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特開2017-132771CYP2A13阻害活性を有する化合物及びCYP2A13阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-132771(P2017-132771A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】CYP2A13阻害活性を有する化合物及びCYP2A13阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/045 20060101AFI20170707BHJP
   A61P 25/34 20060101ALI20170707BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20170707BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170707BHJP
   A61K 31/121 20060101ALI20170707BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20170707BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20170707BHJP
   A61K 31/336 20060101ALI20170707BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
   A61K31/045
   A61P25/34
   A61K31/4439
   A61P43/00 121
   A61P43/00 111
   A61K31/121
   A61K31/215
   A61K31/11
   A61K31/336
   C12N9/99
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-28927(P2017-28927)
(22)【出願日】2017年2月20日
(62)【分割の表示】特願2016-13556(P2016-13556)の分割
【原出願日】2016年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】507155317
【氏名又は名称】アットアロマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 三雄
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086BC20
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA08
4C086NA14
4C086ZA18
4C086ZC20
4C086ZC39
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA09
4C206CB02
4C206CB07
4C206CB13
4C206DB04
4C206DB56
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA18
4C206ZC20
4C206ZC39
4C206ZC75
(57)【要約】      (修正有)
【課題】CYP2A13阻害活性を有する化合物及びCYP2A13阻害剤の提供。
【解決手段】α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、γ−イオノン、α−ダマセノン、γ−ダマセノン、α−イロン、β−イロン、γ−イロン、(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド、バレンセン、酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル、酢酸ミルテニル、シトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド及びサフラナールから選ばれた1種以上を含有するCYP2A13阻害剤。CYP2A13阻外剤を含有する喫煙回数低減剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、γ−イオノン、α−ダマセノン、γ−ダマセノン、α−イロン、β−イロン、γ−イロン、(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド、バレンセン、酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル、酢酸ミルテニル、シトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド及びサフラナールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有するCYP2A13阻害剤。
【請求項2】
α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(−)−カリオフィレンオキサイド、酢酸ボルニル、β−シクロシトラール及びサフラナールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有する請求項1に記載のCYP2A13阻害剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のCYP2A13阻害剤を含有する喫煙回数低減剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のCYP2A13阻害剤とニコチンとを含む製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CYP2A13阻害活性を有する化合物及びCYP2A13阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シトクロムP450(CYP)は主に肝臓に含まれる酵素であり、ヒトの薬物代謝反応の約8割に関与するといわれている。CYPは脂溶性基質を酸化することで水溶性を高め、体外へ排出しやすくする役割を果たしている。
【0003】
CYP2A13は、3種存在するCYP2Aファミリーの1つであり、鼻の粘膜、気道、及び肺等の呼吸器官に発現するアイソザイムである。CYP2A13は、タバコの主成分であるニコチンを代謝する酵素であり、ニコチンを中間体であるイミニウムイオンへと代謝する。このイミニウムイオンはさらにアルデヒドオキシダーゼにより、最終生成物であるコチニンへ代謝される。また、CYP2A13は、たばこに含有されている前駆体変異原物質である4−(メチルニトロソアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン(NNK)を代謝し、活性化することが知られている。
【0004】
喫煙者においてニコチンの代謝による消失は、集中力の欠如や不安、不眠などの離脱症状をもたらし、これらの症状を解消するため喫煙を繰り返し、ニコチン濃度を維持しようする。このように喫煙を繰り返すことにより、NNKが代謝され、結果的に発癌リスクが高まることとなる。
【0005】
これまでに、本出願人は単環性モノテルペン化合物である(+)−ネオメントール、双環性モノテルペン化合物である(−)−ミルテナール等がCYP2A13阻害活性を有し、CYP2A13阻害剤として使用できることを報告している(下記特許文献1参照)。
【0006】
一方、モノテルペン以外にもCYP2A13阻害活性を有する化合物及びCYP2A13阻害剤の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5730355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、CYP2A13阻害活性を有する化合物及びCYP2A13阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その研究過程において、林檎、バラ、コーヒー、ワイン等の主要な香気成分であるβ−ダマセノンに着目し、β−ダマセノンの生物変換(biotransformation)により生成する化合物が、CYP2A13
阻害活性を有していることを見出した。
本発明者らは、さらに研究を進め、ある種の特定ヨノン系化合物及びセスキテルペン化合物についても優れたCYP2A13阻害活性を有していることを見出した。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【0010】
即ち、本発明は、以下のCYP2A13阻害活性を有する化合物及びCYP2A13阻害剤を包含する。
【0011】
項1. 下記式(1)又は(2)で表される化合物。
【0012】
【化1】
【0013】
項2. 項1に記載の化合物、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、γ−イオノン、α−ダマセノン、γ−ダマセノン、α−イロン、β−イロン、γ−イロン、(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド、バレンセン、酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル、酢酸ミルテニル、シトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド及びサフラナールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有するCYP2A13阻害剤。
【0014】
項3. 項1に記載の化合物、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(−)−カリオフィレンオキサイド、酢酸ボルニル、β−シクロシトラール及びサフラナールからなる群より選ばれた少なくとも1種を含有する上記項2に記載のCYP2A13阻害剤。
【0015】
項4. 項2又は3に記載のCYP2A13阻害剤を含有する喫煙回数低減剤。
【0016】
項5. 項2又は3に記載のCYP2A13阻害剤とニコチンとを含む製剤。
【0017】
項6. 項1に記載の化合物の製造方法であって、β−ダマセノンを黒色{こくしょく}アスペルギルス菌により生物変換する製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の式(1)及び式(2)で表される化合物は新規化合物であり、高いCYP2A
13阻害活性を有している。そのため、式(1)、式(2)で表される化合物等を含むCYP2A13阻害剤を用いることによって、ニコチン代謝を遅らせ、体内のニコチン濃度を長期間維持することができるため、結果的に喫煙量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例で培養したアスペルギルス・ニガーによるβ−ダマセノンの生物変換の経時的変化を示す図である。
図2】実施例で得られた化合物1のH NMR及び13C NMRのスペクトルデータを示す図である。
図3】実施例で得られた化合物2のH NMR及び13C NMRのスペクトルデータを示す図である。
図4】2−ヒドロキシ−β−ダマセノン、3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコン、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン及びβ−ダマセノンのCYP2A13阻害活性を示すグラフである。
図5】γ−イオノン、α−ダマセノン及びγ−ダマセノンのCYP2A13阻害活性を示すグラフである。
図6】α−イロン、β−イロン及びγ−イロンのCYP2A13阻害活性を示すグラフである。
図7】(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン及び(+)−シクロイソロンギフォル−5−オールのCYP2A13阻害活性を示すグラフである。
図8】(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド及びバレンセンのCYP2A13阻害活性を示すグラフである。
図9】酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル及び酢酸ミルテニルのCYP2A13阻害活性を示すグラフである。
図10】シトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド及びサフラナールのCYP2A13阻害活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明は、下記式(1)又は(2)で表される化合物である。
【0022】
【化2】
【0023】
上記式(1)で表される化合物は、2−ヒドロキシ−β−ダマセノン(以下、「化合物1」ともいう)であり、上記式(2)で表される化合物は、3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコンである(以下、「化合物2」ともいう)。
【0024】
化合物1及び化合物2は、次に示すようにβ−ダマセノンを生物変換(biotransformation)することにより代謝産物として製造される。
【0025】
β−ダマセノンの生物変換には、黒色{こくしょく}アスペルギルス菌(spergillus niger)、具体的にはアスペルギルス・ニガー NBRC4414が用いられる。アスペルギルス・ニガー NBRC4414は(独)製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NITE Biological Resource Center)から購入可能である。
【0026】
生物変換の具体的な方法としては、アスペルギルス・ニガーの培養培地に、基質であるβ−ダマセノンを添加して、培養することにより行うことができる。培養に用いられる培地としては、アスペルギルス・ニガーが利用し得る栄養源を含むものであれば液状でも固状でもよい。この培地には、アスペルギルス・ニガーを培養するために必要な物質、例えば、アスペルギルス・ニガーが同化し得る炭素源、消化し得る窒素源及び無機物等が適宜配合される。培地のpH及び温度条件は、アスペルギルス・ニガーの育成に好適な範囲であればどのような条件でも使用することができる。例えば、温度28℃程度で2〜7日間培養することが好ましい。
【0027】
生物変換の後、代謝産物を分離又は抽出し、必要に応じて、アルミナカラムクロマトグラフィー又はシリカゲルクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の適当な分離精製手段を1種若しくは2種以上組み合わせて精製することにより、化合物1及び化合物2を得ることができる。
【0028】
化合物1及び化合物2は、以下の実施例で示すように、CYP2A13阻害活性を有している。化合物1及び化合物2はそのままCYP2A13阻害剤として用いることが可能
である。
【0029】
また、以下の実施例で示すように、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、γ−イオノン、α−ダマセノン、γ−ダマセノン、α−イロン、β−イロン、γ−イロン、(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド、バレンセン、酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル、酢酸ミルテニル、シトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド及びサフラナールはCYP2A13阻害活性を有している。
【0030】
α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、γ−イオノン、α−ダマセノン、γ−ダマセノン、α−イロン、β−イロン及びγ−イロンは、ヨノン系化合物である。
【0031】
上記したヨノン系化合物の中でも、CYP2A13阻害活性の観点から、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノンが好ましい。
【0032】
(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド及びバレンセンはセスキテルペン化合物である。
【0033】
上記したセスキテルペン化合物の中でも、CYP2A13阻害活性の観点から、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(−)−カリオフィレンオキサイドが好ましい。
【0034】
酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル及び酢酸ミルテニルは、環状モノテルペンアセテート化合物である。
【0035】
上記した環状モノテルペンアセテート化合物の中でも、CYP2A13阻害活性の観点から、酢酸ボルニルが好ましい。
【0036】
シトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド及びサフラナールは、モノテルペンアルデヒド化合物である。
【0037】
上記したモノテルペンアルデヒド化合物の中でも、CYP2A13阻害活性の観点から、β−シクロシトラール及びサフラナールが好ましい。
【0038】
上記したヨノン系化合物、セスキテルペン化合物、環状モノテルペンアセテート化合物又はモノテルペンアルデヒド化合物は、種々の植物の精油成分として知られていることから、安全かつ入手が容易である。本発明のCYP2A13阻害剤は、上記したヨノン系化合物、セスキテルペン化合物、環状モノテルペンアセテート化合物又はモノテルペンアルデヒド化合物を含む精油をも包含する。例えば、γ−イオノン、(+)−アロマデンドレン、バレンセン、ヌートカトン、酢酸ボルニル、等は、それぞれタマリンド、ユーカリ、オレンジ、グレープフルーツ、ヒノキ、レモングラス等の植物から単離することができる。
【0039】
上記のヨノン系化合物、セスキテルペン化合物、環状モノテルペンアセテート化合物又はモノテルペンアルデヒド化合物を含む植物からの精油は、公知の方法を用いて抽出することができる。その抽出方法は、該当する植物を、そのまま抽出に供することができるが、より細かく粉砕した後、抽出に供するのが好ましい。
【0040】
抽出溶媒としては、特に限定的ではなく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;1,3−ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等のグリコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;水等を用いることができる。これらの抽出溶媒は、一種単独又は二種以上を混合して用いることができる。特に、メタノール、エタノール等のアルコール類、及び酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが、取り扱いが容易であり、しかも優れた活性を有する抽出物を得ることができる点で好ましい。
【0041】
上記した方法によって抽出物を得た後、必要に応じ、濾過、遠心分離等の常法によって残渣と固液分離することによって、抽出液を得ることができる。本発明では、得られた抽出液をそのままCYP2A13阻害剤として用いることが可能であるが、CYP2A13阻害活性をさらに高めるため、適宜濃縮又は溶媒を留去して、エキス状や粉末状として用いることもできる。
【0042】
本発明のCYP2A13阻害剤は、CYP2A13の発現あるいは酵素活性を抑制することで、ニコチンを代謝させず、あるいは代謝速度を低下させることで体内に長く留まらせることができ、結果的に喫煙者の喫煙回数を減らす働きを有する。そのため、喫煙回数低減剤として有用である。
【0043】
また、本発明のCYP2A13阻害剤を用いて喫煙者の喫煙回数を低減させることにより、結果的に4−(メチルニトロソアミノ)−1−(3−ピリジル)−1−ブタノン(NNK)の吸入量を低減させることができる。さらに、CYP2A13阻害剤は、CYP2A13の発現あるいは酵素活性を抑制することで、体内でNNKの代謝及び活性化を抑制する働きを有する。そのため、発癌リスクを低減できる禁煙補助剤としても有効である。
【0044】
本発明のCYP2A13阻害剤は、従来慣用されている方法により、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、エリキシル剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等の剤に製剤化することができる。製剤化には通常用いられている賦形剤、結合剤、潤沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分及び配合量を適宜選択して常法により製剤化される。
【0045】
本発明の製剤を投与する場合、その投与形態は特に限定されず、通常用いられる方法であればよく、例えば、経口、経皮、経肺、吸入、局所、直腸等のいずれでもよい。好適には、チューインガム、点鼻スプレー、口内スプレー、うがい薬、経皮パッチ等の形態が例示される。特に、経皮スキンパッチの形態、ネブライザー等によるエアロゾール投与、ディフューザーによる空間への噴霧等で用いることが好適である。
【0046】
本発明のCYP2A13阻害剤は、ニコチンとともに用いて、ニコチンを代謝させず、あるいは代謝速度を低減させることによりニコチンを体内に長く留まらせ、喫煙者の喫煙衝動をより低減することができる。例えば、公知のニコチン製剤(例えば、チューインガム、点鼻スプレー、口内スプレー、うがい薬、経皮パッチ等)とともに上記したCYP2A13阻害剤の製剤を併用することができる。また、製剤中にCYP2A13阻害剤とニ
コチンを含有していてもよい。
【0047】
喫煙者の喫煙回数を低減させるため、フィルター付タバコのフィルターに本発明のCYP2A13阻害剤を含有させることもできる。また、喫煙ルームなどにおいて、ディフューザーを用いて空間に噴霧することも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
黒色{こくしょく}アスペルギルス菌(アスペルギルス・ニガー)の培養
1L三角フラスコに蒸留水500ml中に、ショ糖(7.5g)、グルコース(7.5g)、ポリペプトン(2.5g)、塩化カリウム(250mg)、硫酸マグネシウム七水和物(250mg)、リン酸二水素カリウム(0.5g)及び硫酸鉄(II)七水和物(5mg)を含むオートクレーブした培養液を調製した。さらに、4℃で寒天培地上で保持した黒色{こくしょく}アスペルギルスNBRC 4414((独)製品評価技術基盤機構
バイオテクノロジー本部生物遺伝資源部門(NITE Biological Resource Center)から購
入)の胞子を添加し、3日間培養した。
【0050】
β−ダマセノンの代謝化合物の製造
前記培養した培地に、基質であるβ−ダマセノン(Firmenich社から入手)を添加(基質濃度は0.5〜50mg/mL)した。β−ダマセノンを添加した培地を28℃で7日間振盪培養し、培地及び菌糸体を濾過することにより分離した。分離した菌糸体は、pH4まで酸性にし、酢酸エチルで抽出した。得られた抽出物を、無水NaSOによって乾燥し、減圧することによって酢酸エチルを除去した。
【0051】
ここで、β−ダマセノンの代謝産物の存在を確認するために、1日1回薄層クロマトグラフィー(TLC)及びガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)を行った。
【0052】
TLC分析は、シリカゲル60GF254を塗布したTLCプレート(メルク社製、層
厚0.25mm)を用いて行った。
【0053】
ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)は、スプリット注入器、キャピラリーカラム(HP−5MS、長さ30m、内径0.25mm)を備えたガスクロマトグラフ(HP−5890A、ヒューレット−パッカード社製)を、質量分析計(5972A、ヒューレット−パッカード社製)に直結した装置で行った。昇温プログラムはGCと同一にした。キャリヤーガスとしてヘリウムを1.0mL/分の流量で用いた。イオン源部の温度は280℃であり、電子エネルギーは70eVであった。イオン化法は電子衝撃法(EI)を使用した。
【0054】
また、β−ダマセノンの代謝産物の存在を確認するために、酢酸エチルで抽出した抽出物をGC−MSで分析した結果、2つの代謝物(化合物1及び化合物2)のピークを確認することができた。
【0055】
図1に、培養したAspergillus nigerによるβ−ダマセノンの生物変換の経時的変化を示す。図1におけるプロット(●)はβ−ダマセノンを表し、プロット(▲)は化合物1を表し、プロット(■)は化合物2を表す。β−ダマセノンを7日間生物変換することにより、化合物1を約40%の収率で得ることができ、化合物2を約60%の収率で得ることができた。
【0056】
化合物1及び化合物2の構造決定
化合物1及び化合物2の構造を決定する目的で、HREIMS、IR、H−NMR及び13C−NMRを測定した。
【0057】
HREIMSの測定には、日本電子株式会社製JEOL the Tandem MS
station JMS−700を使用した。
【0058】
IR(赤外線吸収)スペルトルの測定には、日本分光株式会社製のJASCO FT/IR−470 plusフーリエ変換赤外分光光度計を使用した。
【0059】
核磁気共鳴スペクトル(H−NMR及び13C−NMR)は、日本電子株式会社製JEOL ECA−800(800MHz)分光計を用い、CDCl中で測定し、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準物質として使用して測定した。
【0060】
化合物1の物性は下記の通りである。
HREIMS:m/z(relative intensity,%) 206.1307(M,8),191(4),173(15),137(18),91(19),77(14),69(100),41(63),43(36);
IR(νmax,film,cm−1):3377,2954,2921,2857,1638,1439,1067,1020,960
化合物1のH NMRおよび13C NMRスペクトルデータを図2に示す。
【0061】
HREIMSでは、m/z 206.1307に分子イオンピークが確認され、化合物1の分子量が206.1307であり、組成式がC1318であることが示唆された。IRスペクトルデータより、水酸基(3377cm−1,1067cm−1)、カルボニル基(1638cm−1)及び二重結合(1020cm−1,960cm−1)の存在が示唆された。
【0062】
さらに、部分構造を決定するため、2次元NMRとして、HMBC(hetero-nuclear multiple-bond connectivity)を測定した。水酸基の位置について、HMBCより、11
位のメチル基由来のプロトンからC−2位への相関が観測され、同様に、4位のメチンプロトンからC−2位への相関が観測された。このことから、水酸基の位置を2位と特定した。
【0063】
以上より、化合物1の構造は、下記式(1)で表されることが判明し、2−ヒドロキシ−β−ダマセノンであると決定した。
【0064】
【化3】
【0065】
化合物1は、新規化合物である。
【0066】
化合物2の物性は下記の通りである。
HREIMS:m/z(relative intensity,%) 224.1413(M,4),209(9),155(21),137(37),123(12),109(26),81(16),69(100),43(34),41(42);
IR(νmax,film,cm−1):3435,3050,2966,1641,1441,1290,1050,975
化合物2のH NMRおよび13C NMRスペクトルデータを図3に示す。
【0067】
HREIMSでは、m/z 224.1413に分子イオンピークが確認され、化合物2の分子量が224.1413であり、組成式がC1320であることが示唆された。IRスペクトルデータより、水酸基(3435cm−1,1050cm−1)、カルボニル基(1641cm−1)及び二重結合(3050cm−1,975cm−1)の存在が示唆された。
【0068】
また、H NMRおよび13C NMRスペクトルデータより、β−ダマセノンのNMRデータと比較すると、3位及び4位由来のメチンプロトン及びカーボンが消失し、オキシメチン由来のプロトン、カーボンシグナルが観測された。さらに、2次元NMRとして、HMBCを測定することにより、水酸基の位置を3位及び4位に特定した。
【0069】
以上より、化合物2の構造は、下記式(2)で表されることが判明し、3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコンであると決定した。
【0070】
【化4】
【0071】
化合物2は、新規化合物である。
【0072】
試験例1(HPLCを用いたニコチン代謝分析法)
新規化合物である2−ヒドロキシ−β−ダマセノン及び3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコン;ヨノン系化合物である、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン、β−ダマセノン、γ−イオノン、α−ダマセノン、γ−ダマセノン、α−イロン、β−イロン及びγ−イロン;セスキテルペン化合物である、(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド及びバレンセン;環状モノテルペンアセテート化合物である、酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル及び酢酸ミルテニル;モノテルペンアルデヒド化合物である、シトラール、β−シクロシトラール、ペリラ
アルデヒド及びサフラナールを用いて、以下のニコチン代謝分析を行った。また、ニコチン代謝分析のポジティブコントロールとして、クマリンを使用した。
【0073】
5μLのバキュロウイルス組換えCYP2A13(20nmol/mL、BD社製)、15μLのプールドヒト肝サイトゾール(0.3mg/mL、BD社製)、52.5μLのNADPH生成系(0.5mM NADP、5mM G−6−P、0.5units/mL G−6−PDH)、10μLのニコチン(50μM)、および50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)を混合し、全量を250μLとした。この混合液を37℃で30分間反応させた。
【0074】
阻害剤である2−ヒドロキシ−β−ダマセノン、3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコン、α−イオノール、β−イオノール、β−ダマスコン及びβ−ダマセノンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0075】
阻害剤であるγ−イオノン、α−ダマセノン及びγ−ダマセノンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、50、25、12.5μMになるように調製した。
【0076】
阻害剤であるα−イロン、β−イロン及びγ−イロンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、100、50、25μMになるように調製した。
【0077】
阻害剤である(+)−アロマデンドレン、(−)−アロアロマデンドレン、(−)−イソロンギフォロール、(−)−イソロンギフォラン−7α−オール、(−)−イソロンギフォレン−9−オン、(+)−シクロイソロンギフォル−5−オール、(−)−エピセドロール、(+)−セドリルアセテート、ヌートカトン、(−)−グロブロール、(−)−カリオフィレンオキサイド及びバレンセンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0078】
阻害剤である酢酸ボルニル、酢酸イソボルニル及び酢酸ミルテニルについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0079】
阻害剤であるシトラール、β−シクロシトラール、ペリラアルデヒド及びサフラナールについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0080】
ポジティブコントロールであるクマリンについては、DMSOに溶解させ、全量250μLの反応系で、10、5、2.5μMになるように調製した。
【0081】
反応後、内部標準物質として25μLのトランス−4’−カルボキシコチニンメチルエステル(25μM)および反応停止剤としてアセトニトリル/メタノール(1:1、v/v)混合溶液を250μL加えた。反応停止後、4℃、3000rpmで20分間遠心分離した後、上清をとり、上清を活性化させたSep−Pak C18(Waters社製)にてクリーンナップし、HPLCによりコチニンの生成量を定量した。HPLC分析条件及び内部標準物質の調整法は以下の通りである。コチニン生成量の結果を図4〜10に、本実施例で用いた上記化合物のIC50値を表1及び表2に示す。
【0082】
HPLC分析条件
Scherzo SM−C18(3.0×150mm、imtakt社製)を用い、移
動相を15%アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム緩衝液、フローレート(Flow rate)を0.4mL/min、カラム温度を37℃とした。検出には、260nmのUV波長を用いた。コチニンの生成量はコチニンの絶対検量線を作成し、それより算出した。阻害の評価はそれぞれの50%阻害濃度であるIC50値を求めることにより行った。
【0083】
内部標準物質の調製法
トランス−4’−カルボキシコチニン(trans−4’−carboxycotinine)(東京化成工業株式会社)30mgをセトン20mLに溶解し、ジアゾメタンを2mL加え室温で20分間、反応させた。反応後、溶媒を留去し、メチルエステル体であるトランス−4’−カルボキシコチニンメチルエステル(trans−4’−carboxycotinine methyl ester)39mgを得た。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
図4〜10及び表1〜2より、本実施例で用いた全ての化合物について、CYP2A13阻害活性を有することが確認できた。ポジティブコントロールとして使用したクマリンについては、IC50値は3.8μMであった。
【0087】
CYP2A13の阻害効果では、新規化合物である2−ヒドロキシ−β−ダマセノン及び3,4−ジヒドロキシ−β−ダマスコンが、ポジティブコントロールとして使用したクマリンと同程度の阻害活性を示すことがわかった。
【0088】
製造例(製剤例)
試験例1で分析を行った2−ヒドロキシ−β−ダマセノンを用いて、下記製造例1〜5の製剤を調製できる。
【0089】
製造例1(パッチ製剤付着性ゲル)
【0090】
【表3】
【0091】
製造例2(パッチ製剤付着性ゲル)
【0092】
【表4】
【0093】
製造例3(スプレー製剤)
【0094】
【表5】
【0095】
製造例4(スプレー製剤)
【0096】
【表6】
【0097】
製造例5(チューインガム製剤)
下記の組成物Aを調製する。
【0098】
【表7】
【0099】
上記の組成物Aを、下記のガムベース及び香料と混合してチューインガムを製造する。
【0100】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10