【課題】母材と同程度の強度及び靭性に優れた溶接金属性能が得られ、耐気孔欠陥性に優れ、耐食性が良好で、かつ、全姿勢溶接性が良好な二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤを提供する。
【解決手段】ワイヤ全質量に対して質量%で、Si:0.1〜1.0%、Mn:1.0〜2.5%、Ni:7.0〜10.5%、Cr:20〜24%、Mo:1.0〜3.5%、Ti:0.2〜1.5%、N:0.08〜0.20%を含有し、C:0.04%以下、Cu:0.10%以下であり、TiO
【背景技術】
【0002】
従来、SUS329J3L、SUS329J4Lに代表される二相ステンレス鋼は、優れた耐食性及び高い強度特性を持つステンレス鋼である。この二相ステンレス鋼のグレードとしては、その化学成分組織に含まれるCr、Mo、N、Wの各含有量を基にして、耐孔食性指数であるPRE(Cr+3.3Mo+16N)またはPREW(Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N)を用いて分類されている。この二相ステンレス鋼は、耐食性が要求される化学プラント、化学機器、油井及びガス井等の耐食材料として使用され、また強度も高いことから、車両等の構造材としても広く用いられている。また近年では、耐孔食性指数の低い安価な二相ステンレス鋼の研究が進んでおり、ASTMではUNS S82122が開発されている。
【0003】
一般的に二相ステンレス鋼に適用される溶接材料は、溶接金属部の凝固偏析による局部的な耐食性の低下が生じる可能性があるため、母材より高い耐食性指数が求められる。
【0004】
このような状況の中、これら二相ステンレス鋼の溶接に対応でき、かつ、全姿勢溶接性が良好なフラックス入りワイヤの開発が望まれている。しかし、Nを多く含有する二相ステンレス鋼を溶接した場合、ブローホール等の気孔欠陥が発生しやすくなるという問題点がある。加えて、立向上進溶接ではビード形状が凸状になる傾向にあり、グラインダーによる手直しを必要とする等の問題点があった。
【0005】
この問題点を解決するための技術として、例えば、特許文献1には、溶接用フラックス入りワイヤ中のCr、Mo、Nの含有量を限定すると共に、スラグ剤として、TiO
2、SiO
2、ZrO
2、Al
2O
3及びMgOの各含有量を規制することで、耐食性、低温靭性及び溶接作業性を良好にした二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。しかし、特許文献1に記載された二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤは、全姿勢作業性が劣るという問題点があった。
【0006】
また、特許文献2には、溶接用フラックス入りワイヤ中のC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Cu、Nの含有量を限定することにより、母材と同等な高強度な溶接金属が得られ、靭性及び耐食性が良好で、溶接作業性が良好な二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。しかし、特許文献2に記載された二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤは、Tiが添加されていないので、立向上進溶接ではメタル垂れが発生しやすく、ビード形状も不良となる。また、Crの含有量が多いので、シグマ相が析出し、溶接金属の靭性が低下してしまうという問題点もあった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、各種成分組成のフラックス入りワイヤを試作して詳細に検討した。その結果、フラックス入りワイヤ中のC、Mo、N、Cu及びZr酸化物の各含有量を適量にすることで、溶接金属の必要な強度及び靭性を確保できることを見出した。また、Mnは溶接金属中のN固溶度を高める効果があるため、Nの歩留を向上させてオーステナイトを安定化させ、固溶強化によって溶接金属の強度を高めることも見出した。さらに、耐食性に関しては、フラックス入りワイヤ中のNi、Cr、Mo、N及びZr酸化物の各含有量を適量にすることで、溶接金属のオーステナイト組織を安定化させて耐食性を改善でき、さらに、Cr、Mo、Nの各含有量を更に限定することで、耐食性をより改善できることを見出した。
【0012】
一方、Mn及びNの含有量が高くなるにつれ、ブローホール等の耐気孔欠陥性が劣下するといった問題点が生じる。また溶接による再熱により、オーステナイト/フェライト粒界中にCr窒化物を生成し、溶接金属の靭性が低下して局部腐食性が劣化するといった問題点も生じるため、更なる検討を行った。その結果、フェライト生成元素であるCr、Mo、Siの各含有量の調整を行うことによりフェライトの晶出を安定化し、フェライト相にNを固溶させることでブローホール等の耐気孔欠陥性の向上を図ることができ、またCr窒化物の析出を低減し、靭性や局部腐食性の劣化を抑制できることを見出した。
【0013】
溶接作業性に関しては、アーク安定性はNi、Ti、Ti酸化物及びSi酸化物の各含有量を適量とすることで、スラグ被包性はSi、Ti、弗素化合物及びスラグ剤の合計の各含有量を適量とすることで、スラグ剥離性はTi、Si酸化物、Al酸化物、Zr酸化物及びスラグ剤の合計の各含有量を適量とすることで、ビード形状及びビード外観はSi、Ti、Ti酸化物、Si酸化物、弗素化合物及びスラグ剤の合計の各含有量を適量とすることで良好にできることを見出した。また、Tiとスラグ剤の合計の各含有量を適量とすることで、スラグの凝固速度を促進できるので、特に立向上進溶接での溶融金属の垂れ(以下、メタル垂れという。)を防止できることを見出した。
【0014】
本発明は、ステンレス鋼外皮及び充填フラックスの各成分組成それぞれの単独及び共存による相乗効果によりなし得たもので、以下にそれぞれの各成分組成の添加理由及び限定理由を述べる。なお、各成分組成の含有量は、ワイヤ全質量に対する質量%で示すこととし、その質量%で示すときには単に%と記載して示すこととする。
【0015】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でSi:0.1〜1.0%]
Siは、ステンレス鋼外皮、金属Si、Fe−Si及びFe−Si−Mn等から添加され、スラグ被包性やビード形状を改善する効果を有する。Siが0.1%未満では、スラグ量が少なく、スラグ被包性及びビード形状が不良になると共に、ビード表面が酸化してテンパーカラーが付着してビード外観が不良になる。一方、Siが1.0%を超えると、溶融金属の粘性が低下し、ビード形状が不良になる。従って、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でSiは0.1〜1.0%とする。
【0016】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でMn:1.0〜2.5%]
Mnは、ステンレス鋼外皮、金属Mn、Fe−Mn、Fe−Si−Mn及び窒化Mn等から添加され、溶接金属中のN固溶度を高めて強度を向上する効果があるが、Nの含有量が高くなるにつれてブローホール等の耐気孔欠陥性が劣化する。Mnが1.0%未満では、N固溶度が不十分で、固溶強化によって溶接金属の強度を高める効果が十分に得ることができない。一方、Mnが2.5%を超えると、耐気孔欠陥性が劣化してブローホールが発生する。従って、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でMnは1.0〜2.5%とする。
【0017】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でNi:7.0〜10.5%]
Niは、ステンレス鋼外皮、金属Ni及びFe−Ni等から添加され、アーク安定性を改善すると共に、オーステナイト組織を安定化させて耐食性を改善する効果を有する。Niが7.0%未満では、アークが不安定になると共に、オーステナイトの晶出量が減少して成分偏析を招き、耐食性が不良になる。一方、Niが10.5%を超えると、アークが不安定となる。従って、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でNiは7.0〜10.5%とする。
【0018】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でCr:20〜24%]
Crは、ステンレス鋼外皮、金属Cr、Fe−Cr及び窒化Cr等から添加され、溶接金属の耐食性を改善する目的で添加する。Crが20%未満では、溶接金属の耐食性を十分に得ることができない。一方、Crが24%を超えると、シグマ相が析出して脆化し、溶接金属の靭性が低下する。従って、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でCrは20〜24%とする。
【0019】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でMo:1.0〜3.5%]
Moは、ステンレス鋼外皮、金属Mo及びFe−Mo等から添加され、溶接金属の耐食性や靭性を改善する効果を有する。Moが1.0%未満では、溶接金属の靭性が低下すると共に、耐食性を十分に得ることができない。一方、Moが3.5%を超えると、溶接金属中にシグマ相が析出して脆化して靭性が低下する。従って、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でMoは1.0〜3.5%とする。
【0020】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でTi:0.2〜1.5%]
Tiは、ステンレス鋼外皮、金属Ti及びFe−Ti等から添加され、その殆どがアーク中で酸化反応してTiO
2となってスラグとして作用し、スラグ流動性を調整してスラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状を良好にする。また、TiO
2の融点が1840℃であるのに対し、Tiの融点は1660℃と融点が低いため、早い時点でスラグ化し、特に立向上進溶接でのメタル垂れを防止する効果がある。Tiが0.2%未満では、その効果が十分に得られず、立向上進溶接でメタル垂れが発生し、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が不良となる。一方、Tiが1.5%を超えると、溶接ビードのなじみが悪くなり、凸状のビード形状となる。従って、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でTiは0.2%〜1.5%とする。
【0021】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でN:0.08〜0.20%]
Nは、ステンレス鋼外皮、窒化Cr及び窒化Mn等から添加され、固溶強化元素であるので、溶接金属の強度を高めると共に、耐食性を改善する効果がある。Nが0.08%未満では、溶接金属の強度が低下し、耐食性も劣化する。一方、Nが0.20%を超えると、ブローホールが発生すると共に、スラグ剥離性が不良になる。従って、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でNは0.08〜0.20%とする。
【0022】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でC:0.04%以下]
Cは、ステンレス鋼外皮、Fe−Mn、Fe−Si−Mn及びグラファイト等から添加され、溶接金属の強度を向上する効果があるが、過剰に添加すると、Cr及びMo等と化合して炭化物を生成して靭性を低下させる。従って、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でCは0.04%以下とし、望ましくは0.01%以下とする。
【0023】
[ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でCu:0.10%以下]
Cuは、ステンレス鋼用外皮及び金属Cu等から含有され、極微量の添加でオーステナイト組織を安定化させて溶接金属の靭性を改善する効果があるが、Cuが0.10%を超えると、Cuを含む金属間化合物を析出して溶接金属の靭性が低下する。このため、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計でCuは0.10%以下とし、望ましくは0.01%以上含有させる。
【0024】
[フラックス中のTi酸化物のTiO
2換算値の合計:3〜7%]
TiO
2は、アークを安定にしてビード形状を良好にする。Ti酸化物のTiO
2換算値の合計が3%未満では、アークが不安定になり、ビード形状が不良になる。一方、Ti酸化物のTiO
2換算値の合計が7%を超えると、母材と溶接ビードとのなじみが悪くなり、凸状のビード形状となる。従って、フラックス中のTi酸化物のTiO
2換算値の合計は3〜7%とする。なお、Ti酸化物は、フラックスからのルチール、チタンスラグ、イルミナイト、チタン酸カリ及びチタン酸ソーダ等から添加できる。
【0025】
[フラックス中のSi酸化物のSiO
2換算値の合計:0.5〜5.0%]
SiO
2は、アークを安定にすると共に、スラグの流動性を調整してスラグ剥離性及びビード形状を良好にする効果がある。Si酸化物のSiO
2換算値の合計が0.5%未満では、アークが不安定となり、スラグ剥離性及びビード形状が不良となる。一方、Si酸化物のSiO
2換算値の合計が5.0%を超えると、スラグが流れやすくなり、スラグ被包性が不良となる。従って、フラックス中のSi酸化物のSiO
2換算値の合計は0.5〜5.0%とする。なお、Si酸化物は、フラックスからの硅砂、硅石の他、カリ長石等から添加できる。
【0026】
[フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計:0.3〜0.9%]
弗素化合物は、スラグ融点を調整し、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状を良好とする効果がある。弗素化合物のF換算値の合計が0.3%未満では、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が不良になる。一方、弗素化合物のF換算値の合計が0.9%を超えると、スラグの融点が著しく低下し、ビード形状が不良となる。従って、フラックス中の弗素化合物のF換算値の合計は0.3〜0.9%とする。なお、弗素化合物は、フラックスからのNaF、LiF、CaF
2、AlF
3、K
2ZrF
6、K
2SiF
6等から添加でき、F換算値の合計はそれらに含有するFの含有量の合計である。
【0027】
[フラックス中のAl酸化物のAl
2O
3換算値の合計:0.06%以下]
Al
2O
3は、フラックス中のTi酸化物、カリ長石、硅砂等の不純物として不可避に含有される。Al
2O
3が過度に含有すると、母材または溶接金属中のC、N、Sと結合して固いスラグを生成し、ビード表面にスラグが焼付いてスラグ剥離性を不良にする。このため、フラックス中のAl酸化物のAl
2O
3換算値の合計は0.06%以下とする。なお、Al
2O
3は、必須の成分ではなく、含まれていないものであってもよい。
【0028】
[フラックス中のZr酸化物のZrO
2換算値の合計:0.06%以下]
ZrO
2は、Ti酸化物、カリ長石、硅砂の不純物として不可避に含有される。ZrO
2は、Nとの親和力が高いので、Nを多量添加した二相ステンレス鋼の溶接に用いた場合、Nと結合して強固なスラグを生成し、ビード表面にスラグが焼付いてスラグ剥離性を不良にする。また、溶接金属中にNと反応して窒化物を生成するので、溶接金属中の固溶Nが減少して耐食性が不良になり、靭性も低下する。このため、フラックス中のZr酸化物のZrO
2換算値の合計は0.06%以下とする。
【0029】
[A値:30〜40]
前記Cr、Mo及びNの含有量が下記(1)式で求められるA値で30〜40の範囲に限定することにより、安定した不動態被膜が生成され、溶接金属の耐食性を向上できる。A値が30未満では、この効果が十分得られず、溶接金属の耐食性が不良になる。一方、A値が40を超えると、Cr、Moの含有量が増加し、シグマ相が析出して脆化し、溶接金属の靭性が低下する。従って、A値は30〜40とする。
A=Cr+3.3Mo+16N・・・(1)
(但し、Cr、Mo、Nはワイヤ全質量に対する質量%)
【0030】
[フラックス中のスラグ剤成分の合計:5〜11%]
フラックス中の酸化物及び弗素化合物からなるスラグ剤成分の合計は、特に立向上進溶接でのメタル垂れを防止すると共に、スラグ被包性及びスラグ剥離性を良好にし、ビード形状を良好にする。スラグ剤成分の合計が5%未満では、スラグ量が少なので、立向上進溶接でメタル垂れが発生し、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が不良となる。一方、スラグ剤成分の合計が11%を超えると、スラグ生成量が過剰となり、スラグ被包が不均一となってスラグ被包性が不良になると共に、スラグ剥離性も不良になる。従って、フラックス中のスラグ剤成分の合計は5〜11%とする。
【0031】
残部は、Fe分及び不可避不純物である。Fe分はステンレス鋼外皮のFe分、フラックスの鉄粉、鉄合金(Fe−Si、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等のフェロアロイ)等からのFe分である。不可避不純物は、P、S等の不可避に混入される不純物をいい、耐割れ性の観点から、Pは0.040%以下、Sは0.020%以下が好ましい。
【0032】
以上、本発明の二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの成分組成の限定理由を述べたが、二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの製造方法について、以下において説明する。例えば、ステンレス鋼外皮を帯鋼から管状に成形する場合には、配合、混合、撹拌、乾燥した充填フラックスをU形に成形した溝に満たした後に丸形に成形し、所定のワイヤ径まで伸線する。この際、整形したステンレス鋼外皮シームを溶接することで、シームレスタイプの二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤとすることもできる。また、ステンレス鋼外皮がパイプの場合には、パイプを振動させてフラックスを充填し、所定のワイヤ径まで伸線することができる。
【0033】
また、充填するフラックスは、供給、充填が円滑に行えるように、固着剤(珪酸カリ及び珪酸ソーダの水溶液)を添加、造粒して用いることもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0035】
表1に示す化学成分のステンレス鋼外皮を用い、ステンレス鋼外皮の帯鋼をU字型に成形してフラックスを充填し、ステンレス鋼外皮の合わせ目を溶接して縮径、焼鈍し、表2に示す各種組成の二相ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤを試作した。ワイヤ径は1.2mm、フラックス充填率は18〜25%とした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
これら試作ワイヤで、溶着金属性能、耐気孔欠陥性、耐食性及び溶接作業性について調査を行った。
【0039】
溶着金属試験は、表3に示す板厚20mmの二相ステンレス鋼板を用い、JIS Z 3111に準拠して開先角度20°、ルート間隔20mmで組んだ試験体に、表4に示す溶接条件で試験を行った。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
溶接作業性の評価は、表3に示す板厚20mmの二相ステンレス鋼板をT字に組み、表4に示す溶接条件で立向上進すみ肉溶接を行い、アーク安定性、メタル垂れの有無、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状について目視で調査した。
【0043】
溶着金属性能の評価は、JIS Z 3111に準じて溶着金属試験を行い、溶着金属の厚板方向の中心部から引張試験片(A0号)及び衝撃試験片(Vノッチ試験片)を採取し、引張試験及び衝撃試験を実施した。引張強さの評価は、690MPa以上を良好とした。靭性の評価は、試験温度−20℃でのシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーが3本の平均値で35J以上を良好とした。
【0044】
耐気孔欠陥性の評価は、溶着金属試験後の溶接試験体を、JIS Z 3106に準拠してX線透過試験を実施し、ブローホールの有無を調査し、第1種のきず点数が3点以下を良好とした。
【0045】
耐食性の評価は、溶着金属試験後の溶接試験体に、ASTM G48 METHOD Eに準拠して腐食試験を行い、臨界孔食発生温度(以下、CPTという。)が25℃以上を良好とした。それらの結果を表5にまとめて示す。
【0046】
【表5】
【0047】
表2及び表5中のワイヤNo.1〜12が本発明例、ワイヤNo.13〜25は比較例である。本発明であるワイヤNo.1〜12は、各成分組成が適正であるので、溶接作業性が良好で、ブローホールは無く、CPTも25℃以上であった。また、溶着金属の引張強さ及び吸収エネルギーも良好であり、極めて満足な結果であった。
【0048】
比較例中ワイヤNo.13は、Cが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Mnが多いので、ブローホールが発生した。さらに、Tiが多いので、ビード形状が不良であった。
【0049】
ワイヤNo.14は、Siが少ないので、スラグ被包性、ビード形状及びビード外観が不良であった。また、Al
2O
3換算値が多いので、スラグ剥離性が不良であった。
【0050】
ワイヤNo.15は、Siが多いので、ビード形状が不良であった。また、Moが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。
【0051】
ワイヤNo.16は、Mnが少ないので、溶着金属の引張強さが低かった。また、Niが少ないので、アークが不安定で、CPTが低かった。さらに、TiO
2換算値が多いので、ビード形状が不良であった。
【0052】
ワイヤNo.17は、Niが多いので、アークが不安定であった。また、F換算値が多いので、ビード形状が不良であった。さらに、ZrO
2換算値が多いので、スラグ剥離性が不良で、溶着金属の吸収エネルギーが低く、CPTが低かった。
【0053】
ワイヤNo.18は、Crが少ないので、CPTが低かった。また、Cuが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。さらに、TiO
2換算値が低いので、アークが不安定で、ビード形状が不良であった。
【0054】
ワイヤNo.19は、Crが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Nが少ないので、溶着金属の引張強さが低く、CPTが低かった。さらに、SiO
2換算値が多いので、スラグ被包性が不良であった。
【0055】
ワイヤNo.20は、Moが少ないので、溶着金属の吸収エネルギーが低く、CPTが低かった。また、F換算値が少ないので、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が不良であった。
【0056】
ワイヤNo.21は、Nが多いので、スラグ剥離性が不良で、ブローホールが発生した。また、A値が高いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。
【0057】
ワイヤNo.22は、SiO
2換算値が少ないので、アークが不安定で、スラグ剥離性及びビード形状が不良であった。
【0058】
ワイヤNo.23は、スラグ剤の合計が少ないので、メタル垂れが発生し、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が不良であった。
【0059】
ワイヤNo.24は、A値が低いので、CPTが低かった。また、スラグ剤の合計が多いので、スラグ被包性及びスラグ剥離性が不良であった。
【0060】
ワイヤNo.25は、Tiが少ないので、メタル垂れで発生し、スラグ被包性、スラグ剥離性及びビード形状が不良であった。