(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-129575(P2017-129575A)
(43)【公開日】2017年7月27日
(54)【発明の名称】アナログディスプレーを有する計時器用ムーブメント
(51)【国際特許分類】
G04B 19/253 20060101AFI20170630BHJP
【FI】
G04B19/253 B
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-350(P2017-350)
(22)【出願日】2017年1月5日
(31)【優先権主張番号】16151735.4
(32)【優先日】2016年1月18日
(33)【優先権主張国】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・グリューニッヒ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐衝撃機能を向上させた日付リングの備える計時器用ムーブメントを提供する。
【解決手段】周期的又は断続的に値が変わる情報アイテムのためのアナログディスプレーデバイスは、歯列5Bを備える情報のインジケーター4Bと、インジケーター4Bの周期的又は断続的な駆動のための駆動機構を有する。駆動機構は、回転車セットを有し、回転車セットのピニオンは、歯列5Bと噛み合う関係であり、回転車セットの回転軸A10に対する直径上の反対側にある2つのピン46によって形成され、2つのピン46は、歯列5Bに順次的にある凹部7Bに交互に進入し、かつ、計時器用ムーブメントが衝撃を受けたときに、自動ロックシステムを形成するように構成している。回転車セットの回転軸に垂直な歯列5Bの全体的な平面において、2つのピン46はそれぞれ、実質的に回転軸を中心とする円弧の形の第1の外側部分38を有する横断方向の輪郭を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的又は断続的に値が変わる情報アイテムのためのアナログディスプレーデバイスを備える計時器用ムーブメント(2A、30、44、54)であって、
このアナログディスプレーデバイスは、歯列(5A、5B、5C)を備える前記情報のインジケーター(4A、4B、4C)と、及び前記インジケーターの周期的又は断続的な駆動のための駆動機構を有し、
この駆動機構は、回転車セットを有し、この回転車セットのピニオン(32)は、前記歯列と噛み合う関係であり、前記回転車セットの回転軸(A10)に対する直径上の反対側にある2つのピン(34、36、46、56)によって形成されており、
これらの2つのピンは、前記歯列に順次的にある凹部(7A、7B、7C)に交互に進入し、かつ、前記2つのピンが前記インジケーターの歯列の実質的に接線方向を向いている2つの接線方向位置のいずれかに前記ピニオンがある場合に少なくとも、当該計時器用ムーブメントが衝撃を受けたときに、自動ロックシステムを形成するように構成しており、
前記回転車セットの回転軸に垂直な前記歯列の全体的な平面において、前記2つのピンはそれぞれ、実質的に前記回転軸を中心とする円弧の形の第1の外側部分(38)を有する横断方向の輪郭を有し、
前記ピニオンの前記2つのピンは、前記インジケーターの歯列に対して、少なくとも1つの回転方向における前記ピニオンによる前記インジケーターの駆動についての無効角(α)が、前記ピニオンの前記2つの接線方向位置それぞれからあるように構成しており、
このようにして、前記回転車セットは、当該計時器用ムーブメントに接続され前記回転車セットの回転軸を中心とする角度的マーカーの内側にて定められた2つの無効角ゾーンにおいては前記インジケーターを駆動せず、
前記2つの無効角ゾーンは、前記ピニオンの前記2つの接線方向位置のそれぞれから前記無効角を少なくとも有し、
前記2つのピンの横断方向の輪郭の前記第1の外側部分は、実質的に前記無効角以上の角距離(β)にわたって延在している
ことを特徴とする計時器用ムーブメント。
【請求項2】
前記無効角は、実質的に15度以上である(α≦15°)
ことを特徴とする請求項1に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項3】
前記無効角は、実質的に25度以上である(α≦25°)
ことを特徴とする請求項1に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項4】
前記2つのピンの横断方向の輪郭の前記第1の外側部分は、実質的に前記無効角の3/2倍より大きく前記無効角の2倍未満である角距離(β)にわたって延在している(3α/2<β<2α)
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項5】
前記歯列の凹部(7B、7C)にはそれぞれ、2つの隣接歯の端どうしの間で開きがあり、
この開きは、前記回転車セットによる前記インジケーターの駆動の間に前記2つのピンとの接触領域における前記凹部の幅(L2)より小さな寸法(L1)を有する
ことを特徴とする請求項4に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項6】
ピンにはそれぞれ、前記回転車セットの回転軸に対する半径方向の寸法(R)及び前記半径方向の寸法と垂直な接線方向の寸法(T)があり、
前記接線方向の寸法(T)の値は、実質的に前記半径方向の寸法(R)の2倍以上である
ことを特徴とする請求項5に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項7】
前記情報アイテムは、第1の情報アイテムであり、
前記アナログディスプレーは、第1のアナログディスプレーであり、
前記インジケーターは、第1のインジケーターであり、
当該計時器用ムーブメントは、前記第1のインジケーターを駆動する前記駆動機構に運動学的に接続される第2のインジケーター(18)を有する第2のアナログディスプレーを有し、
前記第2のディスプレーは、前記回転車セットが前記2つの無効角ゾーンの一方又は他方内に留まる間に、前記第2のインジケーターが前記駆動機構によって駆動されて第2の情報アイテムを示すように構成している
ことを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項8】
前記回転車セットが角度的に前記2つの無効角ゾーンのいずれか内にある場合に衝撃があったときに、前記ピニオンの前記2つのピンは、前記第1のインジケーターをロックする
ことを特徴とする請求項7に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項9】
前記第2のアナログディスプレー及びその駆動機構は、2つの接線方向位置のいずれかからの前記無効角内の回転を前記ピニオンが行う間に、前記第2のインジケーターが少なくとも360°の回転をすることができる
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項10】
前記第2のアナログディスプレーは、測定される時間間隔のディスプレーである
ことを特徴とする請求項9に記載の計時器用ムーブメント。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載のインジケーター又は請求項7〜10のいずれかに記載の第1のインジケーターは、日付リングである
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項12】
前記ピニオンと前記歯列は、ピニオンが2つの接線方向位置のいずれかにあるときに、請求項1〜6のいずれかに記載のインジケーター又は請求項7〜10のいずれかに記載の第1のインジケーターが実質的に35μm以下の角度的な遊びを有するように構成している
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項13】
前記ピニオンと前記歯列は、前記回転車セットが前記2つの無効角ゾーンの一方のすべてにわたって回転するときに、請求項1〜6のいずれかに記載のインジケーター又は請求項7〜10のいずれかに記載の第1のインジケーターが実質的に40μm以下の角度的な遊びを有するように構成している
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【請求項14】
前記駆動機構は、電子ユニットによって制御される双方向性電気モーターによって形成された駆動源(16)を有する
ことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の計時器用ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログディスプレーを有する計時器用ムーブメントの分野に関する。本発明は、より詳細には、アナログインジケーターを駆動する機構の耐衝撃性に関し、具体的には、カレンダーデータを支持しているディスク、特に、日付リング、の耐衝撃性に関する。本発明は、第一に、アナログインジケーター駆動機構の駆動源として電磁モーターを備える電気機械式ムーブメントに関する。しかし、本発明を純粋に機械的なムーブメントにも適用することもできる。
【0002】
具体的には、本発明の電気機械式ムーブメントの特定のアプリケーションにおいては、このムーブメントは、同じ単一のモーターによって駆動される2つのアナログインジケーターを駆動し、これによって、2つのインジケーターの少なくとも1つを発動して、他のインジケーターを駆動せずにその機能を表示することができる。
【背景技術】
【0003】
ほとんどの既知の日付ディスプレーデバイスにおいて、順次的なディスプレー位置への日付リングの位置合わせを、一般的に、日付リングの歯に関連づけられたジャンパーばねによって行うことができる。伝統的な駆動システムにおいては、衝撃があったとき、一般的には、何らかのロックがあったときに、日付リングを十分確実に保持することができない。したがって、ジャンパーばねによって、このロック機能を行わなければならず、このために、ジャンパーばねは、高い弾性定数を有する。なお、このようなジャンパーばねの弾性力を克服するためには、日付リングに大きなトルクを与えなければならない。
【0004】
しかし、欧州特許出願EP2927756は、耐衝撃機能も有する位置合わせジャンパーばねの問題を克服するために、不可逆的な伝達システムを有する日付リング駆動機構を提案している。この伝達システムにおいては、日付リングの位置合わせを依然としてジャンパーばねによって行いつつ、耐衝撃機能を提供している。このジャンパーばねは、より低い弾性定数を有する。この文献は、特に、ピニオンが、その回転軸を中心とする直径上の反対側の2つのピンによって形成されているような1つの実施形態を提案している。この文献において、ピンとリングの歯列の間に大きな遊びが設けられて、干渉なしの駆動、特に、ロックがない駆動を確実にしている。位置合わせジャンパーばねが、ピニオンの回転軸が実質的にピンの間に挿入される歯の中心軸を横取りするような位置にリングを保持又は戻すにしたがって、ピンは、ロックしてしまうリスクなしで歯列の凹部に進入する。この機能を確実にするために、ピンを回転軸の側にて切り詰めるということもなされる。なお、この歯列には凹部があり、この凹部の側面は、歯列の底部の方においては閉じている。欧州特許出願EP2927756の
図3A及び3Bにて示されている実施形態についての1つの課題は、ピンが小さな直径を有しており切り詰められ、これによって、これらのピンは脆弱となり、破損しやすくなり、衝撃があったときに特に曲げられることである。また、この実施形態には、位置合わせジャンパーばねを必要とする。これは、日付ディスプレーデバイスの大きさ及び計時器用ムーブメントのコストを大きくしてしまう。
【0005】
また、米国特許US6185158によって、いくつかの時間パラメーターのアナログディスプレーが取り付けられた電子腕時計が知られている。これは、具体的には、腕時計の表盤の中心を軸とする3つの同軸の時間、分及び秒の針を用いる。また、アナログディスプレーは、クロノグラフ針と、及び日付リングを利用する日付ディスプレーとを有する。クロノグラフ針は、具体的には、測定された時間間隔を表示する分針であり、360°にわたって設けられている環状の目盛に関連づけられている。日付ディスプレーの日付は、伝統的な形態で、表盤に設けられた開口を通して見ることができる。この特許は、同じ単一の電気機械式モーターを介して、クロノグラフ針を駆動する機構(以下、「第1の機構」)及び日付リングを駆動する機構(以下、「第2の機構」)を発動させることを提案している。
【0006】
第1の機構は、モーターのローターによって直接駆動される中間車と、及びこの中間車と噛み合うクロノグラフ車とを有する。第2の機構も、前記中間車を有し、また、前記中間車と噛み合う補助車を有する。この補助車は、日付リングを駆動する車を周期的に発動させる車セットと一体化されており、この車セットは、駆動車を発動させるフィンガーを有する。これらの周期的発動車セット及び駆動車は、一緒に、周期的に日付リング/ディスクを駆動することで知られているジュネーブ式機構を形成している。周期的発動車セットが1回転するごとに、フィンガーは、日付リング駆動車を駆動し、この日付リング駆動車は、日付ディスプレーのために設けられた表盤における開口における1つの日付から次の日付への変化に対応する角距離にわたって回転駆動される。このように、ジュネーブ式機構は、日付リング駆動車の周期的駆動の特徴を有する。この特徴は、周期的発動車セットのみが360°未満の角度区画にわたって駆動車と噛み合い、車セットが残りの角度区画に駆動車をロックするものである。したがって、残りの角度区画に位置しているときに周期的発動車セットは回転するが、ローターの回転運動は日付リングには伝達されない。
【0007】
米国特許US6185158は、ジュネーブ式機構を用いて、日付機構を駆動するために用いられるモーターが、付加的機能を行うこと、すなわち、クロノグラフ針を駆動することを可能にしている。短く書くと、この方法は、前記周期的発動車セットが非発動領域にあるときに、すなわち、残りの角度区画にあるときに、クロノグラフ針を駆動し、そして、測定時間間隔の終わりにおいて、リバースリセットを行って、周期的発動車セットを所定の初期位置に戻すことを伴う。
【0008】
ジュネーブ式機構又は同様なマルタ十字式機構は、比較的複雑に日付リングを駆動する。これらの機構が効率的であるためには、許容誤差が小さいことが必要であり、ロックしてしまうリスクがある。また、これらは比較的かさばる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第1の目的は、値が周期的又は断続的に変わる情報アイテムのためのアナログディスプレーデバイスを備える計時器用ムーブメントであって、このディスプレーデバイスのインジケーターのための周期的又は断続的な駆動機構が比較的安く、組み立てが単純であり、計時器用ムーブメント内で必要とする空間を抑えられ、かつ、耐衝撃機能を与え、アナログディスプレーデバイスの複数の離散的な位置においてインジケーターの適切な位置合わせを可能とするものを提案することである。
【0010】
「周期的駆動」とは、周期的にのみ行われる駆動を意味している。すなわち、駆動が有限の時間間隔の間に行われ、その有限の時間間隔どうしの間には駆動が行われないものである。同様に、「断続的駆動」とは、駆動が一定間隔で必ず行われるのではなく、断続的な駆動機構のコマンドに応じて終了して開始するような不連続的な駆動を意味している。
【0011】
本発明の第2の目的は、前記第1の目的を満たし、前記駆動機構が、ジャンパーばねを必要とせずに、複数の離散的な位置のインジケーターの効率的な位置合わせを可能にし、特に、このようなインジケーターを発動させる回転車セットの特定の角度範囲にわたっての位置合わせを確実にし、これによって、初期角度位置に対するこの回転車セットのアセンブリーにおいて特定の誤差を許容し、また、安静位置にある回転車セットの角度位置を変化させるようにステッピングモーターによる駆動機構の発動の間にステップを抜いてしまった場合でもインジケーターの適切な位置合わせを確実にすることができるような計時器用ムーブメントを提供することである。
【0012】
本発明の第3の目的は、前記第2の目的を満たし、前記回転車セットが、前記ディスプレーデバイスインジケーターを駆動するために少なくとも特定の無効角を有し、耐衝撃機能及びインジケーターの位置合わせが、この無効角によって定められる無効角ゾーンにおける回転車セットの回転の間に確実にされるような、計時器用ムーブメントを提供することである。このような計時器用ムーブメントによって、本発明の第4の目的が達成される。この本発明の第4の目的は、第2のインジケーターが、第2の情報アイテムを示すために駆動機構によって駆動され、回転車セットが無効角ゾーン内に留まるように、前記駆動機構に運動学的に接続される第2のインジケーターを有する第2のアナログディスプレーを配置することを伴う。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの様々な目的は、周期的又は断続的に値が変わる情報アイテムのためのアナログディスプレーデバイスを備える計時器用ムーブメントによって達成される。このアナログディスプレーデバイスは、歯列を備える前記情報のインジケーターと、及び前記インジケーターの周期的又は断続的な駆動のための駆動機構を有する。この駆動機構は、回転車セットを有し、この回転車セットのピニオンは、前記歯列と噛み合う関係であり、前記ピニオンの回転軸に対する直径上の反対側にある2つのピンによって形成されている。これらの2つのピンは、前記歯列に順次的にある凹部に交互に進入し、かつ、前記2つのピンが前記歯列の実質的に接線方向を向いている2つの接線方向位置のいずれかに前記ピニオンがある場合に少なくとも、当該計時器用ムーブメントが衝撃を受けたときに、自動ロックシステムを形成するように構成している。前記回転車セットの回転軸に垂直な前記歯列の全体的な平面において、前記2つのピンはそれぞれ、実質的に前記回転車セットの回転軸を中心とする円弧の形の第1の外側部分を有する横断方向の輪郭を有する。特定の実施形態において、前記ピニオンの前記2つのピンは、前記インジケーターの歯列に対して、少なくとも1つの回転方向における前記ピニオンによる前記インジケーターの駆動についての無効角(α)が、前記ピニオンの前記2つの接線方向位置それぞれからあるように構成している。第1の変形実施形態において、前記無効角は、実質的に15度以上であり(α≦15°)、第2の変形実施形態において、前記無効角は、実質的に25度以上である(α≦25°)。別の変形実施形態において、前記2つのピンの横断方向の輪郭の円弧は、実質的に前記無効角以上の角距離にわたって延在している。好ましい変形実施形態において、前記2つのピンの横断方向の輪郭の円弧は、実質的に前記無効角の3/2倍より大きく前記無効角の2倍未満である角距離(β)にわたって延在している。
【0014】
以下、例として与えられる添付図面を参照しながら本発明について説明する。ただし、これに制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】日付ディスクを発動させる既知のピニオンピンを実装している本発明の主な実施形態のタイプの電気機械式ムーブメントを示している。
【
図3】
図1のムーブメントの変形実施形態を示している部分的な上から見た図である。これに基づいて、本発明の核心の事項を詳細に説明する。
【
図4】
図4A及び4Bは、本発明の第1の実施形態の部分的な上から見た図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態の部分的な上から見た図である。
【
図6】第2の実施形態の洗練された変形実施形態についての部分的な上から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1及び2を参照しながら、既知のピンピニオンを介して日付リングを駆動する本発明の主な実施形態のタイプの電気機械式ムーブメント2について説明する。この計時器用ムーブメント2は、内側歯列5を有する日付リング4によって形成された第1のディスプレーを有し、この日付リング4は、回転車セット10を有する駆動機構8によって周期的に駆動され(通常、1日当たり1回)、この回転車セット10のピニオン12は、歯列5と噛み合っている。この駆動機構8は、電子ユニットによって制御される双方向性電気モーター16によって形成される駆動源によって発動される。この制御は、特に、ステッピングタイプの制御である。ピニオン12は、2つのピン22及び23によって形成されている。これらのピン22及び23は、リング4が駆動されているときに、交互に、歯列5の凹部7に順次的に入り込む。少なくとも、2つのピンが実質的に環状の歯列5の接線方向(方向Tと平行な方向)を向いているような2つの接線方向位置のいずれかにピニオンがある場合に、計時器用ムーブメントが衝撃を受けたときに、ピンピニオン12は日付リングのための自動ロックシステムを歯列5と形成する。
【0017】
順次的な日付ディスプレー周期の間に日付リングが不動でいるような複数の別個の位置に日付リングを保持するために、位置合わせジャンパーばね14を設ける。このジャンパーばね14は、リング4が複数の別個の位置のそれぞれにあるときに、歯列の2つの隣接する歯の間に安定的に挿入されるように構成している。このジャンパーばねは、2つのピン22、23と歯列5の間の相当な遊び、及び2つの接線方向位置からの回転についてのピニオン12の比較的大きな無効角αを考慮して、好ましくは、リング4の正確な位置合わせを確実にするような大きさを有する。しかし、弾性定数が伝統的なデバイスにおけるものよりも低くなりえるように、ここにおいて、耐衝撃機能のために、ジャンパーばねを設けない。
【0018】
計時器用ムーブメント2は、さらに、第1のインジケーター4を駆動する機構8に運動学的に接続されている第2のインジケーター18を有する。この第2のディスプレーは、第2のインジケーター18がこの駆動機構8によって駆動されて、第2の情報アイテムを示すことができるように構成している。この第2の情報アイテムは、特に、測定された時間間隔に関連するものである。一方、回転車セット10は、第1のインジケーターを駆動する2つの無効角ゾーンの一方又は他方に留まる。実際に、ピニオン12の2つのピンは、日付リングの歯列5に対して、ピニオン12の2つの接線方向位置のそれぞれからの少なくとも1つの回転方向にピニオンによってインジケーターを駆動することについての無効角αがあるように構成している。したがって、回転車セット10は、2つの無効角ゾーン内においては日付リングを駆動しない。この無効角ゾーンは、角度的マーカーの範囲内にて定められる。この角度的マーカーは、計時器用ムーブメントに接続され、回転車セット10の回転軸A10を中心とする。これらの2つの無効角ゾーンは少なくとも、ピニオン12の2つの接線方向位置から示される無効角を有する。
図2においては、ピニオン12が無効角ゾーンの端に位置している角度位置にあり、第2のアナログディスプレーと、及びここにおいて駆動機構8の車セットの一部によって形成されている第2のアナログディスプレーの駆動機構とは、第2のインジケーター18が少なくとも360°の回転をすることができ、一方、ピニオンが、2つの接線方向位置の一方からの無効角αの範囲内の回転を行うように構成している。インジケーター18の発動中に、インジケーターのリセット又は周期的な後退方向への戻しがあり、一方、ピニオンが角度的に無効角ゾーン内に留まる。このようにして、単一の駆動機構を用いて、特に、単一の電気モーター16を用いて、2つの情報アイテムを独立して表示することができる。
【0019】
計時器用ムーブメント2には、いくつかの利点がある。特に、同じ単一の駆動源によって、そして、計時器用ムーブメントの内部でマウントすることが容易な比較的単純で低コストであるシステムを介して得られる耐衝撃機能によって、独立した情報アイテム(日付及び測定時間間隔)を供給する2つのインジケーターの駆動に関連するものである。しかし、この計時器用ムーブメントには、いくつかの課題がある。第一に、ピンが比較的小さい。したがって、計時器用ムーブメントが衝撃を受けたときに損傷してしまうという実際上のリスクがあり、特に、何らかの衝撃を受けたときに歯がピンに与える力によって曲がることによって、ピンが恒久的に変形してしまうというリスクがある。もちろん、ピンの断面をわずかに大きくすることができるが、これによって、無効角ゾーンが小さくなる。また、
図3に示すように、平行な側面を有する凹部が形成された既知の歯列を用いて、無効角ゾーンを大きくすることができる。しかし、この場合でさえも、位置合わせジャンパーが設けられる。このことは厄介であり、また、日付が変わる際にある程度のエネルギー量を必要とする。また、ピニオン12が無効角ゾーンの端領域に位置するときに、耐衝撃機能によって効率が落ちてしまい、このような状況において衝撃があったときに、日付リングの十分なロックを確実にすることができない。
【0020】
図3は、従来技術において知られている構成と同様な構成に対して各種パラメーターが改善されている計時器用ムーブメント2の変形実施形態を示している。計時器用ムーブメント2Aの駆動機構のピンピニオン12Aのみを示している。なぜなら、他の部分は計時器用ムーブメント2のものと同じであるからである。ピニオン12Aは、直径Dの2つの円筒状のピン24及び25を有する。日付リング4Aの歯列5Aの凹部7Aは、実質的に矩形の輪郭を有し、したがって、実質的に平行な側面(側壁)を有する。凹部7Aの幅Lは、歯の高さの中間における歯の幅とほぼ等しい。ピンの直径Dは、十分な機械的強度を確実にするために凹部7Aの幅Lの半分よりも大きい。
【0021】
前記の2つの接線方向位置の構成において最大の無効角αを得るために、ピンは、ピンと、2つのピンに面している2つの凹部それぞれの外側側面28及び29を定める2つの歯との間に比較的小さな遊びがあり、これによって、ピニオンが2つの接線方向位置の一方又は他方にあるときに、日付リングが比較的小さな角度的な遊びを有するように構成している。したがって、歯列5A及びピンの寸法を最も良好に調整すると、これらの2つの接線方向位置において位置合わせジャンパーを用いないことができる。これは、本発明の目的の1つである。しかし、
図3に示すように、ピニオン12Aが、例えば、第2のインジケーターの発動中に、無効角ゾーン内にて回転しているときに、角度的な遊びが大きくなり、また、出るピンが歯列と噛み合わなくなると、この遊びは相当に大きくなり、ここで、値E1は、凹部の幅Lからピンの直径を引いた値と等しくなる。したがって、ムーブメント2Aにおいて位置合わせジャンパーを用いざるを得ない。
【0022】
なお、ピニオンは、一般的に、日付リングも第2のインジケーターも駆動されていないときである安静期間において、2つの接線方向位置のうちの一方にあるように構成している。これらの安静位置は、最良の耐衝撃の保護を確実にすることができるので、好ましい。なお、ピニオンが与えるロック用トルクは、前記安静位置から離れると、即座に小さくなる。最後に、好ましい安静位置は、様々な理由によって、実際上は常に発生するとは限られない。すなわち、第1の理由は、角度位置が特定の変動性を有するようにピニオン12Aを初期にマウントすることができるということによって発生する。第2の理由は、モーターが数ステップを逃して、ピニオンの正確な角度位置を知ることができなくなることによって発生する。結果的に、この問題を克服するために、安静期間において駆動機構が非アクティブであっても、従来技術において設けられる位置合わせジャンパーが必要となる。しかし、本発明は、下で説明する手法によって、これらの問題を効率的に克服することができる。
【0023】
図4A及び4Bを参照して、計時器用ムーブメント30の第1の実施形態について説明する。ピニオン32を例外として、日付リング4Aのための駆動機構及び日付リング4Aは、
図3のムーブメント2Aにおいて実装されているものと同じである。したがって、これらを再びここで説明しない。ピニオン32は、2つのピン34及び36を有し、これらはそれぞれ、ピニオン32を有する回転車セットの回転軸A10に垂直な歯列5Aの全体的な平面内において、実質的に前記回転軸を中心とする円弧状である第1の外側部分38を有する横断方向の輪郭(transverse profile)を有する。各ピンの裏側部分40は、丸くされており、実質的に
図3のピン24及び25の裏側部分に対応している。結果的に、図示した例において、各ピン36及び38内に、ピン24及び25の直径を有する円を描くことができる。これらのピン36及び38はそれぞれ、回転軸A10を含む平面に対して対称的であり、ピニオン32の回転運動の向きにかかわらず同じふるまいをする。前記の対称面に垂直なこれらのピンの接線方向の長さTは、ピン24、25の直径Dよりも、そして、ピン36及び38の半径方向の寸法Rよりも、大きいように構成している。外側の円弧部分は、好ましいことに、ピンの接線方向の長さ全体にわたって延在している。なお、リング4Aを駆動するために、接線方向の長さTは、凹部7Aの幅Lよりも小さい。
【0024】
図4Bは、ピニオン32が無効角αの分回転したものである。この回転の間に、日付リングは同じ角度位置に留まる。第一に、無効角が、
図3の実施形態における無効角と実質的に等しいことが観察された。概して言えば、無効角αは、実質的に15度以上(α≧15°)であるように構成している。なお、好ましい変形実施形態において、無効角αは、実質的に25度以上(α≧25°)である。次に、2つのピンの横断方向の輪郭の外側の円弧が、角距離βにわたって延在する。これは、図示した例において、無効角αと実質的に等しい。好ましくは、他の変形実施形態において、角距離βは、無効角αよりも大きいように構成している。
図4Bにおいて、本発明の利点をすぐに観察することができる。すなわち、本発明によって形成されたピンの最大の遊びE2は、
図3の実施形態の最大の遊びE1よりもはるかに小さく、一方、
図4Aの状況に対応する2つの接線方向位置のピニオン32の遊びが、2つの計時器用ムーブメント2A及び30どうしの間で同じである。好ましい変形実施形態において、ピニオンと歯は、ピニオンがその2つの接線方向位置のいずれかにあるときに、カレンダーインジケーターには、実質的に35μm以下の角度的な遊びがある。また、環状の歯列5Aの歯の軸を通る接線42からの無効角αによって定められる無効角ゾーンの初期部分において、日付リングの角度的な遊びは変わらない。これは、円弧38がピニオン32の回転軸A10を中心とする半径を有するためである。なお、この初期部分は、ここにおいて、角距離βの約半分にわたって延在している(この例において、ピンの角度的な開きに対応している)。歯の端の輪郭を調整することによって、遊びが一定なさらに大きな回転角距離を得ることができる。好ましい変形実施形態において、ピニオンと歯は、回転車セットが前記2つの無効角ゾーンの一方のすべてにわたって回転するときに、実質的に40μm以下に留まるような角度的な遊びを日付インジケーターが有するように構成している。
【0025】
本発明に係るピンの輪郭のおかげで、ピニオンの2つの接線方向位置において小さな遊びを設けることによって、日付リングの適切な位置合わせを確実にしつつ、位置合わせジャンパーをなくすことが可能である。本発明によって他の利点も発生する。第一に、歯列5Aの凹部の幅Lにおいて、ピンは、
図3の場合よりも堅固である。したがって、それらのピンは、衝撃に対して、より強く、耐久性がある。次に、無効角、したがって、無効角ゾーンは、まだ、相当に、特に、伝統的な円筒状ピンを備えた実施形態と同程度の大きさを有する。最後に、耐衝撃機能が非常に改善する。なぜなら、衝撃があったときに、日付リングの力がピンに対して作用する点が、回転の角距離全体にわたって、遊びが一定でありつつ、回転軸A10を横取りする接線上に留まるからである。したがって、その2つの接線方向位置のみではなく、この角距離全体にわたって、日付リングの角加速度を発生させる外的衝撃があったときに、ピニオン32にトルクが与えられない。
【0026】
以下、
図5及び6を参照して、特定の第2の実施形態の2つの変形実施形態について説明する。これにおいて、ピンは本発明に係る特定の輪郭を有するだけではなく、カレンダーインジケーターの歯列を有する。これらの2つの変形実施形態において、2つのピンの横断方向の輪郭の円弧38は、実質的に、無効角αの3/2倍から無効角αの2倍までの角距離βにわたって延在している(3α/2<β<2α)。なお、この円弧は、2つのピンによって形成される回転車セットの回転軸A10を中心としている。次に、これらの2つの変形実施形態において、歯列5B、5Cの凹部7B、7Cはそれぞれ、2つの隣接歯6B、6Cの端48において、これらの2つのピンを有する回転車セットによってカレンダーインジケーターを駆動している間に、2つのピンとの接触領域における凹部の幅よりも小さく、特に、歯列の底部における最大幅L2よりも小さな寸法L1の開きを有する。前記接触領域は、環状歯列の歯の軸を通る接線42を超えて環状歯列の底部の方向へと、歯の側壁50、62に沿った特定の距離にわたって延在している。
【0027】
次に、各ピン46、56はそれぞれ、回転車セットの回転軸A10を中心とする半径方向の寸法R、及びこの半径方向の寸法Rに垂直な接線方向の寸法Tを有し、この接線方向の寸法Tの値は、実質的に半径方向の寸法Rの2倍以上である。また、寸法L1は、半径方向の寸法Rよりも大きいように構成しており、寸法L2は、接線方向の寸法Tよりも大きいように構成している。そうでなければ、カレンダーインジケーターの歯とのピニオン−ピンの噛み合いは機能することができない。なぜなら、すぐにロックするからである。
【0028】
図5の変形実施形態において、歯6Bの側方の輪郭50及び凹部7Bの側方の縁は、歯の軸を通る接線42から歯列の底部まで、実質的に直線状である。凹部7Bはそれぞれ、歯の底部の方にフレア状に広がっている。したがって、歯6Bはそれぞれ、その端領域48の方にフレア状に広がっている。歯の端において、歯の輪郭は、実質的に軸A10を中心とする円弧を描いている。また、ピン46は、回転軸A10から半径方向に広がるフレア状の形を有する。これらのピン46の間には大きな開きがあり、これによって、歯の外側部分によって定められる円弧の角距離βが相当に大きくなる。したがって、ほぼ無効角αにわたって延在する無効角距離のほとんど全体にわたって、小さな実質的に一定の遊びが得られる。この無効角αの値は、図示した例において、約30°である。したがって、回転車セットが角度的に2つの無効角ゾーンのいずれかの範囲内にある場合に、外的衝撃があったときには、ピニオンの2つのピンが第1のインジケーターをロックする。
【0029】
図6の変形実施形態において、2つのピン56それぞれの内側部分も、円弧状の輪郭を有し、これによって、ピンの接線方向の寸法Tを、それらの半径方向の寸法Rを大きくせずに、大きくすることが可能になる。このことによって、ピンの角度的な開きを大きくすることができ、これによって、外側の円弧38によって定められる角距離を大きくすることができる。歯6Cは、この無効角に起因する無効角距離にわたって実質的に一定の小さな遊びを有しつつ、大きな無効角を得ることを可能にするように構成しているような輪郭を有する。歯にはそれぞれ、実質的に平行な側壁62を備えた根部58を有する。次に、軸A10を中心とする弧状輪郭区画64にて歯の幅が大きくなり、この弧状輪郭の半径は、ピンの内側の弧状部分によって定められる半径よりもわずかに小さいように構成している。最後に、歯列の内側へのピンの進入を促進しそれらの終端領域においてギヤロックを防ぐために、歯は、軸A10の方へ曲がり2つの隣接歯の端の間の開きを大きくするような輪郭区画66を有する。区画66の長さは、図示した例において35°〜40°である大きな無効角距離にわたっての小さな遊びに悪影響を及ぼさずに、ここにおいて比較的大きく、歯の軸を通る接線42を超えて延在することができる。
【0030】
第1及び第2の実施形態について
図1及び2を参照して上で説明した形態と同様な形態で、
図4、5及び6にそれぞれ示した各カレンダーインジケーター4A、4B及び4Cの情報は、第1の情報アイテムである。したがって、アナログディスプレーは、第1のアナログディスプレーであり、カレンダーインジケーターは、第1のインジケーターである。次に、これらの2つの実施形態の計時器用ムーブメント44及び54はそれぞれ、さらに、第2のインジケーターを有する第2のアナログディスプレー(図示していないが
図1及び2のものと同様なものである)を有し、この第2のインジケーターは、第1のインジケーターを駆動する機構に運動学的に接続される。この第2のディスプレーは、回転車セットが1又はピニオンピンの2つの可能性のある接線方向位置からの無効角αによって定められる2つの無効角ゾーンの一方又は他方に留まる間に、第2のインジケーターが駆動機構によって駆動されて第1の情報アイテムとは独立な第2の情報アイテムを示す。
【符号の説明】
【0031】
2、30、44、54 計時器用ムーブメント
4 日付リング
5 歯列
7 凹部
10 回転車セット
12、32 ピニオン
14 位置合わせジャンパーばね
16 駆動源
18 第2のインジケーター
22、23、24、25、34、36、46、56 ピン
38 第1の外側部分
R 半径方向の寸法
T 接線方向の寸法
α 無効角
β 角距離