【実施例】
【0182】
本発明は、本発明の例として提示される以下の非限定的な実施例を参照することにより
、よりよく理解することができる。以下の例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に
例示するために提示されるものであり、本発明の広範な範囲を限定するものとしてみなさ
れるべきではない。
【0183】
(実施例1)
自己神経系細胞に結合する天然自己抗体(NatAb)の同定
ニューロンに結合する天然血清のヒトIgMを、モノクローナルIgGまたはモノクロ
ーナルIgMの高スパイク(血中に10mg/mlを超える)を伴う候補血清について、
45年間にわたり収集された140,000を超える試料を含有するMayo Clin
ic血清バンクをスクリーニングし、次いで、血清を抗体の生存大脳皮質および生存小脳
のスライスへの結合について調べることにより同定した(31)。次いで、このようなI
gMを陽性試料から精製し、1)単離された初代ニューロンの表面への結合、2)神経突
起伸長を支持するための基板として、3)ストレッサー分子に対するニューロンをアポト
ーシスから保護する能力についてさらに調べた。このスクリーニングプロトコールは、希
突起膠細胞に結合し、MSモデル(22、およびWO0185797において記載されて
いる)における再ミエリン化を促進するヒトIgMを同定するのに使用されるプロトコー
ルに基づく。適切な組織または細胞の表面の認識は、治療用IgMの特徴を規定するのに
重要であると考えられる。
【0184】
2つの新規で異なる血清由来ヒトニューロン結合IgM(sHIgM12およびsHI
gM42)を同定した。これらの血清由来抗体の特定の特徴を表1に列挙する。血清に由
来するsHIgM12およびsHIgM42はまず、神経突起伸長を、強力な基質である
ラミニンと同様に支持し、CNSミエリンによる神経突起成長の阻害を凌駕することがi
n
vitroにおいて示されている(23)。
【0185】
さらなる研究は、マウスにおける夜間1時間当たりの平均自発活動を介して評価される
通り、血清由来のsHIgM12が、TMEV感染マウスにおける自発的機能を改善する
ことを示している(21)。既に同定されているIgM NatAb(sHIgM22お
よびsHIgM46)と異なり、sHIgM12もsHIgM42も脊髄の再ミエリン化
を促進しない。
【0186】
【表1】
【0187】
自己抗体は、病原性であると考えられることが多い。これに対し、本明細書で裏付けら
れる通り、ニューロンに対する自己抗体(sHIgM12およびsHIgM42ならびに
これらに基づく組換え抗体)は、ニューロンを死滅させない。そうではなくて、これらの
IgMは、ニューロンを死滅から保護し、神経突起伸長を促進し、in vivoにおけ
るNAAを増大させ、in vivoのTMEVモデルにおいて軸索を保護し、TMEV
罹患マウスの夜間における自発的機能を改善する。
【0188】
ニューロン結合抗体であるIgM12およびIgM42は、CNS病変におけるニュー
ロンを標的とし、ニューロンの喪失を逆転させ、かつ/またはニューロン損傷またはニュ
ーロン疾患の影響を改善するのに適用可能である。ニューロン結合ヒトIgMは、神経変
性、ニューロン損傷、またはニューロン死滅を伴う多様な疾患および状態に対する固有の
適用を有する治療剤の新たなクラスを代表する。限定せずに述べると、このような疾患に
は、MS、脊髄損傷、ALS、アルツハイマー病、外傷性脳損傷、脳血管事象、または脳
卒中が含まれる。これらのヒトIgMは、動物に全身投与した場合の抗原性が最小限とな
っている。
【0189】
複数種類の生存ニューロンの表面に結合するヒトIgMの同定および特徴付け:
高濃度のIgGまたはIgM(>10mg/ml)を伴う血清試料を、抗体の、生存C
NS組織のスライス(皮質および小脳)におけるニューロン層への結合についてスクリー
ニングした。152例の被験血清のうち、17例のヒト血清が、組織スライスにおいて陽
性であった(23)。
【0190】
抗体sHIgM12および抗体sHIgM42は、ニューロンマーカーであるニューロ
フィラメントまたはβIIIチューブリンで共標識される多種多様なニューロンの表面に
結合する。これらには、小脳顆粒細胞(23)、皮質ニューロン、海馬ニューロン、ヒト
側頭葉の生検に由来するニューロン(
図1)、および網膜神経節細胞(データは示さない
)が含まれる。rHIgM12は、海馬ニューロンの細胞体、神経突起、および成長円錐
を染色させる(データは示さない)。この交差反応性は、ヒトIgMが、MS、筋萎縮性
側索硬化症、または脳卒中など、多くの神経学的状態/疾患において影響を受けるCNS
細胞において作用しうることを示唆する。
【0191】
本データは、sHIgM12またはsHIgM42のニューロン表面への結合が炭水化
物依存性であることを示す。培養物中のニューロンに対するシアリダーゼ処置によりいず
れのヒトIgMの細胞表面への結合も消失する一方、Fumonisin B1によりス
フィンゴ脂質の合成を遮断するか、またはPIPLCによりGPI結合タンパク質を除去
しても、IgMの結合は消失しなかった(23)。ガングリオシドは、これらのヒトIg
Mの抗原の候補物質である。共標識実験では、rHIgM12が、ニューロン膜において
GM1と共に共局在する(実施例11および
図21Cを参照されたい)。
【0192】
sHIgM12およびsHIgM42は、神経突起成長の誘発など、特定の機能的特徴
を共有するが、差異を裏付けており、各々が固有の抗体である。これは、結合研究および
免疫蛍光研究において明らかであり、sHIgM12およびsHIgM42により、小脳
顆粒細胞の表面が異なるパターンで標識される。培養物中のラット小脳顆粒細胞について
の免疫蛍光研究では、ニューロン膜がこれらの2つの抗体の使用により標識されるパター
ンが異なる(
図2)。神経突起膜の小領域には、sHIgM12が結合する結果として、
点状のパターンがもたらされる。神経突起膜の大領域には、sHIgM42が結合する結
果として、分節化の高いパターンがもたらされる。
【0193】
(実施例2)
ヒトIgMは皮質ニューロンを過酸化物誘導性死滅から保護する
再ミエリン化促進ヒトIgMは、培養物中の希突起膠細胞を、活性アポトーシスのマー
カーであるカスパーゼ3の過酸化物誘導性活性化から保護することが示されている(33
)。本明細書で示される通り、sHIgM12またはsHIgM42も、類似のプロトコ
ールにより評価した。sHIgM12またはsHIgM42のそれぞれ、および過酸化物
を、マウス初代皮質ニューロンの培養物へと併せて添加し、24時間後にカスパーゼ3の
活性化度をアッセイした(
図3)。
【0194】
培養されたニューロンをrHIgM12で処置した結果として、カスパーゼ3活性化の
うちの80%に対する保護がもたらされた。また、ニューロンのsHIgM42による処
置も、カスパーゼ3活性化のうちの約40%に対して保護的であった。これらの結果は、
結果としてカスパーゼ3活性化からの保護が10%未満となる対照のヒトIgMと比較し
て有意に異なった(P<0.01)。
【0195】
したがって、ニューロン結合sHIgM12またはニューロン結合sHIgM42は、
皮質ニューロンを、過酸化物により誘導される細胞死から保護した。したがって、神経細
胞損傷(または死滅)誘導剤または神経細胞損傷(または死滅)剤を供給した場合、Ig
M12およびIgM42は、損傷(または死滅)が生じることを個別かつ有意に防止した
。
【0196】
(実施例3)
sHIgM12に由来する組換え抗体
sHIgM12の2つの組換え形態を構築した。各形態では、重鎖および軽鎖について
の組換えIgM22抗体(rHIgM22)について既に用いた発現ベクターと同じ発現
ベクターを用いた(22、28、WO0185797)。ベクターは、SV40プロモー
ターの制御下で発現させた選択用dHfR遺伝子を包含する。マウスJ鎖を伴う部分ヒト
組換えIgM12抗体の形態を、まず以下の通りに構築し、その後、ヒト/マウスハイブ
リドーマ系であるF3B6細胞により抗体を生成させた。
【0197】
組換えIgM12抗体(PAD12)用ベクターの構築は、ヌクレオチドデータベース
に由来するリーダー配列を伴う重鎖可変領域のcDNAと、ヌクレオチドデータベースに
由来するリーダー配列を結合させた完全軽鎖cDNAとを、下記のプライマーを用いる既
に記載された方法(6)と同様の方法で挿入することにより実施した。ベクターを
図4に
示す。組換えヒトIgM12抗体に用いた重鎖および軽鎖の配列を、可変領域および定常
領域に言及して
図5に示す。
【0198】
rHIgM12VHを作製し、これを、データベース(M29812)に由来する、イ
ントロンを伴うリーダー配列(小文字)へと重複伸長を介してスプライシングするのに用
いたプライマー(Horton RMら(1989年)、Gene、77巻:61〜68
頁)は、以下の通りである。
【0199】
【化4】
【0200】
rHIgM12Vkを作製し、これを、データベースに由来する、リーダー配列(小文
字、受託番号:X59312)への重複伸長を介してスプライシングする(soe)のに
用いたプライマーは、以下の通りである。
【0201】
【化5】
【0202】
合成の抗体遺伝子を伴うベクターを、電気穿孔を介してF3B6ハイブリドーマ細胞へ
と導入し、既に記載されている通り(6)に、メトトレキサート(MTX)による増幅を
実施した。
【0203】
略述すると、8百万個のF3B6マウス/ヒトヘテロハイブリドーマ細胞(Ameri
can Type Culture Collection:ATCC)を、Bgl I
Iで直鎖化した10μgのPAD12ベクターと共に、800μlの無血清培地中で10
分間にわたりインキュベートした後で、Biorad Gene Pulser(商標)
(Biorad、Hercules、CA、USA)により0.2Vで電気穿孔した。氷
上で10分間のインキュベーション後、細胞を、10%のウシ胎仔血清(FC)(Gib
co、Carlsbad、CA、USA)を含有するRPMI−1640中で24mlま
で希釈し、24ウェルプレートに播種して37℃でインキュベートし、48時間後、ベク
ターを含有する細胞を、1μMのメトトレキサート(Calbiochem、La Jo
lla、CA、USA)を用いて選択した。2週間にわたるインキュベーション後、コロ
ニーを新たなプレートへと採取し、コンフルエントまで増殖させた。この時点で、上清を
採取し、酵素免疫測定アッセイ(ELISA)を介して、ヒトIgMの存在についてアッ
セイした。陽性コロニーを、さらに2カ月間にわたり、メトトレキサートの用量を1μM
〜200μMの範囲で増大させて選択した。このようにして、10μg/mlを超えるI
gMを産生する細胞を生成した。
【0204】
上記の通りに構築した最初の組換え抗体は、完全ヒト抗体ではない。完全ヒト形態を生
成させるため、CHO細胞(GibcoBRL;型番:11619)を、E1Aプロモー
ターおよびpCI(Promega)においてヒトJ鎖を発現させる構築物の制御下で組
換え重鎖および組換え軽鎖をコードするベクターで共トランスフェクトした。細胞は、1
0%のコスミド(cosmic)クローンを伴うPowerCho1とIMDMとの50
/50混合物中で、メトトレキサートの用量を増大させて選択し、ELISAを介する測
定で抗体を最も多く生成させた2つのクローンをサブクローニングした。サブクローンを
増殖させ、バイアルを凍結させた。いずれの組換えIgM12形態も、ニューロンへの結
合および血清から単離されたIgMのin vivoにおける有効性の特徴を維持するが
、マウスにおける半減期は短い(これは、グリコシル化の差異に起因する可能性がある)
。
【0205】
同様で同等の手順を用いて、同等のベクターにより組換えHIgM42抗体を構築した
。ヒトIgM42抗体の重鎖配列および軽鎖配列を、可変領域および定常領域について言
及して
図6に示す。
【0206】
(実施例4)
rHIgM12の単回末梢投与はMSのTMEVモデルにおける神経機能を改善した
rHIgM12により、培養物中の初代ニューロンが保護され、多発性硬化症(MS)
のTMEVモデルにおける身体障害が軸索喪失と相関する(2)という事実に照らして、
TMEV感染マウスのrHIgM12による処置を用いて、神経欠損の進行を緩徐化する
能力を評価した。
【0207】
軸索の喪失が始まる時点である、TMEV感染の90日後におけるマウス5匹の群を、
rHIgM12 100μgまたは対照のヒトIgM 100μgの単回投与で処置した
。5匹の感染マウスは、各群について無作為に選択し、処置前の機能記録を用いて、ベー
スラインの活性が群間で異ならないことを確認した。マウスは、複数週間における連続3
日間にわたり、活動ボックスを用いて群として追跡した(34、35)。夜間挙動の変化
は、TMEV媒介性疾患における神経欠損の高感度の尺度である。活動ボックスとは、筐
体全体に格子を創出する赤外線ビームを対向させる透明のアクリル製ボックスであって、
水平方向および垂直方向全ての運動を記録するボックスである。アッセイの感度は、後肢
による立脚および歩行を測定する能力を反映する。TMEV感染マウスでは、後肢がこわ
ばり、後肢による立脚が低減される。しかし、ケージ内の自発歩行が重度に影響を受ける
ことはない。後肢がこわばったマウスは、後肢で立脚するより歩く方が容易であり疾患が
進行したマウスでもなお、夜間には極めて活動的でありうる。
【0208】
各処置群は無作為に組み立て、処置前に活動ボックス内に72時間にわたり収容し、次
いで、処置後各週につき72時間にわたり収容した。解析時間である72時間における午
後6時〜午前6時の12時間にわたり、水平方向および垂直方向の活動について、1時間
当たりの平均ビーム遮断回数を計算した。マウスが入眠するので、典型的には遮断が60
0回/時間未満となる、昼間における水平方向および垂直方向の活動に処置群間の差異は
見られなかった。しかし、rHIgM12による処置群では、夜間における水平方向の自
発活動のそれらの処置前のベースラインと比較した増大が記録された(3〜7週間にわた
り:P<0.01)(
図7)。細胞に結合しない対照のヒトIgMは、活動を改善しなか
った。
【0209】
同様の研究において、血清由来のsHIgM12について見られる効果、および、今や
また、組換え抗体rIgM12について見られる効果とも異なり、ヒト抗体sHIgM4
2は、同じ条件下で、TMEV感染マウスの夜間活動を変化させなかった。同じアッセイ
フォーマットにおけるsHIgM42のための代替的な投与パラメータは、夜間活動に対
して異なり、かつ、より肯定的な結果をもたらす。
【0210】
機能の改善についての1つの可能な説明は、有効なIgMが、ウイルス負荷に干渉し、
その結果として、疾患の軽減がもたらされるということである。しかし、これは、説明で
あるとは考えられない。慢性TMEV疾患を伴うマウスを、rHIgM12、sHIgM
42、または対照のIgMの単回投与で処置し、5週間後に脳および脊髄を採取し、次い
で、TMEV RNAゲノムの転写物レベルを、ウイルスタンパク質2に対するプローブ
によるPCRを介して測定した。ウイルス転写物は、群間で異ならなかった(P<0.0
1)(データは示さない)。
【0211】
(実施例5)
脊髄疾患を伴うマウスの脳幹におけるNAAレベル:脊髄全体における軸索保存の非侵
襲的サロゲートマーカー
NAAとは、ニューロン機能と関連する代謝物質である(36、37)。NAAは、脳
において2番目に豊富なアミノ酸であり、ほぼもっぱらニューロンに限定される。脳幹に
おけるNAAレベルの保存は、本発明者らのグループによりTMEVマウスモデルを用い
て検証された脊髄軸索全体の健康の尺度である(8)。脊髄下部の軸索が損傷すると、脳
幹の細胞が死滅し、NAAが低減される。MRSを介して測定されるNAAレベルは、主
にニューロン密度を反映する。NAAは、他の神経細胞でも発現するが、NAAの主な発
現は、ニューロンにおいてである。精製されたCNS細胞のMRSプロファイルを研究す
ると、NAAシグナルの振幅がニューロンにおいて優勢であるのに対し、希突起膠細胞ま
たは星状細胞のNAAシグナルの振幅は、ニューロンにおけるシグナルの、それぞれ、5
%および10%であったことが示される(38)。
【0212】
sHIgM12およびIgM42が軸索機能を保存することによりマウスの活動を改善
する能力をさらに評価するため、本発明者らは、非侵襲的画像化アッセイおよび従来の形
態解析を用いて脊髄軸索を評価した。逆行追跡を用いて、TMEV媒介性疾患の脱髄後に
おける脊髄軸索の機能不全を裏付けた(5)。胸部軸索〜脳幹核における逆行標識の劇的
な低減が測定された。脳幹とは、細胞体の多くが存在する場所であって、脊髄の全長に沿
って長い軸索路を投射する場所である。その後、既に報告されたプロトコール(8)を用
いて、TMEV感染マウスにおいて、磁気共鳴分光法(MRS)を介して、脳幹における
N−アセチルアスパラギン酸(NAA)レベルを評価した(
図8)。
【0213】
本発明者らは、TMEV誘導性疾患を伴うマウスにおいてある時間にわたる脳幹NAA
の低減を観察した(
図9)。NAAレベルは、感染後最初の45日間にわたり低下し、感
染の270日後まで低レベルを保った。TMEVに感染したSJLマウスでは、脊髄脱髄
の程度が感染の90日後までプラトー状態を保つ(39)。このモデルにおいて軸索喪失
が組織学的検査で顕著なのは、この時点においてである(2)。したがって、NAAは、
軸索における機能不全の高感度の尺度である。
【0214】
最後のMRS収集の後、軸索を、T6レベルにおける脊髄断面内の外見が正常な白質の
6つの領域から体系的にサンプリングした。このレベルは、これにより脊髄全体において
ランダムに分布する複数の脱髄病変に由来する軸索喪失が全体的に表される(39)ため
に選択した。本発明者らは、TMEV感染の270日後のSJLマウスにおける軸索は、
非感染対照と比較して30.5%少ない(p<0.001)ことを見出した。脳幹NAA
レベルと脊髄のT6レベルにおける軸索カウントとの間には、正の相関(r=0.823
)が存在することが見出された(8)。
【0215】
ニューロン結合ヒトIgMの単回投与は脳幹におけるNAAレベルおよび脊髄における
軸索を保存する:
ヒトニューロン結合IgMがTMEV感染マウスにおけるNAAレベルまたは軸索カウ
ントを変化させる能力を評価した。TMEV感染マウスを、脊髄軸索の脱落の開始時(感
染の90日後)に、ニューロン結合IgMであるsHIgM12またはsHIgM42
100μgずつの単回投与で処置したところ、10週間後に測定したときの胸部脊髄の正
常白質における有髄軸索密度がより高いことが見出された。
【0216】
感染の90日後におけるマウス10〜15匹の群を、100μgのsHIgM12、s
HIgM42、対照のヒトIgM、または生理食塩液の単回投与で処置した(
図10)。
処置前ならびに処置の5および10週間後、各マウスを小型のボア磁石に入れ、脳幹にお
けるMRSを収集した。10週間後、マウスを屠殺し、脊髄を回収し、プラスチック包埋
し、T6レベルで切断した断面をパラフェニレンジアミン(paraphenylami
ndiamine)で染色して、髄鞘を可視化し、400,000μmの外見が正常な白
質を包含する切片1つ当たり6枚の画像を収集し、軸索を自動式でカウントした。2つの
ニューロン結合IgM(sHIgM12、sHIgM42)のうちのいずれで処置した群
においても、NAAレベルは、5週間後および10週間後のいずれにおいても処置前のレ
ベルと比較して増大した。対照のIgMで処置したマウスは低下傾向を示し、生理食塩液
で処置したマウスは変化を示さなかった。
【0217】
sHIgM12およびsHIgM42で処置した群のNAAレベルは、それぞれ、9.
13および9.3mMまで増大したが、これらの各々は、非感染マウスの12.0mMの
レベルを大きく下回った。T6レベルにおける軸索を処置群間で比較した(表2)ところ
、sHIgM12またはsHIgM42で処置したマウスは、生理食塩液で処置した群よ
り多くの軸索を含有した(15,198本の軸索と比較して、17,303本および17
,771本の軸索:P=0.008およびP<0.001)が、非感染マウスにおいてカ
ウントされた軸索数(21,284本の軸索)より少なかった。
【0218】
TMEVモデルにより証拠立てられる通り、これらの結果は、sHIgM12抗体およ
びrHIgM12抗体の各々により、軸索の保存を介して機能が改善されることを示した
。TMEVモデルでは、sHIgM42抗体により軸索が保存されたが、初期試験の夜間
活動の評価では、裏付け可能な変化が観察されなかった。用量範囲探索研究の後、sHI
gM42はまた、夜間活動試験における活動の増大も達成することが見出された。
【0219】
脳幹MRSを用いて、脊髄疾患のマウスモデルにおける軸索状態を評価することにより
、本発明がさらに検証され、したがって、脳幹におけるNAAは、臨床試験でこれらのヒ
ト抗体を用いるための優れた評価項目として役割を果たす。
【0220】
sHIgM42およびsHIgM12で処置してNAAレベルが改善されたマウスはま
た、胸部中央の脊髄において含有する軸索もより多かった。TMEV感染SJLマウス1
0〜15匹の群を、感染の90日後に、100μgのrHIgM22、sHIgM42、
sHIgM12、対照のsHIgM39、および生理食塩液の単回投与で処置した。処置
の10週間後、脊髄を摘出し、胸部中央の切片をPPDで染色してミエリンを可視化した
。各マウスから、400,000μm
2の白質を包含する6つの領域をサンプリングし、
有髄軸索数をカウントした(1)。T6断面1つ当たりの有髄軸索絶対数の平均±SEM
を表2に列挙する。
【0221】
【表2】
【0222】
(実施例6)
ニューロン結合IgMは再ミエリン化を促進することなしに軸索を保存する
希突起膠細胞に結合し、再ミエリン化を促進する複数のヒトIgM(例えば、sHIg
M22およびsHIgM46)が同定されている(22、40、41)。下記で示される
通り、ニューロン結合IgMは、ニューロン数を増大させ、ニューロン機能を改善するが
、明白な再ミエリン化は伴わない。理論に束縛されずに述べると、作用機構は、軸索の直
接的な活性化(保護、神経突起伸長)に起因し、かつ/または生得的免疫系または獲得的
免疫系を活性化させてニューロンを保護する因子を分泌させることを介すると理解される
。上記で提示した結果は、抗体が軸索/ニューロンに対して直接的な効果を及ぼすことを
明確に裏付ける。sHIgM12およびsHIgM42が媒介する軸索保存および/また
は再成長が測定された同じ脊髄内では、脱髄、再ミエリン化、および炎症の全体が、処置
群間で異ならなかった(
図11)。
【0223】
これらの属性は、脊髄の全長に沿って試料を代表する10の脊髄断面の四半部を等級づ
けすることにより定量化した(6)。rHIgM22処置群(陽性対照)が、予測される
再ミエリン化の増大を示したのに対し、sHIgM12およびsHIgM42で処置した
マウスは、脊髄の再ミエリン化をほとんど含有しなかった。したがって、TMEVモデル
における神経欠損が、著明な再ミエリン化を必要とすることなしに改善され(例えば、I
gM12)、さらに、検討された時間枠内では、軸索の保存および/または再成長のため
に再ミエリン化が必要ではない。
【0224】
(実施例7)
rHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)およびsHIgM42の血清半減期
ヒトIgM、rHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)、およびsHIgM42の半減期を決
定するために、200μlの生理食塩液中に100μgのヒトJ鎖を含有するrHIgM
12、または100μgのsHIgM42を、正常CD−1マウスの尾静脈へと注射した
(
図12)。規定された間隔(15分間、1、4、8、24、48時間)で、マウス3匹
ずつの群から、心穿刺を介して血液を回収した。血清を回収し、サンドウィッチELIS
Aを用いて、ヒトIgMミュー鎖の存在についてアッセイした。
【0225】
rHIgM12では、15分後における初回の回収と8時間後における回収との間にお
ける半減期が、3.8時間であった。sHIgM42では、15分後における初回の回収
と24時間後における回収との間における半減期が、20.5時間であった。これらの値
は、マウスにおける半減期を15時間とし(29)、ウサギにおける半減期を90時間と
する、再ミエリン化を促進するrHIgM22の半減期を一括する。半減期は、式:k
e
lim=(ln(c
peak)−ln(c
low))/t
intervalおよびt
1/
2=0.693/k
elimを用いて計算した。
【0226】
(実施例8)
放射性標識したヒトモノクローナルIgMは血液脳関門を越える
分子量が百万に近いIgMは、循環から血液脳関門(BBB)を越え、これにより、C
NSに入るには大型に過ぎる可能性があることがしばしば受け入れられている(42、4
3)。しかし、一部のIgMはBBBを越えるという特定の証拠は存在する。
【0227】
正常SJLマウスおよびTMEV感染SJLマウスの組織における
35S標識したrH
IgM12の分布を測定した(
図13)。50μgのrHIgM12(1×10
7cpm
)を腹腔内投与した。4または24時間後にマウスを生理食塩液で潅流し、組織を迅速に
採取し、細断し、シンチレーション液中に溶解させた。非感染マウスの脳および脊髄は、
いずれの時点においても放射性標識を含有した。TMEV感染マウスのCNSは、4時間
後の時点で非感染マウスの2倍の放射性標識を含有した。これは、24時間後までに4倍
に増大した。
【0228】
また、rHIgM12(ヒトJ鎖を伴うrHIgM12、およびヒトJ鎖を伴わないr
HIgM12の両方)およびsHIgM42は、正常マウスおよびアルツハイマー病のモ
デルであるSAMP8マウスにおいてBBBを越えうることも見出された。したがって、
125I標識したヒトIgMを静脈内注射し、2時間後に脳を回収した。これらの抗体の
各々は、正常マウスおよび疾患マウスの脳に蓄積される。これらの抗体はまた、IgMを
、脳内注射を介して送達した場合であれ、静脈内注射を介して送達した場合であれ、アル
ツハイマー病のマウスモデルにおける認知障害も逆転する。
【0229】
(実施例9)
腹腔内送達されたヒトニューロン結合IgMは脱髄した脊髄病変に入り、ニューロフィ
ラメント陽性の軸索に局在する
同位体で標識した、再ミエリン化を促進するマウスIgMである、SCH94.03に
ついてのHunterによる研究(44)は、オートラジオグラフィーを用いて、放射性
標識が、in vivoにおいてTMEV感染マウスの脊髄、とりわけ、超微細構造的に
希突起膠細胞と同定された細胞に局在することを裏付けた。
35S rHIgM12によ
る同様のオートラジオグラフィー研究も実施されている。本発明者らは、従来の免疫細胞
化学を用いて、脊髄病変内のニューロン結合ヒトIgMを検出した(
図14)。
【0230】
したがって、1.0mgのrHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)、sHIgM42、また
は市販される対照のヒトIgM(Jackson Immuno Research)を
、慢性脱髄を伴うTMEV感染マウスに腹腔内投与した。4時間後、マウスをパラホルム
アルデヒドで潅流し、凍結させた脊髄を縦方向に切片化し、ヒトIgMミュー鎖の存在に
ついて免疫染色した。rHIgM12またはsHIgM42を施されたマウスでは、ヒト
ミュー鎖が、脱髄病変の軸索線維を示唆する並列経路に局在した。対照のヒトIgMは、
病変内にも、非病変脊髄にも見出されなかった。したがって、ニューロン結合ヒトIgM
であるrHIgM12またはsHIgM42がTMEV感染マウスにおいてBBBを越え
ることが明らかとなった。
【0231】
次いで、隣接する脊髄切片を、抗ニューロフィラメント(NF)抗体(SMI−32お
よびSMI−34、Sternberger)で免疫標識した後、蛍光二次抗体である抗
ヒトミュー鎖−FITC抗体および抗マウス−TRITC抗体で免疫標識した。共焦点顕
微鏡法は、rHIgM12およびsHIgM42が、線維の並列経路において、および断
続的に切断される軸索の線維束として、病変内のNF+軸索に共局在することを裏付けた
(
図15)。
【0232】
(実施例10)
疾患の発症時に施された場合、rHIgM12またはsHIgM42はMOGペプチド
誘導性EAEを増悪させない
自己反応性のCNS結合IgMを自己免疫が活性な動物に投与することにより、疾患を
増悪させうるという憂慮に対処するため、EAEを伴うマウスにおけるrHIgM12お
よびsHIgM42の効果を調べた。MOGペプチド(200μg)誘導性EAEを伴う
C57BL6マウス10匹の群に、100μgのrHIgM12、sHIgM42、対照
のヒトIgM、または生理食塩液の単回静脈内投与を施した。個々のマウスは、それらの
臨床スコアが1に到達した(尾の引きずり)時点で処置した。次いで、マウスを、処置群
に対して盲検として、1日おきに体重を記録し、臨床スコアを評価する試験実施者が、マ
ウスが免疫化の28日後に到達するかまたは瀕死となるまで追跡した。
【0233】
体重または平均の臨床スコアにおいて、処置群間の差異は見られなかった(
図16:P
=0.14)。加えて、各マウスの脊髄の全体を包含する10の脊髄断面を、脊髄の各四
半部における髄膜の炎症および脱髄の存在について、盲検により評価した(6)。髄膜の
炎症(P=0.825)または脱髄(P=0.766)を伴う四半部の百分率に、処置群
間で差異は見られなかった(
図17)。したがって、TMEVモデルにおいて軸索を保護
するのに有効なニューロン結合ヒトIgMの単回投与は、EAEによる臨床的欠損を増悪
させたり、欠損の進行を加速化させたり、脊髄病態を悪化させたりしないことが見出され
た。
【0234】
【数1】
【0235】
【数2】
【0236】
【数3】
【0237】
【数4】
【0238】
(実施例11)
ヒトIgM抗体であるrHIgM12は軸索の形成を促進し、脂質ラフトと相互作用し
て微小管を標的とする
抗体sHIgM12は、初代培養小脳顆粒ニューロンにおける神経突起成長を促進した
。本例では、初代海馬ニューロンを用いて、完全ヒト抗体(ヒトJ鎖を有するrHIgM
12)が、軸索の形成を促進することを見出した。rHIgM12は、ニューロン膜に結
合し、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1のクラスター形成を誘導する。
【0239】
さらに、膜結合rHIgM12は、2つのプールで分布し、1つのプールは脂質ラフト
ドメインと会合し、他のプールは、細胞骨格に富む洗浄剤に不溶性のペレットと会合する
。洗浄剤による抽出の後、rHIgM12凝集物は、微小管には共局在するが、線維状ア
クチンには共局在しない。共免疫沈降研究は、rHIgM12とβ3−チューブリンとが
複合体で存在することを裏付けた。これらの結果は、rHIgM12が、微小管細胞骨格
にシグナル伝達する膜ドメインをクラスター形成させることにより軸索の形成を規定する
ことを示す。
【0240】
ニューロンは、神経突起成長の調節を介して軸索を発生させる(BarnesおよびP
olleux、2009年)。線維状アクチン(F−アクチン)および微小管を包含する
ニューロンの細胞骨格は、神経突起成長および成長円錐の経路探索において極めて重要な
役割を果たす。
【0241】
血清由来抗体は、大スケールの研究に適切でない場合があり、特に、大量に生成させる
ことができず、抗体をもたらす患者から使用のたびごとに単離しなければならない場合は
、同等の活性および能力を示す組換え形態の生成が有利である。本研究は、組換えの完全
ヒトIgM12抗体(rHIgM12)が、軸索形成を促進し、したがって、培養された
海馬ニューロンにおけるニューロンの極性化を駆動することを裏付けた。rHIgM12
は、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1を含有するニューロン膜ドメイン
をクラスター形成させる。
【0242】
スクロース密度勾配の分画は、ニューロン膜結合rHIgM12が、カベオリン−1を
含有する、洗浄剤耐性の軽い画分と会合する1つのプールと、細胞骨格に富むペレットを
伴う他のプールとの2つのプールへと分別されることを示した。洗浄剤による生存ニュー
ロンの抽出は、rHIgM12が、微小管と会合することを裏付けた。rHIgM12は
また、β3−チューブリンとも共免疫沈降した。まとめると、rHIgM12は、微小管
と会合する膜ドメインに結合することが理解される。表面における基板として存在する場
合、rHIgM12は、ニューロン膜における微小管のアンカリングを促進し、これによ
り、神経突起成長および軸索形成が促される。
【0243】
組換えヒトIgM12(rHIgM12):rHIgM12は、CHO細胞(Gibc
oBRL、型番:11619)において発現させた。ワルデンシュトレーム型マクログロ
ブリン血症患者12の血清において発現した主要な抗体の重鎖および軽鎖のコード配列を
発現させるプラスミドを、ヒトJ鎖トランス遺伝子と共に、CHO−S細胞へとトランス
フェクトした。結果として得られるCHO細胞を、メトトレキサートの用量を増大させて
選択し、ELISAを介して測定される抗体を生成させる安定的なクローンを、サブクロ
ーニングし、増殖させた。培養上清に由来するrHIgM12抗体を、クロマトグラフィ
ーを介して、HPLC解析を介して測定される通りに97%まで精製した。
【0244】
細胞の培養および神経突起成長アッセイ:FVBマウスから初代海馬ニューロンを調製
した。胎生期15日目の海馬ニューロンをトリプシン−EDTA中で解離させ、ガラス製
のカバースリップに結合させたニトロセルロース膜の薄層にコーティングしたポリ−D−
リシン(PDL)基板、ラミニンを含むPDL基板、またはrHIgM12基板上に播種
し、2%(v/v)のB27を含有するNeurobasal培地中で増殖させた。ニュ
ーロンを播種した12時間後、神経突起成長をアッセイした。ニューロンを4%のパラホ
ルムアルデヒドで固定し、抗β3−チューブリン抗体で染色した。線維状アクチン(F−
アクチン)はTexas−Redファロイジンで標識し、核はDAPIで標識した。Ne
uron Jソフトウェアを用いて神経突起長を測定し、Excel(Microsof
t)で処理し、Prism(GraphPad)で統計学的に解析した。ステージ3のニ
ューロンとは、Tau1染色を介して軸索として決定される最も長い神経突起(Dott
iら、1988年)が、2番目に長い神経突起の長さの少なくとも2倍である、複数の神
経突起を伴うニューロンとして定義した。Tau1は、軸索の遠位部分において非対称的
に濃縮された。これに対し、ステージ2のニューロンは、複数の対称的な神経突起を有し
た。
【0245】
初代培養ニューロンの免疫染色、免疫沈降、およびスクロースの密度勾配による分画:
in vitroにおいて1〜3日間(DIV)にわたり培養した海馬ニューロンを、4
%のパラホルムアルデヒドで固定して、0.2%のTriton X−100で透過処理
した後に免疫染色した。Olympus製の正立顕微鏡を用いて画像を収集し、Phot
oshop(Adobe)を用いて処理した。rHIgM12の分布は、不連続的なスク
ロース勾配中の超遠心分離を介して決定した。略述すると、rHIgM12を、DIV7
の生存皮質ニューロンに4℃で30分間にわたり結合させ、次いで、氷冷溶解緩衝液(5
0mMのTris.HCl、pH 7.4、150mMのNaCl、1mMのEDTA、
1%のTriton X−100、およびプロテアーゼ阻害剤によるカクテル)中で30
分間にわたり溶解させた。ニューロン溶解物を、等容量の100%(w/v)スクロース
と混合した。混合物を遠心分離管に移し、35%のスクロース8mlと5%のスクロース
3.5mlとを続けて重層させた。4℃、2×10
5gで20時間にわたり遠心分離した
後、6画分(各画分2mlずつ)を勾配の最上部から回収した。各画分およびペレットを
、SDS−試料緩衝液中で溶解させ、ウェスタンブロット法にかけた。
【0246】
rHIgM12を細胞骨格タンパク質と共免疫沈降させるため、DIV7の生存皮質ニ
ューロンを、4℃で30分間にわたりrHIgM12により処置し、0.5%のNP−4
0を含有する溶解緩衝液中で溶解させた。rHIgM12は、プロテインL−アガロース
ビーズにより捕捉し、β3−チューブリンは、プロテインG−樹脂(Thermo)によ
り捕捉した。二重標識するために、生存ニューロンを固定した後、氷上でrHIgM12
により染色し、0.2%のTriton X−100で透過処理した。生存ニューロンの
抽出および固定は、60mMのPipes、25mMのHepes、5mMのEGTA、
1mMのMgCl
2、4%のパラホルムアルデヒド、および0.1%のTriton X
−100を含有する緩衝液中で実施した。
【0247】
この例における抗体および他の試薬:抗β3−チューブリン抗体(Promega);
抗アクチン、EDTA、ポリ−D−リシン、メチル−β−シクロデキストリン、およびフ
ィリピン(Sigma);抗Tau1抗体、抗カベオリン−1抗体、および抗トランスフ
ェリン受容体抗体(Millipore);Texas Red−ファロイジン、コレラ
毒素B、Neurobasal培地、およびB27(Invitrogen);プロテア
ーゼ阻害剤錠(Roche)。
【0248】
組換えヒトIgMであるrHIgM12は軸索形成を促進した:
IgMのニューロンの分化および根底にある分子機構に対する効果をさらに理解するた
めに、組換えrHIgM12を用いて、培養された海馬ニューロンによる神経突起成長ア
ッセイを実施した。海馬ニューロンは、3つの分化段階を経て軸索を形成する(Dott
iら、1988年)。複数の過程が細胞体から始まる。急速に成長しつつある神経突起は
、その後、そのうちの一方が軸索へと分化し、他方が樹状突起へと分化し、これは、それ
ぞれ、Tau1およびMAP2の示差的分布を介して同定することができる(Lewis
ら、1989年;(KanaiおよびHirokawa、1995年)。本発明者らは、
基板として存在する場合のrHIgM12が、ニューロンの分化を実質的に促進すること
を見出した。播種後12時間以内に、rHIgM12上で成長しつつある海馬ニューロン
が複数の神経突起を発生させ、それらのうちの1つは、近傍の神経突起と比較してはるか
に長かった。これに対し、ポリ−D−リシン(PDL)上に播種されたニューロンは、複
数の対称的な神経突起を示した(
図18A、B)。
【0249】
神経突起長を測定した後、本発明者らは、rHIgM12上に播種されたニューロン(
n=86)の全神経突起長が、PDL上に播種されたニューロン(n=74)と比較して
有意に長い(195.8μm対150.7μm:p=0.0056)ことを見出した(図
18C)。最も長い神経突起長は2倍を超えた(117.1μm対51.8μm:p<0
.0001)(
図18D)が、2番目に長い神経突起長には有意な差異が見出されなかっ
た(38.7μm対33.3μm:p=0.0782)(
図18E)。rHIgM12上
で成長しつつあるニューロンが保有する初代神経突起は少数であり(2.9対4.1:p
<0.0001)(
図18F)、それらの大半の表現型は、ステージ3のニューロンであ
った(rHIgM12上の72%対PDL上の18%)(
図18G)。これらの結果は、
基板として存在する場合のrHIgM12が、ニューロンの分化を促進することを示した
。
【0250】
ニューロン分化に特徴的な特徴は、極性化された軸索成長および樹状突起からの分離で
ある。本発明者らは、rHIgM12が1つの有意に長い神経突起を伴う神経突起伸長を
促進することを観察した。ステージ3のニューロンに由来するこれらの最も長い神経突起
が、軸索へと発生することをさらに検証するため、異なる基板上に播種された海馬ニュー
ロンを、抗Tau1抗体および抗MAP2抗体で染色した(
図19)。Tau1染色は、
PDL上で成長したニューロンにおいては弱かった(
図19A、D)が、PDL−ラミニ
ン(
図19B、E)またはrHIgM12(
図19C、F)上に播種されたニューロンに
おいてははるかに強かった。ラミニンは、ニューロン分化および軸索形成についての古典
的な基板であり(Chenら、2009年)、陽性対照として用いた。
【0251】
PDL上で成長したニューロンによるTau1強度(
図19D)を比較すると、PDL
−ラミニン(
図19E)またはrHIgM12(
図19F)上に播種されたニューロンに
おけるtau1の分布は、最も長い神経突起の遠位部分において非対称的に濃縮され、は
るかに大きかった。これに対し、MAP2は、全ての神経突起の近位部を染色した(
図1
9A2〜C2)。この結果は、rHIgM12上およびラミニン上の両方で成長したステ
ージ3のニューロンに由来する最も長い神経突起が軸索であることを示した。これらの研
究は、rHIgM12が複数のニューロン型に由来する神経突起成長を支持し、rHIg
M12が軸索形成を駆動することを裏付ける。
【0252】
rHIgM12はニューロン膜のマイクロドメインのクラスター形成を誘導した
基板としてのrHIgM12上で成長しつつある海馬ニューロンは、分化の増強を示し
た(
図18および19)。しかし、本発明者らは、rHIgM12を培養液に適用しても
、rHIgM12が神経突起成長を誘導することを観察しなかった(データは示さない)
。この観察は、rHIgM12は、その機能を果たすために、細胞外マトリックス分子と
して提示することが必要であることを示唆した。rHIgM12−ニューロン膜間相互作
用をさらに理解するために、生存ニューロンを、まず、rHIgM12で処置し、次いで
、固定し、それぞれ、コレステロールまたはガングリオシドであるGM1に結合する、フ
ィリピンまたはコレラ毒素B(CTB)で二重染色した(ShogomoriおよびFu
terman、2001年)。rHIgM12、CTB、およびフィリピンは、非処置の
対照ニューロンの細胞表面を均等に標識した(
図20A)。これに対し、37℃のrHI
gM12による処置は、30分後にニューロン膜の再組織化を誘導した(
図20B、C)
。第1に、rHIgM12は、非処置のニューロン(
図20A)、またはニューロン膜に
結合しない対照のIgM抗体で処置したニューロン(データは示さない)では観察されな
い、膜における「パッチ」様構造(
図20B1、C1)へと凝集した。第2に、コレステ
ロールのクラスター(
図20B2)およびGM1のクラスター(
図20C2)のいずれも
が、細胞体、神経突起軸、および成長円錐のニューロン膜において形成された。第3に、
凝集したrHIgM12は、とりわけ、成長円錐の中央ドメイン(
図20B〜C、高拡大
率)ではクラスター形成したコレステロール(
図20B3)またはGM1(
図20C3)
と共局在したが、成長円錐の末梢では共局在しなかった。これらの結果は、液浴で適用し
たrHIgM12が、神経突起/軸索伸長は支持しないが、ニューロン膜の再構成を誘導
することを示した。基板として提示された場合のrHIgM12は、膜分子を、rHIg
M12−ニューロン膜間接触部位へと動員する結果として、方向付けのシグナル伝達を生
成させうる可能性がある。
【0253】
rHIgM12は脂質ラフトに結合した
低温状態における非イオン性洗浄剤による抽出に基づく生化学的研究を用いてコレステ
ロールおよびスフィンゴ糖脂質を含有する脂質ラフトの存在が裏付けられている(Chi
chiliおよびRodgers、2009年)。しかし、ナノスケールのサイズは光学
顕微鏡の解像度を超えるため、脂質ラフトについての形態的情報は限定されたものである
(LingwoodおよびSimons、2010年)。rHIgM12が膜のクラスタ
ー形成を誘導し、コレステロール含有膜ドメインおよびGM1含有膜ドメインと共局在す
る(
図20)ことの観察により、rHIgM12が脂質ラフトドメインと会合する可能性
が立ち上がった。
【0254】
ニューロン膜は融点(Tm)が高いコレステロールおよびスフィンゴ糖脂質に富む(S
amsonovら、2001年)ので、Tmを下回る膜温度の低下は、37℃ではより動
的な脂質ラフトおよびその関連分子の可視化を促進しうる。この仮説を検証するために、
生存ニューロンを4℃まで冷却した後、rHIgM12で染色した。rHIgM12が均
等に結合した、ニューロンを37℃で固定する場合(
図21A)と異なり、4℃では、r
HIgM12により、はるかに大型の点状構造が標識された。加えて、ニューロンの成長
円錐も収縮した(
図21B)。
【0255】
本発明者らは、脂質ラフトがコレステロール依存性の膜ドメインであり、コレステロー
ルの枯渇によりそれらの構造が破壊されるという事実を利用した(Chichiliおよ
びRodgers、2009年)。培養された海馬ニューロンを、まず、メチル−β−シ
クロデキストリン(MβCD)で処置してコレステロールを枯渇させ(Koら、2005
年)、次いで、4℃まで冷却するのに続いて、固定した後、rHIgM12およびCTB
で染色した。コレステロールを枯渇させ、CTB標識したGM1と共局在させた後、rH
IgM12は、ニューロン膜における点状構造に結合した(
図21C)。GM1は脂質ラ
フトマイクロドメイン内に常在し、rHIgM12により、GM1のクラスター形成が誘
導される(
図20)ため、本発明者らは、rHIgM12が、ニューロン膜のコレステロ
ールからは独立するGM1含有マイクロドメインに結合することと結論付けた。これらの
実験により、脂質ラフトが、膜内に均等に挿入される(
図20Aおよび
図21A)か、ま
たは凝集して大型のドメインを形成する(
図20BおよびC、
図21BおよびC)、異な
る形態的構造として存在することが確認された。これらの結果は、rHIgM12が、他
の分子との生物物理的相互作用に応じて、ラフトドメインと非ラフトドメインとの間を往
復する分子(複数可)に結合することを示す。
【0256】
本発明者らはさらに、rHIgM12が脂質ラフトに結合するという仮説も調べた。脂
質ラフトは、低温において、非イオン性洗浄剤耐性膜(DRM)内に局在する(Sams
onovら、2001年)ため、4℃で調製した皮質ニューロン溶解物におけるrHIg
M12の局在を解析した。ニューロン溶解物を、抗ヒトIgM二次抗体でブロッティング
したところ、膜結合rHIgM12が、ペレットおよび上清のいずれにおいても見出され
るのに対し、ニューロンに結合しない対照のIgM抗体は、洗浄溶出物だけに見出される
(
図22A)ことが明らかとなった。これらの観察は、rHIgM12が、一方は上清中
の「洗浄剤可溶性」画分に局在し、他方は「洗浄剤不溶性」ペレットと会合する、2つの
プールへと分別されることを示した。
【0257】
第2の実験では、皮質ニューロンを、まず、rHIgM12で標識し、次いで、4℃の
スクロース密度勾配を介して分画した。異なる画分のブロッティングは、rHIgM12
が、脂質ラフトのマーカーであるカベオリン−1もまた含有する軽い画分に局在するが、
トランスフェリン受容体に富む非ラフト画分には局在しないことを示した(
図22B)。
しかし、この厳密な分画工程(1%のTriton X−100および2×105gにお
ける超遠心分離)においてもなお、一部のrHIgM12は、主に洗浄剤不溶性細胞骨格
を含有するペレット中に検出された(
図22B)。チューブリン(Soriceら、20
09年)およびアクチン(LevitanおよびGooch、2007年)のいずれもが
脂質ラフトに存在するが、ラフト中ではβ3−チューブリンだけが検出され、アクチンの
大半は、非ラフト画分へと移行した(
図22B)。これらのデータは、一方は脂質ラフト
中に存在し、他方はペレット中に存在する、膜結合rHIgM12の2つのプールの存在
を示した。
【0258】
rHIgM12は微小管と会合する
本発明者らのデータは、凝集したrHIgM12が、微小管が優勢である細胞体、神経
突起軸、および成長円錐の中央ドメインなどの領域に局在する(
図20)ことを示した(
ForscherおよびSmith、1988年)。膜結合rHIgM12が、これらの
いずれもがβ3−チューブリンを含有する脂質ラフト画分およびペレット画分へと分別さ
れたという事実(
図22B)と併せて述べると、これらの知見は、rHIgM12が、細
胞骨格の構成要素(複数可)と会合しうることを示唆した。この仮説を検証するために、
海馬ニューロンを、rHIgM12で処置して、膜の再構成を誘導し、次いで、37℃で
0.1%のTriton X−100を含有する4%のパラホルムアルデヒドにより同時
に固定および抽出した。抽出後、rHIgM12で標識した洗浄剤不溶性膜の点が、神経
突起軸において束ねられた微小管束に沿って並んだ(
図23A2)。成長円錐では、rH
IgM12が、脱束化微小管により占められる中央ドメインに主に局在したが、F−アク
チンに富む成長円錐末梢には局在しなかった(
図23A3およびA4)。これらの結果は
、rHIgM12が微小管と会合しうることを示した。
【0259】
本発明者らは、rHIgM12が、GM1と共局在することを見出した(
図21C)。
GM1は、小脳顆粒ニューロンの膜におけるチューブリンによりアンカリングされ、架橋
形成後に抗チューブリン抗体によりプルダウンされることが示された(Palestin
iら、2000年)。したがって、rHIgM12が、チューブリンを含有する膜のマイ
クロドメインと会合する可能性がある。この仮説をさらに検証するため、4℃でrHIg
M12により処置した生存皮質ニューロンに由来する細胞溶解物により、改変プルダウン
実験を実施した。本発明者らは、rHIgM12およびβ3−チューブリンの両方が、互
いに共免疫沈降する(
図23B)ことを見出し、このことから、rHIgM12とβ3−
チューブリンとが、複合体として存在することが示唆された。IgM分子は五量体構造を
有し、分子量は約900kDaである。rHIgM12が、ニューロン溶解物中でチュー
ブリンまたは微小管と直接会合する可能性を除外するため、rHIgM12に結合しない
が、β3−チューブリンを発現するN2A神経芽細胞腫細胞によりプルダウンアッセイを
実施した(
図25A)。rHIgM12は、β3−チューブリンと会合することも、ペレ
ット中に存在することもなかった。rHIgM12は、N2A神経芽細胞腫細胞溶解物の
上清だけで検出された(
図25B)。まとめると、これらの結果により、脂質ラフトが、
rHIgM12と、その抗原と、微小管との会合を媒介することが確認された。
【0260】
本明細書のデータは、基板として存在する場合の完全ヒト組換えIgMであるrHIg
M12が、初代培養海馬ニューロンにおける軸索成長を促進することにより、ニューロン
の極性化を駆動することを裏付けた(
図18および19)。rHIgM12は、ニューロ
ン表面に凝集し、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1のクラスター形成を
誘導した(
図20)。rHIgM12は、GM1と共局在する(
図21)。スクロース勾
配によるニューロン溶解物の分画は、膜結合rHIgM12が、一方は脂質ラフトと会合
し、他方はペレットと会合する2つのプールへと分別されることを示した(
図22)。生
存ニューロンを非イオン性洗浄剤で抽出することにより、本発明者らはさらに、膜結合r
HIgM12が、微小管と共局在し、β3−チューブリンと共免疫沈降することを示した
(
図23)。
【0261】
前出は、rHIgM12が、脂質ラフトマイクロドメインに結合し、これらと相互作用
することを示し、さらに、rHIgM12会合ラフトドメインが、微小管へのシグナル伝
達を担うことも示す。結果として、rHIgM12は、軸索成長を駆動する微小管の安定
化を媒介する。この例は、rHIgM12が、初代海馬ニューロンの軸索成長を選択的に
促進することを裏付けた(
図18および19)。
【0262】
近年、本発明者らは、ヒト血清由来IgMであるsHIgM12が、広範な軸索変性お
よび軸索喪失を発症する多発性硬化症の動物モデルの神経機能を改善したことを示した(
Rodriguezら、2009年)。これらの研究は、HIgM12が、軸索成長を促
進することによりその機能を果たすという概念を裏付ける。
【0263】
ニューロンは、神経突起伸長を調節する制御された内因性のプログラムを介して軸索を
特化させる。発生しつつあるニューロンは、複数の神経突起を誘発する。神経突起のうち
の一方は軸索へと分化し、他方は樹状突起へと分化する。近傍の神経突起は、互いに競合
し合う。また、最も速い伸長速度もまた有する神経突起である、最も長い神経突起が、ま
ず対称的な神経突起伸長を遮断して軸索へと発生するのに対し、他の神経突起は伸長がは
るかに遅く、後に樹状突起へと発生する(Dottiら、1988年;Goslinおよ
びBanker、1989年)。F−アクチンと微小管とは、神経突起伸長および軸索形
成に関与する2つの主要な細胞骨格である。軸索の特化についての本発明者らの理解も、
伸展しつつある。主に成長円錐の末梢に局在するF−アクチンが主要な役割を果たすと考
えられていた。神経突起軸において優勢であり、成長円錐の中央ドメインに限局される微
小管は、F−アクチンに対して二次的であると考えられていた。近年、微小管はまた、軸
索成長において極めて重要な役割も果たすことが見出された。微小管は、成長円錐のアク
チンメッシュワークを動的に探索することが可能である。微小管の安定化は、軸索形成を
誘導するのに十分である(WitteおよびBradke、2008年)。
【0264】
本発明者らのrHIgM12とβ3−チューブリンとが共免疫沈降したという結果、r
HIgM12が微小管と共局在したという結果、およびrHIgM12が洗浄剤による抽
出後にペレット中に存在したという結果は、微小管を、中心的な役割を果たすものとして
裏付けるだけではない。加えて、このデータは、当技術分野において、微小管がニューロ
ン膜と直接相互作用することの最初の証拠ももたらした。これらの知見は、rHIgM1
2が、細胞外シグナルを微小管へと伝達する膜貫通カスケードと相互作用するかまたはこ
れに結合するという概念を裏付ける。微小管が、例えば、成長円錐において、増進および
退縮する動的特性により、それらがニューロン膜の運動を駆動することが可能となる(D
entおよびKalil、2001年)。安定化した微小管は、ニューロン膜にアンカリ
ングする。動的微小管および安定化した微小管の存在、ならびに/またはこれらの2つの
状態の間の移行により、神経突起成長が軸索を特化させる過程が組織化される。したがっ
て、IgM12は、微小管の安定性をもたらすことにより、軸索の伸長を増強する。
【0265】
脂質およびタンパク質は、持続的に細胞膜へと組み込まれ、次いで、マイクロドメイン
、いわゆる脂質ラフトへと分割される。膜ラフトは一般に、ステロールおよびスフィンゴ
脂質で濃縮された、ナノスケール(10〜200nmの)であり、異質で、動的な膜コン
パートメントとして定義される(LingwoodおよびSimons)。
【0266】
本発明者らは、rHIgM12が、脂質ラフトに結合することを提起する。第一に、本
発明者らは、rHIgM12が、ニューロン膜に凝集し、コレステロールまたはガングリ
オシドであるGM1のクラスター形成を誘導することを観察した(
図20)。これらの結
果は、rHIgM12が、コレステロールおよびGM1を含有する脂質ラフトドメインに
結合することを示す。小さなラフトは、脂質および/またはタンパク質と相互作用しうる
。個別の小さなラフトは、シグナルを統合し、シグナル伝達経路の強度および振幅を調節
する、高分子のプラットフォームを安定化させ、これらに融合することが可能である。五
量体構造を保有するIgM抗体は、隣接する抗原(受容体)に架橋形成し、かつ/または
抗原を架橋形成または相互作用を増強するのに十分な程度に近接させることにより、シグ
ナルを増幅しうる。したがって、架橋された抗原および会合したシグナル伝達分子は、ク
ラスター形成しうる。第二に、本発明者らは、海馬ニューロンを4℃まで冷却したところ
、rHIgM12が、ニューロン膜上のはるかに大型の斑点に結合することを示した(図
21)。コレステロールおよびスフィンゴ脂質は、融点が高い(Tm)。Tmを下回る温
度においてニューロンを処置すると膜の動態が低下し、これにより、凝集した脂質ラフト
の可視化が促進される。rHIgM12が、コレステロールを枯渇させた後においてもな
おGM1と共局在するという知見(
図21)と併せると、これらの結果は、rHIgM1
2が、GM1と共局在するニューロン膜の分子に結合し、これらと相互作用することを示
唆する。培養されたラット小脳顆粒ニューロンをシアリダーゼ処置するとsHIgM12
の結合が消失するという本発明者らによる以前の知見は、sHIgM12が結合したエピ
トープが炭水化物であることを示唆するが、正確な同定は明らかでない(Warring
tonら、2004年)。第三に、ニューロン溶解物をスクロースにより分画した後、膜
結合rHIgM12は、脂質ラフトマーカーであるカベオリン−1もまた含有する軽い画
分へと局在した。まとめると、本発明者らの結果は、rHIgM12が脂質ラフトに結合
するという仮説を裏付ける。
【0267】
ニューロン膜の外葉から細胞内の細胞骨格へのシグナルカスケードは、軸索の特化にと
って中心的である。rHIgM12の凝集物は、微小管が優勢であり、線維状アクチンは
優勢でない(
図23)、神経突起軸および成長円錐の中央ドメインへと分配された(
図2
0)。rHIgM12の凝集物の一部は、洗浄剤不溶性であり、洗浄剤による抽出の後、
束化微小管の束に局在した(
図23A)。これらの観察は、脂質ラフトと会合するプール
とは異なりうる、rHIgM12結合分子の別のプールの存在を示す。スクロース分画研
究により、洗浄剤不溶性ペレット中に局在するrHIgM12会合分子のプールが存在し
(
図22B)、これは、
図23Aで検出された微小管と共に局在するプールでありうるこ
とがさらに確認された。
【0268】
これらの結果は、rHIgM12のうちの一部が、細胞骨格成分(複数可)、おそらく
は微小管と会合することを裏付けた。上清中の「洗浄剤可溶性」分子と会合する(
図22
Aおよび
図23B)rHIgM12が、β3−チューブリンとも共免疫沈降した(
図23
B)という知見は、rHIgM12結合分子(複数可)と、β3−チューブリンとが、脂
質ラフト中に複合体として存在しうることを示す。しかし、rHIgM12が結合しない
N2A神経芽細胞腫細胞において、rHIgM12は、β3−チューブリンをプルダウン
しなかった(
図25)ため、rHIgM12が、β3−チューブリンと直接相互作用する
という可能性はない。したがって、細胞骨格および脂質ラフトの両方に会合するrHIg
M12は、チューブリンの近傍に局在する分子に結合する。この概念は、rHIgM12
が、GM1と共局在するという観察(
図21C)、およびGM1が架橋形成反応後におい
て抗チューブリン抗体によりプルダウンされたという観察によりさらに強化される(Pa
lestiniら、2000年)。
【0269】
脂質ラフトドメイン内のrHIgM12結合分子は、神経突起成長過程および軸索伸長
過程の間常に細胞骨格へと組み込まれうる。この仮説は、rHIgM12が、成長円錐領
域では中央ドメインに凝集し(
図3および6A)、37℃で洗浄剤不溶性であった(
図2
3A)という知見により裏付けられる。まとめると、HIgM12は、HIgM12から
微小管へのシグナル伝達を媒介する脂質ラフトに結合し、この動態に影響を及ぼすことが
開示される。
【0270】
F−アクチンがrHIgM12誘導性シグナル伝達に関与するかどうかは明らかでない
。アクチンおよびアクチン結合タンパク質の両方が、脂質ラフトと会合することを示す筋
の証拠は多い(LevitanおよびGooch、2007年)。アクチン線維と微小管
とは、ニューロンもまた包含する協調的な細胞運動において活発に相互作用する(Rod
riguezら、2003年)。したがって、アクチンはまた、rHIgM12誘導性シ
グナル伝達において役割を果たす可能性がある。β3−チューブリンと共に、少量のアク
チンが、rHIgM12によりプルダウンされた(
図26B)。したがって、rHIgM
12は、アクチンおよびβ3−チューブリンの両方を含有する脂質ラフトに結合する。
【0271】
しかし、ニューロンを4℃で処理したところ、rHIgM12で標識された点が成長円
錐の最外縁部にとどまったのに対し、F−アクチンのネットワークは成長円錐の末梢から
収縮した(
図26A)。スクロース勾配による分画の後、アクチンは主にラフト以外の画
分に局在し、洗浄剤不溶性ペレット中には少量のアクチンだけが検出された(
図22B)
。これらの観察は、F−アクチンが極めて動的であり、低温状態において、かつ/または
洗浄剤抽出を介して、その大半が脱重合することを示す。したがって、アクチンが、rH
IgM12を介するシグナル伝達に関与しうる。
【0272】
本発明者らは、ヒトIgMであるrHIgM12が、脂質ラフトに結合し、これらを再
編成すること、および微小管が下流の標的のうちの1つであることを結論付ける。rHI
gM12は、基板として提示される場合に限り、軸索の伸長を促進する。基板としてのr
HIgM12を固定し、そのニューロン膜との相互作用に制約した。モルフォゲン誘導性
シグナル伝達においてしばしば観察される通り、固定されたrHIgM12は、ニューロ
ン膜にわたりシグナル勾配を創出した可能性がある(Schmittら、2006年)。
これに対し、液浴によるrHIgM12の適用は、脂質ラフトのランダムなクラスター形
成(
図20)を促進しうるに過ぎず、対称的な神経突起成長を遮断し、軸索の伸長を増強
するのに十分ではありえない。略述すると、本発明者らの結果は、
図24で提起したモデ
ルを裏付ける。ニューロン膜は、ラフトラフトマイクロドメインおよび非ラフトマイクロ
ドメインの両方を含有する。ラフトドメインの2つのプールが存在し、それらのうちの1
つは微小管と会合する(
図24A)。2)rHIgM12は、ラフトドメインに結合し、
クラスター形成させ、これにより、微小管の安定化および膜へのアンカリングが促進され
る(
図24B)。3)成長円錐では、rHIgM12により誘導されたラフトのクラスタ
ー形成が、成長円錐の末梢の中央ドメインへの移行、軸索形成を特化させる対称的な神経
突起成長の遮断を増強しうる(
図24C)。
【0273】
【数5】
【0274】
【数6】
【0275】
(実施例12)
脊髄損傷に有益なヒトMAbについてのナノ細孔光学バイオセンサーアッセイ
脊髄損傷(SCI)後における軸索の保護および修復は、運動ニューロンの喪失および
永続的な身体障害を防止するのに有効な戦略としての大きな可能性を保持する。ニューロ
ンの保護は、傷害後における軸索の損傷を防止し、軸索の修復を促進するための、標的化
される栄養因子を用いて達成されている。これらの分子は主に、特異的な低分子である神
経栄養因子の標的化に焦点を当てるin vitro系に基づく選択戦略を用いて同定さ
れた。
【0276】
天然の自己反応性モノクローナル抗体は、損傷および疾患の複数のモデルを用いて、C
NS細胞における有益な生物学的機能を裏付けている。抗体が媒介するニューロン生存の
促進、軸索の再生、および機能回復が、マウスモノクローナルIgMであるIN−1を用
いて、in vivoにおいて裏付けられている(Bregman、1995年;Car
oniおよびSchwab、1988年)。同様の結果が、CNS損傷に先立つ脊髄ホモ
ジネート(SCH)の免疫化を用いて得られた(Ellezam、2003年;Huan
g、1999年)。
【0277】
IgM12および再ミエリン化抗体IgM22を含めたニューロン結合ヒト抗体による
本発明者らのデータに基づき、ニューロン生存および機能を促進することにより軸索を損
傷から保護し、SCIなどのCNSの損傷および/または疾患を処置するのに有益なヒト
モノクローナル抗体の相互作用が、病理学的/生理学的状態下における表面の細胞質膜タ
ンパク質−脂質二重層間相互作用に依存することが開示される。
【0278】
神経傷害または損傷(例えば、SCIにおける)後においてニューロンの生存を促進す
るか、またはニューロンを傷害または死滅から保護する結果として、各症例において神経
機能の保存をもたらすヒト抗体を、病理学的/生理学的表面の細胞質膜タンパク質−脂質
二重層を維持する技法を用いて評価し、特徴付け、かつ/または同定した。
【0279】
本研究において、本発明者らは、タンパク質−脂質二重層表面プラズモン共鳴(SPR
)センサーを用いて、表面におけるヒトモノクローナル抗体の結合相互作用の反応速度を
決定する。ヒトモノクローナル抗体は、脊髄損傷後における齧歯動物に由来するex v
ivoの組織切片の脊髄病変における結合を用いて特徴付けるかまたは同定する。次に、
齧歯動物の脊髄挫滅損傷モデルを用いて、ヒト抗体が、in vivoにおいてニューロ
ンの生存、神経突起伸長、または再ミエリン化を促進する結果として、病態を軽減し、神
経機能を改善する能力をさらに評価する。
【0280】
新規のSPR脂質二重層センサーは、表面のタンパク質−脂質間における、有益なヒト
IgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティーの特徴付けを可能とする迅速な無標
識法を提供する。この表面プラズモン共鳴(SPR)センサー法は、生理学的な平面的脂
質二重層と組み合わせた金属膜における周期的なナノ細孔アレイに基づき開発された。S
PR法は、迅速な無標識によるIgM抗体の関与性の抗原との結合反応速度および結合ア
フィニティーの特徴付けを可能とした。
【0281】
小さな差異を定量化するのに重要な結合反応速度は、開発中におけるリード分子を選択
する根拠をもたらし、in vivoにおける治療用分子の投与量および効力のいずれに
対しても影響を及ぼす。SPRは、業界環境および研究環境で標準的な方法として受容さ
れており、これにより、典型的には、可溶性結合パートナー対の間の分子的相互作用が特
徴付けられる。しかし、この技法は、膜結合抗原の必要に適合し始めたばかりである。S
PRセンシングにおいて用いられる金基板は、支持脂質膜を形成するのには適さない。さ
らに、金表面と直接接触する膜タンパク質は、それらの機能性を喪失することが多い。し
かし、周期的なナノ細孔アレイで穿通された金薄膜を用いる新規のナノ細孔センシング構
築法の開発は、これらの難題を克服している(例えば、
図27を参照されたい)。各ナノ
細孔は、ガラス製の基板上に配置され、微小なウェルを形成して、支持脂質膜を閉じ込め
る一方、周囲の金膜は、SPR効果をもたらして、分子の膜への結合を動的にモニタリン
グする(
図27B)。力学的安定性を維持し、両面を緩衝液に取り囲ませながら、ナノ細
孔上に薄い脂質二重層を懸濁させうるので、金膜に加工されたナノ細孔アレイにより、固
有の形状がもたらされる(
図27B)。
【0282】
これにより、膜タンパク質を、金によるナノ細孔アレイのSPRセンシング性能とシー
ムレスに統合することができ、これにより、それらの天然状態をより緊密に模倣する環境
におけるそれらの機能性が維持される。さらに、自立的な脂質二重層に組み込まれた膜タ
ンパク質は、両面からの接近が容易となりうることが、この手法を、細胞表面における抗
原−抗体間結合が、結果として細胞シグナル伝達をもたらす機構を研究するのにより魅力
的なものとしている(
図27B)。このSPR脂質二重層センサーは、表面のタンパク質
−脂質間における、治療用ヒトIgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティーを評
価し、同定し、特徴付けるのに用いられる迅速な無標識法を提供する。
【0283】
このセンサープラットフォームは、脊髄損傷の動物モデルにおける試験ために、表面の
タンパク質−脂質間における、治療用IgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティ
ーを特徴付ける。本発明者らは、小脳組織およびCNS内の細胞の固定されない「生存」
表面への結合を介して同定される特定のIgM抗体を広範に特徴付けた。これらのIgM
抗体(IgM22およびIgM46により例示される)は、in vitroにおいてカ
ルシウム流を刺激し、in vivoにおいて再ミエリン化を促進した。同じ基準に基づ
き、Mayo Clinicにおけるタンパク異常血症の血清バンク試料をスクリーニン
グすることにより、ヒト抗体が同定されている。さらなるヒトIgM抗体(本明細書では
、IgM12およびIgM42により例示される)は、in vitroにおいてニュー
ロンの表面に結合し、神経突起成長を促進し、ニューロンの死滅を防止した。
【0284】
CNS損傷およびCNS疾患についての複数のマウスモデルに由来する、固定されてい
ない「生存」皮質切片を用いたところ、ニューロン結合抗体は、損傷および疾患の病態を
有する特定のCNS細胞、構造に対する特異的免疫反応性を呈示した。
【0285】
天然のヒトモノクローナル抗体は、損傷および疾患についての複数のモデルに由来する
CNS細胞において有益な生物学的機能を強化することが示されている。ヒトモノクロー
ナル抗体は、小脳ニューロン、皮質ニューロン、網膜神経節ニューロン、および脊髄ニュ
ーロンを含めた培養物中の多種多様なニューロンの表面に結合する(例として挙げると、
ヒト抗体IgM12およびIgM42)。これらの抗体は、CNSニューロンからの神経
突起伸長を誘導し(
図28)、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害を凌駕する(
Warringtonら、2004年)。
【0286】
in vitroにおける研究は、ヒトモノクローナル抗体の、ニューロン表面の原形
質膜への結合を裏付けている。特徴的な結合が0℃で均一となるのに対し、表面の再構成
により15℃では点状構造が形成される(
図29)。細胞表面における結合は、シグナル
カスケードを誘発するシグナル伝達分子と会合してクラスター形成する膜のマイクロドメ
インに特徴的である(Howeら、2004年)。
【0287】
ヒトモノクローナル抗体は、脊髄組織に入り、静脈内投与の4時間後に損傷部位に蓄積
される(
図30)。ビブラトームによる脊髄切片に対して実施する免疫細胞化学により、
ニューロン結合抗体を投与した後の病変内にはヒトIgMが検出されるが、対照のヒトI
gMを投与した後の病変内にはヒトIgMが検出されない。慢性脊髄疾患を伴うマウス(
TMEV感染マウス)に、腹腔内を介してsHIgM42 0.5mgを施し、4時間後
に脊髄を摘出し、脊髄断面におけるヒトIgMの存在を検出した(
図30)。sHIgM
42を施されたマウスに由来する脊髄の損傷領域は、蛍光タグ付けした抗ヒトIgMに結
合する平行線維を示す(
図30A)。対照のヒトIgMを施されたマウスに由来する脊髄
の損傷領域は、ヒトIgMを含有しない(
図30B)。
【0288】
ヒトモノクローナル抗体は、Mayo Clinicのタンパク異常血症血清バンクに
由来する試料をスクリーニングするための生物学的機能アッセイを用いて同定した。40
年間にわたり収集された115,000例の血清試料は、単クローン性免疫グロブリン血
症を伴う患者に由来する高濃度のモノクローナル抗体を含有する。本発明者らは、動物モ
デルにおいて再ミエリン化促進活性を有する組換えヒトIgM22(Mitsunaga
、2002年;Warrington、2000年)を合成し、調べた。
【0289】
一実施形態では、本実施例により、ヒトSCIまたはCNSのニューロンを露出させる
脱髄性状態などの神経変性状態、神経傷害および/または損傷における治療適用、予後診
断適用、診断適用、および/または予防適用に有用なGMP品質のモノクローナル抗体を
生成させる。
【0290】
これらの研究はさらに、外傷性SCI後においてニューロンの生存を促進する結果とし
て、神経機能の保存をもたらすヒトIgM抗体も特徴付けて評価する。SCI後における
行動学的試験および軸索数の形態的測定を評価し、神経機能の内因性保存と神経機能の抗
体が媒介する保存との差異を決定する。SCI後において抗体対照と比較した軸索保護抗
体および軸索伸長抗体による処置を用いて、神経機能保存の差異を、特異的抗体が媒介す
る活性について特徴付ける。
【0291】
原形質膜タンパク質−脂質二重層を含有する膜小胞を、生理学的条件下で細胞から単離
する。SPRセンサーのナノ細孔を、正常CNSおよび脊髄損傷組織から単離されたニュ
ーロン、神経膠、シナプトソーム、およびミエリン膜の微小胞調製物を用いてコーティン
グする。ヒトモノクローナル抗体血清試料および組換え抗体試料をスクリーニングして、
特定の膜の種類の結合反応速度を決定する。
【0292】
SPRセンサーを用いて確認される通り、生理学的条件下で、凍結されず固定されてい
ない「生存」細胞および「生存」組織表面の原形質膜に特異的に結合するヒトモノクロー
ナル抗体を、SCI後における、凍結されず固定されない病理学的「生存」組織を用いて
、特異的結合について調べる。脊髄病変への結合を裏付けるヒトモノクローナル抗体を、
齧歯動物のSCI後の処置における適用可能性および活性についてさらに特徴付ける。
【0293】
プロトコールデザイン:改変動脈瘤クリップ(FEJOTAマウスクリップ:閉止力を
3gまたは8gとする)を用いて、10週齢の雌(18〜22g)C57BL/6Jマウ
ス(Jackson Laboratories)のT9レベルにおいて圧迫損傷を生成
させる。このSCIモデルは、初期影響だけでなく、小嚢胞性(microcystic
)キャビテーション、軸索変性、および頑強なアストログリオーシス、ヒト外傷性SCI
の全ての特徴を促進する持続的な圧迫期も包含する(JoshiおよびFehlings
2002年)。ラット用のBasso,Beattie,Bresnahan(BBB
)運動評価スケール、および運動のBassoマウススケール(BMS)を用いて、行動
学的試験をSCI後に実行して神経欠損を評価する。
図31に技法を示す。
【0294】
次いで、凍結させず、固定させていないex vivoの生存組織切片を、齧歯動物に
おける脊髄圧迫損傷後における病理学的病変から調製する。生理学的条件下で維持した切
片に対する免疫蛍光(IF)染色を用いて、ヒトIgM抗体結合の免疫反応性をスクリー
ニングする。
【0295】
脊髄圧迫損傷後迅速に、マウスを、腹腔内投与されるrHIgM12およびsHIgM
42またはrHIgM42を含めたヒト抗体で処置する。ヒト抗体が軸索保存または組織
修復を促進する能力を測定する。BBBスケールおよびBMSスケールを用いる行動学的
試験を、SCI後の5週間において定期的な間隔で実施する。SCIの30分後に、ヒト
抗体0.5mgの単回投与を、腹腔内を介してマウスに施す。マウスの群(15匹のマウ
ス)に、ニューロン保護、神経突起成長を促進するヒト抗体、細胞に結合しない対照のヒ
ト抗体、または対照を施す。個別のマウスを1週間に1回一晩にわたり自動式赤外線活動
ボックスに収容し(Mikamiら、2002年)、後肢を引きずる身体障害の尺度であ
る後肢による自発的立脚と水平方向の活動とを記録した(Accuscan Inc、O
hio)。また、従来のBBBスコアも毎週収集した。機能的評価は、盲検により実施す
る。
【0296】
処置の4週間後、Fluoro−GoldおよびFast Blueを、マウス4匹の
胸部下方の脊髄へと注射する。1週間後、マウスを潅流し、脳および脊髄を摘出する。脳
幹の網様核、前庭神経核、および赤核において逆行標識された細胞体を、蛍光顕微鏡法を
介して群を通してカウントする(UreおよびRodriguez、2002年)。脳幹
(ビブラトーム切片)内の標識された細胞体の数は、脊髄全体における機能的軸索のレベ
ルを反映する。脊髄に沿って1mmごとに採取した組織断面において、βアミロイドタン
パク質の蓄積についての免疫細胞化学を実施する。切片中のβアミロイド凝集物の数は、
胸部下方において機能障害を来した軸索輸送、および胸部下方における軸索の機能不全を
反映する。
【0297】
損傷の5週間後、残りのマウスをホルムアルデヒド/グルタルアルデヒド(glute
raldehyde)で潅流し、脊髄を摘出した。脊髄病変部位を含む1mmのブロック
を1つおきにAralditeプラスチック中に包埋し、切片化(1ミクロン)し、パラ
フェニレンで染色して、ミエリンが富化された保存された軸索を可視化する。Micro
suiteソフトウェア(Olympus)を用いて、病変領域の断面、保存された軸索
数、および病変への免疫細胞浸潤を測定する。軸索の頻度を測定し、群間で比較した(M
cGavernら、2000年;Rodriguezら、1987年)。全ての解析は、
実験群について知らされずに、コード化および盲検化された試料について行う。保存され
た軸索は、病変1mm
2当たりの保存された軸索数として表す。実験群および対照群間に
おけるデータの対比較では、マン−ホイットニーランクサム検定を用いる。
【0298】
【数7】
【0299】
【数8】
【0300】
(実施例13)
多発性硬化症モデル:用量反応評価
IgM抗体を、それらがマウスの多発性硬化症モデルにおいて機能的改善を促進し、再
ミエリン化過程、神経突起成長過程、またはこれらの両方の過程を増強する能力について
評価する。モデルは、Warringtonら、2007年と同様の方法を用いてヒトM
Sにおいて見出される病変と同様の特徴を伴う、CNSの遷延性、慢性で進行性の脱髄性
病変を誘導する、ピコルナウイルスのサイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)の使
用を伴う。
【0301】
雌マウスおよび雄マウス(約8週齢:SJL/J系統)に、サイラーマウス脳脊髄炎ウ
イルス(2×10
5プラーク形成単位のDaniel株:10μLの脳室内注射)を注射
する。処置のための無作為化の前に、マウスを6カ月間にわたり回復させる。次いで、マ
ウスを、被毛状態、歩行、および立ち直り反射について調べ、処置群へと無作為に割り付
ける(処置表に示すとおり)。次いで、マウスを、ビヒクル(通常の生理食塩液)または
組換えヒトIgM抗体(0.025〜2.5mg/kg)の単回静脈内注射で処置する。
神経機能を、処置の2週間後、1カ月後、および2カ月後にモニタリングする。
【0302】
機能的評価項目は、被毛状態、歩行、およびロータロッド能力に基づく点数化を包含し
た。被毛外観については、点数化を以下の通り:疾患なし(0)、最小の被毛変化(1)
、つやのない被毛(2)、失禁および変色した被毛(3)とする。活動の変化は、自動式
活動ボックスにより定量化する。さらに、歩行は、歩行速度>90cm/秒を用いるディ
ジタル式の歩行捕捉法(DigiGait)を用いて解析する。定量的な歩行解析評価項
目は、スタンス幅および持続時間、歩幅および頻度、足の角度のほか、揺れ、制動および
推進の持続時間を包含する。歩行のベースラインからの変化を定量化する。ロータロッド
能力(回転軸上の速度および持続時間との関係で運動を測定する回転軸上を動物が歩く能
力を介して、感覚および平衡調整の尺度を評価する)は、動物が一連の試行にわたり回転
装置上にとどまる時間の量として定量化する。
【0303】
実験が終了したら、動物を、CO
2への過剰曝露を介して安楽死させる。1)髄鞘形成
の程度(プラスチック包埋してパラホルムアルデヒド/グルタルアルデヒドで固定してオ
スミウム処置した組織の、電子顕微鏡による解析)および2)神経突起成長(立体的解析
評価を介する神経突起密度の評価)を評価するために、脳および脊髄を摘出する。
【0304】
第1の実施形態では、組換えヒト抗体を、表3Aおよび表3Bに示す3つの用量レベル
において単独で投与する。
【0305】
【表3A】
【0306】
【表3B】
【0307】
(
*)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改
善スコアの値は、所与の抗体の投与量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体に
ついてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX
値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じで
はなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0308】
この実施例では、組換え抗体であるIgM12、IgM42、IgM22、およびIg
M46の各々が、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な
感覚運動の評価項目の各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有
意で(p<0.05)用量依存的な改善をもたらすことが見出される。ビヒクルで処置さ
れる動物は、TMEV損傷の6カ月間以内に、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータ
ロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目における安定的な欠損をもたらす。各抗
体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の感覚運動の
評価項目における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの感覚運動の評価
項目におけるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの感
覚運動の評価項目におけるなおより大きな改善X+++を伴う、感覚運動の評価項目にお
ける有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動
物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレ
ベルで観察される。したがって、抗体IgM12、IgM42、IgM22、およびIg
M46の各々は、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な
感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項
目について:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見
出されない。
【0309】
この実施例では、IgM12およびIgM42が、立体的解析を介してビヒクルによる
処置の対照と比較して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片に
おける神経突起成長の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。
各抗体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の神経突
起成長における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの神経突起成長にお
けるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの神経突起成
長におけるなおより大きな増大X+++を伴う、神経突起成長の有意で用量依存的な変化
[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズに
ついて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0310】
IgM22およびIgM46は、立体的解析を介してビヒクルによる処置の対照と比較
して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における再ミエリン
化の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、
0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の再ミエリン化における改
善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの再ミエリン化におけるより大きな改
善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの再ミエリン化におけるなおよ
り大きな増大X+++を伴う、再ミエリン化の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改
善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0
.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0311】
(実施例14)
多発性硬化症モデル:抗体の組合せ
この実験では、用量比を固定した組換えIgM抗体の多様な組合せを、前出の例で記載
したMSのTMEVモデルにおける神経学的転帰の改善について調べる。TMEVへの曝
露の6カ月後、マウスにおける組換えIgMの組合せによる処置を開始する。この一連の
研究では、マウスに単独のビヒクルまたはIgMの多様な組合せを静脈内単回投与(混合
剤)により施す。上記の通りに、感覚運動の評価項目をモニタリングする。髄鞘形成およ
び神経突起成長を評価して、抗体の組合せによりもたらされる変化を調べる。評価される
組合せを表4Aおよび表4Bに示す。
【0312】
【表4A】
【0313】
【表4B-1】
【0314】
【表4B-2】
【0315】
(
*)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改
善スコアの値は、所与の抗体の投与量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体に
ついてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX
値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じで
はなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0316】
この実施例では、組換え抗体の組合せであるIgM12+IgM42、IgM22+I
gM46、IgM12+IgM22、IgM12+IgM46、IgM42+IgM22
、およびIgM42+IgM46が、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドス
コアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学
的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量
依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見出されない。
【0317】
さらに、これらの組合せの各々による感覚運動の評価項目の改善度は、抗体の各々単独
により予測される相加的改善と比較して統計学的に有意で用量依存的な形で相乗的(相乗
作用が呈示される)である。ここでもまた、性別に基づく改善の差は見出されない。
【0318】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM42の組合せは、神経突起成長を、ビヒクルによる対照と比較し
て有意に(p<0.05)増強した。神経突起成長度は、単独で投与される各抗体の相加
的効果と比較して相乗的である。したがって、これらの抗体は、異なる作用機構を介して
成長を誘発し、これは、これらの抗体の神経組織へのそれぞれに異なる結合パターンと符
合することが理解される。
【0319】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM22+IgM46の組合せは、髄鞘形成を、ビヒクルによる処置の対照と比較
して有意な(p<0.05)増大をもたらした。さらに、再ミエリン化度は、単独で投与
されるIgM22またはIgM46について予測される相加的効果と比較して相乗的であ
る。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したが
って、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場
合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を
誘発する。
【0320】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM22の組合せは、損傷している脊髄における髄鞘形成ならびにニ
ューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をも
たらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量
において単独で投与されるIgM12またはIgM22それぞれの効果と比較して相乗的
である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。し
たがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在す
る場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生
成を誘発する。
【0321】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM46の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM12またはIgM46それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0322】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM22+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM22またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0323】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM46+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM46またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0324】
(実施例15)
脊髄損傷モデル
IgM抗体を、それらがラットの脊髄損傷モデルにおいて機能的改善を促進し、再ミエ
リン化過程、神経突起成長過程、またはこれらの両方の過程を増強する能力について評価
する。モデルは、脊髄を、幅を2.5mmとする改変カバースリップ用ピンセットのブレ
ードの間で側方から、あらかじめ設定したブレード間隔である0.9mmまで、15秒間
にわたり圧迫することを伴う。結果として得られる病変は、ヒトSCIにおいて見出され
る特徴と同様の特徴を示す(Grunerら、1995年)。
【0325】
雄ラットおよび雌ラット(約200〜225g、Long Evans)に手術を施し
て、上記の脊髄損傷をもたらす。手術の10分後、組換えIgM抗体またはビヒクルによ
る処置を、静脈内を介して施す。BBB運動評価スケールを用いて、後肢における運動機
能および歩行を12週間にわたり評価する(例えば、Basso DM、Beattie
MS、Bresnahan JC、Anderson DK、Faden AI、Gr
uner JA、Holford TR、Hsu CY、Noble LJ、Nocke
ls R、Perot PL、Salzman SK、Young W.(1996年)
、「MASCIS evaluation of open field locomo
tor scores: Effects of experience and te
amwork on reliability」、Journal of Neurot
rauma、13巻:343〜359頁;Basso DM、Beattie MS、B
resnahan JC.(1995年)、「A sensitive and rel
iable locomotor rating scale for open fi
eld testing in rats」、Journal of Neurotra
uma、12巻:1〜21頁を参照されたい)。ラットを、1、3、5、7、および10
日後に調べ、次いで、SCI後9〜12週間にわたり毎週、ベースラインからのBBB変
化を定量化する。
【0326】
実験が終了したら、動物を、CO
2への過剰曝露を介して安楽死させる。1)髄鞘形成
の程度(プラスチック包埋してパラホルムアルデヒド/グルタルアルデヒドで固定してオ
スミウム処置した組織の、電子顕微鏡による解析)および2)神経突起成長(立体的解析
評価を介する神経突起密度の評価)を評価するために、脳および脊髄を摘出する。
【0327】
(実施例16)
脊髄損傷モデルにおける個別の抗体の使用
この実験では、組換えヒト抗体を、表5Aおよび表5Bに示す通り、3つの用量レベル
において単独で投与する。
【0328】
【表5A】
【0329】
【表5B】
【0330】
(
*)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改
善スコアの値は、所与の抗体の投与量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体に
ついてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX
値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じで
はなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0331】
この実施例では、BBBパラメータの改善により、組換え抗体であるIgM12、Ig
M42、IgM22、およびIgM46の各々が、後肢における運動機能の、統計学的に
有意で(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)用量依存
的な改善をもたらすことが見出される。ビヒクルで処置される動物は、中等度レベルの脊
髄損傷の6週間以内に、安定的なBBBスコアをもたらす。各抗体について、0.025
〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時のBBBレベルにおける改善Xの増大
、用量を0.25mg/kgとするときのBBBにおけるより大きな改善X+の増大、お
よび用量を2.5mg/kgとするときのBBBにおけるなおより大きな改善X+++を
伴う、BBBスコアにおける有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出
される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよ
び0.05のアルファレベルで観察される。したがって、BBBの改善により、抗体Ig
M12、IgM42、IgM22、およびIgM46の各々は、後肢における運動機能の
、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目についてp<0.05)で
用量依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見出されない。
【0332】
IgM12およびIgM42が、立体的解析を介してビヒクルによる処置の対照と比較
して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における神経突起成
長の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、
0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の神経突起成長における改
善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの神経突起成長におけるより大きな改
善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの神経突起成長におけるなおよ
り大きな増大X+++を伴う、神経突起成長の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改
善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0
.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0333】
IgM22およびIgM46は、立体的解析を介してビヒクルによる処置の対照と比較
して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における再ミエリン
化の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、
0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の再ミエリン化における改
善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの再ミエリン化におけるより大きな改
善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの再ミエリン化におけるなおよ
り大きな増大X+++を伴う、再ミエリン化の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改
善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0
.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0334】
(実施例17)
脊髄損傷:抗体の組合せ
この実施例では、用量比を固定した組換えIgM抗体の多様な組合せを、本明細書の実
施例14で記載した脊髄損傷モデルにおける神経学的転帰の改善について調べる。したが
って、IgM抗体の組合せ(混合剤として)またはビヒクル対照による静脈内処置を、損
傷の10分後に施す。運動評価項目を、上記の通りにモニタリングする。さらに、髄鞘形
成および神経突起成長を評価して、抗体の組合せによりもたらされる変化を調べる。評価
した組合せを、表6Aおよび表6Bに示す。
【0335】
【表6A】
【0336】
【表6B-1】
【0337】
【表6B-2】
【0338】
(
*)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改
善スコアの値は、所与の抗体の投与量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体に
ついてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX
値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じで
はなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0339】
この実験では、組換え抗体の組合せであるIgM12+IgM42、IgM22+Ig
M46、IgM12+IgM22、IgM12+IgM46、IgM42+IgM22、
およびIgM42+IgM46の各々が、BBBパラメータを介して見出される後肢機能
(運動評価項目)の統計学的に有意で用量依存的な改善をもたらすことが見出される。性
別に基づく改善の差は見出されない。
【0340】
さらに、これらの組合せの各々は、運動機能を、同じ用量における抗体の各々単独によ
る改善と比較して相加的を超える(すなわち、相乗的)な形で改善することが見出される
。ここでもまた、性別に基づく改善の差は見出されない。
【0341】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM42の組合せは、神経突起成長を、ビヒクルによる対照と比較し
て有意に(p<0.05)増強した。神経突起成長度は、単独で投与される各抗体の相加
的効果と比較して相乗的である。したがって、これらの抗体は、異なる作用機構を介して
成長を誘発し、これは、これらの抗体の神経組織へのそれぞれに異なる結合パターンと符
合することが理解される。
【0342】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM22+IgM46の組合せは、髄鞘形成の、ビヒクルによる処置の対照と比較
して有意な(p<0.05)増大をもたらした。さらに、再ミエリン化度は、単独で投与
されるIgM22またはIgM46について予測される相加的効果と比較して相乗的であ
る。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したが
って、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場
合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を
誘発する。
【0343】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM22の組合せは、損傷している脊髄における髄鞘形成ならびにニ
ューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をも
たらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量
において単独で投与されるIgM12またはIgM22それぞれの効果と比較して相乗的
である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。し
たがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在す
る場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生
成を誘発する。
【0344】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM46の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM12またはIgM46それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0345】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM22+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM22またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0346】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM46+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM46またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0347】
(実施例18)
ヒトニューロン結合IgMである組換えrHIgM12抗体は脊髄軸索を保護する
本発明者らは、天然ヒト血清抗体であるsHIgM12が、in vitroにおいて
ニューロンに結合し、神経突起成長を促進することを裏付けた。本発明者らは、同一の特
性を伴う組換え形態であるrHIgM12を生成させた。サイラーマウス脳脊髄炎ウイル
ス(TMEV)による感受性マウス系統の脳内感染は、多発性硬化症の進行性の形態と同
様の進行性の軸索喪失および神経機能不全を伴う慢性脱髄性疾患を引き起こす。このモデ
ルを、希突起膠細胞に結合するIgMクラスの抗体で処置すると、CNSの再ミエリン化
が改善される(Warringtonら(2007年)、J Neurosci Res
、85巻:967〜976頁)。これに対し、ニューロンに結合する血清由来のヒトモノ
クローナル抗体(sHIgM12)は、ラミニンと同程度に頑健な神経突起成長を促進し
、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害効果を低減する(Warringtonら
(2004年)、J Neuropathol Exp Neurol、63巻(5号)
:461〜473頁)。より近年には、上記と同一の生物学的特性を伴うヒトsHIgM
12の組換え形態(rHIgM12)を生成させた。rHIgM12の脊髄軸索の完全性
に対する効果を研究するために、本発明者らは、解剖学的に連続であり、機能的に保存さ
れた軸索に依拠する技法である逆行標識法を実施した。
【0348】
方法
逆行標識法:マウスに麻酔をかけた後、下部胸椎(T10〜11)において背部椎弓切
除を実施した。脊髄を右側において片側切断し、片側切断部位に4%Fluorogol
dの滅菌溶液を充填した。手術の1週間後、マウスを屠殺し、脳を摘出した。脳幹の連続
切片(40mm厚)を作製し、切片を4枚ごとに解析した。16枚の脳幹スライスから、
大型で明るい蛍光ニューロンを、200倍の拡大率下でカウントした。
【0349】
結果
TMEVモデルは、神経保護を促進し、軸索喪失を防止する戦略を開発するためのプラ
ットフォームをもたらす。疾患の早期は炎症および脱髄を包含し、後期は軸索喪失および
機能欠損を提示する。前出例で詳述し、共焦点顕微鏡画像(
図15)を介して確認される
通り、1mgの単回腹腔内注射の後、rHIgM12は脊髄に入り、ニューロフィラメン
ト+(NF)の軸索に局在する。rHIgM12はまた、クロスカット形としてNF+線
維束にも共局在する(
図15D)。動物研究では、rHIgM12が、逆行標識した脳幹
ニューロン数を増大させる。感染の90日後(dpi)に、rHIgM12または生理食
塩液をSJLマウスに投与した。処置の9週間後に、逆行標識法のための脊髄手術を実施
した。手術の1週間後、マウスを屠殺し、脳幹の連続切片により、蛍光標識したニューロ
ンを定量化した。rHIgM12は、生理食塩液対照と比較して逆行標識した脳幹ニュー
ロン数を増大させる(データは示さない)。したがって、rHIgM12で処置したマウ
スの逆行標識した脳幹ニューロンは、生理食塩液で処置した対照と比較してより多かった
。
【0350】
(実施例19)
ニューロン結合ヒトモノクローナル抗体の単回投与はマウス脱髄モデルにおける自発活
動を改善する
本発明者らの実験室は、天然ヒト血清抗体であるsHIgM12が、in vitro
においてニューロンに結合し、神経突起成長を促進することを裏付けた。本発明者らは、
同一の特性を伴う組換え形態であるrHIgM12を生成させた。サイラーマウス脳脊髄
炎ウイルス(TMEV)による感受性マウス系統の脳内感染は、結果として、多発性硬化
症の進行性の形態と同様の進行性の軸索喪失および神経機能不全を伴う慢性脱髄性疾患を
もたらす。rHIgM12のTMEV感染マウスの運動機能に対する効果を研究するため
、本発明者らは、夜間における自発活動を、何週間にもわたってモニタリングした。通常
は活動的な夜間のモニタリング時間において最大限の活動変化が生じることが予測される
ため、夜間挙動は、齧歯動物の神経機能についての高感度の尺度である。ベースラインの
自発活動についてまとめるため、マウスを、処置前に8日間にわたり活動ボックスに入れ
た。処置後、各群における活動を8週間にわたり持続的に記録した。本発明者らは、以下
の2つの理由で8週間にわたる長期のモニタリング期間を選択した:(1)本発明者らは
既に、IgM誘導性再ミエリン化が、処置後5週間までに示されると裏付けたこと、およ
び(2)この系統におけるTMEV誘導性脱髄性疾患の進行は極めて遅いこと。長期の観
察期間および大規模なデータセットに起因して、フィルタリングされていない元の記録を
研究しながら、処置群間の差異を十分に理解することは困難でありうる。高度に変動的な
元のデータにおける変化を明確に詳述するために、本発明者らは、3つの異なる方法:(
1)ビニング法、(2)ガウスローパスフィルター(GF)の適用、および(3)多項式
フィッティングを適用した。3つの方法の各々を用いて、本発明者らは、rHIgM12
による早期の処置が、水平方向の運動機能および垂直方向の運動機能のいずれにおいても
、対照のIgMおよび生理食塩液と比較して改善を誘導するのに対し、後期の処置が改善
するのは水平方向の活動だけであることを示した。rHIgM12は、正常な非感染マウ
スの活動を変化させなかった。この研究は、ニューロン結合IgMによる処置は、in
vitroにおいてニューロンを保護するだけでなく、また、運動機能の改善にも影響を
及ぼすという仮説を裏付ける。
【0351】
序説
齧歯動物の疾患モデルにおける、長期にわたる神経機能のモニタリングおよび解析は、
依然として難題である。通常は活動的な夜間のモニタリング時間において最大限の活動変
化が生じることが予測されるため、夜間挙動は、齧歯動物の神経機能についての高感度の
尺度である[1]。しかし、進行が緩徐な疾患の動物モデルでは、動作のモニタリングが
数週間にわたることが多い。本発明者らは既に、希突起膠細胞結合抗体(rHIgM22
)が、処置後5週間までに、再ミエリン化を増強することを報告した[2]。疾患および
修復の発生のいずれもが緩徐な過程であることを考え合せ、かつ、活動における任意の変
動を確実にするために、本発明者らは、短期のモニタリングにおいて用いられるサンプリ
ング密度と同じサンプリング密度で、長期にわたる活動をモニタリングした。これにより
、大規模で高度に変動的なデータセットが創出された(
図32A、C)。処置後の変化を
明確に詳述し、長期の活動における一般的な傾向を復元するために、本発明者らは、Ma
thematica(Wolfram Research,Inc.)を用いることによ
り、データビニング、ガウスフィルタリング、および多項式フィッティングの使用を比較
した。
【0352】
サイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)による感受性マウス系統の脳内感染は、
結果として、多発性硬化症の進行性の形態と同様の進行性の神経機能不全を伴う慢性脱髄
性疾患をもたらす[3]。このモデルを、希突起膠細胞に結合するIgMクラスの抗体で
処置すると、CNSの再ミエリン化が改善される[4]。これに対し、ニューロンに結合
する血清由来のヒトモノクローナル抗体(sHIgM12)は、ラミニンと同程度に頑健
な神経突起成長を促進し、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害効果を低減する[
5]。より近年には、同一の生物学的特性を伴うヒトsHIgM12の組換え形態(rH
IgM12)を生成させた。本発明者らは、rHIgM12の半減期は3.6時間である
が、なおも血液脳関門を越え、神経組織に結合することを既に示した(未刊行の観察)。
rHIgM12のTMEV感染マウスの活動に対する効果を研究するため、本発明者らは
、AccuScan活動ボックス(Accuscan Instruments,Inc
.、Columbus、OH)を用いて夜間における自発活動を数週間にわたってモニタ
リングした。本発明者らは、以下の2つの理由で8週間にわたる比較的長期のモニタリン
グ期間を選択した:(1)IgM誘導性再ミエリン化が、処置後5週間までに示されるこ
と、および(2)この系統におけるTMEV誘導性脱髄性疾患の進行は、MSの純粋に自
己免疫的なEAEモデルと比較して極めて遅いこと[6]。既に刊行された研究と比較し
て長期の観察期間(表7)に起因して、生データの目視により変化を同定することは、困
難であるとわかった。
【0353】
【表7】
【0354】
材料および方法
マウス:SJL/Jマウス(Jackson Laboratories、Bar H
arbor、ME)を、Mayo Clinicの動物ケア施設に収容し、飼育した。動
物用のプロトコールは、Mayo ClinicのInstitutional Ani
mal Care and Use Committeeにより承認された。
【0355】
脱髄のサイラーウイルスモデル:脱髄性疾患は、6〜8週齢の雌マウスにおいて、TM
EVの脳内注射を介して誘導した。27ゲージの注射針により、Daniel株のTME
V2.0×10
5プラーク形成単位を含有する10μlを送達した。この結果、発症率を
>98%とするが致死性はまれな感染がもたらされた。全ての動物は、2週間以内に消失
する軽度の脳炎を発症した。動物は、次の6〜8カ月間において、慢性脊髄脱髄性疾患に
より増悪した。軸索損傷および軸索喪失は感染の3カ月後に始まり、神経機能不全と相関
する[3]。
【0356】
抗体による処置:SJLマウス(非感染、感染の45日後および90日後)を、0.5
mlのPBS中に溶解させた抗体(rHIgM12またはアイソタイプのIgM対照)2
00μgの単回腹腔内投与で処置した。第3群は、0.5mlのPBSだけで処置した。
【0357】
自発活動のモニタリング:自発運動の活動は、Digiscan open fiel
d(OF)装置(Omnitech Electronics;Columbus、OH
)およびVersamaxソフトウェア、v.4.12−1AFE(Accuscan
Instruments,Inc.、Columbus、OH)により記録した。この装
置は、2セットの光電管を保持する金属製フレームにより支持される6つのアクリル製ケ
ージ(40×40×30.5cm)からなる。このデバイスは、投射された赤外線ビーム
の遮断回数を集計することにより、水平方向の運動および垂直方向の運動の個別の数を測
定する。全てのケージにおいて、マウスを、以下の同一の環境状態に曝露した:(a)食
物および水を自由に摂取可能とすること、(b)通常の12時間の明/暗周期、(c)周
囲温度を70°Fとすること。各実験において、活動過剰の動物、および、まれな場合に
は、体重過剰の動物は除外し、残りのマウスを無作為化した。SJLマウス5匹ずつの複
数の群を各ケージの中央に入れ、連続8日間にわたり、ベースラインの自発活動について
まとめた。この期間の後、ベースラインの活動が最も類似する3つの群のマウスを、rH
IgM12、対照のIgM抗体、または生理食塩液で処置し、次いで、8週間にわたりモ
ニタリングした。1時間のブロック当たりのビーム遮断回数としてデータを収集した。水
平方向および垂直方向の全活動は、Versadatプログラム、v.3.02−1AF
E(Accuscan Instruments)を用いて記録した。本発明者らは、こ
れがInstitutional Animal Care and Use Comm
ittee(IACUC)により許容される最大限の動物数であるため、活動ボックス1
つ当たりに5匹を超える動物を入れることができなかった。
【0358】
データ解析:フィルタリングされていない元の記録を研究しながら、処置群間の差異を
十分に理解することは困難でありうる(
図32A〜C)。高度に変動的な元のデータにお
ける緩徐な傾向を復元するために、本発明者らは、3つの異なる方法:(1)ビニング法
、(2)ガウスローパスフィルター(GF)の適用、および(3)多項式フィッティング
を適用した。
【0359】
データビニングとは、最も単純な方法であり、あらかじめ選択したビン内のデータ点の
群を、それらの平均値で置換する。本発明者らの場合、本発明者らは、マウスの活動が夜
間にピークとなることを踏まえ、夜間におけるビンを選択した。したがって、本発明者ら
は、
図33A、33B、35C、35D、37C、および37Dに示す通り、全ての夜間
におけるリーディング(12時間/日)を、それらの平均値で置換した。群の比較は、処
置1回当たり12時間にわたる有効な試料サイズを有する平均値の差異についての単純な
t検定を介して実施することができる。これらの比較は単純であるが、各時点における試
料サイズが小型である結果として標準誤差が大きくなり、統計学的な比較の使用は限定さ
れたものとなる。全体的に、データビニングは、ノイズの多いデータを可視化するのに有
効な方法であるが、統計学的検定のための使用は限定されたものとなる。
【0360】
ガウスフィルタリング(GF)(また、データの平滑化、または感度の増強である、ロ
ーパスフィルタリングとしても公知である)は、フーリエ変換分光法および画像処理にお
いて一般に用いられるノイズ低減手順である[7]。ガウスブロードニング(GB、日単
位)の適切な選択により実施されるGFにより、高頻度の変動が、所望のレベルで除去さ
れた。フィルターの選択は任意であり、予測される活動変化の割合を指針とすることがで
きる。GFは、影響がガウス関数に従い減衰するように、値の両側から採取した点からの
情報を用い、これらの点の影響を重みづけする平滑化法である。コンピュータ利用につい
て述べると、GFは、以下の2つの同等な方式で実装することができる:1)データをフ
ーリエ変換(FT)した後、ガウス関数で乗じ、この積のFTの逆数を取る方式、および
2)ガウス核によるデータの直接的なコンボリューション。高レベルのソフトウェアパッ
ケージ(Matlab(Mathworks)またはMathematica(Wolf
ram))では、ガウスフィルター関数が、使用者によるプログラミングを最小限とする
かまたはプログラミングを伴わずに利用可能である。GBを適切に選択すれば、上記で詳
述したGF法により、高度に複雑かつ異質なデータの単純な可視化が可能となる。GFの
1つの限界は、GFにより傾向の容易な可視化が可能となる一方で、GBを選択すること
により、統計学的な比較が複雑化することである。
【0361】
比較のために、かつ、簡略化した統計学的比較を可能とする方法を裏付けるために、本
発明者らは、多項式をデータに適合させる。これらのモデルは、任意の次数(xn)まで
の多項式の項を許容し、各処置群について個別の形態パラメータ(相互作用項)を推定し
た。本発明者らによる6次多項式の選択は、複数の選択肢を探索した後の恣意的なもので
あったが、ある時間にわたる非線形効果をモデル化するのに十分な柔軟性を可能とした。
次数を変化させる多項式を用いて異なる処置群を最適な形で適合させたため、本発明者ら
は、高次における柔軟性を可能とすることを選択した。Akaike Informat
ion Criteria(AIC)を用いて、多項式系による複数の処置群にわたる「
最良適合」を決定した[8]。AICとは、さらなる項を足し合わせることによりR
2の
増分を釣り合わせるが、過剰複雑性(すなわち、自由度の使用)にはペナルティーを科す
モデル比較の方法である。AICによれば、一般に、3次の適合が、データの傾向を捕捉
するのに十分とされ、場合によっては、2次適合、なおまたは線形適合が「最良」とされ
た。しかし、本発明者らの主な目標は、観察される時点における処置群を比較することで
あった。データ点が多数であり、本発明者らは、多項式フィッティングを用いて、本発明
者らの観察データ以外の処置値を予測する(または外挿する)わけではないため、結果に
対する「過剰適合」の影響は最小限である。
【0362】
多項式フィッティングの1つの利点は、処置群の統計学的な比較が単純であり、指定し
た時点において、予測されるモデル値およびそれぞれの標準誤差を用いて処置を比較しう
ることである。直接的な対応のある処置の比較は、時間枠の全体にわたり、定期的な間隔
で実施して、処置群が有意に異なったときを決定することができる。最後に、多項式フィ
ッティングは、さらなる中程度頻度および低頻度のノイズを除去し、これにより、時間枠
の全体にわたり、視覚的注意の焦点が一般的な傾向に当てられる。
【0363】
しかし、実験の各々においては、一部の群のマウスのベースラインにおける水平方向お
よび垂直方向の活動(8日間)が、何らかの形で異なっていた。したがって、本発明者ら
はまず、Z値を用いて、各群について個別にベースラインの活動を標準化し、次いで、こ
れらの値に対して、ガウスフィルタリングを実施するか、または多項式を適合させた。
【0364】
統計学的な解析:Mathematica(Wolfram)で書かれたマクロを用い
ることにより、データのビニングおよびガウスローパスフィルターによるデータの平滑化
を実施した。マクロおよび指示書は、mayoresearch.mayo.edu/m
ayo/research/rodriguez_lab/software.cfmに
おいて入手可能である。z統計(SAS Institute,Inc.)に基づいて予
測されるモデル値およびそれぞれの標準誤差を用いて、多項式回帰モデルおよび処置群の
統計学的比較を実施した。直接的な対応のある処置の比較は、時間枠の全体にわたる各日
において実施し、統計学的な有意性は、典型的なα=0.05の閾値で決定した。多重比
較のための調整は行わなかった。
【0365】
結果
感染の90日後において施すと、rHIgM12はSJLマウスにおける水平方向の活
動を改善する
感染の90日後(dpi)におけるSJLマウス5匹ずつの3つの群を活動ボックスに
入れ、連続8日間にわたりベースラインの活動を測定した。2つの群のマウスを、rHI
gM12またはアイソタイプの対照IgM 200μgずつの単回投与で処置した。第3
群は、生理食塩液で処置した。処置後、自発活動を、8週間にわたり持続的に記録した。
データは、1時間のブロックで収集したため、本発明者らは、各群について約900ずつ
のデータ点を得た。この元の生データ(
図32A〜C)は高度に変動的であるので、処置
群間の差異を十分に理解することは困難でありうる。3つの方法(ビニング法、ガウスフ
ィルタリング、および多項式フィッティング)全てにより、rHIgM12で処置したマ
ウスが、水平方向の活動における改善を示すのに対し、対照のIgMおよび生理食塩液で
処置したマウスは、8週間にわたり活動の変化を示さないことが明らかとなった(
図33
A、C、およびE)。多項式フィッティングの後、本発明者らは、3つの処置についての
直接的な対応のある比較を用いて、rHIgM12処置マウスにおける水平方向の運動機
能の改善が、処置の7日後(対照のIgMと比較して)および11日目において(生理食
塩液と比較して)統計学的に有意となることを決定した(
図34)。rHIgM12処置
動物の水平方向の夜間活動において観察される改善は、約30日間にわたり持続し、次い
で、ベースラインレベルに戻った。生理食塩液処置群の対照IgM処置群と対比した対応
のある比較は、38〜52日目にわたり統計学的な有意性を示した。しかし、rHIgM
12処置群と対照との間で観察される主要な差異と比較した場合、本発明者らは、対照群
間におけるこれらの差異は、生物学的に有意ではないと考える。他方、垂直方向の活動は
、主要な差異を示さず、3つの群全てにおいて同様であった(
図33B、D、およびF)
。
【0366】
感染の45日後に施すと、rHIgM12はSJLマウスにおける水平方向および垂直
方向の活動を改善する
以前の研究では、垂直方向の活動(後肢による立脚挙動)を主要なリードアウトとして
用いた[1]。慢性TMEV感染マウスでは、軸索の脱落に起因して、後肢が徐々に脆弱
となり、こわばるので、後肢による立脚が低減された。この研究の第1の実験では、rH
IgM12を、脱髄が最大となり、進行性の軸索喪失が始まる時点で投与した(感染の9
0日後)ところ、水平方向の活動だけが改善された。後肢による立脚挙動は影響を受けず
、3つの処置群全てにおいて同等であった。したがって、本発明者らは、早期の時点にお
ける処置がより有益でありうるかどうかを問うた。第2の実験では、マウス5匹の群を、
感染の45日後に、200μgのrHIgM12、アイソタイプの対照IgM、または生
理食塩液の単回投与で処置した。同一の実験デザインを用い、ベースラインの活動を8日
間にわたり収集し、処置後の活動を8週間にわたり収集した。処置の約2週間後に始まる
この実験では、rHIgM12で処置したマウスが、水平方向および垂直方向のいずれの
活動においても明らかな改善を示した。これは、3つの方法の全て:データの平均化、ガ
ウスフィルターまたは多項式フィッティングの適用を用いた後で明らかとなった(
図35
C〜H)。対照のIgMおよび生理食塩液で処置したマウスは、研究の終了まで同様の活
動レベルを示した。rHIgM12で処置したマウスでは、実験が終了するまで、水平方
向の活動の改善が明らかであった。他方、垂直方向の活動の改善は、約4週間にわたって
続き、次いで、ベースライン値へと低下した。3つの処置についての直接的な対応のある
比較は、rHIgM12で処置したマウスにおける水平方向の運動機能の改善が、処置の
13日後において(対照のIgMと比較して)、および処置の9日後において(生理食塩
液と比較して)有意に異なることを示した(
図36AおよびC)。同様に、rHIgM1
2で処置したマウスにおける垂直方向の運動機能も、処置の14日後において(対照のI
gMと比較して)、および処置の6日後において(生理食塩液と比較して)有意に異なっ
た(
図36BおよびD)。対照のIgM処置群を生理食塩液処置群と対比する比較は、水
平方向の活動または垂直方向の活動のいずれについても大きな生物学的差異を明らかにし
なかった(
図36EおよびF)。
【0367】
rHIgM12は正常の非感染マウスにおける自発活動を変化させない
以前の2つの実験におけるrHIgM12による処置は、神経障害を来した感染マウス
において明らかに有益な効果を示した。この抗体が刺激性の特性を有し、したがって、運
動機能の増大を誘発する可能性を除外するために、本発明者らは、非感染マウスによる同
様の実験を実施した。週齢を一致させた非感染マウスの3つの群を、rHIgM12、対
照のIgM、または生理食塩液で処置した。感染マウスにおける活動の増強と比較して、
rHIgM12、ならびに、他の2つの処置は、正常マウスの運動機能の増大を誘導しな
かった(
図37)。3つの群全てが、自発活動の低下傾向を示した。この結果は、いずれ
の抗体も、正常マウスにおける活動の増大に影響を及ぼさないことを示す。
【0368】
考察
多発性硬化症のほか、他の脱髄性疾患および神経変性疾患のための神経保護療法を開発
することが火急に必要とされている。炎症性CNS疾患における軸索損傷の軽減を間接的
にもたらしうる抗炎症薬も存在するが、ニューロン/軸索のレベルで直接作用する薬物は
存在しない。神経保護の主要な目標は、ニューロンの機能不全を制限し、ニューロンおよ
び軸索の機能的完全性を維持しようと試みることである。多年にわたり、MSの病理学的
特徴である脱髄は、永続的な神経欠損の原因であると考えられた。今日では、脱髄が永続
的な軸索喪失に必要ではあるが十分ではないことが明らかである[9]。脱髄だけが、露
出された軸索に、T細胞の細胞傷害作用または死滅した希突起膠細胞に由来する局所性の
神経栄養性の支持の喪失により引き起こされる続発的損傷に対する素因を与える[10]
。
【0369】
ニューロン結合抗体であるsHIgM12が、頑健な神経突起伸長を促進したという以
前の観察[5]は、in vitroにおける明らかに有益な応答を表す。この抗体の組
換え形が、in vitroにおいて同様の特性を示したため、本発明者らは、それがT
MEV誘導性脱髄性疾患を伴うマウスの運動活動に影響を及ぼすかどうかを問うた。運動
機能の解析は、夜間における自発活動をモニタリングすることにより実施した。第一に、
本発明者らは、脱髄が最大となり、軸索喪失が始まる時点(感染の90日後)において、
マウスを処置した。処置の8週間後、rHIgM12が、水平方向の運動活動だけを改善
したのに対し、垂直方向の活動は影響を受けなかった。しかし、疾患の早期に(感染の4
5日後に)マウスを処置したところ、rHIgM12は、水平方向および垂直方向のいず
れの活動も改善した。慢性TMEV誘導性疾患では、後肢による立脚挙動(垂直方向の活
動)への影響が最も重度であり、この活動の一因となる軸索の変性および喪失は、不可逆
性であると考えられる。逆に、これらの軸索の損傷が不可逆的ではない疾患の早期が、処
置に理想的な時点であると考えられる。Jonesらは、EAEモデルを用い、軸索の脱
落と運動機能とを研究することにより、神経保護薬による処置は、疾患の早期、運動欠損
が始まるさらに前に開始すべきであるという同一の枠組みを提起した[11]。第二に、
機能的改善が生じるのは処置後約2週間であり、約25〜30日間後には減衰し始めるた
め、運動機能を維持するには、処置を反復することが必要でありうる。本発明者らの研究
では残念ながら、結果としてアナフィラキシーをもたらす、マウスにおける抗ヒト抗体免
疫反応のために、ヒトIgMの複数回投与を試験することが可能ではなかった。A2B5
とは、神経突起成長もまた促進するマウスモノクローナル抗体であり[5]、機能的転帰
およびその作用の持続時間に対する複数回投与対単回投与を試験することが可能な候補を
表す。最後に、いずれの処置も、非感染の正常動物の運動機能には効果を及ぼさなかった
。処置に関わらず、正常マウスの全ての群は、自発活動の漸進的な低下を示したが、これ
は、環境への馴化により説明することができる。正常動物におけるこの活動の低下は、r
HIgM12により誘導される、疾患マウスの活動の増大をさらにより印象的なものとす
る。
【0370】
本発明者らは、神経欠損の発症を防止することが一般に極めて困難であった、炎症性脱
髄性疾患の慢性進行性モデルにおける運動機能の改善を裏付けた。したがって、ニューロ
ン結合モノクローナル抗体rHIgM12は、ヒトMSを処置するだけでなく、また、他
の脱髄性障害または神経変性障害を処置するためにも極めて有望な治療剤を表す。加えて
、臨床的に無症状のMSによる侵襲例も存在するため[12、13]、本発明者らおよび
他者は、神経保護的化合物を免疫調節剤で補完すべきであることも提起した[11]。本
発明者らは、免疫調節剤薬とrHIgM12とによる組合せ処置が、軸索損傷後における
CNSの保存および修復の著明な増強を結果としてもたらしうることを提起する。
【0371】
まとめると、この研究による結果は、以下の3つの重要な結論を提示する:1)処置を
施す病期が極めて重要である(早期の処置ほど有益性が増大する)こと;2)運動機能の
改善をさらに維持するには、処置の反復が必要でありうること;および3)rHIgM1
2が毒性ではなく、正常な非感染動物における運動機能には影響を及ぼさないこと。これ
らの知見は、ニューロンを標的とする組換え抗体が、慢性軸索脱髄モデルにおける神経機
能を改善するという仮説と符合する。
【0372】
【数9】
【0373】
【数10】
【0374】
(実施例20)
運動ニューロン疾患であるALSを処置するためのニューロン保護的ヒトMAb
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、主に前角細胞および皮質脊髄路ニューロンを損な
う深刻な神経疾患である。ALSとは、脳および脊髄における運動細胞の進行性の変性を
特徴とする運動ニューロン疾患である。運動細胞(ニューロン)は、個体が動き回り、話
し、呼吸し、嚥下することを可能とする筋肉を制御する。神経がそれらを活性化しなけれ
ば、筋肉は徐々に脆弱化し、失われる。広範な研究にもかかわらず、この障害の病因は、
大部分未知であり、有効な処置は存在しない。ALSのまれな遺伝子形態を伴う少数の患
者において関与する遺伝子により、この障害に対する潜在的な鍵がもたらされる[1]。
同定された1つの遺伝子変異は、Cu/Zn SOD(銅/亜鉛スーパーオキシドジスム
ターゼ)変異であり、これは、ALSの遺伝形態を伴う患者のうちのわずかな比率におい
て存在する[2]。SOD変異を保有する患者は、関連の遺伝子変異を伴わずにこの疾患
を自発的に発症する患者と比較して、神経学的転帰が酷似することが明らかである[3]
。この酵素は、スーパーオキシドから酸素および過酸化水素への触媒を行う。SOD1と
は、ALSと関連する酵素形態である。軸索輸送を急速に損なうSOD1の機能獲得が存
在するようである[4]。家族性ALSにおけるSOD変異の頻度は12〜23%で変化
し、この遺伝子は通常、常染色体優性遺伝子として遺伝する。
【0375】
この遺伝子を同定することにより、新たな薬物をデザインし、調べるための、ALSの
疾患特徴を伴う動物モデルの開発が可能となった。ALSの遺伝形態と非遺伝形態とは類
似の疾患であるため、根底にある原因は、関連している可能性がある。したがって、遺伝
性ALSのマウスモデルにおいて有効な薬物はまた、ALSのより一般的なランダム形態
を伴うヒトにおいても作用する。ヒトSOD1遺伝子およびALSの病理学的特徴を伴う
トランスジェニックマウスモデルの利用可能性により、この疾患のための薬物の開発が推
進されてきた[5]。これらのトランスジェニックマウスは、進行性の運動ニューロン喪
失および神経欠損を発症する。ALSの遺伝形態と非遺伝形態とは臨床的に類似するため
、運動ニューロン機能における根底にある欠損が関連している可能性がある。SOD1関
連ALSにおいて有効な試薬はまた、有病率の高いALSの散発形態の一助ともなり得る
。現在のところ、ALS用に市販されている薬物は、グルタミン酸遮断薬であるRilu
tek(登録商標)(Riluzole錠)の1つに過ぎない。しかし、研究により、こ
の薬物は、患者の生活の質を改善せず、寿命を平均2カ月間延長しうるに過ぎないことが
示されている。より有効な薬物が火急に必要とされていることが明らかである。
【0376】
本発明者らの実験室では、中枢神経系(CNS)の脱髄性障害および変性障害を処置す
るための新規の療法を開発し[6]、CNSにおける修復を誘導することが示されている
、希突起膠細胞[7]またはニューロン[8]に結合する一連のヒトモノクローナル抗体
(mAb)を同定した。これらの抗体は、クローニングされ、配列決定され[9]、将来
の臨床試験のためにGMPグレードの施設で大量に作製されている[10]。組換えヒト
抗体IgM12(rHIgM12)は、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症を
伴う患者から単離された抗体に由来する[11]。この抗体は、CNSのニューロンおよ
び軸索を特異的に標識する[8]。IgM抗体であるにもかかわらず、上記の実施例で示
した通り、IgM12は、血液脳関門を越え、CNS内の軸索およびニューロンに特異的
に結合する。In vitroにおいて、rHIgM12は、小脳顆粒ニューロン、皮質
ニューロン、海馬ニューロン、および網膜神経節細胞ニューロンを含めた広範なニューロ
ンに結合する[12]。in vitroにおける実験は、rHIgM12が、ニューロ
ンを細胞死から保護することを裏付ける。ALS(ALSの遺伝形態および特発性形態の
両方)の早期に患者に投与されたモノクローナル抗体であるrHIgM12は、前角細胞
を保護し、軸索損傷を防止し、これにより、身体障害の開始を遅らせ、生存を改善するよ
うに作用しうる。
【0377】
結果
本発明者らは、G86R hSOD1変異を伴うマウス(FVBTg SOD1 G8
6R M1Jwg、Jackson Labs)[13]を、ヒト抗体rHIgM12で
処置する実験を実施した。G86Rマウスは、出生時は正常に見える。しかし、約90〜
100日齢から、G86Rマウスは、顕著な体重減少を経て、著明な筋肉の萎縮を発症し
、急激な体重減少から数週間以内に呼吸器不全で死滅する。LUDOLPH?無作為化「
盲検」試験では、これらのマウスが55日齢のときに、GMPグレードで精製されたrH
IgM12を、単回腹腔内投与(200μg)として施した。これに対し、プラセボ群に
は、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)を施した。少数のマウスは未処置のまま放置して、
人為的な操作を伴わない疾患の自然経過を決定した。PBS処置マウスおよび非処置マウ
スについてのデータは同様であったため、これらの群を統計学的な解析のために併合した
。マウスは、本発明者らの実験室の1人の試験実施者による処置のために無作為化し、そ
れらが瀕死となるまで、別の「盲検の」試験実施者に神経欠損について観察させた。処置
する試験実施者と、病理学的解析を実施する他の試験実施者とは、コードが解読されるま
で無作為化プロトコールについて知らされなかった。
【0378】
動物は毎週ベースで秤量して、ヒトmAbによる処置が、生存を延長するだけでなく、
また、体重減少の開始も遅らせるかどうかを決定した。結果は驚くべきものであり、rH
IgM12を施された動物における生存の、PBSを施された動物と比較して統計学的に
有意な延長を示した。試験実施者は、平均で25〜30日間にわたる生存の増大(これは
、カプラン−マイヤー曲線(
図38)を介して統計学的な有意性(P=0.008)を示
した)を記録した。加えて、rHIgM12で処置したマウスは、動物の疾患進行の評価
において一般に評価されるパラメータである体重の減少[18]がそれほど顕著ではなか
った(
図39)。本発明者らの知る限り、これは、ニューロンを指向する完全組換えヒト
モノクローナル抗体が、ALS表現型を伴う動物の生存を延長するのに有効であることに
ついての最初の実証である。
【0379】
動物が瀕死期に到達したら、それらを屠殺し、Trump固定剤で潅流した。脊髄を摘
出し、1mmのブロックへと切断し、1μm厚の切片用のAralditeプラスチック
内に包埋した。これらの切片を組織学的に調べた。SOD変異に由来するALSを発症し
た動物は、軸索が分解されるときに比較的容易に同定されるミエリン渦が脊髄白質におい
て発生するように、白質路において著明な軸索変性を示した。rHIgM12を施された
動物の胸部切片における脊髄渦(変性軸索)の数を、PBSを施された動物の場合と対比
して定量化したところ、モノクローナル抗体療法で処置した動物におけるミエリン渦の数
は、統計学的に有意に少なかった(
図40)。
【0380】
また、脊髄切片を、CNSにおけるニューロンを特異的に標識し、前角細胞のほか、後
角細胞におけるニューロンも極めて良好に明確化するマーカーであるNeuNに対する抗
体でも染色した。多くの前角細胞を、rHIgM12を施された動物の脊髄胸部において
、PBSと比較して定量化した(
図41、左)。rHIgM12を施された動物において
保存された前角細胞の数の増大には、PBSと対比して高度に統計学的な差異が見られた
。また、後角細胞におけるニューロンについての同様の解析も、rHIgM12で処置し
たマウスのニューロンの有意な増大を明らかにした(
図41、右)。
【0381】
ヒト抗体であるrHIgM12は、マウス、ヒト(
図42)、ウサギ、および霊長動物
を含めた多くの種から得られた多くの種類のCNSのニューロンの表面に結合する。これ
により、rHIgM12によるニューロンのシグナル伝達が、マウスからヒトを含めた哺
乳動物において保存されていることの証拠が提示される。SODマウスによる本発明者ら
の研究は、前角細胞および後角細胞を死滅から保護することにより、脊髄軸索の変性が減
少し、動物の生存が増大しうることを示唆する。上記の前出の実施例において記載した培
養物中の皮質ニューロンによる実験は、ニューロンをrHIgM12で処置することによ
り、ニューロンを細胞死から保護しうることを裏付ける(
図3を参照されたい)。新生仔
マウスから増殖させた皮質ニューロンを、ごく高濃度の過酸化水素に曝露して、ニューロ
ンのうちの90%が死滅する濃度を決定した。過酸化水素に曝露したニューロンを、rH
IgM12またはニューロンに結合しない別のヒトIgMで同時に処置した。rHIgM
12による処置は結果として、ニューロンのうちの80%の保存をもたらした。これに対
し、対照のIgMによる処置は結果として、過酸化水素への曝露後におけるニューロンの
うちの90%の死滅をもたらした。本発明者らは、rHIgM12が、ニューロンを細胞
死から保護することにより、ALSを伴う動物における寿命を延長すると仮定した。
【0382】
ヒト抗体はまた、組織培養プレート上における基板としても調べ、小脳ニューロンまた
は皮質ニューロンからの正常な細胞プロセスである伸長を促進する能力について比較した
。ニューロンの表面に結合する抗体であるrHIgM12およびsHIgM42と、ニュ
ーロンに結合しない抗体であるrHIgM22およびsHIgM39とを、この過程を強
力に支持する細胞外マトリックス分子であるラミニンと比較した。ヒト抗体であるrHI
gM12またはsHIgM42の基板上で成長しつつあるニューロンは結果として、ラミ
ニンにより観察される場合と同様の、ニューロン成長の劇的な拡大をもたらした[8]。
この研究はまた、rHIgM12の存在下では、ニューロンの挙動が正常であることも示
した。
【0383】
分子量が百万に近いIgMは、循環から血液脳関門(BBB)を越えてCNSに入るに
は大型に過ぎるというのが一般に受容された定説であった[15][16]。しかし、一
部の抗体は、BBBを確かに越えるという証拠が蓄積されつつある。本発明者らは上記で
、末梢への注射後に、rHIgM12を脊髄内で検出することについて記載した。rHI
gM12または対照のヒトIgM 1.0mgを、脱髄性脊髄病変を伴うマウスへと腹腔
内投与した。4時間後、マウスを屠殺し、脊髄切片を、ヒトIgMミュー鎖および抗ニュ
ーロフィラメント抗体の存在について免疫染色した。rHIgM12を施されたマウスで
は、共焦点顕微鏡法により、脱髄病変内のヒトミュー鎖が、並列経路内に末端で切断され
た束として、軸索のマーカーである抗ニューロフィラメント抗体と共局在することが裏付
けられた(
図15を参照されたい)。対照のIgMを施されたマウスの脊髄病変内では、
ヒトIgMが見出されなかった。
【0384】
提示される研究は動物モデルにおける研究であるが、これらの研究結果のうちの多くの
興味深い側面により、この新規の手法がヒト患者において有効であることがさらに示され
る。本明細書で記載されて用いられるIgM12抗体が、完全ヒト、モノクローナル抗体
であることは重要である。結果として、マウスでこの抗体を用いうるのは単回投与だけで
ある。その後も投与すれば、動物に抗体に対する免疫反応を発生させる結果として、rH
IgM12の中和またはアナフィラキシーに起因する動物の死がもたらされる。しかし、
これらは「真の」ヒト抗体であるので、rHIgM12で処置したヒト患者は、それらに
対する免疫反応を発生させる可能性が低い。rHIgM12はまた、有害作用または抗体
遮断反応の発生を伴わずに、潜在的に持続的な間欠的ベースで患者に施すこともできる。
rHIgM12は、天然ヒト自己抗体であるため、有害な副作用が生じる可能性が低く、
したがって、本発明者らは、この薬剤の毒性が最小限となることを予測する。rHIgM
12がヒトにおいて安全であることの証拠が多く存在する。ALSモデルにおいてこれら
の肯定的な結果がもたらされる前に、本明細書の上記の通り、神経疾患の複数のモデルに
おいて、血清形態の抗体であるsHIgM12を調べたが、毒性は生じなかった。これら
の研究において、本発明者らは、1)1mgの投与後、ウイルスを介する脱髄を伴うマウ
スにおけるCNS病態の増大が見られないこと、2)200μgの投与後、活動性EAE
を伴うマウスにおける臨床スコアの重症度に増大が見られないこと、および3)300μ
gの投与後、正常CD−1マウスでは、血液化学反応および組織病態に異常がないことを
見出した。そうであってもなお、ALSの認知された動物モデルにおけるマウスへの単回
投与が、目覚ましい結果をもたらしたことが注意される。
【0385】
rHIgM12は既に、GMPグレードの施設で、FDAのガイドラインに従い増殖さ
せており、安定的な、トランスフェクト細胞系を、FDAのガイドラインに準拠して生成
し、外膜感染を伴わずに保管している。これらの細胞系を、>50の感染性生物によるパ
ネルに対して調べたところ、全ての細胞系が陰性の結果を示した。加えて、これらの細胞
系により、組織培養物中に大量の抗体(150μg/ml)が作製される。rHIgM1
2を、FDAのガイドラインに従い、外膜のウイルス、DNA、RNA、または他の外因
性物質を伴わずに、純度>97%まで精製する方法が確立されたことから、前臨床段階に
おけるrHIgM12の、早期ALSを伴う患者における将来の初期臨床試験のための強
力な基礎がもたらされている。
【0386】
進行中の研究
上記で、組換えヒトモノクローナル抗体(rHIgM12)が、前角細胞および軸索の
喪失を防止することにより、ヒトALSのトランスジェニックモデルにおける生存を延長
しうることを示したので、ALS患者における第I相臨床試験へと向かって、薬物動態お
よび毒性学を介する前臨床データを作成する研究が進行中である。
【0387】
プラセボ抗体と対比した盲検研究
ALSの表現型を伴うSODマウスの2つの系統(SOD1 G86RおよびSOD1
G93A)において、組換えヒト抗体rHIgM12を、アイソタイプ対照のヒト抗体
であるsHIgM39と対比して調べる、決定的な「盲検」プラセボ対照研究を実施する
。組換えヒト抗体であるrHIgM12 200μgの単回投与の、疾患を軽減する有効
性を、G86R SOD1およびG93A SOD1両方[14](B6 Cg−Tg
SOD1 G93A 1Gur、Jackson Labs)の変異体トランスジェニッ
クマウスモデルにおいて、アイソタイプ対照のヒト抗体であるsHIgM39 200μ
gの投与と比較して調べる。ENMCによる発症前処置の推奨に従い、抗体による処置を
55日齢で行うと[18]、rHIgM12をPBSと比較するパイロット研究を反映す
る結果がもたらされる(
図38〜41)。主要評価項目は、生存および体重減少の防止で
ある。各実験群は、上記データに基づく差異を検出するのに十分な24匹のマウスからな
る。加えて、屠殺後の全てのマウスにおけるCNSも調べ、NeuNについての標識を用
いて胸部中央の脊髄における前角細胞の数を決定する。異常なミエリン渦により示される
、変性した軸索の数をカウントする。G93A SOD1変異体モデルである(B6.C
g−Tg)SOD1 G93A)1Gur/J(型番004435;Jackson L
aboratory)は、これが、ALSについての、最初の、遺伝子ベースで、最も広
く用いられ、最もよく特徴付けられたモデルであり、rHIgM12についての結果を、
処置の枠組みについての広範なデータベースと比較することを可能とするために包含した
。G86Rマウスは、疾患の発症が遅く(7カ月後)、進行が速いのに対し、G93Aマ
ウスは、発症が速く(3〜4カ月後)、進行が遅い。この研究は、SOD1マウスへの外
来タンパク質の導入について調整し、また、作用機構の概念についても取り組むものであ
る。rHIgM12のニューロン結合特徴は、極めて重要であり、ニューロンに結合しな
いIgMは、疾患を改善しないはずである。本研究における主要評価項目は、生存の増大
(10%以上:P<0.05)および体重減少の軽減(10%以上:P<0.05)であ
る。SOD1マウスのうちの少なくとも1つの系統で改善が見られれば、成功と考える。
全てのマウスを、いずれかの側に仰臥させて15〜30秒間以内に自ら直立できなくなる
時点で屠殺する。副次評価項目では、ミエリン渦の異常、および脊髄胸部(T6レベル)
におけるNeuN陽性前角細胞の密度により示される、変性した軸索の数を測定する。1
)rHIgM12で処置したマウスの体重減少が対照と比較して20%多い場合、2)r
HIgM12で処置したマウスが発作を発症する場合、3)rHIgM12で処置したマ
ウスの死亡率が対照より20%高い場合は、有害事象を考慮した。
【0388】
用量滴定研究
上記の研究における肯定的な結果に続き、SOD1マウスを死滅から保護するのに必要
とされる最小限の用量を決定するために、用量滴定研究(55日齢のマウス1匹当たり0
、5、50、100、および250μgの単回投与を施す)を着手する。マウス脳幹につ
いてのMR分光法を用いて、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)を測定する。本発明
者らは、他の神経疾患モデルにおいて、脳幹内のNAAが、脊髄全体における軸索健康の
優れたサロゲート指標であることを示した[17]。MR分光法のデータは、rHIgM
12を用いる潜在的なヒト試験における抗体有効性についてのサロゲートマーカーとして
のNAAを検証する一助となる。55日齢のSOD1マウス20〜24匹の群に、腹腔内
を介して0、5、50、100、および250μgの単回投与を施す。主要評価項目およ
び副次評価項目ならびに有害事象については上記と同じとするが、N−アセチルアスパラ
ギン酸(NAA)を測定する、脳幹におけるMR分光法が加わる。MR分光法は、100
日齢時および屠殺直前の抗体による処置日において、各マウスについてまとめる。100
日目または最終走査時の任意のrHIgM12処置群の脳幹におけるNAA濃度の、生理
食塩液で処置したマウスと比較した10%(P<0.05)の増大を改善と考える。
【0389】
薬物動態研究およびBBB
研究は、正常マウス血液免疫グロブリンのバックグラウンドにおけるヒトIgMを特異
的に検出する、確立されたELISA検出システムを用いて、200μgの静脈内単回投
与後の50〜70日齢のSOD1 G86RマウスおよびSOD1 G93Aマウス[1
8]において実施する。ヒトIgMは、投与後の多様な時点(0、15分間、30分間、
1時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間、2日間、3日間、5日間、お
よび7日間)の血液中で測定する。マウスの血液量は、少量(全血液量<1.5ml)で
あるため、各回収時点では、3つの個別のマウスを用いる。
【0390】
rHIgM12は、末梢への注射後、血液脳関門を越え、ニューロンと相互作用して、
それらを死滅から保護しながら、神経系に直接作用することが提起される。ヒト抗体が血
液脳関門を越えず、免疫反応の側面を刺激し、次いで、軸索保護をもたらす可能性もある
が、その可能性は高くない。この問題に十分に取り組むために、in vivoにおける
35S標識したrHIgM12の追跡を用いる。35S標識したrHIgM12の2つの
用量レベルである、250μgと、上記で確立された最小有効用量とを、50〜70日齢
のSOD1マウスにおいて追跡する。35S標識したrHIgM12の静脈内投与後、血
液脳関門を越え、注射の4、8、24、48、および72時間後の脳/脊髄実質において
見出される35Sの百分率を決定する。加えて、既に公表されているオートラジオグラフ
ィー法[19]を用いて、脳/脊髄における35Sの局在部位も決定する。
【0391】
血清半減期研究
rHIgM12が有効性を裏付けた、SOD1系統(複数可)における200μgの用
量を用いて、rHIgM12についての血中反応速度試験を実施する。研究は、静脈内注
射後7日間にわたる13の回収点において、1時点当たり3匹ずつのSOD1マウス群に
より実施する。50〜70日齢のSOD1マウスを処置して、処置時点における抗体反応
速度を理解する。rHIgM12の血清半減期、曝露の飽和、および中和抗体であるIg
Mの存在について決定する。同位体(35S)標識したrHIgM12を追跡する研究で
は、上記の最小限の有効用量の決定が必要とされる。50〜70日齢のSOD1マウスに
、rHIgM12 250μgおよびrHIgM12の最小限の有効用量(少なくとも1
×10
7cpmを含有する)[19]の単回静脈内投与を施して、rHIgM12が、治
療的処置の時点でCNSに入るかどうかに取り組む。注射の4、8、24、48、および
72時間後において、脳、脊髄、肝臓、心臓、肺、胃、腸、筋肉、脾臓、肝臓、膵臓を含
めた主要な組織を迅速に摘出する。組織部分150mgを摘出し、秤量し、Solvab
le(Perkin Elmer)中で溶解させ、シンチレーション液(Ultima
Gold、Perkin Elmer)中でcpmを決定する。同位体で標識したrH
IgM12は、オートラジオグラフィーを用いた脊髄切片中で局在する[19]。この実
験では、主要評価項目を、rHIgM12を注射した4、8、24、48、および72時
間後に対照のゼロ時点と比較した、マウスの脳または脊髄における35S同位体の蓄積と
する。任意の時点の脳または脊髄の全体1mg当たりの35Sのカウントの50%(P<
0.05)の増大を有意と考え、rHIgM12がCNSに入りうることの証拠であると
考える。オートラジオグラフィー研究では、マウスに標識したrHIgM12を投与し、
rHIgM12がCNS内で増大した時点において脊髄を摘出する。脊髄切片中のニュー
ロン全体1mm
2当たりの銀粒の50%の増大を、in vivoにおける抗体ターゲテ
ィングの有意な証拠と考える。
【0392】
初期毒性研究
rHIgM12により実験を実施して抗体が正常CD−1マウスおよび正常ウサギにお
いて毒性であるかどうかを決定する:両方の性別の正常CD−1マウス10匹の群に、上
記で決定したrHIgM12の最小限の有効用量の1倍(1×)、10倍(10×)、お
よび20倍(20×)、または生理食塩液を、1回または7日間にわたり毎日静脈内投与
する。2週間後、「完全」剖検を介して血液および組織を回収して解析する。主要な器官
全ての組織切片を、毒性学評価において熟練した獣医学の病理学者が「盲検により」調べ
る。血液を、肝臓酵素、心臓酵素、電解質および血液学グループに対する効果についての
血液研究を含めた、通常の一連の毒性スクリーニングのための化学および血液学で特徴付
ける。同一の曝露研究を齧歯動物以外の種において実施し、各性別のウサギ2羽ずつを各
用量で調べる。加えて、rHIgM12を用いる組織の交差反応性研究を、抗体が他の任
意の組織または器官に結合するかどうかを決定するのに用いる。マウス、ウサギ、霊長動
物、およびヒト(Zymed)に由来するパラフィン包埋した一連の組織切片を、rHI
gM12または対照のヒトIgMで免疫標識する。in vivoにおける状況をより緊
密に模倣するので、各組織内の結合の強度および構造を画像化し、rHIgM12および
対照のIgMによる組織チョッパーで切断した生存組織スライスの標識化と比較する[7
]。加えて、FDAへの新薬臨床試験開始届の予備的毒性試験の項と一致して、rHIg
M12および対照抗体の結合も、凍結ヒト組織および凍結霊長動物組織において調べる。
組織交差反応性研究は、マウスおよびウサギにおける曝露研究の間、特に、器官をモニタ
リングするための鍵をもたらす。
【0393】
組織への結合
有効性を決定した後、これらの研究では、標的組織および標的以外の組織への結合に取
り組む。市販される組織アレイ(Zymed)およびヒトおよびカニクイザル(Char
les River)の切片を、10μg/mlのrHIgM12および対照のヒトIg
MであるsHIgM39で免疫標識する。ディジタル画像を用いて標識の強度を比較する
。rHIgM12の、パラフィン包埋して固定した組織アレイおよび凍結させたヒトおよ
び霊長動物の脳および脊髄への結合を、生存マウスの小脳スライスにおいて観察される抗
体結合と比較する。本発明者らは、標準的な効力アッセイである生存小脳スライスへの抗
体結合を用いたが、これは、rHIgM12の血清形態が同定された最初のスクリーニン
グである。
【0394】
【数11】
【0395】
【数12】
(実施例21)
ニューロン保護性ヒトmAbによる脳虚血および脳卒中の処置
【0396】
虚血性脳卒中の発生率は、年齢と共に増加する。われわれの人口集団の老齢化は、毎年
の脳卒中例数の増加を結果としてもたらし、われわれの医療ケア基盤および家族に対して
累積的な負荷を負わせる。米国では、脳卒中は、長期にわたる身体障害の主要な原因であ
る。毎年、800,000近くの人々が、脳卒中を被っている。虚血性傷害後において、
臨床的欠損と関連する身体障害は、ニューロンの機能不全に主に起因する。機能的な回復
の欠如は、再生および神経可塑性の制約に部分的に帰せられる(1)。現在のところ、脳
卒中に関連する神経欠損を防止または逆転するのに有効な処置は存在しない。
【0397】
ミエリンの修復および軸索/ニューロンの回復を含めた、CNSの保護および修復を促
進する、天然ヒトモノクローナルIgMクラス抗体が同定され、用いられている(2)。
本発明者らは、ニューロンの表面に結合する、血清由来のヒトモノクローナルIgMを同
定した。IgMは、ヒトを含め、種を超えてニューロンに結合し、神経突起の伸長を促進
する。このIgMは、in vitroにおいて、ニューロンをアポトーシスから保護し
、脊髄の磁気共鳴分光法および組織学により測定される通り、in vivoにおいて、
脊髄軸索を保存する。血清由来形態の特徴を保存する組換え形態であるrHIgM12が
合成されている。rHIgM12の神経保護特性は、ガングリオシドであるGM1につい
て観察される神経保護特性と同様である。ガングリオシドは、抗体であるIgM12およ
びrHIgM12の抗原でありうる。rHIgM12は、ニューロン膜上で、GM1、コ
レステロール、およびインテグリンβ1と共局在する。GM1は、細胞受容体およびシグ
ナル伝達分子をクラスター化するように機能する膜のマイクロドメインに富む。rHIg
M12は、ニューロン膜ドメインをクラスター化することにより、GM1の多面的効果を
模倣すると考えられる。
【0398】
本研究は、脳虚血性傷害後における神経欠損を逆転するrHIgM12の有効性を評価
するために着手した。これらの研究は、早期の脳虚血性傷害を有するかまたは脳卒中を患
う患者における抗体の適用を目的とする。中心的な仮説は、抗体であるIGM12および
rHIgM12により媒介される神経保護効果が、細胞および組織の回復を増強し、虚血
性脳卒中からの全体的な回復を促進する治療において適用可能なことである。
【0399】
脳虚血の治療的管理は、血圧の上昇、血栓症、および頸動脈のアテローム性動脈硬化な
どの危険性因子の防止および低減に依拠する。脳虚血の介入的治療は、組換え組織プラス
ミノーゲン活性化因子rtPAの使用による酵素的血栓溶解(3〜5)、および直接的な
カテーテル法を介する血餅の介入的摘出(6)に依然として限定されている。しかし、r
tPAの治療域は3時間と短く、3時間の時間枠を超えて注入すると、出血性脳虚血の発
生率を増加させる(7、8)。脳虚血後に損傷したニューロンの保護は、永続的な身体障
害を抑制するのに有望な戦略である。炎症反応を調節する治療は、神経保護特性を有しう
るが、ニューロンに直接作用してそれらを保護する薬物は、現在のところ極めて少数であ
る。神経保護は、虚血領域における神経毒性の炎症性環境を調節することにより達成する
ことができる。抗体を用いて脳虚血を処置する以前の研究は、潜在的利益をもたらしてい
ない:細胞間接着分子に対するアンタゴニストが大規模多施設試験で採用されたが、処置
された被験体は、プラセボ群と比較したところ、死亡率が高く、転帰も不良であった(9
)。脳虚血についての第III相臨床試験における抗血小板抗体の使用は、小規模の患者
コホートにおいて致死性の出血をもたらした(10)。ポリクローナルヒトIgG(IV
Ig)の使用は、脳虚血の動物モデルの改善を結果としてもたらした(11)が、臨床試
験では、IVIg投与の後において、血栓塞栓性合併症が報告され、脳虚血を処置するた
めのIVIgの使用については賛否こもごもであった(12、13)。目標は、神経系を
直接標的とする治療用試薬を同定することであった。完全ヒト抗体の組換え形態であるr
HIgM12は、ニューロンの生存を促進し、回復/神経保護用治療剤としての適用可能
な使用が可能である。本実施例における実験は、脳虚血のマウスモデルにおける抗体Ig
M12、rHIgM12の治療的効果に焦点をあてる。用いられるモデルは、感光性色素
を用いる非侵襲的光血栓モデルであり、よって、侵襲的モデルより生理学的である。
【0400】
完全ヒトモノクローナル抗体を用いて、脳虚血後の動物におけるニューロンを保護し、
挙動を改善する本発明者らの手法は、独創的かつ革新的であり、抗体は、脳虚血および脳
卒中におけるニューロンを標的とし、保護するようにデザインされた最初の薬物としての
潜在性を有する。分子の関与性の側面を、以下に列挙する。
【0401】
1)rHIgM12は、ニューロンの表面に結合し(
図1を参照されたい)、ニューロ
ンをアポトーシス細胞死から保護する(
図3を参照されたい)。
【0402】
2)rHIgM12は、天然ヒト自己抗体であり、有害作用は生じにくい。
【0403】
3)rHIgM12は、IgMであるにもかかわらず、正常SJLマウスおよび炎症を
有する動物において血液脳関門(BBB)を越える(
図13を参照されたい)。
【0404】
4)ここで、本研究は、虚血性脳卒中の誘導後において、rHIgM12を動物へと投
与すると、rHIgM12は、動物の機能の明確な改善を結果としてもたらし(
図44)
、組織の完全性を保護することを裏付ける(
図45)。
【0405】
結果および考察
【0406】
固有の手法を用いて、中枢神経系(CNS)に対する傷害を処置するための新規の治療
を開発した(14、15)。希突起膠細胞(16)またはニューロン(17)に結合し、
CNSで適用される一連のヒトモノクローナル抗体が同定されている。組換えヒト抗体I
gM12(rHIgM12)は、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の患者か
ら単離された抗体に由来する。この抗体は、CNSのニューロンおよび軸索を特異的に標
識する(17)。IgM抗体であるにもかかわらず、rHIgM12は、血液脳関門(B
BB)を越え(
図13を参照されたい)、CNS内の軸索およびニューロンに特異的に結
合する。in vitroにおいて、rHIgM12は、小脳顆粒ニューロン、皮質ニュ
ーロン、海馬ニューロン、および網膜神経節細胞ニューロンを含めた広範なニューロンに
結合する。修復性IgM自己抗体の作用機構についての本発明者らの最新の仮説は、それ
らが、マイクロドメイン内の分子を架橋して、保護および修復に関与するシグナル伝達イ
ベントを刺激することである。
【0407】
脳虚血のためのマウスモデルの標準化
【0408】
本発明者らの実験室における虚血性脳卒中(光血栓性脳虚血)の色素媒介型光血栓モデ
ルにおいて、感光性色素(Rose Bengal、RB)を用いた。1985年に、W
atsonらは、限局性脳虚血の単純型モデルとしての脳PTを導入した(Watson
BDら(1985年)、Ann Neurol、17巻:497〜504頁)。血栓症
を達成するため、感光性色素を全身注射する。無傷の頭蓋を介する後続の照射は、フリー
ラジカルの形成および内皮の光過酸化による、色素の局所的な活性化をもたらす。これに
より、照射された血管内では、血餅の形成が媒介され、血管の閉塞は、脳虚血を模倣する
(Dietrich WDら(1987年)、Acta Neuropathol、72
巻:315〜325頁)。PT病変は、強力であるが遅延した炎症反応を誘発する(Sc
hroeter Mら(1997年)、Stroke、28巻:382〜386頁)。こ
のモデルは、虚血領域をあらかじめ規定し、高度に限局しうるという利点を有し、別個の
皮質領域を定位的精度で凝固させる可能性を開く。
【0409】
PBS中に10mg/mLで溶解させたRBを、尾静脈を介して注射した(体重1g当
たり0.02mg)。光源(150Wのハロゲンランプ)につないだ連接型光ファイバー
の開口部(5mm)を、マウス頭部上の標準的な位置に設置した。RB注射の1分後、脳
を、無傷の頭蓋を介して、30秒間にわたり(RBを活性化させるために)一定の光に曝
露した。活性化されると、RBは、微小血管内の内皮細胞を障害するフリーラジカルを生
成し、血小板の凝集を結果としてもたらし、小血管の閉塞をもたらし、血栓性脳虚血を引
き起こす、凝固を誘発する。本発明者らは、全ての実験を、6週齢の雌CD−1(登録商
標)マウスにおいて実施した。
【0410】
無作為化「盲検」試験では、マウスに、脳虚血を誘導した30分後において、GMPグ
レードで精製されたrHIgM12を、単回の腹腔内投与(i.p.;500μl中に2
00μg)として施した(ヒト臨床条件を模倣する試み)。これに対し、プラセボ群には
、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)を施した。本発明者らは、脳虚血後における虚血領域
を可視化および定量化する技法を標準化した(
図43および45)。
【0411】
rHIgM12は、脳虚血後の動物における機能活性を、拡散強調画像(DWI)により
規定された梗塞容積の有意差を伴わずに改善する
【0412】
機能欠損は、Accuscanオープンフィールド装置を用いて算出した。装置は、別
個の水平方向および垂直方向の運動を測定する光セルを有する、個別のアクリルケージか
らなる。CD−1マウス5匹ずつの群を、各ケージ内に入れ、脳虚血を誘導する前の1週
間のベースライン値を記録した。データは、1時間のブロック当たりのビーム遮断回数と
して収集し、ベースラインからの水平方向の変化%(
図44A)または垂直方向の変化%
(
図44B)として表した。脳虚血誘導後の1日目には、いずれの群のマウスにおいても
、運動活動の同様の欠損があった。2つの処置についての直接的な対応のある比較は、処
置後3日目において、rHIgM12処置マウスにおける水平方向の運動機能の改善が、
PBSと比較して有意に異なる(p<0.05)ことを示した(
図44A)。同様に、処
置後3日目において、rHIgM12処置マウスにおける垂直方向の運動機能も、PBS
と比較して有意に異なった(
図44B)。改善は、実験を終了した30日間までにわたり
持続した。
【0413】
DWI−MRIを用いて、虚血容積を確定し、機能改善を梗塞サイズの低減に相関させ
た。1、3、7、および21日目に、Bruker Avance 300MHz(7T
esla)小動物用MRIシステムによりマウスを走査し、得られた三次元画像(
図43
A)を、NIH Image Jソフトウェアを用いて定量化した。DWIは、走査され
た日のうちのいずれにおけるマウスの2群間でも、統計学的な有意性を示さず(
図44C
)、いずれの群のマウスにおける脳虚血容積も同様であることを示した。本発明者らが知
る限りにおいて、これは、ニューロンを指向する完全組換え天然ヒトモノクローナルIg
M抗体が、実験による脳虚血後の動物における挙動についての転帰の改善に有効であるこ
との最初の裏付けを提供する。
【0414】
rHIgM12による処置は、MT−MRI計量を改善し、MT比の有意差を裏付ける
【0415】
DWI画像化により、虚血性脳卒中後の水拡散時における細胞傷害性浮腫の存在および
程度が推定される。後続の実験では、傷害後における組織の完全性および回復に対する感
受性が大きいMRI尺度を評価するために、本発明者らは、脳卒中誘導後の3日目および
rHIgM12による処置またはPBSによる偽処置の後の10匹のマウスにおいて、磁
化移動MRI(MT−MRI)を用いた。得られた画像は、FSLへとインポートし(2
3、24)、3DパラメトリックMTRマップを、FSL MATHSにより計算した。
本発明者らは、標準式:100×((Mo−Mt)/Mo)[式中、Moは、MTパルス
を伴わない3D画像であり、Mtは、MTパルスを伴う3D画像である]を用いた。画像
を適切にスケーリングして、0〜100の範囲の値によるグレースケールの百分位数マッ
ピング出力をもたらした(
図45A)。病変におけるMT値は、Analyze11.0
中の標準的な3D ROIツールを用いて解析したが、これにより、虚血領域内のMT感
受性の組織損傷の解析が可能となった。対側半球内の比較用ROIを用いて、比較のため
の対照値をもたらした。対照側におけるMTR値は、rHIgM12処置群およびPBS
処置群において、それぞれ、(59.9±0.9)および(58.3±0.8)であり、
予測された通り、統計学的解析は、対照半球における2群間で有意差を示さなかった。興
味深いことに、rHIgM12による処置は、脳卒中の部分容積中のMTR値の、PBS
による偽処置と比較した相対的な増加(46.0±0.9対41.9+08、p=0.0
1)を結果としてもたらした。これは、抗体処置群におけるMT−MRIで検出可能な組
織構造の相対的正常化を示した。さらに、統計学的な有意性に到達しなかった(p=0.
39)一方で、PBS処置対照と対比したrHIgM12処置マウスにおいて、脳卒中容
積の減少(26.1±6.6mm
3と対比した18.1±5.9mm
3)が認められた。
MT−MRIにおける高度な有意差は、抗体により誘導された変化が、脳卒中容積の直接
的な低減と対照的に、組織回復の増強を結果としてもたらすことを支持する。
【0416】
rHIgM12は、マウスおよびヒトのニューロンに結合し、マウスの皮質ニューロンを
酸化的損傷により誘導される死滅から保護する
【0417】
rHIgM12は、ニューロンに結合することにより、虚血領域内のニューロンを保護
することが仮定される。ヒト抗体であるrHIgM12は、マウスおよびヒトから得られ
る多くの種類のCNSニューロンの表面に結合する(
図1を参照されたい)。これは、r
HIgM12により媒介される神経保護および機能改善が、マウスからヒトへと保存され
ることを支持する。rHIgM12が、in vitroにおいて、活性アポトーシスの
マーカーであるカスパーゼ3の、過酸化物に誘導される活性化からニューロンを保護する
のかどうかは、既に評価されている。マウス初代皮質ニューロンの培養物を、rHIgM
12または対照のヒトIgMおよび過酸化水素と共に同時に処置した。カスパーゼ3の活
性化度は、FLICAカスパーゼ3アッセイキット(Immunochemistry
Technologies)を用いて、24時間後に決定した(
図3を参照されたい)。
傷害ニューロンのrHIgM12による処置は、カスパーゼ3の活性化を80%低減した
。対照IgMで処置された傷害ニューロンが示したカスパーゼ3の活性化の低減は、10
%未満であった。
【0418】
異なる神経毒性アッセイでは、培養された皮質ニューロンを、4、21、および44時
間(44時間、非低酸素チャンバー細胞は、0時間の対照と考えた)にわたり、直接低酸
素状態(2.7%のO
2、92.3%のN
2、5%のCO
2による雰囲気)曝した。カス
パーゼ3のレベルは、ウェスタンブロットにより決定し(
図46)、カスパーゼ3レベル
は、4時間までに上方調節され、21時間にピークに達することを見い出した。44時間
までに、大半の細胞は死滅し、カスパーゼ3レベルは下がった。これらのアッセイは、r
HIgM12が、in vitroの虚血様状態において、神経保護性であることを裏付
けるのに用いられる。
【0419】
本研究では、脳虚血性脳卒中のマウスモデルを用いて、後続する神経欠損を逆転し、脳
虚血性傷害からの保護をもたらすrIgM12の能力を裏付けた。さらに、このモデルは
、用量の処方を最適化して、血液脳関門を越える抗体の百分率を決定し、培養されたニュ
ーロンの、rHIgM12による、in vitroにおける虚血様状態からの保護をよ
りよく理解するのにも適用される。
【0420】
神経改善のための用量およびバイオマーカー
【0421】
マウスにおいてrHIgM12を用いるプラセボ対照無作為化試験を、自発活動の改善
に要請される最小用量を決定し、神経改善のための代謝バイオマーカーを同定するのに用
いる。上記のデータは、200μgのrHIgM12が、虚血性脳卒中のマウスモデルに
おける神経機能を改善したことを示す。最小有効用量を決定することは、安全性研究をデ
ザインすることと関連する。rHIgM12の用量滴定研究を、脳虚血後のマウスにおい
て実施する。
【0422】
色素RBによる光血栓モデルを用いる、雌CD−1マウスにおける脳虚血を、投薬研究
に用いる。マウス5匹ずつの群を、脳虚血誘導後30分以内に、5、50、100、もし
くは500μgのrHIgM12、またはニューロンに結合しない市販の対照ヒトIgM
(Jackson ImmunoResearch;型番009−000−012)、ま
たは生理食塩液で腹腔内処置する。神経機能は、活動ボックス内で、脳虚血の誘導前また
は処置前に測定し、毎週測定する。マウス5匹ずつの群を活動ボックス内に収容し、垂直
方向および水平方向の自発活動を記録する。夜間における水平方向の活動は、動物の機能
的能力についての高感度の尺度である(25)。加えて、全てのマウスにDWI−MRI
を施し(
図2C)、全ての群における梗塞サイズをモニタリングする。
【0423】
主要評価項目は、自発活動をモニタリングすることにより評価される運動の改善である
。rHIgM12処置群の5日間を通して、対照群と比較した72時間にわたり記録され
た平均夜間活動の20%の増加(1時間当たり2000回のビーム遮断)(P<0.05
)は、有意な生物学的改善であると考えられる(25)。本発明者らの実験室により確立
された方法(25)を用いて、群間の統計学的差違を計算する。DWI−MRI解析を、
Mayo Clinicにおいて開発された生物医学的画像解析ソフトウェアパッケージ
であるAnalyze11.0の3D ROI解析ツールを用いて、盲検様式で実施する
(26、27)。
【0424】
rHIgM12による処置後における神経機能の改善が、NAA代謝物(ニューロンの
機能と関連する代謝物(28))の保存、および脳におけるMT−MRIによる磁化移動
比の相対的正常化と相関するのかどうかを決定する。MTとは、組織の完全性についての
全体的マーカーであり、ヒト虚血性脳卒中における周縁部の完全性について高感度のマー
カーとして用いられている(29)。これらのアッセイは、ヒトにおける、脳虚血におけ
るrHIgM12についての臨床試験の将来的な評価項目として有用である。
【0425】
この実験では、MT−MRIデータについて得られる検出力計算に基づき、1群当たり
12匹ずつのマウスを用いる。技法は、CNS内のN−アセチル−アスパラギン酸(N−
acetyl−asparate)(NAA)レベルを測定するように既に標準化した(
30)。NAAを、脳虚血後においてrHIgM12により媒介される機能改善について
の代謝物画像化バイオマーカーとして用いうるのかどうかを調査するために、本発明者ら
は、ボクセルを標準化して、虚血領域内でMRSを実施した。NAA代謝物を、最小有効
用量、またはアイソタイプ対照のIgMもしくは生理食塩液で処置された動物において測
定する。7T垂直ボアNMR分光計を用いてMRSを実施し、DWIおよびT2強調MR
I上で同定される虚血領域の内部に配置された3×2×1.5mmのボクセルからMRS
データを得る。対側半球は、各マウスについての適切な対照として用いられる。さらなる
対照として、他の群におけるマウスを、対照IgMまたはPBSで処置する。PBSまた
はrHIgM12による処置を後続させる虚血性脳卒中の前および後に、500Hzの励
起パルスバンド幅および1500Hzのオフセットによる、全MT時間270ミリ秒のM
Tパルスを伴い、かつ、これを伴わずに、マトリックスサイズを256×96×96とし
、FOVを6.4×1.92×1.92cmとし、TR:1500とし、TE:30とし
、RAREファクターを16として、標準的なPD強調RAREシークェンスを収集する
ことにより、MT−MRIデータを得る。この実験では、各実験を3回にわたり繰り返し
て、画像化バイオマーカーを、のべ108匹のマウス(合計3つの群について1群当たり
12匹ずつのマウスであり、3回にわたり繰り返す)についての機能改善の評価項目とし
て用いることの再現性を確認する。
【0426】
MRSのスペクトルは、Bruker Biospin製のTopSpinソフトウェ
アを用い、LCModelを介して定量化する(31〜34)。群間の統計学的差違は、
ANOVAにより計算する(30)。MTRデータは、FSL MATHSおよびAna
lyze11.0ソフトウェアを用いて算出する。対照群と比較したrHIgM12処置
群における、MTRの相対的正常化およびNAAレベルの、保存または相対的な増加を決
定する。任意のrHIgM12処置群において保存されるNAAの、対照群と比較した1
0%の増大は、改善であると考えられる。グルタミン酸およびグリシンなど、興奮性の神
経伝達物質(35)は、脳虚血後において高レベルで存在することが報告されている。M
RS分光光度法は、多目的な技法であるので、本発明者らはまた、乳酸、ミオイノシトー
ル、コリン、クレアチン、グリシン、およびグルタミン酸など、他の代謝物も定量化する
。
【0427】
血液脳関門の評価
【0428】
血液脳関門(BBB)を越えるrHIgM12の比率を、光血栓RB脳卒中モデルによ
り決定する。大型のIgM分子がCNSに入り得るのかどうかについては議論が分かれる
。一般に許容される定説は、以下の通りである。分子量が100万に近いIgMは、循環
からBBBを越えて、CNSに入るには大きすぎるというものである(36、37)。し
かし、一部のIgMはBBBを越えうるという証拠が蓄積されている。rHIgM12は
、正常非感染マウスのCNSのほか、TMEV感染マウスのCNSにも入り得ることが示
されている(
図13を参照されたい)。BBBを越える抗体の百分率を決定し、IgMが
虚血領域内のニューロンに直接作用することをさらに裏付けるのには、
35S標識抗体を
用いる。本発明者らは、脳虚血モデルにおいて静脈内注射後のCNS内のニューロンへの
結合について評価する。
【0429】
同位体標識された(
35S)rHIgM12を作製し、ニューロンの表面への結合につ
いて検証する。有効用量のrHIgM12またはアイソタイプ対照のIgMもしくは対照
の非特異的IgGを、脳虚血誘導後の1つの時点ごとに、マウス3匹ずつの群へと静脈内
投与する。虚血のない正常のCD−1マウスは、対照として用いられる。実験は、のべ1
44匹のマウス(合計5つの時点について1群当たり3匹ずつのマウス3群に、非処置マ
ウス3匹の1つの群を加え、3回にわたり繰り返す)を用いて、3回にわたり実行する。
【0430】
注射の4、8、24、48、および72時間後において、BBBを越え、脳/脊髄実質
内で見出される
35Sの百分率を決定する。加えて、本発明者らは、本発明者らの実験室
により公表されているオートラジオグラフィー法(38)を用いて、脳/脊髄内の
35S
局在部位も決定する。本発明者らは、rHIgM12が、末梢への注射の後でBBBを越
えてニューロンと相互作用し、ニューロンを死滅から保護することで、神経系に直接作用
することを提起している。
【0431】
ニューロンの培養物
【0432】
rHIgM12による神経保護はまた、in vitroにおける「虚血様」ニューロ
ン培養物アッセイでも評価する。in vitro環境におけるニューロンの保護におけ
るrHIgM12の有効性を裏付けることは、ニューロン結合自己抗体が、ニューロンに
対して毒性でありうるという懸念に取り組むことになる。本発明者らは、正常の皮質ニュ
ーロン、酸素および/またはグルコースを除去された皮質ニューロンの、rHIgM12
または対照抗体による処置後におけるカスパーゼレベルを解析することにより、これに取
り組む。加えて、in vitroアッセイの開発は、将来のシグナル伝達研究に必要な
ツールももたらす。
【0433】
脳虚血後における損傷は、複数の異なる機構により生じうる。損傷の1つの種類に対し
て神経保護性である試薬は、必ずしも全ての種類に対して保護性であるわけではない(3
9)。本発明者らは、脳虚血後において観察される傷害と同様な傷害である、グルコース
枯渇(GD)、酸素除去(OD)、およびODとGDとの組合せ(OGD)を用いて、神
経毒性アッセイを確立する。本発明者らは、rHIgM12の、マウスの皮質ニューロン
に対する保護効果を評価するために、過酸化水素(
図3)および低酸素チャンバー(
図4
6)を用いて類似のアッセイを実行した。rHIgM12の神経保護特性は、GM1につ
いて観察される神経保護特性を想起させるので、GM1を陽性対照として用いる。
【0434】
新皮質断片の解離細胞培養物は、16日目のCD−1マウス胚から確立する。このよう
な培養物中の細胞のうちの約95%はニューロンであり、残りの細胞は星状細胞である。
GDは、ニューロンを、グルコース非含有ロック培地中で24時間にわたりインキュベー
トすることにより誘導する。95%のN
2、5%のCO
2の大気を有する無酸素チャンバ
ーを用いて、OD(ニューロンを、通常培地中で12時間にわたりインキュベートする)
およびOGD(ニューロンを、グルコース非含有ロック培地中で12時間にわたりインキ
ュベートする)を誘導する。ニューロンを、培養培地単独、またはrHIgM12(有効
用量で)、または対照IgMまたはGM1を補充した培養培地の存在下でインキュベート
する。実験は、バイアスを回避するため、異なる日においてコード化された処置を用いて
、3連で独立に3回にわたり実施する。
【0435】
主要評価項目は、Alamar Blue溶液を用いるミトコンドリア活性アッセイに
より決定される、ニューロンの細胞生存率である。ニューロンの培養物を、FLICA
Apoptosis Detection Kitを用いて、活性化カスパーゼについて
解析する。2つの異なる蛍光検出法:定性的解析のための蛍光顕微鏡法;および定量化の
ための96ウェルマイクロ滴定プレート蛍光光度法を用いる。細胞の生存は、細胞を、ヘ
キスト染料と共に、30分間にわたりインキュベートし、励起波長を365nmとし、発
光波長を480nmとしてUVフィルターを用いて読み取ることにより評価する。細胞を
蛍光顕微鏡により調べる場合、アポトーシス細胞が、赤色で蛍光発光するのに対し、非ア
ポトーシス細胞は、ほとんど染色されていない外見を呈する。アポトーシスのより後期に
ある細胞は、早期にある細胞より明るい赤色として現れる。蛍光プレートリーダーを(黒
色のマイクロ滴定プレートと共に)用いて、アポトーシスを、カスパーゼに結合したFL
ICAプローブから発せられる赤色の蛍光の量として定量化する。ANOVAを用いて、
群間の有意差を比較する。この実験からの結果は、神経保護に関与する下流のシグナル伝
達イベントを決定する一助となる。
【数13】
【数14】
【数15】
(実施例22)
正常(正常酸素)状態下および低酸素状態下における抗体の活性および効果
【0436】
細胞内で、脳卒中、心筋梗塞、または虚血と関連し、これらを模倣する状態下における
、神経作用性抗体、特に、抗体IgM12の、効果および能力をさらに評価する(ass
ess)ため、抗体を正常酸素状態下および低酸素状態下で評価する(evaluate
)研究に着手した。培養下の低酸素状態は、臨床状況における脳卒中および虚血から生じ
る酸素枯渇の側面をまねるのに用いられる。まず、正常酸素下の培養物を、混合神経膠培
養物中の多様なマーカーについて評価した。次いで、効果および能力を評価するために、
関与性のマーカーを、神経作用性抗体および対照抗体を伴い、かつ、これらを伴わずに、
低酸素状態下で評価した。
【0437】
正常酸素状態
【0438】
正常状態または正常酸素状態を評価するため、混合神経膠培養物を、FBS(10%)
含有培地中で4日間にわたり成長させ、既知組成培地中で、再ミエリン化促進IgMであ
るrHIgM22、再生性mAbであるrHIgM12、アイソタイプ対照であるsHI
gM116(各々10μg/mlずつ)、または培地だけにより、7日間にわたり処置し
た。新鮮な抗体を伴う培地で、1日おきに交換した。結果を、
図47に示す。棒グラフは
、ミエリンマーカーであるMBP、アポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ3およ
び活性化小膠細胞のマーカーとしてのCD68による3回の独立の実験に由来するウェス
タンブロットについての定量的解析を示す。これらの結果は、再生性抗体であるrHIg
M12が、混合神経膠培養物中での希突起膠細胞前駆細胞(OPC)の分化および生存を
刺激することを示す。これらのデータは、再生性抗体であるrHIgM12は、OPCの
分化を刺激し、神経膠アポトーシスレベルを低減し、小膠細胞を活性化するが、再ミエリ
ン化促進抗体であるrHIgM22やアイソタイプ対照であるsHIgM116はそうで
はないことを示す。アポトーシスを受けることからレスキューされる特定の細胞型(複数
可)は決定されなかった。
【0439】
次いで、OPC−小膠細胞共培養物を、再ミエリン化促進mAbであるA2B5、O4
、O1、78.09、94.03、rHIgM22、再生性mAbであるrHIgM12
、アイソタイプ対照(LEAF、5A5、ChromPure IgM、rHIgM42
、sHIgM14、sHIgM24、sHIgM26)(各々10μg/mlずつ)を含
む星状細胞馴化培地中または培地中で培養した。新鮮な抗体を含む培地で、1日おきに交
換した。
図48中の代表的なウェスタンブロットは、OPCマーカーであるPDGFαR
、ミエリンマーカーであるCNPアーゼおよびMOG、小膠細胞マーカーであるCD68
およびLyn、増殖マーカーであるKi−67およびヒストンH3、アポトーシスマーカ
ーである切断型カスパーゼ3、ならびに細胞周期マーカーであるpRbS795のレベル
を示す。星状細胞および小膠細胞は、星状細胞馴化培地中のOPCの分化および生存を刺
激するGSL結合再生性mAbを必要とする。
【0440】
上記の正常酸素のデータは、(i)再ミエリン化促進mAb(A2B5、O4、O1、
78.09、94.03)または再生性mAbであるrHIgM12は、アイソタイプ対
照と比較して、OPC/OL−小膠細胞共培養物中のOPCの分化または生存を誘導しな
いこと;(ii)星状細胞馴化培地中の可溶性因子は、処置群間の差違を刺激するのに十
分でなかったこと;(iii)再ミエリン化促進mAbおよび再生性mAbは、星状細胞
の非存在下で、小膠細胞(CD68、Lyn)を活性化しなかったこと;(iv)可溶性
の星状細胞因子は、IgM処置の6日後における、rHIgM22によるOPCの増殖(
Ki−67、ヒストンH3)を媒介するのに十分なようであることを裏付ける。
【0441】
正常酸素研究の次のセットでは、混合神経膠培養物を、既に記載した通り(
図47上)
に成長させ、処置した。
図49は、活性化小膠細胞についてのマーカーであるCD68、
および小膠細胞中では非常に豊富であり、OPC中では量が少なく、星状細胞では存在し
ないキナーゼである、Lynキナーゼによる3回の独立の実験に由来するウェスタンブロ
ットについての定量的解析を示す棒グラフを提示する。代表的な免疫蛍光画像を、
図50
に提示し、培養の4日目のmAb処置の前、ならびにrHIgM12、rHIgM22、
およびアイソタイプ対照であるsHIgM24(各々10μg/mlずつ)による処置の
7日後である培養の11日目における、混合神経膠中のCD68(緑色)および核マーカ
ーであるDAPI(青色)のレベルを示す代表的な免疫蛍光画像を提示する。これらのデ
ータは、再生性mAbであるrHIgM12が、混合神経膠培養物中のCD68およびL
ynキナーゼの発現を増加させることを裏付ける。ウェスタンブロットにおけるCD68
の発現レベルがより高いこと(
図49)は、免疫細胞化学による活性化小膠細胞数がより
多いこと(
図50)と相関し得る。したがって、これらの研究において示される通り、再
ミエリン化促進抗体(例示的な抗体であるA2B5およびO1)および再生性mAbであ
るIgM12は、混合神経膠培養物中の小膠細胞(CD68)を活性化する。
【0442】
低酸素状態
【0443】
次いで、混合神経膠細胞培養物に対する低酸素の分子的効果を、正常酸素の培養物と比
較した。混合神経膠培養物を、FBS(10%)含有培地中で4日間にわたり成長させ、
正常酸素状態(21%のO2)と比較した低酸素(3%のO2)下の既知組成培地中で、
さらに7日間にわたり処置した。代表的なウェスタンブロット(
図51)は、低酸素誘導
因子1(HIF1α)、希突起膠細胞マーカーであるNG2、PDGFα、Olig−2
、ミエリンマーカーであるMBPおよびCNPアーゼ、星状細胞マーカーであるGFAP
、小膠細胞マーカーであるCD68、細胞周期マーカーであるpRbS795、ならびに
アポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ3のレベルを示す。ベータ−アクチンを、
ローディング対照として用いた。
図51において示される通り、低酸素および正常酸素へ
と曝露した、混合神経膠培養物に由来するウェスタンブロットについての定量的解析は、
3回の独立の実験により完了し、これを
図52に示す。これらのデータは、正常酸素状態
と比較した、低酸素下における、混合神経膠培養物中の、小膠細胞マーカーレベルおよび
星状細胞マーカーレベルの発現の低下、ならびにミエリンマーカーレベルの増加を裏付け
る。低酸素モデルの検証は、低酸素下におけるHIF1αの発現の増加により示される。
【0444】
低酸素モデルを検証したら、次いで、脳卒中、梗塞、および虚血の影響に関与性であり
、これらを模倣する状態における抗体の効果を評価するために、低酸素下の培養物の、再
生性抗体であるIgM12による処置に着手した。混合神経膠培養物を、正常酸素状態下
のFBS(10%)含有培地中で4日間にわたり成長させ、その後、既知組成培地中、低
酸素(3%のO2)下、ヒト再生性抗体であるrHIgM12または培地だけで、1〜7
日間にわたり処置した。代表的なウェスタンブロット(
図53)は、増殖マーカーである
Ki−67、小膠細胞マーカーであるIBA−1、CD68、およびiNOS、アポトー
シスマーカーである切断型カスパーゼ3、星状細胞マーカーであるGFAP、細胞周期マ
ーカーであるpRbS795およびpRbS807、ならびに希突起膠細胞マーカーであ
るPDGFαR、NG2、Olig−1およびOlig−2、ならびにミエリンマーカー
であるMBPのレベルを示す。これらのデータからの結果は、低酸素下におけるrHIg
M12による処置の有効性を示す。rHIgM12は、小膠細胞を活性化させ、神経膠細
胞の細胞周期離脱(pRb)を刺激し、神経膠のアポトーシスレベルを低減し、低酸素下
におけるミエリン産生レベルの上昇を低減する。したがって、再生性抗体であるrHIg
M12は、低酸素下の混合神経膠培養物中の神経膠の生存を刺激し、OPCの分化を低減
する。
【0445】
正常酸素下と対比した低酸素下におけるrHIgM12の分子的転帰を、正常酸素下と
比較した低酸素下における混合神経膠に対する、rHIgM12により媒介される効果を
直接的に比較することにより評価した。混合神経膠は、前出で記載した通りに培養し、低
酸素状態下または正常酸素状態下の既知組成培地中、7日間にわたり、rHIgM12、
rHIgM22、または培地だけで処置した。代表的なウェスタンブロット(
図54)は
、小膠細胞マーカーであるIBA−1およびCD68、アポトーシスマーカーである切断
型カスパーゼ3、星状細胞マーカーであるGFAP、希突起膠細胞マーカーであるPDG
FαR、NG2およびOlig−2、ならびにミエリンマーカーであるMBPおよびCN
Pアーゼのレベルを示す。rHIgM12は、正常酸素状態下および低酸素状態下の両方
において、小膠細胞発現マーカーであるCD68およびIBA−1を刺激する有効性を示
す。最も顕著なことは、rHIgM12が、正常酸素状態と比較して、ミエリンマーカー
であるMBPおよびCNPアーゼの発現に対する低酸素の影響を均衡させることである。
【0446】
培養物マーカーの妥当性および一貫性を点検するために、低酸素状態を動物において評
価した。P13齢の新生仔B16マウスに由来する低酸素皮質および正常酸素皮質につい
ての分子的解析を実施した。C57/Bl6新生仔マウスを、CD1母体マウスで交差養
育し、P3〜P7の4日間にわたり低酸素(10%のO2)へと曝露した。マウスは、そ
の後、さらに6日間にわたり室内空気に曝露し、P13に屠殺した。いずれの処置群(正
常酸素マウスおよび低酸素マウス)においても、RNAを皮質から単離し、ミエリンマー
カーであるPLP1、MOG、MBP1、希突起膠細胞前駆細胞マーカーであるPDGF
αRおよびOlig−1、星状細胞マーカーであるGFAP、ニューロンマーカーである
Nestinおよびβ3−チューブリン、低酸素誘導因子1αならびにサルコスパンタン
パク質SSPNについてプローブした。発現レベルは、RT−PCRにより解析し、結果
は、β−アクチンのレベルに対して正規化した。P13における低酸素および正常酸素の
C57/B16新生仔に由来する皮質中のマーカーについてのRT−PCR解析を実行し
、結果を
図55に示す。これらのデータからの結果は、新生仔マウスの低酸素処置が、ミ
エリンマーカーの発現レベルを選択的に低減するが、皮質組織内のニューロンマーカー、
OPCマーカー、および星状細胞マーカーの発現レベルは低減しないことを示す。
(実施例23)
マウス脳卒中モデルにおける、IgM抗体であるrHIgM12の局在
【0447】
脳卒中後または虚血性イベント後の介入のための、抗体の接近および局在を評価するた
めに、モノクローナル抗体のIP投与を伴う脳卒中動物モデルを用いた。マウスにおいて
脳卒中を誘導し、放射性標識された抗体を投与し、次いで、投与の最長で24時間後の時
期における放射性標識を決定することにより、動物の組織を抗体について評価した。脳卒
中病変を含有する脳(皮質)のほか、小脳、脊髄、肝臓、脾臓、腎臓、および血清を評価
した。
【0448】
脳卒中は、上記で記載した、光活性化Rose Bengalプロトコールを用いて、
3匹の成体CD−1マウスの右側の大脳皮質において誘導し、他の3匹のマウスに、Ro
se Bengalは伴うが、光活性化は伴わない偽脳卒中手順を施した。脳卒中の30
〜40分後、約60ugのIgMに相当する1000万cpmの
35Sで標識されたrH
IgM12を、容量500ulの生理食塩液により、各マウスへと腹腔内投与した。Ig
Mの投与または処置の6、12、および24時間後、血液をマウスから回収し、血管系を
、30mlの生理食塩液で洗浄し、組織を速やかに回収した。組織における放射性標識に
ついて解析するため、病変領域を含有する脳の右前頭葉皮質を、75mgの組織ブロック
として摘出した。組織は、Solvable(PerkinElmer)中に溶解させ、
cpmは、製造元のプロトコールに従い、UltraGold液体シンチレーションカク
テル中で決定した。他の組織の一部も、PerkinElmerにより提示される比に従
い摘出し、秤量し、処理した。結果を、
図56に描示する。
【0449】
この研究では、各時点(tine point)に1匹のマウスを用いたが、rHIg
M12は、24時間にわたりCNS組織に蓄積されたが、これに対し、血液代謝を担当す
る組織および血清自体のrHIgM12レベルは低下したことが注意される。脳卒中を被
ったマウスの6時間後における、皮質内の高レベルのrHIgM12(
図56の「脳」と
表示される第1のパネル)は、この時間内において、IgMが、脳卒中領域への接近を改
善したことを示唆する。脳卒中を被った動物の脳/皮質内では、この時点において、正常
/偽手順動物と対比して有意に高量の標識が存在する。また、rHIgM12が、脳卒中
を有するマウスおよび対照マウスのCNS組織に同等に入ることも興味深く、このことか
ら、無傷のBBBが、CNS損傷の領域に到達するこの治療用IgMの能力を完全には遮
断しないことが示唆される。rIgM12抗体は、この薬物がその最大の効果を及ぼすこ
とが予測される、脳卒中後の極めて重要な最初の12時間中に脳卒中領域に到達した。
【0450】
本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱しない限りにおいて、他の形態で実施
することもでき、他の方式で実行することもできる。したがって、本開示は、例示的なも
のであり限定的なものではない全ての態様、付属の特許請求の範囲により示される本発明
の範囲にあるものと考えられ、同等性の意味および範囲内に収まる全ての変化がその中に
包含されることを意図する。
【0451】
本明細書全体では多様な参考文献が引用されるが、それらの各々が参照によりその全体
において本明細書に組み込まれる。