【解決手段】 塩化水素溶液を電極に電力を供給することにより電気分解して有効塩素濃度が10〜80mg/L、pHが5.0〜6.5である微酸性次亜塩素酸水を生成する方法である。本発明の方法は、塩化水素水溶液が供給される供給開口6と、電解液を排出するための排出開口10と、排出開口10を取り囲むようにして形成された第2開口11とを備え、供給開口6の総開口面積、排出開口10の総開口面積、第2開口11の面積が順に増加する複極式電解槽に電力を供給する工程と、第2開口11から排出される電解液を水で希釈する工程とを含み、装置の規模に依らず、安定かつ効率的に電気分解することができる。
塩化水素溶液を電極に電力を供給することにより電気分解して有効塩素濃度が10〜80mg/L、pHが5.0〜6.5である微酸性次亜塩素酸水を生成する方法であって、
前記塩化水素水溶液が供給される供給開口と、電解液を排出するための排出開口と、前記排出開口を取り囲むようにして形成された第2開口とを備え、前記供給開口の総開口面積、前記排出開口の総開口面積、前記第2開口の面積が順に増加する複極式電解槽に電力を供給する工程と、
前記第2開口から排出される前記電解液を水で希釈する工程と、
を含む、方法。
前記供給開口は、前記電極の片面面積の0.018〜0.45%となるように形成され、前記排出開口は、前記電極の片面面積の0.036〜0.9%となるように形成される、
請求項1に記載の方法。
塩化水素溶液を電極に電力を供給することにより電気分解して有効塩素濃度が10〜80mg/L、pHが5.0〜6.5である微酸性次亜塩素酸水を生成する複極式電解槽であって、
前記塩化水素水溶液が供給される供給開口と、電解液を排出するための排出開口と、前記排出開口を取り囲むようにして形成された第2開口とを備え、前記供給開口の総開口面積、前記排出開口の総開口面積、前記第2開口の面積が順に増加する複極式電解槽。
前記供給開口は、前記電極の片面面積の0.018〜0.45%となるように形成され、前記排出開口は、前記電極の片面面積の0.036〜0.9%となるように形成される、
請求項5に記載の複極式電解槽。
【背景技術】
【0002】
微酸性次亜塩素酸水は、殺菌対象が広く、殺菌速度が速いうえに、無毒、無刺激で、かつ安価であることから、厚生労働省より食品添加物に指定されている。
【0003】
また、食品生産現場に限らず、水産、農業、医療介護などの幅広い分野での利用が拡がりつつある。
【0004】
微酸性次亜塩素酸水は、塩化水素溶液または塩化水素溶液と塩化ナトリウム溶液の混合物を電気分解することで得られるものであると定義されている。そして、塩分を含まず、高い殺菌作用を有する微酸性次亜塩素酸水を得る方法として、塩化水素溶液を電気分解し、遊離型次亜塩素酸の溶液を生成する方法が実用化されている。
【0005】
微酸性次亜塩素酸水が強い殺菌力を安定的に保ち、かつ高い安全性を具備するように、有効塩素濃度の範囲は10〜80mg/L、pHの範囲は5.0〜6.5とされている(平成24年4月26日 厚生労働省告示 第345号)。
【0006】
しかし、有効塩素濃度やpHの範囲を上記の範囲に限ることは、生成過程の電解条件や電解槽の要素等による成分などの変動を考慮すると、生成過程の注意深い制御が重要となる。
【0007】
生成物に重要な影響を与える電気分解の因子としては、原料である塩化水素溶液の濃度、その供給速度、電解槽の構造、電解電圧および電流、原水の物性などが挙げられる。
【0008】
さらに、これらの因子が相互に関係し合うことで、生成される微酸性次亜塩素酸水の品質が左右される。そのため、品質の安定した微酸性次亜塩素酸水を生成するには、原料である塩化水素溶液の濃度、その供給速度、電解電圧、電解電流、希釈水流量、電解槽の構造、原水の物性、およびそれらの相互作用を吟味し、それらの制御を含めた生成過程を構築することが必要である。
【0009】
電気分解の制御について特開2011−104519(特許文献1)では、一定電圧で電解し、生成した電解液を希釈水で希釈することにより、殺菌水を生成する方法であって、電解電流値を、測定された稀釈水の流量または殺菌水の成分濃度に依存するように制御する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1では、原料である塩化水素溶液の濃度、その供給速度、電解槽の構造、電解電圧および電流、原水の物性などが微酸性次亜塩素酸水の生成に対して与える影響については開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施形態によって説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではない。
図1は、微酸性次亜塩素酸水の電解装置(以下、単に電解装置として参照する)の実施形態を示す図である。
【0017】
図1に示す電解装置30は、電極7を含んで構成される電解槽と、電解装置筐体16とを含んで構成されており、電解装置筐体16は、電解液を希釈すると共に電解槽を冷却するための水(以下、希釈水として参照する)が満たされている。電解槽によって生成された高濃度の次亜塩素酸を含有する電解液は、電解槽の開口11から排出される。希釈水供給口19から供給される希釈水14は、電解槽を冷却しながら電解液を希釈し、本実施形態における微酸性次亜塩素酸水12を排出口17から排出する。
【0018】
電解槽は、絶縁性のフレーム15、上蓋9、下蓋6および図示した実施形態では、5つの電極7を備えている。フレーム15は、上蓋9および下蓋6を水密に保持し、電極7の側端を保持しており、電解液を希釈水14から隔離している。上蓋9および下蓋6は、電極7の上端および下端を保持し、所定の電位差の下での電気分解を可能としている。最外部にある2枚の電極7には、電源(不図示)から給電端子18を介して電解電流が供給されていて、複極式の電解槽を形成する。なお、電極7は、平行とされ、均一な電界を形成することができる限り平板に限定されるわけではなく、平行曲面を形成する形状とされていても良い。
【0019】
下蓋6の単位電解槽を形成する領域には、原料を供給するための供給開口5がそれぞれ形成されている。また、上蓋9には電解液を排出するための排出開口10が、単位電解槽ごとに形成されており、高濃度の次亜塩素酸を含有する電解液を、開口11から電解装置筐体16の希釈水14が充満した領域に排出させている。電解液は、希釈水14によって希釈されて、所定の次亜塩素酸濃度およびpHとされて、排出口17から微酸性次亜塩素酸水12として排出される。
【0020】
供給開口5および排出開口10の径は特に制限されるものではないが、例えば特許第4712915号明細書に記載されるように、供給開口5は、単位電解槽あたり1つでも複数でもかまわないが、総開口面積で例えば、電極の有効片面面積の0.018〜0.45%となるように数およびサイズを設定することができる。また、排出開口10についても単位電解槽あたり1つでも複数でもかまわないが、総開口面積で例えば、電極の有効片面面積の0.036〜0.9%の数およびサイズとすることができる。
【0021】
フレーム15の下部には、原料供給口4が形成されており、原料タンク(不図示)に蓄積された原料を供給チューブ2およびポンプ(不図示)を使用して原料を電解槽に供給する。本実施形態では、原料は、塩化水素溶液を使用する。
【0022】
また、供給開口5は、フレーム15の下部に形成された共通流路を通して、原料の供給を受け、単位電解槽への原料供給量が均等になるようにされている。原料は、供給開口5からそれぞれの単位電解槽に供給され、電気分解をうけながら上昇して行き、電解液として排出開口10から排出される。
【0023】
複数の排出開口10は、その上部に形成された共通排出路へと電解液を排出する。この共通排出路は、各単位電解槽の出口圧を均等化させることを可能とし、単位電解槽ごとの液流量を均一化させるバッファ通路を提供する。電解液は、この共通排出路を通してフレーム15に形成された排出開口10よりも大面積で形成された開口11から電解装置筐体16の希釈水14を流通させる部分に送られ、希釈された後、排出口17から微酸性次亜塩素酸水12として排出される。複極式電解槽においては、単位電解槽間で液流量に差が生じると、特に流速の遅い単位電解槽内の液体中の電気伝導量が低下し、それが全体の電解槽の電気伝導度を低下させる。それに対し、本実施形態の電解槽は、各単位電解槽の流速が均一化されることによって、生成される微酸性次亜塩素酸水の品質に与える変動を抑制し、安定した品質の微酸性次亜塩素酸水を供給する。
【0024】
図2は、電極7の複極式電極の断面を示す図である。電極7は、電極基材7aと、陽極面7bと、陰極面7cとを含んでいる。電極基材7aは、チタン、またはチタンを含む合金を含む材料から構成することができる。陽極面7bは、電極基材7aを被覆する被膜として形成され、酸化イリジウムを含む材料で形成することができる。陰極面7cは、電極基材7aそのもの、または白金族の金属を含む物質で電極基材7aを被覆することにより形成される。
【0025】
電極7は、上記構成の複極式電極を採用することによって、平板電極の構造を単純化しながら、陽極および陰極で適切な電気分解特性を提供することが可能となり、電解効率を改善し、微酸性次亜塩素酸水の生成効率を向上させることができる。さらに、電極7を薄型化できることから、電解槽の容積も小サイズ化することができる。
【0026】
図3は、
図1の電解装置30を使用して微酸性次亜塩素酸水12を生成する、生成装置を示す模式図である。
図3中、電解装置筐体16内部の構造は、
図1および
図2で説明した通りなので、詳細な記載を省略して示している。原料である塩化水素溶液は原料タンク1に蓄積されており、供給チューブ2およびポンプ3を使用して原料を電解装置筐体16内部の電解槽に供給する。電源13は、給電端子18に接続され、電解電流を電解槽に供給する。電解電流の値は、電流計20によって測定される。
【0027】
電流計20で測定された電流値は、制御装置21に与えられる。制御装置21は、電流値の変動に応じて、連続的に電気分解を行う場合のポンプ3の動作を制御することができる。例えば、制御装置21にあらかじめ電流値の範囲を設定しておき、測定した電流値が設定値未満の場合には、ポンプ3を動作させて原料の供給を開始させる。また、測定した電流値が設定値を超えた場合には、ポンプ3を停止し、原料の供給を停止する。これによって、連続的に電気分解を行う場合であっても、電気分解の速度を一定に保つことができる。
【0028】
以下に、
図3の生成装置にて、効率的に微酸性次亜塩素酸水を生成するための、単位電解槽当たりの電圧、隣接する電極表面間の距離(以下、電極間隔として参照する)、電極の単位面積当たりの電流値(以下、電流密度として参照する)、単位時間に単位電解槽の単位容積当たりに供給される純塩化水素ミリモル数(以下、塩化水素供給量として参照する)、および塩化水素1ミリモル当たりの電気量(以下、塩化水素単位供給速度当たりの電流値として参照する)について述べる。
【0029】
単位電解槽当たりに印加する電圧は、好ましくは0.5V以上、6.0V以下、より好ましくは、1.5V以上、4.0V以下とすることができる。電圧が0.5V未満では、塩素の発生効率が低くなり、電圧が6.0Vを超えると、塩素の発生量は増加するが、副生成物が発生し、微酸性次亜塩素酸水としての品質が悪化する。そして、単位電解槽当たりに印加する電圧を1.5V以上、4.0V以下とすることで、制御の際の電圧自動設定誤差が生じた場合にも、安定して、効率的、かつ高品質な微酸性次亜塩素酸水を生成することができる。
【0030】
電極間隔は、好ましくは0.5mm以上、10mm以下とすることができ、より好ましくは、1mm以上、8mm以下である。電極間隔が0.5mm未満では、電気分解の際に発生した気泡が分離しにくく、電流が安定しない。また、電極間隔が10mmを超えた場合には、電力の損失が生じることや、電解槽内の電解液の更新が悪くなることによって、電力効率が悪化する。したがって、電極間隔を、1mm以上、8mm以下とすることで、生成装置を製作する際の寸法精度のバラツキによる影響を防止しながら、安定的かつ効率的に微酸性次亜塩素酸水を生成することができる。
【0031】
また、単位電解槽当たりに印加する電圧および電極間隔から、電界強度を定義することができる。電界強度は、電圧を電極間隔で除した値であり、上記の単位電解槽当たりに印加する電圧および電極間隔の上限値と下限値から、0.1875V/mm以上、4.0V/mmとすることで、効率的に微酸性次亜塩素酸水を生成することができる。
【0032】
電流密度は、好ましくは0.05mA/mm
2以上、1.0mA/mm
2以下、より好ましくは0.2mA/mm
2以上、0.6mA/mm
2以下とすることができる。電流密度が0.05mA/mm
2未満では、電極面積が大きくなることで、単位面積当たりの電解量の減少や、生成装置の大型化につがなる。また、電流密度が1.0mA/mm
2を超えると、電極の消耗が早くなり、結果、生成装置の寿命が短くなる。したがって、電流密度を0.2mA/mm
2以上、0.6mA/mm
2以下とすることで、生成装置サイズを制限でき、長期的に安定運転可能であり、経済的に有利な生成装置を提供することができる。
【0033】
塩化水素供給量は、好ましくは0.0006mMol/hmm
3以上、0.013mMol/hmm
3以下、より好ましくは0.0013mMol/hmm
3以上、0.0063mMol/hmm
3以下とすることができる。塩化水素供給量が0.0006mMol/hmm
3未満では、電力の損失による電力効率の低下につながり、塩化水素供給量が0.013mMol/hmm
3を超えると、塩素の変換率の低下につながる。したがって、塩化水素供給量を0.0006mMol/hmm
3以上、0.013mMol/hmm
3以下とすることで、適切な塩素の生成効率を維持することができる。なお、塩化水素供給量Mは、塩化水素の物質量n、電解時間t、電極面積S、電極間隔Dとして、下記式(1)から求められる値である。
【0035】
これまでに示した諸条件が相互に影響することを考慮して、電流Iと原料の供給量(電極面積S、電極間隔D、塩化水素供給量Mの積)の比、具体的には、下記式(2)で与えられる、塩化水素単位供給速度当たりの電流値I
HClは、1.90mAh/mMol以上、460mAh/mMol以下、より好ましくは9.20mAh/mMol以上、230mAh/mMol以下とすることができる。塩化水素単位供給速度当たりの電流値が上記の範囲内であれば、一定の電解状態を保ち、生成物の特性を一定に制御することができる。
【0037】
これまで、本発明を実施形態をもって説明したが、以下、本発明をより具体的な試験例、および実施例によって説明する。
(試験例1)
【0038】
図1に記載した生成装置を使用し、塩化水素0.15%を含む溶液を、電極間隔3mmで配置した単位電解槽で電気分解した。使用した電極は、陽極が酸化イリジウムで被覆され、陰極が白金で被覆された、2500mm
2(50mm×50mm)の面積を有するチタン板を使用した。種々の電圧において、回分式電解装置を使用し、任意の初期電流値から電気分解を開始し、電流値が初期値の95%に低下した時点で電気分解を終了した。塩素量の測定は、空中捕集した量と、電解液に残留した量とを合わせ、ヨウ素滴定によって求めて、単位時間当たりの発生量に換算した。対理論値発生量比とは、電気量とファラデー定数から算出する理論生成量に対する、実発生量の比を百分率で表したもので、下記式(3)により算出する。
【0040】
ここで式(3)中のCは塩素発生量(mg)、Fはファラデー定数(96500C/Mol)、Iは、電流値(A)、tは、発生時間(秒)を表し、定数35.5は塩素の原子量である。電気分解を行った結果を下記表1に示す。
【0042】
次に、高い電圧で電気分解を行うと副反応による副生成物の種類が増えることが知られていることから、電解電圧の値によって生成する副生成物を調べた。塩化水素溶液を、各電圧で5分間電気分解を行い、電解液中の副生成物を、電気伝導度検出器を具備したイオンクロマトグラフィーで測定した。発生した副生成物の結果を下記表2および
図4に示す。
【0044】
表1、表2および
図4より、電解電圧が1.5V以上において効率的に塩素が生成し、電解電圧が4.0V以下では副生成物の生成が無かったことから、良好な電気分解が行われていることが確認された。
(試験例2)
【0045】
試験例1で使用した生成装置における電解槽の電極間隔を変化させたことを除き、その他の条件を統一にして0.15%塩化水素溶液を電気分解した。電解電圧は、2.5Aの電流を流すために必要な電圧とし、対理論値発生量比を測定した。結果を下記表3に示す。
【0047】
表3より、電極間隔を大きくすると、電気抵抗が大きくなり、電力の損失が生じていることがわかる。また、電解槽内の液の流れが複雑になり、槽内の電解液の更新が悪くなることで、電力効率が低下する。一方で電極間隔が0.5mmの場合では、発生した気泡の滞留による電流値の変動が見られた。そこで、電極間隔は1mm以上、8mm以下とすることで、良好な電気分解がなされることが確認できた。
(試験例3)
【0048】
塩化水素1%を含む溶液を、
図1に記載した生成装置を使用して、種々の電流密度にて電気分解した。電極としては、酸化イリジウムを主成分とする被覆材を0.2μmの厚さで被覆したチタン面を陽極面とし、無垢のチタン面を陰極面とした。電極の面積は、2500mm
2(50mm×50mm)とした。設定した電流密度を保つため、
図3の生成方法において、電流値が設定値未満になると原料を供給し、設定値を超えると供給を停止するように制御した。また、電極の消耗を加速するために液温を45℃に保ち、最初に設定した電圧条件(2.5V)で電流値を維持できなくなり、原料の供給が連続的になるまでの時間を耐久時間とした。電気分解を行った結果を下記表4に示す。
【0050】
表4の結果から、電流密度が0.6mA/mm
2以下であれば、実用に耐える耐久時間が得られることが確認できた。一方、電流密度が0.2mA/mm
2を下回ると、電極面積当たりの電解量が減少し、電流密度と耐久時間を掛け合わせた生涯効果が小さくなり、経済的に不利であることが確認できた。
(試験例4)
【0051】
図1の生成装置を使用し、0.15%塩化水素溶液を種々の供給量で連続的に供給しながら単位電解槽当たりの電圧を2.5Vで電気分解し、塩素変換率を測定した。電極としては、陽極面を酸化イリジウムで被覆したチタン面とし、陰極面を無垢のチタン面とした。電極面積を7500mm
2(50mm×150mm)とし、電極間隔を3mmとした。塩素変換率とは、供給された全塩素イオンに対する、生成次亜塩素酸に含まれる塩素の比率である。次亜塩素酸に含まれる塩素の量は、ヨウ素滴定によって測定した。測定した結果を、下記表5に示す。
【0053】
表5の対理論値発生量比および塩素変換率から、塩化水素供給量は、0.0006mMol/hmm
3以上、0.013mMol/hmm
3以下の範囲が適切であることが確認できた。また、単位電解槽当たりの電圧を2Vおよび3Vとして測定をしたところ、適切な塩化水素供給量の範囲は同様であることが確認できた。
(試験例5)
【0054】
図1の生成装置を使用し、0.25%塩化水素溶液を、単位電解槽当たりの印加電圧2.5Vで電気分解し、塩素変換率および対理論値発生量比を測定した。電極としては、陽極面を酸化イリジウムで被覆したチタン面とし、陰極面を無垢のチタン面とした。電極面積は2500mm
2(50mm×50mm)とした。式(2)で与えられる、塩化水素単位供給速度当たりの電流値は、試験例2〜4で示した各要因の範囲である、電流密度0.2〜0.6mA/mm
2、電極間隔1〜8mm、塩化水素供給量0.0013〜0.013mMol/hmm
3の下限値と上限値から、最小境界が1.92mAh/mMol、最大境界が462mAh/mMolと求まる。両境界の条件で測定した塩素変換率および対理論値発生量比の結果を下記表6に示す。
【0056】
表6の結果から、塩化水素単位供給速度当たりの電流値が1.92〜462mAh/mMolの範囲において、実用的な塩素変換率および対理論値発生量比で電気分解が行われることを確認した。
【実施例1】
【0057】
図1に示した生成装置と同様の構成の生成装置を、事業者用として、有効塩素濃度20ppmの微酸性次亜塩素酸水を1時間当たり15000リットル生成するスケールで製作した。電解槽を、単位電解槽が18個から成る、複極式電解槽とした。上述した量の微酸性次亜塩素酸水を生成するために必要な塩素の量は、1時間当たり約300g(8.45Mol)であることから、必要な電気量は815000クーロンとなる。発生率を50%とすると、必要な合計電流値は453Aとなり、単位電解槽当たりの電流値は25Aとなる。
【0058】
電極当たりの電流値は25Aであることから、電流密度を表4の結果の中間値である0.4mA/mm
2とすると、電極面積は62900mm
2となるので、420mm×150mmの電極を使用した。電極間隔は4mmとした。陽極面は酸化イリジウムを主成分とする混合物をチタン板に被覆し、陰極面は白金をチタン板に被覆した。
【0059】
塩化水素供給量は、式(2)に上記の電流密度および電極間隔を代入して整理すると、0.00022〜0.0053mMol/hmm
3と算出されるので、中間値の0.002mMol/hmm
3とした。この値から、10%塩化水素溶液を1時間当たり3.3リットル供給した。
【0060】
上記の条件で、電解槽に36Vの電圧を印加したところ、電流値は35〜38Aで推移し、pH6.0〜6.3、有効塩素濃度15〜20ppmの微酸性次亜塩素酸水を、1時間当たり15000リットルで安定して生成した。また、この生成装置にて印加電圧36Vで電気分解し、24.5A未満になったら塩化水素溶液の供給を開始し、25.5Aを超えたら塩化水素溶液の供給を停止する定電流運転を行った。この結果、有効塩素濃度18±2ppm、pH6.1±0.2の微酸性次亜塩素酸水を1時間当たり15000リットルで安定して生成することができた。
【実施例2】
【0061】
図1に示した生成装置と同様の構成の生成装置を、家庭用または小規模利用者用として、有効塩素濃度30ppmの微酸性次亜塩素酸水を1時間当たり50リットル生成するスケールで製作した。上述した量の微酸性次亜塩素酸水を生成するために必要な塩素の量は、1時間当たり1.5gであり、生成効率を50%とすると、電流は電解槽全体で1.1A必要である。
【0062】
ここでは生成装置を小型化するために、電極間隔を1mm、電流密度を0.6mA/mm
2となるように、20mm×50mmの電極を用いた。陽極面は酸化イリジウムを主成分とする混合物をチタン板に被覆し、陰極面は白金をチタン板に被覆した。また、電解槽は、単位電解槽が2個から成る、複極式電解槽とすることで、電解槽全体の大きさを30mm×65mm×15mmと小型化した。
【0063】
塩化水素供給量は、式(2)に上記の電流密度および電極間隔を代入して整理すると、0.0013〜0.32mMol/hmm
3と算出されるので、中間値の0.15mMol/hmm
3とした。この値から、5%塩化水素溶液を1時間当たり0.3リットル供給した。
【0064】
上記の条件で、単位電解槽当たり2.5Vの電圧を印加し、電気分解したところ、pH5.4〜5.6、有効塩素濃度30ppmの微酸性次亜塩素酸水を1時間当たり50リットルで安定して生成することができた。
【0065】
これまで説明してきた実施形態および実施例から、本発明によれば、微酸性次亜塩素酸水を安定かつ効率的に生成することができる。また、その用途は家庭用の小規模な生成装置から、事業者用の大規模な生成装置まで、幅広く応用することができる。