【解決手段】本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、唾液中のヒトヘルペスウイルス7を測定・定量することにより、全身的な自然免疫力レベルを定量的に評価できることを独自に見出し、自然免疫力レベルの新しい評価方法を創出した。さらに、パン酵母ベータグルカンを連日経口摂取することにより、唾液中のヒトヘルペスウイルス7により評価される自然免疫力レベルの低下に対して自然免疫力レベルを高め、自然免疫力レベルを改善することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
前記ヒトヘルペスウイルス7の量が多い場合に、自然免疫力レベルが低いレベルにあると判断し、前記ヒトヘルペスウイルス7の量が少ない場合に、自然免疫レベルが高いレベルにあると評価することを特徴とする請求項1に記載の自然免疫力レベル評価方法。
唾液中のヒトヘルペスウイルス7の量の定量は、前記ヒトヘルペスウイルス7のDNAを前記唾液中から分離し、リアルタイムPCR法によりDNA量の測定し、得られた結果をもとに一定量の唾液当たりに含まれているヒトヘルペスウイルス7のウイルス量を算出して指標とし、ヒトヘルペスウイルス7の量が多い場合に自然免疫力レベルが大きく低下していると判断し、ヒトヘルペスウイルス7の量が少ない場合に自然免疫力レベルは高いと判断することを特徴とする請求項2に記載の自然免疫力レベル評価方法。
パン酵母ベータグルカンとして、パン酵母からの抽出工程での粒子径調節操作により、粒子径が2〜4ミクロンメーターの粒子を含むように加工された不溶性のベータグルカンを含有することを特徴とする請求項5に記載のパン酵母ベータグルカン含有製品。
パン酵母ベータグルカンとして、パン酵母からの抽出工程での粒子径調節操作により、粒子径が2〜4ミクロンメーターの粒子を含むように加工された不溶性のベータグルカンと、該不溶性のベータグルカンを更に加工して得られた水溶性のベータグルカンとを含有することを特徴とする請求項5に記載のパン酵母ベータグルカン含有製品。
前記不溶性のベータグルカンと、前記水溶性のベータグルカンとの含有質量割合が5:1〜1:5の範囲であることを特徴とする請求項7に記載のベータグルカン含有製品。
【背景技術】
【0002】
ヒトの免疫は、人々の健康維持のために必須の生体防御システムである。健康の維持には免疫、ホルモン、中枢神経の三システムがそれぞれ正常に機能することが大切であり、それぞれのシステムが相互に関連して機能していると考えられている。ヒトの免疫システムは、大別すると自然免疫システムと獲得免疫システムからなり、この両免疫システムは相互に連携してヒトの免疫を担っている。
特に自然免疫システムは、もともと体に備わった外敵に対する生体防御システムである。自然免疫システムには、補体や白血球その他の免疫担当細胞が関与しており、中でも白血球を構成する免疫細胞のマクロファージや好中球が、ウイルスやバクテリアなどの外敵に対する最初の防御を担当している。
【0003】
高齢化が進展し、ストレスの多い現在社会では、加齢やストレスにより自然免疫力の低下が問題になってきている。感染症に対する抵抗力の低下や、がんや多くの病気に罹患するのは自然免疫力の低下が原因の一つと考えられている。
ちなみに、日本人の50%は、生涯に一度はがんに罹患し、最近の死亡原因の第1位はがんで約30%、死亡原因第3位は肺炎で約10%であり、合計約40%のこれら2つの死亡原因には自然免疫力の低下が関係していると考えられる。
【0004】
つまり、現在社会では一般に日々健康に生活している人々において、ストレスや加齢その他の原因により自然免疫力のレベルが低下しており、そのような免疫力レベルが低下した状態で年月が経過するにつれて、がんの芽が増大して、がんが発症したり、肺炎球菌などの病原体による肺炎、インフルエンザその他感染症に罹患し、結果的に免疫力低下により命を落とすことが多くなっていると考えられる。
一見健康状態にあると見える時でも、実は自然免疫力レベルの低下が起こっていることが多く、自然免疫力レベルを高めるための方策を講じて自然免疫レベルを高い状態に保つことが免疫健康の維持に必要である。
【0005】
近年、免疫の強化や増強に役立つと言われる様々な化合物が提案され、特許出願されている。多くの免疫力強化、免疫力賦活、免疫力増加などの働きをするとされる化合物は、NK活性、IFN−γ産生能、IgA産生能、その他それぞれ特定の免疫関連マーカーや指標を基準にしたデータでもって、免疫力の強化・賦活・増強の効果があると主張されているが、それらの化合物を投与する際に予め各免疫関連マーカーや指標を基にして各人の免疫力レベルを把握されることは、ほとんどなされてこなかった。
【0006】
特許文献1は、採血した血液に含まれる免疫細胞に対する免疫細胞マーカーを用いて免疫力を評価する免疫力評価方法を提示している。免疫細胞マーカーとしては、T細胞数、T細胞増殖係数、CD4T細胞/CD8T細胞比率、ナイーブT細胞数、ナイーブT細胞/メモリーT細胞比率、IL−2サイトカイン産生能、IFN−γサイトカイン産生能、IL−4サイトカイン産生能、B細胞数、及びNK細胞数のうち少なくとも2つが挙げられている。その他CD3再発現量を用いる評価方法も記載されている。
特許文献2に記載の発明では、総合的な免疫力を高精度に評価できる免疫評価方法として、採血した血液における、CD8陽性且つCD28陽性又は陰性である特定T細胞の数を計測し、パラメータや年齢の相関による回帰式からTリンパ球年齢を算出している。
非特許文献1には、「免疫系は病原体の貪食を主な働きとする顆粒球・マクロファージなどからなる自然免疫系と病原体特異的に働く抗体をつくるB細胞、ウイルスに対抗するキラーT細胞などからなるリンパ球を中心とした獲得免疫系からなっている。自然免疫系は病原体の種類をあまり問わずに作用し、人の誕生後すぐ機能し始める。その後加齢に伴い、顆粒球やマクロファージは大きな変化を示さない。」と記載され、獲得免疫は、加齢や老化により低下することが説明されている。
【0007】
一方、パン酵母βグルカンに関しても様々な研究が行われている。
パン酵母ベータグルカンが自然免疫力の強化に役立つ化合物であり、マクロファージや好中球の活性化に関与することが、著明な科学雑誌であるNATURE掲載の論文でも明らかにされている(非特許文献2参照)。
【0008】
特にパン酵母ベータグルカンが免疫力の強化に関係する健康食品として有用であるとして、世界中で実用に供されている。どのような機序で自然免疫が強化されるかについては、感染防御やがんの治療効果に関する基礎試験で確認されている(非特許文献3〜4参照)。
経口投与されたパン酵母ベータグルカンは、小腸のパイエル板を通じて体内に取り込まれた後、マクロファージにより飲み込まれ、そのマクロファージが脾臓、リンパ節、骨髄へ移行する。骨髄中でマクロファージが飲み込んだパン酵母ベータグルカンは、消化されて小さな可溶性のβ−グルカン断片として放出され、好中球のCR3レセプターに吸着し、好中球を活性化する。活性化された好中球が、ウイルス、バクテリア等の外敵や抗体で覆われたがん細胞を攻撃して殺す。これがパン酵母ベータグルカンの自然免疫力の強化改善および抗体抗がん剤との併用投与による抗がん作用の作用機序である。
【0009】
食品レベルのパン酵母ベータグルカン原料は、一般に水に不溶性であるが、更に加工して水溶性の原料として飲料などに添加できるものも製造されている。米国Biothera社では、不溶性のパン酵母ベータグルカン原料としてWellmune WGP F3005を、水溶性の原料としてWellmune WGP F3020 を製造販売している。また、水溶性のパン酵母ベータグルカンのがん治療用注射剤Imprime PGGを製造し、抗体抗がん剤との併用による大腸がんや小細胞性肺がん、その他腫瘍に対するがん治療薬としての臨床試験が海外で実施されている(非特許文献5〜6参照)。
【0010】
近年、HHV−7やHHV−6と疲労度との関係について研究がなされている。例えば特許文献3では、「ヒトが疲労すると、免疫力が低下することが考えられ、ヒトの免疫力の低下の一つの表現系として、ウイルス感染が挙げられる。しかし、ヒトの疲労とウイルス感染との関係は明らかにはなっていない」として、HHV−6やHHV−7の唾液中のウイルス量が疲労度を評価方法として有用であると記載されている。彼らは、自然免疫力レベルではなく、疲労の評価方法として唾液中のウイルス量に対する研究開発を行っている。唾液中のHHV−7の測定は、免疫力レベルではなく疲労度の評価指標としての認識がなされていたわけである。
【0011】
特許文献4は、被験者の病的疲労の疲労度を評価することを特徴とする疲労度評価方法に関する発明である。
特許文献4に記載の実施例2によれば、健常者20名に対して7日間の通常勤務(内2日は休日)直後とその後の7日間の連休後に唾液検体を採取し、HHV−6、HHV−7、ヒトサイトメガロウイルス、エプシュタイン・バーウイルスの4種に関しウイルス量を判定量測定している。健常者20名で就労中50%、休息時において30%の被験者においてのみ、HHV−7のDNAが検出され、別途大学病院の慢性疲労症候群(CFS)外来を受信したCFS患者24名では92%(22名)においてHHV−7が検出されたと記載され、特許明細書中に測定結果が示されている。確かに慢性疲労症候群患者では高率にHHV−7が検出されている。
【0012】
しかし、健常者20名では、HHV−7の検出者数が通常勤務就労後では10名、休息時の後には6名であり、休息によりHHV−7の検出者は4名減少している。個々の症例ごとの測定値の変化が報告されていない。陽性と検出された被験者のHHV−7の量(単位:copies/ml)と人数は、通常勤務就労後と休息時後では下記の通りである。
通常勤務就労後: 3×100:2名、4×10:3名、1.6×10:5名
休息時後: 1.4×1000:1名、3×100:3名、4×10:2名
つまり、休息時後の1名は、HHV−7の量が1400copies/mlと就労後のどの症例よりも高く、残り4名中2名は先の就労後よりも高い値;300copies/mlとなっている。
【0013】
結果的には、休息時後は就労後に比較して、陽性被験者の3名がより高い値になり、4例は検出されなくなった。しかも、陽性被験者中1例は休息時後の値が就労後の値の約8倍も高い値になっていたのである。従って、健常人でHHV−7の値が群として改善したとの結論にはならない。1週間の休息後に20例中新たに4名、合計14名でHHV−7が検出されなくなったとし、HHV−7が検出された6症例の検出値が増加したことを勘案しないで群として疲労が回復した人数が増えたとの評価は妥当性を欠いている。慢性疲労症候群患者でのHHV−7の値が高く、同患者等での病的疲労の疲労度を評価することを特徴とする疲労度評価方法とすることは理に適っており、その範囲で特許請求項が認められた特許が成立している。一般の健常者の疲労度評価方法としては特許審査では認められなかったのである。
【0014】
非特許文献7は、特許文献4に記載された実施例の試験結果を一般の学術論文として公表している。「ヘルペスウイルス感染と疲労」と題して主にHHV−6と疲労の関係についての関係を論じている。全身的な自然免疫力レベルの評価に、唾液中のHHV−7量が指標として使えることは想定外であったのである。免疫力の低下は、疲労の原因となることもあるが、免疫が低下すると必ず疲労する訳ではない。
【0015】
本発明者が唾液中のHHV−7量を測定するにあたって、HHV−7の測定に関する先行技術を調査したところ、下記の情報があることが分かった。
特許文献5によれば、ヘルペスウイルスに対するオリゴヌクレオチドを用いるマイクロアレイ遺伝子解析方法であるが、定量的な測定には不向きである。
特許文献6によれば、HHV−7 DNAの配列を同定し、193塩基対の各種断片を用いてPCR反応に使用している。移植患者、HIV感染者等の血液や発熱性の病気の子供の唾液でのHHV−7の定性および定量分析している。
特許文献7によれば、唾液検体にビオチン化レクチンを混合してHHV−7を結合させ、さらにビオチン結合タンパク質が結合したビーズを添加して、ビオチン化レクチンに結合したHHV−7をビーズに結合させた後、HHV−7をビーズから回収し、PCR法で定量する方法を実施している。
【0016】
従来の定量的PCR法よりも、迅速かつ簡便に、かつ高感度で検出・測定できる測定法としてQプローブ法PCRが発明されている(特許文献8〜10参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
先に記述した通り、自然免疫力はストレスや加齢その他の原因により低下することが知られており、健康の維持やがん、感染症の予防に、自然免疫力を強化することが大切であり、そのための対策が必要と言われているものの、各個人が具体的に自然免疫力のレベルが低下した状態であるのか、高い状態にあるのかを容易に判定する実用的な方法が未だ確立されていないのが、大きな問題である。
【0020】
自然免疫の主たる担い手である顆粒球、中でも好中球やマクロファージは加齢により数が大きく変動しないことから、それらの免疫担当細胞が関与する自然免疫力は、加齢により低下しないと考えられてきた。
しかしながら、本特許発明者は、自然免疫力が加齢やストレスにより低下すると考えるものである。老齢化、加齢による感染防御力の低下には、自然免疫力の低下が大きく関与している。パン酵母ベータグルカンによる好中球の貪食能を強化するメカニズムが明らかにされ、加齢やストレスで低下した感染防御力がパン酵母ベータグルカンの摂取により高まる事実が確認されている。つまり、顆粒球やマクロファージ等の自然免疫担当細胞の数ではなく、それぞれの免疫担当細胞の感染防御機能の低下によって自然免疫力は、低下するのである。
【0021】
本発明者は、簡便に各個人の免疫力レベルを測定することが出来れば、一見健康そうに見えても、実は加齢やストレスなどの要因で、多くの場合免疫力レベルが低下していることを確認することが可能となり、自然免疫力レベルを高い状態に保つ対策が立てられると考えた。
【0022】
上記事情を鑑み、本発明の課題は、ヒトの自然免疫力レベルを評価する免疫力レベル評価方法および自然免疫力レベルの改善用パン酵母ベータグルカン含有製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、突発性発疹の原因とされるHHV−7やHHV−6が幼児時期に感染後も持続潜伏感染し、その後再活性化して唾液中に多く排出されていることは、自然免疫力レベルの低下と関係しているのではないかと考えるに至った。また、唾液中のウイルス量がHHV−6に比べ特に多いことが特徴であるHHV−7が測定定量対象として適しているのではないかと考えた。そして、唾液中のウイルス量が多いことが特徴であるHHV−7量を測定・定量することにより、全身的な自然免疫力レベルを定量的に評価できることを独自に見出し、免疫力レベルの新しい評価方法を発明した。
さらに本発明者は、パン酵母ベータグルカンを連日経口摂取することにより、唾液中のHHV−7により評価される免疫力レベルの低下に対して免疫力レベルを高め、免疫力レベルを改善することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。パン酵母ベータグルカンとしては、カプセル製剤を用いて試験を行った。
【0024】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する自然免疫力レベル評価方法および自然免疫力レベルの改善用パン酵母ベータグルカン含有製品に関する。
(1)唾液中のヒトヘルペスウイルス7の量を指標として、被験者の自然免疫力レベルを評価することを特徴とする自然免疫力レベル評価方法。
(2)前記ヒトヘルペスウイルス7の量が多い場合に、自然免疫力レベルが低いレベルにあると判断し、前記ヒトヘルペスウイルス7の量が少ない場合に、自然免疫レベルが高いレベルにあると評価することを特徴とする(1)の自然免疫力レベル評価方法。
(3)唾液中のヒトヘルペスウイルス7の量の定量は、前記ヒトヘルペスウイルス7のDNAを前記唾液中から分離し、リアルタイムPCR法によりDNA量の測定し、得られた結果をもとに一定量の唾液当たりに含まれているヒトヘルペスウイルス7のウイルス量を算出して指標とし、ヒトヘルペスウイルス7の量が多い場合に自然免疫力レベルが大きく低下していると判断し、ヒトヘルペスウイルス7の量が少ない場合に自然免疫力レベルは高いと判断することを特徴とする(2)の自然免疫力レベル評価方法。
(4)リアルタイムPCR法として、Qプローブ法PCRを用いることを特徴とする(3)の自然免疫力レベル評価方法。
(5)(1)ないし(4)に記載の自然免疫力レベル評価方法で評価された免疫力レベルの改善用であることを特徴とするパン酵母ベータグルカン含有製品。
(6)パン酵母ベータグルカンとして、パン酵母からの抽出工程での粒子径調節操作により、粒子径が2〜4ミクロンメーターの粒子を含むように加工された不溶性のベータグルカンを含有することを特徴とする(5)のパン酵母ベータグルカン含有製品。
(7)パン酵母ベータグルカンとして、パン酵母からの抽出工程での粒子径調節操作により、粒子径が2〜4ミクロンメーターの粒子を含むように加工された不溶性のベータグルカンと、該不溶性のベータグルカンを更に加工して得られた水溶性のベータグルカンとを含有することを特徴とする(5)のパン酵母ベータグルカン含有製品。
(8)前記不溶性のベータグルカンと、前記水溶性のベータグルカンとの含有質量割合が5:1〜1:5の範囲であることを特徴とする(7)のベータグルカン含有製品。
【発明の効果】
【0025】
本発明による自然免疫力レベルを評価する方法は、健常人や未病の人達の加齢やストレスにより低下した自然免疫力レベルを簡便に評価できるので、健康増進や健康維持にとって不可欠の判断材料を提供できる。本発明により評価される自然免疫力レベルを知ることで、免疫力レベルの低下が認められた際には、パン酵母ベータグルカンのような自然免疫強化健康食品の摂取や、免疫の増強に効果があるとされる地中海食などの食事や、睡眠、運動、プレバイオティクスやプロバイオテクスの摂取など適切な対策を講じて免疫健康の増進・強化をはかることができる。
【0026】
がんの発症予防や感染症対策上も、免疫力レベルを高めておくことは非常に大切であり、多くの人々が自らの自然免疫力レベルを確認し、自然免疫力レベルを高めることは、国民的な健康増進と医療行政上の経済性の向上にも役立つものと思われる。
【0027】
自然免疫力の強化に最も効果的と思われるパン酵母ベータグルカンの摂取を普及するためにも、本発明により自然免疫力レベルを評価し、免疫力レベルの低下が確認された際には、パン酵母ベータグルカンの摂取を開始することが望ましいとの判断が出来る。
【0028】
現在の高齢化社会において、健康状態を判定する従来の検査手法に加えて、新たに自然免疫に基づく免疫力レベルを判定することができれば、がんや肺炎に罹患するリスクを少なくするために必要かつ適切な全身的な抵抗力の強化を講じることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
唾液中のHHV−7を測定・定量する方法は、HHV−7のDNAを唾液中から分離し、リアルタイムPCR法によりDNA量を測定し、得られた結果をもとに一定量の唾液当たりに含まれているHHV−7のウイルス量を算出し、HHV−7量が多ければ自然免疫力レベルが大きく低下しており、低ければ自然免疫力レベルは高いと判断する免疫力レベルの判定方法である。
本発明者は、Qプローブ法PCRでの唾液中のHHV−7 DNA量測定は、未だ誰も実施したことがないと考えられることに注目した。その結果、実際に、本発明で用いるリアルタイムPCR法としては、Qプローブ法PCRが好ましく用いられることを見出した。
【0030】
以下に本発明に至った経緯や根拠について記述する。
唾液中のHHV−7量をQプローブ法PCR法により測定した結果を示す。日常会社勤務や主婦、学生として健康に過ごしているボランティアの被験者10名を募り、パン酵ベータグルカンのカプセル製剤の連日4週間投与を行い6週間後まで観察することにし、症例によっては8週目まで追跡測定した。
パン酵ベータグルカンを用いたのは、自然免疫力を強化することが多くの文献や実用化結果から明らかにされており、連日摂取することで自然免疫力の強化が起こり、唾液中のHHV−7量の含有量がどのように変化するかが解析されると考えたためである。
また、投与期間を、1日1回、4週間連続としたのは、全身的な自然免疫力レベルは、1週間や10日間の短期間では変化を的確にとらえられないだろうと考えたためである。近藤一博らの2週間内での疲労についての試験とは異なる視点でとらえようとしたのである。
【0031】
最初に投与開始前の10名の唾液を採取したHHV−7量の試験結果は、後述する表1の通りである。
HHV−7のDNA測定値(単位:copies/ml)を数値の大きなものから順に表に示した。被験者10名のHHV−7のDNA測定値でも、約230,000の高値からから900の低値まで幅広く分布していることが分かる。免疫力レベルが低下した人では、唾液腺皮下細胞に潜伏感染しているHHV−7の再燃が起こり、結果的に唾液中のHHV−7量が多くなり、免疫力レベルが本来各人の保有していた高いレベルを保っている人では、HHV−7の再活性化が抑制されて唾液中のHHV−7量が少なくなると考えられる。従って、各人の免疫力レベルの高低を判定するには、唾液中のHHV−7量は最適の指標であることが明らかになった。10名の被験者は、それぞれHHV−7の値が高い人から低い人まで、いずれも疲労を感じてはいなかった。慢性的疲労症候群などの病的疲労や、日常生活で生じる生理的疲労の蓄積による過労状態にある生理的病的疲労状態の被験者はいなく、一般的な疲労とHHV−7量が関係していないことを示唆している。
【0032】
次に、被験者10名から無作為に選んだ5名に対して、不溶性の原料であるアメリカBiothera社製の原料(Wellmune WGP F3005)を125mg含有するパン酵母β−グルカンのカプセル製剤(フィンガルリンク株式会社製「フエルミューン」)を1日1粒、4週間連日投与し、1〜2週間ごとに測定したHHV−7DNA測定値を後述する表2に示す。
5例とも投与開始1週後(1週目)には、いずれも0週目の値よりも低値になった。投与開始前の値が229,000copies/mlと最も高かった症例(No.1)では2週目に一旦値が高くなった後、4週目から5週目に段階的に低下し、6週目には再度上昇した後8週目にはまた減少した。投与開始前の値に比較すると、6週目では、61.6%であったが、8週目には更に41.0%まで低下した。
投与開始前の値が219,000copies/mlと2番目に高かった症例(No.2)では、1週目に投与開始前の約半分の値に低下し、2週目には検出限界以下の0になり、6週目までずっと0であった。3番目と4番目の症例では、1週目に低下した後、2週目、3週目と高い値になって5週目から6週目に段階的に低下し、投与開始時よりも大幅に低い値(5.4%、61.2%)になった。
【0033】
5例中1例、最も投与開始前の値が1,270copies/mlとHHV−7値の低い症例(No.5)は、1週目にさらに半分以下の低値521copies/mlになったが、2週目の3日前に急性の腸炎に罹患し、38℃の発熱、翌日下痢と軽い嘔吐や40℃の発熱、翌々日にクリニックにて点滴と薬の投与を受け、2週目の翌日からは通常生活にもどった症例である。2週目には最大の739,000copies/mlに急上昇し、4週目も592,000copies/mlと極めて高い値で継続し高値を持続した後大幅に低下し、第5週目には15,300copies/ml、第6週目には30,000copies/mlにまで低下した。見たところ病状も回復し、元気になったように見えても増大したHHV−7量は高値のまま2週間以上経過し、自然免疫力レベルは低下した状態を継続したと考えられる。その後に自然免疫力レベルが高くなり、次第に回復するにつれてHHV−7量も減少したのである。
【0034】
このように重度の疾病に罹患後に、唾液中のHHV−7量が急激に増大することが起こりえることが分かった。しかもHHV−7量は10名の被験者の0日目の最大測定値の約4倍近くまで増大したわけであり、驚くべき事実である。しかし、一旦急激にHHV−7量が増えたが、4週目以降に比較的少ない量に低下したことは、低下した全身的な自然免疫力レベルは、改善向上に時間がかかることを示唆している。
【0035】
唾液中のHHV−7が、重度の腸炎に罹患した際に、これほどまでにウイルス量が増えることは、如何に抵抗力、すなわち免疫力レベルが低下したかを示す貴重な臨床結果である。もともと唾液中のHHV−7が少ない症例では、免疫レベルが高い状態にあったので、パン酵母β−グルカンの連続摂取により元の高い免疫力レベルに回復しつつあることが示唆される。
【0036】
結論としては、重篤な急性疾患に罹患した症例を除く4症例が全て5週目には0週目に比較して唾液中のHHV−7の量が少なくなった。また、重篤な急性疾患に罹患した症例では、罹患後直ぐに急激にHHV−7量が増大し、発病後2週間経過後も高値であったが3週間経過後にかけて急激に低値に減少した。
【0037】
次に、上記の5症例の他の5名の被験者には、パン酵母不溶β−グルカンの不溶性原料(Wellmune WGP F3005)に可用性の原料(Wellmune WGP F3020)を2:1(質量比)の割合で混合した原料125mを含有するカプセル製剤(フィンガルリンク株式会社製「フエルミューンSD」)を1日1粒、4週間連日投与し、1〜2週間ごとに測定したHHV−7DNA測定値を表3に示す。
【0038】
唾液中HHV−7の0週目のDNA値が88,400copies/mlと最も大きかった症例(No.6)は、1週目には大幅に低下した後、2週目から4週目にかけて増大を行い、5週目、6週目と低下し、6週目と8週目の値は0週目対比で、それぞれ32.5%、34.4%まで低下した。次に値の大きな症例(No.7)では、1週目から5週目まで増減を繰り返した後、6週目、8週目には0週目対比で、49.1%、49.2%まで低下した。残りの3例では0週目の値も6,090、2,170、912copies/mlと小さく、2〜4週目には検出基準以下、つまり0になり、その後も6週目まで0か低値で推移した。
【0039】
結論として、5症例のいずれもDNA量の値が5週目以降6週目までに、投与開始前の値対比で大幅に減少していた。0週目のDNA量値が小さな症例では、6週目にかけて0か低値で推移した。0週目の値が大きな症例も6週目、8週目で約30%〜50%まで低下した。つまり、免疫力レベルが高い症例では高い状態を維持し、免疫力レベルが低下した症例では免疫力レベルを高めることが出来たと考えられる。
【0040】
さらにHHV−7のDNA量の低下を達成するためには、継続してパン酵母β−グルカンを摂取することが望ましい。また、いったんDNAの量が少ない値や0まで低下した場合でも、パン酵母ベータグルカンを継続して摂取し、低値を持続することが望ましいと考えられる。
【0041】
なお、今回試験に使用したパン酵母ベータグルカンは、アメリカのBiothera社が製造している原料粉末を使用したのであり、特許製法により粒子径が2〜4μmの粒子が多くなるように加工した原料Wellmune WGP F3005および、水に不溶性のWellmune WGP F3005を更に加工して製造された水溶性の原料Wellmune F5030とWellmune F3005との配合物を含有するカプセル製剤である。
カプセル製剤は、1粒にWellmune WGPが125gと賦形剤、安定剤として結晶セルロースが含有されたものを使用した。
【0042】
パン酵母β−グルカンの2種類のサプリメントを使って4週間連日投与効果を検証した結果、0週目と6週目の唾液中のHHV−7量すなわちDNA測定量を対比した結果は表4の通りである。
但し、試験期間中に重篤な急性疾患に罹患した1症例を除いて表示した。
9例のいずれの症例もパン酵母β−グルカンの連日4週間投与により、唾液中のHHV−7 DNA量が6週目までに大幅に低下ないし検出基準以下の0となった。
【0043】
自然免疫力を強化する作用を有するパン酵母β−グルカンの4週間の連日投与で、低下していた免疫力レベルが高められたが、HHV−7の量が多くて免疫力レベルが大幅に低下していると考えられる症例では、HHV−7量を完全にゼロや極めて低値にまで減少し尽くすことが出来ていないので、さらに再度パン酵母β−グルカンを4週間以上、投与を行って、HHV−7の量をさらに低下させ、自然免疫力レベルの改善向上効果を高めることが有用だと考えられる。
【0044】
また、途中で重篤な急性疾患に罹患した被験者ではHHV−7量が大幅上昇後高い値をしばらく保った後、低値に低下したものの、元の低い値にまでは低下できていないので、さらにパン酵母β−グルカンを再投与することが望ましいと考えられる。従来から、大病や大手術を行った後は、1〜2カ月は免疫力が低下しているので肺炎その他感染症に罹らないように安静にする必要があると言われている。今回のデータは、まさに自然免疫力のレベルの回復にパン酵母β−グルカンの連日摂取が効果を発揮し、早めに自然免疫力レベルの強化が達成されることを示唆している。
【0045】
本発明の自然免疫力レベルの評価方法において、唾液の採取方法については、特に限定されるものではなく、市販の採取器具のサリベットや、Saliva collection aidその他や、飲料水用のストローなどを用いることができる。
時間的には、毎回同じ時間帯で採取することにより、採取時間によるHHV−7含有量のバラツキが少なくなると思われる。今回の試験では、主に午前中、人によっては午後に同じ時間帯で採取した。
【0046】
唾液中からHHV−7のDNAの抽出分離は、唾液中のHHV−7をプロテナーゼで可溶化し、磁性ビーズを用いてDNA精製を行って分離した。特に分離方法を限定するものではなく、種々の改良方法を用いることが出来る。
【0047】
分離したHHV−7 DNA量を指標とするHHV−7量の測定には、リアルタイムPCR法が使える。本発明者はQuenching Probe(Qプローブ)法を用いたリアルタイムPCRによりDNA量の定量を行った。本発明者は、これまで誰もHHV−7 DNAの測定にQプローブ法PCRを用いたことが知られておらず、はじめて試験した結果、予想以上に本発明に適した測定方法であることを見出した。
【0048】
Qプローブ法PCRでの検量線作成では、GenBank accession no.U43400として登録されたHHV−7 ゲノム配列の84,201〜84,400bp領域(全長:200塩基)を人工的に合成し、配列番号1および配列番号2のベクターのユニバーサルプライマーでPCR増幅して、標準DNAが作製される。
(配列番号1 フォワードプライマー;HHV7_Fw):GTAAAACGACGGCCAGTG(18塩基)
(配列番号2 リバースプライマー;HHV7_Rv):GGAAACAGCTATGACCATG(19塩基)
【0049】
唾液中のHHV−7のDNA量の算出は、採取した唾液量を唾液採取後のキット重量から、採取前のキット重量を差し引いて算出し、測定に用いて溶液中の唾液の割合を基に、唾液ml当たりのDNA量が算出される。
【0050】
HHV−7量と自然免疫力レベルの関係については、自然免疫力レベルが低下している場合は、HHV−7の再活性化を抑制する能力が低下していると考えられる。今回測定された各被験者のDNA量から判断すると50,000〜250,000copies/mlはかなり自然免疫力レベルが低下していると考えられる。しかし、1名の急性感染症に罹患した被験者では、重篤な症状をきたした数日後では、約800,000copies/ml近くにまでDNA量が急激に上昇しており、慢性疲労症候群患者で報告されている高値レベル相当と考えられる。つまり250,000〜800,000copies/mlでは、相当に特別に高い値と考えられ、自然免疫力レベルが非常に低下していると考えられる。10,000〜50,000copies/mlでは低値レベルであり、0〜10,000copies/mlでは、さらに低値レベルと考えられる。このようにHHV−7のDNA量が少ない場合は、本来の高い自然免疫力レベルが保たれていると考えられる。
【0051】
本発明に至る一連の唾液中のHHV−7量の測定・評価のために実施したQプローブ法PCRの詳細を記述する。
<唾液サンプルの採取>
スワブ存液(日鉄住金環境社製)750μlを添加したスクリューキャップチューブ(1.5ml容量、イナ・オプティカ社製、No.T334−4)に、唾液を、Saliva Collection Aid〈SCA〉(SalivaBio社)を用いて、スワブ保存液とのトータル液量が大凡1,000μlとなるよう採取した。唾液採取量は、唾液採取前後におけるスワブ保存液入りチューブの重量を測定し、その差より求めた。
なお、採取した唾液サンプルは、DNA抽出を実施するまでは、冷蔵ないし冷凍保存した。
【0052】
<DNA抽出>
唾液を採取したスワブ保存液含有スワブより、600μlのサンプルを採取し、これを対象としてDNA抽出を実施した。DNA抽出は、日鉄住金環境社製のExtrap Buccal Swab DNA Kit(商品コード:214−001)を用いて、唾液を採取したスワブ保存液含有チューブにプロテナーゼKを100μl添加した。
次に、55℃のヒートブロック(またはウォーターバス)で10分間加温した。上清を600μL採取し、1.5 mlチューブに移し、MBs Solution 50μl、Binding Solution 400μlを添加した。
次にチューブを2分間程度転倒混和し、よく撹拌した。
チューブをマグネティックスタンドにセットして集磁したのち、マイクロピペットを使用して上清を除去した。
70%エタノール溶液400μlを添加し、ボルテックスミキサー(低速)で十分に撹拌した。
マグネティックスタンドで集磁したのち、マイクロピペットを使用してエタノールを除去した。
再度70%エタノール溶液400μlを添加し、ボルテックスミキサー(低速)で十分に撹拌し、マグネティックスタンドで集磁したのち、マイクロピペットを使用してエタノールを除去した。
チューブの蓋をあけたまま、室温で磁性粒子を10分間程度風乾した。
次に溶出液(TEバッファー、滅菌水等)100μlを添加後、ボルテックスミキサー(低速)で十分に撹拌した。
途中で数回攪拌しながら、65℃のヒートブロック(またはウォーターバス)で5〜10分間加温した。
マグネティックスタンドにチューブをセットして集磁したのち、溶出液を新しいチューブに移した。
【0053】
<HHV−7検量線用標準DNAの作成>
HHV−7検量線用標準DNAは、GenBank accession no.U43400として登録されたHHV−7 ゲノム配列の84,201〜84,400bp領域(全長:200塩基)を人工的に合成した。配列番号1および配列番号2のベクターのユニバーサルプライマーでPCR増幅して、標準DNAを作製した。
(配列番号1 フォワードプライマー;HHV7_Fw):GTAAAACGACGGCCAGTG(18塩基)
(配列番号2 リバースプライマー;HHV7_Rv):GGAAACAGCTATGACCATG(19塩基)
上記PCRにて得られたPCR産物は、Agilent 2100 BioAnalyzer(アジレント・テクノロジー社製)を用いて定量し、その定量結果より10〜10
6コピー/μlとなるよう希釈したものを標準DNAとして用いた。
【0054】
<HHV−7定量>
唾液中のHHV−7量の定量を目的に、Quenching Probe(以下、QProbe)を用いたリアルタイムPCRを実施した。唾液サンプルのHHV−7定量を実施する場合、PCR反応溶液の全量は20μlとし、DNAポリメラーゼとしてTITANIUM Taq DNA Polymerase(×50)(タカラバイオ(株)社製)を0.4μl/PCRチューブ、TITANIUM Taq PCR Buffer(×10) (タカラバイオ(株)社製)を2μl/PCRチューブ、Uracil DNA Glycosylase (ロッシュ・ライフサイエンス社製)を0.2μl/PCRチューブ(最終濃度:0.01units/μl)、PCRヌクレオチドミックスPLUS(ロッシュ・ライフサイエンス社製)を0.4μl/PCRチューブ(最終濃度0.2mM)、10μMフォワードプライマー(配列番号3)溶液を1.0μl/PCRチューブ(最終濃度0.5μM)、10μMリバースプライマー(配列番号4)溶液を0.3μl/PCRチューブ(最終濃度0.15μM)、5’末端が蛍光色素、3’末端がリン酸基で標識されたQProbe−GP(配列番号5、日鉄住金環境社製)の10μM溶液を0.1μl/PCRチューブ(最終濃度0.05μM)、PCRグレードウオーター(ロッシュ・ライフサイエンス社製)を10.6μl/PCRチューブ、および鋳型DNAとして唾液サンプル由来抽出DNAを5μl/PCRチューブほど含むPCR反応溶液を調整後、リアルタイムPCRによるHHV−7定量に供した。抽出DNAの原液を使用した際、PCR阻害が確認された場合は、10倍希釈した抽出DNAを5μl使用した。10倍希釈は、抽出DNAを5μlおよび0.2×TEバファー45μlを採取し、1.5mlエッペンドルフチューブで混合することで実施をした。
標準DNAを用いて検量線作成をする場合のPCR反応溶液は、PCRグレードウオーターを13.6μl/PCRチューブ、鋳型DNAとして標準DNA溶液を2μlとする以外は、唾液サンプルのHHV−7定量を実施する場合のPCR反応溶液と同様とした。
【0055】
検量線を作成する際は、10コピー/μl、10
2コピー/μl、10
3コピー/μl、10
4コピー/μl、10
5コピー/μl、10
6コピー/μlの6つの希釈系列を調整後、各希釈系列の溶液を2μl/PCRチューブで添加したPCRチューブを6本準備し、これらPCRチューブを検量線作成に使用した。なお、量線は、分析を実施する都度作成をした。
【0056】
以下にプライマー、QProbeの配列を示す。配列は、5’末端が左端となるよう表記されている。
(配列番号3 フォワードプライマー;QProve_Fw):CCCAACTATTTACAGTAGGGTTGGTG(26塩基)
(配列番号4 リバースプライマー;QProve_Rv):TTTAGTTCCAGCACTGCAATCG(22塩基)
(配列番号5 QProbe_GP):F−CTATTTTCGGTCTTTCCAATGCACGCA−P(27塩基)
(Fは蛍光色素、Pはリン酸を示す)
【0057】
上記反応溶液をリアルタイムPCR装置であるRotor−Gene Q(キアゲン社)を用いて以下のPCR反応に供した。
(1)ホットスタート工程:95℃、120秒間
(2)熱変性工程:95℃、15秒間
(3)アニーリング/伸長工程:60℃、60秒間
(1)の熱変性工程の後、工程(2)および(3)を50サイクル繰り返した。
【0058】
蛍光測定は、(2)の熱変性工程後と(3)のアニーリング/伸長工程後に実施し、Rotor−Gene Q付属のソフトウエア上で、(3)の蛍光値を(2)の蛍光値でノーマライズをした後に((3)の蛍光値を(2)の蛍光値にて割る計算をした後に)、ノーマライズした補正蛍光強度データを用い、Quantitation解析モードにて検量線作成およびHHV−7の定量解析を実施した。
リアルタイムPCRで得られた定量値を、最終的には唾液1ml中のHHV−7量に換算し、得られた換算定量値を結果の評価に用いた。
【0059】
驚くべきことに、唾液を採取後直ちに保存液に入れたり、希釈倍率を10倍以上にしたり、Qプローブ法PCRで考案工夫した結果、高感度で再現性良く定量出来た。上記Qプローブ法PCRで定量された結果から、本方法は従来実施されて報告されているリアルタイムPCRに比べて、HHV−7 DNAを精度よく測定できていることが分かり、Qプローブ法PCRは、簡便で費用的にも安価であって、本発明のDNA量定量方法として最適であることが見出された。
【0060】
パン酵母ベータグルカンのカプセル製剤として、これまで市販実用化されている不溶性の原料を用いた製剤だけでなく、新たに水溶性の原料を不溶性の原料と配合した製剤も用いた。いずれも同様に唾液中のHHV−7量を低下させて自然免疫力レベルを高めることができた(Nandita Boseら、「Differential Regulation of Oxidative Burst by Distinct β−Glucan−Binding Receptors and Signaling Pathways in Human Peripheral Blood Mononuclear Cells」、Glycobiology、2014年、第24巻、p.379−391)。
【0061】
水溶性のパン酵母ベータグルカン原料は、好中球のレセプターに結合して活性化させるメカニズムが不溶性のパン酵母ベータグルカン原料とは異なることも報告されている。
不溶性のパン酵母ベータグルカンはマクロファージに一旦貪食されてから、より小さな水溶性の断片に消化されて放出された後、好中球のCR3レセプターに吸着して好中球を活性化する。一方、水溶性のパン酵母ベータグルカンは小腸のパイエル板から体内に吸収された後、すぐに好中球に吸着できると考えられる。
【0062】
両者を配合することにより、小腸のパイエル板を経由して体内により早く吸収されて異なる作用機序での好中球の活性化も水溶性のパン酵母ベータグルカンにより付加されるのではないかと考えた。通常は、沈殿物を生じない飲料用に開発され、価格も高くなる原料を、わざわざ不溶性の原料に配合することは、容易に考案実施されるものではない。本発明者がパン酵母ベータグルカン自然免疫力レベルの改善を、効果がより迅速で、かつ持続性もあるようにと工夫して考案した結果の発明である。言われてみれば簡単な発想のようであるが、これまで誰もこのようなパン酵母ベータグルカンの配合製品を考案しなかった。本発明者の臨床試験結果で、本発明配合物を含む製品が、唾液中のHHV−7量を指標とする免疫力レベルを高める効果があることが確認されたのである。
【0063】
本発明により、これまで全身的な自然免疫力レベルの低下を判定することが難しかったが、簡便に測定して判定する方法が確立された訳である。唾液中のHHV−7のウイルス量が多ければ各個人の免疫力が低下した状態であり、少なければ免疫力が高い状態にあると判断される。自然免疫力レベルを高める効果があるパン酵母ベータグルカンを摂取することにより各個人の免疫力レベルが向上し、結果的に唾液中のHHV−7のウイルス量が少なって、体の抵抗力が高い状態を保持し、がんの発症や感染症に罹る危険性が小さくなり、快適な健康の維持がなされると思われる。
【0064】
インフルエンザウイルス感染など血中ウイルス量が多くなるウイルス血症の場合は、活性化された好中球細胞がウイルスを攻撃して速やかに殺してしまうので、ウイルスの血中濃度に相関して反応するインターフェロン反応に起因する発熱は、ウイルスが少なくなると速やかに平熱にもどる。HHV−7は、唾液腺上皮細胞中に潜伏感染しており、免疫力のレベルの低下に応じて再活性化が起こり、ウイルス産生が生じるので、血中の好中球の貪食能を高めても直接的に唾液中のウイルスを攻撃してウイルス量を少なくするわけではなく、全身的な自然免疫の強化により唾液腺上皮細胞でのウイルスの再活性化を抑制して行くものと考えられる。
【0065】
つまり、唾液中のHHV−7量は、自然免疫力レベルの低下により増大し、反対に自然免疫力レベルが高くなると少なくなると考えられる。唾液中のHHV−7が多く、自然免疫力レベルが大幅に低下している人では、パン酵母ベータグルカンを摂取することによりHHV−7の産生量は、一旦減少後再度増加した後、また減少することを繰り返しながら、自然免疫力レベルが向上するのに応じて次第に減少してゆくのである。
【0066】
もともと免疫レベルが高い人が、感染症に罹患したりして体力が消耗し、自然免疫力レベルが低下して一時的にHHV−7の再活性化が起こってHHV−7の量が増えていたような場合には、パン酵母ベータグルカンの摂取で自然免疫力が強化され、結果的にHHV−7の再活性化による産生が抑制されて唾液中のHHV−7量が次第に低下すると考えられる。
【0067】
本発明者は、パン酵母ベータグルカンとして従来一般に用いられている不溶性の原料だけでなく、新たに水溶性の原料を混合させて製造したカプセル製剤を使っての試験も行った。体内に取り込まれた後の作用機序が異なるパン酵母ベータグルカン原料の混合組み合わせ使用は、本発明者により初めて実施された発明である。本組み合わせからなる製品は、低下した免疫力レベルの向上改善に役立つことが確認された。不溶性の原料と水溶性の原料の配合割合は、特に限定するものではないが、5:1〜1:5の間で適宜配合できる。
【0068】
本発明により、唾液中のHHV−7量を指標とする自然免疫力レベルの改善用パン酵母ベータグルカン含有製品の有用性が確認されたのである。パン酵母ベータグルカンとしては、多くの粒子径が2〜4μmとなるように加工された不溶性のパン酵母ベータグルカンや、さらに同不溶性の原料をさらに加工して得られる水溶性のパン酵母ベータグルカンとの配合物が好ましく用いられる。
【実施例】
【0069】
以下に、実際に行った臨床試験の実施例について記述する。
【実施例1】
【0070】
日常健康で社会生活を行っているボランティア10人を対象に唾液中のHHV−7量をDNA測定により行った。男性7人、女性3人、平均年齢;48.2±14.99才、平均体重;65.6±10.73kgであった。既往歴では、高血圧、糖尿病、花粉症、アレルギー性鼻炎があった。唾液の採取は、原則パン酵母ベータグルカンのカプセル製剤を連日摂取開始する当日または前日に実施した。
先に記載した方法で、リアルタイムPCR法で得られた唾液中のHHV−7のDNA量(単位:copies/ml)は、前述の表1の通りであった。
【0071】
【表1】
【実施例2】
【0072】
10症例中無作為に群別した5症例に、パン酵母ベータグルカンの不溶性タイプの原料(Wellmune WGP3005)を125mg含むカプセル製剤(フィンガルリンク社製「フエルミューン」)を1日1カプセル、毎日4週間摂取してもらった。1週間後(1週目)、2週間後(2週目)、4週間後(4週目)、5週間後(5週目)、6週間後(6週目)に唾液サンプルを摂取開始前(0週目)と同じように採取し、唾液中のHHV−7のDNA量を測定した。さらに1例は8週間後(8週目)にも唾液サンプルを採取してHHV−7のDNA量を測定した。
測定結果は、表2の通りである。
【0073】
【表2】
【実施例3】
【0074】
別の5症例に対しては、パン酵母ベータグルカンの不溶性タイプの原料(Wellmune WGP F3005)と水溶性の原料(Wellmune WGP F3020)との2:1の割合での含有物を125mg含むカプセル製剤を1日1カプセル、毎日4週間摂取してもらった。1週間後(1週目)、2週間後(2週目)、4週間後(4週目)、5週間後(5週目)、6週間後(6週目)に唾液サンプルを原則午前中の空腹時に採取し、唾液中のHHV−7のDNA量を測定した。さらに2例は8週間後(8週目)にも唾液サンプルを採取してHHV−7のDNA量を測定した。
測定結果は、表3の通りである。
【0075】
【表3】
【0076】
この途中で重篤な急性腸炎に罹患した1症例を除く9症例で、0週目と6週目の値と対比して表4に示した。9例について0日目と6週目とのHHV−7 DNAの定量値を対比して統計処理した。平均±SDは、87,408±91242と25,343±45,344であり、T検定でのP=0.038236 であった。有意に6週目のHHV−7のDNA量が減少していた。
上記の急性腸炎に罹患してしまった1例を除き、全ての症例でパン酵母ベータグルカンを1日1カプセル(125mg含有)4週間摂取した結果、摂取前の唾液中のHHV−7のDNA量よりも6週目では、少ない値になっていた。内3例は0となり、残り5例では、0日目と比べ、5.4%、32.5%、49.1%、52.5%、61.2%、61.6%であった。
つまり、パン酵母ベータグルカンを4週間連日投与した効果を6週目で判定すると、HHV−7のDNA量は、平均26.4%まで低下していた。0まで低下する症例もあれば、61〜62%までしか低下していない症例もあり、効果の程度には個体差があった。
【0077】
【表4】