特開2017-122352(P2017-122352A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-122352(P2017-122352A)
(43)【公開日】2017年7月13日
(54)【発明の名称】アスファルト乳剤の分解剤
(51)【国際特許分類】
   E01C 7/24 20060101AFI20170616BHJP
【FI】
   E01C7/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-2151(P2016-2151)
(22)【出願日】2016年1月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】雑賀 正隆
(72)【発明者】
【氏名】北野 健一
【テーマコード(参考)】
2D051
【Fターム(参考)】
2D051AE01
2D051AF10
2D051AF13
2D051AF14
2D051AF17
2D051AG04
2D051AH02
2D051AH03
2D051EB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】貯蔵安定性、機械的安定性の高いカチオン系アスファルト乳剤の即時分解性に優れかつ、散布時に分解剤とアスファルト乳剤が接触した表層部分だけでなく、非接触の下層部分まで分解が進行する分解剤を提供する。
【解決手段】含硫黄型アニオン性界面活性剤と無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩とを含み、20℃における比重が1.03〜2.00であるカチオン系アスファルト乳剤の分解剤。20℃における粘度が500mPa・s以下であると好ましい。前記含硫黄型アニオン性界面活性剤が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含むと好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含硫黄型アニオン性界面活性剤と無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩とを含み、20℃における比重が1.03〜2.00である、カチオン系アスファルト乳剤の分解剤。
【請求項2】
20℃における粘度が500mPa・s以下である、請求項1に記載の分解剤。
【請求項3】
前記含硫黄型アニオン性界面活性剤が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の分解剤。
【請求項4】
前記含硫黄型アニオン性界面活性剤がジアルキルスルホコハク酸、ジアルキルスルホコハク酸塩、油脂の硫酸化物、油脂の硫酸化物の塩、硬化油脂の硫酸化物及び硬化油脂の硫酸化物の塩から選ばれる少なくとも1種をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の分解剤。
【請求項5】
前記無機硫酸塩が硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム及び硫酸鉄から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の分解剤。
【請求項6】
前記縮合リン酸塩がピロリン酸塩及びトリポリリン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の分解剤。
【請求項7】
前記分解剤100重量部に対する前記含硫黄型アニオン性界面活性剤の重量割合が0.1〜30.0重量部、前記無機硫酸塩及び/又は前記縮合リン酸塩の重量割合が0.1〜50.0重量部である、請求項1〜6のいずれかに記載の分解剤。
【請求項8】
前記カチオン系アスファルト乳剤が日本工業規格JIS K 2208に規定された「PK−4」である、請求項1〜7のいずれかに記載の分解剤。
【請求項9】
カチオン系アスファルト乳剤に請求項1〜8のいずれかに記載の分解剤を接触させる、アスファルト乳剤の散布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト乳剤の分解剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、タックコート、プライムコート等に使用する浸透用カチオン系アスファルト乳剤の分解剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスファルトは石油を蒸留してナフサやガソリン、灯油、軽油等を取り出した後に得られる最終精製物で、古くから舗装材料に用いられている。
アスファルトは常温では高粘度の半固体または固体であり、その粘着性の高さから取り扱い時の作業性が非常に悪い。
常温での取り扱い時の作業性を改善する手法の一つとして、乳化剤を用いてアスファルトを水に乳化させた形態での利用が知られており、該乳化物はアスファルト乳剤と呼ばれている。
アスファルト乳剤の分類の方法には主に二通りあり、一つは使用する乳化剤によりカチオン系、アニオン系、ノニオン系等に分類する方法と、もう一つは用途によって浸透用、混合用等に分類する方法がある。
浸透用アスファルト乳剤の主な用途には、アスファルト舗装後の表面仕上げ用として使用されるプライムコートと、基層と新たに舗設するアスファルト層との層間接着用として使用されるタックコートがある。
日本工業規格JIS K 2208の規定では、浸透用アスファルト乳剤「PK−4」は一般的にタックコート用に用いられている。近年、アスファルト舗装の補修、再舗装が増加しており、PK−4の利用が増加している。
アスファルト乳剤の要求特性としては、アスファルト乳剤製造後から施工現場で使用するまでの間の貯蔵安定性及び、乳剤の移送や散布時に利用するポンプ等によるせん断や圧縮等の外力がかかっても乳化が壊れない機械的安定性が挙げられる。
さらに、施工現場でアスファルト乳剤を散布した後はできるだけ短時間で分解し、速やかに水とアスファルトに分離する事が強く望まれる。
これは、アスファルト中に水分が残存すると、アスファルト本来の粘着性が得られず、接着不良となってしまうが、一般的にアスファルト乳剤散布後は剤中の水分が蒸発して十分に分解するまで待たなければならず、その間は道路の通行規制が必要で、通行開放までに時間がかかるという問題がある事に起因する。
【0003】
このような貯蔵安定性、機械的安定性とは相反する特性を付与する為、アスファルト乳剤使用時に乳化を破壊する分解剤を添加し、その後に分離した水だけを取り除く手法が知られている。
カチオン系アスファルト乳剤の分解剤として、水酸化ナトリウムや骨材が知られている。
しかし、水酸化ナトリウムは劇物であり、実際の道路での使用には環境面や作業者の安全性の面で問題がある。骨材はその形状や含有成分によって大きく分解効果に差があり、使用するアスファルト乳剤に適した骨材を選定する為には多大な労力と時間が必要となる。
【0004】
特許文献1及び2では、アミンを主構成物質とした乳化剤を用いたカチオン系アスファルト乳剤を用い、軽金属電解質の分解剤をアスファルト乳剤散布後に接触させる散布方法が開示されている。
しかし、これらは完全に上記問題点を解決しうるものではなく、貯蔵安定性、機械的安定性の高いアスファルト乳剤では分解が不十分であったり、分解に時間を要するといった問題があった。
【0005】
特許文献3及び4では、分解補助剤としてアニオン性界面活性剤等が例示されている。しかし、これらはアスファルト乳剤と分解補助剤が接触した一部分のみが分解し、非接触部分は分解せずにアスファルト乳剤のまま残ってしまう。このため接着不良の原因となったり、分解したアスファルトが表面で皮膜化してしまい下層の水分の蒸発を妨げて、交通解放までの時間がより長くなってしまうという問題がある。
また、実際の施工場所の気温や日照、風の有無等によって十分な効果が得られない場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−302546号公報
【特許文献2】特開平11−303004号公報
【特許文献3】特開平9−21102号公報
【特許文献4】特開2000−336602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、貯蔵安定性、機械的安定性の高いカチオン系アスファルト乳剤の即時分解性に優れかつ、散布時に分解剤とアスファルト乳剤が接触した表層部分だけでなく、非接触の下層部分まで分解が進行する分解剤を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、含硫黄型アニオン性界面活性剤と無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩とを含み、かつ、特定の比重を示すカチオン系アスファルト乳剤の分解剤であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、含硫黄型アニオン性界面活性剤と無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩とを含み、20℃における比重が1.03〜2.00である。
【0009】
20℃における粘度が500mPa・s以下であると好ましい。
前記含硫黄型アニオン性界面活性剤が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含むと好ましい。
前記含硫黄型アニオン性界面活性剤がジアルキルスルホコハク酸、ジアルキルスルホコハク酸塩、油脂の硫酸化物、油脂の硫酸化物の塩、硬化油脂の硫酸化物及び硬化油脂の硫酸化物の塩から選ばれる少なくとも1種をさらに含むと好ましい。
前記無機硫酸塩が硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム及び硫酸鉄から選ばれる少なくとも1種を含むと好ましい。
前記縮合リン酸塩がピロリン酸塩及びトリポリリン酸塩から選ばれる少なくとも1種を含むと好ましい。
前記分解剤100重量部に対する前記含硫黄型アニオン界面活性剤の重量割合が0.1〜30.0重量部、前記無機硫酸塩及び/又は前記縮合リン酸塩の重量割合が0.1〜50.0重量部であると好ましい。
前記カチオン系アスファルト乳剤が日本工業規格JIS K 2208に規定された「PK−4」であると好ましい。
【0010】
本発明のアスファルト乳剤の散布方法は、カチオン系アスファルト乳剤に上記分解剤を接触させる散布方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、カチオン系アスファルト乳剤と接触させる事で、直後から急速に分解が始まり、水とアスファルトが分離するとともに、アスファルト乳剤と速やかに混合して散布時に接触していない内部のアスファルト乳剤も分解する効果を有する。また、施工場所の気温や日照、風の有無等による分解効果への影響が少なく、分解後、分離した水を除去するだけですぐ次工程に進む事ができ、施工時間を大幅に短縮する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、含硫黄型アニオン性界面活性剤と無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩を含み、20℃における比重が特定の値を示す。以下に詳細に説明する。
【0013】
(含硫黄型アニオン性界面活性剤)
含硫黄型アニオン性界面活性剤は、本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に必須の成分であり、アスファルト乳剤の油滴表面に存在するカチオン系乳化剤の電荷を中和するとともに、疎水基部分がアスファルト乳剤との親和性を有している為、油滴を破壊し合一を促進する役割をする。含硫黄型アニオン性界面活性剤は、後述する無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩と併用することで、カチオン系アスファルト乳剤の即時分解性に優れ、かつ、非接触の下層部分まで分解が進行するという効果を得ることができる。
【0014】
含硫黄型アニオン性界面活性剤としては、アルキル又はアルケニルスルホン酸、アルキル又はアルケニルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、メラミンスルホン酸、メラミンスルホン酸塩、アルキルメラミンスルホン酸、アルキルメラミンスルホン酸塩、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、アルキルメラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルメラミンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、アルキルスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸塩、脂肪酸アミドスルホン酸、脂肪酸アミドスルホン酸塩、アルキル硫酸、アルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルフェニル硫酸、アルキルフェニル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、油脂の硫酸化物、油脂の硫酸化物の塩、硬化油脂の硫酸化物、硬化油脂の硫酸化物の塩等が挙げられ、中でも、本願の効果を発揮する観点から、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、油脂の硫酸化物の塩が好ましい。
【0015】
アルキルスルホン酸のアルキル基は炭素数が4〜30が好ましく、6〜22がより好ましく、8〜18がさらに好ましい。4未満の場合には、即時分解性に劣ることがある。30超の場合には親水性が低下し分解剤の調整が困難なことがある。
アルキルスルホン酸のアルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよく、アルキル基に分布があるものでもよい。
アルキルスルホン酸としては、特に限定されないが、例えば、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、ヘプタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、デカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、テトラデカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、オクタデカンスルホン酸、イコサンスルホン酸、ヘンイコサンスルホン酸等が挙げられる。
【0016】
有機スルホン酸の塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩又はアンモニウム塩等が挙げられ、中でも入手の容易さ、安全性、及び環境への影響から、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましい。
【0017】
アルキルベンゼンスルホン酸としては、オクチルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸等が挙げられる。
【0018】
アルキルスルホコハク酸としては、ジオクチルスルホコハク酸、ジデシルスルホコハク酸、ジドデシルスルホコハク酸、ジトリデシルスルホコハク酸、オクチルスルホコハク酸、デシルスルホコハク酸、ドデシルスルホコハク酸、トリデシルスルホコハク酸等が挙げられる。
【0019】
(無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩)
無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩は、本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に必須の成分であり、硫酸イオン、縮合リン酸イオンがアスファルト乳剤の油滴表面に存在するカチオン系乳化剤の電荷を中和するのに寄与するとともに、分解剤の比重を特定の範囲に調整することができ、先に散布したアスファルト乳剤との比重差により自然混合が促進され、散布時に接触した表層部分だけでなく、非接触の下層部分まで速やかに分解が進行するという効果を得ることができる。
【0020】
無機硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸銀、硫酸ジルコニル、硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム等が挙げられる。
中でも、入手の容易さ、安全性、及び環境への影響から、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウムが好ましい。
【0021】
縮合リン酸塩としては、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸銅、ピロリン酸錫、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸水素カルシウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸カリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム等が挙げられる。
中でも、入手の容易さ、本願の効果を発揮する観点から、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウムが好ましい。
【0022】
〔カチオン系アスファルト乳剤の分解剤〕
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の20℃における比重は1.03〜2.00であり、1.03〜1.80が好ましく、1.03〜1.60がより好ましく、1.03〜1.40がさらに好ましく、1.03〜1.30が特に好ましい。1.03未満では非接触の下層部分まで分解が進行しない。一方、2.00超では、分解剤溶液の安定性が低下し均一散布が困難となったり、即時分解性が劣ることがある。
【0023】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の20℃における粘度は、500mPa・S以下が好ましく、400mPa・S以下がより好ましく、300mPa・S以下がさらに好ましく、200mPa・S以下が特に好ましい。500mPa・S超では、分解剤散布時にアスファルト乳剤と混合し難くなり、非接触の下層部分まで分解が進行しないことがある。
好ましい下限値は0.1mPa・Sである。0.1mPa・S未満では、アスファルト乳剤と混合し難くなり、非接触の下層部分まで分解が進行しないことがある。
【0024】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に占める含硫黄型アニオン性界面活性剤の重量割合は、0.1〜30.0重量%が好ましく、0.5〜20.0重量%がより好ましく1.0〜15.0重量%がさらに好ましく、1.0〜10.0重量%が特に好ましい。0.1重量%未満では即時分解性に劣ることがある。30.0重量%超では分解剤溶液の安定性が低下し均一散布が困難となることがある。
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に占める無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩の重量割合は、0.1〜50.0重量%が好ましく、1.0〜40.0重量%がより好ましく3.0〜35.0重量%がさらに好ましく、5.0〜30.0重量%が特に好ましい。0.1重量%未満では非接触の下層部分まで分解が進行しないことがある。50.0重量%超では分解剤溶液の安定性が低下し均一散布が困難となることがある。
【0025】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の不揮発分に占める含硫黄型アニオン性界面活性剤の重量割合は、0.2〜80.0重量%が好ましく、1.0〜60.0重量%がより好ましく3.0〜50.0重量%がさらに好ましく、5.0〜40.0重量%が特に好ましい。0.2重量%未満では即時分解性に劣ることがある。80.0重量%超では非接触の下層部分まで分解が進行しないことがある。
【0026】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤のpHは、5.0〜8.0が好ましく、5.5〜7.5がより好ましい。5.0未満または8.0超では施工場所付近の環境に悪影響を及ぼしたり、作業者の安全性が保たれないことがある。
【0027】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、JIS−K2208に規定するカチオン系アスファルト乳剤「PK−4」に用いると、乳化剤の種類や、その他の成分の影響を受けずに本願の効果を発現するため、好ましい。
【0028】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤は、その効果を阻害しない程度にその他の成分として水溶性溶剤、乳化・可溶化剤、消泡剤等を使用しても良い。
【0029】
前記水溶性溶剤としては、特に限定はないが、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、2−エトキシエタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、フェノキシエタノール等が挙げられ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記乳化・可溶化剤としては、特に限定はないが、たとえば、本発明の含硫黄型アニオン性界面活性剤以外のアニオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が挙げられ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記消泡剤としては、特に限定はないが、たとえば、エステル系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、鉱物油系消泡剤、シリコーン系消泡剤、粉末消泡剤等が挙げられ、1種または2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤に占めるその他の成分の重量割合については、特に限定はないが、好ましくはカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の0.001〜50重量%、より好ましくは0.01〜30重量%、さらに好ましくは0.01〜20重量%、特に好ましくは0.01〜10重量%である。その他の成分の重量割合がカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の0.001重量%未満であると、カチオン系アスファルト乳剤の分解剤の品質が低下する場合がある。一方、その他の成分の重量割合が50重量%超であると、本願の効果が十分でないことがある。
【0033】
〔カチオン系アスファルト乳剤の分解剤の製造方法〕
本発明の分解剤の製造方法としては、未溶解・未分散の成分の残存がなく、均一に溶解・分散していれば良く、特に限定はないが、たとえば、次の各方法が挙げられる。
(1)攪拌下、水及び/又は溶媒中に含硫黄型アニオン性界面活性剤、無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩を少量ずつ添加し混合する方法
(2)無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩を攪拌しながら水及び/又は溶媒に溶解した後、充分攪拌しながら含硫黄型アニオン性界面活性剤を少量ずつ添加し混合する方法
(3)硫黄型アニオン性界面活性剤を水及び/又は溶媒に高濃度で溶解したもの(A)と、無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩を水に高濃度で溶解したもの(B)を別々に作製し、(A)を充分攪拌しながら(B)を少量ずつ添加し混合する方法
【0034】
〔アスファルト乳剤の分解剤の散布方法〕
本発明のアスファルト乳剤の分解剤の散布方法は、前記カチオン系アスファルト乳剤に本発明の分解剤を接触させる散布方法である。
アスファルト乳剤の分解剤はアスファルト乳剤と同時に散布してもよく、アスファルト乳剤散布後に、その上から分解剤を散布してもよい。
アスファルト乳剤は道路路盤や基層、表層に散布される他、法面や壁面等の吹き付け防水等にも利用されるが、本発明のアスファルト乳剤の分解剤は即時分解性に優れることから、これらの用途にも利用することが可能である。
散布の際は斑なく均一にする為、霧状にして散布することが好ましく、たとえば小規模の舗装であれば、エンジンスプレーヤ、ギアスプレーヤ、エア−スプレーヤ、ハンドスプレーヤ、エアレスポンプスプレーヤー等を用いてもよく、大規模舗装では、アスファルトスプレーヤ、アスファルトディストリビュータ、乳剤散布機能付きアスファルトフィニッシャ等のアスファルト乳剤を散布する装置を用いてもよい。
分解剤の散布量は、乳剤100部に対して10部以上が好ましい。10部未満ではアスファルト乳剤全体に分解剤が行き渡らず、即時分解性が劣ることがある。
【実施例】
【0035】
〔分解剤の製造〕
表1〜3に示す質量比となるように、実施例1〜20及び比較例1〜12のカチオン系アスファルト乳剤の分解剤を上記(3)の方法で製造した。
実施例1〜20及び比較例1〜12の各カチオン系アスファルト乳剤の分解剤の比重及び粘度を次のように測定した結果を表1〜3に示す。
アスファルト乳剤の分解性試験を次のように行った。その試験結果を表4に示す。
【0036】
〔比重〕
JIS−Z8804−9記載の方法に準拠し、温度20℃に於けるカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の比重を測定した。
密度比重計:京都電子工業製 DA−200
【0037】
〔粘度〕
ブルックフィールド型粘度計を用いて、温度20℃に於けるカチオン系アスファルト乳剤の分解剤の粘度を測定した。
【0038】
〔アスファルト乳剤の分解性試験〕
アスファルト上にカチオン系アスファルト乳剤PK−4を、2水準の乳剤量(0.3L/m 1.2L/m)を塗布した。
その上部よりスプレーでアスファルト乳剤量の20wt%の分解剤を散布した。
直後から1分後、5分後、10分後、15分後の乳剤の状態を目視観察した。
○ 下層まで分解して分離した分解水が透明
表面は分解し皮膜化しているが、下層は未分解
下層まで分解しているが皮膜化せず、凝集物が沈降
× 分解しない
15分以内に下層まで分解しアスファルトが皮膜化すれば合格、15分を超えてもアスファルト乳剤が分解せず残存する場合や、分離したアスファルトが皮膜化しない場合を不合格とした。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
表4から分かるように、実施例1〜20では、含硫黄型アニオン性界面活性剤と無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩とを含み、20℃における比重が1.03〜2.00であるために、アスファルト乳剤の即時分解性に優れかつ、散布時に分解剤とアスファルト乳剤が接触した表層部分だけでなく、非接触の下層部分まで分解が進行しているので、本願の課題が解決できている。
一方、含硫黄型アニオン性界面活性剤を含むが無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩を含まない場合(比較例1及び3〜5)、無機硫酸塩を含むが含硫黄型アニオン性界面活性剤を含まない場合(比較例2、11)、リン酸塩でも縮合リン酸塩でない場合(比較例6)、アニオン性界面活性剤であっても含硫黄型でない場合(比較例7〜10)、含硫黄型アニオン性界面活性剤も含まず無機硫酸塩及び/又は縮合リン酸塩も含まない場合(比較例12)には、本願の課題が解決できていない。