(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-132011(P2017-132011A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】コンディショナー、研磨パッドのコンディショニング方法及びガラス基板の研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 53/00 20060101AFI20170707BHJP
B24B 7/24 20060101ALI20170707BHJP
B24B 53/12 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
B24B53/00 J
B24B7/24 Z
B24B53/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-15406(P2016-15406)
(22)【出願日】2016年1月29日
(71)【出願人】
【識別番号】306032316
【氏名又は名称】新日鉄住金マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】木下 俊哉
【テーマコード(参考)】
3C043
3C047
【Fターム(参考)】
3C043BA07
3C043BA18
3C043CC13
3C043EE02
3C043EE04
3C047AA34
(57)【要約】
【課題】コンディショナーの平坦度を高める。
【解決手段】薄板状のガラス基板を研磨する研磨パッドの表面をコンディショニングするシート状のコンディショナーにおいて、基板と、前記基板の一方の面に設けられ、前記研磨パッドのコンディショニングに用いられる多数のダイヤモンド砥粒が固着された第1の層と、前記基板の他方の面に設けられた第2の層と、を有し、前記第2の層は前記基板よりも熱伝導率が高いことを特徴とするコンディショナー。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状のガラス基板を研磨する研磨パッドの表面をコンディショニングするシート状のコンディショナーであって、
基板と、
前記基板の一方の面に設けられ、前記研磨パッドのコンディショニングに用いられる多数のダイヤモンド砥粒が固着された第1の層と、
前記基板の他方の面に設けられた第2の層と、を有し、
前記第2の層は前記基板よりも熱伝導率が高いことを特徴とするコンディショナー。
【請求項2】
前記基板の幅方向の長さをa、前記基板の長尺方向の長さをb、前記基板の厚み方向の長さをc、前記第1の層の厚み方向の長さをd、前記第2の層の厚み方向の長さをeとしたときに、以下の条件式(1)乃至(4)を満足することを特徴とする請求項1に記載のコンディショナー。
0.01b≦a≦0.5b・・・・・・・・・・・(1)
0.0001b≦c≦0.05b・・・・・・・・・・(2)
0.005c≦d≦0.2c・・・・・・・・・・・(3)
0.005c≦e≦0.2c・・・・・・・・・・・(4)
【請求項3】
前記第1の層の熱伝導率をT1、前記第2の層の熱伝導率をT2としたときに、熱伝導率T1及びT2は以下の式(5)を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載のコンディショナー。
0.2T1≦T2≦2T1・・・・・・・・・・・・・・(5)
【請求項4】
前記第2の層には、多数のダイヤモンド砥粒が固着されており、
前記第2の層に固着されたダイヤモンド砥粒の総量は、前記第1の層に固着されたダイヤモンド砥粒の総量の0.1倍以上、かつ、5倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンディショナー。
【請求項5】
前記第1の層において、多数の前記ダイヤモンド砥粒は金属のロウ材により前記基板の一方の面に固着されており、
前記第2の層において、多数の前記ダイヤモンド砥粒は金属のロウ材により前記基板の他方の面に固着されていることを特徴とする請求項4に記載のコンディショナー。
【請求項6】
前記第1の層において、多数の前記ダイヤモンド砥粒は金属の焼結体により前記基板の一方の面に固着されており、
前記第2の層において、多数の前記ダイヤモンド砥粒は金属の焼結体により前記基板の他方の面に固着されていることを特徴とする請求項4に記載のコンディショナー。
【請求項7】
前記基板は、金属であることを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一つに記載のコンディショナー。
【請求項8】
前記基板は、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項7に記載のコンディショナー。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれか一つに記載のコンディショナーを用いて前記研磨パッドのコンディショニングを行うことを特徴とする研磨パッドのコンディショニング方法。
【請求項10】
請求項9に記載のコンディショニング方法によってコンディショニングされた研磨パッドを用いて薄板状のガラス基板を研磨するガラス基板の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板状のガラス基板を研磨する研磨パッドの表面をコンディショニングするために使用されるシート状のコンディショナー等に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビやパーソナルコンピュータなどの画像表示に用いられるディスプレイとして、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイなどのフラットパネルディスプレイが知られている。
【0003】
例えば、液晶ディスプレイでは、画面内の色むら分布が2枚のガラス基板に挟まれた液晶の厚み分布に起因するため、液晶用ガラス基板には高い平坦度、微小な表面粗さが求められる。高い表面精度を実現するため、液晶用ガラス基板の研磨が行われるが、使用される研磨パッドの表面には、直径が数十〜数百μmの孔が多数存在し、これらの孔に直径数十〜数百nmの砥粒を含むスラリーが滞留することにより、研磨が可能となる。
【0004】
研磨処理の時間が長くなるにしたがって、研磨時に発生するガラス、研磨パッド、砥粒などからなる研磨屑が孔に溜まり、スラリーの滞留を阻害し、研磨速度が低下する。この研磨速度の低下を防止するため、ステンレス鋼製、炭素鋼製もしくはモリブデン鋼製の金属板にダイヤモンド砥粒をろう付け法や焼結法により接合したコンディショナーを用いて、パッド表面をコンディショニングすることにより、研磨屑を除去して、研磨速度の低下を防止している。
【0005】
コンディショナーについても、高い平坦度が求められる。コンディショナーの平坦度が低くなると、コンディショニングした研磨パッドの平坦度が低くなり、研磨パッドの凹凸が研磨後のガラス基板にも転写される。そのため、ガラス基板の平坦度が低くなり、液晶パネルとして色むらが発生し、製品不良となる。なお、特許文献1には液晶ディスプレイ用ガラス基板の研磨装置が開示されており、特許文献2には液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-293656号公報
【特許文献2】特開2015-189620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイなどのフラットパネルディスプレイなどに用いられる各種ガラス基板は、大型化が進んでいる。例えば、第10世代の液晶ディスプレイ用マザーガラス基板では、サイズが2.88×3.13mに拡大されている。
【0008】
したがって、研磨対象であるガラス基板の大きさは2m角を超えた大型のものとなるため、ガラス基板のサイズに応じて研磨パット及びコンディショナーを大きくしなければならない。すなわち、コンディショナーとして1m角〜2m角のサイズが必要となるため、平坦度を維持することが極めて困難である。そのため、長さ1〜2m、幅40mm〜200mmの短冊形状のコンディショナー(以下、短冊状コンディショナーと称する)を必要枚数準備して、1m角〜2m角の基板に張り付けることで1m角〜2m角のコンディショナーを得ている。
【0009】
また、短冊状コンディショナーの厚みは、研磨工程にコンディショニング工程を組み込むことを考慮すると、研磨対象であるガラス基板の厚みに合わせる必要があり、具体的には0.1〜1.5mmに調整する必要がある。
【0010】
短冊状コンディショナーは、帯状に延びる極薄の基板の一方の面に多数の砥粒を仮り置きして、これらをろう付け法、焼結法により固着させることで製造される。ろう付け法、焼結法では、600〜1100℃の真空炉中で熱処理されるが、熱処理後の降温時に短冊状コンディショナーに1mm以上の大きな反りが発生することがわかった。
【0011】
この大きな反りは、研磨パットを介してガラス基板表面にも転写されるため、ガラス基板の平坦度が低下し、液晶パネルに色むらが発生して製品不良となる。
【0012】
そこで、本発明者は、屈曲した短冊状コンディショナーをローラレベラで矯正する方法について検討した。ローラレベラは、屈曲した板材をローラで挟み込んで挟圧し、反り返りを矯正する技術であり、一般的には圧延又は冷延された鋼板の反り返りを矯正するために用いられる。
【0013】
しかしながら、この方法では、短冊状コンディショナーに局所的に小さな歪が残ってしまい、この歪が研磨パッドを介してガラス基板に転写され、十分な平坦性を得ることができなかった。また、ローラで挟圧する際にローラとコンディショナーとの間に緩衝シートを配置しなければならないため、工程が煩雑であった。
【0014】
そこで、本願発明は、薄板状のガラス基板を研磨する研磨パッドの表面をコンディショニングするコンディショナーの平坦度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を鋭意検討し、コンディショナーの上下面における熱伝導率の差が大きい場合に、コンディショナーに反り返りが発生することを発見した。すなわち、コンディショナーの一方の面にはダイヤモンド砥粒が固着されているが、このダイヤモンド砥粒は金属で構成される基板と比べて熱伝導率が非常に高いため、冷却時にコンディショナーの上下面における温度差が大きくなり、反り返りが発生したものと考えられる。この課題を解決するために、本発明者は、コンディショナーの他方の面に基板よりも熱伝導率が高い層を設けることを知見した。
【0016】
すなわち、本願発明は、(1)薄板状のガラス基板を研磨する研磨パッドの表面をコンディショニングするために使用されるシート状のコンディショナーにおいて、基板と、前記基板の一方の面に設けられ、前記研磨パッドのコンディショニングに用いられる多数の砥粒が固着された第1の層と、前記基板の他方の面に設けられた第2の層と、を有し、前記第2の層は前記基板よりも熱伝導率が高いことを特徴とする。
【0017】
(2)前記基板の幅方向の長さをa、前記基板の長尺方向の長さをb、前記基板の厚み方向の長さをc、前記第1の層の厚み方向の長さをd、前記第2の層の厚み方向の長さをeとしたときに、以下の条件式(1)乃至(4)を満足することを特徴とする上記(1)に記載のコンディショナー。
0.01b≦a≦0.5b・・・・・・・・・・・(1)
0.0001b≦c≦0.05b・・・・・・・・・・(2)
0.005c≦d≦0.2c・・・・・・・・・・・(3)
0.005c≦e≦0.2c・・・・・・・・・・・(4)
【0018】
(3)前記第1の層の熱伝導率をT1、前記第2の層の熱伝導率をT2としたときに、熱伝導率T1及びT2は以下の式(5)を満足することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のコンディショナー。
0.2T1≦T2≦2T1・・・・・・・・・・・・・・(5)
【0019】
(4)前記第2の層には、多数のダイヤモンド砥粒が固着されており、前記第2の層に固着されたダイヤモンド砥粒の総量は、前記第1の層に固着されたダイヤモンド砥粒の総量の0.1倍以上、かつ、5倍以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のコンディショナー。
【0020】
(5)前記第1の層において、多数の前記ダイヤモンド砥粒は金属のロウ材により前記基板の一方の面に固着されており、前記第2の層において、多数の前記ダイヤモンド砥粒は金属のロウ材により前記基板の他方の面に固着されていることを特徴とする上記(4)に記載のコンディショナー。
【0021】
(6)前記第1の層において、多数の前記ダイヤモンド砥粒は金属の焼結体により前記基板の一方の面に固着されており、前記第2の層において、多数の前記ダイヤモンド砥粒は金属の焼結体により前記基板の他方の面に固着されていることを特徴とする上記(4)に記載のコンディショナー。
【0022】
(7)前記基板は、金属であることを特徴とする上記(1)乃至(6)のうちいずれか一つに記載のコンディショナー。
【0023】
前記基板は、ステンレス鋼であることを特徴とする上記(7)に記載のコンディショナー。
【0024】
上記(1)乃至(8)のうちいずれか一つに記載のコンディショナーを用いて前記研磨パッドのコンディショニングを行うことを特徴とする研磨パッドのコンディショニング方法。
【0025】
上記(9)に記載のコンディショニング方法によってコンディショニングされた研磨パッドを用いて薄板状のガラス基板を研磨するガラス基板の研磨方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、薄板状のガラス基板を研磨する研磨パッドの表面をコンディショニングするコンディショナーの平坦度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】コンディショナーの概略構成を示す外観斜視図である。
【
図2】コンディショナーをX−Z面に沿って切断したコンディショナーの一部における断面図である。
【
図3】コンディショナーの製造方法を説明するための工程図である。
【
図4】コンディショナーの反り返り量を測定する測定ポイントを示したコンディショナーの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、コンディショナーの概略構成を示す外観斜視図であり、X軸、Y軸及びZ軸は互いに直交する三軸である。ここで、X軸はコンディショナーの幅方向に対応しており、Y軸はコンディショナーの長尺方向に対応しており、Z軸はコンディショナーの厚み方向(つまり、基板層、研削層及び高熱伝導率層の積層方向)に対応している。X軸、Y軸及びZ軸の定義は他の図面においても同様である。
図2は、コンディショナーをX−Z面に沿って切断したコンディショナーの一部における断面図である。本発明のコンディショナーは、薄板状のガラス基板を研磨する研磨パッドの表面をコンディショニングするために用いられる。本実施形態では、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板を対象としているが、本発明はこれに限るものではなく、薄板状で、かつ、高い平坦度が求められる他のガラス基板(例えば、太陽電池用のガラス基板、タッチパネル用のガラス基板、携帯電話用のカバーガラス)を対象とすることもできる。
【0029】
コンディショナー100は、Y軸方向に帯状に延びて形成されており、言い換えると、薄肉平板状に形成された短冊状の形状を呈している。コンディショナー100は、基板層1(基板に相当する)と、研削層2(第1の層に相当する)と、高熱伝導率層3(第2の層に相当する)とを含む。基板層1は、薄肉平板状に形成された金属からなる。金属として、ステンレス鋼、炭素鋼、モリブデン鋼、これらの合金を用いることができる。ステンレス鋼には、SUS304のオーステナイト系ステンレス鋼を用いることができる。
【0030】
ここで、基板層1の幅方向(X軸方向)の長さをa、長尺方向(Y軸方向)の長さをb、厚み方向(Z軸方向)の長さをcとしたときに、以下の条件式(1)、(2)を満足するのが好ましい。
0.01b≦a≦0.5b・・・・・・・・・・・(1)
0.0001b≦c≦0.05b・・・・・・・・・・(2)
【0031】
また、研削層2の厚み方向(Z軸方向)の長さをd、高熱伝導率層3の厚み方向の長さをeとしたときに、以下の条件式(3)及び(4)を満足するのが好ましい。ここで、
図2に図示する通り、研削層2の長さdとは、研削層2の基板層1に接する面からダイヤモンド砥粒22の頂部までの長さを意味する。高熱伝導率層3の長さeとは、高熱伝導率層3の基板層1に接する面からダイヤモンド砥粒32の頂部までの長さを意味する。なお、高熱伝導率層3にダイヤモンド砥粒32が固着されていない場合には、高熱伝導率層3の厚さそのものが高熱伝導率層3の長さeとなる。
0.005c≦d≦0.2c・・・・・・・・・・・(3)
0.005c≦e≦0.2c・・・・・・・・・・・(4)
【0032】
上述の式(1)乃至(4)を満足するコンディショナー100は、薄肉平板状であり、特に降温時の反り返りが顕著となる。ただし、式(1)乃至(4)を満足しないコンディショナー100においても、本願発明の課題は生じるから、本願発明のコンディショナーは上述の式(1)乃至(4)の全てを必ずしも充足している必要はない。
【0033】
基板層1の長尺方向の長さbは、例えば、1〜2mであってもよい。基板層1の幅方向の長さaは、例えば、40〜200mmであってもよい。
【0034】
研削層2は、コンディショニングの際に研磨パッドに押し付けられながら摺動し、研磨パッドの孔に溜まった研磨屑(ガラス、研磨パッド、ダイヤモンド砥粒の研磨屑)を取り除く。研削層2は、基板層1の厚み方向(Z軸方向)における一方の面に設けられ、固着層21と多数のダイヤモンド砥粒22とから構成される。固着層21には、チタン、クロム及びジルコニウムのうち少なくとも1種を0.1〜20wt%含む融点650〜1200℃の合金を用いることができる。また、固着層21のうちダイヤモンド砥粒22との界面には、チタン、クロム及びジルコニウムのうち少なくとも1種の金属からなる炭化物層が形成されている。
【0035】
固着層21は、ろう付け法、焼結法により製造することができる。これらの方法を用いることにより、ダイヤモンド砥粒22の接合強度を向上させることができる。これにより、ダイヤモンド砥粒22のコンディショニング中の脱落が防止され、コンディショナー100の長寿命化を図ることができる。
【0036】
各ダイヤモンド砥粒22は単層に設けられており、各ダイヤモンド砥粒22の下端部は基板層1に接している。ダイヤモンド砥粒22の大きさは、好ましくは、10μm以上50μm以下である。ダイヤモンド砥粒22の大きさが10μm未満になると、砥粒の固着層21からの突き出し長さが小さくなり、コンディショニングに要する時間が長くなる。ダイヤモンド砥粒22の大きさが50μmを超過すると、研磨パッドが過度に研削され、平坦度が低下するおそれがある。
【0037】
また、各ダイヤモンド砥粒22の粒度分布は10μmであることが望ましい。すなわち、全てのダイヤモンド砥粒22の粒径の平均値(算術平均値)をXとしたときに、X±5μmの範囲内にほぼ全てのダイヤモンド砥粒22の粒径は収められる。これにより、コンディショナー100の研磨パッドに接する面の平坦度を維持することができる。
【0038】
高熱伝導率層3は、基板層1の厚み方向(Z軸方向)における他方の面に設けられている。高熱伝導率層3は、基板層1よりも熱伝導率が高く構成されている。基板層1よりも熱伝導率が高い高熱伝導率層3が設けられることで、高熱伝導率層3が設けられていないコンディショナーと比較して、降温時の反り返りを緩和することができる。
【0039】
高熱伝導率層3は、研削層2と同じ構成であってもよい。つまり、高熱伝導層3は、固着層31と多数のダイヤモンド砥粒32から構成してもよい。高熱伝導率層3及び研削層2を互いに同じ構成とすることにより、これらの熱伝導率の差が無くなるため、降温時の反り返りをより確実に抑制することができる。
【0040】
ここで、基板層1の熱伝導率をT1、高熱伝導率層3の熱伝導率をT2としたときに、以下の条件式(5)を満足することが望ましい。
0.2T1≦T2≦2.0T1・・・・・・・・・(5)
【0041】
上述の数値範囲を満足させることで、コンディショナー100の反り返りをより確実に許容範囲(例えば、0.5mm以内)に収めることができる。ここで、熱伝導率とは、媒質中に温度勾配がある場合にその勾配に沿って運ばれる熱流束の大きさを規定する物理量であり、媒質としてはニッケル、アルミニウム等の単体金属は勿論のこと、ステンレス鋼などの合金、金属及びダイヤモンド砥粒の複合体も対象となる。
【0042】
ただし、本実施形態の研削層2に用いられるダイヤモンド砥粒22は、固着層21に用いられる金属よりも桁違いに熱伝導率が高いため、研削層2の熱伝導率はダイヤモンド砥粒22の総量に支配されると考えてよい。
【0043】
ダイヤモンド砥粒32の代わりに立方晶窒化ホウ素、炭化珪素からなる砥粒を用いることによって高熱伝導率層3を構成してもよい。これらの立方晶窒化ホウ素、炭化珪素も非常に熱伝導率が高い材料であるため、研削層2及び高熱伝導率層3の熱伝導率の差を少なくして、降温時の反り返りを抑制することができる。
【0044】
また、固着層31として銀ろうをろう付けすることによって高熱伝導率層3を構成してもよい。この場合、銀は熱伝導性に優れた材料であるため、ダイヤモンド砥粒32を省略することができる。
【0045】
上述したように、研削層2及び高熱伝導率層3は、必ずしも熱伝導率が同一である必要ではなく、コンディショナー100の反り返り量を許容範囲に収めることができれば、熱伝導率が異なっていてもよい。この場合、上述したように、ダイヤモンド砥粒32を別の材料に変えたり、ダイヤモンド砥粒32の使用量を変えたり、ダイヤモンド砥粒32を省略して固着層31を熱伝導性の高い材料で構成したりすることによって、実験的に研削層2及び高熱伝導率層3の熱伝導率の差を調整することができる。なお、許容範囲については、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板に要求される平坦度によって適宜設定される。
【0046】
ここで、研削層2及び高熱伝導率層3において用いられる砥粒が共にダイヤモンド砥粒である場合、高熱伝導率層3に固着されたダイヤモンド砥粒の総量(総重量)は、研削層2に固着されたダイヤモンド砥粒の総量(総重量)の0.1倍以上、かつ、5倍以下とするのが好ましい。これにより、研削層2及び高熱伝導率層3の熱伝導率の差が小さくなり、コンディショナー100の降温時の反り返り量を0.5mm以下に抑制することができる。
【0047】
次に、
図3の工程図を参照しながら、本実施形態のコンディショナー100の製造方法について説明する。S1において、基板層1の表裏面にロウ材を塗布する。S2において、基板層1を加熱炉に入れ、10
−5Torr程度に真空引きした後、第1の加熱処理を行う。第1の加熱処理を行うことで、ロウ材が溶融する。加熱温度は、ロウ材の融点以上であって、できる限り低温であることが好ましい。すなわち、ロウ材の液相線温度+20℃程度以内が好ましい。温度が高すぎると、基板層1の熱変形が大きくなるからである。加熱時間(つまり、ろう付け温度における保持時間)は、5〜30分程度が好ましい。
【0048】
S3において、基板層1を加熱炉から取り出し、基板層1の表裏面にそれぞれダイヤモンド砥粒22(32)を配置する。具体的には、ロウ材の上に、ダイヤモンド砥粒22(32)が通り抜ける程度の穴が多数形成された篩を配置して、各穴に一つずつダイヤモンド砥粒22(32)を配置する。S4において、ダイヤモンド砥粒22(32)が配置された基板層1を再び加熱炉に入れ、第2の加熱処理を行うことで、コンディショナー100を製造する。第2の加熱処理における加熱条件は、第1の加熱処理と同様であるから詳細な説明を省略する。
【0049】
S5において、加熱炉からコンディショナー100を取り出し、冷却する。本実施形態では、研削層2及び高熱伝導率層3が設けられることで、コンディショナー100の表裏面における熱伝導率の差が小さく設定されているため、冷却時にコンディショナー100が反り返ることを抑制できる。本実施形態のコンディショナー100によって研削された研磨パッドを用いてガラス基板を研磨することによって、平坦度の良好な液晶ガラス基板を製造することができる。
【0050】
次に、実施例を示して、本発明についてより具体的に説明する。高熱伝導率層3に用いられるダイヤモンド砥粒32の総重量を種々変化させて、降温時のコンディショナー100の反り返り量を調べた。各試料におけるダイヤモンド砥粒32の総重量は、研削層2のダイヤモンド砥粒22の総重量を1としたときの比率で表した。
【0051】
研削層2及び高熱伝導率層3に用いられるダイヤモンド砥粒の粒径を約25μmとした。基板層1の幅方向(X軸方向)の長さaを75mm、長尺方向(Y軸方向)の長さbを1500mm、厚み方向(Z軸方向)の長さcを1.2mmとした。
【0052】
研削層2及び高熱伝導率層3の固着層として、Cr、Fe、Si、B、Pを含むNi基合金からなるロウ材を用いるとともに、
図3の工程図に従って製造した。加熱炉における加熱温度(第1及び第2の加熱処理の加熱温度)を1000℃に設定し、その温度で20分間保持してロウ付けした。
【0053】
各試料のシートコンディショナーを石定盤に載置し、
図4に示すP1〜P12からなる複数の測定ポイントで反り返り量を厚さゲージにより測定し、最大の反り返り量を各試料の反り返り量とした。なお、
図4は、シートコンディショナーを厚み方向(Z軸方向)から視た時の概略平面図である。表1は、測定結果を纏めた表である。
【表1】
【0054】
表1に示す通り、高熱伝導率層3に固着されたダイヤモンド砥粒の総量を、研削層2に固着されたダイヤモンド砥粒の総量の0.1倍以上、かつ、5倍以下にすることによって、反り返り量を僅か0.5mm以下に抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0055】
1 基板層
2 研削層
3 高熱伝導率層
21 31 固着層
22 32 ダイヤモンド砥粒
100 コンディショナー