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特開2017-128661熱線カット膜及びこの熱線カット膜を形成するための塗料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-128661(P2017-128661A)
(43)【公開日】2017年7月27日
(54)【発明の名称】熱線カット膜及びこの熱線カット膜を形成するための塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20170630BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170630BHJP
   C09D 5/33 20060101ALI20170630BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20170630BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D7/12
   C09D5/33
   C03C17/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-9005(P2016-9005)
(22)【出願日】2016年1月20日
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【テーマコード(参考)】
4G059
4J038
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC06
4G059FA11
4G059FA28
4G059FB05
4J038FA071
4J038JA32
4J038JB11
4J038KA04
4J038KA12
4J038MA09
4J038NA05
4J038NA06
4J038NA19
4J038PA17
4J038PB05
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】熱線カット性能、防曇防汚機能及び透明性に優れた熱線カット膜及びこの熱線カット膜を形成するための塗料を提供する。
【解決手段】本発明の熱線カット膜は、インジウム錫酸化物(ITO)粒子が透明性樹脂中に均一に分散してなり、熱線カット膜中、ITO粒子を0.6〜14g/m、膜表面調整剤として下記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含み、前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、水の接触角が30度以下であって、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上であり、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下である。
【化17】

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム錫酸化物(ITO)粒子が透明性樹脂中に均一に分散してなる熱線カット膜において、
前記熱線カット膜中、前記ITO粒子を0.6〜14g/m、膜表面調整剤として下記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含み、前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、水の接触角が30度以下であって、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上であり、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下であることを特徴とする熱線カット膜。
【化11】
但し、式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。Rは、2価の有機基である連結基であり、Xは、両性型の親水性賦与基である。
【請求項2】
アンチモン錫酸化物(ATO)粒子が透明性樹脂中に均一に分散してなる熱線カット膜において、
前記熱線カット膜中、前記ATO粒子を0.6〜14g/m、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含み、前記ATO粒子が45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、水の接触角が30度以下であって、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上であり、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下であることを特徴とする熱線カット膜。
【化12】
但し、式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。Rは、2価の有機基である連結基であり、Xは、両性型の親水性賦与基である。
【請求項3】
インジウム錫酸化物(ITO)粒子及びアンチモン錫酸化物(ATO)粒子が透明性樹脂中に均一に分散してなる熱線カット膜において、
前記熱線カット膜中、ITO粒子とATO粒子の合計で0.6〜14g/m、かつ、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含み、前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記ATO粒子が45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、水の接触角が30度以下であって、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上であり、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下であることを特徴とする熱線カット膜。
【化13】
但し、式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。Rは、2価の有機基である連結基であり、Xは、両性型の親水性賦与基である。
【請求項4】
インジウム錫酸化物(ITO)粒子と透明性樹脂と溶媒とを含む熱線カット膜形成用塗料において、
前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記塗料100質量%中、膜表面調整剤として下記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下含むことを特徴とする熱線カット膜形成用塗料。
【化14】
但し、式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。Rは、2価の有機基である連結基であり、Xは、両性型の親水性賦与基である。
【請求項5】
アンチモン錫酸化物(ATO)粒子と透明性樹脂と溶媒とを含む熱線カット膜形成用塗料において、
前記ATO粒子が45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記塗料100質量%中、膜表面調整剤として下記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下含むことを特徴とする熱線カット膜形成用塗料。
【化15】
但し、式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。Rは、2価の有機基である連結基であり、Xは、両性型の親水性賦与基である。
【請求項6】
インジウム錫酸化物(ITO)粒子とアンチモン錫酸化物(ATO)粒子と透明性樹脂と溶媒とを含む熱線カット膜形成用塗料において、
前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記ATO粒子が45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記塗料100質量%中、膜表面調整剤として下記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下含むことを特徴とする熱線カット膜形成用塗料。
【化16】
但し、式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。Rは、2価の有機基である連結基であり、Xは、両性型の親水性賦与基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種車両、船舶、建材、医療器械等の窓ガラス、一般包装物、ショーケース等の透明部の熱線(赤外線)カット分野に用いられる熱線カット膜及びこの熱線カット膜を形成するための塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の熱線カット膜は、ガラス或いは耐熱性を有するプラスチックのような基材表面に熱線カット膜形成用塗料をコーティングして形成されている。しかし、このよう熱線カット膜は、熱線カット膜形成用塗料を基材表面にコーティングした後で、加熱加工等の後工程へ搬送し、保管する間に、熱線カット膜表面に汚れが付着したりして、最終製品としての検査で不良品となってしまう場合がある。このような熱線カット膜の汚染防止のために、熱線カット膜の表面にプラスティック等の保護フィルムを貼り付けている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−034552号公報(段落[0004]〜[0008])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されるように、熱線カット膜の汚染防止のために、保護フィルムを貼り付けることは、保護フィルムを必要とする上、余分の貼り付け工程を要する不具合があった。また、この種の熱線カット膜は、あらゆる環境での透明性を維持できるよう防曇性が求められているが、従来の熱線カット膜の防曇性は不十分であった。
【0005】
本発明の目的は、熱線カット性能に優れるとともに、防曇防汚機能と透明性に優れた熱線カット膜及びこの熱線カット膜を形成するための塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、インジウム錫酸化物(ITO)粒子が透明性樹脂中に均一に分散してなる熱線カット膜において、前記熱線カット膜中、前記ITO粒子を0.6〜14g/m、膜表面調整剤として下記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含み、前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、水の接触角が30度以下であって、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上であり、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下であることを特徴とする。
【0007】
【化1】
【0008】
但し、式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。Rは、2価の有機基である連結基であり、Xは、両性型の親水性賦与基である。
【0009】
本発明の第2の観点は、アンチモン錫酸化物(ATO)粒子が透明性樹脂中に均一に分散してなる熱線カット膜において、前記熱線カット膜中、前記ATO粒子を0.6〜14g/m、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含み、前記ATO粒子が45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、水の接触角が30度以下であって、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上であり、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、インジウム錫酸化物(ITO)粒子及びアンチモン錫酸化物(ATO)粒子が透明性樹脂中に均一に分散してなる熱線カット膜において、前記熱線カット膜中、前記ITO粒子と前記ATO粒子を合計で0.6〜14g/m、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含み、前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記ATO粒子が45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、水の接触角が30度以下であって、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上であり、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の観点は、インジウム錫酸化物(ITO)粒子と透明性樹脂と溶媒とを含む熱線カット膜形成用塗料において、前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記塗料100質量%中、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の観点は、アンチモン錫酸化物(ATO)粒子と透明性樹脂と溶媒とを含む熱線カット膜形成用塗料において、前記ATO粒子が45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記塗料100質量%中、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の第6の観点は、インジウム錫酸化物(ITO)粒子とアンチモン錫酸化物(ATO)粒子と透明性樹脂と溶媒とを含む熱線カット膜形成用塗料において、前記ITO粒子が30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記ATO粒子が45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、前記塗料100質量%中、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点の熱線カット膜は、熱線カット材としてITO粒子と透明性樹脂を含む。また本発明の第2の観点の熱線カット膜は、熱線カット材としてATO粒子と透明性樹脂を含む。更に本発明の第3の観点の熱線カット膜は、熱線カット材としてITO粒子とATO粒子と透明性樹脂を含む。これにより可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下であるため、熱線カット性能と透明性に優れる。また両性型含窒素フッ素系化合物を含むため、水の接触角が30度以下であって、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上であり、防曇防汚機能に優れる。特に膜表面調整剤として両性型含窒素フッ素系化合物を含むため、保護フィルムを必要とすることなく汚染と曇りを防止できる。また両性型含窒素フッ素系化合物は両性イオンのためITO粒子及び/又はATO粒子の表面電荷と作用しにくく、ITO粒子及び/又はATO粒子を凝集させず、熱線カット膜の透明性を低下させない。
【0015】
本発明の第4の観点ないし第6の観点の熱線カット膜形成用塗料では、塗料中に含まれた膜表面調整剤としての両性型含窒素フッ素系化合物が、塗膜の乾燥時にその低い表面張力により、塗膜の表層部に析出する。このため、この塗料により形成した熱線カット膜は、汚染と曇りを防止することができる。また両性イオンのためITO粒子及び/又はATO粒子の表面電荷と作用しにくい。この結果、ITO粒及び/又はATO粒子を凝集させず、熱線カット膜の透明性を低下させない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
〔熱線カット膜形成用塗料〕
本実施の形態の熱線カット膜形成用塗料は、熱線カット機能を有するITO粒子、ATO粒子、又はITO粒子とATO粒子の混合粒子のいずれかの無機微粒子と、可視光線を透過する透明性樹脂と、膜表面を調整する両性型含窒素フッ素系化合物とを含む。即ち、本実施の形態の熱線カット機能を有する無機微粒子は、ITO粒子単独、ATO粒子単独又はITO粒子とATO粒子の混合粒子である。ITO粒子とATO粒子の混合粒子である場合、ITO粒子とATO粒子の混合比率は特に限定されない。
【0018】
上記ITO粒子は、30〜65m/g、好ましくは32〜60m/gのBET法による比表面積と50以下、好ましくは47以下のL値を有する。上記ATO粒子は、45〜85m/g、好ましくは50〜82m/gのBET法による比表面積と50以下、好ましくは47以下のL値を有する。BET法による比表面積が上記範囲の下限値未満であると、熱線カット機能を有する熱線カット膜にしたときのヘーズが高くなり膜の透明性が低くなる。ヘーズを低くするために無機微粒子の膜中の含有量を減少させると、膜の熱線カット機能が得られない。本来であれば、BET値が高いと、粒子が小さくなるため、透明性並びにヘーズの低減を図ることが可能であるけれども、BET法による比表面積が上記範囲の上限値を超えると、所定の分散剤の添加量で透明性樹脂に無機微粒子を混合した場合、この無機微粒子の樹脂への分散が不十分となり、かえって塗膜のヘーズが悪くなる。このことを回避しようとしてヘーズを低減する目的で、BET法による比表面積が上記範囲の上限値を超えた無機微粒子を用いた場合、この無機微粒子を樹脂に分散するための分散剤量を増やす必要が生じる。分散剤を増加すると、膜の強度が悪くなり、かつ基材への密着性が悪化する等の問題が発生する。このため、ITO粒子のBET法による比表面積の上限値は65m/gに、ATO粒子のBET法による比表面積の上限値は85m/gにそれぞれ設定される。また所望の熱線カット特性を得るために無機微粒子の膜中の含有量を増大させると、熱線カット膜形成用塗料を基材上に塗布したときに熱線カット膜の基材への密着性が悪くなる。
【0019】
またITO粒子又はATO粒子のL値が50を超えると、粒子の体積抵抗率が悪くなり、膜の熱線カット機能が低くなる。また粒子も大きくなるため、膜のヘーズが高くなり膜の透明性が低くなる。
【0020】
塗料中の透明性樹脂は、可視光線を透過しかつ熱線カット膜の基材との接着性がある樹脂であればよく、特に電離放射線硬化型樹脂が好ましい。電離放射線硬化型樹脂を含むときには、光重合開始剤等の重合開始剤を添加し、熱線遮蔽膜形成用塗料を得る。
【0021】
電離放射線硬化型樹脂としては、被膜性、透明性を有するとともに、熱線カット膜の基材への接着性を有する樹脂、例えば、紫外線硬化型あるいは電子線硬化型等の架橋被膜を形成し得る電離放射線硬化型樹脂であれば、特に限定されることなく使用することができる。中でも、アクリル系化合物又はエポキシ系化合物のうちの1種類以上を含有するモノマー又はオリゴマーに、光重合開始剤を含有した紫外線硬化型樹脂は、被膜性、透明性及びハードコート性を有し、熱線カット膜上に別途ハードコート層を積層する必要がなく、また、熱線カット膜の基材への接着性に優れるので好ましい。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物等を挙げることができる。光重合開始剤の添加量は、紫外線硬化型樹脂に対し0.1〜10質量%の範囲が望ましい。この添加量が0.1質量%より少なくても、また10質量%より多くても、紫外線硬化が不十分となり易い。
【0022】
熱線カット膜形成用塗料は、無機微粒子と透明性樹脂と両性型含窒素フッ素系化合物と溶媒とを混合して調製される。ここで、無機微粒子とは、ITO粒子単独、ATO粒子単独又はITO粒子とATO粒子の混合粒子のいずれかをいう。この塗料には分散剤を混合してもよい。分散剤を混合することにより、塗膜にしたときの透明性が更に向上する。
【0023】
本実施の形態の熱線カット膜形成用塗料は、形成した熱線カット膜1m当りの無機微粒子の数を膜厚に関係なく一定にするために、膜厚に応じて、無機微粒子の含有量を変化させる。薄い熱線カット膜を形成する場合には、塗工回数を少なくし、もしくは、塗料固形分中の無機微粒子の含有量、即ち無機微粒子の濃度を増加させる。一方、厚い熱線カット膜を形成する場合には、塗工回数を増やし、もしくは、塗料固形分中の無機微粒子の含有量、即ち無機微粒子の濃度を低下させる。以下、膜厚が0.1〜30μmの場合と、30μmを超え1000μm以下の場合とに分けて、無機微粒子の種類毎に、説明する。
【0024】
膜厚が0.1〜30μmであり、この塗料が無機微粒子としてITO粒子を単独で含む場合、塗料100質量%中、ITO粒子を5〜60質量%、両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下それぞれ含み、塗料の固形分100質量%中、ITO粒子以外の成分を10〜52質量%含む。この場合、ITO粒子の好ましい含有量は20〜50質量%であり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.2〜1.5質量%である。
【0025】
また膜厚が0.1〜30μmであり、この塗料が無機微粒子としてATO粒子を単独で含む場合、塗料100質量%中、ATO粒子を5〜60質量%、両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下それぞれ含み、塗料の固形分100質量%中、ATO粒子以外の成分を10〜52質量%含む。この場合、ATO粒子の好ましい含有量は20〜50質量%であり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.2〜1.5質量%である。
【0026】
更に膜厚が0.1〜30μmであり、この塗料が無機微粒子としてITO粒子とATO粒子の双方を含む場合、塗料100質量%中、ITO粒子とATO粒子の合計で5〜60質量%含み、両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下含み、塗料の固形分100質量%中、ITO粒子とATO粒子以外の成分を10〜52質量%含む。この場合、ITO粒子とATO粒子とを合計したときの好ましい含有量は20〜50質量%であり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.2〜1.5質量%である。
【0027】
膜厚が0.1μm〜30μmである場合、塗料中のITO粒子単独の含有量が5質量%未満、ATO粒子単独の含有量が5質量%未満、又はITO粒子とATO粒子の混合粒子の合計含有量が5質量%未満では、この塗料から作られた熱線カット膜の熱線カット機能を高められない。またITO粒子単独の含有量が60質量%を超えるか、ATO粒子単独の含有量が60質量%を超えるか、又はITO粒子とATO粒子の混合粒子の合計含有量が60質量%を超えると、塗料が増粘するなど経時安定性が悪くなり、しかも透明性樹脂が相対的に不足し、無機微粒子の粒子間の接着力が低下し、熱線カット膜の熱線カット機能が悪化する。
【0028】
また膜厚が0.1μm〜30μmである場合、塗料の固形分中の無機微粒子以外の成分含有量が5質量%未満では、熱線カット膜の基材に対する密着性を十分に得られない。またこの含有量が52質量%を超えると、塗料が増粘するなど経時安定性が悪くなり、しかも熱線カット膜の熱線カット機能が悪化する。
【0029】
膜厚が30μmを超え1000μm以下であり、この塗料が無機微粒子としてITO粒子を単独で含む場合、塗料100質量%中、ITO粒子を0.01〜5質量%、両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下それぞれ含み、塗料の固形分100質量%中、ITO粒子以外の成分を95〜99.9質量%含む。この場合、ITO粒子の好ましい含有量は0.1〜5質量%であり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.2〜1.5質量%である。
【0030】
また膜厚が30μmを超え1000μm以下であり、この塗料が無機微粒子としてATO粒子を単独で含む場合、塗料100質量%中、ATO粒子を0.01〜5質量%、両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下それぞれ含み、塗料の固形分100質量%中、ATO粒子以外の成分を95〜99.9質量%含む。この場合、ATO粒子の好ましい含有量は0.1〜5質量%であり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.2〜1.5質量%である。
【0031】
更に膜厚が30μmを超え1000μm以下であり、この塗料が無機微粒子としてITO粒子とATO粒子の双方を含む場合、塗料100質量%中、ITO粒子とATO粒子の合計で0.01〜5質量%含み、両性型含窒素フッ素系化合物を2質量%以下含み、塗料の固形分100質量%中、ITO粒子とATO粒子以外の成分を95〜99.9質量%含む。この場合、ITO粒子とATO粒子とを合計したときの好ましい含有量は0.1〜5質量%であり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.2〜1.5質量%である。
【0032】
膜厚が30μmを超える場合は、ITO粒子、ATO粒子の濃度が高いと、1m当りのITO粒子、ATO粒子が14g/mもしくは10g/mを超えるため、塗料中のITO粒子、ATO粒子濃度を下げ、透明樹脂の含有量を増やす必要がある。0.7mm厚さの膜を形成する場合には、膜中のITO濃度を0.2質量%にすることで、可視光線透過率70%以上でありながら、日射透過率が可視光線透過率の0.83以下に設定することが可能である。
【0033】
膜厚が30μmを超え1000μm以下である場合、塗料中のITO粒子単独の含有量が0.01質量%未満、ATO粒子単独の含有量が0.01質量%未満、又はITO粒子とATO粒子の混合粒子の合計含有量が0.01質量%未満では、この塗料から作られた熱線カット膜の熱線カット機能を高められない。またITO粒子単独の含有量が5質量%を超えるか、ATO粒子単独の含有量が5質量%を超えるか、又はITO粒子とATO粒子の混合粒子の合計含有量が5質量%を超えると、可視光線透過率が70%以下となり、熱線カット膜の透明性が悪化する。
【0034】
また塗料中に膜表面調整剤として両性型含窒素フッ素系化合物を含有させるのは、両性型の含窒素フッ素系化合物は、無機微粒子の表面電荷と作用しにくいため無機微粒子を凝集させず熱線カット膜の透明性を低下させないからである。一方、カチオン型及びアニオン型の含窒素フッ素系化合物は、カチオンイオン及びアニオンイオンが無機微粒子の表面電荷と作用し易いため無機微粒子が凝集し易く、熱線カット膜の透明性を低下させる。更に塗料中の両性型含窒素フッ素系化合物の含有量が2質量%を超えると、塗料が増粘するなど経時安定性が悪化し、熱線カット膜の熱線カット機能が低下する。
【0035】
本実施の形態の膜表面調整剤としての含窒素フッ素系化合物は、下記式(1)で示される両性型である。
【0036】
【化2】
【0037】
上記式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。上記Rf、Rfの各炭素数は好ましくは2〜5である。
【0038】
また上記式(1)中、Rは、2価の有機基である連結基である。前記Rは、直鎖状又は分岐状の有機基であってもよい。また、前記Rは、分子鎖中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合及びウレタン結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0039】
また上記式(1)中、Xは、カルボベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキシド型及びホスホベタイン型のうち、いずれかの末端を有する両性型の親水性賦与基である、本実施の形態の含窒素フッ素系化合物は両性型であるため、親水性付与基Xは、末端に、カルボベタイン型の「−N(CHCO」、スルホベタイン型の「−N(CHSO」、アミンオキシド型の「−N」又はホスホベタイン型の「−OPO(CH10」(nは1〜10、好ましくは1〜5の整数、R及びRは水素原子又は炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアルキル基、R10は水素原子又は炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアルキル基又は炭素数1〜10、好ましくは1〜5のアルキレン基)を有する。
【0040】
上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物としては、次の式(2)で表されるカルボベタイン型化合物、式(3)〜(5)で表されるスルホベタイン型化合物、式(6)で表されるアミンオキシド型化合物、及び式(7)で表されるホスホベタイン型化合物が例示される。
【0041】
・式(2)で表されるカルボベタイン型化合物
【0042】
【化3】
【0043】
・式(3)で表されるスルホベタイン型化合物
【0044】
【化4】
【0045】
・式(4)で表されるスルホベタイン型化合物
【0046】
【化5】
【0047】
・式(5)で表されるスルホベタイン型化合物
【0048】
【化6】
【0049】
・式(6)で表されるアミンオキシド型化合物
【0050】
【化7】
【0051】
・式(7)で表されるホスホベタイン型化合物
【0052】
【化8】
【0053】
なお、含窒素フッ素系化合物には、両性型以外に、次の式(8)で表されるアニオン型含窒素フッ素系化合物及び式(9)で表されるカチオン型含窒素フッ素系化合物が存在する。
【0054】
・式(8)で表されるアニオン型化合物
【0055】
【化9】
【0056】
・式(9)で表されるカチオン型化合物
【0057】
【化10】
【0058】
塗料における溶媒は、速乾性を求められるため、沸点の低い、2−ブタノン、4−メチル−2−ペンタノン、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、トルエン、メタノール、1-プロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、2,4−ペンタンジオン、キシレン等と、成膜性改善のために、高沸点溶媒の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、ジアセトンアルコール等を組み合わせて用いることが好ましい。溶媒の含有量は、塗料100質量%中、45〜95質量%であることが好ましい。
【0059】
塗料中の分散剤は、無機微粒子100質量部に対して1〜10質量部含まれることが好ましい。この分散剤の例としては、顔料を安定して微粒子分散できるものであれば、任意の顔料用分散剤を用いることができる。具体的には、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル等のアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム等のアルキルエーテル酢酸塩、ラウリルスルホコハク酸二ナトリウムポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩等のアルキルコハク酸塩、ポリカルボン酸型高分子等の陰イオン性界面活性剤、アミンオキサイド等の陽イオン性界面活性剤、オキシエチレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルアミド等の非イオン性界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。分散剤の含有量が1質量部未満では、熱線カット膜形成用塗料の分散が不十分となり、塗膜の透明性が不十分になりやすい。また10質量部を超えると、熱線カット膜の膜強度と塗膜の密着性に悪影響を及ぼしやすい。
【0060】
〔熱線カット膜〕
本実施の形態の熱線カット膜は、無機微粒子が透明性樹脂中に均一に分散してなり、かつ膜表面調整剤として両性型含窒素フッ素系化合物を含む。この熱線カット膜が無機微粒子としてITO粒子を単独で含む場合、膜中、前記ITO粒子を0.6〜14g/m、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含む。この場合、ITO粒子の好ましい含有量は1.0〜10g/mであり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.005〜0.1g/mである。またこの熱線カット膜が無機微粒子としてATO粒子を単独で含む場合、膜中、前記ATO粒子を0.6〜14g/m、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含む。この場合、ATO粒子の好ましい含有量は1.0〜10g/mであり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.005〜0.1g/mである。更にこの熱線カット膜が無機微粒子としてITO粒子とATO粒子の双方を含む場合、膜中、前記ITO粒子と前記ATO粒子を合計で0.6〜14g/m、膜表面調整剤として上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物を0.15g/m以下それぞれ含む。この場合、ITO粒子とATO粒子を合計した好ましい含有量は1.0〜10g/mであり、両性型含窒素フッ素系化合物の好ましい含有量は0.005〜0.1g/mである。単独粒子の場合でもまた混合粒子の場合でも、ITO粒子は、30〜65m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有し、ATO粒子は、45〜85m/gのBET法による比表面積と50以下のL値を有する。また熱線カット膜中、透明性樹脂が10〜52質量%含むことが好ましい。無機微粒子、透明性樹脂及び両性型含窒素フッ素系化合物が上記特性と熱線カット膜中の含有量を有することにより、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))が0.83以下の熱線カット膜が得られる。
【0061】
熱線カット膜中のITO粒子の含有量が0.6g/m未満、ATO粒子の含有量が0.6g/m質量%未満、又はITO粒子とATO粒子の混合粒子の合計含有量が0.6g/m未満では、熱線カット膜の熱線カット機能が向上しない。またITO粒子の含有量が14g/mを超えるか、ATO粒子の含有量が14g/mを超えるか、又はITO粒子とATO粒子の混合粒子の合計含有量が14g/mを超えると、可視光線の透過率が70%以下と悪化し、透明性を得ることができない。熱線カット膜中の無機微粒子のBET法による比表面積とL値の各数値範囲の臨界的意義並びに両性型含窒素フッ素系化合物の含有量範囲の臨界的意義は、塗料中のこれらの各数値範囲の臨界的意義と同じである。
【0062】
本実施の形態の熱線カット膜は、例えば、基材であるガラス上、又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム上に、上記熱線カット膜形成用塗料を、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法等により塗布した後に、60〜130℃の温度で乾燥させ、透明性樹脂が電離放射線硬化型樹脂である場合には、電離放射線を照射することにより、形成される。
【実施例】
【0063】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0064】
〔熱線カット膜形成用塗料の調製〕
<実施例1〜7、9、10、12〜14、17、18、比較例2、3、6、7>
表1に示されるBET法による比表面積とL値を有するITO粒子を準備し、このITO粒子100gを、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル系の分散剤5gと溶媒のトルエン45gとエタノール50gの混合液に添加し、ビーズミル分散機にて、分散することにより、ITO濃度が50質量%のITO分散液を得た。得られたITO分散液52.0gと、アクリルモノマー11.8gと、光重合開始剤としてアルキルフェノン系重合開始剤0.89gと、イソブタノール、ジアセトンアルコール、エタノールの質量比が1:1:2である溶媒36.0gとを混合し、固形分濃度を40質量%にした。最後に膜表面調整剤として表2に示される式に示される両性型含窒素フッ素系化合物を塗料中の含有量が表2に示される割合になるように添加し混合して熱線カット膜形成用塗料を調製した。
【0065】
<実施例8、15、16、19,20、比較例4、5、8、9>
表1に示されるBET法による比表面積とL値を有するATO粒子を準備し、このATO粒子100gを、ポリオキシアルキレンデシルエーテル硫酸ナトリウム系の分散剤5gと溶媒のトルエン45gとエタノール50gの混合液に添加し、ビーズミル分散機にて、分散することにより、ATO濃度が50質量%のATO分散液を得た。得られたATO分散液52.0gと、アクリルモノマー11.8gと、光重合開始剤としてアルキルフェノン系重合開始剤0.89gと、イソブタノール、ジアセトンアルコール、エタノールの質量比が1:1:2である溶媒36.0gとを混合し、固形分濃度を40質量%にした。最後に膜表面調整剤として表2に示される式に示される両性型含窒素フッ素系化合物を塗料中の含有量が表2に示される割合になるように添加し混合して熱線カット膜形成用塗料を調製した。
【0066】
<実施例11、21、22、比較例10、11>
実施例2で作製したITO分散液26.0gと、実施例8で作製したATO分散液26.0gと、アクリルモノマー11.8gと、光重合開始剤としてアルキルフェノン系重合開始剤0.89gと、イソブタノール、ジアセトンアルコール、エタノールの比率が1:1:2である溶媒36.0gとを混合し、固形分濃度を40質量%にした。最後に膜表面調整剤として実施例1と同じ上記式(2)に示される両性型含窒素フッ素系化合物のスルホベタイン型化合物を塗料中の含有量が0.20質量%になるように添加し混合した。これ以外は、実施例1と同様にして熱線カット膜形成用塗料を調製した。
【0067】
<比較例1>
実施例1と同じITO粒子を用いたが、膜表面調整剤を添加混合しなかった。これ以外は、実施例1と同様にして熱線カット膜形成用塗料を調製した。
【0068】
〔熱線カット膜の形成〕
実施例及び比較例毎に異なるバーコーターを用いて、同一のフィルム基材上に異なる厚さの塗膜を形成した。
【0069】
(1) 実施例1〜11、実施例13〜16及び比較例1〜5で得られた熱線カット膜形成用塗料を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.5)を用いて、厚さ0.1mm、たて200mm、よこ150mmのポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム基材上に乾燥後の厚さが2μmとなるように塗布し、塗膜を形成した。
【0070】
(2) また実施例12で得られた熱線カット膜形成用塗料を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.10)を用いて、上述した基材と同形同大のポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム基材上に乾燥後の厚さが4μmとなるように塗布し、塗膜を形成した。
【0071】
(3) また実施例17、19、21で得られた熱線カット膜形成用塗料を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.3)を用いて、上述した基材と同形同大のポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム基材上に乾燥後の厚さが1μmとなるように塗布し、塗膜を形成した。
【0072】
(4) また実施例18、20、22で得られた熱線カット膜形成用塗料を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.16)を用いて、上述した基材と同形同大のポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム基材上に乾燥後の厚さが8μmとなるように塗布し、塗膜を形成した。
【0073】
(5) また比較例6、8、10で得られた熱線カット膜形成用塗料を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.2)を用いて、上述した基材と同形同大のポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム基材上に乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗布し、塗膜を形成した。
【0074】
(6) 更に比較例7、9、11で得られた熱線カット膜形成用塗料を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.18)を用いて、上述した基材と同形同大のポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム基材上に乾燥後の厚さが10μmとなるように塗布し、塗膜を形成した。
【0075】
次いで、実施例1〜22及び比較例1〜11の塗料で形成した塗膜を80℃の大気雰囲気中にて乾燥し、更にこの乾燥した塗膜に紫外線を照射量240mJ/cmにて照射して、33種類の熱線カット膜を得た。
【0076】
〔比較試験及び評価〕
33種類の熱線カット膜について、以下に示す方法で、熱線カット膜中の両性型含窒素フッ素系化合物、ITO粒子及びATO粒子の各含有量を測定した。またその透明性を可視光線透過率(%Tv)と日射透過率(%Ts)とヘーズを測定し、可視光線透過率(%Tv)に対する日射透過率(%Ts)の比率((%Ts)/(%Tv))を求めることにより評価した。また33種類の熱線カット膜について、以下に示す方法で熱線カット膜表面の水濡れ性と撥油性と防曇性と防傷性を評価した。実施例1〜22及び比較例1〜11の各熱線カット膜形成用塗料の製造条件等を表1及び表2に、上記測定結果、試験結果を表2にそれぞれ示す。なお、表2中、膜表面調整剤の種類として、例えば「式(2)」と記載したものは、「式(2)に示される化合物」を意味する。
【0077】
(1) 熱線カット膜中の両性型含窒素フッ素系化合物、ITO粒子及びATO粒子の各含有量
成膜前の基材と成膜後の基材の質量差から、膜質量を得た。次に、得られた熱線カット膜をアセトンにて溶解することで、膜成分を回収した。回収した液中のフッ素濃度を、ICP発光分析法により定量し、化合物式から、両性型含窒素フッ素系化合物濃度(質量%)を算出した。また得られた熱線カット膜を酸にて溶解することで、膜成分を回収した。回収した液中のインジウム濃度又はアンチモン濃度を、ICP発光分析法により定量し、化合物式から、ITO粒子濃度(質量%)又はATO粒子濃度(質量%)を算出し、膜質量から、ITO粒子とATO粒子の含有量を算出した。
【0078】
(2) 熱線カット膜形成用塗料中の両性型含窒素フッ素系化合物、ITO粒子及びATO粒子の各含有量
塗料の重量を測定後、乾燥させ、乾燥後の固形分を算出した。また得られた固形分をアセトンにて溶解し、溶解した液中のフッ素濃度を、ICP発光分析法により定量し、化合物式及び固形分濃度から、熱線カット膜形成用塗料中の両性型含窒素フッ素系化合物濃度(質量%)を算出した。また得られた固形分を酸にて溶解し、溶解した液中のインジウム濃度又はアンチモン濃度を、ICP発光分析法により定量し、化合物式及び固形分濃度から、熱線カット膜形成用塗料中のITO粒子濃度(質量%)又はATO粒子濃度(質量%)を算出した。
【0079】
(3) 透明性(可視光線透過率(%Tv)と日射透過率(%Ts)とヘーズ)
分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製U-4150)を用い、規格(JIS R 3106-1998)に従い、380nm〜780nmの可視光線透過率(%Tv)を測定し、300nm〜2500nmの日射透過率(%Ts)を測定した。またヘーズについては、ヘーズコンピュータ(スガ試験機株式会社製HZ-2)を用い、規格(JIS K 7136)に従って測定した。なお、表1に記載された可視光線透過率、日射透過率及びヘーズは、基材込みの数値であり、基材のみの可視光線透過率は87.2%であり、日射透過率は87.1%であり、ヘーズは1.5%であった。
【0080】
(4) 膜表面の水濡れ性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するPETフィルム上の熱線カット膜をこの液滴に近づけて熱線カット膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性を評価した。
【0081】
(5) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するPETフィルム上の熱線カット膜をこの液滴に近づけて熱線カット膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。
【0082】
(6) 膜表面の防曇性
イオン交換水を入れて60℃に加温したビーカーの開口部に、PETフィルム上の膜が対向するように、PETフィルムを水平に載せ、PETフィルム上の膜をビーカー内の温水の湯気に曝した。10秒経過した後、その状態で膜を介してのPETフィルムの透明度を目視で確認した。膜表面に曇りが発生せずにPETフィルムを通してビーカー下部がはっきりと見える場合は「良」とし、PETフィルム上の膜表面に極めて僅かに曇りが発生したために、ビーカー下部がうっすらと見える程度に曇った場合を「可」とし、PETフィルム上の膜表面全体に曇りが発生したために、ビーカー下部が見えにくい場合を「不可」とした。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
表1から明らかなように、比較例1では、膜表面調整剤を塗料中に全く含まないため、膜の透明性は良好であったが、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、防曇性は「不可」であった。
【0086】
比較例2では、膜表面調整剤が両性型ではないアニオン型の化合物式(8)を用いているため、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、膜表面の水の接触角が40度と、30度を超えていることから、防曇性は「不可」であった。また、ITO粒子の比表面積が28m/gと、30m/g未満であることから、膜のヘーズも2.5%と高い数値であった。
【0087】
比較例3では、ITO粒子の比表面積が70m/gと、65m/gを超えていること、L値が55と50を超えていることから、(%Ts)/(%Tv)が0.85と、0.83を超えており、熱線カット機能としては不十分であった。
【0088】
比較例4では、膜表面調整剤が両性型ではないアニオン型の化合物式(8)を用いているため、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、膜表面の水の接触角が40度と、30度を超えていることから、防曇性は「不可」であった。また、フッ素化合物の添加量が、2.8質量%と高いこと、ATO粒子の比表面積が40m/gと、45m/g未満であることから、膜のヘーズも2.6%と高い数値であった。
【0089】
比較例5では、ATO粒子の比表面積が90m/gと、85m/gを超えていること、L値が55と50を超えていることから、(%Ts)/(%Tv)が0.85と、0.83を超えており、熱線カット機能としては不十分であった。
【0090】
比較例6では、膜中のITO粒子が0.5g/mと0.6g/m未満であることから、(%Ts)/(%Tv)が0.86と、0.83を超えており、熱線カット機能としては不十分であった。
【0091】
比較例7では、膜表面調整剤が両性型ではないカチオン型の化合物式(9)を用いているため、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、膜の水の接触角が43度と30度を超えていることから、防曇性は「不可」であった。また、膜中のITO粒子が16.2g/mと14g/mを超えていることから、可視光線透過率が67%と低く、透明性としては不十分であった。
【0092】
比較例8では、膜中のATO粒子が1.3g/mと1.5g/m未満であることから、(%Ts)/(%Tv)が0.93と、0.83を超えており、熱線カット機能としては不十分であった。
【0093】
比較例9では、膜表面調整剤が両性型ではないカチオン型の化合物式(9)を用いているため、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、膜の水の接触角が43度と30度を超えていることから、防曇性は「不可」であった。また、膜中のATO粒子が11.0g/mと10g/mを超えていることから、可視光線透過率が60%と低く、透明性としては不十分であった。
【0094】
比較例10では、膜中のITO粒子とATO粒子の合計が0.4g/mと0.6g/m未満であることから、(%Ts)/(%Tv)が0.89と、0.83を超えており、熱線カット機能としては不十分であった。
【0095】
比較例11では、膜表面調整剤が両性型ではないカチオン型の化合物式(9)を用いているため、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、膜の水の接触角が43度と30度を超えていることから、防曇性は「不可」であった。また、膜中のITOとATO粒子の合計が15.0g/mと14g/mを超えていることから、可視光線透過率が62%と低く、透明性としては不十分であった。
【0096】
これに対して、実施例1〜22は、両性型フッ素化合物を用いていることから、膜表面の水濡れ性においては、水の接触角が30度以下であり、撥油性においては、n−ヘキサデカンの接触角が50度以上と優れ、膜の防曇性においても、全て「可」もしくは「良」であった。塗料中のフッ素化合物の添加量が2%以下であり、かつ、膜中のフッ素化合物の含有量が0.15g/m以下であること、膜中の無機微粒子のBET法による比表面積について、ITO粒子が30〜65m/gの範囲内にあり、ATO粒子が45〜85m/gの範囲内にあり、膜中のITO粒子及びATO粒子のL値がそれぞれ50以下であることから、膜のヘーズも2%以下と良好であった。膜中のITO粒子、ATO粒子もしくはITO粒子とATO粒子の合計の含有量は、それぞれ0.6g/m以上14g/m以下であることから、(%Ts)/(%Tv)の値も0.83以下であり、熱線カット性能も満たしていた。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の熱線カット膜は、各種車両、船舶、建材、医療器械等の窓ガラス、一般包装物、ショーケース等の透明部の熱線(赤外線)カット分野に用いられる。