【実施例】
【0024】
以下本発明の一実施例による生体情報検出装置について説明する。
図1は本実施例による生体情報検出装置を示す構成図である。
本実施例による生体情報検出装置は、導体11をシート状に敷設した検出手段10と、検出手段10に送信したパルス信号と検出手段10から受信したパルス信号との伝播遅延時間から生体の実効誘電率の変化を検出する制御手段20とから構成されている。
検出手段10は、2枚の絶縁性フィルムの間に導体11を挟んで構成することで、他の導体との接触によるノイズの影響を無くすことができる。
絶縁性フィルムは、可撓性を有することが好ましく、可撓性を有する絶縁性フィルムを用いることで、検出手段10を生体にフィットさせることができ、生体の実効誘電率の変化を検出しやすい。
検出手段10は、絶縁性フィルムを用いる代わりに、布状あるいは網目状のシートに、絶縁被覆した導体11を担持させて構成してもよい。絶縁被覆した導体11を用いることで、他の導体との接触によるノイズの影響を無くすことができる。
導体11は、図示のように、ジグザグ状に配置することで、生体の実効誘電率の変化を検出しやすい。
【0025】
制御手段20は、パルス信号を発生させるパルス発生部21と、発生させたパルス信号を導体11に送信する送信部22と、送信部22から送信したパルス信号と検出手段10を伝播したパルス信号を受信する受信部23と、送信部22から送信したパルス信号と受信部23で受信したパルス信号とを比較して伝播遅延時間を計測する計測部24と、計測部24で計測した伝播遅延時間から生体の実効誘電率の変化を検出する生体状態検出部25と、呼吸に伴う生体の実効誘電率の変化から生体の状態を判定する判定部26とを備えている。
受信部23で受信したパルス信号や計測部24で計測する伝播遅延時間は、時間データとともにメモリ27に格納され、メモリ27に格納したデータを元に判定部26にて判定が行われる。なお、メモリ27には、判定部26にて判定された情報も格納される。
【0026】
送信部22から検出手段10に至る信号線31にはラインドライバ32を設け、ラインドライバ32の出力側の信号線31からは、基準信号線33がラインレシーバ34を介して受信部23に接続されている。
検出手段10から受信部23に至る信号線35には、ラインレシーバ36を設けている。
基準信号線33からのパルス信号に対して信号線35からのパルス信号は、検出手段10の近傍に存在する物質の誘電率に影響して遅延する。例えば人体は、その約70%の体液を有し、呼吸の動作によって、胸郭や腹部の体積が変化し体液分布が変わる。また、呼吸による膨張・収縮動作によって、人体と検出手段10との相対的な位置関係が変動する。水は非常に誘電率の大きな物質であるため、これらの変化に伴い、検出手段10内の導体11を伝播する電気信号の伝播速度を決定する導体11近傍の物質の総合的な誘電率(これを実効誘電率と称する)が変化する。この実効誘電率の変化によってパルス信号の伝搬スピードが変化するため、パルス信号の伝搬遅延時間を計測することで人体変化を計測でき、呼吸に伴う生体状態を判定することができる。
【0027】
図2は本発明の他の実施例による生体情報検出装置を示す構成図である。
図1と同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
検出手段10に敷設する導体11は、等長の1対の導体11a、11bで構成している。
送信部22から検出手段10に至る信号線31は、ラインドライバ32によって、一方の信号線31aと他方の信号線31bとに分岐し、一方の信号線31aに対して他方の信号線31bには逆位相のパルス信号が送信される。
一方の信号線31aは一方の導体11aと接続され、他方の信号線31bは他方の導体11bと接続される。
一方の導体11aと接続される一方の信号線35aと、他方の導体11bと接続される他方の信号線35bとは、ラインレシーバ36に接続される。
一方の信号線31aと他方の信号線31bとからは、逆位相のパルス信号が基準信号線33a、33bによってラインレシーバ34に送信される。
本実施例のように、導体11として、等長の1対の導体11a、11bを用い、一方の導体11aに対して他方の導体11bに逆位相のパルス信号を送信し、一方の導体11aのパルス信号と他方の導体11bのパルス信号との電位差を用いることで、コモンモードノイズを除去することができる。
【0028】
図3および
図4は本発明の生体情報検出装置における検出手段を寝具とした場合の使用状態説明図である。
【0029】
図3は検出手段10を敷き寝具41とした場合を示している。
図3に示すように、本発明の生体情報検出装置は、敷き寝具41の少なくとも一部に検出手段10が配設され、被験者Aが敷き寝具41に背臥位となることで生体情報を検出することができる。
敷き寝具41は、例えば敷き布団やマットレスであり、検出手段10は、人体の背部に少なくとも位置させることが好ましい。
【0030】
図4は検出手段10を掛け寝具42とした場合を示している。
図4に示すように、本発明の生体情報検出装置は、掛け寝具42の少なくとも一部に検出手段10が配設され、被験者Aが寝台43に背臥位となり、被験者Aに掛け寝具42を掛けることで生体情報を検出することができる。
掛け寝具42は、例えば掛け布団、毛布、タオルケットであり、検出手段10は、人体の胸郭または腹部に少なくとも位置させることが好ましい。
【0031】
図5および
図6は本発明の生体情報検出装置の実験データを示すグラフである。
図5は、
図1に示す装置を用い、
図3に示すように検出手段10を敷き寝具41とした場合の実験データである。
図5(a)は、縦軸がパルス信号の伝播遅延量、横軸が経過時間であり、約600秒間のデータを示している。なお、区間Bが呼吸を意図的に停止した期間である。
図5(b)は、
図5(a)における通常呼吸期間における周波数成分の分析結果、
図5(c)は、
図5(a)における呼吸停止期間における周波数成分の分析結果であり、縦軸が振幅(強度)、横軸が周波数(0〜約5Hz)である。
図5(a)に示すように、通常呼吸期間では、呼吸に伴う周期的な伝播遅延量の変化が見られ、呼吸停止期間では、周期的な伝播遅延量の変化は見られない。
図5(a)に示す通常呼吸期間で見られる周期的な伝播遅延量の変化は、
図5(b)に示すように、0.2Hz近傍で呼吸に伴う周期のスペクトルを確認できる。これに対して、
図5(c)に示すように、呼吸停止期間では、0.2Hz近傍でのスペクトルは確認できない。
【0032】
図6は、
図2に示す装置を用い、
図4に示すように検出手段10を掛け寝具42とした場合の実験データである。
図6は、縦軸がパルス信号の伝播遅延量、横軸が経過時間である。なお、区間Cが呼吸を意図的に停止した期間である。
図6では、平衡信号をパルス信号として用いているため、コモンモードノイズの影響が少なく、
図5と比較して周期的な伝播遅延量の変化が明確に現れている。
なお、
図6において、時間の経過とともにパルス信号の伝播遅延量が減少しているが、この減少は、生体情報検出装置のスタート時に生じるもので、
図6に示すように時間の経過とともに収束する。従って、呼吸以外の要因による実効誘電率の変化、すなわち例えば外部環境の変化による実効誘電率の変化や寝返りなどの体動による実効誘電率の変化によってもパルス信号の伝播スピードは変化するが、呼吸に伴う周期的な実効誘電率の変化や呼吸の周期のスペクトルを検出することで、呼吸状態を正確に検出できる。
【0033】
以上のように、導体11を敷き寝具41または掛け寝具42に配設し、検出手段10を寝具とすることで、生体が横になった状態で実効誘電率の変化を検出できるため、睡眠時の呼吸状態を検出できる。
そして、
図1または
図2に示す生体状態検出部25において、呼吸が所定時間継続して検出されない場合に、実効誘電率の周期的な変化が所定時間継続して検出されないことで無呼吸状態を判定することができる。
【0034】
本発明は、導体11にパルス信号を送信し、導体11を伝播したパルス信号を受信し、送信したパルス信号と受信したパルス信号とを比較して伝播遅延時間を計測し、計測した伝播遅延時間から生体の実効誘電率の変化を検出することで、送信したパルス信号と受信したパルス信号との伝播遅延時間から生体の実効誘電率の変化を検出することができるため、導体11を近接させた生体に関して生体状態を検出することができる。
また本発明は、呼吸に伴う生体の実効誘電率の変化から生体の呼吸状態を検出することで、呼吸に伴う生体状態を判定することができる。
なお、検出手段10を衣服とすることで、生体に近接させた状態を保つことができるため、寝台43に横になった状態(臥位)だけでなく、座った状態(座位)や立った状態(立位)でも実効誘電率の変化を検出でき、更には歩行やリハビリなどの動作状態でも実効誘電率の変化を検出できる。
【0035】
図7は本発明の生体情報検出装置における計測部の原理を説明する図、
図8および
図9は本発明の生体情報検出装置における計測部の構成例を示す図である。
【0036】
図7は、
図1および
図2に示す実施例において、受信部23で受信した受信したパルス信号の僅かな伝播遅延時間を計測する計測部24の原理を説明するための図である。
送信部22から送出されたパルス信号は2つに分岐し、一方のパルス信号は、一方のラインドライバ32aによって駆動され、信号線31を通り、検出手段10に敷設された導体11を通ってラインレシーバ36に至る。他方のパルス信号は、他方のラインドライバ32bから、ラインドライバ32bに近接したラインレシーバ34にすぐに至る。これらの2つのパルス信号には、経路の違いにより、検出手段10の周囲の空間の実効誘電率を反映した時間差が生じる。2つのパルス信号は排他的論理和回路50によって位相比較され、2つのパルス信号の時間差に応じたパルス幅のパルスが生成される。これらのパルスはLPF(低域通過フィルタ)51によって平均化される。パルス信号は一定の周期で繰り返し送出されるため、LPF51によって高周波成分を遮断することにより、そのパルス幅に応じた直流電圧信号に変換される。この直流電圧信号と基準電圧52との差を差動増幅回路53によって増幅することにより、検出手段10の周囲の空間の実効誘電率を反映した電気信号が得られる。但し、LPF51の遮断周波数は、その出力が観測対象の事象の変化に十分追従できるように設定する必要がある。
検出手段10の周囲の空間の実効誘電率の変化により生じるパルス信号の時間差の変化は極僅かであるため、十分な検出感度を得るために、差動増幅回路53の増幅度は極めて大きく設定する。
【0037】
観測対象の事象による実効誘電率の変化により生じるパルス信号の時間差の変化を検出するには、2つのパルス信号の伝播経路長の差によって元々生じる時間差に相当する電圧分に応じて、基準電圧52を適切に設定してこれを差し引く必要がある。
図8は、差動増幅回路53の出力の飽和を防止する構成例を示す図である。
排他的論理和回路50によって位相比較されたパルス信号は、一方のLPF51aによって平均化され直流電圧信号に変換されると同時に、他方のLPF51bによっても平均化され、差動増幅回路53に与える基準電圧52を生成する。
一方のLPF51aを構成する抵抗RおよびキャパシタCによる時定数CRは、位相比較されたパルスの繰り返し周期に比べて十分に大きな値に設定する。一方、他方のLPF51bを構成する抵抗R
refおよびキャパシタC
refによる時定数R
refC
refは、一方のLPF51aの時定数CRよりも十分大きく、さらに、実効誘電率の変化として観測対象とする事象の変化周期に対しても十分に大きな値に設定する。
これにより、観測対象の事象により実効誘電率が変化し、位相比較されたパルスのパルス幅が変化した時、一方のLPF51aの出力は直流電圧の変化としてこれを反映する一方、他方のLPF51bの出力はこれに追従できず、時定数R
refC
refに相当する時間にわたってこれを平均した電圧を示す。差動増幅回路53は、これら二者の差を検出して大きく増幅するため、実効誘電率が時間平均値からどれだけ偏移したかを感度良く検出することができる。
【0038】
なお、検出手段10の周囲の空間の実効誘電率は、観測対象とする事象による以外に種々の要因によって変化する可能性がある。例えば、
図3あるいは
図4に示す方法で睡眠時の呼吸状態を観測する場合、被験者Aの呼吸が変化することによる影響以外に、寝返りを打つ等、被験者Aの動きのために検出手段10と被験者Aとの位置関係が変化することによる影響が想定される。
【0039】
図9は、さらに好ましい構成例を示す図である。
本構成例は、寝返りを打つ等、被験者Aの動きのために検出手段10と被験者Aとの位置関係が変化することによる影響を無くし、基準電圧52を適正値に保ち、差動増幅回路53の出力が一時的に飽和することを防止できる。
差動増幅回路53に与える基準電圧52を生成する他方のLPF51bは、第一の抵抗R
ref1と第二の抵抗R
ref2およびキャパシタC
refによって構成され、他方のLPF51bには、位相検波されたパルスではなく、参照信号として任意にパルス幅を設定できるパルス信号を入力する。パルス幅はデジタル的に容易に制御することができる。他方のLPF51bは、このパルス信号を平均化するとともに、第一の抵抗R
ref1と第二の抵抗R
ref2によって分圧した電圧を生成する。これによって差動増幅回路53の出力を監視し、これが飽和に近付いた場合、基準電圧52を制御して速やかに適正値に近づけることができる。他方のLPF51bを、一方のLPF51aと同じ構成ではなく、第一の抵抗R
ref1と第二の抵抗R
ref2による分圧を用いているのは、基準電圧52を調節する分解能を高めるためである。
【0040】
なお、上記実施例においては、検出手段10の周囲の空間の実効誘電率の変化を生体情報の検出のために用いることについて述べたが、本発明による測定原理は、検出手段10の周囲の空間の実効誘電率の変化が起きる要因が何であっても用いることが可能であり、同等の効果を有することは言うまでもない。例えば、人体以外の物体の検知、その動きの検知、物質中に含まれる水分量の評価、液中の気泡の検知や気泡密度の評価、等にも用いることができる。
また、検出手段10に送出する電気信号としてパルス信号を用いる場合について説明したが、伝播遅延時間の変化は電気信号の波形によらず生じるものであって、正弦波信号を用いても同等の効果を奏することは言うまでもない。この場合、位相比較のための排他的論理和回路50に替えてダブルバランストミキサ等を用いることができる。