【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
黒色{こくしょく}アスペルギルス菌(アスペルギルス・ニガー)の培養
1L三角フラスコに蒸留水500ml中に、ショ糖(7.5g)、グルコース(7.5g)、ポリペプトン(2.5g)、塩化カリウム(250mg)、硫酸マグネシウム七水和物(250mg)、リン酸二水素カリウム(0.5g)及び硫酸鉄(II)七水和物(5mg)を含むオートクレーブした培養液を調製した。さらに、4℃で寒天培地上で保持した黒色{こくしょく}アスペルギルスNBRC 4414((独)製品評価技術基盤機構
バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NITE Biological Resource Center)から購
入)の胞子を添加し、3日間培養した。
【0050】
β−ダマセノンの代謝化合物の製造
前記培養した培地に、基質であるβ−ダマセノン(Firmenich社から入手)を添加(基質濃度は0.5〜50mg/mL)した。β−ダマセノンを添加した培地を28℃で7日間振盪培養し、培地及び菌糸体を濾過することにより分離した。分離した菌糸体は、pH4まで酸性にし、酢酸エチルで抽出した。得られた抽出物を、無水Na
2SO
4によって乾燥し、減圧することによって酢酸エチルを除去した。
【0051】
ここで、β−ダマセノンの代謝産物の存在を確認するために、1日1回薄層クロマトグラフィー(TLC)及びガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)を行った。
【0052】
TLC分析は、シリカゲル60GF254を塗布したTLCプレート(メルク社製、層
厚0.25mm)を用いて行った。
【0053】
ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)は、スプリット注入器、キャピラリーカラム(HP−5MS、長さ30m、内径0.25mm)を備えたガスクロマトグラフ(HP−5890A、ヒューレット−パッカード社製)を、質量分析計(5972A、ヒューレット−パッカード社製)に直結した装置で行った。昇温プログラムはGCと同一にした。キャリヤーガスとしてヘリウムを1.0mL/分の流量で用いた。イオン源部の温度は280℃であり、電子エネルギーは70eVであった。イオン化法は電子衝撃法(EI)を使用した。
【0054】
また、β−ダマセノンの代謝産物の存在を確認するために、酢酸エチルで抽出した抽出物をGC−MSで分析した結果、2つの代謝物(化合物1及び化合物2)のピークを確認することができた。
【0055】
図1に、培養したAspergillus nigerによるβ−ダマセノンの生物変換の経時的変化を示す。
図1におけるプロット(●)はβ−ダマセノンを表し、プロット(▲)は化合物1を表し、プロット(■)は化合物2を表す。β−ダマセノンを7日間生物変換することにより、化合物1を約40%の収率で得ることができ、化合物2を約60%の収率で得ることができた。
【0056】
化合物1及び化合物2の構造決定
化合物1及び化合物2の構造を決定する目的で、HREIMS、IR、
1H−NMR及び
13C−NMRを測定した。
【0057】
HREIMSの測定には、日本電子株式会社製JEOL the Tandem MS
station JMS−700を使用した。
【0058】
IR(赤外線吸収)スペルトルの測定には、日本分光株式会社製のJASCO FT/IR−470 plusフーリエ変換赤外分光光度計を使用した。
【0059】
核磁気共鳴スペクトル(
1H−NMR及び
13C−NMR)は、日本電子株式会社製JEOL ECA−800(800MHz)分光計を用い、CDCl
3中で測定し、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質として使用して測定した。
【0060】
化合物1の物性は下記の通りである。
HREIMS:m/z(relative intensity,%) 206.1307(M
+,8),191(4),173(15),137(18),91(19),77(14),69(100),41(63),43(36);
IR(ν
max,film,cm
−1):3377,2954,2921,2857,1638,1439,1067,1020,960
化合物1の
1H NMRおよび
13C NMRスペクトルデータを
図2に示す。
【0061】
HREIMSでは、m/z 206.1307に分子イオンピークが確認され、化合物1の分子量が206.1307であり、組成式がC
13H
18O
2であることが示唆された。IRスペクトルデータより、水酸基(3377cm
−1,1067cm
−1)、カルボニル基(1638cm
−1)及び二重結合(1020cm
−1,960cm
−1)の存在が示唆された。
【0062】
さらに、部分構造を決定するため、2次元NMRとして、HMBC(hetero-nuclear multiple-bond connectivity)を測定した。水酸基の位置について、HMBCより、11
位のメチル基由来のプロトンからC−2位への相関が観測され、同様に、4位のメチンプロトンからC−2位への相関が観測された。このことから、水酸基の位置を2位と特定した。
【0063】
以上より、化合物1の構造は、下記式(1)で表されることが判明し、2−ヒドロキシ−β−ダマセノンであると決定した。
【0064】
【化3】
【0065】
化合物1は、新規化合物である。
【0066】
化合物2の物性は下記の通りである。
HREIMS:m/z(relative intensity,%) 224.1413(M
+,4),209(9),155(21),137(37),123(12),109(26),81(16),69(100),43(34),41(42);
IR(ν
max,film,cm
−1):3435,3050,2966,1641,1441,1290,1050,975
化合物2の
1H NMRおよび
13C NMRスペクトルデータを
図3に示す。
【0067】
HREIMSでは、m/z 224.1413に分子イオンピークが確認され、化合物2の分子量が224.1413であり、組成式がC
13H
20O
3であることが示唆された。IRスペクトルデータより、水酸基(3435cm
−1,1050cm
−1)、カルボニル基(1641cm
−1)及び二重結合(3050cm
−1,975cm
−1)の存在が示唆された。
【0068】
また、
1H NMRおよび
13C NMRスペクトルデータより、β−ダマセノンのNMRデータと比較すると、3位及び4位由来のメチンプロトン及びカーボンが消失し、オキシメチン由来のプロトン、カーボンシグナルが観測された。さらに、2次元NMRとして、HMBCを測定することにより、水酸基の位置を3位及び4位に特定した。
【0069】
以上より、化合物2の構造は、下記式(2)で表されることが判明し、3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコンであると決定した。
【0070】
【化4】
【0071】
化合物2は、新規化合物である。
【0072】
試験例1(HPLCを用いたニコチン代謝分析法)
新規化合物である2−ヒドロキシ−β−ダマセノン及び3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコン;ヨノン系化合物である、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、γ−イオノン、α−ダマセノン、γ−ダマセノン、α−イロン、β−イロン及びγ−イロン;セスキテルペン化合物である、(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド及びバレンセン;環状モノテルペンアセテート化合物である、酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル及び酢酸ミルテニル;モノテルペンアルデヒド化合物である、シトラール、β−シクロシトラール、ペリラ
アルデヒド及びサフラナールを用いて、以下のニコチン代謝分析を行った。また、ニコチン代謝分析のポジティブコントロールとして、クマリンを使用した。
【0073】
5μLのバキュロウイルス組換えCYP2A13(20nmol/mL、BD社製)、15μLのプールドヒト肝サイトゾール(0.3mg/mL、BD社製)、52.5μLのNADPH生成系(0.5mM NADP
+、5mM G−6−P、0.5units/mL G−6−PDH)、10μLのニコチン(50μM)、および50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)を混合し、全量を250μLとした。この混合液を37℃で30分間反応させた。
【0074】
阻害剤である2−ヒドロキシ−β−ダマセノン、3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコン、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン及びβ−ダマセノンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0075】
阻害剤であるγ−イオノン、α−ダマセノン及びγ−ダマセノンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、50、25、12.5μMになるように調製した。
【0076】
阻害剤であるα−イロン、β−イロン及びγ−イロンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、100、50、25μMになるように調製した。
【0077】
阻害剤である(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド及びバレンセンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0078】
阻害剤である酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル及び酢酸ミルテニルについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0079】
阻害剤であるシトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド及びサフラナールについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0080】
ポジティブコントロールであるクマリンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0081】
反応後、内部標準物質として25μLのトランス−4’−カルボキシコチニンメチルエステル(25μM)および反応停止剤としてアセトニトリル/メタノール(1:1、v/v)混合溶液を250μL加えた。反応停止後、4℃、3000rpmで20分間遠心分離した後、上清をとり、上清を活性化させたSep−Pak C18(Waters社製)にてクリーンナップし、HPLCによりコチニンの生成量を定量した。HPLC分析条件及び内部標準物質の調整法は以下の通りである。コチニン生成量の結果を
図4〜10に、本実施例で用いた上記化合物のIC
50値を表1及び表2に示す。
【0082】
HPLC分析条件
Scherzo SM−C18(3.0×150mm、imtakt社製)を用い、移
動相を15%アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム緩衝液、フローレート(Flow rate)を0.4mL/min、カラム温度を37℃とした。検出には、260nmのUV波長を用いた。コチニンの生成量はコチニンの絶対検量線を作成し、それより算出した。阻害の評価はそれぞれの50%阻害濃度であるIC
50値を求めることにより行った。
【0083】
内部標準物質の調製法
トランス−4’−カルボキシコチニン(trans−4’−carboxycotinine)(東京化成工業株式会社)30mgをセトン20mLに溶解し、ジアゾメタンを2mL加え室温で20分間、反応させた。反応後、溶媒を留去し、メチルエステル体であるトランス−4’−カルボキシコチニンメチルエステル(trans−4’−carboxycotinine methyl ester)39mgを得た。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
図4〜10及び表1〜2より、本実施例で用いた全ての化合物について、CYP2A13阻害活性を有することが確認できた。ポジティブコントロールとして使用したクマリンについては、IC
50値は3.8μMであった。
【0087】
CYP2A13の阻害効果では、新規化合物である2−ヒドロキシ−β−ダマセノン及び3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコンが、ポジティブコントロールとして使用したクマリンと同程度の阻害活性を示すことがわかった。
【0088】
製造例(製剤例)
試験例1で分析を行った2−ヒドロキシ−β−ダマセノンを用いて、下記製造例1〜5の製剤を調製できる。
【0089】
製造例1(パッチ製剤付着性ゲル)
【0090】
【表3】
【0091】
製造例2(パッチ製剤付着性ゲル)
【0092】
【表4】
【0093】
製造例3(スプレー製剤)
【0094】
【表5】
【0095】
製造例4(スプレー製剤)
【0096】
【表6】
【0097】
製造例5(チューインガム製剤)
下記の組成物Aを調製する。
【0098】
【表7】
【0099】
上記の組成物Aを、下記のガムベース及び香料と混合してチューインガムを製造する。
【0100】
【表8】