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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-12169(P2017-12169A)
(43)【公開日】2017年1月19日
(54)【発明の名称】L−グルタミン酸測定キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/28 20060101AFI20161222BHJP
   C12Q 1/30 20060101ALI20161222BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20161222BHJP
【FI】
   C12Q1/28
   C12Q1/30
   C12Q1/26
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-132363(P2016-132363)
(22)【出願日】2016年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-135318(P2015-135318)
(32)【優先日】2015年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511312207
【氏名又は名称】株式会社エンザイム・センサ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 智
(72)【発明者】
【氏名】日下部 均
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ80
4B063QR02
4B063QR03
4B063QR50
4B063QS02
4B063QS20
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】L−グルタミン酸を簡易な方法によって、精度よく測定すること、及び本発明の別の課題は、アスコルビン酸を含む試料であっても、アスコルビン酸を除去しつつL−グルタミン酸濃度を測定することができ、かつ凍結乾燥品の酵素の溶解液よりも安定な液体状の反応試薬を用いる測定キットを提供すること。
【解決手段】下記(A)及び(B)を含有する、試料中のL−グルタミン酸測定キット。(A)アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含む反応液I、(B)L−グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含む反応液II。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)を含有する、試料中のL−グルタミン酸測定キット:
(A)アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含む反応液I、
(B)L−グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含む反応液II。
【請求項2】
新トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メチルアニリン(TOPS) 、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)から成る群より選ばれるものである、請求項1記載の測定キット。
【請求項3】
カプラー化合物が4−アミノアンチピリンである、請求項1又は2に記載の測定キット。
【請求項4】
試料に対して、反応液I及び反応液IIをこの順に試薬を添加し、反応を行うための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定キット。
【請求項5】
37℃で12週間保管した反応液I及び反応液IIをこの順にL−グルタミン酸及びアスコルビン酸を所定濃度含む溶液に添加した場合の吸光度が、保管0日目の反応液I及び反応液IIをこの順に前記溶液と同一のL−グルタミン酸及びアスコルビン酸溶液に添加した吸光度の値に対して±10%以内であるような、請求項1〜4のいずれか1項に記載の測定キット。
【請求項6】
下記(1)〜(3)の工程を含む、試料中のL−グルタミン酸の測定法であって、反応液Iがアスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含み、かつ反応液IIがL−グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含むことを特徴とする、L−グルタミン酸の測定方法。
(1)試料に反応液Iを添加する工程、
(2)上記工程(1)で反応液Iを添加した試料に、反応液IIをさらに添加することにより、L−グルタミン酸を分解して過酸化水素を生じせしめ、当該過酸化水素と新トリンダー試薬、カプラー化合物及びペルオキシダーゼの反応により発色を生じせしめる工程、(3)生じた発色の程度を、吸光度によって測定する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はL−グルタミン酸の測定試薬および、当該試薬を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
L-グルタミン酸は、「うま味」成分の一つして知られており、ナトリウム塩であるL-グルタミン酸ナトリウムは「うま味調味料」の主成分として用いられている。また、動物の体内でグルタミン酸受容体を介しての神経伝達を行う興奮性の神経伝達物質としても機能している。そのため、L-グルタミン酸を検出・定量することは食品や生化学の分野において非常に重要である。L-グルタミン酸の測定には、アミノ酸分析機、グルタミン酸脱水素酵素、又は脱炭酸酵素を用いた方法などがあるが、いずれも正確性、再現性に欠けたり、手間が複雑であったり高価であるなどの問題が指摘されていた。本願出願人は、1983年醤油研究の過程で Streptomycesの一種がL - グルタミン酸特異的に作用する酵素L - グルタミン酸オキシターゼを産生することを見いだし、製品化に成功している。さらに本酵素を用いて、L-グルタミン酸を簡単に測定できる方法を開発し、L-グルタミン酸測定キットとして市販している(非特許文献1及び2)。
【0003】
従来L−グルタミン酸オキシダーゼを用いるL−グルタミン酸の測定キットは、測定試薬を凍結乾燥品として供するものであった。具体的には、当該キットは、L−グルタミン酸オキシダーゼ、発色剤及びペルオキシダーゼの凍結乾燥品と、当該凍結乾燥品を溶解する緩衝液を含む。L−グルタミン酸を測定する際には、グルタミン酸オキシダーゼ、発色剤及びペルオキシダーゼの凍結乾燥品を緩衝液に溶解し、得られた測定試薬に試料を添加する。この工程により、試料中のL−グルタミン酸はL−グルタミン酸オキシダーゼの作用により分解し、過酸化水素が生じる。そして、当該過酸化水素、発色剤及びペルオキシダーゼの反応によって生じた発色を、吸光度計によって測定する。このときの発色剤としては、例えば新トリンダー試薬であるN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)とカプラー化合物である4−アミノアンチピリン(4−AA)の組み合わせが利用される。従来、DAOS及び4−AAは、グルタミン酸オキシターゼ及びペルオキシダーゼ凍結乾燥品に混合されていた。 ここで、緩衝液への使用前の溶解が必要となる凍結乾燥品と比較してより操作が簡便になるという理由から、測定試薬を初めから溶液の形で供するキットが所望されていた。また、上記凍結乾燥品を用いるキットにおいては、測定試薬である凍結乾燥品を溶液化した後では、時間経過に伴って発色剤の自然着色が生じ、試薬ブランクの吸光度上昇が生じる等の問題から、溶解後の使用期限は、1カ月程度に設定されており、使用期限をより長くすることも求められていた。
【0004】
また、上記方法において、試料中にアスコルビン酸が存在すると、発色反応が阻害されてしまうため、試料中のアスコルビン酸の影響を排除しつつ、L−グルタミン酸の測定ができるキットが所望されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本醤油研究所雑誌、13(1);8,1987
【非特許文献2】Agric. Biol. Chem., 48(1);181,1984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決すべき課題は、L−グルタミン酸を簡易な方法によって、精度よく測定することである。また、本発明の別の課題は、アスコルビン酸を含む試料であっても、アスコルビン酸を除去しつつL−グルタミン酸濃度を測定することができ、かつ長期にわたって安定な液体状の反応試薬を用いる測定キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記の課題を解決すべく、L−グルタミン酸を分解し、過酸化水素を生じさせるためのL−グルタミン酸オキシダーゼ;得られた過酸化水素を定量測定するための発色剤である新トリンダー試薬及びカプラー化合物ならびにペルオキシダーゼ;さらにカタラーゼ失活剤を含む液体を備えたキットについて検討を行い、反応液I、反応液IIの2種類の反応液を含むキットとすることで、発色剤の自然着色を防ぐことを試みた。そして、当該反応液の組成等についてさらに検討を行った結果、
アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含む反応液Iと、L−グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含む反応液IIという2つの反応液に分けた場合において、凍結乾燥品ではなく液体状の試薬のみを用いたキットであって、しかも長期間にわたって安定した測定値を提供できることを見出した。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.下記(A)及び(B)を含有する、試料中のL−グルタミン酸測定キット。
(A)アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含む反応液I、
(B)L−グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含む反応液II。
【0008】
項2.新トリンダー試薬が、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メチルアニリン(TOPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)から成る群より選ばれるものである、項1記載の測定キット。
【0009】
項3.カプラー化合物が4−アミノアンチピリンである、項1又は2に記載の測定キット。
【0010】
項4.試料に対して、反応液I及び反応液IIをこの順に試薬を添加し、反応を行うための、項1〜3のいずれか1項に記載の測定キット。
【0011】
項5.37℃で12週間保管した反応液I及び反応液IIをこの順にL−グルタミン酸及びアスコルビン酸を所定濃度含む溶液に添加した場合の吸光度が、保管0日目の反応液I及び反応液IIをこの順に前記溶液と同一のL−グルタミン酸及びアスコルビン酸溶液に添加した吸光度の値に対して±10%以内であるような、項1〜4のいずれか1項に記載の測定キット。
【0012】
項6.下記(1)〜(3)の工程を含む、試料中のL−グルタミン酸の測定法であって、反応液Iがアスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含み、かつ反応液IIがL−グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含むことを特徴とする、L−グルタミン酸の測定方法。
(1)試料に反応液Iを添加する工程、
(2)上記工程(1)で反応液Iを添加した試料に、反応液IIをさらに添加することにより、L−グルタミン酸を分解して過酸化水素を生じせしめ、当該過酸化水素と新トリンダー試薬、カプラー化合物及びペルオキシダーゼの反応により発色を生じせしめる工程、(3)生じた発色の程度を、吸光度によって測定する工程
【発明の効果】
【0013】
本発明のキットは、L−グルタミン酸を簡易な方法によって、精度よく測定することができる。また、酵素を液体試薬として供給しているものであるため溶液の泡立ち等の凍結乾燥品における課題が解決されており、かつ時間経過に伴う発色剤の自然着色や、酵素の失活による測定試薬自体の不安定化がなく、当該液体試薬を長期間安定な状態で保管することができ、測定キットとしてきわめて有用なものである。さらに、本発明のキットによれば、試料中にアスコルビン酸及び/又はカタラーゼが含まれているものであってもこれらの影響を低減しつつ精度よくL−グルタミン酸の量を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
L−グルタミン酸測定キット
本発明のL−グルタミン酸測定キットは、下記(A)及び(B)の構成試薬を少なくとも含む。
(A)反応液I(アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含む)、
(B)反応液II(L−グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含む)。
【0015】
本発明に用いる分析試料としては、L−グルタミン酸を含有することが予想されるものであれば、特に限定されない。具体的には、血清、血漿、尿、羊水、組織抽出物等の生体試料、組織・細胞・微生物等の培養液、食品、食品原料等を挙げることができる。
【0016】
本発明で使用するL−グルタミン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及びアスコルビン酸オキシダーゼは、公知のものを利用することができ、生体由来のものであっても、組換えによって作製したものであってもよい。具体的には、L−グルタミン酸オキシダーゼとして、Streptomyces sp. X-119-6、Streptomyces violascens、および Streptomyces endusなどの微生物由来のL−グルタミン酸オキシダーゼを挙げることができる。ペルオキシダーゼとして西洋わさび由来のペルオキシダーゼなどを挙げることができる。アスコルビン酸オキシダーゼとしては、カボチャ、キュウリ由来のアスコルビン酸オキシダーゼなどを挙げることができる。
【0017】
また、本発明で使用する新トリンダー試薬としては、発色試薬として公知のものを使用することができ、たとえばN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メチルアニリン(TOPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(DAPS)、N−(2−カルボキシエチル)−N−エチル−3,5−ジメトキシアニリン(CEDB)、又はN−(2−カルボキシエチル)−N−エチル−3−メトキシアニリン(CEMO)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシ−4−フルオロアニリン(FDAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシ−4−フルオロアニリン(FDAPS)などを利用することが可能である。これらの新トリンダー試薬は、一種単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。中でも、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3−メチルアニリン(TOPS)またはN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)のいずれかを用いるのが好ましく、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン・ナトリウム塩(TOOS)を用いるのがより好ましい。
【0018】
本発明で使用するカプラー化合物としては、新トリンダー試薬との組み合わせで発色を生ずる化合物として任意のものを用いればよく、たとえば4−アミノアンチピリン(4−AA)、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)、アミノジフェニルアミン、1−(4−スルホフェニル)−2,3−ジメチル−4−アミノ−5−ピラゾロン(CP2−4)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジンまたはその誘導体などを用いることができる。これらのカプラー化合物は、一種単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。中でも、4−アミノアンチピリン(4−AA)を用いるのが好ましい。
【0019】
本発明で使用する反応液Iは、アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ及び新トリンダー試薬を含有する。上記酵素および新トリンダー試薬を含有させる液としては、各種緩衝液を利用することができる。緩衝液としては、酢酸、リン酸、クエン酸、ホウ酸、トリスアミノメタン、HEPES、MES、Bis−トリス、ADA、ACES、PIPES、MOPSO、MOPS、BES、TES、DIPSO、TAPSO、TAPS、CHES、CAPSO、CAPSおよびこれらの塩などを利用することが可能である。本発明において、反応液Iは、カプラー化合物を含まないことが好ましい。本発明において、反応液Iが「カプラー化合物を含まない」とは、反応液Iに実質的にカプラー化合物を含まないことを意味する。より具体的には本発明において、語句「カプラー化合物を含まない反応液I」には、カプラー化合物を全く含まない反応液Iだけでなく、本発明の効果を棄損しない限度でごく微量のカプラー化合物を含む反応液Iも包含される。
【0020】
反応液Iにおける緩衝液等へのアスコルビン酸オキシダーゼの配合量としては、例えば、1〜30U/mLの範囲にあることが好ましく、特に2〜20U/mLの範囲にあることがより好ましい。反応液Iにおける緩衝液等へのペルオキシダーゼの含有量としては、例えば、1〜30U/mLの範囲にあることが好ましく、特に5〜20U/mLの範囲にあることがより好ましい。反応液Iにおける緩衝液等への新トリンダー試薬の含有量としては、例えば、0.1〜4μmol/mLの範囲にあることが好ましく、特に0.4〜1μmol/mLの範囲にあることがより好ましい。
【0021】
次に本発明で使用する反応液IIは、L−グルタミン酸オキシダーゼ、カプラー化合物及びカタラーゼ失活剤を含有する。上記酵素、カプラー化合物およびカタラーゼ失活剤を含有させる液としては、各種緩衝液を利用することができる。緩衝液の例としては、酢酸、リン酸、クエン酸、ホウ酸、トリスアミノメタン、HEPES、MES、Bis−トリス、ADA、ACES、PIPES、MOPSO、MOPS、BES、TES、DIPSO、TAPSO、TAPS、CHES、CAPSO、CAPSおよびこれらの塩などを利用することが可能である。本発明において、反応液IIは、新トリンダー試薬を含まないことが好ましい。本発明において、反応液IIが「新トリンダー試薬を含まない」とは、反応液IIに実質的に新トリンダー試薬を含まないことを意味する。より具体的には本発明において、語句「新トリンダー試薬を含まない反応液II」には、新トリンダー試薬を全く含まない反応液IIだけでなく、本発明の効果を棄損しない限度で新トリンダー試薬を含む反応液IIも包含される。
【0022】
カタラーゼ失活剤としては、カタラーゼを速やかに失活させる作用を有する物質であれば任意のものを用いればよく、たとえばアジ化ナトリウムや3−アミノ−1,2,4−トリアゾールなどを用いることができる。
【0023】
緩衝液等へのL−グルタミン酸オキシダーゼの含有量は、例えば、0.05〜2U/mLの範囲にあることが好ましく、特に0.2〜0.8U/mLの範囲にあることがより好ましい。緩衝液等へのカプラー化合物の含有量は、例えば、0.1〜4μmol/mLの範囲にあることが好ましく、特に0.4〜1μmol/mLの範囲にあることがより好ましい。
【0024】
本発明で使用する反応液I、IIには、上記の各試薬のほかに防腐剤等を含んでいても良い。防腐剤としては、プロクリン、クロラムフェニコールなど公知のものを用いることができる。プロクリンは臨床診断用防腐剤として汎用されており、プロクリン150、同200、同300、同950の4種が市販されている。いずれもイソチアゾロン(5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン及び/又は2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン)を有効成分とし、防腐剤として使用濃度は6〜15ppm(プロクリン150、同200、同300)又は48〜95ppm(プロクリン950)が推奨されており、推奨使用上限濃度は150ppm(プロクリン150、同200、同300)又は200ppm(プロクリン950)とされている。本発明において、反応液I又は反応液IIへの配合量は、有効成分換算で、例えば、6〜200ppm、より好ましくは50〜150ppm等の範囲内で適宜調整できる。
【0025】
本発明のキットには、上記反応液I、IIのほかに、L−グルタミン酸標準品、吸光度測定用の96穴プレートまたはセル、検体希釈液、反応液I、IIを充填するための容器等を添付することもできる。反応液I、IIを充填するための容器の素材は特に限定されないが、例えば、酵素の安定性の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート等が好ましい。
【0026】
本発明のL−グルタミン酸測定キットは、酵素を液体状態で長期間安定に保存することが可能である。具体的には、好ましい実施形態において、本発明のキットは、37℃で12週間保管した反応液I及び反応液IIをこの順にL−グルタミン酸及びアスコルビン酸を所定濃度含む溶液に添加したときの吸光度と、保管0日目の反応液I及び反応液IIをこの順に前記溶液と同一のL−グルタミン酸溶液に添加した吸光度の測定値の差が±10%以内という高い安定性を有する。当該実施形態において、「L−グルタミン酸を所定濃度含む溶液」としては、例えば、本願実施例2で用いられたL-グルタミン酸250mg/L及びアスコルビン酸1000mg/Lを含む標準液(L-Glu250+ASA1000)が挙げられる。本発明においては、当該標準液を測定した場合に、37℃で10週間保管した反応液I及び反応液IIと保管0日目の反応液I及び反応液IIとで吸光度の測定値の差が±10%以内であることが好ましい。
【0027】
本発明では、L−グルタミン酸を測定するため、まず試料に反応液Iを添加する。試料中に内在性のアスコルビン酸が存在する場合、当該工程によりこれを除去する。当該反応条件は、使用する酵素の至適pH、至適温度にしたがって設定すればよいが、おおむね、pH6.0〜8.0、温度15〜30℃の条件下で、5〜20分ほど実施することができる。
【0028】
次に、上記反応液Iによる反応が十分進行した後、反応液IIをさらに添加することにより、L−グルタミン酸を分解し、過酸化水素を生じせしめ、当該過酸化水素と発色剤、ペルオキシダーゼとを反応させることにより発色を生じる。当該反応条件は、使用する酵素の至適pH、至適温度にしたがって設定すればよいが、おおむね、pH6.0〜8.0、温度15〜30℃の条件下で、5〜30分ほど実施することができる。
【0029】
最後に、生じた発色の程度を、吸光度によって測定し、試料中のL−グルタミン酸濃度を算出する。吸光度測定において、測定する波長は用いる発色試薬の種類に応じて選択すればよい。
【0030】
本発明においては、上記方法に加え、試料に代えて標準溶液として濃度既知のL−グルタミン酸溶液(例えば、100mg/LのL−グルタミン酸溶液)を用いて同様の方法をさらに行ってもよい。当該実施形態においては、試料およびL−グルタミン酸標準液について吸光度を測定した後は、試料の代わりに水を用いたブランクの吸光度を差し引き、下記式1を用いることにより、試料中のL−グルタミン酸量を算出することができる。
L−グルタミン酸濃度(mg/L)=試料の吸光度÷標準液の吸光度×標準液濃度(mg/L)
【実施例】
【0031】
以下、参考例及び実施例を示し本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないのは明らかである。
【0032】
1.酵素試薬液の調製
1-1.条件1の酵素試薬液の調製
後述する実施例の条件1における反応液I及び反応液IIならびにL−グルタミン酸標準液として、下記表1に記載の組成の液をそれぞれ調製した。
【0033】
【表1】
【0034】
1-2.条件2〜6の酵素試薬液の調製
下記反応液I、反応液IIの成分を下記表2に示す組み合わせとする以外、上記条件1の調製法に準じ、アスコルビン酸オキシダーゼ(略称:ASOX、和光純薬工業、2000U/バイアル)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン・ナトリウム塩(略称:TOOS)、ペルオキシダーゼ(オリエンタル酵母)、プロクリン950(防腐剤:2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン濃度9.5〜9.9%)、グルタミン酸オキシダーゼ(略称:GLOX、株式会社エンザイム・センサ社製)、4−アミノアンチピリン(略称:4−AA、カプラー化合物)、アジ化ナトリウム(NaN3、カタラーゼ失活剤)を用い、条件2〜6の酵素試薬液を調製した。
【0035】
【表2】
【0036】
2.試料中のグルタミン酸の測定
本実施例におけるグルタミン酸の測定方法は以下の通りとした:
[1]96ウェル丸底アッセイプレート(IWAKI)の各ウェルに、試料4μLと反応液90μLを加え、攪拌した後、数分間静置した。
[2]反応液IIを90μL添加して撹拌し、室温で20分間静置する。
[3]反応液II添加後20分後に555nmの吸光度を測定する。(精製水を対照とする。) L-グルタミン酸測定値は以下の式で算出する。
([試料の吸光度]−[0mg/L試料の吸光度])÷([標準液の吸光度]−[0mg/L試料の吸光度])×標準液濃度(250mg/L)
2-1. 試薬成分の組み合わせ加速試験(保存12週間まで)
測定用の試料としては、以下のものを使用した:
STD L-Glu:
L-グルタミン酸を250mg/Lとなるよう水に溶かすことで調製した標準液
L-Glu250+ASA1000:
L-グルタミン酸250mg/Lに加え、アスコルビン酸1000mg/Lを配合した溶液L-Glu L:
L-グルタミン酸濃度を15mg/Lとした溶液
L-Glu M:
L-グルタミン酸濃度を150mg/Lとした溶液
L-Glu H:
L-グルタミン酸濃度を1500mg/Lとした溶液。
【0037】
前述した、条件1〜6の酵素試薬液について、調整直後及び調整後37℃で12週間保存後に、前記「試料中のグルタミン酸の測定方法」に従い、上記試料中のグルタミン酸の測定を測定した。
【0038】
条件1〜6について、調製直後の測定結果を下記表3に、37℃で12週間保存後の測定結果を下記表4に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示すように、37℃で12週間保存すると、条件1以外の条件は「L-Glu250+ASA1000」における吸光度および測定値がほぼ0となってしまい、試料中のアスコルビン酸オキシダーゼが失活したものと考えられた。ただし、L-グルタミン酸のみを含む試料では、条件1以外の条件でもある程度の測定が可能であった。
【0042】
条件1と2では、TOOSと4-AAの組み合わせ方のみが異なり、他の組成は全く同一である。いずれの条件でもL-グルタミン酸単独の場合は測定できているので、4-AAはアスコルビン酸オキシダーゼとの共存によって活性を失う可能性が考えられた。他の条件3〜6でも、37℃12週間保存後には「L-Glu250+ASA1000」の吸光度および測定値がほぼ0となっており、条件1が最も安定して反応液を保存できる条件であると判明した。
また、条件1は試薬ブランクの吸光度上昇幅が他条件に比べてもっとも低く、試薬ブランク上昇を起こしにくい組成であるとも考えられた。
【0043】
次に、調製直後の吸光度の値に対する、37℃12週間保存後の吸光度の値の割合(%)を下記表5に示す。結果、条件1のみ、全てのL-グルタミン酸含有サンプルにおいて、37℃で12週間保存後に測定した吸光度の値が、調製直後に測定した吸光度の値の±10%以内の範囲内に収まっていた。
【0044】
【表5】
【0045】
2-2. 試薬成分の組み合わせ保存試験(保存12カ月まで)
測定用の試料としては、以下のものを使用した:
STD L-Glu:
L-グルタミン酸を250mg/Lとなるよう水に溶かすことで調製した標準液
L-Glu250+ASA1000:
L-グルタミン酸250mg/Lに加え、アスコルビン酸1000mg/Lを配合した溶液
L-Glu L:
L-グルタミン酸濃度を15mg/Lとした溶液
L-Glu M:
L-グルタミン酸濃度を150mg/Lとした溶液
L-Glu H:
L-グルタミン酸濃度を1500mg/Lとした溶液。
【0046】
「1.酵素試薬液の調製」で前述した、条件1の酵素試薬液について、調整直後及び調整後7〜8℃で12カ月冷蔵保存後に、前記「試料中のグルタミン酸の測定方法」に従い、上記試料中のL−グルタミン酸の測定を測定した。
【0047】
条件1について、調製直後の測定結果を下記表6に、7〜8℃で12カ月冷蔵保存後の測定結果を下記表7に示す。調製直後及び12カ月保存後のサンプルについて、それぞれ、測定を5連の測定を行い平均値を算出した。そして、当該5連測定及び平均値算出の操作を3回行った(従って、調製直後及び12カ月保存後のサンプルについて、それぞれ合計15回ずつ測定した)。表6、7には、3回の平均値、標準偏差(SD)及び変動係数(CV)を示す。さらに、表8には、調製直後の測定結果の平均値に対する12カ月保存後の測定結果の平均値の%を示す。
【0048】
【表6】
【0049】
上記表6から明らかなように、L-グルタミン酸0mg/mL検体(精製水(試験blank))の吸光度(水ブランクの差し引き値)が0.015未満であった。Day0の3回測定の平均値を安定性判断の基準値とした。
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
12ヶ月保存後の結果を表7と表8にまとめた。
12ヶ月保存後のL-グルタミン酸管理検体(L、M、H)およびアスコルビン酸1000mg/L含有L-グルタミン酸250mg/L溶液各検体の測定値が、Day0に各検体を測定したときの測定値平均値の±20%以内であった。また、上記表には明示しなかったがL-グルタミン酸管理検体(L、M、H)およびアスコルビン酸1000mg/L含有L-グルタミン酸250mg/L溶液を同時5回測定したときの測定値のCVが15%以内であった。12ヶ月保存後の標準液、L-グルタミン酸管理検体H、アスコルビン酸1000mg/L含有L-グルタミン酸250mg/L溶液の各検体の吸光度(水blankの差し引き値)が、Day0に各検体を測定したときの平均値の±20%以内であった。さらに、L-グルタミン酸0mg/mL検体(精製水)の吸光度(水blankの差し引き値)が0.015未満であった。
以上の結果から、12ヶ月保存後もキットは安定であると判断した。