【実施例】
【0048】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0049】
【0050】
上記の、ホスフィン酸エステル構造を有し、且つ、2つの五員環環状カーボネート構造を有する環状カーボネートは、上記式に従って合成を行うことができる。出発物質である化合物の、10−(2’,5’−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドは、HCA−HQ(商品名、三光化学社製)として商業的に入手可能であり、エピクロロヒドリンも商業的に入手可能な一般物質である。
【0051】
<製造例1>[リン含有ジシクロカーボネート化合物(A)の合成]
撹拌機、炭酸ガス導入管、温度計及び冷却コンデンサーを備えたセパラブルフラスコに、(10−(2’,5’−ジグリシジルエーテルフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドを43.60部加える。そこにN−メチル−2−ピロリドン65.4部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)5部を加える。そして、攪拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃で24時間反応した。その後、反応液に130.8部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別、乾燥した。白色の粉末46.27部(収率88.3%)を得た。
【0052】
得られた化合物をIR(日本分光社製、商品名:FT/IR−350)にて分析したところ910cm
-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、HPLC(日本分光製、商品名:LC−2000)を用いた、カラム:FinePakSIL C18−T5で、移動相:アセトニトリル+水による条件での分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は93%であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、ホスフィン酸エステル構造を有し、且つ、2つの五員環環状カーボネート構造を有する下記式で表される構造の化合物と確認された。これを化合物(A)と略称した。この化合物(A)の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、16.8%であった(計算値)。なお、他の例におけるIR分析も同様の装置で測定した。
【0053】
【0054】
<製造例2>[ビスフェノールAジシクロカーボネート化合物(B)の合成]
エポキシ当量187のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYD−128、新日鐵住金化学社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)10部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。その後、反応液に300部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別、乾燥した。白色の粉末112.7部(収率89.5%)を得た。
【0055】
得られた化合物をIRにて分析したところ、910cm
-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、製造例1と同様の装置及び条件で、HPLCによる分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点の範囲は±5℃であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。これを化合物(B)と略称した。この化合物(B)の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)
【0056】
【0057】
<実施例1>[ポリヒドロキシウレタン樹脂(I)の合成]
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物(A)を26.2部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)5.8部、更に、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド32.0部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂(I)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、21000(ポリスチレン換算)であった。GPC測定は、東ソー製のGPC−8220(商品名)を用い、カラム:SuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000で行った。他の例も同様の装置及び条件で測定した。得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0058】
<実施例2>[ポリヒドロキシウレタン樹脂(II)の合成]
実施例1と同様の設備を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物(A)を26.2部、1,12−ドデカメチレンジアミン(小倉合成工業社製)10.0部、更に、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド36.2部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂(II)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、24000(ポリスチレン換算)であった。また、得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0059】
<実施例3>[ポリヒドロキシウレタン樹脂(III)の合成]
実施例1と同様の設備を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物(A)を13.1部、製造例2で得た化合物(B)を10.7部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)5.8部、更に、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド29.6部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂(III)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、22000(ポリスチレン換算)であった。得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0060】
<比較例1>[ポリヒドロキシウレタン樹脂(IV)の合成]
実施例1と同様の設備を備えた反応容器内に製造例2で得た化合物(B)を19.3部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)5.8部、更に、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド25.1部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂(IV)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、22000(ポリスチレン換算)であった。得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0061】
<比較例2>[ポリウレタン樹脂(V)の合成]
実施例1と同様の設備を備えた反応容器内に、10−(2’,5’−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(三光社製)32.4部、BA−2グリコール(日本乳化剤社製:ビスフェノールAのEO付加体)44.8部、ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成ケミカルズ社製)40.3部、更に反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド117.5部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、12時間反応を行い、固形分50%のポリウレタン樹脂(V)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、20000(ポリスチレン換算)であった。得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0062】
<実施例4>
実施例1のポリヒドロキシウレタン(I)の50%溶液を離型紙にキャストしてオーブンにて100℃で20分間、150℃で30分間加熱乾燥した。離型紙からフィルムを剥離して、厚み300μmのポリヒドロキシウレタン(I)のフィルムを得た。
【0063】
<実施例5>
実施例2のポリヒドロキシウレタン(II)の50%溶液に変更した以外は実施例4に準じて、厚み290μmポリヒドロキシウレタン(II)のフィルムを得た。
【0064】
<実施例6>
実施例3のポリヒドロキシウレタン(III)の50%溶液に変更した以外は実施例4に準じて、厚み300μmポリヒドロキシウレタン(III)のフィルムを得た。
【0065】
<実施例7>
実施例1のポリヒドロキシウレタン(I)の50%溶液100部に、架橋剤デュラネート24A−100(商品名、旭化成ケミカルズ製:NCO%=23.5、固形分100%)5部を添加し、均一に混合した配合液に変更した以外は、実施例4に準じて、厚み295μmポリヒドロキシウレタン(I)の架橋フィルムを得た。
【0066】
<実施例8>
実施例3のポリヒドロキシウレタン(III)の50%溶液に変更した以外は実施例7に準じて、厚み305μmポリヒドロキシウレタン(III)の架橋フィルムを得た。
【0067】
<比較例3>
比較例1のポリヒドロキシウレタン(IV)の50%溶液に変更した以外は実施例4に準じて、厚み305μmポリヒドロキシウレタン(IV)のフィルムを得た。
【0068】
<比較例4>
比較例1のポリヒドロキシウレタン(IV)の50%溶液に変更した以外は実施例7に準じて、厚み295μmポリヒドロキシウレタン(IV)の架橋フィルムを得た。
【0069】
<比較例5>
比較例2のポリウレタン(V)の50%溶液に変更した以外は実施例4に準じて、厚み300μmポリヒドロキシウレタン(V)のフィルムを得た。
【0070】
表1に実施例1〜3及び比較例1、2のポリヒドロキシウレタン樹脂とポリウレタン樹脂の組成と物性をまとめて示した。各物性は、それぞれ下記のようにして求めた。
【0071】
[リン含有量]
リン含有量は、それぞれの樹脂の化学構造中における原料のリンの質量%を算出して求めた。具体的には、使用した化合物に含まれるリンの理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例1の場合には、ポリヒドロキシウレタン樹脂の合成反応に使用した化合物(A)のリンの含有量は5.9%であるので、これより実施例1で得られる溶液の固形組成物中のリン濃度は(26.2部×5.9%)/32.0全量=4.8質量%となる。このようにして得られた計算結果を表1にまとめて示した。
【0072】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、使用したポリヒドロキシウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリヒドロキシウレタン樹脂の合成反応に使用した化合物(A)または(B)を合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例1の場合には、使用した化合物(A)の二酸化炭素由来の成分は16.8%であり、これより実施例1で得られる溶液の固形組成物中の二酸化炭素濃度は(26.2部×16.8%)/32.0全量=13.7質量%となる。このようにして得られた計算結果を表1にまとめて示した。
【0073】
[重量平均分子量]
N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定によりポリスチレン換算の重量平均分子量を算出した。具体的には、測定装置にGPC−8220(商品名、東ソー社製)を用い、カラム:SuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000で測定を行った。
【0074】
[水酸基価]
JISK0070に準拠した滴定法により水酸基価を測定し、樹脂1gあたりの水酸基の含有量をKOHのmg当量で表した。
【0075】
<評価>
実施例1〜3の各ポリヒドロキシウレタン樹脂と、ホスフィン酸エステル構造を有さない比較例1のポリヒドロキシウレタン樹脂と、比較例2の、リン分を含有するものの水酸基価がゼロであるポリウレタン樹脂をそれぞれに用いて得た、実施例4〜8、比較例3〜5で調製した各フィルムについて、下記の方法で評価した。
[破断強度]
JISK6251に準拠してフィルムの破断強度を測定した。具体的には、溶液を離型紙にキャストしてオーブンで乾燥することにより厚み約300μmのシートを作成し、得られたシートからJIS3号ダンベルを切り出し、オートグラフ(商品名:AGS−J、島津製作所社製)にて室温(23℃)で測定した。その値を表2中に示した。
【0076】
[難燃性:酸素指数]
JISK7201に準拠して酸素指数を測定した。具体的には、まず、液を離型紙にキャストしてオーブンで乾燥することにより厚み約300μmのシートを作成し、得られたシートから、長さ135mm、幅4mmの試験片を作成した。そして、調製した試験片を測定用の試料に用いて、燃焼性試験機(商品名:ON−1、スガ試験機社製)にて、試料の燃焼時間が180秒以上継続するか、或いは、接炎後の燃焼長さが50mm以上燃え続けるのに必要な最低の酸素濃度を測定した。その値を表2中に示した。本発明では、酸素指数OIの値が23.0以上である場合を良好な難燃性を示すと評価した。
【0077】
【0078】
表2から明らかなように、実施例に示した本発明のホスフィン酸エステル構造を含む難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、ホスフィン酸エステル構造を含まない比較例3及び4のポリヒドロキシウレタン樹脂と比較して、難燃性の指標である酸素指数が向上しており、優れた難燃性を有することが確認された。また、添加型の難燃剤とは異なり、相溶性や分散性による透明性の低下などがなく、透明性が必要な分野においても使用が可能である。
【0079】
更に、本発明の樹脂組成物の構成成分である環状カーボネート化合物は、化学構造の一部として二酸化炭素を高濃度で固定化していることより、得られた被膜(フィルム)も二酸化炭素を固定化した被膜であり、環境問題に対応する難燃性材料として工業的に有用であることが証明された。