセパレータ単体での性能に関わる吸液性能について検討した。吸液性能については、40wt%のKOH水溶液からなる電解液に20分浸漬する吸液試験を行い、その吸液量を測定すること検討した。また各サンプルを用いて
図1に示した構造のLR6形アルカリ電池1を組み立て、そのアルカリ電池を1mの高さから10回落下させる落下試験を行って耐衝撃性能を調べた。そして内部短絡の有無を調べ、短絡が発生していなければ合格とした。なお落下試験の実施方法とその合否判定基準は、周知のJIS C 8514で規定されている水溶液系一次電池の安全基準における自由落下の試験よりも極めて過酷な試験であると言える。さらに落下試験用とは別に各サンプルを用いたLR6形アルカリ電池を作製し、そのアルカリ電池の放電性能を調べた。具体的には1500mWの電力で2秒間放電させた後650mWの電力で28秒間放電させる試験を10回繰り返す放電試験を1時間毎に行い、1.05Vの終止電圧になるまでのサイクル数を計測した。
【0027】
【表1】
表1では、耐衝撃性能として落下試験の合否を○×で示し、吸液性能と放電性能については、平巻き方式セパレータであるサンプルBにおける試験結果を100とした相対値で示している。そして当該表1に示したように、実施例に対応するサンプルAでは落下試験に合格し、基準となるサンプルBに対して吸液性能と放電性能が10%向上した。従来のクロス方式セパレータであるサンプルCは吸液性能と放電性能がサンプルAと同様にサンプルBに対して10%向上したものの落下試験が不合格となった。すなわち従来のクロス方式セパレータを用いたアルカリ電池では、極めて苛烈な使用状態では負極ゲルがセパレータ外へ漏出することが確認された。そしてクロス方式を採用しつつ底部と胴部を溶着したサンプルDでは基準となるサンプルBと同じ試験結果となった。これは胴部の重複領域も溶着したため、放電性能に寄与する表面積が減少してしまったためと思われる。そして以上の試験結果により、本実施例のセパレータを用いたアルカリ電池は、クロス方式セパレータの利点である高い放電性能を備えつつ、耐衝撃性能が向上することがわかった。
【符号の説明】
【0028】
1 アルカリ電池、2 電池缶、3 正極合剤、4,4a〜4c セパレータ、
5 負極ゲル、6 負極集電子、7 負極端子板、8 封口ガスケット、
9 正極端子、40,140,141 不織布、41,142 不織布の縁辺、
42,148 不織布同士の重複領域、44,147 セパレータの胴部、
45,146 セパレータの底部、46,145 セパレータの開口、
143 2枚の不織布同士の積層領域、149 2枚の不織布同士の溶着部分、
150 円柱状治具、151〜153 溶着用ヒーター