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特開2017-117595透明導電膜、構造体、及び情報入力装置、並びに電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-117595(P2017-117595A)
(43)【公開日】2017年6月29日
(54)【発明の名称】透明導電膜、構造体、及び情報入力装置、並びに電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20170602BHJP
   C09B 47/16 20060101ALN20170602BHJP
   H01B 13/00 20060101ALN20170602BHJP
   C09B 47/24 20060101ALN20170602BHJP
   C09B 11/00 20060101ALN20170602BHJP
【FI】
   H01B5/14 A
   C09B47/16
   H01B13/00 503B
   C09B47/24
   C09B11/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-250376(P2015-250376)
(22)【出願日】2015年12月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】岩田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】石井 康久
(72)【発明者】
【氏名】水野 幹久
【テーマコード(参考)】
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
5G307FA01
5G307FA02
5G307FB02
5G307FC10
5G323BA01
5G323BB01
5G323BB02
5G323BB06
(57)【要約】
【課題】コントラストの低下による表示特性の劣化が抑制されている上、苛酷な環境下に置かれても長期的に導通性に優れた透明導電膜の提供。
【解決手段】透明導電膜は、金属ナノワイヤー本体と、前記金属ナノワイヤー本体に吸着した有色化合物とを含有し、前記有色化合物が、大環状π共役部位と、前記金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位とを具える第1の染料を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノワイヤー本体と、
前記金属ナノワイヤー本体に吸着した有色化合物とを含有し、
前記有色化合物が、大環状π共役部位と、前記金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位とを具える第1の染料を含むことを特徴とする、透明導電膜。
【請求項2】
前記金属への吸着性を示す官能基が、スルホ基、スルホニル基、スルホンアミド基、カルボキシル酸基、芳香族アミノ基、アミド基、リン酸基、フォスフィノ基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、シアノ基、ビニル基、チオール基、スルフィド基、カルビノール基、アンモニウム基、ピリジニウム基、水酸基、及びメチル基から選択される1種以上である、請求項1に記載の透明導電膜。
【請求項3】
前記第1の染料における前記金属への吸着性を示す官能基の個数が、前記大環状π共役部位1個に対して2個以上である、請求項1又は2に記載の透明導電膜。
【請求項4】
前記大環状π共役部位が、ポルフィリン、クロリン、コロール、ノルコロール、サブポルフィリン、フタロシアニン、ナフタロシアニン、サブフタロシアニン、アントラコシアニン、テトラアザポルフィリン、バクテリオクロリン、及びベンゾポルフィリンから選択される1種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項5】
前記第1の染料の数平均分子量が1,000〜2,000である、請求項1〜4のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項6】
前記有色化合物が、大環状π共役部位を有さず、且つ、可視光領域に吸収を有する発色団と、前記金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位とを具える第2の染料を更に含む、請求項1〜5のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項7】
前記大環状π共役部位を有さず、且つ、可視光領域に吸収を有する発色団が、スチルベン誘導体、インドフェノール誘導体、ジフェニルメタン誘導体、アントラキノン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ジアジン誘導体、インジゴイド誘導体、キサンテン誘導体、オキサジン誘導体、アクリジン誘導体、チアジン誘導体、アゾ化合物、及び金属含有錯体から選択される1種以上である、請求項6に記載の透明導電膜。
【請求項8】
前記第1の染料及び前記第2の染料の少なくともいずれかの数平均分子量が1,000〜2,000である、請求項6又は7に記載の透明導電膜。
【請求項9】
前記金属ナノワイヤー本体を構成する金属が銀である、請求項1〜8のいずれかに記載の透明導電膜。
【請求項10】
基材上に、請求項1〜8のいずれかに記載の透明導電膜を形成する工程を含む、電極の製造方法であって、前記工程の後に加圧工程を含まないことを特徴とする、電極の製造方法。
【請求項11】
基材と、前記基材上に形成された請求項1〜9のいずれかに記載の透明導電膜とを備えることを特徴とする、構造体。
【請求項12】
請求項11に記載の構造体を備えることを特徴とする、情報入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜、構造体、及び情報入力装置、並びに電極の製造方法に関し、特に、金属ナノワイヤー本体に有色化合物を吸着させてなる金属ナノワイヤーを含む透明導電膜、前記透明導電膜を備える構造体、及び前記構造体を組み込んでなる情報入力装置、並びに前記透明導電膜を含む電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報入力装置としてのタッチパネルのセンサーや有機EL照明等に用いられる基板の多くは、ガラスやPETのようなプラスチックフィルム等の基材上に、インジウムスズ酸化物(ITO)等の金属酸化物の透明導電膜を形成して作製されてきた。
一方で、近年、上述の金属酸化物の透明導電膜に代わり、金属製のナノワイヤーを用いた透明導電膜が急速に拡大しつつある。この金属製のナノワイヤーを用いた透明導電膜は、成型が容易で且つ低抵抗化を実現することができるため、次世代の透明導電膜として注目されている。
【0003】
ところが、従来の金属製のナノワイヤーを用いた透明導電膜は、例えば表示パネルの表示面側に設けた場合に、前記ナノワイヤーの表面で外光が乱反射することにより、表示パネルの黒表示がほのかに明るく表示される、いわゆる黒浮き現象が発生する虞があった。黒浮き現象は、コントラストの低下による表示特性の劣化を招く要因になる。
【0004】
このような黒浮き現象の発生を抑制する対策として、金属製のナノワイヤーに有色化合物(染料)を吸着させ、これを用いて透明導電膜を作製する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−190780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に染料は導通性に劣るため、金属製のナノワイヤーと導通性の低い染料とを混在させると、得られる導電膜の導通性が十分なものとならず、特に苛酷な環境下に長期間置かれた場合に導通性が悪化するという問題があった。そのため、染料を使用する場合には、通常、基材上に透明導電膜を形成した後、更にカレンダー処理などの加圧処理を行ってシート抵抗を下げる必要があり、これが、透明導電膜の生産性を妨げる要因となっていた。
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、コントラストの低下による表示特性の劣化が抑制されている上、苛酷な環境下に置かれても長期的に導通性に優れた透明導電膜、前記透明導電膜を備える構造体、及び前記構造体を備える情報入力装置、並びに、コントラストの低下による表示特性の劣化が抑制されている上、苛酷な環境下に置かれても長期的に導通性に優れた電極を製造することが可能な、生産性の高い電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、有色化合物として所定の部位を具える染料を金属ナノワイヤー本体に吸着させることにより、表示特性の劣化を抑制可能で且つ長期的に導通性に優れた透明導電膜が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 金属ナノワイヤー本体と、
前記金属ナノワイヤー本体に吸着した有色化合物とを含有し、
前記有色化合物が、大環状π共役部位と、前記金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位とを具える第1の染料を含むことを特徴とする、透明導電膜である。
該<1>に記載の透明導電膜において、第1の染料は、大環状π共役部位を具えるため、導通性を妨げ難く、また、第1の染料に可視光が吸収されることにより、金属ナノワイヤー本体表面での光の乱反射を防止することができる。更に、第1の染料は、金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位を具えるため、金属ナノワイヤー本体に効果的に吸着させることができる。そのため、上記の透明導電膜は、コントラストの低下による表示特性の劣化が抑制されている上、苛酷な環境下に置かれても長期的に導通性に優れる。
<2> 前記金属への吸着性を示す官能基が、スルホ基、スルホニル基、スルホンアミド基、カルボキシル酸基、芳香族アミノ基、アミド基、リン酸基、フォスフィノ基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、シアノ基、ビニル基、チオール基、スルフィド基、カルビノール基、アンモニウム基、ピリジニウム基、水酸基、及びメチル基から選択される1種以上である、前記<1>に記載の透明導電膜である。
<3> 前記第1の染料における前記金属への吸着性を示す官能基の個数が、前記大環状π共役部位1個に対して2個以上である、前記<1>又は<2>に記載の透明導電膜である。
<4> 前記大環状π共役部位が、ポルフィリン、クロリン、コロール、ノルコロール、サブポルフィリン、フタロシアニン、ナフタロシアニン、サブフタロシアニン、アントラコシアニン、テトラアザポルフィリン、バクテリオクロリン、及びベンゾポルフィリンから選択される1種以上である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の透明導電膜である。
<5> 前記第1の染料の数平均分子量が1,000〜2,000である、前記<1>から<4>のいずれかに記載の透明導電膜である。
<6> 前記有色化合物が、大環状π共役部位を有さず、且つ、可視光領域に吸収を有する発色団と、前記金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位とを具える第2の染料を更に含む、前記<1>から<5>のいずれかに記載の透明導電膜である。
<7> 前記大環状π共役部位を有さず、且つ、可視光領域に吸収を有する発色団が、スチルベン誘導体、インドフェノール誘導体、ジフェニルメタン誘導体、アントラキノン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ジアジン誘導体、インジゴイド誘導体、キサンテン誘導体、オキサジン誘導体、アクリジン誘導体、チアジン誘導体、アゾ化合物、及び金属含有錯体から選択される1種以上である、前記<6>に記載の透明導電膜である。
<8> 前記第1の染料及び前記第2の染料の少なくともいずれかの数平均分子量が1,000〜2,000である、前記<2>又は<7>に記載の透明導電膜である。
<9> 前記金属ナノワイヤー本体を構成する金属が銀である、前記<1>〜<8>のいずれかに記載の透明導電膜である。
<10> 基材上に、前記<1>〜<8>のいずれかに記載の透明導電膜を形成する工程を含む、電極の製造方法であって、前記工程の後に加圧工程を含まないことを特徴とする、電極の製造方法である。
<11> 基材と、前記基材上に形成された前記<1>〜<9>のいずれかに記載の透明導電膜とを備えることを特徴とする、構造体である。
<12> 前記<11>に記載の構造体を備えることを特徴とする、情報入力装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、コントラストの低下による表示特性の劣化が抑制されている上、苛酷な環境下に置かれても長期的に導通性に優れた透明導電膜、前記透明導電膜を備える構造体、及び前記構造体を備える情報入力装置、並びに、コントラストの低下による表示特性の劣化が抑制されている上、苛酷な環境下に置かれても長期的に導通性に優れた電極を製造することが可能な、生産性の高い電極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の透明導電膜を有する電極の第1実施形態を示す模式図である。
図2】本発明の透明導電膜を有する電極の第2実施形態を示す模式図である。
図3】本発明の透明導電膜を有する電極の第3実施形態を示す模式図である。
図4】本発明の透明導電膜を有する電極の第4実施形態を示す模式図である。
図5】本発明の透明導電膜を有する電極の第5実施形態を示す模式図である。
図6】本発明の透明導電膜を有する電極の第6実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(透明導電膜)
本発明の透明導電膜は、少なくとも、金属ナノワイヤー本体と、この金属ナノワイヤー本体に吸着した所定の有色化合物とを含有し、更に必要に応じて、バインダー(透明樹脂材料)、その他の成分を含有する。
金属ナノワイヤー本体に有色化合物を吸着させることにより、この有色化合物に可視光等が吸収され、金属ナノワイヤー本体の表面での光の乱反射を防止することができる。
なお、本明細書においては、金属ナノワイヤー本体に有色化合物を吸着させたものを、「金属ナノワイヤー」と称することとする。金属ナノワイヤーには、金属ナノワイヤー本体全体に有色化合物を吸着させたもののみならず、金属ナノワイヤー本体の少なくとも一部に有色化合物を吸着させたものも含まれる。
【0013】
<金属ナノワイヤー本体>
前記金属ナノワイヤー本体は、金属を用いて構成されたものであって、nmオーダーの径を有する微細なワイヤーである。
【0014】
金属ナノワイヤー本体を構成する金属としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Ag、Au、Ni、Cu、Pd、Pt、Rh、Ir、Ru、Os、Fe、Co、Sn、Al、Tl、Zn、Nb、Ti、In、W、Mo、Cr、V、Ta、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、金属ナノワイヤー本体を構成する金属は、導電性が高い点で、銀及び金が好ましく、銀がより好ましい。
【0015】
金属ナノワイヤー本体の平均短軸径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm超で500nm以下であることが好ましい。金属ナノワイヤー本体の平均短軸径が1nm超であることにより、金属ナノワイヤー本体の導電率が悪化することを抑制し、得られる透明導電膜を導電層として良好に機能させることができる。また、500nm以下であることにより、この金属ナノワイヤー本体を含む透明導電膜の全光線透過率の劣化、ひいてはヘイズ(Haze)が高くなるのを防止することができる。同様の観点から、金属ナノワイヤー本体の平均短軸径は、10nm〜100nmがより好ましい。
【0016】
前記金属ナノワイヤー本体の平均長軸長としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜100μmが好ましい。金属ナノワイヤー本体の平均長軸長が1μm以上であることにより、金属ナノワイヤー本体同士をつながり易くし、この金属ナノワイヤー本体を含む透明導電膜を導電膜として良好に機能させることができ、また、100μm以下であることにより、この金属ナノワイヤー本体を含む透明導電膜の全光線透過率の悪化や、透明導電膜を製造する際に用いる分散液における金属ナノワイヤーの分散性の悪化を防止することができる。同様の観点から、金属ナノワイヤー本体の平均長軸長は、5μm〜50μmがより好ましく、10μm〜50μmが更に好ましく、10μm〜30μmが特に好ましい。
【0017】
なお、金属ナノワイヤー本体の平均短軸径及び平均長軸長は、走査型電子顕微鏡により測定可能な、数平均短軸径及び数平均長軸長である。より具体的には、金属ナノワイヤー本体を少なくとも100本以上測定し、電子顕微鏡写真から画像解析装置を用いて、それぞれのナノワイヤーの投影径及び投影面積を算出する。投影径を、短軸径とした。また、下記式に基づき、長軸長を算出した。
長軸長=投影面積/投影径
平均短軸径は、短軸径の算術平均値とした。平均長軸長は、長軸長の算術平均値とした。
更に、前記金属ナノワイヤー本体は、金属ナノ粒子が数珠状に繋がってワイヤー形状を有しているものでもよい。この場合、長さは限定されない。
【0018】
<有色化合物>
有色化合物は、金属ナノワイヤー本体に吸着する化合物であって、可視光領域に吸収を持つ化合物である。ここで、本明細書において「可視光領域」とは、およそ360nm以上830nm以下の波長帯域である。そして、本発明で用いる有色化合物は、大環状π共役部位と、上述の金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基(以下、単に「金属吸着性官能基」と称することがある。)を有する部位とを具える第1の染料を含み、任意に、その他の染料を含む。上述の第1の染料は、例えば、一般式(1):[R−X]、又は一般式(2):[{R−R’}−X](但し、Rは、大環状π共役部位を有する発色団であり、R’は、大環状π共役部位を有さず、且つ、可視光領域に吸収を有する発色団であり、Xは、金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位である。)で表すことができる。また、第1の染料は、上記式で規定される発色団R、発色団R’及び部位Xがそれぞれ複数個存在するものであってもよい。
【0019】
<<第1の染料>>
第1の染料は、大環状π共役部位を具える。この大環状π共役部位は、上述の一般式(1)又は(2)における発色団Rの少なくとも一部を構成する。ここで、本明細書において「大環状π共役部位」とは、複数の環状構造を構成要素の1つとして更に大きな平面環状構造が形成された、π電子が共役している部位を指す。大環状π共役部位は上述の通り平面構造であるため、この大環状π共役部位を有する第1の染料は、他の染料に比べて嵩高さが小さく、導通性を妨げ難い。また、有色化合物としての第1の染料に可視光が吸収されることにより、金属ナノワイヤー本体表面での光の乱反射を防止することができる。そして、この第1の染料を有色化合物として用いることにより、コントラストの低下による表示特性の劣化が抑制されている上、苛酷な環境下に置かれても長期的に導通性に優れた透明導電膜を得ることができる。
【0020】
大環状π共役部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ただし、大環状π共役部位は、透明導電膜の導通性及び光学特性をより向上させる観点から、ポルフィリン(Porphyrin)、クロリン(Chlorin)、コロール(Corrole)、ノルコロール(Norcorrole)、サブポルフィリン(Subporphyrin)、フタロシアニン(Phthalocyanine)、ナフタロシアニン(Naphthalocyanine)、サブフタロシアニン(Subphthalocyanine)、アントラコシアニン(Anthracocyanine)、テトラアザポルフィリン(Tetraazaporphyrin)、バクテリオクロリン(Bacteriochlorin)、及びベンゾポルフィリン(benzoporphyrin)から選択される1種以上であることが好ましく、フタロシアニン、ポルフィリン、及びテトラアザポルフィリンから選択される1種以上であることがより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
また、第1の染料は、使用する金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基(金属吸着性官能基)を有する部位を具える。この部位は、上述の一般式(1)又は(2)における部位Xに相当することができる。この部位を具える第1の染料を有色化合物として用いることにより、金属ナノワイヤー本体に効果的に吸着させることができる。
金属吸着性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属ナノワイヤー本体を構成する金属に配位可能な、N(窒素)、S(イオウ)、O(酸素)等の原子を有するものとすることができる。特に、金属吸着性官能基は、スルホ基(スルホン酸塩を含む)、スルホニル基、スルホンアミド基、カルボキシル酸基(カルボン酸塩を含む)、芳香族アミノ基、アミド基、リン酸基(リン酸塩及びリン酸エステルを含む)、フォスフィノ基、シラノール基、エポキシ基、イソシアネート基、シアノ基、ビニル基、チオール基、スルフィド基、カルビノール基、アンモニウム基、ピリジニウム基、水酸基、及びメチル基から選択される1種以上であることが好ましく、スルホ基、チオール基、水酸基、カルボキシル酸基(カルボン酸塩を含む)、アンモニウム基、及びピリジニウム基から選択される1種以上であることがより好ましい。これらの基は、金属との吸着性に特に優れ、金属ナノワイヤー本体と有色化合物としての第1の染料とを強固に結びつけるため、透明導電膜が苛酷な環境下に長期間置かれたとしても、導電性の悪化が抑えられ、良好な特性を維持することができる。なお、これら金属吸着性官能基は、有色化合物としての第1の染料(1分子)中に少なくとも1つ存在していてもよく、2つ以上存在していてもよい。また、第1の染料中に、複数種の金属吸着性官能基が存在していてもよい。
なお、金属吸着性官能基を有する部位における金属吸着性官能基以外の部分は、特に制限されず、例えば、アルキル基、アルキレン基等とすることができる。
【0022】
一例として、大環状π共役部位としてフタロシアニン構造を具える第1の染料の一般式を下記に示す。
【化1】
【0023】
上記一般式中、Mは任意の金属元素を示すが、Mは存在していてもしてなくてもよい。ただし、耐光性の観点から、Mが存在していること(金属が配位していること)が好ましい。Mとしては、例えば、銅、鉄、亜鉛、チタン、バナジウム、ニッケル、パラジウム、白金、鉛、ケイ素、ビスマス、カドミウム、ランタン、テルビウム、セリウム、ユーロピウム、ベリリウム、マグネシウム、コバルト、ルテニウム、マンガン、クロム、モリブデンなどが挙げられる。また、Xは、金属吸着性官能基を有する部位を示すが、少なくとも一つ存在していればよい。
【0024】
第1の染料における金属吸着性官能基の個数としては、上述の通り特に制限されないが、大環状π共役部位1個に対して2個以上であることが好ましい。金属吸着性官能基の個数が大環状π共役部位1個に対して2個以上であれば、金属ナノワイヤー本体に対する第1の染料の吸着性がより高くなるため、透明導電膜が苛酷な環境下に長期間置かれたとしても、一層良好な特性を維持することができる。
【0025】
第1の染料の数平均分子量としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000〜2,000であることが好ましい。第1の染料の数平均分子量が1,000以上であることにより、吸着後の金属ナノワイヤーの分散性が維持され、透明導電膜の特性に及ぼし得る悪影響を低減することができる。また、第1の染料の数平均分子量が2,000以下であることにより、金属ナノワイヤー本体への第1の染料の吸着性が良好となり、効率よく表示特性の劣化を抑制することができ、ひいては、透明導電膜が苛酷な環境下に長期間置かれたとしても、一層良好な特性を維持することができる。
ここで、数平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)により求めることができる。
【0026】
<<第2の染料>>
また、本発明で用いる有色化合物は、上述した第1の染料とともに、大環状π共役部位を有さず、且つ、可視光領域に吸収を有する発色団と、前記金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位とを具える第2の染料を更に含むことが好ましい。第1の染料に加えて第2の染料を金属ナノワイヤー吸着させることにより、透明導電膜のΔ反射L*値等の光学特性をより良好なものとすることができる。上述の第2の染料は、具体的に、一般式(3):[R’−X](但し、R’は、大環状π共役部位を有さず、且つ、可視光領域に吸収を有する発色団であり、Xは、金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位である。)で表すことができる。また、第2の染料は、上記式で規定される発色団R’及び部位Xがそれぞれ複数個存在するものであってもよい。
【0027】
第2の染料における、大環状π共役部位を有さず、且つ、可視光領域に吸収を有する発色団R’としては、例えば、スチルベン誘導体、インドフェノール誘導体、ジフェニルメタン誘導体、アントラキノン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、ジアジン誘導体、インジゴイド誘導体、キサンテン誘導体、オキサジン誘導体、アクリジン誘導体、チアジン誘導体、アゾ化合物、及び金属含有錯体が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
第2の染料における、金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位Xは、第1の染料における金属ナノワイヤー本体を構成する金属への吸着性を示す官能基を有する部位Xと同様である。
【0029】
ここで、第2の染料は、発色団R’を有する化合物として酸性染料、直接染料などの原料染料を用いて、調製することができる。より具体的には、スルホ基を有する原料染料として、日本化薬株式会社製のKayakalan BordeauxBL、Kayakalan Brown GL、Kayakalan Gray BL167、Kayakalan Yellow GL143、KayakalanBlack 2RL、Kayakalan Black BGL、Kayakalan Orange RL、Kayarus Cupro Green G、Kayarus Supra Blue MRG、Kayarus Supra Scarlet BNL200、田岡化学工業株式会社製のLanyl Olive BG、Lanyl Black BG E/C、東京化成工業株式会社製のAcid Black 52、Acid Red 52、Acid Red 1、Acid Red 9、Acid Red 13、Acid Red 26、Acid Red 114、Acid Red 151、Acid Red 289、Chromotrope 2B、Crocein Scarlet 3B、Acid Violet 49、Acid Green 3、Brilliant Blue G、Brilliant Blue R、Xylene Cyanol FF、Chlorantine Fast Red 5B、Direct Red 80、Direct Scarlet B、Azo Blue、Direct Violet 1等が挙げられる。その他、日本化薬株式会社製のKayalon Polyester Blue 2R-SF、Kayalon Microester Red AQ-LE、Kayalon Polyester Black ECX300、Kayalon Microester Blue AQ-LE等も挙げられる。また、カルボキシ基を有する原料染料として、色素増感太陽電池用色素が挙げられ、Ru錯体のN3、N621、N712、N719、N749、N773、N790、N820、N823、N845、N945、K9、K19、K23、K27、K29、K51、K60、K66、K69、K73、K77、Z235、Z316、Z907、Z907Na、Z910、Z991、CYC-B1、HRS-1、有機色素系としてAnthocyanine、PPDCA、PTCA、BBAPDC、NKX-2311、NKX-2510、NKX-2553(林原生物化学製)、NKX-2554(林原生物化学製)、NKX-2569、NKX-2586、NKX-2587(林原生物化学製)、NKX-2677(林原生物化学製)、NKX-2697、NKX-2753、NKX-2883、NK‐5958(林原生物化学製)、NK‐2684(林原生物化学製)、Eosin Y、Mercurochrome、MK-2(総研化学製)、D77、D102(三菱製紙化学製)、D120、D131(三菱製紙化学製)、D149(三菱製紙化学製)、D150、D190、D205(三菱製紙化学製)、D358(三菱製紙化学製)、JK-1、JK-2、JK-5、Polythiohene Dye、Pendant type polymer、Cyanine Dye(P3TTA、C1-D、SQ-3、B1)等が挙げられる。
【0030】
第2の染料の数平均分子量としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、400〜2,000であることが好ましい。第2の染料の数平均分子量が400以上であることにより、吸着後の金属ナノワイヤーの分散性が維持され、透明導電膜の特性に及ぼし得る悪影響を低減することができる。また、第2の染料の数平均分子量が2,000以下であることにより、金属ナノワイヤー本体への第2の染料の吸着性が良好となり、効率よく表示特性の劣化を抑制することができ、ひいては、透明導電膜が苛酷な環境下に長期間置かれたとしても、一層良好な特性を維持することができる。
なお、同様の観点から、第1の染料及び第2の染料の少なくともいずれかの数平均分子量が1,000〜2,000であることが好ましい。
【0031】
<<有色化合物の製造方法>>
上述の第1の染料や第2の染料などの有色化合物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(I)有色化合物が具えるべき発色団を有する化合物原料を溶媒に溶解もしくは分散させた溶液と、金属吸着性官能基を有する化合物を溶媒に溶解した溶液とを作製し、(II)上述の2種類の溶液を混合することで析出させて有色化合物を得る方法が挙げられる。
上述の溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール;シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のアノン;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルフィド;などが挙げられる。これらは、原料及び生成物の溶解性を加味して最適なものを選択すればよく、1種単独での使用でもよいし、2種以上を併用してもよい。また、途中で追加してもよい。溶液の温度は、特に制限はなく、原料及び生成物の溶解性及び反応速度を加味して決定すればよい。
【0032】
ここで、上述した一般式(2)で表されるような、発色団R及び発色団R’の両方を有する第1の染料を調製する際には、発色団Rを有する化合物と発色団R’を有する化合物とを化学反応させ、新たに共有結合又は非共有結合にて発色団R及び発色団R’を結合させてもよい。また、上述した一般式(3)で表されるような第2の染料を調製する際には、発色団R’を有する化合物に対し、金属吸着性官能基を有する化合物を化学反応させることで、金属吸着性官能基を新たに共有結合又は非共有結合にて付加してもよい。また、発色団Rを有する化合物、発色団R及びR’を有する化合物、又は、発色団R’を有する化合物に対し、金属吸着性官能基を有する化合物を化学反応させることで、金属吸着性官能基を新たに共有結合又は非共有結合にて付加してもよい。更に、金属吸着性官能基を有する化合物として、自己組織化材料を使用してもよい。そして、金属吸着性官能基は、発色団R及び/又は発色団R’の一部を構成するものであってもよい。
【0033】
第1の染料における、発色団Rと部位Xとの結合形態、又は、発色団R’と部位Xとの結合形態、及び、第2の染料における、発色団R’と金属吸着性官能基を有する部位Xとの結合形態は、それぞれ特に制限されず、例えば、非共有結合(水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)とすることができる。
また、一般式(2)で表される第1の染料においては、発色団Rと発色団R’とが、共有結合又は非共有結合(水素結合、イオン結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス力等)で結合していてもよい。
【0034】
ここで、第1の染料及び第2の染料は、いずれも、アルキル置換アミノ基を含まないことが好ましい。アルキル置換アミノ基は、金属ナノワイヤー本体を侵す可能性があるためである。ここで、アルキル置換アミノ基とは、N原子に直接結合している炭素原子の全てがSp3混成軌道を有するアミノ基を指す。
【0035】
<金属ナノワイヤー(有色化合物を吸着させた金属ナノワイヤー本体)の製造方法>
金属ナノワイヤーは、例えば、(a)有色化合物及び溶媒を含む有色化合物溶液を作製し、(b)金属ナノワイヤー本体及び溶媒を含む金属ナノワイヤー本体分散液を作製し、(c)有色化合物溶液と金属ナノワイヤー本体分散液とを混合し、静置、撹拌、加温等を行って有色化合物を金属ナノワイヤー本体表面に吸着させ、(d)吸着していない有色化合物を除去する、ことにより、金属ナノワイヤー分散液として得ることができる。
【0036】
上記(a)において、有色化合物溶液の溶媒は、有色化合物を所定濃度に溶解及び/又は分散可能で、且つ金属ナノワイヤー本体分散液の溶媒と相溶するものと適宜選択することが好ましい。なお、「有色化合物が分散」とは、「有色化合物が凝集体として分散」している状態を包含するものとする。
【0037】
上記(d)において、吸着していない有色化合物を除去するための具体的な方法としては、例えば、有色化合物溶液を円筒濾紙の内部に入れ、フィルタリングにより吸着していない有色化合物を分離除去する方法が挙げられる。この方法では、更に吸着していない有色化合物を除去するために、円筒濾紙内部に開口部から溶媒(有色化合物溶液の溶媒と同一であっても異なっていてもよく、混合溶媒でもよい)を加え、洗浄してもよい。また、必要に応じ、分散剤、界面活性剤、消泡剤、粘度調整剤等の添加剤を加えてもよい。また、マグネチックスターラー、ハンドシェイク、ジャーミル撹拌、メカニカルスターラー、超音波照射、湿式分散装置等による分散処理を行ってもよい。
【0038】
<バインダー(透明樹脂材料)>
バインダー(透明樹脂材料)は、金属ナノワイヤーを分散させるために用いることができるものである。バインダーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、既知の透明な、天然高分子樹脂、合成高分子樹脂などが挙げられ、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ポジ型感光性樹脂、ネガ型感光性樹脂等のいずれであってもよい。
【0039】
<<熱可塑性樹脂>>
熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデン、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、などが挙げられる。
【0040】
<<熱硬化性樹脂>>
熱硬化性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリマー(ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル系ポリマー(ポリ酢酸ビニルのけん化物等)、ポリオキシアルキレン系ポリマー(ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等)、セルロース系ポリマー(メチルセルロース、ビスコース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、など)と架橋剤(金属アルコキシド、ジイソシアネート化合物、ブロックジイソシアネート化合物など)とを含む組成物が挙げられる。
【0041】
<<ポジ型感光性樹脂>>
ポジ型感光性樹脂としては、公知のポジ型フォトレジスト材料が適用でき、例えば、ポリマー(ノボラック樹脂、アクリル共重合樹脂、ヒドロキシポリアミド等)とナフトキノンジアジド化合物とを含む組成物が挙げられる。
【0042】
<<ネガ型感光性樹脂>>
ネガ型感光性樹脂としては、例えば、(i)感光基を主鎖及び側鎖の少なくともいずれかに導入したポリマー、(ii)バインダー樹脂(ポリマー)と架橋剤とを含む組成物、(iii)(メタ)アクリルモノマー及び(メタ)アクリルオリゴマーの少なくともいずれかと、光重合開始剤とを含む組成物、などが挙げられる。ネガ型感光性樹脂の化学反応は特に限定されないが、光重合開始剤を介した光重合系、スチルベンやマレイミドなどの光二量化反応又はアジド基やジアジリン基などの光分解による架橋反応などが挙げられる。この中で、酸素による反応阻害を受けない、硬化塗膜が耐溶媒性、硬度、耐擦傷性に優れるなど、硬化反応性の観点で、アジド基やジアジリン基などの光分解反応を好適に用いることができる。
【0043】
<その他の成分>
本発明の透明導電膜が含有し得るその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光安定剤、紫外線吸収剤、光吸収材料、帯電防止剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤等の粘度調整剤、分散剤、硬化促進触媒、可塑剤、酸化防止剤、硫化防止剤、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
(電極の製造方法)
本発明の電極の製造方法は、基材上に、上述した本発明の透明導電膜を形成する工程(透明導電膜形成工程)を含み、当該透明導電膜形成工程の後に加圧工程を含まないことを特徴とする。このように、本発明の電極の製造方法によれば、第1の染料を含む有色化合物が吸着した金属ナノワイヤー本体を用いて透明導電膜を形成しているので、カレンダー工程等の加圧工程を行う必要なく、苛酷な環境下に置かれても長期的に導電性に優れた電極を得ることができる。
【0045】
本発明の電極の製造方法により製造することが可能な電極としては、例えば、(i)図1に示すように、透明導電膜としてのバインダー層8において、金属ナノワイヤー本体6の露出部分のみに有色化合物(染料)7が吸着されている(有色化合物(染料)7は、金属ナノワイヤー本体6に吸着されており、また、バインダー層8の表面の一部やバインダー層8中に存在していてもよい)もの、(ii)図2に示すように、基材9の上に、有色化合物7が吸着された金属ナノワイヤー本体6が分散した透明導電膜としてのバインダー層8が形成されているもの、(iii)図3に示すように、透明導電膜としてのバインダー層8上にオーバーコート層10が形成されているもの、(iv)図4に示すように、透明導電膜としてのバインダー層8と基材9との間にアンカー層11が形成されているもの、(v)図5に示すように、有色化合物7を吸着した金属ナノワイヤー本体6を含む透明導電膜としてのバインダー層8が、基材9の両面に形成されているもの、(vi)図6に示すように、有色化合物7をバインダーに分散させることなく、有色化合物7を吸着させた金属ナノワイヤー本体6(すなわち、金属ナノワイヤー)が基材9の上部に集積されて透明導電膜を構成するもの、(vii)前記(i)〜前記(vi)を適宜組み合わせたもの、などが挙げられる。
【0046】
以下、本発明の一実施形態に係る電極の製造方法について説明する。
本発明の一実施形態に係る電極の製造方法は、分散膜形成操作及び硬化操作からなる透明導電膜形成工程を含み、更に必要に応じて、オーバーコート層形成工程と、パターン電極形成工程とを含む。そして、この製造方法においては、透明導電膜形成工程の後にカレンダー工程(表面の平滑性を向上させたり、表面に光沢をつけることで、透明導電膜のシート抵抗値を下げる工程)等の加圧工程を含まない。
【0047】
<透明導電膜形成工程における分散膜形成操作>
分散膜形成操作は、例えば、(i)金属ナノワイヤーと、バインダーと、溶媒とを含む分散液(即ち、金属ナノワイヤー本体に有色化合物が吸着した分散液)、又は、(ii)有色化合物と、金属ナノワイヤー本体と、バインダーと、溶媒とを含む分散液(即ち、金属ナノワイヤー本体に有色化合物が吸着されていない分散液)を調製し、分散液中で有色化合物を金属ナノワイヤー本体に吸着させた後、この分散液を用いて基材上に分散膜を形成する操作である。
金属ナノワイヤー本体、金属ナノワイヤー、有色化合物、及びバインダーは、いずれも、前述した通りであり、溶媒は、後述する通りである。
分散膜の形成は、物性、利便性、製造コスト等の点で、湿式製膜法により行うことが好ましい。湿式製膜法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塗布法、スプレー法、印刷法、などの公知の方法が挙げられる。
塗布法としては、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マイクログラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトグラビアコート法、ダイコート法、ディップ法、スプレーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、コンマコート法、ナイフコート法、スピンコート法、などが挙げられる。
スプレー法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
印刷法としては、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、凹版印刷、ゴム版印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、などが挙げられる。
【0048】
基材に対する金属ナノワイヤーの目付量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001〜1.000g/m2であることが好ましい。
金属ナノワイヤーの目付量が、0.001g/m2以上であることにより、金属ナノワイヤーを十分に分散膜中に存在させて、得られる透明導電膜の導通性を良好にすることができ、また、1.000g/m2以下であることにより、得られる透明導電膜の全光線透過率やヘイズ(Haze)の劣化を抑制することができる。
同様の観点から、金属ナノワイヤーの目付量は、0.003g/m2以上であることがより好ましく、また、0.3g/m2以下であることがより好ましい。
【0049】
<<基材>>
基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、無機材料、プラスチック材料等の可視光に対して透過性を有する材料で構成された透明基材が好ましい。前記透明基材は、透明導電膜を有する電極に必要とされる膜厚を有しており、例えばフレキシブルな屈曲性を実現できる程度に薄膜化されたフィルム状(シート状)、または適度の屈曲性と剛性を実現できる程度の膜厚を有する基板状であることとする。
無機材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、石英、サファイア、ガラス、などが挙げられる。
プラスチック材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)、などの公知の高分子材料が挙げられる。斯かるプラスチック材料を用いて透明基材を構成した場合、生産性の観点から透明基材の膜厚を5μm〜500μmとすることが好ましいが、この範囲に特に限定されるものではない。
【0050】
<<溶媒>>
分散液に含まれる溶媒としては、有色化合物が吸着した金属ナノワイヤーが分散するものを使用することができ、例えば、水、アルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等)、アノン(例えばシクロヘキサノン、シクロペンタノン)、アミド(例えばN,N−ジメチルホルムアミド:DMF)、スルフィド(例えばジメチルスルホキシド:DMSO)等から選択される少なくとも1種類以上を使用することができる。
分散液を用いて形成される分散膜の乾燥ムラ、クラック、白化を抑えるため、分散液には、更に高沸点溶媒を添加し、分散液からの溶媒の蒸発速度をコントロールすることもできる。高沸点溶媒としては、例えば、ブチルセロソルブ、ジアセトンアルコール、ブチルトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールイソプロピルエーテル、メチルグリコールが挙げられる。これらの高沸点溶媒は単独で用いられてもよく、また複数を組み合わせてもよい。
【0051】
<透明導電膜形成工程における硬化操作>
硬化操作は、基材上に形成された分散膜を硬化させて、硬化物を得る操作である。
硬化操作では、まず、基材上に形成された分散膜中の溶媒を乾燥させて除去する。溶媒を除去するための乾燥は、自然乾燥及び加熱乾燥のいずれであってもよい。乾燥後、未硬化のバインダーの硬化処理を行い、硬化させたバインダー中に金属ナノワイヤーを分散させた状態とする。ここで、硬化処理は、加熱及び/又は活性エネルギー線照射により行うことができる。
【0052】
<オーバーコート層形成工程>
オーバーコート層形成工程は、分散膜の硬化物が形成された後に、当該硬化物上にオーバーコート層を形成する工程である。
オーバーコート層は、例えば、硬化物上に、所定の材料を含むオーバーコート層形成用塗布液を塗布して、硬化させることにより形成することができる。オーバーコート層は、可視光に対して光透過性を有していることが重要であり、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、又は、セルロース系樹脂で構成されるか、或いは、金属アルコキシドの加水分解、脱水縮合物などで構成されることが好ましい。また、このようなオーバーコート層は、可視光に対する光透過性が阻害されることのない膜厚で構成されていることが好ましい。そして、オーバーコート層は、ハードコート機能、防眩機能、反射防止機能、アンチニュートンリング機能、及びアンチブロッキング機能などからなる機能群より選ばれる少なくとも1種の機能を有していることが好ましい。
【0053】
<パターン電極形成工程>
パターン電極形成工程は、透明導電膜を基材上に形成した後、公知のフォトリソグラフィープロセスを適用して、パターン電極を形成する工程である。これにより、本発明の透明導電膜を静電容量タッチパネル用センサー電極に適用させることができる。なお、硬化操作における硬化処理で活性エネルギー線照射を行う場合、前記硬化処理をマスク露光/現像としてパターン電極を形成してもよい。更には、レーザーエッチングによるパターニングを用いてもよい。
【0054】
(構造体)
本発明の構造体は、少なくとも、基材と、当該基材上に形成された上述した本発明の透明導電膜とを備え、更に必要に応じて、保護レジスト、ハードコート材等のその他の任意の部材を備える。このように、本発明の構造体は、第1の染料を含む有色化合物が吸着した金属ナノワイヤーを含有する透明導電膜を備えるため、コントラストの低下による表示特性の劣化が抑制されている上、導通性に優れる。
前記構造体としては、基材上に本発明の透明導電膜が形成されている限り、特に制限はされない。即ち、基材と、当該基材上に形成された本発明の透明導電膜と、少なくとも一つの任意の部材とを備えるものは、いずれも、本発明の構造体に該当する。
【0055】
(情報入力装置)
本発明の情報入力装置は、少なくとも、上述した本発明の構造体を備え、更に必要に応じて、その他の任意の公知部材を備える。本発明の情報入力装置は、本発明の構造体を備えるため、高性能である。
情報入力装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特許第4893867号に示されるような、タッチパネル、などが挙げられる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0057】
(実施例1)
<金属ナノワイヤー本体分散液の調製>
金属ナノワイヤー本体として、Seashell Technology社製の銀ナノワイヤー「AgNW−25」(平均径:25nm、平均長さ:23μm)を用い、この金属ナノワイヤー本体を常法に従って水中に分散させ、金属ナノワイヤー本体分散液を得た。
【0058】
<第1の染料の調製>
ALDRICH社製の「alcian blue 8GX」と、和光純薬工業株式会社製の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウムとを、1:2の質量比でメタノール溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、60分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体をメタノールで3回洗浄した後、減圧下で乾燥し、有色化合物である第1の染料としての染料[A]を得た。なお、染料[A]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位としてフタロシアニンを有する発色団を含むものであった(下記の構造式には具体的に示されていないが、実際には、発色団における各カチオンと、金属吸着性官能基を有する部位における各アニオンとがイオン結合を形成している)。また、染料[A]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,775であった。
【化2】
【0059】
<塗布用の分散液の調製>
上記の染料[A]10mgを、水/エチレングリコール=1:1(質量比)の溶媒10gに投入し、60分間、超音波洗浄器を用いて溶解させた。その後、得られた溶解液を孔径0.2μmのPTFEフィルターで濾過し、液体を有色化合物溶液として得た。次いで、この溶液に、上述の金属ナノワイヤー本体分散液2g(金属ナノワイヤー本体の固形分:0.5質量%)を加え、室温で12時間撹拌することで、金属ナノワイヤー本体に染料[A]を吸着させ、金属ナノワイヤー分散液を得た。その後、得られた金属ナノワイヤー分散液を、ADVANTEC社製のフッ素樹脂円筒濾紙(品名:No.89)の中に投入し、濾液が目視で無色透明となるまで、水/エタノール=3:1(質量比)の溶媒を用いて洗浄を繰り返した。
上記の工程で得られた金属ナノワイヤー分散液を、下記の配合で他の材料と混合し、塗布用の分散液を調製した。
金属ナノワイヤー分散液:0.06質量%(正味の金属ナノワイヤー本体の質量換算)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ALDRICH社製):0.09質量%
水:89.85質量%
エタノール:10質量%
【0060】
<透明導電膜の形成>
調製した分散液を、番手10のコイルバーで透明基材上に塗布し、分散膜を形成した。ここで、金属ナノワイヤーの目付量を0.012g/m2とした。また、透明基材としては、PET基材(東レ株式会社製、製品名:ルミラーU34、厚さ:125μm)を用いた。その後、透明基材上の分散膜を形成した面に、ドライヤーで温風を当て、分散膜中の溶媒を除去し、次いで、120℃で5分間乾燥させて、透明導電膜を形成した。
【0061】
(実施例2)
実施例1において、有色化合物である第1の染料として、染料[A]を調製する代わりに、下記の方法で染料[B]を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0062】
<第1の染料の調製>
ALDRICH社製の5,10,15,20−テトラキス(1−メチル−4−ピリジニオ)ポルフィリンテトラ(p−トルエンスルホン酸塩)と、和光純薬工業株式会社製の3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウムとを、1:2の質量比でメタノール溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、60分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体をメタノールで3回洗浄した後、減圧下で乾燥し、有色化合物である第1の染料としての染料[B]を得た。なお、染料[B]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位としてポルフィリンを有する発色団を含むものであった(下記の構造式には具体的に示されていないが、実際には、発色団における各カチオンと、金属吸着性官能基を有する部位における各アニオンとがイオン結合を形成している)。また、染料[B]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,299であった。
【化3】
【0063】
(実施例3)
実施例1において、有色化合物である第1の染料として、染料[A]を調製する代わりに、下記の方法で染料[C]を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0064】
<第1の染料の調製>
ALDRICH社製の銅フタロシアニン・テトラスルホン酸四ナトリウム塩と、東京化成工業株式会社製の2−アミノエタノール塩酸塩とを、1:2の質量比でメタノール溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、60分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体をメタノールで3回洗浄した後、減圧下で乾燥し、有色化合物である第1の染料としての染料[C]を得た。なお、染料[C]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位としてフタロシアニンを有する発色団を含むものであった(下記の構造式には具体的に示されていないが、実際には、発色団における各カチオンと、金属吸着性官能基を有する部位における各アニオンとがイオン結合を形成している)。また、染料[C]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,135であった。
【化4】
【0065】
(実施例4)
実施例1において、有色化合物である第1の染料として、染料[A]を調製する代わりに、下記の方法で染料[D]を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0066】
<第1の染料の調製>
ALDRICH社製の「alcian blue 8GX」と、東京化成工業株式会社製のブタンスルホン酸ナトリウムとを、1:2の質量比でメタノール溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、60分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体をメタノールで3回洗浄した後、減圧下で乾燥し、有色化合物である第1の染料としての染料[D]を得た。なお、染料[D]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位としてフタロシアニンを有する発色団を含むものであった(下記の構造式には具体的に示されていないが、実際には、発色団における各カチオンと、金属吸着性官能基を有する部位における各アニオンとがイオン結合を形成している)。また、染料[D]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,704であった。
【化5】
【0067】
(実施例5)
実施例1において、有色化合物である第1の染料として、染料[A]を調製する代わりに、下記の方法で染料[E]を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0068】
<第1の染料の調製>
ALDRICH社製のアルシアンブルー−テトラキス(メチルピリジニウム)クロリドと、東京化成工業株式会社製の1,2−エタンジスルホン酸二ナトリウムとを、1:2の質量比でメタノール溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、60分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体をメタノールで3回洗浄した後、減圧下で乾燥し、有色化合物である第1の染料としての染料[E]を得た。なお、染料[E]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位としてフタロシアニンを有する発色団を含むものであった(下記の構造式には具体的に示されていないが、実際には、発色団における各カチオンと、金属吸着性官能基を有する部位における各アニオンとがイオン結合を形成している)。また、染料[E]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,320であった。
【化6】
【0069】
(実施例6)
実施例1において、有色化合物である第1の染料として、染料[A]を調製する代わりに、下記の方法で染料[F]を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0070】
<第1の染料の調製>
ALDRICH社製のアルシアンブルー−テトラキス(メチルピリジニウム)クロリドと、東京化成工業株式会社製のイセチオン酸ナトリウムとを、1:2の質量比でメタノール溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、60分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体をメタノールで3回洗浄した後、減圧下で乾燥し、有色化合物である第1の染料としての染料[F]を得た。なお、染料[F]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位としてフタロシアニンを有する発色団を含むものであった(下記の構造式には具体的に示されていないが、実際には、発色団における各カチオンと、金属吸着性官能基を有する部位における各アニオンとがイオン結合を形成している)。また、染料[F]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,444であった。
【化7】
【0071】
(実施例7)
実施例1において、有色化合物である第1の染料として、染料[A]を調製する代わりに、下記の方法で染料[G]を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0072】
<第1の染料の調製>
ALDRICH社製のアルシアンブルー−テトラキス(メチルピリジニウム)クロリドと、東京化成工業株式会社製の3−(メタクリロイルオキシ)プロパンスルホン酸カリウムとを、1:2の質量比でメタノール溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、60分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体をメタノールで3回洗浄した後、減圧下で乾燥し、有色化合物である第1の染料としての染料[G]を得た。なお、染料[G]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位としてフタロシアニンを有する発色団を含むものであった(下記の構造式には具体的に示されていないが、実際には、発色団における各カチオンと、金属吸着性官能基を有する部位における各アニオンとがイオン結合を形成している)。また、染料[G]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,772であった。
【化8】
【0073】
(実施例8)
実施例1において、有色化合物である第1の染料として、染料[A]を調製する代わりに、下記の方法で染料[H]を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0074】
<第1の染料の調製>
ニトロベンゼンに対して、トリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化亜鉛とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を回収し、その沈殿物に水酸化ナトリウムを加えて加水分解し、次いで塩酸を加えて酸性にすることで亜鉛フタロシアニンテトラカルボン酸を得た。
亜鉛フタロシアニンテトラカルボン酸と、東京化成工業株式会社製の2−アミノエタンチオールとを、1:2の質量比でメタノール溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、60分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体をメタノールで3回洗浄した後、減圧下で乾燥し、有色化合物である第1の染料としての染料[H]を得た。なお、染料[H]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位としてフタロシアニンを有する発色団を含むものであった(下記の構造式には具体的に示されていないが、実際には、発色団における各カチオンと、金属吸着性官能基を有する部位における各アニオンとがイオン結合を形成している)。また、染料[H]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が1,056であった。
【化9】
【0075】
(実施例9)
実施例1において、金属ナノワイヤー本体として、AgNW−25を用いる代わりに、kechung社製の銀ナノワイヤー「AW−030」(平均径:30nm、平均長さ:20μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0076】
(実施例10)
実施例1において、金属ナノワイヤー本体として、AgNW−25を用いる代わりに、ACS Materials社製の銀ナノワイヤー「Agnws−40」(平均径:40nm、平均長さ:30μm以上)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0077】
(実施例11)
実施例1において、金属ナノワイヤー本体として、AgNW−25を用いる代わりに、Novarials社製の銅ナノワイヤー「NovaWireCu01」(平均径:100nm、平均長さ:30μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0078】
(比較例1)
実施例1において、第1の染料を調製せず、また、塗布用の分散液の調製の際に、金属ナノワイヤー分散液に代えて、金属ナノワイヤー本体分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0079】
(比較例2)
実施例9において、第1の染料を調製せず、また、塗布用の分散液の調製の際に、金属ナノワイヤー分散液に代えて、金属ナノワイヤー本体分散液を用いたこと以外は、実施例9と同様にして、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0080】
(比較例3)
実施例10において、第1の染料を調製せず、また、塗布用の分散液の調製の際に、金属ナノワイヤー分散液に代えて、金属ナノワイヤー本体分散液を用いたこと以外は、実施例10と同様にして、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0081】
(比較例4)
実施例1において、第1の染料を調製し、これを金属ナノワイヤー本体に吸着させる代わりに、下記の方法で第2の染料である染料[I]を調製し、これを金属ナノワイヤー本体に吸着させたこと以外は、実施例1と同様にして、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0082】
<第2の染料の調製>
田岡化学工業株式会社製の「Lanyl Black BG E/C」と、和光純薬工業株式会社製の2−アミンエタンチオール塩酸塩とを、4:1の質量比で水溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、100分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、15時間静置した。その後、得られた反応液を孔径3μmのセルロース混合エステルタイプのメンブレンフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体を水で3回洗浄した後、真空オーブン中で100℃で乾燥し、有色化合物である第2の染料としての染料[I]を得た。なお、染料[I]は、以下に示す構造式で表され、大環状π共役部位を有していなかった。また、染料[I]は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が996であった。
【化10】
【0083】
(参考例1)
比較例4において形成した透明導電膜に対し、ニップ幅1mm、荷重4kN、速度1m/分でカレンダー処理を行い、カレンダー処理済透明導電膜を形成した。
【0084】
(比較例5)
実施例11において、第1の染料を調製せず、また、塗布用の分散液の調製の際に、金属ナノワイヤー分散液に代えて、金属ナノワイヤー本体分散液を用いたこと以外は、実施例11と同様にして、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0085】
(実施例12)
実施例1において、第1の染料としての染料[A]10mgを用いたことに代えて、下記の方法で調製した複合化化合物10mgを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0086】
<複合化化合物の調製>
実施例1と同様に調製した第1の染料としての染料[A]と、第2の染料としての東京化成工業株式会社製の「Acid Violet 49」とを、1:2の質量比で水溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を100分間超音波洗浄器に供し、一部の第1の染料と一部の第2の染料とを反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体を真空乾燥させて、複合化化合物を得た。なお、「Acid Violet 49」は、以下に示す構造式で表され、可視光領域に吸収を有する発色団としてのトリフェニルメタン誘導体を含むものであった。また、「Acid Violet 49」は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が733であった。
【化11】
【0087】
(実施例13)
実施例2において、第1の染料としての染料[B]10mgを用いたことに代えて、下記の方法で調製した複合化化合物10mgを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0088】
<複合化化合物の調製>
実施例2と同様に調製した第1の染料としての染料[B]と、第2の染料としての東京化成工業株式会社製の「Acid Red 9」とを、1:2の質量比で水溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を100分間超音波洗浄器に供し、一部の第1の染料と一部の第2の染料とを反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体を真空乾燥させて、複合化化合物を得た。なお、「Acid Red 9」は、以下に示す構造式で表され、可視光領域に吸収を有する発色団としてのアゾ化合物を含むものであった。また、「Acid Red 9」は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が400であった。
【化12】
【0089】
(実施例14)
実施例127において、「Acid Violet 49」に代えて、第2の染料としての東京化成工業株式会社製の「Brilliant Blue G」を用いたこと以外は、実施例12と同様にして、複合化化合物の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。なお、「Brilliant Blue G」は、以下に示す構造式で表され、可視光領域に吸収を有する発色団としてのトリフェニルメタン誘導体を含むものであった。また、「Brilliant Blue G」は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量が854であった。
【化13】
【0090】
(実施例15)
実施例12において、金属ナノワイヤー本体として、AgNW−25を用いる代わりに、kechung社製の銀ナノワイヤー「AW−030」(平均径:30nm、平均長さ:20μm)を用いたこと以外は、実施例12と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、複合化化合物の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0091】
(比較例6)
実施例12において、複合化化合物に代えて、下記の方法で調製した第2の染料としての染料[J]を用いたこと以外は、実施例12と同様にして、金属ナノワイヤー本体分散液の調製、塗布用の分散液の調製、及び透明導電膜の形成を行った。
【0092】
<第2の染料の調製>
東京化成工業株式会社製の「Acid Violet 49」と、和光純薬工業株式会社製の2−アミンエタンチオール塩酸塩とを、4:1の質量比で水溶媒に投入して混合し、混合液を得た。次いで、この混合液を、100分間、超音波洗浄器を用いて反応させ、その後、得られた反応液を孔径3μmのPTFEフィルターで濾過し、固体を得た。得られた固体を真空乾燥させて、有色化合物である第2の染料としての染料[J]を得た。
【0093】
(参考例2)
比較例6において形成した透明導電膜に対し、ニップ幅1mm、荷重4kN、速度1m/分でカレンダー処理を行い、カレンダー処理済透明導電膜を形成した。
【0094】
<<評価>>
以上の実施例、比較例及び参考例で得た透明導電膜について、A)全光線透過率[%]、B)ヘイズ値、C)シート抵抗値[Ω/□]、D)Δ反射L*値、E)環境試験後のシート抵抗の変化、F)Xeランプ照射試験後のシート抵抗の変化を評価した。各評価は、次のように行った。評価結果を表1,2に示す。
【0095】
A)全光線透過率の評価
各透明導電膜の全光線透過率について、HM−150(商品名:株式会社村上色彩技術研究所製)を用いてJIS K7136に従って評価した。表示特性の観点から、全光線透過率は、高いほど好ましい。
【0096】
B)ヘイズ値の評価
各透明導電膜のヘイズ値について、HM−150(商品名:株式会社村上色彩技術研究所製)を用いてJIS K7136に従って評価した。表示特性の観点から、ヘイズ値は、低いほど好ましい。
【0097】
C)シート抵抗値の評価
各透明導電膜のシート抵抗値は、EC−80P(商品名:ナプソン株式会社製)を用いて評価した。なお、シート抵抗値は、200[Ω/□]以下であることが好ましい。
【0098】
D)Δ反射L*値の評価
透明基材上の透明導電膜を形成した側に黒色のビニールテープ(ニチバン株式会社製VT−50)を貼合し、この透明導電膜を形成した側とは反対側から、JIS Z8722に従い、エックスライト社製カラーi5を用いてΔ反射L*値を評価した。表示特性の観点から、Δ反射L*値は、低いほど好ましい。
ここで、Δ反射L*値は、下記計算式により算出することができる。
(Δ反射L*値)=(基材を含む透明電極の反射L*値)−(基材の反射L*値)
なお、上記の反射L*値を測定するに当たっては、光源としてD65光源を用い、SCE(正反射光除去)方式で、任意の3箇所で測定を行い、その平均値を反射L*値とした。
【0099】
E)環境試験後のシート抵抗の変化の評価
透明基材上の透明導電膜を形成した面に対し、松浪硝子工業株式会社製のスライドガラス(品番:S9213)を、3M社製の粘着フィルム(品番:8146−2)を用いて貼り合わせた。次いで、これをスライドガラス立てに置き、温度60℃で且つ湿度90%に設定したオーブンへ投入し、500時間放置した。そして、放置後の透明導電膜のシート抵抗値を測定し、環境試験後のシート抵抗の変化を、以下の基準に基づいて評価した。
放置前後における透明導電膜のシート抵抗値の変化率が20%未満:○
放置前後における透明導電膜のシート抵抗値の変化率が20%以上:×
【0100】
F)Xeランプ照射試験後のシート抵抗の変化の評価
透明基材上の透明導電膜を形成した面に対し、松浪硝子工業株式会社製のスライドガラス(品番:S9213)を、3M社製の粘着フィルム(品番:8146−2)を用いて貼り合わせた。次いで、これをスライドガラス立てに置き、Xeランプ耐光性試験へ投入し、100時間放置した。そして、放置後の透明導電膜のシート抵抗値を測定し、Xeランプ照射試験後のシート抵抗の変化を、以下の基準に基づいて評価した。
放置前後における透明導電膜のシート抵抗値の変化率が20%未満:○
放置前後における透明導電膜のシート抵抗値の変化率が20%以上:×
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
表1における実施例1と比較例1との比較、実施例9と比較例2との比較、及び、実施例10と比較例3との比較から、第1の染料を含む有色化合物を吸着した金属ナノワイヤー本体を用いることにより、全光線透過率及びヘイズ値の評価がより良好なものとなり、表示特性を向上させることができることが分かる。そして、表1,2から、第1の染料を含む有色化合物を吸着した金属ナノワイヤー本体を含有する実施例に係る透明導電膜は、表示特性の劣化が抑制されている上、苛酷な環境下に置かれても長期的に導通性に優れることが分かる。
【0104】
なお、少なくとも比較例4,6に係る透明導電膜は、第1の染料を含む有色化合物を用いていないため、シート抵抗値の増大しており、カレンダー処理を行わなければ、シート抵抗値を下げることができないことが分かる(参考例1,2参照)。
【0105】
更に、表1,2における実施例1〜11と実施例12〜15との比較から、第1の染料に加えて第2の染料を含む有色化合物を吸着した金属ナノワイヤー本体を含有する透明導電膜は、上述した表示特性及び導通性を良好に維持しつつ、Δ反射L*値等の光学特性がより良好なものとなっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の透明導電膜は、特に、タッチパネル等の情報入力装置に好適に利用可能であるが、タッチパネル以外の用途(例えば、有機EL電極、太陽電池の表面電極、透明なアンテナ(携帯電話又はスマートフォンの充電用ワイヤレスアンテナ)、結露防止などに使用できる透明なヒーター)としても、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0107】
6 金属ナノワイヤー本体
7 有色化合物(染料)
8 バインダー層
9 基材
10 オーバーコート層
11 アンカー層
図1
図2
図3
図4
図5
図6