特開2017-124992(P2017-124992A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-124992(P2017-124992A)
(43)【公開日】2017年7月20日
(54)【発明の名称】害虫防除剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 29/02 20060101AFI20170623BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20170623BHJP
   A01N 25/06 20060101ALI20170623BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20170623BHJP
【FI】
   A01N29/02
   A01P7/04
   A01N25/06
   A01M7/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-5417(P2016-5417)
(22)【出願日】2016年1月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・デュポンフロロケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和之
(72)【発明者】
【氏名】雨貝 真実
(72)【発明者】
【氏名】松本 剛徳
(72)【発明者】
【氏名】矢部 洋正
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 晋矢
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121CB07
2B121CB47
2B121CB51
2B121CB61
2B121CB65
2B121CB69
2B121CC02
2B121CC37
2B121EA01
2B121FA15
4H011AC01
4H011AE01
4H011BA01
4H011BB02
4H011BC01
4H011BC02
4H011BC03
4H011DA21
4H011DB05
4H011DE08
4H011DE16
4H011DG05
4H011DG08
(57)【要約】
【課題】人体への悪影響が殆ど無い組成としながら、害虫に対する行動阻害効果を短時間で十分に得ることができる害虫防除剤を提供する。
【解決手段】害虫に付着させる害虫防除剤において、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫に付着させる害虫防除剤において、
cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含むことを特徴とする害虫防除剤。
【請求項2】
請求項1に記載の害虫防除剤において、
害虫を気化熱によって冷却するための冷却用代替フロンを更に含むことを特徴とする害虫防除剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の害虫防除剤において、
上記害虫防除剤はエアゾール容器に充填され、噴射剤を更に含むことを特徴とする害虫防除剤。
【請求項4】
請求項3に記載の害虫防除剤において、
上記噴射剤はジメチルエーテルであることを特徴とする害虫防除剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の害虫防除剤において、
上記cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを0.74w/v%以上含むことを特徴とする害虫防除剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の害虫防除剤において、
上記cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを10w/v%以下含むことを特徴とする害虫防除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種害虫を防除するための害虫防除剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エアゾール容器に害虫防除剤を充填した害虫防除用エアゾールがゴキブリ等の害虫を防除する際に使用されている。この種の害虫防除剤には、一般的に殺虫成分を含む薬品が混合されている。殺虫成分は、人体に対して良い影響があるとはいえないものなので、例えば食品や食器類が置いてある場所や乳幼児がいる場所等では、使用者側の配慮から害虫防除用エアゾールの使用を控えたり、一切使用しないといった実情があった。
【0003】
そこで、近年、殺虫成分を含む薬品を用いることなく、人体に対しては悪影響が殆どない冷却作用を持った代替フロンを含む害虫防除用エアゾールが使用されるようになっている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1、2の害虫防除用エアゾールは、代替フロンがエアゾール容器に充填されたものである。使用者がヘッドキャップを押動してノズルから噴出される代替フロンを害虫に付着させると、代替フロンの気化熱によって害虫が瞬時に冷却されて害虫の行動が阻害される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−227662号公報
【特許文献2】特開2014−79255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように害虫防除の有効成分として従来の殺虫成分を含む薬品の代わりに代替フロンを用いることで人体への悪影響が殆ど無い害虫防除剤とすることができるという利点がある。
【0006】
しかしながら、害虫防除剤の実際の使用状況を想定すると、害虫は突然現れて動いている場合が多く、しかも、害虫に近づきたくないという心理的な働きや焦りもあり、このような状況下で害虫防除剤を害虫に的確に付着させること自体が難しい。さらに、害虫防除剤が害虫に付着した際、害虫が反射的に逃げてしまうこともある。従来の殺虫成分は害虫の神経系に直接的に作用するので多少狙いが外れていたとしても害虫に付着すれば効果が現れるのが速いのに対し、代替フロンの場合、害虫に対する直接的な毒性という面では極めて低く、害虫に付着しただけでは足りず、害虫を冷却して初めて効果が現れるので、狙い通りに害虫に付着させなければ行動阻害効果が十分に得られない可能性がある。
【0007】
また、害虫自身がある程度の熱量を持っているので、特許文献1、2のような害虫防除剤が害虫に付着したとしても、その付着量が少ないと行動阻害効果が得られないことがあり、そのため使用者は冷却作用による害虫防除剤は効かないという印象を持ってしまい、ひいては安全な害虫防除剤が普及しないことに繋がってしまう。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、人体への悪影響が殆ど無い組成としながら、害虫に対する行動阻害効果を短時間で十分に得ることができる害虫防除剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、人体に悪影響が殆どないcis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含む害虫防除剤とした。
【0010】
第1の発明は、害虫に付着させる害虫防除剤において、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含むことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンが害虫に付着すると、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる害虫の行動阻害効果が得られる。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる害虫の行動阻害効果は、冷却作用によるものではなく、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンが持っている特有の運動機能低下作用によるものであり、その効果は素早く現れる。
【0012】
尚、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは、代替フロンと同様に人体への悪影響が殆どないので、人体に安全な害虫防除剤とすることが可能になる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、
害虫を気化熱によって冷却するための冷却用代替フロンを更に含むことを特徴とする。
【0014】
すなわち、冷却用代替フロンによる冷却効果が現れる前にcis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによって害虫の行動が阻害される。そして、冷却用代替フロンの気化熱によって害虫が冷却されて防除される。また、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる害虫の行動阻害効果が素早く得られるので、その後、害虫防除剤を害虫に更に付着させることが容易になり、害虫防除の確実性が高まる。
【0015】
また、冷却用代替フロンが噴射剤としても機能するので、ジメチルエーテル等の噴射剤を配合しなくてもよい。
【0016】
第3の発明は、第1または2の発明において、
上記害虫防除剤はエアゾール容器に充填され、噴射剤を更に含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、害虫防除剤がエアゾール処方になるので害虫に対して有効成分を容易に付着させることが可能になる。また、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの引火性が低いので、害虫防除剤をエアゾール容器から噴射させる際の安全性が高まる。
【0018】
尚、噴射剤は、例えばジメチルエーテルやLPGや代替フロン等を挙げることができ、これらのうち、任意の1種または2種以上を使用することができる。
【0019】
第4の発明は、第3の発明において、
上記噴射剤はジメチルエーテルであることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、ジメチルエーテルによる害虫の冷却効果が、冷却用代替フロンによる冷却効果に加わって作用するので、害虫の行動阻害効果がより一層高まる。
【0021】
第5の発明は、第1から4のいずれか1つの発明において、
上記cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを0.74w/v%以上含むことを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量を0.74w/v%以上とすることで、害虫防除剤を害虫に付着させた際、特に、付着後、10秒以内における行動阻害効果が顕著に高まる。
【0023】
第6の発明は、第1から5のいずれか1つの発明において、上記cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを10w/v%以下含むことを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、害虫防除剤が例えば床材等に付着した際に、よりクリーン性が保たれて使用感が良好になる。また、害虫防除剤の効力を十分に得ながら、低コスト化が図られる。
【発明の効果】
【0025】
第1の発明によれば、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでいるので、人体への悪影響が殆ど無い組成としながら、害虫に対する行動阻害効果を短時間で十分に得ることができる。
【0026】
第2の発明によれば、冷却用代替フロンを含んでいるので、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによって害虫の行動を阻害した状態で冷却用代替フロンによる冷却効果によって害虫を効果的に防除できる。
【0027】
第3の発明によれば、害虫防除剤がエアゾール容器に充填されるとともに噴射剤を含んでいるので、害虫に対して有効成分を付着させ易くすることができる。また、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの引火性が低いので、害虫防除剤をエアゾール容器から噴射させる際の安全性を高めることができる。
【0028】
第4の発明によれば、噴射剤がジメチルエーテルであるため、害虫に付着した際にジメチルエーテルによる害虫の冷却効果も得ることができる。よって、害虫の行動阻害効果をより一層高めることができる。
【0029】
第5の発明によれば、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを0.74w/v%以上含んでいるので、行動阻害効果を特に素早く得ることができる。
【0030】
第6の発明によれば、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを10w/v%以下含んでいるので、効力を低下させることなく低コスト化を図ることができ、しかも、使用感を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態に係る害虫防除剤の使用状態を説明する概略図であり、試験例1を示す。
図2】試験例2に係る図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係る害虫防除剤の使用状態を説明する図である。実施形態に係る害虫防除剤は、エアゾール容器1に充填され、該エアゾール容器1から噴射させることによって害虫2に付着させるものである。エアゾール容器1は、一般的なものを用いることができ、耐圧容器からなる容器本体1aと、容器本体1aの上部に設けられるヘッドキャップ1bとを有している。容器本体1aの上部には、図示しないが、上下動するステムを備えたバルブが設けられている。バルブはステムを下方へ押動させることによって開放状態になり、開放状態ではステムの内部が容器本体1aの内部と連通する。また、ヘッドキャップ1bの内部には、ステムの内部と連通する通路(図示せず)が形成されている。この通路の下流端部には、ヘッドキャップ1bに設けられたノズル1cが接続されている。尚、エアゾール容器1の構成は上記した構成に限られるものではなく、各種エアゾール容器を使用することができる。
【0034】
害虫防除剤は、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンと、害虫を気化熱によって冷却するための冷却用代替フロンと、冷却用代替フロン及びcis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンをエアゾール容器1から噴射させるための噴射剤とを含んでいる。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは、フッ素化合物の一種であり、沸点は33℃、引火性は低いという特徴を持っている。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは、代替フロンと同様に人体への悪影響が殆どないので、人体に安全な害虫防除剤とすることが可能になる。
【0035】
冷却用代替フロンとしては、害虫2に付着した際に害虫2を気化熱によって冷却して害虫2の行動を阻害するハイドロフルオロカーボン(Hydro Fluoro Carbon)やハイドロフルオロオレフィン等である。これらの冷却用代替フロンは引火性が極めて低いという化学的性質をもっている。そして、本実施形態にあっては、この冷却用代替フロンとして、HFC−152a(1,1−ジフルオロエタン)(化学式:CHFCH、CAS No.75−37−6)、HFC−134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)(化学式:CHFCF、CAS No.811−97−2)、HFO−1234yf(2,3,3,3−テトラフルオロプロペン)(化学式:CFCF=CH、CAS No.754−12−1)、HFO−1234ze(1,3,3,3−テトラフルオロプロペン)(化学式:CFCH=CFH、CAS No.1645−83−6)等を挙げることができる。このHFO−1234yfやHFO−1234zeは、地球温暖化係数(GWP)がHFC−152aよりも低く、しかも引火性もHFC−152aよりも低いといった化学的性質をもつもので、さらに、HFO−1234zeは引火性がない、すなわち不燃性である。これらのことから、冷却用代替フロンとして、HFO−1234yfやHFO−1234zeを用いるのも好ましく、特に、化学的性質を考慮すると、HFO−1234zeがさらに好ましい。
【0036】
また、噴射剤としては、例えばジメチルエーテル、ノルマルブタン、イソブタン、プロパン、これらの混合ガスである液化石油ガス(LPG)である。ただし、これらは引火性があるので、多くを混合すると、引火性が強くなってしまう。このため、これらを混合するとき、冷却用代替フロンの配合量が75体積%を下回らないようにする必要がある。冷却用代替フロンの配合量が75体積%を下回ると、火元等に直接噴射した場合、逆火現象を引き起こすおそれがある。また、沸点の高い炭素数5〜6の炭化水素ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン等を混合しても良いが、燃焼性が高いため、これらの混合比は低く設定する必要がある。その他に、窒素ガス、圧縮空気、炭酸ガス等の圧縮ガスを混合することも可能である。冷却用代替フロンが噴射剤としても機能するので、噴射剤は配合してもしなくてもよい。つまり、噴射剤を配合しなくてもエアゾールとして使用することができる。
【0037】
また、害虫行動阻害剤AにおけるHFC−152a以外の場合の配合について述べると、例えばHFO−1234zeの場合、引火性が強くなるといった問題、すなわち、逆火現象等の問題を考慮すると、HFC−152aと比べて、その配合量を少なくできるものの、50体積%を下回ると、前記問題が発生するおそれがあり、やはり50体積%以上配合するのが好ましい。要するに、HFO−1234zeの配合量としては、50〜100体積%である。
【0038】
本実施形態の害虫防除剤は、噴射箇所に害虫防除剤が残留することがなく、かつ、殺虫成分を含んでいないという特性を持っていることから、屋内での使用に適している。この害虫防除剤の防除対象害虫としては、チャバネゴキブリ、クロゴキブリ、ワモンゴキブリ、トビイロゴキブリ、ヤマトゴキブリ等のゴキブリ類、セアカゴケグモ、ジョロウグモ等のクモ類、ムカデ類、アミメアリ等のアリ類、カメムシ類、トコジラミ等のシラミ類等である。また、イエバエ、ヒメイエバエ、センチニクバエ、ケブカクロバエ、キイロショウジョウバエ、チョウバエ、ノミバエ等のハエ類、アカイエカ、ヒトスジシマカ等のカ類、ハチ類、アメリカシロヒトリ等のガ類等の飛翔昆虫も防除対象害虫となる。さらに、本実施形態に係る害虫防除剤、ピレスロイド抵抗性害虫に対しても防除効果を発揮することができる。これは殺虫成分を含まない処方としているからである。 また、害虫防除剤の使用場所にあっては、食品や食器類のある台所付近や乳幼児が居る部屋を含む一般家庭内、飲食店や病院等、多様な場所を挙げることができる。
【0039】
また、害虫防除剤には、例えば天然精油としてシトロネラオイル、タイムオイル、ペパーミントオイル、ラベンダーオイル、コリアンダーオイル、シダーウッドオイル、フエンネルオイル、カモミールオイル、シナモンオイル、ピメントオイル、ゼラニウムオイル、クミンオイル、ハッカオイル、クローブオイル、ヒバオイル、レモングラスオイル等を添加してもよい。これらの成分は用途に応じてそれぞれ単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0040】
また、害虫防除剤には、不燃性溶剤である1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(三井・デュポンフロロケミカル株式会社、商品名:バートレルXF)、スリーエムジャパン株式会社のノベック7100、ノベック7200等を添加することもできる。ノベック7100は、メチルノナフルオロブチルエーテル(化学式:CF3(CF2)3OCH3、CAS No.163702−07−6)と、メチルノナフルオロイソブチルエーテル(化学式:CF2HOCH2CF(CF3)2、CAS No.163702−08−7)の混合物である。また、ノベック7200は、エチルノナフルオロブチルエーテル(化学式:(CF2)3CF3OCH2CH3、CAS No.163702−05−4)と、エチルノナフルオロイソブチルエーテル(化学式:CF2CF(CF3)2OCH2CH3、CAS No.163702−06−5)の混合物である。これらを任意の割合で混合して用いることもできる。
【0041】
このように不燃性溶剤を用いることで、引火が起こり難くなる。さらに、これらの溶剤は、低沸点であり、常温で蒸散するので、床材等に付着した後に残留し難く、屋内等で使用した際の噴射跡が残らない。また、害虫への付着浸透性が高く、しかも、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンは、それ自身が冷却作用をもつため、害虫への冷却効果をさらに高めることができる。
【0042】
また、害虫への付着浸透性や窒息効果の高い薬剤を用いることによっても、害虫の防除をより一層効果的に行うことができる。この薬剤としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素等の炭化水素、エタノール、イソプロピルアルコール、メタノール等のアルコール類、エステル類、植物油類、動物油類、水等が挙げられる。
【0043】
また、害虫に対する行動阻害効果を損なわず、かつ、人体への安全性を損なわない範囲で他の薬剤等を添加することもできる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0045】
(試験例1)
試験例1は、表1に示すように、比較例1と、実施例1〜7の効力の差を得るための試験である。
【0046】
【表1】
【0047】
試験方法は図1に示す通りである。まず、比較例1、実施例1〜7のそれぞれの害虫防除剤を充填したエアゾール容器1を用意する。そして、供試虫である害虫2をフローリング3上に置く。害虫2は、クロゴキブリ成虫の雌で1匹とした。害虫2は、フローリング3上面の正方形領域(1辺の寸法A)の内部を自由に移動できるように放している。寸法Aは30cmとした。エアゾール容器1は、害虫2の斜め上方に配置し、ノズル1cの先端口と害虫2との距離Lが60cmとなるように設定する。噴射直後と、噴射してから10秒経過した後とで害虫2の状態を観察した。噴射時間は全て4秒間であり、噴射量は16mlである。また、試験室の室温は23℃であった。
【0048】
比較例1の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、ジメチルエーテル(DME)を含んでおり、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは含んでいない。HFO−1234zeの含有量は、180ml(70w/v%)、DMEの含有量は、120ml(27w/v%)であり、合計で300mlである。尚、「w/v%」は重量体積パーセントである。
【0049】
実施例1の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.91ml、DMEは103.02ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.07ml(0.65w/v%)であり、合計で230mlである。
【0050】
実施例2の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.83ml、DMEは102.95ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.21ml(0.74w/v%)であり、合計で230mlである。
【0051】
実施例3の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.75ml、DMEは102.89ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.36ml(0.83w/v%)であり、合計で230mlである。
【0052】
実施例4の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.68ml、DMEは102.83ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.50ml(0.91w/v%)であり、合計で230mlである。
【0053】
実施例5の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.60ml、DMEは102.76ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.64ml(1.00w/v%)であり、合計で230mlである。
【0054】
実施例6の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは121.98ml、DMEは99.80ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは8.21ml(5.00w/v%)であり、合計で230mlである。
【0055】
実施例7の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは117.46ml、DMEは96.11ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは16.43ml(10.00w/v%)であり、合計で230mlである。
【0056】
また、表1に示す「△」とは噴射前と比較して徘徊の速度があまり変わらないが、動きに異常が見られた場合であり、「○」とは噴射前と比較して明らかに徘徊の速度が遅くなった場合であり、「◎」とは身動きしない、または徘徊できない状態になった場合である。尚、比較例1、実施例1〜7のそれぞれで試験を5回行っている。
【0057】
表1から分かるように、比較例1では噴射直後において「△」となった害虫2が存在しており、これらの害虫2では徘徊の速度があまり変わらない場合があったのに対し、実施例1〜7では噴射直後において「△」となった害虫2はいなかった。つまり、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンが害虫に付着すると、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる害虫の行動阻害効果が得られる。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる害虫の行動阻害効果は、冷却作用によるものではなく、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンが持っている特有の運動機能低下作用によるものであり、その効果は素早く現れることが分かる。
【0058】
また、実施例2では、噴射直後及び噴射10秒後の両方で「△」となった害虫2はいなかった。よって、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量を0.74w/v%以上とすることで、害虫防除剤を害虫2に付着させた際、特に、付着後、10秒以内における行動阻害効果が顕著に高まることが分かる。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量の特に好ましい範囲は、0.83w/v%以上であり、この範囲にすることで、噴射直後に身動きしない害虫2が3匹存在した。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量のより好ましい下限量は0.91w/v%以上である。
【0059】
また、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量を増やすほど害虫2の行動阻害効果が高まることが分かるが、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量を増やすと、噴射後にフローリング3上に残る薬剤が多くなり、クリーン性が悪化するので、上限量は10w/v%以下が好ましく、より好ましくは5w/v%以下である。また、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの上限量を10w/v%以下にすることで害虫防除剤のコストを低減することができる。
【0060】
(試験例2)
試験例2は、表2に示すように、様々な害虫に対する比較例1と実施例2の効力の差を得るための試験である。
【0061】
【表2】
【0062】
試験方法は図2に示す通りである。まず、比較例1、実施例2のそれぞれの害虫防除剤を充填したエアゾール容器1を用意する。そして、供試虫である害虫2を傾斜させた平面上に置き、その害虫2を囲むように両端が開放した円筒状部材4を設置する。円筒状部材4に入れる害虫2は1匹とした。害虫2は、円筒状部材4の内部を自由に移動できるように放している。円筒状部材4の内径Bは20cmとし、高さは20cmとした。エアゾール容器1は、害虫2の斜め上方に配置し、ノズル1cの先端口と害虫2との距離Lが60cmとなるように設定する。噴射直後の害虫2の状態を観察した。噴射時間は表2に示す通りであり、害虫2によって変えている。また、試験室の室温は23℃であった。
【0063】
また、表1に示す「×」とは効果がなかった場合であり、「△」とはあまり効果はなかった場合であり、「○」とは効果があった場合であり、「◎」とは非常に効果があった場合である。尚、比較例1、実施例2のそれぞれで試験を3回行っている。
【0064】
表2からも分かるように、実施例2では全ての害虫2に対して効果があり、その大部分で非常に効果があった。一方、比較例1ではアミメアリやムカデに対してはあまり効果がないか、全く効果がなかった。
【0065】
実施例2の組成で各種害虫に効果があったので、他の実施例1、3〜7の組成でも同様に効果があると推定される。このことから、本発明の実施形態に係る害虫防除剤は、ゴキブリだけではなく、ガ類、カメムシ類、シラミ類、アリ類、クモ類、ムカデ類に対しても高い行動阻害効果が得られることが分かる。特に、ガ類に対しては2秒間という極めて短時間の噴射であっても非常に高い効果が得られた。
【0066】
(試験例3)
試験例3は、噴射剤をLPGとし、かつ、冷却用代替フロンを含まない実施例8の効力を確認するための試験である。
【0067】
【表3】
【0068】
試験方法、条件及び評価は試験例2と同じである。実施例8の害虫防除剤は、噴射剤としてのLPGと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとを含んでおり、HFO−1234zeは含んでいない。LPG(LPG0.28)は228.79ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.21ml(0.74w/v%)であり、合計で230mlである。
【0069】
LPGはDMEに比べて害虫2に付着した際の冷却効果が低いので、試験例1、2の実施例1〜7に比べて行動阻害効果が低下することが予測されたが、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる行動阻害効果が高いため、各害虫2に対して効果が得られることが分かる。害虫2に対する冷却効果の低いLPGを噴射剤として用いても十分な行動阻害効果が得られることから、噴射剤は必須ではない。特に、ガ類に対しては2秒間という極めて短時間の噴射であっても非常に高い効果が得られた。
【0070】
また、実施例8ではHFO−1234zeを含んでいないので、試験例1、2の実施例1〜7に比べて行動阻害効果が低下することが予測されたが、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる行動阻害効果が高いため、各害虫2に対して効果が得られることが分かる。よって、冷却用代替フロンは必須ではない。つまり、害虫防除剤は、少なくともcis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでいればよく、冷却用代替フロン、噴射剤を含んでいなくてもよいが、含んでいるのがより好ましい。
【0071】
(試験例4)
試験例4は、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとHFO−1234zeとを含んでおり、LPG及びジメチルエーテルは含んでいない実施例9の効力を確認するための試験である。
【0072】
【表4】
【0073】
試験方法、条件及び評価は試験例2と同じである。実施例9では、LPG及びジメチルエーテルのような噴射剤を用いることなく、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとHFO−1234zeの噴射作用を利用してこれら成分を害虫2に付着させるようにしている。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは、1.21ml(0.74w/v%)、HFO−1234zeは、228.79mlであり、合計で230mlである。HFO−1234zeは噴射剤及び冷却剤として作用する。一方、比較例2は、HFO−1234zeのみからなるものである。
【0074】
DMEは害虫2に付着した際の冷却効果があるが、この実施例9ではDMEを含んでいないので行動阻害効果が低下することが予測された。しかし、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる行動阻害効果、及びHFO−1234zeによる害虫2の冷却効果の相乗効果により、各害虫2に対して高い効果が得られることが分かる。したがって、LPG及びジメチルエーテルのような噴射剤は必須ではない。特に、ガ類やシラミ類、クモ類に対しては2秒〜3秒間という極めて短時間の噴射であっても非常に高い効果が得られた。
【0075】
また、実施例1〜7、9では、HFO−1234zeを含んでいる場合について例示したが、HFO−1234zeの代わりに、他の冷却用代替フロン、例えばHFC−152a、HFC−134a、HFO−1234yf等であっても害虫に付着した際の気化熱は同様であるため同様な行動阻害効果が得られる。
【0076】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、本発明に係る害虫防除剤は、例えばゴキブリ類等の害虫を防除するのに使用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 エアゾール容器
1a 容器本体
1b ヘッドキャップ
1c ノズル
図1
図2