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特開2017-127329脳卒中および虚血または虚血状態において使用するためのヒト抗体およびその特異的結合配列
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-127329(P2017-127329A)
(43)【公開日】2017年7月27日
(54)【発明の名称】脳卒中および虚血または虚血状態において使用するためのヒト抗体およびその特異的結合配列
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170630BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20170630BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20170630BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170630BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20170630BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20170630BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170630BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20170630BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C07K16/28
   C12P21/08
   C12Q1/02
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61K45/00
   A61P3/06
   A61P7/02
   A61P9/00
   A61P9/10
   A61P9/12
   A61P25/00
   A61P29/00
   A61P37/02
   A61P43/00 105
   A61P43/00 121
   G01N33/53 Y
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】150
(21)【出願番号】特願2017-89783(P2017-89783)
(22)【出願日】2017年4月28日
(62)【分割の表示】特願2015-507147(P2015-507147)の分割
【原出願日】2013年4月17日
(31)【優先権主張番号】61/625,628
(32)【優先日】2012年4月17日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】モーゼス ロドリゲズ
(72)【発明者】
【氏名】アーサー イー. ワリントン
(72)【発明者】
【氏名】ラリー アール. ピーズ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QS33
4B063QX02
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064DA01
4C084AA19
4C084MA16
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA421
4C084ZA422
4C084ZA541
4C084ZA542
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZC331
4C084ZC332
4C084ZC751
4C084ZC752
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB31
4C085BB33
4C085BB34
4C085BB35
4C085BB36
4C085BB37
4C085BB41
4C085BB43
4C085BB44
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG06
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045FA74
4H045GA21
(57)【要約】
【課題】脳卒中および虚血または虚血状態において使用するためのヒト抗体およびその特異的結合配列を提供すること。
【解決手段】CNSにおけるニューロンに結合し、これらを認識し、CNSのニューロンにおける応答を誘発することが可能である特異的結合メンバー、特にヒト抗体、特に組換え抗体、およびそれらの断片が提供される。これらの抗体は、神経損傷、神経傷害、または神経変性および神経変性疾患と関連する状態の診断および処置に有用であり、特に、脳卒中または脳虚血の処置または改善に有用である。本発明の抗体、それらの可変領域、またはCDRドメイン配列、およびそれらの断片はまた、治療において、化学療法剤、免疫調節剤、もしくは神経作用剤、および/または他の抗体もしくはそれらの断片と組み合わせて用いることもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
神経疾患における使用のためのヒト抗体およびその特異的結合配列
政府支援についての申告
本明細書に記載の本発明は、米国国立衛生研究所(Grant Nos. R01 N
S 24180、R01 NS 32129、R01 CA104996、R01 CA
096859)、および全米多発性硬化症協会(Grant No. CA 1011
A8−3)によって、完全または部分的に支援された。米国政府は本発明において一定の
権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、CNSにおけるニューロンに結合し、これらを認識し、CNSのニューロン
における応答を誘発することが可能である抗体、特にヒト天然抗体、これらに由来する組
換え抗体、およびそれらの断片に関する。これらの抗体は、神経損傷、神経傷害または神
経変性、神経変性疾患、慢性神経傷害または慢性神経損傷、および突発的神経傷害または
突発的神経損傷と関連する状態の診断および処置に有用である。本発明の抗体、それらの
可変領域、またはCDRドメイン配列、およびそれらの断片はまた、治療において、化学
療法剤、免疫調節剤、もしくは向神経活性剤および/または他の抗体またはそれらの断片
と組み合わせて用いることもできる。本発明は特に、脳卒中または虚血、特に、脳虚血を
緩和または処置する方法、ならびに脳卒中または虚血に用いられる、関連する薬剤、構築
物、および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
神経再生とは、神経組織、細胞、または細胞産物の再成長または修復を指す。このよう
な機構は、再ミエリン化、新たなニューロン、神経膠、軸索、ミエリン、またはシナプス
の発生を包含しうる。末梢神経系(PNS)と中枢神経系(CNS)とでは、神経再生が
、関与する機能的機構ならびに再生の程度および速さのいずれでも異なる。
【0004】
損傷後における成熟哺乳動物の中枢神経系(CNS)における軸索の再生は、極めて限
定されたものである。その結果、脊髄損傷(SCI)、外傷性脳損傷、脳卒中、および軸
索の断絶を伴う関連状態の後では、機能欠損が持続する。この状況は、長距離にわたる軸
索の再生および実質的な機能回復が成体において生じうる、哺乳動物の末梢神経系(PN
S)における状況とは異なる。細胞外分子およびニューロンの内因性成長能のいずれもが
、再生の成功に影響を及ぼす。
【0005】
中枢神経系(CNS)の軸索が、成体の哺乳動物における損傷後に自発的に再生するこ
とはない。これに対し、末梢神経系(PNS)の軸索は、容易に再生し、末梢神経の損傷
後における機能回復を可能とする。Aguayoらは、少なくとも一部の成熟CNSのニ
ューロンは、許容性の末梢神経移植を施されれば、再生する能力を保持することを裏付け
た(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4)。この研究は、軸索成
長に、PNS環境は刺激性であり、かつ/またはCNS環境は阻害性であることを示唆し
た。その後の研究では、PNSにおける成長促進因子およびCNSにおける成長阻害因子
のいずれもが同定された。再生阻害剤には、CNSミエリンにおける特定のタンパク質お
よび星状膠細胞性瘢痕と関連する分子が含まれる。加えて、CNSにおける、PNSと比
べて緩徐な残屑クリアランスは、軸索の再成長を妨げる可能性がある。軸索成長に影響を
及ぼす因子の理解は、CNSの再生を促進する治療剤を開発するのに極めて重要である。
【0006】
末梢神経損傷後、軸索は、容易に再生する。細胞体からは断絶している軸索の遠位部は
、ウォラー変性を受ける。この活性過程の結果として、軸索の断片化および分解がもたら
される。残屑は、神経膠細胞、主に、マクロファージにより除去される。次いで、近位軸
索は、それらの標的を再生および再神経化して、機能回復を可能とする。
【0007】
CNS再生阻害剤の2つの主要なクラスは、ミエリン関連阻害因子(MAI)およびコ
ンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)である。これらの分子は、軸索の再生を
制限し、それらの機能に干渉することにより、成体におけるCNSのある程度の成長も制
限する。細胞自律的な因子もまた、CNS再生失敗の重要な決定因子である。CNSにお
けるニューロンは、成長関連遺伝子を上方調節する程度が、PNSにおけるニューロンと
同じではない。その結果、それらの再生能は、阻害剤が存在しない場合であっても、限定
されたものである。ニューロンの内因性の成長能を増大させることにより、CNSにおけ
る適度な軸索の再生が可能となる(非特許文献5;非特許文献6)。
【0008】
MAIとは、CNSミエリンの成分としての、希突起膠細胞が発現するタンパク質であ
る。MAIは、in vitroにおいて神経突起成長を損ない、CNS損傷後のin
vivoにおいて軸索成長を制限すると考えられている。MAIには、Nogo−A(非
特許文献7;非特許文献8)、ミエリン関連糖タンパク質(MAG)(非特許文献9)、
希突起膠細胞ミエリン糖タンパク質(OMgp)(非特許文献10)、エフリン−B3(
Benson MDら(2005年)、Proc Nat Acad Sci USA、
102巻:10694〜10699頁)、およびセマフォリン4D(Sema4D)(M
oreau−Fauvarque Cら(2003年)、J Neurosci、23巻
:9229〜9239頁)が含まれる。これらのうちの3つ(Nogo−A、MAG、お
よびOMgp)は、ニューロンのNogo−66受容体1(NgR1)と相互作用して、
軸索成長を制限する。これらの3つの構造的に類縁でないリガンドはまた、第2の軸索成
長阻害受容体であるペア型免疫グロブリン様受容体B(PirB)(Atwal JKら
(2008年)、Science、322巻:967〜970頁)に対するアフィニティ
ーも示す。
【0009】
神経突起成長の促進および/または阻害の根底をなす分子的鍵として作用する複数の認
識分子が同定されている。神経突起成長を促進する認識分子の中では、神経細胞接着分子
であるL1が、神経突起成長を媒介するのに顕著な役割を果たす(Schachner
M(1990年)、Seminars in the Neurosciences、2
巻:497〜507頁)。L1依存性神経突起成長は、同種親和性相互作用を媒介する。
L1は、L1を発現させる神経突起およびシュワン細胞、ならびにL1でトランスフェク
トした線維芽細胞における神経突起成長を増強する(Bixbyら(1982年)、Pr
oc Natl Acad. Sci. U.S.A.、84巻:2555〜2559頁
;Changら(1987年)、J Cell Biol、104巻:355〜362頁
;Lagenaurら(1987年)、Proc Natl Acad Sci USA
、84巻:7753〜7757頁;Seilheimerら(1988年)、J Cel
l Biol、107巻:341〜351頁;Kadmonら(1990年)、J Ce
ll Biol、110巻:193〜208頁;Williamsら(1992年)、J
Cell Biol、119巻:883〜892頁)。
【0010】
神経系の損傷に罹患する患者は、毎年90,000例を超え、脳卒中などの脳血管事象
を含めると、はるかに大きな数となる。脊髄損傷に罹患する患者だけで、毎年10,00
0例に上ると推定されている。神経損傷の発症率がこのように高いことの結果として、神
経組織工学の亜分野である神経再生および神経修復は、損傷後における神経機能性を回復
させる新たな方式の発見に専心する、急速に成長する分野となりつつある。神経系は、脳
および脊髄からなる中枢神経系、ならびにそれらに関連する神経節を伴う脳神経および脊
髄神経からなる末梢神経系の2つの部分に分けられる。末梢神経系が内因性の修復能およ
び再生能を有するのに対し、中枢神経系は、その自己修復能および再生能において、比較
的および大方制約されている。現在のところ、中枢神経系への損傷後においてヒト神経機
能を回復させるための、許容され、かつ、承認された処置は見られない。
【0011】
脊髄損傷(SCI)後における軸索の保護および修復は、運動ニューロンの喪失および
永続的な身体障害を防止するのに有効な戦略としての大きな可能性を保持する。ニューロ
ンの保護は、傷害後における軸索の損傷を防止し、軸索の修復を促進するために標的化さ
れる栄養因子を用いて達成されている。これらの分子は主に、特異的な低分子である神経
栄養因子の標的化に焦点を当てるin vitro系に基づく選択戦略を用いて同定され
た。これらの分子は、前臨床モデルでは神経保護的な結果を裏付けたが、臨床試験による
結果はそれほど好ましいものではない。
【0012】
天然の自己反応性モノクローナル抗体は、損傷および疾患の複数のモデルを用いて、C
NS細胞における有益な生物学的機能を裏付けている。抗体が媒介するニューロン生存の
促進、軸索の再生、および機能回復が、マウスモノクローナルIgMであるIN−1を用
いて、in vivoにおいて裏付けられている(Bregman BSら(1995年
)、Nature、378巻(6556号):498〜501頁;Caroni P、S
chwab ME(1988年)、Neuron、1巻(1号):85〜96頁)。同様
の結果が、CNS損傷に先立つ脊髄ホモジネート(SCH)の免疫化を用いて得られた(
Ellezam B、Bertrand J、Dergham P、McKerrach
er L(2003年)、Neurobiol Dis、12巻(1号):1〜10頁;
Huang DWら(1999年)、Neuron、24巻(3号):639〜647頁
)。
【0013】
多発性硬化症(MS)とは、通常は初期の軸索損傷を伴わない、原発性脱髄を病理学的
特徴とする、慢性でしばしば進行性で炎症性の中枢神経系(CNS)疾患である。MSの
病因および発症機序は未知である。MSの複数の免疫学的特徴、およびその特定の主要組
織適合性複合体の対立遺伝子との中程度の関連により、MSが免疫媒介性疾患であるとい
う推断が誘発されている。自己免疫仮説は、特定のミエリン成分を遺伝的に感受性である
動物へと注射することにより、T細胞介在性CNS脱髄をもたらす、実験的な自己免疫性
(アレルギー性)脳脊髄炎(EAE)モデルにより裏付けられている。しかし、特異的自
己抗原および病原性のミエリン反応性T細胞が、MS患者のCNSにおいて明確に同定さ
れたこともなく、MSが他の自己免疫疾患と関連付けられることもない。疫学的データに
基づく代替的な仮説は、環境因子、おそらくは同定されていないウイルスが、CNSにお
ける炎症反応を誘発し、これにより、潜在的に誘導性の自己免疫成分による直接的または
間接的な(「バイスタンダー」的な)ミエリン破壊がもたらされるというものである。こ
の仮説は、ヒトおよび動物の両方における複数の天然ウイルス感染が脱髄を引き起こしう
るという証拠により裏付けられている。一般に用いられる1つの実験的ウイルスモデルは
、サイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)により誘導される(Dal Canto
, M.C.およびLipton, H.L.、Am. J. Path.、88巻:4
97〜500頁(1977年))。
【0014】
MSの場合、脱髄の最終的な結果として、神経細胞死がもたらされる。しかし、脱髄後
における軸索の死滅は、即時的なものではない。適切な支持分子または支持細胞が供給さ
れれば、神経系は、著明な修復能を示す。CNSの軸索の保護は、生存する軸索の喪失を
制限し、永続的な身体障害を防止するのに有効な戦略となる見込みがある。神経保護は、
病変における潜在的に神経毒性の炎症性環境を調節することにより達成することができる
。興奮毒性を制限するか、一酸化窒素を阻害するか、またはイオンチャネルを遮断するよ
うにデザインされた試薬は、危険にある軸索を保護する方法として研究されている(Pi
tt, D.、P. Werner、およびC. S. Raine(2000年)、N
at Med、6巻:67〜70頁;Okuda, Yら(1997年)、Journa
l of neuroimmunology、73巻:107〜116頁;Waxman
, S. G.(2002年)、J Rehabil Res Dev、39巻:233
〜242頁)。これらの試薬の多くが、毒性が裏付けられた低分子であり、全身の全ての
細胞に作用する。
【0015】
虚血とは、組織への血液供給の制限であり、細胞の代謝に(組織の生存を保持するため
に)必要とされる酸素およびグルコースの不足を引き起こす。虚血は一般に、血管に関す
る問題、結果としてもたらされる組織への損傷または組織の機能不全に関する問題により
引き起こされる。虚血はまた、場合によって、うっ血(血管収縮、血栓症、または塞栓症
など)から生じる、身体の所与の部分における局所的な貧血も指す。低酸素症とは、身体
の全体または身体の領域(組織低酸素症、または、それほど一般的ではないが、局所低酸
素症)から、十分な酸素の供給が失われた状態である。動脈内酸素濃度の変動は、例えば
、激しい身体運動の間における正常な生理の一部でありうる。細胞レベルにおける酸素供
給とその要求との間のミスマッチは、低酸素状態を結果としてもたらしうる。虚血性低酸
素症は、血流が減少する場合に生じ、例えば、心不全および血管拡張性ショックにおいて
生じうる。脳低酸素症は、脳に到達する酸素が十分でない場合に生じる。脳は、機能する
ために、酸素および栄養物の一定の供給を必要とする。
【0016】
脳低酸素症では、場合によって、酸素供給だけが中断される。脳低酸素症は、煙の吸入
、一酸化炭素中毒、窒息、呼吸筋の運動を妨げる疾患、高い高度、気管(windpip
e (気管(trachea)))に対する圧力、および絞扼により引き起こされうる。
心停止、心不整脈、全身麻酔の合併症、溺水(drowing)、薬物過剰摂取、脳性ま
ひ、脳卒中、極低血圧など、生誕の間または生後における新生児への傷害など、他の場合
には、酸素および栄養物両方の供給が停止または中断される。
【0017】
脳虚血とは、脳への血流が不十分なことであり、急性の場合もあり、慢性の場合もある
。急性虚血性脳卒中とは、迅速に処置すれば逆転可能でありうる、神経学的緊急事態であ
る。慢性脳虚血は、血管性認知症と呼ばれる認知症の形態を結果としてもたらしうる。脳
に影響を及ぼす虚血の短いエピソードは、一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれるが、軽
度脳卒中と称することが多い。
【0018】
脳血管発作(CVA)としてもまた公知である脳卒中は、脳への血液供給の障害に起因
する、脳機能(複数可)の急速な喪失である。これは、遮断(血栓、動脈塞栓症)または
出血(血液の漏出)により引き起こされる、虚血(血流の欠如)に起因しうる。脳虚血(
cerebral ischemia)としてもまた公知の脳虚血(brain isc
hemia)とは、脳への血流が代謝による要求を満たすのに不十分な状態であり、くも
膜下出血および脳内出血と共に、脳卒中の1つの種類である。虚血は、脳の特殊な領域に
限られる限局性虚血の場合もあり、脳組織の広範な領域を包摂する全虚血の場合もある。
米国では、脳卒中は、長期にわたる身体障害の主要な原因である。毎年、800,000
近くの人々が、脳卒中を被っている。虚血性傷害後において、臨床的欠損と関連する身体
障害は、ニューロンの機能不全に主に起因する。機能的な回復の欠如は、再生および神経
可塑性の制約に部分的に帰せられる(Walmsley, A.R.およびMir, A
.K.(2007年)、Current pharmaceutical design
、13巻:2470〜2484頁)。脳卒中は、身体の一方の側における1もしくは複数
の肢を動かすことができないことなど、運動機能の変化、発話を理解することができない
かもしくは発話を行うことができないことなどの認知的影響、または視野の一方の側を見
ることができないことなどの視覚的影響を含めた他の欠損を結果としてもたらしうる。現
在のところ、脳卒中に関連する神経欠損を防止または逆転するのに有効な処置は存在しな
い。
【0019】
虚血性脳卒中は、場合により、病院で血栓溶解(「クロットバスター」としてもまた公
知の)により処置され、一部の出血性脳卒中は脳神経外科から利益を得る。再発の防止は
、アスピリンおよびジピリダモールなどの抗血小板薬の投与、高血圧のコントロールおよ
び低減、ならびにスタチンの使用を伴いうる。選ばれた患者は、頸動脈血管内膜切除術お
よび抗凝固剤の使用から利益を得ることができる。脳虚血の介入的治療は、依然として組
換え組織プラスミノーゲン活性化因子rtPAの使用による酵素的血栓溶解(Brott
, T.G.ら(1992年)、Stroke、23巻:632〜640頁;Haley
, E.C.ら(1992年)、Stroke、23巻:641〜645頁;Group
, T.N.(1995年)、New England J Med、333巻:158
1〜1587頁)、および直接的なカテーテル法を介する血餅の介入的摘出(Gobin
YPら(2004年)、Stroke、35巻:2848〜2854頁)に限定されて
いる。しかし、rtPAの治療域は3時間と短く、3時間の時間枠を超えて注入すると、
出血性脳虚血の発生率を増加させる(Clark, WMら(1999年)、JAMA、
282巻:2019〜2026頁;Hacke Wら(2008年)、New Engl
and J Med、359巻:1317〜1329頁)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Richardson PM、McGuinness UM、Aguayo AJ、Nature、(1980年)284巻:264〜265頁
【非特許文献2】Richardson PM、Issa VM、Aguayo AJ、J Neurocytol、(1984年)13巻:165〜182頁
【非特許文献3】David S、Aguayo AJ、Science、(1981年)214巻:931〜933頁
【非特許文献4】Benfey M、Aguayo AJ、Nature、(1982年)296巻:150〜152頁
【非特許文献5】Bomze HMら、Nat Neurosci、(2001年)4巻:38〜43頁
【非特許文献6】Neumann S、Woolf CJ、Neuron、(1999年)23巻:83〜91頁
【非特許文献7】Chen MSら、Nature、(2000年)403巻:434〜439頁
【非特許文献8】GrandPre Tら、Nature、(2000年)403巻:439〜44頁
【非特許文献9】McKerracher Lら、Neuron、(1994年)13巻:805〜811頁
【非特許文献10】Kottis Vら、J Neurochem、(2002年)82巻:1566〜1569頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
中枢神経系において活性を呈示し、特に、再ミエリン化の刺激と関連したヒトモノクロ
ーナル自己抗体が同定されている。CNSにおける活性を有するヒトモノクローナル抗体
、特に、これらの活性、ならびに特に、脳卒中もしくは脳(brain/脳(cereb
ral))虚血の例、または脳もしくはCNSへの酸素もしくは血流が、急性もしくは慢
性で失われるかもしくは影響を受ける例において、神経再生を促進し、かつ/またはニュ
ーロンを疾患、傷害、損傷、および/もしくは死滅から保護する能力を有する組換え抗体
を開発することが所望される。特に、CNSに接近し、脳虚血または脳卒中を処置、防止
、または緩和する能力を有するヒトモノクローナル抗体の使用および適用が所望される。
これは、本発明が対象とする目的の達成に向けたものである。
【0022】
本明細書における参考文献の引用は、これらの参考文献が本発明に先行することの容認
としてはみなされないものとする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、CNSにおける特定の有効性を有する神経調節剤であって、IgM亜型の抗
体、その活性断片、その単量体、そのアゴニスト、およびこれらの組合せからなる群から
選択される物質を含む薬剤に関する。本発明の神経調節剤または抗体は、以下の特徴のう
ちの1または複数を有する:本発明の神経調節剤または抗体は、ニューロンを保護し、か
つ/またはこれを安定化させる;本発明の神経調節剤または抗体は、CNSまたは神経細
胞の損傷、障害、または傷害における部位を標的とする;本発明の神経調節剤または抗体
は、細胞死、例えば、過酸化水素誘導性細胞死を低減または遮断する。本発明の特定の態
様では、薬剤、特に、ニューロン結合モノクローナル抗体は、脳卒中および虚血、特に、
脳虚血を処置および緩和するのに有効であり、適用され、用いられ、神経細胞または脳の
虚血または低酸素が関与するかまたは生じている状態において有効であり、適用され、用
いられる。
【0024】
本発明は、中枢神経系における診断目的および治療目的のための、神経突起伸長を促進
し、神経再生において作用し、かつ/またはニューロンを損傷から保護する能力を有する
ニューロン結合モノクローナル抗体を提供する。本研究は、ニューロン結合モノクローナ
ル抗体、特に、抗体IgM12 rHIgM12を、脳卒中後の動物(この場合、虚血性
脳卒中を誘導するための動物モデル)へと投与すると、動物の機能の明確な改善が結果と
してもたらされ、組織の完全性が保護されることを裏付ける。
【0025】
特に、特異的な組換え抗体であって、皮質ニューロン、海馬ニューロン、小脳顆粒細胞
、および網膜神経節細胞を含めたニューロンを認識し、これらに結合することが可能であ
り、脳卒中、虚血性状態、または、神経細胞もしくは小膠細胞における虚血もしくは低酸
素の場合、およびこれらが生じたときは、ニューロンおよび神経細胞を標的とし、媒介す
る抗体が提供される。本明細書では、組換え完全ヒト抗体が提供される。本発明の抗体は
、神経の障害、損傷または傷害と関連する状態または疾患において診断的および治療的に
使用される。
【0026】
一般的な態様では、本発明が、皮質ニューロン、海馬ニューロン、小脳顆粒細胞、お
よび網膜神経節細胞を含めたニューロンにおける1または複数のエピトープを指向し、こ
れらに結合することが可能な抗体を提供する。広範な態様では、本発明が、単離された特
異的結合メンバー、特に、ニューロンを認識し、これらに結合し、かつ/またはこれらを
標的とする組換えヒト抗体を含めた抗体またはその断片を提供する。本発明は、ニューロ
ンに特異的に結合し、ニューロンを細胞死から保護し、再ミエリン化を促進しないヒト抗
体、特に、ヒト抗体、特に、IgM抗体を提供する。本発明の抗体は、脊髄損傷(SCI
)、外傷性脳損傷(traumatic brian injury)(TBI)、筋萎
縮性側索硬化症(Amyolotropic Lateral Sclerosis)(
ALS)、多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病、脳卒中、パーキンソン病、ハンチ
ントン病、出産前酸素欠乏症/周産期虚血、脳性まひ、脳症、脊髄症、または運動ニュー
ロン疾患における使用、および、特に、これらの疾患におけるニューロンおよび神経の能
力の保護、存続、または維持における使用を含め、神経が損なわれているか、傷つけられ
ているか、もしくは損傷しているか、またはその危険性がある哺乳動物における疾患また
は状態を処置または改善するのに使用される。
【0027】
特定の態様では、本発明の抗体またはそれらの組成物は、脳卒中および脳虚血において
用いられ、適用される。特定の態様では、本発明の抗体または組成物は、代謝的要求を満
たすのに血流および/もしくは脳への酸素が不十分である状態、あるいは脳に対する外傷
性傷害であって、ニューロンおよび関連細胞の死滅もしくは傷害、またはこれらの死滅も
しくは傷害の危険性を結果としてもたらす外傷性傷害が存在する状態において用いられる
。特定の態様では、本発明は、抗体12または抗体42、特に、血清由来であるかまたは
組換えのIgM12もしくはIgM42である抗体またはその断片を提供する。
【0028】
本発明の態様では、図5および/または6に示される可変領域のCDR配列を含む、組
換えまたは合成のニューロン結合抗体が提供される。抗体12は、図5に示される、重鎖
CDR配列CDR1 GGSVSLYY(配列番号31)、CDR2 GYIYSSGS
T(配列番号32)、およびCDR3 ARSASIRGWFD(配列番号33)、なら
びに軽鎖CDR配列CDR1 QSISSY(配列番号34)、CDR2 AAS(配列
番号35)、およびCDR3 QQSYHTPW(配列番号36)を含む。抗体42は、
図6に示される、重鎖CDR配列CDR1 GFTFSTYA(配列番号37)、CDR
2 INVGGVTT(配列番号38)、およびCDR3 VRRSGPDRNSSPA
DF(配列番号39)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QGIG(配列番号40)、
CDR2 TTS(配列番号41)、およびCDR3 QKYNSAPRT(配列番号4
2)を含む。したがって、本明細書で同定される抗体(複数可)のCDRに基づく組換え
抗体は、ニューロン、特に、疾患またはがんにおいて感受性であるか、障害され、損傷さ
れまたは傷害されたニューロンを標的とし、保護するのに有用である。
【0029】
したがって、本発明は、神経が損なわれているか、傷つけられているか、もしくは損傷
しているか、またはその危険性がある哺乳動物における疾患または状態を処置または改善
するのに使用される、ニューロンに特異的に結合し、ニューロンを細胞死から保護し、再
ミエリン化を促進しない単離ヒトIgM抗体(複数可)またはその断片(複数可)であっ
て、(a)図5に示される可変重鎖アミノ酸CDRドメイン配列CDR1 GGSVSL
YY(配列番号31)、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32)、およびCDR
3 ARSASIRGWFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QS
ISSY(配列番号34)、CDR2 AAS(配列番号35)、およびCDR3 QQ
SYHTPW(配列番号36)、または(b)図6に示される、可変重鎖アミノ酸CDR
ドメイン配列CDR1 GFTFSTYA(配列番号37)、CDR2 INVGGVT
T(配列番号38)、およびCDR3 VRRSGPDRNSSPADF(配列番号39
)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QGIG(配列番号40)、CDR2 TTS(
配列番号41)、およびCDR3 QKYNSAPRT(配列番号42)を含む抗体また
は断片を提供する。
【0030】
さらなる特定の態様では、本発明の抗体が、図5および/または図6に示されるアミノ
酸配列を含めた抗体12または42のアミノ酸配列を含む。本発明の組換え抗体であるI
gM12は、図5に示される可変重鎖配列(配列番号1)および可変軽鎖配列(配列番号
11)を含む。本発明の組換え抗体であるIgM42は、図6に示される可変重鎖配列(
配列番号17)および可変軽鎖配列(配列番号27)を含む。本発明の特定の態様では、
組換え抗体は、ヒト重鎖可変領域、定常領域、およびヒトJ鎖を含む、完全ヒト組換え抗
体である。本明細書では、図5に示される、可変領域(配列番号1)またはそのCDR、
ヒト定常領域、特に、カッパ配列(配列番号3、5、7、および9)およびヒトJ鎖(配
列番号15)を含むヒト免疫グロブリン重鎖を含む完全ヒト組換えIgM12抗体が提供
される。
【0031】
さらなる態様では、本発明が、抗原に結合することが可能な単離抗体またはその断片で
あって、本明細書および図6に実質的に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド結合ド
メインを含む抗体またはその断片を提供する。本発明は、ニューロンに結合することが可
能な単離されたヒト抗体またはその断片であって、重鎖可変領域(配列番号17)もしく
はそのCDR、および軽鎖可変領域(配列番号27)もしくはそのCDRを含む抗体もし
くはその断片、または本明細書および図6に実質的に示されるアミノ酸配列を含む抗体も
しくはその断片を提供する。
【0032】
さらなる態様では、本発明が、抗原に結合することが可能な単離された完全ヒト抗体ま
たはその断片であって、実質的に本明細書および図5に示されるアミノ酸配列を含むポリ
ペプチド結合ドメインを含む抗体またはその断片を提供する。本発明は、ニューロンに結
合することが可能な単離された完全ヒト抗体またはその断片であって、重鎖可変領域(配
列番号1)もしくはそのCDR、および軽鎖可変領域(配列番号11)もしくはそのCD
Rを含むか、または実質的に本明細書および図5に示されるアミノ酸配列を含む抗体また
はその断片を提供する。本発明は特に、単離ヒトIgM抗体またはその活性断片であって
図5に示される、可変重鎖アミノ酸CDRドメイン配列CDR1 GGSVSLYY(
配列番号31)、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32)、およびCDR3 A
RSASIRGWFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QSISS
Y(配列番号34)、CDR2 AAS(配列番号35)、およびCDR3 QQSYH
TPW(配列番号36)を含む抗体またはその活性断片を提供する。特定の態様では、本
発明が、単離された完全ヒト組換えIgM抗体またはその活性断片であって、可変重鎖ア
ミノ酸CDRドメイン配列CDR1 GGSVSLYY(配列番号31)、CDR2 G
YIYSSGST(配列番号32)、およびCDR3 ARSASIRGWFD(配列番
号33)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QSISSY(配列番号34)、CDR2
AAS(配列番号35)、およびCDR3 QQSYHTPW(配列番号36)、ヒト
定常領域および配列番号15に示されるヒトJ鎖配列を含む抗体またはその活性断片を提
供する。
【0033】
さらなる態様では、本発明が、ニューロン結合ポリペプチドまたは上記で規定した抗体
をコードする配列を含む単離核酸、および本発明のポリペプチドまたは抗体を調製する方
法であって、前記ポリペプチドまたは抗体の発現をもたらす条件下で前記核酸を発現させ
るステップと、これらのポリペプチドまたは抗体を取り出すステップとを含む方法を提供
する。このような一態様では、図5もしくは6に示されるアミノ酸配列を有する抗体の可
変領域配列をコードする核酸が提供されるか、または図5もしくは6に示されるCDRド
メイン配列を有する抗体が提供される。一態様では、図5または6の核酸配列を含む核酸
が提供される。さらなる態様では、図5または6に示される重鎖可変領域であるVH鎖ま
たは軽鎖可変領域であるVL鎖をコードする核酸が提供される。本発明はまた、本発明の
抗体をコードする組換えDNA分子もしくはクローニングされた遺伝子またはその縮重バ
リアント、好ましくは、核酸分子、特に、抗体のVH鎖およびVL鎖、特に、図5または
6に示される配列を有するかまたはこれをコードすることが可能なCDR領域の配列をコ
ードする組換えDNA分子またはクローニングされた遺伝子にも関する。好ましい態様で
は、本発明が、IgM12の重鎖可変領域配列(配列番号2)および軽鎖可変領域配列(
配列番号12)をコードする核酸、ならびにIgM42の重鎖可変領域配列(配列番号1
8)および軽鎖可変領域配列(配列番号28)をコードする核酸を提供する。本発明の態
様では、可変重鎖アミノ酸CDRドメイン配列CDR1 GGSVSLYY(配列番号3
1)、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32)、およびCDR3 ARSASI
RGWFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QSISSY(配列番
号34)、CDR2 AAS(配列番号35)、およびCDR3 QQSYHTPW(配
列番号36)を含む抗体またはその断片をコードする核酸が提供される。さらなる態様で
は、核酸が、ヒト定常領域およびヒトJ鎖、特に、配列番号15のJ鎖をさらにコードす
る。本発明の態様では、可変重鎖アミノ酸CDRドメイン配列CDR1 GFTFSTY
A(配列番号37)、CDR2 INVGGVTT(配列番号38)、およびCDR3
VRRSGPDRNSSPADF(配列番号39)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1
QGIG(配列番号40)、CDR2 TTS(配列番号41)、およびCDR3 QK
YNSAPRT(配列番号42)を含む抗体またはその断片をコードする核酸が提供され
る。さらなる態様では、核酸が、ヒト定常領域およびヒトJ鎖、特に、配列番号15のJ
鎖をさらにコードする。
【0034】
本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換え抗体は、哺乳動物
における神経保護の方法であって、前記哺乳動物に有効量の本発明の抗体、それらの断片
、および組換え抗体を投与するステップを含む方法など、ヒトまたは動物の身体に対する
処置法、防止法、または診断法において用いることができる。本発明によるCDRドメイ
ン領域の配列を含む組換え抗体またはそれらの断片は、哺乳動物における神経保護の方法
であって、前記哺乳動物に有効量の本発明の抗体、それらの断片、および組換え抗体を投
与するステップを含む方法において用いることができる。
【0035】
本発明の薬剤、特に、組換え抗体またはそれらの断片は、神経傷害、神経損傷または神
経障害、および結果としてCNS損傷をもたらすことが可能であり、可能性があるかまた
は実際にもたらす合併症を防止、処置、または改善するための方法における神経保護剤と
して用いることができる。本発明の処置法または防止法は、脳傷害または脳外傷、脊髄損
傷(SCI)、神経傷害、頭部傷害、脳への血液供給が低減されるかまたは障害された状
態、脳の感染性疾患、神経変性疾患を含めた、ニューロンの構造、機能、または生存の喪
失が関与するかまたは関連する場合に適用可能である。本発明の方法に従い処置、防止、
または改善するための例示的なこのような疾患または状態には、脊髄損傷(SCI)、外
傷性脳損傷(TBI)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、アルツ
ハイマー病、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、出産前酸素欠乏症/周産期虚血
、および/または脳性まひ、脳症、脊髄症、ならびに運動ニューロン疾患が含まれる。し
たがって、本発明は、神経が障害され、傷害されもしくは損傷した哺乳動物における疾患
もしくは状態、または神経もしくはニューロンが障害、傷害もしくは損傷に感受性である
かもしくはこの危険性がある状況を処置または改善する方法であって、IgM12および
IgM42から選択される組換え抗体もしくは完全ヒト抗体またはその断片を投与するス
テップを含む方法に関する。
【0036】
本発明の特定の態様では、本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、およ
び組換え抗体は、脳卒中または脳虚血の処置または改善のための方法において用いること
もでき、このための組成物により投与することもできる。本発明の特定の態様では、本発
明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換え抗体は、脳卒中の処置ま
たは改善のための方法において用いることもでき、このための組成物により投与すること
もできる。本発明の特定の態様では、本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断
片、および組換え抗体は、脳虚血の処置または改善のための方法において用いることもで
き、このための組成物により投与することもできる。本発明の実施形態では、本発明によ
る可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換え抗体は、脳卒中などの状態にお
ける運動機能を改善するための方法において用いることもでき、このための組成物により
投与することもできる。本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組
換え抗体は、脳卒中を患っているかまたはこれを患っていることが疑われる動物における
運動機能を改善するための方法において用いることもでき、このための組成物により投与
することもできる。本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換え
抗体は、脳卒中を有したことがあるかまたは脳虚血を有する動物における運動機能を改善
するための方法において用いることもでき、このための組成物により投与することもでき
る。特定の態様では、図5に示される、重鎖CDR配列CDR1 GGSVSLYY(配
列番号31)、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32)、およびCDR3 AR
SASIRGWFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QSISSY
(配列番号34)、CDR2 AAS(配列番号35)、およびCDR3 QQSYHT
PW(配列番号36)を含む、IgM12、rIgM12、抗体12は、脳卒中または脳
虚血を処置、防止、または緩和するのに用いることができる。そのある態様では、本発明
による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換え抗体は、脳卒中および/ま
たは脳虚血が決定されるか、疑われるか、またはこの危険性がある例であって、組織プラ
スミノーゲン活性化因子(TPA)などの酵素性血栓溶解剤または他の血栓溶解剤または
抗血栓剤を投与し得るかまたは用いうる例を含む例において投与することができる。
【0037】
本発明の態様では、本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換
え抗体を、神経が障害され、傷害されもしくは損傷した例、疾患、もしくは状態、または
神経もしくはニューロンが障害、傷害もしくは損傷を受け易いかもしくはこの危険性があ
る状況における神経機能または運動機能を改善または安定化させるための方法において用
いることもでき、このための組成物により投与することもできる。特定の態様では、歩行
などの運動または想起もしくは認識などの認知機能を含めた、またはこれらから選択され
る神経機能または運動機能の改善または安定化を促進するかまたは維持するように、抗体
またはそれらの断片を、疾患、外傷、もしくは状態の早期もしくは初期において用いるか
もしくは投与するか、または疾患、外傷、もしくは状態の経過もしくは持続時間にわたり
反復使用する。
【0038】
本発明の態様では、本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換
え抗体は、脳卒中または脳虚血の場合の神経学的影響、欠損、損傷、またはニューロン細
胞死を和らげるかまたは改善するための方法において用いることもでき、このための組成
物により投与することもできる。方法に従い、抗体(複数可)は、脳卒中スケールまたは
機能スケールなどの、評価可能であるかまたはスケール化可能なパラメータを含め、1ま
たは複数の機能的パラメータまたは評価可能な神経学的パラメータまたは運動パラメータ
を改善する。抗体(複数可)の投与は、例えば、上肢および下肢の運動機能、四肢の失調
、感覚機能、言語、構音、注意、凝視および視覚機能、腕部、手掌部、および脚部の力お
よび運動のうちの1または複数を含めた、脳卒中と関連する症状またはパラメータのうち
の1または複数を改善する(improve)または改善する( ameliorate
)のに有効である。
【0039】
本発明の方法は、抗体IgM12および抗体IgM42の組合せを含めた複数の抗体
または断片の投与を含みうる。本発明の態様では、1または複数の抗体またはそれらの断
片を投与するステップを含み、抗体が(a)可変重鎖アミノ酸CDRドメイン配列CDR

GGSVSLYY(配列番号31)、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32)
、およびCDR3 ARSASIRGWFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配列
CDR1 QSISSY(配列番号34)、CDR2 AAS(配列番号35)、および
CDR3 QQSYHTPW(配列番号36)、または(b)可変重鎖アミノ酸CDRド
メイン配列CDR1 GFTFSTYA(配列番号37)、CDR2 INVGGVTT
(配列番号38)、およびCDR3 VRRSGPDRNSSPADF(配列番号39)
、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QGIG(配列番号40)、CDR2 TTS(配
列番号41)、およびCDR3 QKYNSAPRT(配列番号42)を含む方法が提供
される。さらなるこのような方法では、抗体IgM12および/または抗体IgM42の
うちの1または複数、特に、抗体rHIgM22および/または抗体rHIgM46のう
ちの1または複数を含めた他のCNS作用抗体と組み合わせることができる。rHIgM
22抗体は、配列番号43および44に示されるアミノ酸配列またはこれらの配列番号の
CDRを含む。rHIgM46抗体は、配列番号45および46に示されるアミノ酸配列
またはこれらの配列番号のCDRを含む。したがって、抗体IgM12および/または抗
体IgM42のうちの1または複数は、(a)CDR1配列であるSSGMH、CDR2
配列であるV(I)ISYDGSRKYYADSVKG、およびCDR3配列であるGV
TGSPTLDYを含む重鎖可変領域のCDR、ならびにCDR1配列であるSGSSS
NIGNNFVS、CDR2配列であるDITKRPS、およびCDR3配列であるG(
E)TWDSSLSAVVを含む軽鎖可変領域のCDR;または(b)CDR1配列であ
るSGFTFSSYW、CDR2配列であるIKKDGSEK、およびCDR3配列であ
るARPNCGGDCYLPWYFDを含む重鎖可変領域のCDR、ならびにCDR1配
列であるQSVLYSSNNKNY、CDR2配列であるYWAS、およびCDR3配列
であるQQYYNTPQAを含む軽鎖可変領域のCDRを含む1または複数の再ミエリン
化抗体と組み合わせることができる。抗体の組合せは、まとめて投与することもでき、逐
次的に投与することもでき、多様な回数および多様な量または濃度で投与することができ
る。二重特異性抗体を用いることもでき、多重特異性抗体を用いることもできる。特定の
このような態様では、抗体12および/または抗体42を、抗体22および/もしくは抗
体46ならびに/またはIgM22またはIgM46のCDR領域のCDR1配列、CD
R2配列、およびCDR3配列を有する抗体と組み合わせて、併用投与を介して、または
数時間、数日間、もしくは数週間を含めた短時間もしくは長期間を隔てて逐次的に投与す
る。このような特定の一態様では、神経変性を伴う疾患または状態、および、特に、脱髄
を含めた疾患または状態を処置または改善するために、抗体12および/または抗体42
を、抗体22および/または抗体46と組み合わせて、併用投与を介して、または逐次的
に投与する。さらなるこのような態様では、脱髄性疾患または脱髄性状態を処置または改
善するために、抗体12および/または抗体42を、抗体22および/または抗体46と
組み合わせて、併用投与を介して、または逐次的に投与する。特定の態様では、多発性硬
化症を処置または改善するために、抗体12および/または抗体42を、抗体22および
/または抗体46と組み合わせて、併用投与を介して、または逐次的に投与する。このよ
うな一態様では、MS症の測定可能な臨床的側面において、相乗効果を含めた組合せ効果
について再ミエリン化および神経保護を達成する。
【0040】
本発明の薬剤の神経保護能および/または神経再生能の点から述べると、本発明はさら
に、皮質ニューロン、海馬ニューロン、小脳顆粒細胞、および網膜神経節細胞の増殖を含
めたニューロンの増殖を、in vitroにおいてもたらし、刺激する方法にも関する
。このような増殖したニューロンは、移植および神経細胞の治療プロトコールおよび治療
法に適切でありうる。
【0041】
本発明の診断的有用性は、in vitroおよびin vivoにおける診断アッセ
イおよび画像化アッセイを含めた、CNSにおける神経傷害もしくは神経損傷を特徴付け
るか、または神経傷害、神経損傷もしくは神経死滅(壊死性死滅またはアポトーシス性死
滅を含めた)を伴う疾患もしくは状態についてスクリーニングするかもしくは評価するた
めのアッセイおよび方法における本発明の抗体の使用まで拡張される。したがって、抗体
は、脳卒中または虚血を評価し、かつ/あるいは虚血もしくは脳卒中または予測されるか
もしくは疑われる虚血もしくは脳卒中を追跡する中で傷害を評価するためのアッセイおよ
び方法において用いることができる。イムノアッセイでは、対照量の抗体などを調製し、
酵素、特異的結合パートナー、リガンド、色素、蛍光タグ、および/または放射性元素で
標識し、次いで、細胞試料へと導入することができる。標識した物質またはその結合パー
トナー(複数可)に試料内の部位と反応する機会を与えた後、結果として得られる物質塊
(mass)を、結合させる標識の性質で変えることができる公知の技法によって調べる
ことができる。in vivoにおける診断適用または画像化適用では、抗体またはその
ニューロン結合断片を調製し、酵素、特異的結合パートナー、リガンド、色素、蛍光タグ
、および/または放射性元素で標識し、次いで、動物へと導入することができる。標識し
た物質またはその結合パートナー(複数可)に動物内の部位と反応する機会を与えた後、
この動物を、結合させる標識の性質で変えることができる公知の技法によって調べること
ができる。本発明の診断的有用性の態様では、本発明の抗体またはそれらの活性断片を、
アッセイおよび方法において用いて、脳虚血または脳卒中を特徴付けることができる。特
に、脳虚血または脳卒中が疑われるかまたはこの危険性がある例では、本発明の抗体を用
いて、脳虚血および/または脳卒中を決定するかまたはこれらについて評価することがで
きる。
【0042】
放射性標識した特異的結合メンバー、特に、抗体およびそれらの断片は、in vit
roの診断法およびin vivoの放射性画像化法において有用である。本発明のさら
なる態様では、放射性標識した特異的結合メンバー、特に、抗体およびそれらの断片、特
に、ラジオイムノコンジュゲート、特に、放射性標識した抗体としてのラジオイムノコン
ジュゲートが、神経傷害の修復、神経再生、神経変性の回復、がん、もしくはCNS腫瘍
の治療のための放射性免疫治療、または、代替的に、特定の症例において損傷した神経組
織またはニューロンを切除するための放射性免疫治療において有用である。in viv
oの態様では、抗体またはそのニューロン結合断片を標識し、神経傷害を位置特定するか
または損傷されもしくは傷害された残りの神経組織を評価するための、定位固定法または
侵襲性が最小限の技法を含めた手術もしくは外科法の前、手術もしくは外科法の間、また
は手術もしくは外科法の後に動物に投与する。このような一態様では、放射性標識した特
異的結合メンバー、特に、抗体およびそれらの断片が、放射免疫ガイド下手術法において
有用であり、この場合、これらにより、障害され、損傷され、傷害され、または死滅する
神経細胞もしくはニューロンまたは神経組織の存在および/または位置を、手術前、手術
中、または手術後に同定および指示して、このような細胞を標的とするか、同定するか、
または除去することもできる。
【0043】
本発明に包含されるイムノコンジュゲートまたは抗体の融合タンパク質であって、本発
明の特異的結合メンバー、特に、抗体およびそれらの断片を、他の分子または薬剤にコン
ジュゲートするかまたは結合させたイムノコンジュゲートまたは融合タンパク質にはさら
に、神経活性薬、化学的切除剤、毒素、免疫調節剤、サイトカイン、細胞傷害薬、化学療
法剤または化学療法薬にコンジュゲートした結合メンバーも含まれるがこれらに限定され
ない。
【0044】
本発明は、例として挙げると、ニューロンの損傷、障害、もしくは傷害の存在の程度に
ついての定量的解析のための試験キット、または試料中のニューロンを定量するための試
験キットの形態で調製しうるアッセイ系を包含する。系または試験キットは、抗体に標識
をカップリングさせる、本明細書で論じられる放射法および/または酵素法のうちの1つ
を介して調製される標識された成分と、場合によって、それらのうちの少なくとも1つを
遊離成分(複数可)もしくは固定化成分(複数可)とする1または複数のさらなる免疫化
学試薬、またはそれらの結合パートナー(複数可)とを含みうる。
【0045】
本発明の抗体、ならびに、特定の実施形態では、本明細書の図5および6に示される重
鎖配列および/または軽鎖配列を含む組換え抗体(複数可)、またはそれらの活性断片、
ならびに、特に、図5および6に示されるCDR領域の配列を含む、これらに由来する単
鎖抗体、組換え抗体、または合成抗体を、ニューロンの障害、損傷、傷害、または死滅を
伴う状態または疾患を処置または改善するためなど、治療が適切な症例において投与する
ための、適切なビヒクル、キャリア、または希釈剤を含めた医薬組成物に調製することが
できる。このような医薬組成物はまた、PEG化など、当技術分野において公知の方法を
介する、抗体または断片の半減期を調節する方法も包含し得る。このような医薬組成物は
さらに、さらなる抗体または治療剤も含みうる。
【0046】
本発明はまた、他の分子または薬剤と共有結合するかまたは他の形で会合する、抗体お
よびそれらの断片も包含する。これらの他の分子または薬剤には、異なる認識特徴を伴う
分子(抗体または抗体断片を含めた)、毒素、リガンド、向神経活性剤、および化学療法
剤が含まれるがこれらに限定されない。さらなる態様では、本発明の抗体または断片を用
いて、治療用分子または他の薬剤を標的化するかまたは方向付ける、例えば、ニューロン
、例えば、創傷部位、虚血部位、腫瘍部位、炎症性領域、または神経変性病変におけるニ
ューロンを含めた、皮質ニューロン、海馬ニューロン、網膜神経節細胞、または小脳顆粒
細胞を、分子または薬剤の標的とすることができる。本発明の抗体または断片を用いて、
治療用分子または他の薬剤を標的とするかまたは方向付ける、例えば、脳虚血または脳卒
中の部位に向けて、分子または薬剤を標的とすることができる。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
脳虚血もしくは脳卒中を処置もしくは改善するか、脳卒中後もしくは脳虚血後の動物における神経機能を改善するか、または脳卒中後もしくは脳虚血後のニューロンもしくは神経細胞を損傷もしくは細胞死から保護するのに使用される、ニューロンに特異的に結合し、ニューロンを細胞死から保護し、再ミエリン化を促進しない単離ヒトIgM抗体またはその断片であって、以下の配列:
(a)図5に示される、可変重鎖アミノ酸CDRドメイン配列CDR1 GGSVSLYY(配列番号31)、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32)、およびCDR3 ARSASIRGWFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QSISSY(配列番号34)、CDR2 AAS(配列番号35)、およびCDR3 QQSYHTPW(配列番号36)、または
(b)図6に示される、可変重鎖アミノ酸CDRドメイン配列CDR1 GFTFSTYA(配列番号37)、CDR2 INVGGVTT(配列番号38)、およびCDR3
VRRSGPDRNSSPADF(配列番号39)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1
QGIG(配列番号40)、CDR2 TTS(配列番号41)、およびCDR3 QKYNSAPRT(配列番号42)
を含む抗体またはその断片。
(項目2)
配列番号1に示される可変重鎖アミノ酸配列および配列番号11に示される可変軽鎖アミノ酸配列を含むか、または配列番号17に示される可変重鎖アミノ酸配列および配列番号27に示される可変軽鎖アミノ酸配列、もしくは相同性の高いそれらの変異体を含み、該変異体がニューロン結合活性および神経保護活性または神経再生活性を保持する、項目1に記載の単離抗体。
(項目3)
組換え抗体rHIgM42であり、図6に示される、配列番号17に示される可変重鎖アミノ酸配列および配列番号27に示される可変軽鎖アミノ酸配列を含む、項目1に記載の単離抗体。
(項目4)
ヒトJ鎖配列をさらに含む、項目1に記載の単離抗体。
(項目5)
前記J鎖が配列番号15に示されるアミノ酸配列を含む、項目4に記載の抗体。
(項目6)
組換え抗体rHIgM12であり、配列番号1に示される可変重鎖アミノ酸配列および配列番号11に示される可変軽鎖アミノ酸配列を含む、項目4または5に記載の抗体。
(項目7)
配列番号1および11のアミノ酸配列または相同性の高いそれらの変異体から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む完全ヒト抗体またはその抗体断片であり、該変異体がニューロン結合活性および神経保護活性または神経再生活性を保持する、項目5に記載の単離抗体または断片。
(項目8)
脳または脳細胞または神経細胞への血流または酸素が不十分な、脳卒中、外傷性脳損傷(TBI)、脳虚血、または他の状態において使用される、項目1から7のいずれかに記載の単離抗体またはその断片。
(項目9)
脳卒中または脳虚血を処置または改善するのに使用するために、血栓溶解剤、抗血小板薬、血圧降下薬、またはスタチンと組み合わせて製剤化される、項目1に記載の単離抗体。
(項目10)
検出可能な標識または機能的な標識で標識した、項目1から7のいずれかに記載の抗体。
(項目11)
前記標識が酵素、特異的結合パートナー、リガンド、色素、蛍光タグ、および/または放射性元素である、項目10に記載の抗体。
(項目12)
項目1から7のいずれかに記載の抗体または断片をコードする配列を含む単離核酸。
(項目13)
項目1から7のいずれか一項に記載の抗体または断片を調製する方法であって、該抗体または断片の発現をもたらす条件下で項目12に記載の核酸を発現させるステップと、該抗体または断片を回収するステップとを含む方法。
(項目14)
項目1から7のいずれか一項に記載の抗体または断片と、薬学的に許容される媒体、キャリア、または希釈剤とを含む、脳卒中または脳虚血を処置または改善するための医薬組成物。
(項目15)
項目14に記載の医薬組成物の医薬剤形と、1または複数のさらなる神経作用剤もしくは治療薬、血栓溶解剤、血圧降下剤、抗血小板剤、抗炎症剤、神経伝達物質放出調節剤、神経受容体リガンドもしくは神経受容体アゴニストもしくは神経受容体アンタゴニスト、カルシウムチャネル剤、免疫調節剤、または他のCNS反応性抗体を含む個別の医薬剤形とを含む、動物における脳卒中または脳虚血を処置または改善するためのキット。
(項目16)
動物における脳卒中または脳虚血を処置または改善するための方法であって、脳卒中または脳虚血を患うことが疑われるかまたはそれを患うことが決定された動物に、有効量の、項目14に記載の医薬組成物を投与するステップを含む方法。
(項目17)
前記組成物を、単回投与として、脳卒中または脳虚血を患うことが疑われるかまたはそれを患うことが決定された前記動物に投与する、項目16に記載の方法。
(項目18)
脳卒中または脳虚血を患うかまたはそれを有することが疑われる哺乳動物における神経の傷害、死滅、または損傷の存在または程度を検出する方法であって、
A.脳卒中または脳虚血が疑われる哺乳動物に由来する生物学的試料を、項目1から7のいずれかに記載の抗体または断片と、該抗体または断片の該試料中のニューロンへの結合がおこることを可能とする条件下で接触させるステップと、
B.該試料に由来する該ニューロンと該抗体との間で結合が生じたかどうかを検出するか、または該試料に由来する該ニューロンおよび該抗体により生じた結合の量を決定するステップと
を含み、
該結合の検出により該試料中の神経細胞の傷害、死滅、または損傷の存在が示され、該結合の量により神経細胞の傷害、死滅、または損傷の相対量が示される方法。
【0047】
当業者には、以下の例示的な図面および付属の特許請求の範囲を参照しながらなされる
後続の詳細な説明の検討から、他の目的および利点が明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は、複数種類のニューロンの表面に結合するヒトIgMを示す図である。ニューロフィラメント(NF)(BおよびD)を共発現させる生存皮質ニューロンの表面に結合するsHIgM42(A)およびrHIgM12(C)を示す図である。細胞は、培地中に10μg/mlのIgMを含む10分間のインキュベーションの間、氷上で維持した。細胞を固定し、洗浄し、抗ヒトミュー鎖Fab’2−FITC二次抗体により、ヒトIgMを検出した。内部NFは、特徴的な分節パターンとして存在する。皮質細胞は、ポリオルニチンでコーティングしたガラス製のカバースリップ上のNeurobasal B27培地中で6日間にわたり増殖させた。全ての皮質ニューロンがNFを発現させるわけではないが、IgMは、培養物中の全てのニューロンに結合する。rHIgM12(E:緑色)およびsHIgM42(F:緑色)は、ニューロフィラメント(NF:赤色)を共発現させるマウス生存海馬ニューロンの表面に結合する。海馬ニューロンは、ポリリシンでコーティングしたプラスチック上のNeurobasal B27培地中で1週間にわたり増殖させた。ヒト側頭葉切除部から単離された細胞は、DMEM/F12/N2/B27中で21日間にわたり増殖させた。また、βIIIチューブリン陽性でもあった(F:Promega製の抗βIIIによる)、細胞表面に結合したrHIgM12(G)を示す図である。
図2図2は、ヒトIgMにより、小脳顆粒細胞の表面が異なるパターンで標識されることを示す図である。1日間にわたり培養したラット小脳顆粒細胞を、生存させたまま、氷上で15分間にわたり、培養培地中に10μg/mlのヒト血清に由来するIgM、sHIgM12またはsHIgM42と共にインキュベートした。洗浄し、4%のパラホルムアルデヒドで固定した後、細胞を、室温でFITCコンジュゲート抗ヒトミュー鎖抗体と共にインキュベートし、免疫蛍光顕微鏡を用いて画像化した。これらの2つの抗体を用いるニューロン膜の標識パターンは異なる。神経突起膜の小領域には、sHIgM12が結合する結果として、明確に点状のパターンがもたらされる。神経突起膜の大領域には、sHIgM42が結合する結果として、分節パターンがもたらされる。拡大率は、400倍とする。
図3図3は、ニューロンに結合するヒトIgM、rHIgM12、およびsHIgM42は、培養物中の皮質ニューロンを、過酸化物誘導性細胞死から保護することを示す図である。3日間にわたり培養したマウスニューロンを、500nMのHまたは10μg/mlのヒトIgMを伴うかもしくは伴わない生理食塩液で30分間にわたり処置した。細胞は、新鮮なNeurobasal B27培地で洗浄し、24時間後、カスパーゼ3の発現を、FLICAカスパーゼ3アッセイキット(Immunochemistry Technologies 935)を用いて、処置した96ウェルにおいて3連で検出した。バーは、カスパーゼ3の活性化からの保護%を示す。
図4図4は、組換え抗体を産生するための増幅用ベクターを示す図である。この図は、組換えIgM12および組換えIgM42を生成させるために改変したsHIgM22(rHIgM22)に基づき組換え抗体を生成させるのに用いられるベクターのマップである。CHO細胞で発現させるために、VH鎖のプロモーターをE1Aプロモーターで置換した。Cλ軽鎖の定常領域は、カッパ軽鎖の定常領域であるCκ領域で置換した。
図5-1】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図5-2】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図5-3】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図5-4】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図5-5】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図5-6】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図5-7】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図5-8】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図5-9】図5は、組換えベクターにおけるIgM12抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。ヒトJ鎖をアミノ酸配列および核酸配列により示す。
図6-1】図6は、組換えベクターにおけるIgM42抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。
図6-2】図6は、組換えベクターにおけるIgM42抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。
図6-3】図6は、組換えベクターにおけるIgM42抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。
図6-4】図6は、組換えベクターにおけるIgM42抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。
図6-5】図6は、組換えベクターにおけるIgM42抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。
図6-6】図6は、組換えベクターにおけるIgM42抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。
図6-7】図6は、組換えベクターにおけるIgM42抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。
図6-8】図6は、組換えベクターにおけるIgM42抗体のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。重鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列をグレーとし、Vh配列、ならびに定常領域配列であるCH1配列、CH2配列、CH3配列、およびCH4配列の各々が提示および指示される。軽鎖アミノ酸配列およびコード核酸配列を紫色とし、可変領域のVL配列および定常領域のCL(カッパ)配列の両方を示す。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDR領域の配列に言及する。
図7図7は、組換えrHIgM12が、TMEV誘導性疾患を伴うマウスにおける欠損を改善することを示す図である。夜間(マウスが通常は活動的な)1時間当たりの平均自発活動は、sHIgM12 100μgの単回腹腔内投与の3週間後までに変化する。TMEV感染の90日後におけるSJLマウス5匹の群を、rHIgM12(赤色バー)または対照のヒトIgM(黒色バー)で処置し、AccuScan活動モニタリングボックス内の群として毎週3日間にわたりモニタリングした。3夜間にわたる夜間1時間当たりの水平方向の活動の平均±SEMを、IgM処置の前の3晩にわたる夜間活動と比較した。処置前のレベルと比較した夜間活動の増大が、rHIgM12の単回投与による処置の3週間〜7週間後には見られた(P<0.01)が、対照による処置後には見られなかった。比較のために、週齢を一致させた非感染マウスの活動レベルをグラフ表示する(緑色バー)。
図8図8は、マウス脳幹で収集されたMRSスペクトルを示す図である。上パネルは、シグナルを収集したボクセルを示す図である。この対象の領域を位置特定するには、解剖学的ランドマークを用いた。ごく短時間のMRI走査を用いて、3つの直交平面による画像を得、脳幹にわたり2.5mmの立方体を位置特定する(上パネル)。マウス脳幹の300MHzによる1Hスペクトルを示す図である(下パネル)。コリン(Cho)、クレアチン(Cr)、およびN−アセチル−アスパラギン酸(NAA)のピークが容易に同定される。スペクトルは、4.7ppmの水を基準とする。
図9図9は、脳幹におけるNAAレベルの低下が、軸索喪失の増大と相関することを示す図である。10匹のSJLマウスを、TMEVによる感染の0〜270日後から前望的に研究した。MRSは、各マウスの脳幹において得、NAA濃度を決定した(上)。全てのマウスで、断面における直接的なカウンティングを介して大規模な軸索喪失が示される時点であるウイルス感染の90日後に、統計学的に有意な低下に到達するNAAの漸減が記録された(2)。NAAレベルは、疾患の持続期間にわたり、低レベルに保たれた。非感染マウスのT6レベル(黒色バー)、感染の90日後のマウスのT6レベル(グレー)、および感染の270日後のマウスのT6レベル(白色)において、軸索の絶対数をカウントした(下)。
図10図10は、ヒトIgMの単回投与後の脳幹におけるNAAを示す図である。NAAレベルが低下し始め、大規模な軸索喪失が検出可能となる時点である、TMEV感染の90日後において、SJLマウス10〜15匹の群に、100μgのsHIgM12、sHIgM42、対照のヒトIgM、または生理食塩液(PBS)の単回腹腔内投与を施した。脳幹におけるMRSを、処置前ならびに処置の5週間後および10週間後に収集した。NAAレベルは、これらのスペクトルから計算した。sHIgM12による処置群およびsHIgM42による処置群では、5週間後(P=0.005:P=0.029)および10週間後(P<0.001:P=0.037)に、NAAが処置前のレベルと比較して増大した。対照試薬で処置したマウス群は、安定または低下傾向であった。グラフは、脳幹ボクセルにおけるNAAレベルの平均±SEMを表す。
図11図11は、ニューロンに結合するヒトIgMが、脱髄、再ミエリン化、または炎症を変化させないことを示す図である。慢性TMEV感染マウス5匹の群を、ヒトIgM 100μgの単回投与で処置した。全ての群が、処置の10週間後に同程度の脊髄炎症(黒色バー)および脱髄(赤色バー)を含有する。予測される通り、希突起膠細胞結合IgMであるrHIgM22で処置したマウスが示した再ミエリン化は大きかった(緑色バー)。sHIgM12およびsHIgM42は、脊髄の再ミエリン化を促進しない。これは、軸索を保護する方法はin vivoにおいて複数存在しうることを示唆する。
図12図12は、静脈内注射後のCD−1マウスの循環におけるニューロン結合ヒトIgMの血清半減期を示す図である。サンドウィッチELISAを用いて、48時間にわたる、ヒトミュー鎖のマウス血清からの減衰を定量化した。アルカリホスファターゼ基質の(Sigma 104)OD405の平均値は、複数の平均値から得た。1群当たり3匹のマウスに由来する血清および標準誤差をグラフ表示する。
図13図13は、35S標識したrHIgM12がTMEV感染SJLマウスおよび非感染SJLマウスの脳および脊髄に入ったことを示す図である。35S標識したrHIgM12は、5カ月齢のTMEV感染SJLマウスおよび月齢を一致させた非感染SJLマウスに腹腔内投与した。4時間後、マウスの対を生理食塩液で潅流し、組織を迅速に採取し、秤量し、カミソリで細断し、10mlのシンチレーション液(Ultima Gold LSC)と混合した。同じ手順を24時間後に繰り返した。48時間後、組織を可溶化させ、Beckmanシンチレーションカウンターにより、1分間にわたりバイアルをカウントした。各マウスの脳および脊髄全体の総カウントをグラフ表示する。バイアル内に組織を伴わないバックグラウンドのカウントは、12カウントであった。
図14図14は、ニューロン結合ヒトIgMが、in vivoにおいて脊髄病変を標的とすることを示す図である。慢性TMEV誘導性脊髄脱髄を伴うマウスに、腹腔内1.0mgのsHIgM42(A)、rHIgM12(B)、または対照のヒトモノクローナルIgM(C)を施した。4時間後、マウスを4%のパラホルムアルデヒドで潅流し、脊髄を摘出し、凍結切片化し、ヒトミュー鎖を指向するFITC−コンジュゲートFab’2断片(Jackson Immnoresearch)を用いて免疫標識した。sHIgM42またはrHIgM12を施された、マウスに由来する脊髄は、病変中にヒトIgMを含有した。対照のヒトIgMは、病変中にほとんど見出されなかった。下パネルは、炎症性の細胞および病変を可視化するH/E染色を示す図である。本発明者らは、特定のヒトIgMが、TMEVモデルにおいてBBBを越えうることを結論付ける。
図15図15は、ニューロン結合ヒトIgMが、脊髄病変におけるニューロフィラメント+(NF+)の軸索に局在することを示す図である。慢性TMEV誘導性脊髄脱髄を伴うマウスに、1.0mgのIgMを腹腔内投与し、4時間後に屠殺した。脊髄を凍結させ、縦方向に切片化し、FITCコンジュゲート抗ヒトミュー鎖Fab’2断片(緑色)および抗NF(SMI−32および34:赤色)の後、TRICTコンジュゲート二次抗体で免疫標識した。共焦点顕微鏡画像を組み合わせることにより、(C)で組み合わされた、sHIgM42(A)の、長鎖のNF+線維(B)との共局在が確認される。rHIgM12(D:緑色)はまた、断面で切断された軸索の線維束などのNF+構造(D:赤色)とも共局在した。
図16図16は、rHIgM12およびsHIgM42が、EAE臨床スコアを増悪させないことを示す図である。MOGペプチド誘導性EAEを伴うC57BL6マウス10匹の群に、100μgのrHIgM12、sHIgM42、対照のヒトIgM、または生理食塩液の単回静脈内投与を、各マウスが臨床スコア1に到達した(尾の引きずり)時点で施し、免疫化の28日後まで1日おきにモニタリングした。グラフは、各処置群の平均臨床スコアの平均±SEMとする。平均臨床スコアのランクについてのANOVAは、群間で差異を示さなかった(P=0.14)。
図17図17は、rHIgM12およびsHIgM42が、EAEによる脊髄病態を増悪させないことを示す図である。図13における研究の終了時に脊髄を摘出し、1mmのブロックへと切断し、連続するブロックから3つおきに切断される断面をエリクロムで染色して、病態を可視化した。マウス1匹当たり10ずつの断面(40ずつの四半部)を盲検により評価した。群間で、炎症(P=0.825)または脱髄(P=0.766)における差異は見られなかった。
図18図18は、rHIgM12が、神経突起成長を促進することを示す図である。E15の海馬ニューロンを、ポリ−D−リシン(PDL)−ニトロセルロース(A)またはrHIgM12−ニトロセルロース(B)でコーティングしたガラス製のカバースリップ上で増殖させた。細胞を播種した12時間後、これらのニューロンを固定し、β3−チューブリン抗体(A1およびB1、緑色)およびTexas−redファロイジン(A2およびB2)で染色した。A3〜B3は、A1〜A2とB1〜B2との重合せであり、ここでは、核をDAPI(青色)で染色した。C、D、およびEは、全神経突起(C:p=0.0056)、最も長い神経突起(D:p<0.0001)、および2番目に長い神経突起(E:p=0.0782)の長さの測定値を示す。rHIgM12上で成長しつつあるニューロンは、保有する神経突起が少なく(F:p<0.0001)、大半が、対照のPDL基板上に播種されたニューロンと比較してステージ3のニューロン(G)であり(72%対18%)、複数の対称的な神経突起を有する。統計学的な解析は、平均±SEMを示す(対応のないt検定)。
図19図19は、rHIgM12が、軸索形成を駆動することを示す図である。PDL基板(A)、PDL+ラミニン基板(B)、またはrHIgM12基板(C)上に播種した12時間後における海馬ニューロンを、Tau1(A1〜C1:緑色)またはMAP2(A2〜C2:青色)で染色したことを示す図である。A3〜C3は、A1〜C1とA2〜C2とを重合せた図であり、F−アクチン(赤色)はTexas−redファロイジンで標識した。D〜Fは、A1〜C1の細胞体から成長円錐において最も長い神経突起に沿って破線で表された相対Tau1強度を示す図である。Tau1染色は、rHIgM12基板上およびラミニン基板上の両方において成長させたステージ3のニューロンにおける最も長い神経突起の遠位部分において非対称的に濃縮される。
図20図20は、rHIgM12の結合が、ニューロン膜を再組織することを示す図である。DIV3の海馬ニューロンを固定した後、rHIgM12、コレラ毒素B(CTB、Alexa Fluor 594)、およびフィリピンで三重染色した(A)。rHIgM12(A1)は、ニューロン表面を、CTBまたはフィリピンのそれぞれで標識したGM1(A2)またはコレステロール(A3)のパターンと同様のパターンで均等に標識する。しかし、37℃で30分間にわたりrHIgM12で処置した後、膜結合rHIgM12は、ニューロン表面に凝集する(B1〜C1)。rHIgM12で処置する結果として、凝集したrHIgM12(B3〜C3)と共局在するコレステロール(B2)およびGM1(C2)両方のクラスター形成がもたらされる。BおよびCの下方のパネルは、枠囲いした高拡大率の領域であり、凝集したrHIgM12(緑色)の、成長円錐領域においてクラスター形成したコレステロール(青色)またはGM1(赤色)との共局在を示す図である。
図21図21は、rHIgM12が、ニューロン膜のマイクロドメイン上のGM1と共局在することを示す図である。A:DIV1の海馬ニューロンを、まず、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、次いで、rHIgM12で染色したことを示す図である。rHIgM12により、小型の点状構造が標識される。B:DIV1の生存海馬ニューロンを30分間にわたり4℃まで冷却し、次いで、固定した後、rHIgM12で標識するのに続き、抗βIII−チューブリン抗体で染色したことを示す図である。rHIgM12により、ニューロン表面におけるはるかに大型の点状形成物が染色される。C:DIV3の生存海馬ニューロンを、37℃で30分間にわたりメチル−β−シクロデキストリンで処置してコレステロールを枯渇させ、次いで、4℃まで冷却した。次いで、固定したニューロンを、rHIgM12(緑色)およびコレラ毒素B(赤色)で染色したことを示す図である。rHIgM12は、コレラ毒素Bで標識したGM1を共局在させる大型の点に結合する。下パネルは、枠囲いした高拡大率の領域を示す図である。
図22図22は、rHIgM12が、脂質ラフトに結合することを示す図である。DIV7の生存皮質ニューロンを、rHIgM12または対照のIgM抗体に、4℃で30分間にわたり結合させた。A:抗体を結合させた後、ニューロンを3回にわたり洗浄し、0.5%のNP−40を含有する緩衝液中で溶解させたことを示す図である。溶解物は、4℃におけるマイクロ遠心分離を介して分離し、上清およびペレットの両方を、抗ヒトIgM二次抗体でブロッティングした。rHIgM12は、ニューロンには結合せずに洗い流される対照のIgM抗体と比較して、ペレットおよび上清の両方へと分配される。下パネルは、同量のタンパク質をロードされた別個のクーマシー染色ゲルを示す図である。B:1%のTriton X−100を含有する緩衝液中で溶解させたニューロンを、4℃のスクロース勾配下における超遠心分離を介して分画したことを示す図である。結果として得られる画分は、続いて、特異的抗体により、rHIgM12、カベオリン−1、トランスフェリン受容体、β3−チューブリン(B3−Tub)、およびベータ−アクチンについてブロッティングした。rHIgM12は、カベオリン−1およびβ3−チューブリンを含有する低密度画分に局在する。高密度画分は、トランスフェリン受容体、β3−チューブリン、およびアクチンを含有する。一部のrHIgM12は、主にチューブリンに富む細胞骨格タンパク質からなる、洗浄剤不溶性ペレットに局在する。大半のアクチンは、洗浄剤可溶性の高密度画分へと移行する。
図23図23は、rHIgM12が微小管と会合することを示す図である。A:DIV1の海馬ニューロンを、まず、37℃で30分間にわたりrHIgM12で処置し、次いで、4%のパラホルムアルデヒドおよび0.1%のTriton X−100を含有する緩衝液で同時に固定および抽出した後、rHIgM12(緑色)、β3−チューブリン(青色)、およびF−アクチン(赤色)について染色したことを示す図である。rHIgM12は、神経突起軸に沿った束化微小管および成長円錐の中央ドメインにおける束化微小管とは共局在する(A2および4)が、成長円錐末梢に局在するF−アクチンとは共局在しない(A3および4)、洗浄剤不溶性分子に結合する。B:DIV7の皮質ニューロンを、まず、rHIgM12に結合させ、次いで、0.5%のNP−40中で溶解させたことを示す図である。上清を共免疫沈降にかけた。rHIgM12およびβ3−チューブリンのいずれもが、互いに共免疫沈降した。
図24図24は、rHIgM12が軸索形成を促進することを提起した機構を示す図である。A:ニューロン膜が、ラフトマイクロドメインおよび非ラフトマイクロドメインの両方を含有することを示す図である。ニューロン膜に均等に分布するラフトマイクロドメインは、2つのプールへと分別される。それらのうちの1つは、微小管と会合する。B:rHIgM12の結合が、微小管の安定化およびニューロン膜へのアンカリングを促進するラフトマイクロドメインのクラスター形成を誘導することを示す図である。C:神経突起成長の間、成長円錐が環境を探査し、ラフトマイクロドメインが、rHIgM12と相互作用することによりクラスター形成することを示す図である。結果として、微小管はrHIgM12接触部位において安定化し、ニューロン膜にアンカリングし、このために、液浴で適用したrHIgM12が成長円錐の中央ドメインに凝集する図3および6において観察される通り、成長円錐の末梢ドメインから中央ドメインへの移行が増強される。
図25図25は、rHIgM12がチューブリンと直接会合しないことを示す図である。A:N2A神経芽細胞腫細胞を、rHIgM12(A1:緑色)およびβ3−チューブリン(A2:赤色)で染色したことを示す図である。核は、DAPI(A3:青色)で標識した。N2A細胞は、rHIgM12による染色については陰性であるが、β3−チューブリンは発現させる。B:N2A細胞溶解物の上清を、rHIgM12と共にインキュベートし、rHIgM12と会合する分子を、プロテインLアガロースでプルダウンし、ウェスタンブロット法にかけたことを示す図である。rHIgM12は、ペレットと会合しない。β3−チューブリンは、上清中に検出されるが、rHIgM12にはプルダウンされなかった。
図26図26は、rHIgM12が、アクチンはプルダウンするが、F−アクチンとは共局在しないことを示す図である。A:DIV1の生存海馬ニューロンを固定した後、まず、4℃で、rHIgM12(A1:緑色)により染色し、F−アクチン(A2:赤色)をTexas−redファロイジンで標識したことを示す図である。成長円錐領域では、F−アクチンが収縮し、中央ドメインで濃縮されるのに対し、rHIgM12は、成長円錐表面上の点構造を均等に染色し、これにより、成長円錐の最外縁部が標識される。B:rHIgM12により少量のアクチンがプルダウンされ、免疫沈降では3つの被験抗アクチン抗体のいずれもが作用しなかった。β3−チューブリンと同様の位置におけるバンドは、白色矢印で指し示されるIgG重鎖である。
図27図27(a)は、細胞膜が、数千個のナノ細孔(サイズを200nmとする)穿通された金薄膜上に再構成されることを示す図である。(b)懸濁させた金膜は、両面において緩衝液と接触していることを示す図である。
図28図28は、ニューロンに結合するヒト抗体が、神経突起伸長を促進することを示す図である。ニューロンをヒトIgMでコーティングした基板上に播種し、24時間にわたり成長させ、抗ニューロフィラメント抗体で免疫標識した。sHIgM42は、非許容性のヒトIgM(B)と比較して成長を誘導した(A)。
図29図29は、ニューロンに結合するヒト抗体が膜ドメインをクラスター形成させることを示す図である。細胞体および軸索における均一の免疫標識化を、0℃で実施した(A)。細胞を、15分間にわたり15℃まで温めると、sHIgM42は、軸索の細胞表面上におけるより個別の斑点へと局在する(B)。
図30図30は、in vivoにおいて、神経突起伸長を促進するヒト抗体が、損傷領域を標的とすることを示す図である。慢性SCIを伴うマウスに、腹腔内を介して抗体を施し、4時間後に脊髄を摘出し、脊髄断面においてヒトIgMを検出した。抗体を施されたマウスに由来する脊髄の損傷領域は、蛍光タグ付けした抗ヒトIgMに結合する平行線維を示す(A)。対照のヒトIgMを施されたマウスに由来する脊髄の損傷領域は、ヒトIgMを含有しない(B)。
図31図31は、脊髄挫滅損傷を示す図である。顕微鏡写真は、対照マウス(A)または8gのFejotaクリップによる圧迫の30日後におけるマウス(B)に由来するH&E染色した脊髄の典型的な外観を示す。圧迫損傷は、広範な炎症性の細胞浸潤、運動ニューロンの喪失と関連する。
図32図32は、TMEV感染マウスの夜間における自発活動の例を示す図である。(A)64日間にわたる水平方向の活動についての元の完全な記録を示す図である。夜間活動が活発で、昼間活動が不活発であることが容易に察知される。マウスは、通常夜間において活動性であるため、本発明者らは、解析のために夜間活動(午後6時〜午前6時)を選択した。しかし、水平方向の活動(B)または垂直方向の活動(C)のいずれにおいても、フィルタリングされずに圧縮された記録を目視することにより、長期にわたる実際の変化を同定することは困難でありうる。
図33図33は、ニューロン結合抗体(rHIgM12)の単回腹腔内投与が、慢性感染SJLマウスにおける水平方向の活動を改善することを示す図である。感染の90日後におけるSJLマウス5匹ずつの3つの群を、AccuScan活動モニタリングボックスに入れた。8日間にわたり、ベースラインの測定値を収集した。処置後、マウスを、8週間にわたり持続的にモニタリングした。パネルA、C、およびEは、水平方向の活動に対応し、パネルB、D、およびFは、垂直方向の活動に対応する。A、B)各日のビンとして提示される平均の夜間活動により、rHIgM12処置群だけにおいて水平方向の活動の改善が示唆されることを示す図であり、C)ガウスフィルタリング(GB=2日間)を示す図であり、E)Z値を標準化した6次の多項式フィッティングにより、rHIgM12処置マウスにおける明らかで、かつ、顕著な改善が提示されることを示す図である。B、D、およびF)垂直方向の活動は、いかなる処置によっても影響を受けなかったことを示す図である。活動(垂直方向のスケール)とは、1時間当たりのビーム遮断回数とする。パラメータであるGBとは、半高半幅のフィルター値(日単位)として解釈することができる。GB値が増大すると共に、標準偏差が減少する。各日の各点ごとに95%の信頼区間を与える。
図34図34は、予測されるモデル値を用いることによる、感染の90日後における3つの処置の比較を示す図である。処置前および処置後の各日について、統計学的な解析を実施した。rHIgM12で処置したマウスの水平方向の夜間活動は、対照のIgMおよび生理食塩液で処置したマウスと比較して、それぞれ、処置後7日目(p=0.045)および11日目(p=0.042)に有意に異なった/改善された(黒色矢印で示す)。各日の各点ごとに95%の信頼区間を与える。
図35図35は、疾患の早期に施した場合のrHIgM12が、SJLマウスにおける水平方向および垂直方向のいずれの活動も改善することを示す図である。感染の45日後におけるSJLマウス5匹ずつの3つの群を、AccuScan活動モニタリングボックスに入れた。8日間にわたり、ベースラインの測定値を収集した。処置後、マウスを、8週間にわたり持続的にモニタリングした。パネルA、C、E、およびGは、水平方向の活動に対応し、パネルB、D、F、およびHは、垂直方向の活動に対応する。A、B)水平方向および垂直方向の活動についての、元のフィルタリングされていない記録を示す図であり、C、D)各日のビンとして提示される平均の夜間活動を示す図であり、E、F)ガウスフィルタリング(GB=2日間)を示す図であり、G、H)Z値を標準化した6次の多項式フィッティングにより、rHIgM12処置群の水平方向および垂直方向のいずれの活動においても改善が明らかとなることを示す図である。対照のIgM処置群および生理食塩液処置群は、研究終了時まで同様レベルの運動活動を示した。各日の各点ごとに95%の信頼区間を与える。
図36図36は、予測されるモデル値を用いることによる、感染の45日後における3つの処置の比較を示す図である。処置前および処置後の各日について、統計学的な解析を実施した。A、C)rHIgM12で処置したマウスの水平方向の夜間活動は、対照のIgMおよび生理食塩液で処置したマウスと比較して、それぞれ、処置後13日目(p=0.015)および9日目(p=0.036)に有意に異なった。B、D)rHIgM12で処置したマウスの垂直方向の(後肢による立脚)活動は、それぞれ、処置後14日目(p=0.019)および6日目(p=0.037)に異なった/改善された。黒色矢印は、有意な改善が生じた日を示す。各日の各点ごとに95%の信頼区間を与える。
図37図37は、正常な非感染SJLマウスによる自発活動のばらつきが大きく、いかなる処置によっても影響を及ぼされないことを示す図である。非感染SJLマウス5匹ずつの3つの群を、AccuScan活動モニタリングボックスに入れた。8日間にわたり、ベースラインの測定値を収集した。処置後、マウスを、8週間にわたり持続的にモニタリングした。いずれの処置も、水平方向の活動(A、C、E、およびG)または垂直方向の活動(B、D、F、およびH)のいずれにおいても変化を誘導しなかった。各日の各点ごとに95%の信頼区間を与える。
図38図38は、ヒト抗体の単回投与により、SOD1 G86R変異体のトランスジェニックマウスにおける生存が延長されることを示す図である。55日齢のマウスを、rHIgM12またはPBSの単回投与で処置した。一部のマウスは、未処置のまま放置した。マウスは、病態に応じて、瀕死となるまで追跡し、次いで、屠殺した。一部のマウスは、病死した。全てのマウスは、死滅する前に、体重が甚だしく減少した。生存を、カプラン−マイヤー曲線を用いてプロットし、ノンパラメトリックのマンテル−コックス検定を用いて統計学的な有意性を決定した。rHIgM12で処置したマウスにおいては、PBSで処置したマウスまたは非処置マウスと比較して生存が延長された(P=0.008)。全ての解析および処置は、マウスを屠殺する決定を下す試験実施者が、処置群について知らされないように、盲検法により実施した。この解析では、45例のマウス全例について研究した。同腹仔である野生型のSOD+/+マウスは、正常に生存し、体重も減少しなかった(データは示さない)。
図39図39は、G86R SOD1マウスにおける体重の減少を、PBSを投与される対照マウスと対比した、rHIgM12 200μgの単回投与を施される50日齢のマウスにおける時間の関数として示す図である。rHIgM12を投与されたマウスは、抗体の単回注射後60日間にわたり、体重の減少が軽減された。
図40図40は、ヒト抗体の単回投与により、SOD1 G86R変異体のトランスジェニックマウスにおける脊髄軸索の変性が減少したことを示す図である。55日齢のマウスを、250μgのrHIgM12またはPBSの単回投与で処置した。一部のマウスは、未処置のまま放置した。変性軸索に特徴的なミエリン渦の数を、胸部中央レベルの脊髄においてカウントした。rHIgM12で処置したSOD1変異体マウスにおける変性軸索数は、PBSで処置したマウス(P=0.003:T検定)および非処置マウスの場合と比較して減少した。野生型のSOD−/−マウスの脊髄において変性した軸索の数は、SOD1+/+変異体マウスの場合と比較して最小限となることに注意されたい。屠殺時において、マウスをTrumpの固定剤(4%のホルムアルデヒド、0.1%のグルタルアルデヒド)で潅流し、脊髄を1mmのブロックへと切断した。ブロックをAralditeプラスチック中に包埋し、T6レベルに由来する1ミクロンの切片を、パラフェニレンジアミンで染色して、ミエリン包被を可視化した。野生型のSOD−/−(上パネル右)およびSOD1+/+変異体(下パネル右)の脊髄切片を示す。
図41図41は、ヒト抗体の単回投与により、SOD1 G86R変異体のトランスジェニックマウスの脊髄における前角ニューロンおよび後角ニューロンの両方が保存されたことを示す図である。55日齢のマウスを、rHIgM12またはPBSで処置した。一部のマウスは、未処置のまま放置した。ニューロンを特異的に標識するNeuNに対する抗体で染色した前角細胞および後角細胞の数を、胸部中央脊髄のパラフィン切片中でカウントした。rHIgM12処置マウスにおける前角細胞および後角細胞の数は、PBSで処置したマウスまたは未処置のまま放置したマウスより有意に多かった(T検定でP=0.0025およびP=0.018)。rHgM12で処置したSOD変異体マウスにおける前角細胞および後角細胞の数は、野生型のSOD−/−マウスにおいて観察される数と同様であった。
図42図42は、組換えヒト抗体であるrHIgM12が、種を超えてニューロンに結合することを示す図である。マウス皮質ニューロン(A、B、C、D)、マウス海馬ニューロン(E、F)、およびヒト皮質ニューロン(G、H)を生存させたまま、rHIgM12(A、C、E、およびG)で染色し、同じ細胞を、ニーロフィラメント(B、D)またはベータチューブリン(F、G)に対する抗体で共標識した。rHIgM12は、蛍光タグ付けした二次抗体で検出した。
【0049】
図43図43は、CD−1マウスにおける脳虚血を示す図である。A:24時間後における脳虚血領域(area)(高信号領域(hyperintense region))を示す、DWI−MRI画像走査を示す図である。B:脳虚血後のマウス脳における虚血性損傷(脳の右半球上の青白い円形の領域)を示す図である。C:損傷した組織(黒色で強調される)を4倍で示すH&E切片を示す図である。
【0050】
図44図44は、ニューロン結合抗体(rHIgM12)の単回腹腔内投与が、光血栓性脳虚血に陥ったCD1マウスの水平方向の活動(A)および垂直方向の活動(B)を改善することを示す図である。マウスは、200μgのrHIgM12(n=5)またはPBS(n=5)の単回投与により処置した。rHIgM12処置群では、3日目から活動が改善された。C:マウスは、小動物用MRIシステムで走査して、脳虚血の全容積を測定し、これを、mm単位でグラフに表したことを示す図である。
【0051】
図45図45は、MT−MRI計量により、転帰の改善が裏付けられることを示す図である。マウスを脳虚血に陥らせ、rHIgM12またはPBSで処置した。虚血性傷害の3日後、脳の虚血半球(赤色の輪郭)および対側半球(緑色の輪郭)のMTRマップ(パネルA)を算出した。rHIgM12で処置された群は、脳卒中のROI内で、PBSで処置された群と比較して、MTRの相対的増加(パネルB;青色のバーは、対照側で算出された値を表す)および脳卒中容積の減少(パネルC)を裏付けた。
【0052】
図46図46は、ポリ−D−リシン上で5日間にわたり成長させ、低酸素状態(2.7%のO、5%のCO)下で4〜44時間にわたりインキュベートした皮質ニューロン(CN)についてのウェスタンブロット解析を示す図である。4時間、21時間、および44時間にわたる低酸素処置後における切断型カスパーゼ3のレベルを対照(ブロット内の44時間、0時間のインキュベーション)と比較して示す代表的なブロットである。
【0053】
図47図47は、ミエリンマーカーであるMBPおよびアポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ(capase)3による3回の独立の実験に由来するウェスタンブロットについての定量的解析を示す棒グラフを描示する図である。混合神経膠培養物を、FBS(10%)含有培地中で4日間にわたり成長させ、既知組成培地中で、再ミエリン化促進IgMであるrHIgM22、再生性mAbであるrHIgM12、アイソタイプ対照であるsHIgM116(各々10μg/mlずつ)、または培地だけにより、7日間にわたり処置した。新鮮な抗体を含む培地で、1日おきに交換した。4日間の終了時に、ウェスタンブロットを用いて、培養物を、MBPまたはカスパーゼ3について評価し、領域1つ当たりのODにより定量化し、プロットした。
【0054】
図48図48は、多様なタンパク質およびマーカー:希突起膠細胞前駆細胞(OPC)マーカーであるPDGFαR、ミエリンマーカーであるCNPアーゼおよびMOG、小膠細胞マーカーであるCD68およびLyn、増殖マーカーであるKi−67およびヒストンH3、アポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ3、ならびに細胞周期マーカーであるpRbS795のレベルを示す代表的なウェスタンブロットを提示する図である。OPC−小膠細胞共培養物は、表示される通り、再ミエリン化促進mAbであるA2B5、O4、O1、78.09、94.03、rHIgM22、再生性mAbであるrHIgM12、アイソタイプ対照(LEAF、5A5、ChromPure IgM、rHIgM42、sHIgM14、sHIgM24、sHIgM26)(各々10μg/mlずつ)を含む星状細胞馴化培地中または培地中で培養した。
【0055】
図49図49は、活性化小膠細胞についてのマーカーであるCD68、および小膠細胞中では非常に豊富であり、OPC中では量が少なく、星状細胞では存在しないキナーゼである、Lynキナーゼによる3回の独立の実験に由来するウェスタンブロットについての定量的解析を示す棒グラフを描示する図である。図48について上記で言及し、表示した通り、混合培養物(OPC−小膠細胞共培養物)を抗体で処置した。
【0056】
図50図50は、培養の4日目のmAb処置の前、ならびにrHIgM12、rHIgM22、およびアイソタイプ対照であるsHIgM24(各々10μg/mlずつ)による処置の7日後である培養の11日目における、混合神経膠培養物中のCD68(緑色)および核マーカーであるDAPI(青色)のレベルを示す代表的な免疫蛍光画像を提示する図である。
【0057】
図51図51は、低酸素誘導因子1(HIF1α)、希突起膠細胞マーカーであるNG2、PDGFα、Olig−2、ミエリンマーカーであるMBPおよびCNPアーゼ、星状細胞マーカーであるGFAP、小膠細胞マーカーであるCD68、細胞周期マーカーであるpRbS795、ならびにアポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ3のレベルを示す代表的なウェスタンブロットを提示する図である(ベータ−アクチンを、ローディング対照として用いた)。混合神経膠培養物を、FBS(10%)含有培地中で4日間にわたり成長させ、正常酸素状態(21%のO2)と比較した低酸素(3%のO2)下の既知組成培地中で、さらに最長7日間にわたり処置した。タンパク質は、注記される通り、1、3、5、および7日目に、ウェスタンブロットにより評価した。
【0058】
図52図52は、タンパク質マーカーについての発現の定量値を低酸素状態と正常酸素状態と比較して提示する、図51のウェスタンブロットの定量的解析を描示する図である。
【0059】
図53図53は、増殖マーカーであるKi−67、小膠細胞マーカーであるIBA−1、CD68、およびiNOS、アポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ3、星状細胞マーカーであるGFAP、細胞周期マーカーであるpRbS795およびpRbS807、希突起膠細胞マーカーであるPDGFαR、NG2、Olig−1およびOlig−2、ならびにミエリンマーカーであるMBPについての代表的なウェスタンブロットを提示する図である。混合神経膠培養物を、正常酸素状態下のFBS(10%)含有培地中で4日間にわたり成長させ、その後、既知組成培地中、低酸素(3%のO2)下、ヒト再生性抗体であるrHIgM12または培地だけで、1〜7日間にわたり処置した。
【0060】
図54図54は、正常酸素状態下および低酸素状態下で成長させ、培地単独と対比したrHIgM12抗体またはrHIgM22抗体で処置した、7日目の混合培養物中の、小膠細胞マーカーであるIBA−1およびCD68、アポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ3、星状細胞マーカーであるGFAP、希突起膠細胞マーカーであるPDGFαR、NG2、Olig−2、ならびにミエリンマーカーであるMBPおよびCNPアーゼのレベルを示す代表的なウェスタンブロットを提示する図である。混合神経膠は、前出で記載した通りに培養し、低酸素状態下または正常酸素状態下の既知組成培地中、7日間にわたり、rHIgM12、rHIgM22、または培地だけで処置した。
【0061】
図55図55は、低酸素性および正常酸素性のP13におけるC57/Bl6新生仔マウスからの皮質に由来する多様なマーカーについてのRT−PCR解析を提示する図である。C57/Bl6新生仔マウスを、CD1母体マウスで交差養育し(cross−fostered)、P3〜P7の4日間にわたり低酸素(10%のO2)へと曝露した。マウスは、その後、さらに6日間にわたり室内空気へと曝露し、P13に屠殺した。いずれの処置群においても、RNAを皮質から単離し、ミエリンマーカーであるPLP1、MOG、MBP1、希突起膠細胞前駆細胞マーカーであるPDGFαRおよびOlig−1、星状細胞マーカーであるGFAP、ニューロンマーカーであるNestinおよびβ3−チューブリン、低酸素誘導因子1αおよびサルコスパンタンパク質SSPNについてプローブした。発現レベルは、RT−PCRにより解析し、結果は、β−アクチンのレベルに対して正規化した。
図56図56は、各パネルに表示されるとおり、対照(偽操作された)マウスおよび脳卒中マウス(Rose Bengalプロトコール)に由来する多様な組織における、放射性標識したrIgM12抗体の量(100μl当たりのcpmとして測定される放射能により表示される)を表示するグラフを提示する図である。脳卒中の30〜40分後、容量500ulの生理食塩液中に約60ugのIgMである、1000万cpmの35Sで標識されたrHIgM12を、各マウスへと腹腔内投与した。IgM処置の6、12、および24時間後、血液をマウスから回収し、血管系を、30mlの生理食塩液で洗浄し、組織を速やかに回収した。脳卒中組織内の放射性標識について解析するため、病変領域を含有する脳の右前頭皮質(right front cortex)を、75mgの組織ブロックとして摘出した(パネル内で「脳」と表示される)。他の組織の一部も摘出し、秤量し、処理した。CB=小脳、cord=脊髄。
【発明を実施するための形態】
【0062】
詳細な説明
本発明に従い、当技術分野内にある従来の分子生物学、微生物学、および組換えDNA
技法が用いられうる。このような技法は、文献において完全に説明されている。例えば、
Sambrookら、「Molecular Cloning: A Laborato
ry Manual」(1989年);「Current Protocols in
Molecular Biology」I〜III巻[Ausubel, R. M.編
(1994年)];「Cell Biology: A Laboratory Han
dbook」I〜III巻[J. E. Celis編(1994年))];「Curr
ent Protocols in Immunology」I〜III巻[Colig
an, J. E.編(1994年)];「Olygonucleotide Synt
hesis」(M.J. Gait編、1984年);「Nucleic Acid H
ybridization」[B.D. HamesおよびS.J. Higgins編
(1985年)];「Transcription And Translation」
[B.D. HamesおよびS.J. Higgins編(1984年)];「Ani
mal Cell Culture」[R.I. Freshney編(1986年)]
;「Immobilized Cells And Enzymes」[IRL Pre
ss(1986年)];B. Perbal、「A Practical Guide
To Molecular Cloning」(1984年)を参照されたい。
【0063】
したがって、本明細書に現れる場合、以下の用語は、下記に示される定義を有するもの
とする。
【0064】
A.用語
「特異的結合メンバー」という用語は、互いに結合特異性を有する分子対のメンバーに
ついて記載する。特異的結合対のメンバーは、天然由来の場合もあり、全体的または部分
的な合成により生成させる場合もある。分子対の1つのメンバーは、その表面上に領域を
有するか、または凹部を有するか、その表面上に、分子対の他のメンバーの特定の空間組
織および極性組織に特異的に結合し、したがってこれと相補的な構成要素を有する。した
がって、対のメンバーは、互いに特異的に結合する特性を有する。特異的結合対の種類の
例は、抗原−抗体、ビオチン−アビジン、ホルモン−ホルモン受容体、受容体−リガンド
、酵素−基質である。この適用は、抗原−抗体型の反応に関与する。
【0065】
「抗体」という用語は、天然の場合であれ、全体的または部分的な合成により生成させ
る場合であれ、免疫グロブリンについて記載する。この用語はまた、抗体結合ドメインで
あるか、またはこれと相同的な結合ドメインを有する任意のポリペプチドまたはタンパク
質も対象とする。この用語はまた、CDR移植抗体も想定する。「抗体」とは、特異的エ
ピトープに結合する抗体およびそれらの断片を含めた任意の免疫グロブリンである。この
用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、およびキメラ抗体を包含し、最後に
言及された抗体は、米国特許第4,816,397号および同第4,816,567号に
おいてさらに詳細に記載されている。「抗体(複数可)」という用語は、一般に4つの全
長ポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖、またはこれらと同等なI
g相同体(例えば、重鎖だけを含むラクダ科によるナノボディー)を含む野生型の免疫グ
ロブリン(Ig)分子を包含し、これらには、Ig分子の本質的なエピトープ結合の特徴
を保持するこれらの機能的な全長変異体、バリアント、または誘導体が含まれ、これらに
は、二重特異性(dual specific、bispecific)抗体、多重特異
性抗体、および二重可変ドメイン抗体が含まれ、免疫グロブリン分子は、任意のクラス(
例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、またはサブクラス
(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2)の分
子でありうる。「抗体」という用語の意味にはまた、任意の「抗体断片」も包含される。
【0066】
「抗体断片」とは、(i)軽鎖可変(VL)ドメイン、重鎖可変(VH)ドメイン、軽
鎖定常ドメイン(CL)、および重鎖定常1(CH1)ドメインからなる一価断片である
Fab断片;(ii)ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋により連結される2つのFa
b断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片;(iii)VHドメインおよびCH1
ドメインからなるFabの重鎖部分(Fd)断片;(iv)抗体の1本のアームのVLド
メインおよびVHドメインからなる可変領域断片(Fv断片);(v)単一の可変ドメイ
ンを含むドメイン抗体(dAb)断片(Ward、E.S.ら、Nature、341巻
、544〜546頁(1989年));(vi)ラクダ科抗体;(vii)単離された相
補性決定領域(CDR);(viii)VHドメインおよびVLドメインが、2つのドメ
インが会合して抗原結合部位を形成することを可能とするペプチドリンカーを介して連結
された単鎖Fv断片(Birdら、Science、242巻、423〜426頁、19
88年;Hustonら、PNAS USA、85巻、5879〜5883頁、1988
年);(ix)VHドメインおよびVLドメインを単一のポリペプチド鎖において発現さ
せるが、同じ鎖における2つのドメイン間の対合を可能とするには短すぎるリンカーを用
い、これにより、これらのドメインに別の鎖の相補性ドメインと対合させ、2つの抗原結
合部位を創出する、二価の二重特異性抗体であるダイアボディー(WO94/13804
;P. Holligerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA
、90巻、6444〜6448頁(1993年));ならびに(x)相補性の軽鎖ポリペ
プチドと共に抗原結合領域の対を形成するタンデムのFvセグメント(VH−CH1−V
H−CH1)の対を含む直鎖抗体;(xi)多価抗体断片(scFvの二量体、三量体、
および/または四量体(PowerおよびHudson、J Immunol. Met
hods、242巻:193〜204頁(2000年));ならびに(xii)単独また
は任意の組合せによる、重鎖および/もしくは軽鎖、またはそれらの変異体、バリアント
、もしくは誘導体の他の全長でない部分を含めた、全長でない少なくとも1つのポリペプ
チド鎖を含む分子を意味する。
【0067】
抗体は多くの方法で修飾しうるので、「抗体」という用語は、任意の特異的結合メンバ
ー、または必要とされる特異性を伴う結合ドメインを有する物質を対象とするものとして
解釈されるべきである。したがって、この用語は、天然であれ、全体的または部分的に合
成であれ、免疫グロブリンの結合ドメインを含む任意のポリペプチドを含めた抗体断片、
抗体の誘導体、機能的同等物、および相同体を対象とする。したがって、別のポリペプチ
ドに融合させた免疫グロブリンの結合ドメインまたは同等物を含むキメラ分子が包含され
る。キメラ抗体のクローニングおよび発現については、EP−A−0120694および
EP−A−0125023、ならびに米国特許第4,816,397号および同第4,8
16,567号において記載されている。
【0068】
「抗体の結合部位」とは、抗原に特異的に結合する、軽鎖または重鎖および軽鎖可変領
域および超可変領域から成る抗体分子の構造的部分である。
【0069】
本明細書で用いられるその多様な文法的形態における「抗体分子」という語句は、完全
免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫的活性部分の両方を想定する。
【0070】
例示的な抗体分子は、完全免疫グロブリン分子、実質的な完全免疫グロブリン分子、な
らびにFab部分、Fab’部分、F(ab’)部分、およびF(v)部分など、当技
術分野において公知の部分であって、本明細書で記載される治療法に用いるのに好ましい
部分を含めた、パラトープを含有する免疫グロブリン分子の部分である。
【0071】
抗体はまた、抗体の1つの結合ドメインが、本発明の特異的結合メンバーであり、他の
結合ドメインが異なる特異性、例えば、エフェクター機能などを動員する特異性を有する
二重特異性の場合もある。本発明の二重特異性抗体は、抗体の1つの結合ドメインを、そ
の断片を含めた本発明の特異的結合メンバーとし、他の結合ドメインを、異なる抗体また
は異なる抗がん特異的抗体もしくは抗腫瘍特異的抗体の断片を含めたその断片とする二重
特異性抗体を包含する。他の結合ドメインは、神経細胞特異的抗体または神経膠細胞特異
的抗体における場合の通り、特定の細胞型を認識する抗体の場合もあり、これを標的とす
る抗体の場合もある。本発明の二重特異性抗体では、本発明の抗体の1つの結合ドメイン
を、他の結合ドメイン、または特定の細胞受容体を認識する分子および/もしくは細胞を
特定の形で調節する分子、例として挙げると、免疫調節剤(例えば、インターロイキン(
複数可))、増殖調節剤、またはサイトカイン(例えば、腫瘍壊死因子(TNF)、およ
び、特に、その全体において本明細書に組み込まれる、2002年2月13日に出願され
たU.S.S.N.60/355,838において裏付けられている、TNF二重特異性
モダリティー)、または毒素(例えば、リシン)、または抗有糸分裂剤もしくは抗アポト
ーシス剤、または因子と組み合わせることができる。したがって、本発明の抗FAP抗体
を用いて、薬剤、標識、他の分子、もしくは化合物、または抗体を、間質部位、創傷治癒
、炎症、がん、または腫瘍の特定の領域へと誘導するかまたは標的化することができる。
【0072】
その多様な文法的形態における「モノクローナル抗体」という語句は、特定の抗原と免
疫反応することが可能な抗体の結合部位のうちの1つの分子種だけを有する抗体を指す。
したがって、モノクローナル抗体は典型的にそれが免疫反応する任意の抗原に対して単一
の結合アフィニティーを提示する。モノクローナル抗体はまた、抗体の複数の結合部位で
あって、各々が異なる抗原に対して免疫特異性である結合部位を有する抗体分子、例えば
、二重特異性(キメラ)モノクローナル抗体も含有しうる。
【0073】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原の一部または全部に特異的に結合するかまた
はこれと相補的な領域を含む抗体の一部について記載する。抗原が大きい場合、抗体は、
その部分をエピトープと称する、抗原の特定の一部だけに結合しうる。抗原結合ドメイン
は、1または複数の抗体可変ドメインによりもたらされる場合がある。抗原結合ドメイン
は、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)を含むことが好ましい。
【0074】
本発明において用いられる抗体、抗体分子、またはこれらの断片を、他の分子または薬
剤にコンジュゲートするかまたは結合させた、本発明のイムノコンジュゲートまたは抗体
融合タンパク質にはさらに、化学的切除剤、毒素、免疫調節剤、サイトカイン、細胞傷害
薬、化学療法剤、抗菌剤または抗菌ペプチド、細胞壁および/もしくは細胞膜破壊剤、ま
たは薬物にコンジュゲートされたこのような抗体、分子、または断片が含まれるがこれら
に限定されない。
【0075】
「特異的」という用語は、特異的結合対の1つのメンバーが、その特異的結合パートナ
ー(複数可)以外の分子にそれほどの結合を示さない状況を指すのに用いることができる
。この用語はまた、例えば、抗原結合ドメインが、多くの抗原により保有される特定のエ
ピトープに対して特異的な場合であって、抗原結合ドメインを保有する特異的結合メンバ
ーが、エピトープを保有する多様な抗原に結合することが可能な場合にも適用可能である
【0076】
「〜を含む」という用語は一般に、「〜を包含する」の意味で用いられ、すなわち、1
または複数の特徴または構成要素の存在を許容する。
【0077】
「〜から本質的になる」という用語は、大型の生成物に共有結合しない、規定数の残基
による生成物、特に、ペプチド配列を指す。しかし、上記で言及された本発明のペプチド
の場合、当業者は、例えば、C末端のアミド化などの保護基を付加する末端の化学的修飾
など、ペプチドのN末端またはC末端に対するわずかな修飾を想定しうることを十分に理
解するであろう。
【0078】
「単離された」という用語は、本発明の特異的結合メンバー、またはこのような結合メ
ンバーをコードする核酸が、本発明に従い存在する状態を指す。メンバーおよび核酸は、
それらがそれらの天然の環境、または、このような調製がin vitroまたはin
vivoにおいて実施される組換えDNA法を介する場合は、それらが調製される環境(
例えば、細胞培養物)において共に見出される他のポリペプチドまたは核酸など、それら
が天然で会合する物質を含まないかまたは実質的に含まない。メンバーおよび核酸は、希
釈剤または補助剤と共に処方することができ、なお実際的な目的では、単離することもで
きる(例えば、イムノアッセイにおいて用いられるマイクロ滴定プレートをコーティング
するのに用いる場合、メンバーは通常、ゼラチンもしくは他のキャリアと混合するか、ま
たは診断もしくは治療において用いる場合、薬学的に許容されるキャリアもしくは希釈剤
と混合する)。
【0079】
本明細書で用いられる「pg」はピコグラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し
、「ug」または「μg」はマイクログラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、
「ul」または「μl」はマイクロリットルを意味し、「ml」はミリリットルを意味し
、「l」はリットルを意味する。
【0080】
本明細書では、「抗体」、「ニューロン結合抗体」、「IgM12抗体」、「IgM4
2抗体」、「抗体12」、「抗体42」、「sHIgM12」、「sHIgM42」、「
rHIgM12」、「rHIgM42」という用語、および具体的に列挙されていない任
意のバリアントを用いる場合があり、本出願および特許請求の範囲の全体で用いられる通
り、単一または複数のタンパク質を含めたタンパク質性の物質を指し、本明細書で記載さ
れ、図5および6に示されるアミノ酸配列データを有し、それらの活性プロファイルが本
明細書および特許請求の範囲に示されるタンパク質にまで拡張される。特に、IgM12
抗体、抗体12、rHIgM12とは、特に、ポリペプチドもしくは抗体または断片、特
に、図5に示される配列を含む組換え抗体または断片を指す。IgM12抗体、抗体12
、rHIgM12とは、特に、ポリペプチドもしくは抗体または断片、特に、配列番号3
1〜33に示される重鎖可変領域のCDR配列および配列番号34〜36に示される軽鎖
可変領域のCDR配列を含む組換え抗体または断片を指す。IgM12抗体、抗体12、
rHIgM12は、配列番号1の重鎖可変領域配列および配列番号11の軽鎖可変領域配
列を有する抗体を包含する。特に、IgM42抗体、抗体42、rHIgM42とは、特
に、ポリペプチドもしくは抗体または断片、特に、図6に示される配列を含む組換え抗体
または断片を指す。IgM42抗体、抗体42、rHIgM42とは、特に、ポリペプチ
ドもしくは抗体または断片、特に、配列番号37〜39に示される重鎖可変領域のCDR
配列および配列番号40〜42に示される軽鎖可変領域のCDR配列を含む組換え抗体ま
たは断片を指す。IgM42抗体、抗体42、rHIgM42は、配列番号17の重鎖可
変領域配列および配列番号27の軽鎖可変領域配列を有する抗体を包含する。したがって
、実質的に同等な活性または変化した活性を提示するタンパク質も同様に想定される。こ
れらの改変は、例えば、部位指向変異誘発を介して得られる改変など、意図的なものの場
合もあり、宿主における変異を介して得られる、複合体またはその命名されたサブユニッ
トをもたらす改変など、偶発的なものの場合もある。「抗体」、「ニューロン結合抗体」
、「IgM12抗体」、「IgM42抗体」、「抗体12」、「抗体42」、「sHIg
M12」、「sHIgM42」、「rHIgM12」、「rHIgM42」という用語は
また、とりわけ本明細書で列挙されるタンパク質のほか、実質的に相同な類似体および対
立遺伝子変異の全てもそれらの範囲内に包含することを意図する。
【0081】
本明細書で記載されるアミノ酸残基は、「L」異性体形態とすることが好ましい。しか
し、ポリペプチドにより免疫グロブリン結合に所望される機能的特性が保持される限りに
おいて、「D」異性体形態の残基で、任意のL−アミノ酸残基を置換することができる。
NHとは、ポリペプチドのアミノ末端に存在する遊離アミノ基を指す。COOHとは、
ポリペプチドのカルボキシ末端に存在する遊離カルボキシ基を指す。標準的なポリペプチ
ドの命名法(J. Biol. Chem.、243巻:3552〜59頁(1969年
))に準拠して、アミノ酸残基の略記法を以下に示す。
【0082】
【化1】
【0083】
本明細書では、全てのアミノ酸残基の配列は、その左から右の配向が、従来のアミノ末
端からカルボキシ末端の方向にある書式により表されることに注意されたい。さらに、ア
ミノ酸残基配列の始点または終点におけるダッシュ記号が、1または複数のアミノ酸残基
によるさらなる配列へのペプチド結合を示すことにも注意されたい。上記の表は、本明細
書で代わる代わるに現れうる、3文字表記と1文字表記とを相互に関連付けるために提示
する。
【0084】
「レプリコン」とは、in vivoにおけるDNA複製の自律的な単位として機能す
る、すなわち、それ自体の制御下で複製が可能な任意の遺伝子エレメント(例えば、プラ
スミド、染色体、ウイルス)である。
【0085】
「ベクター」とは、結合させたセグメントの複製をもたらすように別のDNAセグメン
トを結合させうる、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどのレプリコンである。
【0086】
「DNA分子」とは、その一本鎖形態であれ、二本鎖螺旋であれ、デオキシリボヌクレ
オチド(アデニン、グアニン、チミン、またはシトシン)の多量体形態を指す。この用語
は、この分子の一次構造および二次構造だけを指すものであり、この分子を任意の特定の
三次形態に限定するものではない。したがって、この用語は、とりわけ、直鎖状のDNA
分子(例えば、制限断片)、ウイルス、プラスミド、および染色体において見出される二
本鎖DNAを包含する。特定の二本鎖DNA分子の構造について論じる場合、本明細書で
は、配列を、DNAの非転写鎖(すなわち、mRNAと相同的な配列を有する鎖)に沿っ
た5’から3’の方向にある配列だけを与える通常の慣例に従って記載することができる
【0087】
「複製起点」とは、DNA合成に関与するDNA配列を指す。
【0088】
DNAによる「コード配列」とは、適切な調節配列の制御下に置かれると、in vi
voにおいてポリペプチドへと転写および翻訳される二本鎖のDNA配列である。コード
配列の境界は、5’(アミノ)末端における開始コドンおよび3’(カルボキシル)末端
における翻訳終止コドンを介して決定される。コード配列には、原核生物配列、真核生物
のmRNAに由来するcDNA、真核生物(例えば、哺乳動物)のDNAに由来するゲノ
ムDNA配列、およびまた合成DNA配列が含まれうるがこれらに限定されない。ポリア
デニル化シグナルおよび転写終結配列は通常、コード配列の3’側に位置する。
【0089】
転写制御配列および翻訳制御配列とは、宿主細胞においてコード配列の発現をもたらす
、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーターなど、DNA
の調節配列である。
【0090】
「プロモーター配列」とは、細胞内のRNAポリメラーゼに結合し、下流(3’方向)
のコード配列の転写を開始することが可能なDNAの調節領域である。本発明を規定する
目的で述べると、プロモーター配列には、その3’末端に転写開始部位が結合し、バック
グラウンドを上回って検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最小限の数の塩基ま
たはエレメントを包含するように、上流(5’方向)へと伸長する。プロモーター配列内
には、転写開始部位(ヌクレアーゼS1によるマッピングを介して規定されて好都合であ
る)のほか、RNAポリメラーゼの結合の一因となるタンパク質結合ドメイン(コンセン
サス配列)も見出される。真核生物プロモーターは、「TATA」ボックスおよび「CA
T」ボックスを含有することが多いが、常に含有するわけではない。原核生物プロモータ
ーは、−10および−35のコンセンサス配列に加えて、シャイン−ダルガルノ配列を含
有する。
【0091】
「発現制御配列」とは、別のDNA配列の転写および翻訳を制御および調節するDNA
配列である。RNAポリメラーゼによりコード配列がmRNAへと転写され、次いで、こ
れが、コード配列によりコードされるタンパク質へと翻訳されるとき、コード配列は、細
胞内の転写制御配列および翻訳制御配列の「制御下」にある。
【0092】
「シグナル配列」は、コード配列の上流に包含されうる。この配列は、ポリペプチドに
対してN末端側にあり、宿主細胞にコミュニケートしてポリペプチドを細胞表面へと方向
付けるか、またはポリペプチドを培地へと分泌させる、シグナルペプチドをコードするも
のであり、このシグナルペプチドは、タンパク質が宿主細胞から放出される前に宿主細胞
により切り離される。シグナル配列は、原核生物および真核生物にそなわっている多様な
タンパク質と関連することが見出されうる。
【0093】
本発明のプローブに言及しつつ本明細書で用いられる「オリゴヌクレオチド」という用
語は、2つ以上のリボヌクレオチド、好ましくは3つを超えるリボヌクレオチドからなる
分子として定義される。その正確なサイズは、多くの因子に依存し、これらの因子は、ま
た、オリゴヌクレオチドの最終的な機能および使用に依存する。
【0094】
本明細書で用いられる「プライマー」という用語は、精製された制限消化物中などに天
然で存在する場合であれ、合成により生成させた場合であれ、核酸鎖と相補的なプライマ
ーの伸長産物の合成を誘導する条件下に置かれると、すなわち、ヌクレオチドおよびDN
Aポリメラーゼなどの誘導剤の存在下で適切な温度およびpH下に置かれると合成開始地
点として作用することが可能なオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、一本鎖の場合
もあり、二本鎖の場合もあり、誘導剤の存在下において所望の伸長産物の合成をプライミ
ングするのに十分な程度の長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、
プライマーの供給源、および用いられる方法を含めた多くの因子に依存する。例えば、診
断適用では、標的配列の複雑性に応じて、オリゴヌクレオチドプライマーは、より少数の
ヌクレオチドも含有しうるが、典型的には15〜25ヌクレオチド以上を含有する。
【0095】
本発明のプライマーは、特定の標的DNA配列の異なる鎖と「実質的に」相補的となる
ように選択される。これは、プライマーが、それらのそれぞれの鎖とハイブリダイズする
のに十分な程度に相補的でなくてはならないことを意味する。したがって、プライマー配
列が、鋳型の正確な配列を反映する必要はない。例えば、非相補的ヌクレオチド断片をプ
ライマーの5’末端に結合させ、プライマー配列の残りは鋳型鎖と相補的とすることがで
きる。代替的に、プライマー配列が、これとハイブリダイズし、これにより、伸長産物を
合成するための鋳型を形成する鎖の配列と十分な相補性を有する場合は、非相補的な塩基
または非相補的な長い配列を、プライマー内に散在させることもできる。
【0096】
本明細書で用いられる「制限エンドヌクレアーゼ」および「制限酵素」という用語は、
それらの各々が特異的ヌクレオチド配列において、またはその近傍において二本鎖DNA
を切断する細菌酵素を指す。
【0097】
このようなDNAが細胞内に導入されている場合、この細胞は、外因性DNAまたは異
種DNAにより「形質転換」されている。形質転換DNAは、細胞のゲノムを構成する染
色体のDNAへと組み込まれる(共有結合する)場合もあり、組み込まれない場合もある
。例えば、原核細胞、酵母細胞、および哺乳動物細胞では、形質転換DNAを、プラスミ
ドなどのエピソームエレメントに維持することができる。真核細胞について述べると、安
定的な形質転換細胞とは、形質転換DNAが、染色体の複製を介して娘細胞により遺伝す
るように染色体に組み込まれた細胞である。この安定性は、真核細胞が、形質転換DNA
を含有する娘細胞の集団からなる細胞系またはクローンを確立する能力により裏付けられ
る。「クローン」とは、有糸分裂を介して単一の細胞または共通の祖先から派生する細胞
集団である。「細胞系」とは、in vitroにおいて何世代にもわたり安定的に成長
することが可能な初代細胞のクローンである。
【0098】
ヌクレオチドのうちの少なくとも約75%(好ましくは少なくとも約80%、および最
も好ましくは少なくとも約90または95%)が、規定された長さのDNA配列にわたり
マッチする場合、これらの2つのDNA配列を「実質的に相同」とする。実質的に相同的
な配列は、配列データバンクにおいて入手可能な標準的なソフトウェアを用いて配列を比
較することにより同定することもでき、その特定の系について規定された、例えば、厳密
な条件下におけるサザンハイブリダイゼーション実験により同定することもできる。適切
なハイブリダイゼーション条件の規定は、当技術分野の範囲内にある。例えば、Mani
atisら、前出;「DNA Cloning」、IおよびII巻、前出;「Nucle
ic Acid Hybridization」、前出を参照されたい。
【0099】
また、本発明の特異的結合メンバー(抗体)をコードするDNA配列であって、例えば
図2もしくは10に提示されるのと同じアミノ酸配列を有する抗体、または本明細書も
しくは図10に示されるがこれらと縮重するCDRドメイン領域の配列を含む抗体をコー
ドするDNA配列も本発明の範囲内にあることを察知されたい。「〜と縮重する」とは、
異なる3文字コドンを用いて、特定のアミノ酸を指定することを意味する。当技術分野で
は、以下のコドンを互換的に用いて各特定のアミノ酸をコードさせうることが周知である
【0100】
【化2】
【0101】
上記で指定されたコドンは、RNA配列のためのコドンであることを理解されたい。対
応するDNAのためのコドンでは、UをTで置換している。
【0102】
アミノ酸、抗体断片、図5もしくは6に示されるCDR領域の配列をコードする配列、
または図5もしくは6に示される核酸配列では、特定のコドンを、異なるアミノ酸をコー
ドするコドンへと変化させるように、変異を発生させることができる。このような変異は
一般に、可能な最小のヌクレオチド変化をもたらすことにより発生させる。この種の置換
変異は、結果として得られるタンパク質におけるアミノ酸を、非保存的な形で(例えば、
コドンを、特定のサイズまたは特徴を有するアミノ酸の群分けに属するアミノ酸から、別
の群分けに属するアミノ酸へと変化させることにより)変化させるようにもたらすことも
でき、保存的な形で(例えば、コドンを、特定のサイズまたは特徴を有するアミノ酸の群
分けに属するアミノ酸から、同じ群分けに属するアミノ酸へと変化させることにより)変
化させるようにもたらすこともできる。このような保存的変化は一般に、結果として得ら
れるタンパク質の構造および機能においてもたらす変化が小さい。非保存的変化は、結果
として得られるタンパク質の構造、活性、または機能を変化させる可能性が高い。本発明
は、結果として得られるタンパク質の活性または結合特徴をそれほど変化させない保存的
変化を含有する配列を包含すると考えるべきである。
【0103】
以下は、アミノ酸の多様な群分けの一例である。
非極性R基を有するアミノ酸
アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトフ
ァン、メチオニン
帯電していない極性R基を有するアミノ酸
グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン
帯電した極性R基(Ph6.0で負に帯電している)を有するアミノ酸
アスパラギン酸、グルタミン酸
塩基性アミノ酸(pH6.0で正に帯電している)
リシン、アルギニン、ヒスチジン(pH6.0で正に帯電している)。
【0104】
別の群分けは、フェニル基を有するアミノ酸でありうる。
フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン。
【0105】
別の群分けは、分子量(すなわち、R基のサイズ)による場合もある。
【0106】
【化3】
【0107】
特に、好ましい置換は、
・正の電荷が維持されうるような、LysによるArgの置換およびこの逆の置換;
・負の電荷が維持されうるような、GluによるAspの置換およびこの逆の置換;
・遊離−OHが維持されうるような、SerによるThrの置換;および
・遊離NHが維持されうるような、GlnによるAsnの置換
である。
【0108】
例示的で好ましい保存的アミノ酸置換は、グルタミン(Q)によるグルタミン酸(E)
の置換およびこの逆の置換、ロイシン(L)によるバリン(V)の置換およびこの逆の置
換、セリン(S)によるトレオニン(T)の置換およびこの逆の置換、イソロイシン(I
)によるバリン(V)の置換およびこの逆の置換、リシン(K)によるグルタミン(Q)
の置換およびこの逆の置換、イソロイシン(I)によるメチオニン(M)の置換およびこ
の逆の置換、セリン(S)によるアスパラギン(N)の置換およびこの逆の置換、ロイシ
ン(L)によるメチオニン(M)の置換およびこの逆の置換、リシン(L)によるグルタ
ミン酸(E)の置換およびこの逆の置換、アラニン(A)によるセリン(S)の置換およ
びこの逆の置換、チロシン(Y)によるフェニルアラニン(F)の置換およびこの逆の置
換、グルタミン酸(E)によるアスパラギン酸(D)の置換およびこの逆の置換、ロイシ
ン(L)によるイソロイシン(I)の置換およびこの逆の置換、リシン(K)によるアル
ギニン(R)の置換およびこの逆の置換のうちのいずれかを包含する。
【0109】
また、特に好ましい特性を伴うアミノ酸で置換するように、アミノ酸置換を導入するこ
ともできる。例えば、Cysは、別のCysとのジスルフィド架橋のための潜在的な部位
に導入することができる。Hisは、特に「触媒」部位(すなわち、Hisは、酸または
塩基として作用することが可能であり、生化学的触媒反応において最も一般的なアミノ酸
である)として導入することができる。Proは、タンパク質構造におけるβターンを誘
導する、特に平面的なその構造のために導入することができる。
【0110】
アミノ酸残基のうちの少なくとも約70%(好ましくは少なくとも約80%、および最
も好ましくは少なくとも約90または95%)が同一であるか、または保存的置換を表す
場合、2つのアミノ酸配列を「実質的に相同」とする。1または複数のアミノ酸が、類似
のアミノ酸置換または保存的アミノ酸置換で置換されており、その1つの/複数の抗体が
、本明細書で開示されている、IgM12またはIgM42のうちの1または複数の結合
プロファイルおよび活性プロファイルを示す場合、2つの抗体のCDR領域を実質的に相
同とする。
【0111】
DNA構築物の「異種」領域とは、天然ではこの大型の分子と会合して見出されること
はない、大型のDNA分子内の同定可能なDNAセグメントである。したがって、異種領
域が哺乳動物の遺伝子をコードする場合、この遺伝子は通常、その供給源である生物のゲ
ノム内の哺乳動物ゲノムDNAには隣接しないDNAに隣接する。異種コード配列の別の
例は、天然ではコード配列自体が見出されない構築物(例えば、ゲノムのコード配列がイ
ントロンを含有するcDNA、または天然遺伝子とは異なるコドンを有する合成配列)で
ある。対立遺伝子変異または天然の変異イベントは、本明細書で定義されるDNAの異種
領域をもたらさない。
【0112】
発現制御配列によりDNA配列の転写および翻訳が制御および調節される場合、このD
NA配列は、発現制御配列に「作動可能に連結」されている。「作動可能に連結される」
という用語は、発現させるDNA配列の上流に適切な開始シグナル(例えば、ATG)を
有し、発現制御配列の制御下におけるDNA配列の発現およびDNA配列によりコードさ
れる所望の産物の生成を可能とする適正なリーディングフレームを維持することを包含す
る。組換えDNA分子へと挿入することが所望される遺伝子が、適切な開始シグナルを含
有しない場合は、このような開始シグナルを遺伝子の上流に挿入することができる。
【0113】
「標準的ハイブリダイゼーション条件」という用語は、ハイブリダイゼーションおよび
洗浄のいずれについても、5倍濃度のSSCおよび65℃と実質的に同等な塩条件および
温度条件を指す。しかし、当業者は、このような「標準的ハイブリダイゼーション条件」
が、緩衝液中のナトリウムおよびマグネシウムの濃度、ヌクレオチド配列の長さ、および
濃度、ミスマッチの百分率、ホルムアミドの百分率などを含めた特定の条件に依存するこ
とを十分に理解するであろう。「標準的ハイブリダイゼーション条件」の決定においては
また、ハイブリダイズする2つの配列が、RNA−RNAであるか、DNA−DNAであ
るか、RNA−DNAであるかも重要である。このような標準的ハイブリダイゼーション
条件は、周知の処方であって、ハイブリダイゼーションが、所望の場合、高度な厳密性の
洗浄により予測または決定されるTを、典型的には10〜20℃下回る処方に従い、当
業者により容易に決定される。
【0114】
「薬剤」という用語は、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、化合物、および低分
子を含めた任意の分子を意味する。特に、薬剤という用語は、被験化合物または薬物候補
化合物などの化合物を包含する。
【0115】
「アゴニスト」という用語は、その最も広い意味において、リガンドが結合する受容体
を刺激するリガンドを指す。
【0116】
「アッセイ」という用語は、化合物の特定の特性を測定するのに用いられる任意の方法
を意味する。「スクリーニングアッセイ」とは、化合物を特徴付けるか、または化合物を
それらの活性に基づき化合物のコレクションから選択するのに用いられる方法を意味する
【0117】
「〜を防止すること」または「防止」という用語は、疾患の発症に先立って、病原体に
曝露されている場合もあり、疾患に素因を示す場合もある被験体における、疾患または障
害に罹患するかまたはこれを発症する危険性の低減(すなわち、疾患の臨床症状のうちの
少なくとも1つを発症させないこと)を指す。
【0118】
「予防」という用語は、「防止」という用語と関連し、これに包含され、その目的を、
疾患を処置するかまたは治癒させることとするのではなくて、これを防止することとする
措置または手順を指す。予防的措置の非限定的な例には、ワクチンの投与;例えば、不動
に起因する血栓症の危険性にある入院患者への低分子量ヘパリンの投与;および、マラリ
アが風土病であるか、またはマラリアに罹患する危険性が高い地域を訪れるのに先立つ、
クロロキンなどの抗マラリア剤の投与が含まれうる。
【0119】
「治療有効量」とは、医師または他の臨床家により探索されている、被験体の生物学的
応答または医学的応答を誘発する薬物、化合物、薬剤、抗体、または医薬剤の量を意味す
る。特に、神経疾患または神経状態に関して述べると、「有効量」という用語は、疾患の
臨床的に関与性のパラメータにおいて生物学的に有意義な変化をもたらす抗体またはその
断片など、化合物または薬剤の有効量を包含することが意図される。これは、画像化する
と観察可能となるかまたは評価可能となる神経傷害または神経死滅の量の変化、運動、発
話、もしくは認知などの機能的パラメータの変化、または危険性もしくは感受性の状態下
におけるこのような変化の非存在もしくは低減を包含しうる。本明細書では、「治療有効
量」という語句を用いて、測定可能もしくは評価可能な現象、または病態の特徴、または
機能の評価における臨床的に有意な変化を、少なくとも約20パーセント、少なくとも約
30パーセント、より好ましくは少なくとも50パーセント、より好ましくは少なくとも
70パーセント、より好ましくは少なくとも80パーセント、最も好ましくは少なくとも
90パーセント改善または防止し、好ましくはこれを低減するのに十分な量を意味する。
【0120】
一実施形態では、任意の疾患、状態、傷害、または感染「を処置すること」またはこれ
らの「処置」という用語が、その疾患、状態、傷害、または感染の改善(すなわち、細胞
もしくは組織の死滅、または細胞もしくは組織に対する損傷を停止させるか、あるいはこ
れらの臨床症状のうちの少なくとも1つの徴候、程度、または重症度を軽減すること)を
指す。別の実施形態では、「〜を処置すること」または「処置」が、被験体により同定不
能な場合もある少なくとも1つの物理的パラメータの改善を指す。さらに別の実施形態で
は、「〜を処置すること」または「処置」が、疾患、状態、傷害、または感染を、物理的
に(例えば、同定可能な症状の安定化により)、生理学的に(例えば、物理的パラメータ
の安定化により)、またはこれらの両方により調節することを指す。さらなる実施形態で
は、「〜を処置すること」または「処置」が、疾患の進行を緩徐化するか、または細胞ま
たは組織に対する傷害、損傷、死滅の量を低減することに関する。
【0121】
「薬学的に許容される」という語句は、ヒトに投与した場合に、生理学的に忍容可能で
あり、典型的にはアレルギー反応または同様の有害反応、例えば胃の不調、めまいなどを
もたらさない分子的実体および組成物を指す。
【0122】
本明細書で用いられる「pg」はピコグラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し
、「ug」または「μg」はマイクログラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、
「ul」または「μl」はマイクロリットルを意味し、「ml」はミリリットルを意味し
、「l」はリットルを意味する。
【0123】
B.詳細な開示
神経保護剤は、結果としてCNS損傷をもたらす合併症を防止および処置することを目
的とする。神経保護能を伴う化合物または薬剤は、脳卒中および神経系の傷害などの急性
障害のほか、神経変性障害などの慢性疾患においても適用される。これらの状態では、神
経組織に対する損傷の根底にある機序のうちの多くが類似しており、神経保護化合物また
は神経保護剤であれば、複数の障害において用いうるであろう。疾患には、脳血管障害、
外傷性脳損傷、脊髄損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮
性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、てんかん、運動ニューロン疾患(複数可)、お
よび虚血性神経障害が含まれる。他の適用には、麻酔時および手術時における神経保護が
含まれる。フリーラジカルスカベンジャー、抗興奮毒性剤、アポトーシス(プログラム細
胞死)阻害剤、抗炎症剤、神経栄養因子、金属イオンキレート化剤、イオンチャネル調節
剤、および遺伝子治療のカテゴリーに由来する生成物を含め、多くの生成物が神経保護効
果について探索されている。NMDAアンタゴニストおよび神経伝達物質の放出を低減す
る薬剤を含め、複数の神経保護候補の生成物が、臨床試験に到達しているが、有意性を示
すことに失敗している(Clark WMら(2000年)、Stroke、31巻(6
号):1234〜9頁;Sarco RIら(2001年)、JAMA、285巻(13
号):1719〜28頁;Albers, GWら(2001年)、JAMA、286巻
(21号):2673〜82頁)。神経保護剤についての1つの難題は、薬剤の効果が、
正常細胞に対してそれほどの活性を伴わずに、これにより、望ましくない副作用、なお潜
在的には有害な副作用を伴わずに、傷害されまたは損傷した/障害されたニューロンを指
向するような特異性およびターゲティングである。ここで、本発明は、血液脳関門を越え
、傷害、障害、または損傷の領域を標的とし、正常ニューロンに対する望ましくない作用
を最小限として保護をもたらすことが可能な、特異的で忍容可能な薬剤(複数可)を提供
する。
【0124】
本発明は一般に、特異的結合メンバー、特に、ニューロンへの結合を裏付け、神経変性
状態、神経細胞死、および神経傷害を含め、ニューロンまたは神経細胞が障害された疾患
および状態の診断、モニタリング、改善、および処置において用いられる神経保護剤とし
て適用される抗体を提供する。本発明の抗体は、それらを特に神経保護および/または神
経再生において、および神経疾患および神経状態のための診断剤および治療剤において有
用とし、かつ適用可能とする、特定で固有の目覚ましい特質を有する。本明細書では、新
規の本発明の抗体、特に、組換え抗体が、血液脳関門を効果的に、かつ、改変されずに越
え、ニューロンを細胞死から保護し、CNSにおける神経病変および傷害部位を標的とす
ることが裏付けられる。抗体は、神経機能を改善し、慢性軸索傷害および脱髄の動物モデ
ルにおいて軸索を維持する。動物モデルにおいて評価される通り、抗体は、動物における
毒性が最小限であり、自己免疫状態を増悪させない。
【0125】
本発明は一般に、神経変性状態、神経細胞死、および神経細胞傷害を含めた、ニューロ
ンまたは神経細胞が障害された疾患および状態を改善および処置するための、単独の、ま
たは他の向神経活性剤もしくは代替的な向神経活性剤と組み合わせた治療剤としての適用
を伴う特異的結合メンバー、特に、ニューロンへの結合を示す抗体を提供する。本出願は
、神経疾患または神経欠損の動物モデルにおける、IgM12を含めた本発明の抗体の能
力および治療的に関与性の活性についての証拠を提示する。特に、本明細書で提示される
研究は、運動ニューロン疾患、特に、ALSの認知された動物モデルであるTMEVモデ
ルにおける能力および活性を裏付け、脊髄傷害モデルにおける研究を提示する。特に、本
出願は、脳卒中および脳血栓症または脳虚血の動物モデルにおける、IgM12を含めた
、本発明の抗体の能力および治療的に関与性の活性の証拠を提示する。本明細書で提示さ
れる研究は、脳卒中および脳虚血の認知された動物モデルにおける能力および活性を裏付
ける。このような疾患のうちのいずれかの改善もしくは処置または神経傷害の防止または
障害の例における神経の保護もしくは障害の危険性がある神経の保護に使用される組成物
が提供される。
【0126】
IgM12およびIgM42による先行研究は、CNSのニューロンに結合する血清由
来抗体が、抗体でコーティングした基板上で神経突起伸長を支持し、in vitro研
究においてCNSミエリンによる神経突起伸長の阻害を凌駕することを示した(Warr
ington Aら(2004年)、J Neuropath Exp Neurol、
63巻(5号):461〜473頁)。TMEV動物に注射されたsHIgM12につい
ての研究は、夜間における自発活動の増大を示したが、動物におけるウイルス力価は評価
しておらず、可能な抗ウイルス効果を決定することはできていない(Rodrigues
Mら(2009年)、Neurology、72巻:1269〜1276頁)。本明細
書で記載される研究は、完全ヒト組換え抗体12の配列および抗体42の配列のほか、組
換え抗体rHIgM42の配列も提示する。動物および疾患の動物モデルにおけるこれら
の血清由来抗体および組換え抗体の目覚ましい神経保護効果および治療関与性効果のほか
、それらの神経傷害部位への特異的結合/ターゲティングを裏付ける研究が今や提示され
る。特に、脳虚血および脳卒中の動物モデルを用いる研究は、脳卒中、脳虚血、および脳
もしくはCNS内の細胞における血流または脳もしくはCNS内の細胞への血流の喪失の
状態あるいはこれから生じる状態における、これらの血清由来のおよび組換え抗体、特に
、組換えIgM12、rHIgM12の治療的に関与性の効果についての裏付けを提示す
る。
【0127】
抗体および組成物
自己反応性ヒトmAbは、ヒト天然自己抗体(NatAb)に分類される(Cohen
I.R.(2007年)、J Autoimmun、29巻:246〜249頁)。N
atAbは、本発明者らのヒト免疫グロブリンレパートリーの一部であり(Cohen、
I.R.およびM. Schwartz(1999年)、Journal of neu
roimmunology、100巻:111〜114頁)、通常は体細胞変異なしに、
ヒト固有の遺伝子から天然で作製され、細胞過程を刺激するように機能する場合もあり、
細胞残屑を除去するように機能する場合もある(Lutz, HU(2007年)、J
Autoimmun、29巻:287〜294頁)。NatAbが、自己抗原に反応する
のに対し、従来の抗体は、外因性抗原に反応する。NatAbは、比較的低アフィニティ
ーであり、通常は多重反応性であり、しばしばIgMである。これらのヒトIgMの作用
機構は、同様であり、膜のマイクロドメインを介して作用すると考えられる。NatAb
は、定義により多重反応性であり、したがって、in vivoにおける特異的機能につ
いて関与性の抗原を同定することは、難題でありうる。理論に束縛されずに述べると、現
在のところ、これらのIgMは、細胞表面における膜のマイクロドメインの架橋形成分子
に結合することが理解されている。通常文脈にない分子は、まとまってシグナル伝達複合
体をなす(Rodriguez, M.、A. E. Warrington、およびL
. R. Pease(2009年)、Neurology、72巻:1269〜127
6頁)。
【0128】
したがって、抗体媒介性疾患を伴わずにmAbを高濃度で保有する個体の血清に由来す
る自己反応性ヒトモノクローナル抗体(mAb)についてスクリーニングすることにより
、治療用分子を同定した。このようなmAbを、神経系細胞の表面への結合について、抗
原について考慮せずに調べる。次いで、mAbを、疾患モデルを調節する能力について調
べる。この生物学的有効性を伴うmAbを同定する方法は、製薬業界で一般に用いられる
方法と異なる(Rodriguez, M.、A. E. Warrington、およ
びL. R. Pease(2009年)、Neurology、72巻:1269〜1
276頁)。特定のヒトIgMが再ミエリン化を促進しうることが裏付けられている(W
arrington AEら(2000年)、Proc Natl Acad Sci
U S A、97巻:6820〜6825頁)。例えば、1つのこのようなIgMは、再
ミエリン化を促進する、組換えヒトモノクローナルrHIgM22である(Mitsun
aga YBら(2002年)、Faseb J、16巻:1325〜1327頁)。抗
体rHIgM22は、希突起膠細胞およびミエリンに結合し、MSのウイルス誘導性およ
び毒素誘導性モデルにおけるCNSの再ミエリン化を促進する(Warrington
AEら(2000年)、Proc Natl Acad Sci U S A、97巻:
6820〜6825頁;Bieber AJら(2002年)、Glia、37巻:24
1〜249頁)。脊髄の再ミエリン化は、rHIgM22の単回低量投与の後に誘導され
る(Warrington AEら(2007年)、J Neurosci Res、8
5巻:967〜976頁)。
【0129】
寿命の短い(マウスにおける半減期が15時間と推定される)分子による1回の腹腔内
(i.p.)処置が、生得の自発的修復はほとんど見られないMSモデルにおいて、5週
間以内に最大限の組織修復を促進することは注目に値する。末梢への注射後、rHIgM
22は、血液脳関門(BBB)を越え、脱髄を伴うマウスの脳病変および脊髄病変内に蓄
積される。in vivoの病変では、フェリチンビーズで標識したrHIgM22が、
MRIを介して検出されている(Pirko Iら(2004年)、Faseb J、1
8巻:1577〜1579頁)。また、再ミエリン化能を伴うさらなるヒト血清IgM抗
体であるsHIgM46、およびその組換え対応物であるrHIgM46についても記載
されている。血清由来抗体であるsHIgM22およびsHIgM46、ならびにそれら
の組換え形、および再ミエリン化のための方法については、例えば、WO0185797
において記載されている。rHIgM22抗体およびこれによる方法は、例えば、米国特
許第7,473,423号および同第7,807166号で対象とされている。
【0130】
本発明は、モノクローナル抗体、および、特に、中枢神経系におけるニューロンの促進
、刺激、保護、および/または再生において活性を示す組換え抗体を含めたヒト自己抗体
を提供する。それらの断片を含めた本抗体が、中枢神経系における傷害を介する神経細胞
死を防止または低減するときの神経保護、ニューロンおよび軸索の保存および再生におい
て活性を示す。抗体は、疾患もしくは状態の処置もしくは改善、または疾患もしくは状態
、特に、神経が損傷され、傷害され、もしくは他の形で障害された疾患もしくは状態と関
連する神経細胞欠損および神経細胞死またはアポトーシスの防止または低減において適用
可能である。本発明の抗体が使用または適用される状態または疾患には、脳傷害または脳
外傷、脊髄損傷(SCI)、神経損傷、頭部傷害、脳への血液供給が低減されるかまたは
障害された状態、脳の感染性疾患、神経変性疾患を含めた、ニューロンの構造、機能、ま
たは生存の喪失が関与するかまたは関連する状況が含まれる。例示的なこのような疾患ま
たは状態には、脊髄損傷(SCI)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(M
S)、アルツハイマー病、脳卒中、パーキンソン病、ハンチントン病、出産前酸素欠乏症
/周産期虚血および/または脳性まひ、脳症、脊髄症、ならびに運動ニューロン疾患が含
まれる。
【0131】
本発明の神経調節剤または抗体は、以下の特徴のうちの1または複数を有する:それら
が、ニューロンを保護し、かつ/もしくはこれを安定化させること;それらが、CNSも
しくは神経細胞の損傷、障害、もしくは傷害における部位を標的とすること;および/ま
たはそれらが、細胞死、例えば、過酸化水素誘導性細胞死を遮断すること。本発明は、本
発明のニューロン結合モノクローナル抗体が、中枢神経系における診断目的および治療目
的のために、神経突起伸長を促進し、ニューロンを損傷から保護することが可能であるこ
とを提示する。特に、組換え抗体であって、皮質ニューロン、海馬ニューロン、小脳顆粒
細胞、および網膜神経節細胞を含めたニューロンを認識し、これらに結合することが可能
な抗体が提供される。
【0132】
本発明は、例示的な抗体(複数可)またはその断片(複数可)である抗体12および抗
体42、特に、血清由来または組換えのIgM12またはIgM42を提供する。さらな
る特定の態様では、本発明の抗体が、図5および/または図6に示されるアミノ酸配列を
含めた抗体12または42のアミノ酸配列を含む。本発明の組換え抗体であるIgM12
は、図5に示される、可変重鎖配列(配列番号1)および可変軽鎖配列(配列番号11)
を含む。本発明の組換え抗体であるIgM42は、図6に示される、可変重鎖配列(配列
番号17)および可変軽鎖配列(配列番号27)を含む。本発明の態様では、図5および
6に示される可変領域のCDR配列を含む、組換えまたは合成のニューロン結合抗体が提
供される。抗体12は、図5に示される、重鎖CDR配列CDR1 GGSVSLYY(
配列番号31)、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32)、およびCDR3 A
RSASIRGWFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QSISS
Y(配列番号34)、CDR2 AAS(配列番号35)、およびCDR3 QQSYH
TPW(配列番号36)を含む。抗体42は、図6に示される、重鎖CDR配列CDR1
GFTFSTYA(配列番号37)、CDR2 INVGGVTT(配列番号38)、
およびCDR3 VRRSGPDRNSSPADF(配列番号39)、ならびに軽鎖CD
R配列CDR1 QGIG(配列番号40)、CDR2 TTS(配列番号41)、およ
びCDR3 QKYNSAPRT(配列番号42)を含む。
【0133】
ニューロン、特に、ヒトニューロンを認識することが可能な、Fab断片を含めた組換
え抗体もしくはそれらの断片のパネル、またはファージディスプレイライブラリーを、多
様な特性、すなわち、アフィニティー、アイソタイプ、エピトープ、安定性などについて
スクリーニングすることができる。例示的な抗体であるIgM12およびIgM42の活
性を模倣し、ニューロンに結合し、ニューロンを例えば、過酸化物媒介性細胞死などの細
胞死または細胞傷害から保護する能力を有する抗体が特に対象である。このような抗体は
、特異的結合アッセイおよび活性アッセイにおいて、容易に同定および/またはスクリー
ニングすることができる。本抗体である、IgM12および/またはIgM42の抗原結
合領域または重鎖CDR領域および/もしくは軽鎖CDR領域を含む組換え抗体を生成さ
せ、活性についてスクリーニングすることができる。
【0134】
一般に、図5および6のCDR領域として実質的に示されるアミノ酸配列を含むCDR
領域は、CDR領域のニューロンの表面への結合、またはニューロンの表面における結合
、および、特に、哺乳動物のニューロン、特に、ヒト、サル、ヒヒ、ラット、および/ま
たはマウスのニューロンへの結合を可能とする構造において保有される。「〜として実質
的に示される」とは、本発明の可変領域配列、および/または、特に、CDR配列が、図
5および6の指定した領域と同一であるか、またはこれらと相同性が高いことを意味する
。「相同性が高い」とは、可変領域配列および/またはCDR配列において少数カ所の置
換、好ましくは1〜8カ所、好ましくは1〜5カ所、好ましくは1〜4カ所、または1〜
3カ所、または1もしくは2カ所の置換だけを施しうることを想定する。「〜として実質
的に示される」という用語は、特に、本抗体の特異性および/または活性に実質的なまた
は重大な影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換を包含する。
【0135】
CDR以外の可変領域配列では、CDR配列を保持するような置換を施すことができる
。したがって、CDR配列は維持し、可変領域配列の残りは置換しうるように、可変領域
配列の変化、または代替的な、非相同的であるかもしくはベニア化された可変領域配列を
導入することもでき、これらを用いることもできる。代替的に、置換は、特に、CDRに
おいて施すこともできる。本発明の抗体のCDR配列は、図5および6を含め、本明細書
において示され、記載されている。抗体12は、図5に示される、重鎖CDR配列CDR
1 GGSVSLYY(配列番号31)、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32
)、およびCDR3 ARSASIRGWFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配
列CDR1 QSISSY(配列番号34)、CDR2 AAS(配列番号35)、およ
びCDR3 QQSYHTPW(配列番号36)を含む。抗体42は、図6に示される、
重鎖CDR配列CDR1 GFTFSTYA(配列番号37)、CDR2 INVGGV
TT(配列番号38)、およびCDR3 VRRSGPDRNSSPADF(配列番号3
9)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QGIG(配列番号40)、CDR2 TTS
(配列番号41)、およびCDR3 QKYNSAPRT(配列番号42)を含む。上に
記載し想定した置換を有する本発明の抗体は、抗体IgM12および抗体IgM42を含
め、本明細書および特許請求の範囲で示される特徴を有する例示的な抗体と同等の活性お
よび特異性を維持するように選択される。
【0136】
本発明のCDRを保有する構造は一般に、抗体の重鎖配列もしくは軽鎖配列またはその
実質的な部分の構造であって、CDR領域が、再構成された免疫グロブリン遺伝子により
コードされる天然抗体のVH可変ドメインおよびVL可変ドメインのCDR領域に対応す
る位置に配置される構造である。免疫グロブリン可変ドメインの構造および位置は、Ka
bat, E.A.ら、「Sequences of Proteins of Imm
unological Interest」、4版、US Department of
Health and Human Services、1987年、および、現在は
インターネット(immuno.bme.nwu.edu)で入手できるその改定版を参
照することにより決定することができる。可変ドメインは、任意の生殖細胞系列または再
構成されたヒト可変ドメインに由来する場合もあり、公知のヒト可変ドメインのコンセン
サス配列に基づく合成可変ドメインの場合もある。前出の段落で定義した、本発明のCD
Rに由来する配列は、組換えDNA法を用いて、CDR領域を欠く可変ドメインレパート
リーへと導入することができる。
【0137】
例えば、Marksら(Bio/Technology、1992年、10巻:779
〜783頁)は、抗体可変ドメインのレパートリーを生成させる方法であって、可変ドメ
イン領域の5’端を指向するかまたはこれに隣接するコンセンサスプライマーを、ヒトV
H遺伝子の第3のフレームワーク領域に対するコンセンサスプライマーと共に用いて、1
つ/複数のCDRを欠くVH可変ドメインのレパートリーをもたらす方法について記載し
ている。Marksらは、どのようにすればこのレパートリーを、特定の抗体のCDRと
組み合わせうるかについてもさらに記載している。次いで、適切な特異的結合メンバーを
選択しうるように、レパートリーを、WO92/01047のファージディスプレイシス
テムなど、適切な宿主系において提示することができる。レパートリーは、約10を超
える個別のメンバー、例えば、10〜10または1010のメンバーからなる。また
、Stemmer(Nature、1994年、370巻:389〜391頁)により、
類似のシャフリング法またはコンビナトリアル法も開示されているが、Stemmerは
、β−ラクタマーゼ遺伝子との関連でこれらの技法について記載し、これらの手法を、抗
体を生成させるのに用いうることに気付いている。
【0138】
さらなる代替法は、例えば、可変ドメイン全体の内で変異を発生させる、抗体のVH遺
伝子またはVL遺伝子に対するランダム変異誘発を用いて、本発明のCDRに由来する配
列を保有する新規のVH領域またはVL領域を生成させる。このような技法については、
エラープローンPCRを用いたGramら(1992年、Proc. Natl. Ac
ad. Sci. USA、89巻:3576〜3580頁)により記載されている。用
いうる別の方法は、変異誘発をVH遺伝子またはVL遺伝子のCDR領域へと方向付ける
方法である。このような技法は、Barbasら(1994年、Proc. Natl.
Acad. Sci. USA、91巻:3809〜3813頁)およびSchier
ら(1996年、J. Mol. Biol.、263巻:551〜567頁)により開
示されている。当技術分野では、上記に記載した技法の全てがそれ自体として公知である
。当業者は、このような技法を、当技術分野において日常的な方法を用いて本発明の特異
的結合メンバーをもたらすのに用いことが可能であろう。
【0139】
免疫グロブリンの可変ドメインのうちの実質的な部分は、それらに介在するフレームワ
ーク領域と併せて、少なくとも3つのCDR領域を含む。この部分はまた、第1のフレー
ムワーク領域および第4のフレームワーク領域のいずれかまたは両方のうちの少なくとも
約50%も包含し、この50%は、第1のフレームワーク領域のうちのC末端側の50%
および第4のフレームワーク領域のうちのN末端側の50%とすることが好ましい。可変
ドメインの実質的部分のN末端またはC末端の端におけるさらなる残基は、天然の可変ド
メイン領域と通常は関連しない残基でありうる。例えば、組換えDNA法により作製され
る本発明の特異的結合メンバーの構築は、クローニングまたは他の操作ステップを容易と
するために導入されるリンカーによりコードされるN末端残基またはC末端残基の導入を
結果としてもたらしうる。他の操作ステップには、本発明の可変ドメインを、免疫グロブ
リン重鎖、他の可変ドメイン(例えば、ダイアボディーを生成させる場合)、または本明
細書で示されるタンパク質標識および/もしくは当業者に公知のタンパク質標識を含めた
さらなるタンパク質配列へと接合するリンカーの導入が含まれる。
【0140】
本発明の好ましい態様では、図5および/または6に実質的に示される配列に基づく結
合ドメインの対を含む組換え抗体が好ましいが、これらの配列のうちのいずれかに基づく
単一の結合ドメインも、本発明のさらなる態様を形成する。図5および/または6に実質
的に示される配列に基づく結合ドメインの場合は、免疫グロブリンのVHドメインは、標
的抗原に特異的な形で結合することが可能なことが公知であるので、このような結合ドメ
インを、CNSにおけるニューロン、特に、神経損傷または傷害部位を標的とする薬剤と
して用いることができる。
【0141】
本発明の特異的結合メンバーは、抗体の定常領域またはそれらの一部をさらに含みうる
。例えば、図5および6のVH配列およびVL配列に基づく組換え抗体は、それらのC末
端の端において、図5または6に示されるそれぞれの定常ドメインと異なるか、またはこ
れらに由来するバリアントである定常ドメインを含め、ヒトCκ鎖またはヒトCλ鎖、好
ましくは、Cλ鎖を含めた抗体の軽鎖定常ドメインに結合させることができる。同様に、
図5または6の配列に基づく組換え抗体は、それらのC末端の端において、任意の抗体ア
イソタイプ、例えば、IgG、IgA、IgE、IgD、およびIgM、ならびにアイソ
タイプのサブクラスのうちのいずれか、特に、IgG1、IgG2b、およびIgG4に
由来する免疫グロブリン重鎖の全部または一部に結合させ、次いで、これらを調べて同等
および/または適切な活性および能力を確認または決定することもできる。IgMが好ま
しい。
【0142】
抗体またはそれらの任意の断片は、任意の細胞毒素、細菌毒素、または他の毒素、例え
ば、緑膿菌外毒素、リシン、もしくはジフテリア毒素とコンジュゲートすることもでき、
これらと組換えにより融合させることもできる。用いられる毒素の一部は、毒素の全体の
場合もあり、毒素の任意の特定のドメインの場合もある。このような抗体−毒素分子は、
異なる種類のがんの標的化および治療に用いられて成功している(例えば、Pastan
、Biochem Biophys Acta.、1997年10月24日;1333巻
(2号):C1〜6頁;Kreitmanら、N Engl J Med.、2001年
7月26日;345巻(4号):241〜7頁;Schnellら、Leukemia.
、2000年1月;14巻(1号):129〜35頁;Ghetieら、Mol Bio
technol.、2001年7月;18巻(3号):251〜68頁を参照されたい)
。二重特異性および三重特異性の多量体は、異なるscFv分子を会合させることにより
形成することができ、T細胞を腫瘍へと動員するための架橋形成試薬(免疫療法)、ウイ
ルスの再標的化(遺伝子治療)、および赤血球凝集試薬(免疫診断剤)としてデザインさ
れている(例えば、Todorovskaら、J Immunol Methods.、
2001年2月1日;248巻(1〜2号):47〜66頁;Tomlinsonら、M
ethods Enzymol.、2000年;326巻:461〜79頁;McCal
lら、J Immunol.、2001年5月15日;166巻(10号):6112〜
7頁を参照されたい)。
【0143】
本発明の抗体は、検出可能な標識または機能的な標識で標識することができる。検出可
能な標識には、抗体画像化の技術分野において公知の従来の化学反応を用いて本発明の抗
体に結合させうる同位体である、H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、
57Co、58Co、59Fe、90Y、121I、124I、125I、131I、
11In、117Lu、211At、198Au、67Cu、225Ac、213Bi、
99Tc、および186Reなどの放射性標識が含まれるがこれらに限定されない。標識
にはまた、蛍光標識(例えば、フルオレセイン、ローダミン、Texas Red)およ
び当技術分野においてMRI−CTによる画像化のために従来用いられている標識も含ま
れる。これらにはまた、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−グルコロニダーゼ、β−ガラ
クトシダーゼ、ウレアーゼなどの酵素標識も含まれる。標識にはさらに、検出可能な特異
的同族部分、例えば、標識したアビジンへの結合を介して検出されうるビオチンなどの化
学的部分も含まれる。機能的標識には、障害部位、損傷または傷害部位を標的とし、神経
組織の破壊に対して保護をもたらすようにデザインされた物質が含まれる。このような機
能的標識には、5−フルオロウラシルまたはリシンなどの細胞傷害薬、および細菌性カル
ボキシペプチダーゼまたはニトロレダクターゼなど、プロドラッグを上記部位において活
性薬物へと転換することが可能な酵素が含まれる。本発明のイムノコンジュゲートまたは
抗体融合タンパク質であって、他の分子または薬剤にコンジュゲートするかまたは結合さ
せた抗体およびそれらの断片に、化学的切除剤、毒素、免疫調節剤、サイトカイン、細胞
傷害薬、化学療法剤または化学療法薬にコンジュゲートした結合メンバーがさらに含まれ
るがこれらに限定されないイムノコンジュゲートまたは抗体融合タンパク質が想定される
。放射性標識を用いる場合、公知の現在利用可能なカウンティング手順を用いて、特異的
結合メンバーを同定および定量化することができる。標識を酵素とする場合には、現在用
いられている、当技術分野において公知の比色法、分光法、蛍光分光法、電流測定法、ま
たはガス定量法のうちのいずれかを介して検出を達成することができる。
【0144】
当業者は、結果として神経細胞の傷害または損傷を含めたCNS損傷をもたらす合併症
、または神経変性状態のin vivoにおける動物モデルを用いて、本発明の抗体、も
しくはそれらの断片、それらのバリアント、またはこれらの組合せ、または他のCNS反
応性抗体との組合せを、さらにまたは加えてスクリーニング、評価、および/または検証
することもできる。このような動物モデルには、神経細胞の損傷、障害、変化、死滅、傷
害、または変性と関連する状態または疾患のモデルが含まれるがこれらに限定されない。
モデルには、脳卒中、脳傷害、虚血、MS、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキ
ンソン病、認知症、脳炎、髄膜炎、ALS、または運動ニューロン疾患のモデル、または
これらの側面を模倣するモデルが含まれる。ヒヒ、サル、またはマカクザルなど、霊長動
物における中脳動脈の閉塞を用いる脳卒中モデルは、当技術分野において公知であり、適
切でありうる(Young Aら(1997年)、Stroke、28巻:1471〜1
476頁;delZoppo GJら(1986年)、Stroke、17巻:1254
〜1265頁;MarshallおよびRidley(1996年)、Neurodeg
eneration、5巻:275〜286頁)。TMEVなどのMSモデルも公知であ
り、本明細書でも記載されて用いられる。ALSおよび運動ニューロン疾患についてのS
ODマウスモデルも公知であり、本明細書でも記載されて用いられる(Gurney M
Eら(1994年)、Science、264巻:1772〜1775頁)。
【0145】
脳卒中および治療法
本明細書で提示される実施例および研究は、本明細書で提示され、記載され、想定され
る抗体の有効性および適用を、脳卒中、虚血、および脳またはニューロン細胞に対する低
酸素の例のモデルにおいて裏付ける。したがって、特定の態様では、本発明は、脳卒中、
脳虚血、脳卒中が疑われるかもしくは推測される状態、一過性脳虚血発作(TIA)もし
くは軽度脳卒中に関する介入、または脳卒中もしくは脳虚血性イベントもしくは脳におけ
る低酸素性イベントの危険性が高い個体における抗体の使用に関する。
【0146】
脳卒中に由来する最悪の損傷は通常、最初の数時間以内に生じるので、脳卒中であるか
または脳卒中が疑われる場合は、迅速な処置が重要である。より迅速な処置の結果として
、初期損傷および永続的損傷または長期損傷は軽度となる。処置は、血餅(虚血性)に起
因する虚血性脳卒中において血流の回復がなされているのかどうか、または出血性脳卒中
で出血のコントロールがなされているのかどうかという、脳卒中の性質または原因に依存
する。CTスキャンおよびMRIを用いて、脳卒中の種類または程度を評価または診断す
る。急性虚血性脳卒中の最新の処置は、特に、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA
)によるIV血栓溶解療法、ならびに動脈内血栓溶解療法および血餅回収デバイスの使用
を含めた血管内療法を含む。しかし、tPAは治療域が限定されており、脳卒中発症から
3時間以内に投与することが典型的である。脳虚血後に損傷したニューロンの保護は、永
続的な身体障害を抑制するのに有望な戦略である。炎症反応を調節する治療は、神経保護
特性を有しうるが、ニューロンに直接作用してそれらを保護する薬物は、現在のところ極
めて少数である。
【0147】
危険性の高い患者、特に、一過性脳虚血発作(TIA)または軽度脳卒中をかつて有し
たことがある患者における脳卒中を防止する一助となりうる多数の医薬が入手可能である
。これらの薬物は、2つの主要な類型:抗凝固剤および抗血小板剤に分かれる。抗凝固剤
の例は、ヘパリン、Coumadin、ワルファリン、キシメラガトラン、およびExa
ntaを含む。これらの薬物は、深部静脈血栓症および肺塞栓症の例における血餅形成を
含めた血餅形成を防止する一助となるように血液を低粘稠化することにより働き、心房細
動のある患者における脳卒中を防止する一助となるのに極めて有効である。抗血小板剤は
、アスピリン、Persantine、ジピリダモール、Plavix、およびクロピド
グレルを含む。これらの薬剤は、血小板の凝集を防止または低減し、これにより、血餅ま
たは血餅形成を低減し、TIAまたは既往の虚血性脳卒中を有したことのある患者におけ
る脳卒中の危険性を低減しうる。米国では、血栓溶解療法の利用可能性にもかかわらず、
脳卒中は依然として、3番目に多い死因であり、成人の身体障害の最も一般的な原因であ
る。研究者および医師は、脳卒中患者におけるより良好な機能回復を達成する方途を調査
し続けている。神経保護剤は、強い関心を生み出しており、脳を、脳卒中の損傷作用を受
けにくくする潜在性を有する。
【0148】
脳卒中の程度および影響を評価する(assessing)および評価する(eval
uating)にあたり、臨床医および医療従事者は、患者の能力および機能の多様な側
面を精査し、考慮する。脳卒中または血餅および虚血の領域を同定および位置特定する画
像化法に加えて、脳卒中評価(assessment)スケールおよび機能評価(ass
essment)スケールを用いて、患者を評価(evaluated)する。多数のス
ケールが許容されるかまたは用いられており、臨床医および当業者に認知され、公知であ
る。機能評価スケールは、例えば、Berg Balance Scale、Lawto
n Instrumental Activities of Daily Livin
g(IADL)Scale、Rankin Scaleまたは改変Rankin Sca
le、およびNIH Stroke Scale(NIHHS)を含む。これらのスケー
ルは、上肢および下肢の運動機能、四肢の失調、感覚機能、言語、構音、注意、凝視およ
び視覚機能、腕部、手掌部、および脚部の力および運動を含めた、複数または多数の多様
なパラメータを評価および決定する。可能なまたは候補の薬剤の処置を評価し、処置また
は薬剤を比較するために、患者を、脳卒中または虚血性イベントの直後、イベント後、処
置の前および後における1または複数のスケールにより評価することができ、数日間、数
週間、数カ月間、数年間を含めた期間にわたり、1または複数のスケールにより評価する
ことができる。
【0149】
本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換え抗体は、哺乳動物
、特に、確立されているか、疑われるか、または可能な脳卒中または脳虚血の例における
神経保護の方法であって、上記哺乳動物に有効量の本発明の抗体、それらの断片、および
組換え抗体を投与するステップを含む方法など、ヒトまたは動物の身体を処置、防止、ま
たは診断する方法において用いることができる。本発明によるCDRドメイン領域の配列
を含む組換え抗体またはそれらの断片は、このような方法において用いることができる。
本発明の薬剤、特に、組換え抗体またはそれらの断片は、神経傷害、神経損傷または神経
障害、および結果としてCNS損傷をもたらすことが可能であるか、もたらす可能性があ
るかまたは実際にもたらす合併症を防止、処置、または改善するための方法における神経
保護剤としての使用を含めて用いることができる。本発明の方法は、脳傷害または脳外傷
、脊髄損傷(SCI)、神経傷害、頭部傷害、脳への血液供給または酸素が低減されるか
または障害された状態を含め、ニューロンの構造、機能、または生存の喪失が関与するか
または関連する場合に適用可能である。本発明の方法に従い処置、防止、または改善する
ための例示的なこのような疾患または状態には、脳卒中、TIA、脳虚血、出生前酸素欠
乏症/周産期虚血および/または脳性まひが含まれる。
【0150】
本発明の薬剤、特に、組換え抗体またはそれらの断片は、脳卒中または脳虚血を防止、
処置、または改善するための方法における薬剤として用いることができる。本発明は、脳
卒中または脳虚血を処置または改善する方法であって、本発明の抗体、特に、組換え抗体
、特に、図5に示される、重鎖CDR配列CDR1 GGSVSLYY(配列番号31)
、CDR2 GYIYSSGST(配列番号32)、およびCDR3 ARSASIRG
WFD(配列番号33)、ならびに軽鎖CDR配列CDR1 QSISSY(配列番号3
4)、CDR2 AAS(配列番号35)、およびCDR3 QQSYHTPW(配列番
号36)を含む抗体またはその断片を含めた、抗体IgM12または組換えIgM12を
投与するステップを含む方法を提供する。
【0151】
本発明は、神経が損なわれているか、傷つけられているか、もしくは損傷している哺乳
動物における疾患もしくは状態、または神経もしくはニューロンが障害、傷害もしくは損
傷に感受性であるかもしくはこの危険性がある状況を処置または改善する方法であって、
IgM12およびIgM42から選択される組換え抗体もしくは完全ヒト抗体またはその
断片を投与するステップを含む方法を提供する。本発明の方法は、抗体IgM12および
抗体IgM42の組合せを含めた、複数の抗体または断片の投与を含みうる。さらなるこ
のような方法では、抗体IgM12および/または抗体IgM42のうちの1または複数
を、特に、抗体rHIgM22および/またはrHIgM46のうちの1または複数を含
めた、別のCNS作用抗体と組み合わせる(combined)ことができる。抗体の組
合せは、まとめて投与することもでき、逐次的に投与することもでき、多様な回数および
多様な量または濃度で投与することができる。したがって、抗体12および/または抗体
42は、抗体22および/または抗体46と組み合わせて、併用投与を介して投与するこ
ともでき、数時間、数日間、または数週間を含めた短時間または長期間隔てて逐次的に投
与することもできる。神経変性を伴う疾患または状態、および、特に、脱髄を含めた疾患
または状態を処置または改善するために、抗体12および/または抗体42は、特に、抗
体22および/または抗体46(sHIgM22、rHIgM22、sHIgM46、ま
たはrHIgM46)と組み合わせて、併用投与を介して投与することもでき、逐次的に
投与することもできる。このような一方法では、特に多発性硬化症(MS)を含めた脱髄
性疾患または脱髄性状態を処置または改善するために、抗体12および/または抗体42
を、抗体22および/または抗体46と組み合わせて、併用投与を介して、または逐次的
に投与する。抗体IgM22の可変重鎖および軽鎖配列は、それぞれ、配列番号43およ
び配列番号44に示される。抗体IgM46の可変重鎖および軽鎖配列は、それぞれ、配
列番号45および配列番号46に示される。抗体IgM12および/または抗体IgM4
2のうちの1または複数は、(a)CDR1配列であるSSGMH、CDR2配列である
V(I)ISYDGSRKYYADSVKG、およびCDR3配列であるGVTGSPT
LDYを含む重鎖可変領域のCDR、ならびにCDR1配列であるSGSSSNIGNN
FVS、CDR2配列であるDITKRPS、およびCDR3配列であるG(E)TWD
SSLSAVVを含む軽鎖可変領域のCDR;または(b)CDR1配列であるSGFT
FSSYW、CDR2配列であるIKKDGSEK、およびCDR3配列であるARPN
CGGDCYLPWYFDを含む重鎖可変領域のCDR、ならびにCDR1配列であるQ
SVLYSSNNKNY、CDR2配列であるYWAS、およびCDR3配列であるQQ
YYNTPQAを含む軽鎖可変領域のCDRを含む1または複数の再ミエリン化抗体と組
み合わせることができる。
【0152】
本発明の方法は、単独であるか、または血栓溶解薬剤、抗血小板剤、血圧調節剤、血圧
降下剤、抗炎症剤、興奮性アミノ酸もしくはそれらの受容体を変化させる薬剤、細胞内カ
ルシウム調節剤、チャネル調節剤、フリーラジカルスカベンジャーのうちの1もしくは複
数を含めた、脳卒中もしくは虚血のための薬剤の投与と組み合わせるか、これらの投与と
組をなすか、もしくはこれらの投与に後続する、本発明の抗体の投与を含みうる。特定の
態様では、抗体またはそれらの活性断片、特に、抗体IgM12および/またはIgM4
2は、血栓溶解薬剤および/または抗血小板剤と共に投与する。ある態様では、抗体は、
TPAなど、血栓溶解薬剤と共に投与することもでき、この後で投与することもできる。
【0153】
共に投与することは、ほぼ同時、直後、数分間後、最長1時間後、数時間後、1日後を
含みうる。特に、抗体IgM12もしくはIgM42としての単独の、または組合せによ
る、もしくは他の薬剤とともに抗体(複数可)の投与は、脳卒中が確認されたもしくは脳
卒中が疑われたまたは脳虚血性イベントが確認されたもしくは脳虚血性イベントが疑われ
た後の、TPAまたは血栓溶解薬剤を投与するための3時間、4時間、5時間、6時間、
最長で9時間の治療域内の場合もあり、これらの治療域後の場合もある。抗体(複数可)
は、単回投与で投与することもでき、複数回投与で投与することもできる。例を目的とす
るものであり、限定を目的とするものではなく述べると、抗体(複数可)は、脳卒中が確
認されたもしくは脳卒中が疑われたまたは脳虚血性イベントが確認されたもしくは脳虚血
性イベントが疑われた後の、3時間以内に、3時間、最長で4時間、最長で5時間、最長
で6時間、最長で8時間、最長で12時間、最長で24時間、最長で1日間、最長で2日
間、最長で3日間、最長で数日間、最長で1週間、またはそれより長い期間後に投与する
ことができる。抗体(複数可)は、例を目的とするものであり、限定を目的とするもので
はなく述べると、脳卒中が確認されたもしくは脳卒中が疑われたまたは脳虚血性イベント
が確認されたもしくは脳虚血性イベントが疑われた後の、3〜6時間以内に初回投与した
後、初回投与または任意の後続の投与の最長で1日間、2日間、3日間、4日間、5日間
、6日間、1週間、1週間超、2週間、2週間超、またはそれより後において、1回また
は複数回のさらなる抗体(複数可)の投与を行うことができる。投薬は、患者の応答また
は機能に基づき調節することができる。例えば、患者は、抗体の初回投与の前もしくは後
、その前および後、またはその後において、例えば、NIHSSなどの脳卒中スケールを
用いて評価することができ、このようなスケールまたは患者に対する他の神経学的評価も
しくは運動評価に基づき、抗体の投与を改変することもでき、持続することもでき、変化
させることもできる。本発明および本方法の特定の態様では、抗体(複数可)は、特に、
抗体の非投与、TPAもしくは他の薬剤単独の投与と比較した場合、または代替的抗体も
しくは神経保護剤を含めた代替的薬剤と対比した場合の脳卒中スケールの尺度または他の
神経学的スケールもしくは機能的なスケールを改善するのに有効である。
【0154】
したがって、本明細書の動物脳卒中モデルで裏付けられる通り、本発明の抗体(複数可
)を投与される動物は、機能的活動の改善を裏付ける。本発明の抗体(複数可)は、脳卒
中または脳虚血の後におけるその投与により、水平方向の運動機能の改善を含めた運動活
動を改善するのに有効である。虚血性傷害または脳卒中の後において、臨床的欠損と関連
する身体障害は、ニューロンの機能不全に主に起因する。機能的な回復の欠如は、再生お
よび神経可塑性の制約に部分的に帰せられる(Walmsley, A.R.およびMi
r, A.K.(2007年)、Current Pharmaceutical De
sign、13巻:2470〜2484頁)。脳卒中は、身体の一方の側における1もし
くは複数の肢を動かすことができないことなど、運動機能の変化、発話を理解することが
できないかもしくは発話を行うことができないことなどの認知的影響、または視野の一方
の側を見ることができないことなどの視覚的影響を含めた他の欠損を結果としてもたらし
うる。本発明およびその方法の態様では、本発明の抗体(複数可)は、脳卒中に関連する
神経欠損を防止または逆転するのに有効である。したがって、本発明の抗体(複数可)は
、脳卒中または脳虚血の例における1または複数の神経学的症状または神経欠損を改善し
うる。本発明の抗体(複数可)は、特に、脳卒中の場合または例における、CNS内の神
経学的影響または神経学的損傷を和らげるのに有効である。抗体(複数可)は、神経学的
損傷またはニューロン細胞死を軽減する方法において有用であり、脳卒中または脳虚血の
場合に、ニューロンを保存または保護するのに有効である。
【0155】
本発明の態様では、本発明による可変領域配列を含む抗体、それらの断片、および組換
え抗体を、特に、脳卒中もしくは脳虚血性イベントの間、脳卒中もしくは脳虚血性イベン
トの後、または脳卒中もしくは脳虚血性イベントの発生時における、神経が障害され、傷
害されもしくは損傷した例、または神経もしくはニューロンが障害、傷害もしくは損傷を
受け易いかもしくはこの危険性がある状況における神経機能または運動機能を改善または
安定化させるための方法において用いることもでき、このための組成物により投与するこ
ともできる。特定の態様では、歩行などの運動または想起もしくは認識などの認知機能を
含めた、またはこれらから選択される神経機能または運動機能の改善または安定化を促進
するかまたは維持するように、抗体またはそれらの断片を、脳卒中もしくは脳卒中が疑わ
れるなどの疾患、外傷、もしくは状態の早期もしくは初期において用いるかもしくは投与
するか、または脳卒中後に繰り返されるなどの疾患、外傷、もしくは状態の経過もしくは
持続時間にわたり反復使用する。
【0156】
本発明の抗体は、処置を必要とする患者に、腹腔内注射、血流もしくはCSF中への注
射、または傷害部位または障害部位への直接の注射を含めた、任意の適切な経路を介して
投与することができる。例示的な本発明の抗体の特定の利点は、それらがBBBを越え、
したがって、腹腔内投与であっても、CNSを標的としうることである。正確な用量は、
抗体が診断用であるのか処置用であるのか、傷害のサイズまたは程度および位置、抗体の
正確な性質(全抗体であるのか、断片であるのか、ダイアボディーであるのかなど)、お
よび抗体に結合させた任意の検出可能な標識または機能的標識の性質を含めた多くの因子
に依存する。放射性核種を治療に用いる場合、適切な単回の最大線量は、約45mCi/
、〜約250mCi/mの最大量とすることができる。好ましい照射線量は、15
〜40mCiの範囲とし、さらに好ましい照射線量範囲は、20〜30mCiまたは10
〜30mCiとする。このような治療は、骨髄置換または幹細胞置換を必要とする場合が
ある。臨床的に承認されるネイキッド抗体は一般に、mg単位の量で投与し、成体用量を
、投与1回当たり20〜2000mgのタンパク質、投与1回当たり20〜1500mg
のタンパク質、または投与1回当たり20〜1000mgのタンパク質、または投与1回
当たり20〜500mgのタンパク質、または投与1回当たり20〜100mgのタンパ
ク質とする。臨床的に承認される注射用モノクローナル抗体は、mg単位の量で投与し、
投与1回当たり3〜5mg/kg、5〜10mg/kg、投与1回当たり300〜400
mg、投与1回当たり300〜500mgとする(Newsome BWおよびErns
toff MS(2008年)、Br J Clin Pharmacol、66巻(1
号):6〜19頁;herceptin.net、tysabri.net、avast
in.net、remicade.com)。再ミエリン化抗体IgM22は、μgの範
囲の比較的著明な低用量で有効であり、抗体の単回投与によっても、BBBを越え、CN
Sにおいて活性となることが可能であると示されていることが注意される(WO2004
/110355;Warrington AEら(2007年)、J Neurosci
Res、85巻(5号):967〜976頁)。組換えIgM12抗体は、動物モデル
においてμgの範囲での単回腹腔内投与されると、治療的に関与性の活性を示すことが本
明細書で示されている。したがって、本発明の抗体の投与は、単回投与で適用可能かつ有
効な場合もあり、複数回投与および/または定期的投与で適用可能かつ有効な場合もあり
、投与1回当たりμgまたは投与1回当たりμg/kgの範囲で適用可能かつ有効な場合
もあり、投与1回当たりmg単位の低量(投与1回当たり100μg〜1mg、1mg未
満、1mg〜5mg、1mg〜10mg、5mg〜15mg、10mg〜20mg)で適
用可能かつ有効な場合もある。成体患者に対する単回処置のための用量を、小児および乳
児のために比例調整することができ、また、他の抗体フォーマットのために、例えば、分
子量に比例して調整することもできる。処置は、医師の裁量下、毎日、毎週2回、毎週、
または毎月の間隔で反復することができる。例示的な抗体の1つの利点は、それらがBB
Bを越えて、損傷または傷害部位を標的とし、したがって、適切な効果を達成するために
、低用量および潜在的に少ない投与回数の使用を容易とすることである。
【0157】
医薬組成物および治療用組成物
本発明の抗体または断片は通常、本発明の抗体(複数可)または断片に加えて少なくと
も1つの成分を含みうる、医薬組成物の形態で投与する。したがって、本発明による医薬
組成物および本発明に従って用いられる医薬組成物は、有効成分に加えて、当業者には周
知である、薬学的に許容される賦形剤、キャリア、緩衝剤、安定化剤、または他の物質も
含みうる。このような物質は、非毒性であるべきであり、有効成分の有効性に干渉するべ
きではない。キャリアまたは他の物質の正確な性質は、経口経路の場合もあり、注射、例
えば、静脈内注射を介する場合もあり、腫瘍部位における沈積を介する場合もある、投与
経路に依存する。
【0158】
経口投与用の医薬組成物は、錠剤形態の場合もあり、カプセル形態の場合もあり、粉末
形態の場合もあり、液体形態の場合もある。錠剤は、ゼラチンまたは補助剤など、固体の
キャリアを含みうる。液体の医薬組成物は一般に、水、石油、動物油もしくは植物油、鉱
物油、または合成油など、液体のキャリアを含む。生理食塩液、デキストロース、あるい
は他の糖溶液、または、エチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチ
レングリコールなどのグリコールが含まれうる。静脈内注射または罹患部位における注射
では、有効成分が、発熱物質を含まず、pH、等張性、および安定性が適切な、非経口的
に許容される水溶液の形態でありうる。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リン
ゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液などの等張性ビヒクルを用いて、適切な溶液を調製す
ることが十分に可能である。防腐剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、および/または他の
添加剤も、必要に応じて包含されうる。
【0159】
組成物は、単独で投与することもでき、他の処置、治療剤、または薬剤と組み合わせて
、処置される状態に応じて同時的または逐次的に投与することもできる。本明細書で記載
される1または複数の組換え抗体またはその断片の組合せを含む組成物が想定される。加
えて、本発明は、本明細書で記載される抗体またはその断片、および向神経活性剤もしく
は神経治療剤、抗炎症剤、神経伝達物質放出調節剤、神経受容体のリガンドもしくはアゴ
ニストもしくはアンタゴニスト、カルシウムチャネル剤、免疫調節剤、または他のCNS
反応性抗体など、他の薬剤または治療剤を含む組成物も想定し、包含する。本明細書で記
載される1または複数の組換え抗体またはその断片の組合せを含む組成物が想定される。
他の処置または治療剤には、適切な用量の非ステロイド系抗炎症薬(例えば、アスピリン
、パラセタモール、イブプロフェン、またはケトプロフェン)などの鎮痛薬、またはモル
ヒネなどのアヘン剤、または制吐剤の投与が含まれうる。加えて、組成物は、免疫反応お
よびがん細胞または腫瘍の軽減または消失を刺激する、インターロイキン、腫瘍壊死因子
(TNF)、または他の増殖因子、コロニー刺激因子、サイトカイン、またはデキサメタ
ゾンなどのホルモンなどの免疫調節剤と共に投与することもできる。組成物はまた、特に
、rHIgM22および/またはrHIgM46を含めた再ミエリン化抗体を含めた他の
CNS反応性抗体と共に投与することもでき、これらとの組合せを包含する場合もある。
【0160】
本発明はさらに、本発明の治療法を実施するのに有用な治療用組成物も想定する。対象
の治療用組成物は、混合剤中に、薬学的に許容される賦形剤(キャリア)、および有効成
分としての、本明細書で記載される抗体、そのポリペプチド類似体またはその断片のうち
の1または複数を包含する。好ましい実施形態では、組成物が、本結合メンバー/抗体の
標的細胞との特異的結合を調節することが可能な抗原を含む。当技術分野では、抗体、ポ
リペプチド、または活性断片を有効成分として含有する治療用組成物または医薬組成物の
調製について十分に理解されている。典型的には、このような組成物を溶液または懸濁液
としての注射剤として調製する。しかしまた、注射前に液体中に溶解するのに適するか、
または注射前に液体中に懸濁するのに適する固体形態を、調製することもできる。調製物
はまた、乳化させることもできる。治療的有効成分は、薬学的に許容され、この有効成分
と適合性である賦形剤と混合させることが多い。適切な賦形剤は、例えば、水、生理食塩
液、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびこれらの組合せである。加
えて、所望の場合、組成物は、有効成分の有効性を増強する保湿剤または乳化剤、pH緩
衝剤など、微量の補助物質も含有しうる。抗体または活性断片は、薬学的に許容される中
和された塩形態としての治療用組成物へと処方することができる。薬学的に許容される塩
には、酸添加塩(ポリペプチドまたは抗体分子の遊離アミノ基により形成される)が含ま
れ、これらは、例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石
酸、マンデル酸などの有機酸で形成される。また、遊離カルボキシル基から形成される塩
も、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄な
どの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノ
ール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基に由来しうる。
【0161】
治療的抗体または活性断片を含有する組成物は従来、例えば、単位用量の注射を介して
腹腔内投与または静脈内投与されている。本発明の治療用組成物に言及して用いられる場
合の「単位用量」という用語は、各単位が、必要とされる希釈剤、すなわち、キャリアま
たはビヒクルとの関連で、所望の治療的効果をもたらすように計算した所定量の活性物質
を含有する、ヒト用の単位投与量として適切な物理的に個別の単位を指す。
【0162】
組成物は、投与処方と適合的な形で、かつ、治療有効量で投与する。投与される量は、
処置される被験体、被験体の系が有効成分を用いる能力、および所望のニューロン結合能
の程度または神経傷害の程度に依存する。投与するために必要とされる有効成分の正確な
量は医師の判断に依存し、各個体に特有である。初回投与および追加投与に適する投与計
画もまた可変的であり、初回投与の後に、その後の注射または他の投与を介して1もしく
は複数時間、1もしくは複数日間、1もしくは複数週間、または1もしくは複数カ月間の
間隔で反復される投与を包含しうる。代替的に、血液、CNS、または所望の治療部位に
おいて適切かつ十分な濃度を維持するのに十分な持続的注入または持続的投与も想定され
る。
【0163】
投与時期は、規格による教示、患者または被験体の臨床パラメータ、状態または疾患の
状況または重症度、または神経傷害、合併症または障害の程度もしくは性質に基づき、当
業者または医師が変化させ、決定することができる。したがって、神経機能の改善、また
は、例えば、死滅もしくは障害からのニューロン保護の増強は、神経損傷または神経障害
の程度を最小化するように、疾患が発症または臨床的に顕在化した早期に投与することに
より増強することもできる。ある態様では、神経障害または神経損傷による疾患の進行を
最小化または緩和するように、投与時期を、神経機能の評価、状態の決定、および/また
は他の臨床評価と協調させる。
【0164】
診断アッセイ
本発明はまた、神経細胞の損傷、傷害または障害を検出または決定する方法を含めた多
様な診断的適用にも関する。本発明の抗体および断片を用いて、in vitroまたは
in vivoにおけるニューロンを評価し、定量化し、標的化し、かつ/または画像化
することができる。それらの断片を含めた本抗体、ならびに特異的結合メンバー、抗体お
よび/またはそれらのサブユニットの生成または活性を調節する薬物は、特定の診断適用
を保有することが可能であり、例えば、ニューロンの障害、変性、傷害、損傷、または死
滅を伴う状態または疾患を検出し、かつ/または測定する目的に用いることができる。そ
れらの断片を含めた本抗体は、ある種の診断的適用を保有し、例えば、外傷性脳傷害を含
めた脳卒中または脳傷害を含めた脳虚血を伴う状態または疾患を検出および/または測定
する目的で用いることができる。放射性標識した抗体およびそれらの断片を含め、標識し
た抗体およびそれらの断片は、in vitroの診断法およびin vivoの放射性
画像化法、ならびに放射性免疫治療において有用である。in vivoにおける画像化
の例では、本発明の抗体または断片を、例として挙げると、抗体分子にキレート化基を介
して多数の常磁性イオンをロードした磁気共鳴画像増強剤が含まれるがこれらに限定され
ない、放射性同位体(複数可)以外の造影剤にコンジュゲートすることができる。キレー
ト化基の例には、EDTA、ポルフィリン、ポリアミン、クラウンエーテル、およびポリ
オキシムが含まれる。常磁性イオンの例には、ガドリニウム、鉄、マンガン、レニウム、
ユーロピウム、ランタニウム、ホルミウム、およびフェルビウムが含まれる。本発明のさ
らなる態様では、放射性標識した抗体およびそれらの断片、特に、ラジオイムノコンジュ
ゲートが、特に、細胞療法のための放射性標識した抗体として、放射性免疫治療において
有用である。なおさらなる態様では、放射性標識した特異的結合メンバー、特に、抗体お
よびそれらの断片が、放射免疫ガイド下手術法において有用であり、この場合、これらに
より、障害されもしくは損傷したニューロンもしくは神経傷害部位の存在および/または
位置を、手術中、または手術後に同定および指示して、このような細胞を標的とするかま
たは除去することもでき、これらの特定の部位に細胞を移植または投与することもできる
【0165】
放射性免疫治療(RAIT)は、診療所に導入され、多様な抗体イムノコンジュゲート
を用いて有効性を裏付けている。131Iで標識したヒト化抗がん胎児性抗原(抗CEA
)抗体hMN−14が結腸直腸がんにおいて評価されており(Behr TMら(200
2年)、Cancer、94巻(増刊4号):1373〜81頁)、90Y標識を伴う同
じ抗体が甲状腺髄様がんにおいて評価されている(Stein Rら(2002年)、C
ancer、94巻(1号):51〜61頁)。また、非ホジキンリンパ腫および膵臓が
んのためのモノクローナル抗体を用いる放射性免疫治療も評価および報告されている(G
oldenberg DM(2001年)、Crit Rev Oncol Hemat
ol、39巻(1〜2号):195〜201頁;Gold DVら(2001年)、Cr
it Rev Oncol Hematol、39巻(1〜2号):147〜54頁)。
また、特定の抗体による放射性免疫療法も、米国特許第6,306,393号および同第
6,331,175号において記載されている。また、抗CEA抗体および腫瘍関連抗原
を指向する抗体を用いることを含めた放射免疫ガイド下手術(RIGS)も診療所に導入
され、有効性および有用性を裏付けている(Kim JCら(2002年)、Int J
Cancer、97巻(4号):542〜7頁;Schneebaum Sら(200
1年)、World J Surg、25巻(12号):1495〜8頁;Avital
Sら(2000年)、Cancer、89巻(8号):1692〜8頁;McInto
sh DGら(1997年)、Cancer Biother Radiopharm、
12巻(4号):287〜94頁)。
【0166】
放射性標識した抗体およびそれらの断片は、in vitroの診断法およびin v
ivoの放射性画像化法において有用である。抗体およびそれらの断片、特に、ラジオイ
ムノコンジュゲートは、放射性免疫治療において、特に、神経傷害の修復、神経変性の回
復、がん、またはCNS腫瘍の治療のための放射性標識した抗体として、または代替的に
、特定の症例において損傷した神経組織もしくはニューロンを切除するための放射性標識
した抗体として有用である。in vivoの態様では、抗体またはそのニューロン結合
断片を標識し、神経傷害を位置特定するかまたは損傷しまたは傷害された残りの神経組織
を評価するための、定位固定法または侵襲性が最小限の技法を含めた手術もしくは外科法
の前、手術もしくは外科法の間、または手術もしくは外科法の後に動物に投与する。この
ような一態様では、放射性標識した特異的結合メンバー、特に、抗体およびそれらの断片
が、放射免疫ガイド下手術法において有用であり、この場合、これらにより、障害され、
損傷され、傷害され、または死滅する神経細胞もしくはニューロンまたは神経組織の存在
および/または位置を、手術前、手術中、または手術後に同定および指示して、このよう
な細胞を標的とするか、同定するか、または除去することもできる。
【0167】
本発明の抗体およびそれらの断片の診断的適用は、当業者に周知で標準的であり、本記
載に基づく、in vitroおよびin vivoにおける適用を包含する。in v
itroにおいてニューロンまたは神経組織を評価(assessmentおよびeva
luation)するための診断アッセイおよびキットを用いて、神経細胞が障害され、
損傷しまたは傷害された神経状態または神経疾患を有するかまたはこれらを有することが
疑われることが公知の患者試料を含めた患者試料を診断、評価、およびモニタリングする
こともでき、患者または被験体に由来する試料における場合を含め、細胞死もしくは細胞
損傷の程度またはCNS腫瘍もしくはがんの程度を決定することもできる。神経学的疾患
状態の評価(assessmentおよびevaluation)はまた、患者の、薬物
についての臨床試験に対する適性、または、これらの組合せを含めた、特定の神経治療剤
もしくは化学療法剤もしくは本発明の抗体の投与に対する、異なる薬剤もしくは抗体の投
与に対する適性と対比した適性を決定するのにも有用である。
【0168】
本発明は、例として挙げると、ニューロンの損傷、障害、もしくは傷害の存在の程度に
ついての定量的解析のための試験キット、または試料中のニューロンを定量化するための
試験キットの形態で調製しうるアッセイ系を包含する。系または試験キットは、本明細書
で論じられる放射法および/または酵素法のうちの1つを介して調製される標識された成
分と、標識の、抗体、および、場合によって、それらのうちの少なくとも1つを遊離成分
(複数可)もしくは固定化成分(複数可)とする1または複数のさらなる免疫化学試薬、
またはそれらの結合パートナー(複数可)への連結とを含みうる。
【0169】
本発明のさらなる実施形態では、上記に基づき、試料中のニューロンの状態を決定する
ために医療従事者が用いるのに適する市販の試験キットを調製することもできる。上記で
論じた試験法に従い、このようなキットのうちの1つのクラスは、少なくとも標識した抗
体またはその結合パートナー、例として挙げると、標識した抗体に特異的な抗体、および
選択される方法、例えば、「競合」法、「サンドウィッチ」法、および「DASP」法な
どに当然ながら依存する指示書を含有する。キットはまた、緩衝剤、安定化剤などの周縁
的試薬も含有しうる。
【0170】
したがって、ニューロンの状態の存在を裏付けるか、またはその状態を決定するための
試験キットであって、(a)本抗体もしくは断片またはこれに対する特異的結合パートナ
ーの、検出可能な標識への直接的または間接的な結合により得られる、所定量の、少なく
とも1つの標識した免疫化学反応性の成分と、
(b)他の試薬と、
(c)前記キットの使用についての指示書と
を含むキットを調製することができる。
【0171】
神経細胞の傷害、損傷または障害の存在を裏付けるための試験キットであって、
(a)本抗体またはこれに対する特異的結合パートナーの、検出可能な標識への直接的ま
たは間接的な結合により得られる、所定量の、少なくとも1つの標識した免疫化学反応性
の成分と、
(b)他の試薬と、
(c)前記キットの使用についての指示書と
を含むキットを調製することができる。
【0172】
核酸
本発明はさらに、本発明の抗体、特に、組換え抗体、特に、完全ヒト抗体をコードする
単離核酸を提供する。核酸は、DNAおよびRNAを包含する。好ましい態様では、本発
明が、図5もしくは6に示されるポリペプチドを含め、上記で規定した本発明のポリペプ
チドをコードする核酸、またはそのCDR領域をコードすることが可能な核酸を提供する
【0173】
本発明はまた、少なくとも1つの上記のポリヌクレオチドを含むプラスミド、ベクター
、転写カセット、または発現カセットの形態である構築物も提供する。本発明はまた、1
または複数の上記の構築物を含む組換え宿主細胞も提供する。提供される任意の抗体また
は断片をコードする核酸は、特異的結合メンバーを生成させる方法であって、それをコー
ドする核酸からの発現を含む方法と同様に本発明の態様をなす。発現は、その核酸を含有
する組換え宿主細胞を適切な条件下で培養することにより達成することができて簡便であ
る。発現を介する生成の後、特異的結合メンバーは、任意の適切な技法を用いて単離およ
び/または精製し、次いで、必要に応じて用いることができる。
【0174】
本発明による抗体およびコード核酸分子およびベクターは、例えば、それらの天然の環
境から、実質的に純粋または均一の形態で単離および/または精製して提供することもで
き、核酸の場合は、必要とされる機能を伴うポリペプチドをコードする配列以外に由来す
る核酸または遺伝子を含まないかまたは実質的に含まない形で提供することもできる。本
発明による核酸は、DNAを含む場合もありRNAを含む場合もあり、完全に合成の場合
もあり、部分的に合成の場合もある。
【0175】
異なる多様な宿主細胞においてポリペプチドをクローニングし、発現させるための系は
周知である。適切な宿主細胞には、細菌、哺乳動物細胞、酵母、およびバキュロウイルス
系が含まれる。異種のポリペプチドを発現させるために当技術分野において利用可能な哺
乳動物の細胞系には、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスタ
ー腎臓細胞、がん細胞、卵巣がん細胞、および他の多くの細胞が含まれる。一般的な、好
ましい細菌宿主は、E.coliである。当技術分野では、E.coliなどの原核細胞
における抗体および抗体断片の発現が十分に確立されている。プロモーター配列、ターミ
ネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列を含めた適切な調節配列、マーカ
ー遺伝子、および他の配列を必要に応じて含有する適切なベクターを、選択または構築す
ることができる。ベクターは、必要に応じて、プラスミドベクターの場合もあり、ウイル
スベクター、例えば、ファージベクターまたはファージミドベクターの場合もある。さら
なる詳細については、例えば、「Molecular Cloning: a Labo
ratory Manual」、2版、Sambrookら、1989年、Cold S
pring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。例えば
、核酸構築物の調製、変異誘発、配列決定、細胞へのDNAの導入、および遺伝子の発現
、ならびにタンパク質の解析において核酸を操作するための多くの公知の技法およびプロ
トコールについては、「Short Protocols in Molecular
Biology」、2版、Ausubelら編、John Wiley & Sons、
1992年において詳細に記載されている。SambrookらおよびAusubelら
による開示は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0176】
したがって、本発明のさらなる態様は、本明細書で開示される核酸を含有する宿主細胞
を提供する。なおさらなる態様は、このような核酸を宿主細胞へと導入するステップを含
む方法を提供する。導入するステップには、任意の利用可能な技法を用いることができる
。真核細胞の場合、適切な技法には、リン酸カルシウムによるトランスフェクション、D
EAE−デキストラン法、電気穿孔、リポソームを介するトランスフェクション、および
レトロウイルスまたは他のウイルス、例えば、ワクシニアウイルス、もしくは、昆虫細胞
では、バキュロウイルスを用いる形質導入が含まれうる。細菌細胞の場合、適切な技法に
は、塩化カルシウムによる形質転換、電気穿孔、およびバクテリオファージを用いるトラ
ンスフェクションが含まれうる。導入の後、例えば、遺伝子を発現させるための条件下で
宿主細胞を培養することにより、核酸から発現させ、または発現を可能にしうる。本発明
はまた、上記の特異的結合メンバーまたはポリペプチドを発現させるための発現系におい
て、上記で言及した構築物を用いることを含む方法も提供する。
【0177】
本発明の別の特徴は、本明細書で開示されているDNA配列の発現である。当技術分野
において周知の通り、DNA配列は、それらを適切な発現ベクター内の発現制御配列へと
作動的に連結し、この発現ベクターを用いて適切な単細胞宿主を形質転換することにより
発現させることができる。本発明のDNA配列を発現させるのに、多種多様な宿主/発現
ベクターの組合せを用いることができる。有用な発現ベクターは、例えば、染色体のDN
A配列、染色体以外のDNA配列、および合成DNA配列のセグメントからなることが可
能である。適切なベクターには、SV40の派生体および公知の細菌プラスミド、例えば
、E.coliのプラスミドであるcol El、pCR1、pBR322、pMB9、
およびこれらの派生体、RP4などのプラスミド;ファージDNA、例えば、ファージλ
の多くの派生体、例えば、NM989、および他のファージDNA、例えば、M13およ
び線状の一本鎖ファージDNA;2uプラスミドまたはその派生体などの酵母プラスミド
;昆虫細胞または哺乳動物細胞において有用なベクターなど、真核細胞において有用なベ
クター;ファージDNAまたは他の発現制御配列を用いるように改変されたプラスミドな
ど、プラスミドとファージDNAとの組合せに由来するベクターなどが含まれる。これら
のベクターにおいて、多種多様な発現制御配列(それに作動可能に連結されたDNA配列
の発現を制御する配列)のうちのいずれかを用いて、本発明のDNA配列を発現させるこ
とができる。このような有用な発現制御配列には、例えば、SV40、CMV、ワクシニ
アウイルス、ポリオーマウイルスまたはアデノウイルスの初期プロモーターまたは後期プ
ロモーター、lac系、trp系、TAC系、TRC系、LTR系、ファージλの主要な
オペレーター領域およびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、3−ホス
ホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖酵素のプロモーター、酸性ホスファターゼのプロ
モーター(例えば、Pho5)、酵母接合因子のプロモーター、および原核細胞もしくは
真核細胞またはそれらのウイルスの遺伝子の発現を制御することが公知である他の配列、
ならびにこれらの多様な組合せが含まれる。
【0178】
また、多種多様な単細胞の宿主細胞も、本発明のDNA配列を発現させるのに有用であ
る。これらの宿主は、E.coli、Pseudomonas属、Bacillus属、
Streptomyces属の株、酵母などの真菌、ならびにCHO細胞、YB/20細
胞、NSO細胞、SP2/0細胞、RI.1細胞、B−W細胞、およびL−M細胞、アフ
リカミドリザル腎臓細胞(例えば、COS 1細胞、COS 7細胞、BSC1細胞、B
SC40細胞、およびBMT10細胞)などの動物細胞、昆虫細胞(例えば、Sf9細胞
)、およびヒト細胞、および組織培養物中の植物細胞など、周知の真核生物宿主、および
原核生物宿主を包含しうる。
【0179】
全てのベクター、発現制御配列、および宿主が、本発明のDNA配列を発現させるのに
同等に良好に機能するわけではないことが理解されるであろう。また、全ての宿主が、同
じ発現系により同等に良好に機能するわけでもない。しかし、当業者は、本発明の範囲か
ら逸脱することなしに所望の発現を達成するのに必要以上の実験を行わずに、適正なベク
ター、発現制御配列、および宿主を選択することが可能であろう。発現制御配列の選択で
は、通常多様な因子を考慮する。これらには、例えば、系の相対強度、その制御可能性、
および発現させる特定のDNA配列または遺伝子との、特に、潜在的な二次構造に関する
その適合性が含まれる。適切な単細胞宿主は、例えば、それらの選択したベクターとの適
合性、それらの分泌特徴、それらがタンパク質を適正にフォールドする能力、およびそれ
らの発酵要件のほか、発現させるDNA配列によりコードされる産物の宿主に対する毒性
、および発現産物を精製する容易さを考慮することにより、選択される。これらの因子お
よび他の因子を考慮すると、当業者は、本発明のDNA配列を、発酵により、または大ス
ケールの動物培養により発現させる、多様なベクター/発現制御配列/宿主の組合せを構
築することが可能である。
【0180】
抗体またはその断片をコードするDNA配列は、クローニングではなく合成により調製
することができる。DNA配列は、特異的結合メンバーのアミノ酸配列に適切なコドンに
よりデザインすることができる。一般に、配列を発現のために用いる場合は、意図される
宿主に好ましいコドンを選択する。完全な配列は、標準的な方法を介して調製され、完全
なコード配列へと組み立てられる、重複するオリゴヌクレオチドから組み立てる。例えば
、Edge、Nature、292巻:756頁(1981年);Nambairら、S
cience、223巻:1299頁(1984年);Jayら、J. Biol. C
hem.、259巻:6311頁(1984年)を参照されたい。合成DNA配列により
、特異的結合メンバーの類似体または「変異タンパク質」を発現させる遺伝子の簡便な構
築が可能となる。代替的に、天然の特異的結合メンバー遺伝子またはcDNAに対する部
位指向変異誘発を介して変異タンパク質をコードするDNAを作製することもできるが、
変異タンパク質は、従来のポリペプチド合成を用いて直接作製することができる。
【0181】
本発明は、本発明の例として提示される以下の非限定的な実施例を参照することにより
、よりよく理解することができる。以下の例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に
例示するために提示されるものであり、本発明の広範な範囲を限定するものとしてみなさ
れるべきではない。
【実施例】
【0182】
本発明は、本発明の例として提示される以下の非限定的な実施例を参照することにより
、よりよく理解することができる。以下の例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に
例示するために提示されるものであり、本発明の広範な範囲を限定するものとしてみなさ
れるべきではない。
【0183】
(実施例1)
自己神経系細胞に結合する天然自己抗体(NatAb)の同定
ニューロンに結合する天然血清のヒトIgMを、モノクローナルIgGまたはモノクロ
ーナルIgMの高スパイク(血中に10mg/mlを超える)を伴う候補血清について、
45年間にわたり収集された140,000を超える試料を含有するMayo Clin
ic血清バンクをスクリーニングし、次いで、血清を抗体の生存大脳皮質および生存小脳
のスライスへの結合について調べることにより同定した(31)。次いで、このようなI
gMを陽性試料から精製し、1)単離された初代ニューロンの表面への結合、2)神経突
起伸長を支持するための基板として、3)ストレッサー分子に対するニューロンをアポト
ーシスから保護する能力についてさらに調べた。このスクリーニングプロトコールは、希
突起膠細胞に結合し、MSモデル(22、およびWO0185797において記載されて
いる)における再ミエリン化を促進するヒトIgMを同定するのに使用されるプロトコー
ルに基づく。適切な組織または細胞の表面の認識は、治療用IgMの特徴を規定するのに
重要であると考えられる。
【0184】
2つの新規で異なる血清由来ヒトニューロン結合IgM(sHIgM12およびsHI
gM42)を同定した。これらの血清由来抗体の特定の特徴を表1に列挙する。血清に由
来するsHIgM12およびsHIgM42はまず、神経突起伸長を、強力な基質である
ラミニンと同様に支持し、CNSミエリンによる神経突起成長の阻害を凌駕することがi

vitroにおいて示されている(23)。
【0185】
さらなる研究は、マウスにおける夜間1時間当たりの平均自発活動を介して評価される
通り、血清由来のsHIgM12が、TMEV感染マウスにおける自発的機能を改善する
ことを示している(21)。既に同定されているIgM NatAb(sHIgM22お
よびsHIgM46)と異なり、sHIgM12もsHIgM42も脊髄の再ミエリン化
を促進しない。
【0186】
【表1】
【0187】
自己抗体は、病原性であると考えられることが多い。これに対し、本明細書で裏付けら
れる通り、ニューロンに対する自己抗体(sHIgM12およびsHIgM42ならびに
これらに基づく組換え抗体)は、ニューロンを死滅させない。そうではなくて、これらの
IgMは、ニューロンを死滅から保護し、神経突起伸長を促進し、in vivoにおけ
るNAAを増大させ、in vivoのTMEVモデルにおいて軸索を保護し、TMEV
罹患マウスの夜間における自発的機能を改善する。
【0188】
ニューロン結合抗体であるIgM12およびIgM42は、CNS病変におけるニュー
ロンを標的とし、ニューロンの喪失を逆転させ、かつ/またはニューロン損傷またはニュ
ーロン疾患の影響を改善するのに適用可能である。ニューロン結合ヒトIgMは、神経変
性、ニューロン損傷、またはニューロン死滅を伴う多様な疾患および状態に対する固有の
適用を有する治療剤の新たなクラスを代表する。限定せずに述べると、このような疾患に
は、MS、脊髄損傷、ALS、アルツハイマー病、外傷性脳損傷、脳血管事象、または脳
卒中が含まれる。これらのヒトIgMは、動物に全身投与した場合の抗原性が最小限とな
っている。
【0189】
複数種類の生存ニューロンの表面に結合するヒトIgMの同定および特徴付け:
高濃度のIgGまたはIgM(>10mg/ml)を伴う血清試料を、抗体の、生存C
NS組織のスライス(皮質および小脳)におけるニューロン層への結合についてスクリー
ニングした。152例の被験血清のうち、17例のヒト血清が、組織スライスにおいて陽
性であった(23)。
【0190】
抗体sHIgM12および抗体sHIgM42は、ニューロンマーカーであるニューロ
フィラメントまたはβIIIチューブリンで共標識される多種多様なニューロンの表面に
結合する。これらには、小脳顆粒細胞(23)、皮質ニューロン、海馬ニューロン、ヒト
側頭葉の生検に由来するニューロン(図1)、および網膜神経節細胞(データは示さない
)が含まれる。rHIgM12は、海馬ニューロンの細胞体、神経突起、および成長円錐
を染色させる(データは示さない)。この交差反応性は、ヒトIgMが、MS、筋萎縮性
側索硬化症、または脳卒中など、多くの神経学的状態/疾患において影響を受けるCNS
細胞において作用しうることを示唆する。
【0191】
本データは、sHIgM12またはsHIgM42のニューロン表面への結合が炭水化
物依存性であることを示す。培養物中のニューロンに対するシアリダーゼ処置によりいず
れのヒトIgMの細胞表面への結合も消失する一方、Fumonisin B1によりス
フィンゴ脂質の合成を遮断するか、またはPIPLCによりGPI結合タンパク質を除去
しても、IgMの結合は消失しなかった(23)。ガングリオシドは、これらのヒトIg
Mの抗原の候補物質である。共標識実験では、rHIgM12が、ニューロン膜において
GM1と共に共局在する(実施例11および図21Cを参照されたい)。
【0192】
sHIgM12およびsHIgM42は、神経突起成長の誘発など、特定の機能的特徴
を共有するが、差異を裏付けており、各々が固有の抗体である。これは、結合研究および
免疫蛍光研究において明らかであり、sHIgM12およびsHIgM42により、小脳
顆粒細胞の表面が異なるパターンで標識される。培養物中のラット小脳顆粒細胞について
の免疫蛍光研究では、ニューロン膜がこれらの2つの抗体の使用により標識されるパター
ンが異なる(図2)。神経突起膜の小領域には、sHIgM12が結合する結果として、
点状のパターンがもたらされる。神経突起膜の大領域には、sHIgM42が結合する結
果として、分節化の高いパターンがもたらされる。
【0193】
(実施例2)
ヒトIgMは皮質ニューロンを過酸化物誘導性死滅から保護する
再ミエリン化促進ヒトIgMは、培養物中の希突起膠細胞を、活性アポトーシスのマー
カーであるカスパーゼ3の過酸化物誘導性活性化から保護することが示されている(33
)。本明細書で示される通り、sHIgM12またはsHIgM42も、類似のプロトコ
ールにより評価した。sHIgM12またはsHIgM42のそれぞれ、および過酸化物
を、マウス初代皮質ニューロンの培養物へと併せて添加し、24時間後にカスパーゼ3の
活性化度をアッセイした(図3)。
【0194】
培養されたニューロンをrHIgM12で処置した結果として、カスパーゼ3活性化の
うちの80%に対する保護がもたらされた。また、ニューロンのsHIgM42による処
置も、カスパーゼ3活性化のうちの約40%に対して保護的であった。これらの結果は、
結果としてカスパーゼ3活性化からの保護が10%未満となる対照のヒトIgMと比較し
て有意に異なった(P<0.01)。
【0195】
したがって、ニューロン結合sHIgM12またはニューロン結合sHIgM42は、
皮質ニューロンを、過酸化物により誘導される細胞死から保護した。したがって、神経細
胞損傷(または死滅)誘導剤または神経細胞損傷(または死滅)剤を供給した場合、Ig
M12およびIgM42は、損傷(または死滅)が生じることを個別かつ有意に防止した
【0196】
(実施例3)
sHIgM12に由来する組換え抗体
sHIgM12の2つの組換え形態を構築した。各形態では、重鎖および軽鎖について
の組換えIgM22抗体(rHIgM22)について既に用いた発現ベクターと同じ発現
ベクターを用いた(22、28、WO0185797)。ベクターは、SV40プロモー
ターの制御下で発現させた選択用dHfR遺伝子を包含する。マウスJ鎖を伴う部分ヒト
組換えIgM12抗体の形態を、まず以下の通りに構築し、その後、ヒト/マウスハイブ
リドーマ系であるF3B6細胞により抗体を生成させた。
【0197】
組換えIgM12抗体(PAD12)用ベクターの構築は、ヌクレオチドデータベース
に由来するリーダー配列を伴う重鎖可変領域のcDNAと、ヌクレオチドデータベースに
由来するリーダー配列を結合させた完全軽鎖cDNAとを、下記のプライマーを用いる既
に記載された方法(6)と同様の方法で挿入することにより実施した。ベクターを図4
示す。組換えヒトIgM12抗体に用いた重鎖および軽鎖の配列を、可変領域および定常
領域に言及して図5に示す。
【0198】
rHIgM12VHを作製し、これを、データベース(M29812)に由来する、イ
ントロンを伴うリーダー配列(小文字)へと重複伸長を介してスプライシングするのに用
いたプライマー(Horton RMら(1989年)、Gene、77巻:61〜68
頁)は、以下の通りである。
【0199】
【化4】
【0200】
rHIgM12Vkを作製し、これを、データベースに由来する、リーダー配列(小文
字、受託番号:X59312)への重複伸長を介してスプライシングする(soe)のに
用いたプライマーは、以下の通りである。
【0201】
【化5】
【0202】
合成の抗体遺伝子を伴うベクターを、電気穿孔を介してF3B6ハイブリドーマ細胞へ
と導入し、既に記載されている通り(6)に、メトトレキサート(MTX)による増幅を
実施した。
【0203】
略述すると、8百万個のF3B6マウス/ヒトヘテロハイブリドーマ細胞(Ameri
can Type Culture Collection:ATCC)を、Bgl I
Iで直鎖化した10μgのPAD12ベクターと共に、800μlの無血清培地中で10
分間にわたりインキュベートした後で、Biorad Gene Pulser(商標)
(Biorad、Hercules、CA、USA)により0.2Vで電気穿孔した。氷
上で10分間のインキュベーション後、細胞を、10%のウシ胎仔血清(FC)(Gib
co、Carlsbad、CA、USA)を含有するRPMI−1640中で24mlま
で希釈し、24ウェルプレートに播種して37℃でインキュベートし、48時間後、ベク
ターを含有する細胞を、1μMのメトトレキサート(Calbiochem、La Jo
lla、CA、USA)を用いて選択した。2週間にわたるインキュベーション後、コロ
ニーを新たなプレートへと採取し、コンフルエントまで増殖させた。この時点で、上清を
採取し、酵素免疫測定アッセイ(ELISA)を介して、ヒトIgMの存在についてアッ
セイした。陽性コロニーを、さらに2カ月間にわたり、メトトレキサートの用量を1μM
〜200μMの範囲で増大させて選択した。このようにして、10μg/mlを超えるI
gMを産生する細胞を生成した。
【0204】
上記の通りに構築した最初の組換え抗体は、完全ヒト抗体ではない。完全ヒト形態を生
成させるため、CHO細胞(GibcoBRL;型番:11619)を、E1Aプロモー
ターおよびpCI(Promega)においてヒトJ鎖を発現させる構築物の制御下で組
換え重鎖および組換え軽鎖をコードするベクターで共トランスフェクトした。細胞は、1
0%のコスミド(cosmic)クローンを伴うPowerCho1とIMDMとの50
/50混合物中で、メトトレキサートの用量を増大させて選択し、ELISAを介する測
定で抗体を最も多く生成させた2つのクローンをサブクローニングした。サブクローンを
増殖させ、バイアルを凍結させた。いずれの組換えIgM12形態も、ニューロンへの結
合および血清から単離されたIgMのin vivoにおける有効性の特徴を維持するが
、マウスにおける半減期は短い(これは、グリコシル化の差異に起因する可能性がある)
【0205】
同様で同等の手順を用いて、同等のベクターにより組換えHIgM42抗体を構築した
。ヒトIgM42抗体の重鎖配列および軽鎖配列を、可変領域および定常領域について言
及して図6に示す。
【0206】
(実施例4)
rHIgM12の単回末梢投与はMSのTMEVモデルにおける神経機能を改善した
rHIgM12により、培養物中の初代ニューロンが保護され、多発性硬化症(MS)
のTMEVモデルにおける身体障害が軸索喪失と相関する(2)という事実に照らして、
TMEV感染マウスのrHIgM12による処置を用いて、神経欠損の進行を緩徐化する
能力を評価した。
【0207】
軸索の喪失が始まる時点である、TMEV感染の90日後におけるマウス5匹の群を、
rHIgM12 100μgまたは対照のヒトIgM 100μgの単回投与で処置した
。5匹の感染マウスは、各群について無作為に選択し、処置前の機能記録を用いて、ベー
スラインの活性が群間で異ならないことを確認した。マウスは、複数週間における連続3
日間にわたり、活動ボックスを用いて群として追跡した(34、35)。夜間挙動の変化
は、TMEV媒介性疾患における神経欠損の高感度の尺度である。活動ボックスとは、筐
体全体に格子を創出する赤外線ビームを対向させる透明のアクリル製ボックスであって、
水平方向および垂直方向全ての運動を記録するボックスである。アッセイの感度は、後肢
による立脚および歩行を測定する能力を反映する。TMEV感染マウスでは、後肢がこわ
ばり、後肢による立脚が低減される。しかし、ケージ内の自発歩行が重度に影響を受ける
ことはない。後肢がこわばったマウスは、後肢で立脚するより歩く方が容易であり疾患が
進行したマウスでもなお、夜間には極めて活動的でありうる。
【0208】
各処置群は無作為に組み立て、処置前に活動ボックス内に72時間にわたり収容し、次
いで、処置後各週につき72時間にわたり収容した。解析時間である72時間における午
後6時〜午前6時の12時間にわたり、水平方向および垂直方向の活動について、1時間
当たりの平均ビーム遮断回数を計算した。マウスが入眠するので、典型的には遮断が60
0回/時間未満となる、昼間における水平方向および垂直方向の活動に処置群間の差異は
見られなかった。しかし、rHIgM12による処置群では、夜間における水平方向の自
発活動のそれらの処置前のベースラインと比較した増大が記録された(3〜7週間にわた
り:P<0.01)(図7)。細胞に結合しない対照のヒトIgMは、活動を改善しなか
った。
【0209】
同様の研究において、血清由来のsHIgM12について見られる効果、および、今や
また、組換え抗体rIgM12について見られる効果とも異なり、ヒト抗体sHIgM4
2は、同じ条件下で、TMEV感染マウスの夜間活動を変化させなかった。同じアッセイ
フォーマットにおけるsHIgM42のための代替的な投与パラメータは、夜間活動に対
して異なり、かつ、より肯定的な結果をもたらす。
【0210】
機能の改善についての1つの可能な説明は、有効なIgMが、ウイルス負荷に干渉し、
その結果として、疾患の軽減がもたらされるということである。しかし、これは、説明で
あるとは考えられない。慢性TMEV疾患を伴うマウスを、rHIgM12、sHIgM
42、または対照のIgMの単回投与で処置し、5週間後に脳および脊髄を採取し、次い
で、TMEV RNAゲノムの転写物レベルを、ウイルスタンパク質2に対するプローブ
によるPCRを介して測定した。ウイルス転写物は、群間で異ならなかった(P<0.0
1)(データは示さない)。
【0211】
(実施例5)
脊髄疾患を伴うマウスの脳幹におけるNAAレベル:脊髄全体における軸索保存の非侵
襲的サロゲートマーカー
NAAとは、ニューロン機能と関連する代謝物質である(36、37)。NAAは、脳
において2番目に豊富なアミノ酸であり、ほぼもっぱらニューロンに限定される。脳幹に
おけるNAAレベルの保存は、本発明者らのグループによりTMEVマウスモデルを用い
て検証された脊髄軸索全体の健康の尺度である(8)。脊髄下部の軸索が損傷すると、脳
幹の細胞が死滅し、NAAが低減される。MRSを介して測定されるNAAレベルは、主
にニューロン密度を反映する。NAAは、他の神経細胞でも発現するが、NAAの主な発
現は、ニューロンにおいてである。精製されたCNS細胞のMRSプロファイルを研究す
ると、NAAシグナルの振幅がニューロンにおいて優勢であるのに対し、希突起膠細胞ま
たは星状細胞のNAAシグナルの振幅は、ニューロンにおけるシグナルの、それぞれ、5
%および10%であったことが示される(38)。
【0212】
sHIgM12およびIgM42が軸索機能を保存することによりマウスの活動を改善
する能力をさらに評価するため、本発明者らは、非侵襲的画像化アッセイおよび従来の形
態解析を用いて脊髄軸索を評価した。逆行追跡を用いて、TMEV媒介性疾患の脱髄後に
おける脊髄軸索の機能不全を裏付けた(5)。胸部軸索〜脳幹核における逆行標識の劇的
な低減が測定された。脳幹とは、細胞体の多くが存在する場所であって、脊髄の全長に沿
って長い軸索路を投射する場所である。その後、既に報告されたプロトコール(8)を用
いて、TMEV感染マウスにおいて、磁気共鳴分光法(MRS)を介して、脳幹における
N−アセチルアスパラギン酸(NAA)レベルを評価した(図8)。
【0213】
本発明者らは、TMEV誘導性疾患を伴うマウスにおいてある時間にわたる脳幹NAA
の低減を観察した(図9)。NAAレベルは、感染後最初の45日間にわたり低下し、感
染の270日後まで低レベルを保った。TMEVに感染したSJLマウスでは、脊髄脱髄
の程度が感染の90日後までプラトー状態を保つ(39)。このモデルにおいて軸索喪失
が組織学的検査で顕著なのは、この時点においてである(2)。したがって、NAAは、
軸索における機能不全の高感度の尺度である。
【0214】
最後のMRS収集の後、軸索を、T6レベルにおける脊髄断面内の外見が正常な白質の
6つの領域から体系的にサンプリングした。このレベルは、これにより脊髄全体において
ランダムに分布する複数の脱髄病変に由来する軸索喪失が全体的に表される(39)ため
に選択した。本発明者らは、TMEV感染の270日後のSJLマウスにおける軸索は、
非感染対照と比較して30.5%少ない(p<0.001)ことを見出した。脳幹NAA
レベルと脊髄のT6レベルにおける軸索カウントとの間には、正の相関(r=0.823
)が存在することが見出された(8)。
【0215】
ニューロン結合ヒトIgMの単回投与は脳幹におけるNAAレベルおよび脊髄における
軸索を保存する:
ヒトニューロン結合IgMがTMEV感染マウスにおけるNAAレベルまたは軸索カウ
ントを変化させる能力を評価した。TMEV感染マウスを、脊髄軸索の脱落の開始時(感
染の90日後)に、ニューロン結合IgMであるsHIgM12またはsHIgM42
100μgずつの単回投与で処置したところ、10週間後に測定したときの胸部脊髄の正
常白質における有髄軸索密度がより高いことが見出された。
【0216】
感染の90日後におけるマウス10〜15匹の群を、100μgのsHIgM12、s
HIgM42、対照のヒトIgM、または生理食塩液の単回投与で処置した(図10)。
処置前ならびに処置の5および10週間後、各マウスを小型のボア磁石に入れ、脳幹にお
けるMRSを収集した。10週間後、マウスを屠殺し、脊髄を回収し、プラスチック包埋
し、T6レベルで切断した断面をパラフェニレンジアミン(paraphenylami
ndiamine)で染色して、髄鞘を可視化し、400,000μmの外見が正常な白
質を包含する切片1つ当たり6枚の画像を収集し、軸索を自動式でカウントした。2つの
ニューロン結合IgM(sHIgM12、sHIgM42)のうちのいずれで処置した群
においても、NAAレベルは、5週間後および10週間後のいずれにおいても処置前のレ
ベルと比較して増大した。対照のIgMで処置したマウスは低下傾向を示し、生理食塩液
で処置したマウスは変化を示さなかった。
【0217】
sHIgM12およびsHIgM42で処置した群のNAAレベルは、それぞれ、9.
13および9.3mMまで増大したが、これらの各々は、非感染マウスの12.0mMの
レベルを大きく下回った。T6レベルにおける軸索を処置群間で比較した(表2)ところ
、sHIgM12またはsHIgM42で処置したマウスは、生理食塩液で処置した群よ
り多くの軸索を含有した(15,198本の軸索と比較して、17,303本および17
,771本の軸索:P=0.008およびP<0.001)が、非感染マウスにおいてカ
ウントされた軸索数(21,284本の軸索)より少なかった。
【0218】
TMEVモデルにより証拠立てられる通り、これらの結果は、sHIgM12抗体およ
びrHIgM12抗体の各々により、軸索の保存を介して機能が改善されることを示した
。TMEVモデルでは、sHIgM42抗体により軸索が保存されたが、初期試験の夜間
活動の評価では、裏付け可能な変化が観察されなかった。用量範囲探索研究の後、sHI
gM42はまた、夜間活動試験における活動の増大も達成することが見出された。
【0219】
脳幹MRSを用いて、脊髄疾患のマウスモデルにおける軸索状態を評価することにより
、本発明がさらに検証され、したがって、脳幹におけるNAAは、臨床試験でこれらのヒ
ト抗体を用いるための優れた評価項目として役割を果たす。
【0220】
sHIgM42およびsHIgM12で処置してNAAレベルが改善されたマウスはま
た、胸部中央の脊髄において含有する軸索もより多かった。TMEV感染SJLマウス1
0〜15匹の群を、感染の90日後に、100μgのrHIgM22、sHIgM42、
sHIgM12、対照のsHIgM39、および生理食塩液の単回投与で処置した。処置
の10週間後、脊髄を摘出し、胸部中央の切片をPPDで染色してミエリンを可視化した
。各マウスから、400,000μmの白質を包含する6つの領域をサンプリングし、
有髄軸索数をカウントした(1)。T6断面1つ当たりの有髄軸索絶対数の平均±SEM
を表2に列挙する。
【0221】
【表2】
【0222】
(実施例6)
ニューロン結合IgMは再ミエリン化を促進することなしに軸索を保存する
希突起膠細胞に結合し、再ミエリン化を促進する複数のヒトIgM(例えば、sHIg
M22およびsHIgM46)が同定されている(22、40、41)。下記で示される
通り、ニューロン結合IgMは、ニューロン数を増大させ、ニューロン機能を改善するが
、明白な再ミエリン化は伴わない。理論に束縛されずに述べると、作用機構は、軸索の直
接的な活性化(保護、神経突起伸長)に起因し、かつ/または生得的免疫系または獲得的
免疫系を活性化させてニューロンを保護する因子を分泌させることを介すると理解される
。上記で提示した結果は、抗体が軸索/ニューロンに対して直接的な効果を及ぼすことを
明確に裏付ける。sHIgM12およびsHIgM42が媒介する軸索保存および/また
は再成長が測定された同じ脊髄内では、脱髄、再ミエリン化、および炎症の全体が、処置
群間で異ならなかった(図11)。
【0223】
これらの属性は、脊髄の全長に沿って試料を代表する10の脊髄断面の四半部を等級づ
けすることにより定量化した(6)。rHIgM22処置群(陽性対照)が、予測される
再ミエリン化の増大を示したのに対し、sHIgM12およびsHIgM42で処置した
マウスは、脊髄の再ミエリン化をほとんど含有しなかった。したがって、TMEVモデル
における神経欠損が、著明な再ミエリン化を必要とすることなしに改善され(例えば、I
gM12)、さらに、検討された時間枠内では、軸索の保存および/または再成長のため
に再ミエリン化が必要ではない。
【0224】
(実施例7)
rHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)およびsHIgM42の血清半減期
ヒトIgM、rHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)、およびsHIgM42の半減期を決
定するために、200μlの生理食塩液中に100μgのヒトJ鎖を含有するrHIgM
12、または100μgのsHIgM42を、正常CD−1マウスの尾静脈へと注射した
図12)。規定された間隔(15分間、1、4、8、24、48時間)で、マウス3匹
ずつの群から、心穿刺を介して血液を回収した。血清を回収し、サンドウィッチELIS
Aを用いて、ヒトIgMミュー鎖の存在についてアッセイした。
【0225】
rHIgM12では、15分後における初回の回収と8時間後における回収との間にお
ける半減期が、3.8時間であった。sHIgM42では、15分後における初回の回収
と24時間後における回収との間における半減期が、20.5時間であった。これらの値
は、マウスにおける半減期を15時間とし(29)、ウサギにおける半減期を90時間と
する、再ミエリン化を促進するrHIgM22の半減期を一括する。半減期は、式:k
lim=(ln(cpeak)−ln(clow))/tintervalおよびt1/
=0.693/kelimを用いて計算した。
【0226】
(実施例8)
放射性標識したヒトモノクローナルIgMは血液脳関門を越える
分子量が百万に近いIgMは、循環から血液脳関門(BBB)を越え、これにより、C
NSに入るには大型に過ぎる可能性があることがしばしば受け入れられている(42、4
3)。しかし、一部のIgMはBBBを越えるという特定の証拠は存在する。
【0227】
正常SJLマウスおよびTMEV感染SJLマウスの組織における35S標識したrH
IgM12の分布を測定した(図13)。50μgのrHIgM12(1×10cpm
)を腹腔内投与した。4または24時間後にマウスを生理食塩液で潅流し、組織を迅速に
採取し、細断し、シンチレーション液中に溶解させた。非感染マウスの脳および脊髄は、
いずれの時点においても放射性標識を含有した。TMEV感染マウスのCNSは、4時間
後の時点で非感染マウスの2倍の放射性標識を含有した。これは、24時間後までに4倍
に増大した。
【0228】
また、rHIgM12(ヒトJ鎖を伴うrHIgM12、およびヒトJ鎖を伴わないr
HIgM12の両方)およびsHIgM42は、正常マウスおよびアルツハイマー病のモ
デルであるSAMP8マウスにおいてBBBを越えうることも見出された。したがって、
125I標識したヒトIgMを静脈内注射し、2時間後に脳を回収した。これらの抗体の
各々は、正常マウスおよび疾患マウスの脳に蓄積される。これらの抗体はまた、IgMを
、脳内注射を介して送達した場合であれ、静脈内注射を介して送達した場合であれ、アル
ツハイマー病のマウスモデルにおける認知障害も逆転する。
【0229】
(実施例9)
腹腔内送達されたヒトニューロン結合IgMは脱髄した脊髄病変に入り、ニューロフィ
ラメント陽性の軸索に局在する
同位体で標識した、再ミエリン化を促進するマウスIgMである、SCH94.03に
ついてのHunterによる研究(44)は、オートラジオグラフィーを用いて、放射性
標識が、in vivoにおいてTMEV感染マウスの脊髄、とりわけ、超微細構造的に
希突起膠細胞と同定された細胞に局在することを裏付けた。35S rHIgM12によ
る同様のオートラジオグラフィー研究も実施されている。本発明者らは、従来の免疫細胞
化学を用いて、脊髄病変内のニューロン結合ヒトIgMを検出した(図14)。
【0230】
したがって、1.0mgのrHIgM12(ヒトJ鎖を伴う)、sHIgM42、また
は市販される対照のヒトIgM(Jackson Immuno Research)を
、慢性脱髄を伴うTMEV感染マウスに腹腔内投与した。4時間後、マウスをパラホルム
アルデヒドで潅流し、凍結させた脊髄を縦方向に切片化し、ヒトIgMミュー鎖の存在に
ついて免疫染色した。rHIgM12またはsHIgM42を施されたマウスでは、ヒト
ミュー鎖が、脱髄病変の軸索線維を示唆する並列経路に局在した。対照のヒトIgMは、
病変内にも、非病変脊髄にも見出されなかった。したがって、ニューロン結合ヒトIgM
であるrHIgM12またはsHIgM42がTMEV感染マウスにおいてBBBを越え
ることが明らかとなった。
【0231】
次いで、隣接する脊髄切片を、抗ニューロフィラメント(NF)抗体(SMI−32お
よびSMI−34、Sternberger)で免疫標識した後、蛍光二次抗体である抗
ヒトミュー鎖−FITC抗体および抗マウス−TRITC抗体で免疫標識した。共焦点顕
微鏡法は、rHIgM12およびsHIgM42が、線維の並列経路において、および断
続的に切断される軸索の線維束として、病変内のNF+軸索に共局在することを裏付けた
図15)。
【0232】
(実施例10)
疾患の発症時に施された場合、rHIgM12またはsHIgM42はMOGペプチド
誘導性EAEを増悪させない
自己反応性のCNS結合IgMを自己免疫が活性な動物に投与することにより、疾患を
増悪させうるという憂慮に対処するため、EAEを伴うマウスにおけるrHIgM12お
よびsHIgM42の効果を調べた。MOGペプチド(200μg)誘導性EAEを伴う
C57BL6マウス10匹の群に、100μgのrHIgM12、sHIgM42、対照
のヒトIgM、または生理食塩液の単回静脈内投与を施した。個々のマウスは、それらの
臨床スコアが1に到達した(尾の引きずり)時点で処置した。次いで、マウスを、処置群
に対して盲検として、1日おきに体重を記録し、臨床スコアを評価する試験実施者が、マ
ウスが免疫化の28日後に到達するかまたは瀕死となるまで追跡した。
【0233】
体重または平均の臨床スコアにおいて、処置群間の差異は見られなかった(図16:P
=0.14)。加えて、各マウスの脊髄の全体を包含する10の脊髄断面を、脊髄の各四
半部における髄膜の炎症および脱髄の存在について、盲検により評価した(6)。髄膜の
炎症(P=0.825)または脱髄(P=0.766)を伴う四半部の百分率に、処置群
間で差異は見られなかった(図17)。したがって、TMEVモデルにおいて軸索を保護
するのに有効なニューロン結合ヒトIgMの単回投与は、EAEによる臨床的欠損を増悪
させたり、欠損の進行を加速化させたり、脊髄病態を悪化させたりしないことが見出され
た。
【0234】
【数1】
【0235】
【数2】
【0236】
【数3】
【0237】
【数4】
【0238】
(実施例11)
ヒトIgM抗体であるrHIgM12は軸索の形成を促進し、脂質ラフトと相互作用し
て微小管を標的とする
抗体sHIgM12は、初代培養小脳顆粒ニューロンにおける神経突起成長を促進した
。本例では、初代海馬ニューロンを用いて、完全ヒト抗体(ヒトJ鎖を有するrHIgM
12)が、軸索の形成を促進することを見出した。rHIgM12は、ニューロン膜に結
合し、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1のクラスター形成を誘導する。
【0239】
さらに、膜結合rHIgM12は、2つのプールで分布し、1つのプールは脂質ラフト
ドメインと会合し、他のプールは、細胞骨格に富む洗浄剤に不溶性のペレットと会合する
。洗浄剤による抽出の後、rHIgM12凝集物は、微小管には共局在するが、線維状ア
クチンには共局在しない。共免疫沈降研究は、rHIgM12とβ3−チューブリンとが
複合体で存在することを裏付けた。これらの結果は、rHIgM12が、微小管細胞骨格
にシグナル伝達する膜ドメインをクラスター形成させることにより軸索の形成を規定する
ことを示す。
【0240】
ニューロンは、神経突起成長の調節を介して軸索を発生させる(BarnesおよびP
olleux、2009年)。線維状アクチン(F−アクチン)および微小管を包含する
ニューロンの細胞骨格は、神経突起成長および成長円錐の経路探索において極めて重要な
役割を果たす。
【0241】
血清由来抗体は、大スケールの研究に適切でない場合があり、特に、大量に生成させる
ことができず、抗体をもたらす患者から使用のたびごとに単離しなければならない場合は
、同等の活性および能力を示す組換え形態の生成が有利である。本研究は、組換えの完全
ヒトIgM12抗体(rHIgM12)が、軸索形成を促進し、したがって、培養された
海馬ニューロンにおけるニューロンの極性化を駆動することを裏付けた。rHIgM12
は、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1を含有するニューロン膜ドメイン
をクラスター形成させる。
【0242】
スクロース密度勾配の分画は、ニューロン膜結合rHIgM12が、カベオリン−1を
含有する、洗浄剤耐性の軽い画分と会合する1つのプールと、細胞骨格に富むペレットを
伴う他のプールとの2つのプールへと分別されることを示した。洗浄剤による生存ニュー
ロンの抽出は、rHIgM12が、微小管と会合することを裏付けた。rHIgM12は
また、β3−チューブリンとも共免疫沈降した。まとめると、rHIgM12は、微小管
と会合する膜ドメインに結合することが理解される。表面における基板として存在する場
合、rHIgM12は、ニューロン膜における微小管のアンカリングを促進し、これによ
り、神経突起成長および軸索形成が促される。
【0243】
組換えヒトIgM12(rHIgM12):rHIgM12は、CHO細胞(Gibc
oBRL、型番:11619)において発現させた。ワルデンシュトレーム型マクログロ
ブリン血症患者12の血清において発現した主要な抗体の重鎖および軽鎖のコード配列を
発現させるプラスミドを、ヒトJ鎖トランス遺伝子と共に、CHO−S細胞へとトランス
フェクトした。結果として得られるCHO細胞を、メトトレキサートの用量を増大させて
選択し、ELISAを介して測定される抗体を生成させる安定的なクローンを、サブクロ
ーニングし、増殖させた。培養上清に由来するrHIgM12抗体を、クロマトグラフィ
ーを介して、HPLC解析を介して測定される通りに97%まで精製した。
【0244】
細胞の培養および神経突起成長アッセイ:FVBマウスから初代海馬ニューロンを調製
した。胎生期15日目の海馬ニューロンをトリプシン−EDTA中で解離させ、ガラス製
のカバースリップに結合させたニトロセルロース膜の薄層にコーティングしたポリ−D−
リシン(PDL)基板、ラミニンを含むPDL基板、またはrHIgM12基板上に播種
し、2%(v/v)のB27を含有するNeurobasal培地中で増殖させた。ニュ
ーロンを播種した12時間後、神経突起成長をアッセイした。ニューロンを4%のパラホ
ルムアルデヒドで固定し、抗β3−チューブリン抗体で染色した。線維状アクチン(F−
アクチン)はTexas−Redファロイジンで標識し、核はDAPIで標識した。Ne
uron Jソフトウェアを用いて神経突起長を測定し、Excel(Microsof
t)で処理し、Prism(GraphPad)で統計学的に解析した。ステージ3のニ
ューロンとは、Tau1染色を介して軸索として決定される最も長い神経突起(Dott
iら、1988年)が、2番目に長い神経突起の長さの少なくとも2倍である、複数の神
経突起を伴うニューロンとして定義した。Tau1は、軸索の遠位部分において非対称的
に濃縮された。これに対し、ステージ2のニューロンは、複数の対称的な神経突起を有し
た。
【0245】
初代培養ニューロンの免疫染色、免疫沈降、およびスクロースの密度勾配による分画:
in vitroにおいて1〜3日間(DIV)にわたり培養した海馬ニューロンを、4
%のパラホルムアルデヒドで固定して、0.2%のTriton X−100で透過処理
した後に免疫染色した。Olympus製の正立顕微鏡を用いて画像を収集し、Phot
oshop(Adobe)を用いて処理した。rHIgM12の分布は、不連続的なスク
ロース勾配中の超遠心分離を介して決定した。略述すると、rHIgM12を、DIV7
の生存皮質ニューロンに4℃で30分間にわたり結合させ、次いで、氷冷溶解緩衝液(5
0mMのTris.HCl、pH 7.4、150mMのNaCl、1mMのEDTA、
1%のTriton X−100、およびプロテアーゼ阻害剤によるカクテル)中で30
分間にわたり溶解させた。ニューロン溶解物を、等容量の100%(w/v)スクロース
と混合した。混合物を遠心分離管に移し、35%のスクロース8mlと5%のスクロース
3.5mlとを続けて重層させた。4℃、2×10gで20時間にわたり遠心分離した
後、6画分(各画分2mlずつ)を勾配の最上部から回収した。各画分およびペレットを
、SDS−試料緩衝液中で溶解させ、ウェスタンブロット法にかけた。
【0246】
rHIgM12を細胞骨格タンパク質と共免疫沈降させるため、DIV7の生存皮質ニ
ューロンを、4℃で30分間にわたりrHIgM12により処置し、0.5%のNP−4
0を含有する溶解緩衝液中で溶解させた。rHIgM12は、プロテインL−アガロース
ビーズにより捕捉し、β3−チューブリンは、プロテインG−樹脂(Thermo)によ
り捕捉した。二重標識するために、生存ニューロンを固定した後、氷上でrHIgM12
により染色し、0.2%のTriton X−100で透過処理した。生存ニューロンの
抽出および固定は、60mMのPipes、25mMのHepes、5mMのEGTA、
1mMのMgCl、4%のパラホルムアルデヒド、および0.1%のTriton X
−100を含有する緩衝液中で実施した。
【0247】
この例における抗体および他の試薬:抗β3−チューブリン抗体(Promega);
抗アクチン、EDTA、ポリ−D−リシン、メチル−β−シクロデキストリン、およびフ
ィリピン(Sigma);抗Tau1抗体、抗カベオリン−1抗体、および抗トランスフ
ェリン受容体抗体(Millipore);Texas Red−ファロイジン、コレラ
毒素B、Neurobasal培地、およびB27(Invitrogen);プロテア
ーゼ阻害剤錠(Roche)。
【0248】
組換えヒトIgMであるrHIgM12は軸索形成を促進した:
IgMのニューロンの分化および根底にある分子機構に対する効果をさらに理解するた
めに、組換えrHIgM12を用いて、培養された海馬ニューロンによる神経突起成長ア
ッセイを実施した。海馬ニューロンは、3つの分化段階を経て軸索を形成する(Dott
iら、1988年)。複数の過程が細胞体から始まる。急速に成長しつつある神経突起は
、その後、そのうちの一方が軸索へと分化し、他方が樹状突起へと分化し、これは、それ
ぞれ、Tau1およびMAP2の示差的分布を介して同定することができる(Lewis
ら、1989年;(KanaiおよびHirokawa、1995年)。本発明者らは、
基板として存在する場合のrHIgM12が、ニューロンの分化を実質的に促進すること
を見出した。播種後12時間以内に、rHIgM12上で成長しつつある海馬ニューロン
が複数の神経突起を発生させ、それらのうちの1つは、近傍の神経突起と比較してはるか
に長かった。これに対し、ポリ−D−リシン(PDL)上に播種されたニューロンは、複
数の対称的な神経突起を示した(図18A、B)。
【0249】
神経突起長を測定した後、本発明者らは、rHIgM12上に播種されたニューロン(
n=86)の全神経突起長が、PDL上に播種されたニューロン(n=74)と比較して
有意に長い(195.8μm対150.7μm:p=0.0056)ことを見出した(図
18C)。最も長い神経突起長は2倍を超えた(117.1μm対51.8μm:p<0
.0001)(図18D)が、2番目に長い神経突起長には有意な差異が見出されなかっ
た(38.7μm対33.3μm:p=0.0782)(図18E)。rHIgM12上
で成長しつつあるニューロンが保有する初代神経突起は少数であり(2.9対4.1:p
<0.0001)(図18F)、それらの大半の表現型は、ステージ3のニューロンであ
った(rHIgM12上の72%対PDL上の18%)(図18G)。これらの結果は、
基板として存在する場合のrHIgM12が、ニューロンの分化を促進することを示した
【0250】
ニューロン分化に特徴的な特徴は、極性化された軸索成長および樹状突起からの分離で
ある。本発明者らは、rHIgM12が1つの有意に長い神経突起を伴う神経突起伸長を
促進することを観察した。ステージ3のニューロンに由来するこれらの最も長い神経突起
が、軸索へと発生することをさらに検証するため、異なる基板上に播種された海馬ニュー
ロンを、抗Tau1抗体および抗MAP2抗体で染色した(図19)。Tau1染色は、
PDL上で成長したニューロンにおいては弱かった(図19A、D)が、PDL−ラミニ
ン(図19B、E)またはrHIgM12(図19C、F)上に播種されたニューロンに
おいてははるかに強かった。ラミニンは、ニューロン分化および軸索形成についての古典
的な基板であり(Chenら、2009年)、陽性対照として用いた。
【0251】
PDL上で成長したニューロンによるTau1強度(図19D)を比較すると、PDL
−ラミニン(図19E)またはrHIgM12(図19F)上に播種されたニューロンに
おけるtau1の分布は、最も長い神経突起の遠位部分において非対称的に濃縮され、は
るかに大きかった。これに対し、MAP2は、全ての神経突起の近位部を染色した(図1
9A2〜C2)。この結果は、rHIgM12上およびラミニン上の両方で成長したステ
ージ3のニューロンに由来する最も長い神経突起が軸索であることを示した。これらの研
究は、rHIgM12が複数のニューロン型に由来する神経突起成長を支持し、rHIg
M12が軸索形成を駆動することを裏付ける。
【0252】
rHIgM12はニューロン膜のマイクロドメインのクラスター形成を誘導した
基板としてのrHIgM12上で成長しつつある海馬ニューロンは、分化の増強を示し
た(図18および19)。しかし、本発明者らは、rHIgM12を培養液に適用しても
、rHIgM12が神経突起成長を誘導することを観察しなかった(データは示さない)
。この観察は、rHIgM12は、その機能を果たすために、細胞外マトリックス分子と
して提示することが必要であることを示唆した。rHIgM12−ニューロン膜間相互作
用をさらに理解するために、生存ニューロンを、まず、rHIgM12で処置し、次いで
、固定し、それぞれ、コレステロールまたはガングリオシドであるGM1に結合する、フ
ィリピンまたはコレラ毒素B(CTB)で二重染色した(ShogomoriおよびFu
terman、2001年)。rHIgM12、CTB、およびフィリピンは、非処置の
対照ニューロンの細胞表面を均等に標識した(図20A)。これに対し、37℃のrHI
gM12による処置は、30分後にニューロン膜の再組織化を誘導した(図20B、C)
。第1に、rHIgM12は、非処置のニューロン(図20A)、またはニューロン膜に
結合しない対照のIgM抗体で処置したニューロン(データは示さない)では観察されな
い、膜における「パッチ」様構造(図20B1、C1)へと凝集した。第2に、コレステ
ロールのクラスター(図20B2)およびGM1のクラスター(図20C2)のいずれも
が、細胞体、神経突起軸、および成長円錐のニューロン膜において形成された。第3に、
凝集したrHIgM12は、とりわけ、成長円錐の中央ドメイン(図20B〜C、高拡大
率)ではクラスター形成したコレステロール(図20B3)またはGM1(図20C3
と共局在したが、成長円錐の末梢では共局在しなかった。これらの結果は、液浴で適用し
たrHIgM12が、神経突起/軸索伸長は支持しないが、ニューロン膜の再構成を誘導
することを示した。基板として提示された場合のrHIgM12は、膜分子を、rHIg
M12−ニューロン膜間接触部位へと動員する結果として、方向付けのシグナル伝達を生
成させうる可能性がある。
【0253】
rHIgM12は脂質ラフトに結合した
低温状態における非イオン性洗浄剤による抽出に基づく生化学的研究を用いてコレステ
ロールおよびスフィンゴ糖脂質を含有する脂質ラフトの存在が裏付けられている(Chi
chiliおよびRodgers、2009年)。しかし、ナノスケールのサイズは光学
顕微鏡の解像度を超えるため、脂質ラフトについての形態的情報は限定されたものである
(LingwoodおよびSimons、2010年)。rHIgM12が膜のクラスタ
ー形成を誘導し、コレステロール含有膜ドメインおよびGM1含有膜ドメインと共局在す
る(図20)ことの観察により、rHIgM12が脂質ラフトドメインと会合する可能性
が立ち上がった。
【0254】
ニューロン膜は融点(Tm)が高いコレステロールおよびスフィンゴ糖脂質に富む(S
amsonovら、2001年)ので、Tmを下回る膜温度の低下は、37℃ではより動
的な脂質ラフトおよびその関連分子の可視化を促進しうる。この仮説を検証するために、
生存ニューロンを4℃まで冷却した後、rHIgM12で染色した。rHIgM12が均
等に結合した、ニューロンを37℃で固定する場合(図21A)と異なり、4℃では、r
HIgM12により、はるかに大型の点状構造が標識された。加えて、ニューロンの成長
円錐も収縮した(図21B)。
【0255】
本発明者らは、脂質ラフトがコレステロール依存性の膜ドメインであり、コレステロー
ルの枯渇によりそれらの構造が破壊されるという事実を利用した(Chichiliおよ
びRodgers、2009年)。培養された海馬ニューロンを、まず、メチル−β−シ
クロデキストリン(MβCD)で処置してコレステロールを枯渇させ(Koら、2005
年)、次いで、4℃まで冷却するのに続いて、固定した後、rHIgM12およびCTB
で染色した。コレステロールを枯渇させ、CTB標識したGM1と共局在させた後、rH
IgM12は、ニューロン膜における点状構造に結合した(図21C)。GM1は脂質ラ
フトマイクロドメイン内に常在し、rHIgM12により、GM1のクラスター形成が誘
導される(図20)ため、本発明者らは、rHIgM12が、ニューロン膜のコレステロ
ールからは独立するGM1含有マイクロドメインに結合することと結論付けた。これらの
実験により、脂質ラフトが、膜内に均等に挿入される(図20Aおよび図21A)か、ま
たは凝集して大型のドメインを形成する(図20BおよびC、図21BおよびC)、異な
る形態的構造として存在することが確認された。これらの結果は、rHIgM12が、他
の分子との生物物理的相互作用に応じて、ラフトドメインと非ラフトドメインとの間を往
復する分子(複数可)に結合することを示す。
【0256】
本発明者らはさらに、rHIgM12が脂質ラフトに結合するという仮説も調べた。脂
質ラフトは、低温において、非イオン性洗浄剤耐性膜(DRM)内に局在する(Sams
onovら、2001年)ため、4℃で調製した皮質ニューロン溶解物におけるrHIg
M12の局在を解析した。ニューロン溶解物を、抗ヒトIgM二次抗体でブロッティング
したところ、膜結合rHIgM12が、ペレットおよび上清のいずれにおいても見出され
るのに対し、ニューロンに結合しない対照のIgM抗体は、洗浄溶出物だけに見出される
図22A)ことが明らかとなった。これらの観察は、rHIgM12が、一方は上清中
の「洗浄剤可溶性」画分に局在し、他方は「洗浄剤不溶性」ペレットと会合する、2つの
プールへと分別されることを示した。
【0257】
第2の実験では、皮質ニューロンを、まず、rHIgM12で標識し、次いで、4℃の
スクロース密度勾配を介して分画した。異なる画分のブロッティングは、rHIgM12
が、脂質ラフトのマーカーであるカベオリン−1もまた含有する軽い画分に局在するが、
トランスフェリン受容体に富む非ラフト画分には局在しないことを示した(図22B)。
しかし、この厳密な分画工程(1%のTriton X−100および2×105gにお
ける超遠心分離)においてもなお、一部のrHIgM12は、主に洗浄剤不溶性細胞骨格
を含有するペレット中に検出された(図22B)。チューブリン(Soriceら、20
09年)およびアクチン(LevitanおよびGooch、2007年)のいずれもが
脂質ラフトに存在するが、ラフト中ではβ3−チューブリンだけが検出され、アクチンの
大半は、非ラフト画分へと移行した(図22B)。これらのデータは、一方は脂質ラフト
中に存在し、他方はペレット中に存在する、膜結合rHIgM12の2つのプールの存在
を示した。
【0258】
rHIgM12は微小管と会合する
本発明者らのデータは、凝集したrHIgM12が、微小管が優勢である細胞体、神経
突起軸、および成長円錐の中央ドメインなどの領域に局在する(図20)ことを示した(
ForscherおよびSmith、1988年)。膜結合rHIgM12が、これらの
いずれもがβ3−チューブリンを含有する脂質ラフト画分およびペレット画分へと分別さ
れたという事実(図22B)と併せて述べると、これらの知見は、rHIgM12が、細
胞骨格の構成要素(複数可)と会合しうることを示唆した。この仮説を検証するために、
海馬ニューロンを、rHIgM12で処置して、膜の再構成を誘導し、次いで、37℃で
0.1%のTriton X−100を含有する4%のパラホルムアルデヒドにより同時
に固定および抽出した。抽出後、rHIgM12で標識した洗浄剤不溶性膜の点が、神経
突起軸において束ねられた微小管束に沿って並んだ(図23A2)。成長円錐では、rH
IgM12が、脱束化微小管により占められる中央ドメインに主に局在したが、F−アク
チンに富む成長円錐末梢には局在しなかった(図23A3およびA4)。これらの結果は
、rHIgM12が微小管と会合しうることを示した。
【0259】
本発明者らは、rHIgM12が、GM1と共局在することを見出した(図21C)。
GM1は、小脳顆粒ニューロンの膜におけるチューブリンによりアンカリングされ、架橋
形成後に抗チューブリン抗体によりプルダウンされることが示された(Palestin
iら、2000年)。したがって、rHIgM12が、チューブリンを含有する膜のマイ
クロドメインと会合する可能性がある。この仮説をさらに検証するため、4℃でrHIg
M12により処置した生存皮質ニューロンに由来する細胞溶解物により、改変プルダウン
実験を実施した。本発明者らは、rHIgM12およびβ3−チューブリンの両方が、互
いに共免疫沈降する(図23B)ことを見出し、このことから、rHIgM12とβ3−
チューブリンとが、複合体として存在することが示唆された。IgM分子は五量体構造を
有し、分子量は約900kDaである。rHIgM12が、ニューロン溶解物中でチュー
ブリンまたは微小管と直接会合する可能性を除外するため、rHIgM12に結合しない
が、β3−チューブリンを発現するN2A神経芽細胞腫細胞によりプルダウンアッセイを
実施した(図25A)。rHIgM12は、β3−チューブリンと会合することも、ペレ
ット中に存在することもなかった。rHIgM12は、N2A神経芽細胞腫細胞溶解物の
上清だけで検出された(図25B)。まとめると、これらの結果により、脂質ラフトが、
rHIgM12と、その抗原と、微小管との会合を媒介することが確認された。
【0260】
本明細書のデータは、基板として存在する場合の完全ヒト組換えIgMであるrHIg
M12が、初代培養海馬ニューロンにおける軸索成長を促進することにより、ニューロン
の極性化を駆動することを裏付けた(図18および19)。rHIgM12は、ニューロ
ン表面に凝集し、コレステロールおよびガングリオシドであるGM1のクラスター形成を
誘導した(図20)。rHIgM12は、GM1と共局在する(図21)。スクロース勾
配によるニューロン溶解物の分画は、膜結合rHIgM12が、一方は脂質ラフトと会合
し、他方はペレットと会合する2つのプールへと分別されることを示した(図22)。生
存ニューロンを非イオン性洗浄剤で抽出することにより、本発明者らはさらに、膜結合r
HIgM12が、微小管と共局在し、β3−チューブリンと共免疫沈降することを示した
図23)。
【0261】
前出は、rHIgM12が、脂質ラフトマイクロドメインに結合し、これらと相互作用
することを示し、さらに、rHIgM12会合ラフトドメインが、微小管へのシグナル伝
達を担うことも示す。結果として、rHIgM12は、軸索成長を駆動する微小管の安定
化を媒介する。この例は、rHIgM12が、初代海馬ニューロンの軸索成長を選択的に
促進することを裏付けた(図18および19)。
【0262】
近年、本発明者らは、ヒト血清由来IgMであるsHIgM12が、広範な軸索変性お
よび軸索喪失を発症する多発性硬化症の動物モデルの神経機能を改善したことを示した(
Rodriguezら、2009年)。これらの研究は、HIgM12が、軸索成長を促
進することによりその機能を果たすという概念を裏付ける。
【0263】
ニューロンは、神経突起伸長を調節する制御された内因性のプログラムを介して軸索を
特化させる。発生しつつあるニューロンは、複数の神経突起を誘発する。神経突起のうち
の一方は軸索へと分化し、他方は樹状突起へと分化する。近傍の神経突起は、互いに競合
し合う。また、最も速い伸長速度もまた有する神経突起である、最も長い神経突起が、ま
ず対称的な神経突起伸長を遮断して軸索へと発生するのに対し、他の神経突起は伸長がは
るかに遅く、後に樹状突起へと発生する(Dottiら、1988年;Goslinおよ
びBanker、1989年)。F−アクチンと微小管とは、神経突起伸長および軸索形
成に関与する2つの主要な細胞骨格である。軸索の特化についての本発明者らの理解も、
伸展しつつある。主に成長円錐の末梢に局在するF−アクチンが主要な役割を果たすと考
えられていた。神経突起軸において優勢であり、成長円錐の中央ドメインに限局される微
小管は、F−アクチンに対して二次的であると考えられていた。近年、微小管はまた、軸
索成長において極めて重要な役割も果たすことが見出された。微小管は、成長円錐のアク
チンメッシュワークを動的に探索することが可能である。微小管の安定化は、軸索形成を
誘導するのに十分である(WitteおよびBradke、2008年)。
【0264】
本発明者らのrHIgM12とβ3−チューブリンとが共免疫沈降したという結果、r
HIgM12が微小管と共局在したという結果、およびrHIgM12が洗浄剤による抽
出後にペレット中に存在したという結果は、微小管を、中心的な役割を果たすものとして
裏付けるだけではない。加えて、このデータは、当技術分野において、微小管がニューロ
ン膜と直接相互作用することの最初の証拠ももたらした。これらの知見は、rHIgM1
2が、細胞外シグナルを微小管へと伝達する膜貫通カスケードと相互作用するかまたはこ
れに結合するという概念を裏付ける。微小管が、例えば、成長円錐において、増進および
退縮する動的特性により、それらがニューロン膜の運動を駆動することが可能となる(D
entおよびKalil、2001年)。安定化した微小管は、ニューロン膜にアンカリ
ングする。動的微小管および安定化した微小管の存在、ならびに/またはこれらの2つの
状態の間の移行により、神経突起成長が軸索を特化させる過程が組織化される。したがっ
て、IgM12は、微小管の安定性をもたらすことにより、軸索の伸長を増強する。
【0265】
脂質およびタンパク質は、持続的に細胞膜へと組み込まれ、次いで、マイクロドメイン
、いわゆる脂質ラフトへと分割される。膜ラフトは一般に、ステロールおよびスフィンゴ
脂質で濃縮された、ナノスケール(10〜200nmの)であり、異質で、動的な膜コン
パートメントとして定義される(LingwoodおよびSimons)。
【0266】
本発明者らは、rHIgM12が、脂質ラフトに結合することを提起する。第一に、本
発明者らは、rHIgM12が、ニューロン膜に凝集し、コレステロールまたはガングリ
オシドであるGM1のクラスター形成を誘導することを観察した(図20)。これらの結
果は、rHIgM12が、コレステロールおよびGM1を含有する脂質ラフトドメインに
結合することを示す。小さなラフトは、脂質および/またはタンパク質と相互作用しうる
。個別の小さなラフトは、シグナルを統合し、シグナル伝達経路の強度および振幅を調節
する、高分子のプラットフォームを安定化させ、これらに融合することが可能である。五
量体構造を保有するIgM抗体は、隣接する抗原(受容体)に架橋形成し、かつ/または
抗原を架橋形成または相互作用を増強するのに十分な程度に近接させることにより、シグ
ナルを増幅しうる。したがって、架橋された抗原および会合したシグナル伝達分子は、ク
ラスター形成しうる。第二に、本発明者らは、海馬ニューロンを4℃まで冷却したところ
、rHIgM12が、ニューロン膜上のはるかに大型の斑点に結合することを示した(図
21)。コレステロールおよびスフィンゴ脂質は、融点が高い(Tm)。Tmを下回る温
度においてニューロンを処置すると膜の動態が低下し、これにより、凝集した脂質ラフト
の可視化が促進される。rHIgM12が、コレステロールを枯渇させた後においてもな
おGM1と共局在するという知見(図21)と併せると、これらの結果は、rHIgM1
2が、GM1と共局在するニューロン膜の分子に結合し、これらと相互作用することを示
唆する。培養されたラット小脳顆粒ニューロンをシアリダーゼ処置するとsHIgM12
の結合が消失するという本発明者らによる以前の知見は、sHIgM12が結合したエピ
トープが炭水化物であることを示唆するが、正確な同定は明らかでない(Warring
tonら、2004年)。第三に、ニューロン溶解物をスクロースにより分画した後、膜
結合rHIgM12は、脂質ラフトマーカーであるカベオリン−1もまた含有する軽い画
分へと局在した。まとめると、本発明者らの結果は、rHIgM12が脂質ラフトに結合
するという仮説を裏付ける。
【0267】
ニューロン膜の外葉から細胞内の細胞骨格へのシグナルカスケードは、軸索の特化にと
って中心的である。rHIgM12の凝集物は、微小管が優勢であり、線維状アクチンは
優勢でない(図23)、神経突起軸および成長円錐の中央ドメインへと分配された(図2
0)。rHIgM12の凝集物の一部は、洗浄剤不溶性であり、洗浄剤による抽出の後、
束化微小管の束に局在した(図23A)。これらの観察は、脂質ラフトと会合するプール
とは異なりうる、rHIgM12結合分子の別のプールの存在を示す。スクロース分画研
究により、洗浄剤不溶性ペレット中に局在するrHIgM12会合分子のプールが存在し
図22B)、これは、図23Aで検出された微小管と共に局在するプールでありうるこ
とがさらに確認された。
【0268】
これらの結果は、rHIgM12のうちの一部が、細胞骨格成分(複数可)、おそらく
は微小管と会合することを裏付けた。上清中の「洗浄剤可溶性」分子と会合する(図22
Aおよび図23B)rHIgM12が、β3−チューブリンとも共免疫沈降した(図23
B)という知見は、rHIgM12結合分子(複数可)と、β3−チューブリンとが、脂
質ラフト中に複合体として存在しうることを示す。しかし、rHIgM12が結合しない
N2A神経芽細胞腫細胞において、rHIgM12は、β3−チューブリンをプルダウン
しなかった(図25)ため、rHIgM12が、β3−チューブリンと直接相互作用する
という可能性はない。したがって、細胞骨格および脂質ラフトの両方に会合するrHIg
M12は、チューブリンの近傍に局在する分子に結合する。この概念は、rHIgM12
が、GM1と共局在するという観察(図21C)、およびGM1が架橋形成反応後におい
て抗チューブリン抗体によりプルダウンされたという観察によりさらに強化される(Pa
lestiniら、2000年)。
【0269】
脂質ラフトドメイン内のrHIgM12結合分子は、神経突起成長過程および軸索伸長
過程の間常に細胞骨格へと組み込まれうる。この仮説は、rHIgM12が、成長円錐領
域では中央ドメインに凝集し(図3および6A)、37℃で洗浄剤不溶性であった(図2
3A)という知見により裏付けられる。まとめると、HIgM12は、HIgM12から
微小管へのシグナル伝達を媒介する脂質ラフトに結合し、この動態に影響を及ぼすことが
開示される。
【0270】
F−アクチンがrHIgM12誘導性シグナル伝達に関与するかどうかは明らかでない
。アクチンおよびアクチン結合タンパク質の両方が、脂質ラフトと会合することを示す筋
の証拠は多い(LevitanおよびGooch、2007年)。アクチン線維と微小管
とは、ニューロンもまた包含する協調的な細胞運動において活発に相互作用する(Rod
riguezら、2003年)。したがって、アクチンはまた、rHIgM12誘導性シ
グナル伝達において役割を果たす可能性がある。β3−チューブリンと共に、少量のアク
チンが、rHIgM12によりプルダウンされた(図26B)。したがって、rHIgM
12は、アクチンおよびβ3−チューブリンの両方を含有する脂質ラフトに結合する。
【0271】
しかし、ニューロンを4℃で処理したところ、rHIgM12で標識された点が成長円
錐の最外縁部にとどまったのに対し、F−アクチンのネットワークは成長円錐の末梢から
収縮した(図26A)。スクロース勾配による分画の後、アクチンは主にラフト以外の画
分に局在し、洗浄剤不溶性ペレット中には少量のアクチンだけが検出された(図22B
。これらの観察は、F−アクチンが極めて動的であり、低温状態において、かつ/または
洗浄剤抽出を介して、その大半が脱重合することを示す。したがって、アクチンが、rH
IgM12を介するシグナル伝達に関与しうる。
【0272】
本発明者らは、ヒトIgMであるrHIgM12が、脂質ラフトに結合し、これらを再
編成すること、および微小管が下流の標的のうちの1つであることを結論付ける。rHI
gM12は、基板として提示される場合に限り、軸索の伸長を促進する。基板としてのr
HIgM12を固定し、そのニューロン膜との相互作用に制約した。モルフォゲン誘導性
シグナル伝達においてしばしば観察される通り、固定されたrHIgM12は、ニューロ
ン膜にわたりシグナル勾配を創出した可能性がある(Schmittら、2006年)。
これに対し、液浴によるrHIgM12の適用は、脂質ラフトのランダムなクラスター形
成(図20)を促進しうるに過ぎず、対称的な神経突起成長を遮断し、軸索の伸長を増強
するのに十分ではありえない。略述すると、本発明者らの結果は、図24で提起したモデ
ルを裏付ける。ニューロン膜は、ラフトラフトマイクロドメインおよび非ラフトマイクロ
ドメインの両方を含有する。ラフトドメインの2つのプールが存在し、それらのうちの1
つは微小管と会合する(図24A)。2)rHIgM12は、ラフトドメインに結合し、
クラスター形成させ、これにより、微小管の安定化および膜へのアンカリングが促進され
る(図24B)。3)成長円錐では、rHIgM12により誘導されたラフトのクラスタ
ー形成が、成長円錐の末梢の中央ドメインへの移行、軸索形成を特化させる対称的な神経
突起成長の遮断を増強しうる(図24C)。
【0273】
【数5】
【0274】
【数6】
【0275】
(実施例12)
脊髄損傷に有益なヒトMAbについてのナノ細孔光学バイオセンサーアッセイ
脊髄損傷(SCI)後における軸索の保護および修復は、運動ニューロンの喪失および
永続的な身体障害を防止するのに有効な戦略としての大きな可能性を保持する。ニューロ
ンの保護は、傷害後における軸索の損傷を防止し、軸索の修復を促進するための、標的化
される栄養因子を用いて達成されている。これらの分子は主に、特異的な低分子である神
経栄養因子の標的化に焦点を当てるin vitro系に基づく選択戦略を用いて同定さ
れた。
【0276】
天然の自己反応性モノクローナル抗体は、損傷および疾患の複数のモデルを用いて、C
NS細胞における有益な生物学的機能を裏付けている。抗体が媒介するニューロン生存の
促進、軸索の再生、および機能回復が、マウスモノクローナルIgMであるIN−1を用
いて、in vivoにおいて裏付けられている(Bregman、1995年;Car
oniおよびSchwab、1988年)。同様の結果が、CNS損傷に先立つ脊髄ホモ
ジネート(SCH)の免疫化を用いて得られた(Ellezam、2003年;Huan
g、1999年)。
【0277】
IgM12および再ミエリン化抗体IgM22を含めたニューロン結合ヒト抗体による
本発明者らのデータに基づき、ニューロン生存および機能を促進することにより軸索を損
傷から保護し、SCIなどのCNSの損傷および/または疾患を処置するのに有益なヒト
モノクローナル抗体の相互作用が、病理学的/生理学的状態下における表面の細胞質膜タ
ンパク質−脂質二重層間相互作用に依存することが開示される。
【0278】
神経傷害または損傷(例えば、SCIにおける)後においてニューロンの生存を促進す
るか、またはニューロンを傷害または死滅から保護する結果として、各症例において神経
機能の保存をもたらすヒト抗体を、病理学的/生理学的表面の細胞質膜タンパク質−脂質
二重層を維持する技法を用いて評価し、特徴付け、かつ/または同定した。
【0279】
本研究において、本発明者らは、タンパク質−脂質二重層表面プラズモン共鳴(SPR
)センサーを用いて、表面におけるヒトモノクローナル抗体の結合相互作用の反応速度を
決定する。ヒトモノクローナル抗体は、脊髄損傷後における齧歯動物に由来するex v
ivoの組織切片の脊髄病変における結合を用いて特徴付けるかまたは同定する。次に、
齧歯動物の脊髄挫滅損傷モデルを用いて、ヒト抗体が、in vivoにおいてニューロ
ンの生存、神経突起伸長、または再ミエリン化を促進する結果として、病態を軽減し、神
経機能を改善する能力をさらに評価する。
【0280】
新規のSPR脂質二重層センサーは、表面のタンパク質−脂質間における、有益なヒト
IgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティーの特徴付けを可能とする迅速な無標
識法を提供する。この表面プラズモン共鳴(SPR)センサー法は、生理学的な平面的脂
質二重層と組み合わせた金属膜における周期的なナノ細孔アレイに基づき開発された。S
PR法は、迅速な無標識によるIgM抗体の関与性の抗原との結合反応速度および結合ア
フィニティーの特徴付けを可能とした。
【0281】
小さな差異を定量化するのに重要な結合反応速度は、開発中におけるリード分子を選択
する根拠をもたらし、in vivoにおける治療用分子の投与量および効力のいずれに
対しても影響を及ぼす。SPRは、業界環境および研究環境で標準的な方法として受容さ
れており、これにより、典型的には、可溶性結合パートナー対の間の分子的相互作用が特
徴付けられる。しかし、この技法は、膜結合抗原の必要に適合し始めたばかりである。S
PRセンシングにおいて用いられる金基板は、支持脂質膜を形成するのには適さない。さ
らに、金表面と直接接触する膜タンパク質は、それらの機能性を喪失することが多い。し
かし、周期的なナノ細孔アレイで穿通された金薄膜を用いる新規のナノ細孔センシング構
築法の開発は、これらの難題を克服している(例えば、図27を参照されたい)。各ナノ
細孔は、ガラス製の基板上に配置され、微小なウェルを形成して、支持脂質膜を閉じ込め
る一方、周囲の金膜は、SPR効果をもたらして、分子の膜への結合を動的にモニタリン
グする(図27B)。力学的安定性を維持し、両面を緩衝液に取り囲ませながら、ナノ細
孔上に薄い脂質二重層を懸濁させうるので、金膜に加工されたナノ細孔アレイにより、固
有の形状がもたらされる(図27B)。
【0282】
これにより、膜タンパク質を、金によるナノ細孔アレイのSPRセンシング性能とシー
ムレスに統合することができ、これにより、それらの天然状態をより緊密に模倣する環境
におけるそれらの機能性が維持される。さらに、自立的な脂質二重層に組み込まれた膜タ
ンパク質は、両面からの接近が容易となりうることが、この手法を、細胞表面における抗
原−抗体間結合が、結果として細胞シグナル伝達をもたらす機構を研究するのにより魅力
的なものとしている(図27B)。このSPR脂質二重層センサーは、表面のタンパク質
−脂質間における、治療用ヒトIgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティーを評
価し、同定し、特徴付けるのに用いられる迅速な無標識法を提供する。
【0283】
このセンサープラットフォームは、脊髄損傷の動物モデルにおける試験ために、表面の
タンパク質−脂質間における、治療用IgM抗体の結合反応速度および結合アフィニティ
ーを特徴付ける。本発明者らは、小脳組織およびCNS内の細胞の固定されない「生存」
表面への結合を介して同定される特定のIgM抗体を広範に特徴付けた。これらのIgM
抗体(IgM22およびIgM46により例示される)は、in vitroにおいてカ
ルシウム流を刺激し、in vivoにおいて再ミエリン化を促進した。同じ基準に基づ
き、Mayo Clinicにおけるタンパク異常血症の血清バンク試料をスクリーニン
グすることにより、ヒト抗体が同定されている。さらなるヒトIgM抗体(本明細書では
、IgM12およびIgM42により例示される)は、in vitroにおいてニュー
ロンの表面に結合し、神経突起成長を促進し、ニューロンの死滅を防止した。
【0284】
CNS損傷およびCNS疾患についての複数のマウスモデルに由来する、固定されてい
ない「生存」皮質切片を用いたところ、ニューロン結合抗体は、損傷および疾患の病態を
有する特定のCNS細胞、構造に対する特異的免疫反応性を呈示した。
【0285】
天然のヒトモノクローナル抗体は、損傷および疾患についての複数のモデルに由来する
CNS細胞において有益な生物学的機能を強化することが示されている。ヒトモノクロー
ナル抗体は、小脳ニューロン、皮質ニューロン、網膜神経節ニューロン、および脊髄ニュ
ーロンを含めた培養物中の多種多様なニューロンの表面に結合する(例として挙げると、
ヒト抗体IgM12およびIgM42)。これらの抗体は、CNSニューロンからの神経
突起伸長を誘導し(図28)、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害を凌駕する(
Warringtonら、2004年)。
【0286】
in vitroにおける研究は、ヒトモノクローナル抗体の、ニューロン表面の原形
質膜への結合を裏付けている。特徴的な結合が0℃で均一となるのに対し、表面の再構成
により15℃では点状構造が形成される(図29)。細胞表面における結合は、シグナル
カスケードを誘発するシグナル伝達分子と会合してクラスター形成する膜のマイクロドメ
インに特徴的である(Howeら、2004年)。
【0287】
ヒトモノクローナル抗体は、脊髄組織に入り、静脈内投与の4時間後に損傷部位に蓄積
される(図30)。ビブラトームによる脊髄切片に対して実施する免疫細胞化学により、
ニューロン結合抗体を投与した後の病変内にはヒトIgMが検出されるが、対照のヒトI
gMを投与した後の病変内にはヒトIgMが検出されない。慢性脊髄疾患を伴うマウス(
TMEV感染マウス)に、腹腔内を介してsHIgM42 0.5mgを施し、4時間後
に脊髄を摘出し、脊髄断面におけるヒトIgMの存在を検出した(図30)。sHIgM
42を施されたマウスに由来する脊髄の損傷領域は、蛍光タグ付けした抗ヒトIgMに結
合する平行線維を示す(図30A)。対照のヒトIgMを施されたマウスに由来する脊髄
の損傷領域は、ヒトIgMを含有しない(図30B)。
【0288】
ヒトモノクローナル抗体は、Mayo Clinicのタンパク異常血症血清バンクに
由来する試料をスクリーニングするための生物学的機能アッセイを用いて同定した。40
年間にわたり収集された115,000例の血清試料は、単クローン性免疫グロブリン血
症を伴う患者に由来する高濃度のモノクローナル抗体を含有する。本発明者らは、動物モ
デルにおいて再ミエリン化促進活性を有する組換えヒトIgM22(Mitsunaga
、2002年;Warrington、2000年)を合成し、調べた。
【0289】
一実施形態では、本実施例により、ヒトSCIまたはCNSのニューロンを露出させる
脱髄性状態などの神経変性状態、神経傷害および/または損傷における治療適用、予後診
断適用、診断適用、および/または予防適用に有用なGMP品質のモノクローナル抗体を
生成させる。
【0290】
これらの研究はさらに、外傷性SCI後においてニューロンの生存を促進する結果とし
て、神経機能の保存をもたらすヒトIgM抗体も特徴付けて評価する。SCI後における
行動学的試験および軸索数の形態的測定を評価し、神経機能の内因性保存と神経機能の抗
体が媒介する保存との差異を決定する。SCI後において抗体対照と比較した軸索保護抗
体および軸索伸長抗体による処置を用いて、神経機能保存の差異を、特異的抗体が媒介す
る活性について特徴付ける。
【0291】
原形質膜タンパク質−脂質二重層を含有する膜小胞を、生理学的条件下で細胞から単離
する。SPRセンサーのナノ細孔を、正常CNSおよび脊髄損傷組織から単離されたニュ
ーロン、神経膠、シナプトソーム、およびミエリン膜の微小胞調製物を用いてコーティン
グする。ヒトモノクローナル抗体血清試料および組換え抗体試料をスクリーニングして、
特定の膜の種類の結合反応速度を決定する。
【0292】
SPRセンサーを用いて確認される通り、生理学的条件下で、凍結されず固定されてい
ない「生存」細胞および「生存」組織表面の原形質膜に特異的に結合するヒトモノクロー
ナル抗体を、SCI後における、凍結されず固定されない病理学的「生存」組織を用いて
、特異的結合について調べる。脊髄病変への結合を裏付けるヒトモノクローナル抗体を、
齧歯動物のSCI後の処置における適用可能性および活性についてさらに特徴付ける。
【0293】
プロトコールデザイン:改変動脈瘤クリップ(FEJOTAマウスクリップ:閉止力を
3gまたは8gとする)を用いて、10週齢の雌(18〜22g)C57BL/6Jマウ
ス(Jackson Laboratories)のT9レベルにおいて圧迫損傷を生成
させる。このSCIモデルは、初期影響だけでなく、小嚢胞性(microcystic
)キャビテーション、軸索変性、および頑強なアストログリオーシス、ヒト外傷性SCI
の全ての特徴を促進する持続的な圧迫期も包含する(JoshiおよびFehlings
2002年)。ラット用のBasso,Beattie,Bresnahan(BBB
)運動評価スケール、および運動のBassoマウススケール(BMS)を用いて、行動
学的試験をSCI後に実行して神経欠損を評価する。図31に技法を示す。
【0294】
次いで、凍結させず、固定させていないex vivoの生存組織切片を、齧歯動物に
おける脊髄圧迫損傷後における病理学的病変から調製する。生理学的条件下で維持した切
片に対する免疫蛍光(IF)染色を用いて、ヒトIgM抗体結合の免疫反応性をスクリー
ニングする。
【0295】
脊髄圧迫損傷後迅速に、マウスを、腹腔内投与されるrHIgM12およびsHIgM
42またはrHIgM42を含めたヒト抗体で処置する。ヒト抗体が軸索保存または組織
修復を促進する能力を測定する。BBBスケールおよびBMSスケールを用いる行動学的
試験を、SCI後の5週間において定期的な間隔で実施する。SCIの30分後に、ヒト
抗体0.5mgの単回投与を、腹腔内を介してマウスに施す。マウスの群(15匹のマウ
ス)に、ニューロン保護、神経突起成長を促進するヒト抗体、細胞に結合しない対照のヒ
ト抗体、または対照を施す。個別のマウスを1週間に1回一晩にわたり自動式赤外線活動
ボックスに収容し(Mikamiら、2002年)、後肢を引きずる身体障害の尺度であ
る後肢による自発的立脚と水平方向の活動とを記録した(Accuscan Inc、O
hio)。また、従来のBBBスコアも毎週収集した。機能的評価は、盲検により実施す
る。
【0296】
処置の4週間後、Fluoro−GoldおよびFast Blueを、マウス4匹の
胸部下方の脊髄へと注射する。1週間後、マウスを潅流し、脳および脊髄を摘出する。脳
幹の網様核、前庭神経核、および赤核において逆行標識された細胞体を、蛍光顕微鏡法を
介して群を通してカウントする(UreおよびRodriguez、2002年)。脳幹
(ビブラトーム切片)内の標識された細胞体の数は、脊髄全体における機能的軸索のレベ
ルを反映する。脊髄に沿って1mmごとに採取した組織断面において、βアミロイドタン
パク質の蓄積についての免疫細胞化学を実施する。切片中のβアミロイド凝集物の数は、
胸部下方において機能障害を来した軸索輸送、および胸部下方における軸索の機能不全を
反映する。
【0297】
損傷の5週間後、残りのマウスをホルムアルデヒド/グルタルアルデヒド(glute
raldehyde)で潅流し、脊髄を摘出した。脊髄病変部位を含む1mmのブロック
を1つおきにAralditeプラスチック中に包埋し、切片化(1ミクロン)し、パラ
フェニレンで染色して、ミエリンが富化された保存された軸索を可視化する。Micro
suiteソフトウェア(Olympus)を用いて、病変領域の断面、保存された軸索
数、および病変への免疫細胞浸潤を測定する。軸索の頻度を測定し、群間で比較した(M
cGavernら、2000年;Rodriguezら、1987年)。全ての解析は、
実験群について知らされずに、コード化および盲検化された試料について行う。保存され
た軸索は、病変1mm当たりの保存された軸索数として表す。実験群および対照群間に
おけるデータの対比較では、マン−ホイットニーランクサム検定を用いる。
【0298】
【数7】
【0299】
【数8】
【0300】
(実施例13)
多発性硬化症モデル:用量反応評価
IgM抗体を、それらがマウスの多発性硬化症モデルにおいて機能的改善を促進し、再
ミエリン化過程、神経突起成長過程、またはこれらの両方の過程を増強する能力について
評価する。モデルは、Warringtonら、2007年と同様の方法を用いてヒトM
Sにおいて見出される病変と同様の特徴を伴う、CNSの遷延性、慢性で進行性の脱髄性
病変を誘導する、ピコルナウイルスのサイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)の使
用を伴う。
【0301】
雌マウスおよび雄マウス(約8週齢:SJL/J系統)に、サイラーマウス脳脊髄炎ウ
イルス(2×10プラーク形成単位のDaniel株:10μLの脳室内注射)を注射
する。処置のための無作為化の前に、マウスを6カ月間にわたり回復させる。次いで、マ
ウスを、被毛状態、歩行、および立ち直り反射について調べ、処置群へと無作為に割り付
ける(処置表に示すとおり)。次いで、マウスを、ビヒクル(通常の生理食塩液)または
組換えヒトIgM抗体(0.025〜2.5mg/kg)の単回静脈内注射で処置する。
神経機能を、処置の2週間後、1カ月後、および2カ月後にモニタリングする。
【0302】
機能的評価項目は、被毛状態、歩行、およびロータロッド能力に基づく点数化を包含し
た。被毛外観については、点数化を以下の通り:疾患なし(0)、最小の被毛変化(1)
、つやのない被毛(2)、失禁および変色した被毛(3)とする。活動の変化は、自動式
活動ボックスにより定量化する。さらに、歩行は、歩行速度>90cm/秒を用いるディ
ジタル式の歩行捕捉法(DigiGait)を用いて解析する。定量的な歩行解析評価項
目は、スタンス幅および持続時間、歩幅および頻度、足の角度のほか、揺れ、制動および
推進の持続時間を包含する。歩行のベースラインからの変化を定量化する。ロータロッド
能力(回転軸上の速度および持続時間との関係で運動を測定する回転軸上を動物が歩く能
力を介して、感覚および平衡調整の尺度を評価する)は、動物が一連の試行にわたり回転
装置上にとどまる時間の量として定量化する。
【0303】
実験が終了したら、動物を、COへの過剰曝露を介して安楽死させる。1)髄鞘形成
の程度(プラスチック包埋してパラホルムアルデヒド/グルタルアルデヒドで固定してオ
スミウム処置した組織の、電子顕微鏡による解析)および2)神経突起成長(立体的解析
評価を介する神経突起密度の評価)を評価するために、脳および脊髄を摘出する。
【0304】
第1の実施形態では、組換えヒト抗体を、表3Aおよび表3Bに示す3つの用量レベル
において単独で投与する。
【0305】
【表3A】
【0306】
【表3B】
【0307】
)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改
善スコアの値は、所与の抗体の投与量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体に
ついてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX
値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じで
はなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0308】
この実施例では、組換え抗体であるIgM12、IgM42、IgM22、およびIg
M46の各々が、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な
感覚運動の評価項目の各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有
意で(p<0.05)用量依存的な改善をもたらすことが見出される。ビヒクルで処置さ
れる動物は、TMEV損傷の6カ月間以内に、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータ
ロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価項目における安定的な欠損をもたらす。各抗
体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の感覚運動の
評価項目における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの感覚運動の評価
項目におけるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの感
覚運動の評価項目におけるなおより大きな改善X+++を伴う、感覚運動の評価項目にお
ける有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動
物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレ
ベルで観察される。したがって、抗体IgM12、IgM42、IgM22、およびIg
M46の各々は、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な
感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項
目について:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見
出されない。
【0309】
この実施例では、IgM12およびIgM42が、立体的解析を介してビヒクルによる
処置の対照と比較して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片に
おける神経突起成長の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。
各抗体について、0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の神経突
起成長における改善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの神経突起成長にお
けるより大きな改善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの神経突起成
長におけるなおより大きな増大X+++を伴う、神経突起成長の有意で用量依存的な変化
[評価中、Xを改善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズに
ついて、検出力0.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0310】
IgM22およびIgM46は、立体的解析を介してビヒクルによる処置の対照と比較
して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における再ミエリン
化の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、
0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の再ミエリン化における改
善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの再ミエリン化におけるより大きな改
善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの再ミエリン化におけるなおよ
り大きな増大X+++を伴う、再ミエリン化の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改
善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0
.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0311】
(実施例14)
多発性硬化症モデル:抗体の組合せ
この実験では、用量比を固定した組換えIgM抗体の多様な組合せを、前出の例で記載
したMSのTMEVモデルにおける神経学的転帰の改善について調べる。TMEVへの曝
露の6カ月後、マウスにおける組換えIgMの組合せによる処置を開始する。この一連の
研究では、マウスに単独のビヒクルまたはIgMの多様な組合せを静脈内単回投与(混合
剤)により施す。上記の通りに、感覚運動の評価項目をモニタリングする。髄鞘形成およ
び神経突起成長を評価して、抗体の組合せによりもたらされる変化を調べる。評価される
組合せを表4Aおよび表4Bに示す。
【0312】
【表4A】
【0313】
【表4B-1】
【0314】
【表4B-2】
【0315】
)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改
善スコアの値は、所与の抗体の投与量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体に
ついてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX
値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じで
はなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0316】
この実施例では、組換え抗体の組合せであるIgM12+IgM42、IgM22+I
gM46、IgM12+IgM22、IgM12+IgM46、IgM42+IgM22
、およびIgM42+IgM46が、被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドス
コアを含めた多様な感覚運動の評価項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学
的に有意(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量
依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見出されない。
【0317】
さらに、これらの組合せの各々による感覚運動の評価項目の改善度は、抗体の各々単独
により予測される相加的改善と比較して統計学的に有意で用量依存的な形で相乗的(相乗
作用が呈示される)である。ここでもまた、性別に基づく改善の差は見出されない。
【0318】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM42の組合せは、神経突起成長を、ビヒクルによる対照と比較し
て有意に(p<0.05)増強した。神経突起成長度は、単独で投与される各抗体の相加
的効果と比較して相乗的である。したがって、これらの抗体は、異なる作用機構を介して
成長を誘発し、これは、これらの抗体の神経組織へのそれぞれに異なる結合パターンと符
合することが理解される。
【0319】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM22+IgM46の組合せは、髄鞘形成を、ビヒクルによる処置の対照と比較
して有意な(p<0.05)増大をもたらした。さらに、再ミエリン化度は、単独で投与
されるIgM22またはIgM46について予測される相加的効果と比較して相乗的であ
る。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したが
って、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場
合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を
誘発する。
【0320】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM22の組合せは、損傷している脊髄における髄鞘形成ならびにニ
ューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をも
たらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量
において単独で投与されるIgM12またはIgM22それぞれの効果と比較して相乗的
である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。し
たがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在す
る場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生
成を誘発する。
【0321】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM46の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM12またはIgM46それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0322】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM22+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM22またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0323】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM46+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM46またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0324】
(実施例15)
脊髄損傷モデル
IgM抗体を、それらがラットの脊髄損傷モデルにおいて機能的改善を促進し、再ミエ
リン化過程、神経突起成長過程、またはこれらの両方の過程を増強する能力について評価
する。モデルは、脊髄を、幅を2.5mmとする改変カバースリップ用ピンセットのブレ
ードの間で側方から、あらかじめ設定したブレード間隔である0.9mmまで、15秒間
にわたり圧迫することを伴う。結果として得られる病変は、ヒトSCIにおいて見出され
る特徴と同様の特徴を示す(Grunerら、1995年)。
【0325】
雄ラットおよび雌ラット(約200〜225g、Long Evans)に手術を施し
て、上記の脊髄損傷をもたらす。手術の10分後、組換えIgM抗体またはビヒクルによ
る処置を、静脈内を介して施す。BBB運動評価スケールを用いて、後肢における運動機
能および歩行を12週間にわたり評価する(例えば、Basso DM、Beattie
MS、Bresnahan JC、Anderson DK、Faden AI、Gr
uner JA、Holford TR、Hsu CY、Noble LJ、Nocke
ls R、Perot PL、Salzman SK、Young W.(1996年)
、「MASCIS evaluation of open field locomo
tor scores: Effects of experience and te
amwork on reliability」、Journal of Neurot
rauma、13巻:343〜359頁;Basso DM、Beattie MS、B
resnahan JC.(1995年)、「A sensitive and rel
iable locomotor rating scale for open fi
eld testing in rats」、Journal of Neurotra
uma、12巻:1〜21頁を参照されたい)。ラットを、1、3、5、7、および10
日後に調べ、次いで、SCI後9〜12週間にわたり毎週、ベースラインからのBBB変
化を定量化する。
【0326】
実験が終了したら、動物を、COへの過剰曝露を介して安楽死させる。1)髄鞘形成
の程度(プラスチック包埋してパラホルムアルデヒド/グルタルアルデヒドで固定してオ
スミウム処置した組織の、電子顕微鏡による解析)および2)神経突起成長(立体的解析
評価を介する神経突起密度の評価)を評価するために、脳および脊髄を摘出する。
【0327】
(実施例16)
脊髄損傷モデルにおける個別の抗体の使用
この実験では、組換えヒト抗体を、表5Aおよび表5Bに示す通り、3つの用量レベル
において単独で投与する。
【0328】
【表5A】
【0329】
【表5B】
【0330】
)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改
善スコアの値は、所与の抗体の投与量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体に
ついてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX
値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じで
はなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0331】
この実施例では、BBBパラメータの改善により、組換え抗体であるIgM12、Ig
M42、IgM22、およびIgM46の各々が、後肢における運動機能の、統計学的に
有意で(各評価項目について、ビヒクルによる処置と比較して:p<0.05)用量依存
的な改善をもたらすことが見出される。ビヒクルで処置される動物は、中等度レベルの脊
髄損傷の6週間以内に、安定的なBBBスコアをもたらす。各抗体について、0.025
〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時のBBBレベルにおける改善Xの増大
、用量を0.25mg/kgとするときのBBBにおけるより大きな改善X+の増大、お
よび用量を2.5mg/kgとするときのBBBにおけるなおより大きな改善X+++を
伴う、BBBスコアにおける有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改善とする]が見出
される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0.8のレベルおよ
び0.05のアルファレベルで観察される。したがって、BBBの改善により、抗体Ig
M12、IgM42、IgM22、およびIgM46の各々は、後肢における運動機能の
、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目についてp<0.05)で
用量依存的な改善をもたらす。性別に基づく改善の差は見出されない。
【0332】
IgM12およびIgM42が、立体的解析を介してビヒクルによる処置の対照と比較
して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における神経突起成
長の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、
0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の神経突起成長における改
善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの神経突起成長におけるより大きな改
善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの神経突起成長におけるなおよ
り大きな増大X+++を伴う、神経突起成長の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改
善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0
.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0333】
IgM22およびIgM46は、立体的解析を介してビヒクルによる処置の対照と比較
して評価した、TMEV感染マウスに由来する脳切片および脊髄切片における再ミエリン
化の統計学的に有意で用量依存的な増大をもたらすことが見出される。各抗体について、
0.025〜2.5mg/kgの用量範囲にわたり、低用量時の再ミエリン化における改
善Xの増大、用量を0.25mg/kgとするときの再ミエリン化におけるより大きな改
善X+の増大、および用量を2.5mg/kgとするときの再ミエリン化におけるなおよ
り大きな増大X+++を伴う、再ミエリン化の有意で用量依存的な変化[評価中、Xを改
善とする]が見出される。この傾向は、動物を12匹とする群サイズについて、検出力0
.8のレベルおよび0.05のアルファレベルで観察される。
【0334】
(実施例17)
脊髄損傷:抗体の組合せ
この実施例では、用量比を固定した組換えIgM抗体の多様な組合せを、本明細書の実
施例14で記載した脊髄損傷モデルにおける神経学的転帰の改善について調べる。したが
って、IgM抗体の組合せ(混合剤として)またはビヒクル対照による静脈内処置を、損
傷の10分後に施す。運動評価項目を、上記の通りにモニタリングする。さらに、髄鞘形
成および神経突起成長を評価して、抗体の組合せによりもたらされる変化を調べる。評価
した組合せを、表6Aおよび表6Bに示す。
【0335】
【表6A】
【0336】
【表6B-1】
【0337】
【表6B-2】
【0338】
)Xは改善を示し、X+は一層の改善を示し、X++はなお一層の改善を示す。改
善スコアの値は、所与の抗体の投与量と関係する。したがって、X+を、その同じ抗体に
ついてXより大きな改善とする。1つの抗体についての改善Xは、他の抗体についてのX
値と必ずしも同じではなく、1つの抗体のX+値は、他の抗体のX+値と必ずしも同じで
はなく、1つの抗体のX+++値は、他の抗体のX+++値と必ずしも同じではない。
【0339】
この実験では、組換え抗体の組合せであるIgM12+IgM42、IgM22+Ig
M46、IgM12+IgM22、IgM12+IgM46、IgM42+IgM22、
およびIgM42+IgM46の各々が、BBBパラメータを介して見出される後肢機能
(運動評価項目)の統計学的に有意で用量依存的な改善をもたらすことが見出される。性
別に基づく改善の差は見出されない。
【0340】
さらに、これらの組合せの各々は、運動機能を、同じ用量における抗体の各々単独によ
る改善と比較して相加的を超える(すなわち、相乗的)な形で改善することが見出される
。ここでもまた、性別に基づく改善の差は見出されない。
【0341】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM42の組合せは、神経突起成長を、ビヒクルによる対照と比較し
て有意に(p<0.05)増強した。神経突起成長度は、単独で投与される各抗体の相加
的効果と比較して相乗的である。したがって、これらの抗体は、異なる作用機構を介して
成長を誘発し、これは、これらの抗体の神経組織へのそれぞれに異なる結合パターンと符
合することが理解される。
【0342】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM22+IgM46の組合せは、髄鞘形成の、ビヒクルによる処置の対照と比較
して有意な(p<0.05)増大をもたらした。さらに、再ミエリン化度は、単独で投与
されるIgM22またはIgM46について予測される相加的効果と比較して相乗的であ
る。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したが
って、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場
合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を
誘発する。
【0343】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM22の組合せは、損傷している脊髄における髄鞘形成ならびにニ
ューロン成長の、ビヒクルによる処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をも
たらす。さらに、ニューロン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量
において単独で投与されるIgM12またはIgM22それぞれの効果と比較して相乗的
である。理論に束縛されずに述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。し
たがって、成長しつつあるニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在す
る場合、これらの細胞は、それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生
成を誘発する。
【0344】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM12+IgM46の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM12またはIgM46それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0345】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM22+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM22またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0346】
被毛状態、歩行パラメータ、およびロータロッドスコアを含めた多様な感覚運動の評価
項目において、ビヒクルによる処置と比較して統計学的に有意(各評価項目について、ビ
ヒクルによる処置と比較して:p<0.05)で用量依存的な改善をもたらすことに加え
て、IgM46+IgM42の組合せは、髄鞘形成ならびにニューロン成長の、ビヒクル
による処置の対照と比較して有意な(p<0.05)増大をもたらす。さらに、ニューロ
ン成長および再ミエリン化の程度は、この例で用いられる用量において単独で投与される
IgM46またはIgM42それぞれの効果と比較して相乗的である。理論に束縛されず
に述べると、これは傍分泌活性の結果であると理解される。したがって、成長しつつある
ニューロンおよび成長しつつある希突起膠細胞の各々が存在する場合、これらの細胞は、
それぞれ、評価される他の細胞型に正の影響を及ぼす傍分泌生成を誘発する。
【0347】
(実施例18)
ヒトニューロン結合IgMである組換えrHIgM12抗体は脊髄軸索を保護する
本発明者らは、天然ヒト血清抗体であるsHIgM12が、in vitroにおいて
ニューロンに結合し、神経突起成長を促進することを裏付けた。本発明者らは、同一の特
性を伴う組換え形態であるrHIgM12を生成させた。サイラーマウス脳脊髄炎ウイル
ス(TMEV)による感受性マウス系統の脳内感染は、多発性硬化症の進行性の形態と同
様の進行性の軸索喪失および神経機能不全を伴う慢性脱髄性疾患を引き起こす。このモデ
ルを、希突起膠細胞に結合するIgMクラスの抗体で処置すると、CNSの再ミエリン化
が改善される(Warringtonら(2007年)、J Neurosci Res
、85巻:967〜976頁)。これに対し、ニューロンに結合する血清由来のヒトモノ
クローナル抗体(sHIgM12)は、ラミニンと同程度に頑健な神経突起成長を促進し
、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害効果を低減する(Warringtonら
(2004年)、J Neuropathol Exp Neurol、63巻(5号)
:461〜473頁)。より近年には、上記と同一の生物学的特性を伴うヒトsHIgM
12の組換え形態(rHIgM12)を生成させた。rHIgM12の脊髄軸索の完全性
に対する効果を研究するために、本発明者らは、解剖学的に連続であり、機能的に保存さ
れた軸索に依拠する技法である逆行標識法を実施した。
【0348】
方法
逆行標識法:マウスに麻酔をかけた後、下部胸椎(T10〜11)において背部椎弓切
除を実施した。脊髄を右側において片側切断し、片側切断部位に4%Fluorogol
dの滅菌溶液を充填した。手術の1週間後、マウスを屠殺し、脳を摘出した。脳幹の連続
切片(40mm厚)を作製し、切片を4枚ごとに解析した。16枚の脳幹スライスから、
大型で明るい蛍光ニューロンを、200倍の拡大率下でカウントした。
【0349】
結果
TMEVモデルは、神経保護を促進し、軸索喪失を防止する戦略を開発するためのプラ
ットフォームをもたらす。疾患の早期は炎症および脱髄を包含し、後期は軸索喪失および
機能欠損を提示する。前出例で詳述し、共焦点顕微鏡画像(図15)を介して確認される
通り、1mgの単回腹腔内注射の後、rHIgM12は脊髄に入り、ニューロフィラメン
ト+(NF)の軸索に局在する。rHIgM12はまた、クロスカット形としてNF+線
維束にも共局在する(図15D)。動物研究では、rHIgM12が、逆行標識した脳幹
ニューロン数を増大させる。感染の90日後(dpi)に、rHIgM12または生理食
塩液をSJLマウスに投与した。処置の9週間後に、逆行標識法のための脊髄手術を実施
した。手術の1週間後、マウスを屠殺し、脳幹の連続切片により、蛍光標識したニューロ
ンを定量化した。rHIgM12は、生理食塩液対照と比較して逆行標識した脳幹ニュー
ロン数を増大させる(データは示さない)。したがって、rHIgM12で処置したマウ
スの逆行標識した脳幹ニューロンは、生理食塩液で処置した対照と比較してより多かった
【0350】
(実施例19)
ニューロン結合ヒトモノクローナル抗体の単回投与はマウス脱髄モデルにおける自発活
動を改善する
本発明者らの実験室は、天然ヒト血清抗体であるsHIgM12が、in vitro
においてニューロンに結合し、神経突起成長を促進することを裏付けた。本発明者らは、
同一の特性を伴う組換え形態であるrHIgM12を生成させた。サイラーマウス脳脊髄
炎ウイルス(TMEV)による感受性マウス系統の脳内感染は、結果として、多発性硬化
症の進行性の形態と同様の進行性の軸索喪失および神経機能不全を伴う慢性脱髄性疾患を
もたらす。rHIgM12のTMEV感染マウスの運動機能に対する効果を研究するため
、本発明者らは、夜間における自発活動を、何週間にもわたってモニタリングした。通常
は活動的な夜間のモニタリング時間において最大限の活動変化が生じることが予測される
ため、夜間挙動は、齧歯動物の神経機能についての高感度の尺度である。ベースラインの
自発活動についてまとめるため、マウスを、処置前に8日間にわたり活動ボックスに入れ
た。処置後、各群における活動を8週間にわたり持続的に記録した。本発明者らは、以下
の2つの理由で8週間にわたる長期のモニタリング期間を選択した:(1)本発明者らは
既に、IgM誘導性再ミエリン化が、処置後5週間までに示されると裏付けたこと、およ
び(2)この系統におけるTMEV誘導性脱髄性疾患の進行は極めて遅いこと。長期の観
察期間および大規模なデータセットに起因して、フィルタリングされていない元の記録を
研究しながら、処置群間の差異を十分に理解することは困難でありうる。高度に変動的な
元のデータにおける変化を明確に詳述するために、本発明者らは、3つの異なる方法:(
1)ビニング法、(2)ガウスローパスフィルター(GF)の適用、および(3)多項式
フィッティングを適用した。3つの方法の各々を用いて、本発明者らは、rHIgM12
による早期の処置が、水平方向の運動機能および垂直方向の運動機能のいずれにおいても
、対照のIgMおよび生理食塩液と比較して改善を誘導するのに対し、後期の処置が改善
するのは水平方向の活動だけであることを示した。rHIgM12は、正常な非感染マウ
スの活動を変化させなかった。この研究は、ニューロン結合IgMによる処置は、in
vitroにおいてニューロンを保護するだけでなく、また、運動機能の改善にも影響を
及ぼすという仮説を裏付ける。
【0351】
序説
齧歯動物の疾患モデルにおける、長期にわたる神経機能のモニタリングおよび解析は、
依然として難題である。通常は活動的な夜間のモニタリング時間において最大限の活動変
化が生じることが予測されるため、夜間挙動は、齧歯動物の神経機能についての高感度の
尺度である[1]。しかし、進行が緩徐な疾患の動物モデルでは、動作のモニタリングが
数週間にわたることが多い。本発明者らは既に、希突起膠細胞結合抗体(rHIgM22
)が、処置後5週間までに、再ミエリン化を増強することを報告した[2]。疾患および
修復の発生のいずれもが緩徐な過程であることを考え合せ、かつ、活動における任意の変
動を確実にするために、本発明者らは、短期のモニタリングにおいて用いられるサンプリ
ング密度と同じサンプリング密度で、長期にわたる活動をモニタリングした。これにより
、大規模で高度に変動的なデータセットが創出された(図32A、C)。処置後の変化を
明確に詳述し、長期の活動における一般的な傾向を復元するために、本発明者らは、Ma
thematica(Wolfram Research,Inc.)を用いることによ
り、データビニング、ガウスフィルタリング、および多項式フィッティングの使用を比較
した。
【0352】
サイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)による感受性マウス系統の脳内感染は、
結果として、多発性硬化症の進行性の形態と同様の進行性の神経機能不全を伴う慢性脱髄
性疾患をもたらす[3]。このモデルを、希突起膠細胞に結合するIgMクラスの抗体で
処置すると、CNSの再ミエリン化が改善される[4]。これに対し、ニューロンに結合
する血清由来のヒトモノクローナル抗体(sHIgM12)は、ラミニンと同程度に頑健
な神経突起成長を促進し、CNSミエリンの神経突起成長に対する阻害効果を低減する[
5]。より近年には、同一の生物学的特性を伴うヒトsHIgM12の組換え形態(rH
IgM12)を生成させた。本発明者らは、rHIgM12の半減期は3.6時間である
が、なおも血液脳関門を越え、神経組織に結合することを既に示した(未刊行の観察)。
rHIgM12のTMEV感染マウスの活動に対する効果を研究するため、本発明者らは
、AccuScan活動ボックス(Accuscan Instruments,Inc
.、Columbus、OH)を用いて夜間における自発活動を数週間にわたってモニタ
リングした。本発明者らは、以下の2つの理由で8週間にわたる比較的長期のモニタリン
グ期間を選択した:(1)IgM誘導性再ミエリン化が、処置後5週間までに示されるこ
と、および(2)この系統におけるTMEV誘導性脱髄性疾患の進行は、MSの純粋に自
己免疫的なEAEモデルと比較して極めて遅いこと[6]。既に刊行された研究と比較し
て長期の観察期間(表7)に起因して、生データの目視により変化を同定することは、困
難であるとわかった。
【0353】
【表7】
【0354】
材料および方法
マウス:SJL/Jマウス(Jackson Laboratories、Bar H
arbor、ME)を、Mayo Clinicの動物ケア施設に収容し、飼育した。動
物用のプロトコールは、Mayo ClinicのInstitutional Ani
mal Care and Use Committeeにより承認された。
【0355】
脱髄のサイラーウイルスモデル:脱髄性疾患は、6〜8週齢の雌マウスにおいて、TM
EVの脳内注射を介して誘導した。27ゲージの注射針により、Daniel株のTME
V2.0×10プラーク形成単位を含有する10μlを送達した。この結果、発症率を
>98%とするが致死性はまれな感染がもたらされた。全ての動物は、2週間以内に消失
する軽度の脳炎を発症した。動物は、次の6〜8カ月間において、慢性脊髄脱髄性疾患に
より増悪した。軸索損傷および軸索喪失は感染の3カ月後に始まり、神経機能不全と相関
する[3]。
【0356】
抗体による処置:SJLマウス(非感染、感染の45日後および90日後)を、0.5
mlのPBS中に溶解させた抗体(rHIgM12またはアイソタイプのIgM対照)2
00μgの単回腹腔内投与で処置した。第3群は、0.5mlのPBSだけで処置した。
【0357】
自発活動のモニタリング:自発運動の活動は、Digiscan open fiel
d(OF)装置(Omnitech Electronics;Columbus、OH
)およびVersamaxソフトウェア、v.4.12−1AFE(Accuscan
Instruments,Inc.、Columbus、OH)により記録した。この装
置は、2セットの光電管を保持する金属製フレームにより支持される6つのアクリル製ケ
ージ(40×40×30.5cm)からなる。このデバイスは、投射された赤外線ビーム
の遮断回数を集計することにより、水平方向の運動および垂直方向の運動の個別の数を測
定する。全てのケージにおいて、マウスを、以下の同一の環境状態に曝露した:(a)食
物および水を自由に摂取可能とすること、(b)通常の12時間の明/暗周期、(c)周
囲温度を70°Fとすること。各実験において、活動過剰の動物、および、まれな場合に
は、体重過剰の動物は除外し、残りのマウスを無作為化した。SJLマウス5匹ずつの複
数の群を各ケージの中央に入れ、連続8日間にわたり、ベースラインの自発活動について
まとめた。この期間の後、ベースラインの活動が最も類似する3つの群のマウスを、rH
IgM12、対照のIgM抗体、または生理食塩液で処置し、次いで、8週間にわたりモ
ニタリングした。1時間のブロック当たりのビーム遮断回数としてデータを収集した。水
平方向および垂直方向の全活動は、Versadatプログラム、v.3.02−1AF
E(Accuscan Instruments)を用いて記録した。本発明者らは、こ
れがInstitutional Animal Care and Use Comm
ittee(IACUC)により許容される最大限の動物数であるため、活動ボックス1
つ当たりに5匹を超える動物を入れることができなかった。
【0358】
データ解析:フィルタリングされていない元の記録を研究しながら、処置群間の差異を
十分に理解することは困難でありうる(図32A〜C)。高度に変動的な元のデータにお
ける緩徐な傾向を復元するために、本発明者らは、3つの異なる方法:(1)ビニング法
、(2)ガウスローパスフィルター(GF)の適用、および(3)多項式フィッティング
を適用した。
【0359】
データビニングとは、最も単純な方法であり、あらかじめ選択したビン内のデータ点の
群を、それらの平均値で置換する。本発明者らの場合、本発明者らは、マウスの活動が夜
間にピークとなることを踏まえ、夜間におけるビンを選択した。したがって、本発明者ら
は、図33A、33B、35C、35D、37C、および37Dに示す通り、全ての夜間
におけるリーディング(12時間/日)を、それらの平均値で置換した。群の比較は、処
置1回当たり12時間にわたる有効な試料サイズを有する平均値の差異についての単純な
t検定を介して実施することができる。これらの比較は単純であるが、各時点における試
料サイズが小型である結果として標準誤差が大きくなり、統計学的な比較の使用は限定さ
れたものとなる。全体的に、データビニングは、ノイズの多いデータを可視化するのに有
効な方法であるが、統計学的検定のための使用は限定されたものとなる。
【0360】
ガウスフィルタリング(GF)(また、データの平滑化、または感度の増強である、ロ
ーパスフィルタリングとしても公知である)は、フーリエ変換分光法および画像処理にお
いて一般に用いられるノイズ低減手順である[7]。ガウスブロードニング(GB、日単
位)の適切な選択により実施されるGFにより、高頻度の変動が、所望のレベルで除去さ
れた。フィルターの選択は任意であり、予測される活動変化の割合を指針とすることがで
きる。GFは、影響がガウス関数に従い減衰するように、値の両側から採取した点からの
情報を用い、これらの点の影響を重みづけする平滑化法である。コンピュータ利用につい
て述べると、GFは、以下の2つの同等な方式で実装することができる:1)データをフ
ーリエ変換(FT)した後、ガウス関数で乗じ、この積のFTの逆数を取る方式、および
2)ガウス核によるデータの直接的なコンボリューション。高レベルのソフトウェアパッ
ケージ(Matlab(Mathworks)またはMathematica(Wolf
ram))では、ガウスフィルター関数が、使用者によるプログラミングを最小限とする
かまたはプログラミングを伴わずに利用可能である。GBを適切に選択すれば、上記で詳
述したGF法により、高度に複雑かつ異質なデータの単純な可視化が可能となる。GFの
1つの限界は、GFにより傾向の容易な可視化が可能となる一方で、GBを選択すること
により、統計学的な比較が複雑化することである。
【0361】
比較のために、かつ、簡略化した統計学的比較を可能とする方法を裏付けるために、本
発明者らは、多項式をデータに適合させる。これらのモデルは、任意の次数(xn)まで
の多項式の項を許容し、各処置群について個別の形態パラメータ(相互作用項)を推定し
た。本発明者らによる6次多項式の選択は、複数の選択肢を探索した後の恣意的なもので
あったが、ある時間にわたる非線形効果をモデル化するのに十分な柔軟性を可能とした。
次数を変化させる多項式を用いて異なる処置群を最適な形で適合させたため、本発明者ら
は、高次における柔軟性を可能とすることを選択した。Akaike Informat
ion Criteria(AIC)を用いて、多項式系による複数の処置群にわたる「
最良適合」を決定した[8]。AICとは、さらなる項を足し合わせることによりR
増分を釣り合わせるが、過剰複雑性(すなわち、自由度の使用)にはペナルティーを科す
モデル比較の方法である。AICによれば、一般に、3次の適合が、データの傾向を捕捉
するのに十分とされ、場合によっては、2次適合、なおまたは線形適合が「最良」とされ
た。しかし、本発明者らの主な目標は、観察される時点における処置群を比較することで
あった。データ点が多数であり、本発明者らは、多項式フィッティングを用いて、本発明
者らの観察データ以外の処置値を予測する(または外挿する)わけではないため、結果に
対する「過剰適合」の影響は最小限である。
【0362】
多項式フィッティングの1つの利点は、処置群の統計学的な比較が単純であり、指定し
た時点において、予測されるモデル値およびそれぞれの標準誤差を用いて処置を比較しう
ることである。直接的な対応のある処置の比較は、時間枠の全体にわたり、定期的な間隔
で実施して、処置群が有意に異なったときを決定することができる。最後に、多項式フィ
ッティングは、さらなる中程度頻度および低頻度のノイズを除去し、これにより、時間枠
の全体にわたり、視覚的注意の焦点が一般的な傾向に当てられる。
【0363】
しかし、実験の各々においては、一部の群のマウスのベースラインにおける水平方向お
よび垂直方向の活動(8日間)が、何らかの形で異なっていた。したがって、本発明者ら
はまず、Z値を用いて、各群について個別にベースラインの活動を標準化し、次いで、こ
れらの値に対して、ガウスフィルタリングを実施するか、または多項式を適合させた。
【0364】
統計学的な解析:Mathematica(Wolfram)で書かれたマクロを用い
ることにより、データのビニングおよびガウスローパスフィルターによるデータの平滑化
を実施した。マクロおよび指示書は、mayoresearch.mayo.edu/m
ayo/research/rodriguez_lab/software.cfmに
おいて入手可能である。z統計(SAS Institute,Inc.)に基づいて予
測されるモデル値およびそれぞれの標準誤差を用いて、多項式回帰モデルおよび処置群の
統計学的比較を実施した。直接的な対応のある処置の比較は、時間枠の全体にわたる各日
において実施し、統計学的な有意性は、典型的なα=0.05の閾値で決定した。多重比
較のための調整は行わなかった。
【0365】
結果
感染の90日後において施すと、rHIgM12はSJLマウスにおける水平方向の活
動を改善する
感染の90日後(dpi)におけるSJLマウス5匹ずつの3つの群を活動ボックスに
入れ、連続8日間にわたりベースラインの活動を測定した。2つの群のマウスを、rHI
gM12またはアイソタイプの対照IgM 200μgずつの単回投与で処置した。第3
群は、生理食塩液で処置した。処置後、自発活動を、8週間にわたり持続的に記録した。
データは、1時間のブロックで収集したため、本発明者らは、各群について約900ずつ
のデータ点を得た。この元の生データ(図32A〜C)は高度に変動的であるので、処置
群間の差異を十分に理解することは困難でありうる。3つの方法(ビニング法、ガウスフ
ィルタリング、および多項式フィッティング)全てにより、rHIgM12で処置したマ
ウスが、水平方向の活動における改善を示すのに対し、対照のIgMおよび生理食塩液で
処置したマウスは、8週間にわたり活動の変化を示さないことが明らかとなった(図33
A、C、およびE)。多項式フィッティングの後、本発明者らは、3つの処置についての
直接的な対応のある比較を用いて、rHIgM12処置マウスにおける水平方向の運動機
能の改善が、処置の7日後(対照のIgMと比較して)および11日目において(生理食
塩液と比較して)統計学的に有意となることを決定した(図34)。rHIgM12処置
動物の水平方向の夜間活動において観察される改善は、約30日間にわたり持続し、次い
で、ベースラインレベルに戻った。生理食塩液処置群の対照IgM処置群と対比した対応
のある比較は、38〜52日目にわたり統計学的な有意性を示した。しかし、rHIgM
12処置群と対照との間で観察される主要な差異と比較した場合、本発明者らは、対照群
間におけるこれらの差異は、生物学的に有意ではないと考える。他方、垂直方向の活動は
、主要な差異を示さず、3つの群全てにおいて同様であった(図33B、D、およびF)
【0366】
感染の45日後に施すと、rHIgM12はSJLマウスにおける水平方向および垂直
方向の活動を改善する
以前の研究では、垂直方向の活動(後肢による立脚挙動)を主要なリードアウトとして
用いた[1]。慢性TMEV感染マウスでは、軸索の脱落に起因して、後肢が徐々に脆弱
となり、こわばるので、後肢による立脚が低減された。この研究の第1の実験では、rH
IgM12を、脱髄が最大となり、進行性の軸索喪失が始まる時点で投与した(感染の9
0日後)ところ、水平方向の活動だけが改善された。後肢による立脚挙動は影響を受けず
、3つの処置群全てにおいて同等であった。したがって、本発明者らは、早期の時点にお
ける処置がより有益でありうるかどうかを問うた。第2の実験では、マウス5匹の群を、
感染の45日後に、200μgのrHIgM12、アイソタイプの対照IgM、または生
理食塩液の単回投与で処置した。同一の実験デザインを用い、ベースラインの活動を8日
間にわたり収集し、処置後の活動を8週間にわたり収集した。処置の約2週間後に始まる
この実験では、rHIgM12で処置したマウスが、水平方向および垂直方向のいずれの
活動においても明らかな改善を示した。これは、3つの方法の全て:データの平均化、ガ
ウスフィルターまたは多項式フィッティングの適用を用いた後で明らかとなった(図35
C〜H)。対照のIgMおよび生理食塩液で処置したマウスは、研究の終了まで同様の活
動レベルを示した。rHIgM12で処置したマウスでは、実験が終了するまで、水平方
向の活動の改善が明らかであった。他方、垂直方向の活動の改善は、約4週間にわたって
続き、次いで、ベースライン値へと低下した。3つの処置についての直接的な対応のある
比較は、rHIgM12で処置したマウスにおける水平方向の運動機能の改善が、処置の
13日後において(対照のIgMと比較して)、および処置の9日後において(生理食塩
液と比較して)有意に異なることを示した(図36AおよびC)。同様に、rHIgM1
2で処置したマウスにおける垂直方向の運動機能も、処置の14日後において(対照のI
gMと比較して)、および処置の6日後において(生理食塩液と比較して)有意に異なっ
た(図36BおよびD)。対照のIgM処置群を生理食塩液処置群と対比する比較は、水
平方向の活動または垂直方向の活動のいずれについても大きな生物学的差異を明らかにし
なかった(図36EおよびF)。
【0367】
rHIgM12は正常の非感染マウスにおける自発活動を変化させない
以前の2つの実験におけるrHIgM12による処置は、神経障害を来した感染マウス
において明らかに有益な効果を示した。この抗体が刺激性の特性を有し、したがって、運
動機能の増大を誘発する可能性を除外するために、本発明者らは、非感染マウスによる同
様の実験を実施した。週齢を一致させた非感染マウスの3つの群を、rHIgM12、対
照のIgM、または生理食塩液で処置した。感染マウスにおける活動の増強と比較して、
rHIgM12、ならびに、他の2つの処置は、正常マウスの運動機能の増大を誘導しな
かった(図37)。3つの群全てが、自発活動の低下傾向を示した。この結果は、いずれ
の抗体も、正常マウスにおける活動の増大に影響を及ぼさないことを示す。
【0368】
考察
多発性硬化症のほか、他の脱髄性疾患および神経変性疾患のための神経保護療法を開発
することが火急に必要とされている。炎症性CNS疾患における軸索損傷の軽減を間接的
にもたらしうる抗炎症薬も存在するが、ニューロン/軸索のレベルで直接作用する薬物は
存在しない。神経保護の主要な目標は、ニューロンの機能不全を制限し、ニューロンおよ
び軸索の機能的完全性を維持しようと試みることである。多年にわたり、MSの病理学的
特徴である脱髄は、永続的な神経欠損の原因であると考えられた。今日では、脱髄が永続
的な軸索喪失に必要ではあるが十分ではないことが明らかである[9]。脱髄だけが、露
出された軸索に、T細胞の細胞傷害作用または死滅した希突起膠細胞に由来する局所性の
神経栄養性の支持の喪失により引き起こされる続発的損傷に対する素因を与える[10]
【0369】
ニューロン結合抗体であるsHIgM12が、頑健な神経突起伸長を促進したという以
前の観察[5]は、in vitroにおける明らかに有益な応答を表す。この抗体の組
換え形が、in vitroにおいて同様の特性を示したため、本発明者らは、それがT
MEV誘導性脱髄性疾患を伴うマウスの運動活動に影響を及ぼすかどうかを問うた。運動
機能の解析は、夜間における自発活動をモニタリングすることにより実施した。第一に、
本発明者らは、脱髄が最大となり、軸索喪失が始まる時点(感染の90日後)において、
マウスを処置した。処置の8週間後、rHIgM12が、水平方向の運動活動だけを改善
したのに対し、垂直方向の活動は影響を受けなかった。しかし、疾患の早期に(感染の4
5日後に)マウスを処置したところ、rHIgM12は、水平方向および垂直方向のいず
れの活動も改善した。慢性TMEV誘導性疾患では、後肢による立脚挙動(垂直方向の活
動)への影響が最も重度であり、この活動の一因となる軸索の変性および喪失は、不可逆
性であると考えられる。逆に、これらの軸索の損傷が不可逆的ではない疾患の早期が、処
置に理想的な時点であると考えられる。Jonesらは、EAEモデルを用い、軸索の脱
落と運動機能とを研究することにより、神経保護薬による処置は、疾患の早期、運動欠損
が始まるさらに前に開始すべきであるという同一の枠組みを提起した[11]。第二に、
機能的改善が生じるのは処置後約2週間であり、約25〜30日間後には減衰し始めるた
め、運動機能を維持するには、処置を反復することが必要でありうる。本発明者らの研究
では残念ながら、結果としてアナフィラキシーをもたらす、マウスにおける抗ヒト抗体免
疫反応のために、ヒトIgMの複数回投与を試験することが可能ではなかった。A2B5
とは、神経突起成長もまた促進するマウスモノクローナル抗体であり[5]、機能的転帰
およびその作用の持続時間に対する複数回投与対単回投与を試験することが可能な候補を
表す。最後に、いずれの処置も、非感染の正常動物の運動機能には効果を及ぼさなかった
。処置に関わらず、正常マウスの全ての群は、自発活動の漸進的な低下を示したが、これ
は、環境への馴化により説明することができる。正常動物におけるこの活動の低下は、r
HIgM12により誘導される、疾患マウスの活動の増大をさらにより印象的なものとす
る。
【0370】
本発明者らは、神経欠損の発症を防止することが一般に極めて困難であった、炎症性脱
髄性疾患の慢性進行性モデルにおける運動機能の改善を裏付けた。したがって、ニューロ
ン結合モノクローナル抗体rHIgM12は、ヒトMSを処置するだけでなく、また、他
の脱髄性障害または神経変性障害を処置するためにも極めて有望な治療剤を表す。加えて
、臨床的に無症状のMSによる侵襲例も存在するため[12、13]、本発明者らおよび
他者は、神経保護的化合物を免疫調節剤で補完すべきであることも提起した[11]。本
発明者らは、免疫調節剤薬とrHIgM12とによる組合せ処置が、軸索損傷後における
CNSの保存および修復の著明な増強を結果としてもたらしうることを提起する。
【0371】
まとめると、この研究による結果は、以下の3つの重要な結論を提示する:1)処置を
施す病期が極めて重要である(早期の処置ほど有益性が増大する)こと;2)運動機能の
改善をさらに維持するには、処置の反復が必要でありうること;および3)rHIgM1
2が毒性ではなく、正常な非感染動物における運動機能には影響を及ぼさないこと。これ
らの知見は、ニューロンを標的とする組換え抗体が、慢性軸索脱髄モデルにおける神経機
能を改善するという仮説と符合する。
【0372】
【数9】
【0373】
【数10】
【0374】
(実施例20)
運動ニューロン疾患であるALSを処置するためのニューロン保護的ヒトMAb
筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、主に前角細胞および皮質脊髄路ニューロンを損な
う深刻な神経疾患である。ALSとは、脳および脊髄における運動細胞の進行性の変性を
特徴とする運動ニューロン疾患である。運動細胞(ニューロン)は、個体が動き回り、話
し、呼吸し、嚥下することを可能とする筋肉を制御する。神経がそれらを活性化しなけれ
ば、筋肉は徐々に脆弱化し、失われる。広範な研究にもかかわらず、この障害の病因は、
大部分未知であり、有効な処置は存在しない。ALSのまれな遺伝子形態を伴う少数の患
者において関与する遺伝子により、この障害に対する潜在的な鍵がもたらされる[1]。
同定された1つの遺伝子変異は、Cu/Zn SOD(銅/亜鉛スーパーオキシドジスム
ターゼ)変異であり、これは、ALSの遺伝形態を伴う患者のうちのわずかな比率におい
て存在する[2]。SOD変異を保有する患者は、関連の遺伝子変異を伴わずにこの疾患
を自発的に発症する患者と比較して、神経学的転帰が酷似することが明らかである[3]
。この酵素は、スーパーオキシドから酸素および過酸化水素への触媒を行う。SOD1と
は、ALSと関連する酵素形態である。軸索輸送を急速に損なうSOD1の機能獲得が存
在するようである[4]。家族性ALSにおけるSOD変異の頻度は12〜23%で変化
し、この遺伝子は通常、常染色体優性遺伝子として遺伝する。
【0375】
この遺伝子を同定することにより、新たな薬物をデザインし、調べるための、ALSの
疾患特徴を伴う動物モデルの開発が可能となった。ALSの遺伝形態と非遺伝形態とは類
似の疾患であるため、根底にある原因は、関連している可能性がある。したがって、遺伝
性ALSのマウスモデルにおいて有効な薬物はまた、ALSのより一般的なランダム形態
を伴うヒトにおいても作用する。ヒトSOD1遺伝子およびALSの病理学的特徴を伴う
トランスジェニックマウスモデルの利用可能性により、この疾患のための薬物の開発が推
進されてきた[5]。これらのトランスジェニックマウスは、進行性の運動ニューロン喪
失および神経欠損を発症する。ALSの遺伝形態と非遺伝形態とは臨床的に類似するため
、運動ニューロン機能における根底にある欠損が関連している可能性がある。SOD1関
連ALSにおいて有効な試薬はまた、有病率の高いALSの散発形態の一助ともなり得る
。現在のところ、ALS用に市販されている薬物は、グルタミン酸遮断薬であるRilu
tek(登録商標)(Riluzole錠)の1つに過ぎない。しかし、研究により、こ
の薬物は、患者の生活の質を改善せず、寿命を平均2カ月間延長しうるに過ぎないことが
示されている。より有効な薬物が火急に必要とされていることが明らかである。
【0376】
本発明者らの実験室では、中枢神経系(CNS)の脱髄性障害および変性障害を処置す
るための新規の療法を開発し[6]、CNSにおける修復を誘導することが示されている
、希突起膠細胞[7]またはニューロン[8]に結合する一連のヒトモノクローナル抗体
(mAb)を同定した。これらの抗体は、クローニングされ、配列決定され[9]、将来
の臨床試験のためにGMPグレードの施設で大量に作製されている[10]。組換えヒト
抗体IgM12(rHIgM12)は、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症を
伴う患者から単離された抗体に由来する[11]。この抗体は、CNSのニューロンおよ
び軸索を特異的に標識する[8]。IgM抗体であるにもかかわらず、上記の実施例で示
した通り、IgM12は、血液脳関門を越え、CNS内の軸索およびニューロンに特異的
に結合する。In vitroにおいて、rHIgM12は、小脳顆粒ニューロン、皮質
ニューロン、海馬ニューロン、および網膜神経節細胞ニューロンを含めた広範なニューロ
ンに結合する[12]。in vitroにおける実験は、rHIgM12が、ニューロ
ンを細胞死から保護することを裏付ける。ALS(ALSの遺伝形態および特発性形態の
両方)の早期に患者に投与されたモノクローナル抗体であるrHIgM12は、前角細胞
を保護し、軸索損傷を防止し、これにより、身体障害の開始を遅らせ、生存を改善するよ
うに作用しうる。
【0377】
結果
本発明者らは、G86R hSOD1変異を伴うマウス(FVBTg SOD1 G8
6R M1Jwg、Jackson Labs)[13]を、ヒト抗体rHIgM12で
処置する実験を実施した。G86Rマウスは、出生時は正常に見える。しかし、約90〜
100日齢から、G86Rマウスは、顕著な体重減少を経て、著明な筋肉の萎縮を発症し
、急激な体重減少から数週間以内に呼吸器不全で死滅する。LUDOLPH?無作為化「
盲検」試験では、これらのマウスが55日齢のときに、GMPグレードで精製されたrH
IgM12を、単回腹腔内投与(200μg)として施した。これに対し、プラセボ群に
は、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)を施した。少数のマウスは未処置のまま放置して、
人為的な操作を伴わない疾患の自然経過を決定した。PBS処置マウスおよび非処置マウ
スについてのデータは同様であったため、これらの群を統計学的な解析のために併合した
。マウスは、本発明者らの実験室の1人の試験実施者による処置のために無作為化し、そ
れらが瀕死となるまで、別の「盲検の」試験実施者に神経欠損について観察させた。処置
する試験実施者と、病理学的解析を実施する他の試験実施者とは、コードが解読されるま
で無作為化プロトコールについて知らされなかった。
【0378】
動物は毎週ベースで秤量して、ヒトmAbによる処置が、生存を延長するだけでなく、
また、体重減少の開始も遅らせるかどうかを決定した。結果は驚くべきものであり、rH
IgM12を施された動物における生存の、PBSを施された動物と比較して統計学的に
有意な延長を示した。試験実施者は、平均で25〜30日間にわたる生存の増大(これは
、カプラン−マイヤー曲線(図38)を介して統計学的な有意性(P=0.008)を示
した)を記録した。加えて、rHIgM12で処置したマウスは、動物の疾患進行の評価
において一般に評価されるパラメータである体重の減少[18]がそれほど顕著ではなか
った(図39)。本発明者らの知る限り、これは、ニューロンを指向する完全組換えヒト
モノクローナル抗体が、ALS表現型を伴う動物の生存を延長するのに有効であることに
ついての最初の実証である。
【0379】
動物が瀕死期に到達したら、それらを屠殺し、Trump固定剤で潅流した。脊髄を摘
出し、1mmのブロックへと切断し、1μm厚の切片用のAralditeプラスチック
内に包埋した。これらの切片を組織学的に調べた。SOD変異に由来するALSを発症し
た動物は、軸索が分解されるときに比較的容易に同定されるミエリン渦が脊髄白質におい
て発生するように、白質路において著明な軸索変性を示した。rHIgM12を施された
動物の胸部切片における脊髄渦(変性軸索)の数を、PBSを施された動物の場合と対比
して定量化したところ、モノクローナル抗体療法で処置した動物におけるミエリン渦の数
は、統計学的に有意に少なかった(図40)。
【0380】
また、脊髄切片を、CNSにおけるニューロンを特異的に標識し、前角細胞のほか、後
角細胞におけるニューロンも極めて良好に明確化するマーカーであるNeuNに対する抗
体でも染色した。多くの前角細胞を、rHIgM12を施された動物の脊髄胸部において
、PBSと比較して定量化した(図41、左)。rHIgM12を施された動物において
保存された前角細胞の数の増大には、PBSと対比して高度に統計学的な差異が見られた
。また、後角細胞におけるニューロンについての同様の解析も、rHIgM12で処置し
たマウスのニューロンの有意な増大を明らかにした(図41、右)。
【0381】
ヒト抗体であるrHIgM12は、マウス、ヒト(図42)、ウサギ、および霊長動物
を含めた多くの種から得られた多くの種類のCNSのニューロンの表面に結合する。これ
により、rHIgM12によるニューロンのシグナル伝達が、マウスからヒトを含めた哺
乳動物において保存されていることの証拠が提示される。SODマウスによる本発明者ら
の研究は、前角細胞および後角細胞を死滅から保護することにより、脊髄軸索の変性が減
少し、動物の生存が増大しうることを示唆する。上記の前出の実施例において記載した培
養物中の皮質ニューロンによる実験は、ニューロンをrHIgM12で処置することによ
り、ニューロンを細胞死から保護しうることを裏付ける(図3を参照されたい)。新生仔
マウスから増殖させた皮質ニューロンを、ごく高濃度の過酸化水素に曝露して、ニューロ
ンのうちの90%が死滅する濃度を決定した。過酸化水素に曝露したニューロンを、rH
IgM12またはニューロンに結合しない別のヒトIgMで同時に処置した。rHIgM
12による処置は結果として、ニューロンのうちの80%の保存をもたらした。これに対
し、対照のIgMによる処置は結果として、過酸化水素への曝露後におけるニューロンの
うちの90%の死滅をもたらした。本発明者らは、rHIgM12が、ニューロンを細胞
死から保護することにより、ALSを伴う動物における寿命を延長すると仮定した。
【0382】
ヒト抗体はまた、組織培養プレート上における基板としても調べ、小脳ニューロンまた
は皮質ニューロンからの正常な細胞プロセスである伸長を促進する能力について比較した
。ニューロンの表面に結合する抗体であるrHIgM12およびsHIgM42と、ニュ
ーロンに結合しない抗体であるrHIgM22およびsHIgM39とを、この過程を強
力に支持する細胞外マトリックス分子であるラミニンと比較した。ヒト抗体であるrHI
gM12またはsHIgM42の基板上で成長しつつあるニューロンは結果として、ラミ
ニンにより観察される場合と同様の、ニューロン成長の劇的な拡大をもたらした[8]。
この研究はまた、rHIgM12の存在下では、ニューロンの挙動が正常であることも示
した。
【0383】
分子量が百万に近いIgMは、循環から血液脳関門(BBB)を越えてCNSに入るに
は大型に過ぎるというのが一般に受容された定説であった[15][16]。しかし、一
部の抗体は、BBBを確かに越えるという証拠が蓄積されつつある。本発明者らは上記で
、末梢への注射後に、rHIgM12を脊髄内で検出することについて記載した。rHI
gM12または対照のヒトIgM 1.0mgを、脱髄性脊髄病変を伴うマウスへと腹腔
内投与した。4時間後、マウスを屠殺し、脊髄切片を、ヒトIgMミュー鎖および抗ニュ
ーロフィラメント抗体の存在について免疫染色した。rHIgM12を施されたマウスで
は、共焦点顕微鏡法により、脱髄病変内のヒトミュー鎖が、並列経路内に末端で切断され
た束として、軸索のマーカーである抗ニューロフィラメント抗体と共局在することが裏付
けられた(図15を参照されたい)。対照のIgMを施されたマウスの脊髄病変内では、
ヒトIgMが見出されなかった。
【0384】
提示される研究は動物モデルにおける研究であるが、これらの研究結果のうちの多くの
興味深い側面により、この新規の手法がヒト患者において有効であることがさらに示され
る。本明細書で記載されて用いられるIgM12抗体が、完全ヒト、モノクローナル抗体
であることは重要である。結果として、マウスでこの抗体を用いうるのは単回投与だけで
ある。その後も投与すれば、動物に抗体に対する免疫反応を発生させる結果として、rH
IgM12の中和またはアナフィラキシーに起因する動物の死がもたらされる。しかし、
これらは「真の」ヒト抗体であるので、rHIgM12で処置したヒト患者は、それらに
対する免疫反応を発生させる可能性が低い。rHIgM12はまた、有害作用または抗体
遮断反応の発生を伴わずに、潜在的に持続的な間欠的ベースで患者に施すこともできる。
rHIgM12は、天然ヒト自己抗体であるため、有害な副作用が生じる可能性が低く、
したがって、本発明者らは、この薬剤の毒性が最小限となることを予測する。rHIgM
12がヒトにおいて安全であることの証拠が多く存在する。ALSモデルにおいてこれら
の肯定的な結果がもたらされる前に、本明細書の上記の通り、神経疾患の複数のモデルに
おいて、血清形態の抗体であるsHIgM12を調べたが、毒性は生じなかった。これら
の研究において、本発明者らは、1)1mgの投与後、ウイルスを介する脱髄を伴うマウ
スにおけるCNS病態の増大が見られないこと、2)200μgの投与後、活動性EAE
を伴うマウスにおける臨床スコアの重症度に増大が見られないこと、および3)300μ
gの投与後、正常CD−1マウスでは、血液化学反応および組織病態に異常がないことを
見出した。そうであってもなお、ALSの認知された動物モデルにおけるマウスへの単回
投与が、目覚ましい結果をもたらしたことが注意される。
【0385】
rHIgM12は既に、GMPグレードの施設で、FDAのガイドラインに従い増殖さ
せており、安定的な、トランスフェクト細胞系を、FDAのガイドラインに準拠して生成
し、外膜感染を伴わずに保管している。これらの細胞系を、>50の感染性生物によるパ
ネルに対して調べたところ、全ての細胞系が陰性の結果を示した。加えて、これらの細胞
系により、組織培養物中に大量の抗体(150μg/ml)が作製される。rHIgM1
2を、FDAのガイドラインに従い、外膜のウイルス、DNA、RNA、または他の外因
性物質を伴わずに、純度>97%まで精製する方法が確立されたことから、前臨床段階に
おけるrHIgM12の、早期ALSを伴う患者における将来の初期臨床試験のための強
力な基礎がもたらされている。
【0386】
進行中の研究
上記で、組換えヒトモノクローナル抗体(rHIgM12)が、前角細胞および軸索の
喪失を防止することにより、ヒトALSのトランスジェニックモデルにおける生存を延長
しうることを示したので、ALS患者における第I相臨床試験へと向かって、薬物動態お
よび毒性学を介する前臨床データを作成する研究が進行中である。
【0387】
プラセボ抗体と対比した盲検研究
ALSの表現型を伴うSODマウスの2つの系統(SOD1 G86RおよびSOD1
G93A)において、組換えヒト抗体rHIgM12を、アイソタイプ対照のヒト抗体
であるsHIgM39と対比して調べる、決定的な「盲検」プラセボ対照研究を実施する
。組換えヒト抗体であるrHIgM12 200μgの単回投与の、疾患を軽減する有効
性を、G86R SOD1およびG93A SOD1両方[14](B6 Cg−Tg
SOD1 G93A 1Gur、Jackson Labs)の変異体トランスジェニッ
クマウスモデルにおいて、アイソタイプ対照のヒト抗体であるsHIgM39 200μ
gの投与と比較して調べる。ENMCによる発症前処置の推奨に従い、抗体による処置を
55日齢で行うと[18]、rHIgM12をPBSと比較するパイロット研究を反映す
る結果がもたらされる(図38〜41)。主要評価項目は、生存および体重減少の防止で
ある。各実験群は、上記データに基づく差異を検出するのに十分な24匹のマウスからな
る。加えて、屠殺後の全てのマウスにおけるCNSも調べ、NeuNについての標識を用
いて胸部中央の脊髄における前角細胞の数を決定する。異常なミエリン渦により示される
、変性した軸索の数をカウントする。G93A SOD1変異体モデルである(B6.C
g−Tg)SOD1 G93A)1Gur/J(型番004435;Jackson L
aboratory)は、これが、ALSについての、最初の、遺伝子ベースで、最も広
く用いられ、最もよく特徴付けられたモデルであり、rHIgM12についての結果を、
処置の枠組みについての広範なデータベースと比較することを可能とするために包含した
。G86Rマウスは、疾患の発症が遅く(7カ月後)、進行が速いのに対し、G93Aマ
ウスは、発症が速く(3〜4カ月後)、進行が遅い。この研究は、SOD1マウスへの外
来タンパク質の導入について調整し、また、作用機構の概念についても取り組むものであ
る。rHIgM12のニューロン結合特徴は、極めて重要であり、ニューロンに結合しな
いIgMは、疾患を改善しないはずである。本研究における主要評価項目は、生存の増大
(10%以上:P<0.05)および体重減少の軽減(10%以上:P<0.05)であ
る。SOD1マウスのうちの少なくとも1つの系統で改善が見られれば、成功と考える。
全てのマウスを、いずれかの側に仰臥させて15〜30秒間以内に自ら直立できなくなる
時点で屠殺する。副次評価項目では、ミエリン渦の異常、および脊髄胸部(T6レベル)
におけるNeuN陽性前角細胞の密度により示される、変性した軸索の数を測定する。1
)rHIgM12で処置したマウスの体重減少が対照と比較して20%多い場合、2)r
HIgM12で処置したマウスが発作を発症する場合、3)rHIgM12で処置したマ
ウスの死亡率が対照より20%高い場合は、有害事象を考慮した。
【0388】
用量滴定研究
上記の研究における肯定的な結果に続き、SOD1マウスを死滅から保護するのに必要
とされる最小限の用量を決定するために、用量滴定研究(55日齢のマウス1匹当たり0
、5、50、100、および250μgの単回投与を施す)を着手する。マウス脳幹につ
いてのMR分光法を用いて、N−アセチルアスパラギン酸(NAA)を測定する。本発明
者らは、他の神経疾患モデルにおいて、脳幹内のNAAが、脊髄全体における軸索健康の
優れたサロゲート指標であることを示した[17]。MR分光法のデータは、rHIgM
12を用いる潜在的なヒト試験における抗体有効性についてのサロゲートマーカーとして
のNAAを検証する一助となる。55日齢のSOD1マウス20〜24匹の群に、腹腔内
を介して0、5、50、100、および250μgの単回投与を施す。主要評価項目およ
び副次評価項目ならびに有害事象については上記と同じとするが、N−アセチルアスパラ
ギン酸(NAA)を測定する、脳幹におけるMR分光法が加わる。MR分光法は、100
日齢時および屠殺直前の抗体による処置日において、各マウスについてまとめる。100
日目または最終走査時の任意のrHIgM12処置群の脳幹におけるNAA濃度の、生理
食塩液で処置したマウスと比較した10%(P<0.05)の増大を改善と考える。
【0389】
薬物動態研究およびBBB
研究は、正常マウス血液免疫グロブリンのバックグラウンドにおけるヒトIgMを特異
的に検出する、確立されたELISA検出システムを用いて、200μgの静脈内単回投
与後の50〜70日齢のSOD1 G86RマウスおよびSOD1 G93Aマウス[1
8]において実施する。ヒトIgMは、投与後の多様な時点(0、15分間、30分間、
1時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間、2日間、3日間、5日間、お
よび7日間)の血液中で測定する。マウスの血液量は、少量(全血液量<1.5ml)で
あるため、各回収時点では、3つの個別のマウスを用いる。
【0390】
rHIgM12は、末梢への注射後、血液脳関門を越え、ニューロンと相互作用して、
それらを死滅から保護しながら、神経系に直接作用することが提起される。ヒト抗体が血
液脳関門を越えず、免疫反応の側面を刺激し、次いで、軸索保護をもたらす可能性もある
が、その可能性は高くない。この問題に十分に取り組むために、in vivoにおける
35S標識したrHIgM12の追跡を用いる。35S標識したrHIgM12の2つの
用量レベルである、250μgと、上記で確立された最小有効用量とを、50〜70日齢
のSOD1マウスにおいて追跡する。35S標識したrHIgM12の静脈内投与後、血
液脳関門を越え、注射の4、8、24、48、および72時間後の脳/脊髄実質において
見出される35Sの百分率を決定する。加えて、既に公表されているオートラジオグラフ
ィー法[19]を用いて、脳/脊髄における35Sの局在部位も決定する。
【0391】
血清半減期研究
rHIgM12が有効性を裏付けた、SOD1系統(複数可)における200μgの用
量を用いて、rHIgM12についての血中反応速度試験を実施する。研究は、静脈内注
射後7日間にわたる13の回収点において、1時点当たり3匹ずつのSOD1マウス群に
より実施する。50〜70日齢のSOD1マウスを処置して、処置時点における抗体反応
速度を理解する。rHIgM12の血清半減期、曝露の飽和、および中和抗体であるIg
Mの存在について決定する。同位体(35S)標識したrHIgM12を追跡する研究で
は、上記の最小限の有効用量の決定が必要とされる。50〜70日齢のSOD1マウスに
、rHIgM12 250μgおよびrHIgM12の最小限の有効用量(少なくとも1
×10cpmを含有する)[19]の単回静脈内投与を施して、rHIgM12が、治
療的処置の時点でCNSに入るかどうかに取り組む。注射の4、8、24、48、および
72時間後において、脳、脊髄、肝臓、心臓、肺、胃、腸、筋肉、脾臓、肝臓、膵臓を含
めた主要な組織を迅速に摘出する。組織部分150mgを摘出し、秤量し、Solvab
le(Perkin Elmer)中で溶解させ、シンチレーション液(Ultima
Gold、Perkin Elmer)中でcpmを決定する。同位体で標識したrH
IgM12は、オートラジオグラフィーを用いた脊髄切片中で局在する[19]。この実
験では、主要評価項目を、rHIgM12を注射した4、8、24、48、および72時
間後に対照のゼロ時点と比較した、マウスの脳または脊髄における35S同位体の蓄積と
する。任意の時点の脳または脊髄の全体1mg当たりの35Sのカウントの50%(P<
0.05)の増大を有意と考え、rHIgM12がCNSに入りうることの証拠であると
考える。オートラジオグラフィー研究では、マウスに標識したrHIgM12を投与し、
rHIgM12がCNS内で増大した時点において脊髄を摘出する。脊髄切片中のニュー
ロン全体1mm当たりの銀粒の50%の増大を、in vivoにおける抗体ターゲテ
ィングの有意な証拠と考える。
【0392】
初期毒性研究
rHIgM12により実験を実施して抗体が正常CD−1マウスおよび正常ウサギにお
いて毒性であるかどうかを決定する:両方の性別の正常CD−1マウス10匹の群に、上
記で決定したrHIgM12の最小限の有効用量の1倍(1×)、10倍(10×)、お
よび20倍(20×)、または生理食塩液を、1回または7日間にわたり毎日静脈内投与
する。2週間後、「完全」剖検を介して血液および組織を回収して解析する。主要な器官
全ての組織切片を、毒性学評価において熟練した獣医学の病理学者が「盲検により」調べ
る。血液を、肝臓酵素、心臓酵素、電解質および血液学グループに対する効果についての
血液研究を含めた、通常の一連の毒性スクリーニングのための化学および血液学で特徴付
ける。同一の曝露研究を齧歯動物以外の種において実施し、各性別のウサギ2羽ずつを各
用量で調べる。加えて、rHIgM12を用いる組織の交差反応性研究を、抗体が他の任
意の組織または器官に結合するかどうかを決定するのに用いる。マウス、ウサギ、霊長動
物、およびヒト(Zymed)に由来するパラフィン包埋した一連の組織切片を、rHI
gM12または対照のヒトIgMで免疫標識する。in vivoにおける状況をより緊
密に模倣するので、各組織内の結合の強度および構造を画像化し、rHIgM12および
対照のIgMによる組織チョッパーで切断した生存組織スライスの標識化と比較する[7
]。加えて、FDAへの新薬臨床試験開始届の予備的毒性試験の項と一致して、rHIg
M12および対照抗体の結合も、凍結ヒト組織および凍結霊長動物組織において調べる。
組織交差反応性研究は、マウスおよびウサギにおける曝露研究の間、特に、器官をモニタ
リングするための鍵をもたらす。
【0393】
組織への結合
有効性を決定した後、これらの研究では、標的組織および標的以外の組織への結合に取
り組む。市販される組織アレイ(Zymed)およびヒトおよびカニクイザル(Char
les River)の切片を、10μg/mlのrHIgM12および対照のヒトIg
MであるsHIgM39で免疫標識する。ディジタル画像を用いて標識の強度を比較する
。rHIgM12の、パラフィン包埋して固定した組織アレイおよび凍結させたヒトおよ
び霊長動物の脳および脊髄への結合を、生存マウスの小脳スライスにおいて観察される抗
体結合と比較する。本発明者らは、標準的な効力アッセイである生存小脳スライスへの抗
体結合を用いたが、これは、rHIgM12の血清形態が同定された最初のスクリーニン
グである。
【0394】
【数11】
【0395】
【数12】


(実施例21)
ニューロン保護性ヒトmAbによる脳虚血および脳卒中の処置
【0396】
虚血性脳卒中の発生率は、年齢と共に増加する。われわれの人口集団の老齢化は、毎年
の脳卒中例数の増加を結果としてもたらし、われわれの医療ケア基盤および家族に対して
累積的な負荷を負わせる。米国では、脳卒中は、長期にわたる身体障害の主要な原因であ
る。毎年、800,000近くの人々が、脳卒中を被っている。虚血性傷害後において、
臨床的欠損と関連する身体障害は、ニューロンの機能不全に主に起因する。機能的な回復
の欠如は、再生および神経可塑性の制約に部分的に帰せられる(1)。現在のところ、脳
卒中に関連する神経欠損を防止または逆転するのに有効な処置は存在しない。
【0397】
ミエリンの修復および軸索/ニューロンの回復を含めた、CNSの保護および修復を促
進する、天然ヒトモノクローナルIgMクラス抗体が同定され、用いられている(2)。
本発明者らは、ニューロンの表面に結合する、血清由来のヒトモノクローナルIgMを同
定した。IgMは、ヒトを含め、種を超えてニューロンに結合し、神経突起の伸長を促進
する。このIgMは、in vitroにおいて、ニューロンをアポトーシスから保護し
、脊髄の磁気共鳴分光法および組織学により測定される通り、in vivoにおいて、
脊髄軸索を保存する。血清由来形態の特徴を保存する組換え形態であるrHIgM12が
合成されている。rHIgM12の神経保護特性は、ガングリオシドであるGM1につい
て観察される神経保護特性と同様である。ガングリオシドは、抗体であるIgM12およ
びrHIgM12の抗原でありうる。rHIgM12は、ニューロン膜上で、GM1、コ
レステロール、およびインテグリンβ1と共局在する。GM1は、細胞受容体およびシグ
ナル伝達分子をクラスター化するように機能する膜のマイクロドメインに富む。rHIg
M12は、ニューロン膜ドメインをクラスター化することにより、GM1の多面的効果を
模倣すると考えられる。
【0398】
本研究は、脳虚血性傷害後における神経欠損を逆転するrHIgM12の有効性を評価
するために着手した。これらの研究は、早期の脳虚血性傷害を有するかまたは脳卒中を患
う患者における抗体の適用を目的とする。中心的な仮説は、抗体であるIGM12および
rHIgM12により媒介される神経保護効果が、細胞および組織の回復を増強し、虚血
性脳卒中からの全体的な回復を促進する治療において適用可能なことである。
【0399】
脳虚血の治療的管理は、血圧の上昇、血栓症、および頸動脈のアテローム性動脈硬化な
どの危険性因子の防止および低減に依拠する。脳虚血の介入的治療は、組換え組織プラス
ミノーゲン活性化因子rtPAの使用による酵素的血栓溶解(3〜5)、および直接的な
カテーテル法を介する血餅の介入的摘出(6)に依然として限定されている。しかし、r
tPAの治療域は3時間と短く、3時間の時間枠を超えて注入すると、出血性脳虚血の発
生率を増加させる(7、8)。脳虚血後に損傷したニューロンの保護は、永続的な身体障
害を抑制するのに有望な戦略である。炎症反応を調節する治療は、神経保護特性を有しう
るが、ニューロンに直接作用してそれらを保護する薬物は、現在のところ極めて少数であ
る。神経保護は、虚血領域における神経毒性の炎症性環境を調節することにより達成する
ことができる。抗体を用いて脳虚血を処置する以前の研究は、潜在的利益をもたらしてい
ない:細胞間接着分子に対するアンタゴニストが大規模多施設試験で採用されたが、処置
された被験体は、プラセボ群と比較したところ、死亡率が高く、転帰も不良であった(9
)。脳虚血についての第III相臨床試験における抗血小板抗体の使用は、小規模の患者
コホートにおいて致死性の出血をもたらした(10)。ポリクローナルヒトIgG(IV
Ig)の使用は、脳虚血の動物モデルの改善を結果としてもたらした(11)が、臨床試
験では、IVIg投与の後において、血栓塞栓性合併症が報告され、脳虚血を処置するた
めのIVIgの使用については賛否こもごもであった(12、13)。目標は、神経系を
直接標的とする治療用試薬を同定することであった。完全ヒト抗体の組換え形態であるr
HIgM12は、ニューロンの生存を促進し、回復/神経保護用治療剤としての適用可能
な使用が可能である。本実施例における実験は、脳虚血のマウスモデルにおける抗体Ig
M12、rHIgM12の治療的効果に焦点をあてる。用いられるモデルは、感光性色素
を用いる非侵襲的光血栓モデルであり、よって、侵襲的モデルより生理学的である。
【0400】
完全ヒトモノクローナル抗体を用いて、脳虚血後の動物におけるニューロンを保護し、
挙動を改善する本発明者らの手法は、独創的かつ革新的であり、抗体は、脳虚血および脳
卒中におけるニューロンを標的とし、保護するようにデザインされた最初の薬物としての
潜在性を有する。分子の関与性の側面を、以下に列挙する。
【0401】
1)rHIgM12は、ニューロンの表面に結合し(図1を参照されたい)、ニューロ
ンをアポトーシス細胞死から保護する(図3を参照されたい)。
【0402】
2)rHIgM12は、天然ヒト自己抗体であり、有害作用は生じにくい。
【0403】
3)rHIgM12は、IgMであるにもかかわらず、正常SJLマウスおよび炎症を
有する動物において血液脳関門(BBB)を越える(図13を参照されたい)。
【0404】
4)ここで、本研究は、虚血性脳卒中の誘導後において、rHIgM12を動物へと投
与すると、rHIgM12は、動物の機能の明確な改善を結果としてもたらし(図44
、組織の完全性を保護することを裏付ける(図45)。
【0405】
結果および考察
【0406】
固有の手法を用いて、中枢神経系(CNS)に対する傷害を処置するための新規の治療
を開発した(14、15)。希突起膠細胞(16)またはニューロン(17)に結合し、
CNSで適用される一連のヒトモノクローナル抗体が同定されている。組換えヒト抗体I
gM12(rHIgM12)は、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の患者か
ら単離された抗体に由来する。この抗体は、CNSのニューロンおよび軸索を特異的に標
識する(17)。IgM抗体であるにもかかわらず、rHIgM12は、血液脳関門(B
BB)を越え(図13を参照されたい)、CNS内の軸索およびニューロンに特異的に結
合する。in vitroにおいて、rHIgM12は、小脳顆粒ニューロン、皮質ニュ
ーロン、海馬ニューロン、および網膜神経節細胞ニューロンを含めた広範なニューロンに
結合する。修復性IgM自己抗体の作用機構についての本発明者らの最新の仮説は、それ
らが、マイクロドメイン内の分子を架橋して、保護および修復に関与するシグナル伝達イ
ベントを刺激することである。
【0407】
脳虚血のためのマウスモデルの標準化
【0408】
本発明者らの実験室における虚血性脳卒中(光血栓性脳虚血)の色素媒介型光血栓モデ
ルにおいて、感光性色素(Rose Bengal、RB)を用いた。1985年に、W
atsonらは、限局性脳虚血の単純型モデルとしての脳PTを導入した(Watson
BDら(1985年)、Ann Neurol、17巻:497〜504頁)。血栓症
を達成するため、感光性色素を全身注射する。無傷の頭蓋を介する後続の照射は、フリー
ラジカルの形成および内皮の光過酸化による、色素の局所的な活性化をもたらす。これに
より、照射された血管内では、血餅の形成が媒介され、血管の閉塞は、脳虚血を模倣する
(Dietrich WDら(1987年)、Acta Neuropathol、72
巻:315〜325頁)。PT病変は、強力であるが遅延した炎症反応を誘発する(Sc
hroeter Mら(1997年)、Stroke、28巻:382〜386頁)。こ
のモデルは、虚血領域をあらかじめ規定し、高度に限局しうるという利点を有し、別個の
皮質領域を定位的精度で凝固させる可能性を開く。
【0409】
PBS中に10mg/mLで溶解させたRBを、尾静脈を介して注射した(体重1g当
たり0.02mg)。光源(150Wのハロゲンランプ)につないだ連接型光ファイバー
の開口部(5mm)を、マウス頭部上の標準的な位置に設置した。RB注射の1分後、脳
を、無傷の頭蓋を介して、30秒間にわたり(RBを活性化させるために)一定の光に曝
露した。活性化されると、RBは、微小血管内の内皮細胞を障害するフリーラジカルを生
成し、血小板の凝集を結果としてもたらし、小血管の閉塞をもたらし、血栓性脳虚血を引
き起こす、凝固を誘発する。本発明者らは、全ての実験を、6週齢の雌CD−1(登録商
標)マウスにおいて実施した。
【0410】
無作為化「盲検」試験では、マウスに、脳虚血を誘導した30分後において、GMPグ
レードで精製されたrHIgM12を、単回の腹腔内投与(i.p.;500μl中に2
00μg)として施した(ヒト臨床条件を模倣する試み)。これに対し、プラセボ群には
、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)を施した。本発明者らは、脳虚血後における虚血領域
を可視化および定量化する技法を標準化した(図43および45)。
【0411】
rHIgM12は、脳虚血後の動物における機能活性を、拡散強調画像(DWI)により
規定された梗塞容積の有意差を伴わずに改善する
【0412】
機能欠損は、Accuscanオープンフィールド装置を用いて算出した。装置は、別
個の水平方向および垂直方向の運動を測定する光セルを有する、個別のアクリルケージか
らなる。CD−1マウス5匹ずつの群を、各ケージ内に入れ、脳虚血を誘導する前の1週
間のベースライン値を記録した。データは、1時間のブロック当たりのビーム遮断回数と
して収集し、ベースラインからの水平方向の変化%(図44A)または垂直方向の変化%
図44B)として表した。脳虚血誘導後の1日目には、いずれの群のマウスにおいても
、運動活動の同様の欠損があった。2つの処置についての直接的な対応のある比較は、処
置後3日目において、rHIgM12処置マウスにおける水平方向の運動機能の改善が、
PBSと比較して有意に異なる(p<0.05)ことを示した(図44A)。同様に、処
置後3日目において、rHIgM12処置マウスにおける垂直方向の運動機能も、PBS
と比較して有意に異なった(図44B)。改善は、実験を終了した30日間までにわたり
持続した。
【0413】
DWI−MRIを用いて、虚血容積を確定し、機能改善を梗塞サイズの低減に相関させ
た。1、3、7、および21日目に、Bruker Avance 300MHz(7T
esla)小動物用MRIシステムによりマウスを走査し、得られた三次元画像(図43
A)を、NIH Image Jソフトウェアを用いて定量化した。DWIは、走査され
た日のうちのいずれにおけるマウスの2群間でも、統計学的な有意性を示さず(図44C
)、いずれの群のマウスにおける脳虚血容積も同様であることを示した。本発明者らが知
る限りにおいて、これは、ニューロンを指向する完全組換え天然ヒトモノクローナルIg
M抗体が、実験による脳虚血後の動物における挙動についての転帰の改善に有効であるこ
との最初の裏付けを提供する。
【0414】
rHIgM12による処置は、MT−MRI計量を改善し、MT比の有意差を裏付ける
【0415】
DWI画像化により、虚血性脳卒中後の水拡散時における細胞傷害性浮腫の存在および
程度が推定される。後続の実験では、傷害後における組織の完全性および回復に対する感
受性が大きいMRI尺度を評価するために、本発明者らは、脳卒中誘導後の3日目および
rHIgM12による処置またはPBSによる偽処置の後の10匹のマウスにおいて、磁
化移動MRI(MT−MRI)を用いた。得られた画像は、FSLへとインポートし(2
3、24)、3DパラメトリックMTRマップを、FSL MATHSにより計算した。
本発明者らは、標準式:100×((Mo−Mt)/Mo)[式中、Moは、MTパルス
を伴わない3D画像であり、Mtは、MTパルスを伴う3D画像である]を用いた。画像
を適切にスケーリングして、0〜100の範囲の値によるグレースケールの百分位数マッ
ピング出力をもたらした(図45A)。病変におけるMT値は、Analyze11.0
中の標準的な3D ROIツールを用いて解析したが、これにより、虚血領域内のMT感
受性の組織損傷の解析が可能となった。対側半球内の比較用ROIを用いて、比較のため
の対照値をもたらした。対照側におけるMTR値は、rHIgM12処置群およびPBS
処置群において、それぞれ、(59.9±0.9)および(58.3±0.8)であり、
予測された通り、統計学的解析は、対照半球における2群間で有意差を示さなかった。興
味深いことに、rHIgM12による処置は、脳卒中の部分容積中のMTR値の、PBS
による偽処置と比較した相対的な増加(46.0±0.9対41.9+08、p=0.0
1)を結果としてもたらした。これは、抗体処置群におけるMT−MRIで検出可能な組
織構造の相対的正常化を示した。さらに、統計学的な有意性に到達しなかった(p=0.
39)一方で、PBS処置対照と対比したrHIgM12処置マウスにおいて、脳卒中容
積の減少(26.1±6.6mmと対比した18.1±5.9mm)が認められた。
MT−MRIにおける高度な有意差は、抗体により誘導された変化が、脳卒中容積の直接
的な低減と対照的に、組織回復の増強を結果としてもたらすことを支持する。
【0416】
rHIgM12は、マウスおよびヒトのニューロンに結合し、マウスの皮質ニューロンを
酸化的損傷により誘導される死滅から保護する
【0417】
rHIgM12は、ニューロンに結合することにより、虚血領域内のニューロンを保護
することが仮定される。ヒト抗体であるrHIgM12は、マウスおよびヒトから得られ
る多くの種類のCNSニューロンの表面に結合する(図1を参照されたい)。これは、r
HIgM12により媒介される神経保護および機能改善が、マウスからヒトへと保存され
ることを支持する。rHIgM12が、in vitroにおいて、活性アポトーシスの
マーカーであるカスパーゼ3の、過酸化物に誘導される活性化からニューロンを保護する
のかどうかは、既に評価されている。マウス初代皮質ニューロンの培養物を、rHIgM
12または対照のヒトIgMおよび過酸化水素と共に同時に処置した。カスパーゼ3の活
性化度は、FLICAカスパーゼ3アッセイキット(Immunochemistry
Technologies)を用いて、24時間後に決定した(図3を参照されたい)。
傷害ニューロンのrHIgM12による処置は、カスパーゼ3の活性化を80%低減した
。対照IgMで処置された傷害ニューロンが示したカスパーゼ3の活性化の低減は、10
%未満であった。
【0418】
異なる神経毒性アッセイでは、培養された皮質ニューロンを、4、21、および44時
間(44時間、非低酸素チャンバー細胞は、0時間の対照と考えた)にわたり、直接低酸
素状態(2.7%のO、92.3%のN、5%のCOによる雰囲気)曝した。カス
パーゼ3のレベルは、ウェスタンブロットにより決定し(図46)、カスパーゼ3レベル
は、4時間までに上方調節され、21時間にピークに達することを見い出した。44時間
までに、大半の細胞は死滅し、カスパーゼ3レベルは下がった。これらのアッセイは、r
HIgM12が、in vitroの虚血様状態において、神経保護性であることを裏付
けるのに用いられる。
【0419】
本研究では、脳虚血性脳卒中のマウスモデルを用いて、後続する神経欠損を逆転し、脳
虚血性傷害からの保護をもたらすrIgM12の能力を裏付けた。さらに、このモデルは
、用量の処方を最適化して、血液脳関門を越える抗体の百分率を決定し、培養されたニュ
ーロンの、rHIgM12による、in vitroにおける虚血様状態からの保護をよ
りよく理解するのにも適用される。
【0420】
神経改善のための用量およびバイオマーカー
【0421】
マウスにおいてrHIgM12を用いるプラセボ対照無作為化試験を、自発活動の改善
に要請される最小用量を決定し、神経改善のための代謝バイオマーカーを同定するのに用
いる。上記のデータは、200μgのrHIgM12が、虚血性脳卒中のマウスモデルに
おける神経機能を改善したことを示す。最小有効用量を決定することは、安全性研究をデ
ザインすることと関連する。rHIgM12の用量滴定研究を、脳虚血後のマウスにおい
て実施する。
【0422】
色素RBによる光血栓モデルを用いる、雌CD−1マウスにおける脳虚血を、投薬研究
に用いる。マウス5匹ずつの群を、脳虚血誘導後30分以内に、5、50、100、もし
くは500μgのrHIgM12、またはニューロンに結合しない市販の対照ヒトIgM
(Jackson ImmunoResearch;型番009−000−012)、ま
たは生理食塩液で腹腔内処置する。神経機能は、活動ボックス内で、脳虚血の誘導前また
は処置前に測定し、毎週測定する。マウス5匹ずつの群を活動ボックス内に収容し、垂直
方向および水平方向の自発活動を記録する。夜間における水平方向の活動は、動物の機能
的能力についての高感度の尺度である(25)。加えて、全てのマウスにDWI−MRI
を施し(図2C)、全ての群における梗塞サイズをモニタリングする。
【0423】
主要評価項目は、自発活動をモニタリングすることにより評価される運動の改善である
。rHIgM12処置群の5日間を通して、対照群と比較した72時間にわたり記録され
た平均夜間活動の20%の増加(1時間当たり2000回のビーム遮断)(P<0.05
)は、有意な生物学的改善であると考えられる(25)。本発明者らの実験室により確立
された方法(25)を用いて、群間の統計学的差違を計算する。DWI−MRI解析を、
Mayo Clinicにおいて開発された生物医学的画像解析ソフトウェアパッケージ
であるAnalyze11.0の3D ROI解析ツールを用いて、盲検様式で実施する
(26、27)。
【0424】
rHIgM12による処置後における神経機能の改善が、NAA代謝物(ニューロンの
機能と関連する代謝物(28))の保存、および脳におけるMT−MRIによる磁化移動
比の相対的正常化と相関するのかどうかを決定する。MTとは、組織の完全性についての
全体的マーカーであり、ヒト虚血性脳卒中における周縁部の完全性について高感度のマー
カーとして用いられている(29)。これらのアッセイは、ヒトにおける、脳虚血におけ
るrHIgM12についての臨床試験の将来的な評価項目として有用である。
【0425】
この実験では、MT−MRIデータについて得られる検出力計算に基づき、1群当たり
12匹ずつのマウスを用いる。技法は、CNS内のN−アセチル−アスパラギン酸(N−
acetyl−asparate)(NAA)レベルを測定するように既に標準化した(
30)。NAAを、脳虚血後においてrHIgM12により媒介される機能改善について
の代謝物画像化バイオマーカーとして用いうるのかどうかを調査するために、本発明者ら
は、ボクセルを標準化して、虚血領域内でMRSを実施した。NAA代謝物を、最小有効
用量、またはアイソタイプ対照のIgMもしくは生理食塩液で処置された動物において測
定する。7T垂直ボアNMR分光計を用いてMRSを実施し、DWIおよびT2強調MR
I上で同定される虚血領域の内部に配置された3×2×1.5mmのボクセルからMRS
データを得る。対側半球は、各マウスについての適切な対照として用いられる。さらなる
対照として、他の群におけるマウスを、対照IgMまたはPBSで処置する。PBSまた
はrHIgM12による処置を後続させる虚血性脳卒中の前および後に、500Hzの励
起パルスバンド幅および1500Hzのオフセットによる、全MT時間270ミリ秒のM
Tパルスを伴い、かつ、これを伴わずに、マトリックスサイズを256×96×96とし
、FOVを6.4×1.92×1.92cmとし、TR:1500とし、TE:30とし
、RAREファクターを16として、標準的なPD強調RAREシークェンスを収集する
ことにより、MT−MRIデータを得る。この実験では、各実験を3回にわたり繰り返し
て、画像化バイオマーカーを、のべ108匹のマウス(合計3つの群について1群当たり
12匹ずつのマウスであり、3回にわたり繰り返す)についての機能改善の評価項目とし
て用いることの再現性を確認する。
【0426】
MRSのスペクトルは、Bruker Biospin製のTopSpinソフトウェ
アを用い、LCModelを介して定量化する(31〜34)。群間の統計学的差違は、
ANOVAにより計算する(30)。MTRデータは、FSL MATHSおよびAna
lyze11.0ソフトウェアを用いて算出する。対照群と比較したrHIgM12処置
群における、MTRの相対的正常化およびNAAレベルの、保存または相対的な増加を決
定する。任意のrHIgM12処置群において保存されるNAAの、対照群と比較した1
0%の増大は、改善であると考えられる。グルタミン酸およびグリシンなど、興奮性の神
経伝達物質(35)は、脳虚血後において高レベルで存在することが報告されている。M
RS分光光度法は、多目的な技法であるので、本発明者らはまた、乳酸、ミオイノシトー
ル、コリン、クレアチン、グリシン、およびグルタミン酸など、他の代謝物も定量化する
【0427】
血液脳関門の評価
【0428】
血液脳関門(BBB)を越えるrHIgM12の比率を、光血栓RB脳卒中モデルによ
り決定する。大型のIgM分子がCNSに入り得るのかどうかについては議論が分かれる
。一般に許容される定説は、以下の通りである。分子量が100万に近いIgMは、循環
からBBBを越えて、CNSに入るには大きすぎるというものである(36、37)。し
かし、一部のIgMはBBBを越えうるという証拠が蓄積されている。rHIgM12は
、正常非感染マウスのCNSのほか、TMEV感染マウスのCNSにも入り得ることが示
されている(図13を参照されたい)。BBBを越える抗体の百分率を決定し、IgMが
虚血領域内のニューロンに直接作用することをさらに裏付けるのには、35S標識抗体を
用いる。本発明者らは、脳虚血モデルにおいて静脈内注射後のCNS内のニューロンへの
結合について評価する。
【0429】
同位体標識された(35S)rHIgM12を作製し、ニューロンの表面への結合につ
いて検証する。有効用量のrHIgM12またはアイソタイプ対照のIgMもしくは対照
の非特異的IgGを、脳虚血誘導後の1つの時点ごとに、マウス3匹ずつの群へと静脈内
投与する。虚血のない正常のCD−1マウスは、対照として用いられる。実験は、のべ1
44匹のマウス(合計5つの時点について1群当たり3匹ずつのマウス3群に、非処置マ
ウス3匹の1つの群を加え、3回にわたり繰り返す)を用いて、3回にわたり実行する。
【0430】
注射の4、8、24、48、および72時間後において、BBBを越え、脳/脊髄実質
内で見出される35Sの百分率を決定する。加えて、本発明者らは、本発明者らの実験室
により公表されているオートラジオグラフィー法(38)を用いて、脳/脊髄内の35
局在部位も決定する。本発明者らは、rHIgM12が、末梢への注射の後でBBBを越
えてニューロンと相互作用し、ニューロンを死滅から保護することで、神経系に直接作用
することを提起している。
【0431】
ニューロンの培養物
【0432】
rHIgM12による神経保護はまた、in vitroにおける「虚血様」ニューロ
ン培養物アッセイでも評価する。in vitro環境におけるニューロンの保護におけ
るrHIgM12の有効性を裏付けることは、ニューロン結合自己抗体が、ニューロンに
対して毒性でありうるという懸念に取り組むことになる。本発明者らは、正常の皮質ニュ
ーロン、酸素および/またはグルコースを除去された皮質ニューロンの、rHIgM12
または対照抗体による処置後におけるカスパーゼレベルを解析することにより、これに取
り組む。加えて、in vitroアッセイの開発は、将来のシグナル伝達研究に必要な
ツールももたらす。
【0433】
脳虚血後における損傷は、複数の異なる機構により生じうる。損傷の1つの種類に対し
て神経保護性である試薬は、必ずしも全ての種類に対して保護性であるわけではない(3
9)。本発明者らは、脳虚血後において観察される傷害と同様な傷害である、グルコース
枯渇(GD)、酸素除去(OD)、およびODとGDとの組合せ(OGD)を用いて、神
経毒性アッセイを確立する。本発明者らは、rHIgM12の、マウスの皮質ニューロン
に対する保護効果を評価するために、過酸化水素(図3)および低酸素チャンバー(図4
6)を用いて類似のアッセイを実行した。rHIgM12の神経保護特性は、GM1につ
いて観察される神経保護特性を想起させるので、GM1を陽性対照として用いる。
【0434】
新皮質断片の解離細胞培養物は、16日目のCD−1マウス胚から確立する。このよう
な培養物中の細胞のうちの約95%はニューロンであり、残りの細胞は星状細胞である。
GDは、ニューロンを、グルコース非含有ロック培地中で24時間にわたりインキュベー
トすることにより誘導する。95%のN、5%のCOの大気を有する無酸素チャンバ
ーを用いて、OD(ニューロンを、通常培地中で12時間にわたりインキュベートする)
およびOGD(ニューロンを、グルコース非含有ロック培地中で12時間にわたりインキ
ュベートする)を誘導する。ニューロンを、培養培地単独、またはrHIgM12(有効
用量で)、または対照IgMまたはGM1を補充した培養培地の存在下でインキュベート
する。実験は、バイアスを回避するため、異なる日においてコード化された処置を用いて
、3連で独立に3回にわたり実施する。
【0435】
主要評価項目は、Alamar Blue溶液を用いるミトコンドリア活性アッセイに
より決定される、ニューロンの細胞生存率である。ニューロンの培養物を、FLICA
Apoptosis Detection Kitを用いて、活性化カスパーゼについて
解析する。2つの異なる蛍光検出法:定性的解析のための蛍光顕微鏡法;および定量化の
ための96ウェルマイクロ滴定プレート蛍光光度法を用いる。細胞の生存は、細胞を、ヘ
キスト染料と共に、30分間にわたりインキュベートし、励起波長を365nmとし、発
光波長を480nmとしてUVフィルターを用いて読み取ることにより評価する。細胞を
蛍光顕微鏡により調べる場合、アポトーシス細胞が、赤色で蛍光発光するのに対し、非ア
ポトーシス細胞は、ほとんど染色されていない外見を呈する。アポトーシスのより後期に
ある細胞は、早期にある細胞より明るい赤色として現れる。蛍光プレートリーダーを(黒
色のマイクロ滴定プレートと共に)用いて、アポトーシスを、カスパーゼに結合したFL
ICAプローブから発せられる赤色の蛍光の量として定量化する。ANOVAを用いて、
群間の有意差を比較する。この実験からの結果は、神経保護に関与する下流のシグナル伝
達イベントを決定する一助となる。
【数13】

【数14】

【数15】

(実施例22)
正常(正常酸素)状態下および低酸素状態下における抗体の活性および効果
【0436】
細胞内で、脳卒中、心筋梗塞、または虚血と関連し、これらを模倣する状態下における
、神経作用性抗体、特に、抗体IgM12の、効果および能力をさらに評価する(ass
ess)ため、抗体を正常酸素状態下および低酸素状態下で評価する(evaluate
)研究に着手した。培養下の低酸素状態は、臨床状況における脳卒中および虚血から生じ
る酸素枯渇の側面をまねるのに用いられる。まず、正常酸素下の培養物を、混合神経膠培
養物中の多様なマーカーについて評価した。次いで、効果および能力を評価するために、
関与性のマーカーを、神経作用性抗体および対照抗体を伴い、かつ、これらを伴わずに、
低酸素状態下で評価した。
【0437】
正常酸素状態
【0438】
正常状態または正常酸素状態を評価するため、混合神経膠培養物を、FBS(10%)
含有培地中で4日間にわたり成長させ、既知組成培地中で、再ミエリン化促進IgMであ
るrHIgM22、再生性mAbであるrHIgM12、アイソタイプ対照であるsHI
gM116(各々10μg/mlずつ)、または培地だけにより、7日間にわたり処置し
た。新鮮な抗体を伴う培地で、1日おきに交換した。結果を、図47に示す。棒グラフは
、ミエリンマーカーであるMBP、アポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ3およ
び活性化小膠細胞のマーカーとしてのCD68による3回の独立の実験に由来するウェス
タンブロットについての定量的解析を示す。これらの結果は、再生性抗体であるrHIg
M12が、混合神経膠培養物中での希突起膠細胞前駆細胞(OPC)の分化および生存を
刺激することを示す。これらのデータは、再生性抗体であるrHIgM12は、OPCの
分化を刺激し、神経膠アポトーシスレベルを低減し、小膠細胞を活性化するが、再ミエリ
ン化促進抗体であるrHIgM22やアイソタイプ対照であるsHIgM116はそうで
はないことを示す。アポトーシスを受けることからレスキューされる特定の細胞型(複数
可)は決定されなかった。
【0439】
次いで、OPC−小膠細胞共培養物を、再ミエリン化促進mAbであるA2B5、O4
、O1、78.09、94.03、rHIgM22、再生性mAbであるrHIgM12
、アイソタイプ対照(LEAF、5A5、ChromPure IgM、rHIgM42
、sHIgM14、sHIgM24、sHIgM26)(各々10μg/mlずつ)を含
む星状細胞馴化培地中または培地中で培養した。新鮮な抗体を含む培地で、1日おきに交
換した。図48中の代表的なウェスタンブロットは、OPCマーカーであるPDGFαR
、ミエリンマーカーであるCNPアーゼおよびMOG、小膠細胞マーカーであるCD68
およびLyn、増殖マーカーであるKi−67およびヒストンH3、アポトーシスマーカ
ーである切断型カスパーゼ3、ならびに細胞周期マーカーであるpRbS795のレベル
を示す。星状細胞および小膠細胞は、星状細胞馴化培地中のOPCの分化および生存を刺
激するGSL結合再生性mAbを必要とする。
【0440】
上記の正常酸素のデータは、(i)再ミエリン化促進mAb(A2B5、O4、O1、
78.09、94.03)または再生性mAbであるrHIgM12は、アイソタイプ対
照と比較して、OPC/OL−小膠細胞共培養物中のOPCの分化または生存を誘導しな
いこと;(ii)星状細胞馴化培地中の可溶性因子は、処置群間の差違を刺激するのに十
分でなかったこと;(iii)再ミエリン化促進mAbおよび再生性mAbは、星状細胞
の非存在下で、小膠細胞(CD68、Lyn)を活性化しなかったこと;(iv)可溶性
の星状細胞因子は、IgM処置の6日後における、rHIgM22によるOPCの増殖(
Ki−67、ヒストンH3)を媒介するのに十分なようであることを裏付ける。
【0441】
正常酸素研究の次のセットでは、混合神経膠培養物を、既に記載した通り(図47上)
に成長させ、処置した。図49は、活性化小膠細胞についてのマーカーであるCD68、
および小膠細胞中では非常に豊富であり、OPC中では量が少なく、星状細胞では存在し
ないキナーゼである、Lynキナーゼによる3回の独立の実験に由来するウェスタンブロ
ットについての定量的解析を示す棒グラフを提示する。代表的な免疫蛍光画像を、図50
に提示し、培養の4日目のmAb処置の前、ならびにrHIgM12、rHIgM22、
およびアイソタイプ対照であるsHIgM24(各々10μg/mlずつ)による処置の
7日後である培養の11日目における、混合神経膠中のCD68(緑色)および核マーカ
ーであるDAPI(青色)のレベルを示す代表的な免疫蛍光画像を提示する。これらのデ
ータは、再生性mAbであるrHIgM12が、混合神経膠培養物中のCD68およびL
ynキナーゼの発現を増加させることを裏付ける。ウェスタンブロットにおけるCD68
の発現レベルがより高いこと(図49)は、免疫細胞化学による活性化小膠細胞数がより
多いこと(図50)と相関し得る。したがって、これらの研究において示される通り、再
ミエリン化促進抗体(例示的な抗体であるA2B5およびO1)および再生性mAbであ
るIgM12は、混合神経膠培養物中の小膠細胞(CD68)を活性化する。
【0442】
低酸素状態
【0443】
次いで、混合神経膠細胞培養物に対する低酸素の分子的効果を、正常酸素の培養物と比
較した。混合神経膠培養物を、FBS(10%)含有培地中で4日間にわたり成長させ、
正常酸素状態(21%のO2)と比較した低酸素(3%のO2)下の既知組成培地中で、
さらに7日間にわたり処置した。代表的なウェスタンブロット(図51)は、低酸素誘導
因子1(HIF1α)、希突起膠細胞マーカーであるNG2、PDGFα、Olig−2
、ミエリンマーカーであるMBPおよびCNPアーゼ、星状細胞マーカーであるGFAP
、小膠細胞マーカーであるCD68、細胞周期マーカーであるpRbS795、ならびに
アポトーシスマーカーである切断型カスパーゼ3のレベルを示す。ベータ−アクチンを、
ローディング対照として用いた。図51において示される通り、低酸素および正常酸素へ
と曝露した、混合神経膠培養物に由来するウェスタンブロットについての定量的解析は、
3回の独立の実験により完了し、これを図52に示す。これらのデータは、正常酸素状態
と比較した、低酸素下における、混合神経膠培養物中の、小膠細胞マーカーレベルおよび
星状細胞マーカーレベルの発現の低下、ならびにミエリンマーカーレベルの増加を裏付け
る。低酸素モデルの検証は、低酸素下におけるHIF1αの発現の増加により示される。
【0444】
低酸素モデルを検証したら、次いで、脳卒中、梗塞、および虚血の影響に関与性であり
、これらを模倣する状態における抗体の効果を評価するために、低酸素下の培養物の、再
生性抗体であるIgM12による処置に着手した。混合神経膠培養物を、正常酸素状態下
のFBS(10%)含有培地中で4日間にわたり成長させ、その後、既知組成培地中、低
酸素(3%のO2)下、ヒト再生性抗体であるrHIgM12または培地だけで、1〜7
日間にわたり処置した。代表的なウェスタンブロット(図53)は、増殖マーカーである
Ki−67、小膠細胞マーカーであるIBA−1、CD68、およびiNOS、アポトー
シスマーカーである切断型カスパーゼ3、星状細胞マーカーであるGFAP、細胞周期マ
ーカーであるpRbS795およびpRbS807、ならびに希突起膠細胞マーカーであ
るPDGFαR、NG2、Olig−1およびOlig−2、ならびにミエリンマーカー
であるMBPのレベルを示す。これらのデータからの結果は、低酸素下におけるrHIg
M12による処置の有効性を示す。rHIgM12は、小膠細胞を活性化させ、神経膠細
胞の細胞周期離脱(pRb)を刺激し、神経膠のアポトーシスレベルを低減し、低酸素下
におけるミエリン産生レベルの上昇を低減する。したがって、再生性抗体であるrHIg
M12は、低酸素下の混合神経膠培養物中の神経膠の生存を刺激し、OPCの分化を低減
する。
【0445】
正常酸素下と対比した低酸素下におけるrHIgM12の分子的転帰を、正常酸素下と
比較した低酸素下における混合神経膠に対する、rHIgM12により媒介される効果を
直接的に比較することにより評価した。混合神経膠は、前出で記載した通りに培養し、低
酸素状態下または正常酸素状態下の既知組成培地中、7日間にわたり、rHIgM12、
rHIgM22、または培地だけで処置した。代表的なウェスタンブロット(図54)は
、小膠細胞マーカーであるIBA−1およびCD68、アポトーシスマーカーである切断
型カスパーゼ3、星状細胞マーカーであるGFAP、希突起膠細胞マーカーであるPDG
FαR、NG2およびOlig−2、ならびにミエリンマーカーであるMBPおよびCN
Pアーゼのレベルを示す。rHIgM12は、正常酸素状態下および低酸素状態下の両方
において、小膠細胞発現マーカーであるCD68およびIBA−1を刺激する有効性を示
す。最も顕著なことは、rHIgM12が、正常酸素状態と比較して、ミエリンマーカー
であるMBPおよびCNPアーゼの発現に対する低酸素の影響を均衡させることである。
【0446】
培養物マーカーの妥当性および一貫性を点検するために、低酸素状態を動物において評
価した。P13齢の新生仔B16マウスに由来する低酸素皮質および正常酸素皮質につい
ての分子的解析を実施した。C57/Bl6新生仔マウスを、CD1母体マウスで交差養
育し、P3〜P7の4日間にわたり低酸素(10%のO2)へと曝露した。マウスは、そ
の後、さらに6日間にわたり室内空気に曝露し、P13に屠殺した。いずれの処置群(正
常酸素マウスおよび低酸素マウス)においても、RNAを皮質から単離し、ミエリンマー
カーであるPLP1、MOG、MBP1、希突起膠細胞前駆細胞マーカーであるPDGF
αRおよびOlig−1、星状細胞マーカーであるGFAP、ニューロンマーカーである
Nestinおよびβ3−チューブリン、低酸素誘導因子1αならびにサルコスパンタン
パク質SSPNについてプローブした。発現レベルは、RT−PCRにより解析し、結果
は、β−アクチンのレベルに対して正規化した。P13における低酸素および正常酸素の
C57/B16新生仔に由来する皮質中のマーカーについてのRT−PCR解析を実行し
、結果を図55に示す。これらのデータからの結果は、新生仔マウスの低酸素処置が、ミ
エリンマーカーの発現レベルを選択的に低減するが、皮質組織内のニューロンマーカー、
OPCマーカー、および星状細胞マーカーの発現レベルは低減しないことを示す。
(実施例23)
マウス脳卒中モデルにおける、IgM抗体であるrHIgM12の局在
【0447】
脳卒中後または虚血性イベント後の介入のための、抗体の接近および局在を評価するた
めに、モノクローナル抗体のIP投与を伴う脳卒中動物モデルを用いた。マウスにおいて
脳卒中を誘導し、放射性標識された抗体を投与し、次いで、投与の最長で24時間後の時
期における放射性標識を決定することにより、動物の組織を抗体について評価した。脳卒
中病変を含有する脳(皮質)のほか、小脳、脊髄、肝臓、脾臓、腎臓、および血清を評価
した。
【0448】
脳卒中は、上記で記載した、光活性化Rose Bengalプロトコールを用いて、
3匹の成体CD−1マウスの右側の大脳皮質において誘導し、他の3匹のマウスに、Ro
se Bengalは伴うが、光活性化は伴わない偽脳卒中手順を施した。脳卒中の30
〜40分後、約60ugのIgMに相当する1000万cpmの35Sで標識されたrH
IgM12を、容量500ulの生理食塩液により、各マウスへと腹腔内投与した。Ig
Mの投与または処置の6、12、および24時間後、血液をマウスから回収し、血管系を
、30mlの生理食塩液で洗浄し、組織を速やかに回収した。組織における放射性標識に
ついて解析するため、病変領域を含有する脳の右前頭葉皮質を、75mgの組織ブロック
として摘出した。組織は、Solvable(PerkinElmer)中に溶解させ、
cpmは、製造元のプロトコールに従い、UltraGold液体シンチレーションカク
テル中で決定した。他の組織の一部も、PerkinElmerにより提示される比に従
い摘出し、秤量し、処理した。結果を、図56に描示する。
【0449】
この研究では、各時点(tine point)に1匹のマウスを用いたが、rHIg
M12は、24時間にわたりCNS組織に蓄積されたが、これに対し、血液代謝を担当す
る組織および血清自体のrHIgM12レベルは低下したことが注意される。脳卒中を被
ったマウスの6時間後における、皮質内の高レベルのrHIgM12(図56の「脳」と
表示される第1のパネル)は、この時間内において、IgMが、脳卒中領域への接近を改
善したことを示唆する。脳卒中を被った動物の脳/皮質内では、この時点において、正常
/偽手順動物と対比して有意に高量の標識が存在する。また、rHIgM12が、脳卒中
を有するマウスおよび対照マウスのCNS組織に同等に入ることも興味深く、このことか
ら、無傷のBBBが、CNS損傷の領域に到達するこの治療用IgMの能力を完全には遮
断しないことが示唆される。rIgM12抗体は、この薬物がその最大の効果を及ぼすこ
とが予測される、脳卒中後の極めて重要な最初の12時間中に脳卒中領域に到達した。
【0450】
本発明は、その精神または本質的な特徴から逸脱しない限りにおいて、他の形態で実施
することもでき、他の方式で実行することもできる。したがって、本開示は、例示的なも
のであり限定的なものではない全ての態様、付属の特許請求の範囲により示される本発明
の範囲にあるものと考えられ、同等性の意味および範囲内に収まる全ての変化がその中に
包含されることを意図する。
【0451】
本明細書全体では多様な参考文献が引用されるが、それらの各々が参照によりその全体
において本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図5-7】
図5-8】
図5-9】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】
図6-6】
図6-7】
図6-8】
図7
図8
図9
図10
図11
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図19
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図48
図49
図50
図51
図52
図53
図54
図55
図56
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【外国語明細書】
2017127329000001.pdf