特開2017-119829(P2017-119829A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 奇美實業股▲分▼有限公司の特許一覧

特開2017-119829熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品
<>
  • 特開2017119829-熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品 図000023
  • 特開2017119829-熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品 図000024
  • 特開2017119829-熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品 図000025
  • 特開2017119829-熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品 図000026
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-119829(P2017-119829A)
(43)【公開日】2017年7月6日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20170609BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20170609BHJP
   C08G 18/83 20060101ALI20170609BHJP
【FI】
   C08F290/06
   C08G18/67 010
   C08G18/83
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-216831(P2016-216831)
(22)【出願日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】104144498
(32)【優先日】2015年12月30日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】594006345
【氏名又は名称】奇美實業股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100134577
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】戴 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲博▼世
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 政道
(72)【発明者】
【氏名】許 瑞熙
【テーマコード(参考)】
4J034
4J127
【Fターム(参考)】
4J034BA02
4J034CA02
4J034CB01
4J034FA01
4J034FA02
4J034FA04
4J034FB01
4J034FC01
4J034FD01
4J034FE02
4J034HA01
4J034HA08
4J034HA11
4J034HC03
4J034HC35
4J034JA42
4J034KA01
4J034KB02
4J034KB04
4J034KC17
4J034KD02
4J034QA05
4J034QB04
4J034RA11
4J034RA12
4J034RA14
4J127AA07
4J127BB041
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC051
4J127BD431
4J127BE211
4J127BE21Y
4J127BE241
4J127BE24Y
4J127BE281
4J127BE28Y
4J127BE341
4J127BE34X
4J127BF471
4J127BF47X
4J127BF641
4J127BF64Y
4J127BG171
4J127BG17X
4J127BG311
4J127BG31Y
4J127CB061
4J127CB131
4J127CB171
4J127DA21
4J127DA64
4J127FA01
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物は、ウレタン化合物と共重合性モノマーの共重合により得られた分岐共重合体を含み、ウレタン化合物は、水酸基を含む(メタ)アクリレート化合物とトリイソシアネート化合物との反応にから得られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン化合物と共重合性モノマーとの共重合により得られる分岐共重合体を含み、
前記ウレタン化合物が、水酸基を含む(メタ)アクリレート化合物とトリイソシアネート化合物との反応により得られる生成物である熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記トリイソシアネート化合物が、式(1)で表され、
式(1)
式(1)において、Ra、Rb、Rcが、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nが、2〜12の整数である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記水酸基を含む(メタ)アクリレート化合物が、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、およびカプロラクトンアクリレートからなる群より選択された少なくとも1つである請求項1〜2のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ウレタン化合物が、式(2)で表され、
式(2)
式(2)において、R1、R2、R3が、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nが、2〜12の整数であり、X1、X2、およびX3が、それぞれ独立して、2−ヒドロキシエチルアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基、ペンタエリスリトールトリアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基、およびカプロラクトンアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基からなる群より選択された請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
式(2)において、R1、R2、R3が、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nが、2〜10の整数である請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
式(2)において、R1、R2、R3が、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nが、4〜8の整数である請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
式(2)において、R1、R2、R3が、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nが、6である請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記共重合性モノマーの量100重量部に対し、前記ウレタン化合物の量が、0.005重量部〜0.8重量部である請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記共重合性モノマーの量100重量部に対し、前記ウレタン化合物の量が、0.01重量部〜0.4重量部である請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記分岐共重合体のモル質量が2×105g/モル〜3×106g/モルの範囲にある時、平均回転半径が、30nm〜50nmである請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記共重合性モノマーが、スチレン系モノマー、アクリロニトリル系モノマー、および(メタ)アクリレート系モノマーからなる群より選択された少なくとも1つである請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記分岐共重合体の重量平均分子量が、100,000〜600,000である請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の前記熱可塑性樹脂組成物により形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性(thermoplastic)樹脂組成物に関するものであり、特に、熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂は、優れた成形性、物理および機械特性を有することが示された。特に、特徴の1つとして、成形品の優れた外観および光沢性がある。そのため、熱可塑性樹脂は、家庭用電化製品、機械部品、オフィス用品、電子部品、および自動車産業等の様々な分野に幅広く応用されている。
【0003】
一般的に、熱可塑性樹脂は、射出成形、押出成形、およびブロー延伸成形等の成形法を用いて加工される。また、特定の成形プロセスの間、成形前に樹脂をシート(sheet)に圧縮しなければならない。このような要求を満たすために、樹脂は、高い溶融強度を有する(すなわち、樹脂の分子量を増やす)必要があるため、熱成形または真空成形を行っている間に優れた膜厚均一性と寸法安定性を維持することができる。
【0004】
しかしながら、樹脂の分子量を増やすと、流動性の減少、成形性の低下、生産性の減少等の多くの欠点が生じる。これらの欠点を克服するため、分岐剤を追加して特性を改善するのが一般的な方法である。従来の技術で追加される分岐剤は、ジビニル(divinyl)化合物または多価アクリレート(polyvalent acrylate)化合物等の多官能反応性モノマーから選択される。しかしながら、このようなモノマーを製造プロセスで使用した時、流動性の減少や成形性の低下等の欠点を回避することはできても、樹脂の架橋結合(cross-linking)が生じるため、管路表面に付着して、カーバイド(carbide)を形成する。そのため、製造プロセスが失敗し、得られる樹脂の色調が悪くなる。
【0005】
したがって、いかにして成形品に高い溶融張力を持たせ、薄片化処理の補助と生産安定性の向上を図るかが、本分野の技術者が解決すべき課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、成形品に高い溶融張力を持たせ、薄片化処理の補助と生産安定性の向上を図ることのできる分岐共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0007】
本発明は、上述した熱可塑性樹脂組成物により形成された成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ウレタン化合物と共重合性モノマーとの共重合により得られた分岐共重合体を含み、ウレタン化合物は、水酸基を含む(メタ)アクリレート化合物とトリイソシアネート化合物との反応により得られる生成物である。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、トリイソシアネート化合物は、式(1)で表される。
【0010】
【化1】
式(1)
【0011】
式(1)において、Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nは、2〜12の整数である。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、水酸基を含む(メタ)アクリレート化合物は、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、およびカプロラクトンアクリレートからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、ウレタン化合物は、式(2)で表される。
【0014】
【化2】
式(2)
【0015】
式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nは、2〜12の整数であり、X1、X2、およびX3は、それぞれ独立して、2−ヒドロキシエチルアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基、ペンタエリスリトールトリアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基、およびカプロラクトンアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基からなる群より選択される。
【0016】
本発明の1つの実施形態において、式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nは、2〜10の整数である。
【0017】
本発明の1つの実施形態において、式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nは、4〜8の整数である。
【0018】
本発明の1つの実施形態において、式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nは、6である。
【0019】
本発明の1つの実施形態において、共重合性モノマーの量100重量部に対し、ウレタン化合物の量は、0.005重量部〜0.8重量部である。
【0020】
本発明の1つの実施形態において、共重合性モノマーの量100重量部に対し、ウレタン化合物の量は、0.01重量部〜0.4重量部である。
【0021】
本発明の1つの実施形態において、分岐共重合体のモル質量が2×105g/モル〜3×106g/モルの範囲にある時、平均回転半径は、30nm〜50nmである。
【0022】
本発明の1つの実施形態において、共重合性モノマーは、スチレン系モノマー、アクリロニトリル系モノマー、および(メタ)アクリレート系モノマーからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0023】
本発明の1つの実施形態において、分岐共重合体の重量平均分子量は、100,000〜600,000である。
【0024】
本発明の成形品は、上述した熱可塑性樹脂組成物により形成される。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ウレタン化合物と共重合性モノマーとの共重合により得られた分岐共重合体を含み、ウレタン化合物は、高分子合成中に分岐剤の効果を有する。そのため、共重合性モノマーとの反応に使用して、モル質量が2×105g/モル〜3×106g/モルの範囲で、平均回転半径が30nm〜50nmの分岐共重合体を合成することができる。その結果、成形品は、高い溶融張力を有し、薄片化処理の補助と生産安定性の向上を図ることができる。
【0026】
本発明の上記および他の目的、特徴、および利点をより分かり易くするため、図面と併せた幾つかの実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】合成例1で得られたウレタン化合物の1H−NMRスペクトルである。
図2】合成例1で得られたウレタン化合物のGPCクロマトグラムである。
図3】合成例2で得られたウレタン化合物の1H−NMRスペクトルである。
図4】合成例2で得られたウレタン化合物のGPCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を例として、本発明の実施形態を詳細に説明する。各図面および関連説明において、同一または類似する構成要素には、同一の参照番号を使用する。
【0029】
言及すべきこととして、本発明の明細書および特許請求の範囲において、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを示す。
【0030】
本発明は、ウレタン(urethane)化合物と共重合性モノマーとの共重合により得られた分岐共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物を提供する。ウレタン化合物は、水酸基を含む(メタ)アクリレート化合物とトリイソシアネート(triisocyanate)化合物との反応により得られる生成物である。以下、上述した成分について詳しく説明する。

<水酸基を含む(メタ)アクリレート化合物>
【0031】
本発明の水酸基を含む(メタ)アクリレート化合物は、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2-hydroxyethyl acrylate, HEA)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(pentaerythritol triacrylate, PETIA)、およびカプロラクトンアクリレート(caprolactone acrylate)からなる群より選択された少なくとも1つである。
【0032】
2−ヒドロキシエチルアクリレートは、下記の式で表される。
【0033】
【化3】
【0034】
ペンタエリスリトールトリアクリレートは、下記の式で表される。
【0035】
【化4】
【0036】
カプロラクトンアクリレートの具体例は、下記の式で表される。
【0037】
【化5】
<トリイソシアネート化合物>
【0038】
本発明のトリイソシアネート化合物は、式(1)で表される。
【0039】
【化6】
式(1)
【0040】
式(1)において、Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nは、2〜12の整数である。
【0041】
さらに詳しく説明すると、式(1)において、Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、好ましくは、nは、2〜10の整数であり、より好ましくは、nは、4〜8の整数であり、さらに好ましくは、nは、6である。
【0042】
トリイソシアネート化合物の具体例は、下記の式で表される。
【0043】
【化7】

<ウレタン化合物>
【0044】
本発明のウレタン化合物は、式(2)で表される。
【0045】
【化8】
式(2)
【0046】
式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nは、2〜12の整数であり、X1、X2、およびX3は、それぞれ独立して、2−ヒドロキシエチルアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基、ペンタエリスリトールトリアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基、およびカプロラクトンアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基からなる群より選択される。
【0047】
さらに詳しく説明すると、式(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、好ましくは、nは、2〜10の整数であり、より好ましくは、nは、4〜8の整数であり、さらに好ましくは、nは、6である。
【0048】
本発明のウレタン化合物は、式(3)または式(4)で表される。
【0049】
【化9】

式(3)

式(4)
【0050】
式(3)および式(4)において、R4、R5、R6、R11、R12、およびR13は、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、nは、2〜12の整数であり、R7、R8、R9、R10、R14、およびR15は、−(CH25−である。
【0051】
さらに詳しく説明すると、式(3)および式(4)において、R4、R5、R6、R11、R12、およびR13は、それぞれ独立して、−(CH2n−を示し、好ましくは、nは、2〜10の整数であり、より好ましくは、nは、4〜8の整数であり、さらに好ましくは、nは、6である。
【0052】
本発明のウレタン化合物の具体例は、式(A)、式(B)、および式(C)で表され、式(A)、式(B)、および式(C)で表されるウレタン化合物は、2−ヒドロキシエチルアクリレートおよびペンタエリスリトールトリアクリレートとトリイソシアネート化合物を反応させることにより得られる。さらに詳しく説明すると、式(A)、式(B)、および式(C)で表されるウレタン化合物のCAS番号は、それぞれ107596−08−7、102404−91−1、および107596−14−5である。
【0053】
【化10】
【0054】
本発明のウレタン化合物の具体例は、式(D)、式(E)、および式(F)で表され、式(D)、式(E)、および式(F)で表されるウレタン化合物は、ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびカプロラクトントリアクリレートとトリイソシアネート化合物を反応させることにより得られる。さらに詳しく説明すると、式(D)で表されるウレタン化合物のCAS番号は、1046440−95−2である。式(E)および式(F)で表されるウレタン化合物の合成プロセスは、後述の実験例において詳しく説明する。
【0055】
【化11】
【0056】
式(D)、式(E)、および式(F)において、Yは、カプロラクトンアクリレートの水酸基から水素を除去することにより得られた残基を示す。
【0057】
本発明のウレタン化合物を共重合体モノマーとの反応に使用して、分岐共重合体を得る。つまり、本発明のウレタン化合物は、分岐剤の効果を有するため、成形品は、高い溶融張力を有し、薄片化処理の補助と生産安定性の向上を図ることができる。

<共重合体モノマー>
【0058】
本発明の共重合性モノマーは、スチレン系モノマー、アクリロニトリル系モノマー、および(メタ)アクリレート系モノマーからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0059】
スチレン系モノマーの具体例は、スチレン、α−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、またはブロモスチレンが挙げられるが、本発明はこれに限定されない。好ましくは、スチレン系モノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、またはその組み合わせである。本発明において使用するスチレン系モノマーは、1つのモノマーとして使用しても、あるいは2つまたはそれ以上のモノマーを組み合わせて使用してもよい。
【0060】
アクリロニトリル系モノマーは、単独で使用しても、あるいは組み合わせて使用してもよい。アクリロニトリル系モノマーは、アクリロニトリルまたはα−メチルアクリロニトリルが挙げられるが、本発明はこれに限定されない。好ましくは、アクリロニトリル系モノマーは、アクリロニトリルである。
【0061】
(メタ)アクリレート系モノマーの具体例は、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(polyethylene glycol diacrylate)、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチレンジメタクリレート(ethylene dimethacrylate)、またはネオペンチルジメタクリレート(neopentyl dimethacrylate)等が挙げられるが、本発明はこれに限定されない。好ましくは、(メタ)アクリレート系モノマーは、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、またはブチルメタクリレートである。

<分岐共重合体>
【0062】
本発明の分岐共重合体は、ウレタン化合物と上述した共重合性モノマーとの共重合により得られ、ウレタン化合物は、分岐剤の効果を有する。さらに詳しく説明すると、共重合性モノマーの量100重量部に対し、ウレタン化合物の量は、好ましくは、0.005重量部〜0.8重量部であり、より好ましくは、0.01重量部〜0.4重量部である。
【0063】
本発明の分岐共重合体の重量平均分子量は、好ましくは、100,000〜600,000であり、より好ましくは、150,000〜500,000であり、さらに好ましくは、200,000〜450,000である。
【0064】
本発明の分岐共重合体のモル質量が2×105g/モル〜3×106g/モルの範囲の時、平均回転半径は、好ましくは30nm〜50nmであり、優れた分岐効果が得られる。
【0065】
本発明は、上述した熱可塑性樹脂組成物により形成された成形品を提供する。成形品の製造方法は、特に限定されず、熱成形、真空成形、またはこれらのプロセスの組み合わせを使用してもよい。熱成形および真空成形においては、従来の方法を使用することができるため、ここでは繰り返し説明しない。
【0066】
下記の実験例を用いて、本発明の熱可塑性樹脂組成物を説明する。しかしながら、下記の実験例は、本発明を限定する意図はない。

実験例
【0067】
下記の実験例を用いて、本発明の熱可塑性樹脂組成物が分岐共重合体を含み、高い溶融張力を有する成形品が得られることを証明する。
【0068】
また、下記の合成例1および合成例2を用いて、上述した式(E)および式(F)で表されるウレタン化合物の合成プロセスについて説明する。

ウレタン化合物の作製
合成例1
【0069】
合成例1のウレタン化合物は、下記の反応プロセス1を用いて作製される。
[反応プロセス1]
【0070】

式(E)
【0071】
Yは、SR495B(カプロラクトンアクリレート)の水酸基から水素を除去することによって得られた残基である。
【0072】
四つ口の反応フラスコに、1.9重量部のMEHQ(モノメチルエーテルヒドロキノン(monomethyl ether hydroquinone))、600重量部のバイエル(Bayer)社製のHDT(商品名:デスモデュール(Desmodur)N3300、ヘキサメチレンジイソシアネート(hexamethylene diisocyanate、以下、HDI)の3量体)、1361重量部のEB(エチレングリコールモノブチルエーテル(ethylene glycol monobutyl ether)、および1.9重量部のジブチルスズジラウレート(dibutyltin dilaurate, DBDTL)を添加した後、撹拌して混合液を形成した。そして、757重量部のサートマー(Sartomer)社製の商品名:SR495B(カプロラクトンアクリレート)を上述した混合液に室温で滴下した。その後、混合液を50℃に上げて、1時間反応させた。次に、514重量部の長興材料工業(Eternal Materials)社製のPETIA(商品名:EM235−1(ペンタエリスリトールトリアクリレート))を514重量部のEBに溶解し、反応に滴下した。反応混合物を75℃に上げて、5時間反応させた。反応が完了した後、温度を室温に下げ、反応物を沈殿させてフィルタリングし、式(E)で表されるウレタン化合物を得た。
【0073】
図1は、合成例1で得られたウレタン化合物の1H−NMRスペクトルである。ブルカー(Bruker)社製のウルトラシールド(Ultrashield)400MHz核磁気共鳴スペクトルを用いて、1H−NMR(水素のNMR)結果を決定した。図1に示すように、SR495BのOH官能基からH(3.5ppm)の信号が消失し、HDTからH(3.2ppm)の信号がシフトしている。そのため、反応が確認される。
【0074】
図2は、合成例1で得られたウレタン化合物のGPCクロマトグラムである。示差屈折率検出器(ウォーターズRI−2414)および紫外可視光検出器(ウォーターズPDA−2996)を装備したウォーターズ(Waters)社製のゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography, GPC)を用いて分析を行った。分析条件は、以下の通りである:コラム:MZ-Gel Sdplus linear 5 μm 300×8.0 mm;移動相:THF(流速0.5ml/分)。図2に示すように、低分子量ピークが消失し、高分子量ピークが出現している。そのため、反応が確認される。

合成例2
【0075】
合成例2のウレタン化合物は、下記の反応プロセス2を用いて作製される。
[反応プロセス2]
【0076】

式(F)
【0077】
Yは、SR495B(カプロラクトンアクリレート)の水酸基から水素を除去することによって得られた残基である。
【0078】
四つ口の反応フラスコに、2重量部のMEHQ(モノメチルエーテルヒドロキノン)、600重量部のバイエル社製のHDT(商品名:デスモデュールN3300)、1036.5重量部のEB(エチレングリコールモノブチルエーテル)、および2重量部のジブチルスズジラウレート(DBDTL)を添加した後、撹拌して混合液を形成した。そして、432.5重量部のサートマー社製の商品名:SR495B(カプロラクトンアクリレート)を上述した混合液に室温で滴下した。その後、混合液を50℃に上げて、1時間反応させた。次に、955重量部のPETIA(商品名:EM235−1(ペンタエリスリトールトリアクリレート))を955重量部のEBに溶解し、反応に滴下した。反応混合物を75℃に上げて、5時間反応させた。反応が完了した後、温度を室温に下げ、反応物を沈殿させてフィルタリングし、式(F)で表されるウレタン化合物を得た。
【0079】
図3は、合成例2で得られたウレタン化合物の1H−NMRスペクトルである。図3に示すように、SR495BのOH官能基からH(3.5ppm)の信号が消失し、HDTからH(3.2ppm)の信号がシフトしている。そのため、反応が確認される。
【0080】
図4は、合成例2で得られたウレタン化合物のGPCクロマトグラムである。図4に示すように、低分子量ピークが消失し、高分子量ピークが出現している。そのため、反応が確認される。
【0081】
図31H−NMRスペクトルと図11H−NMRスペクトルは、同じ方法で測定され、図4のGPCクロマトグラム図2のGPCクロマトグラムは、同じ方法で測定されたため、ここでは繰り返し説明しない。

分岐共重合体の合成
実験例1
【0082】
100重量部のスチレンモノマーおよび8重量部のエチルベンゼン中に、150ppmの1,1−ジ−tert−ブチルペロキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(TX−29A)、250ppmのn−ドデシルメルカプタン、110ppmのオクタデシル−3−(3’−5’−ジ−t−ブチル−4−’ヒドロキシフェニル)プロピオネート(octadecyl-3-(3’,5’-di-t-butyl-4’-hydroxyphenyl)propionate)(IX−1076、CIBA社製)、および220ppmのトリ−(2,4−ジ−t−ブチル−フェニル)ホスフェート(tri-(2,4-di-t-butyl-phenyl)phosphate)(P−168)の存在下で、550ppmの式(A)で表されるウレタン化合物(CAS番号:107596−08−7)を分岐剤として添加して、反応を行った。反応条件は、以下の通りである:3つの円筒状流通反応器(それぞれ直列に接続され、110リットルの容量を有する)に毎時40リットルの流速でポンプ注入し、それぞれ115℃、130℃、および150℃の入口温度で反応を維持し、最終重合転化率が80重量%であり、260℃の加熱器で加熱した後、15torr真空度の脱揮発装置で未反応モノマーおよび不活性溶媒を除去し、装置から押出した後に共重合体を得る。
【0083】
実験例1で使用した分岐剤の種類、反応性官能基の使用量および数は、下記の表1に示した通りである。

実験例2〜実験例6
【0084】
合成方法は、実験例1と同じである。異なる点は、異なる種類および量のウレタン化合物を分岐剤として添加し、反応を行ったことである。ウレタン化合物の種類および量は、下記の表1に示した通りである。
【0085】
実験2〜実験6において、それぞれ式(B)、式(C)、式(D)、式(E)、および式(F)で表されるウレタン化合物を添加して、反応を行った。ここで、式(B)、式(C)、および式(D)で表されるウレタン化合物のCAS番号は、それぞれ102404−91−1、107596−14−5、および1046440−95−2である。式(E)および式(F)で表されるウレタン化合物は、上述した合成例1および合成例2により作製される。

実験例7
【0086】
69.5重量部のスチレンモノマー、30.5重量部のアクリロニトリルモノマー、および25重量部のエチルベンゼン中に、200ppmの1,1−ジ−tert−ブチルペロキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(TX−29A)および150ppmのt−ドデシルメルカプタン(t-dodecyl mercaptan)の存在下で、900ppmの式(F)で表されるウレタン化合物(合成例2で作製されたもの)を添加して、反応を行った。反応条件は、以下の通りである:2つの連続撹拌槽反応器および円筒状流通反応器(直列に接続され、それぞれ40リットルおよび110リットルの容量を有する)に毎時21kgの流速でポンプ注入し、それぞれ105℃および105℃の入口温度で反応を維持し、最終重合転化率は50重量%であり、260℃の加熱器で加熱した後、15torr真空度の脱揮発装置で未反応モノマーおよび不活性溶媒を除去し、装置から押出した後に共重合体を得る。

比較例1〜比較例2
【0087】
合成方法は、実験例1と同じである。異なる点は、異なる種類および量の分岐剤を添加して、反応を行ったことである。分岐剤の種類および量は、下記の表1に示した通りである。
【0088】
商品名EM231およびDR−M451の分岐剤は、いずれも長興材料工業社製であり、分岐剤EM231は、トリメチロールプロパントリアクリレート(trimethylolpropane triacrylate, TMPTA)を示し、DR−M451は、メラミンアクリレートを示す。分岐剤EM231およびDR−M451は、下記に示す化学構造を有する。
【0089】
【化12】
比較例3
【0090】
合成例は、実験例1と同じであり、異なる点は、分岐剤を反応に添加しないことである。

比較例4
【0091】
合成例は、実験例7と同じであり、異なる点は、1100ppmのEM231を添加して、反応を行ったことである。
【0092】
【表1】
評価1:共重合体の重量平均分子量の測定
【0093】
下記の方法を用いて、実験例1〜実験例7および比較例1〜比較例4の重量平均分子量を測定した。示差屈折率検出器(ウォーターズRI−2414)および紫外可視光検出器(ウォーターズPDA−2996)を装備したウォーターズ社製のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて分析を行った。分析条件は、以下の通りである:コラム:MZ-Gel Sdplus linear 5 μm 300×8.0 mm;移動相:THF(流速0.5ml/分)。評価結果は、下記の表2および表3に示した通りである。

評価2:共重合体の平均回転半径の測定
【0094】
下記の方法を用いて、モル質量(molar mass)の範囲が2×105g/モル〜3×106g/モルにある時、実験例1〜実験例6および比較例1〜比較例3の共重合体の平均回転半径〔R(avg)〕を測定した。ウォーターズ社製のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)とワイアットテクノロジー(Wyatt Technology)社製のDAWN8+多角度光散乱(multi-angle laser light scattering, MALLS)およびViscoStar−IIの粘度計(viscometer)を用いて、分析を行った。分析条件は、以下の通りである:コラム:MZ-Gel Sdplus linear 5 μm 300×8.0 mm;移動相:THF(流速0.5ml/分)。評価結果は、下記の表2に示した通りである。

評価3:共重合体の伸長粘度の測定
【0095】
下記の方法を用いて、実験例1〜実験例6および比較例1〜比較例3の共重合体の伸長粘度(elongational viscosity)を測定した。ティー・エイ・インスツルメント(TA instrument)社製のレオメータ(Rheometer)ARES−G2を用いて、温度170度、ずり速度0.5/sで分析を行った。評価結果は、下記の表2に示した通りである。

評価4:共重合体のゲル化評価
【0096】
下記の方法を用いて、実験例1〜実験例7および比較例1〜比較例4の共重合体のゲル化評価を行った。厚さが20μmの膜を押出し、5×20cmの範囲を選択することによって、光表面欠陥解析装置(台湾長瀬社製)を使用して、70μmよりも大きいゲル化数を観察した。下記の基準を評価に使用し、評価結果は、下記の表2および表3に示した通りである。
○:ゲル化数<15
×:ゲル化数≧15
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
反応性官能基の数については、表1からわかるように、共重合性モノマー100重量部に対し(単位はg)、合成された共重合体のメルトボリュームフローレイト(melt volume rate, MVR)(測定条件:200℃、5kg)が1.5cm3/10分の時、実験例1〜実験例6に示したウレタン化合物の量および比較例1および比較例2に示した分岐剤の量をそれぞれ使用して、反応性官能基(ミリモル)の数に変換した。例えば、(メタ)アクリロイルの数を計算することができる。実験例1の場合、式(A)で表されるウレタン化合物の使用量、分子量、および1分子中の反応性官能基の数は、それぞれ500ppm、1035g/モルおよび5である。反応性官能基の数の計算方法は、使用量÷分子量×1分子中の反応性官能基の数である。つまり、100(g)×550(ppm)÷1035(g/モル)×5=0.00027モル=0.27ミリモルに等しい。実験例1〜実験例6は、本発明で使用したウレタン化合物であり、合成された共重合体のメルトボリュームフローレイトが1.5cm3/10分に達した時、反応性官能基の数は、比較例1および比較例2で使用した分岐剤中の反応性官能基の数よりも低くなる。そのため、実験例1〜実験例6で使用したウレタン化合物が高い重合反応性を有することがわかる。
【0100】
平均回転半径に関しては、表2からわかるように、実験例1〜実験例6は、本発明のウレタン化合物を分岐剤として使用し、分岐共重合体を合成する。そのため、EM231を使用する比較例1および分岐剤を反応に添加しない比較例3と比較して、モル質量が2×105g/モル〜3×106g/モルの範囲にある時に実験例1〜実験例6で合成された分岐共重合体は、比較的大きな平均回転半径を有する(平均回転半径は、30nm〜50nm)。つまり、分岐効果が比較的優れている。
【0101】
伸長粘度に関しては、表2からわかるように、実験例1〜実験例6は、本発明のウレタン化合物を分岐剤として使用し、分岐共重合体を合成する。そのため、EM231を使用する比較例1および分岐剤を反応に添加しない比較例3と比較して、実験例1〜実験例6において合成された分岐共重合体は、比較的高い伸長粘度を有する。そのため、成形(特に、熱成形、真空成形)の間、優れた圧縮シート性および真空成形性を維持することができる。
【0102】
ゲル化に関しては、表2からわかるように、比較例2のDR−M451を分岐剤として使用して反応を行った時、比較的高い平均回転半径および比較的高い伸長粘度が得られるが、ゲル化の問題も存在する。比較すると、表2に示すように、実験例1〜実験例6は、本発明のウレタン化合物を分岐剤として使用し、分岐共重合体を合成する。そのため、比較的高い平均回転半径および比較的高い伸長粘度を有するが、ゲル化問題は観察されない。
【0103】
ゲル化に関しては、表3からわかるように、比較例4は、EM231を分岐剤として使用して反応を行っており、結果は、ゲル化問題を明らかにした。比較すると、実験例7は、式(F)で表されるウレタン化合物を使用する。そのため、ゲル化問題は観察されない。
【0104】
以上のように、本発明は、熱可塑性樹脂組成物を提供し、分岐共重合体は、ウレタン化合物と共重合性モノマーの共重合により得られる。さらに詳しく説明すると、ウレタン化合物は、高分子合成中に分岐剤の効果を有し、比較的高い重合反応性も有する。共重合性モノマーとの反応に使用して、モル質量が2×105g/モル〜3×106g/モルの範囲で、平均回転半径が30nm〜50nmの分岐共重合体を合成することができる。そのため、優れた分岐効果を有する。また、合成された分岐共重合体は、比較的高い伸長粘度を有する。そのため、成形(特に、熱成形、真空成形)の間、優れた圧縮シート特性および真空成形性を維持することができる。したがって、成形品は、高い溶融張力を有し、薄片化処理の補助と生産安定性の向上を図ることができる。
【0105】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の熱可塑性樹脂組成物およびそれから作られた成形品は、家庭用電化製品、機械部品、オフィス用品、電子部品、および自動車産業等の様々な分野に幅広く応用することができる。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】
2017119829000001.pdf