特開2017-121594(P2017-121594A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-121594(P2017-121594A)
(43)【公開日】2017年7月13日
(54)【発明の名称】ホルムアルデヒド除去方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20170616BHJP
【FI】
   C02F1/58 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-315(P2016-315)
(22)【出願日】2016年1月5日
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】宮木 博
(72)【発明者】
【氏名】山口 信哉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 徹
(72)【発明者】
【氏名】早野 亜衣子
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB09
4D038BB13
(57)【要約】
【課題】水溶液中のホルムアルデヒドを、簡単かつ安全な方法で除去する。
【解決手段】アミノ酸であるトリプトファンを水溶液に接触させる。ホルムアルデヒドを含む水溶液を酸性条件に調整すると、より除去効果が向上する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルムアルデヒドを含む水溶液に、トリプトファンを接触させることにより、水溶液中のホルムアルデヒドを除去する方法。
【請求項2】
ホルムアルデヒドを含む水溶液を酸性に調整し、トリプトファンを接触させることにより、ホルムアルデヒドを除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易で、安全性の高いホルムアルデヒド除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒドは自然界に存在しており、例えば椎茸などの食物の中に含まれている。しかし、一般的には接着剤や塗料の原料として、化学合成されており、メラミン樹脂や尿素樹脂の原材料でもあり、化成品の原料としては欠かせないものである。濃度の濃い水溶液はホルマリンと呼ばれており、医学、生物の分野でも使用されている。また、炭を製造するときに得られる木酢液にも含まれている。現代の生活にとって、ホルムアルデヒドはきわめて身近にあるものであるが、シックハウス症候群などのアレルギーの原因物質でもあり、発癌性を有することもあり、日本では医薬用劇物に指定されている。
【0003】
ホルムアルデヒドを除去する方法として、活性炭などの使用があるが、ホルムアルデヒドの活性炭の吸着効率は低いこと、また、ホルムアルデヒド以外の有用有機成分が混合している場合、その有用成分も一緒に除去する欠点がある。尿素を添加し、ホルムアルデヒドと重合させる方法もあるが、反応条件がアルカリ性と決まっており、中性、酸性条件では効率が悪いこと、また尿素を大量に使用しなければならない欠点がある。類似の方法として、pHが9以上のアルカリ性下でアミノ酸を添加する方法もある(特許文献1)。40℃〜80℃で苛性ソーダや苛性カリを加え強アルカリにする方法(特許文献2)もあるが、安全な方法とは言えない。別に、酢酸やプロピオン酸などの酸類に、メタノールなどのアルコール類とフェノール類と吉草酸エステルなどの中性物質と各種アミノ酸類とフラボノイド類を適宜混合する方法(特許文献3)もあるが、簡易な方法とは言い難い。その他木酢液中のホルムアルデヒドを除去する方法として、針葉樹の樹皮やその抽出物を使用する方法(特許文献4)もあるが、樹皮間のばらつきが大きく、再現性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−110079号 公報
【特許文献2】特開2002−263661号 公報
【特許文献3】特開平11−155940号 公報
【特許文献4】特開2003−71279号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、溶液中のホルムアルデヒドの除去について、簡易、かつ安全な方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明はホルムアルデヒドを除去において、ホルムアルデヒドを含む水溶液に、トリプトファンを接触させる方法や、また、酸性溶液に調整し、トリプトファンを接触させる方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、簡易で、かつ安全な方法でホルムアルデヒドを除去できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態をより具体的に説明する。
【0009】
本発明のトリプトファンは、化学式C1112で表される芳香族アミノ酸であり、自然界に広く分布し、L−体(CAS登録番号73−22−3)、D-体(CAS登録番号153−94−6)の両方をいうものである。
【0010】
トリプトファンの接触方法としては、ホルムアルデヒドを含む水溶液にトリプトファンを添加し、溶解する方法や、予めトリプトファンを溶解しておき、ホルムアルデヒドを含む水溶液に添加する方法がある。ホルムアルデヒドの除去には、トリプトファンは固体でなく、溶解している必要がある。ホルムアルデヒド水溶液とトリプトファンの接触時間は、8時間以上が好ましい。
【0011】
ホルムアルデヒドの除去に要するトリプトファンの量は、含まれているホルムアルデヒドのモル量と当量以上が望ましい。
【0012】
ホルムアルデヒド水溶液を酸性に調整するとき、酸は酢酸やクエン酸、酒石酸、乳酸などの有機酸や塩酸、硫酸などの無機酸を用いる。その濃度は、酢酸やギ酸などの常温で液状の有機酸で終濃度が5%(V/V)〜0.005%(V/V)であり、酒石酸、乳酸など常温で固体の有機酸で概ね水溶液の終濃度が5%(W/V)〜0.005%(W/V)である。塩酸などの無機酸では終濃度が0.5M〜0.0005Mが好ましい。ホルムアルデヒドを含む水溶液がアルカリ性の場合は、有機酸や無機酸でpHを5以下の酸性に調整することが望ましい。ホルムアルデヒドを含む水溶液を酸性に調整した後、トリプトファンを接触させる。
【0013】
本発明では、ホルムアルデヒド水溶液にホルムアルデヒド以外の有機物や無機物が含まれていても構わないものである。
【0014】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
試薬ホルムアルデヒド(関東化学(株))300ppm(=10mM)を含む水溶液10mLに、試薬L−トリプトファン(関東化学(株))をそれぞれ、終濃度5mM、10mM、20mMになるように添加、撹拌し、トリプトファンを溶解し、20℃の恒温器に放置した。24時間後と72時間後、それぞれの水溶液のホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの濃度はアセチルアセトンを用いた比色法により、あらかじめ、試薬ホルムアルデヒド(関東化学(株))を標準物質として、300ppmから5ppmまでの検量線を作成し、求めた。以下の実施例では、5ppm以下の濃度は0ppmと表記した。また、実施例におけるホルムアルデヒドの濃度ppmは、W/Vである。
【0016】
その結果、トリプトファン濃度5mM、10mM、20mMの24時間後のホルムアルデヒドの濃度は、227ppm、174ppm、91.6ppmであり、72時間後の濃度は、209ppm、138ppm、46.7ppmであった。ホルムアルデヒドがトリプトファンにより除去されたことが示された。
【実施例2】
【0017】
試薬ホルムアルデヒド(関東化学(株))300ppm(=10mM)を含む水溶液10mLに、試薬D−トリプトファン(関東化学(株))をそれぞれ、終濃度5mM、10mM、20mMになるように添加、撹拌し、トリプトファンを溶解し、20℃の恒温器に放置した。24時間後と7日後に、それぞれの水溶液のホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの濃度は、実施例1と同様にアセチルアセトンを用いた比色法により、求めた。
【0018】
その結果、トリプトファン濃度5mM、10mM、20mMの24時間後のホルムアルデヒドの濃度は、226ppm、170ppm、91.6ppmであり、7日後のホルムアルデヒドの濃度は、195ppm、115ppm、22.6ppmであった。ホルムアルデヒドがトリプトファンにより除去されたことが示された。
【実施例3】
【0019】
試薬ホルムアルデヒド(関東化学(株))300ppm(=10mM)を含む3%(V/V)酢酸溶液10mLに、試薬L−トリプトファン(関東化学(株))をそれぞれ、終濃度5mM、10mM、20mMになるように添加、撹拌し、トリプトファンを溶解し、20℃の恒温器に放置した。24時間後と72時間後に、それぞれの水溶液のホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの濃度は、実施例1と同様にアセチルアセトンを用いた比色法により、求めた。
【0020】
その結果、トリプトファン濃度5mM、10mM、20mMの24時間後のホルムアルデヒドの濃度は、179ppm、80.3ppm、16.7pmであり、72時間後の濃度は、153ppm、41.8ppm、0ppmであった。ホルムアルデヒドがトリプトファンにより除去され、酢酸溶液の方が実施例1の水溶液より除去効果が高いことが示された。
【実施例4】
【0021】
試薬ホルムアルデヒド(関東化学(株))300ppm(=10mM)を含む2%(V/V)酢酸溶液10mLに、試薬D−トリプトファン(関東化学(株))をそれぞれ、終濃度5mM、10mM、20mMになるように添加し、撹拌し、トリプトファンを溶解、20℃の恒温器に放置した。24時間後と7日後に、それぞれの水溶液のホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの濃度は、実施例1と同様にアセチルアセトンを用いた比色法により、求めた。
【0022】
その結果、トリプトファン濃度5mM、10mM、20mMのホルムアルデヒドの濃度は24時間後で、185ppm、86.8ppm、9.7ppmであり、7日後の濃度は、170ppm、29.0ppm、0ppmであった。ホルムアルデヒドがトリプトファンにより除去され、酢酸溶液の方が実施例2の水溶液より除去効果が高いことが示された。
【実施例5】
【0023】
試薬ホルムアルデヒド(関東化学(株))300ppm(=10mM)を含む、酢酸の濃度10%(V/V)、1%(V/V)、0.1%(V/V)、0.01%(V/V)、塩酸の濃度1M、10−1M、10−2M、10−3M、10−4M、10−5M、水酸化ナトリウム濃度1M、10−1M、10−2M、10−3Mのそれぞれの水溶液20mLに、試薬L−トリプトファン(関東化学(株))をそれぞれ、終濃度10mMになるように添加、撹拌し、トリプトファンを溶解し、20℃の恒温器に放置した。24時間後、それぞれの水溶液のホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの濃度は、実施例1と同様にアセチルアセトンを用いた比色法により、求めた。
【0024】
その結果、ホルムアルデヒドの濃度は、酢酸の濃度10%、1%、10−1%、10−2%、10−3%で、86.7ppm、81.1ppm、73.9ppm、90.1ppm、142ppmであった。塩酸の濃度1M、10−1M、10−2M、10−3M、10−4M、10−5Mで、185ppm、147ppm、74.5ppm、84.1pm、110ppm、161ppmであった。水酸化ナトリウム濃度1M、10−1M、10−2M、10−3Mで、222ppm、222ppm、171ppm、167ppmであった。酸性条件下では、トリプトファンによるホルムアルデヒドの除去効率は高くなることが示された。
【実施例6】
【0025】
試薬ホルムアルデヒド(関東化学(株))300ppm(=10mM)を含む2%(V/V)酢酸溶液10mLに、試薬L−トリプトファン(関東化学(株))を終濃度10mMになるように添加し、撹拌し、トリプトファンを溶解し、20℃、40℃、80℃の恒温器に放置した。24時間後と72時間後、それぞれの水溶液のホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの濃度は、実施例1と同様にアセチルアセトンを用いた比色法により、求めた。
【0026】
その結果、20℃、40℃、80℃で放置した24時間後のホルムアルデヒドの濃度は、78.2ppm、34.1ppm、35.2ppmであり、72時間後のホルムアルデヒドの濃度は、39.8ppm、32.9ppm、38.0ppmであった。
【実施例7】
【0027】
市販の木酢液((合)ツリーワーク)を一部取り、不溶性ポリクラールAT(和光純薬工業(株))で処理し、ホルムアルデヒド濃度を実施例1と同様にアセチルアセトンを用いた比色法にて測定したところ、179ppmであった。なお、この木酢液のpHは2.9、酸度は2.3%であった。この市販の木酢液20mLにトリプトファン(関東化学(株))をそれぞれ終濃度3mM、6mM、12mMになるように添加、撹拌し、溶解し、20℃の恒温器に放置した。24時間後と7日後に、それぞれの水溶液のホルムアルデヒド濃度を測定した。ホルムアルデヒドの濃度は、溶液の一部取り、不溶性ポリクラールAT(和光純薬工業(株))で処理し、実施例1と同様にアセチルアセトンを用いた比色法により、求めた。
【0028】
その結果、トリプトファン濃度3mM、6mM、12mMの24時間後のホルムアルデヒドの濃度は、116ppm、66.1ppm、11.7ppmであり、7日後のホルムアルデヒドの濃度は、92.1ppm、21.4ppm、0ppmであった。ホルムアルデヒドがトリプトファンにより除去されたことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の方法により、毒性の高いホルムアルデヒドが簡易に、安全な方法で除去され、日用品や農業資材、化粧品の分野や化成品の製造工程などにおけるホルムアルデヒドの除去など、広く利用されることが可能である。