【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。
【0045】
(試験例1)
試験例1は、表1に示すように、比較例1と、実施例1〜7の効力の差を得るための試験である。
【0046】
【表1】
【0047】
試験方法は
図1に示す通りである。まず、比較例1、実施例1〜7のそれぞれの害虫防除剤を充填したエアゾール容器1を用意する。そして、供試虫である害虫2をフローリング3上に置く。害虫2は、クロゴキブリ成虫の雌で1匹とした。害虫2は、フローリング3上面の正方形領域(1辺の寸法A)の内部を自由に移動できるように放している。寸法Aは30cmとした。エアゾール容器1は、害虫2の斜め上方に配置し、ノズル1cの先端口と害虫2との距離Lが60cmとなるように設定する。噴射直後と、噴射してから10秒経過した後とで害虫2の状態を観察した。噴射時間は全て4秒間であり、噴射量は16mlである。また、試験室の室温は23℃であった。
【0048】
比較例1の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、ジメチルエーテル(DME)を含んでおり、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは含んでいない。HFO−1234zeの含有量は、180ml(70w/v%)、DMEの含有量は、120ml(27w/v%)であり、合計で300mlである。尚、「w/v%」は重量体積パーセントである。
【0049】
実施例1の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.91ml、DMEは103.02ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.07ml(0.65w/v%)であり、合計で230mlである。
【0050】
実施例2の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.83ml、DMEは102.95ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.21ml(0.74w/v%)であり、合計で230mlである。
【0051】
実施例3の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.75ml、DMEは102.89ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.36ml(0.83w/v%)であり、合計で230mlである。
【0052】
実施例4の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.68ml、DMEは102.83ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.50ml(0.91w/v%)であり、合計で230mlである。
【0053】
実施例5の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは125.60ml、DMEは102.76ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.64ml(1.00w/v%)であり、合計で230mlである。
【0054】
実施例6の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは121.98ml、DMEは99.80ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは8.21ml(5.00w/v%)であり、合計で230mlである。
【0055】
実施例7の害虫防除剤は、HFO−1234zeと、DMEと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでおり、HFO−1234zeは117.46ml、DMEは96.11ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは16.43ml(10.00w/v%)であり、合計で230mlである。
【0056】
また、表1に示す「△」とは噴射前と比較して徘徊の速度があまり変わらないが、動きに異常が見られた場合であり、「○」とは噴射前と比較して明らかに徘徊の速度が遅くなった場合であり、「◎」とは身動きしない、または徘徊できない状態になった場合である。尚、比較例1、実施例1〜7のそれぞれで試験を5回行っている。
【0057】
表1から分かるように、比較例1では噴射直後において「△」となった害虫2が存在しており、これらの害虫2では徘徊の速度があまり変わらない場合があったのに対し、実施例1〜7では噴射直後において「△」となった害虫2はいなかった。つまり、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンが害虫に付着すると、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる害虫の行動阻害効果が得られる。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる害虫の行動阻害効果は、冷却作用によるものではなく、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンが持っている特有の運動機能低下作用によるものであり、その効果は素早く現れることが分かる。
【0058】
また、実施例2では、噴射直後及び噴射10秒後の両方で「△」となった害虫2はいなかった。よって、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量を0.74w/v%以上とすることで、害虫防除剤を害虫2に付着させた際、特に、付着後、10秒以内における行動阻害効果が顕著に高まることが分かる。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量の特に好ましい範囲は、0.83w/v%以上であり、この範囲にすることで、噴射直後に身動きしない害虫2が3匹存在した。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量のより好ましい下限量は0.91w/v%以上である。
【0059】
また、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量を増やすほど害虫2の行動阻害効果が高まることが分かるが、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの含有量を増やすと、噴射後にフローリング3上に残る薬剤が多くなり、クリーン性が悪化するので、上限量は10w/v%以下が好ましく、より好ましくは5w/v%以下である。また、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンの上限量を10w/v%以下にすることで害虫防除剤のコストを低減することができる。
【0060】
(試験例2)
試験例2は、表2に示すように、様々な害虫に対する比較例1と実施例2の効力の差を得るための試験である。
【0061】
【表2】
【0062】
試験方法は
図2に示す通りである。まず、比較例1、実施例2のそれぞれの害虫防除剤を充填したエアゾール容器1を用意する。そして、供試虫である害虫2を傾斜させた平面上に置き、その害虫2を囲むように両端が開放した円筒状部材4を設置する。円筒状部材4に入れる害虫2は1匹とした。害虫2は、円筒状部材4の内部を自由に移動できるように放している。円筒状部材4の内径Bは20cmとし、高さは20cmとした。エアゾール容器1は、害虫2の斜め上方に配置し、ノズル1cの先端口と害虫2との距離Lが60cmとなるように設定する。噴射直後の害虫2の状態を観察した。噴射時間は表2に示す通りであり、害虫2によって変えている。また、試験室の室温は23℃であった。
【0063】
また、表1に示す「×」とは効果がなかった場合であり、「△」とはあまり効果はなかった場合であり、「○」とは効果があった場合であり、「◎」とは非常に効果があった場合である。尚、比較例1、実施例2のそれぞれで試験を3回行っている。
【0064】
表2からも分かるように、実施例2では全ての害虫2に対して効果があり、その大部分で非常に効果があった。一方、比較例1ではアミメアリやムカデに対してはあまり効果がないか、全く効果がなかった。
【0065】
実施例2の組成で各種害虫に効果があったので、他の実施例1、3〜7の組成でも同様に効果があると推定される。このことから、本発明の実施形態に係る害虫防除剤は、ゴキブリだけではなく、ガ類、カメムシ類、シラミ類、アリ類、クモ類、ムカデ類に対しても高い行動阻害効果が得られることが分かる。特に、ガ類に対しては2秒間という極めて短時間の噴射であっても非常に高い効果が得られた。
【0066】
(試験例3)
試験例3は、噴射剤をLPGとし、かつ、冷却用代替フロンを含まない実施例8の効力を確認するための試験である。
【0067】
【表3】
【0068】
試験方法、条件及び評価は試験例2と同じである。実施例8の害虫防除剤は、噴射剤としてのLPGと、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとを含んでおり、HFO−1234zeは含んでいない。LPG(LPG0.28)は228.79ml、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは1.21ml(0.74w/v%)であり、合計で230mlである。
【0069】
LPGはDMEに比べて害虫2に付着した際の冷却効果が低いので、試験例1、2の実施例1〜7に比べて行動阻害効果が低下することが予測されたが、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる行動阻害効果が高いため、各害虫2に対して効果が得られることが分かる。害虫2に対する冷却効果の低いLPGを噴射剤として用いても十分な行動阻害効果が得られることから、噴射剤は必須ではない。特に、ガ類に対しては2秒間という極めて短時間の噴射であっても非常に高い効果が得られた。
【0070】
また、実施例8ではHFO−1234zeを含んでいないので、試験例1、2の実施例1〜7に比べて行動阻害効果が低下することが予測されたが、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる行動阻害効果が高いため、各害虫2に対して効果が得られることが分かる。よって、冷却用代替フロンは必須ではない。つまり、害虫防除剤は、少なくともcis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンを含んでいればよく、冷却用代替フロン、噴射剤を含んでいなくてもよいが、含んでいるのがより好ましい。
【0071】
(試験例4)
試験例4は、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとHFO−1234zeとを含んでおり、LPG及びジメチルエーテルは含んでいない実施例9の効力を確認するための試験である。
【0072】
【表4】
【0073】
試験方法、条件及び評価は試験例2と同じである。実施例9では、LPG及びジメチルエーテルのような噴射剤を用いることなく、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンとHFO−1234zeの噴射作用を利用してこれら成分を害虫2に付着させるようにしている。cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンは、1.21ml(0.74w/v%)、HFO−1234zeは、228.79mlであり、合計で230mlである。HFO−1234zeは噴射剤及び冷却剤として作用する。一方、比較例2は、HFO−1234zeのみからなるものである。
【0074】
DMEは害虫2に付着した際の冷却効果があるが、この実施例9ではDMEを含んでいないので行動阻害効果が低下することが予測された。しかし、cis-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンによる行動阻害効果、及びHFO−1234zeによる害虫2の冷却効果の相乗効果により、各害虫2に対して高い効果が得られることが分かる。したがって、LPG及びジメチルエーテルのような噴射剤は必須ではない。特に、ガ類やシラミ類、クモ類に対しては2秒〜3秒間という極めて短時間の噴射であっても非常に高い効果が得られた。
【0075】
また、実施例1〜7、9では、HFO−1234zeを含んでいる場合について例示したが、HFO−1234zeの代わりに、他の冷却用代替フロン、例えばHFC−152a、HFC−134a、HFO−1234yf等であっても害虫に付着した際の気化熱は同様であるため同様な行動阻害効果が得られる。
【0076】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。