【課題】ヘマグルチニンの中でも、特にH5、H7、またはH9型ヘマグルチニンを有するインフルエンザウイルスに対し、強力な感染阻害活性を有するインフルエンザウイルス感染阻害剤の提供。
【解決手段】配列ARLPRからなるペプチドを有効成分として含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤であって、感染阻害対象のインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの型がH7型、H5型又はH9型である、インフルエンザウイルス感染阻害剤。上記ペプチドをコードするDNA。上記DNAを有する発現ベクター。上記ペプチドを含有するリポソーム。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0020】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0021】
==インフルエンザウイルス感染阻害剤の有効成分==
本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤は、配列ARLPR(配列番号1)からなるペプチド(以下、「インフルエンザウイルス感染阻害ペプチド」とも呼ぶ)を有効成分として含有するインフルエンザウイルス感染阻害剤であって、感染阻害対象のインフルエンザウイルスのヘマグルチニンの型がH5型、H7型、またはH9型であることを特徴とする。配列ARLPRからなるペプチドはヘマグルチニン結合性ペプチドであることが知られていたが、実施例で示したように、このペプチドは、H1型、H3型のヘマグルチニンを有するインフルエンザウイルスよりはるかに強力に、H5型、H7型、またはH9型のヘマグルチニンを有するインフルエンザウイルスに対して感染阻害する。
【0022】
ここで、インフルエンザウイルス感染阻害剤によるインフルエンザウイルスの宿主細胞への感染阻害は、例えば、プラークアッセイ法によって測定することができる。
【0023】
なお、本発明が感染阻害対象とするインフルエンザウイルスは、H5型、H7型、およびH9型のヘマグルチニンのうち少なくとも一つを有していれば、その由来を特に制限するものではなく、A型、B型もしくはC型、又はヒト分離型、ブタやウマ等の他の哺乳動物分離型もしくは鳥類分類型等のいずれであってもよく、また、ノイラミニダーゼの型も特に限定されない。
【0024】
==インフルエンザウイルス感染阻害剤の構成と利用==
上述したように、本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤は、H5型、H7型、またはH9型のヘマグルチニンを有するインフルエンザウイルスが宿主に感染するのを強力に阻害することができる。従って、本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤は、インフルエンザに罹患したヒト又はヒト以外の脊椎動物に投与することにより、体内でのインフルエンザウイルスの増殖を抑制することができる。また、インフルエンザ罹患前のヒト又はヒト以外の脊椎動物に予め投与しておくことにより、インフルエンザウイルスが体内に侵入しても感染を防止することができる。
【0025】
こうした医療用以外にも、本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤は、ヘマグルチニンを介して生じるインフルエンザウイルスの感染、及びそれに伴う種々の細胞機能や生命現象を解明するためのツールとして用いることもできる。
【0026】
したがって、本発明のインフルエンザウイルス感染阻害剤は、インフルエンザウイルスがin vitroで宿主細胞に感染するのを阻害するためのインフルエンザウイルス感染阻害剤、インフルエンザに罹患した患者を治療するためのインフルエンザ治療剤、インフルエンザに罹患する前に予防的に投与するためのインフルエンザ予防剤等として利用できる。これらの薬剤は、有効成分として配列ARLPRからなるペプチドの他に、必要に応じて薬学的に許容される担体とを含有する製剤とすることができる。ここで用いられる薬学的に許容される担体は、調製される薬剤の形態に応じて、慣用されている担体の中から適宜選択することができる。例えば、薬剤が溶液形態として調製される場合、担体として、水又は生理学的緩衝液、グリコール、グリセロール、オリーブ油のような注射投与可能な有機エステルなどを使用することができる。さらに、この薬剤には、慣用的に用いられる安定剤、賦形剤などを含んでもよい。
【0027】
ヒト又はヒト以外の脊椎動物への薬剤の投与方法には特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、疾病の重篤度等に応じて適宜決定すればよいが、製剤形態としては、特に注射剤、点滴剤、噴霧剤、点鼻剤、吸入剤などが好ましく、投与形態に適合した剤型を選択できる。投与経路としては、経口投与又は非経口投与があり、具体的には、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、腹腔内投与、気管内投与、吸入投与、舌下投与等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、ヒトインフルエンザウイルスは、口腔や鼻腔から侵入し、主に上気道の粘膜上皮細胞で増殖することが知られているので、本剤は、ヒトインフルエンザウイルスが感染するヒト又はヒト以外の脊椎動物に対し、経口、気管内、鼻、口腔咽頭、吸入等の投与経路で使用されることが好ましい。具体的には、本剤をスプレー、(噴霧式)エアゾール又は吸入剤として製剤化すれば、本剤を経口、気管内、鼻、口腔咽頭、吸入等の投与経路を通じて投与することができ、インフルエンザウイルスの気道上皮細胞への感染を効率よく阻害することができる。
【0028】
また、本剤の1日当たりの投与量は、投与する者の症状、年齢、体重、性別、治療期間、治療効果、投与方法などにより適宜変更しうるが、インフルエンザウイルス感染を阻害でき、かつ、生じる副作用が許容し得る範囲内であれば特に限定されない。
【0029】
本剤は、単独で使用してもよいし、あるいは他の薬剤(例えば、他の抗ウイルス剤、抗炎症剤や、症状を緩和する薬剤など)と併用してもよい。併用する場合、複合剤として使用してもよく、単剤を同時に使用してもよい。ここで、「同時に使用」とは、一方の薬理効果が残っている間に投与することを意味するのであって、時間的に一緒に投与することに限定されない。
【0030】
また、本剤は、インフルエンザワクチンが使用できない場合、例えば、インフルエンザワクチンの効果が現れるまでに罹患の可能性があるハイリスク患者や、免疫不全者等ワクチンの効果が十分に現れない患者や、ワクチン接種が禁忌である患者に対しても使用可能である。
【0031】
==インフルエンザウイルス感染阻害剤の製造==
本発明のインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、公知のペプチド合成方法、例えば、液相法及び固相法に従って製造できる。具体的には、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法や、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法などを利用してもよい。
【0032】
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。具体的には、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これらの方法に利用できる溶媒も、ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0033】
このように作製されたペプチドは、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等、ペプチド化学の分野で汎用されている常法に従って、適宜その精製を行うことができる。
【0034】
別法として、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドをコードするDNAを作製して発現ベクターに組み込み、培養細胞などの真核細胞又は大腸菌などの原核細胞に導入し、そこで発現させたペプチドを精製してもよい。発現ベクターは、導入する宿主細胞に従って、適宜選択できる。ペプチドをコードするDNAの組み込みなどを含むベクターの構築、宿主細胞への導入、宿主細胞での発現、宿主細胞の抽出物の調製は、分子生物学的手法を用いて、常法に従って行うことができる。目的のペプチドは、その抽出物から、上記したペプチド化学の分野で汎用されている常法によって、精製することができる。
【0035】
==インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの化学修飾==
本発明のインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、適宜化学修飾されていてもよい。例えば、アルキル化や脂質化(特にリン脂質化)等による化学修飾によって、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの細胞親和性や組織親和性を増大させたり、血中半減期を延長させ薬理効果を増強をさせたりすることができる。
【0036】
インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドのアルキル化は、常法に従って行うことができる。例えば、上記ペプチド合成と同様に、脂肪酸とヘマグルチニン結合性ペプチドのN末端アミノ基とのアミド結合形成反応により容易に行うことができる。脂肪酸としては、直鎖脂肪酸でも分枝鎖脂肪酸でもよく、また飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、どんな脂肪酸でも広く使用できるが、特に、生体内に存在する脂肪酸を用いるのが好ましく、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸等の飽和脂肪酸や、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸などの、炭素数が12〜20程度の脂肪酸が挙げられる。
【0037】
またアルキル化は、ペプチド合成と同様にして、アルキルアミンとヘマグルチニン結合性ペプチドのC末端カルボキシル基とのアミド結合形成反応によっても行うことができる。アルキルアミンとしては、上記脂肪酸と同様に各種のアルキルアミンを用いることができるが、特に生体内に存在する脂肪鎖(炭素数が12〜20程度)を用いるのが好ましい。
【0038】
インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの脂質化も常法に従って実施できる(例えば、New Current, 11(3), 15-20 (2000); Biochemica et Biophysica Acta., 1128, 44-49 (1992); FEBSLetters, 413, 177-180 (1997); J.Biol.Chem., 257, 286-288 (1982)等を参照)。例えば、各種リン脂質の2位水酸基或いは3位のリン酸基に対し、任意のスペーサーを介して、縮合法によってインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドに結合させることができる。必要によっては、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドのN端或いはC端に任意の長さ(通常では2〜3個)のシステインを含むアミノ酸配列を付加して、縮合に利用される反応性SH基をあらかじめ導入することもできる。ここで用いられるリン脂質には、特に制限はなく、例えば、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール等が挙げられる。
【0039】
==インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを含有するリポソーム==
アルキル化や脂質化されたインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、リポソーム製剤調製の際の脂質成分として利用することができる。このリポソーム製剤においては、リン脂質を膜構成成分とするリポソームに、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドが保持され、リポソーム膜上に提示されることにより、インフルエンザウイルス感染阻害剤として有効に機能する。
【0040】
リポソーム製剤として用いるリポソーム膜は、酸性リン脂質を単独で構成成分として用いるか又は中性リン脂質と酸性リン脂質とを併用して、常法に従い製造できる。従って、リン脂質中での酸性リン脂質の割合は、約0.1〜100モル%程度、好ましくは約1〜90モル%、より好ましくは約10〜50モル%程度とすることができる。以下、アルキル化や脂質化されたインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを用いたリポソームの製造方法を具体的に詳述する。
【0041】
酸性リン脂質としては、例えば、ジラウロイルホスファチジルグリセロール(DLPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、卵黄ホスファチジルグリセロール(卵黄PG)、水添卵黄ホスファチジルグリセロール等の天然又は合成ホスファチジルグリセロール類(PG)及びジラウロイルホスファチジルイノシトール(DLPI);ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジオレオイルホスファチジルイノシトール(DOPI)、大豆ホスファチジルイノシトール(大豆PI)、水添大豆ホスファチジルイノシトール等の天然又は合成ホスファチジルイノシトール類(PI)等を用いることができる。これらの酸性リン脂質は一種単独で又は二種以上混合して使用することができる。
【0042】
中性リン脂質としては、例えば、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、水添大豆ホスファチジルコリン、水添卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン(MPPC)、パルミトイルステアリイルホスファチジルコリン(PSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)等の天然又は合成ホスファチジルコリン類(PC)、大豆ホスファチジルエタノールアミン、卵黄ホスファチジルエタノールアミン、水添大豆ホスファチジルエタノールアミン、水添卵黄ホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(MPPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PSPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等の天然又は合成ホスファチジルエタノールアミン類(PE)等を用いることができる。これらの中性リン脂質は、一種単独で又は二種以上混合して使用することができる。
【0043】
リポソームの調製に当たっては、さらにコレステロールなどを添加してもよい。このコレステロールの添加によってリン脂質の流動性を調整し、リポソームの調製をより簡便にすることができる。リン脂質に対するコレステロールの割合は特に限定されないが、リン脂質の重量の約0.5〜1倍量で添加されるのが好ましい。
【0044】
リポソームを調製する際、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドと酸性リン脂質との分子数の割合は、ペプチド1に対して酸性リン脂質が0.5〜100程度、好ましくは1〜60程度、より好ましくは1.5〜20程度とするのがよい。
【0045】
このような脂質を有機溶媒(クロロホルム、エーテル等)に溶解した後、丸底フラスコに入れ、窒素気流下又は減圧下で有機溶媒を除去し、フラスコ底部に脂質の薄膜をつくる。この場合、さらに減圧下でデシケーター中に放置することによって有機溶媒を完全に除去することもできる。次いで、ヘマグルチニン結合性ペプチドの水溶液を脂質薄膜上に加えて脂質を水和させることによって乳濁色の多重層リポソーム(MLV)の懸濁液が得られる。
【0046】
また、大きな一枚膜リポソーム(ULV)は、ホスファチジルセリンの小さな一枚膜リポソームにCa
2+を添加し、融合させてシリンダー状のシートとした後、キレート剤であるEDTAを添加しCa
2+を除去する方法(Biochim. Biophys. Acta394, 483-491, 1975)やエーテルに溶解した脂質を約60℃の水溶液中に注入し、エーテルを蒸発させる方法(Biochim. Biophys. Acta 443, 629-634, 1976)により作ることができる。
【0047】
これらの調製法のほかに、フレンチプレス法により粒子径の小さなリポソームを調製することもできる(FEBS lett. 99, 210-214, 1979)。また大沢らによって報告されているリポソームへの保持効率の高い凍結乾燥法(Chem. Pharm. Bull. 32, 2442-2445, 1984)と凍結融解法(Chem. Pharm. Bull. 33, 2916-2923,1985)を利用することもできる。
【0048】
このように調製されたリポソーム膜に含まれるインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドの割合は、全脂質中、数モル%から数十モル%程度であればよく、5〜20モル%程度であるのが好ましいが、通常は5モル%程度であってもよい。
【0049】
さらに、こうして調製されたリポソームは、透析法(J. Pharm. Sci. 71, 806-812,1982)やポリカーボネート膜を用いたろ過法(Biochim. Biophys. Acta 557, 9-23, 1979;Biochim. Biophys. Acta 601, 559-571, 1980)により、粒子径を一定にすることができる。また調製されたリポソーム溶液から、透析法、ゲルろ過法、遠心分離法を利用して、リポソーム膜中に保持されなかったインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを除くことができる。更に透析膜等を用いてリポソームを濃縮することも可能である。
【0050】
このようにして調製されるリポソーム分散液には、添加剤として、防腐剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、吸収促進剤等の各種の公知物質を適宜配合することができ、また必要に応じてこれらの添加物を含む液又は水で希釈することもできる。上記添加剤の具体例としては、防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベン等)、チメロサール等の真菌及び細菌に有効な防腐剤を、等張化剤としてはD−マンニトール、D−ソルビトール、D−キシリトール、グリセリン、ブドウ糖、マルトース、庶糖、プロピレングリコール等の多価アルコール類や塩化ナトリウム等の電解質類を、また安定化剤としてはトコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、システイン等をそれぞれ用いることができる。
【0051】
また、ヘマグルチニン結合性ペプチドからなる上記リポソームの内部には、抗ウイルス剤等の他の薬剤を封入させて、リポソーム製剤とすることも可能である。
【0052】
==ペプチド凝集体==
インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、インフルエンザウイルス感染阻害剤としてそのまま用いてもよいが、ペプチド凝集体を形成させることによって、さらに効率よくインフルエンザウイルスの宿主細胞への感染を阻害することができる。ここで、本明細書において、ペプチド凝集体とは、ミセル(疎水基を内側に向け、親水基を外側に並べて球の形状を示すもの)と自己ペプチド集合体(溶液中にて自然に凝集する直径数百nm〜数μmのペプチド凝集体)の両方を意味するものとする。
【0053】
ペプチド凝集体の材料として、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを修飾し、親水性と疎水性の性質を兼ね備える両親媒性の化合物を作製することにより、ペプチド凝集体を形成しやすくすることができる。例えば、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドをアルキル化することにより、両親媒性の化合物を作製することができる。アルキル化は、前述の通りに行うことができる。
【0054】
溶液中で、所定の濃度以上のインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを懸濁させると、ペプチドが液体中で臨界濃度に達し、ペプチド凝集体を形成する。このようなペプチド凝集体の形成は、ヘマグルチニンと宿主細胞に存在するインフルエンザウイルス受容体との結合を立体的に障害するためにも効果的であると考えられる。なお、ペプチド凝集体の直径は、光強度分布(intensity PSD)などの公知の方法を用いて測定することができる。
【0055】
==デンドリマー==
インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドは、インフルエンザウイルス感染阻害剤としてそのまま用いてもよいが、デンドリマーの構成を採ることによって、さらに効率よくインフルエンザウイルスの宿主細胞への感染を阻害することができる。ここで、本明細書において、デンドリマーとは、コア(core)と呼ばれる中心分子と、デンドロン(dendron)と呼ばれる側鎖部分から構成される樹状高分子のことを意味するものとする。このデンドロンの先端(termini)にインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを結合させて、インフルエンザウイルス感染阻害のためのデンドリマーを構成する。
【0056】
デンドリマーの構成は特に限定されないが、カルボシランデンドリマーが好ましい。カルボシランデンドリマーの好ましい具体例として、次式(I)または(II)で表わされるカルボシランデンドリマーが例示できるが、さらに好ましい例を
図1に示す。
【0057】
(式中、R
1、R
6およびR
7は、独立に置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、R
2、R
3、R
4およびR
5は、独立に置換基を有していてもよい炭化水素鎖を示し、Aはインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドであり、mは0〜3のいずれかの整数であり、nは1〜4のいずれかの整数であり、m+n=4であって、さらに、kは0〜2のいずれかの整数、Iは0〜2のいずれかの整数である)
(式中、R
1およびR
6は、独立に置換基を有していてもよい炭化水素基を示し、R
2、R
4およびR
5は、独立に置換基を有していてもよい炭化水素鎖を示し、Aはインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドであり、mは0〜3のいずれかの整数であり、nは1〜4のいずれかの整数であり、m+n=4であって、さらに、Iは0〜2のいずれかの整数である)
製造方法などは公知であり、例えばWO2002/002588や、Hatano et al.(J.Med.Chem. vol.57 p.8332-8339 2014)に詳細に記載されており、これらの文献を引用することで本明細書に含めるものとする。
【0058】
==他の形態を有する医薬組成物==
本発明のインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを薬剤として動物に投与する代わりに、これらのペプチドを細胞で発現できる発現ベクターを投与してもよい。ベクターは、プラスミドでもウイルスベクターでもよいが、用いた細胞で挿入遺伝子を発現できるプロモーターを有する必要がある。投与形態としては、DNAをそのまま投与しても、このDNAを有するベクターを含むウイルスを感染させても、このDNAを有するベクターを含む細胞を移植してもよい。ウイルスは、アデノウイルス、レトロウイルスなど、特に限定されないが、体内で細胞に感染し、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを発現し、分泌するような構成にするのが好ましい。また、細胞を移植する場合も、細胞がインフルエンザウイルス感染阻害ペプチドを発現し、分泌できるように構成されているのが好ましい。細胞内で発現したペプチドを分泌させるためには、例えば、インフルエンザウイルス感染阻害ペプチドのN端側にシグナルペプチドが融合した融合ペプチドを発現させるようにベクターを構築すればよいが、分泌させるための方法は必ずしもこれに限定されない。