【課題】地滑り斜面に対して組杭により杭の前面及び杭間の地盤反力を最大限有効に活用することができると共に、用地上の制約や施工上の制約が少なく、汎用性に優れ合理的な斜面の安定化構造を提供する。
【解決手段】地山100の斜面内部のすべり面102に対して略直交方向に、すべり面102の奥側まで打設される直杭1と、直杭1の上側の離間した位置で、すべり面102に対して略直交方向より水平に近づくように傾いて、すべり面102の奥側まで打設される第1の斜杭2を有し、更に、好ましくは第1の斜杭2の上側の離間した位置で、すべり面102に対して略直交方向より水平に近づくように傾斜して、すべり面102の奥側まで打設される第2の斜杭3を設け、直杭1、第1の斜杭2、第2の斜杭3の杭頭部12、22、32を剛結する斜面の安定化構造。
前記直杭と前記斜杭の剛結体、若しくは前記直杭と前記第1の斜杭と前記第2の斜杭の剛結体が、前記地山の斜面の横方向に沿って並設されていることを特徴とする請求項1又は2記載の斜面の安定化構造。
前記直杭と前記斜杭、若しくは前記直杭と前記第1の斜杭と前記第2の斜杭のそれぞれが、直径100〜300mmの鋼管と、グラウト材の注入で形成される定着層とから構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の斜面の安定化構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の組杭抑止工法で施工を行う際には、切土法面を上部側から下部側へ段階的に形成しながら、第1の領域Iの途中の小段で鉛直杭と斜杭を一列づつ打設し、これらの杭頭部同士を基礎梁により剛結し、その後、その下側の第2の領域IIを切土形成してまた小段を設け、鉛直杭と斜杭を一列づつ打設して基礎梁により剛結し、という作業を繰り返すため、用地と施工上の制約を大きく受けてしまう。このため、適用範囲が狭く、限られたものとなる。
【0006】
また、この組杭抑止工法は鉛直杭と斜杭の組み合わせではあるが、基本的には従来の単列の鉛直杭の曲げ耐力(水平方向支持力)不足を補うために、鉛直杭と斜杭を組み合わせて頭部剛結しただけのものである。そのため、単列の鉛直杭よりは補強効果が見込まれるが、斜杭Nが、鉛直杭Mの背面ですべり面201に対してほぼ直交する状態で背面土圧を全面的に受け止めて剪断力に抗してしまう為、鉛直杭Mにかかる土圧が減って鉛直杭としての支持力は確保されるものの、鉛直杭Aと斜杭Bからなる組杭としての相乗的な補強効果が望めるものではない(
図13参照、図中202は切土斜面である)。従って、斜杭の施工で増加する施工コストや施工時間に見合うだけの十分な補強効果の増大があるとは言い難く、コストパフォーマンスに劣る。
【0007】
また、特許文献2のルートパイル工法は、あくまでも補強土工法であり、土を一体化させることができるように多数の細径補強材を網目状に打設し、土と補強材との相互作用により、補強材が地山の変形に追随して補強効果を発揮できるようにするものである。即ち、すべり力に対する杭の軸抵抗、杭の支持力を期待することができる抑止杭ではない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、地滑り斜面に対して組杭により杭の前面及び杭間の地盤反力を最大限有効に活用することができると共に、用地上の制約や施工上の制約が少なく、汎用性に優れ合理的な斜面の安定化構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の斜面の安定化構造は、地山の斜面内部のすべり面に対して略直交方向に、前記すべり面の奥側まで打設される直杭と、前記直杭の上側の離間した位置で、前記すべり面に対して略直交方向より水平に近づくように傾いて、前記すべり面の奥側まで打設される斜杭を有し、前記直杭の杭頭部と前記斜杭の杭頭部とが剛結されていることを特徴とする。
これによれば、すべり面に対して略直交する方向より水平に近づくように傾いた斜杭が杭背面側の土圧を効果的に支持することにより、斜杭と直杭の間及び直杭の前面側の地盤反力が維持され、杭の前面及び杭間の地盤の塑性化が可及的に抑止される。従って、前後方向に2列をなす組杭として剛結された斜杭と直杭の双方が互いに最大限の支持力を発現して斜面を安定化することができる。即ち、斜杭がすべり面に対して略直交する方向より水平に近づくように傾いている、つまりは寝ていることによって、局所的な剪断力を杭の曲げ耐力だけで抗する状態になるのを避け、長さ方向に応力分散させることができ、土圧分散による地盤反力を効果的に発現させることができる。この結果、斜杭の前面と直杭の間にも外力を受け持つ土圧が発生し、直杭の荷重分担を大幅に減じる一方で、直杭前面側の地盤反力も維持される。そして、斜杭により安定化が保持された地盤中に位置し、すべり面に略直交することで直接的な引張剛性が期待される直杭が組杭の前面に位置することになり、この直杭の配置によって斜杭の変形が防止される。また、直杭と斜杭が頭部剛結されていることでも互いの変形が防止される。これによって、斜杭が直杭を守る一方で直杭が斜杭を守る状態となり、杭背面と杭前面及び杭間の土壌の塑性化が可及的に防止されると共に、斜杭、直杭それぞれが変位発生の早期段階から効果的な支持力を発現できると共に、終局的にも双方の杭が最大限の支持力を発現することができる。また、本発明において直杭、斜杭とは、斜面内部のすべり面に対して略直交方向とそれより水平に近づくように傾く方向に打設されるものであることから、鉛直杭のように斜面途中に段部を形成する必要がなく、施工に当たって用地上の制約や施工上の制約が少なく、汎用性に優れている。また、既存の抑止杭による安定化構造では、大きな抑止力が必要な場合に、杭径を大きくし、杭材質を高張力のものにして対処していたため、施工機械が大型化したり、施工に制約を受けたり、経済性が損なわれていたが、本発明では機動性の良い小口径による組杭を用いても地盤自体が保有する内部応力を崩壊させることなく最大限に活かして大きな抑止力を得、斜面を安定化させることができ、優れた経済性、施工効率で合理的に斜面補強をすることができる。
【0010】
本発明の斜面の安定化構造は、前記斜杭を第1の斜杭とし、前記第1の斜杭の上側の離間した位置で、前記すべり面に対して略直交方向より水平に近づくように傾斜して、前記すべり面の奥側まで打設される第2の斜杭を有し、前記直杭の杭頭部と前記第1の斜杭の杭頭部と前記第2の斜杭の杭頭部とが剛結されていることを特徴とする。
これによれば、第2の斜杭を用いると共に、直杭、第1の斜杭、第2の斜杭の杭頭部を剛結することにより、すべり面に対する終局的な剪断強度を一層高めることができる。
【0011】
本発明の斜面の安定化構造は、前記直杭と前記斜杭の剛結体、若しくは前記直杭と前記第1の斜杭と前記第2の斜杭の剛結体が、前記地山の斜面の横方向に沿って並設されていることを特徴とする。
これによれば、地滑り抑制力の高い安定した斜面構造を広範囲に形成することができる。
【0012】
本発明の斜面の安定化構造は、前記直杭と前記斜杭、若しくは前記直杭と前記第1の斜杭と前記第2の斜杭のそれぞれが、直径100〜300mmの鋼管と、グラウト材の注入で形成される定着層とから構成されていることを特徴とする。
これによれば、直径100〜300mmの小口径の鋼管による杭を用いることで、より施工上の制約が少なくすることができると共に、斜面のすべり面に対して略直交方向に或いは傾斜角度をつけて打設することも容易に行うことができる。
【0013】
本発明の斜面の安定化構造は、前記斜杭と前記斜杭の直下の前記すべり面とがなす角度が65度〜75度に設定されている、若しくは前記第1の斜杭と前記第1の斜杭の直下の前記すべり面とがなす角度が65度〜75度、前記第2の斜杭と前記第2の斜杭の直下の前記すべり面とがなす角度が65度〜75度に設定されていることを特徴とする。
これによれば、斜杭若しくは第1、第2の斜杭の軸方向を剪断面と最適に斜交させることで、早い段階から斜杭若しくは第1、第2の斜杭の周面摩擦を生かして引張方向の力が働かせ、又、斜杭若しくは第1、第2の斜杭の前側の地盤反力を得ることができ、剪断変位の小さいうちに剪断抵抗力を早く確実に働かせることができる。従って、大きな剪断変位、剪断応力の発生を抑制し、斜面の安定性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の斜面の安定化構造は、地滑り斜面に対して組杭により杭の前面及び杭間の地盤反力を最大限有効に活用することができ、剛結された斜杭と直杭の双方に互いに最大限の支持力を発現させて斜面を安定化することができる。また、用地上の制約や施工上の制約が少なく、汎用性に優れ、極めて高い合理的を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による第1実施形態の斜面の安定化構造を示す模式断面図。
【
図2】第1実施形態の斜面の安定化構造における直杭、第1の斜杭、第2の斜杭の剛結部分を示す断面説明図。
【
図3】(a)〜(e)は第1実施形態の斜面の安定化構造における杭の施工工程を示す断面説明図。
【
図4】本発明による第2実施形態の斜面の安定化構造を示す模式断面図。
【
図6】(a)、(b)はモデル実験装置における第1実施例及び第1比較例の杭配置を示す説明図、(c)、(d)はモデル実験装置における第2実施例及び第2比較例の杭配置を示す説明図。
【
図7】(1)はモデル実験による第1実施例及び第1比較例の剪断変位と剪断応力の関係を示すグラフ、(2)はモデル実験による第2実施例及び第2比較例の剪断変位と剪断応力の関係を示すグラフ。
【
図8】(a)は第1実施例に対応する3次元FEM解析用モデル図、(b)は第1比較例に対応する3次元FEM解析用モデル図、(c)は第2実施例に対応する3次元FEM解析用モデル図、(b)は第2比較例に対応する3次元FEM解析用モデル図。
【
図9】(a)は第1実施例対応解析用モデルにおける縦断方向の塑性域分布図、(b)は第1比較例対応解析用モデルにおける縦断方向の塑性域分布図。
【
図10】(a)は第1実施例対応解析用モデルにおける剪断面(すべり面)直上の塑性域分布をあらわす3Dモデル図、(b)は第1比較例対応解析用モデルにおける剪断面(すべり面)直上の塑性域分布をあらわす3Dモデル図。
【
図11】(a)は第2実施例対応解析用モデルにおける縦断方向の塑性域分布図、(b)は第2比較例対応解析用モデルにおける縦断方向の塑性域分布図。
【
図12】(a)は第2実施例対応解析用モデルにおける剪断面(すべり面)直上の塑性域分布をあらわす3Dモデル図、(b)は第2比較例対応解析用モデルにおける剪断面(すべり面)直上の塑性域分布をあらわす3Dモデル図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態の斜面の安定化構造〕
本発明による第1実施形態の斜面の安定化構造は、
図1及び
図2に示すように、地山100の斜面101から内部にあるすべり面102に対して略直交方向に打設されている直杭1と、直杭1の上側の離間した位置で、斜面101からすべり面102に対して略直交方向より水平に近づくように傾いて打設されている第1の斜杭2と、第1の斜杭2の上側の離間した位置で、斜面101からすべり面102に対して略直交方向より水平に近づくように傾いて打設されている第2の斜杭3を備える。直杭1、第1の斜杭2、第2の斜杭3は、それぞれ斜面101から先端側の部分がすべり面102の奥側まで到達するように打設されている。
【0017】
直杭1は、すべり面102に対して略直交方向に打設され、第1の斜杭2、第2の斜杭3は、すべり面102に対して略直交方向より水平に近づくように傾いて打設され、この直杭1、第1の斜杭2、第2の斜杭3の3列で組杭が構成されており、既存の鉛直方向に打設される鉛直杭と、鉛直方向に対して若干傾斜して打設される斜杭からなる組杭とは異なるものである。
【0018】
第1の斜杭2と、第1の斜杭2の直下のすべり面102とがなす角度αは、略直交方向より水平に近づくように傾斜する角度で適宜設定することが可能であるが、65度〜75度に設定すると好適であり、図示例の角度αは70度になっており、第1の斜杭2の直杭1に対する傾斜角度は20度になっている。同様に、第2の斜杭3と、第2の斜杭3の直下のすべり面102とがなす角度βは、略直交方向より水平に近づくように傾斜する角度で適宜設定することが可能であるが、65度〜75度に設定すると好適であり、図示例の角度βは70度になっており、第2の斜杭3の直杭1に対する傾斜角度は20度になっている。この斜杭2、3の角度α、βは、すべり面に対して略直交する直杭1と打設角度が傾斜する斜杭2、3を同一の施工機械で段取り変えしながら打設するのに無理のない角度で、作業性にも支障を及ぼさない。
【0019】
直杭1、第1の斜杭2、第2の斜杭3のそれぞれは、鋼管11、21、31と、グラウト材の注入で形成され、地山101に打設されている鋼管11、21、31の周囲で硬化している定着層63から構成されており(
図3参照)、更に、鋼管11、21、31にはそれぞれ杭頭部12、22、32が溶接して固定されている。鋼管11、21、31には所要の杭支持力が得られる適宜の鋼管を用いることが可能であるが、直径100〜300mmの小口径の鋼管とすると、より施工上の制約が少なくすることができると共に、斜面のすべり面に対して略直交方向に或いは傾斜角度をつけて打設することも容易に行うことができて好適である。
【0020】
直杭1の杭頭部12及びその近傍、第1の斜杭2の杭頭部22及びその近傍、第2の斜杭3の杭頭部32及びその近傍は、斜面101上に一体的に設けられている鉄筋コンクリート4に埋め込まれており、即ち、本実施形態においては直杭1、斜杭2、3の杭頭部12、22、32は鉄筋コンクリート4を介して剛結されている。鉄筋コンクリート4は、コンクリート部41と、コンクリート部41内に配された鉄筋42とから構成される。
【0021】
本実施形態の直杭1、第1の斜杭2、第2の斜杭3はいずれも同様の施工方法により地山100に打設される。
図3は直杭1、第1の斜杭2又は第2の斜杭3を構成する杭6を打設する施工工程を示す断面説明図である。
【0022】
杭6を打設する際には、先ず斜面101から地山100に向かって削孔103を形成する。
図3(a)の例では、先端部にビット53とダウンザホールハンマー52が設けられている削孔ロッド51を鋼管61内に挿入し、鋼管61をケーシングとする削孔ロッド51を施工機械で回転させて削孔103を形成する。削孔103が所要の深さまで到達したら削孔ロッド51を引き抜いて鋼管61のみ削孔103内に存置する(
図3(b)参照)。なお、図示例はダウンザホールハンマー方式の削孔であるが、ロータリーパカッション方式等でも同様に鋼管61をケーシングとして削孔することができ、また、地山100の土質や鋼管61の形態によっては、打撃を伴わずに回転のみで削孔打設することも可能である。
【0023】
その後、
図3(c)に示すように、鋼管61内に先端部にパッカー55が設けられている注入管54を挿入し、パッカー55が孔奥近傍に到達するまで挿入する。そして、注入管54にグラウト材を圧送してパッカー55の先端から吐出させ、鋼管61の周面に長手方向に所定間隔を開けて形成されている吐出孔611から周囲の地山100内にグラウト材を注入する。グラウト材が浸透した周囲の地山100には定着層63が形成される。このグラウト材の注入をパッカー55及び注入管54を引き上げながら繰り返し行い、鋼管61の周囲に定着層63が形成される(
図3(d)、(e)参照)。
【0024】
そして、鋼管61から注入管54及びパッカー55を引き抜き、鋼管61の斜面101から吐出する端部に杭頭部を溶接等によって固定し、直杭1、第1の斜杭2又は第2の斜杭3を構成する杭6が形成される。
【0025】
第1実施形態では、直杭1と第1の斜杭2と第2の斜杭3を剛結合して構成される剛結体が、地山100の斜面101の横方向に沿って並設されており、この複数並設された剛結体の直杭1の杭頭部12、第1の斜杭2の杭頭部22、第2の斜杭3の杭頭部32が、斜面101上に一体的に設けられている鉄筋コンクリート4で剛結されている(図示省略)。直杭1と第1の斜杭2と第2の斜杭3の剛結体を並設することにより、地滑り抑制力の高い安定した斜面構造を広範囲に形成することができる。
【0026】
第1実施形態の斜面の安定化構造によれば、すべり面に対して略直交する方向より水平に近づくように傾いた第1の斜杭2、第2の斜杭3が直杭1の背面側の土圧を効果的に支持することにより、第2の斜杭3と第1の斜杭2との間、第1の斜杭2と直杭1との間、及び直杭1の前面側の地盤反力が維持され、直杭1の前面及び杭間の地盤の塑性化を可及的に抑止できる。従って、組杭として剛結された直杭1と第1の斜杭2と第3の斜杭3が互いに最大限の支持力を発現して斜面を安定化することができる。
【0027】
即ち、第1の斜杭2、第2の斜杭3がすべり面に対して略直交する方向より水平に近づくように傾くことによって、局所的な剪断力を杭の曲げ耐力だけで抗する状態になるのを避け、長さ方向に応力を分散させ、土圧分散による地盤反力を効果的に発現させることができる。この結果、第2の斜杭3の前面と第1の斜杭2との間、第1の斜杭2と直杭1との間にも外力を受け持つ土圧が発生し、直杭1の荷重分担を大幅に減じる一方で、直杭1の前面側の地盤反力も維持される。そして、斜杭2、3により安定化が保持された地盤中に位置し、すべり面に略直交することで直接的な引張剛性が期待される直杭1が組杭の前面に位置することになり、この直杭1の配置によって斜杭2、3の変形が防止される。また、直杭1と斜杭2、3が頭部剛結されていることでも互いの変形が防止される。これによって、斜杭2、3が直杭1を守る一方で直杭1が斜杭2、3を守る状態となり、杭背面と杭前面及び杭間の土壌の塑性化が可及的に防止されると共に、斜杭2、3、直杭1のそれぞれが変位発生の早期段階から効果的な支持力を発現できると共に、終局的にもそれぞれの杭が最大限の支持力を発現することができる。
【0028】
また、直杭1、斜杭2、3とは、斜面内部のすべり面に対して略直交方向とそれより水平に近づくように傾く方向に打設されるものであることから、鉛直杭のように斜面途中に段部を形成する必要がなく、施工に当たって用地上の制約や施工上の制約が少なく、汎用性に優れている。また、既存の抑止杭による安定化構造では、大きな抑止力が必要な場合に、杭径を大きくし、杭材質を高張力のものにして対処していたため、施工機械が大型化したり、施工に制約を受けたり、経済性が損なわれていたが、第1実施形態では機動性の良い小口径による組杭を用いても地盤自体が保有する内部応力を崩壊させることなく最大限に活かして大きな抑止力を得、斜面を安定化させることができ、優れた経済性、施工効率で合理的に斜面補強をすることができる。
【0029】
更に、第1の斜杭2に加えて第2の斜杭3を用いると共に、直杭1、第1の斜杭2、第2の斜杭3の杭頭部12、22、32を剛結することにより、すべり面に対する終局的な剪断強度を一層高めることができる。
【0030】
また、第1の斜杭2の角度α、第2の斜杭3の角度βを65度〜75度に設定することにより、第1の斜杭2、第2の斜杭3の軸方向を剪断面と最適に斜交させて、早い段階から第1の斜杭2、第2の斜杭3の周面摩擦を生かして引張方向の力が働かせ、又、第1の斜杭2、第2の斜杭3の前側の地盤反力を得ることができ、剪断変位の小さいうちに剪断抵抗力を早く確実に働かせることができる。従って、大きな剪断変位、剪断応力の発生を抑制し、斜面の安定性を一層高めることができる。
【0031】
〔第2実施形態の斜面の安定化構造〕
本発明による第2実施形態の斜面の安定化構造は、
図4に示すように、第1実施形態における第2の斜杭3を設けない斜面の安定化構造であり、地山100の斜面101から内部にあるすべり面102に対して略直交方向に打設されている直杭1aと、直杭1aの上側の離間した位置で、斜面101からすべり面102に対して略直交方向より水平に近づくように傾いて打設されている斜杭2aを備え、直杭1a、斜杭2aが、それぞれ斜面101から先端側の部分がすべり面102の奥側まで到達するように打設されているものである。直杭1a、斜杭2aは第1実施形態の直杭1、第1の斜杭2とそれぞれ同一構成であり、直杭1、第1の斜杭2と同様に打設される。
【0032】
直杭1aの杭頭部及びその近傍、斜杭2aの杭頭部及びその近傍は、斜面101上に一体的に設けられている鉄筋コンクリート4に埋め込まれており、即ち、本実施形態においては直杭1aの杭頭部と斜杭2aの杭頭部とが鉄筋コンクリート4を介して剛結されている。鉄筋コンクリート4は、第1実施形態と同様、コンクリート部41と、コンクリート部41内に配された鉄筋42とから構成されるものである。第2実施形態では直杭1aと斜杭2aとで組杭が構成されている。
【0033】
この直杭1a、斜杭2aは第1実施形態の直杭1、第1の斜杭2とそれぞれ同一構成であり、又、
図3の杭6の打設工程の如く、直杭1、第1の斜杭2と同様に打設される。また、斜杭2aと直下のすべり面102とがなす角度αは、第1の斜杭2と直下のすべり面102とがなす角度αと同様に設定される。
【0034】
第2実施形態では、直杭1aと斜杭2aを剛結合して構成される剛結体が、地山100の斜面101の横方向に沿って並設されており、この複数並設された剛結体の直杭1aの杭頭部、斜杭2aの杭頭部が、斜面101上に一体的に設けられている鉄筋コンクリート4で剛結されている(図示省略)。直杭1aと斜杭2aの剛結体を並設することにより、地滑り抑制力の高い安定した斜面構造を広範囲に形成することができる。
【0035】
第2実施形態の斜面の安定化構造によれば、すべり面に対して略直交する方向より水平に近づくように傾いた斜杭2aが直杭1aの背面側の土圧を効果的に支持することにより、斜杭2aと直杭1aとの間、及び直杭1aの前面側の地盤反力が維持され、直杭1aの前面及び杭間の地盤の塑性化を可及的に抑止できる。従って、組杭として剛結された直杭1aと斜杭2aが互いに最大限の支持力を発現して斜面を安定化することができる。
【0036】
即ち、斜杭2aがすべり面に対して略直交する方向より水平に近づくように傾くことによって、局所的な剪断力を杭の曲げ耐力だけで抗する状態になるのを避け、長さ方向に応力を分散させ、土圧分散による地盤反力を効果的に発現させることができる。この結果、斜杭2aと直杭1aとの間にも外力を受け持つ土圧が発生し、直杭1aの荷重分担を大幅に減じる一方で、直杭1aの前面側の地盤反力も維持される。そして、斜杭2aにより安定化が保持された地盤中に位置し、すべり面に略直交することで直接的な引張剛性が期待される直杭1aが組杭の前面に位置することになり、この直杭1aの配置によって斜杭2aの変形が防止される。また、直杭1aと斜杭2aが頭部剛結されていることでも互いの変形が防止される。これによって、斜杭2aが直杭1aを守る一方で直杭1aが斜杭2aを守る状態となり、杭背面と杭前面及び杭間の土壌の塑性化が可及的に防止されると共に、斜杭2a、直杭1aのそれぞれが変位発生の早期段階から効果的な支持力を発現できると共に、終局的にもそれぞれの杭が最大限の支持力を発現することができる。
【0037】
また、直杭1a、斜杭2aとは、斜面内部のすべり面に対して略直交方向とそれより水平に近づくように傾く方向に打設されるものであることから、鉛直杭のように斜面途中に段部を形成する必要がなく、施工に当たって用地上の制約や施工上の制約が少なく、汎用性に優れている。また、既存の抑止杭による安定化構造では、大きな抑止力が必要な場合に、杭径を大きくし、杭材質を高張力のものにして対処していたため、施工機械が大型化したり、施工に制約を受けたり、経済性が損なわれていたが、第2実施形態では機動性の良い小口径による組杭を用いても地盤自体が保有する内部応力を崩壊させることなく最大限に活かして大きな抑止力を得、斜面を安定化させることができ、優れた経済性、施工効率で合理的に斜面補強をすることができる。その他、第1実施形態と対応する構成から対応する効果を奏する。
【0038】
〔実施例と比較例の対比〕
本発明による斜面安定化構造のうち、直杭1+第1の斜杭2+第2の斜杭3の3列で1組をなす第1実施形態の構造に対応するモデル実施例の第1実施例と、直杭1a+斜杭2aの2列で1組をなす第2実施形態の構造に対応するモデル実施例の第2実施例とが、同本数の直杭に比して有する有効性を確認するため、第1実施例、第2実施例と比較例のモデル実験を行った。このモデル実験では杭や地盤のモデルにセンサを設けておくことにより、各位置での挙動を数値として計測することができる。
【0039】
図5はモデル実験装置の構成図である。モデル実験装置500は、上箱部502と下箱部503で一対の剪断箱501を有し、剪断箱501内に珪砂7号を相対密度80%となるように充填して模擬地盤を作成し、この模擬地盤内に、φ114.3mm鋼管杭を想定して相似比1/10となるアルミ角棒10mm×10mm×260mm(中空、厚さ1mm)を模型杭504として、実施例及び比較例となるように配置した。
図5中、505はすべり面102に対応する剪断面である。
【0040】
モデル実験における杭配置を
図6に示す。
図6(a)、(b)は第1実施例及びその比較例である第1比較例の杭配置を示しており、第1実施例では直杭1+第1の斜杭2+第2の斜杭3の3本に対応するように模型杭504を上箱部502及び下箱部503内に配置し、3本の模型杭504の頭部を同様に相似比を考慮したアルミ棒φ3mmで剛結した。第1比較例では直杭1を3列で打設する場合に対応するように剪断面505に対して略直交する3本の模型杭504を上箱部502及び下箱部503内に配置し、3本の模型杭504の頭部を同様に相似比を考慮したアルミ棒φ3mmで剛結した。
【0041】
図6(c)、(d)は第2実施例及びその比較例である第2比較例の杭配置を示しており、第2実施例では直杭1a+斜杭2aの2本に対応するように模型杭504を上箱部502及び下箱部503内に先端部を保持して配置し、2本の模型杭504の後端部に位置する頭部を同様に相似比を考慮したアルミ棒φ3mmで剛結した。第2比較例では直杭1aを2列で打設する場合に対応するように剪断面505に対して略直交する2本の模型杭504を上箱部502及び下箱部503内に先端部を保持して配置し、2本の模型杭504の後端部に位置する頭部を同様に相似比を考慮したアルミ棒φ3mmで剛結した。
【0042】
そして、剪断箱501の上面を拘束圧25kN/m
2で拘束した状態で、下箱部503を側方から速度1mm/minで剪断力を付与する形式で実験した。各模型杭504には、土圧計、歪み計等のセンサを深さ方向に所定ピッチで取り付けておき、各模型杭504に負荷される土圧や歪み等を求めた。
【0043】
このモデル実験により得られた剪断変位と剪断応力の関係を
図7に示す。
図7(1)における黒色点の軌跡の実線は第1実施例の結果、白色点の軌跡の点線は第1比較例の結果であり、
図7(2)における黒色点の軌跡の実線は第2実施例の結果、白色点の軌跡の点線は第2比較例の結果であり、それぞれモデル実験装置500に設置されている剪断応力測定センサー及び変位センサーにより、得られた信号をコンピューターで変換し、グラフ化したものである。尚、ここに言う剪断応力は、模型杭504の剪断応力ではなく、実験箱の中に再現された模擬地盤の剪断応力であり、又、ここに言う剪断変位は、模擬地盤の剪断変位である。
【0044】
本モデル実験の結果によると、第1実施例は、直杭1の3列の頭部剛結に対応する第1比較例の剪断実験結果に対し、初期剛性はほぼ変わらないものの、終局的に大きな剪断応力を発現する、つまりは高い補強効果を有することが分かる。
【0045】
一方、第2実施例と、直杭1aの2列の頭部剛結に対応する第2比較例では、第2実施例の方が初期剛性で第2比較例を上回るものの、その後の剪断応力−剪断変位曲線ではあまり差が見られず、終局的には第2比較例より剪断応力が落ちている。しかし、この結果は剪断応力−剪断変位曲線であるが、同時に検出された土圧計のデータによれば、模型杭504に生じる土圧分布には第2実施例と第2比較例とで大きな差が生じることが分かった。
【0046】
自然地盤は常に動き得るものであり、ある載荷荷重に対し変位が同じ地盤であっても「壊れた地盤」と「壊れていない地盤」がある。壊れていない地盤は変形しても弾性体として地盤崩壊を免れるように自身を維持し、地盤が壊れていて塑性化していれば、杭の支持力を超えたところで崩壊する。このような地盤性状の相違は、土圧分布の相違と相関性を有すると考えられる。
【0047】
そのため、第1、第2実施例と第1、第2比較例の剪断試験において生じる土圧の違いに着目し、モデル実験に対応するモデルにより、杭の前面・背面及び杭間の地盤における地盤性状を三次元FEM解析により評価した。三次元FEM解析は、静的な条件下で地盤を弾塑性体として見て3次元軸上で要素分割し、その応力と変形について解析を行うものであり、杭が打設された地盤全体の連続的な挙動、三次元的な挙動を把握するのに有利である。
【0048】
この三次元FEM解析では、モデル実験により得た各データと最も整合するよう解析条件を定めてパラメータを設定し、当該条件及びパラメータを用いてFEM解析を行った。そして、視覚的に見識可能となるようにデータを加工することにより、杭間及び組杭の前後の地盤状態を確認した。
【0049】
図8(a)、(b)は第1実施例と第1比較例に対応する3次元FEM解析用モデル図、
図8(c)、(d)は第2実施例と第2比較例に対応する3次元FEM解析用モデル図であり、これらのモデル図中の601はモデル直杭、602はモデル斜杭、603は剪断面である。各モデルでは、第1実施例の組杭、第1比較例の組杭、第2実施例の組杭、第2比較例の組杭を横方向に3組並設し、各例の各杭の頭部は全体的に剛結している。
【0050】
図9〜
図12は、
図8(a)、(b)、(c)、(d)に対応したモデルで三次元FEM解析を行ったものから、所定の応力状態下における縦断面と、剪断面(すべり面)直上の解析結果を取り出し、所定の閾値で2値化し、黒く塗りつぶした箇所を塑性化地盤、塗りつぶされていない箇所を非塑性化地盤として表したものである。
図9(a)及び
図10(a)は第1実施例対応解析用モデル、
図9(b)及び
図10(b)は第1比較例対応解析用モデル、
図11(a)及び
図12(a)は第2実施例対応解析用モデル、
図11(b)及び
図12(b)は第2比較例対応解析用モデルのものをそれぞれ示している。
【0051】
図9及び
図11の縦断方向の塑性域分布図によれば、第1実施例、第2実施例対応のモデルでは、すべり面より上側(斜面表層に近い側)の杭間に非塑性化領域が残り、終局的な変位状態においても、壊れることなく地盤反力を維持している地盤が残ることが分かる。一方、第1比較例、第2比較例対応のモデルでは、杭間の地盤がほぼ全て塑性化してしまうことが分かる。このように一旦塑性化した地盤は杭間において弾性体として地盤反力を発現することはできない。
【0052】
また、
図10及び
図12の剪断面(すべり面)直上近傍の横断面における塑性域分布状態によれば、第1実施例、第2実施例対応のモデルでは、杭の前面・背面及び杭間でも非塑性化領域が残り、地盤反力が見込めるのに対し、第1比較例、第2比較例対応のモデルでは、地盤のほとんどが塑性化してしまうことが分かる。即ち、本発明は、単に載荷荷重的なメリットがあるということではなく、杭材周辺の土圧を効果的に生かして、斜面の安定化を合理的に図ることができると言える。
【0053】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明、各実施形態、各例の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含むものであり、下記変形例も包含する。
【0054】
例えば直杭1の杭頭部12と第1の斜杭2の杭頭部22と第2の斜杭3の杭頭部32を剛結する部材、或いは直杭1aの杭頭部と斜杭2aの杭頭部を剛結する部材は、鉄筋コンクリート4に限定されず、ヒンジ等回転可能なものでない限り剛結可能な部材であれば適宜であり、例えば直杭1の杭頭部12と第1の斜杭2の杭頭部22と第2の斜杭3の杭頭部32を、或いは直杭1aの杭頭部と斜杭2aの杭頭部を鋼材で連結することにより剛結する構成等としてもよい。