試験薬剤が核酸、アンチセンスオリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、抗体、炭水化物および有機小分子からなる群より選ばれる、請求項1記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】E16.5におけるVegf+/+からの内皮細胞と上皮細胞の比較を示す図である。細胞起源の影響を試験したときの、各遺伝子の有意性をy軸上に示すボルカノプロット(Volcanoplot)である(LIMMAに基づく)。x軸は、2つの組織を比較するときの倍率変化を示す。ker+細胞は原型上皮遺伝子を発現し、il+細胞は典型的な内皮遺伝子を転写する。内皮Cldn5および上皮Foxa1を強調表示してある。なぜなら、両方とも、教師なしスペクトルマップ分析のy軸(PC2)における上位遺伝子としても存在したからである(
図3参照)。
【
図2】レーザー捕捉マイクロダイセクションプロセスの概略図である。胚の胸郭(A)を8mm切片に切り、スライド(B)上に置いた。抗’pan’keratinおよびGS-IB
4イソレクチンを用いるこれらの組織切片(C)の二重免疫組織化学染色によって、内皮(E)の特徴を有する周囲の細胞から、上皮(D)の特殊性を有する肺気道細胞が分離された。レーザー捕捉マイクロダイセクションによって分離された特異的細胞群をFおよびGに示す(L=肺、H=心臓)。
【
図3】第1主構成要素(x軸上のPC1)および第2主構成要素(y軸上のPC2)を用いるスペクトルマップ分析の図である。時間効果または胎齢は、PC1で明らかにされた(データセットにおける変動量の35%で説明することができた)。Sftpcなどの胎生後期に発現される遺伝子の遺伝子プローブは、x軸上の遠方に位置した。細胞起源における差異(il+細胞対ker+細胞)はPC2において見られた。内皮遺伝子(’ENDO’)ファミリーの遺伝子プローブと対照的に、上皮遺伝子(’EPI’)の遺伝子プローブは、y軸の遠方に位置した。PC1(胎齢)およびPC2(細胞起源)に従ったスペクトルマップにおいて、種々の試料群が分離された。ker+試料はy軸の上皮側に集まり、il+試料は内皮側に群れを成した。試料はまた、それらの胎齢に従ってx軸に沿って割り当てた。胎生後期の試料は、x軸上の遠方に位置した。以下のパネルは3つの発現プロフィールを示す。(1)Foxa1発現に関して上皮細胞と内皮細胞との差異を示すもの、(2)Afp発現に関して胎齢の影響を示すものおよび(3)Hmr発現に関し、胎齢に関する遺伝子型依存性プロフィールを示すもの。
【
図4】Vegf+/+遺伝子型およびVegf120/120遺伝子型からの上皮細胞の比較を示す図である。A. 胎齢を通じた発現プロフィールがVegf+/+遺伝子型とVegf120/120遺伝子型との間で異なるかどうかを試験するための、各遺伝子の有意性をy軸に示すボルカノプロットである(LIMMAに基づく)。x軸は、E16.5での、2つの遺伝子型、Vegf+/+対Vegf120/120を比較する場合の誘導における倍率変化を示す。野生型ker+細胞におけるKrt6a、EDCおよびSCC遺伝子のアップレギュレーションが強調表示されている。B. 抗サイトケラチン4、5、6、8、10、13および18染色によって示されたE16.5 Vegf+/+肺における気道上皮細胞である。遠位気道の細胞は、それらの近位の細胞(白色矢印)と対照的に平らなまたは扁平な細胞形態(黄色矢印)を発達させる。C. 第3染色体に沿った示差的発現の割り付けを示す図である。これは、野生型と比較した、Vegf120/120のEDCにおける遺伝子のダウンレギュレーションを強調表示している。
【
図5】A.Dsc1を含むデスモソーム(オレンジ色)に係留されたIF=Intermediate Filament Keratin(中間径フィラメントケラチン)(赤色)群である。Pkp1(紫色)は、アドヘレンスジャンクション(黄色)のカドヘリンタンパク質に中間径ケラチンフィラメント(Intermediate Keratin Filament)を結合させる。Pkp1はまた、デスモソームのタンパク質含量を制御する。EDCおよびSCCクラスター遺伝子は中間径フィラメントケラチンと相互作用する。星印は、中間径フィラメントネットワークにおけるアップレギュレートされた遺伝子および遺伝子クラスターを強調表示する。Eps8l1(アクチンフィラメント端キャップタンパク質をコードする)のアップレギュレーションは、アクチンリモデリングによって中間径フィラメントを調整する。B. 胎齢を通じた発現プロフィールがVegf+/+遺伝子型の内皮細胞とVegf120/120遺伝子型の内皮細胞との間で異なるかどうかを試験するための、各遺伝子の有意性をy軸に示すボルカノプロットである(LIMMAに基づく)。x軸は、E16.5での、2つの遺伝子型、Vegf+/+対Vegf120/120を比較した場合の誘導における倍率変化を示す。Krt、Dsc1、Pkp1、EDCおよびSCCクラスター遺伝子が強調表示されている。野生型Vegf+/+ il+細胞においてアップレギュレートされているKrt遺伝子は、同等の野生型ker+細胞において発現されるKrt遺伝子とは異なる。Krt14およびKrt1はトレードマーク基底細胞遺伝子である。C.野生型E16.5胚肺におけるGS-IB
4イソレクチン染色細胞(il+細胞)の免疫蛍光画像(40x倍率)である。il+細胞は、遠位気道のker+細胞と同じ構造パターンに追従する。
【
図6】抗サイトケラチン4-5-6-8-10-13-18染色細胞群のLIMMA分析に基づくボルカノプロットである。(マイクロアレイデータのための線形モデル(Linear Models for Microarray Data):胎齢を通じた発現プロフィールにおけるVegf120/120ノックアウトと野生型同腹子との間の差異をVegf遺伝子型および時間の1次の交互作用によって試験した)。RIKEN cDNA 2200001I15 geneおよびRIKEN cDNA 2310002J15遺伝子が強調表示されている。
【
図7】GS-IB
4結合細胞群のLIMMA分析に基づくボルカノプロットである。(マイクロアレイデータのための線形モデル):胎齢を通じた発現プロフィールにおけるVegf120/120ノックアウトと野生型同腹子との間の差異をVegf遺伝子型および時間の1次の交互作用によって試験した)。RIKEN cDNA 2200001I15遺伝子およびRIKEN cDNA 2310002J15 geneが強調表示されている。
【
図8】ヒトhR4RA転写物(=ヒトR2R
1)対マウスR4Ra転写物(=マウスR2R
1)のcDNA配列のアラインメントを示す図である。配列決定したRIKEN cDNA 2200001I15遺伝子クローンから構築された最も大きいコンティグは、‘マウスR4Ra転写物(=マウスR2R
1)’と称されていることに留意されたし。
【
図9】翻訳されたヒトhR4RA(=ヒトR2R
1)転写物対翻訳されたマウスR4Ra(=マウスR2R
1)転写物のタンパク質配列のアラインメントを示す図である。
【
図10-1】ヒトhR4RD転写物(=ヒトR2R
2)対マウスR4Rd転写物(=マウスR2R
2)のcDNA配列のアラインメントを示す図である。配列決定したRIKEN cDNA 2310002J15遺伝子クローンから構築された最も大きいコンティグは‘マウスR4Rd転写物(=マウスR2R
2)’と称されていることに留意されたし。
【
図11】翻訳されたヒトhR4RD(=ヒトR2R
2)転写物対翻訳されたマウスR4Rd(=マウスR2R
2)転写物のタンパク質配列のアラインメントを示す図である。
【
図12】マウス胚の発生中の心室中隔におけるR2R
1のVEGF-A(Vegf
164依存性アップレギュレーションを示す図である。赤色=野生型、青色=Vegf
164アイソフォームを欠くVEGF120/120ノックアウトマウス。
【
図13】ヒト成人初代肺上皮細胞における経時的(24〜72時間)ヒトR2R
2ホモログ(=C9orf196)発現を示す図である。
【
図14A】VEGF
165のsiRNAノックダウンは基底細胞プログラムおよび扁平分化プログラムに関与する遺伝子のノックダウンをもたらすことを示す図である。ヒト初代気管支上皮細胞(PBEC)におけるsiRNAノックダウンは、目的遺伝子の遺伝子ノックダウンの効果の信頼できるモデルである。(a)RTqPCR:VEGFAおよびVEGF
165発現のsiRNAによるノックダウンは、KRT14(基底細胞マーカー)発現のノックダウンをもたらす。KRT14の相対発現(PGK1に対して正規化)、VEGFAおよびVEGF
165は、siRNAに対してプロットされる。2つの陰性対照(nr10および11と呼ぶ)が含まれる。KRT14発現に指向性を有するsiRNAを陽性対照として含む。siRNA VEGFAは、すべてのVEGFAアイソフォームに指向性を有する。
【
図14B】VEGF
165のsiRNAノックダウンは基底細胞プログラムおよび扁平分化プログラムに関与する遺伝子のノックダウンをもたらすことを示す図である。ヒト初代気管支上皮細胞(PBEC)におけるsiRNAノックダウンは、目的遺伝子の遺伝子ノックダウンの効果の信頼できるモデルである。(a)RTqPCR:VEGFAおよびVEGF
165発現のsiRNAによるノックダウンは、KRT14(基底細胞マーカー)発現のノックダウンをもたらす。KRT14の相対発現(PGK1に対して正規化)、VEGFAおよびVEGF
165は、siRNAに対してプロットされる。2つの陰性対照(nr10および11と呼ぶ)が含まれる。KRT14発現に指向性を有するsiRNAを陽性対照として含む。siRNA VEGFAは、すべてのVEGFAアイソフォームに指向性を有する。
【
図14C】VEGF
165のsiRNAノックダウンは基底細胞プログラムおよび扁平分化プログラムに関与する遺伝子のノックダウンをもたらすことを示す図である。ヒト初代気管支上皮細胞(PBEC)におけるsiRNAノックダウンは、目的遺伝子の遺伝子ノックダウンの効果の信頼できるモデルである。(a)RTqPCR:VEGFAおよびVEGF
165発現のsiRNAによるノックダウンは、KRT14(基底細胞マーカー)発現のノックダウンをもたらす。KRT14の相対発現(PGK1に対して正規化)、VEGFAおよびVEGF
165は、siRNAに対してプロットされる。2つの陰性対照(nr10および11と呼ぶ)が含まれる。KRT14発現に指向性を有するsiRNAを陽性対照として含む。siRNA VEGFAは、すべてのVEGFAアイソフォームに指向性を有する。
【
図15A】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15B】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15C】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15D】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15E】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15F】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15G】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15H】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15I】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図15J】A〜J:PBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図である。全般的遺伝子発現変化は、Vegf120/120ノックアウトマウスにおいて観察される変化に正確に一致する。グラフ(a)〜(j)は、VEGFに指向性を有するsiRNAの投与24時間後の遺伝子発現変化の有意性を描く。グラフ(a)〜(j)は、自動経路解析によって作成される。すべての経路は、角化細胞分化:基底細胞再生および扁平分化に関与する。
【
図16A】A〜C:ヒトR2R
1およびR2R
2ホモログに対するsiRNAを示す図である。ヒトR2R
1ホモログ(単数または複数)は、FAM25A、FAM25B、FAM25C、FAM25D、FAM25E、FAM25GおよびFAM25HPで表される7つのヒトパラログを含むFAM25ファミリーを含む。これらは、2200001I15RikまたはRIKEN cDNA 2200001I15で表されるcDNA配列によってコードされるマウス配列のヒトホモログである。FAM25パラログの類似性は、異なるパラログの特異的RTqPCRを排除する。FAM25パラログはまた、Affymetrix Human Gene発現アレイ、例えばHT HG-U133またはHT HG-U219にも存在しない。我々は、FAM25ファミリーの示差的遺伝子発現の測定のために、RTqPCRプライマー-プローブセットHs04194072_m1(Applied Biosystems社)を選択した。Applied Biosystems社は、このプライマー-プローブセットが、異なるパラログ間で差異を生じないことを述べている。FAM25ファミリーに対して設計された3つのsiRNAを、PBECにおけるHs04194072_m1発現をダウンレギュレートするその能力に関して選択した。我々は、これらのsiRNAを、それぞれnr18、20および22と番号を付けた。グラフ(a)は、PBECにおけるそれぞれのsiRNAの投与24時間後のFAM25(Hs04194072_m1)発現(PGK1に対して正規化)のダウンレギュレーションを示す。C9orf169に対して設計されたヒトR2R
2ホモログの2つのsiRNA(15および17とナンバリング)(それぞれ5および20nMの濃度で)を、PBECにおけるC9orf169発現をダウンレギュレートするそれらの能力に基づいて選択した。マイクロアレイ解析およびRTqPCRによってC9orf169発現を評価した。C9orf169に対するプローブは、Affymetrix HT HG-U219Human Gene Expression Arrayに存在する。グラフ(b)は、PBECにおける、それぞれのsiRNAの投与24時間後のC9orf169発現のダウンレギュレーション(マイクロアレイ解析によって評価)を示す。FAM25ファミリーまたはVEGFAに指向性を有するsiRNAの投与は、C9orf169発現に効果を示さなかった。R2R
1(ヒトFAM25ファミリー)およびR2R
2(ヒトC9orf169)に指向性を有するsiRNAはKRT14発現をダウンレギュレートし、これはVEGFAおよびVEGF
165に指向性を有するsiRNAの投与後の応答に類似した応答である。FAM25ファミリーおよびC9orf169のsiRNAによるノックダウンは、KRT14遺伝子発現(基底細胞マーカー)のダウンレギュレーションをもたらす。この応答は、C9orf169に指向性を有するsiRNAの投与後に最も顕著である。グラフ(c)は、PBECにおけるそれぞれのsiRNAの投与24時間後のKRT14発現(PGK1に対して正規化)のダウンレギュレーションを示す。比較のために、VEGFAおよびKRT14に指向性を有するsiRNAもまた含める。
【
図16B】A〜C:ヒトR2R
1およびR2R
2ホモログに対するsiRNAを示す図である。ヒトR2R
1ホモログ(単数または複数)は、FAM25A、FAM25B、FAM25C、FAM25D、FAM25E、FAM25GおよびFAM25HPで表される7つのヒトパラログを含むFAM25ファミリーを含む。これらは、2200001I15RikまたはRIKEN cDNA 2200001I15で表されるcDNA配列によってコードされるマウス配列のヒトホモログである。FAM25パラログの類似性は、異なるパラログの特異的RTqPCRを排除する。FAM25パラログはまた、Affymetrix Human Gene発現アレイ、例えばHT HG-U133またはHT HG-U219にも存在しない。我々は、FAM25ファミリーの示差的遺伝子発現の測定のために、RTqPCRプライマー-プローブセットHs04194072_m1(Applied Biosystems社)を選択した。Applied Biosystems社は、このプライマー-プローブセットが、異なるパラログ間で差異を生じないことを述べている。FAM25ファミリーに対して設計された3つのsiRNAを、PBECにおけるHs04194072_m1発現をダウンレギュレートするその能力に関して選択した。我々は、これらのsiRNAを、それぞれnr18、20および22と番号を付けた。グラフ(a)は、PBECにおけるそれぞれのsiRNAの投与24時間後のFAM25(Hs04194072_m1)発現(PGK1に対して正規化)のダウンレギュレーションを示す。C9orf169に対して設計されたヒトR2R
2ホモログの2つのsiRNA(15および17とナンバリング)(それぞれ5および20nMの濃度で)を、PBECにおけるC9orf169発現をダウンレギュレートするそれらの能力に基づいて選択した。マイクロアレイ解析およびRTqPCRによってC9orf169発現を評価した。C9orf169に対するプローブは、Affymetrix HT HG-U219Human Gene Expression Arrayに存在する。グラフ(b)は、PBECにおける、それぞれのsiRNAの投与24時間後のC9orf169発現のダウンレギュレーション(マイクロアレイ解析によって評価)を示す。FAM25ファミリーまたはVEGFAに指向性を有するsiRNAの投与は、C9orf169発現に効果を示さなかった。R2R
1(ヒトFAM25ファミリー)およびR2R
2(ヒトC9orf169)に指向性を有するsiRNAはKRT14発現をダウンレギュレートし、これはVEGFAおよびVEGF
165に指向性を有するsiRNAの投与後の応答に類似した応答である。FAM25ファミリーおよびC9orf169のsiRNAによるノックダウンは、KRT14遺伝子発現(基底細胞マーカー)のダウンレギュレーションをもたらす。この応答は、C9orf169に指向性を有するsiRNAの投与後に最も顕著である。グラフ(c)は、PBECにおけるそれぞれのsiRNAの投与24時間後のKRT14発現(PGK1に対して正規化)のダウンレギュレーションを示す。比較のために、VEGFAおよびKRT14に指向性を有するsiRNAもまた含める。
【
図16C】A〜C:ヒトR2R
1およびR2R
2ホモログに対するsiRNAを示す図である。ヒトR2R
1ホモログ(単数または複数)は、FAM25A、FAM25B、FAM25C、FAM25D、FAM25E、FAM25GおよびFAM25HPで表される7つのヒトパラログを含むFAM25ファミリーを含む。これらは、2200001I15RikまたはRIKEN cDNA 2200001I15で表されるcDNA配列によってコードされるマウス配列のヒトホモログである。FAM25パラログの類似性は、異なるパラログの特異的RTqPCRを排除する。FAM25パラログはまた、Affymetrix Human Gene発現アレイ、例えばHT HG-U133またはHT HG-U219にも存在しない。我々は、FAM25ファミリーの示差的遺伝子発現の測定のために、RTqPCRプライマー-プローブセットHs04194072_m1(Applied Biosystems社)を選択した。Applied Biosystems社は、このプライマー-プローブセットが、異なるパラログ間で差異を生じないことを述べている。FAM25ファミリーに対して設計された3つのsiRNAを、PBECにおけるHs04194072_m1発現をダウンレギュレートするその能力に関して選択した。我々は、これらのsiRNAを、それぞれnr18、20および22と番号を付けた。グラフ(a)は、PBECにおけるそれぞれのsiRNAの投与24時間後のFAM25(Hs04194072_m1)発現(PGK1に対して正規化)のダウンレギュレーションを示す。C9orf169に対して設計されたヒトR2R
2ホモログの2つのsiRNA(15および17とナンバリング)(それぞれ5および20nMの濃度で)を、PBECにおけるC9orf169発現をダウンレギュレートするそれらの能力に基づいて選択した。マイクロアレイ解析およびRTqPCRによってC9orf169発現を評価した。C9orf169に対するプローブは、Affymetrix HT HG-U219Human Gene Expression Arrayに存在する。グラフ(b)は、PBECにおける、それぞれのsiRNAの投与24時間後のC9orf169発現のダウンレギュレーション(マイクロアレイ解析によって評価)を示す。FAM25ファミリーまたはVEGFAに指向性を有するsiRNAの投与は、C9orf169発現に効果を示さなかった。R2R
1(ヒトFAM25ファミリー)およびR2R
2(ヒトC9orf169)に指向性を有するsiRNAはKRT14発現をダウンレギュレートし、これはVEGFAおよびVEGF
165に指向性を有するsiRNAの投与後の応答に類似した応答である。FAM25ファミリーおよびC9orf169のsiRNAによるノックダウンは、KRT14遺伝子発現(基底細胞マーカー)のダウンレギュレーションをもたらす。この応答は、C9orf169に指向性を有するsiRNAの投与後に最も顕著である。グラフ(c)は、PBECにおけるそれぞれのsiRNAの投与24時間後のKRT14発現(PGK1に対して正規化)のダウンレギュレーションを示す。比較のために、VEGFAおよびKRT14に指向性を有するsiRNAもまた含める。
【
図17】R2Rホモログの効果の概略図である。R2Rホモログの発現は、HIF1Aシグナル伝達(酸素耐性を付与する)(ボックス5)および特異的(PERP)抗アポトーシス経路(ボックス4)の同時調節をもたらす。これによって、無制限の増殖能を付与されることなく、丈夫な上皮細胞(ストレスに対する主要な防御バリアを有する)の(再)生成を可能にする。すなわち、特異的抗アポトーシス経路の調節は、全般的なアポトーシス耐性を’許容’するものではない。全般的なアポトーシス耐性は、細胞の不死化という危険な状況をもたらすであろう。この細胞は癌細胞へと発展する。この経路は、ヒトR2R
1ホモログ(FAM25ファミリー)およびヒトR2R
2ホモログ(C9orf169)のsiRNAによるノックダウンのマイクロアレイ解析に基づいて構築された。
【
図18A】R2Rホモログは、VEGFA-VEGF
165経路における’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)ならびに’アポトーシス調節’(ボックス2)に必須である。’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は
図18Aおよび18Bにおいて明らかである。’アポトーシス調節’(ボックス2)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は
図18Cにおいて明らかである。それらは、ボックス3、4および5の最終効果である。
【
図18B】R2Rホモログは、VEGFA-VEGF
165経路における’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)ならびに’アポトーシス調節’(ボックス2)に必須である。’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は
図18Aおよび18Bにおいて明らかである。’アポトーシス調節’(ボックス2)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は
図18Cにおいて明らかである。それらは、ボックス3、4および5の最終効果である。
【
図18C】R2Rホモログは、VEGFA-VEGF
165経路における’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)ならびに’アポトーシス調節’(ボックス2)に必須である。’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は
図18Aおよび18Bにおいて明らかである。’アポトーシス調節’(ボックス2)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は
図18Cにおいて明らかである。それらは、ボックス3、4および5の最終効果である。
【
図19A】A〜B:細胞呼吸に対する効果(
図17のボックス3参照)が高度に特異的であることを示す図である。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって酸化的リン酸化はダウンレギュレートされるであろう。R2Rホモログの発現よって酸化的リン酸化はアップレギュレートされるであろう。我々は、ミトコンドリア型ATP5A1-ATPシンターゼ(H+輸送)の発現において、この効果を最も強く観察することができる(
図19A)。R2Rホモログに指向性を有するsiRNAは、ATP5A1発現をダウンレギュレートするであろう。
図19Bは、酸化的リン酸化経路の遺伝子発現における全体的な変化の中でのATP5A1の発現を示す。
【
図19B】A〜B:細胞呼吸に対する効果(
図17のボックス3参照)が高度に特異的であることを示す図である。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって酸化的リン酸化はダウンレギュレートされるであろう。R2Rホモログの発現よって酸化的リン酸化はアップレギュレートされるであろう。我々は、ミトコンドリア型ATP5A1-ATPシンターゼ(H+輸送)の発現において、この効果を最も強く観察することができる(
図19A)。R2Rホモログに指向性を有するsiRNAは、ATP5A1発現をダウンレギュレートするであろう。
図19Bは、酸化的リン酸化経路の遺伝子発現における全体的な変化の中でのATP5A1の発現を示す。
【
図20】P53-P63シグナル伝達(
図17のボックス4参照)に対するR2Rホモログの効果を示す図である。PERP(TP53アポトーシスエフェクター)は、ヒトR2RホモログのsiRNAによるノックダウンによってダウンレギュレートされる。PERPは上皮の完全性に本質的なp63-制御遺伝子(p63-Regulated Gene Essential for Epithelial Integrity)である。p63は重層上皮発生の主要な調節因子であり、この多面プログラムに特性を持たせるのに必要かつ十分である。最初にp53腫瘍抑制因子のアポトーシス関連標的として同定された4回膜貫通タンパク質であるPerpは、in vivoでのこの発生プログラムに明確に関与するp63の第1直接標的である。このことはRebecca A.Ihrie et al.in2005(Cell,Vol.120,843-856,March25,2005)(イタリック体は、この論文の抄録における著者を引用する)によって明らかにされた。グラフは、ヒトR2RホモログのsiRNAによるノックダウン後のPERP発現のダウンレギュレーションを明らかにしている。
【
図21】FAM25 nr20(ヒトホモログR2R
1に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。
【
図22】FAM25 nr18(ヒトホモログR2R
1に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。
【
図23】C9orf169 nr15(ヒトホモログR2R
2に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。
【
図24】C9orf169 nr17(ヒトホモログR2R
2に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。
【
図25A】A〜C:HIF1Aの発現(
図17のボックス5参照)が、ヒトR2Rホモログの発現によって厳格に調節される。ヒトR2RホモログのsiRNA媒介ノックダウンによって、HIF1A発現がダウンレギュレートされるであろう(
図25A)。細胞呼吸(酸化的リン酸化)に対する下流のHIF1Aの効果は3に記載されている(
図17細胞呼吸参照)。R2Rホモログは、‘PERP型p53-p63’およびHIF1A発現を駆動する。このように、HIF1Aで武装した‘丈夫な’上皮細胞は、VEGFA/VEGF
165の影響下で無制限の増殖能を獲得する恐れがあった。しかしながら、我々は、同時に、上皮細胞が不死状態に入るのを妨げられることを観察している。R2Rホモログの発現は、細胞を不死化する恐れのある遺伝子の発現のブレーキとして作用するであろう。このことは、抗アポトーシス遺伝子であるBCL2A1(
図25B)(発現すると癌細胞における治療に抵抗性を付与する)の場合は大変明らかである。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンはBCL2A1発現のアップレギュレーションをもたらす。R2Rホモログは、BCL2A1発現のブレーキとして作用する。R2Rホモログはまた、必要に応じて細胞がアポトーシスに入ることを可能にする遺伝子の発現を促進する。このことは、R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって明らかにされる。このノックダウンによって、肺腺癌における腫瘍抑制因子であるMAP2K4(
図25C)のダウンレギュレーションが引き起こされるであろう。
【
図25B】A〜C:HIF1Aの発現(
図17のボックス5参照)が、ヒトR2Rホモログの発現によって厳格に調節される。ヒトR2RホモログのsiRNA媒介ノックダウンによって、HIF1A発現がダウンレギュレートされるであろう(
図25A)。細胞呼吸(酸化的リン酸化)に対する下流のHIF1Aの効果は3に記載されている(
図17細胞呼吸参照)。R2Rホモログは、‘PERP型p53-p63’およびHIF1A発現を駆動する。このように、HIF1Aで武装した‘丈夫な’上皮細胞は、VEGFA/VEGF
165の影響下で無制限の増殖能を獲得する恐れがあった。しかしながら、我々は、同時に、上皮細胞が不死状態に入るのを妨げられることを観察している。R2Rホモログの発現は、細胞を不死化する恐れのある遺伝子の発現のブレーキとして作用するであろう。このことは、抗アポトーシス遺伝子であるBCL2A1(
図25B)(発現すると癌細胞における治療に抵抗性を付与する)の場合は大変明らかである。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンはBCL2A1発現のアップレギュレーションをもたらす。R2Rホモログは、BCL2A1発現のブレーキとして作用する。R2Rホモログはまた、必要に応じて細胞がアポトーシスに入ることを可能にする遺伝子の発現を促進する。このことは、R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって明らかにされる。このノックダウンによって、肺腺癌における腫瘍抑制因子であるMAP2K4(
図25C)のダウンレギュレーションが引き起こされるであろう。
【
図25C】A〜C:HIF1Aの発現(
図17のボックス5参照)が、ヒトR2Rホモログの発現によって厳格に調節される。ヒトR2RホモログのsiRNA媒介ノックダウンによって、HIF1A発現がダウンレギュレートされるであろう(
図25A)。細胞呼吸(酸化的リン酸化)に対する下流のHIF1Aの効果は3に記載されている(
図17細胞呼吸参照)。R2Rホモログは、‘PERP型p53-p63’およびHIF1A発現を駆動する。このように、HIF1Aで武装した‘丈夫な’上皮細胞は、VEGFA/VEGF
165の影響下で無制限の増殖能を獲得する恐れがあった。しかしながら、我々は、同時に、上皮細胞が不死状態に入るのを妨げられることを観察している。R2Rホモログの発現は、細胞を不死化する恐れのある遺伝子の発現のブレーキとして作用するであろう。このことは、抗アポトーシス遺伝子であるBCL2A1(
図25B)(発現すると癌細胞における治療に抵抗性を付与する)の場合は大変明らかである。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンはBCL2A1発現のアップレギュレーションをもたらす。R2Rホモログは、BCL2A1発現のブレーキとして作用する。R2Rホモログはまた、必要に応じて細胞がアポトーシスに入ることを可能にする遺伝子の発現を促進する。このことは、R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって明らかにされる。このノックダウンによって、肺腺癌における腫瘍抑制因子であるMAP2K4(
図25C)のダウンレギュレーションが引き起こされるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、2つの遺伝子が組織の発生および癌の生物学に重要な役割を果たしているという発見に基づく。特に、本発明者らは、これら2つの遺伝子が肺細胞において発現され、肺上皮および内皮の後期分枝形態形成に必要であり、肺の微細な三次元構造の発生/維持を持続させることを見出した。これらの遺伝子は、扁平分化プログラムおよび前駆細胞(Krt14を発現する)細胞プールの発生/維持に必須である。さらに、本発明者らは、癌の生物学、特に、不死化および転移表現型(癌の進展および転移を含む)の獲得に関連するプロセスならびに心臓の発生におけるこれらの遺伝子の非常に重要な役割を同定した。
本発明者らは、これらの遺伝子のマウスおよびヒト型配列を突き止めた。それらの協調的発現および呼吸細胞再生遺伝子としての機能を考慮して、本発明者らは、これらの遺伝子をR2R
1およびR2R
2と命名した。簡単にするために、本明細書の大部分において用語“R2R
1/2”を用いるが、これはより長い句“R2R
1および/またはR2R
2”を表すものとする。
【0008】
従って、R2R
1/2というとき、ヒトおよびげっ歯類(マウス、ウサギ、モルモット、ラットなど)型などを含む、これらの遺伝子のすべての哺乳動物型を含むものとして理解されなければならない。さらにまた、これらの名称は、全R2R
1および/またはR2R
2遺伝子の配列を含むことに加えて、本明細書に記載の遺伝子のいずれかの断片、部分、変異体、誘導体および/またはホモログ/オーソログもまた含むことが理解されなければならない。この点において、用語“R2R
1”は、2200001I15RikまたはRIKEN cDNA 2200001I15で示されるcDNA配列によってコードされるマウス配列ならびにFAM25A、FAM25B、FAM25C、FAM25D、FAM25E、FAM25GおよびFAM25HPで示される7つのヒトホモログを含むことが理解されなければならない。
さらに、適切な場合には、用語“R2R
1/2”は、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子のタンパク質産物またはそれらの断片もしくは部分を含む。
特に、用語“R2R
1/2”、すなわち用語“R2R
1”または“R2R
2”のいずれかは、以下の配列番号1〜12に示される配列またはそれらの断片、部分、アナログ、バリアントもしくは
誘導体を含む。
【0009】
例示的なマウスR2R
1遺伝子転写物の配列を、以下の配列番号1に示す。
配列番号1
acactgacacggaccgaaggagtggaaaaagctttacctgtcactgtctgctgccatacg
ATGCTGGGAGGCCTGGGGAAGCTGGCGGCCGAGGGCCTGGCCCACCGCACAGAGAAAGCCACTGGGGGAGCAGTTCACGCAGTGGAAGAGGTGGTGAGCGAGGTGGTGGGCCACGCCAAGGAGGTTGGAGAGAAGACCATTAATGACGCCCTAAAGAAAGCCCAAGAATCAGGAGACAGGGTGGTGAAGGAGGTCACTGAGAAGGTCACCCACACCATCACTGATGCTGTTACCCATGCGGCAGAAGGCCTGGGAAGACTGGGACAGtgagcctgcctaccagcatggctggcccttcctgaaggtcaataaagagtgtgaaacgtgaaaaaaaaaaaaaaaataacaaaaaaaaaaaaaaaaaa
【0010】
この配列をコードする部分すなわちこの配列が翻訳される部分は下線部であり、ヌクレオチド約267個を含む。配列番号1のこの特定の部分を、配列番号2で示した。
翻訳されたこのヌクレオチド267個は、アミノ酸89個を含むタンパク質を生じさせ、これは以下の配列(配列番号3で示す)を有することは当業者には明らかであろう。
配列番号3
MLGGLGKLAAEGLAHRTEKATGGAVHAVEEVVSEVVGHAKEVGEKTINDALKKAQESGDRVVKEVTEKVTHTITDAVTHAAEGLGRLGQ
【0011】
さらに、本発明者らは、例示的なヒトR2R
1遺伝子転写物の全配列を突き止めた。これを、以下の配列番号4で示す。
配列番号4
actgtctgctgccacacg
ATGCTGGGAGGCCTGGGGAAGCTGGCTGCCGAAGGCCTGGCCCACCGCACCGAGAAGGCCACCGAGGGAGCCATTCATGCCGTGGAAGAAGTGGTGAAGGAGGTGGTGGGACACGCCAAGGAGACTGGAGAGAAAGCCATTGCTGAAGCCATAAAGAAAGCCCAAGAGTCAGGGGACAAAAAGATGAAGGAAATCACTGAGACAGTGACCAACACAGTCACAAATGCCATCACCCATGCAGCAGAGAGTCTGGACAAACTTGGACAGtgagtgcacctgctaccacggcccttccccagtctcaataaaaagccatgacatgtg
この配列をコードする部分すなわちこの配列が翻訳された部分は下線部であり、ヌクレオチド約267個を含む。配列番号4のこの特定の部分は、配列番号5で示した。
翻訳されたこのヌクレオチド267個は、アミノ酸89個を含むタンパク質を生じさせ、これは以下の配列(配列番号6で示される)を有することは当業者には明らかであろう。
配列番号6
MLGGLGKLAAEGLAHRTEKATEGAIHAVEEVVKEVVGHAKETGEKAIAEAIKKAQESGDKKMKEITETVTNTVTNAITHAAESLDKLGQ
【0012】
例示的なマウスR2R
2遺伝子転写物の配列を、以下の配列番号7で示す。
配列番号7
Gtgactggctgctgtctctagttgttgaggcctcttgggatctyggcgctmacmccwtgctytagwgactccgatagctcccrmggctccagtgsasmcctcggkcggnggnagggaaaaggcacttgctggtagctctgctcacccgcactgggacctggagctggaggactaagaagacagacggctgctgcttgccacagcctggacc
ATGGACCCCCATGAGATGGTTGTGAAGAATCCATATGCCCACATCAGCATTCCTCGGGCTCACCTGCGCTCTGACCTGGGGCAGCAGTTAGAGGAGGTTCCTTCTTCATCTTCCTCCTCTGAGACTCAGCCTCTGCCTGCAGGAACATGTATCCCAGAGCCAGTGGGCCTCTTACAAACTACTGAAGCCCCTGGGCCCAAAGGTATCAAGGGCATCAAGGGTACTGCTCCTGAGCACGGCCAGCAGACCTGGCAGTCACCCTGCAATCCCTATAGCAGTGGGCAACGTCCATCGGGACTGACTTATGCTGGCCTGCCACCTGTAGGGCGTGGTGATGACATTGCCCACCACTGCTGCTGCTGCCCTTGCTGCTCCTGCTGCCACTGTCCTCGCTTCTGCCGTTGTCACAGCTGTTGTGTTATCTCCtagctgactattgaacctccagggctgtgcagcccaggttcctgctcaatgccaaagtgttgctggacatcaggagcagccgttgtcatgagcatcagccatttcctgccctgagcaggggagcctgtccaccagcgttcagctgtagccttctggaatagggttccagccactagccatgttggcaacaacagggacacccttcacgtcctgcaagactttggcaataaagcaggatgagcgttgctgnncctgntgaaaanaaamwaaawacwgccgttgtcacarcygttrtgttatctmmkagstgacwattgtaammtycagrgctgtrmagcccrggkksckgctcaatgccaaagtgttgmtgsmcmtcrggrgsrgccaagctttacgcggtacccgggattttttttgtacaaaaaggggccccctattagg
【0013】
この配列をコードする部分すなわちこの配列が翻訳される部分は下線部であり、ヌクレオチド約426個を含む。配列番号7のこの特定の部分は、配列番号8で示した。
翻訳されたこのヌクレオチド426個は、アミノ酸142個を含むタンパク質を生じさせ、これは以下の配列(配列番号9で示される)を有することは当業者には明らかであろう。
配列番号9
MDPHEMVVKNPYAHISIPRAHLRSDLGQQLEEVPSSSSSSETQPLPAGTCIPEPVGLLQTTEAPGPKGIKGIKGTAPEHGQQTWQSPCNPYSSGQRPSGLTYAGLPPVGRGDDIAHHCCCCPCCSCCHCPRFCRCHSCCVIS
【0014】
さらに、本発明者らは、例示的なヒトR2R
2遺伝子転写物の全配列を突き止めた。これは、以下の配列番号10に示した。
配列番号10
cttgaacccgggaggcagaggttgcagtgagccgagatcgcgcagctgcactccagcctgggcaacagagcaagactccatctcagaaaagaagcagaaagcctccaagagccaatggctctcaagcatcttggtctctgctaagaagaggctcagaggcttagaagccctgcctcgccggggctttgaggtgtgtgagcaatggctggggactgcaggcccgggaatctgagggcctcaccccacttcctttccagagccgtgacctcaggctcacctcctgccctcctctcaggcaagctgcagatgccctttagggcccaggccatgccccggatgtgaggggctgagtcactggtttggcagtgcccctcagagcccaggcctgggctgccacccacctgaggacgagggctgggccagctgtcgtgctccagttgctggggcctcttgggatcttgggaaccccatctctgagccccgcccc
ATGGCCCCGCCCCTCCCAAGGAGGGAAAAGGCGGCTGCCAGTCGCTCAACTCAGGCACTGGGACCTAGAGCTCAGAAGACCGAGAGGACAGACTGCCGTGTTGCCACCACAGGCTGGACCATGGACCCCCAAGAGATGGTCGTCAAGAACCCATATGCCCACATCAGCATCCCCCGGGCTCACCTGCGGCCTGACCTGGGGCAGCAGTTAGAGGTGGCTTCCACCTGTTCCTCATCCTCGGAGATGCAGCCCCTGCCAGTGGGGCCCTGTGCCCCAGAGCCAACCCACCTCTTGCAGCCGACCGAGGTCCCAGGGCCCAAGGGCGCCAAGGGTAACCAGGGGGCTGCCCCCATCCAGAACCAGCAGGCCTGGCAGCAGCCTGGCAACCCCTACAGCAGCAGTCAGCGCCAGGCCGGACTGACCTACGCTGGCCCTCCGCCCGCGGGGCGCGGGGATGACATCGCCCACCACTGCTGCTGCTGCCCCTGCTGCCACTGCTGCCACTGCCCCCCCTTCTGCCGCTGCCACAGCTGCTGCTGCTGTGTCATCTCCtagcccagcccaccctgccagggccaggacccagacttcagcaaatgtggctcacacagtgccgggacatgccgggacatgcggggtggctgttgtcatgggcgtctgccccttcacaccaggcactggggctcagacccaccaggaaggtggccgttcagcccgagctcctgaaacggaatcccaggtcctggctggagagggacacccctgattaccttaaggcccaggcaataaagcagggtgatcttc
【0015】
この配列をコードする部分すなわちこの配列が翻訳される部分は下線部であり、ヌクレオチド約552個を含む。配列番号10のこの特定の部分は、配列番号11で示した。
翻訳されたこのヌクレオチド552個は、アミノ酸184個を含むタンパク質を生じさせ、これは以下の配列(配列番号12で示される)を有することは当業者には明らかであろう。
配列番号12
MAPPLPRREKAAASRSTQALGPRAQKTERTDCRVATTGWTMDPQEMVVKNPYAHISIPRAHLRPDLGQQLEVASTCSSSSEMQPLPVGPCAPEPTHLLQPTEVPGPKGAKGNQGAAPIQNQQAWQQPGNPYSSSQRQAGLTYAGPPPAGRGDDIAHHCCCCPCCHCCHCPPFCRCHSCCCCVIS
【0016】
このように、本発明は、配列番号1、2、4、5、7、8、10および11で表わされる配列によってコードされる遺伝子ならびにそれらの任意の断片、部分、変異体、バリアント、誘導体および/またはホモログ/オーソログに関する。一般的には、断片、部分、変異体、バリアント、誘導体および/またはホモログ/オーソログは機能しうるかまたは活性である。すなわち、それらは野生型R2R
1/2遺伝子の機能を保持する。
【0017】
用語“変異体”は、天然に存在する変異体を含むこともできるし、1以上の核酸の付加、欠失、置換または逆位の導入によって人工的に作成された変異体を含むこともできる。
当業者は、上で詳述したヒトおよびマウスR2R
1/2遺伝子に相同性を示す遺伝子が、例えば他の哺乳動物種を含む多くの異なる種において見出され得ることを容易に理解するであろう。相同遺伝子は、配列相同性または同一性をおおよそ20または30%しか示さない場合もある。しかしながら、別の場合では、相同遺伝子は、上で示した種々のヌクレオチド配列に少なくとも40、50、60、6570、75、80、85、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%の相同性を示す場合もある。このように、他の種からの相同遺伝子は、本発明の範囲に含まれるものとする。
本明細書に記載の種々の核酸およびアミノ酸配列を用いれば、当業者は、他の種、例えば他の哺乳動物などにおける関連する配列を容易に同定することができるであろう。例えば、特定の種から得られる核酸は、相同なまたは密接に関連した配列のための本明細書に記載のプローブを用いてプローブすることができる。
【0018】
さらに、本発明はまた、本発明に含まれる遺伝子の産物、特に配列番号3、6、9および12によってコードされるペプチドにも関することが理解されるべきである。さらにまた、これらのいずれかの断片、部分、アナログ、バリアント、誘導体あるいは相同なおよび/または同一のタンパク質もまた本発明の範囲内である。一般的には、断片、部分、誘導体、バリアントおよび/またはホモログは機能しうるかまたは活性である。すなわち、それらは野生型R2R
1/2タンパク質の機能を保持する。
さらに、配列番号3、6、9および12によってコードされるタンパク質のいずれかと相同な/同一であるタンパク質、ポリペプチド/ペプチドもまた本発明の範囲内である。本明細書に記載の配列のいずれかと相同または同一であるとみなされるタンパク質またはポリペプチド/ペプチド配列は、配列同一性/相同性を20%または30%しか示さない場合もある。しかしながら、相同な/同一の配列は、少なくとも40、50、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98または99%相同または同一である場合もある。本発明が、本明細書に記載のタンパク質またはポリペプチド/ペプチド配列のいずれかの断片に関する限り、断片はだいたい約10アミノ酸からn-1アミノ酸(ここで“n”は、全配列のアミノ酸数である)を含むことができることを理解すべきである。例えば、断片は、約10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120または約125アミノ酸(アミノ酸の最大数は、全配列のアミノ酸数によって決められる)を含むことができるが、このような断片/部分はペプチド断片と呼ぶことができる。一実施形態において、該ペプチド断片は抗原性および/または免疫原性であることができる。すなわち、それらは、天然(完全)抗原、例えば配列番号3、6、9および12によってコードされる抗原に特異性、親和性および/または選択性を示す抗体に結合する能力を保持する。
【0019】
当業者は、本明細書に記載の種々の核酸配列およびポリペプチドに関して、任意の所定の種から単離されたR2R
1/2遺伝子およびタンパク質の間に、多型などによる自然変異が存在し得ることを容易に理解するであろう。さらに、遺伝コードの縮重は、一次アミノ酸配列を変えずにコドンにおける1以上の塩基の置換を可能にすることは、当該分野で公知である。このように、本明細書に記載の抗原配列と実質的に同一であるペプチドまたはタンパク質配列をコードするバリアント核酸配列を得るために、遺伝子の縮重を利用することができる。実際、本発明によって提供されるバリアント配列は、参照配列(例えば前述の配列のいずれか)に対して1以上のアミノ酸/核酸の置換、付加、欠失および/または逆位を示すタンパク質および/または遺伝子として発現することができる。
このように、すべてのこのようなバリアント、特に機能しうるかまたは所望の活性を示すバリアントは、本発明の範囲に含まれることが理解されなければならない。
【0020】
他の実施形態において、本発明は、本明細書に記載のR2R
1/2配列のいずれかの誘導体に関する。用語“誘導体”は、本明細書に記載のR2R
1/2遺伝子またはペプチド配列に対して1以上のアミノ酸置換、欠失、付加および/または逆位を含むR2R
1/2遺伝子またはペプチド配列を含むことができる。
これに加えて、あるいはこれに代えて、本明細書に記載の種々のペプチドのアナログは、その一次配列に1以上の保存的アミノ酸置換を導入することによって製造することができる。用語“保存的置換”は、同様な特性を有する代わりのアミノ酸でタンパク質またはペプチドの1以上のアミノ酸を置換する行為であって、天然(または野生型)タンパク質の物理化学的特性および/または構造または機能を実質的に変えない行為を含むことを意味することを、当業者は理解するであろう。このタイプのアナログもまた、本発明の範囲に含まれる。
当該分野で公知のように、遺伝コードの縮重は、一次アミノ酸配列を変化させずに、コドンにおける1以上の塩基の置換を可能にする。その結果として、本願に記載の配列は、本明細書に記載のR2R
1/2タンパク質をコードすることが知られているとはいえ、コードの縮重を用いて、同じ一次アミノ酸配列をコードするバリアント核酸配列を得ることができる。
【0021】
前述のように、本発明者らは、R2R
1/2遺伝子(およびそれらのタンパク質生成物)が、肺および心臓の形態形成事象(例えば細胞のシグナル伝達/移行など)に関与し、肺および心臓の三次元構造の発生を持続させることを見出した。このように、本発明の第1の側面は、細胞/組織の発生/構造、分化、増殖および/または形態形成に影響を及ぼす疾患の医薬に使用するための、あるいはその治療に使用するためのR2R
1/2遺伝子および/またはR2R
1/2タンパク質を提供する。例えば、R2R
1/2遺伝子および/またはR2R
1/2タンパク質は、例えば肺および/または心臓の疾患および/または状態ばかりでなく、癌、特に肺または心臓系の組織に影響を及ぼす癌の治療に使用することができる。
特定の実施形態において、本発明は、細胞移行事象、例えば、間葉上皮移行(MET)事象および、逆のプロセスである上皮間葉移行(EMT)に関与する事象の調節に使用するためのR2R
1/2遺伝子および/またはR2R
1/2タンパク質を提供することができる。
【0022】
第2の側面において、本発明は、肺疾患および/または状態の治療におけるそれらの使用あるいは肺疾患および/または状態の治療薬の製造におけるそれらの使用のためのR2R
1/2遺伝子および/またはR2R
1/2タンパク質を提供する。
他の側面において、本発明は、心疾患の治療に使用するためのR2R
1遺伝子および/またはタンパク質を提供する。一実施形態において、R2R
1遺伝子および/またはタンパク質は、心臓細胞/組織の発生/構造、分化、増殖および/または形態形成に影響を及ぼす疾患の治療に使用することができる。一実施形態において、本発明は、心室中隔の発生および/または形成に影響を及ぼす疾患および/または状態の治療に使用するためのR2R
1遺伝子および/またはタンパク質を提供することができる。
他の側面において、本発明は、癌の治療に使用するためのR2R
1遺伝子および/またはタンパク質を提供する。一実施形態において、R2R
1遺伝子および/またはタンパク質は、例えば、肺および/または心臓組織を含む種々の組織に影響を及ぼす癌を治療するため使用することができる。より一般的には、本発明は、異常/欠損MET/EMTプロセスを含む任意の癌の治療に広げることができる。本発明の遺伝子および/またはタンパク質を用いて治療することができる癌の少なくとも一部の例は、以下に詳述される。
【0023】
重ねて言うが、用語“R2R
1”、“R2R
2”および“R2R
1/2”は、前述の完全遺伝子/ペプチド配列ばかりでなく、それらの断片、アナログ、ホモログ、オーソログ、バリアントおよび誘導体もまた含む。
【0024】
用語“肺疾患”または“肺状態”は、肺の病状、例えば肺の発生または肺組織の3D構造に影響を及ぼす病状を含むことができる。例えば、“肺疾患”は、肺の気道を覆う上皮細胞、肺血管網の内皮細胞ならびに/あるいはこれらの細胞の分化および/または増殖に影響を及ぼす疾患および/または状態を含むことができる。このように、肺疾患は、肺の形態形成経路および事象に影響を及ぼす疾患を含むことができる。特定の肺細胞型(例えば扁平上皮細胞)の分化あるいは前駆(基底)細胞集団の生成および/または維持に影響を及ぼす肺疾患および/または状態もまた、本明細書に記載の化合物、医薬および方法によって治療することができる。具体例として、疾患、例えば気管支肺異形成(BPD)および/または慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、本明細書に記載の化合物を用いて治療することができる。他の実施形態において、用語“肺疾患”または“肺状態”は、細胞増殖または腫瘍性疾患、例えば非小細胞肺癌(NSCLC)および/または小細胞肺癌(SCLC)などを含む癌を含むことができる。
用語“心疾患”または“心臓状態”は、心臓の病状、例えば心臓の発生または心臓組織の3D構造に影響を及ぼす病状を含むことができる。心疾患は、心臓の形態形成経路および事象、特に間葉上皮移行および上皮間葉移行に影響を及ぼす疾患を含むことができる。具体例として、疾患、例えば心房および心室中隔欠損、房室管型欠損、心臓(房室)弁および冠動脈の奇形は、本明細書に記載の化合物を用いて治療することができる。
【0025】
本明細書に記載のR2R
1/2遺伝子/タンパク質は、形態形成事象(例えば細胞のシグナル伝達など)に関与し、複合組織、例えば肺および/または心臓の三次元構造の形成を持続させることが示されているので、それらは再生医療に応用されることができることも理解されなければならない。例として、損傷組織または病変組織などを修復または再建するために幹細胞(例えば成人胚性または再プログラム化体細胞(例えばiPS細胞)が用いられる場合、組織の発生を容易にするために、本発明によって提供されるタンパク質および/または遺伝子を用いることができる。
R2R
1/2タンパク質および遺伝子は、上皮間葉移行および間葉上皮移行の番人(gatekeeper)として肺および心臓の形態形成事象に重要な役割を果たしている。従って、それらは、癌の生物学および癌治療に応用されることができる。例として、疾患、例えば限局性癌の癌転移へのトランスフォーメーションは、本明細書に記載の化合物を用いて治療することができる。
本明細書に記載のR2R
1/2遺伝子および/またはタンパク質を含む種々の使用および医薬を提供することに加えて、本発明はまた、上記で概説した心臓/肺疾患および/または状態のいずれかを含む、本明細書に記載の疾患および/または状態のいずれかを患っている被験者の治療方法を提供する。このように、本発明の第3の側面は、心臓/肺疾患および/または状態の治療方法であって、それを必要とする被験者に、本明細書に記載のR2R
1および/またはR2R
2遺伝子ならびに/あるいはR2R
1および/またはR2R
2タンパク質の治療的有効量を投与するステップを含む前記方法を提供する。
【0026】
心臓または肺の疾患または状態が、R2R
1/2遺伝子および/またはタンパク質発現/機能の欠如または欠損から生じるかまたはそれと関連する場合、本明細書に記載の機能性R2R
1/2遺伝子またはタンパク質の使用は、疾患または状態の症状を治療または緩和するために、正常(または野生型)R2R
1/2遺伝子/タンパク質機能を回復させる手段を提供することができる。
本明細書に記載の使用、医薬および治療法は、組換えR2R
1/2遺伝子/タンパク質の製造を必要とする場合があることは明らかであろう。そのようなものとして、本発明はさらに、組換えR2R
1/2遺伝子および/またはタンパク質の製造方法および/または発現方法を考える。PCR技術を利用して、肺組織などの種々の起源からR2R
1/2遺伝子配列を選択的に得ることができることは、当業者には明らかであろう。これらの配列と、種々の発現制御配列または調節制御配列、例えば、プロモーター、オペレーター、誘導物質、エンハンサーおよび/またはサイレンサーエレメント、リボソーム結合部位ならびに/あるいはターミネーター配列とをライゲーションすることができる。当業者は、任意の所定の宿主のために、適切な調節制御配列または発現制御配列を選択することができる。他の実施形態において、PCR由来R2R
1/2遺伝子配列をベクター(例えばプラスミドまたは発現カセット)に導入することができる。一実施形態において、前記ベクターはさらに、タンパク質精製法を助けるためのタグまたは標識のヌクレオチド配列を含むことができる。
【0027】
宿主細胞は、ベクターで形質転換され、R2R
1/2遺伝子配列の発現および組換えR2R
1/2の産生を誘導するのに適切な条件下に維持されることができる。R2R
1/2遺伝子配列(またはそれらの断片)がクローニングされたベクターは、種々の技術を用いて細胞に導入またはトランスフェクトされることができる。このような技術は、トランスフェクションプロトコルと呼ぶこともできる。トランスフェクションプロトコルは、核酸などの化合物に対して細胞膜を透過性にする条件を用いる。例として、エレクトロポレーション、ヒートショック、化学化合物(例えばリン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム)、マイクロインジェクション技術および/または遺伝子銃を用いて、発現ベクターを含むベクターの細胞へのトランスフェクションを容易にすることが可能である。
このようにして製造された組換えタンパク質を精製するために用いられる技術は公知であり、組換えタンパク質がタグを付けられているかまたは標識されている場合、それらの技術はアフィニティークロマトグラフィー技術などの使用を含むことができる。
上記を考慮して、本発明の第4および第5の側面は、それぞれ、R2R
1/2遺伝子配列を含む発現ベクターおよびそれによって形質転換された宿主細胞を提供する。
【0028】
種々の疾患および/または状態(例えば心臓および/または肺の疾患および/または状態)の治療の手段としてR2R
1/2遺伝子および/またはタンパク質を提供することに加えて、本発明はまた、R2R
1/2遺伝子の発現を調節することができ、R2R
1/2遺伝子/タンパク質の過剰発現から生じる、またはそれと関連する状態の治療に有用であることができる化合物を提供する。このような化合物は、オリゴヌクレオチドであることができ、好ましくは、例えばDNAおよび/またはRNAという形をとることができるアンチセンスオリゴヌクレオチドであることができる。一実施形態において、オリゴヌクレオチドは、低分子/短鎖の干渉および/またはサイレンシングRNAとして当業者に公知のRNA分子であり、これを以下siRNAと称する。このようなsiRNAオリゴヌクレオチドは、天然二本鎖RNAまたは、何らかの方法で(例えば化学修飾によって)ヌクレアーゼ抵抗性に改変された二本鎖という形をとることができる。これに加えて、あるいはこれに代えて、siRNAオリゴヌクレオチドは、本明細書に記載のsiRNAに相当するかまたはそれを含む短鎖ヘアピンRNA(shRNA)発現またはプラスミド構築物という形をとることができる。
【0029】
本発明によって提供されるオリゴヌクレオチドは、R2R
1/2遺伝子の発現を調節するように設計されることができる。天然または野生型R2R
1/2配列を解析し、BIOPREDsiなどのアルゴリズムを活用することによって、当業者は、これらの遺伝子に対して最適のノックダウン効果を示す核酸配列を容易に決定することができるかまたはコンピュータで予測することができるであろう(例えば:http://www.biopredsi.org/start.htmlを参照のこと)。従って、当業者は、種々のオリゴヌクレオチドのアレイまたはライブラリーがR2R
1/2遺伝子の発現を調節することができるかどうかを決定するために、それらを製造し試験することができる。
上記を考慮して、本明細書に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび/またはsiRNA分子は、(i)本明細書に記載の疾患および/または状態のいずれかの治療、特に(ii)肺疾患および/または障害の治療、(iii)心疾患および/または状態の治療ならびに(iv)癌の治療のために使用することができる。さらにまた、本明細書に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドおよび/またはsiRNA分子は、上記の(i)〜(iv)で概略を述べた疾患を治療するための医薬の製造または、このような疾患および/または障害を患っている被験者の治療方法に使用することができる。
【0030】
さらに、R2R
1/2タンパク質に結合することができる抗体(またはその抗原結合断片)は、心臓および/または肺の疾患および/または状態などを含む本明細書に記載の疾患および/または状態の治療に有用であることができる。R2R
1/2タンパク質の機能を遮断または中和する抗体は、疾患および/または状態がR2R
1/2タンパク質の過剰発現によって生じる場合に特に有用であることができる。モノクローナル抗体(mAb)を製造するために用いられる技術は公知であり、R2R
1および/またはR2R
2タンパク質あるいはそれらの断片のいずれかに特異的なmAbを製造するために容易に利用することができる。同様に、ポリクローナル抗体を製造するために用いられるプロセスもまた確立されており、R2R
1および/またはR2R
2タンパク質あるいはそれらの断片のいずれかに特異的な抗体の製造に用いることができる。
本明細書に記載の疾患および/または状態(例えば心臓および/または肺の状態および/もしくは障害または癌)の治療に有用な他の化合物は、例えばタンパク質、ペプチド、アミノ酸、炭水化物および他の有機小分子を含むことができる。
上記に加えて、単離されたR2R
1/2ヌクレオチドおよび/またはタンパク質配列は、ex vivoおよび/またはin situでの検出および発現試験に使用するためのプローブおよび/またはプライマーの設計のための基礎として用いることができる。典型的な検出試験は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、ハイブリダイゼーション試験、配列決定プロトコルならびに免疫学的および/またはサザン/ノーザンブロット法検出技術を含む。
前記の検出および/または発現試験において、原則として、前述の配列から設計された任意のポリヌクレオチド(もしくはオリゴヌクレオチド)またはポリペプチド断片を用いることができる。
【0031】
一般的には、プローブおよび/またはプライマーとして使用するためのポリヌクレオチド断片は、10〜30ヌクレオチド(特定の用途には他の長さが有用である場合もある)を含み、特定の配列にある程度の特異性を示し、類縁性のない配列には結合しない。同様に、プローブとして用いられるポリペプチド断片もまた比較的短鎖であることができ、一般的には5〜20アミノ酸(より短いかまたはより長い他の長さも一部の用途には有用であることができる)を含むことができる。
プライマー/プローブ配列の注意深い選択およびストリンジェントな(好ましくは高ストリンジェントな)ハイブリダイゼーション条件の使用によって、任意の非選択的結合が最少化されることは、容易に理解されるであろう。
従って、本明細書に記載のヌクレオチド配列の全部または一部に対して少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%または少なくとも95%の相補性を有するオリゴヌクレオチドプローブおよび/またはプライマー配列ばかりでなく、それらに対して正確な(すなわち100%の)相補性を有するものもまた、本発明の範囲に含まれるとみなされなければならない。
【0032】
プローブ/プライマーと核酸配列(例えば本明細書に記載のいずれか)との間のハイブリダイゼーションは、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む2〜6 x SSC(すなわち2〜6 x NaCl 17.5g/lおよびクエン酸ナトリウム(SC) 8.8g/l)緩衝生理食塩水中、約40℃〜75℃の温度で達成されることができる。もちろん、プローブ/プライマーと配列との間の類似度に応じて、低下したSSC濃度を有する緩衝液(すなわち、0.1%SDSを含む1xSSC、0.1%SDSを含む0.5xSSCおよび0.1%SDSを含む0.1xSSC)。
本明細書に開示されたアミノ酸配列の全部または一部に対して少なくとも30%、50%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の同一性を有するポリペプチドプローブばかりでなく、それらに対して正確な(すなわち100%の同一性)を有するものもまた、本発明の範囲に含まれるとみなされなければならない。
【0033】
このように、本発明のさらなる側面は、配列番号1;2;4;5;7;8;10および11からなる群から選択される配列の全部または一部に対してハイブリダイズするように設計されたオリゴヌクレオチドプローブおよび/またはプライマーを提供する。さらに、さらなる側面は、配列番号3;6;9および12からなる群から選択される配列の全部または一部に結合するように設計されたポリペプチドプローブを提供する。
他の側面において、本発明は、肺疾患もしくは状態および/またはそれらに対する罹病性の診断方法であって、被験者におけるR2R
1および/またはR2R
2遺伝子が異常に発現されているかどうかを決定することを含む前記方法を提供する。
癌および/または心臓および/または肺の疾患および/または状態などを患っていると診断された被験者は、異常な(すなわち増加したまたは減少した)R2R
1および/またはR2R
2遺伝子/タンパク質の発現を示すことができる。用語“発現異常”は、健常被験者または、疾患および/または状態(すなわち心臓または肺の疾患および/もしくは状態または癌)を患っていない被験者由来の試料中の発現に対して増加したおよび/または減少した遺伝子発現レベルを含むと理解されなければならない。
【0034】
用語“試料”は、体液、例えば全血、血漿、血清、唾液、汗および/または精液の試料を含むとして理解されなければならない。他の例において、“試料”、例えば組織生検物および/または擦過物を用いることができる。特に肺組織生検物および/または擦過物を用いることができる。さらに、試料は、組織または腺分泌物を含むことができ、洗浄プロトコルを用いて肺などに分泌される流体試料を得ることができる。適切な洗浄プロトコルは、気管支肺胞洗浄手順を含むことができる。前述の試料は、多量のR2R
1/2核酸(すなわちDNAもしくはRNA)および/またはR2R
1/2タンパク質、ペプチド(もしくはそれらの断片)をもたらすことができることは、当業者には明らかであろう。さらにまた、これらの方法は、肺疾患および/または状態を患っていることが疑われる被験者または肺疾患および/または状態を発症する恐れがある被験者からの試料を提供する最初のステップを含むことができる。
【0035】
R2R
1および/またはR2R
2遺伝子/タンパク質の発現レベルの増加は、前述の疾患および/または状態あるいはそれらの対する罹病性のいずれかと関連し得る。例えば、R2R
1/2遺伝子/タンパク質発現の増加は、過度の細胞増殖および/または分化を示すことができ、新生物状態、例えば癌(すなわち肺癌)などと関連することができる。R2R
1および/またはR2R
2遺伝子/タンパク質の発現の減少は、心臓/肺の発生不良または障害によって特徴付けられる病的状態を示すことができる。このような状態は、組織損傷(心臓/肺内で作用する機械的ストレスによる)、瘢痕化、心臓/肺の構造的完全性の消失、肺の気道または心臓の構造の変形または損傷をもたらす恐れがある。
試料、例えば上記の試料中のタンパク質および/または遺伝子、例えばR2R
1/2遺伝子および/またはタンパク質のレベルを同定するために用いることができる技術は、当業者には明らかであろう。
【0036】
このような技術は、例えば、リアルタイムPCR(定量PCRとしても知られる)などの技術に基づくポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を含み得る。本例においては、リアルタイムPCRを用いて、R2R
1および/またはR2R
2タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを決定することができる。一般的に、そして特定の核酸配列の発現レベルを定量するために、逆転写酵素PCRを用いて、相補的DNA(cDNA)に関連性のあるmRNAを逆転写することができる。好ましくは、逆転写酵素プロトコルは、目的とするmRNA配列を特異的に増幅するように設計されたプライマーを用いることができる。その後、PCRを用いて、逆転写によって生成されたcDNAを増幅することができる。
典型的には、cDNAは、特定の配列に特異的にハイブリダイズするように設計されたプライマーを用いて増幅され、PCRに用いられるヌクレオチドは、蛍光性または放射性標識化合物によって標識されることができる。
PCR中に生成されるDNAの量の定量を可能にするための標識したヌクレオチドを用いる技術は、当業者には明らかであろう。簡潔に言えば、例として、標識し増幅した核酸の量は、PCRのサイクリング中に取り込まれた標識ヌクレオチドの量をモニタリングすることによって決定することができる。
本明細書に記載のPCRベースの技術に関するさらなる情報は、例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, Second Edition Edited by Carl W. Dieffenbach & Gabriela S. Dveksler: Cold Spring Harbour Laboratory Press and Molecular Cloning: A Laboratory Manual by Joseph Sambrook & David Russell: Cold Spring Harbour Laboratory Press において見出すことができる。
【0037】
試料中のR2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現レベルを決定するために用いることができる他の技術は、例えば、ノーザンおよび/またはサザンブロット技術を含む。ノーザンブロットは、試料中に存在する特定のmRNAの量を決定するために用いることができ、そのようなものとして、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現量を決定するために用いることができる。簡潔に言えば、mRNAは、当業者に公知の技術を用いて、例えば発現可能なR2R
1および/またはR2R
2遺伝子を含むように調整した細胞ベース系または無細胞系から抽出し、電気泳動に供することができる。目的とするmRNA配列にハイブリダイズするように設計された(すなわちそれに相補的な)核酸プローブ、本例においてはR2R
1および/またはR2R
2タンパク質をコードするmRNAは、次いで、試料中に存在する特定のmRNAの量を検出し定量するために用いることができる。
これに加えて、あるいはこれに代えて、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現レベルは、マイクロアレイ解析によって同定することができる。このような方法は、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子由来の核酸を含むDNAマイクロアレイの使用を含むであろう。R2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現レベルを同定するために、当業者は、核酸、好ましくは、本発明の第1の側面に記載の方法に供した系(細胞ベース系または無細胞系)からのmRNAを抽出し、それを増幅プロトコル、例えば逆転写酵素PCRにかけてcDNAを生成させることができる。好ましくは、特定のmRNA配列、本例においてはR2R
1および/またはR2R
2遺伝子をコードする配列に特異的なプライマーを用いることができる。
【0038】
増幅されたR2R
1および/またはR2R
2cDNAは、場合により標識ヌクレオチド(前述のように)の存在下で、さらなる増幅ステップに供することができる。その後、場合により、標識し増幅したcDNAは、マイクロアレイのDNAとの結合を可能にする条件下でマイクロアレイと接触させることができる。このようにして、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現レベルを同定することが可能である。
上記の技術に関するさらなる情報は、例えば、PCR Primer: A Laboratory Manual, Second Edition Edited by Carl W. Dieffenbach & Gabriela S. Dveksler: Cold Spring Harbour Laboratory Press and Molecular Cloning: A Laboratory Manual by Joseph Sambrook & David Russell: Cold Spring Harbour Laboratory Press において見出すことができる。
試料中のR2R
1/2タンパク質のレベルを決定するために、R2R
1/2タンパク質に結合することができる薬剤を利用する免疫学的技術を用いることができる。
【0039】
一実施形態において、前述の診断法は、支持体(またはその一部)と検査試料とを、試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質の前記支持体への会合、相互作用、結合および/または固定を可能にする条件下で接触させるステップを含むことができる。
適切な支持体は、例えば、ガラス、ニトロセルロース、紙、アガロースおよび/またはプラスチックを含むことができる。プラスチック材料などの支持体は、マイクロタイタープレートという形をとることができる。
あるいは、検査試料と接触させる支持体は、R2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合することができる薬剤を含むことができる。好ましくは、R2R
1/2タンパク質に結合することができる薬剤は、支持体(または少なくともその一部)に結合されている。適切な結合剤は、例えば、R2R
1/2タンパク質に結合することができる抗体、例えばモノクローナルもしくはポリクローナル抗体および/または他の種類のペプチドもしくは小分子を含むことができる。この定義は、本明細書に記載のすべてのタイプの結合剤に適用されることが理解されるべきである。このように、支持体(またはその一部)は、R2R
1/2タンパク質と結合することができる薬剤と試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質との間の結合または相互作用を可能にする条件下で検査試料と接触させることができる。
【0040】
R2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合することができる支持体または薬剤に結合した任意のR2R
1/2タンパク質は、R2R
1/2タンパク質(単数または複数)と結合することができるさらなる薬剤(以下“一次結合剤”と呼ぶ)を用いて検出することができる。これに加えて、あるいはこれに代えて、一次結合剤は、R2R
1/R2R
2タンパク質:支持体複合体またはR2R
1/2タンパク質およびR2R
1/2タンパク質と結合することができる上記の薬剤に対する親和性を有するかまたはそれに対して結合することができる。
一次結合剤は、検出されることを可能にする部分(以下“検出可能部分”と呼ぶ)と結合することができる。例えば、この一次薬剤は、比色化学発光反応によってレベルを報告する酵素と結合することができる。このような複合酵素は、限定するものではないが、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)およびアルカリホスファターゼ(AlkP)を含むことができる。これに加えて、あるいはこれに代えて、一次結合剤は、蛍光分子、例えば蛍光発色団、例えばFITC、ローダミンまたはテキサスレッドなどと結合させることができる。結合剤に結合させることができる他の種類の分子は、放射性標識部分を含む。
【0041】
あるいは、R2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合することができる支持体または薬剤に結合した任意のR2R
1/2タンパク質は、一次結合剤に親和性を有するよりさらなる結合剤(以下“二次結合剤”と呼ぶ)を用いて検出することができる。好ましくは、二次結合剤は検出可能部分に結合される。
R2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合した一次結合剤(または、それらに対して結合した二次結合剤)の量は、試験される試料中に存在するR2R
1/2タンパク質(単数または複数)のレベルを表すことができる。
一実施形態において、R2R
1/2タンパク質のレベルを同定する方法は、支持体(またはその一部)と検査試料とが、試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)の、それらに対して結合または固定される支持体または結合剤との結合を可能にする条件下で接触させる“ディップスティック”試験という形をとることができる。
他の実施形態において、本方法は、例えば酵素免疫測定法(ELISA)などの免疫学的アッセイという形をとることができる。ELISAは、検査試料が支持体と接触され、試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)が、支持体に結合または固定された結合剤(R2R
1/2タンパク質に結合することができる)によって“捕捉される”かまたは結合される“捕捉”ELISAという形をとることができる。あるいは、該試料は、試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)と支持体との間の“直接”結合を可能にする条件下で支持体と接触させることができる。
【0042】
前述のELISA法のそれぞれは、“直接”R2R
1/2タンパク質検出ステップまたは“間接”同定ステップを含むことができる。このようなステップを含むELISAは、“直接”ELISAまたは“間接”ELISAとして知られる場合もある。
“直接”ELISAは、検査試料と支持体とを、試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)の、それらに対する支持体および/または結合剤との結合を可能にする条件下で接触させることを含むことができる。任意のブロッキングステップ後、結合したR2R
1/2タンパク質(単数または複数)は、R2R
1/2タンパク質に結合することができる薬剤(すなわち一次結合剤)を用いて検出することができる。好ましくは、一次結合剤は検出可能部分に結合される。
“間接”ELISAは、R2R
1/2タンパク質(単数または複数)と一次結合剤とを接触させた後に、一次結合剤に親和性または特異性を有するさらなる結合剤(二次結合剤)を用いるさらなる段階を含むことができる。好ましくは、二次結合剤は、検出可能部分に結合されることができる。
【0043】
試料中のR2R
1/2タンパク質レベルを同定するために用いることができる他の免疫学的技術は、結合剤、例えばR2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合することができる抗体を、試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)とR2R
1/2タンパク結合剤との間の結合を可能にする条件下で試料、好ましくは組織試料と接触させる免疫組織化学などを含む。一般的には、試料と結合剤とを接触させる前に、試料は、例えばトリトンX100などの界面活性剤で処理される。このような技術を、“直接”免疫組織化学染色と呼ぶことができる。
あるいは、検査試料は、試料をR2R
1/2タンパク結合剤と接触させた後、R2R
1/2タンパク結合剤に特異的な、またはそれに親和性を有する、またはそれに結合することができるさらなる結合剤(二次結合剤)を用いてR2R
1/2タンパク質/結合剤複合体を検出する間接免疫組織化学染色プロトコルに供されることができる。
直接および間接免疫組織化学技術のいずれにおいても、結合剤または二次結合剤は検出可能部分に結合されることができることは、当業者には明らかであろう。好ましくは、結合剤または二次結合剤は、比色化学発光反応によって、結合された結合剤または二次結合剤のレベルを報告することができる部分に結合される。
【0044】
試料中に存在するR2R
1/2タンパク質(単数または複数)のレベルを同定するために、免疫組織化学染色の結果と対照試料に行った免疫組織化学染色の結果とを比較することができる。例として、対照試料よりも多いかまたは少ない結合したタンパク結合剤(または二次結合剤)を示す試料は、特定の疾患および/または状態を有する被験者によって提供されたものであることができる。
R2R
1/2タンパク質に結合することができる薬剤の使用を利用する他の技術は、例えば、ウェスタンブロットまたはドットブロットなどの技術を含む。ウェスタンブロットは、試料を電気泳動にかけて、試料のタンパク質成分などを成分に分離または分割することを含むことができる。分割された成分は、次いで、支持体、例えばニトロセルロースに移行させることができる。試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)を同定するために、試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)とR2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合することができる薬剤と間の結合を可能にする条件下で支持体をR2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合することができる結合剤と接触させることができる。
【0045】
好都合には、R2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合することができる薬剤は検出可能部分に結合されることができる。
あるいは、支持体は、R2R
1/2タンパク質(単数または複数)に結合することができる結合剤(単数または複数)に親和性を有するさらなる結合剤と接触させることができる。好都合には、さらなる結合剤は検出可能部分に結合されることができる。
ドットブロットの場合は、試料またはその一部は、試料中に存在する任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)が支持体に結合されるかまたは固定されるように支持体と接触させることができる。結合されるかまたは固定される任意のR2R
1/2タンパク質(単数または複数)の同定は、前述のように行うことができる。
上述の技術のいずれかにおいて、検出された一次結合剤または二次結合剤の量は、試料中に存在するR2R
1/2タンパク質の量を表すかまたはそれに比例する。さらにまた、本明細書に記載の診断法の全部または一部から得られた結果は、特定の疾患または障害(例えば心臓および/または肺の疾患もしくは障害および/または癌など)を患っていないかまたはそれに罹患しやすくないことが知られている健常被験者由来の参照または対照試料から得られた結果と比較されることができる。
【0046】
本発明のさらなる側面は、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現を調節する薬剤の同定または製造方法であって、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子と試験薬剤とを接触させ、R2R
1/2遺伝子発現の任意の調節を検出するステップを含む前記方法を提供する。
方法、例えば本発明のこの第9の側面に記載の方法は、系、例えば、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子を含むように改変された細胞ベース系または無細胞系などにおいて行うことができることは当業者には明らかであろう。例として、細胞は、R2R
1またはR2R
2遺伝子のいずれかを含む核酸でトランスフェクトされることができる。一実施形態において、該核酸はベクター(例えば前述のプラスミドまたは発現カセット)という形をとることができる。
【0047】
一実施形態において、前述の方法から得られた結果は、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子が試験薬剤と接触させられていない対照法から得られた結果と比較することができる。このようにして、前記薬剤がR2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現を調節することができるかどうか決定することが可能である。R2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現レベルが対照法において検出された発現レベルより低いかまたはそれを超える場合、その試験薬剤はR2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現モジュレーターとして有用であることができる。発現レベルが対照法において観察されたものと同じ場合、その試験薬剤はR2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現を調節することができないと推定される。
適切な試験薬剤は、核酸、例えば前述のアンチセンスオリゴヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、抗体(およびその断片)、炭水化物ならびに他の有機小分子という形をとることができる。
さらなる側面において、本発明は、薬学的に許容される賦形剤、担体または希釈剤と共に、前述のR2R
1/2遺伝子/タンパク質、本明細書に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド(DNAもしくはRNA)および/または、本発明の第9の側面によって提供される方法によって同定され、R2R
1および/またはR2R
2遺伝子/タンパク質の発現または機能を調節することができる薬剤のいずれかを含む医薬組成物を提供する。このような組成物は、例えば、心臓および/または肺の疾患および/または前述の癌を含む本明細書に記載の種々の疾患および/または状態の治療に適用されることができる。
【0048】
好ましくは、本発明によって提供される医薬組成物は、滅菌医薬組成物として処方される。適切な賦形剤、担体または希釈剤は、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えば血清アルブミン、緩衝物質、例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水塩もしくは電解質、例えば硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイダルシリカ、ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂などまたはそれらの組み合わせを含むことができる。
前記医薬製剤は、例えば、経口、非経口または局所投与に適した形で処方されることができる。一実施形態において、医薬組成物は、それが吸入されることができるように処方されることができる。吸入によって投与される組成物は、エアロゾル化され液滴で吸入されることができる微細粉末または溶液という形をとることできる。吸入などによって組成物を肺に直接に送達するために用いることができる装置は、当業者にはよく知られているであろう。該組成物の液滴または粒度は、肺の種々の領域に薬物が到達することができるように変えることができる。例えば、ひとたび吸入されれば、小粒子または液滴は肺組織深部に達し、場合によっては肺胞に到達することができる。
局所投与のために処方される医薬組成物は、水性もしくは非水性液体での軟膏、溶液または懸濁液として、あるいは水中油型液体エマルションとして提供することができる。
【0049】
R2R
1および/またはR2R
2遺伝子を調節することができる化合物、例えば、本明細書に記載の方法によって同定された化合物または本明細書に記載のR2R
1/2遺伝子/タンパク質断片、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよび抗体などは、細胞分化のモジュレーターとしてさらなる用途を見出すことができる。前述のように、本発明者らは、R2R
1およびR2R
2遺伝子ならびにそれらの産物は、肺上皮細胞、特に肺上皮前駆細胞または基底細胞集団から生じた扁平上皮細胞(すなわちKrt14
+ve細胞)の分化を調節する経路に関与することを確認した。
細胞(例えば肺上皮細胞)の分化を調節する化合物は、障害、例えば損傷を受け、乏しいかまたは不十分な再生能を示す瘢痕化した肺を生じるBPDの治療に特に有用であることができる。このように、細胞分化を調節する化合物を投与または使用することによって、肺の再生能を改善または復帰させることを可能にすることができる。R2R
1および/またはR2R
2遺伝子の発現を増強または促進することができる化合物あるいはこれらの遺伝子の機能を復帰させる化合物は特に有用であることができることを、当業者は容易に理解するであろう。
【0050】
他の側面において、本発明は、組織発生および/または細胞移行事象ばかりでなく、特定の疾患および/または状態(心臓および/または肺の疾患および/または状態ならびに癌を含む)を研究するための動物モデルを提供する。一実施形態において、動物モデルは、R2R
1/2遺伝子/タンパク質の発現を操作または調節する(すなわちアップレギュレートまたダウンレギュレートする)ことによって作成することができる。これに加えて、あるいはこれに代えて、動物モデルは、R2R
1/2遺伝子の発現を妨害することによって作成することができる。前述のように、本明細書において、多くのヒトおよびマウスR2R
1/2遺伝子/タンパク質の配列の開示は、当業者が、in situで動物モデルを作成するためにこれらの配列を容易に操作/調節することができることを確実にする。例えば、“ノックアウト”動物、すなわちR2R
1/2遺伝子配列の発現が低下するかまたは実質的に除去された動物を作成することができる。このようなモデルは、本明細書に記載の疾患および/または障害の治療に潜在的に有用な薬物の効果を試験するために、かつ/または特定の遺伝子の機能または役割を決定するために有用である。あるいは、R2R
1/2遺伝子/タンパク質の発現がアップレギュレートされた動物モデルもまた作成することができる。このようにして、アップレギュレートされたR2R
1/2遺伝子/タンパク質発現の抑制を目的とした薬物の有効性および機能を試験することができる。これらの動物におけるアップレギュレートされたR2R
1/2遺伝子タンパク質発現の効果を研究することもまた可能である。
【0051】
他の実施形態において、そのタンパク質の活性に変化を生じさせ、特定のドメイン、アミノ酸などの機能を解明するのに役立てるために、R2R
1/2遺伝子配列に、置換、付加、欠失および/または逆位を導入することができる。これに加えて、あるいはこれに代えて、ノックアウト動物、例えば前述のノックアウト動物は、本明細書に記載の遺伝子配列のいずれかによってトランスフォームされることができる。このことは、バリアントもしくは変異R2R
1/2遺伝子の効果または前記バリアントもしくは変異配列の発現もしくは機能を抑制することができる薬物もしくは化合物の有効性が研究される場合に特に有用である。
【0052】
表1.野生型およびVegf120/120ノックアウト抗サイトケラチン4-5-6-8-10-13-18染色細胞におけるE16.5での示差的遺伝子発現のSAM分析における遺伝子のトップリストの中のRIKEN cDNA 2200001I15 geneおよびRIKEN cDNA 2310002J15 gene
【0053】
表2.野生型およびVegf120/120ノックアウトGS-IB
4染色細胞におけるE16.5での示差的遺伝子発現のSAM分析における遺伝子のトップリストの中のRIKEN cDNA 2200001I15 geneおよびRIKEN cDNA 2310002J15 gene
【0054】
表3.胎齢およびVegf遺伝子型状態による胚の分布
wt/wt=ホモ接合型野生型(Vegf+/+)、120/wt=ヘテロ接合型Vegf120/+、120/120=ホモ接合型Vegf120/120ノックアウト(NG=胎生学的形態が不十分なため遺伝子型が決定されなかった)
【0055】
概論
VEGFマウスノックアウトモデルにおいて、R2R遺伝子、転写物およびそれぞれのタンパク質を見出した。Vegf120/120ノックアウトマウスは、Vegf
164およびVegf
188アイソフォームを産生することができない(Vegf
164はヒトVEGF
165のホモログである)。Vegf120/120ノックアウトマウスの肺は出生時に発育不全であり、Vegf120/120ノックアウト胚の肺において末梢気道および血管分化は重度の障害を受ける。ゲノミクスアプローチによって、マウスにおけるVegf
164およびヒトにおけるVEGF
165は、大変特殊な遺伝子発現プログラムを駆動するという発見がもたらされた。このプログラムは2つの構成要素からなる。第一構成要素は、気道上皮の基底細胞の(再)生成である。基底細胞は、少なくとも近位気道の細胞集団の起源である。基底細胞はまた、ヘミデスモソームおよび局所接着結合を築くことによって強固な細胞間結合を生じさせる。基底細胞は、中間径フィラメントタンパク質KRT14およびKRT5によってそれらの細胞内構造を強化する。これらの2つのタンパク質は(ヘミ)デスモソームへ接着される。
【0056】
第2構成要素は分化プログラムである。これは、気道を覆う細胞の’強化プログラム’(’扁平分化’)である。これらの細胞は、出生時に頑丈である必要がある。なぜなら、これらの細胞は機械的ストレスおよび高レベルの酸素にさらされるからである。細胞構造を強化するタンパク質ファミリーによってこの強化が可能となる。このタンパク質ファミリーは、中間径フィラメント群とそれらの中間径フィラメントを強化するタンパク質(SPRRタンパク質、LOR、HRNRなど)とからなる。これら2つのプログラムは、‘角化細胞分化’、‘表皮細胞分化’、‘中間径フィラメント再構成’、‘コーニファイドエンベロープ’、’角化細胞分化’、‘細胞骨格リモデリングケラチンフィラメント’のみだしで要約することができる。
【0057】
ヒトにおいて損傷を受けた肺の再生のためにVEGF
165タンパク質を使用することは魅力的ではあるが、VEGFAおよびVEGF
165は、この生物体における大変多様なプロセスの重要な調節因子である。故に、VEGFAまたはVEGF
165の投与は、副作用が多すぎるであろう。
マウスにおけるVegf
164およびヒトにおけるVEGF
165によって駆動される遺伝子発現プログラムにおいて、2つの新規遺伝子(R2R
1およびR2R
2)を見出した。これらの新規遺伝子、それらの転写物および翻訳されたタンパク質は、基底および扁平遺伝子発現プログラムの遺伝子およびそれらの下流産物には関連しない。
これらの遺伝子が基底および扁平分化プログラムの重要なモジュレーターであることを明らかにするために実験を試みた。これらの実験の最も重要な発見の1つは、これらの遺伝子が細胞におけるHIF1αおよびPERP発現の重要なモジュレーターであることである。我々の実験において、R2R遺伝子は正の調節因子であり、この機構を妨害することによって、癌治療の治療の可能性が開かれる。
【0058】
材料および方法
マウス胚および組織調製
すべての動物実験は、ライデン大学医療センターの動物倫理委員会(Animal Ethics Committee of Leiden University Medical Center)に承認され、NIHによって発表された実験動物の管理と使用に関する指針(Guide for the Care and Use of Laboratory animals)に従って行った。ヘテロ接合型Vegf+/120マウスを交配させてVegf120/120胚およびVegf+/+野生型同腹子を得た。膣栓が認められた日の午前を胎生0.5日目(embryonic day(E)0.5)と定義した。頸椎脱臼によって妊娠雌を屠殺した。E12.5、14.5および16.5胚を滅菌PBS中に分離した。RNアーゼ不含条件下で胚の胸郭を注意深く切開し、組織冷凍培地(tissue freezing medium)(TBS、Triangle Biopmedical Sciences社、ダラム、ノースカロライナ州)中に入れ、凍結し、-80℃で保存した。胎齢および母親由来に従った胚の分布を表S1に示す。
クリオスタット切片(8μm)を切り、SuperFrost Plus顕微鏡スライド(Menzel Gmbh&Co KG、ブラウンシュヴァイク、ドイツ)に接着させた。種々の胎齢の胚の胸郭の切片化およびさらなる免疫組織化学処理は無作為に行った。
【0059】
免疫組織化学およびレーザー捕捉マイクロダイセクション
心臓の両心室レベル断面において、各胚の胸郭から3つの組織切片を選択した。これらを1バッチで免疫組織化学的に処理した。-80℃フリーザーから取り出してから2分の間に、スライドを冷アセトン(4℃)中に入れてクリオスタット切片を固定した。すべてのさらなる免疫組織化学ステップを4℃で行い、すべての緩衝液および抗体溶液を4℃に保った。所望の緩衝液でRNAsecure(25x、AM7006、Ambion社、テキサス州)を1xに希釈することによってRNアーゼ不含PBSまたはD-PBS緩衝液を調製した。すべての抗体溶液はPBSで調製したが、イソレクチンGS-IB
4複合体はD-PBSで希釈した。最終濃度1U/μlでSuperase.In(AM2696、Ambion社、オースティン、テキサス州)を各抗体溶液に加えた。スライドを風乾し、撥水ペン(hydrophobic barrier pen)で組織切片を境界線で囲んだ。冷金属ブロック(4℃)上にスライドを乗せた後、PBS30μlを各組織切片に塗布し、水気を切った。続いて、濃度10μg/100μlのマウス抗pan keratin(4、5、6、8、10、13、18)モノクローナル抗体(MAB1636、Chemicon社)30μlを試料に滴下した。2分後に抗体溶液を切り、組織切片をPBS250μlで穏やかにリンスした。次いで、濃度10μg/100μlのAlexa-fluor-488ニワトリ抗マウスIgG(H+L)複合体(A21200、Invitrogen社、カリフォルニア州)30μlを2分間塗布し、次いで再度PBS250μlで穏やかに洗浄した。最後に、濃度10μg/100μlのイソレクチンGS-IB
4 Alexa Fluor 594複合体(I21413、Invitrogen社、カリフォルニア州)30μlでの2分間の染色の第3サイクルによって染色手順を完了させた。組織切片を室温で75%EtOH(30秒)、95%EtOH(30秒)、100%EtOH(30秒)、100%EtOH(120秒)、キシレン(180秒)で脱水した。脱水ステップの直後に、Veritas Microdissection Instrument(Arcturus Bioscience社、マウンテンビュー、カリフォルニア州)でレーザー補足マイクロダイセクションを行った。我々は、心臓の両心室レベル断面における3つの組織切片の胚肺における肺内気道または血管から3x300〜400細胞(3連試料で)を切開した。マウス抗pan keratinモノクローナル抗体/ニワトリ抗マウスIgG Alexa-fluor-488複合体からの細胞染色は、緑色蛍光性細胞として同定された(青色フィルター)。これらの緑色蛍光性細胞は気道上皮細胞(ker+細胞)を示し、それらの近位または遠位気道形態にかかわらず、無作為に切開した。イソレクチンGS-IB
4 Alexa-fluor-594複合体の細胞染色は赤色蛍光性細胞(緑色フィルター)として同定される。これらの細胞を、内皮の特徴を有する間葉細胞(il+細胞)と定義した。3つの胚時点(E12.5、14.5、16.5)では、両方のマーカーに関する細胞の染色は観察されなかった。実際、緑色および赤色蛍光性細胞は、互いにポジ像/ネガ像として観察することができた。マイクロダイセクションされたker+またはil+細胞は、0.14M β-メルカプトエタノールおよびポリイノシン酸(Sigma社)200ngを含むRNeasy溶解緩衝液(RLT;Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)75μlで充填されたGene Ampチューブ(Applied Biosystems社、フォスターシティ、カリフォルニア州)中に採取された。
【0060】
RNAの単離、増幅、標識およびマイクロアレイハイブリダイゼーション
レーザー捕捉された試料を42℃で20分間インキュベートし、次いで氷冷した。さらなる処理まで試料を-80℃で保存した。解凍後、等容量の70%エタノールを各試料に加え、次いでRNeasy MinEluteスピンカラム(Qiagen社)に移した。製造業者の使用説明書に従ってRNAをクリーンアップし、RNアーゼ不含水14μlで溶出し、真空乾燥によって4μlに調整した。十分な量のcRNAを生成させるためには、2ラウンドのリニアmRNA増幅が必要であった。2サイクルcDNA合成およびビオチン標識cRNAの合成は、GeneChip Eukaryotic Sample and Array Processing Manual(Affymetrix社、サンタクララ、カリフォルニア州)に従って行った。“スパイクイン(spike-in)”対照として、GeneChip Poly-A RNA対照キット(Affymetrix社)を用いた。MEGAscript T7キット(Ambion社、オースティン、テキサス州)を用いて、増幅の第1ラウンドにおいて第2cDNA鎖のin vitro転写を行い、aRNA 112〜457ngを得た。第1ラウンドのaRNA100ngから出発して増幅の第2ラウンドを行い、GeneChip in vitro転写(IVT)標識キットを用いてcRNA 11〜86μgを得た。標識RNAをマウスゲノムMG-430_2.0 GeneChipアレイ(Affymetrix社)にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションは、ビオチン標識RNA12.5μgを用い、連続回転下45℃で16時間行った。アレイは、Affymetrix Fluidicsステーションにおいてストレプトアビジン-フィコエリスリン(SAPE)を用いて染色し、次いで抗ストレプトアビジン抗体および二次SAPE染色で染色した。続いて、アレイをAgilent Laserscanner(Affymetrix社)で走査した。
【0061】
統計解析
Affymetrixプローブレベルデータは、FARMS(マイクロアレイロバスト集約のための因子分析)(Factor Analysis for Robust Microarray Summarization)
1を用いて集約した。生の強度値をlog
2変換して正規分布するデータを得た。第1に、高次元データ(n遺伝子対p試料)の複雑さを低減するために、教師なし多変量射影法(unsupervised multivariate projection method)であるスペクトルマップAnalysis
2を適用した。Spectral Map Analysisは、データセット中に存在する遺伝子および被験者の主クラスターのバイアスのない同定を提供する。第2に、LIMMA(マイクロアレイデータのための線形モデル)(Linear Models for Microarray Data)
3において、2つの細胞起源間の示差的遺伝子発現(ker+細胞対il+細胞)の試験を行った。なぜなら、この方法は遺伝子全体の情報を用いるため、少数のアレイを用いる実験であっても解析が安定に進められるからである
3。第3に、再度LIMMAを用い、Vegf120/120ノックアウトと野生型同腹子との間の、胎齢を通じた発現プロファイルにおける差異を、Vegf遺伝子型と時間の二要因交互作用を通じて試験した。E12.5およびE14.5のデータをプールした。なぜなら、我々は、E16.5とE14.5およびE12.5の時間プロフィールの相違に唯一興味を持っていたからであった。この試験は、ker+およびil+試料に関して別々に行った。なぜなら、これらの2つの組織は同じ胚由来であったからである。LIMMAなどのモデルは、すべての試料が無作為に独立して採取されたと仮定する。もしker+およびil+が同時に解析されたとすれば、この依存状態の補正のために、複雑すぎるモデルを必要としただろう。組織型の単一の相互作用からのゲノム多様性(ker+試料対il+試料)もまたLIMMA解析によって担保されていない。全ゲノムに沿った示差的発現の割り付けは、MACT(Microarray Chromosome Analysis Tool)を用いて行った。
【0062】
結果/考察
出生時には、肺において、O
2およびCO
2は、遠位気道および血管の広い界面の全域で交換される必要がある。マウスにおける胚肺発生は、E(=妊娠後日数)16.5に著しい変化をうける
1。この時点において、絡み合った気道および脈管枝は、それらの遠位枝を増殖させ精密化させることによって急速に成長する。遠位気道または呼吸管は、出生前に薄肉の小嚢に再分裂することによって増殖する。これらの小嚢は、結局、出生後に肺胞へと分化する
2。薄肉の気道は、ガス輸送を容易にするために平らな細胞を必要とする。従って、E16.5ごろに生じる平らな気道細胞への表現型分化は、胚肺発生において非常に重要な段階である。気道を覆う上皮細胞は、分枝中の前腸中胚葉由来のものである。E16.5から、遠位気道における上皮細胞は平らになることを開始するが、近位細胞はそれらの円柱状の形状を失わない。これらの細胞の最も遠位は、E18.5までには小嚢および肺胞を裏打ちし、平らなまたはさらには扁平な形態を発生させる。毛細血管は平らな内皮細胞で覆われ、脈管枝の遠位血管の役を果たす。肺血管を覆う内皮細胞は中胚葉間葉由来である。それらの増殖は、出生時にガス交換を開始するための広い肺胞毛細血管界面を提供するために、それらの上皮カウンターパートの増殖に密接に調和する必要がある。内胚葉由来気道上皮と周囲の中胚葉間葉との間の相互クロストークは、初期肺形態形成時に開始される
3,4。E9.5に開始され、周囲の中胚葉における間葉細胞によって産生されるFgf10は、内胚葉分枝の最も重要な合図である。少なくともShh、Bmp、TGF-βおよびWntシグナル伝達因子との密接な相互作用は、この初期の分枝機構を調節する。しかしながら、E16.5における、その後の細胞の表現型の変化および上皮-内皮クロストークを支える分子機構はあまりわかっていない。
【0063】
E12.5後の、後期肺分化へのさらなる洞察を得るために、我々は、発生中の気道における上皮細胞のレーザー捕捉マイクロダイセクションのためのRNAにやさしい(RNA-friendly)免疫組織化学染色プロトコルを開発した。種々の胎齢において共通の上皮抗原を共有する気道細胞から単離されたRNAの下流遺伝子発現プロファイリングは、それらの経時的な転写変化を際立たせると我々は推論した。このプログラムは、少なくとも、上皮の特徴、好ましくは肺気道型の上皮の特徴を反映するであろう。同じ仮定を、種々の胎齢で普遍的に発現される内皮マーカーを選び出して肺細胞に関して試験した。さらに、後期異常肺分枝形態形成を有するマウスノックアウトモデルをこのアプローチに組み込んだ。我々はVegf120/120モデルを選択した。なぜなら、これらのVegf120/120ノックアウト胚肺において、末梢気道および血管の分化
5,6,7は著しく障害を受けるからである。野生型の上皮および内皮細胞は、それらのVegf120/120ノックアウトカウンターパートにおいては欠けている1組の気道および血管分化遺伝子を発現すると予想された。Vegf120/120マウスは、VEGF-Aアイソフォーム164および188を欠くが、なおアイソフォーム120を発現する。VEGF-Aアイソフォーム164および188(Vegf
164およびVegf
188)は、より可溶性なVEGF120バリアントよりも細胞外マトリックスにより強固に結合し、遠位気道あたりに局所的に集中している。標準的な見解では、肺上皮細胞はこれらのVEGF-Aアイソフォームを分泌し、それによってVegf
164およびVegf
188は、受容体型チロシンキナーゼFlk1(VEGF受容体-2)およびFlt1(VEGF受容体-1)の刺激を介して肺内皮細胞の局所増殖を促進すると述べられている。内皮細胞の局限された増殖は肺脈管枝を精密化し、上皮細胞の調和した増殖を可能にする
8,9。この上皮-内皮クロストークは、遠位気道の肺胞と肺脈管構造の毛細血管との間の密な結合の形成によって出生時におけるガス交換を可能にする。しかしながら、このタイプの相互作用は、遠位気道上皮細胞の周囲の間葉細胞におけるVEGF-Aの存在を説明することができない。
【0064】
E12.5、E14.5およびE16.5において分離された胚の胸郭から切り出された凍結組織切片に免疫組織化学染色を行った(
図2)。この胚のゲノム分布を表S1に示す。我々の研究の胎生の時間枠において、結合上皮または内皮抗原に結合して十分なバンド幅を示す抗体を我々は選択した。気道を覆う上皮細胞(ker+細胞)の標識のために、抗サイトケラチン(サイトケラチン4、5、6、8、10、13および18に対する)を選択した。なぜなら、原始および分化した上皮細胞は、種々のケラチンの中間径フィラメントを全身的に発現するからである。同じ組織切片における内皮細胞は、マウスにおける初期
10および後期内皮細胞
11,12(il+細胞)に結合するイソレクチンGS-IB
4(グリフォニア・シンプリシフォリア(Griffonia simplicifolia))Alexa-fluor-594複合体で染色した。両方の免疫組織化学マーカーに関する細胞染色は、3つの胚時点では観察されなかった。レーザー捕捉マイクロダイセクションによって300〜400個のker+およびil+細胞を選択的に分離した。2ラウンドのリニアmRNA増幅によって、Affymetrix Mouse 430_2.0 Genechipsへのハイブリダイゼーションのために十分なcRNAが得られた。
【0065】
第1に、我々は、胎齢および上皮起源対内皮起源に関して下流遺伝子発現プロファイリングが分化を反映しているかどうかを試験した。予備的な、遺伝子発現データの教師なし解析によって、胎児の発育中の遺伝子発現変化は、データセット中の最大変動量(35%)を説明することが明らかとなった。この変動量は、スペクトルマップの第1主構成要素(x軸またはPC1)においてよく図解されている
13(
図3)。3つの胎生期にわたる最も強い発現変化を示す遺伝子は、x軸の極値に位置する。これらの遺伝子の1つであるサーファクタント関連タンパク質C(Sftpc)は、胚発生中に重要な生理的アップレギュレーションを示すことが知られており、出生時における正常な呼吸のために十分な量のそのタンパク質生成物が必要である
14,15。データセット中の変動量の他の17%を説明する第2主構成要素(y軸またはPC2)は、細胞起源における遺伝子発現の差異に帰属させることができた。PC2軸上の最も極端なプローブセットのいくつかは、肺上皮または内皮のいずれかに高度に特徴的であることが知られている遺伝子を表す。最も極端な8つのプローブセットの中で、例証となる内皮遺伝子としてCD93抗原(CD93)
16およびクローディン5(Cldn5)
17を、そしてy軸の反対側に、顕示的な上皮遺伝子としてフォークヘッドボックスA1(Foxa1)
18およびケラチン8(Krt8)
19を我々は同定した。スペクトルマップ上に種々の試料を重ね合わせることによって、最初の2つの主構成要素に沿ったそれらの分布が示された。ker+群とil+群は、PC2に沿ったそれらの細胞起源に従って明確に分離された(
図3)。ker+試料は上皮型遺伝子方向に一群を構成し、il+試料は内皮型遺伝子方向に集まった。同じ胎齢では、両方の細胞起源はPC1上に集まった。このことは、上皮(ker+)細胞および内皮(il+)細胞に関して、全般的な発生上の遺伝子発現変化は同様であることを示している。教師なしデータで駆動される解析を適用するとき、全体として、細胞起源(ker+細胞対il+細胞)および胎齢に関して試料は群れを成す。スペクトルマップ解析は、選択的レーザー捕捉マイクロダイセクションが遺伝子発現プロフィールの優れた解答を示したことを強調している。試料の組織起源(ker+対il+)の影響の独立した教師あり1変量(遺伝子ごとの(gene-by-gene))解析によって、ker+細胞およびil+細胞は、それぞれゲノムレベルで上皮または内皮細胞に対応することがさらに確認された(
図1)。
【0066】
次に、Vegf120/120ノックアウト表現型における異常分枝形態形成と関連する転写プロフィールをil+細胞およびker+細胞において図表にした。あらゆる遺伝子に関して、Vegf120/120ノックアウトと野生型(Vegf+/+)同腹子との間で、胎齢を通じてその発現プロフィールが顕著に異なるかどうかを我々は試験した。Vegf+/+とVegf120/120との間の胎齢依存性発現プロフィールにおけるこの差異は、ゲノムロードマップを3つの方向に広げた。Vegf+/+遺伝子型においてのみ胎齢を通じて明確なアップレギュレーションを示すことが同定されたいくつかの遺伝子、例えばHmrが存在した(
図2)。Vegf120/120遺伝子型は、その胎齢依存性誘導において障害を示した。
【0067】
第1に、Vegf120/120ノックアウト肺の気道における構造的欠損の原因が明確になった。野生型ker+細胞は、そのVegf120/120ノックアウトカウンターパートと比較して、E16.5において、余剰の44の上皮特異的遺伝子を強く発現していた。上皮分化複合体(Epidermal Differentiation Complex)(EDC)遺伝子群がこの発現プロフィールに優位を占めていた(
図4)。このEDCサブセットの中にはS100a8およびS100a9が表れたが、これらはVEGF-A応答性
20化学誘引物質として知られている。EDCの他のエレメント、例えば、small proline rich region(Sprr)遺伝子および上皮角化エンベロープの後期成分も存在していた。このEDCサブセットと共に細胞骨格ケラチンKrt2-6が野生型ker+細胞においてE16.5で同時発現していた。セリン-システインプロテイナーゼインヒビターおよびSCC(重層上皮系‐分泌タンパク質遺伝子)複合体の3つの遺伝子によってアップレギュレートされた遺伝子のコホートが完成した(
図4)。
【0068】
野生型il+細胞における胎齢と遺伝子型との間の相互作用の研究によって、E16.5における限定されたセットの遺伝子の強いアップレギュレーションが再度明らかになった。この応答は、Vegf120/120ノックアウト細胞と比較して、E16.5での野生型il+細胞において、上皮特異的形質転換プログラムの採用を導いた。野生型ker+細胞の場合のように、EDCクラスター、SCCクラスター、システインプロテイナーゼインヒビターおよび排他的なケラチン遺伝子は、胎齢を通じて明確にアップレギュレートされた。Dsc1遺伝子に対応するRiken1110020A10は、E16.5に、野生型il+細胞において強くアップレギュレートされた。さらにまたPkp1(プラコフィリン1)は、E16.5に同一の転写プロフィールを示した(
図5)。高度に論理的なパターンが、これらの遺伝子のクラスターを形成したアップレギュレーションを駆動したと思われた。ケラチンは、細胞、最も一般的には上皮細胞に構造的強度を与える中間径フィラメントタンパク質である
21。EDCおよびSCCクラスターによってコードされるタンパク質ならびにセリン-システインプロテイナーゼインヒビターは、このケラチンネットワークを強化する。Dsc1(デスモコリン1)は、デスモソームを形づくるタンパク質の1つをコードする
22,23。中間体ケラチンフィラメントは、ギャップおよび接着帯と共に細胞結合を形成する細胞間デスモソームに結合される。Pkp1によってコードされるタンパク質は、とりわけ、デスモソームタンパク質含量の正の調節因子であり
24,25、デスモソーム複合体自身の構成要素である。Pkp1はまた、接着帯のカドヘリンタンパク質に中間体ケラチンフィラメントを連結する。これらの結果は、VEGF-Aアイソフォーム164および188による受容体チロシンキナーゼ刺激を、肺におけるデスモソーム/中間径フィラメント機構のアセンブリにおけるマスタースイッチとして明らかにしている。この機構は、細胞骨格および細胞間構成においてWnt/β-カテニン依存性接着帯(E-カドヘリン)の上部にもう1つの構築ブロック加える。実際、野生型il+細胞におけるE16.5でのEps8l1のアップレギュレーションは、中間径フィラメント系に類縁性のない重要構造タンパク質であるアクチンの直接阻害さえ明らかにした。これらの細胞骨格およびデスモソーム遺伝子の調和し、クラスターを形成した発現は、遠位気道における平らなまたは扁平な細胞構造の形成を可能にする。
【0069】
第2に、特定の構造タンパク質をコードする遺伝子の活性化に加えて、興味ある発見は、E16.5での野生型il+細胞におけるMapkapk3のアップレギュレーションであった。Mapkapk3は、ストレスおよびマイトジェン応答、例えば内皮細胞のVEGF-A刺激において、ERKおよびp38シグナル伝達
26経路を統合する。Ink4b-ARF-Ink4a腫瘍抑制因子遺伝子座の一部であるCdkn2b(p15ink4bまたはInk4b)が同時にアップレギュレートされた。重要な根拠により、関連するポリコーム群(Pcg)リプレッサー複合体によるこの遺伝子座の抑制が示されている。Mapkapk3
27の活性化または過剰発現によるPcg複合体の解離によって、この遺伝子座の抑制解除が行われる。細胞周期におけるこのブレーキペダルによって、増殖刺激の間の分化が可能になるが
28、in vivoでは今回初めて明らかにされた。実際上、il+細胞の上皮トランスフォーメーションを可能にする細胞周期停止は、肺においてはVegf
164およびVegf
188依存性である。興味あることには、Krt5、Krt14およびTcfap2cのアップレギュレーションは、気道上皮における基底細胞前駆細胞の発現フィンガープリントに著しく類似している
29。基底細胞表現型は、肺気道上皮において出生時にのみ出現し、一般的にはイソレクチンに結合する。他方では、Krt1、EDCおよびSCCクラスター遺伝子の発現は扁平分化プログラムである。タンパク質ΔNp63およびTAap63は、それぞれケラチン前駆細胞および扁平分化プログラムを駆動する。これら2つのタンパク質をコードするTrp63遺伝子は、野生型il+細胞においてアップレギュレートされていた。上記のように、抗サイトケラチン(抗4、5、6、8、10、13、および18)ならびにイソレクチンGS-IB
4の両方に関する細胞の染色は、研究された時点では観察されなかった。抗サイトケラチン抗体によるKrt1およびKrt14結合の欠如は、従って、E16.5での野生型il+細胞の特異的上皮トランスフォーメーションプログラムの同定を可能にした。ker+上皮細胞がこの上皮転写プログラムを生じることはありそうもない。これには、抗サイトケラチン抗体が、ker+標識を回避するために、結合能を消失する必要があるだろう。同時に、ker+細胞は、排他的なイソレクチンGS-IB
4染色を受けなければならないだろう。結果として、肺il+細胞は、E16.5において上皮成熟へと発生する細胞のリザーバーを含んでいることを我々は提案する。言い換えれば、肺間葉il+細胞は、内皮能および上皮能を有する細胞を含む。
【0070】
第3に、Affymetrixプローブ 1437019_at (RIKEN cDNA 2200001I15遺伝子)で表される遺伝子およびAffymetrixプローブ 1437145_s_at (RIKEN cDNA 2310002J15遺伝子)で表される遺伝子は、共に、野生型抗サイトケラチン4-5-6-8-10-13-18染色上皮細胞および野生型GS-IB
4結合細胞において、E16.5にアップレギュレートされていた。我々は、これら2つの遺伝子が(生物学的注釈を欠くが)、扁平および基底細胞転写プログラムとぴったり同時発現しているのを見出した。それらは、分化した気道細胞の産生および再生に重要な役割を果たしている(
図6、
図7、表1、表2)。配列決定したクローンから構築された最も長いコンティグから出発して、我々は、RIKEN cDNA 2200001I15遺伝子転写物のヒトホモログ(
図8)およびRIKEN cDNA 2310002J15 遺伝子転写物のヒトホモログ(
図10)を見出した。さらにまた、タンパク質配列のアラインメントによって、RIKEN cDNA 2200001I15 遺伝子の翻訳タンパク質のヒト相同タンパク質(
図9)およびRIKEN cDNA 2310002J15 遺伝子の翻訳タンパク質のヒト相同タンパク質(
図11)の存在が確認された。これらの遺伝子およびそれらのタンパク質生成物が呼吸器系における再生機能(
regenerative function in the
respiratory system)に関与するため、我々は、RIKEN cDNA 2200001I15遺伝子、転写物およびタンパク質の哺乳動物ホモログに対してR2R
1という名称を、RIKEN cDNA 2310002J15遺伝子、転写物およびタンパク質の哺乳動物ホモログに対してR2R
2という名称を提唱する。
【0071】
第4に、野生型またはVegf120/120ノックアウト状態に無関係にVEGF-Aがker+細胞およびil+細胞において発現されることを我々は見出した。さらに、VEGF受容体1をコードする遺伝子(Flk-1またはKdr)は、il+細胞において多量に発現されたばかりでなく、ker+細胞においてもE14.5には顕著に増加した。VEGF-AおよびVEGF受容体の発現のこのパターンは、肺上皮からのVEGF-A刺激を受動的に待つという間葉の古典的観点に異議をはさむものである。このことは、内皮細胞の生存において、内因性VEGF-Aの発現およびオートクリンシグナル伝達の必要性を表明する最新の研究と本質的に一致している
30,31。野生型il+細胞対Vegf120/120ノックアウトil+細胞のゲノムフットプリントから、il+細胞は上皮トランスフォーメーション刺激を送ることに関与する細胞であることもまた明らかとなった。E16.5での野生型il+細胞におけるFgfbp1、Lgals7、Lgals3およびIl18のアップレギュレーションはこれらの刺激に相当した。線維芽細胞増殖因子結合タンパク質1をコードする遺伝子(Fgfbp1)のアップレギュレーションは、原始FGF制御肺の発芽もまた、肺分化の最終段階において活動中であることを示している。Fgfbp1はFGF2を濃縮ことによって作用し、間葉からのFGF刺激に応答する上皮組織の増殖および分化の繊細な調節因子である。この点において、FGF受容体2遺伝子(Fgfr2)は、ker+およびil+コンパートメントにおいて豊富に発現されていた。
【0072】
要約すれば、種々の胎齢において、特異的マーカーを共有する細胞の選択的レーザー捕捉マイクロダイセクションを行った。これによって、胎齢、細胞起源およびVegf遺伝子型に関する遺伝子発現プロフィールの区別が可能になった。このアプローチによって明らかにされた転写プログラムは、肺構造の精密化における中間径フィラメントおよびデスモソームネットワークの重要性を際立たせた。この機構は、細胞骨格および細胞間構成においてWnt/β-カテニン依存性接着帯(E-カドヘリン)の上部にもう1つの構築ブロック加える。中間径フィラメントは、大量の機械的ストレスおよび酸化ストレスにさらされる細胞に必要な強度を提供する。驚くことではないが、肺細胞は、同じ攻撃にさらされる皮膚細胞と同じ防御ゲノムプログラムを採用する。細胞骨格の複雑化と並行して、胎生後期にil+細胞によって基底細胞前駆細胞プログラムが必要とされ、これはVegf164-188依存性である。
【0073】
FAM25ファミリーのダウンレギュレーションおよびC9orf169遺伝子発現のダウンレギュレーションによってKRT14の発現が低下することを我々は明らかにした。さらにまた、我々は、FAM25ファミリー(ヒトR2R
1ホモログ)およびC9orf169(ヒトR2R
2ホモログ)の発現がVEGFA/VEGF
165によってアップレギュレートされることを知っている。これらの遺伝子は、VEGFA/VEGF
165経路においてどのように作用するのであろうか。この経路におけるR2Rホモログの特異的役割を明らかにするために、R2RホモログのsiRNAによるノックダウンを用いることができる。実際、R2Rホモログの役割は、細胞におけるVEGFA/VEGF
165応答を調節することである。VEGFAおよびVEGF
165アイソフォームの基礎発現は肺上皮において高い。上皮の機能および構造は、その内皮カウンターパートよりもはるかに複雑である。従って、内皮において’発達させ増殖させる’典型的なVEGFA/VEGF
165効果は、内皮においてより精密化される必要がある。このことは、どのようにして実現されるだろうか。R2Rホモロ
グの発現は、HIF1Aシグナル伝達(酸素耐性を付与する)および特異的(PERP)抗アポトーシス経路の同時調節をもたらす。これによって、無制限の増殖能を付与されることなく、丈夫な上皮細胞(ストレスに対する主要な防御バリアを有する)の(再)生成を可能にする。すなわち、特異的抗アポトーシス経路の調節は、全般的なアポトーシス耐性を’許容’するものではない。全般的なアポトーシス耐性は、細胞の不死化という危険な状況をもたらすであろう。この細胞は癌細胞へと発展する。
【0074】
本研究は、特定のヒト肺疾患に新しい光を当てた。早期新生児において、新生児が未熟児で生まれた場合、後期胚肺の発達は障害を受ける。肺胞における不十分なレベルのサーファクタントタンパク質は、大グループの未熟児において重篤な呼吸窮迫をもたらす。新生児肺における界面活性剤の点滴注入は、未熟児における呼吸不全の予防および治療を助けた。しかしながら、機械的人工呼吸の高い酸素濃度および引張応力は、なお慢性肺損傷または気管支肺異形成(BPD)をもたらす。未熟児の遠位気道における進行性扁平分化は、この衰弱状態を予防することができる。中間径フィラメントネットワークおよび同期させた基底細胞プールの再補充は、特定の成人肺疾患の治癒のための研究においてきわめて重要なものであることができる。いくつかのEDCクラスター遺伝子の発現を伴う扁平表現型の採用は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を有する成人の気道における扁平化成の特徴をなす。しかしながら、侵害刺激に対するこの防御機構は、再生基底細胞の減少を伴う
32。対照的に、胚は、扁平分化プログラムを発現させると同時に、明確なロードマップによって基底細胞リザーバーを発達させることに成功している。このロードマップは、中間径フィラメントまたは基底細胞転写機構における薬理学的介入の指針として役立つ。また、肺上皮細胞の起源として形質転換il+細胞が指摘される。
【0075】
R2R
1およびR2R
2の機能的特徴
マウス胚において、中間径フィラメント遺伝子群のVEGF-A(マウスアイソフォームVegf
164=アイソフォームVEGF
165)依存性発現が確認された。これらの中間径フィラメント遺伝子の発現は、肺間葉細胞における肺上皮細胞の分化および基底細胞プログラムの発達をもたらす。
さらにまた、中間径フィラメント遺伝子のVEGF-A(マウスアイソフォームVegf
164=アイソフォームVEGF
165)依存性発現が、成人のヒト初代上皮細胞においても確認された。VEGF-AアイソフォームVEGF
165によるこれらの細胞の刺激は、中間径フィラメント遺伝子発現のアップレギュレーションをもたらす。これらの細胞における中間径フィラメント遺伝子発現は、アイソフォームVEGF
165特異的siRNAによってダウンレギュレートされる。要約すれば、中間径フィラメント遺伝子の発現は、気道の分化および再生のパラダイムとして役立つ。R2R
1およびR2R
2は、この発現プログラムにおいて特異的役割を果たす。
【0076】
R2R
1
R2R
1の発現は、マウスにおいてVEGF-A(マウスアイソフォームVegf
164=ヒトアイソフォームVEGF
165)依存性である。肺の間葉細胞(GS-IB
4陽性染色細胞)は、基底上皮細胞遺伝子発現プログラムを獲得する。R2R
1の発現は間葉上皮移行(MET)に必須である。
METにおけるR2R
1の役割は、今回、肺よりも胚組織において確認された。心臓の心室中隔の完成はMETによって達成される。マウスにおいて、R2R
1は発生中の心室中隔において強く発現されており、VEGF-A(マウスアイソフォームVegf
164=ヒトアイソフォームVEGF
165)依存性である。反対に、R2R
1発現は発生中の右室流出路においては見られない。この構造の発達はMET非依存性であることが知られている(
図12参照)。
R2R
1は、間葉上皮移行のための、マウスおよびヒトにおける候補遺伝子である。この遺伝子の発現は、METにVEGF-A(マウスアイソフォームVegf
164=ヒトアイソフォームVEGF
165)効果を生じさせる。METの逆のプロセスはEMT(上皮間葉移行)である。EMTは癌の進展および転移の本質的部分である。従って、R2R
1は、癌の生物学および治療において重要な役割を果たすことができる。
【0077】
さらにまた、in silico解析によって、R2R
1のタンパク質生成物はリボソームと相互作用するらしいことが明らかになった。科学的衝撃の他にも、R2R
1タンパク質構造とリボソームの相互作用は、癌の生物学およびMETの分野における薬物開発のための潜在的重要性を有する。
【0078】
R2R
2
R2R
2は、成人のヒト初代肺上皮細胞において大変強く発現されていることが見出された。in vitroでは、R2R
1の発現は経時的にアップレギュレートされ、VEGF-A(アイソフォームVEGF
165)依存性であることが見出された。R2R
2タンパク質生成物は、成人肺上皮の正常な分化および維持にとって重要である(
図13参照)。