【実施例】
【0026】
図1に示すように、加工設備10は、工作物11に機械加工を施す工作機械20と、工作物11を搬送するロボット30と、このロボット30の旋回範囲に配置され工作物11の寸法を測定する寸法測定機構40と、ロボット30の旋回範囲に配置され工作物11を反転する反転機構45と、工作機械20、ロボット30、寸法測定機構40及び反転機構45を囲う安全フェンス48と、この安全フェンス48の一部をなし工作物11をストックするストッカ50と、このストッカ50の隣に配置され操作盤を兼ねる制御部49と、工作物11に添付された伝票12に付されている識別コード13を読み取り、この読み取り情報を制御部49へ送るコードリーダ14とを備えている。コードリーダ14は、有線、無線の何れでもよい。加工設備10の近傍に、工具検査装置80が配置されている。
【0027】
工作物11は、金属板又はプラスチック板から荒切りされた直方体である。この工作物11は、本発明により、六面を所定の粗さに仕上げると共にABC(縦・横・長さ)寸法を、要求寸法に仕上げる。なお、工作物11の材質や形状は任意である。
【0028】
工作機械20は、例えば、工作物11を支えるテーブル21と、テーブル21上の工作物11を上からテーブル21へ押し付ける押圧部材22と、テーブル21を移動するテーブル移動シリンダ23と、テーブル21の側方に配置される左右のフライス24L、24R(Lは左、Rは右を示す添え字である。以下同じ)と、フライス24L、24Rを回す回転機構25L、25Rと、回転機構25L、25Rを左右に移動する工具移動機構26L、26Rとを備える両面フライス盤である。
【0029】
なお、工作機械20は、安全フェンス48内に2基又はそれ以上配置しても良い。また、1基の工作機械20内に、実施例では1組のフライス24L、24Rを配置したが、複数組のフライスを配置することは差し支えない。複数組のフライスの場合は、面取りフライスを含めることが望ましい。通常の平面切削に加えて面取りが行えるからである。
【0030】
ロボット30は、工作物11を把持する一対の把持爪31L、31Rを有すると共に、押し棒32を備えている。押し棒32は、押し棒シリンダ33により、使用時は突出し、非使用時は後退する。
【0031】
ストッカ50は、ロボット30側の面に、パレット移動機構70を備える。
ストッカ50は、安全フェンス48の面に沿って、安全フェンス48の一部として配置されるため、長さや高さは十分に確保することができる。
以下の説明の便利のために、ストッカ50の面に平行で水平な軸をx軸、このx軸に直交してストッカ50を貫通する水平軸をy軸、図面表裏方向へ延びる鉛直軸をz軸とする。
【0032】
識別コード13には、工作物11の縦、横、長さ(ABC寸法)、仕上がり寸法、材質などの情報が含まれており、作業員は、コードリーダ14を介してこれらの情報を制御部49へ伝達する。制御部49は、この情報に基づいて、ストッカ50の収納箇所を決定し、ロボット30、反転機構45、工作機械20を制御する。
【0033】
図2に示すように、ストッカ50の要部は棚51であり、この棚51は、水平に延びる多段の棚板52と、鉛直に延びる支柱部53とから構成される格子状棚である。
格子であるため、y軸に沿って延びる貫通部54を多数個備えている。
1つの貫通部54に、1個の工作物11が投入される。そのために、貫通部54毎に、取っ手64を有する引き出し状のスライダ55と、このスライダ55に載せたワークパレット56とを設けた。
【0034】
パレット移動機構70の作用を、
図3に基づいて説明する。
図3で、符号76は、スライダ55の上面線である。
図3(a)に示すように、引き出されたワークパレット56に作業員の手で工作物11が載せられる。
図3(b)に示すように、ワークパレット56及び工作物11が、作業員の手で、棚51内部へ収納状態とされる。
【0035】
図3(c)に示すように、フック74L、74Rの先端凸部が切り欠き61に嵌った状態で、フック74L、74Rでワークパレット56がすくい上げられる。
図3(d)に示すように、フック74L、74Rがy軸に沿って移動し、ワークパレット56及び工作物を棚51から工作機械側へ引き出す。この状態で、把持爪31L、31Rで工作物11をピックアップする。
【0036】
図4(a)に示すように、寸法測定機構(
図1、符号40)で寸法の確認がなされた工作物11は、把持爪31L、31Rによりテーブル21に載せられる。
【0037】
ところで、把持爪31L、31Rが工作物11に付着することがある。金属板又はプラスチック板から直方体を荒切りするときに、ばりが残り、このばりが把持爪31L又は31Rに引っ掛かる。
この状態で、把持爪31L、31Rを工作物11から分離すると、工作物11が横ずれすることがある。
【0038】
対策として、
図4(b)に示すように、押圧部材22で工作物11をテーブル21に押圧する(矢印(1))。次に、把持爪31L、31Rを工作物11から分離する(矢印(2))。押圧部材22で工作物11が拘束されているため、工作物11が横ずれする心配はない。
【0039】
図4(c)に示すように、切削液ノズル77から切削液78を工作物11へ噴射しながら、想像線で示すフライス24L、24Rで工作物11の側面を切削加工する。工作物11と押圧部材22の間に切削液78が侵入する。この切削液78が接着作用を発揮するため、切削加工後に、押圧部材22を上げると、この押圧部材22に工作物11が連れて上がり、工作物11の位置がずれる。
【0040】
対策として、
図4(d)に示すように、ロボットに付属する押し棒32で工作物11をストッパ21aへ押圧する(矢印(3))。この状態で、押圧部材22を上げる(矢印(4))。押し棒32の抑え作用により、工作物11が上がる心配はない。
この後、押し棒32を外し、把持爪31L、31Rで、工作物11をテーブル21からピックアップする。
【0041】
図4(c)にて、想像線で示すフライス24L、24Rは、徐々に摩耗する。この摩耗が一定量に達したらフライス24L、24Rを交換する必要がある。工具の交換を適宜行うことで、健全な切削作業を継続することができる。この工具の交換に係る技術を、
図5に基づいて説明する。
【0042】
図5に示すように、工具交換のための面積Scを、制御部(
図1、符号49)へ入力する(ST01)。面積Scは、試切削を実施し、切削した累積面積と工具の摩耗との相関を観察して定める。
【0043】
ST02にて、mに「1」を与える。
ST03にて、切削対象の工作物の表面積Swmを読み込む。工作物の六面が切削される場合には、(A×B+B×C+C×A)×2がSwmとなる。ABC寸法は、
図1に示すコードリーダ14を介して、制御部49に取り込まれている。
【0044】
ST04にて、工具のパス回数nを読み込む。例えば、3パスの場合は、面積を3倍にする。パス回数nも
図1にコードリーダ14を介して、制御部49に取り込まれている。
ST05にて、制御部は、n×Swm(初回はmは1である。)を、累積面積Stへ与える。
ST06にて、累積面積Stが、工具交換のための面積Scを超えているか否かを調べる。しばらくは超えないため、ST07へ進む。
【0045】
ST07で、切削加工を実施する。
ST08にて、mにm+1を与える。
ST03〜ST08を繰り返すと、ST05でのStは、(n×Sw1)→(n×Sw1+n×Sw2)→(n×Sw1+n×Sw2+n×Sw3)・・・の如く、徐々に増加する。
【0046】
ST06で、累積面積Stが、工具交換のための面積Scを超えたら、ST09へ進む。
ST09で、工具を自動又は手動で交換する。
ST10で、Stをリセットする。
【0047】
図1にて、反転機構45で、工作物11の向きを変え、テーブル21へ移し、別の面の切削を同手順で実施する。六面の切削が完了した工作物11は、ロボット30及びパレット移動機構70で、棚51の元の位置に戻される。作業員は、
図3(b)→
図3(a)の手順で、加工済みの工作物11を、回収する。
【0048】
図5のST09で交換時期に達した工具を外し、新しい工具に交換する。新しい工具は、工具検査装置80で、予め検査され、検査に合格した工具のみが、交換に供される。
工具検査装置80の詳細な構造及び作用を以下に述べる。
【0049】
図6に示すように、フライス24L、24Rは、ボディ81と、このボディ81にボルト82、82で機械的に保持されているスローアウェイチップ83、83とからなる正面フライスである。ボディ81は、鍔部84とテーパーシャンク85とを備えている。鍔部84のテーパーシャンク85側の面84aとスローアウェイチップ83の刃先83aとの距離L1が刃先83aの高さに対応する。D1は、スローアウェイチップ83、83のピッチ円である。
【0050】
図7に示すように、工具マスター90は、複数個の先尖りピン91、91を支える円板92と、この円板92の中心から延びる柱部93と、この柱部93の下部に設けた鍔部94と、この鍔部94から下へ延ばしたテーパー軸部95とからなる。
先尖りピン91のピッチ円D2は、
図6のピッチ円D1と同じに設定され、鍔部94から先尖りピン91の先端までの距離L2は、
図6の距離L1と同じに設定される。
【0051】
図8に示すように、工具検査装置80は、箱状の下部架台101と、この下部架台101の上面に備える水平レール102と、この水平レール102で水平移動自在に支持される工具載せ台103と、水平レール102に付属され工具載せ台103の工具載せ位置を決める第1ストッパ片104及び測定水平位置を決める第2ストッパ片105と、工具載せ台103を移動する台移動機構110と、下部架台101上に設けられ平面面積が下部架台101の約半分である箱状の上部架台106と、この上部架台106に設けられるフレーム状の測長器支持部材107と、この測長器支持部材107で支持される複数の測長器120、120と、上部架台106上に設けられる工具検査制御部140とを備えている。
【0052】
下部架台101内に工具マスター90が収納され、下部架台101の正面が扉108とされ、扉108を開くことで工具マスター90を出し入れすることができる。
工具載せ台103は、テーパーシャンク85及びテーパー軸部95が嵌るテーパー穴109を備えている。
【0053】
台移動機構110は、構成は任意であるが、例えば、工具載せ台103から下へ延ばしたアーム111と、下部架台101内に配置される駆動プーリ112及び従動プーリ113と、駆動プーリ112を駆動するモータ114と、駆動プーリ112及び従動プーリ113に掛け渡され水平レール102に沿って延びる無端部材115とからなる。無端部材115は、ベルトが好適であるが、チェーンやロープであってもよい。無端部材115にアーム111が下端が止められる。
【0054】
モータ114により、駆動プーリ112が正転又は逆転され、工具載せ台103は、第1ストッパ片104と第2ストッパ片105との間、往復する。
なお、駆動プーリ112、従動プーリ113、無端部材115及びモータ114を、ロッドレスシリンダに置き換えることができる。よって、台移動機構110の構成は任意である。
【0055】
図9(a)に示すように、測長器120は、スローアウェイチップ83に接触する接触子121と、この接触子121を待機位置から測定位置まで直線的に移動する移動機構122と、測定位置にて接触子121の変位を検出する変位検出機構123とを備えている。
【0056】
変位検出機構123は、例えば、センサーケース124と、このセンサーケース124に収納される一次コイル125と、この一次コイル125の上下に配置される上方二次コイル126及び下方二次コイ127と、これらのコイル125〜127を縦貫する可動鉄心128と、この可動鉄心128から延びて下端に接触子121を備えるロッド129と、可動鉄心128を中立位置へ付勢する上下のスプリング131、132とからなる。コイル125〜127及び可動鉄心128からなる機構は、差動変圧式変位計と呼ばれる。
【0057】
移動機構122は、変位検出機構123を昇降する機構であり、高さ位置が制御可能なサーボシリンダが好適である。
図9(a)では、変位検出機構123は待機位置に保持されている。移動機構122により、変位検出機構123を所定位置まで下げる。
すると、
図9(b)に示すように、接触子121がスローアウェイチップ83の刃先に当たって止まり、可動鉄心128も上又は下に移動する。この移動量は、二次コイル126、127の誘起起電力の変化に基づき、電気信号で与えられる。
【0058】
変位検出機構123は、差動変圧式変位計の外、発光ダイオードと受光セルとの組合わせ、リニアーエンコーダ、デジタルダイヤルゲージなど、各種の形態が採用可能である。
【0059】
次に、
図8に示す工具検査装置80を用いて実施する工具マスター90からの情報取得法について説明する。
図8に示すように、工具載せ位置にある工具載せ台103に工具マスター90を載せる(
図10、ST11)。工具マスター90にはn個の先尖りピン91、91が設けられている。
工具検査制御部140に設けられている始動ボタン141を押す(
図10、ST12)。
工具検査制御部140は、台移動機構110を制御し、工具載せ台103が第2ストッパ片105に当たるまで移動する(
図10、ST13)。
次に、接触子121、121と共に変位検出機構123、123を測定位置まで下げる(
図10、ST14)。
【0060】
図9(a)、(b)の要領で、工具マスター90の刃先の高さ情報を検出する(
図10、ST15)。この高さ情報を
図10の工具検査制御部140に記憶する(
図10、ST16)。これで、工具マスター90からの情報取得は終了したので、
図10にて、接触子を待機位置まで上げ(ST17)、工具載せ台を工具載せ位置まで戻し(ST18)、工具載せ台から工具マスターを外す(ST19)。工具マスターは所定の場所に保管する。
【0061】
次に、
図8に示す工具検査装置80を用いて実施する正面フライス24Lの検査及び合否判定について説明する。正面フライス24Lには、n個のスローアウェイチップ83が取付けられている。
【0062】
図11にて、工具載せ位置にある工具載せ台に正面フライスを載せ(ST21)、始動ボタンを押し(ST22)、工具載せ台を測定水平位置まで移動する(ST23)。工具検査制御部は、n個の接触子を測定位置まで下げ(ST24)、n個のスローアウェイチップの高さ情報を検出する(ST25)。
【0063】
ST26にて、工具検査制御部は、「予め記憶している工具マスターの刃先高さ」とST25で「検出したチップの刃先高さ」の「差」を算出する。差はn個算出される。工具検査制御部に表示部がある場合には、表示部にn個の差を表示させる。
【0064】
ST27にて、差が許容値以内であるか否かを調べ、許容値以内であれば「合格判定」(ST28)を発し、許容値以内でなければ「不合格判定」(ST29)を発する。
これで、正面フライスの検査が終了したので、接触子を待機位置まで上げ(ST30)、工具載せ台を工具載せ位置まで戻し(ST31)、工具載せ台から正面フライスを外す(ST32)。
【0065】
以上に述べたように、n個のスローアウェイチップを有する正面フライスを、n個の測長器で検査するため、正面フライスを回転させる必要がない。
【0066】
なお、
図8にて、駆動プーリ112、従動プーリ113、無端部材115及びモータ114を廃止して、作業員の手で、工具載せ台103を往復移動させることは、差し支えない。
【0067】
以上に述べた工具検査制御部140の作用は、次のようにまとめることができる。
すなわち、始動情報に基づいて、工具載せ台を工具載せ位置から測定水平位置まで移動するように台移動機構を制御する第1工程(
図11、ST13)と、
工具載せ台が測定水平位置に到達した情報に基づいて、移動機構で接触子を測定位置まで下げるように測長器を制御する第2工程(
図11、ST14)と、
接触子をスローアウェイチップの刃先に接触させ刃先の高さを検出するように測長器を制御する第3工程(
図11、ST15)と、
測定終了情報に基づいて、測定子を待機位置へ戻すように測長器を制御する第4工程(
図11、ST20)と、
工具載せ台を工具載せ位置へ戻すように台移動機構を制御する第5工程(
図11、ST21)とからなる一連の工程を実施する。
【0068】
以上により、n個のスローアウェイチップの刃先の高さを評価することができる。この評価は、いわゆる絶対値評価である。この絶対値評価よりも、相対値評価の方が合否判定などが簡便であることが知られている。
相対値評価は、上記第1工程から第5工程に、次のステップを加えることで実施できる。
【0069】
すなわち、予め工具マスターにより、この工具マスターに設けた複数個の刃先の高さ情報を基準情報として取得し(
図10、ST06)、第3工程で得た刃先の高さ情報と基準情報の差を算出し(
図11、ST16)、この差が許容値以内であれば合格と判定する(
図11、ST17)。