【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1に係るMg
2Si
1−xSn
x結晶の製造方法および製造装置を説明するために示す図であり、Mg
2Si
1−xSn
x結晶の製造装置の構成の一例を示す模式的な断面図である。本実施例は融液原料降下方式によるMg
2Si
1−xSn
x結晶の製造方法である。すなわち、Mg、SiおよびSnからなる原料の融点よりも高い高温度領域とその高温度領域の下部に設けた原料の融点よりも低い低温度領域を有する結晶育成炉において、原料を高温度領域において溶融し、その溶融した融液原料を低温度領域に移動することにより結晶の育成を行うMg
2Si
1−xSn
x結晶の製造方法である。
図1において、ステンレス製でほぼ円筒型の結晶育成炉1の中に、カーボンにより構成されカーボン坩堝5と、加熱のためのカーボンヒーター4が設置され、その周囲には保温のためのカーボン保温筒2が設けられている。さらに、カーボン保温筒2の上部にはカーボン蓋3が設置されている。中心にはカーボン坩堝5を載せて上下させるための坩堝軸6がある。結晶育成炉1は気密構造を有し、真空引きのための真空ポンプ7とアルゴンガス導入のための配管8などを備えている。
【0020】
図2はカーボン坩堝とその中に設置されたカーボンシートよりなる育成容器および原料の構成を示す模式的な断面図である。
図2において、Mg
2Si
1−xSn
x結晶の原料であるSn原料13、Si原料14、Mg原料15は、カーボン坩堝5内に設置されたカーボンシートよりなる育成容器10内に装填されている。育成容器10は、あらかじめ上記の原料が接触する内面を、上記の原料を溶融した状態の融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面にその融液原料を浸み込ませせる処理を行った後、その内面にBNからなる離型材を塗布して構成したものである。また、カーボン坩堝5の開口部にはカーボンよりなる坩堝蓋11を被せ、その坩堝蓋11をカーボン接着剤12を用いてカーボン坩堝5に固定している。
【0021】
次に本実施例における各部の形状の一例を説明する。
図1において、カーボンヒーター4の形状は、内径160mm×高さ210mmの円筒状であり、その中央に直径30mmの坩堝軸6を配置し、その上にカーボン坩堝5をを設置している。坩堝軸6は上下方向に200mm移動できるように移動機構に結合している。
図2において、カーボン坩堝5の外形は外径50mm× 高さ80mmの円柱状であり、カーボン坩堝5の内部は、内径30mmで底部が頂角45度の円錐状となった原料収納室を有し、内面に沿って同形状の育成容器10を有している。
【0022】
ここで使用する育成容器10を構成するカーボンシートの厚さは0.3mmであり、カーボン坩堝5の内形に合わせて成型して作製した。
【0023】
次に、本実施例のMg
2Si
1−xSn
x結晶の製造方法の具体例について詳細に説明する。Mg
2Si
1−xSn
x単結晶の育成において、Mg原料15として純度が5N以上の高純度マグネシウムを、Si原料14として純度が10N以上の高純度シリコンを、Sn原料13として純度が5N以上の高純度スズをそれぞれ所要の比になるように秤量混合した原料30gをカーボン坩堝5内の育成容器10に入れた後、坩堝蓋11とカーボン坩堝5の上端にカーボン接着剤12を塗布し、坩堝蓋11を載せて蓋をした。原料が装填されたカーボン坩堝5を坩堝軸6に載せ1Pa(パスカル)以下の真空状態にしてから150℃まで昇温した。その状態を30分保持した後に温度を270℃に上げてさらに30分保持することによりカーボン接着剤12を固着し、真空封止を行った。
【0024】
その後、以下のような手順で原料を溶かし、融液原料とした。先ず、結晶育成炉1内にArガスを導入し、大気圧まで圧力を上げた後、カーボンヒーター4に所定の電流を流し、カーボン坩堝5の温度を1120℃まで上げた。昇温時間は30分であった。この時のカーボン坩堝5は、中心部が1120℃付近にあり下部の底部は融点付近の1085℃を示す位置にあった。この状態で30分保持後、5mm/分の速度でカーボン坩堝5の底部を1120℃の位置まで上昇させ、30分保持後に初期の位置に5mm/分の速度でカーボン坩堝5を下降させる操作を1回行った後、カーボン坩堝5を0.5mm/分の速度で降下させ結晶育成を行った。なお、カーボン坩堝5の底部を1120℃の位置まで上昇させたとき、カーボン坩堝5の中心部は1085℃付近にあるので、上記の昇降温行程により融液原料を1120℃の第1の高温領域と1085℃の第2の高温領域との間で往復させることになる。
図3はカーボン保温筒2内のカーボン坩堝5が置かれる付近の上下方向の温度分布の一例を示す図である。
【0025】
本実施例のMg
2Si
1−xSn
x結晶の製造装置を用い、上記の本実施例の製造方法で育成されたMg
2Si
1−xSn
x結晶では、単結晶領域の広い結晶が得られた。
図4は本実施例において作成されたMg
2Si
1−xSn
x結晶の写真を示す。
図4において、この結晶の上面は光沢があり、かつ凸状になっていることから、本実施例においては結晶育成においてカーボンシート表面から原料がはじかれて固液界面が凸状態になっており、Siとカーボンの反応が起きていないことが分かる。
図5は作成されたMg
2Si
1−xSn
x結晶の断面写真を示す。
図5からわかるように、本実施例により作成された結晶では気泡もクラックもなく単結晶領域が広い。
【0026】
(比較例1)
本発明の有効性を確認するため、実施例1の育成容器10の代わりに、実施例1の育成容器10と同じカーボンシートを用いて育成容器10と同形状で成型したままの育成容器、すなわち融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面にその融液原料を浸み込ませせる処理を行わないでBN離型剤を塗布した育成容器を使用してMg
2Si
1−xSn
x結晶の育成を行った。
【0027】
本比較例では、実施例1と同じMg
2Si
1−xSn
x結晶製造装置を用いた。すなわち、結晶育成炉1、カーボン保温筒2、カーボンヒータ4などはすべて実施例1と同じものを用いた。また、育成容器10以外のカーボン坩堝5、坩堝蓋11なども同じものを使用した。
【0028】
本比較例のMg
2Si
1−xSn
x結晶の製造方法も上記の実施例1の具体例と全く同一の条件とした。すなわち、使用原料、その装填方法、カーボン坩堝5と坩堝蓋11の封止方法、温度設定の手順、カーボン坩堝5の移動手順などもすべて同じとた。
【0029】
本比較例で育成した結晶を取りだして界面状態を観察した。
図6は本比較例において作成されたMg
2Si
1−xSn
x結晶の写真を示す。
図4に示した実施例1の結晶と比較すると、本比較例では
図6に示す通り表面が凹状になっており、Siとカーボンの反応が起きていることが確認された。これにより、実施例1でのカーボンシートの育成容器においては、融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面にその融液原料を浸み込ませせる処理を行うことが非常に有効であることがわかる。
【0030】
(比較例2)
本発明の有効性を確認するための第2の比較例として、実施例1の育成容器10を使用せず、また、育成条件として、カーボン坩堝5の高温度領域での昇降温工程を行わないでMg
2Si
1−xSn
x結晶の育成を行った。
【0031】
本比較例では、実施例1と同じMg
2Si
1−xSn
x結晶製造装置を用いた。すなわち、結晶育成炉1、カーボン保温筒2、カーボンヒータ4などはすべて実施例1と同じものを用いた。また、育成容器10以外のカーボン坩堝5、坩堝蓋11なども同じものを使用した。
【0032】
本比較例のMg
2Si
1−xSn
x結晶の製造方法は、カーボン坩堝5の底部を1120℃の位置まで上昇させて下げる昇降温工程を行わない以外の工程は、上記の実施例1の具体例と全く同一の条件とした。すなわち、使用原料、その装填方法、カーボン坩堝5と坩堝蓋11の封止方法、上記以外の温度設定の手順などもすべて同じとた。具体的には、結晶育成炉1内にArガスを導入し、大気圧まで圧力を上げた後、カーボンヒーター4に所定の電流を流し、カーボン坩堝5の温度を1120℃まで上げた。その後、そのまま1120℃の状態で2時間保持した後、カーボン坩堝5を0.5mm/分の速度で降下させ結晶育成を行った。
【0033】
図7は本比較例により作成されたMg
2Si
1−xSn
x結晶の断面写真を示す。
図5に示した実施例1の結晶と比較すると、本比較例で得られた結晶は、
図7に示す通り、気泡とクラックが発生した多結晶体であった。
【0034】
以上のように、実施例1の製造方法では、比較例1、2に比べて優れた外観形状の高品質のMg
2Si
1−xSn
x結晶が得られることがわかる。なお、本発明の育成容器を坩堝内に設けることにより従来の製造方法に比べて大きな改善効果が得られ、カーボンヒーターや保温筒の形状、坩堝の形状などの選択や温度分布などの最適設計により、坩堝の材料はカーボン以外の材料でも、また第1の高温領域と第2の高温領域との間の昇降温行程を行わなくても、従来の製造方法に比べて高品質なMg
2Si
1−xSn
x結晶を得ることができる。
【0035】
本発明は上記の実施例に限定されるものではないことは言うまでもなく、目的とするMg
2Si
1−xSn
x結晶の特性や形状などに応じて変更可能である。製造装置の各部の構造、形状、材質なども目的とするMg
2Si
1−xSn
x結晶の特性、形状に合わせて変更可能であり、使用する製造装置の各部の構造や形状などによって、各部の温度などの育成条件も最適化することが望ましい。