【解決手段】血圧算出部6Bは脈拍信号S5に基づき時間情報CT及び脈拍情報HRを算出し、パラメータ情報PR1、時間情報CT、及び脈拍情報HRを血圧導出式に適用して測定血圧bpを算出するとともに、時間情報CT及び脈拍情報HRをパラメータ設定部20に出力する。パラメータ設定部20は時間情報CT及び脈拍情報HRに対し統計処理を実行して得られる統計時間情報及び統計脈拍情報と基本血圧情報JB1とにパラメータ演算式を適用してパラメータ情報PR1を得る。血圧算出部6Bは、遷移時間平均値tgに基づき、複数の血圧導出式である式(Y1)〜(Y3)のうち一の血圧導出式を適用して測定血圧bpを算出する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<前提技術>
(1.全体構成)
図1はこの発明の前提技術である血圧測定装置の全体構成を示すブロック図である。同図に示すように、前提技術は光電脈拍センサーであるPPGセンサー1、血圧測定部11及びディスプレイ9から構成される。
【0013】
PPGセンサー1は、発光素子から腕、指などに光を照射し、その反射光または透過光を受光素子で検出し、受光信号を電気信号に変換して脈拍を検出することにより光電脈拍信号S1(PPG信号)を血圧測定部11に出力する。PPGセンサー1の光電脈拍信号S1のサンプリング周期は100〜300Hz程度である。
【0014】
血圧測定部11は光電脈拍信号S1に基づき、血圧導出式を用いて最大血圧(値)や最小血圧(値)となる測定血圧を測定し、測定血圧を指示する血圧情報BPを出力する。ディスプレイ9は血圧情報BPの指示する測定血圧を視覚認識可能に表示する。
【0015】
このような構成の血圧測定装置はPPGセンサー1及びディスプレイ9を搭載した腕等に装着可能なCPU等を内蔵する演算ユニットに血圧測定部11の機能を持たせた例えば腕時計型のコンパクトなウェアラブル装置として実現可能である。
【0016】
(2.血圧測定部)
血圧測定部11は、ADC2、バッファ3、バッファ4、信号処理部5、血圧算出部6A、パラメータ学習部7及びタイミング制御部8から構成される。ウェアラブルな血圧測定装置を実現する場合、血圧測定部11内の上記構成部2〜5,6A,7及び8はそれぞれ、少なくとも一部はソフトウェアに基づくCPUを用いたプログラム処理によって実行される。
【0017】
ADC2は光電脈拍信号S1をA/D変換してディジタル化した脈拍信号S2をバッファ3に出力する。バッファ3は脈拍信号S2を30〜60秒周期でバッファリングして脈拍信号S3を出力する。バッファ4は脈拍信号S3を3〜5秒周期でバッファリングして脈拍信号S4を信号処理部5に出力する。信号処理部5は脈拍信号S4に対し種々の信号処理を施して脈拍信号S5を血圧算出部6Aに出力する。
【0018】
血圧算出部6Aは脈拍信号S5に基づき時間情報CTを算出し、受信したパラメータ情報PRと時間情報CTとを後述する血圧導出式に適用して測定血圧を算出する。すなわち、血圧算出部6Aは、バッファ4でバッファリングされた脈拍信号S4単位(3〜5秒周期)で測定血圧を算出する。
【0019】
そして、血圧算出部6Aは、測定血圧を指示する血圧情報BPをディスプレイ9に出力すると共に時間情報CTをパラメータ学習部7に出力する。なお、血圧算出部6Aはさらに脈拍信号S5に基づき脈拍を測定することにより測定脈拍をさらに算出し、測定脈拍を指示する脈拍情報HRをパラメータ学習部7に出力する脈拍測定機能を有している。
【0020】
パラメータ学習部7は時間情報CTに対し統計処理を施して統計時間情報TJを得る。そして、統計時間情報TJ及び後述する基本血圧情報JBを学習演算式に適用してパラメータ情報PRを更新し、更新したパラメータ情報PRを血圧算出部6Aに出力する。
【0021】
さらに、血圧算出部6Aは必要に応じて測定脈拍機能により脈拍情報HRを出力し、パラメータ学習部7は必要に応じて、脈拍情報HRに対して統計処理を施して統計脈拍情報PJを得、統計時間情報TJ及び基本血圧情報JBに加え、統計脈拍情報PJを学習演算式に適用してパラメータ情報PRを得る。
【0022】
タイミング制御部8はバッファ3からの脈拍信号S3の出力と、血圧算出部6Aの血圧情報BPの出力とのタイミング等を制御する。
【0023】
(2−1.信号処理部)
図2は
図1で示した信号処理部5、血圧算出部6A及びパラメータ学習部7それぞれの内部構成を示すブロック図である。同図(a)は信号処理部5の内部構成、同図(b)は血圧算出部6Aの内部構成、同図(c)はパラメータ学習部7の内部構成を示している。
【0024】
まず、同図(a)を参照して、信号処理部5の内部構成を説明する。信号処理部5は、オフセット除去部51、リサンプリング部52、ベースライン除去部53及びLPF(Low-pass filter)54から構成される。
【0025】
オフセット除去部51は、脈拍信号S4の最初の入力レベルが“0”となるようにオフセット除去処理を行い、オフセット除去後の脈拍信号S41をリサンプリング部52に出力する。リサンプリング部52は脈拍信号S41が血圧と脈拍計算に適したデータレートになるようにリサンプリング処理して脈拍信号S42を出力する。ベースライン除去部53は脈拍信号S42からベースラインとなる信号波を除去して脈拍信号S43をLPF54に出力する。LPF54は脈拍信号S43に対し遮断周波数より高い周波数の成分を除去するフィルタリング処理を行って脈拍信号S5を出力する。
【0026】
(2−2.血圧算出部)
次に、同図(b)参照して、血圧算出部6Aの内部構成を説明する。血圧算出部6Aは、ピーク検出部61、波形選択部62、波形分離部63、時間情報抽出部64A及び脈拍・血圧演算部65Aから構成される。
【0027】
ピーク検出部61は、脈拍信号S5から最大あるいは最小を示すピーク位置PKを検出する。
図3及び
図4はピーク検出部61によるピーク位置PKの検出状況を示すグラフである。
図3及び
図4の横軸はサンプル数を示しており、光電脈拍信号S1のサンプリング周波数100Hzに対応すべく、単位を(ms(ミリ秒)×10)として図示している。一方、
図3及び
図4の縦軸はスペクトル強度を示している。スペクトル強度は相対的な大きさとして示している。
【0028】
ピーク検出部61は、
図3に示す検出波形W1の脈拍信号S5が得られた場合、例えば負の方向におけるピーク位置PK1〜PK6を検出する。これらピーク位置PK1〜PK6それぞれのスペクトル強度及び時間を指示する情報を含むピーク情報JP1及び脈拍信号S5を波形選択部62に出力する。同様にして、ピーク検出部61は、
図4に示す検出波形W2の脈拍信号S5が得られた場合、例えば、負の方向におけるピーク位置PK11〜PK15を検出する。
【0029】
波形選択部62は各ピーク位置PKi間の時間距離(隣接するピーク位置PKi(PK1i),PK(i+1)(PK1(i+1))間の差分時間;以下、「ピーク間距離」と略記する。)のバラツキの大きさによって正常波形かどうかを判断し、異常波形は棄却する。
【0030】
例えば、
図3で示す検出波形W1のピーク位置PK1〜PK6間のピーク間距離はバラツキが少ないため正常波形と判定し、
図4で示す検出波形W2のピーク位置PK11〜PK15間のピーク間距離はバラツキが大きいため異常波形と判定する。
【0031】
さらに、棄却されず正常波形と認めた脈拍信号S5の波形のピーク間距離の平均値が許容範囲内であれば、当該平均値を測定脈拍pの計算用に利用可能な正常波形とし、許容範囲でない場合、以降の処理に使用することなく棄却する。なお、許容範囲として許容最小値と許容最大値とが通常設定され、平均値が許容最小値以上でかつ、許容最大値以下であれば許容範囲内となる。
【0032】
このように、波形選択部62は、受信した脈拍信号S5に対し、ピーク情報JP1に基づき、条件(1)「ピーク間距離のバラツキが異常波形でないこと」、条件(2)「ピーク間距離の平均値が許容範囲内にあること」を共に満足する脈拍信号S5を選択脈拍信号S52として波形分離部63に出力する。
【0033】
以下、波形選択部62の上記判条件(1),(2)に沿った処理を具体的に説明する。バッファ4でバッファリングされた5秒間分の脈拍信号S5において、ピーク位置PKを検出し、各ピーク間距離を算出する。例えば、ピーク距離として{t1,t2,t3,t4,t5}が得られたする。その中の最大値t_max=max(t1,t2,t3,t4,t5)、最小値t_min=min(t1,t2,t3,t4,t5)とのバラツキ差が20サンプル(光電脈拍信号S1が100Hzでサンプリングされる場合、200ms相当)以上であれば、条件(1)を満足しない異常波形として棄却する。すなわち、上述したバラツキ差が20サンプル以上ある場合、光電脈拍信号S1に基づき得られた脈拍信号S5に0.2秒以上のジッタが存在するため、異常波形と判定する。
【0034】
一方、バラツキ差(t_max−t_min)が20サンプル未満の場合、条件(1)を満足すると判定する。条件(1)を満足すると、{t1,t2,t3,t4,t5}の平均値t_meanを取り、平均値t_meanが30〜150(ms×10)(脈拍200bpm(Beats Per Minute)〜40bpm相当)内であれば、条件(2)を満足する脈拍信号S5であると判定し、当該脈拍信号S5を選択脈拍信号S52として出力し、条件(2)を満足しない場合、脈拍信号S5は棄却される。このように、波形選択部62脈拍信号S5に対し、条件(1)及び条件(2)による脈拍測定用の合格基準を課している。
【0035】
なお、波形選択部62は選択脈拍信号S52を出力する際、ピーク情報JP1のうち選択脈拍信号S52に対応するピーク情報をピーク情報JP2として併せて出力する。
【0036】
波形分離部63は選択脈拍信号S52からピーク間距離によって規定される1波長分の単一脈拍信号S53を順次抽出して出力する。なお、単一脈拍信号S53の出力に際し対応するピーク情報JP2も併せて出力される。
【0037】
時間情報抽出部64Aは受信する単一脈拍信号S53に対し、アップ時間st(上昇時間)及びダウン時間dt(下降時間)を測定する。光電脈拍信号S1における単一脈拍信号S53において、アップ時間stは上昇方向に遷移する遷移時間となり、ダウン時間dtは下降方向に遷移する遷移時間となる。
【0038】
図5は単一脈拍信号S53の波形を示すグラフである。
図5の横軸は
図3及び
図4と同様、時間単位(ms×10)で示し、縦軸はスペクトル強度を示している。
【0039】
同図に示すように、時間情報抽出部64Aは、単一脈拍信号S53の単一波形SWから、単一脈拍信号S53が正のピーク位置PKに向けて常に上昇する時間であるアップ時間st、正のピーク位置PKから常に下降する時間であるダウン時間dtを算出する。
【0040】
そして、時間情報抽出部64Aは、アップ時間st及びダウン時間dtそれぞれのバラツキが閾値以下であり、かつ、アップ時間stの平均値とダウン時間dtの平均値との比である、アップ・ダウン(平均)時間比st/dtが許容範囲内にある場合、当該単一波形SWを合格波形とし、合格波形のアップ時間st及びダウン時間dtを指示する時間情報CTとして出力する。なお、時間情報CTの出力に際し、ピーク情報JP2のうち合格波形に対応するピーク情報であるピーク情報JP4が併せて出力される。
【0041】
一方、時間情報抽出部64Aは、アップ時間st及びダウン時間dtそれぞれのバラツキが閾値を超える、あるいは、アップ・ダウン時間比st/dtが許容範囲外にある場合、当該単一波形SWは異常波形とし、異常波形のアップ時間st及びダウン時間dtは棄却され、時間情報CTとして出力されることはない。
【0042】
以下、時間情報抽出部64Aの合格波形の判定処理について具体的に説明する。時間情報抽出部64Aは、波形分離部63から一単位の脈拍信号S5から得られた複数の単一脈拍信号S53を得る。そして、時間情報抽出部64Aは、複数の単一脈拍信号S53におけるアップ時間stの最大値st_maxと最小値st_minとの差、及びダウン時間dtの最大値dt_maxと最小値dt_minの差が共に20サンプル以内の場合、かつ、複数の時間情報抽出部64Aにおけるアップ時間stの平均値st_meanとダウン時間dtの平均値dt_meanとの比st_mean/dt_mean<0.4であれば、血圧計算用の波形として合格波形とする。そして、時間情報抽出部64Aは、合格波形の複数の単一脈拍信号S53におけるアップ時間st及びダウン時間dtを指示する時間情報CTを次段の脈拍・血圧演算部65Aに出力する。
【0043】
脈拍・血圧演算部65Aは時間情報抽出部64Aより得た時間情報CT及びパラメータ学習部7より得たパラメータ情報PRに血圧導出式を適用し測定血圧(最大血圧,最小血圧)を算出し、測定血圧を指示する血圧情報BPをディスプレイ9に出力する。この際、血圧情報BPの算出に用いた時間情報CTをパラメータ学習部7に出力する。
【0044】
さらに、脈拍・血圧演算部65Aは、必要に応じて、ピーク情報JP4に指示されたピーク間距離の平均値に基づき、測定脈拍pを算出し、測定脈拍を指示する脈拍情報HRをパラメータ学習部7に出力する。なお、測定脈拍pはある期間(たとえば5秒間)内の各ピーク間距離それぞれから算出した各脈拍を平均するようにしても良い。
【0045】
(2−2−1.血圧導出式:演算モデルI)
血圧導出式における演算モデルIは、測定血圧をbp、アップ時間stの平均値stgあるいはダウン時間dtの平均値dtgである遷移時間平均値tg、パラメータ情報PRにより指示される第1及び第2のパラメータをパラメータa1及びb1としたとき、以下の式(a)で規定される。なお、平均値stg及び平均値dtgは、バッファ4でバッファリングされた脈拍信号S4に準拠した脈拍信号S5から抽出したM個の単一脈拍信号S53におけるM個のアップ時間stの平均値及びM個のダウン時間dtの平均値を意味し、脈拍・血圧演算部65A内にて求められる。
【0047】
上記式(a)は線形自己回帰モデルである。なお、例えば、バッファ4のバッファリング期間を5秒とした場合、Mは5,6個程度となる(
図3,4参照)。
【0048】
このように、血圧導出式の演算モデルIである式(a)は時間情報である遷移時間平均値tgに対応する係数であるパラメータa1(第1のパラメータ)と、定数項となるパラメータb1(第2のパラメータ)とを用いて設定されている。
【0049】
上述したように、遷移時間平均値tgとしてM個のアップ時間stの平均値stgあるいはM個のダウン時間dtの平均値dtgが用いられる。アップ時間平均値stgに基づく測定血圧bpが最大血圧(値)bpMAXとなり、ダウン時間平均値dtgに基づく測定血圧bpが最小血圧(値)bpMinとなる。すなわち、式(a)は正確には以下の式(as)及び式(ad)に細分化される。
【0050】
bpMAX=a1s・stg+b1s…(as)
bpMin=a1d・dtg+b1d…(ad)
【0051】
このように、第1のパラメータであるパラメータa1はパラメータa1s及びパラメータa1dに細分化され、第2のパラメータであるパラメータb1はパラメータb1s及びパラメータb1dに細分化される。
【0052】
(2−2−2.血圧導出式:演算モデルII)
血圧導出式における線形自己回帰モデルである演算モデルIIは、測定血圧をbp、測定脈拍をp、遷移時間平均値をtg、パラメータ情報PRより指示される第1、第2及び第3のパラメータをa2、b2及びc2としたとき、以下の式(b)で規定される。
【0053】
bp=a2・tg+b2・p+c2…(b)
上記式(b)は線形自己回帰モデルである。このように、血圧導出式の演算モデルIIである式(b)は時間情報である遷移時間平均値tgに対応する係数であるパラメータa2(第1のパラメータ)と、脈拍情報である測定脈拍pに対応する係数であるパラメータb2(第2のパラメータ)と、定数項となるパラメータc2(第3のパラメータ)とを用いて設定されている。
【0054】
演算モデルIIにおいても、演算モデルIと同様に、アップ時間平均値stgに基づく測定血圧bpが最大血圧(値)bpMAXとなり、ダウン時間平均値dtgに基づく測定血圧bpが最小血圧(値)bpMinとなる。すなわち、式(b)は以下の式(bs)及び式(bd)に細分化される。
【0055】
bpMAX=a2s・stg+b2s・p+c2s…(bs)
bpMIN=a2d・dtg+b2d・p+c2d…(bd)
【0056】
このように、第1のパラメータであるパラメータa2はパラメータa2s及びパラメータa2dに細分化され、第2のパラメータであるパラメータb2はパラメータb2s及びパラメータb2dに細分化され、第3のパラメータであるパラメータc2はパラメータc2s及びパラメータc2dに細分化される。
【0057】
上述したように、脈拍・血圧演算部65Aは、M個の遷移時間t(アップ時間st及びダウン時間dt)より求めた遷移時間平均値tg(アップ時間平均値stg及びダウン時間平均値dtg)を、式(a)(式(as)及び式(ad))あるいは式(b)(式(bs)及び式(bd))で規定される血圧導出式に適用することにより、測定血圧bp(bpMAX,bpMin)を算出することができる。
【0058】
(2−3.従来のキャリブレイション)
上述したパラメータa1及びb1、パラメータa2〜c2は測定血圧bpを導出する際の重要な値であり、パラメータの決定方法はキャリブレイションと呼ばれる。
【0059】
まず、従来のキャリブレイション方法を演算モデルIの式(a)を例に挙げて説明する。正確なパラメータa1及びb1を得るべく、被測定者は本血圧測定装置以外の実際の血圧計(リファレンス血圧計)を用いて血圧を測定してリファレンス血圧を得る必要がある。例えば、本前提技術の血圧測定装置が用いたn個の遷移時間平均値tg1〜tgnを測定すると共に、上記リファレンス血圧計を用いてn個の遷移時間平均値tg1〜tgn対応するn個のリファレンス血圧bp1〜bpnを得る。その結果、以下の式(3)(式(31)〜式(3n))に示すように、n本の連立方程式を立てることができる。
【0061】
そして、n個の遷移時間平均値tg1〜tgn及びリファレンスbp1〜bpnを式(3)に代入し、左辺(リファレンス血圧計の実測値)と右辺(式(a)により求めた測定血圧)との自乗誤差が最小となるように、LS(Least Square)アルゴリズムで計算して、最終的にパラメータa1及びb1を決定する。
【0062】
従来のキャリブレイションでは被測定者ごとに本前提技術の血圧測定装置とは別のリファレンス血圧計を使って、式(3)の連立方程式を得るべく、n回(数十回)の血圧測定を予め行う必要性がある。この必要性はウェアラブル用で手軽に血圧を測ることを主目的とした血圧測定装置の使い勝手を大幅に低下させてしまうことになる。このような従来のキャリブレイションの問題解消を図ったのが以下で述べる、前提技術の血圧測定装置におけるパラメータ学習部7及び本実施の形態のパラメータ設定部20である。
【0063】
(2−4.パラメータ学習部)
図2(c)に示すように、パラメータ学習部7は時間情報蓄積部71、パラメータ変更部72及び時間情報保存部73から構成される。
【0064】
時間情報蓄積部71は血圧算出部6Aより時間情報CTを受け、必要に応じて脈拍情報HRも受信する。すなわち、血圧算出部6Aが式(b)で規定する演算モデルIIを用いて測定血圧を得る場合は脈拍情報HRも併せて受信する。
【0065】
時間情報蓄積部71は内部に時間情報CTが指示する遷移時間t(アップ時間st及びダウン時間dt)及び脈拍情報HRが指示する測定脈拍pを統計処理に必要なK個分格納するレジスタ(図示せず)を有している。なお、Kとしては例えば“30”個程度が想定され、血圧算出部6Aによる遷移時間平均値tg用のM個より十分大きな値に設定される。
【0066】
レジスタ内にK個の遷移時間t(アップ時間stまたはダウン時間dt)及び測定脈拍pが格納されるまでは、予め設定した遷移時間t及び測定脈拍p、あるいは後述する時間情報保存部73に保存された過去の時間情報CTが指示する遷移時間t、測定脈拍pを利用して、K個の遷移時間t及びK個の測定脈拍pを準備する。
【0067】
K個の遷移時間t及び測定脈拍pが準備されると、取り込んだK個の遷移時間t(複数の遷移時間)に基づき、K個の遷移時間tにおける平均値である時間平均値tm、及び標準偏差である時間標準偏差ρ
tを求める第1の統計処理を行う。
【0068】
さらに、時間情報蓄積部71は必要に応じてK個の遷移時間tにおける最大値である最大時間t
max(時間最大値)、最小値である最小時間t
min(時間最小値)を求める第2の統計処理を行う。
【0069】
加えて、時間情報蓄積部71は、必要に応じてK個の測定脈拍pに基づき、K個の測定脈拍pにおける平均値である脈拍平均値pm、及び標準偏差である脈拍標準偏差ρ
p、最大値である最大脈拍p
max(脈拍最大値)、最小値である最小脈拍p
min(脈拍最小値)を求める第3の統計処理を行う。
【0070】
時間情報蓄積部71は、血圧算出部6Aが式(b)で規定する演算モデルIIを用いて測定血圧を得る場合は、上述した第1〜第3の統計処理を全て行い、血圧算出部6Aが式(a)で規定する演算モデルIを用いて測定血圧を得る場合は、上述した第1の統計処理のみを行う。
【0071】
これらK個の遷移時間tに基づき得られた情報(時間平均値tm、時間標準偏差ρ
t、最大時間t
max、最小時間t
min)が統計時間情報TJとなり、K個の測定脈拍pに基づき得られた情報(脈拍平均値pm、脈拍標準偏差ρ
p、最大脈拍p
max、最小脈拍p
min)が統計脈拍情報PJとなる。
【0072】
なお、上記では、第1及び第2の統計処理に用いる遷移時間tの個数と、第3の統計処理に用いる測定脈拍pの個数とを同数のK個の場合を示したが、統計処理に用いる遷移時間tの個数と測定脈拍pの個数を異なる値に設定しても良い。
【0073】
時間情報蓄積部71は、時間情報CT(必要に応じて脈拍情報HR)、統計時間情報TJ(及び必要に応じて統計脈拍情報PJ)を次段のパラメータ変更部72に出力する。
【0074】
時間情報蓄積部71はさらに外部より受信した基本血圧情報JBを他のレジスタに格納しており、基本血圧情報JBをそのままパラメータ変更部72に出力する。
【0075】
パラメータ変更部72は、時間情報蓄積部71より、時間情報CT、基本血圧情報JB、及び統計時間情報TJと、必要に応じて脈拍情報HR及び統計脈拍情報PJを受け、基本血圧情報JB、統計時間情報TJ(及び必要に応じて統計脈拍情報PJ)を学習演算式に適用して、血圧導出式用のパラメータを更新し、更新したパラメータを指示するパラメータ情報PRを血圧算出部6Aの脈拍・血圧演算部65Aに出力する。
【0076】
(2−4−1.学習演算式:演算モデルI対応)
式(a)の演算モデルIに対応する学習演算式は、以下の式(1)で規定される。式(1)は式(11)と式(12)との組み合わせにより構成される。なお、式(1)におけるSBPは基準血圧、δ
tは時間軸を基準とした基準血圧SBPの血圧変動幅δ
t(第1の血圧変動幅)であり、基準血圧SBP、血圧変動幅δ
tは基本血圧情報JBによって指示される。
【0078】
なお、時間平均値tmとして具体的にはアップ時間平均値stmあるいはダウン時間平均値dtmが用いられ、血圧導出式である式(as)に用いられるパラメータa1s及びb1sに対応して以下の式(1s)が用いられ、血圧導出式である式(ad)に用いられるパラメータa1d及びb1dに対応して以下の式(1d)が用いられる。すなわち、式(1)は正確には以下の式(1s)及び式(1d)に細分化される。
【0081】
このように、式(1)のパラメータa1は式(1d)及び式(1s)のパラメータa1s及びパラメータa1dに細分化され、式(1)のパラメータb1は式(1d)及び式(1s)のパラメータb1s及びパラメータb1dに細分化される。
【0082】
パラメータ変更部72は、上述した式(1)(式(1s)及び式(1d))の連立方程式を解法する学習処理を実行することにより、パラメータa1(a1s,a1d)及びパラメータb1(b1s,b1d)を求め、求めたパラメータa1及びパラメータb1を指示するパラメータ情報PRを血圧算出部6Aの脈拍・血圧演算部65Aに出力する。
【0083】
(2−4−2.学習演算式:演算モデルII対応)
式(b)の演算モデルIIに対応する学習演算式は、以下の式(2)で規定される。式(2)は、式(21)〜式(23)の組み合わせにより構成される。
【0085】
なお、演算モデルIIは、演算モデルI対応の場合と同様、時間平均値tmとして具体的にはアップ時間平均値stmあるいはダウン時間平均値dtmが用いられ、血圧導出式である式(bs)に用いられるパラメータa2s〜c2sに対応して以下の式(2s)が用いられ、血圧導出式である式(bd)に用いられるパラメータa2d〜c2dに対応して以下の式(2d)が用いられる。すなわち、式(2)は正確には以下の式(2s)及び式(2d)に細分化される。
【0088】
このように、式(2)のパラメータa2は式(2s)及び式(2d)のパラメータa2s及びパラメータa2dに細分化され、式(2)のパラメータb2は式(2s)及び式(2d)のパラメータb2s及びパラメータb2dに細分化され、式(2)のパラメータc2は式(2s)及び式(2d)のパラメータc2s及びパラメータc2dに細分化される。
【0089】
パラメータ変更部72は、上述した式(2)(式(2s)及び式(2d))の連立方程式を解法する学習処理を実行することにより、パラメータa2(a2s,a2d)、パラメータb2(b2s,b2d)及びパラメータc2(c2s,c2d)を求め、求めたパラメータa2、パラメータb2及びパラメータc2を指示するパラメータ情報PRを血圧算出部6Aの脈拍・血圧演算部65Aに出力する。
【0090】
(2−4−3.時間情報保存部)
時間情報保存部73はパラメータ変更部72より得た時間情報CT(必要に応じて脈拍情報HR)を内部のフラッシュメモリ等に保存する。この保存する情報した情報は、レジスタ内にK個の遷移時間t(K個の測定脈拍p)が格納されていない場合、時間情報蓄積部71の第1〜第3の統計処理に用いられる。
【0091】
(3.前提技術の効果)
このように、前提技術の血圧測定装置における血圧算出部6Aは、式(a)あるいは式(b)で規定される血圧導出式を適用して測定血圧を算出する際、パラメータ学習部7により逐次更新される最新のパラメータ情報PRを用いることにより、従来に比べ正確な測定血圧を得ることができる。この際、パラメータ学習部7は被測定者用として受ける基本血圧情報JBを利用して式(1)あるいは式(2)の連立方程式を解法する学習処理を行うため、学習処理時に被測定者に前提技術の血圧測定装置以外の血圧計を用いた実際の血圧測定を強いる等の手間を省くことができる。
【0092】
その結果、前提技術の血圧測定装置は、使い勝手がよく、従来と比較して正確な測定血圧を得ることができる効果を奏する。
【0093】
前提技術の血圧測定装置における血圧算出部6Aは、上述した演算モデルIを採用する場合、第1及び第2のパラメータであるパラメータa1及びb1並びに時間情報である時間平均値tgに式(a)で規定する血圧導出式を適用することにより、時々刻々得られる光電脈拍信号S1に基づき算出された時間平均値tgから測定血圧をリアルタイムに得ることができる。
【0094】
この際、パラメータ学習部7は、基準血圧SBP及び血圧変動幅δ
t、並びに統計時間情報TJである時間平均値tm及び時間標準偏差ρ
tに上記式(1)(式(1s)及び式(1d))で規定された学習演算式を適用する学習処理を行う。そして、パラメータ学習部7は、式(1)の連立方程式を解法してパラメータa1及びb1を適宜更新することにより、式(a)で規定される血圧導出式の信頼度を従来と比較して高く維持することができる。
【0095】
前提技術の血圧測定装置における血圧算出部6Aは、演算モデルIIを採用する場合、第1〜第3のパラメータでるパラメータa2〜c2、時間情報である時間平均値tg、及び脈拍情報である測定脈拍pに式(b)で規定される血圧導出式を適用することにより、時々刻々取得する光電脈拍信号S1に基づき算出された時間平均値tg及び測定脈拍pから測定血圧をリアルタイムに得ることができる。
【0096】
この際、パラメータ学習部7は、基準血圧SBP及び血圧変動幅δ
t、統計時間情報TJである時間平均値tm、最大時間t
max(時間最大値)、最小時間t
min(時間最小値)、時間標準偏差ρ
t、並びに統計脈拍情報PJである脈拍平均値pm、最大脈拍p
max(脈拍最大値)、最小脈拍p
min(脈拍最小値)及び脈拍標準偏差ρ
pに、上記式(2)で規定された学習演算式を適用する学習処理を行う。そして、パラメータ学習部7は、式(2)の連立方程式を解法してパラメータa2〜c2を適宜更新することにより、式(b)で規定される血圧導出式の信頼度を従来と比較して高く維持することができる。
【0097】
加えて、前提技術1の血圧算出部6Aは、アップ時間st(上昇時間)に対応する最大血圧導出式である式(as)あるいは式(bs)により最大血圧を指示する測定血圧である最大血圧(値)bpMAXを取得する。
【0098】
この際、パラメータ学習部7により、最大血圧学習演算式である式(1s)あるいは式(2s)を適用することにより、最大血圧導出式用のパラメータであるパラメータa1s及びb1sあるいはパラメータa2s〜c2sを適宜更新することにより、最大血圧導出式(式(as)あるいは式(bs))の信頼度を従来と比較して高く維持することができる。
【0099】
さらに、血圧測定部11は、ダウン時間dt(下降時間)に対応する最小血圧導出式である式(ad)あるいは式(bd)により最小血圧を指示する測定血圧である最小血圧bpMinを取得する。
【0100】
この際、パラメータ学習部7により、最小血圧学習演算式である式(1d)あるいは式(2d)を適用することにより、最小血圧導出式用のパラメータであるパラメータa1d及びb1dあるいはパラメータa2d〜c2dを適宜更新することにより、最小血圧導出式(式(ad)あるいは式(bd))の信頼度を従来と比較して高く維持することができる。
【0101】
<実施の形態>
(0.前提技術の問題点)
上述した前提技術における血圧測定装置は、従来と比較して上述した効果を達成することができる。しかし、以下に示す4つの問題点が残っている。
【0102】
(0−1.第1の問題点)
PPGの幅(アップ時間st+ダウン時間dt)は脈拍変化によって変化し、特にダウン時間dtの大きさが脈拍の変化と直結しており、脈拍の影響を強く受けてしまう。このため、ダウン時間dtに基づき最小血圧導出式(式(ad)あるいは式(bd))を適用して得られる最小血圧bpMinは、脈拍の影響を受け正確性を損ねてしまうという第1の問題点があった。
【0103】
(0−2.第2の問題点)
式(2)(式(2s)及び式(2d))に示すタイプIIの3元1次連立方程式から分かるように、アップ時間st、ダウン時間dt、及び測定脈拍pの平均値に基づく2つの式(式(2s)の式(21s),(22s)、式(2d)の式(21d),(22d)参照)と、アップ時間st、ダウン時間dt、及び測定脈拍pの中間値に基づく1つの式(式(2s)の式(23s)、式(2d)の式(23d)参照)を連立している。
【0104】
したがって、上記中間値と平均値(アップ時間平均値stm、ダウン時間平均値dtm、脈拍平均値pm、)と等しくなると、式(23)(式(23s)及び式(23d))が方程式の一つとして実質的に機能しなくなり、式(2)は実質的に二つの方程式(式(21)及び式(22))で構成されることになる。その結果、式(2)を解法しても、3個のパラメータ(a2(a2s,a2d)〜c2(c2s,c2d))の中に独立パラメータが二つしかなく、唯一性がなくなる。中間値と平均値と完全に等しくなくても接近すればするほどモデルの唯一性が薄くなる。このように、前提技術におけるタイプIIの学習演算式である式(2)は、学習状況によって正確性を損ねてしまうという第2の問題点あった。
【0105】
(0−3.第3の問題点)
前提技術で示した学習演算式において、式(1)(式(1s)及び式(1d))に示すタイプIモデルは直線、式(2)で示すタイプIIモデルは平面、ともに線形モデルである。したがって、PPG時間と脈拍の平均値を中心に、標準偏差範囲(時間標準偏差ρ
t,脈拍標準偏差ρ
p)に収まる範囲では精度良く近似できるが、その範囲外では近似性が悪くなるという第3の問題点があった。
【0106】
(0−4.第4の問題点)
パラメータ学習部7が行う統計処理(第1〜第3の統計処理)は、内部のレジスタの項数を30個程度とした2〜3分間の比較的短い学習期間で行う統計処理であるため、統計処理によって得られる情報として十分とはいえない。このため、学習演算式(式(1),式(2))を適用して得られるパラメータのばらつきが大きくなり、測定血圧の計算結果が大きくばらつく恐れがあった。このように、前提技術の血圧測定部11内のパラメータ学習部7によって得られるパラメータの信頼性は必ずしも高いとはいえない点において、測定血圧の信頼性を高く維持することができないという第4の問題点があった。
【0107】
以下で述べる実施の形態は、上述した第1〜第4の問題点の解消を図るものである。
【0108】
(1.全体構成)
図6はこの発明の実施の形態である血圧測定装置の全体構成を示すブロック図である。同図に示すように、本実施の形態の血圧測定部13は、血圧算出部6Aに代えて血圧算出部6B、パラメータ学習部7に代えてパラメータ設定部20を設けた点が
図1で示した前提技術における血圧測定部11との主要相違点である。また、パラメータ設定部20は基本血圧情報JBに代えて固定統計パラメータ情報KTP及び基本血圧情報JB1を受ける。基本血圧情報JB1内に基準血圧SBP、血圧変動幅δ
tに加え、血圧変動幅δ
pが含まれる点が基本血圧情報JBと異なっている。他の構成及び信号の授受等は
図1で示した前提技術と同様であるため、同一符号を付して適宜説明を省略する。
【0109】
血圧測定部13は光電脈拍信号S1に基づき、血圧導出式を用いて最大血圧(値)や最小血圧(値)となる測定血圧を測定し、測定血圧を指示する血圧情報BPを出力する。
【0110】
(2.血圧測定部)
血圧測定部13は、ADC2、バッファ3、バッファ4、信号処理部5、血圧算出部6B、パラメータ設定部20及びタイミング制御部8から構成される。ウェアラブルな血圧測定装置を実現する場合、血圧測定部13内の上記構成部2〜5,6B,8及び20はそれぞれ、少なくとも一部はソフトウェアに基づくCPUを用いたプログラム処理によって実行される。
【0111】
血圧算出部6Bは脈拍信号S5に基づき時間情報CTを算出し、受信したパラメータ情報PR1と時間情報CTとを後述する血圧導出式に適用して測定血圧を算出する。すなわち、血圧算出部6Bは、バッファ4でバッファリングされた脈拍信号S4単位(3〜5秒周期)で測定血圧を算出する。
【0112】
そして、血圧算出部6Bは、測定血圧を指示する血圧情報BPをディスプレイ9に出力すると共に時間情報CT及び脈拍情報HRをパラメータ設定部20に出力する。血圧算出部6Bは、血圧算出部6Aと同様、脈拍信号S5に基づき脈拍を測定することにより測定脈拍をさらに算出し、測定脈拍を指示する脈拍情報HRをパラメータ設定部20に出力する脈拍測定機能を有している。
【0113】
パラメータ設定部20は基本血圧情報JB1及び固定統計パラメータ情報KTPを外部より受け、時間情報CT及び脈拍情報HRは血圧算出部6Bから受ける。基本血圧情報JB1は前述したように基準血圧SBP、血圧変動幅δ
t(第1の血圧変動幅)及び血圧変動幅δ
p(第2の血圧変動幅)を指示する。
【0114】
血圧変動幅δ
tは時間軸に基づく血圧変動幅であり、予め設定した時間標準偏差内における血圧変動幅であり、血圧変動幅δ
pは脈拍軸に基づく血圧変動幅であり、予め設定した脈拍標準偏差内における血圧変動幅を示している。
【0115】
パラメータ設定部20は時間情報CT及び脈拍情報HRに対し、長期統計処理を施して、長期統計時間情報LTJ及び長期統計脈拍情報LPJを得る、あるいは、短期統計処理を施して短期統計時間情報STJ及び短期統計脈拍情報SPJを得る。そして、統計時間情報TJ(LTJあるはSTJ)、統計脈拍情報PJ(LPJあるいはSPJ)及び基本血圧情報JB1を学習演算式に適用してパラメータ情報PR1を設定し、設定したパラメータ情報PR1を血圧算出部6Bに出力する。
【0116】
なお、前述したように、血圧算出部6Bは血圧算出部6Aと同様、測定脈拍機能により脈拍情報HRをパラメータ設定部20に出力する。
【0117】
タイミング制御部8はバッファ3からの脈拍信号S3の出力と、血圧算出部6Bの血圧情報BPの出力とのタイミング等を制御する。
【0118】
(2−1.血圧算出部)
図7は
図6で示した血圧算出部6Bの内部構成を示すブロック図である。以下、血圧算出部6Bについて、
図2(b)で示した血圧算出部6Aと異なる点を中心に説明し、血圧算出部6Aと同様な構成及び信号の授受は同一符号を付して説明を適宜省略する。
【0119】
図7に示すように、血圧算出部6Bは、ピーク検出部61、波形選択部62、波形分離部63、血圧算出部64B及び脈拍・血圧演算部65Bから構成される。
【0120】
血圧算出部64Bは受信する単一脈拍信号S53に対し、アップ時間st(上昇時間)及び下降時ピーク間時間pt(下降時間)を測定する。光電脈拍信号S1における単一脈拍信号S53において、アップ時間stは上昇方向に遷移する遷移時間となり、下降時ピーク間時間ptは下降方向に遷移する遷移時間となる。
【0121】
図8は単一脈拍信号S53の波形を示すグラフである。
図8の横軸は
図3〜
図5と同様、時間単位(ms×10)で示し、縦軸はスペクトル強度を示している。
【0122】
同図に示すように、血圧算出部64Bは、単一脈拍信号S53の単一波形SWから、単一脈拍信号S53が正のピーク位置PKに向けて常に上昇する時間であるアップ時間st、正のピーク位置PKから次の極大値である正ピーク位置TPK2に達するまでの下降時間である下降時ピーク間時間ptを算出する。
【0123】
そして、血圧算出部64Bは、アップ時間st及び下降時ピーク間時間ptそれぞれのバラツキが閾値以下であり、かつ、アップ時間stの平均値と下降時ピーク間時間ptの平均値との比である、アップ・ダウン(平均)時間比st/ptが許容範囲内にある場合、当該単一波形SWを合格波形とし、合格波形のアップ時間st及び下降時ピーク間時間ptを指示する時間情報CTとして出力する。なお、時間情報CTの出力に際し、ピーク情報JP2のうち合格波形に対応するピーク情報であるピーク情報JP4が併せて出力される。
【0124】
一方、血圧算出部64Bは、アップ時間st及び下降時ピーク間時間ptそれぞれのバラツキが閾値を超える、あるいは、アップ・ダウン時間比st/ptが許容範囲外にある場合、当該単一波形SWは異常波形とし、異常波形のアップ時間st及び下降時ピーク間時間ptは棄却され、時間情報CTとして出力されることはない。なお、血圧算出部64Bの合格波形の判定処理は、ダウン時間dtが下降時ピーク間時間ptに置き換わった点を除き、血圧算出部64Aと同様に行われる。
【0125】
脈拍・血圧演算部65Bは血圧算出部64Bより得た時間情報CT及びパラメータ設定部20より得たパラメータ情報PR1に血圧導出式を適用し測定血圧(最大血圧,最小血圧)を算出し、測定血圧を指示する血圧情報BPをディスプレイ9に出力する。この際、血圧情報BPの算出に用いた時間情報CTをパラメータ設定部20に出力する。なお、パラメータ設定部20が後述する長期パラメータ設定処理実行後においては、時間情報CTのパラメータ設定部20への出力を省略するようにしても良い。
【0126】
さらに、脈拍・血圧演算部65Bは、ピーク情報JP4に指示されたピーク間距離の平均値に基づき、測定脈拍pを算出し、測定脈拍を指示する脈拍情報HRをパラメータ設定部20に出力する。なお、測定脈拍pはある期間(たとえば5秒間)内の各ピーク間距離それぞれから算出した各脈拍を平均するようにしても良い。
【0127】
血圧算出部64Bは、正ピーク位置TPK1以降、
図8の正ピーク位置TPK2のような極大値が存在しない場合、正ピーク位置TPK1から単一波形SWが“0”となるまでの下降時ゼロクロス時間t0xを下降時ピーク間時間ptとして用いる。
【0128】
(2−1−1.血圧導出式:演算モデルIII)
本実施の形態の血圧導出式における線形自己回帰モデルである演算モデルIIIは、前提技術の演算モデルIIと同様、測定血圧をbp、測定脈拍をp、遷移時間平均値をtg、パラメータ情報PR1より指示される第1、第2及び第3のパラメータをa3、b3及びc3としたとき、以下の式(Y)で規定される。遷移時間平均値tgは前提技術と同様、M個の遷移時間tの平均値であり、脈拍・血圧演算部65Bにて求められる。M個は5,6個程度に設定される。したがって、遷移時間平均値tgも脈拍・血圧演算部65Bによって得られる時間情報となる。
【0129】
bp=a3・tg+b3・p+c3…(Y)
【0130】
上記式(Y)は線形自己回帰モデルである。このように、血圧導出式の演算モデルIIIである式(Y)は時間情報である遷移時間平均値tgに対応する係数であるパラメータa3(第1のパラメータ)と、脈拍情報である測定脈拍pに対応する係数であるパラメータb3(第2のパラメータ)と、定数項となるパラメータc3(第3のパラメータ)とを用いて設定されている。
【0131】
演算モデルIIIにおいても、演算モデルI,IIと同様に、アップ時間平均値stgに基づく測定血圧bpが最大血圧(値)bpMAXとなり、ピーク間ダウン時間平均値ptgに基づく測定血圧bpが最小血圧(値)bpMinとなる。すなわち、式(Y)は以下の式(Ys)及び式(Yd)に細分化される。なお、アップ時間平均値stgはM個のアップ時間stの平均値であり、ピーク間ダウン時間平均値ptgはM個の下降時ピーク間時間ptの平均値であり、脈拍・血圧演算部65B内にて求められる。
【0132】
bpMAX=a3s・stg+b3s・p+c3s…(Ys)
bpMIN=a3d・ptg+b3d・p+c3d…(Yd)
【0133】
このように、第1のパラメータであるパラメータa3はパラメータa3s及びパラメータa3dに細分化され、第2のパラメータであるパラメータb3はパラメータb3s及びパラメータb3dに細分化され、第3のパラメータであるパラメータc3はパラメータc3s及びパラメータc3dに細分化される。
【0134】
上述したように、脈拍・血圧演算部65Bは、M個の遷移時間t(アップ時間st及びダウン時間dt)より求めた遷移時間平均値tg(アップ時間平均値stg及びピーク間ダウン時間平均値ptg)を、式(Y)(式(Ys)及び式(Yd))で規定される血圧導出式に適用することにより、測定血圧bp(bpMAX,bpMin)を算出することができる。
【0135】
(2−2.パラメータ設定部20)
図9は
図6で示したパラメータ設定部20の内部構成を示すブロック図である。同図に示すように、パラメータ設定部20は、中間統計情報演算部21、中間統計情報蓄積部22、長期用パラメータ演算部23、パラメータ切替制御部24、初期パラメータ演算部25及びパラメータ記憶部26から構成される。初期パラメータ演算部25は内部に短期統計情報蓄積部31を有している。
【0136】
中間統計情報演算部21は血圧算出部6Bより時間情報CT(合格波形のアップ時間st及び下降時ピーク間時間ptを指示)及び脈拍情報HRを受ける。
【0137】
中間統計情報演算部21は、内部に時間情報CTが指示する遷移時間t(アップ時間st及び下降時ピーク間時間pt)及び脈拍情報HRが指示する測定脈拍pに対し、長期単位時間(例えば、1時間)当たりの遷移時間tの平均値及び測定脈拍pの平均値を中間統計情報として求める。
【0138】
なお、中間統計情報演算部21は、上記中間統計情報を得るために、長期単位時間分の平均値を求めるのに必要な容量を満足するレジスタ(図示せず)を内蔵しても良い。
【0139】
そして、中間統計情報演算部21は長期単位時間当たりの中間統計情報を中間統計情報蓄積部22のバッファBF1〜BFnのうち未格納のバッファに格納する。中間統計情報蓄積部22のバッファ数は例えば24個程度設けられ、長期単位時間を1時間とした場合、長期サンプリング期間として1日が設定され、1日分の中間統計情報(統計処理用情報)を中間統計情報蓄積部22内に格納することができる。
【0140】
したがって、中間統計情報演算部21及び中間統計情報蓄積部22は、長期サンプリング期間における時間情報CT及び脈拍情報HRに関する中間統計情報(長期単位時間毎の遷移時間tの平均値、測定脈拍pの平均値)を蓄積する長期統計処理用蓄積部として機能する。
【0141】
長期用パラメータ演算部23(長期パラメータ取得部)は、基本血圧情報JB1を受けるとともに、中間統計情報蓄積部22のバッファBF1〜BFn内に格納された、長期サンプリング期間分の中間統計情報(統計処理用情報)を読み出すことができる。
【0142】
長期用パラメータ演算部23は、長期サンプリング期間経過後において、中間統計情報蓄積部22に蓄積された長期サンプリング期間における中間統計情報を用いて、長期サンプリング期間における遷移時間tの時間平均値tm及び時間標準偏差ρ
tを有する長期統計時間情報、並びに長期サンプリング期間における測定脈拍pの脈拍平均値pm及び脈拍標準偏差ρ
pを有する長期統計脈拍情報を求める長期統計処理を実行する。
【0143】
そして、長期用パラメータ演算部23は、上記長期統計処理を実行した後、上記長期統計時間情報及び上記長期統計脈拍情報及び基本血圧情報JB1に、後述する式(X)で示すパラメータ演算式を適用して、パラメータa3〜c3を含む長期パラメータ情報PRLを得る長期パラメータ設定処理を実行する。なお、長期パラメータ情報PRLには長期統計時間情報が指示する時間平均値tm及び時間標準偏差ρ
tが含まれる。
【0144】
長期用パラメータ演算部23で得られた長期パラメータ情報PRLは出力され、パラメータ記憶部26内に格納される。
【0145】
なお、中間統計情報蓄積部22内のバッファBF1〜BFnすべてに中間統計情報が格納されるには、本実施の形態の血圧測定装置の使用開始から、1日程度の長期サンプリング期間の経過が必要になる。そこで、パラメータ設定部20は、長期サンプリング期間の経過前においてもパラメータ情報PR1を得るべく、初期パラメータ演算部25をさらに有している。
【0146】
初期パラメータ演算部25(短期パラメータ取得部)は、基本血圧情報JB1及び固定統計パラメータ情報KTPを受けるともに、内部に短期統計情報蓄積部31を有している。なお、固定統計パラメータ情報KTPは予め設定された固定値となる時間標準偏差ρ
t及び脈拍標準偏差ρ
pを指示する情報である。
【0147】
短期統計情報蓄積部31は、初期パラメータ演算部25が短期パラメータ設定処理に必要な、時間情報CT及び脈拍情報HRが指示する遷移時間t及び測定脈拍pを格納するための記憶部である。以下、説明の都合上、短期統計情報蓄積部31は、
図2(c)で示した前提技術の時間情報蓄積部71と同様、K個のレジスタで構成されているとして説明する。
【0148】
初期パラメータ演算部25は、長期サンプリング期間経過前において、短期統計情報蓄積部31に格納されたK個の遷移時間tに基づき時間平均値tmを算出するとともに、K個の測定脈拍pに基づき脈拍平均値pmを算出する短期統計処理を行う。そして、初期パラメータ演算部25は、短期統計処理を実行した後、算出した時間平均値tmに固定統計パラメータ情報KTPが指示する時間標準偏差ρ
tを加えた情報を短期統計時間情報とし、算出した脈拍平均値pmに固定統計パラメータ情報KTPが指示する脈拍標準偏差ρ
pを短期統計脈拍情報としている。
【0149】
すなわち、初期パラメータ演算部25は短期統計情報蓄積部31に格納された遷移時間t及び測定脈拍pに基づき、K個のレジスタに格納される短期間(K=25で2〜3分程度)における短期統計処理を実行することにより、一部に予め準備した固定統計パラメータ情報KTPを含ませて短期統計時間情報及び短期統計脈拍情報を得ている。
【0150】
そして、初期パラメータ演算部25は、上記短期統計処理を実行した後、上記短期統計時間情報及び短期統計脈拍情報(それぞれに固定統計パラメータ情報KTPの指示する情報が含まれる)、並びに基本血圧情報JB1に、後述する式(X)で示したパラメータ演算式を適用して、パラメータa3〜c3を含む初期パラメータ情報PR0(短期パラメータ情報)を得る短期パラメータ設定処理を実行する。なお、初期パラメータ情報PR0には短期統計時間情報が指示する時間平均値tm及び時間標準偏差ρ
tが含まれる。
【0151】
初期パラメータ演算部25は、上記短期統計時間情報及び上記短期統計脈拍情報の内容が更新されるごとに、初期パラメータ情報PR0を新たに生成する。
【0152】
パラメータ切替制御部24は、中間統計情報蓄積部22の格納状況等から、長期サンプリング期間の経過の有無を監視する。そして、パラメータ切替制御部24は、長期サンプリング期間経過前は初期パラメータ演算部25に短期パラメータ設定処理を実行させ、パラメータ記憶部26に格納された初期パラメータ情報PR0をパラメータ情報PR1としてパラメータ記憶部26から出力させる。
【0153】
パラメータ切替制御部24は、長期サンプリング期間の経過の確認後は、初期パラメータ演算部25による短期パラメータ設定処理を停止させ、長期用パラメータ演算部23から出力されパラメータ記憶部26に格納された長期パラメータ情報PRLをパラメータ情報PR1としてパラメータ記憶部26から出力させる。そして、パラメータ切替制御部24は、以降、パラメータ記憶部26から出力されるパラメータ情報PR1を長期パラメータ情報PRLで固定する。
【0154】
このように、パラメータ切替制御部24及びパラメータ記憶部26は、長期サンプリング期間経過前は初期パラメータ情報PR0(短期パラメータ情報)をパラメータ情報PR1として出力し、長期サンプリング期間経過後は長期パラメータ情報PRLをパラメータ情報PR1として出力させるパラメータ情報制御部として機能する。
【0155】
長期用パラメータ演算部23は長期パラメータ情報PRLを算出してパラメータ記憶部26に出力した後は動作を停止する。
【0156】
以下、被測定者が実施の形態の血圧測定装置の使用開始時、すなわち、血圧測定装置の動作開始時から長期サンプリング期間が経過するまでにおけるパラメータ設定部20によるパラメータ情報PR1の生成動作について説明する。
【0157】
血圧測定装置の動作開始時は、長期サンプリング期間経過前であるため、パラメータ切替制御部24は初期パラメータ演算部25(短期パラメータ取得部)に短期パラメータ設定処理を実行させ、初期パラメータ演算部25から得られる初期パラメータ情報PR0(短期パラメータ情報)をパラメータ記憶部26に格納させる。
【0158】
そして、パラメータ切替制御部24は、パラメータ記憶部26に格納された初期パラメータ情報PR0をパラメータ情報PR1として出力させる。したがって、長期サンプリング期間経過前において、初期パラメータ情報PR0が更新される毎に、パラメータ情報PR1も更新される。
【0159】
その後、血圧測定装置の動作開始から長期サンプリング期間が経過し、長期用パラメータ演算部23(長期パラメータ取得部)より得られた長期パラメータ情報PRLがパラメータ記憶部26に格納されると、パラメータ切替制御部24は、以降、長期パラメータ情報PRLをパラメータ情報PR1として出力する。
【0160】
その後、パラメータ切替制御部24は、パラメータ記憶部26に格納された長期パラメータ情報PRLをパラメータ情報PR1として出力される出力形態で固定する。以降、パラメータ設定部20は固定されたパラメータ情報PR1(=PRL)を出力する。なお、血圧算出部6Bがパラメータ情報PR1(=PRL)を受信した後は、パラメータ記憶部26からのパラメータ情報PR1の出力を停止するようにしても良い。
【0161】
また、血圧測定部13の外部よりリセット信号を受けるように構成し、長期サンプリング期間の経過後においても、パラメータ切替制御部24がリセット信号を受けると、血圧測定装置の動作開始時と同様に、各部21〜23,25,26をそれぞれ初期化し、再び動作させるように制御しても良い。
【0162】
(2−2−1.学習演算式:演算モデルIII対応)
式(Y)の演算モデルIIIに対応する学習演算式は、以下の式(X)で規定される。式(X)は、式(X1)〜式(X3)の組み合わせにより構成される。
【0164】
なお、演算モデルIIIは、時間平均値tmとして具体的にはアップ時間平均値stmあるいはピーク間ダウン時間平均値ptmが用いられ、血圧導出式である式(Ys)に用いられるパラメータa3s〜c3sに対応して以下の式(Xs)が用いられ、血圧導出式である式(Yd)に用いられるパラメータa3d〜c3dに対応して以下の式(Xd)が用いられる。すなわち、式(X)は正確には以下の式(Xs)及び式(Xd)に細分化される。
【0167】
このように、式(X)のパラメータa3は式(Xs)及び式(Xd)のパラメータa3s及びパラメータa3dに細分化され、式(X)のパラメータb3は式(Xs)及び式(Xd)のパラメータb3s及びパラメータb3dに細分化され、式(X)のパラメータc3は式(Xs)及び式(Xd)のパラメータc3s及びパラメータc3dに細分化される。
【0168】
長期用パラメータ演算部23及び初期パラメータ演算部25は、それぞれ上述した式(X)(式(Xs)及び式(Xd))の連立方程式を解法する長期パラメータ設定処理及び短期パラメータ設定処理を実行することにより、パラメータa3(a3s,a3d)、パラメータb3(b3s,b3d)及びパラメータc3(c3s,c3d)を求めている。
【0169】
すなわち、長期用パラメータ演算部23は長期統計時間情報に含まれる時間平均値tm(アップ時間平均値stm,ピーク間ダウン時間平均値ptm)及び時間標準偏差ρ
t、長期統計脈拍情報に含まれる脈拍平均値pm及び脈拍標準偏差ρ
pを用いて式(X)(式(Xs)及び式(Xd))を解法してパラメータa3(a3s,a3d)、パラメータb3(b3s,b3d)及びパラメータc3(c3s,c3d)を求める。
【0170】
同様にして、初期パラメータ演算部25は短期統計時間情報に含まれる時間平均値tm(アップ時間平均値stm,ピーク間ダウン時間平均値ptm)及び時間標準偏差ρ
t(固定統計パラメータ情報KTPより指示)、短期統計脈拍情報に含まれる脈拍平均値pm及び脈拍標準偏差ρ
p(固定統計パラメータ情報KTPより指示)を用いて式(X)を解法してパラメータa3〜c3を求める。
【0171】
(3.遷移時間平均値tgに基づく血圧導出式の細分化)
前述した式(Y)は、式(Y)の適用時に用いる遷移時間平均値tgが、時間平均値tm(長期統計処理で求めた平均値)を中心として±ρ
tの範囲内に収まる場合、遷移時間平均値tg及び測定脈拍pを式(Y)で示す血圧導出式に適用することにより、測定血圧bpを正確に求めることができる。すなわち、式(Y)に示すように、遷移時間平均値tgと測定血圧bpは正の相関を有する。
【0172】
しかしながら、遷移時間平均値tgが第1の基準値である閾値時間thl={時間平均値tm−時間標準偏差ρ
t}より小さくなる場合、遷移時間平均値tgと測定血圧bpは負の相関を有するようになる。その原因として、血圧測定装置の被測定者が運動等を行っている使用環境が想定される。
【0173】
また、遷移時間平均値tgが第2の基準値である閾値時間thr={時間平均値tm+時間標準偏差ρ
t}より大きくなる場合も、遷移時間平均値tgと測定血圧bpは負の相関を有するようになる。その原因として、血圧測定装置の被測定者が睡眠時等の使用環境が想定される。
【0174】
そこで、本実施の形態では、遷移時間平均値tgの値に応じて変化するように、式(Y)を以下のように細分化した式(Y1)〜式(Y3)で構成している。
【0176】
式(Y)に示すように、式(Y)は遷移時間平均値tgと閾値時間thl及び閾値時間thr(第1及び第2の基準値)との比較結果によって、式(Y1)〜(Y3)に分類される。すなわち、式(Y)に示すように、遷移時間平均値tgに関し、{tg<thl}のとき式(Y1)が適用され、{thl≦tg≦thr}のとき式(Y2)が適用され、{tg>thr}のとき式(Y3)が適用される。
【0177】
また、パラメータa3〜c3はそれぞれ式(4)のように表すことができるため、式(Y)に式(4)のパラメータc3の代入を含む変形処理を施すことにより、式(Y)は以下の式(Z)に変形することができる。なお、式(Y1)〜式(Y3)は式(Z1)〜式(Z3)に対応している。
【0180】
式(Z)から、第1の基準値が閾値時間thl=tm−ρ
tとなり、第2の基準値が閾値時間thr=tm+ρ
tとなることが比較的容易に理解できる。
【0181】
式(Z)に示すように、遷移時間平均値tgに関し、{tg<(tm−ρ
t)}のとき式(Z1)が適用される。この場合、被測定者は運動状態(第1の環境状態)である可能性が高く、遷移時間平均値tgがさらに小さくなると測定血圧bpが増加する血圧導出式が適用される。
【0182】
そして、遷移時間平均値tgに関し、{(tm−ρ
t)≦tg<(tm+ρ
t)}のとき式(Z2)が適用される。この場合、被測定者は平常状態(第2の環境状態)である可能性が高く、遷移時間平均値tgが大きくなると測定血圧bpが増加する通常の血圧導出式が適用される。
【0183】
さらに、遷移時間平均値tgに関し、{tg>(tm+ρ
t)}のとき式(Z3)が適用される。この場合、被測定者は睡眠時(第3の環境状態)である可能性が高く、遷移時間平均値tgがさらに大きくなると測定血圧bpが減少する血圧導出式が適用される。
【0184】
なお、式(Y)を細分化した場合の演算モデルIIIは、アップ時間平均値stgに基づく測定血圧bpが最大血圧(値)bpMAXとなり、ピーク間ダウン時間平均値ptgに基づく測定血圧bpが最小血圧(値)bpMinとなる。すなわち、式(Y)は以下の式(Ys)((Y1s)〜(Y3s))及び式(Yd)((Y1s)〜(Y3s))に細分化されることになる。
【0187】
このように、血圧算出部6Bの脈拍・血圧演算部65Bは、時間情報である遷移時間平均値tgに基づき、式(Y1)〜(Y3)(複数種の血圧導出式)のうち一の血圧導出式を適用して測定血圧bpを算出している。
【0188】
具体的には、血圧算出部6Bの脈拍・血圧演算部65Bは、遷移時間平均値tgと閾値時間thl及び閾値時間thrとの比較結果に基づき、運動時、平常時及び睡眠時の第1〜第3の環境状態のうち一の環境を認識環境状態として認識し、式(Y1),式(Y2)及び式(Y3)(第1、第2及び第3の血圧導出式)のうち上記認識環境状態用の血圧導出式を適用して測定血圧bpを算出している。そして、第1及び第2の基準値である閾値時間thl及び閾値時間thrは時間平均値tmを基準として時間標準偏差ρ
tに基づき設定される。
【0189】
このように、血圧算出部6Bは、運動時、平常時及び睡眠時である第1、第2及び第3の環境状態用の第1、第2及び第3の血圧導出式である式(Y1)、式(Y2)及び式(Y3)を採用している。
【0190】
なお、時間平均値tm及び時間標準偏差ρ
tはパラメータ情報PR1に含まれているため、パラメータ情報PR1が指示する情報をそのまま用いることができる。
【0191】
(4.実施の形態の効果)
本実施の形態の血圧測定装置における血圧算出部6Bは、時間情報である遷移時間平均値tgに基づき、3つの式(Y1)〜(Y3)(複数種の血圧導出式)のうち一の血圧導出式を適用して測定血圧bpを算出することにより、平常時(式(Y2)が対応)、睡眠時(式(Y1)が対応)あるいは運動時(式(Y3)が対応)の被測定者の環境状態に適合した測定血圧bpを得ることができる効果を奏する。
【0192】
この際、式(Y1)〜(Y3)のうち一の式が、遷移時間平均値tgと時間標準偏差に基づき設定される閾値時間thl及びthr(第1及び第2の基準値)との比較結果により決定される。すなわち、運動時、平常時及び睡眠時が第1、第2及び第3の認識環境状態として認識された後、認識環境状態用の血圧導出式が決定される。
【0193】
図10は前提技術による血圧測定装置によって算出された測定血圧bpの経時変化である前提技術血圧測定線L2と、最適値となる血圧との経時変化である最適血圧測定線LSとの相関を示すグラフである。
図10において横軸が時間、縦軸が血圧を示している。なお、最適値は平均平方根誤差最小アルゴリズムによって算出された血圧値を意味する。
【0194】
同図に示すように、前提技術血圧測定線L2と最適血圧測定線LSとの間には少しバラツキが生じている。また、血圧計による実測血圧との相対誤差は最大血圧で6%程度、最小血圧で7%程度生じることが確認された。
【0195】
図11は実施の形態による血圧測定装置によって算出された測定血圧bpの経時変化である実施形態血圧測定線LXと、最適値となる血圧との経時変化である最適血圧測定線LSとの相関を示すグラフである。
図11において横軸が時間、縦軸が血圧を示している。
【0196】
同図に示すように、実施形態血圧測定線LXと最適血圧測定線LSとはほぼ合致しておりバラツキが生じていない。また、血圧計による実測血圧との相対誤差は最大血圧で4%程度、最小血圧で6%程度と、前提技術より相対誤差を抑制できていることが確認された。
【0197】
このように、本実施の形態の血圧測定装置は、時間平均値tmを基準にして時間標準偏差ρ
tに基づき設定される閾値時間thl及び閾値時間thrと、時間情報CTが指示する遷移時間平均値tgとの比較結果に基づき、運動時、平常時及び睡眠時からなる第1、第2及び第3の環境状態から認識される認識環境状態用の被測定者の血圧導出式を適用して測定血圧bpを算出している。その結果、本実施の形態の血圧測定装置は、平常時、睡眠時あるいは運動時の被測定者の環境状態に適合して正確な測定血圧を得ることができる効果を奏する。
【0198】
また、血圧算出部6Bは、パラメータa3〜c3(第1〜第3のパラメータ)、時間情報CT及び脈拍情報HRに血圧導出式である式(Y)(式(Y1)〜(Y3)のいずれか)を適用することにより、時々刻々取得する光電脈拍信号S1に基づく時間情報CT及び測定脈拍に基づく脈拍情報HRから測定血圧bpをリアルタイムに得ることができる。
【0199】
この際、パラメータ設定部20により、時間平均値tm及び時間標準偏差ρ
t並びに脈拍平均値pm及び脈拍標準偏差ρ
pに、上記式(X)で規定されたパラメータ演算式を適用することにより、パラメータa3〜c3を設定しているため、式(Y)で規定される血圧導出式の信頼度を高めることができる。
【0200】
さらに、本実施の形態では、パラメータ演算式として、前提技術の演算モデルIIの式(2)で用いた最大時間t
max(時間最大値)、最小時間t
min、最大脈拍p
max、及び最小脈拍p
minを用いない式(X)を採用している。
【0201】
このため、最大時間t
max及び最小時間t
minから求められる時間中間値が時間平均値tmと近似した値になったり、最大脈拍p
max及び最小脈拍p
minから求められる脈拍中間値が脈拍平均値pmと近似した値になったりする状況を確実に回避することができる。その結果、パラメータ設定部20は精度の高いパラメータa3〜c3を設定することができる。
【0202】
また、血圧測定部13は、上昇時間に対応する最大血圧導出式(式(Ys))により最大血圧を指示する最大測定血圧bpMAXを取得し、下降時間に対応する最小血圧導出式(式(Yd))により最小血圧を指示する最小測定血圧bpMINを取得することができる。
【0203】
そして、パラメータ設定部20により、最大血圧パラメータ演算式(式(Xs))を適用することにより、最大血圧導出式(式(Ys))用のパラメータa3s〜c3sを設定することにより、最大血圧導出式の信頼度を高く維持することができる。
【0204】
同様にして、パラメータ設定部20により、最小血圧パラメータ演算式(式(Xd))を適用することにより、最小血圧導出式(式(Yd))用のパラメータa3d〜c3dを設定することにより、最小血圧導出式の信頼度を高く維持することができる。
【0205】
この際、式(Xd)及び式(Yd)において、下降時間を光電脈拍信号が最大値から最初の極大値に達するまでの下降時ピーク間時間ptとすることにより、脈拍の影響を受けにくい時間を下降時間とすることができるため、精度の高い測定血圧bpを取得することができる。
【0206】
また、血圧測定部13における血圧算出部6Bの血圧算出部64Bは、光電脈拍信号において最大値発生以降に極大値が存在しない場合においても、必ず存在する下降時ゼロクロス時間t0xを下降時ピーク間時間ptとして用いることにより、常に最小血圧を指示する最小測定血圧bpMINを取得することができる。
【0207】
パラメータ設定部20において、長期用パラメータ演算部23による長期パラメータ設定処理の実行後は、長期サンプリング期間で得た長期統計時間情報及び長期統計脈拍情報を用いて、パラメータa3〜c3を設定している。このため、パラメータ設定部20は、被測定者の特性に合致した精度の高いパラメータ情報PR1を求めることができるため、より正確な測定血圧bpを得ることができる。
【0208】
さらに、パラメータ設定部20は、長期サンプリング期間の経過前においても、初期パラメータ演算部25による短期パラメータ設定処理を実行してパラメータa3〜c3を設定することにより、血圧算出部6Bは測定血圧bpを算出することができるため、本実施の形態の血圧測定装置の被測定者の利便性を損ねることはない。
【0209】
<その他>
本実施の形態では、血圧算出部6Bが式(Y1)〜(Y3)のうちいずれの式を選択する際に用いる閾値時間thr及び閾値時間thlを得るために必要な情報である時間平均値tm及び時間標準偏差ρ
tはパラメータ情報PR1から取得するようにしたが、時間平均値tm及び時間標準偏差ρ
tは予め設定した固定値を用いるようにしても良い。
【0210】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、前提技術を適宜、変形、省略することが可能である。