(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-128768(P2017-128768A)
(43)【公開日】2017年7月27日
(54)【発明の名称】フォーミング抑制剤
(51)【国際特許分類】
C21C 5/28 20060101AFI20170630BHJP
【FI】
C21C5/28 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2016-9186(P2016-9186)
(22)【出願日】2016年1月20日
(11)【特許番号】特許第6005310号(P6005310)
(45)【特許公報発行日】2016年10月12日
(71)【出願人】
【識別番号】516020754
【氏名又は名称】イントキャストジェーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】野本 健一
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AB02
4K070AB03
4K070AB05
4K070AB06
4K070AB11
4K070AB13
4K070AC02
4K070AC12
4K070AC20
4K070AC34
4K070AC36
4K070AC38
4K070AC40
4K070BC04
(57)【要約】
【課題】スラグの泡立ちを抑制化できるとともに抑制効果の即効性が高く、調達コストが安いフォーミング抑制剤を提供する。
【解決手段】本発明は、精錬工程で生じるスラグの泡立ちを抑制するためのフォーミング抑制剤を提供する。このフォーミング抑制剤は、少なくとも水酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウムをその成分として含む合成樹脂によって形成されている。一例として、フォーミング抑制剤は人工大理石をチップ状に破砕することによって形成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬工程で生じるスラグの泡立ちを抑制するためのフォーミング抑制剤であって、少なくとも水酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウムをその成分として含む合成樹脂によって形成されていることを特徴とするフォーミング抑制剤。
【請求項2】
人工大理石によって形成されることを特徴とする請求項1に記載のフォーミング抑制剤。
【請求項3】
チップ状に破砕されて成ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフォーミング抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼の精錬工程において生じるスラグのフォーミングを抑制化するためのフォーミング抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、製鋼においては、高炉から転炉へ移された溶銑中の不純物を除去することが行なわれている。すなわち、製鋼の精錬工程においては、得られる鋼の品質向上や製造コストの低減等を目的として、予め溶銑の脱炭、脱珪、脱燐、脱燐脱硫等の処理を行う溶銑予備処理が必要に応じて実施されるようになっており、最近では、転炉で脱燐処理を行なった後に炉内スラグの一部をスラグポット(取鍋とも称される)に排出し、引き続き脱炭処理を行なう方法も行われている。このような溶銑予備処理では、転炉等の精錬炉に収容された溶銑に石灰やスケ−ル或いはその他の精錬剤を添加して反応させ、不純物としてのC,Si,P,S等を分離して低減する処理がなされるが、その際に処理溶銑中へ酸素ガスを吹き込んで反応を促進させることも一般に行われるようになっている。
【0003】
ところが、上記したような溶銑予備処理を行なうと、炉内において、溶銑中の炭素と酸素が反応しCOガスが生成されることによって気泡が発生し、さらに、スラグとなった酸化鉄等によって粘性が高まると、生成されたCOガスが小さなガス気泡のままスラグ中に閉じ込められて滞留し、気泡数が増加することによってスラグの泡立ち現象、いわゆるスラグフォーミングが発生してしまう。
【0004】
このスラグフォーミングを放置した場合には、炉頂や炉蓋等のシール部から高温のスラグが炉外に噴出するトラブルが発生し、生産性を阻害する。また、スラグフォーミングによって炉内における酸化と還元の反応バランスが崩れると、製造プロセスに対しても少なからず悪影響を与えることになる。したがって、安定して溶融金属を連続製造するためには、スラグフォーミングを抑制化(沈静化する概念も含む)させることが必要になってくる。
【0005】
そのようなスラグフォーミングの抑制化を図るべく、従来から、フォーミング抑制剤を炉内に投入することが行なわれている。例えば、特許文献1は、集塵ダスト、廃プラスチック、及び、古紙及び/又は木屑を所定の配合比率で配合して成るフォーミング抑制剤を提案している。また、特許文献2は、マンガンダストを成形し塊化して成るフォーミング抑制剤を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−350758号公報
【特許文献2】特開2006−274430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来から知られる各種のフォーミング抑制剤は、フォーミング抑制効果の即効性に欠ける。特に、脱燐や脱炭等を別々の転炉で分けて行なうような、工程数が多く時間がかかる近年の製錬工程においては、各工程において即効性が高いフォーミング抑制剤の出現が求められている。また、そのようなフォーミング抑制効果が高い抑制剤については、コスト面から、容易かつ安価に入手できるものであることが好ましい。
【0008】
本発明は、上記した事情に着目してなされたものであり、スラグの泡立ちを抑制化できるとともに抑制効果の即効性が高く、調達コストが安いフォーミング抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、精錬工程で生じるスラグの泡立ちを抑制するためのフォーミング抑制剤であって、少なくとも水酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウムをその成分として含む合成樹脂によって形成されていることを特徴とする。
【0010】
このような成分組成のフォーミング抑制剤を溶銑中に投入すると、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)の熱分解によって酸化アルミ(アルミナ)と水蒸気とが発生するとともに、炭酸カルシウム(CaCO
3)の熱分解によって酸化カルシウムと二酸化炭素とが発生するが、これらの熱分解に伴って生じる揮発成分(前述の水蒸気や二酸化炭素を含む)がスラグの泡立ち(フォーミング泡)を破壊する、いわゆる破泡効果をもたらすようになる。加えて、炭酸カルシウムの熱分解に伴う吸熱反応がフォーミング抑制効果をもたらし、また、水酸化アルミニウム(OH基)の熱分解によって生じるアルミナは、スラグ中の塩基度を低下させてスラグ流動性を促進させる機能を発現させて、フォーミング抑制効果を促進させるようになる。すなわち、上記構成のフォーミング抑制剤によれば、様々な揮発成分の破泡効果、炭酸カルシウムの熱分解に伴う吸熱反応によるフォーミング抑制効果、および、アルミナによるフォーミング抑制促進効果が複合的に得られることにより、スラグのフォーミング沈静効果の即効性を格段に向上することが可能となる。
【0011】
なお、上記したようなフォーミング抑制効果を発揮する材料としては、一般的に知られている人工大理石を用いることが可能である。通常、人工大理石は、アクリル樹脂やポリエステル樹脂をBMC(Bulk Mold Compound)方式で成形されており、広くキッチンの流し台や洗面台、風呂、化粧パネル等に用いられているが、これらの製品が廃材となると、それは廃棄物として処理されている。ところが、本発明者は、人工大理石の廃材は、揮発分(Ignition Loss)が多いことに着目して製鉄関連施設においてフォーミング抑制剤として用いたところ、良好なフォーミング抑制効果が得られることを見出したのであり、その人工大理石の成分を検討したところ、揮発分(主に合成樹脂)が50〜60%と高く、これが上記したようなフォーミング泡の破泡効果を発揮し、かつ、その構成成分となっている水酸化アルミニウム及び炭酸カルシウムが上記したようなフォーミングの抑制(沈静)効果を発揮するとことが検証できたのである。このような人工大理石は、リサイクルされる廃材として大量に入手することが容易であり、特別な加工を施す必要もないことから、フォーミング剤として用いた場合、安価なコストで調達することが容易であり、しかもフォーミング抑制としての効果が高く、精錬コストの低下が図れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スラグの泡立ちを沈静化できるとともに、その沈静効果の即効性が高く、調達コストが安いフォーミング抑制剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るフォーミング抑制剤は、溶銑中に投入されることにより後述する複合的効果を発揮して、従来のフォーミング抑制剤と比べてスラグのフォーミング沈静効果(製錬工程で生じるスラグの泡立ちを抑制する効果)の即効性を格段に向上させることができる。
【0014】
具体的に、フォーミング抑制剤は、製鋼転炉内において、精錬時及び出鋼時におけるスラグフォーミング抑制(沈静)として使用したり、製鋼スラグ排出時のスラグ排出容器(スラグポット)において、フォーミング抑制として使用したり、更には、例えば、高炉から転炉に溶鉄を搬送する溶銑台車において、溶銑のフォーミング抑制として使用することが可能である。
【0015】
本実施形態に係るフォーミング抑制剤は、少なくとも水酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウムをその成分として含む合成樹脂によって形成され、合成樹脂については、揮発成分である例えばアクリル樹脂やポリエステル樹脂を含むことができる。そのようなフォーミング抑制剤の具体的な一例としては、上記したように、バルク・モールディング・コンパウンド(BMC)を成形して成る人工大理石を挙げることができる。
【0016】
この場合、本実施形態のように人工大理石をフォーミング抑制剤として用いるのであれば、その含有成分として、水酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウム以外に、炭化ケイ素(S
iC)、酸化鉄(Fe
2O
3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO
2 )、リン(P)等を含んだものであっても良い。
【0017】
上記したようなフォーミング抑制剤は、一般的に破砕機等を用いて例えば直径が、例えば5−20mmのチップ状の粉砕物へと破砕されて成ることが好ましい。このようなチップは、一般的な粉砕機を用いることで容易に作成することが可能であり、安価で運搬性が良く長期間保存しても劣化することは無い(ハンドリング性が良い)。また、毒性や危険性も無く、袋詰めし易い。又、濡れ性も良い為、水分付着がし難い為、転炉やスラグポットへの投入も容易に行えるようになる。
【0018】
そして、このような成分組成のフォーミング抑制剤を溶銑中に投入すると、上述したように、水酸化アルミニウムの熱分解によって酸化アルミ(アルミナ)と水蒸気とが発生するとともに、炭酸カルシウムの熱分解によって酸化カルシウムと二酸化炭素とが発生し、これらの熱分解に伴って生じる揮発成分(水蒸気や二酸化炭素を含む)がスラグの泡立ち(フォーミング泡)を破壊する、いわゆる破泡効果をもたらすようになる。加えて、炭酸カルシウムの熱分解に伴う吸熱反応がフォーミング抑制効果をもたらし、また、水酸化アルミニウムの熱分解によって生じるアルミナは、スラグ中の塩基度を低下させてスラグ流動性を促進させて(スラグを柔らかくしてスラグ内部まで反応を促進させる)反応フォーミング抑制効果を促進させる。
【0019】
すなわち、上記した成分を含むフォーミング抑制剤によれば、様々な揮発成分の破泡効果、炭酸カルシウムの熱分解に伴う吸熱反応によるフォーミング抑制効果、および、アルミナによるフォーミング抑制促進効果が複合的に得られることにより、スラグのフォーミング抑制(沈静)効果の即効性が格段に向上するようになる。
【0020】
なお、本実施形態によるフォーミング抑制剤の各種成分の割合(質量%)は、SiO
2:8.5%、Al
2O
3:87%、CaO:3.5%、TiO
2:0.4%、Fe
2O
3:0.02%、MgO:0.35%、Na
2O/K
2:0.25%、P:0.01%、そして、揮発成分:54%程度となる。この場合、使用される用途に応じて、これ以外の成分及び成分組成を含んだものを選択することができる。
【0021】
以上説明した本実施形態のフォーミング抑制剤は、前述したようにフォーミング沈静効果の即効性を格段に向上させるとともに、従来の各種フォーミング抑制剤よりも少ない量で従来と同様のフォーミング抑止効果が得られ(従来と同じ量では、従来の約1.5倍のフォーミング抑止効果が得られる事例あり)、取り扱い性も良好となる。
【0022】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。例えば、本発明のフォーミング抑制剤は、合成樹脂、水酸化アルミニウム、および、炭酸カルシウムを主性分として、前述した実施形態で示した成分以外の他の任意の成分を含有することができる。また、のフォーミング抑制剤の破砕形状や破砕寸法等も任意に設定できる。
【手続補正書】
【提出日】2016年8月10日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬工程で生じるスラグの泡立ちを抑制するためのフォーミング抑制剤であって、
前記フォーミング抑制剤は、合成樹脂を含有する人工大理石製であり、
前記合成樹脂は、少なくとも水酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウムをその構成成分として含むことを特徴とするフォーミング抑制剤。
【請求項2】
チップ状に破砕されて成ることを特徴とする請求項1に記載のフォーミング抑制剤。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、精錬工程で生じるスラグの泡立ちを抑制するためのフォーミング抑制剤であって、
前記フォーミング抑制剤は、合成樹脂を含有する人工大理石製であり、前記合成樹脂は、少なくとも水酸化アルミニウムおよび炭酸カルシウムをその構成成分として含むことを特徴とする。