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特開2017-132655Mg2Si1−xSnx結晶の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-132655(P2017-132655A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】Mg2Si1−xSnx結晶の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/52 20060101AFI20170707BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20170707BHJP
   F27B 14/10 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
   C30B29/52
   C30B11/00 C
   F27B14/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-13738(P2016-13738)
(22)【出願日】2016年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】508294837
【氏名又は名称】株式会社新興製作所
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】東海林 利男
(72)【発明者】
【氏名】石井 正教
(72)【発明者】
【氏名】鵜殿 治彦
【テーマコード(参考)】
4G077
4K046
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA10
4G077CD02
4G077EA01
4G077EA06
4G077EG02
4G077HA05
4G077MA02
4G077MA05
4G077MB04
4G077MB35
4K046AA02
4K046BA02
4K046CB13
4K046CB16
4K046CC03
4K046CD03
4K046CE09
4K046DA09
(57)【要約】
【課題】坩堝の再利用が可能であり、気泡が無く結晶性の良好なMgSi1−xSn単結晶の育成を可能にするMgSi1−xSn結晶の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】Mg、SiおよびSnからなる原料の融点よりも高い高温度領域とその下部に設けた融点よりも低い低温度領域を有する結晶育成炉において、原料を高温度領域において溶融し、その溶融した融液原料を低温度領域に移動することにより結晶の育成を行うMgSi1−xSn結晶の製造方法であって、原料は、カーボン坩堝5内に設置されたカーボンシートよりなる育成容器10内に装填され、育成容器10は、前記原料が接触する内面を、前記原料を溶融した状態の融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面に融液原料を浸み込ませせる処理を行った後、その内面に離型材を塗布して構成した。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、SiおよびSnからなる原料の融点よりも高い高温度領域と該高温度領域の下部に設けた前記原料の融点よりも低い低温度領域を有する結晶育成炉において、前記原料を前記高温度領域において溶融し、その溶融した融液原料を前記低温度領域に移動することにより結晶の育成を行うMgSi1−xSn結晶の製造方法であって、前記原料は、坩堝内に設置されたカーボンシートよりなる育成容器内に装填され、前記育成容器は、前記原料が接触する内面を、Mg、SiおよびSnからなる原料を溶融した状態の融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面に該融液原料を浸み込ませせる処理を行った後、その内面に離型材を塗布して構成したことを特徴とするMgSi1−xSn結晶の製造方法。
【請求項2】
前記坩堝はカーボンにより構成され、該坩堝に前記育成容器および前記原料を装填した後に、上部にカーボンよりなる蓋を被せて該蓋をカーボン接着材を用いて固定し、前記の結晶の育成は不活性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1に記載のMgSi1−xSn結晶の製造方法。
【請求項3】
前記高温度領域は前記原料の融点より35℃以上高い第1の高温領域とその下部に設けた前記原料の融点近傍の第2の高温領域よりなり、前記坩堝を前記第1の高温領域と前記第2の高温領域との間を1&#12316;5mm/分の速度で1回以上往復させる昇降温工程を行い、前記坩堝を前記高温度領域で前記昇降温行程を含めて1〜2時間保持した後、0.1&#12316;1mm/時間以下の速度で前記低温度領域に向けて降下させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のMgSi1−xSn結晶の製造方法。
【請求項4】
Mg、SiおよびSnからなる原料の融点よりも高い高温度領域と該高温度領域の下部に設けた前記原料の融点よりも低い低温度領域を有する結晶育成炉と、該結晶育成炉内に挿入される坩堝とを有し、前記原料を前記高温度領域において溶融し、その溶融した融液原料を前記低温度領域に移動することにより結晶の育成を行うMgSi1−xSn結晶の製造装置であって、前記原料を装填するために前記坩堝内に設置されるカーボンシートよりなる育成容器を有し、前記育成容器は、前記原料が接触する内面を、Mg、SiおよびSnからなる原料を溶融した状態の融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面に該融液原料を浸み込ませせる処理を行った後、その内面に離型材を塗布して構成したことを特徴とするMgSi1−xSn結晶の製造装置。
【請求項5】
前記坩堝はカーボンにより構成され、該坩堝に前記育成容器および前記原料を装填した後に該坩堝の上部を覆うためのカーボンからなる蓋を有し、前記の結晶の育成を不活性ガス雰囲気中で行うための前記結晶育成炉への不活性ガスの導入手段を有することを特徴とする請求項4に記載のMgSi1−xSn結晶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサの材料に用いられるMgSi1−xSn結晶の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車への自動運転機能の搭載、工場等における産業ロボットの導入拡大、人工知能(AI)の様々な分野への適用が進むにつれて、周囲の人物などを検知する赤外線受光デバイスの必要性が高くなっている。また、犯罪防止用として赤外線カメラを搭載した夜間監視カメラの需要も増えている。
【0003】
従来、上記のような赤外線センサの受光部を構成する材料としてPbS(硫化鉛)やInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)がよく用いられている。しかし、これらの材料は有害物質やレアメタルを含むため赤外線センサの低価格化は困難であった。一方、最近、MgSi1−xSn単結晶が赤外線センサに利用可能なことが示されている。しかし、この材料は単結晶化が難しいため、MgSi1−xSn単結晶を用いた赤外線センサは、まだ実現されていない。
【0004】
上記のMgSi1−xSn単結晶は、従来、垂直ブリッジマン法などにより育成の試みが行われてきた。垂直ブリッジマン法は、原料融液を装填した縦型容器を温度勾配を有する育成炉内に配置し、この容器を下方に移動することにより原料融液を下方から順に冷却固化して単結晶を育成する方法である。この方法は誘電体単結晶などの育成に使用されており、縦型容器と同形の円柱状の単結晶を育成することができる。
【0005】
一方、特許文献1には、熱電変換素子の材料としてMgSi1−xSn多結晶体を得るための製造方法として、アルミナ管の内壁にBN(窒化ホウ素)を離型剤として塗布したカーボンシートを巻き、上部を無機繊維層で蓋をする製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2011/115297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、垂直ブリッジマン法によりMgSi1−xSn単結晶を育成しようとする場合、Mg(マグネシウム)は容易に酸化し、蒸発し易いため、原料を石英容器に入れて不活性ガスで封止するなどの対策をして単結晶を育成していた。また、Mgは石英と反応するためBN等の離型剤を容器内面に塗布して育成していた。しかし、その場合でも蒸発したMgと石英が反応するため石英容器の再利用は出来なかった。
【0008】
一方、特許文献1に記載の方法を垂直ブリッジマン法に利用しようとする場合、アルミナ管内の残存酸素でMgが酸化されることや、カーボンシートと溶融原料が反応するため、得られた結晶の外周部が使えないという問題があった。また、カーボンシートと溶融原料が反応した部分で核が生じ、その個所から様々な方位の結晶が成長するために単結晶を得るのが困難であった。さらに、この単結晶の育成方法では対流を起こさせて固液界面を凸にすることが難しいため、結晶内に気泡が残ってしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、係る問題を解決するためになされたものであり、坩堝の再利用が可能であり、気泡が無く結晶性の良好なMgSi1−xSn単結晶の育成を可能にするMgSi1−xSn結晶の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の観点では、本発明のMgSi1−xSn結晶の製造方法は、Mg、SiおよびSnからなる原料の融点よりも高い高温度領域と該高温度領域の下部に設けた前記原料の融点よりも低い低温度領域を有する結晶育成炉において、前記原料を前記高温度領域において溶融し、その溶融した融液原料を前記低温度領域に移動することにより結晶の育成を行うMgSi1−xSn結晶の製造方法であって、前記原料は、坩堝内に設置されたカーボンシートよりなる育成容器内に装填され、前記育成容器は、前記原料が接触する内面を、Mg、SiおよびSnからなる原料を溶融した状態の融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面に該融液原料を浸み込ませせる処理を行った後、その内面に離型材を塗布して構成したことを特徴とする。
【0011】
MgSi1−xSn単結晶の育成において、坩堝の材料、構成は重要な育成条件である。単結晶の育成では坩堝として石英容器が多く用いられるが、上述のように、BN離型剤を塗布した石英容器に不活性ガスで封止したとしても、蒸発したMgと石英容器が反応するため坩堝の再利用は出来なかった。一方、石英容器の内壁にBN離型剤を塗布したカーボンシートを巻いた場合は、原料のSi(シリコン)がカーボンと反応してその部分から核が生じ、様々な方位の結晶が成長するために単結晶を得にくかった。そこで本発明では、育成容器のカーボンシートの原料が接触する内面を、育成する単結晶の原料を溶融した状態の融液原料に一定時間以上接触させてその内面にあらかじめ融液原料を浸み込ませせる処理を行うことにより、上記のSiとカーボンの反応による核の発生を防いでいる。このようにあらかじめ原料と反応させたカーボンシートにBN等の離型材を塗布した育成容器を坩堝に挿入して用いることで、坩堝の再利用を可能とし、さらに上記の核の発生を防いで、気泡が無く結晶性の良好なMgSi1−xSn単結晶の育成を可能としている。
【0012】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点のMgSi1−xSn結晶の製造方法において、前記坩堝はカーボンにより構成され、該坩堝に前記育成容器および前記原料を装填した後に、上部にカーボンよりなる蓋を被せて該蓋をカーボン接着材を用いて固定し、前記の結晶の育成は不活性ガス雰囲気中で行うことを特徴とする。本観点の発明では、坩堝として、単結晶育成において一般的に使用され、かつ工業的にも実績のあるカーボン坩堝を用いることにより、MgSi1−xSn結晶を安価に製造することができる。この場合、カーボンの気密性は高くないため、酸素との反応を防ぐためAr(アルゴン)ガスなどの不活性ガス雰囲気中で結晶の育成を行う。更に、Mgの蒸気がカーボン坩堝から漏れないように、上部にカーボンよりなる蓋を被せてその蓋をカーボン接着材を用いて坩堝に固定する。
【0013】
第3の観点では、本発明は、前記第1または第2の観点のMgSi1−xSn結晶の製造方法において、前記高温度領域は前記原料の融点より35℃以上高い第1の高温領域とその下部に設けた前記原料の融点近傍の第2の高温領域よりなり、前記坩堝を前記第1の高温領域と前記第2の高温領域との間を1&#12316;5mm/分の速度で1回以上往復させる昇降温工程を行い、前記坩堝を前記高温度領域で前記昇降温行程を含めて1〜2時間保持した後、0.1&#12316;1mm/時間以下の速度で前記低温度領域に向けて降下させることを特徴とする。本観点の発明では融点付近以上の高温度領域において、上記のような第1の高温領域と第2の高温領域間を上記のような速度で1回以上往復させて一定時間保持することによって強制的に融液原料内に対流を起こさせ、さらに上記のようなゆっくりとした速度で下降させることによって、気泡の無いより高品質の単結晶を得ることができる。
【0014】
第4の観点では、本発明のMgSi1−xSn結晶の製造装置は、Mg、SiおよびSnからなる原料の融点よりも高い高温度領域と該高温度領域の下部に設けた前記原料の融点よりも低い低温度領域を有する結晶育成炉と、該結晶育成炉内に挿入される坩堝とを有し、前記原料を前記高温度領域において溶融し、その溶融した融液原料を前記低温度領域に移動することにより結晶の育成を行うMgSi1−xSn結晶の製造装置であって、前記原料を装填するために前記坩堝内に設置されるカーボンシートよりなる育成容器を有し、前記育成容器は、前記原料が接触する内面を、Mg、SiおよびSnからなる原料を溶融した状態の融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面に該融液原料を浸み込ませせる処理を行った後、その内面に離型材を塗布して構成したことを特徴とする。
【0015】
第5の観点では、本発明は、前記第4の観点のMgSi1−xSn結晶の製造装置において、前記坩堝はカーボンにより構成され、該坩堝に前記育成容器および前記原料を装填した後に該坩堝の上部を覆うためのカーボンからなる蓋を有し、前記の結晶の育成を不活性ガス雰囲気中で行うための前記結晶育成炉への不活性ガスの導入手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のMgSi1−xSn結晶の製造方法及び製造装置によれば、坩堝の再利用が可能であり、気泡が無く結晶性の良好なMgSi1−xSn単結晶の育成を可能にするMgSi1−xSn単結晶の製造方法及び製造装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】MgSi1−xSn結晶の製造装置の構成の一例を示す模式的な断面図。
図2】カーボン坩堝と育成容器および原料の構成を示す模式的な断面図。
図3】カーボン保温筒内のカーボン坩堝付近の上下方向の温度分布の一例を示す図。
図4】実施例1において作成されたMgSi1−xSn結晶の写真。
図5】実施例1において作成されたMgSi1−xSn結晶の断面写真。
図6】比較例1において作成されたMgSi1−xSn結晶の写真。
図7】比較例2において作成されたMgSi1−xSn結晶の断面写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明のMgSi1−xSn結晶の製造方法及び製造装置を実施例により詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複した説明を省略する。
【実施例1】
【0019】
図1は、実施例1に係るMgSi1−xSn結晶の製造方法および製造装置を説明するために示す図であり、MgSi1−xSn結晶の製造装置の構成の一例を示す模式的な断面図である。本実施例は融液原料降下方式によるMgSi1−xSn結晶の製造方法である。すなわち、Mg、SiおよびSnからなる原料の融点よりも高い高温度領域とその高温度領域の下部に設けた原料の融点よりも低い低温度領域を有する結晶育成炉において、原料を高温度領域において溶融し、その溶融した融液原料を低温度領域に移動することにより結晶の育成を行うMgSi1−xSn結晶の製造方法である。図1において、ステンレス製でほぼ円筒型の結晶育成炉1の中に、カーボンにより構成されカーボン坩堝5と、加熱のためのカーボンヒーター4が設置され、その周囲には保温のためのカーボン保温筒2が設けられている。さらに、カーボン保温筒2の上部にはカーボン蓋3が設置されている。中心にはカーボン坩堝5を載せて上下させるための坩堝軸6がある。結晶育成炉1は気密構造を有し、真空引きのための真空ポンプ7とアルゴンガス導入のための配管8などを備えている。
【0020】
図2はカーボン坩堝とその中に設置されたカーボンシートよりなる育成容器および原料の構成を示す模式的な断面図である。図2において、MgSi1−xSn結晶の原料であるSn原料13、Si原料14、Mg原料15は、カーボン坩堝5内に設置されたカーボンシートよりなる育成容器10内に装填されている。育成容器10は、あらかじめ上記の原料が接触する内面を、上記の原料を溶融した状態の融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面にその融液原料を浸み込ませせる処理を行った後、その内面にBNからなる離型材を塗布して構成したものである。また、カーボン坩堝5の開口部にはカーボンよりなる坩堝蓋11を被せ、その坩堝蓋11をカーボン接着剤12を用いてカーボン坩堝5に固定している。
【0021】
次に本実施例における各部の形状の一例を説明する。図1において、カーボンヒーター4の形状は、内径160mm×高さ210mmの円筒状であり、その中央に直径30mmの坩堝軸6を配置し、その上にカーボン坩堝5をを設置している。坩堝軸6は上下方向に200mm移動できるように移動機構に結合している。図2において、カーボン坩堝5の外形は外径50mm× 高さ80mmの円柱状であり、カーボン坩堝5の内部は、内径30mmで底部が頂角45度の円錐状となった原料収納室を有し、内面に沿って同形状の育成容器10を有している。
【0022】
ここで使用する育成容器10を構成するカーボンシートの厚さは0.3mmであり、カーボン坩堝5の内形に合わせて成型して作製した。
【0023】
次に、本実施例のMgSi1−xSn結晶の製造方法の具体例について詳細に説明する。MgSi1−xSn単結晶の育成において、Mg原料15として純度が5N以上の高純度マグネシウムを、Si原料14として純度が10N以上の高純度シリコンを、Sn原料13として純度が5N以上の高純度スズをそれぞれ所要の比になるように秤量混合した原料30gをカーボン坩堝5内の育成容器10に入れた後、坩堝蓋11とカーボン坩堝5の上端にカーボン接着剤12を塗布し、坩堝蓋11を載せて蓋をした。原料が装填されたカーボン坩堝5を坩堝軸6に載せ1Pa(パスカル)以下の真空状態にしてから150℃まで昇温した。その状態を30分保持した後に温度を270℃に上げてさらに30分保持することによりカーボン接着剤12を固着し、真空封止を行った。
【0024】
その後、以下のような手順で原料を溶かし、融液原料とした。先ず、結晶育成炉1内にArガスを導入し、大気圧まで圧力を上げた後、カーボンヒーター4に所定の電流を流し、カーボン坩堝5の温度を1120℃まで上げた。昇温時間は30分であった。この時のカーボン坩堝5は、中心部が1120℃付近にあり下部の底部は融点付近の1085℃を示す位置にあった。この状態で30分保持後、5mm/分の速度でカーボン坩堝5の底部を1120℃の位置まで上昇させ、30分保持後に初期の位置に5mm/分の速度でカーボン坩堝5を下降させる操作を1回行った後、カーボン坩堝5を0.5mm/分の速度で降下させ結晶育成を行った。なお、カーボン坩堝5の底部を1120℃の位置まで上昇させたとき、カーボン坩堝5の中心部は1085℃付近にあるので、上記の昇降温行程により融液原料を1120℃の第1の高温領域と1085℃の第2の高温領域との間で往復させることになる。図3はカーボン保温筒2内のカーボン坩堝5が置かれる付近の上下方向の温度分布の一例を示す図である。
【0025】
本実施例のMgSi1−xSn結晶の製造装置を用い、上記の本実施例の製造方法で育成されたMgSi1−xSn結晶では、単結晶領域の広い結晶が得られた。図4は本実施例において作成されたMgSi1−xSn結晶の写真を示す。図4において、この結晶の上面は光沢があり、かつ凸状になっていることから、本実施例においては結晶育成においてカーボンシート表面から原料がはじかれて固液界面が凸状態になっており、Siとカーボンの反応が起きていないことが分かる。図5は作成されたMgSi1−xSn結晶の断面写真を示す。図5からわかるように、本実施例により作成された結晶では気泡もクラックもなく単結晶領域が広い。
【0026】
(比較例1)
本発明の有効性を確認するため、実施例1の育成容器10の代わりに、実施例1の育成容器10と同じカーボンシートを用いて育成容器10と同形状で成型したままの育成容器、すなわち融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面にその融液原料を浸み込ませせる処理を行わないでBN離型剤を塗布した育成容器を使用してMgSi1−xSn結晶の育成を行った。
【0027】
本比較例では、実施例1と同じMgSi1−xSn結晶製造装置を用いた。すなわち、結晶育成炉1、カーボン保温筒2、カーボンヒータ4などはすべて実施例1と同じものを用いた。また、育成容器10以外のカーボン坩堝5、坩堝蓋11なども同じものを使用した。
【0028】
本比較例のMgSi1−xSn結晶の製造方法も上記の実施例1の具体例と全く同一の条件とした。すなわち、使用原料、その装填方法、カーボン坩堝5と坩堝蓋11の封止方法、温度設定の手順、カーボン坩堝5の移動手順などもすべて同じとた。
【0029】
本比較例で育成した結晶を取りだして界面状態を観察した。図6は本比較例において作成されたMgSi1−xSn結晶の写真を示す。図4に示した実施例1の結晶と比較すると、本比較例では図6に示す通り表面が凹状になっており、Siとカーボンの反応が起きていることが確認された。これにより、実施例1でのカーボンシートの育成容器においては、融液原料に一定時間以上接触させることによりその内面にその融液原料を浸み込ませせる処理を行うことが非常に有効であることがわかる。
【0030】
(比較例2)
本発明の有効性を確認するための第2の比較例として、実施例1の育成容器10を使用せず、また、育成条件として、カーボン坩堝5の高温度領域での昇降温工程を行わないでMgSi1−xSn結晶の育成を行った。
【0031】
本比較例では、実施例1と同じMgSi1−xSn結晶製造装置を用いた。すなわち、結晶育成炉1、カーボン保温筒2、カーボンヒータ4などはすべて実施例1と同じものを用いた。また、育成容器10以外のカーボン坩堝5、坩堝蓋11なども同じものを使用した。
【0032】
本比較例のMgSi1−xSn結晶の製造方法は、カーボン坩堝5の底部を1120℃の位置まで上昇させて下げる昇降温工程を行わない以外の工程は、上記の実施例1の具体例と全く同一の条件とした。すなわち、使用原料、その装填方法、カーボン坩堝5と坩堝蓋11の封止方法、上記以外の温度設定の手順などもすべて同じとた。具体的には、結晶育成炉1内にArガスを導入し、大気圧まで圧力を上げた後、カーボンヒーター4に所定の電流を流し、カーボン坩堝5の温度を1120℃まで上げた。その後、そのまま1120℃の状態で2時間保持した後、カーボン坩堝5を0.5mm/分の速度で降下させ結晶育成を行った。
【0033】
図7は本比較例により作成されたMgSi1−xSn結晶の断面写真を示す。図5に示した実施例1の結晶と比較すると、本比較例で得られた結晶は、図7に示す通り、気泡とクラックが発生した多結晶体であった。
【0034】
以上のように、実施例1の製造方法では、比較例1、2に比べて優れた外観形状の高品質のMgSi1−xSn結晶が得られることがわかる。なお、本発明の育成容器を坩堝内に設けることにより従来の製造方法に比べて大きな改善効果が得られ、カーボンヒーターや保温筒の形状、坩堝の形状などの選択や温度分布などの最適設計により、坩堝の材料はカーボン以外の材料でも、また第1の高温領域と第2の高温領域との間の昇降温行程を行わなくても、従来の製造方法に比べて高品質なMgSi1−xSn結晶を得ることができる。
【0035】
本発明は上記の実施例に限定されるものではないことは言うまでもなく、目的とするMgSi1−xSn結晶の特性や形状などに応じて変更可能である。製造装置の各部の構造、形状、材質なども目的とするMgSi1−xSn結晶の特性、形状に合わせて変更可能であり、使用する製造装置の各部の構造や形状などによって、各部の温度などの育成条件も最適化することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、工場設備や発電設備などから生じる廃熱を利用した発電システムに用いることが可能なMgSi多結晶体やMgSi1−xSn多結晶体などの熱電変換材料の製造方法にも適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 結晶育成炉
2 カーボン保温筒
3 カーボン蓋
4 カーボンヒーター
5 カーボン坩堝
6 坩堝軸
7 真空ポンプ
8 配管
10 育成容器
11 坩堝蓋
12 カーボン接着剤
13 Sn原料
14 Si原料
15 Mg原料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7