【解決手段】流体を噴射するランスノズル(30)であって、内部に流体の流路(34)が形成された軸体(33)と、軸体の先端側に設けられ、軸体の軸方向と直交する方向に対して軸体の基端側に傾斜する方向である第1の噴射方向に第1の噴流(J1)を生ずる第1の噴口(36)と、軸体の第1の噴口より基端側に設けられ、軸体の軸方向と直交する方向に対して軸体の先端側に傾斜する方向である第2の噴射方向に第2の噴流(J2)を生ずる第2の噴口(35)と、を備える。
V型に配置される複数のシリンダボアと、V型を構成する一対の前記シリンダボア毎に室内が隔壁で仕切られて複数の小室が形成されたクランク室とを有する多気筒エンジンの前記クランク室の内面に付着した余剰溶射被膜を除去するための余剰溶射被膜除去装置であって、
前記小室に挿入され、前記小室と連通する前記シリンダボアの軸方向に沿った方向に移動可能な請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載のランスノズルと、
前記小室と連通する前記一対のシリンダボアのうち前記ランスノズルが臨む一方のシリンダボアとは異なる他方のシリンダボアを臨むようにして前記小室に挿入され、前記他方のシリンダボアの内面に溶射された溶射被膜を高圧水から保護するシールドと、を備え、
前記シールドは、前記ランスノズルから噴射された高圧水を堰き止める堰き止め部を有する余剰溶射被膜除去装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図に従って本発明の実施形態を詳細に説明する。第1実施形態は、直列多気筒エンジンのクランク室内に付着した余剰被膜を除去する場合の例を示す。
図1は、本実施形態のランスノズル30を備える余剰溶射被膜除去装置10を、倒立したシリンダブロック100に挿入した状態における、ランスノズル30の回転軸22を通る断面で切断した断面図を示す。なお、以下の説明において、「先端側」とは
図1における下側を指し、「基端側」とは
図1の上側を指す。
【0011】
余剰溶射被膜除去装置10は、クランク室107の隔壁101で区切られたそれぞれの空間(小室)108に、ランスノズル30を挿入し、ランスノズル30の噴口35,36から噴出する噴流J1,J2によって、クランク室107に付着する余剰溶射被膜(不図示)を除去する。
【0012】
余剰溶射被膜除去装置10は、タレット式の洗浄装置の一部として適用することができる。タレット式の洗浄装置として、例えば特開2011−230118号公報、特開2015−58479号公報に開示されている洗浄装置が利用できる。
【0013】
余剰溶射被膜除去装置10は、直交3軸形移動装置(不図示)に設けられた、主軸台であるタレット11を備えている。直交3軸形移動装置は例えば数値制御装置によって制御される。タレット11の内部に、回転可能に支持された主軸12が設けられている。主軸12は、回転軸22を中心に回転する。主軸12の先端部に、受容部12aが設けられる。受容部12aは、図面を貫く方向に長さを有するコ字状断面の溝状をなしている。受容部12aは後述するノズル支持部材16の係合部16aを係合し、ノズル支持部材16と主軸12とを一体的に回転させる役割を持つ。
【0014】
タレット11に、回転軸22を中心として円筒状のハウジング13が設けられている。ハウジング13は、円筒穴13bを備える。円筒穴13bに、ベアリング14、後述するパッキン15とノズル支持部材16とが挿入される。ノズル支持部材16は、ベアリング14でハウジング13に回転可能に支持されている。
【0015】
ノズル支持部材16は、互いに異径の部材である係合部16a、軸16b、フランジ16cを同軸上に一体的に設けて成り、全体として略円筒状に形成される。係合部16aは、2面取り又はキーであり、その両面が平面に形成されている。係合部16aの両平面が僅かの隙間をもって受容部12aに挟まっている。このため、主軸12の回転に伴って、ノズル支持部材16が回転する。フランジ16cは円板状をなし、受容部16dとねじ穴16eとを有する。受容部16dは、ランスノズル30の突起部33bと嵌合する円筒穴である。
【0016】
円筒穴13bには、パッキン15が設けられている。パッキン15は、中空円筒状をなし、その外周中央部に長方形断面の円周溝15aが設けられている。パッキン15の内周中央部にも長方形断面の円周溝15cが設けられている。パッキン15には、円周溝15aと円周溝15cとを連通する貫通穴15bが少なくとも1つ設けられている。パッキン15は、ハウジング13とノズル支持部材16との間を封止し、かつ、後述の流路19と流路24を連通する。パッキン15は、エンジニアリングプラスチック若しくはスーパーエンジニアリングプラスチックで製作され得る。
【0017】
洗浄液供給装置17は、10〜80MPa、好ましくは30〜50MPaの洗浄液を供給する。洗浄液供給装置17は、ピストンポンプを選択できる。洗浄液供給装置17は、図示しない洗浄液タンクに貯留される洗浄液を吐き出す。洗浄液は、アルカリ性又は中性の水溶性洗浄液、又は油性洗浄液を利用できる。
【0018】
バルブ18は、洗浄液供給装置17から供給された洗浄液をタレット11へ送液するか、遮断するかを切り換える。バルブ18は、例えば電磁開閉式のシリンダ弁を利用できる。バルブ18の開閉は例えば数値制御装置によって自動制御される。バルブ18は、洗浄液を遮断する際に、洗浄液を洗浄液タンクに戻す流路切り換え弁として構成できる。
【0019】
流路19は、タレット11とハウジング13を通して設けられる。流路19は、パッキン15の円周溝15aに連通するように設けられている。流路24は、T字状をなし、ノズル支持部材16の内部に設けられる。流路24の一方端は、受容部16dに貫通している。流路24の他方端は、パッキン15の円周溝15cに開口している。流路19と流路24は、円周溝15a,15cと貫通穴15bを介して接続している。円周溝15a,15cは洗浄液を円周方向に分配する。
【0020】
ランスノズル30は、フランジ33aと、軸体33とを備える。フランジ33aは、円板状をなす。フランジ33aには、貫通穴33cと、突起部33bが設けられる。ランスノズル30は、貫通穴33cに挿入されたボルト21によってノズル支持部材16のフランジ16cに固定される。フランジ33aに設けられた突起部33bは、ノズル支持部材16の受容部16dに嵌合して挿入される。ランスノズル30は、突起部33bが受容部16dに嵌合し、フランジ33aとフランジ16cとが当接することによって、正確にノズル支持部材16に固定される。
【0021】
なお、ランスノズル30は、上述の構成に替えて、フランジ33aを備えない棒状に構成できる。この場合、ノズル支持部材16はフランジ16cに替えてコレットを備える。そして棒状のランスノズルは、コレットによってノズル支持部材に固定しても良い。
【0022】
軸体33は回転軸22に沿って延びた棒状体であり、好ましくは細長い円柱状をなす。軸体33の中心に流路34が設けられている。流路34は軸体33の先端付近まで延びている。流路34はノズル支持部材16の流路24と接続する。
【0023】
軸体33の先端部には、断面略V字形状の円周溝38が設けられる。ここで、略V字状とは、底面が丸みや平らになっても良い。円周溝38の断面は、水平線に対して対称に設けられる必要はない。円周溝38の先端側の面には、高圧水が噴射する噴口36(第1の噴口)が設けられている。噴口36は高圧水が流れる流路34と連通しており、好ましくは、噴口36は流路34の先端よりも若干基端側に設けられる。噴流J1(第1の噴流)は、噴口36から噴射方向F1(第1の噴射方向)に向かって噴射される。噴流J1の中心線32は、回転軸(回転軸線)22と交点32aで交わり、回転軸22との間の角度がθ
1となるよう形成されている。そのため、噴口36から噴射される噴流J1は、回転軸22からθ
1の噴射角度をもって傾き、噴口36から基端側に向かい、かつ、中心線32に沿って円筒状に現れる。望ましくは、円周溝38の先端側の面は、噴流J1の中心線32と垂直に設けられる。円周溝38を設けることにより、ランスノズル30の製造が容易になる。また、噴口36の周囲がほぼ平面上に現れるため、棒状で乱れの少ない噴流J1が得られる。
【0024】
一方、軸体33の噴口36より基端側であって、より具体的には軸体33の略中央部には、断面略V字形状の円周溝37が設けられる。ここで、略V字状とは、底面が丸みや平らになっても良い。円周溝37の断面は、水平線に対して対称に設けられる必要はない。円周溝37の基端側の面には、高圧水が噴射する噴口35(第2の噴口)が設けられている。噴口35は高圧水が流れる流路34と連通している。噴流J2(第2の噴流)は、噴口35から噴射方向F2(第2の噴射方向)に向かって噴射される。噴流J2の中心線31は、回転軸(回転軸線)22と交点31aで交わり、回転軸22との間の角度がθ
2となるよう形成されている。そのため、噴口35から噴射される噴流J2は、回転軸22からθ
2の噴射角度をもって傾き、噴口35から先端側に向かい、かつ、中心線31に沿って円筒状に現れる。望ましくは、円周溝37の基端側の面は、噴流J2の中心線31と垂直に設けられる。円周溝37を設けることにより、ランスノズル30の製造が容易になる。また、噴口35の周囲がほぼ平面上に現れるため、棒状で乱れの少ない噴流J1が得られる。
【0025】
ここで、中心線31と中心線32とは、同一平面上にあり、それぞれ反対方向を向いている。また、本実施形態では、角度θ
1>角度θ
2の関係となっているが、θ
1=θ
2の関係としても良いし、θ
1<θ
2の関係としても良い。クランク室107の形状、ジャーナル孔102、連通孔103の内径等に応じて、好適な角度θ
1,θ
2を設定できる。
【0026】
なお、軸体33の断面形状は例えば矩形等でも良い。この場合には、軸体33の重心が回転軸22と同軸になるように構成される。また、円周溝37,38は省いても良い。円周溝37,38に替えて、噴口35,36に垂直な平面(中心線31,32と直交する平面)が現れるように軸体33に切欠き部が設けられても良い。なお、中心線31と中心線32とは、それぞれ回転軸22と交わらなくてもよい。しかし、中心線31と中心線32とは、回転軸22の方向から見て回転軸22を中心に点対称の位置に設けられることが望ましい。
【0027】
次に、このように構成された余剰溶射被膜除去装置10の使用方法および作用効果について説明する。
【0028】
シリンダブロック100は、直列多気筒エンジンのシリンダブロックである。シリンダブロック100は、シリンダヘッド組付け面(不図示)が鉛直方向下向きとなるように、倒立して設置されている。シリンダブロック100は、複数のシリンダボア104を備える。クランク室107は、シリンダボア104毎に隔壁101によって空間(小室)108に区切られている。隔壁101には、ジャーナル孔102、連通孔103が設けられている。連通孔103は、いわゆる通気孔である。シリンダブロック100のシリンダボア104は、溶射被膜105を製膜される。このときクランク室107の内面のほとんど全面に、余剰溶射被膜が付着する。
【0029】
余剰溶射被膜除去装置10を使用するにあたって、最初に洗浄液供給装置17を運転する。そして主軸12を回転させる。主軸12の回転と共に、ノズル支持部材16とランスノズル30とが回転する。ランスノズル30の回転軸22をシリンダボア104のボア中心106の延長上で、クランク室107の上に間隙を設けて位置決めする。数値制御装置は、バルブ18を切り換えてタレット11に洗浄液を供給する。洗浄液は、洗浄液供給装置17から、バルブ18、流路19、流路24、流路34を通り噴口35,36に供給される。洗浄液は、噴口36から噴流J1として噴出し、噴口35から噴流J2として噴出する。噴口35、噴口36は、回転軸22の方向から見て回転軸22を中心とする点対称に設けられているため、噴流J1と噴流J2の噴射によって軸体33が受ける反力は相殺される。タレット11をボア中心106に沿って下向きに移動すると、噴流J2が空間108を区画するスカート109、隔壁101の内面に衝突して、それら内面に付着している余剰溶射被膜を剥離する。
【0030】
タレット11が引き続き降下すると、噴流J1もスカート109、隔壁101の内面に衝突を始める。噴流J2は、ランスノズル30の先端方向に傾斜しているため、ジャーナル孔102の下側の内面102b、連通孔103の下側の内面103bに付着している余剰溶射被膜を除去する。他方、噴流J1は、ランスノズル30の基端方向に傾斜しているため、ジャーナル孔102の上側の内面102a、連通孔103の上側の内面103aに付着している余剰溶射被膜を除去する。ランスノズル30は、噴流J2が連通孔103の下面103bを通過する位置にあるときに、噴流J1が連通孔103の上面103aを通過するように概ね設計される。
【0031】
余剰溶射被膜除去装置10は、噴流J1、J2がシリンダボア104に衝突しない程度までランスノズル30を降下した後に、ランスノズル30を引き上げる。ランスノズル30が最初の挿入前位置まで上昇すると、余剰溶射被膜除去装置10は、次のシリンダボア104bのボア中心にランスノズル30を位置決めする。そして余剰溶射被膜除去装置10は、上述の手順と同様にクランク室107の空間108b内に付着した余剰溶射被膜を除去する。余剰溶射被膜除去装置10は、全てのクランク室107の隔壁で区切られた空間108の余剰溶射被膜を除去する。
【0032】
以上説明したように、本実施形態のランスノズル30は、ランスノズル30の基端方向に傾斜する噴口36(第1の噴口)をランスノズル30の先端部分に備え、噴口36と基端部との中間位置にランスノズル30の先端方向に傾斜する噴口35(第2の噴口)を備えている。そのため、クランク室107側からボア中心106に沿ってランスノズル30を挿入したときに、噴口36から生成する噴流J1(第1の噴流)と噴口35から生成する噴流J2(第2の噴流)は、隔壁101付近でほぼ同じ高さに到達するように配置できる。
【0033】
そして、噴流J1を基端方向(F1方向)に、噴流J2を先端方向(F2方向)に傾斜させているため、噴流J1,J2は、隔壁101に設けられたジャーナル孔102、連通孔103の内面に直接到達できる。このため、本実施形態のランスノズル30を用いれば、従来技術では除去が困難だったボア中心106に略垂直な方向を向く表面(例えばジャーナル孔102、連通孔103の内面)に付着した余剰溶射被膜を効果的に除去できる。
【0034】
また、本実施形態のランスノズル30では、噴流J1と噴流J2は、隔壁101およびシリンダボア104の壁面付近において、ほぼ同じ高さに到達するため、ランスノズル30を深く挿入できる。噴流J1と噴流J2のいずれか一方がシリンダボア104の上端よりわずかにクランク室107寄りの位置に達するまでランスノズル30を挿入すれば、クランク室107に付着する余剰溶射被膜をほぼ死角なく除去できる。
【0035】
シリンダボア104に形成された必要な溶射被膜105は、噴流J1,J2がそこに衝突すると損傷する。本実施形態のランスノズル30の噴口35は、望ましくは、噴流J2が連通孔103を通過しない程度に強い傾斜をもって設けられる。このように構成すれば、噴流J2は、連通孔103を通過してランスノズル30が挿入された空間108から隣の空間108a,108bに侵入しない。そのため、空間108a,108bと接続するシリンダボア104a,104bの内面に噴流J2が衝突し、シリンダボア104a,104aに形成された溶射被膜105a,105bを損傷することを防ぐことができる。
【0036】
次に、
図1に加えて
図2,3を参照して、望ましいランスノズル30の設計限界について説明する。
図2及び
図3は、
図1に示すランスノズルの設計限界を示す模式図である。
【0037】
図1を参照して、噴流J2は、連通孔103を通過しないように設計されることが望ましい。望ましくは、噴口35の傾斜角度、すなわち、噴流J2の中心線31と軸体33の回転軸22とのなす角(噴射角度)θ
2は、次式の範囲に設定される。
【0038】
【数4】
ここで、
D:孔(例えばジャーナル孔102または連通孔103)の代表長さ(ボア中心106に沿った孔の長さ)
T:隔壁101の代表厚さ
を示す。
【0039】
噴流J2が上記式の範囲内に設計されれば、噴流J2が隔壁101に設けられた孔(例えばジャーナル孔102または連通孔103)を通過しない。そのため、噴流J2は、シリンダボア104a,104bの溶射被膜105a,105bを損傷しない。
【0040】
噴流J1は、上向き(基端向き)に傾斜しているため、必要な溶射被膜を損傷するおそれは少ない。ランスノズル30を挿入した空間108から見て少なくとも隔壁101の奥行き半分までは、噴流J1が到達できるよう設計されることが望ましい。そこで望ましくは、噴口36の傾斜角度、すなわち、噴流J2の中心線31と軸体33の回転軸22とのなす角(噴射角度)θ
1は、次式の範囲に設定される。
【0041】
【数5】
ここで、
D:孔(例えばジャーナル孔102または連通孔103)の代表長さ(ボア中心106に沿った孔の長さ)
T:隔壁101の代表厚さ
を示す。
【0042】
図2を参照して、交点31aと交点32aの最小距離L
minを説明する。タレット11の降下限界は、噴流J2の中心線31がシリンダボア104の上端に到達する位置となる。その位置において、噴流J1は、連通孔103の上面103aの奥行きの手前半分を除去しておくように設計されることが望ましい。望ましいL
minは、次式で与えられる。
【0043】
【数6】
ここで、
BP:シリンダボア104のピッチ間距離
BD:シリンダボア104の直径
θ
1:噴流J1の中心線32と軸体33の回転軸22とのなす角
θ
2:噴流J2の中心線31と軸体33の回転軸22とのなす角
H:シリンダヘッド100を倒立させたときにおけるシリンダボア104の上端から隔壁101に設けられた連通孔103の上面までの高さ
【0044】
図3を参照して、交点31aと交点32aの最大距離L
maxを説明する。タレット11の降下限界は、噴流J1の中心線32がシリンダボア104の上端に到達する位置となる。その位置において、噴流J2は、連通孔103の下面103bの全域を除去しておくように設計されることが望ましい。望ましいL
maxは、次式で与えられる。
【0045】
【数7】
ここで、
BD:シリンダボア104の直径
BP:シリンダボア104のピッチ間距離
T:隔壁101の代表厚さ
θ
1:噴流J1の中心線32と軸体33の回転軸22とのなす角
θ
2:噴流J2の中心線31と軸体33の回転軸22とのなす角
H:シリンダヘッド100を倒立させたときにおけるシリンダボア104の上端から隔壁101に設けられた連通孔103の上面までの高さ
D:孔(例えばジャーナル孔102または連通孔103)の代表長さ(ボア中心106に沿った孔の長さ)
【0046】
従って、噴口35と噴口36との軸体33の軸方向における距離L(交点31aと交点32aとの距離)は、次式の範囲で設計されることが望ましい。
【0047】
【数8】
ここで、
BP:シリンダボア104のピッチ間距離
BD:シリンダボア104の直径
θ
1:噴流J1の中心線32と軸体33の回転軸22とのなす角
θ
2:噴流J2の中心線31と軸体33の回転軸22とのなす角
T:隔壁101の代表厚さ
H:シリンダヘッド100を倒立させたときにおけるシリンダボア104の上端から隔壁101に設けられた連通孔103の上面までの高さ
D:孔(例えばジャーナル孔102または連通孔103)の代表長さ(ボア中心106に沿った孔の長さ)
【0048】
なお、本実施形態の余剰溶射被膜除去装置10は、直列多気筒エンジンのシリンダブロック100の他、単気筒エンジンのシリンダブロック、バンク角が180°のV型多気筒エンジン、若しくは水平対向型多気筒エンジンに適用できる。
【0049】
また、本実施形態の余剰溶射被膜除去装置10は、タレット11を備えている。そのため、余剰溶射被膜除去装置10は、ランスノズル30の他に、軸線方向下向きに洗浄液を噴射する直射ノズル、軸線方向に延びる軸部および軸部の先端部から軸線と垂直に洗浄液を噴射する噴口を備えるL形ノズル等を、タレット面毎にタレット11に装着できる。タレット式の余剰溶射被膜除去装置10は、これらのノズルを適宜使い分け、シリンダブロック100に付着する余剰溶射被膜を除去できる。
【0050】
上述の説明では、シリンダブロック100を倒立した状態で説明したが、シリンダブロックの向きを変更できることは勿論である。また、余剰溶射被膜除去装置10は、タレット式の洗浄装置を用いて説明したが、タレットを備えない洗浄装置についても適用できる。
【0051】
(第2実施形態)
第2実施形態について
図4ないし
図7を参照して説明する。
図4は、第2実施形態に係る余剰溶射被膜除去装置40のランスノズル30を倒立したシリンダブロック200に挿入した状態における、ランスノズル30の回転軸22を通る断面で切断した縦断面図である。また、
図5は
図4のV−V線断面図、
図6は
図4のVI−VI線断面図、
図7は第2実施形態に係る余剰溶射被膜除去装置40の使用方法を示す模式図である。
【0052】
第2実施形態の余剰溶射被膜除去装置40は、V型多気筒エンジンのシリンダブロック200に適用される。シリンダブロック200のクランク室207は、位相をずらした2つのバンク201,202内にそれぞれ設けられたシリンダボア203,204を2気筒ずつ収める空間(小室)208に、隔壁101で区切られている。それぞれのシリンダボア203,204は前後方向にその位置をずらして設けられている。
【0053】
余剰溶射被膜除去装置40は、シールド41を備える。シールド41は、タレット11に着脱自在に固定され、タレット11と一体で移動する。よって、ランスノズル30が軸方向に移動すると、それに伴ってシールド41も移動する。余剰溶射被膜除去装置40は、シリンダブロック200を揺動する揺動装置(不図示)を更に備える。その他の部分は、第1実施形態と同じであるため、第1実施形態と同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0054】
揺動装置は、一方のバンク201のシリンダボア203が鉛直方向下向き、又は他方のバンク202のシリンダボア204が鉛直方向下向きになるように、シリンダブロック200を揺動する。揺動装置は、公知の揺動装置(例えば回転テーブル)を使用できる。
【0055】
図4,5を参照して、噴口35、36は、ランスノズル30をボア中心106に沿ってクランク室207に挿入したときに、連通孔103の内面に付着した余剰溶射被膜を除去できる位置関係であり、かつ、噴流J1,J2がシールド41に遮断され、バンク202のシリンダボア204に入射しないように設けられる。
【0056】
シールド41は、ランスノズル30の噴口35,36からの噴流J1,J2を受け止めるシールド板41aと、シールド板41aを補強する補強板41b,41cとからなる。シールド板41aは、シリンダブロック200の前後方向(
図4の紙面に直交する方向)から見て、逆L字状に折り曲げた板であって、シリンダボア204(他方のシリンダボア)の直径の3分の一以上、シリンダボア204の直径未満の短辺W1と、ランスノズル30の長さを超える長辺X1とを有する形状(
図5参照)をなし、ランスノズル30からシリンダボア203の略半径と等しい距離だけ
図4における水平方向にオフセットされた位置に配置される。
【0057】
ランスノズル30がボア中心106に沿って挿入されたときに、エンジンの前後方向のうちシリンダボア204が設けられていない側(
図6の下向き方向)のシールド板41aの端部は、少なくとも、ボア中心106とシリンダボア204の接線48b(
図6参照)に到達するようにその短辺W1の長さが定められる。
【0058】
この構成により、ランスノズル30がボア中心106に挿入されたときに、シールド板41aは、バンク201,202の境目K(一方のシリンダボア203と他方のシリンダボア204との境目)の真上に位置する。そして、ランスノズル30が最下端まで挿入されたとき(
図4の状態)に、僅かの隙間をもってシールド板41aがシリンダブロック200に接触しないように、シールド板41aの長辺X1が設定されている。そして、シールド板41aの先端部に噴流J1,J2を堰き止める堰き止め部41a2が形成される。なお、シールド板41aの中央部は、堰き止め部41a2以外の部分がくりぬかれていても良い。
【0059】
堰き止め部41a2は、シールド板41aと一体に形成されているため、単純な構成となっている。堰き止め部41a2は、噴流の衝突によって壊食する。堰き止め部41a2は、平板状の他、平面視で中央部がランスノズルの方向に向いて隆起していても良い。また、先端方向に向くに従ってランスノズル30に近づくように堰き止め部41a2の表面を傾斜させて構成できる。堰き止め部41a2は、例えばボルトによってシールド板41aに固定されてもよい。この場合には、シールド板41aは、堰き止め部41a2の支持部材として作用する。この場合、補強板41b,41cは設けることを要しない。堰き止め部41a2はまた、シールド板41aよりも厚みを持って構成できる。堰き止め部41a2は、複数の層からなる積層材から構成しても良い。
【0060】
補強板41bは、シールド板41aの上部の折り曲げ部を内側から支える。補強板41cは、シールド板41aの外側に、ランスノズル30に沿う方向に長く伸びて設けられている。補強板41b,41cはそれぞれシールド板41aの横幅中央に設けられて(
図6参照)、噴流J1,J2の動圧を受けてシールド板41aが変形することを防ぐ。
【0061】
図4、
図6を参照して、シールド板41aの前後方向の一端のうち、バンク202のシリンダボア204が設けられている側には、ランスノズル30の方向に折り曲げられた屈曲側部41a1が設けられている。ランスノズル30がシリンダボア203のボア中心に位置決めされたときに、平面視で屈曲側部41a1は、少なくとも、シリンダボア203のボア中心を通るシリンダボア204の接線48aに到達する高さをもつ。このときに、好ましくは、屈曲側部41a1はできるだけ隔壁101に近づくように設けられる。屈曲側部41a1は、噴流J1,J2(特に噴流J2)がシリンダボア204の内面に設けられた溶射被膜105に衝突するのを防ぐ。屈曲側部41a1の先端部は、堰き止め部41a2の一部を構成する。なお、要求される噴流J1,J2の圧力等の条件如何によっては、屈曲側部41a1を設けなくても良い。
【0062】
次に、このように構成された余剰溶射被膜除去装置40の使用方法および作用効果について説明する。揺動装置は、シリンダボア203が下向きになるようにシリンダブロック200を揺動する。そして、洗浄液を噴射しながら回転しているランスノズル30を空間208に挿入し、バンク201に属する全てのシリンダボア203のボア中心106に沿ってランスノズル30を下げながら空間208の内面に付着した余剰溶射被膜を除去する。
【0063】
噴流J2は、斜め先端方向に傾斜しているため、隔壁101、スカート109の内、
図6の太線2点鎖線45で示した部位に衝突する。そして、ランスノズル30が回転しながら降下するときに、クランク室107の上面についても、周辺部から徐々に余剰溶射被膜が除去される。この際、シールド41が空間208と連通するシリンダボア204の開口に臨むように位置して、シールド板41aの先端部に形成された堰き止め部41a2が噴流J1,J2を堰き止めて、噴流J1,J2がシリンダボア204の内面に衝突するのを防止する。
【0064】
そして、ランスノズル30が最下端に降下したときに、シリンダボア203の周囲に除去できないスペースSPを円環状に残す。ランスノズル30は折り返して上昇しながら噴流J1,J2により再度余剰溶射被膜を除去する。この工程において、余剰溶射被膜を除去できる範囲は、クロスハッチング46の領域となる。このとき、連通孔103の内面103a,103bやジャーナル孔102の内面102a,102bについても、余剰溶射被膜が除去される。こうして、クランク室207の空間208の一方の半分側について、余剰溶射被膜を除去できる。
【0065】
ここで、シールド板41aは、シリンダブロック200に接触しない程度までランスノズル30と共に降下するため、シールド板41aが先端付近で噴流J1,J2を受け止めることにより、噴流J1、J2が接触できるクランク室207の壁面が広がる。つまり、シールド板41aが噴流J1,J2を受け止める位置を先端部に近づければ近づくほど、余剰溶射被膜の除去範囲を拡大できる。
【0066】
続いて、クランク室207の空間208の他方の半分の余剰溶射被膜を除去する。揺動装置は、シリンダボア204が下向きになるようにシリンダブロック200を揺動する。この際、シールド41のタレット11に対する取付位置をランスノズル30の回転方向に180°だけ移動させる。もしくは、
図6においてシールド41を180°回転させた構成のものをタレット11の別のタレット面(不図示)に予め用意しておき、シリンダボア203が下向きとなっている状態で余剰溶射被膜を除去するときには
図6の構成のタレット面11a(
図4参照)を割り出して用い、シリンダボア204が下向きとなっている状態で余剰溶射被膜を除去するときにはシールド41が
図6と反対の位置に取り付けられた別のタレット面を割り出して用いるようにしても良い。なお、別のタレット面とは、例えばタレット11のタレット面11aと反対側の面である。
【0067】
図7は、シリンダブロック200のシリンダボア204が下向きになるように
図6の状態から揺動させた状態を示している。
図6における余剰溶射被膜の除去工程では、シリンダボア204の開口に臨むようにシールド41が挿入されているため、
図7に示すクロスハッチング47の領域に余剰溶射被膜が除去されていない状態である。このクロスハッチング47の領域にある余剰溶射被膜を除去するために、シリンダボア204が下向きになるようにシリンダブロック200を傾けることが必要となる。
【0068】
そして、
図7の状態でランスノズル30を回転させながら降下させると、クロスハッチング47の領域および、空間208の壁面のうち太線2点鎖線49の部分が処理される。従って、余剰溶射被膜除去装置40は、シリンダブロック200のクランク室207の内、シリンダボア203、204の周囲を除く殆どの領域について、余剰溶射被膜を除去できる。この際、取付位置を
図6から180°回転させたシールド41が噴流J1,J2を堰き止めて、シリンダボア203の内面の溶射被膜105の剥離を防止する。こうして、余剰溶射被膜除去装置40は、V型多気筒エンジンに対してもシリンダボアに形成された溶射被膜105を剥離することなく、クランク室207内の余剰溶射被膜を確実に除去することができる。
【0069】
なお、上述の説明では、バンク201、202に対して、シールド41の取付位置を変えて適用した例、あるいはバンク201用のタレット面11aとバンク202用のタレット面(不図示)を予め用意しておき、タレット11を割り出す例を挙げたが、これに替えて、シリンダブロック200を平面視で180°旋回する旋回装置を設けても良い。この場合には、旋回前のシリンダボア203に対するシリンダボア204の位置と、シリンダブロック200を180°旋回してシリンダブロック200を揺動したときにおける、シリンダボア204に対するシリンダボア203の位置とが、同一になる。そのため、ノズル30とシールド41との組合せを、バンク201及びバンク202に共通して適用できる。また、余剰溶射被膜除去装置を2台設け、1台は一方のバンク(例えば右側)側を、もう一台は他方のバンク(例えば左バンク)側を処理しても良い。また、1つのタレット11に180°ピッチで一対のシールド41を取り付ける構成としても良い。
【0070】
(第3実施形態)
第3実施形態について
図8を参照して説明する。
図8は、第3実施形態に係る余剰溶射被膜除去装置50のランスノズル60を倒立したシリンダブロック100に挿入した状態における、ランスノズル60の回転軸22を通る断面で切断した縦断面図である。
【0071】
第3実施形態のランスノズル60は、自動工具交換式の洗浄機を用いている点で第1実施形態の余剰溶射被膜除去装置10と異なる。自動工具交換式の洗浄機は、概ねマシニングセンターと同様の構造である。ただし、マシニングセンターは切削に用いられるが、自動工具交換式の洗浄機は洗浄又は噴流によるバリ取りに用いられる。そして、主軸には10ないし80MPaの高圧洗浄液が供給される。そのため、マシニングセンターと自動工具交換式の洗浄機は、主に精度・機械剛性・防錆性能が異なるが、主たる構成は同様である。このような前提に基づいて、以下の説明は、第1実施形態と異なる点について詳細に行い、同じ部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0072】
余剰溶射被膜除去装置50は、直交3軸移動装置に設けられた主軸台である主軸頭52に、シャンク穴51aを備えた主軸51がベアリング53によって回転可能に支持されている。主軸頭52には、シャンク穴51aと隣り合うように回り止め穴56が設けられている。主軸頭52には、回り止め穴56に開口する流路55が設けられている。回り止め穴56には、挿入部62との間を封止するパッキン(不図示)が設けられる。
【0073】
ランスノズル60は、図示しない自動工具交換装置によって交換される。ランスノズル60は、ボディ61と、ボディ61に軸支された回転体65と、回り止め穴56から回転体65の内部に洗浄液を供給する流路67,68とを備える。
【0074】
ボディ61は、その大部分が略円筒状をなし、その腹部に突起部61aを備えている。突起部61aは、回り止め穴56に挿入される挿入部62を備えている。ランスノズル60が主軸51に装着されたときに、挿入部62は、回り止め穴56に嵌合して挿入される。ボディ61の中央部には段付きの貫通穴である円筒穴64が設けられている。円筒穴64の両端にベアリング63が設けられている。
【0075】
回転体65は、テーパシャンク65aと、フランジ65bと、円筒部65cと、軸体65dとが一体に成形されている。テーパシャンク65aはシャンク穴51aと密着する円錐面を備える。テーパシャンク65aとシャンク穴51aとが密着することによりランスノズル60が主軸51に装着される。このとき、挿入部62が回り止め穴56に挿入されるため、ボディ61は回転しない。フランジ65bは、円板状をなす。円筒部65cは、円筒穴64と摺動する円筒面65c1を備えている。円筒面65c1には、円周溝65c2が設けられている。円筒部65cの両端部はベアリング63に支持される。軸体65dは、第1実施形態のランスノズル30の軸体33に対応するため、その詳細な説明を省略する。
【0076】
ボディ61の挿入部62から円筒穴64の間には流路67が設けられている。流路67は、回転体65の円周溝65c2に開口している。流路68は、回転体65の内部に設けられている。流路68はT字状をなし、円周溝65c2に両端が開口する貫通穴と、軸体65dの中心軸に沿って設けられている縦穴とからなる。流路67と流路68とは、円周溝65c2を介して連通している。円周溝65c2は、流路67から供給された洗浄液を円周方向に均等に配給し、回転体65の回転方向が変化しても連続的に噴口35,36へ洗浄液を供給する。噴口35,36は流路68に連通している。そして、ランスノズル60が主軸51に装着されたときに、流路67は、流路55と連通する。洗浄液供給装置17から供給される洗浄液は、流路55,67,68を伝わって噴口35,36から噴流J1,J2として噴出する。この第3実施形態においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0077】
本発明の内容は、上述の3つの実施形態に限定して解釈されるべきではない。上述の3つの実施形態は変形し、組合せて利用できる。例えば、第3実施形態のランスノズル60に第2実施形態のシールド41を組合せることができる。また、第3実施形態の余剰溶射被膜除去装置50の主軸頭52に第2実施形態のシールド41を組合せても良い。あるいは、第2実施形態のシールド41を第3実施形態のボディ61の端面に取り付けることもできる。さらに、第2実施形態のシールド41に直線ガイド及びシリンダその他の移動装置を組合せることによって、シールド41を挿入可能なシールドとして構成しても良い。
【0078】
なお、上述の実施形態では、タレット11の移動に直交3軸移動装置を利用したが、これに替えて垂直多関節ロボット、パラレルリンクロボットを利用してもよい。また、本発明のランスノズルは、シリンダブロック内の余剰溶射被膜を除去するために適用される以外にも、各種構造物の内面に付着した付着物を除去するために広く適用することができることは言うまでもない。