【課題】十分な機械的強度(引張強さ、耐摩耗性)を有し、比重が低く、また製造工程において、未加硫時におけるムーニー粘度の上昇を抑制する、オイルシール用ゴム組成物を提供すること。
【解決手段】下記成分A,成分B,成分Cを含むことを特徴とする、オイルシール用ゴム組成物。成分A:ゴム成分、成分B:カーボンブラック、シリカ、粉末状セルロースから選ばれる少なくとも一種類を含有する充填剤
前記成分A,成分B,成分Cの配合比率が、成分A:成分B:成分C=100:5〜100:1〜50(質量%)であることを特徴とする、請求項1に記載のオイルシール用ゴム組成物。
前記セルロースナノファイバー(成分C)が、セルロースのグルコース単位中におけるC6位のヒドロキシル基の一部がカルボキシル基に酸化された酸化セルロースナノファイバーを含み、且つ酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基の量が、酸化セルロースナノファイバーの絶乾重量に対し0.1mmol/g〜3.0mmol/gであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のオイルシール用ゴム組成物。
前記セルロースナノファイバー(成分C)が、セルロースのグルコース単位中におけるヒドロキシル基の水素原子の一部がカルボキシメチル基に置換されたカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを含み、且つカルボキシメチル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50であることを特徴とする、請求項1〜4にいずれか一項に記載のオイルシール用ゴム組成物。
前記セルロースナノファイバー(成分C)が、セルロースのグルコース単位中におけるヒドロキシル基の水素原子の一部がカチオン性基に置換されカチオン化セルロースナノファイバーを含み、且つカチオン化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカチオン置換度が0.01〜0.40であることを特徴とする、請求項1〜4に記載のオイルシール用ゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のオイルシール用ゴム組成物は、成分A:ゴム成分、成分B:カーボンブラック及び又はシリカ、成分C:セルロースナノファイバーを少なくとも含むことを特徴としている。以下、これらの各成分(材料)、およびそれらを含むゴム組成物の製造方法について、それぞれ詳細に説明する。
【0011】
[成分A:ゴム成分]
ゴム成分は通常、有機高分子を主成分とする、弾性限界が高く弾性率の低い成分である。ゴム成分は、天然ゴム及び合成ゴムに大別されるが、本発明においてはいずれを用いてもよく、両者の組み合わせでもよい。
天然ゴムとしては、化学修飾を施さない、狭義の天然ゴムでもよく、また塩素化天然ゴム、クロロスルホン化天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴムのように、天然ゴムを化学修飾したものでもよい。
合成ゴムとしては例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレンーイソプレンーブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、アクリルゴム(ACM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)が挙げられる。これらの中でも、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、あるいはエチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)が特に好ましい。アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)は、ポリマー構造上、アクリロニトリル基が増加すると耐熱性、耐油性が向上し、ブタジエン基が増加すると耐寒性が向上するので、この共重合比を変えることにより耐熱、耐寒、耐油性を幅広く変化させることができる。また、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)は、ポリマー分子鎖に二重結合をもたないため、耐オゾン性、耐熱性に特に優れた特性を有する。また、耐水蒸気性、耐寒性、耐LLC性などの極性溶液に対しても優れた耐性を示す。
アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)としては、中ニトリル含有(CN:25〜30%)、中高ニトリル含有(CN:31〜35%)および高ニトリル含有(CN:36〜42%)のいずれをも用いることができるが、中高ニトリル含量のものが特に好ましい。
ゴム成分は、1種単独でもよく、2種以上の組み合わせでもよい。ゴム成分は、固形状及び液状のいずれでもよい。液状のゴム成分としては例えば、ゴム成分の分散液、ゴム成分の溶液が挙げられる。溶媒としては例えば、水、有機溶媒が挙げられる。
【0012】
[成分B:充填剤(カーボンブラック、シリカ、粉末状セルロース)]
本発明において、オイルシール用ゴム組成物が十分な引張強さや耐摩耗性を得るために、カーボンブラック、シリカ、粉末状セルロースから選ばれる少なくとも一種類を含む充填剤を含有させることが重要である。充填剤の配合量は、ゴム成分100質量%に対して、5〜100質量%、さらに好ましくは、20〜60であることが好ましく、30〜45質量%であることが更に好ましい。5質量%より小さいと、十分な機械的強度および耐摩耗性が得られず、100質量%より大きいと、製造工程において未加硫時におけるムーニー粘度が上昇しすぎて加工性に劣る。また、本発明の効果を阻害しない範囲で他の充填剤を併用することができる。
以下、カーボンブラックおよびシリカの詳細についてそれぞれ説明する。
【0013】
[成分B−1:カーボンブラック]
本発明において、カーボンブラックとは、工業的に品質制御して製造される直径3−500nm程度の炭素の微粒子である。また、その粒子表面の官能基を制御することにより、ゴムとなじみがよい性質を付与したものも含まれる。カーボンブラックの製造方法としては一般に、サーマル法、アセチレン分解法、コンタクト法、ランプ・松煙法、ガスファーネス法、オイルファーネス法などを挙げることができ、製造条件により異なる比表面積や、一時凝集体の凝集構造(ストラクチャー)などの特性をもつカーボンブラックが製造される。本発明においては、カーボンブラックの種類は特に限定されず、所望の効果を発現させるために最適なカーボンブラックを適宜選択して使用することが好ましい。
【0014】
[成分B−2:シリカ]
本発明において、シリカとは、二酸化ケイ素(SiO2)、もしくは二酸化ケイ素によって構成される物質の総称のことである。シリカという呼び名のほかに無水ケイ酸、ケイ酸、酸化シリコンと呼ばれることもある。
本発明に用いることができるシリカの種類としては、天然シリカ、合成シリカ(沈降シリカ、乾式シリカ、湿式シリカ)などを例示することができ、特に限定されるものではなく、例えば、タイヤの充填材として使用されるシリカを使用することができる。
【0015】
シリカの表面をシランカップリング剤で処理することで、各種ゴムに対する親和性が向上する。従って、本発明においては、シリカをシランカップリング剤で処理することが好ましい。なお、シランカップリング剤としては、特に制限はなく、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
[成分B−3:粉末状セルロース]
本発明において、粉末状セルロースとは、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸で酸加水分解処理したパルプを粉砕処理、あるいは酸加水分解処理を施さないパルプを機械粉砕して得ることができる微粒子である。
【0017】
平均粒子径は、平均粒子径が20〜50μmであることが好ましく、15〜50μmがより好ましく、22〜36μmであることが更に好ましい。平均粒子径が大きいと、ゴム硬度が高くなり、機械物性が悪くなる。一方、平均粒子径が小さいと、成形性は向上するが、機械物性の補強効果が小さくなる。
【0018】
重合度は、重合度が150〜1200であることが好ましく、400〜800であることがより好ましい。重合度が高いと、ゴム硬度が高くなり、機械物性が悪くなる。一方、重合度が低いと、機械物性の補強効果が小さくなる。
【0019】
結晶化度は、結晶化度が70〜90であることが好ましく、80〜90であることがより好ましい。粉末状セルロースの結晶化度は、主に原料パルプと、製造方法に影響され、酸処理を行わずに、機械的な処理のみで製造した粉末状セルロースは、結晶化度が低くなる。結晶化度が低いと、加熱加硫の際に必要な時間が長く、作業性が悪化する。結晶化度が80以上であれば、加硫速度への影響はほとんど永久を受けない。
【0020】
見掛け比重は、見掛け比重が0.2〜0.6g/mlであることが好ましく、0.3〜0.45であることがより好ましい。見掛け比重が0.2未満だと、粉体が嵩高く、ゴム等と混練する際に、上手く混ざらず、分散不良の原因となる。見掛け比重が0.6を超えると、粉体は嵩が低く、コンパクトであるため、分散性は良好であるが、粉体の平均粒子径が小さくなるため、機械物性の補強効果が小さくなる。
【0021】
安息角は、安息角が45〜60°であることが好ましく、48〜56°であることがより好ましい。安息角が60°を超えると、粉体流動性が悪く、作業上好ましくない。安息角が45°未満だと、粉体落下速度は早いが、一方で、粉舞いがひどく、作業上好ましくない。
【0022】
水分は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。粉末状セルロースの水分が高い
と、ゴムを加熱加硫する際に、加硫遅延の原因となる。また、成形後の機械物性にも、悪
影響を及ぼす。
【0023】
[C:セルロースナノファイバー]
本発明において、セルロースナノファイバーとは、セルロース原料を、必要に応じ化学変性処理した後で、解繊、および必要に応じ乾燥処理することにより得られる微細繊維である。セルロースナノファイバーの平均繊維径は、通常2〜500nm程度である。平均繊維径及び平均繊維長の測定は、例えば、セルロースナノファイバーの0.001質量%水分散液を調製し、この希釈分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の断面高さを計測することにより、数平均繊維径あるいは繊維長として算出することができる。
【0024】
セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、通常50以上である。上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる。 アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
本発明においては、セルロースナノファイバーをゴム成分に配合することにより、カーボンブラックやシリカの配合量を一定の範囲内に抑えながら、十分な引張強さ、耐摩耗性、を得ることができる。
【0025】
ゴム組成物におけるセルロースナノファイバーの含有量は、ゴム成分100質量%に対し固形分にして1〜50質量%以上が好ましく、1〜40質量%以上がより好ましく、1〜30質量%以上がさらに好ましい。1質量%より少ないと、十分な効果が得られず、また50質量%より多いと、製造工程において、未加硫時におけるムーニー粘度が上昇し、加工性が劣る。
以下、セルロースナノファイバーの原料、および製造工程について詳細に説明する。
【0026】
[C−1:セルロース原料]
セルロースナノファイバーの原料であるセルロース原料の由来は、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
【0027】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30〜60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10〜30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0028】
[C−2:変性]
セルロース原料は、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性処理を行うことが可能である。本発明では、これらに対して変性を行ってもよく、また行わなくてもよいが、化学変性処理を行った方が、ゴム組成物に含有させた際に十分な補強性を発揮し得るため好ましい。その理由は、セルロース原料の変性により繊維の微細化が十分に進み、均一な繊維長及び繊維径が得られるためである。また、補強性を発揮するのに有効な繊維長及び繊維径を持つ繊維数が十分に確保できるためである。
【0029】
本発明において、変性の方法は特に限定されず、例として酸化(カルボキシル化)、エーテル化、リン酸化、エステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化を挙げることができる。中でも、酸化(カルボキシル化)、エーテル化、カチオン化、エステル化が好ましい。なお、オイルシール 用ゴム組成物に含有されるセルロースナノファイバーは、単一のセルロースナノファイバー、あるいは異なる変性を施したセルロースナノファイバーを2種類以上組み合わせて使用することも可能である。
以下、酸化、エーテル化、カチオン化、エステル化の詳細な方法についてそれぞれ説明する。
【0030】
[C−2−1:酸化]
酸化によりセルロース原料を変性する場合、得られる酸化セルロース又はセルロースナノファイバーの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、好ましくは0.5mmol/g以上、より好ましくは0.8mmol/g以上、更に好ましくは1.0mmol/g以上である。上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、0.5mmol/g〜3.0mmol/gが好ましく、0.8mmol/g〜2.5mmol/gがより好ましく、1.0mmol/g〜2.0mmol/gが更に好ましい。
【0031】
酸化の方法は特に限定されないが、1つの例としては、N−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0032】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO)が挙げられる。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0033】
N−オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N−オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.02〜0.5mmolがさらに好ましい。
【0034】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウム等が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0035】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜10mmolが最も好ましい。N−オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN−オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましい。上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
【0036】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4〜40℃が好ましく、15〜30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8〜12、より好ましくは10〜11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0037】
酸化における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5〜6時間、例えば0.5〜4時間程度である。
【0038】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0039】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50〜250g/m3であることが好ましく、50〜220g/m3であることがより好ましい。オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100質量%に対し、0.1量部以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。上限は、通常30質量%以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100質量%に対し、0.1〜30質量%であることが好ましく、5〜30質量%であることがより好ましい。オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上である。上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0〜50℃であることが好ましく、20〜50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1〜360分程度であり、30〜360分程度が好ましい。オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0040】
オゾン処理後に得られる結果物に対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。対酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。
【0041】
酸化セルロースナノファイバーに含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0042】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース又はセルロースナノファイバー〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕。
【0043】
[C−2−2:エーテル化]
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中から一例としてカルボキシメチル化の方法を以下に説明する。
【0044】
カルボキシメチル化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカルボキシメチル化セルロース又はセルロースナノファイバー中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01〜0.50が好ましく、0.05〜0.40がより好ましく、0.10〜0.30が更に好ましい。
【0045】
カルボキシメチル化の方法は特に限定されないが例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通用溶媒を用いる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60質量%以上又は95質量%以下であり、60〜95質量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3〜20重量倍であることが好ましい。
【0046】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、0.5〜20倍モルが好ましく、1.0〜10倍モルがより好ましく、1.5〜5倍モルがさらに好ましい。
【0047】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0〜70℃、好ましくは10〜60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、通常は15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間である。
【0048】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05〜10.0倍モルであり、より好ましくは0.5〜5であり、更に好ましくは0.8〜3倍モルである。反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30〜90℃、好ましくは40〜80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分〜10時間であり、好ましくは1時間〜4時間である。カルボキシメチル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0049】
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法によって行えばよい。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5〜2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH
2SO
4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’−(0.1NのH
2SO
4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH
2SO
4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0050】
[C−2−3:カチオン化]
カチオン化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカチオン化セルロースナノファイバーは、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等のカチオン、又は該カチオンを有する基を分子中に含んでいればよい。カチオン化セルロースナノファイバーは、アンモニウムを有する基を含むことが好ましく、四級アンモニウムを有する基を含むことがより好ましい。
【0051】
カチオン化の方法は特に限定されないが例えば、セルロース原料にカチオン化剤と触媒を水及び/又はアルコールの存在下で反応させる方法が挙げられる。カチオン化剤としては例えば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト(例:3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムハイドライト)又はこれらのハロヒドリン型などが挙げられ、これらのいずれかを用いることで、四級アンモニウムを含む基を有するカチオン化セルロースを得ることができる。触媒としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属が挙げられる。アルコールとしては例えば、炭素数1〜4のアルコールが挙げられる。カチオン化剤の量は、好ましくはセルロース原料100質量%に対して5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。上限は通常800質量%以下であり、好ましくは500質量%以下である。触媒の量は、好ましくはセルロース繊維100質量%に対して0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上である。上限は通常7質量%以下であり、好ましくは3質量%以下である。アルコールの量は、好ましくはセルロース繊維100質量%に対して50質量%以上であり、より好ましくは100質量%以上である。上限は通常50000質量%以下であり、好ましくは500質量%以下である。
【0052】
カチオン化の際の反応温度は通常10℃以上、好ましくは30℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。反応時間は、通常10分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは5時間以下である。カチオン化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0053】
カチオン化セルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、カチオン化剤の添加量、水及び/又はアルコールの組成比率のコントロールによって調整することができる。カチオン置換度とは、セルロースを構成する単位構造(グルコピラノース環)あたりの導入された置換基の個数を示す。言い換えると、カチオン置換度は、「導入された置換基のモル数をグルコピラノース環の水酸基の総モル数で割った値」として定義される。純粋セルロースは単位構造(グルコピラノース環)あたり3個の置換可能な水酸基を有しているため、カチオン置換度の理論最大値は3(最小値は0)である。
【0054】
カチオン化セルロースナノファイバーのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が更に好ましい。上限は、0.40以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下が更に好ましい。従って、0.01〜0.40であることが好ましく、0.02〜0.30がより好ましく、0.03〜0.20が更に好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.01以上であることにより、十分にナノ解繊することができる。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.40以下であることにより、膨潤又は溶解を抑制することができ、これにより繊維形態を維持することができ、ナノファイバーとして得られない事態を防止することができる。
【0055】
グルコース単位当たりのカチオン置換度の測定方法の一例を以下に説明する。試料(カチオン化セルロース)を乾燥させた後に、全窒素分析計TN−10(三菱化学)で窒素含有量を測定し、次式によりカチオン化度を算出する。ここでいうカチオン置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値である。
【0056】
カチオン置換度=(162×N)/(1−151.6×N)
N:窒素含有量
【0057】
[C−2−4:エステル化]
エステル化の方法は、 特に限定されないが例えば、セルロース系原料に対し化合物Aを反応させる方法が挙げられる。化合物Aについては以下説明する。セルロース系原料に対し化合物Aを反応させる方法としては例えば、セルロース系原料に化合物Aの粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース系原料のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高まり、且つエステル化効率が高くなることから、セルロース系原料又はそのスラリーに化合物Aの水溶液を混合する方法が好ましい。
【0058】
化合物Aとしては例えば、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステル等が挙げられる。化合物Aは、塩の形態でもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由から、リン酸系化合物が好ましい。リン酸系化合物は、リン酸基を有する化合物であればよく、例えば、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。用いられるリン酸系化合物は、1種、あるいは2種以上の組み合わせでもよい。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましい。また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから、エステル化においてはリン酸系化合物の水溶液を用いることが好ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから、7以下が好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点から、pH3〜7がより好ましい。
【0059】
エステル化の方法としては例えば、以下の方法が挙げられる。セルロース系原料の懸濁液(例えば、固形分濃度0.1〜10質量%)に化合物Aを撹拌しながら添加し、セルロースにリン酸基を導入する。セルロース系原料を100重量部とした際に、化合物Aがリン酸系化合物の場合、化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。これにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。上限は、500重量部以下が好ましく、400重量部以下がより好ましい。これにより、化合物Aの使用量に見合った収率を効率よく得ることができる。従って、0.2〜500重量部が好ましく、1〜400重量部がより好ましい。
【0060】
セルロース系原料に対し化合物Aを反応させる際、さらに化合物Bを反応系に加えてもよい。化合物Bを反応系に加える方法としては例えば、セルロース系原料のスラリー、化合物Aの水溶液、又はセルロース系原料と化合物Aのスラリーに、添加する方法が挙げられる。
【0061】
化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示すことが好ましく、塩基性を示す窒素含有化合物がより好ましい。「塩基性を示す」とは通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で化合物Bの水溶液が桃〜赤色を呈すること、または/および化合物Bの水溶液のpHが7より大きいことを意味する。塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすい点で、尿素が好ましい。化合物Bの添加量は、2〜1000重量部が好ましく、100〜700重量部がより好ましい。反応温度は0〜95℃が好ましく、30〜90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常1〜600分程度であり、30〜480分が好ましい。エステル化反応の条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率を向上させることができる。
【0062】
セルロース系原料に化合物Aを反応させた後、通常はエステル化セルロース懸濁液が得られる。エステル化セルロース懸濁液は必要に応じて脱水される。脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース系原料の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100〜170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下(更に好ましくは110℃以下)で加熱し、水を除いた後100〜170℃で加熱処理することがより好ましい。
【0063】
リン酸エステル化セルロースにおいては、セルロース系原料にリン酸基置換基が導入されており、セルロース同士が電気的に反発する。そのため、リン酸エステル化セルロースは容易にナノ解繊することができる。リン酸エステル化セルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上が好ましい。これにより、十分な解繊(例えばナノ解繊)が実施できる。上限は、0.40が好ましい。これにより、リン酸エステル化セルロースの膨潤又は溶解を防止し、ナノファイバーが得られない事態を防止することができる。従って、0.001〜0.40であることが好ましい。リン酸エステル化セルロースは、煮沸後冷水で洗浄する等の洗浄処理がなされることが好ましい。これにより解繊を効率よく行うことができる。
【0064】
[C−3:解繊]
セルロース原料の解繊は、セルロース原料に変性処理を施す前に行ってもよいし、後に行ってもよい。また、解繊は、一度に行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊の時期はいつでもよい。
【0065】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーがより好ましい。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に強力なせん断力を印加できることが好ましい。装置が印加できる圧力は、50MPa以上が好ましく、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。装置は、セルロース原料又は変性セルロース(通常は分散液)に上記圧力を印加することができかつ強力なせん断力を印加できる、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーが好ましい。これにより、解繊を効率的に行うことができる。
【0066】
解繊をセルロース原料の分散体に対して行う場合、分散体中のセルロース原料の固形分濃度は、通常は0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は通常10質量%以下、好ましくは6質量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0067】
解繊(好ましくは高圧ホモジナイザーでの解繊)、又は必要に応じて解繊前に行う分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0068】
[C−4:乾燥]
上記セルロースナノファイバーは、分散液のまま用いてもよいが、必要に応じ乾燥処理を行うことにより、溶媒を一部あるいは完全に除去して、湿潤固形物あるいは乾燥固形物として用いてもよい。ここで湿潤固形物とは、分散液と乾燥固形物との中間の態様の固形物である。
乾燥処理を行う際には、再分散性を向上させるために、予めセルロースナノファイバーの分散液に水溶性高分子を混合させた上で乾燥処理を行ってもよい。水溶性高分子としては例えば、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、澱粉、かたくり粉、クズ粉、陽性澱粉、燐酸化澱粉、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ゲランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド・ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、ジェランガム、ペクチン、グァーガム及びコロイダルシリカ並びにそれら1つ以上の混合物が挙げられる。この中でも、カルボキシメチルセルロース及びその塩を用いることが相溶性の点から好ましい。
【0069】
セルロースナノファイバーの乾燥固形物及び湿潤固形物は、セルロースナノファイバーの分散液又はセルロースナノファイバーと水溶性高分子の混合液を乾燥して調製すればよい。乾燥方法は特に限定されないが、例えば、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、及び真空乾燥が挙げられる。乾燥装置としては例えば、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤ乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置等、回分式の箱型乾燥装置、通気乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等が挙げられる。これらの乾燥装置は、単独で用いてもよいし、2つ以上組み合わせて用いてもよい。乾燥装置は、ドラム乾燥装置が好ましい。これにより、均一に被乾燥物に熱エネルギーを直接供給することができるので、エネルギー効率を高めることができる。また、必要以上に熱を加えずに直ちに乾燥物を回収することができる。
[ゴム組成物の製造]
本発明のゴム組成物は、上記の材料、および必要に応じ各種添加剤を、必要に応じて事前に混合した上で、混練り、成形、加温(硫黄を含む場合は加硫)、必要に応じ仕上げ処理することにて製造する。
【0070】
添加剤は、ゴム工業で使用可能な添加剤であればよく、例えば、素練り促進剤、軟化剤・可塑剤、硬化剤(フェノール樹脂、ハイスチレン樹脂等)、架橋用配合剤(硫黄等の架橋剤、加硫促進剤(N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等)、加硫促進助剤、スコーチ防止剤等)、老化防止剤、発泡剤、カップリング剤、粘着剤(マクロン樹脂、フェノール、テルペン系樹脂、石油系炭化水素樹脂、ロジン誘導体等)、分散剤(脂肪酸等)、接着増進剤(有機コバルト塩等)、滑剤(パラフィンおよび炭化水素樹脂、脂肪酸および脂肪酸誘導体等)、着色剤等が挙げられる。添加剤は、1つでもよいし2以上の組み合わせでもよく、使用量は必要に応じて適宜決定できる。
【0071】
混練りは、従来公知の混練装置により行うことができる。混練り装置としては例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどが挙げられる。混練りの際の温度は、硫黄又は加硫促進剤が配合される場合、混練り時にゴム成分が架橋反応しない温度であることが好ましく、例えば、10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。上限は、140℃以下が好ましく120℃以下がより好ましい。従って10℃以上〜140℃程度が好ましく、20〜120℃程度がより好ましい。
【0072】
成形は通常、成形装置により行う。成形装置としては例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等により行うことができ、用途に応じて装置を選定し、所望の形に成形することができる。
【0073】
加硫は通常、硫黄及び加硫促進剤を添加して行う。これにより、ゴム成分を加硫させることができ、さらに変性セルロースファイバー中の変性された置換基とゴム成分との間で架橋構造を形成させることができる。硫黄の使用量としては、ゴム成分100重量部に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。上限は、50質量%以下が好ましく、35質量%以下が好ましく、20質量%以下が更に好ましい。従って、0.1〜50重量部程度が好ましく、0.5〜35重量部程度がより好ましく、1〜20重量部程度がさらに好ましい。加硫促進剤の使用量は、ゴム成分に対し0.1質量%が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上がさらに好ましい。上限は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下が好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0074】
加硫温度は、150℃以上が好ましい。上限は200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましい。従って、150〜200℃程度が好ましく、150〜180℃程度がより好ましい。加熱装置としては例えば、型加硫、缶加硫、連続加硫等の加硫装置が挙げられる。加硫方法としては、プレス加硫等が挙げられる。
【0075】
最終製品とする前に、必要に応じ仕上げ処理を行ってもよい。仕上げ処理としては、従来公知の処理、例えば研磨、表面処理、リップ仕上げ、リップ裁断、塩素処理などが挙げられ、これらの処理のうち1つのみを行ってもよいし2つ以上の組み合わせであってもよい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
<実施例1>
[酸化セルロースナノファイバーの製造]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。
反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル化セルロース)を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.6mmol/gであった。これを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150Mpa)で3回処理して、酸化セルロースナノファイバーの水分散液を得た。酸化セルロースナノファイバーの平均繊維径は3nm、アスペクト比は250であった。
この酸化セルロースナノファイバーの水分散液を、ドラム乾燥装置にて、固形分濃度が50%になるまで乾燥することにより、酸化セルロースナノファイバーの湿潤固形物を得た。
【0078】
[ゴム組成物の製造]
ニトリルゴム(KUMHO PETROCHEMICAL社製、製品名:KNB35L。結合アクリロニトリル含量34%、ムーニー粘度41)を用い、ニトリルゴム100質量%に対し、カーボンブラック(Sid Richardson社製、製品名:N550)を40質量%、上記酸化セルロースナノファイバーの湿潤固形物を固形分換算で5質量%、酸化亜鉛(堺化学工業社製)を3質量%、可塑剤(ADEKA社製、製品名:RS107)を6質量%、老化防止剤(Chemutra社製、製品名:Naugard 445)を2質量%、架橋助剤(川口化学工業社製、製品名:トリアリック)を4.9質量%、それぞれ添加し、ニーダー及びオープンロールで混練した。上記混練物を、160℃で12分間のプレス加硫を行い、厚さ2mmの加硫ゴム組成物の板状試験片を得た。
得られた加硫ゴム組成物について、以下に示す方法により、引張強さ、摩耗深さ、比重をそれぞれ評価した。また、未加硫の時点におけるゴム組成物を用いて、以下に示す方法によりムーニー粘度を評価した。
【0079】
[引張強さ]
JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に従い、100%ひずみ時における応力(M100)を測定した。具体的には、上記ゴム組成物のシートを所定の形状の試験片に裁断し、万能引張圧縮試験機(エーアンドデイ社製UTM-10T)を用いて測定した。各々の数値が大きい程、加硫ゴム組成物が良好に補強されており、ゴムの機械強度に優れることを示す。測定結果について、セルロースナノファイバーを配合しなかった場合(後述の比較例1)を基準として、引張強さが大きかった場合を○、同等であった場合を△、小さかった場合を×とした。
【0080】
[摩耗深さ]
リングオンディスク摩擦摩耗試験機(神戸造機社製)を用いて、試験片を100℃に熱した指定潤滑油(IRM−903、JIS油中摩耗試験の指定)に72時間浸漬した後、リングの回転数が250rpmで、回転開始から1分間に10kgfの負荷をかけ、40kgfまで負荷を上げ、120分間経過後の試験片の摩耗深さを、3点平均で測定した。磨耗深さが小さいほど、繰返し摺動に対する耐性が高いことを示す。測定結果について、セルロースナノファイバーを配合しなかった場合(後述の比較例1)を基準として、摩耗深さが小さかった場合を○、同等であった場合を△、大きかった場合を×とした。
【0081】
[比重]
JIS K6268「加硫ゴム-密度測定」の方法に準じて測定した。測定結果について、セルロースナノファイバーを配合しなかった場合(後述の比較例1)を基準として、比重が小さかった場合を○、同等であった場合を△、大きかった場合を×とした。
【0082】
[ムーニー粘度]
未加硫のゴムシートを試料として作製し、JIS K6300「未加硫ゴム-物理特性-第 1 部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」の方法に準じて測定した。具体的には、ムーニービスコメーター(SMV−300、島津製作所社製)を用いて、試料を100℃で予熱1分、回転開始後4分経過後のムーニー粘度を測定した。ムーニー粘度が低いほど、製造時における加工性が良好であることを示す。測定結果について、セルロースナノファイバーを配合しなかった場合(後述の比較例1)を基準として、ムーニー粘度が低かった場合を○、同等であった場合を△、高かった場合を×とした。
【0083】
<実施例2>
実施例1において、酸化セルロースナノファイバーを、以下の方法で製造したカルボキシメチル化セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様の方法でゴム組成物を得た。
【0084】
[カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造]
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g(発底原料の無水グルコース残基当たり2.25倍モル)加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算、パルプのグルコース残基当たり1.5倍モル)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。
その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシメチル化したパルプを得た。これを水で固形分1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊しカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを得た。平均繊維径は15nm、アスペクト比は50であった。
このカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散液を、ドラム乾燥装置にて、固形分濃度が50%になるまで乾燥することにより、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの湿潤固形物を得た。
【0085】
<実施例3>
実施例1において、酸化セルロースナノファイバーを、以下の方法で製造したカチオン化セルロースナノファイバーに変更した以外は、実施例1と同様の方法でゴム組成物を得た。
【0086】
[カチオン化セルロースナノファイバーの製造]
パルプを攪拌することができるパルパーに、パルプ(NBKP、日本製紙(株)製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で24g加え、パルプ固形濃度が15%になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後に70℃まで昇温し、カチオン化剤として3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドを200g(有効成分換算)添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカチオン置換度0.05のカチオン変性されたパルプを得た。これを固形濃度1%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、140MPaの圧力で2回処理した。平均繊維径は25nm、アスペクト比は50であった。
このカチオン化セルロースナノファイバーの水分散液を、ドラム乾燥装置にて、固形分濃度が50%になるまで乾燥することにより、カチオン化セルロースナノファイバーの湿潤固形物を得た。
【0087】
<実施例4>
実施例1において、カーボンブラックをシリカ(Rhodia社製、製品名:Z-175)に変更し、さらにシランカップリング剤(エボニックデグサ社製、製品名:Dynasylan Si-69)を4質量%添加して混練りした以外は、実施例1と同様の方法でゴム組成物を得た。測定結果の基準は、以下に示す比較例2とした。
【0088】
<比較例1>
実施例1において、混練り時にセルロースナノファイバーを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法でゴム組成物を製造した。
【0089】
<実施例5>
実施例1において、ニトリルゴムをエチレンプロピレンジエンゴム(KUMHO PETROCHEMICAL社製、製品名:KEP570P、ムーニー粘度53)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でゴム組成物を得た。
【0090】
<比較例2>
実施例5において、混練り時にセルロースナノファイバーを添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法でゴム組成物を製造した。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
表1から明らかなように、ゴム成分にアクリロニトリル−ブタジエンゴムを用いた場合、セルロースナノファイバーを含有する実施例1〜4では、セルロースナノファイバーを含有しない比較例1に対し、比重及びムーニー粘度を維持しながら、引張強さおよび摩耗深さが向上していることが分かる。同様に、エチレン−プロピレンゴムを用いた場合でも、セルロースナノファイバーを含有する実施例5では、セルロースナノファイバーを含有しない比較例2に対し、比重及びムーニー粘度を維持しながら、引張強さおよび摩耗深さが向上していることが分かる。