【解決手段】フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、MD糸材によりシームループが形成された抄紙用フェルト用基布であって、シームループが、CD糸材除去禁止部位を有するシームループ領域を含む織布のCD糸材除去禁止部位以外の部位からCD糸材を除去し、CD糸材除去禁止部位のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位方向に移動することによって得られ、CD糸材が除去された部位のMD糸材の強度が、CD糸材除去禁止部位のMD糸材の強度よりも低い、前記抄紙用フェルト用基布。
フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、MD糸材によりシームループが形成された抄紙用フェルト用基布であって、シームループが、CD糸材除去禁止部位を有するシームループ領域を含む織布のCD糸材除去禁止部位以外の部位からCD糸材を除去し、CD糸材除去禁止部位のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位方向に移動することによって得られ、CD糸材が除去された部位のMD糸材の強度が、CD糸材除去禁止部位のMD糸材の強度よりも低い、前記抄紙用フェルト用基布。
CD糸材除去禁止部位が、シームループの頂部となるべき部位を含み、CD糸材を除去する部位が、そのシームループの頂部となるべき部位側の端部がシームループの頂部となるべき部位からシームループ領域のMD方向の長さの5%以上の位置となるように配置される、請求項1または2に記載の基布。
CD糸材除去禁止部位が、シームループの頂部となるべき部位を含み、CD糸材を除去する部位が、そのシームループの頂部となるべき部位側の端部がシームループの頂部となるべき部位からシームループ領域のMD方向の長さの5%以上の位置となるように配置される、請求項7または8に記載の製造方法。
織布を製織する工程において、CD糸材を除去する部位のCD糸材に抄紙用フェルト用基布を構成するCD糸材と異なる種類の糸材を用いる、請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から製紙機械のプレスパートでは、プレスフェルトと一対のプレスロールまたはプレスロールとシュープレスにより湿紙の搾水作業を行っている。このプレスフェルトとしては、
図1に示されるシームループを有する有端状のものが知られている。すなわち、フェルトFは有端状に構成されており、それぞれの端部に複数のシームループLが形成されている。フェルトFは、例えば
図2に示すように織布による基布Bと、2層のバット層Wとによって構成される。バット層Wは、基布B上に積層された短繊維のウエッブ繊維を、ニードルパンチにより基布Bと共に絡合一体化されている。基布Bは、フェルト走行方向(MD方向)の糸材と、フェルト横断方向(CD方向)糸材を製織した織布により構成される。そして、MD方向の糸材によりシームループLが構成される。
【0003】
フェルトの使用に際しては、有端状のフェルトFを製紙機械に掛け入れ、フェルトのMD方向両端部を突き合わせ、一方の端部のシームループ間に他方の端部のシームループを嵌合するようにして、両端部のシームループ同士を噛み合わせる。この噛み合わせ作業の際に、直接シームループ同士を正面から突き合わせるのではなく、
図2(A)のように両端部を山状に突き合わせた後、シームループ同士を噛み合わせる。したがって、一方のシームループ間に他方のシームループを嵌合させる場合、他方のシームループは、その下側から上側への一方のシームループ間に嵌め込まれることとなる。なお、噛み合わせ作業には専用の治具が使われる。
【0004】
噛み合わせ作業が終了すると、
図2(B)に示すように、連続するシームループLの孔部により、トンネルが形成され、トンネル状のシームループ孔部群に芯線Sを挿入させる。そして、山状に突き合わせられた端部を平面状とすることにより、製紙機械上で無端状のフェルトFが形成される。このようなフェルトFは、いわゆるシームループ付きフェルト(シームフェルト)と呼ばれ、製紙機械への掛け入れ作業が非常に優れるため、近年増加する傾向にある(例えば特許文献1)。
【0005】
フェルトFは、CD方向に幅を有しMD方向に長さを有し、フェルトFが有端状から無端状にされた場合は、フェルトの外周面は湿紙と接触する面となり、フェルトの内周面はプレスロールと接触する面となる。なお、前記外周面と前記内周面はいずれもバット層Wがニードルパンチにより、基布と共に絡合一体化されて、フェルトの表裏を構成している。
【0006】
次に、基布Bの構造を
図3および
図4に基づき説明する。
図3は、基布Bの一方の端部を示す概略図である。
図3において、基布Bは、CD方向のCD糸材1とMD方向のMD糸材2とによって構成されている。この場合、1/3経二重織の組織であり、
図4は、1/2経二重織の組織である。なお、当然ではあるが、組織はこれらに限らず、任意の形態のものが選択できる。
【0007】
MD糸材2は、端部にて折り返すことにより、上下一対の構成をなす。すなわち、この場合、並列するMD糸材2同士は層を形成し、それぞれの層における糸材表面が連続することにより、基布Bが形成される。ここで、MD糸材2の折り返し部分における、最端部のCD糸材1よりも突出した部分が、シームループLを形成する。
基布Bは、無端状に製織された織布であるか、または有端状の織布の両端を継ぎ合わせて無端状に製造される。
【0008】
基布Bは、次のニードルパンチの工程でフェルトの外周面と内周面を形成するバット層Wを基布Bと共に絡合一体化して無端状のフェルトが完成する。シームフェルトでは、ここで芯線Sをいったん取り除いて、有端状のフェルトとして製紙機械まで搬送して、製紙機械上で新たな芯線Sを挿入することで、無端状のフェルトとして製紙機械で使用することができる。
【0009】
従来、シームループを形成する方法としては、例えば、袋織により無端状に製織する際に基布Bの所定位置にシームループを形成する方法、および無端状または有端状の織布の製織後に基布Bの所定位置にシームループを形成する方法がある。
【0010】
製織後に基布Bの所定位置にシームループを形成する方法としては、織布のシームループを形成する部分のCD糸材を除去する方法が知られている(特許文献2および3)。また、シームループを形成する部分から除去するCD糸材として、スキッパーまたは特別な充填編み糸を使用することが知られている(特許文献4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献2〜4に記載のように製織後に織布のシームループを形成する部分(シームループ領域)のCD糸材を除去する場合、除去手段によってシームループ領域のMD糸材に傷が発生する、あるいは除去するCD糸材とシームループ領域のMD糸材との摩擦によってMD糸材が溶解するといった、シームループ領域のMD糸材の損傷の問題がある。シームループ領域のMD糸材の損傷は、基布またはフェルト製造の歩留りの低下の原因となるだけでなく、芯線挿入の際やフェルト使用時のシームループの破損によるフェルトの耐用期間の低下を招く虞がある。
【0013】
したがって、本発明の目的は、シームループのMD糸材に損傷がないかまたはシームループの強度を低下させる損傷がない抄紙用フェルト用基布およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討する中で、織布においてシームループが形成されるシームループ領域の、当該シームループ領域のMD糸材が損傷するとシームループの強度が低下してしまう部位(以下、「CD糸材除去禁止部位」という)以外の部位からCD糸材を除去し、CD糸材除去禁止部位のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位方向に移動することによって、MD糸材に損傷がないかまたはシームループの強度を低下させる損傷がないシームループを形成することができることを見いだし、さらに研究の結果本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に関する。
<1>フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、MD糸材によりシームループが形成された抄紙用フェルト用基布であって、シームループが、CD糸材除去禁止部位を有するシームループ領域を含む織布のCD糸材除去禁止部位以外の部位からCD糸材を除去し、CD糸材除去禁止部位のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位方向に移動することによって得られ、CD糸材が除去された部位のMD糸材の強度が、CD糸材除去禁止部位のMD糸材の強度よりも低い、前記抄紙用フェルト用基布。
【0016】
<2>CD糸材除去禁止部位のMD方向の長さが、シームループ領域のMD方向の長さの10〜100%である、<1>に記載の基布。
<3>CD糸材除去禁止部位が、シームループの頂部となるべき部位を含み、CD糸材を除去する部位が、そのシームループの頂部となるべき部位側の端部がシームループの頂部となるべき部位からシームループ領域のMD方向の長さの5%以上の位置となるように配置される、<1>または<2>に記載の基布。
【0017】
<4>2枚以上の<1>に記載の基布をCD方向につなぎ合わせて形成される、抄紙用フェルト用基布。
<5><1>に記載の基布のCD方向巾寸法が、50cm〜1000cmである、<4>に記載の基布。
<6><4>に記載の基布の表面側または裏面側の少なくとも一方に、更に追加基材を配置して形成される、抄紙用フェルト用基布。
【0018】
<7>MD糸材およびCD糸材からなり、MD糸材によりシームループが形成された抄紙用フェルト用基布の製造方法であって、
MD糸材およびCD糸材により、CD糸材除去禁止部位を有するシームループ領域を含む織布を製織する工程、
CD糸材除去禁止部位以外の部位からCD糸材を除去する工程、
CD糸材除去禁止部位のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位方向に移動してシームループを形成する工程、
を含む、前記製造方法。
【0019】
<8>CD糸材除去禁止部位のMD方向の長さが、シームループ領域のMD方向の長さの10〜100%である、<7>に記載の製造方法。
<9>CD糸材除去禁止部位が、シームループの頂部となるべき部位を含み、CD糸材を除去する部位が、そのシームループの頂部となるべき部位側の端部がシームループの頂部となるべき部位からシームループ領域のMD方向の長さの5%以上の位置となるように配置される、<7>または<8>に記載の製造方法。
【0020】
<10>織布を製織する工程において、CD糸材を除去する部位のCD糸材に抄紙用フェルト用基布を構成するCD糸材と異なる種類の糸材を用いる、<7>〜<9>のいずれかに記載の製造方法。
<11>CD糸材を除去する工程が、除去するCD糸材を所定間隔で切断する工程を含む、<7>〜<10>のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
以上の構成により、シームループ領域のMD糸材に損傷がないかまたはシームループの強度を低下させる損傷がない抄紙用フェルト用基布およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のシームループを有する抄紙用フェルト用基布およびその製造方法の態様について、図面を用いて説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
また、本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物(インターネットから入手可能な情報を含む)は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0027】
本発明の抄紙用フェルト用基布Bは、
図5に示すとおり、フェルト走行方向(MD方向)のMD糸材およびフェルト横断方向(CD方向)のCD糸材からなり、MD糸材によりシームループLが形成されたものであり、シームループLが、
図6に示すCD糸材除去禁止部位4を有するシームループ領域5を含む織布のCD糸材除去禁止部位4以外の部位からCD糸材を除去し、CD糸材除去禁止部位4のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位4とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位方向に移動することによって得られ、CD糸材が除去された部位のMD糸材の強度が、CD糸材除去禁止部位4のMD糸材の強度よりも低いものである。
CD糸材が除去された部位のMD糸材の強度とCD糸材除去禁止部位4のMD糸材の強度との差は、前者が後者より低く、CD糸材が除去された部位を含む抄紙用フェルトの部分が他領域を含む抄紙用フェルト部分と同等の品質が担保されれば特に限定されず、例えば、30〜99%、より具体的には30%〜80%である。
【0028】
本発明では、まず抄紙用フェルト用基布となる織布を製造する。
織布は、袋織により無端状に製織することにより製造してもよく、また、有端状の織布の両端を継ぎ合わせて無端状に製造してもよい。
織布の織りパターンは、平織り、綾織りおよび朱子織りが挙げられ、平織りが好ましい。MD糸材の間隔は特に限定されないが、30〜65本/5cmが好ましく、40〜55本/5cmがより好ましい。CD糸材の間隔は特に限定されないが、30〜65本/5cmが好ましく、40〜55本/5cmがより好ましい。
シームループ領域5、CD糸材を除去する部位6およびその他の領域の織りパターンは、同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
シームループ領域5は、織布により抄紙用フェルト用基布を形成するときに織布における基布の両端に相当する位置にそれぞれ配置される。シームループ領域5のMD方向の長さは、後に挿入する芯線の直径によって決定される。芯線は、例えば直径1.28mmのモノフィラメント1本や、直径0.35mmのモノフィラメント4本を束にして使用することができる。
【0030】
図7に示すとおり、シームループ領域5は、CD糸材除去禁止部位4を有する。また、CD糸材除去禁止部位4は、シームループの頂部となるべき部位7を含む。本発明において、シームループの頂部となるべき部位7とは、シームループ領域5のMD方向の両端を合わせて折りたたんだときの各MD糸材の頂点を含む、シームループ領域5のMD方向の両端から等距離に位置する所定の部位である。本発明において、CD糸材除去禁止部位4とは、シームループが形成されるシームループ領域5のMD糸材が損傷すると、例えば当該シームループ領域5からCD糸材を切断して引き抜くことにより除去した場合に当該除去により生じ得るMD糸材が損傷すると、シームループの強度に悪影響を及ぼす(シームループの強度を低下させてしまう)シームループ領域5内の部位である。CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さと等しいかそれより短く、例えば、シームループ領域のCD糸材本数の10〜100%、好ましくは50〜100%である。
【0031】
CD糸材を除去する部位6は、各シームループ領域5のCD糸材除去禁止部位4のMD方向の片側または両側に配置することができる。シームループ領域5あたり1または2以上のCD糸材を除去する部位6を、配置することができる。CD糸材を除去する部位6を、各CD糸材除去禁止部位4のMD方向の片側に配置する場合および両側に配置する場合いずれの場合にも、片側あたり1領域が好ましい。CD糸材を除去する部位6からCD糸材が除去された後、CD糸材除去禁止部位4のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位4とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材をCD糸材が除去された部位に移動させる観点から、1領域あたりCD糸材の繰返し単位の倍数本の連続するCD糸材を除去することが好ましい。例えば、織布の織パターンが平織りの場合には、1領域当たり偶数本の連続するCD糸材を除去することが好ましい。
【0032】
CD糸材を除去する部位6は、CD糸材除去禁止部位4からCD糸材を除去することによるCD糸材除去禁止部位4のMD糸材の損傷を回避する観点から、CD糸材除去禁止部位4を含まなければ特に限定されない。CD糸材を除去する部位6およびCD糸材除去禁止部位4は、隣接していても離れていてもよい。
【0033】
好ましくは、CD糸材を除去する部位6は、そのシームループの頂部となるべき部位側の端部がシームループの頂部となるべき部位7からシームループ領域5のMD方向の長さの5%以上、より好ましくは5%〜100%、さらに好ましくは25%〜80%、最も好ましくは50%〜75%の位置となるよう配置される。CD糸材除去禁止部位4のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位4とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材をCD糸材が除去された部位に移動する効率の観点から、CD糸材を除去する部位6を、25%〜80%に配置するのが好ましく、50%〜75%に配置するのがより好ましい。
【0034】
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さと等しく、CD糸材を除去する部位6は、シームループ領域5の片側にシームループ領域5に隣接せず配置される(
図8(1))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6は、シームループ領域5の片側にシームループ領域5に隣接せず配置される(
図8(2))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さと等しく、CD糸材を除去する部位6は、シームループ領域5の両側にシームループ領域5に隣接せず配置される(
図8(3))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6は、シームループ領域5の両側にシームループ領域5に隣接せず配置される(
図8(4))。
【0035】
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さと等しく、CD糸材を除去する部位6は、シームループ領域5の片側にシームループ領域5に隣接して配置される(
図9(1))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6は、シームループ領域5の片側にシームループ領域5に隣接して配置される(
図9(2))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さと等しく、CD糸材を除去する部位6は、シームループ領域5の両側にシームループ領域5に隣接して配置される(
図9(3))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6は、シームループ領域5の両側にシームループ領域5に隣接して配置される(
図9(4))。
【0036】
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6は、CD糸材除去禁止部位4の片側に、CD糸材除去禁止部位4に隣接せず、シームループ領域5と一部重複して配置される(
図10(1))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6は、CD糸材除去禁止部位4の片側に、CD糸材除去禁止部位4に隣接し、シームループ領域5と一部重複して配置される(
図10(2))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6は、CD糸材除去禁止部位4の両側に、CD糸材除去禁止部位4に隣接せず、シームループ領域5と一部重複して配置される(
図10(3))。
一態様において、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さは、シームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6は、CD糸材除去禁止部位4の両側に、CD糸材除去禁止部位4に隣接し、シームループ領域5と一部重複して配置される(
図10(4))。
【0037】
各シームループ領域5のMD方向の長さが、各シームループ領域5のMD方向の片側または両側に配置された1または2以上のCD糸材を除去する部位6のMD方向の長さの合計となる。この条件を満たす限りは、各CD糸材を除去する部位6のMD方向の長さは、特に限定されない。
【0038】
MD糸材およびCD糸材の材質は、抄紙用フェルト用基布に用いられている汎用の素材を用いることができ、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、天然素材などの繊維素材から適宜選択される。MD糸材の材質およびCD糸材の材質は、同一であっても異なっていてもよい。
【0039】
シームループ領域5のCD糸材、除去するCD糸材およびその他の領域のCD糸材の材質は、同一であっても異なっていてもよい。除去するCD糸材の識別性を高めるために、除去するCD糸材のみ異なる材質または同じ材質で着色したものを用いてもよい。また、除去するCD糸材を除去が容易な材質とすることができる。除去するCD糸材としては、上記のCD糸材の他、例えば水溶性繊維を用いることができる。
シームループ領域5のCD糸材、除去するCD糸材およびその他の領域のCD糸材の間隔は、同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
製織された織布は、次にCD糸材を除去する部位6からCD糸材を除去する工程に供される。
CD糸材を除去する部位6からのCD糸材の除去手段は、特に限定されないが、例えば、除去するCD糸材を所定間隔、例えば3〜30cm間隔で切断し、切断されたCD糸材を、引き抜くことにより除去する。引き抜く手段は、特に限定されないが、ラジオペンチやプライヤ等、先細りのあるいは織布から把持対象物(CD糸材)を把持するのに適した先端を有する把持工具で除去する。除去するCD糸材として水溶性繊維を使用した場合は、CD糸材を水に溶解させることにより除去する。
【0041】
続いて、CD糸材除去禁止部位4のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位4とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位方向に移動してシームループを形成する工程に供される。
CD糸材除去禁止部位4のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位4とCD糸材が除去された部位との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位方向に移動してシームループを形成する手段は、特に限定されないが、例えば、目打ち等の先細りのまたはMD糸材とCD糸材とを組織した隙間に入る先端を有する工具により、CD糸材が除去された部位に近いCD糸材から順に移動する。
【0042】
図11〜14に、CD糸材除去禁止部位4のCD糸材およびCD糸材除去禁止部位4とCD糸材が除去された部位6’との間のCD糸材を、CD糸材が除去された部位6’方向に移動してシームループを形成する工程における、CD糸材の移動を図示する。
図11〜14において、(A)は、CD糸材を除去する前の状態、(B)は、CD糸材を除去した状態、(C)は、CD糸材を移動してシームループ領域5にCD糸材がなくなった状態を示す。
【0043】
図11は、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さがシームループ領域5のMD方向の長さと等しく、CD糸材を除去する部位6がシームループ領域5に隣接せず配置される態様を示す。CD糸材を除去する部位6からCD糸材i〜lを除去し、CD糸材除去禁止部位4のCD糸材c〜fおよびCD糸材除去禁止部位4とCD糸材が除去された部位6’との間のCD糸材g〜hを、CD糸材が除去された部位6’方向に移動することにより、シームループを形成する。
図12は、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さがシームループ領域5のMD方向の長さと等しく、CD糸材を除去する部位6がシームループ領域5に隣接して配置される態様を示す。CD糸材を除去する部位からCD糸材g〜jを除去し、シームループ領域5のCD糸材c〜fを、CD糸材が除去された部位6’方向に移動することにより、シームループを形成する。
【0044】
図13は、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さがシームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6がCD糸材除去禁止部位4に隣接せず、シームループ領域5に隣接して配置される態様を示す。CD糸材を除去する部位からCD糸材h〜mを除去し、シームループ領域5のCD糸材b〜gを、CD糸材が除去された部位6’方向に移動することにより、シームループを形成する。
図14は、CD糸材除去禁止部位4のMD方向の長さがシームループ領域5のMD方向の長さより短く、CD糸材を除去する部位6がCD糸材除去禁止部位4に隣接し、シームループ領域5と一部重複して配置される態様を示す。CD糸材を除去する部位からCD糸材g〜lを除去し、除去されていないシームループ領域5のCD糸材c〜fを、CD糸材が除去された部位6’方向に移動することにより、シームループを形成する。
【0045】
本発明の抄紙用フェルト用基布は、単数枚で基布として用いても、2枚以上の基布をCD方向につなぎ合わせて基布として用いてもよい。
有端状の織布を用いて製造された基布を2枚以上CD方向につなぎ合わせる場合、有端状の織布の両端を継ぎ合わせた部位が一列に並ばないことが好ましい。このために、各有端状の織布において、シームループ領域5を同一の配置とならないよう設定する。
CD方向のつなぎ合わせる手段は、特に限定されないが、例えば、ミシンによる縫い合わせ、接着および溶着等が挙げられる。
つなぎ合わせる各基布のCD方向巾寸法は、特に限定されないが、織布を製織する織機の仕様、製織効率等により決定され、例えば、50cm〜1000cmである。
つなぎ合わせる基布の枚数および各基布のCD方向巾寸法は、最終製品である抄紙用フェルトのCD方向巾寸法により決定される。
【0046】
また、本発明の抄紙用フェルト用基布を、2枚以上の基布をCD方向につなぎ合わせた基布とした場合、つなぎ合わせ部の、湿紙へのマーク発生防止や強度を確保することを目的として、当該基布の表面側または裏面側の少なくとも一方に、更に追加基材を配置することが好ましい。
追加基材は、特に限定されないが、少なくともつなぎ合わせ部の、湿紙へのマーク発生防止や強度を確保できる程度の、例えば織布、不織布、糸列、格子状素材等から任意に選択することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の抄紙用フェルト用基布について、実施例を用いて詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
以下に示すMD糸材およびCD糸材を用いて、幅(CD方向)1m、長さ(MD方向)20m、MD糸材間隔50本/5cm、CD糸材間隔50本/5cmの実施例1および比較例1の織布を作成した。実施例1において、除去するCD糸材は、以下に示すCD糸材を除去する部位6に使用された。比較例1において、除去するCD糸材は、シームループ領域5に使用された。
・MD糸材:ポリアミド6 線径0.40mm
・除去するCD糸材:ポリアミド6 線径0.40mm
・CD糸材を除去する部位6以外のCD糸材:ポリアミド6 線径0.40mm
【0048】
実施例1
長さ6mmのシームループを形成するために、
図15に示すとおり、CD糸材を除去する部位6の除去するCD糸材をa〜f(合計6本)、CD糸材除去禁止部位4であるシームループ領域5のCD糸材をj〜o(合計6本)、CD糸材を除去する部位6とシームループ領域5との間のCD糸材をg〜i(合計3本)とし、除去するCD糸材を20cm間隔で切断し、切断したCD糸材を、すべて同じ側(X側)から各切断したCD糸材の末端をラジオペンチでつかんで引き抜き、除去した。CD糸材が除去された部位方向にg〜oを移動し、シームループを形成した。
【0049】
比較例1
長さ6mmのシームループを形成するために、
図16に示すとおり、シームループ領域5を構成するCD糸材a〜f(合計6本)を、20cm間隔で切断し、切断したCD糸材を、すべて同じ側(X側)から各切断したCD糸材の末端をラジオペンチでつかんで引き抜き、除去した。
【0050】
[切断強力試験]
実施例1および比較例1により作成したサンプルについて、切断強力を測定した。実施例1の切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の各端部付近の延長線上にある、CD糸材を移動して形成されたシームループを構成するMD糸材から1本、比較例1の切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の各端部付近のシームループを構成するMD糸材から1本および切断したCD糸材を引き抜いた側と反対側(Y側)の各端部付近のシームループを構成するMD糸材から1本それぞれ選択し、選択したMD糸材に加重し、切断された時点の加重を記録した。結果を、表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1の切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の各端部付近のMD方向の延長線上にある、CD糸材を移動して形成されたシームループを構成するMD糸材は、平均6.916kgfであったのに対し、比較例1の切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の各端部付近のシームループを構成するMD糸材は、平均2.753kgfであり、実施例1と比較して、40%程度に強度が低下した。これは、比較例1の切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の各端部付近のシームループを構成するMD糸材は、CD糸材を切断する際にMD糸材に傷がつき、さらに、切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)ではCD糸材を引き抜く際に摩擦熱が発生し、それによりCD糸材を引き抜いた側のMD糸材が溶解したことによるものと考えられる。これに対し、実施例1は、シームループを構成するMD糸材は、CD糸材を切断する際に傷が付いたりCD糸材を引き抜く際に溶解したりした可能性のあるMD糸材ではないことから、シームループを構成するMD糸材が、製織に用いたMD糸材が本来有する強度を保持している。
【0053】
実施例1の切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の端部付近のMD方向の延長線上にある、CD糸材を移動して形成されたシームループを構成するMD糸材の写真を
図17(1)に示す。比較例1の切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の各端部付近のシームループを構成するMD糸材の写真を
図17(2)に、切断したCD糸材を引き抜いた側と反対側(Y側)の各端部付近のシームループを構成するMD糸材の写真を
図17(3)に示す。
図17(1)に示すとおり、実施例1の抄紙用フェルト用基布は、CD糸材除去禁止部位4にMD糸材の損傷がみられなかった。一方、比較例1の抄紙用フェルト用基布は、
図17(3)に示すとおり切断したCD糸材を引き抜いた側と反対側(Y側)の端部付近ではシームループを構成するMD糸材の損傷が少なかったものの、
図17(2)に示すとおり切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の端部付近ではシームループ領域5のMD糸材の損傷がみられた。
図17(3)に図示した端部以外の切断したCD糸材を引き抜いた側と反対側(Y側)の端部付近においても
図17(3)と同程度のシームループを構成するMD糸材の損傷が、また
図17(2)に図示した端部以外の切断したCD糸材を引き抜いた側(X側)の端部付近においても、
図17(2)と同程度のシームループ領域5のMD糸材の損傷が、それぞれ視認された。
【0054】
本明細書に記載された本発明の種々の特徴は様々に組み合わせることができ、そのような組合せにより得られる態様は、本明細書に具体的に記載されていない組合せも含め、すべて本発明の範囲内である。また、当業者は、本発明の精神から逸脱しない多数の様々な改変が可能であることを理解しており、かかる改変を含む均等物も本発明の範囲に含まれる。したがって、本明細書に記載された態様は例示にすぎず、これらが本発明の範囲を制限する意図をもって記載されたものではないことを理解すべきである。