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特開2017-132938難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂及び難燃性被膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-132938(P2017-132938A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂及び難燃性被膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 71/04 20060101AFI20170707BHJP
【FI】
   C08G71/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-15362(P2016-15362)
(22)【出願日】2016年1月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】花田 和行
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034SA02
4J034SB04
4J034SC07
4J034SD02
4J034SD10
(57)【要約】
【課題】難燃性を付与したことで生じる成分の染み出がなく、形成した製品に対して均一に且つ十分に難燃性機能を発揮し、所望する難燃性製品を安定して提供できる技術の開発。
【解決手段】2以上の五員環環状カーボネート基を有する化合物と、2以上のアミノ基を有する化合物の重付加反応により誘導された、その繰り返し単位の化学構造中に式(5)で示されるホスフィン酸エステル構造を少なくとも有する難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂、及び該樹脂で形成した難燃性被膜。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも二つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により誘導された、下記一般式(1)〜(4)で示される少なくとも一つを繰り返し単位の化学構造として有し、且つ、選択された繰り返し単位の化学構造中のXの少なくともいずれかが、前記二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物に由来する、下記一般式(5)で示されるホスフィン酸エステル構造をもつことを特徴とする難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂。
(式(1)〜(4)中のX、Yは、そのモノマー単位由来の、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素又は芳香族炭化水素を含んでなる化学構造を示し、該構造中には、リン原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでもよい。但し、Xは、下記一般式(5)で示される化学構造である場合がある。)
(ただし、一般式(5)中のnは0〜5のいずれかの整数であり、R1及びR2は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、R1とR2とが連結して環状構造をなしてもよい。R3は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。R1、R2及びR3は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子を含有していてもよい。)
【請求項2】
前記五員環環状カーボネート構造を有する化合物が、二酸化炭素とエポキシ化合物から合成されたものであり、且つ、該五員環環状カーボネート構造を有する化合物をモノマー単位として誘導された前記ポリヒドロキシウレタン樹脂の質量のうちの1〜30%が、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合で構成されており、且つ、水酸基価が13〜380mgKOH/gである請求項1に記載の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂。
【請求項3】
樹脂中におけるリンの含有量が0.5〜6.0質量%である請求項1又は2に記載の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂。
【請求項4】
前記二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物が、下記の化学式で示される化合物の少なくともいずれかである請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を必須成分として形成される被膜であり、該被膜に対するJISK7201に規格された燃焼試験における酸素指数OIの値が23.0以上であることを特徴とする難燃性被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂に関し、更に詳しくは、難燃剤を用いず、リンをポリヒドロキシウレタン樹脂の主鎖中に組み込むことにより構成される難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を提供する優れた技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製品に難燃性を付与する方法としては、デカブロモジフェニルエーテル等のハロゲン元素を含む化合物である難燃剤を用いることが知られている。しかしながら、樹脂製品に臭素原子や塩素原子を含むハロゲン系の難燃剤を使用すると、良好な難燃性が示されるが、燃焼時に腐食性のハロゲン水素やダイオキシンを発生する等の問題があり、主にその毒性が与える環境への影響を考慮して、非ハロゲン系の難燃剤を使用することが望まれている。
【0003】
これに対し、各種樹脂において、非ハロゲン系でリン系難燃剤を用いる試みがされている。リン酸エステル系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート等が挙げられる。リン系難燃剤を使用するにあたり、樹脂に添加または、含浸させて当該樹脂に難燃性を付与する方法が取られる。しかし、これらの化合物は比較的沸点が低いため、樹脂に配合して押出成形をして製品(成形物)とするときに揮発し、金型を汚染したり、成形物の表面に染み出たりして外観を損なうなどの欠点があった。この点を改善する方法として、特許文献1には、リン酸塩と多価アルコールが燃焼時に表面に炭化層を形成し、分解による燃焼ガスと伝熱を抑制するシステム(Intumescent)による樹脂組成物が開示されている。
【0004】
ここで、難燃剤には、添加型難燃剤と、樹脂を合成する際に樹脂成分と反応させて樹脂中に共重合することが可能である反応型難燃剤がある。特に反応型難燃剤は、燃焼時の熱によっても樹脂中に共重合された難燃剤成分が容易には揮発せず、安定した難燃性が示されやすいという利点を有する。そのため、リン系難燃剤を使用する場合には、反応型難燃剤を用い、樹脂中に共重合することによって、当該樹脂に難燃性を付与することが望ましい。
【0005】
また、非ハロゲン系であって、反応型の難燃剤を用いた例として、例えば、特許文献2には、スチレン系ゴム強化樹脂に対して、含リンエポキシ系難燃剤及びそれ以外のリン系難燃剤を併用した難燃性熱可塑性樹脂組成物についての提案がある。
【0006】
また、別の例として、特許文献3では、難燃性熱可塑性樹脂組成物及びその成形体についての提案がされている。具体的には、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体等である樹脂を含有する樹脂組成物に、リン系難燃剤としてホスフィン酸及び/又はホスフィン酸誘導体の金属塩、及びリン酸と含窒素化合物の塩からなる群から選ばれる少なくとも1つを用いた難燃性熱可塑性樹脂を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−26935号公報
【特許文献2】特開2009−67996号公報
【特許文献3】特開2007−197489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている、リン酸塩と多価アルコールが燃焼時に表面に炭化層を形成し、分解による燃焼ガスと伝熱を抑制するシステムでは、下記の課題がある。すなわち、本発明者らの検討によれば、上記したリン酸塩と多価アルコールが燃焼時に表面に炭化層を形成するシステムは、優れた難燃性を示すが、この技術で使用するペンタエリスリトールなどの多価アルコールは親水性の低分子であるため、高湿度の環境下で、成形物の表面に染み出るといった問題がある。また、上記した反応型の難燃剤を用いた従来技術では、樹脂組成物を製品にする成形加工時に難燃剤を反応させているため、相溶性や溶解性などにより難燃剤が不均一になり、添加した難燃剤にみあった十分な難燃効果が得られる製品とならないという課題があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、難燃性を付与したことによって生じる成分の染み出しの問題がなく、使用した難燃剤が、製品に対して均一に且つ十分に機能を発揮し、所望する難燃性の製品を安定して提供できる技術を開発することにある。本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決するためには、従来技術のように、樹脂組成物を製品にする成形時に反応型難燃剤を組み込むのではなく、樹脂を合成するときに、リン系難燃剤構造を反応により共重合体中に組み入れることができれば極めて有用であると考え、これを実現できる技術の提供を本発明の目的とした。より具体的には、本発明の目的は、形成した樹脂製品が、均一に且つ十分に難燃性機能を発揮するものとなり、所望する難燃性を実現でき、難燃性を付与したことによる成分の染み出しの問題もない製品を安定して提供することを可能にする、樹脂難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくとも二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも二つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により誘導された、下記一般式(1)〜(4)で示される少なくとも一つを繰り返し単位の化学構造として有し、且つ、選択された繰り返し単位の化学構造中のXの少なくともいずれかが、前記二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物に由来する、下記一般式(5)で示されるホスフィン酸エステル構造をもつことを特徴とする難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を提供する。
(式(1)〜(4)中のX、Yは、そのモノマー単位由来の、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素又は芳香族炭化水素を含んでなる化学構造を示し、該構造中には、リン原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでもよい。但し、Xは、下記一般式(5)で示される化学構造である場合がある。)
(ただし、式(5)中のnは0〜5のいずれかの整数であり、R1及びR2は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、R1とR2とが連結して環状構造をなしてもよい。R3は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。R1、R2及びR3は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子を含有していてもよい。)
【0011】
本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂の好ましい形態としては、前記五員環環状カーボネート構造を有する化合物が、二酸化炭素とエポキシ化合物から合成されたものであり、且つ、該五員環環状カーボネート構造を有する化合物をモノマー単位として誘導された前記ポリヒドロキシウレタン樹脂の質量のうちの1〜30%が、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合で構成されており、且つ、水酸基価が13〜380mgKOH/gであること;樹脂中におけるリンの含有量が0.5〜6.0質量%であることが挙げられる。
【0012】
本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂の好ましい形態としては、前記二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物が、下記の化学式で示される化合物の少なくともいずれかであることが挙げられる。
【0013】
また、本発明は、別の実施形態として、上記いずれかの難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を必須成分として形成される被膜であり、該被膜に対するJISK7201に規格された燃焼試験における酸素指数OIの値が23.0以上であることを特徴とする難燃性被膜を提供する。
【0014】
上記において、「少なくとも二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも二つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により誘導された」とした規定、「五員環環状カーボネート構造を有する化合物をモノマー単位として誘導されたポリヒドロキシウレタン樹脂」とした規定には、下記に述べる通り、いずれも、その生成物が複雑で多種多様な構造を有するポリマーであり、その物を構造又は特性により直接特定することが不可能又は非実際的であるという事情がある。後述するように、この重付加反応により得られる高分子樹脂は、前述の一般式(1)〜(4)の4種類の化学構造が生じ得、これらはランダム位に存在すると考えられるため、誘導されるポリヒドロキシウレタン樹脂の構造は複雑になりすぎて、上記で構造を規定する一般式(1)〜(4)によっても構造を特定しきれているとは言い難く、特定の2種の化合物を重付加反応してなるとするポリマーを得るためのプロセスによって特定せざるを得ない。
【0015】
また、「五員環環状カーボネート構造を有する化合物が、二酸化炭素とエポキシ化合物から合成されたもの」とした規定には、下記に述べる通り、その物を構造又は特性により直接特定することが不可能又は非実際的であるという事情がある。上記したように、五員環環状カーボネート構造を有する化合物を原料として重付加反応により誘導されたポリヒドロキシウレタン樹脂は、複雑で多種多様な構造を有しており、後述するように、重付加反応に用いる五員環環状カーボネート構造を有する化合物の原料に用いた二酸化炭素は、この複雑で多種多様な構造中に組み込まれることになる。この複雑なポリマー構造中に組み込まれた二酸化炭素について規定する方法としては、「二酸化炭素とエポキシ化合物から合成された」とするモノマー単位を得るためのプロセスによる以外、特定することができない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、形成した樹脂製品が、均一に且つ十分に難燃性機能を発揮するものとなり、所望する難燃性を実現でき、難燃性を付与したことによる成分の染み出しの問題もない製品を安定して提供することを可能にする、難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂が提供される。本発明の難燃性ヒドロキシポリウレタン樹脂は、リンを含有する、少なくとも二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物とアミンの重合によって誘導されたものであるため、ポリヒドロキシウレタンの構造中に、リン系難燃剤構造が組み込まれ、その結果、得られた樹脂を用いて形成された製品は良好な難燃性を発揮するものになる。具体的には、本発明の難燃性ヒドロキシポリウレタン樹脂は、難燃性のウレタンフィルム、接着剤、シーラント及び塗料等として用いることが可能であり、広範な利用が期待できる。また、本発明の難燃性ヒドロキシポリウレタン樹脂は、難燃性を付与する化合物として、非ハロゲン系のリン化合物を使用しているため、従来のハロゲン含有難燃化合物を用いて製造された難燃性樹脂と比較し、環境問題への配慮がなされている。更に、樹脂の原材料として二酸化炭素を利用することができることから、地球規模で問題とされる温暖化対策として有用な、省資源、環境保護に資する技術の提供を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明者らは、先述したように、難燃性の樹脂製品を得る場合に、従来技術で行われている樹脂組成物を製品にする成形時に反応型難燃剤を組み込むのに対し、樹脂を合成するときに、リン系難燃剤構造を反応により共重合体中に組み入れることができれば極めて有用であるとの認識の下、開発を行った。そして、フィルム、接着剤、シーラント及び塗料等として広く用いられているポリウレタン樹脂、中でも、従来のポリオールとポリイソシアネートとの反応物でなく、環境問題に配慮した、環状カーボネート化合物とジアミン化合物からなるポリヒドロキシウレタン樹脂の利用を促進すべく、鋭意検討を行い、有用な難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を見出して本発明に至った。
【0018】
すなわち、本発明では、少なくとも二つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物(以下、環状カーボネート化合物或いはポリ環状カーボネート化合物とも呼ぶ)と、少なくとも二つのアミノ基を有する化合物の反応により誘導されたポリヒドロキシウレタン樹脂の主鎖中に、リン系難燃剤構造を反応により組み込み、ポリヒドロキシウレタン樹脂に難燃性を均一に付与することを実現した。本発明では、予め、難燃性を示すリンを含む構造を有する環状カーボネート化合物を調製し、これを用いることで、上記の構成及び効果を達成した。具体的には、本発明者らは、予め、後述するようなホスフィン酸エステル構造を有する環状カーボネート化合物を合成し、この環状カーボネート化合物を用い、アミン化合物と反応させて、ポリヒドロキシウレタン樹脂を製造することを検討した結果、本発明の目的を達成できる有用な難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂とできることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、分子中にリンを含有する五員環環状カーボネート化合物とアミン化合物との重付加反応によって得られる、優れた特性の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を提供する技術に関する。
【0019】
本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂によって良好な難燃性が実現されるが、本発明者らは、その理由を下記のように考えている。本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を構成するホスフィン酸エステルと多価アルコール化合物が燃焼時に炭化層を形成し、この炭化層が断熱層の役割をして、燃焼の継続を防ぎ、これによって良好な難燃性が示す機構であると考えている。本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、水酸基を有している特徴があり、また、その構造中にホスフィン酸エステル構造を含むことから、燃焼時に効率よく炭化層を形成し、燃焼を継続することを防ぐことを達成できたものと推定している。
【0020】
なお、本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、リン化合物が組み込まれた環状カーボネート化合物から製造され、難燃性が付与されているポリヒドロキシウレタン樹脂であれば、熱可塑性であるか熱硬化性であるかは問わない。したがって、本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を必須成分とする被膜は、例えば、ウレタン系の、フィルム、接着剤、シーラント及び塗料等のいずれであってもよい。すなわち、本発明は、ポリヒドロキシウレタン樹脂の基本組成が、少なくとも二つの五員環環状カーボネート構造を有するポリ環状カーボネート化合物と、ポリアミンとから誘導されてなり、そのうちポリ環状カーボネート化合物として、特定のリン含有環状カーボネートが全量若しくは一部を構成すればよく、それ以外の環状カーボネート化合物及びポリアミンについては、従来公知のものが適宜選択されてなる難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂である。
【0021】
本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、例えば、二酸化炭素を原材料の一つに用いて製造された、1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネート(環状カーボネート)を有する化合物と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物とをモノマー単位とし、これらを重付加反応することによって得られる。高分子鎖を構成する環状カーボネートとアミンとの反応においては、下記に示すように環状カーボネートの開裂が2種類あるため、2種類の構造の生成物が得られることが知られている。
【0022】
【0023】
従って、重付加反応により得られる高分子樹脂は、前述の式(1)〜(4)の4種類の化学構造が生じ、これらはランダム位に存在すると考えられる。
【0024】
【0025】
このように、ポリヒドロキシウレタン樹脂は、主鎖にウレタン結合と水酸基を有した化学構造を持つことが特徴である。これに対し、従来から工業利用されているポリウレタン樹脂の製法であるイソシアネート化合物とポリオール化合物との付加反応で、主鎖に水酸基を有することは不可能であり、上記構造を有するポリヒドロキシウレタンは、従来のポリウレタン樹脂とは明確に区別される構造を持った樹脂である。
【0026】
本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、環状カーボネート化合物とアミン化合物から得られるが、ここで使用する環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましい。すなわち、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂は、下記の反応によって得られる環状カーボネート化合物を原料として用いたものであることが好ましい。具体的には、下記の反応は、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させることで、二酸化炭素をエステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0027】
【0028】
上記のようにして二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を使用することによって、得られたヒドロキシウレタン化合物は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のヒドロキシウレタン化合物中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよい。例えば、上記した環状カーボネート化合物を用いることで、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に1〜30質量%の範囲で、二酸化炭素を含有させることができる。
【0029】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0030】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであれば使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が、好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0031】
本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を得る際に好適に使用される、少なくとも2個の五員環環状カーボネート基を有するホスフィン酸エステル化合物としては、例えば、一般式(6)に示される新規な化合物が挙げられる。
【0032】
(ただし、一般式(6)中のnは0〜5のいずれかの整数であり、R1及びR2は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であり、R1とR2とが連結して環状構造をなしてもよい。R3は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。R1、R2及びR3は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子又はリン原子を含有していてもよい。)
【0033】
以下に、前記一般式(6)に示される新規な化合物について説明する。例えば、リンを含有する置換基Rを有するヒドロキノン誘導体を出発原料にして、以下の式に示される反応により、相当する環状カーボネート化合物を得ることができる。nは、ヒドロキノン誘導体とエピクロロヒドリンの反応量比を調節することにより、0以上の整数である任意のエポキシ化合物を得ることができる。反応式中のPRは、ホスフィン酸エステル構造を有する炭化水素を示す。エポキシ化合物から二酸化炭素を反応させて相当する環状カーボネート化合物を得る方法は、前述したとおりである。
【0034】
【0035】
本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を得る際に好適に使用される、一般式(6)に示される、少なくとも2個の五員環環状カーボネート基を有するホスフィン酸エステル化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0036】
【0037】
本発明に使用される1分子中に少なくとも2個以上の5員環環状カーボネート構造を有する化合物の構造には、ホスフィン酸エステル構造を有するものを少なくとも一部に使用すること以外は特に制限がなく、1分子中に2個以上の5員環環状カーボネート基を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれの環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物を例示する。
【0038】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものとして以下の化合物が例示される。以下の式中のRはHまたはCH3を表す。また、式中のPRは、ホスフィン酸エステル構造を有する炭化水素を示す。
【0039】
【0040】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネートとして以下の化合物が例示される。以下の式中のRは、H又はCH3を表す。
【0041】
本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造において、上記に列挙したような環状カーボネート化合物との反応に使用する1分子中に少なくとも2つ以上のアミノ基を有する化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとして、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0042】
上記のようにして得られた本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、樹脂中におけるリンの含有量が0.5〜6.0質量%となるものであることが好ましい。すなわち0.5質量%未満ではポリヒドロキシウレタン中のホスフィン酸エステルセグメントと水酸基が燃焼時に効率よくチャーを生成できず、難燃性が不十分となるので好ましくない。また、6質量%を超えると物性が脆くなったり、溶融温度が高くなり、或いは溶剤への溶解性も低下するなど加工性が低下するので好ましくない。
【0043】
本発明の樹脂は、その重量平均分子量(GPC測定、ポリスチレン換算)が2000〜10000程度であることが好ましい。更には、5000〜70000程度のものがより好ましい。
【0044】
本発明の樹脂の水酸基価は、13〜380mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が上記範囲未満であると、二酸化炭素削減効果が十分に得られるとは言いにくく、また、断熱層を形成するチャーの生成しにくくなるので好ましくない。一方、上記範囲を超えると高分子材料としての加工適正が悪くなるので好ましくない。
【0045】
本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、そのままで使用することができる。しかし、燃焼時の熱により溶融し、断熱層を形成している部分の一部がドリップすることがあり、ドリップにより延焼に繋がることがあるので架橋剤を用いて架橋樹脂として使用することによりドリップを防止することができる。この際に使用可能な架橋剤としては、樹脂構造中の水酸基と反応するような架橋剤はすべて使用できる。例えば、アルキルチタネート化合物やポリイソシアネート化合物が挙げられる。従来、ポリウレタン樹脂の架橋に使用されている公知のポリイソシアネートが好ましいが限定されない。
【0046】
また、本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、各種樹脂と混合して使用することもできる。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、アルキッド樹脂、変性セルロース樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂などを使用することができる。
【0047】
以上のごとく本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、各種成形材料、合成皮革や人工皮革材料、繊維コーティング材、表面処理材、塗料などのバインダーなどとして、非常に有効であり、その活用が期待される。
【実施例】
【0048】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0049】
【0050】
上記の、ホスフィン酸エステル構造を有し、且つ、2つの五員環環状カーボネート構造を有する環状カーボネートは、上記式に従って合成を行うことができる。出発物質である化合物の、10−(2’,5’−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドは、HCA−HQ(商品名、三光化学社製)として商業的に入手可能であり、エピクロロヒドリンも商業的に入手可能な一般物質である。
【0051】
<製造例1>[リン含有ジシクロカーボネート化合物(A)の合成]
撹拌機、炭酸ガス導入管、温度計及び冷却コンデンサーを備えたセパラブルフラスコに、(10−(2’,5’−ジグリシジルエーテルフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドを43.60部加える。そこにN−メチル−2−ピロリドン65.4部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)5部を加える。そして、攪拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃で24時間反応した。その後、反応液に130.8部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別、乾燥した。白色の粉末46.27部(収率88.3%)を得た。
【0052】
得られた化合物をIR(日本分光社製、商品名:FT/IR−350)にて分析したところ910cm-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、HPLC(日本分光製、商品名:LC−2000)を用いた、カラム:FinePakSIL C18−T5で、移動相:アセトニトリル+水による条件での分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は93%であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、ホスフィン酸エステル構造を有し、且つ、2つの五員環環状カーボネート構造を有する下記式で表される構造の化合物と確認された。これを化合物(A)と略称した。この化合物(A)の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、16.8%であった(計算値)。なお、他の例におけるIR分析も同様の装置で測定した。
【0053】
【0054】
<製造例2>[ビスフェノールAジシクロカーボネート化合物(B)の合成]
エポキシ当量187のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポトートYD−128、新日鐵住金化学社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)10部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。その後、反応液に300部の水を加え、生成物を析出させ、ろ別、乾燥した。白色の粉末112.7部(収率89.5%)を得た。
【0055】
得られた化合物をIRにて分析したところ、910cm-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、製造例1と同様の装置及び条件で、HPLCによる分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点の範囲は±5℃であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。これを化合物(B)と略称した。この化合物(B)の化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)
【0056】
【0057】
<実施例1>[ポリヒドロキシウレタン樹脂(I)の合成]
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物(A)を26.2部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)5.8部、更に、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド32.0部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂(I)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、21000(ポリスチレン換算)であった。GPC測定は、東ソー製のGPC−8220(商品名)を用い、カラム:SuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000で行った。他の例も同様の装置及び条件で測定した。得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0058】
<実施例2>[ポリヒドロキシウレタン樹脂(II)の合成]
実施例1と同様の設備を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物(A)を26.2部、1,12−ドデカメチレンジアミン(小倉合成工業社製)10.0部、更に、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド36.2部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂(II)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、24000(ポリスチレン換算)であった。また、得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0059】
<実施例3>[ポリヒドロキシウレタン樹脂(III)の合成]
実施例1と同様の設備を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物(A)を13.1部、製造例2で得た化合物(B)を10.7部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)5.8部、更に、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド29.6部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂(III)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、22000(ポリスチレン換算)であった。得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0060】
<比較例1>[ポリヒドロキシウレタン樹脂(IV)の合成]
実施例1と同様の設備を備えた反応容器内に製造例2で得た化合物(B)を19.3部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)5.8部、更に、反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド25.1部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂(IV)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、22000(ポリスチレン換算)であった。得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリヒドロキシウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0061】
<比較例2>[ポリウレタン樹脂(V)の合成]
実施例1と同様の設備を備えた反応容器内に、10−(2’,5’−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(三光社製)32.4部、BA−2グリコール(日本乳化剤社製:ビスフェノールAのEO付加体)44.8部、ヘキサメチレンジイソシアネート(旭化成ケミカルズ社製)40.3部、更に反応溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド117.5部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、12時間反応を行い、固形分50%のポリウレタン樹脂(V)溶液を得た。該樹脂の、N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、20000(ポリスチレン換算)であった。得られた樹脂をIRにて分析したところ、1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。意図した構造のポリウレタン樹脂が合成できていることが確認できた。
【0062】
<実施例4>
実施例1のポリヒドロキシウレタン(I)の50%溶液を離型紙にキャストしてオーブンにて100℃で20分間、150℃で30分間加熱乾燥した。離型紙からフィルムを剥離して、厚み300μmのポリヒドロキシウレタン(I)のフィルムを得た。
【0063】
<実施例5>
実施例2のポリヒドロキシウレタン(II)の50%溶液に変更した以外は実施例4に準じて、厚み290μmポリヒドロキシウレタン(II)のフィルムを得た。
【0064】
<実施例6>
実施例3のポリヒドロキシウレタン(III)の50%溶液に変更した以外は実施例4に準じて、厚み300μmポリヒドロキシウレタン(III)のフィルムを得た。
【0065】
<実施例7>
実施例1のポリヒドロキシウレタン(I)の50%溶液100部に、架橋剤デュラネート24A−100(商品名、旭化成ケミカルズ製:NCO%=23.5、固形分100%)5部を添加し、均一に混合した配合液に変更した以外は、実施例4に準じて、厚み295μmポリヒドロキシウレタン(I)の架橋フィルムを得た。
【0066】
<実施例8>
実施例3のポリヒドロキシウレタン(III)の50%溶液に変更した以外は実施例7に準じて、厚み305μmポリヒドロキシウレタン(III)の架橋フィルムを得た。
【0067】
<比較例3>
比較例1のポリヒドロキシウレタン(IV)の50%溶液に変更した以外は実施例4に準じて、厚み305μmポリヒドロキシウレタン(IV)のフィルムを得た。
【0068】
<比較例4>
比較例1のポリヒドロキシウレタン(IV)の50%溶液に変更した以外は実施例7に準じて、厚み295μmポリヒドロキシウレタン(IV)の架橋フィルムを得た。
【0069】
<比較例5>
比較例2のポリウレタン(V)の50%溶液に変更した以外は実施例4に準じて、厚み300μmポリヒドロキシウレタン(V)のフィルムを得た。
【0070】
表1に実施例1〜3及び比較例1、2のポリヒドロキシウレタン樹脂とポリウレタン樹脂の組成と物性をまとめて示した。各物性は、それぞれ下記のようにして求めた。
【0071】
[リン含有量]
リン含有量は、それぞれの樹脂の化学構造中における原料のリンの質量%を算出して求めた。具体的には、使用した化合物に含まれるリンの理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例1の場合には、ポリヒドロキシウレタン樹脂の合成反応に使用した化合物(A)のリンの含有量は5.9%であるので、これより実施例1で得られる溶液の固形組成物中のリン濃度は(26.2部×5.9%)/32.0全量=4.8質量%となる。このようにして得られた計算結果を表1にまとめて示した。
【0072】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、使用したポリヒドロキシウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリヒドロキシウレタン樹脂の合成反応に使用した化合物(A)または(B)を合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例1の場合には、使用した化合物(A)の二酸化炭素由来の成分は16.8%であり、これより実施例1で得られる溶液の固形組成物中の二酸化炭素濃度は(26.2部×16.8%)/32.0全量=13.7質量%となる。このようにして得られた計算結果を表1にまとめて示した。
【0073】
[重量平均分子量]
N,N−ジメチルホルムアミドを移動相としたGPC測定によりポリスチレン換算の重量平均分子量を算出した。具体的には、測定装置にGPC−8220(商品名、東ソー社製)を用い、カラム:SuperAW2500+AW3000+AW4000+AW5000で測定を行った。
【0074】
[水酸基価]
JISK0070に準拠した滴定法により水酸基価を測定し、樹脂1gあたりの水酸基の含有量をKOHのmg当量で表した。
【0075】
<評価>
実施例1〜3の各ポリヒドロキシウレタン樹脂と、ホスフィン酸エステル構造を有さない比較例1のポリヒドロキシウレタン樹脂と、比較例2の、リン分を含有するものの水酸基価がゼロであるポリウレタン樹脂をそれぞれに用いて得た、実施例4〜8、比較例3〜5で調製した各フィルムについて、下記の方法で評価した。
[破断強度]
JISK6251に準拠してフィルムの破断強度を測定した。具体的には、溶液を離型紙にキャストしてオーブンで乾燥することにより厚み約300μmのシートを作成し、得られたシートからJIS3号ダンベルを切り出し、オートグラフ(商品名:AGS−J、島津製作所社製)にて室温(23℃)で測定した。その値を表2中に示した。
【0076】
[難燃性:酸素指数]
JISK7201に準拠して酸素指数を測定した。具体的には、まず、液を離型紙にキャストしてオーブンで乾燥することにより厚み約300μmのシートを作成し、得られたシートから、長さ135mm、幅4mmの試験片を作成した。そして、調製した試験片を測定用の試料に用いて、燃焼性試験機(商品名:ON−1、スガ試験機社製)にて、試料の燃焼時間が180秒以上継続するか、或いは、接炎後の燃焼長さが50mm以上燃え続けるのに必要な最低の酸素濃度を測定した。その値を表2中に示した。本発明では、酸素指数OIの値が23.0以上である場合を良好な難燃性を示すと評価した。
【0077】
【0078】
表2から明らかなように、実施例に示した本発明のホスフィン酸エステル構造を含む難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、ホスフィン酸エステル構造を含まない比較例3及び4のポリヒドロキシウレタン樹脂と比較して、難燃性の指標である酸素指数が向上しており、優れた難燃性を有することが確認された。また、添加型の難燃剤とは異なり、相溶性や分散性による透明性の低下などがなく、透明性が必要な分野においても使用が可能である。
【0079】
更に、本発明の樹脂組成物の構成成分である環状カーボネート化合物は、化学構造の一部として二酸化炭素を高濃度で固定化していることより、得られた被膜(フィルム)も二酸化炭素を固定化した被膜であり、環境問題に対応する難燃性材料として工業的に有用であることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂の特徴である水酸基を分子中に有することに着目し、リン系難燃剤として機能し得るホスフィン酸エステル構造をポリヒドロキシウレタン中に組み込むことにより、高い難燃性を有した難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂を得ることができ、その実用性がより向上したものになる。また、得られた樹脂溶液は、従来のポリヒドロキシウレタン樹脂溶液と同様に、塗布、加熱乾燥により容易にフィルム形成が可能であり、更に、溶剤を除去した100%樹脂は、熱溶融による成形も可能である。上記に加えて、本発明の難燃性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、原材料として二酸化炭素を成分とすることから、地球環境保護の面からもその利用が期待される技術である。