(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-118855(P2017-118855A)
(43)【公開日】2017年7月6日
(54)【発明の名称】酸性液状調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20170609BHJP
【FI】
A23L1/22 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-257625(P2015-257625)
(22)【出願日】2015年12月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 健治
(72)【発明者】
【氏名】前田 和彦
【テーマコード(参考)】
4B047
【Fターム(参考)】
4B047LB02
4B047LB07
4B047LB09
4B047LG38
4B047LG39
4B047LG60
4B047LG62
4B047LG63
4B047LP01
(57)【要約】
【課題】
酸性液状調味料に甘味料として非加熱
のみりんを配合した際の効果を解明する。
【解決手段】
酸性液状調味料において、通常の加熱処理されたみりんを配合すると、長期保存した際に香りが立たず、味が平坦に感じられたり、後味に苦みを感じるなど、風味が変化してしまう場合があるのに対し、火入れ処理を経ていない非加熱のみりんを甘味料として配合することによって、長期間保管した場合であっても製造当初のフレッシュな味・香り、果汁感等が維持され、一方で苦味が生じにくくなるなど、風味の変化が生じづらく、産業的流通にきわめて適した特性を有するすぐれた酸性液状調味料を得ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非加熱みりんを含有することを特徴とする酸性液状調味料。
【請求項2】
醤油を含有する、請求項1の調味料。
【請求項3】
果汁または野菜汁を含有する、請求項1または2記載の調味料。
【請求項4】
醤油が生醤油である、請求項2記載の調味料。
【請求項5】
果汁または野菜汁が非加熱の果汁または野菜汁である、請求項3記載の調味料。
【請求項6】
酸性液状調味料がぽん酢醤油である、請求項1記載の調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非加熱みりんを含有することを特徴とする酸性液状調味料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生醤油や非加熱の生野菜汁・生果実汁を原料として用い、生醤油や生野菜や生果実の新鮮な風味を付与した酸性液状調味料が知られている。たとえば生醤油、甘味料に生野菜および/または生果実(汁)を混合した後、60〜75℃で加熱処理することで得られる調味料(特許文献1)や、生醤油と野菜粒子および/または果汁含有液状調味料に使用される原料の一部(ただし5’−ヌクレオチドを除く)を混和したものを、品温80〜90℃で加熱した後、これに生野菜粒子及び/又は果汁と、5’−ヌクレオチドと、該調味料に使用される原料の残部とを混和し、次いで品温60〜75℃で加熱することで得られる調味料(特許文献2)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−31403
【特許文献2】特開2013−99306
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ぽん酢醤油をはじめとする酸性液状調味料には、酸味や塩味のきつさを和らげて味をまろやかにし、また味の深みを与えることなどを目的として甘味料が添加されることも多い。甘味料の種別としては、砂糖、還元糖、水飴、みりん、アスパルテーム等の人工甘味料などが挙げられる。
【0005】
甘味料の中でも、みりんは米等の発酵によって製造され、発酵後に加熱処理されたものが流通している。しかしながら、醤油や果汁・野菜汁については非加熱の原料を用いた際の効果が各種検討されているのに対し、液状調味料に非加熱のみりんを配合したとき、どのような効果が得られるかについては従来知られていない。
したがって本発明は、液状調味料に非加熱みりんを配合した際の効果の解明を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで発明者らは鋭意検討を進めた結果、みりんを配合する酸性液状調味料に、通常の加熱処理されたみりんを配合すると、長期保存した際に香りが立たず、味が平坦に感じられたり、後味に苦みを感じるなど、風味が変化してしまう場合があることを新たに発見したのとともに、全く意外にも、製造工程において加熱処理を経ていない非加熱のみりんを甘味料として配合することによって、長期間保管したときの風味の変化が生じづらく、原料由来のフレッシュな味・香りが保たれ、きわめて好適な酸性液状調味料が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の酸性液状調味料は、非加熱みりんを含有することによって長期間保管したときであっても製造当初のフレッシュな味・香り、果汁感等が維持され、一方で苦味が生じにくくなるなど、風味の変化が生じづらく、産業的流通にきわめて適した特性をもった調味料である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、みりんとして通常みりんを使用したぽん酢醤油と非加熱みりんを使用したぽん酢醤油を、12ヶ月保存したときの、風味変化の官能評価結果を表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の酸性液状調味料は、原料として非加熱のみりんを含有する。通常みりんは、原料であるもち米に米麹とアルコールを添加して発酵・熟成させたのち、火入れと呼ばれる加温処理を行ったものが流通している。一方、本発明における非加熱みりんとは、その製造工程において、通常のみりん醸造法により発酵・熟成させたみりんであって、熟成後に火入れ処理が行われておらず、50℃以上の高温にさらされていないみりんをいう。なお、本発明の非加熱みりんは、加熱処理は行わないが、必要によりフィルター等で微生物等を除去していても良い。
【0010】
本発明の酸性液状調味料には、上記非加熱みりんを、調味料の種別や望ましい香味に応じて0.1〜30%(v/v)、より好ましくは0.2〜10%(v/v)含有させることができる。
【0011】
本発明の酸性液状調味料は、上記非加熱のみりんのほかに、甘味料としてグルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等の還元糖、液糖、水飴、砂糖、アスパルテーム等の人工甘味料などを併用していても良い。
【0012】
本発明の酸性液状調味料の種別としては、任意の液状調味料を挙げることができるが、具体的にはぽん酢醤油、ドレッシング、焼肉のたれ、冷し中華スープ、麺類のつけつゆおよびかけつゆなどを挙げることができる。
【0013】
本発明の酸性液状調味料は、上記非加熱みりんのほかに、醤油を含有させることができる。醤油の種別としては、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、しろ醤油、再仕込醤油など公知のものを用いることができるが、中でも、醤油として生醤油を用いたものであることが好ましい。生醤油とは、通常の醤油醸造法により発酵熟成を行った醤油諸味を圧搾濾過して得られる清澄な液体であって、麹菌由来の酵素が存在するもので、そのまま使用してもよいが、必要によりフィルター等で酵母等の微生物を除き、火入れによる殺菌を施していないものをいう。
【0014】
また、本発明の酸性液状調味料には、ゆず、かぼす、すだち、レモン、グレープフルーツ、だいだい、夏みかん、河内晩柑、みかん、いよかん、八朔、甘夏、オレンジなどの柑橘類、りんごおよびパインアップルなどから選ばれる各種の果汁や、大根や玉ねぎ、生姜、にんにく、りんごなどのおろし野菜・果実、カット野菜・果実を配合することもできる。果汁、野菜汁、おろし野菜・果実またはカット野菜・果実を配合する場合、いずれも製造過程において加熱処理を行っていない、非加熱のものを用いることが好ましい。
【0015】
本発明の酸性液状調味料には、上記非加熱みりん、甘味料、醤油、果汁・野菜汁のほか、原料として魚節、昆布、きのこ類等に由来する各種だし、食塩、酢、たんぱく加水分解物などの調味料、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウムグアニル酸ナトリウムなどのうまみ調味料、チキンエキスやポークエキス、かつお節エキス、昆布エキス等のエキス類、アルコール、香料、酸味料などを、その目的とする味覚に応じて適宜配合することができる。
【0016】
本発明の酸性液状調味料は、上記原料を適宜混合することによって調製し、各種のペットボトル、びん、パウチ、バッグインボックスなどの任意の食品用容器に充填することが可能である。なお、とくに生醤油や非加熱の果汁・野菜汁を配合する際には、全製造工程において品温が50℃を超えないこと、より好ましくは35℃を超えないことが好ましい。製造工程において品温がこれらの温度の上限を超えると、とくに非加熱原料の好ましい香気が失われる恐れがある。
【実施例】
【0017】
以下、実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0018】
[実施例]通常みりん/非加熱みりん使用時の長期間保管における評価
(1)調味料の調製
下記表1の配合Aにしたがって通常みりん配合のぽん酢醤油を調整し(比較例)、配合Bにしたがって非加熱みりん配合のぽん酢醤油を調製した(実施例)。なお、通常みりんとは、常法にしたがって火入れ処理されたみりんを指し、非加熱みりんとは火入れ処理を行わず、その製造工程において50℃以上の温度にさらされていないみりんを指す。
【0019】
【表1】
【0020】
調製したぽん酢醤油をそれぞれ清浄な容器に充填した後、20℃環境下で12ヶ月間保管した。また、12ヶ月保管後に、新たに配合A、Bに従ってぽん酢醤油を調製し、これを対照1、2とした。
【0021】
(2)官能評価
上記12ヶ月保管した試料(比較例および実施例)および対照1、2を用いて、官能評価を実施した。
官能評価では、「フレッシュな香り」「フレッシュな味」「甘味」「酸味」「果汁感」の5つの指標について、対照品1、2の評点を5としたときの、12ヶ月保管した試料(比較例および実施例)における各指標の強さを、1点(弱い)〜9点(強い)の評点をつけることで相対評価した。評価は訓練されたパネラー3名によって行い、評点の平均値を結果として示した。
【0022】
(3)評価結果
結果を表2および
図1に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
表2および
図1に示すように、非加熱みりんを配合したぽん酢醤油は、通常みりんを配合したぽん酢醤油に比べて、フレッシュな香りや味が維持されていた。
通常みりんを配合したぽん酢醤油では、長期保管により香り立ちが弱く、味が平坦に感じられるなどの変化が生じた。一方で、非加熱みりんを配合し保管したぽん酢醤油は、長期保管後においても香り立ちが残っていることで果汁らしさが感じられ、相対的にぽん酢らしさが維持されているとの評価が得られた。
【0025】
これらの試験結果から、みりんを配合する酸性液状調味料を調製するにあたり、甘味料として通常の加熱みりんではなく、非加熱みりんを配合させることによって、長期保管した際の味の変化が抑制できることが明らかになった。
【手続補正書】
【提出日】2016年12月5日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非加熱のみりんを含有することを特徴とする酸性液状調味料。
【請求項2】
醤油を含有する、請求項1の調味料。
【請求項3】
果汁または野菜汁を含有する、請求項1または2記載の調味料。
【請求項4】
醤油が生醤油である、請求項2記載の調味料。
【請求項5】
果汁または野菜汁が非加熱の果汁または野菜汁である、請求項3記載の調味料。
【請求項6】
酸性液状調味料がぽん酢醤油である、請求項1記載の調味料。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、非加熱のみりんを含有することを特徴とする酸性液状調味料に関するものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
甘味料の中でも、みりんは米等の発酵によって製造され、発酵後に加熱処理されたものが流通している。しかしながら、醤油や果汁・野菜汁については非加熱の原料を用いた際の効果が各種検討されているのに対し、液状調味料に非加熱のみりんを配合したとき、どのような効果が得られるかについては従来知られていない。
したがって本発明は、液状調味料に非加熱
のみりんを配合した際の効果の解明を課題とするものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の酸性液状調味料は、非加熱
のみりんを含有することによって長期間保管したときであっても製造当初のフレッシュな味・香り、果汁感等が維持され、一方で苦味が生じにくくなるなど、風味の変化が生じづらく、産業的流通にきわめて適した特性をもった調味料である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
【
図1】
図1は、みりんとして通常みりんを使用したぽん酢醤油と非加熱
のみりんを使用したぽん酢醤油を、12ヶ月保存したときの、風味変化の官能評価結果を表したものである。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明の酸性液状調味料は、原料として非加熱のみりんを含有する。通常みりんは、原料であるもち米に米麹とアルコールを添加して発酵・熟成させたのち、火入れと呼ばれる加温処理を行ったものが流通している。一方、本発明における非加熱
のみりんとは、その製造工程において、通常のみりん醸造法により発酵・熟成させたみりんであって、熟成後に火入れ処理が行われておらず、50℃上の高温にさらされていないみりんをいう。なお、本発明の非加熱
のみりんは、加熱処理は行わないが、必要によりフィルター等で微生物等を除去していても良い。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本発明の酸性液状調味料には、上記非加熱
のみりんを、調味料の種別や望ましい香味に応じて0.1〜30%(v/v)、より好ましくは0.2〜10%(v/v)含有させることができる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本発明の酸性液状調味料は、上記非加熱
のみりんのほかに、醤油を含有させることができる。醤油の種別としては、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、しろ醤油、再仕込醤油など公知のものを用いることができるが、中でも、醤油として生醤油を用いたものであることが好ましい。生醤油とは、通常の醤油醸造法により発酵熟成を行った醤油諸味を圧搾濾過して得られる清澄な液体であって、麹菌由来の酵素が存在するもので、そのまま使用してもよいが、必要によりフィルター等で酵母等の微生物を除き、火入れによる殺菌を施していないものをいう。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
本発明の酸性液状調味料には、上記非加熱
のみりん、甘味料、醤油、果汁・野菜汁のほか、原料として魚節、昆布、きのこ類等に由来する各種だし、食塩、酢、たんぱく加水分解物などの調味料、グルタミン酸ナトリウム
、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどのうまみ調味料、チキンエキスやポークエキス、かつお節エキス、昆布エキス等のエキス類、アルコール、香料、酸味料などを、その目的とする味覚に応じて適宜配合することができる。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
[実施例]通常みりん/非加熱
のみりん使用時の長期間保管における評価
(1)調味料の調製
下記表1の配合Aにしたがって通常みりん配合のぽん酢醤油を調整し(比較例)、配合Bにしたがって非加熱
のみりん配合のぽん酢醤油を調製した(実施例)。なお、通常みりんとは、常法にしたがって火入れ処理されたみりんを指し、非加熱
のみりんとは火入れ処理を行わず、その製造工程において50℃以上の温度にさらされていないみりんを指す。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
【表1】
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
表2および
図1に示すように、非加熱
のみりんを配合したぽん酢醤油は、通常みりんを配合したぽん酢醤油に比べて、フレッシュな香りや味が維持されていた。
通常みりんを配合したぽん酢醤油では、長期保管により香り立ちが弱く、味が平坦に感じられるなどの変化が生じた。一方で、非加熱
のみりんを配合し保管したぽん酢醤油は、長期保管後においても香り立ちが残っていることで果汁らしさが感じられ、相対的にぽん酢らしさが維持されているとの評価が得られた。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
これらの試験結果から、みりんを配合する酸性液状調味料を調製するにあたり、甘味料として通常の加熱みりんではなく、非加熱
のみりんを配合させることによって、長期保管した際の味の変化が抑制できることが明らかになった。