【0018】
次に本発明を実施するための形態を説明する。この実施の形態のモリブデン系低次酸化物粒子の組成比は、一般式:X
aMoO
bで示される。この一般式中のXはアルカリ金属元素である。このため、モリブデン系低次酸化物粒子は、酸化モリブデンの結晶構造中にアルカリ金属元素が侵入して複合化した構造を呈する。また、一般式中のaは0.27≦a≦0.37を満たし、かつbは2.62≦b≦2.85を満たす。ここで、一般式中のaを0.27≦a≦0.37の範囲内に限定したのは、0.27未満では酸化モリブデンの結晶構造中に侵入するアルカリ金属元素が乏しく、酸化モリブデンから電子を引抜く元素が不十分であるため、酸化モリブデンの還元が不十分になり、良好な赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が得られず、0.37を超えると酸化モリブデンの結晶構造中に全てのアルカリ金属元素が侵入できずに余り、この余ったアルカリ金属元素の化合物が不純物として混在することにより、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が低下するからである。また、一般式中のbを2.62≦b≦2.85の範囲内に限定したのは、2.62未満では酸化モリブデン(IV)(MoO
2)が多く存在するため、可視光線透過率が大幅に下がって、透明性が著しく低下する、即ち酸化モリブデン(IV)(MoO
2)は黒色の粒子であり、光の吸収帯が可視光線領域まで及ぶため、酸化モリブデン(IV)(MoO
2)が多く存在すると、著しく透明性が損なわれるからであり、2.85を超えると酸化モリブデンの還元性が弱く、赤外線吸収性能が著しく低下する、即ち酸化モリブデン(VI)(MoO
3)が酸化された状態では自由電子が乏しいため、赤外線吸収性能を期待できないからである。
【実施例】
【0024】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0025】
<実施例1>
先ず、35℃のイオン交換水350ミリリットルに、一般式:X
aMoO
bのMoの原料として80%のモリブデン酸30gを加え、アンモニア水を添加することにより、モリブデン酸を溶解して第1の溶液を調製した。ここで、80%のモリブデン酸とは、MoO
3換算で、80%のモリブデン酸になることを意味する。この第1の溶液のpHは8.5であった。次いで、上記第1の溶液を35℃に維持した状態で、第1の溶液に、一般式:X
aMoO
bのXの原料として85%水酸化カリウム11gを加え溶解させて第2の溶液を調製した後に、この第2の溶液を撹拌しながら第2の溶液に60%の硝酸を、pHが2.0になるまで約10分かけて徐々に添加して第3の溶液を調製した。上記85%水酸化カリウムは、KOHの含有率が85%である水和物(KOH・nH
2O)である。このときの第3の溶液は僅かに黄色味がかった透明であった。次に、上記第3の溶液に、還元剤として水素化ホウ素ナトリウム0.3gをイオン交換水5ミリリットルに溶解した水溶液を添加して第4の溶液を調製した。この第4の溶液は濃青色を呈した。その後、第4の溶液を35℃で30分間撹拌することにより濃青色の析出物を得た。この析出物を、イオン交換水で洗浄して副生成塩等の不純物を除去し、固液分離した後に105℃で乾燥することにより、青色の乾燥粒子を得た。この青色の乾燥粒子を窒素雰囲気中で600℃に2時間保持して焼成することにより、青黒色のモリブデン系低次酸化物粒子を得た。このモリブデン系低次酸化物粒子を蛍光X線分析装置(パーキンエルマー社製:Optima−4300DV)で組成比率を分析したところ、K
0.34Mo0
2.73で構成されたカリウムモリブデン酸化物であった。更に、上記モリブデン系低次酸化物粒子1.20g(10質量%)と、分散媒の高分子分散剤としてソルスパース20000を0.12g(1質量%)と、分散媒の溶剤としてイソプロパノールを10.68g(89質量%)とを50ミリリットルのガラス瓶に入れ、直径0.3mmのジルコニアビーズ50gを用いてペイントシェーカにて24時間分散した。これにより透明性の高い鮮やかな青色の分散体を得た。この分散体を実施例1とした。
【0026】
<実施例2〜14及び比較例1〜8>
実施例2〜14及び比較例1〜8の分散体に分散されるモリブデン系低次酸化物粒子は、実施例1のモリブデン系低次酸化物粒子を作製するための原料や条件等と、次の表1及び表2に示す項目(一般式:X
aMoO
bのXの原料の種類及び添加量、第3の溶液のpH、水素化ホウ素ナトリウムの添加量、焼成温度)の一部を変更してそれぞれ作製した。なお、表1及び表2に示した項目以外の原料や条件等を、実施例1の原料や条件等と同一にしてモリブデン系低次酸化物粒子をそれぞれ得た。そして、これらのモリブデン系低次酸化物粒子を用い、実施例1と同様にして、分散体をそれぞれ調製した。これらの分散体を実施例2〜14及び比較例1〜8とした。なお、表1及び表2には、モリブデン系低次酸化物粒子の組成比及び色も示した。また、実施例2及び8の一般式:X
aMoO
bのXの原料の種類に記載した『NaOH』は95%水酸化ナトリウムであった。この95%水酸化ナトリウムは、NaOHの含有率が95%である水和物(NaOH・nH
2O)である。更に、比較例3のモリブデン系低次酸化物粒子は分散媒に分散できなかった。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
<比較試験1>
実施例1〜14、比較例1、比較例2及び比較例4〜8の分散体をイソプロパノールで粒子の濃度が0.17%になるまで希釈し、希釈分散体を調製した。この希釈した分散体を光路長1mmのガラスセルに入れ、分光光度計(日立ハイテク社製:UH4150)を用い、JIS規格(JIS R 3216-1998)に従って、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)と、波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)とをそれぞれ測定するとともに、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)と、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)とをそれぞれ測定した。また、(%Tv)/(%Ts)の比を算出した。更に、上記希釈分散体を、光路長1mmのガラスセルに入れ、ヘーズコンピュータ(スガ試験機社製:HZ-2)を用い、JIS規格(JIS K 7136)に従って、ヘーズを測定した。ここで、上記希釈分散体を入れたガラスセルのヘーズは0.10%であった。これらの結果をモリブデン系低次酸化物粒子の組成比とともに表3及び表4に示す。なお、表4の比較例3にデータが記載されていないのは、比較例3のモリブデン系低次酸化物粒子を分散媒に分散できず、分散体が得られなかったためである。また、表3及び表4中のヘーズは、ガラスセルのヘーズ0.10%を差し引いた希釈分散体のみのヘーズである。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
<評価>
表1〜表4から明らかなように、モリブデン系低次酸化物粒子を示す一般式:X
aMoO
bのbが2.17と適正範囲(2.62≦b≦2.85)より小さい比較例2では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が37.87%と適正範囲(70%以上)より小さくなり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が40.08%と適正範囲(75%以上)より小さくなったため、可視光線領域の光を十分に透過できず、また波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が21.99%と適正範囲(50%以下)内であり、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が9.55%と適正範囲(10%以下)内であったけれども、(%Tv)/(%Ts)の比が1.72と適正範囲(1.8以上)より小さくなったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が低く、更にヘーズが4.58%と適正範囲(1.0%以下)より大きくなったため、可視光線の透過性が低下した。
【0033】
また、モリブデン系低次酸化物粒子を示す一般式:X
aMoO
bのbが2.88〜2.98と適正範囲(2.62≦b≦2.85)より大きい比較例1及び4〜6では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が47.16%(比較例6)と適正範囲(70%以上)より小さいものがあり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が52.12%(比較例6)と適正範囲(75%以上)より小さくなったため、可視光線領域の光を十分に透過できないものがあり、また波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が51.74%(比較例5)と適正範囲(50%以下)より大きいものがあり、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が11.54〜36.11%と適正範囲(10%以下)より全て大きくなり、(%Tv)/(%Ts)の比が1.03〜1.70と適正範囲(1.8以上)より全て小さくなったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が殆ど全て低くなり、更にヘーズが4.58%及び3.93%と適正範囲(1.0%以下)より大きかったため、可視光線の透過性が低下したものがあった。
【0034】
これらに対し、モリブデン系低次酸化物粒子を示す一般式:X
aMoO
bのbが2.62〜2.84と適正範囲(2.62≦b≦2.85)内にある実施例1〜12では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が70.08〜85.75%と適正範囲(70%以上)内であり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が77.58〜87.03%と適正範囲(75%以上)内であったため、可視光線領域の光を十分に透過でき、また波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が33.54〜46.84%と適正範囲(50%以下)内であり、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が2.60〜7.95%と適正範囲(10%以下)内であり、(%Tv)/(%Ts)の比が1.80〜2.09と適正範囲(1.8以上)内であったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が向上し、更にヘーズが0.40〜0.92%と適正範囲(1.0%以下)内であったため、可視光線の高い透過性を確保できた。
【0035】
一方、焼成温度が700℃と適正範囲(450〜650℃)より高い比較例3では、モリブデン系低次酸化物粒子を分散媒に分散できなかったため、分散体が得られず、また焼成温度が350℃と適正範囲(450〜650℃)より低い比較例4では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が74.32%と適正範囲(70%以上)内であり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が75.34%と適正範囲(75%以上)内であったため、可視光線領域の光を十分に透過でき、またヘーズが0.43%と適正範囲(1.0%以下)内であったため、可視光線の高い透過性を確保できたけれども、波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が43.83%と適正範囲(50%以下)内であり、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が11.54%と適正範囲(10%以下)より大きくなり、(%Tv)/(%Ts)の比が1.70と適正範囲(1.8以上)より小さくなったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が低くなった。
【0036】
これらに対し、焼成温度が450℃及び650℃と適正範囲(450〜650℃)内の下限値及び上限値である実施例11及び12では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が85.75%及び70.11%と適正範囲(70%以上)内であり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が87.03%及び78.21%と適正範囲(75%以上)内であったため、可視光線領域の光を十分に透過でき、またヘーズが0.44%及び0.90%と適正範囲(1.0%以下)内であったため、可視光線の高い透過性を確保でき、更に波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が46.84%及び35.39%と適正範囲(50%以下)内であり、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が7.83%及び3.58%と適正範囲(10%以下)内であり、(%Tv)/(%Ts)の比が1.83及び1.98と適正範囲(1.8以上)内であったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が向上した。
【0037】
一方、表1〜表4から明らかなように、モリブデン系低次酸化物粒子を示す一般式:X
aMoO
bのうち、XがCsであり、bが2.99と適正範囲(2.62≦b≦2.85)より大きい比較例7では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が49.56%と適正範囲(70%以上)より小さくなり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が60.17%と適正範囲(75%以上)より小さくなったため、可視光線領域の光を十分に透過できず、また波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が42.33%と適正範囲(50%以下)内にあったけれども、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が34.34%と適正範囲(10%以下)より大きくなり、(%Tv)/(%Ts)の比が1.17と適正範囲(1.8以上)より小さくなったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が低くなり、更にヘーズが1.23%と適正範囲(1.0%以下)より大きくなったため、可視光線の透過性が低下した。
【0038】
これに対し、モリブデン系低次酸化物粒子を示す一般式:X
aMoO
bのうち、XがCsであり、bが2.80と適正範囲(2.62≦b≦2.85)内にあった実施例13では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が79.52%と適正範囲(70%以上)内にあり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が82.89%と適正範囲(75%以上)内にあったため、可視光線領域の光を十分に透過でき、また波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が41.22%と適正範囲(50%以下)内であり、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が7.03%と適正範囲(10%以下)内にあり、(%Tv)/(%Ts)の比が1.93と適正範囲(1.8以上)内にあったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が向上し、更にヘーズが0.88%と適正範囲(1.0%以下)内にあったため、可視光線の透過性が向上した。
【0039】
一方、表1〜表4から明らかなように、モリブデン系低次酸化物粒子を示す一般式:X
aMoO
bのうち、XがRbであり、bが2.98と適正範囲(2.62≦b≦2.85)より大きい比較例8では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が54.38%と適正範囲(70%以上)より小さくなり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が60.42%と適正範囲(75%以上)より小さくなったため、可視光線領域の光を十分に透過できず、また波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が40.94%と適正範囲(50%以下)内にあったけれども、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が30.56%と適正範囲(10%以下)より大きくなり、(%Tv)/(%Ts)の比が1.33と適正範囲(1.8以上)より小さくなったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が低くなり、更にヘーズが1.43%と適正範囲(1.0%以下)より大きくなったため、可視光線の透過性が低下した。
【0040】
これに対し、モリブデン系低次酸化物粒子を示す一般式:X
aMoO
bのうち、XがRbであり、bが2.85と適正範囲(2.62≦b≦2.85)内にあった実施例14では、波長380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)が79.88%と適正範囲(70%以上)内にあり、波長380nm〜780nmの可視光線領域における透過率の最大値(%Vr)が81.55%と適正範囲(75%以上)内にあったため、可視光線領域の光を十分に透過でき、また波長300nm〜2600nmの日射透過率(%Ts)が39.43%と適正範囲(50%以下)内であり、波長780nm〜2600nmの赤外線領域における透過率の最小値(%Ir)が9.41%と適正範囲(10%以下)内にあり、(%Tv)/(%Ts)の比が2.02と適正範囲(1.8以上)内にあったため、赤外線(特に近赤外線)の吸収性能が向上し、更にヘーズが0.85%と適正範囲(1.0%以下)内にあったため、可視光線の透過性が向上した。