(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-131964(P2017-131964A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】ステンレス鋼板のタンデムエマルション圧延において高速圧延を可能にする冷間圧延と制御システム
(51)【国際特許分類】
B21B 27/10 20060101AFI20170707BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
B21B27/10 B
B21B1/22 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-25285(P2016-25285)
(22)【出願日】2016年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】591172216
【氏名又は名称】小豆島 明
(72)【発明者】
【氏名】小豆島 明
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AA07
4E002AD05
4E002BA01
4E002BC02
4E002BC08
4E002CB09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ステンレス鋼板のタンデムエマルション圧延において期待する高圧延速度を実現するため、高潤滑性を可能にする新しい潤滑システムの提供。
【解決手段】ステンレス鋼鈑のエマルションタンデム冷間圧延において焼付きが発生したスタンドにおいてエマルション圧延にけるロールと材料間の入口部の入口油膜厚みを増加させ、ロールと材料間の塑性接触域における混合潤滑領域での境界潤滑領域の面積比を減少させることにより、摩擦係数を減少させて、最終圧延速度迄焼付きを発生させることない、冷間圧延とその制御システム。入口油膜厚みを大きくするために基油粘度を大きくしたエマルション圧延油のエマルション濃度を増加させた別系統のエマルション圧延油を追加供給したハイブリッド圧延。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼板のエマルション冷間圧延において、焼付き限界界面温度が同じかそれ以上の新たなエマルション圧延油を用いて、ロールと材料間に導入させる入口油膜厚みを増加させ、従来のタンデムエマルション圧延において焼付きが発生したスタンドの摩擦係数を減少させることにより、期待の最終圧延速度まで焼付きを発生させることのない冷間圧延
【請求項2】
ステンレス鋼鈑のエマルション冷間圧延において、焼付きが発生したスタンドにおけるロールと材料間の入口部の入口油膜厚みを増加させ、ロールと材料間の塑性接触域における混合潤滑領域での境界潤滑領域の面積比を減少させることにより、摩擦係数を減少させる冷間圧延
【請求項3】
ステンレス鋼板のエマルション冷間圧延において、ロールと材料間で導入される入口油膜厚みを大きくするため焼付き限界界面温度が同一またはそれ以上の同じ組成で基油粘度を大きくしたエマルション圧延油
【請求項4】
入口油膜厚みを大きくするために基油粘度を大きくしたエマルション圧延油のエマルション濃度を増加させた別系統のエマルション圧延油を追加供給したハイブリッド圧延
【請求項5】
ステンレス鋼鈑のエマルションタンデム圧延において焼付きが発生する最終圧延速度を増加すること可能にするため、あらかじめエマルション圧延油の焼付き限界界面温度を制御し、入口油膜厚みをコントロールする焼付きの制御システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼板のタンデムエマルション圧延において高速圧延を可能にする冷間圧延と制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板の冷間圧延においては普通鋼鈑に比べて非常に焼付きが発生し易く、生産性の向上のために行われるようになったタンデム圧延においては、これまでのエマルション圧延方法では生産性向上を目的として圧延速度を増加することができない。そのため、焼付き発生を防止し、これまで圧延速度を増加するため高潤滑性を有するエマルション圧延油の開発や圧延機のロールと材料間に磁界を印加するための磁界発生装置の開発などが行われているが、そのほとんど場合が期待する圧延速度の上昇が実現していない。
【0003】
ステンレス鋼板の冷間タンデム圧延においてエマルション圧延油を用いた従来の潤滑方法においては高速度の圧延条件においては焼付き防止をすることは困難であるため、今後のタンデム圧延における生産性向上を考えると、エマルション圧延油を用いた方法で高圧延速度においても焼付き発生を抑える技術開発が必要になっている。そのためには、これまでのエマルション圧延における潤滑性を高める新しい潤滑システムを開発して、ステンレス鋼板のタンデムエマルション圧延において潤滑性を高める工夫を考える必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−242700
【特許文献2】特許5208274
【特許文献3】特開2010−94704
【特許文献4】特開2010−221233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでのステンレス鋼板のエマルション圧延方法では生産性向上を目的として、焼付き発生を防止し圧延速度を増加するため高潤滑性を有するエマルション圧延油の開発や圧延機のロールと材料間に磁界を印加するための磁界発生装置などが個々の技術として開発されてきた。しかし、個々の技術開発だけでは期待する圧延速度の上昇を実現していないのが現状である。ステンレス鋼板のタンデムエマルション圧延において期待する圧延速度まで増加にするには、個々の開発技術を組み合わせた新しい潤滑システムを構築しなければならない。本発明は、ステンレス鋼板のタンデムエマルション圧延において期待する高圧延速度を実現するため、高潤滑性を可能にする新しい潤滑システムを提案することである。
【0006】
上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。その手段とは、例えばステンレス鋼板をワークロール径500mmの5スタンドのタンデムミルを用いて、表1に示す圧下スケジュールの圧延条件で圧延する際、表2に示す最終圧延速度を500m/minから1000m/minまで増加することを可能にする新しい潤滑システムである。具体的には、まずこれまでのステンレス鋼用エマルション圧延において表2に示す最終圧延速度が500m/minで表1に示すタンデム圧延において焼付きが発生するエマルション圧延油を用意する。用意した圧延油を用いて、表2に示す最終圧延速度1000m/minでタンデムエマルション圧延を行うと、第2スタンド、第3スタンド、第4スタンド及び第5スタンドにおいて圧延速度が500m/minを超え、焼付きが発生することになる。この第2スタンド、第3スタンド、第4スタンド及び第5スタンドにおいて焼付きが発生させない手段が新しい潤滑システムである。この新しい潤滑システムにおいては、最初に最終圧延速度500m/minのタンデム圧延において焼付きを発生したスタンドにおける界面温度T
mを次式
を用いて、前もって計算を行っておく。ここで、lは接触弧長、μは摩擦係数、p
mは平均
と材料の温度伝導係数、T
r0とT
w0はロールと材料の入口温度およびT
mwdは材料の摩擦による上昇温度である。最終圧延速度1000m/minのタンデム圧延において第2スタンド、第3スタンド、第4スタンドあるいは第5スタンドにおいて焼付きが発生させないためには、第2スタンド、第3スタンド、第4スタンド及び第5スタンドにおいてそれぞれの界面温度が最終圧延速度500m/minのタンデム圧延において焼付きが発生したときの界面温度よりも低くなるようにテンデム圧延の圧延条件を管理すればよい。式(1)から最終圧延温度1000m/minのタンデム圧延における界面温度を最終圧延速度500m/minのタンデム圧延において焼付きが発生したときの界面温度よりも低くするためには、圧延速度が増加したことによる界面温度上昇を相殺するだけの摩擦係数を減少させる新しい潤滑システムを構築することである。摩擦係数を減少させる新しい潤滑システムを構築することにより、最終圧延速度1000m/minのタンデムエマルション圧延において、焼付きを発生させることなく圧延することが可能となる。
【0007】
本発明において構築した新しい潤滑システムを用いて開発した焼付き限界界面温度が同じかそれ以上の新たなエマルション圧延油を用いて、従来のタンデムエマルション圧延において焼付きが発生したスタンドの摩擦係数を減少させる冷間圧延により、期待の最終圧延速度のタンデムエマルション圧延において、焼付きを発生させることなく圧延することが可能となり、ステンレス鋼板の生産性を大きく向上させることができる。
【0008】
本発明の新しい潤滑システムは、従来の定性的であった潤滑技術の開発をトライボロジーの理論体系に基づいて構築した制御システムを使用して定量的に冷間圧延を行うことを可能にするものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
新しく構築した潤滑システムとは、焼付きが発生したスタンドにおいてエマルション圧延においてロールと材料間の入口部の入口油膜厚みを増加させ、ロールと材料間の塑性接触域における混合潤滑領域での境界潤滑領域の面積比を減少させることにより、摩擦係数を減少させる技術である。この境界潤滑領域の面積比を減少させ摩擦係数を低くする現象は、次のように定量的に示すことができる。境界潤滑と流体潤滑(動圧流体潤滑と静圧流体潤滑)からなる混合潤滑領域における垂直荷重Pは
で示される。ここで、p
rは境界潤滑領域における垂直荷重、p
fは流体潤滑領域における垂直荷重、αは境界潤滑領域の面積比及びAは接触面積である。つづいて、混合潤滑潤滑領域におけるせん断荷重Fは
で示される。ここで、τ
bは境界潤滑領域におけるせん断応力及びμ
bは境界潤滑領域にお
となる。式(1)の摩擦係数を減少させることは、式(4)よりタンデム圧延におけるスタンドのロールと材料間の接触領域の混合潤滑領域での境界潤滑領域の面積比を小さくすることにより実現することができる。混合潤滑領域での境界潤滑領域の面積比を小さくするためには入口油膜厚みを大きくすることにより、流体潤滑領域を増加させることにより可能となる。ロールと材料間で導入される入口油膜厚みを大きくするためには、最終圧延速度500m/minのタンデムエマルション圧延において使用したエマルション圧延油と焼付き限界界面温度が同一またはそれ以上の同じ組成の粘度を大きくしたエマルション圧延油を使用する。更に、焼付きが発生する可能性があるスタンドにおいては、粘度を大きくしたエマルション圧延油のエマルション濃度を増加させた別系統のエマルション圧延油を追加供給しハイブリッド圧延を行うことも考慮する。
【0010】
本発明は、従来の潤滑技術により開発されたエマルション圧延油を使用したステンレス鋼鈑のタンデム圧延において焼付きが発生した最終圧延速度を増加すること可能にする新しい潤滑システムを提案することを意味している。
【0011】
更に本発明は、最終圧延速度で焼付いたときの界面温度式(1)を基本にして、期待する圧延速度に増加するために焼付きを発生したスタンドで、焼付きを発生したエマルション圧延油と焼付き限界界面温度が同一またはそれ以上の同じ組成の粘度を大きくしたエマルション圧延油を使用して摩擦係数を低くする新しい潤滑システムを提案することを意味している
【0012】
具体的に本発明において、焼付きを発生するスタンドでの摩擦係数を低くするため、そのスタンドにおいてロールと材料間で導入される入口油膜厚みを大きくするためには、従来の潤滑技術で開発されたエマルション圧延油の基油と同じ組成の粘度を大きくしたエマルション圧延油を使用し、焼付きが発生する可能性があるスタンドにおいては、粘度を大きくしたエマルション圧延油のエマルション濃度を増加させた別系統のエマルション圧延油を追加供給しハイブリッド圧延を行うことも考慮することを意味している。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例を示す。板厚0.4mmの普通鋼鈑を表面粗さ0.05RaμmのSUJ−2の直径76mmのロールの2段圧延機を用いて圧延速度144m/minで300cSt、900cSt及び2500cStの3種類の粘度の合成エステル系基油の濃度3%エマルションですべり型潤滑性評価試験機を用いてすべり圧延を行い、焼付きを評価した。表3に3種類の粘度の合成エステル系油の濃度3%エマルションにおける入口油膜厚みを示す。表4に焼付き時の界面温度を計算するための摩擦係数及び限界圧下率を示す。
図1に表4の結果を用いて焼付き時の3種類の粘度の合成エステル系基油の濃度3%エマルションにおける摩擦による上昇界面温度を示す。表2の実施例のすべり圧延条件における3種類のエマルション圧延油の入口油膜厚みは、基油粘度が増加するに伴い0.043μmから0.063μmに大きく増加しており、境界潤滑領域の面積比が小さくなり、基油粘度を増加するに伴い最終圧延速度が増加することが示された。
図1より基油粘度が変化しても焼付き時の摩擦による上昇界面温度は同一であることを示しており、表1に示す圧延条件でステンレス鋼板のタンデムエマルション圧延を行うと、基油粘度を増加することにより最終圧延速度が増加することが示された。
【0014】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】3種類の粘度の合成エステル系基油の濃度3%エマルションにおける焼付き時の摩擦による上昇界面温度