【解決手段】本発明のルテニウムの吸着剤は、化学合成法によって得られた二酸化マンガンを含む。前記二酸化マンガンが、過マンガン酸塩を還元剤によって還元して得られたものであることが好ましい。その場合、前記還元剤が、亜硫酸塩、硫酸第一鉄、シュウ酸又は過酸化水素であることも好ましい。前記二酸化マンガンが、金属マンガン又はマンガン合金に酸素含有ガスを吹き付けてMn
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
本発明の吸着剤は、化学合成された二酸化マンガンであることを特徴の一つとしている。二酸化マンガンとしては、電解品、化学合成品、天然品が知られているが、本発明は、このうち化学合成品を用いることにより、ルテニウムを効果的に吸着除去できる。
【0009】
二酸化マンガンを化学合成する方法としては、過マンガン酸塩を還元する方法、水酸化マンガンや炭酸マンガン等を酸化する方法、酸化マンガン又は硝酸マンガンを酸素の存在下で加熱する方法等が知られているが、本発明では、過マンガン酸塩を還元剤によって還元して得られたものを用いることが、海水におけるルテニウムの吸着性能の観点が高い吸着剤が得る観点から好ましい。過マンガン酸塩としては、過マンガン酸アルカリ金属塩や過マンガン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられ、過マンガン酸アルカリ金属塩が好ましい。過マンガン酸アルカリ金属塩としては、過マンガン酸塩カリウム、過マンガン酸塩ナトリウム等が挙げられる。過マンガン酸塩を還元する還元剤としては、無機還元剤及び有機還元剤の何れを用いることもできる。無機還元剤としては、第一鉄塩、亜硫酸塩、過酸化水素第一スズ塩、水素化物等が挙げられる。また有機還元剤としては、ジカルボン酸やギ酸、ヒドラジン等が挙げられる。第一鉄塩としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄等が挙げられ、亜硫酸塩としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム亜硫酸カリウム等が挙げられる。ジカルボン酸としては、シュウ酸マロン酸、コハク酸等が挙げられる。これらの中でも、海水等の塩類存在下においてルテニウムの吸着性能の観点が高い吸着剤が得られる観点及び還元剤の入手容易性等の観点より、特に、第一鉄塩、亜硫酸塩、過酸化水素、ジカルボン酸から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、とりわけ、硫酸第一鉄、亜硫酸塩、過酸化水素及びシュウ酸から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0010】
本発明で用いる二酸化マンガンは、過マンガン酸塩を還元する方法のほかに、金属マンガン又はマンガン合金に酸素含有ガスを吹き付けてMn
3O
4を含むマンガン酸化物を生成させ、次いで該マンガン酸化物を酸処理することでMn
2+成分及び他の不純物成分を溶解除去して得られたものであってもよい。
【0011】
一般に、二酸化マンガンの金属の吸着性能は、BET比表面積と関連するものとされている。しかしながら、後述する実施例1〜6の記載より明らかな通り、本発明におけるルテニウムの吸着性能は、二酸化マンガンのBET比表面積が150m
2/g以上と大きい場合も(実施例3、5及び6)も、10m
2/g以下である場合(実施例4)も奏されている。このように二酸化マンガンのルテニウムの吸着性能に、BET比表面積は関係がないか、関係があってもルテニウムの吸着性能を左右する要因の一部に過ぎないことを本発明者は見出した。本来ならば、ルテニウムを効率よく吸着するための要因を突き止めて、その要因に係る二酸化マンガンの構造や特性を何らかの手段を用いて測定した上で、本願の特許請求の範囲において直接明記する必要がある。
しかしながら、少なくとも出願時においては、出願人の技術レベルでは、ルテニウムを効率よく吸着するための要因を突き止めることができなかった。また仮にそのような要因を突き止めたとしても、その要因に係る二酸化マンガンの構造や特性を、新たな測定方法を確立して特定する必要があり、そのためには、著しく過大な経済的支出及び時間を要する。
一方、「化学合成法によって得られた二酸化マンガン」「過マンガン酸塩を還元剤によって還元して得られた二酸化マンガン」「金属マンガン又はマンガン合金に酸素含有ガスを吹き付けてMn
3O
4を含むマンガン酸化物を生成させ、次いで該マンガン酸化物を酸処理することでMn
2+成分及び他の不純物成分を溶解除去して得られた二酸化マンガン」は、電気分解で得られた二酸化マンガンや二酸化マンガン以外の成分に比べて、高いルテニウム吸着性能を示すことが出願時に確認できた。そこで、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、出願人は、本発明のルテニウムの吸着性能をもたらす前記の要因を特定することに代えて、「化学合成法によって得られた」「過マンガン酸塩を還元剤によって還元して得られた」「金属マンガン又はマンガン合金に酸素含有ガスを吹き付けてMn
3O
4を含むマンガン酸化物を生成させ、次いで該マンガン酸化物を酸処理することでMn
2+成分及び他の不純物成分を溶解除去して得られた」という、二酸化マンガンの製造方法により本発明の吸着剤に用いる二酸化マンガンを特定した。
以上の通り、本願出願時においては、ルテニウムを吸着するため二酸化マンガンの構造又は特性を直接特定することが不可能であるという事情が存在した。
【0012】
本発明の吸着性能を向上する観点から、二酸化マンガンのBET比表面積は、1.0m
2/g以上、350m
2/g以下であることが好ましく、1.0m
2/g以上300m
2/g以下であることがより好ましい。また、本発明の吸着剤そのもののBET比表面積も上記範囲であることが好ましい。BET比表面積がこの範囲である二酸化マンガンを製造するためには、上記製造方法で本発明の吸着剤を製造すればよい。BET比表面積はBET1点法にて測定する。具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定する。
【0013】
二酸化マンガンの結晶型は、例えば、α型、β型、γ型、ε型、λ型、δ型などが挙げられ、本発明で用いる二酸化マンガンの結晶型はα型が好ましい。本発明で用いる二酸化マンガンの結晶型は、粉末X線回折測定により確認できる。
【0014】
本発明の吸着剤は、粉末の形態とすると、吸着性能を向上しやすく、好ましい。例えば、粉末の形態の吸着剤の平均粒径は、吸着性能の観点から、0.5μm以上30μm以下であることが好ましく、0.5μm以上20μm以下であることがより好ましい。また、最大粒径が、3μm以上192μm以下であることが好ましく、3μm以上161μm以下であることがより好ましい。ここでいう平均粒径は、具体的にはレーザー回折・散乱式粒度分布測定法による小粒径側からの積算体積が50%になる粒径(D
50)であり、また最大粒径は同測定法による小粒径側からの積算体積が100%になる粒径(D
100)である。例えば、粉末の形態の吸着剤は、不織布に固定された形態で用いることができる。この場合の吸着剤の粒度としては、平均粒径が2μm以上20μm以下であることが吸着剤の製造工程の中で、粉砕工程を容易に実施できるという観点から好ましく、最大粒径が100μm以下であることが不織布に固定した際に、不織布からの吸着剤粒子の脱落を防止できるという観点から好ましい。これらの観点から不織布に固定して用いる場合の粉末の形態の吸着剤の粒度は、平均粒径が2.5μm以上20μm以下、最大粒径が96μm以下であることがより好ましい。
【0015】
また、本発明の吸着剤は粒度が2μm以上2000μm以下の粒状体であることが、水中、特に海水中のルテニウム吸着用途に好適に用いることができるため好ましい。特に、本発明の吸着剤を粒度が200μm以上2000μm以下とすると、吸着塔に充填する用途の吸着剤として好適であるため好ましい。200μm以上の粒度である場合、本発明の吸着剤を吸着塔に充填して通水した場合に、粒子が吸着塔内で詰まりにくく、吸着塔内で圧損が上昇することを防止できる。また、粒径が2000μmより大きい場合はルテニウムの吸着速度が遅くなり、吸着効率が悪くなるところ、粒度が2000μm以下とすることで、吸着性能を高いものとすることができる。このような観点から、本発明の吸着剤の粒度は、300μm以上1000μm以下がより好ましい。本発明の吸着剤の粒度が特定範囲であることは、具体的には、JIS Z8801規格による各粒度に対応する目開きの篩を用いて確認でき、本発明の吸着剤の98質量%以上が目開きが2mmの篩を通り、98質量%以上が目開き212μmの篩を通らない場合、粒度が200μm以上2000μm以下とする。また本発明の吸着剤の98質量%以上が目開きが1000mmの篩を通り、98質量%以上が目開き300μmの篩を通らない場合、粒度が300μm以上であり1000μm以下であるとする。
【0016】
本発明の吸着剤は、二酸化マンガンのみからなるものであってもよく、二酸化マンガンに加えて他の成分を含有していてもよい。本発明の吸着剤における二酸化マンガンの好ましい含有量は、その形態によって異なる。例えば吸着剤を不織布に固定させて使用する場合は、吸着剤中の二酸化マンガンの量が好ましくは90質量%以上、特に95質量%以上であることが好ましい。また吸着剤が結合剤により造粒させた形態である場合は吸着剤中の二酸化マンガンの量は好ましくは70質量%以上、特に80質量%以上であることが好ましい。吸着剤が結合剤成分を含有している場合は、結合剤成分の量は、吸着剤中、1質量%以上30質量%以下程度であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下程度であることがより好ましい。結合剤成分としては後述する各種の結合剤を用いることができる。
【0017】
続いて、本発明のルテニウム吸着剤の製造方法について説明する。本製造方法は、以下の(1)であり、好ましくは(2)又は(3)である。
(1)二酸化マンガンを含有するルテニウム吸着剤の製造方法であって、化学合成法によって前記二酸化マンガンを得る、ルテニウム吸着剤の製造方法。
(2)過マンガン酸塩を還元剤によって還元して前記二酸化マンガンを得る、(1)に記載のルテニウム吸着剤の製造方法。
(3)金属マンガン又はマンガン合金に酸素含有ガスを吹き付けてMn
3O
4を含むマンガン酸化物を生成させ、次いで該マンガン酸化物を酸処理することでMn
2+成分及び他の不純物成分を溶解除去して前記二酸化マンガンを得る、(1)に記載のルテニウム吸着剤の製造方法。
【0018】
(2)の方法について更に詳述する。
還元反応のpH条件は25℃において、概ね6.0以上13.0以下であることが好ましい。還元剤として例えば硫酸第一鉄を用いる場合は、11.0以上13.0以下が好ましく、亜硫酸塩を用いる場合は、11.5以上13.0以下が好ましく、過酸化水素を用いる場合は、11.5以上13.0以下が好ましく、シュウ酸を用いる場合は、6.0以上9.0以下が好ましい。
【0019】
還元反応は、過マンガン酸塩の水溶液と、還元剤の水溶液とを混合することにより行うことが好ましい。過マンガン酸塩の水溶液における過マンガン酸塩の濃度は、3質量%以上10質量%以下であることが効率的な反応の観点及び過マンガン酸塩の溶解のための加温等が不要となる観点から好ましい。
また還元剤の水溶液における還元剤の濃度は、5質量%以上20質量%以下であることが同様の観点から好ましい。両水溶液中の混合液中、過マンガン酸塩に対する還元剤の量は概ね反応当量であることが好ましい。概ね反応当量とは、例えば過マンガン酸塩がアルカリ金属塩であり、還元剤が亜硫酸塩、過酸化水素又はシュウ酸である場合、過マンガン酸アルカリ金属塩1モルに対し、亜硫酸塩、過酸化水素又はシュウ酸が1.3モル以上1.7モル以下であることが好ましく、1.4モル以上1.6モル以下であることがより好ましい。また過マンガン酸塩がアルカリ金属塩であり、還元剤が硫酸第一鉄である場合、過マンガン酸アルカリ金属塩1モルに対し、硫酸第一鉄が2.8モル以上3.2モル以下であることが好ましく、2.9モル以上3.1モル以下であることがより好ましい。
【0020】
2つの水溶液の混合は、過マンガン酸塩の水溶液に対し、還元剤の水溶液を添加することにより行うのでもよいし、還元剤の水溶液に対し、過マンガン酸塩の水溶液を添加することにより行うのでもよく、2つの水溶液を1つの容器に同時に投入するのでもよい。添加は、一定又は不定の速度で行うことができ、連続的であってもよく不連続的であってもよい。得られた混合液は一定時間反応させる。反応は、混合液の温度が10℃以上80℃以下となる状態で行うことが好ましい。反応の際には、撹拌を行ってもよい。その場合、撹拌は、例えば0.2時間以上2時間以下の間行うことが好ましい。
【0021】
混合により得られるスラリーを常法によりろ過した後、リパルプ洗浄し、得られた洗浄物を乾燥し、次いで得られた乾燥物を粉砕することにより、粉末の形態をしている吸着剤を得ることが出来る。乾燥は、60℃以上130℃以下で1時間以上24時間以下行うことが好ましい。
【0022】
必要に応じ、上記のスラリー、濾過後のケーキ又は乾燥物に対し、不純物を除去する処理を施すことが好ましい。不純物の除去方法としては、例えばろ過後のケーキをリパルプしたのち、希硝酸を加えてスラリーpHを3以下に保持して、不純物を溶解除去する方法が挙げられる。
【0023】
次いで(3)の方法について詳述する。
金属マンガン又はマンガン合金には、鉄マンガン合金が含まれる。金属マンガン又はマンガン合金は、塊状、粒子状、溶湯等のいずれであってもよく、その形態は限定されない。酸素含有ガスは酸素そのものであってもよいし、酸素と別のガスの混合物であってもよい。酸処理に用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸やこれらの混酸等が挙げられる。酸処理時の際に酸液を加熱してもよく加熱しなくてもよい。この方法では、酸処理後の不溶物を二酸化マンガンとして用いる。不溶物は必要に応じて中和し、濾過、洗浄、乾燥することが好ましい。必要に応じ、不溶物を含有するスラリー、濾過後のケーキ又は乾燥物に対し、また上記と同様の不純物除去処理を施す。
【0024】
上記の化学合成方法により得られた本発明の吸着剤は、これを例えば不織布などの各種の吸着シートやマットに使用する場合、そのまま粉末の形態をしている吸着剤として材料を加工する際に添加することにより用いられる。不織布に吸着剤を固定する具体的な方法としては、粉末の形態をしている吸着剤を、エマルジョン化した樹脂バインダとともに、水に分散させ、これに、不織布を含浸添着させたのち乾燥する方法が挙げられる。この樹脂バインダとしては、例えば、ラテックスバインダ、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、アクリレートの共重合体、メタクリレートの共重合体、スチレンブタジエン共重合体、スチレンアクリル共重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、ニトリルゴム、アクリルニトリルブタジエン共重合体、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。不織布としては例えばポリエステル及び/又はポリオレフィン繊維で構成されるものが用いられる。不織布に固定する前に必要に応じ、吸着剤の粒度を上記の平均粒子径2μm以上10μm以下の範囲に調整することが好ましい。
このように吸着剤を塗布した不織布を、例えば吸着剤を塗布した面を内側にして巻回した形態とすることで、水処理に好適に用いることができる。
【0025】
粉末の形態をしている本発明の吸着剤を造粒体等の粒状体に加工する場合、例えば撹拌混合造粒、転動造粒、押し出し造粒、破砕造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒(スプレードライ)、圧縮造粒等の各種の造粒方法を採用することができる。造粒の過程において必要に応じ、結合剤成分や溶媒を添加してもよい。この結合剤としては特に制限は無い。無機系の結合剤(以下、「無機結合剤」とする)や有機系の結合剤(以下、「有機結合剤」とする)のいずれか一方又は両方が使用可能である。
【0026】
無機結合剤としては、珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリナイトなどの粘土鉱物が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用可能である。
【0027】
有機結合剤としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系材料、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどの高分子系材料が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用可能である。
【0028】
造粒された吸着剤に占める結合剤成分の割合は1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上20質量%以下であることが更に好ましい。溶媒としては、各種の水性溶媒や有機溶媒を用いることができる。
【0029】
これらの各種結合剤を用いて粉末の形態をしている本発明の吸着剤を造粒体の形態とする場合、必要に応じて各種結合剤を添加し、混練機などで混練した後、押し出し造粒機等の各種造粒手法により成形し、その後、乾燥、必要に応じて焼成したのち、粉砕、解砕などの手法により所定粒度に整粒すればよい。結合剤を添加するタイミングは限定されないが、例えば、過マンガン酸塩の水溶液と、還元剤の水溶液とを混合して過マンガン酸塩と還元剤とを反応させることにより得られる反応スラリー又はこれに希釈や洗浄、スラリー濃縮等の各種の処理を施したものを、結合剤と混合し、これを成形してもよい。その際、スラリー中の固形分と結合剤との合計量に対する結合剤の割合が、例えば、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上20質量%以下となることが好ましい。成形した造粒物の乾燥温度としては造粒体の形態である吸着剤の性能を高める観点等から、例えば、50℃以上150℃以下が好ましく、60℃以上120℃ 以下がより好ましく、その場合の乾燥時間としては、2時間以上48時間以下が好ましく、3時間以上24時間以下がより好ましい。
【0030】
本発明の吸着剤の使用例としては、例えば、原子力関連施設(例えば、原子力発電所、放射性廃棄物処理施設、放射性廃棄物保管施設等)、金属製錬施設、地熱発電所等から排出された排水の処理、地下水、湖沼、河川、ため池、井戸等の水質浄化処理等が挙げられる。
【0031】
上記製造方法により得られた粉末の形態の吸着剤を造粒加工した造粒体の形態の吸着剤は、吸着容器又は吸着塔に充填されて放射性ルテニウムを含有する水処理システムの吸着剤として好適に使用することが出来る。しかし、この形態に限定されず、本発明の吸着剤は、不織布等に固定させる等の各種の形態として放射性ルテニウムを含有する水処理システムの吸着剤として好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。実施例で使用した評価装置及び測定条件は以下の通りである。
【0033】
<評価装置及び測定条件>
・ICP−AES:島津製作所製 ICPS8100CLを用いた。Ruの測定波長は267nmとしてRuの濃度測定を行った。標準試料はRu10ppmの水溶液を使用した。
・BET比表面積:測定装置として島津製作所製 Flowsorb II2300を用いて、BET1点法により求めた。
【0034】
〔実施例1〜4〕
1000mlのビーカーにKMnO
4を15.8g秤量し、イオン交換水500gを加えて30分撹拌してKMnO
4を溶解した。この水溶液(KMnO
4 3.16%)に、下記表1に記載の還元剤を以下の反応式の当量を使用して、約10%水溶液としてKMnO
4水溶液に一定速度で添加した。実施例2の場合は添加用の水溶液として、還元剤に加えてNaOHを24.0質量%溶解させたものを用いた。添加時間は1分以内とした。
還元剤の添加終了後1時間撹拌を継続して反応を終了させて反応スラリーを得た。撹拌時の混合液の温度は、25℃であった。また撹拌時の混合液のpHは以下の表1に示す通りであった。得られた反応スラリーを、常法によりろ過し、得られた固形物を洗浄し、洗浄物を100℃で12時間乾燥して、CMD(化学合成MnO
2)を得た。得られたCMDは粉砕・分級処理した後に上記の方法で、BET比表面積を測定した。また乾燥前のろ過ケーキの一部を採取し上記の方法で平均粒径及び最大粒径を測定した。その結果を併せて表1に記載する。表1には、還元剤とKMnO
4との反応式及びKMnO
41kgに対する反応当量も併せて示す。なお、実施例2で得られたCMDについては、上記の洗浄の段階で、副生物の水酸化鉄を洗浄スラリーに希硝酸を加えて、スラリーpHを2.0に保持して、30分間撹拌することにより除去する処理を行ったものを用いた。
【0035】
【表1】
【0036】
〔実施例5〕
CMDとして粉末の形態の二酸化マンガン「AMD150」(日本重化学社製)を用いた。この二酸化マンガンのBET比表面積を測定したところ、174m
2/gであった。また平均粒径は0.88μm、最大粒径は3.9μmであった。
【0037】
〔実施例6〕
CMDとして日本重化学社製の活性二酸化マンガン「AMD250」を用いた。この二酸化マンガンのBET比表面積を測定したところ、261m
2/gであった。また平均粒径は0.71μm、最大粒径は6.5μmであった。
【0038】
〔比較例1〕
粉末の形態の電解二酸化マンガン(FMH、平均粒径3μm;東ソー社製)を用いた。この二酸化マンガンのBET比表面積を測定したところ、37.4m
2/gであった。
【0039】
〔比較例2〕
硝酸セリウム(III)6水和物86.8g(0.2モル)を1Lビーカーに秤量して、イオン交換水500mlに溶解した。ここに35%過酸化水素水19.4g(0.2モル)を添加して1時間撹拌した。得られた混合物に、アンモニア水(6モル/L)を添加することにより、該混合物のpHを9.0とし、一昼夜撹拌を継続して、反応スラリーを得た。得られた反応スラリーを濾過して固形物を得、この固形物を洗浄した後、50℃で24時間乾燥して粉末の形態の水酸化セリウム(IV)を得た。
【0040】
<ルテニウム吸着試験1>
人工海水(富田製薬製 試験研究用人工海水マリンアートSF−1)に、Ru標準液(ACROS社製「Ru 1mg/ml標準液」)をRu濃度が10ppmとなるように添加した。得られたRu含有人工海水100mlを密閉可能な容器に入れ、ここに各実施例又は比較例の試料0.1gを入れて、1時間スターラーで撹拌、その後濾過し、得られたろ液をICP−AESにて分析した。試料投入前のろ液の濃度と試験により得られたろ液の濃度との差を、試料投入前のろ液の濃度で除すことにより吸着率(%)を求めた。
【0041】
なお、Ru含有人工海水中の主な成分の含有量は、NaCl;22.1g/L、MgCl
2・6H
2O;9.9g/L(Mg:1184ppm)、CaCl
2・2H
2O;1.5g/L(Ca:409ppm)、Na
2SO
4;3.9g/L(SO
4:2637ppm)、KCl;0.61g/L、Ru;10ppmであり、試料投入前のRu含有人工海水のpHを25℃にて測定したところ、1.87であった。
【0042】
【表2】
【0043】
<ルテニウム吸着試験2>
実施例1、5及び6、比較例1の吸着剤を試験した。イオン交換水にRu標準液(ACROS社製「Ru 1mg/ml標準液」)をRu濃度が10ppmとなるように添加したものを、Ru含有人工海水の代わりに用いて<ルテニウム吸着試験1>と同様の吸着試験を行った。その結果を下記表3に示す。
また、これら実施例及び比較例の吸着剤について、人工海水(富田製薬製 試験研究用人工海水マリンアートSF−1)をイオン交換水で10倍希釈したもの(以下、「1/10希釈人工海水」ともいう)に、Ru標準液(ACROS社製「Ru 1mg/ml標準液」)をRu濃度が10ppmとなるように添加したものを、Ru含有人工海水の代わりに用いた。この点以外は、<ルテニウム吸着試験1>と同様にした。その結果も併せて表3に示す。
なお、試料投入前のRu含有イオン交換水のpHを25℃にて測定したところ、1.92であった。また、試料投入前のRu含有10分の1希釈人工海水のpHを25℃にて測定したところ、1.90であった。
【0044】
【表3】
【0045】
表2及び表3から明らかなとおり、化学合成MnO
2を用いた各実施例の吸着剤は、電解MnO
2を用いた比較例の吸着剤に比べて、高いルテニウム吸着率を示すことが判る。従って、化学合成MnO
2が海水等の水中のルテニウムの吸着剤に適していることは明らかである。
【0046】
〔実施例7〕
実施例1で得られた反応スラリーにおいて、スラリーの固形物100質量部に対し、それぞれバインダとしてセルロースファイバー(ダイセルフィルム(株)製 セリッシュを3質量部添加した。これを濾過してケーキを得た。得られたケーキを以下の造粒条件で押出造粒機(不二パウダル(株)社製、EDX−60型)に導入して造粒物を得た。造粒物を70℃で12時間乾燥、粉砕、300μm以上600μm以下の粒度に分級した。
<造粒条件>
原料スラリー供給量 200g/分
運転時間 10分
押出スクリーン径 φ0.6mm
【0047】
〔比較例3〕
比較例2で得られた反応スラリーにおいて、スラリーの固形物100質量部に対し、それぞれバインダとしてセルロースファイバー(ダイセルフィルム(株)製 セリッシュを3質量部添加した。これを濾過してケーキを得た。得られたケーキを以下の造粒条件で押出造粒機(不二パウダル(株)社製、EDX−60型)に導入して造粒物を得た。造粒物を70℃で12時間乾燥、粉砕、300μm以上600μm以下の粒度に分級した。
<造粒条件>
原料スラリー供給量 200g/分
運転時間 10分
押出スクリーン径 φ0.6mm
【0048】
<ルテニウム吸着試験3>
実施例7及び比較例3で得られた造粒体の形態の吸着剤について試験した。
上記の<ルテニウム吸着試験1>で用いた人工海水、又は、<ルテニウム吸着試験2>で用いた1/10希釈人工海水若しくはイオン交換水に、Ru標準液(ACROS社製「Ru 1mg/ml標準液」)をRu濃度が10ppmとなるように添加した。ここに粒状試料0.5gを入れて、10回倒立後24時間静置した。静置後、10回倒立後、内容液をろ過し、得られたろ液をICP−AESにて分析した。試料投入前のろ液の濃度と試験により得られたろ液の濃度との差を、試料投入前のろ液の濃度で除すことにより吸着率(%)を求めた。結果を下記表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4の通り、化学合成MnO
2を用いた実施例の吸着剤は、造粒体の形態とした場合も高いルテニウム吸着率を示すことが判る。