【解決手段】2種類以上の化合物の混合物を分離するための液体クロマトグラフィ方法であって、混合比が異なる2種以上の混合溶媒又は単独溶媒において薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィを行う工程(1)、工程(1)の結果に基づいてサンプル中の化合物それぞれについて溶媒の混合比率と溶出度との関係式を作成する工程(2)、及び、関係式に基づいて最適条件を決定して液体クロマトグラフィを行う工程(3)を有する。
前記工程(3)における最適条件の決定は、工程(2)によって得られた関係式から、溶出時間及び分離度を算出することによって行う請求項1記載の液体クロマトグラフィ方法。
混合比が異なる2種以上の混合溶媒又は単独溶媒において行った薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果に基づいてサンプル中の化合物それぞれについて溶媒の混合比率と溶出度との関係を作成する計算式作成手段、及び
当該計算式作成手段の結果に基づいて、液体クロマトグラフィの最適条件を決定する液体クロマトグラフィ結果予測手段
を有することを特徴とする液体クロマトグラフィ補助装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
例えば、上述した特許文献1及び特願2015―152510に記載した発明においては、薄層クロマトグラフィの結果に基づいてサンプル中の化合物それぞれについて溶媒の混合比率と溶出度との関係を作成するものである。しかし、これらの発明においては、基本的に1種類の溶媒混合比率に対して薄層クロマトグラフィを行い、その結果に基づいて任意の混合比率に対応した溶出度を算出している。
【0016】
すなわち、引用文献1や特願2015―152510の発明においては、
図1に示すように、測定対象となる化学種に関わらず、溶媒の混合比と溶出度を示すグラフは、同一の傾きを有するとの前提に基づいて溶出結果の予測を行ってきた。
このような予測は多くの場合には妥当な溶出結果の予測を行うことができる。しかし、2種以上の分離対象化合物の組み合わせによっては、良好な分離ができない場合があった。
【0017】
本発明者は、このように引用文献1や特願2015―152510の発明において良好な予測ができない場合について、その原因の検討を行った。
その結果、このような分離ができないのは、
図2に示したような分離対象化合物によって微妙に傾きが相違する場合であることが明らかになった。更に、2つの直線が交差する点を有するようなサンプルの場合には、交差点付近の溶媒混合比で液体クロマトグラフィを行うと、全く分離ができなくなってしまう場合がある。
【0018】
2つの直線が交差する部分を有するようなサンプルの場合、交差する溶媒混合比又はその近傍で液体クロマトグラフィを行うと、満足される程度の分離が得られない。特許文献1や特願2015―152510に記載した方法で1点の薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果のみに基づいてクロマトグラフィの結果を予測すると、
図2に示したような2つの直線が交差する場合が想定されていない。
【0019】
本発明は、このような点を検討し、薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィをサンプルに対して2つの混合比の混合溶媒又は単独溶媒に対して行い、これらの2点の結果に基づいて液体クロマトグラフィの結果を予測したり、液体クロマトグラフィを実施したりするものである。
【0020】
2点の混合溶媒又は単独溶媒に対して薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィを行う方法は特に限定されず任意の方法で行うことができる。なかでも、二次元薄層クロマトグラフィによって行うことが最も好ましい。
【0021】
二次元薄層クロマトグラフィは、
図11に記載したような手法である、すなわち、正方形又は長方形の薄層板の隅にサンプリングを行い、
図11のSTEP1において一方向への展開を行い、STEP2において別方向への展開を行う。
そしてこれら2段階の展開において、それぞれ別の混合比の混合溶媒を用いて行う。これによって、簡便に混合比率が異なる2種の混合溶媒についての薄層クロマトグラフィを行うことができる。
【0022】
図11の(A)に示したような結果の場合は、最初の展開でR
f値が大きかったサンプルが二回目の展開でもより大きいR
f値を有することとなる。この場合は、2回のTLCを行った際の2種の溶媒の混合比の間で交点は生じない。
しかし、
図11の(B)に示した結果の場合、最初の展開でRf値が大きかったサンプルが二回目の展開ではより小さいR
f値を有することとなる。このような場合に、溶媒の混合比と溶出度との関係を示すと、
図2のように、2回のTLCを行った際の2種の溶媒の混合比の間で二つのグラフの交点がある。このような場合、交点近傍ではサンプルの分離を行うことができない。
【0023】
本発明においては、カラムクロマトグラフィによって、溶媒混合比と分離度の関係を明らかにすることもできる。ここでのカラムクロマトグラフィは、固定相を充填した通常のカラムを使用して、溶出時間を測定することによって行うことができる。
【0024】
以上の観点から、2種の混合溶媒についての薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィを行い、これらをプロットすることで溶媒の混合比と分離度との関係を明確にし、分離対象化合物のそれぞれの関係を明確にすることで、液体クロマトグラフィの適正な条件を知ることができる。
【0025】
例えば、
図2に示したような関係の場合は、2つの直線が交差するB
0付近では、分離能が悪くなる。本発明の方法で関係式を作成した場合は、このような
図2の場合にも対応することができる。すなわち、
図2のグラフから、このB
0の値から離れた溶媒混合比での液体クロマトグラフィを行うことが望ましいと明らかになる。更に、
図2に示した特定の溶媒混合比に対応するΔに基づいて分離度を評価することもできる。
【0026】
これによって、従来よりも液体クロマトグラフィの良好な予測を行うことができ、液体クロマトグラフィにおける分離を効率よく行うことができる。
【0027】
なお、上記薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィにおいては、固定相としては、実際の液体クロマトグラフィに使用されるカラムの充填剤と同一のものを使用することが望ましい。
【0028】
本発明における発明を実施する場合、溶媒の混合比と分離度との関係は、公知の任意の方法を使用することができるが、なかでも、特願2015―152510に記載した方法における関係式(方法1)又は上記特許文献1に記載した関係式(方法2)のいずれかであることが好ましい。これらの関係式は、液体クロマトグラフィを行う上で、重要になる式であり、これに上述したような本発明の方法を適用することで、従来以上に液体クロマトグラフィの予測精度が向上する。
以下、これらの方法についてそれぞれ説明する。
【0029】
(方法1について)
特願2015-152510は、液体クロマトグラフィについて、溶媒の混合比と溶出時間との関係について
logk’=alogB+b (1)
(ただし、
保持比:k’=(t
R-t
0)/t
0 (2)
溶媒比率:B
溶出に使用される溶媒系によって決定される定数:a)
との関係式が成立することを開示している。
【0030】
特願2015-152510においては、化合物にかかわらず溶媒系が同一であればaは同一になるとの前提で計算を行っているが、本発明においては、化合物によるaの変化も考慮して計算を行う。この場合の具体的な方法について、以下に説明する。
【0031】
以下に、当該一般式に対して本発明を適用するための具体的な方法について、更に詳細な説明を行う。
当該方法1においては、以下の式(2)
k’=(t
R-t
0)/t
0 (2)
によって保持比k’を定義する。
ここで、t
0は溶出溶媒が特定のカラム中を通過するのに必要とされる時間又は非保持サンプルがカラム中を通過するのに必要な時間であり、カラムのサイズ、形状等によって決定されるカラム固有の値である。
t
Rは、対象となるサンプルが特定のカラム(上記t
0と同一のカラムである)中を通過するのに必要とされる溶出時間である。t
0はカラム固有の定数であるから、このk’によってカラムの長さによらないサンプルの保持力を表すことができる。さらに、k’が明らかになれば、これに基づいてt
0が明らかになっているカラムを使用した場合の溶出時間t
Rを求めることもできる。
【0032】
式(1)において、Bは、溶媒の混合比であり、例えば、X,Yの2種の溶剤の混合系での液体クロマトグラフィを行う場合、いずれか一方の溶媒の割合を示す値である。当該混合比は、モル分率(mol%)、体積比(vol%)、重量比(wt%)等のいずれであっても、一定の相関性を示すため、これらのうち、任意のものを使用することができる。
【0033】
なお、数学的な理論からみて、対数の底がいかなる値であっても、同様の関係が成立するものであることから、本発明の実施において、対数の底は任意のものであってよく、特に限定されるものでない。
【0034】
本発明においては、化合物毎に上述した一般式で示された式(1)におけるa,bを2つの混合溶媒比に対して薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィを行うことによって求める。
【0035】
すなわち、上述した式(1)は、薄層クロマトグラフィのR
f値に基づいて算出してもよいし、カラムクロマトグラフィによってt
Rを測定することによって行ってもよい。カラムクロマトグラフィを行う場合は、その測定結果から直接的にk’を算出することができるが、薄層クロマトグラフィの測定結果はR
f値として得られるものであるから、これをk’に変換する必要がある。
【0036】
以下、R
f値とk’との関係を説明する。
一般に、薄層クロマトグラフィのR
fと液体クロマトグラフィにおけるt
0とt
Rの間には、
t
R=t
0/R
f
の関係が成立することが知られている。
このため、R
fを測定すれば、これによって、t
0とt
Rとの関係が明らかとなり、これを一般式(2)に代入することで、上記一般式のk’が求められる。
【0037】
具体的には、
k’=(1/R
f)−1
である。
上記した方法に基づいて、化合物について2点の測定を行った薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィについての保持比k’、溶媒比率Bにより、上記a、bを化合物毎に算出することができる。これによって、上記各化合物に対して式(1)を容易に得ることができる。
【0038】
(分離度Rsについて)
このようにして算出された各化合物に対応した上記式(1)を用いることで、特定の液体クロマトグラフィ方法によって、サンプル中に含まれる化合物がどの程度良好に分離できるかの指標として、以下の分離度Rsを算出することができる。すなわち、このRsは、特定の液体クロマトグラフィ方法によって2つのサンプルがどの程度良好に分離されるかを示す指標であり、この分離度Rsを算出することで、良好な分離を行えるような分離方法であるか否かを確認できる。よって、これを液体クロマトグラフィ方法の評価の指標とすることができる。このような方法による評価の具体的な算出方法を以下に示す。
【0039】
化合物1、化合物2が含まれるサンプルについて、薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果から
lnk’
1=a
1lnB+b
1 (1−1;化合物1についての関係式)
lnk’
2=a
2lnB+b
2 (1−2;化合物2についての関係式)
を求めることができる。よって、
図1、
図2で示されるその差Δに基づいて、
Δ=lnk’
1−lnk’
2
=lnk’
1/k’
2
=lnα
として、αが求められる。
【0040】
このα=k’
1/k’
2は、選択性因子と言われるもので、特定の充填剤、溶媒系において2成分が分離される程度〔能力〕を表す値である。全く分離されない場合は、
k’
1=k’
2
となり、α=1、Δ=0となる。
通常は、化合物1の式と化合物2の式においては、同一の充填剤、溶媒系においてはa
1=a
2であるため2成分は等しい傾きを持ち、αはb
1とb
2の差のみで決定される値であるが、本発明の場合は、これをより広い範囲に拡張できるよう、a
1及びa
2をそれぞれ、薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果に基づいて算出する。
【0041】
当該αは、
lnα=lnk’
1−lnk’
2=(a
1−a
2)lnB+(b
1−b
2)
α=exp〔(a
1−a
2)lnB+(b
1−b
2)〕
となることから、各化合物についての上記関係式に基づいて算出することができる。
【0042】
更に、分離度Rsとして、下記式(3)
Rs=(N
1/2/4)〔(α−1)/α〕〔k’/(k’+1)〕 (3)
によって、評価を行うことができる。
ここで、Nはカラムの理論段数を示し、αは上述した値である。更に、k’は、化合物1、2のいずれのものか、これらの平均値であることが好ましい。
【0043】
このようにして算出されたRsは、特定のカラムを使用して、特定の混合溶媒を使用した場合にどの程度良好に2つのサンプルを分離できるかを示す指標となる。よって、この分離度に基づいて、適正な液体クロマトグラフィ条件を探索することができる。
また、上述した式に基づいて各サンプルについての溶出時間t
r1、t
r2を求めることができる。これによって、溶出時間、分離度の両面から液体クロマトグラフィ条件を評価することができ、実際の液体クロマトグラフィ操作よりも前に最適な液体クロマトグラフィ条件を知ることができる。
【0044】
さらに、Rsの技術的意義をより明確にするため、
図8を参照する。
図8においては、具体的なRsの値とサンプルの分離状態を表す模式図を示した。
すなわち、Rs=0.8の場合は、溶出曲線において、先に溶出するサンプルの溶出が完全に終了しないうちに次のサンプルが溶出し始める。このため、取得したフラクションのうち溶出曲線が重なった部分においては、両方の化合物が含まれるフラクションが生じ、完全な分離がなされない。
【0045】
図8において、Rsの値が大きくなるにつれて分離度は向上し、Rs=1.2の場合には2つのサンプルの溶出曲線の重なり合う部分は存在せず、これによって良好な分離が図られる。よって、上述したRsを算出することで、分離精度を予測することができる。特に、上記式(3)においては、カラムの理論段数Nが式中に含まれている。よって、カラム選択に際して、どの程度の理論段数Nとすれば、目標とするRs値を達成することができ、良好に分離できるかを知ることができる。
【0046】
更に、サンプル負荷量と使用カラムとの関係についても判断を行うことができ、分離するサンプルの負荷量に対応できる使用カラムの選択も行うことができる。カラムの理論段数Nとサンプルの負荷量gとの間には、
図9の関係がある。
図9に示したグラフは、特定のカラムの特性を示すものであり、特定の理論段数Nに対して特定のカラムにおいて適応可能な負荷量の最大値を示すものである。この関係を利用すれば、カラムにチャージ可能なサンプル負荷量がわかる(特許No.4680761)。
【0047】
一般にサンプルの負荷量が大きいほど、完全な分離を行うためには大きなサイズのカラムを使用する必要が生じる。そして、この負荷量は、理論段数Nとの関係を有するものである。よって、特定の分離において、目標とする分離度Rsを達成するためのNが明らかになれば、このNに対応可能となる負荷量をカラム毎に明らかにすることができる。これによって、目的とする負荷量に対応したカラム選択を行うことができるものである。
【0048】
以下に、このような手法について、更に詳細に説明する。
上述したように、Rsは、1.25程度の値があれば、十分な分離を図ることができる。そして、上記式(3)を用いれば、Rsが1.25となる場合のNの値が明らかとなる。そして、このNに対応した負荷量が
図9の関係からさらに明らかになる。
例えば、
図10には、大きいカラムと小さいカラムの2種類のカラムについて、その特性グラフを示した。この関係から、それぞれのカラムを使用した場合にRs1.25となる分離精度で分離することができるような負荷量が明らかとなる。よって、分離を行うべきサンプル量が明らかとなっていれば、分離を行う際のカラム選択が容易となる。更に、特定のカラムを使用した場合の分離可能な負荷量も明らかにすることができる。
【0049】
(方法1においてグラジエントを行う場合)
液体クロマトグラフィにおいては、グラジエント(すなわち、時間とともに溶媒の混合比を変化させること)を行いながら分離作業を行う場合がある。本発明の方法は、このようなグラジエントを行う場合にも対応可能である。
【0050】
すなわち、化合物1,2についての
lnk’
1=a
1lnB+b
1 (1−1;化合物1についての関係式)
lnk’
2=a
2lnB+b
2 (1−2;化合物2についての関係式)
の関係が明らかになっていれば、これらの関係式に基づいて、グラジエントの具体的な方法、グラジエントを行った場合の溶出時間を算出することで、クロマトグラフィを行うことができる。
【0051】
以下、
図3に基づいて、グラジエントを行う場合について説明する。
図3の場合、B=B0となる溶媒混合比において、2つのグラフは交差する。
その場合は、交差する溶媒混合比Bの近傍を避けるようにしてグラジエントを行うことが好ましい。すなわち、
図3に示す場合は、溶媒混合比がB1〜B2の範囲内でのグラジエトとなるよう、溶媒混合比を選択してグラジエントを行うことが好ましい。より具体的には、より二つのグラフが離れている、B1の溶媒混合比を起点として、B2までのグラジエントを行い、B0またはその近傍の地点を通過しないようなグラジエントパターンを選択することが好ましい。
【0052】
このような場合に好適なグラジエントパターンとしては、例えば、
図4、
図5に示したようなものがあげられる。これらは、いずれも溶媒の混合比を変化させているものであるが、2つのグラフが重なるB0の付近を通らず、ある程度の分離が期待できる溶媒混合比であるB1,B2の範囲内で溶媒混合比を変化させている。
【0053】
更に、上述した式(1−1)、(1−2)中のBをグラジエント方法に対応した時間の関数、
B=B(t)
と置き換えて、これを時間で積分することで、グラジエントを行った場合のサンプルごとの溶出時間を知ることができ、これによってなお一層正確な液体クロマトグラフィの結果を予測することができる。
【0054】
また、このような方法が有効となるのは、2つの化合物についての直線が交差する場合に限らない。交差しない場合でも、傾きの相違が大きい場合は、できるだけ2つの直線が離れた状態となる溶媒混合比を選択し、それに基づいてグラジエント方法を選択することが好ましい。
【0055】
(TLCと液体クロマトグラフィの差異の補正)
上述したTLCによって得られた上記一般式(1)と、液体クロマトグラフィにおけるk’
TとB
Tとの関係式とは完全には一致しない場合がある。
このため、本発明者らは、このような相違を補正する手段についても、検討を行った。
【0056】
上述したように、TLCによって予測した上記関係式(1)のずれが生じている場合、その絶対的な値の補正も重要であるが、二つのグラフの交点B0が存在する場合は、このB0の値のずれについても検討を行うことが重要となる。
【0057】
このようなTLCと液体クロマトグラフィとの間にずれが生じる場合も、多くの場合は、そのずれは化合物による差はそれほど大きくなく、同程度のずれを生じると推測することができる。このため、ずれの程度が同一であるなら、B0は、TLCと液体クロマトグラフィとの間で相違しないものとなる。このため、TLCの結果に基づいて算出されたB0に基づいて液体クロマトグラフィ条件を算出することで、良好な結果を得ることができる。
【0058】
(方法2について)
次いで、特許文献1に示されたような予想方法について、本発明の方法を適用する場合について、説明する。
【0059】
特許文献1においては、R
f値と混合溶媒中のBのmol%との関係式によって、液体クロマトグラフィの結果を予測することが行われている。ここでは、下記式(4)
R
f=aB+b (4)
の関係を2点の薄層クロマトグラフィに基づいて得ることができる。
このような方法に対しても、本発明のように溶媒混合比が異なる2つの薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果を適用して、液体クロマトグラフィの予測を行うこともできる。
【0060】
この場合も、化合物1、化合物2が含まれるサンプルについて、薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果から
R
f1=a
1B+b
1 (4−1;化合物1についての関係式)
R
f2=a
2B+b
2 (4−2;化合物2についての関係式)
の2つの関係式を求めることができ、
α=(k’
1/k’
2)
=〔R
f1(1−R
f2)〕/〔R
f2(1−R
f1)〕
として、αを求めることができる。当該αを用いて、上記式(3)を利用して、Rsを算出することができる。
更に、各成分の溶出時間t
r1、t
r2を求めることもできる。更に、分離度Rsに基づいてNの算出を行い、使用するカラムの選択を行うこともできる。
そして、これらの結果に基づいて上記方法1と同様に、液体クロマトグラフィ方法の評価を行うことができる。
【0061】
(方法2においてグラジエントを行う場合)
方法2において本発明を適用する場合に、溶媒の混合比においてグラジエントを行う場合も、本質的には上記方法1の場合と同一である。すなわち、各成分について、上述した関係式を作成し、得られた関係式において2つの直線が交差する場合は、その交差する溶媒混合比B0から離れており、ある程度R
fの値が遠くなるところでグラジエントを行うことが望まれる。さらに、グラジエントを行った場合の溶出時間を算出するには、溶媒混合比の時間に関する関係式を作成し、これを時間積分することで、R
f値を求めることができ、これに基づいて液体クロマトグラフィを行った場合の溶出時間を得ることができる。
【0062】
(液体クロマトグラフィ装置の構成について)
本発明は、上述した計算式を用いて、効率よく液体クロマトグラフィを行うものである。このような理論を実際に液体クロマトグラフィに適用するに際しては、液体クロマトグラフィの補助装置、液体クロマトグラフの制御装置、液体クロマトグラフィの実行方法及び液体クロマトグラフの制御プログラム等の装置の形態としてもよい。
すなわち、薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果に基づいて、上述したような計算を自動で行い、作業者に対して液体クロマトグラフィ方法についての情報を提示するような、液体クロマトグラフィ補助装置を用いて行うものであってもよい。このような、液体クロマトグラフィの補助装置は、薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果に基づいて上述した方法によって、サンプル中の化合物それぞれについて溶媒の混合比率と溶出度との関係を作成する計算式作成手段、当該計算式作成手段の結果に基づいて、クロマトグラフィの最適条件を決定する液体クロマトグラフィ結果予測手段を有するものである。
【0063】
また、そのほかに、実測値記憶手段、計算式作成手段、液体クロマトグラフィ結果予測手段、液体クロマトグラフィ条件決定手段、混合比制御手段を備えた液体クロマトグラフィ装置としてもよい。
以下に、これらの各手段について詳述する。
【0064】
(実測値記憶手段)
上記実測値記憶手段は、上述した工程(1)による薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果を記憶する手段である。
【0065】
図12において、薄層クロマトグラフィ(TLC)の模式図を示す。
TLCでは、まず、
図12(a)に示すように、試料3が垂らされた状態のシリカゲル薄層2が、に溶離液4中に浸漬される。すると、毛管現象により混合溶液4がシリカゲル薄層2に吸い上げられてゆく。これに伴い、試料3も上方に移動する。溶離液4及び試料3の移動が終了すると、
図12(b)に示すように、試料3は試料3´の位置に移動する。このとき、試料3の混合溶液4中に浸漬される前の位置から、溶離液4の上端までの距離を1.0として、その1.0に対する試料3´までの距離が移動度R
fとして求められる。
【0066】
二次元薄層クロマトグラフィを行う場合は、
図11に示したように、最初に一方向への展開を行った後、もう一方の方向への展開を行う。R
f値は同様に算出することができる。二次元薄層クロマトグラフィによってTLCを行うと、簡便な操作で2回の測定を行えること、各スポットの対応関係が明確であることから、好ましいものである。更に、
図2に示したように、直線同士が交差する場合は、
図11(B)のような状態となることから、交差するか否かが直ちに明らかとなる点でも好ましい。
【0067】
この場合、測定後の薄層板から作業者がR
f値を読み取り、その値を数値として入力するものであってもよいし、薄層クトマログラフィ板を装置の所定の位置に載置させ、画像解析に基づいてR
f値を自動で読み取るものであってもよい。スポットの解析においては、必要に応じて紫外線等の検出光を当てて、これによる発光を利用してスポット位置を読み取る方法等を採用することができる。
【0068】
実測値記憶手段は、上記薄層クロマトグラフィによって得られたR
f値を、溶媒の混合比Bと関連付けて記憶する手段である。このようにして記憶した値を以下の計算式作成手段における計算式の作成に利用する。
【0069】
上述した薄層クロマトグラフィに変えて、カラムクロマトグラフィによってt
Rを測定し、k’を算出するものであってもよい。この場合、通常のカラムを使用したカラムクロマトグラフィを異なる溶媒混合比において行い、そのカラムにおける目的サンプルの溶出時間t
Rを測定する。そして、カラム固有の値であるt
0を用いて、上記式(2)に基づいてk’を求め、このような値を上記実測値記憶手段において記憶するものであってもよい。
【0070】
(計算式作成手段)
本発明における計算式作成手段は、上述した薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果に基づいて、特定の成分についての特定の溶媒系に対する一般式(1)を作成する手段である。
【0071】
上述した計算式作成手段は、更に、薄層クロマトグラフィと液体クロマトグラフィとの数式の差に考慮して、上述した方法で得られた数式に上述した修正を加えるものであってもよい。更に、この計算に際して必要な数値を計算式作成手段中に保存するものであってもよい。また、一般式(3)も作成し、分離度の評価、カラム選択を容易に行えるようにしてもよい。
【0072】
(液体クロマトグラフィ結果予測手段)
分離が必要なすべてのサンプルについて一般式(1)が決定されると、溶離液の混合比及び使用するカラムに対応した溶出時間が予測できる状況ができあがる。また、例えば、
図2に示したようなグラフが作成されれば、これに基づいて作業者は良好な混合溶媒比を容易に推測することができる。更に、具体的な液体クロマトグラフィ条件を入力すると、これに応じた溶出時間を提示することもできる。更に、上述した分離度Rsを表示するものとすることもできる。作業者は、これらの情報を見ることによって、複数種の液体クロマトグラフィ条件の良否を容易に判断することができる。これによって、容易に最適な液体クロマトグラフィ条件(溶媒混合比、使用するカラム等)を実験前に選択することができることとなる。
【0073】
このような液体クロマトグラフィ結果予測手段は、上述した計算式を作業者に提供するものである。更には、上述した計算式に基づいて液体クロマトグラフィの結果を予測し、予測された結果を作業者が一目で条件の適否を判断することができるように、表示手段上に表示するものであることが好ましい。
【0074】
このような液体クロマトグラフィ結果予測の作成、通常のコンピュータによって行うことができ、結果の表示は液晶ディスプレイに代表される一般的な表示装置上に行うことができる。
【0075】
このような液体クロマトグラフィ結果予測の提示としては、例えば、
図14、
図15に示したように、具体的な数値として、溶出時間及び分離度を画像に示すものであってもよいし、
図8に示したような溶出曲線を表示するものであってもよい。
そして、幾つかの測定条件に対応したこれらの値を比較することで、作業者は最適な液体クロマトグラフィ方法を知ることができる。
【0076】
なお、クロマトグラフィ条件の決定においては、カラムの選定も重要な要素となる。上述したように、カラム選定においては、サンプル負荷量も重要な要素となる。すなわち、分離するサンプルの量が多ければ、より大きなカラムが必要となる。このような目的のために必要な情報を画像に示すものであってもよい。
【0077】
すなわち、
図9,10に示したようなNと負荷量との関係についても、必要に応じて画像として表示し、作業者がカラムを選択する場合の助けとしてもよい。
図8、14,15に示したような情報を提供するには、Nの値を決定することが必要であり、このNを決定するには、
図9,10に示したような使用カラムにおけるNと負荷量との関係を知ることが重要となる。よって、液体クロマトグラフィ結果予測を得るための手段は、これらの情報を総合的に有するものであることが好ましい。
【0078】
(クロマトグラフィ条件決定手段)
本発明は、このようにして、液体クロマトグラフィ結果予測手段を利用しながら作業者は自らが作成した又は装置によって推奨された液体クロマトグラフィ条件の評価を行い、最終的に液体クロマトグラフィ条件を決定するものである。
【0079】
(混合比制御手段)
本発明は、上述した液体クロマトグラフィ条件決定手段による決定に基づいて、液体クロマトグラフィが行われるものであってもよい。混合比制御手段は、前記液体クロマトグラフィ条件決定手段に基づいて作業者によって選択された液体クロマトグラフィ条件に基づいて、カラムに送液される前記溶離液の混合比又は溶離液の混合比のグラジエントパターンを制御する制御信号を出力するための手段である。なお、当該混合比制御手段は、公知のものを使用することができ、例えば、特許文献1に開示されたようなものを使用することができる。
【0080】
(液体クロマトグラフの制御装置)
以下、図に基づいて本発明の液体クロマトグラフの制御装置の態様の一例を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す図面に記載されたものに限定されるものではない。
本発明は、必要な要素を備えた液体クロマトグラフィ装置及びこれを制御するコンピュータによって、上述したような各手段によって液体クロマトグラフィを制御する制御装置に関するものであってもよい。
上述したような手法を実際の装置として運用する上での態様の一例について、以下詳述する
【0081】
図13において、液体クロマトグラフ装置11を示す。液体クロマトグラフ装置11は、溶媒Aが貯留された容器12と、溶媒Bが貯留された容器13と、溶媒Aと溶媒Bとが連結された位置に設けられた電磁弁14と、溶離液4が貯留される混合器15と、ポンプ16と、インジェクター17と、カラム18と、検出器19と、フラクションコレクター20とが、この順に配置され経路が形成されている。そして、電磁弁14に液体クロマトグラフ制御装置21が接続されている。
【0082】
容器12には溶媒Aが、容器13には溶媒Bが貯留されている。尚、用いられる溶媒は2種類に限定されず、使用状態・目的に応じて数を増やしてもよい。一般に、溶媒A・溶媒Bには、非極性分子と極性分子との組合せで用いられる。
【0083】
ポンプ16は、液体クロマトグラフ装置11の回路において、容器15・電磁弁14を介して溶媒A・溶媒Bを汲み上げる。電磁弁14は、液体クロマトグラフ制御装置21からの制御信号により、汲み上げられる溶媒を溶媒A又は溶媒Bから選択する。電磁弁14での各溶媒の選択時間に応じて混合器15内での溶媒A、Bの混合比が決定される。混合器15は、汲み上げられた溶媒A及び溶媒Bが一旦貯留され、溶離液10とされる。この溶離液10は、後述するように、算出された混合比を有するものである。
【0084】
インジェクター17は、試料3を有しており、溶離液10が通過することで試料3が送出されるようになっている。尚、インジェクター17は1本に限定されず、選択的に経路を選ぶことができる並設された複数のインジェクターとし、複数の試料について連続的に作業を行うことも可能である。
【0085】
カラム18には固定相が充填されており、混合溶媒10が通過することで液体クロマトグラフが行われる。この固定相としては、
図12におけるシリカゲル薄層板2を形成するシリカゲルが用いられている。尚、カラムは1本に限定されず、選択的に経路を選ぶことができる並設された複数のカラムとし、複数種類の液体クロマトグラフィを行うことも可能である。
【0086】
検知器19は、カラム18にて行われる液体クロマトグラフの結果の検出を行う。そして、フラクションコレクター20は、複数の試験管を有しており、検知器19の分析結果により、試料3に含まれる成分毎に各試験管に分取されるようになっている。
【0087】
上記液体クロマトグラフィ制御装置は、
図13に示したような液体クロマトグラフィを制御するための装置であり、上述したような実測値記憶手段、計算式作成手段、液体クロマトグラフィ結果予測手段、液体クロマトグラフィ条件決定手段、混合比制御手段を内部ハードディスクに有するコンピュータであるか、これらの手段を行うために必要な情報が保管されたサーバーに接続するクライアントコンピュータであることが好ましい。
【0088】
これによって、上述したような計算を行い、液体クロマトグラフィを制御することによって、良好な液体クロマトグラフィを行うものである。
【0089】
(液体クロマトグラフィの実行方法)
上述したような実測値記憶手段、計算式作成手段、液体クロマトグラフィ結果予測手段、液体クロマトグラフィ条件決定手段、混合比制御手段を用いて、液体クロマトグラフィを実行することができる。
【0090】
このような液体クロマトグラフィの実行方法は、実測値記憶手段、計算式作成手段、液体クロマトグラフィ結果予測手段、液体クロマトグラフィ条件決定手段、混合比制御手段を備えた液体クロマトグラフの制御装置を用いて、液体クロマトグラフィを実行する方法であり、このような液体クロマトグラフィの制御装置を使用して、各手段の機能を利用することで液体クロマトグラフィを行う方法である。
【0091】
(液体クロマトグラフの制御プログラム)
本発明は、上述したような実測値記憶手段、計算式作成手段、液体クロマトグラフィ結果予測手段、液体クロマトグラフィ条件決定手段、混合比制御手段を有し、これらによってコンピュータを機能させるための液体クロマトグラフィの制御プログラムでもある。
【0092】
すなわち、上述したような実測値記憶手段、計算式作成手段、液体クロマトグラフィ結果予測手段、液体クロマトグラフィ条件決定手段、混合比制御手段の各手段は、通常、コンピュータによって実行されるものである。本発明は、これらをコンピュータによって実行するための制御プログラムでもある。
【実施例】
【0093】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0094】
(実施例1;特許文献1の関係式による検討)
カフェインとカイネチンの薄層クロマトグラフィを酢酸エチル:メタノールの混合比(体積比)95:5および80:20で行った。カフェインはそれぞれ0.27、0.46、カイネチンは0.23、0.54とR
f値が得られた。この2サンプルのR
f値を縦軸に、溶出力のより強いメタノールの比率(=B%)を横軸にしたグラフにプロットした。結果を
図16に示す。
【0095】
この2成分においてカイネチンの保持比を変化させたときの分離係数αおよび分離度Rsを
図16中の計算式に基づいて算出した。結果を表1に示す。更に、溶媒混合比Bとαの関係を
図17に示し、BとRsとの関係を
図18に示した。
Rs は式(3)より(カラム効率の指標である理論段数Nを100として)算出した。)
2成分の交差する点B0=10% でα=1すなわちRs=0となり、2成分が同時に溶出される(=分離しない)B% を読み取ることができる。
【0096】
従来一様に保持比k’=3を溶出位置のねらいとしてきたが、これは分離度と溶出位置(クロマトグラフィの実施にかかる時間あるいは消費溶媒量と言い換えても良い)の関係がバランス良く、満足される分離度が比較的短い時間、少ない消費溶媒量で達成されるので十分根拠のあることであった。
【0097】
しかし本実施例にあるようにR
f値とB%の関係が化合物毎に相違している場合、k’=3の溶出位置でαが2成分の分離に十分高くないこのような場合では保持比を低く設定した溶出条件、たとえばk’=4〜5、あるいはそれよりも大きく保持を取ってクロマトグラフィを行うことでより高い分離度を達成できる。ただしこの保持比を長めに設定するときでもk’=6程度を上回ればサンプルの溶出は通常予測されるよりも著しく遅れ長時間を要し溶媒量も多く、また溶出されないこともありうるので設定にはk’=6程度の上限を設けておくことが望ましい。
【0098】
【表1】
【0099】
同時に表1のαから、式(3)にもとづいて、特定の溶媒混合比に対応した各k’(B%)におけるRs=1.25(一般にベースライン分離と認められる値である)を達成する必要理論段数Nがわかる。更に、カラムの理論段数Nとサンプルの負荷量gとの間の
図9,10の関係を参照すれば、カラムにチャージ可能なサンプル負荷量がわかる。
【0100】
すなわち、特定のカラムを使用した場合の各B% において分離できる負荷量がわかる。表1中のRsにおいては、ベースライン分離1.25は達成されていない。しかし、サンプル負荷量を減らしていき、分離に必要なNを十分にとれるサンプル量でクロマトグラフィを行えば目的の分離度を得ることができる。サイズの大きなカラムは理論段数Nとサンプルの負荷量gの線形関係がより高いところにあるので(
図10)、ある決まった量のサンプルの分離を試みるとき適切なカラムサイズを選択することも容易に行える。
【0101】
酢酸エチル:メタノールの混合比95:5で薄層クロマトグラフィを行うと2成分は分離しており、また80:20で行っても分離しているが2成分の交差する点90:10のアイソクラッティック溶出や90:10の比率を含むグラジエント溶出をカラムクロマトグラフィに適用すると予測される分離は得られなかった。
【0102】
(実施例2;特願2015-152510の関係式による検討)
上記横軸B%をBmol%に換算しその自然対数をとった値を横軸に、縦軸R
f値を式(2)よりk’に換算しその自然対数をとった値を縦軸にプロットし直線で結んでそれらの直線の一次式とともに描いた。結果を
図19に示す。
図19を利用した場合も分離に不利になる溶媒比率がわかりこの比率を避けたカラムクロマトグラフィを行うことでより高い分離度が達成される。
この2成分においてカイネチンの保持比を変化させたときの分離係数αは表2になる。
【0103】
【表2】
【0104】
従来、一様に保持比k’=3を溶出位置のねらいとしてきたが、これは分離度と溶出位置(クロマトグラフィの実施にかかる時間あるいは消費溶媒量と言い換えても良い)の関係がバランス良く、満足される分離度が比較的短い時間、少ない消費溶媒量で達成されるので十分根拠のあることであった。しかしこの例にあるようにlnk’とlnBmol%の関係が一定でなければ(αが一定でない)k’=3の溶出位置では、αが2成分の分離に十分高くないこともありうる。k’=3で交差するような場合でのアイソクラティッククロマトグラフィでは分離は達成できない。このような場合では保持比を低く設定した溶出条件、たとえばk’=4,5、あるいはそれよりも大きく保持を取ってクロマトグラフィを行うことでより高い分離度を達成できる。ただしこの保持比を長めに設定するときでもk’=6程度を上回ればサンプルの溶出は通常予測されるよりも著しく遅れ長時間を要し溶媒量も多く、また溶出されないこともありうる。よって、設定にはk’=6程度の上限を設けておくことが望ましい。
【0105】
また式(3)から各Bmol%のときの分離度Rs(カラム効率の指標である理論段数Nを100として)が算出されたので、その結果も表2に示した。この分離度RsとBmol%の関係は
図20となり、2成分の交差する点B0=18.2% でRs=0となり、2成分が同時に溶出される(=分離しない)Bmol% を読み取ることができる。
【0106】
式(3)において各k’(Bmol%) における一般にベースライン分離と認められるRs=1.25を達成する必要理論段数Nがわかる。カラムの理論段数Nとサンプルの負荷量gとの間には
図9,10の関係がある。個々の大きさのカラムについて
図9,10の関係のデータを用いれば、カラムにチャージ可能なサンプル負荷量がわかる。すなわち各Bmol% において分離できる負荷量がわかる。例として挙げた表2の分離度はBmol%(k’)をどう変化させて、ベースライン分離1.25は達成されていないが、
図9の関係からサンプル負荷量を減らしていき、分離に必要なNを十分にとれるサンプル量でクロマトグラフィを行えば目的の分離度は達成できる。サイズの大きなカラムは理論段数Nとサンプルの負荷量gの線形関係がより高いところにあるので(
図10)、ある決まった量のサンプルの分離を試みるとき適切なカラムサイズを選択することも容易に行える。
【0107】
上記の例は2成分が交差するものを挙げたが、交差せずともLnαとLnBmol%の関係において2線が平行(同じ傾きを持つ)でなければαは一定ではないので分離に有利な溶媒比率と保持比k’(溶出位置)を事前に予測し、その比率でカラムクロマトグラフィを行うことでより高い分離度を達成することが可能となる。
前記工程(3)における最適条件の決定は、工程(2)によって得られた関係式から、溶出時間及び分離度を算出することによって行う請求項1記載の液体クロマトグラフィ方法。
混合比が異なる2種以上の混合溶媒又は単独溶媒において行った薄層クロマトグラフィ又はカラムクロマトグラフィの結果に基づいてサンプル中の化合物それぞれについて溶媒の混合比率と溶出度との関係を作成する計算式作成手段、及び
当該計算式作成手段の結果に基づいて、液体クロマトグラフィの最適条件を決定する液体クロマトグラフィ結果予測手段
を有することを特徴とする液体クロマトグラフィ補助装置。