(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-132846(P2017-132846A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】半導電性樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20170707BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20170707BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20170707BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20170707BHJP
G03G 15/00 20060101ALI20170707BHJP
G03G 15/16 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
C08J3/22CEW
C08J3/22CFG
C08J3/22CEV
C08L27/16
C08L77/00
C08K3/04
G03G15/00 550
G03G15/00 552
G03G15/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-12100(P2016-12100)
(22)【出願日】2016年1月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】武智 重利
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
【テーマコード(参考)】
2H171
2H200
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
2H171FA26
2H171FA30
2H171GA01
2H171PA01
2H171PA08
2H171PA14
2H171TB12
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2H171UA03
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2H200FA02
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2H200JC04
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2H200MB02
2H200MB04
2H200MB06
4F070AA23
4F070AC04
4F070AC79
4F070AC90
4F070AE06
4F070FB03
4J002BD141
4J002CL002
4J002DA036
4J002FD116
(57)【要約】
【課題】ポリフッ化ビニリデン樹脂の優れた特性である難燃性を維持しつつも、半導電性領域の電気抵抗の均一性が高く、所望の電気抵抗を任意に調整することが容易なポリフッ化ビニリデン樹脂とポリアミド樹脂とカーボンブラックとを含む半導電性樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を55重量%〜80重量%と、ポリアミド樹脂(B)を11重量%〜35重量%と、カーボンブラック(C)を3重量%〜25重量%とを含む半導電性樹脂組成物の製造方法であって、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を主成分として含むマスターバッチ用樹脂とカーボンブラック(C)とを混合して導電性マスターバッチを作製し、次いで前記導電性マスターバッチとポリアミド樹脂(B)を含むブレンド用樹脂とを混合することを特徴とする半導電性樹脂組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を55重量%〜80重量%と、ポリアミド樹脂(B)を11重量%〜35重量%と、カーボンブラック(C)を3重量%〜25重量%とを含む半導電性樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を主成分として含むマスターバッチ用樹脂と前記カーボンブラック(C)とを混合して導電性マスターバッチを作製し、次いで前記導電性マスターバッチと前記ポリアミド樹脂(B)を含むブレンド用樹脂とを混合することを特徴とする半導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記導電性マスターバッチにおける前記マスターバッチ用樹脂と前記カーボンブラック(C)との配合割合は、前記マスターバッチ用樹脂を70重量%〜95重量%に対して、前記カーボンブラック(C)を5重量%〜30重量%含むことを特徴とする請求項1記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記マスターバッチ用樹脂における前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の配合量は、90重量%以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ブレンド用樹脂は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ブレンド用樹脂における前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との配合量は、75重量%以上であることを特徴とする請求項4記載の半導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか記載の製造方法によって得られた半導電性樹脂組成物を押出成形することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか記載の製造方法によって得られた半導電性樹脂組成物を押出成形することを特徴とする電子写真用シームレスベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いた画像形成装置に用いる電子写真用シームレスベルト等の分野に好適に使用することができる半導電性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデン樹脂は、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐汚染性、耐摩耗性、非粘着性、成型加工性等の特性に優れているため、電子写真方式を用いた画像形成装置に用いる電子写真用シームレスベルトの分野で好適に使用されている。
【0003】
この電子写真用シームレスベルトは、上記特性に加え、電気抵抗、特に体積抵抗が1×10
6〜1×10
13Ω・cmの半導電性であることが重要であり、従来から、様々な導電性材料を用いてポリフッ化ビニリデン系樹脂に半導電性を付与することが検討されている。
【0004】
熱可塑性樹脂に半導電性を付与するには、カーボンブラック(CB)、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、カーボンファイバ(CF)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)等のナノレベルのフィラーからなる電子伝導性材料を熱可塑性樹脂中に配合することが一般的である。これらの電子伝導性材料は、電子伝導性材料同士の接触によって導電性を発現しているため樹脂中への分散が重要である。しかし、このようなフィラーは凝集力が極めて強いため、通常の方法ではこの凝集力を解くことは困難であり、これらのフィラーを均一に分散させ、電気抵抗のバラつきを小さくすること(以下、電気抵抗の均一性と称する)は技術的に困難を伴う。
【0005】
このような課題に鑑み、特許文献1には、カーボンブラックを分散したポリアミド(PA)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを混合し、ポリフッ化ビニリデンマトリクス中にポリアミドを分散させた海島構造の半導電性複合樹脂とすることが記載され、この構成では、マスターバッチのベース樹脂としてカーボンブラックと親和性が良好なポリアミド樹脂を用いているため、カーボンブラックをナノレベルにまで分散させることができ、ポリフッ化ビニリデンの良さを活かしつつ均一にかつ所望の抵抗レベルまで電気抵抗を低下させることが可能であることが記載されている。上記の半導電性複合樹脂は、カーボンブラックを分散したポリアミド樹脂のマスターバッチを調製し、次いで、該マスターバッチとポリフッ化ビニリデン樹脂とを混練することにより得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−180206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の半導電性複合樹脂は、カーボンブラックを分散したポリアミドのマスターバッチとポリフッ化ビニリデンとを混合することにより得られるものであるが、ポリアミド樹脂をベース樹脂とするマスターバッチは、カーボンブラックの配合量に限界があり、カーボンブラックの配合量を増やそうとすると必然的にポリアミド樹脂の配合量が増え、ポリフッ化ビニリデン樹脂とポリアミド樹脂とのポリマーアロイでも難燃性とならない。
【0008】
すなわち、熱可塑性樹脂とカーボンブラックとを混練する場合、カーボンブラックの配合量は25重量%程度が限界で、それ以上のカーボンブラックを配合すると溶融粘度が高くなり押出しが困難となる。一方、難燃性の観点からは、ポリフッ化ビニリデンとポリアミドとのポリマーアロイでは、ポリアミドの配合量を40重量%としたフィルムはUL94VTM垂直燃焼試験においてVTM−0或いはVTM−1を達成できず、ポリアミド樹脂の配合量をそれ未満とする必要がある。
【0009】
これらを勘案すると、ポリアミドをベース樹脂とするカーボンブラックのマスターバッチを用いた場合、ポリフッ化ビニリデンとポリアミドとのポリマーアロイにおいて、難燃性を維持するためには、最終コンパウンド中のカーボンブラックの配合量が10重量%未満(マスターバッチの配合量:40重量% × マスターバッチ中のカーボンブラック配合量:25重量%)としかなり得ず、半導電性領域において所望の電気抵抗を任意に調整することが困難となる。
【0010】
本発明はこのような問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ポリフッ化ビニリデン樹脂の優れた特性である難燃性を維持しつつも、半導電性領域の電気抵抗の均一性が高く、所望の電気抵抗に調整することが容易なポリフッ化ビニリデン樹脂とポリアミド樹脂とカーボンブラックとを含む半導電性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリフッ化ビニリデン樹脂とカーボンブラックとを混合してカーボンブラックが分散したポリフッ化ビニリデン樹脂のマスターバッチを作製し、次いで該マスターバッチとポリアミド樹脂とを混合する方法を試したところ、カーボンブラックはポリフッ化ビニリデン樹脂の連続相(海)中のポリアミド樹脂の分散相(島)中に移行し、電気抵抗の均一な半導電性樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
つまり、本発明においては、カーボンブラックを分散したポリアミド樹脂のマスターバッチとポリフッ化ビニリデン樹脂とを混合するのではなく、カーボンブラックを分散したポリフッ化ビニリデン樹脂のマスターバッチとポリアミド樹脂とを混合することにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂の優れた特性である難燃性を維持しつつも、半導電性領域の電気抵抗の均一性の高い、所望の電気抵抗を任意に調整することができる。
【0013】
本発明によれば、
(1)ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を55重量%〜80重量%と、ポリアミド樹脂(B)を11重量%〜35重量%と、カーボンブラック(C)を3重量%〜25重量%とを含む半導電性樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を主成分として含むマスターバッチ用樹脂と前記カーボンブラック(C)とを混合して導電性マスターバッチを作製し、次いで前記導電性マスターバッチと前記ポリアミド樹脂(B)を含むブレンド用樹脂とを混合することを特徴とする半導電性樹脂組成物の製造方法が提供され、
(2)前記導電性マスターバッチにおける前記マスターバッチ用樹脂と前記カーボンブラック(C)との配合割合は、前記マスターバッチ用樹脂を70重量%〜95重量%に対して、前記カーボンブラック(C)を5重量%〜30重量%含むことを特徴とする(1)記載の半導電性樹脂組成物の製造方法が提供され、
(3)前記マスターバッチ用樹脂における前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の配合量は、90重量%以上であることを特徴とする(1)又は(2)記載の半導電性樹脂組成物の製造方法が提供され、
(4)前記ブレンド用樹脂は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を含むことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか記載の半導電性樹脂組成物の製造方法が提供され、
(5)前記ブレンド用樹脂における前記ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と前記ポリアミド樹脂(B)との配合量は、75重量%以上であることを特徴とする(4)記載の半導電性樹脂組成物の製造方法が提供され、
(6)(1)乃至(5)のいずれか記載の製造方法によって得られた半導電性樹脂組成物を押出成形することを特徴とする成形体の製造方法が提供され、
(7)(1)乃至(5)のいずれか記載の製造方法によって得られた半導電性樹脂組成物を押出成形することを特徴とする電子写真用シームレスベルトの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、カーボンブラックを分散したポリフッ化ビニリデン樹脂の導電性マスターバッチとポリアミド樹脂とを混合することにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂の優れた特性である難燃性を維持しつつも、半導電性領域の電気抵抗の均一性が高い半導電性樹脂組成物を得ることができる。また、本発明の製造方法によって得られた半導電性樹脂組成物は、上記の特性を備える為、電子写真用シームレスベルトとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[半導電性樹脂組成物の製造方法]
以下、本発明の半導電性樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を55重量%〜80重量%と、ポリアミド樹脂(B)を11重量%〜35重量%と、カーボンブラック(C)を3重量%〜25重量%とを含む半導電性樹脂組成物の製造方法であり、カーボンブラック(C)を分散したポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の導電性マスターバッチとポリアミド樹脂(B)とを混合することを特徴とするものである。さらに詳しくは、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を主成分として含むマスターバッチ用樹脂とカーボンブラック(C)とを混合して導電性マスターバッチを作製し、次いで導電性マスターバッチとポリアミド樹脂(B)を含むブレンド用樹脂とを混合することにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の優れた特性である難燃性を維持しつつも、半導電性領域の電気抵抗の均一性の高い、所望の電気抵抗に調整することができるものである。なお、ここでいう半導電性とは、温度23℃、相対湿度50%RH、印可電圧500Vにおける体積抵抗率が1×10
6〜1×10
13Ω・cmの範囲内であることを意味する。
【0016】
本発明の製造方法は、先ず、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を主成分として含むマスターバッチ用樹脂とカーボンブラック(C)とを混合して導電性マスターバッチを作製する。マスターバッチ用樹脂は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)のみからなっていても良いし、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と後述する他の樹脂とのブレンドからなっていても良い。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と他の樹脂とのブレンドである場合、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の配合量は、75重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。また、マスターバッチ用樹脂には、必要に応じてその特性を損なわない範囲で後述する添加剤を配合しても良い。
【0017】
本発明に用いられるポリフッ化ビニリデン樹脂(A)は、ポリフッ化ビニリデン、またはその共重合体から選ばれる1種、或いは2種以上の混合物である。フッ化ビニリデン共重合体としては、例えば、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体にフッ化ビニリデンの側鎖を有するグラフト共重合体が挙げられ、これらの中から選ばれる1種、或いは2種以上を用いることができる。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0018】
本発明に用いられるカーボンブラック(C)としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック及びカーボンナノチューブ等の導電性カーボンブラックを挙げることができ、特に、平均粒子径40nm以下のカーボンブラックが少量の配合で電気抵抗を下げることができるので好ましい。また、本発明においては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン基、から選ばれる1種以上の官能基を有するポリマーがグラフト付加されたグラフト化カーボンブラック、或いは低分子量化合物で表面処理したカーボンブラックも用いることができる。
【0019】
導電性マスターバッチにおけるマスターバッチ用樹脂とカーボンブラック(C)との配合割合は、マスターバッチ用樹脂を70重量%〜95重量%に対して、カーボンブラック(C)を5重量%〜30重量%であることが好ましい。マスターバッチ用樹脂に対するカーボンブラック(C)の配合割合は、7重量%〜25重量%であることがより好ましく、10重量%〜20重量%であることがさらに好ましい。カーボンブラック(C)の配合割合が5重量%未満であると所望の電気抵抗を示す樹脂組成物が得られず好ましくなく、30重量%を超えると溶融粘度が高くなり押出しが困難となる。
【0020】
マスターバッチ用樹脂とカーボンブラック(C)とを混合する方法としては、例えば、マスターバッチ用樹脂と、カーボンブラック(C)及び必要に応じて用いられる添加剤とを配合してドライブレンドした後に溶融混練する方法、マスターバッチ用樹脂を予め溶融混練し、ここに所定量のカーボンブラック(C)及び必要に応じて用いられる添加剤を配合する方法、マスターバッチ用樹脂とカーボンブラック(C)及び必要に応じて用いられる添加剤とを同時に押出機等に投入して溶融混練する方法等が挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法は、次に、得られた導電性マスターバッチとポリアミド樹脂(B)を含むブレンド用樹脂とを混合して半導電性樹脂組成物を作製する。本発明においては、このような工程を経ることにより、カーボンブラック(C)がポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の連続相(海)中のポリアミド樹脂(B)の分散相(島)中に移行し、半導電性領域における電気抵抗の均一な半導電性樹脂組成物を得ることができる。ブレンド用樹脂は、ポリアミド樹脂(B)のみからなっていても良いし、ポリアミド樹脂(B)とポリフッ化ビニリデン樹脂(A)或いは後述する他の樹脂とのブレンドからなっていても良いが、ポリアミド樹脂(B)とポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とを含むことが好ましい。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)とを含む場合、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)との配合量は、75重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。また、ブレンド用樹脂には、所望の電気抵抗に調整するためにカーボンブラック(C)を配合しても良く、必要に応じてその特性を損なわない範囲で後述する添加剤を配合しても良い。なお、本工程は、後述する成形体或いは電子写真用シームレスベルトの押出成形時に組み合わせても良い。
【0022】
本発明に用いられるポリアミド樹脂(B)は、ジアミンとジカルボン酸との重縮合、ω−アミノカルボン酸の自己縮合、ラクタム類の開館重合などによって得られ、十分な分子量を有する熱可塑性樹脂である。
【0023】
ポリアミド樹脂(B)としては、例えば、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン6/6,6、ナイロン6/6,6/12、ナイロン6,MXD(MXDはm−キシリレンジアミン成分を表す)、ナイロン6,6T(Tはテレフタル酸成分を表す)、ナイロン6,6I(Iはイソフタル酸成分を表す)などが挙げられる。
【0024】
ジアミンとジカルボン酸の重縮合により得られるポリアミド樹脂(B)の場合、ジアミンの具体例としては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどの脂肪族および芳香族ジアミンが挙げられる。ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸、シュウ酸、シュウ酸エステル等の脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、吸水率が低いポリアミド樹脂が好ましく、吸水率が低いポリアミド樹脂は、湿潤環境における電気抵抗の安定性に優れる。ポリアミド樹脂の吸水率は、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。吸水率が1.5%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,10、ナイロン6,12などが挙げられ、吸水率が1.0%以下のポリアミド樹脂としては、ナイロン11、ナイロン12が挙げられる。なお、これらのポリアミドは単独、或いは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
導電性マスターバッチとブレンド用樹脂とを混合する方法としては、例えば、導電性マスターバッチと、ブレンド用樹脂及び必要に応じて用いられる添加剤とを配合してドライブレンドした後に溶融混練する方法、導電性マスターバッチを予め溶融混練し、ここに所定量のブレンド用樹脂を配合する方法、ブレンド用樹脂を予め溶融混練し、ここに所定量の導電性マスターバッチを配合する方法、導電性マスターバッチと、ブレンド用樹脂及び必要に応じて用いられる添加剤とを同時に押出機等に投入して溶融混練する方法等が挙げられる。
【0027】
溶融混練するための装置としては、バッチ式混練機、ニーダー、コニーダー、バンバリーミキサー、ロールミル、単軸もしくは二軸押出機等、公知の種々の押出機が挙げられる。これらの中でも、混練能力や生産性に優れる点から単軸押出機や二軸押出機が好ましく用いられる。
【0028】
溶融混練時の温度は、使用する樹脂の種類や溶融粘度等により適宜選択できるが、通常、165〜300℃の範囲であり、樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは170〜280℃である。
【0029】
次に、本発明の半導電性樹脂組成物について説明する。本発明の半導電性樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を55重量%〜80重量%と、ポリアミド樹脂(B)を11重量%〜35重量%と、カーボンブラック(C)を3重量%〜25重量%とを含有してなる。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)とカーボンブラック(C)との配合割合を上記範囲とすることにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂の優れた特性である難燃性を維持しつつも、半導電性領域の所望の電気抵抗を任意に調整でき、かつその電気抵抗の均一性が高い半導電性樹脂組成物とすることができる。
【0030】
ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の配合量は、57.5重量%〜77.5重量%であることが好ましく、60重量%〜75重量%であることがより好ましい。ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の配合量が55重量%未満であると、ポリフッ化ビニリデン樹脂の特性である難燃性を維持することができず、UL94VTM垂直燃焼試験においてVTM−0或いはVTM−1を達成できない。また、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の配合量が80重量%を超えると、電気抵抗の均一性が悪くなる恐れがある。
【0031】
ポリアミド樹脂(B)の配合量は、13重量%〜33重量%であることが好ましく、15重量%〜30重量%であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(B)の配合量が11重量%未満であると、電気抵抗の均一性が悪くなる恐れがある。また、ポリアミド樹脂(B)の配合量が35重量%を超えると、ポリフッ化ビニリデン樹脂の特性である難燃性を維持することができず、UL94VTM垂直燃焼試験においてVTM−0或いはVTM−1を達成できない。
【0032】
カーボンブラック(C)の配合量は、4重量%〜20重量%であることが好ましく、5〜15重量%であることがより好ましい。カーボンブラック(C)の配合量が3重量%未満であると、所望の電気抵抗を示す樹脂組成物が得られず好ましくない。カーボンブラック(C)の配合量が25重量%を超えると、溶融粘度が高くなり、押出が困難となる恐れがある。
【0033】
本発明の半導電性樹脂組成物は、必要に応じてその特性を損なわない範囲で他の樹脂や添加剤を配合しても良い。他の樹脂としては、セルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、各種エラストマー等が挙げられる。添加剤としては、イオン系伝導性材料、電子伝導性材料、相溶化剤、酸化防止剤、熱安定剤、有機フィラーや無機フィラー、アンチブロッキング剤、可塑剤、滑剤、耐候剤、キレート化剤、加工助剤、染料や顔料等の着色剤等が挙げられる。これらの樹脂や添加剤は、目的に応じて適量を使用することができる。
【0034】
[成形体及びその製造方法]
本発明の成形体は、上記本発明の製造方法によって得られた半導電性樹脂組成物を押出成形して得られるものである。押出成形法としては、従来公知の押出成型装置を用いることができる。成形体の形態としては、例えば、フィルム状、シート状、チューブ状、ベルト状、繊維状等が挙げられる。
【0035】
フィルム又はシート状の成形体を製造する場合、フラットダイを備えた押出成形法が好ましい。フラットダイを備えた押出成形法としては、例えば、押出機と、該押出機の下方に該押出機に連通してフラットダイが配設され、該フラットダイの下方には、該フラットダイから押し出される溶融樹脂を冷却するための冷却ロールとタッチロールとが配設された押出成形装置を用い、半導電性樹脂組成物を押出機に供給して、溶融・加圧された半導電性樹脂組成物をフラットダイの先端からフィルム状に押出し、冷却ロールにて冷却固化することでフィルム又はシート状の成形体とする方法が挙げられる。
【0036】
一方、チューブ状又はベルト状の成形体を製造する場合、インフレーション押出成形法が好ましい。インフレーション押出成形法としては、例えば、押出機と、該押出機の下方に該押出機に連通して環状ダイスが配置され、該環状ダイスの下方には、該環状ダイスから下向きに押し出される溶融樹脂をその外周に担持させて冷却固化するマンドレルが配設された押出成形装置を用い、半導電性樹脂組成物を押出機に供給して、溶融・加圧された半導電性樹脂組成物を環状ダイスからチューブ状に押出し、マンドレルの外周に担持させて冷却固化することによりチューブ状の成形体とする方法が挙げられる。また、その際、チューブ状の成形体を所望の幅に切断することでベルト状の成形体とすることができる。
【0037】
なお、これらの説明は単層に関するものであったが、2層の場合は更に別の押出機を配設し、2層用のダイスにそれぞれの押出機から溶融状態の組成物を供給し、ダイスから2層同時に押し出すことで得ることができる。また、3層以上の時は、層数に応じた押出機及びダイスを準備すれば良い。
【0038】
本発明の成形体は、自動車関連部品、OA機器部品、電子・電気部品、機械部品等の成形品、包装用フィルム、中空容器、パイプ、チューブ、ホース等の各種成形品、繊維等として好適に用いることができる。
【0039】
[電子写真用シームレスベルト]
上記の中でも、本発明の成形体は、電気抵抗の均一性に優れる為、特に電子写真用シームレスベルトとして好適に使用することができる。また、ここでいう電子写真用シームレスベルトとは、電子写真方式の画像形成装置に用いる転写搬送ベルトまたは中間転写ベルトである。本発明の電子写真用シームレスベルトは、上記本発明の製造方法によって得られた半導電性樹脂組成物を上述した押出成形法等によって得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について、実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において行った物性の測定方法は次の通りである。
(1)溶融粘度
長さ10mm×直径1mmのダイを取り付けた島津製作所製高化式フローテスターを用い、測定温度200℃、荷重100kgの条件にて溶融粘度を測定した。なお、その単位を(poise)として表した。
(2)電気抵抗(体積抵抗率)及び電気抵抗のバラつき
URSプローブを取り付けたハイレスタUP(MCP−HT450、ダイヤインスツルメンツ社製)を用い、460mm×400mmのサンプルをTD方向に23点、MD方向に2点の合計46点で体積抵抗率を測定した。上記46点の体積抵抗率の測定値の平均値を求め、それをサンプルの体積抵抗率とした。(測定条件:温度23℃、相対湿度50%RH、荷重2kg、印加電圧500V、10秒)また、体積抵抗率の測定値のバラつきを求め、以下の評価基準に基づき評価した。
○:体積抵抗率のバラつきが1.0桁以内
×:体積抵抗率のバラつきが1.0桁を超える
(3)難燃性
UL94VTM垂直燃焼試験に準拠して、厚み100〜150μmのフィルムで評価し、VTM−0、VTM−1、VTM−2、NOTVTM(試験に合格しない)の類別に分類した。
【0041】
原料としては、下記のものを用いた。
<ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)>
・ポリフッ化ビニリデン(A−1)[融点:168℃、溶融粘度:4500poise、製品名:KYNAR710、アルケマ社製]
・ポリフッ化ビニリデン(A−2)[融点:168℃、溶融粘度:22000poise、製品名:KYNAR740、アルケマ社製)]
<ポリアミド樹脂(B)>
・ナイロン12(B−1)[融点:176〜180℃、溶融粘度:5440poise]
・ナイロン12(B−2)[融点:176〜180℃、溶融粘度:1700poise]
<カーボンブラック(C)>
・カーボンブラック(C−1)[製品名:ENSACO 260G、ティムカル社製]
<添加剤>
・相溶化剤[主鎖:メタクリル酸メチル−グリシジルメタクリレート共重合体、側鎖:メタクリル酸メチル重合体、製品名:レゼタ GP−301、東亜合成社製]
・酸化防止剤[フェノール系化合物、製品名:IRGANOX1010、BASF社製]
【0042】
[導電性マスターバッチの調製]
ポリフッ化ビニリデン(A−1)75重量%とカーボンブラック(C−1)25重量%とをスクリュー径38φmm二軸混練押出機を用いて溶融混練し、カーボンブラック(C−1)25重量%の導電性マスターバッチを調製した。
【0043】
[コンパウンド1乃至12]
表1に示した配合割合となるよう、導電性マスターバッチと、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)と、ポリアミド樹脂(B)と、添加剤とをドライブレンドした後に、スクリュー径38φmm二軸混練押出機を用いて表1に示す条件にて溶融混練し、コンパウンドを得た。次いで、表2に示した配合割合となるよう、得られたコンパウンドを環状ダイス(リップ径50φmm)を備えた25φmm単軸押出機に供給し、溶融状態でチューブ状に押出すことで厚み100〜150μmのチューブ状の半導電性樹脂からなる成形体を得た。得られたチューブ状成形体の体積抵抗率、電気抵抗の均一性、難燃性の結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すように、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)を主成分として含むマスターバッチ用樹脂とカーボンブラック(C)とを混合して導電性マスターバッチを作製し、次いで導電性マスターバッチとポリアミド樹脂(B)を含むブレンド用樹脂とを混合した実施例1乃至9の半導電性樹脂組成物からなるチューブ状成形体は、優れた難燃性を示すとともに、半導電性領域の電気抵抗の均一性が高い結果を示した。また、これらのチューブ状成形体から厚さ2〜5μmに切出した試験片をデジタルマイクロスコープ(VHX−500、株式会社キーエンス社製)を用いて試験片断面を観察したところ、大部分のカーボンブラックはポリアミド樹脂中に移行していた。また、ポリアミド樹脂(B)の配合量が15重量%〜30重量%である実施例1乃至8の半導電性樹脂組成物からなるチューブ状成形体は、UL94VTM垂直燃焼試験において、VTM−0となる結果を示した。一方、ポリアミド樹脂(B)の配合量が、10重量%である比較例1の半導電性樹脂組成物からなるチューブ状成形体は、半導電性領域の電気抵抗のバラつきが1桁を超える結果を示した。また、ポリアミド樹脂(B)の配合量が、40重量%である比較例2の半導電性樹脂組成物からなるチューブ状成形体は、半導電性領域の電気抵抗の均一性が高い結果を示すものの、UL94VTM垂直燃焼試験において、NOTVTMとなる結果を示した。なお、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)及びカーボンブラック(C)のみからなる比較例3の樹脂組成物からなるチューブ状成形体は、体積抵抗率のバラつきが大きく、体積抵抗率を測定することができなかった。
【0047】
以上の如く、本発明によれば、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)とポリアミド樹脂(B)とカーボンブラック(C)とを含む半導電性樹脂組成物を製造するに際し、カーボンブラック(C)を分散したポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の導電性マスターバッチとポリアミド樹脂(B)とを混合することにより、ポリフッ化ビニリデン樹脂(A)の優れた特性である難燃性を維持しつつも、半導電性領域の電気抵抗の均一性の高い、所望の電気抵抗に調整することができ、該半導電性樹脂組成物は電子写真方式を用いた画像形成装置に用いる電子写真用シームレスベルト等に好適に使用することができる。