特開2017-133045(P2017-133045A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人電気通信大学の特許一覧 ▶ 株式会社キャンパスクリエイトの特許一覧

<>
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000012
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000013
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000014
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000015
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000016
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000017
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000018
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000019
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000020
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000021
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000022
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000023
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000024
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000025
  • 特開2017133045-マグネシウムの回収方法 図000026
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-133045(P2017-133045A)
(43)【公開日】2017年8月3日
(54)【発明の名称】マグネシウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/22 20060101AFI20170707BHJP
   C22B 7/04 20060101ALI20170707BHJP
   C22B 5/16 20060101ALI20170707BHJP
【FI】
   C22B26/22
   C22B7/04 A
   C22B5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-11480(P2016-11480)
(22)【出願日】2016年1月25日
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(71)【出願人】
【識別番号】803000045
【氏名又は名称】株式会社キャンパスクリエイト
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝己
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA38
4K001BA04
4K001BA05
4K001BA12
4K001DA07
4K001HA10
4K001HA11
(57)【要約】
【課題】比較的低いコストでマグネシウムを回収することを可能にする、マグネシウムの回収方法を提供する。
【解決手段】マグネシウムを含む原料と有機物を混合して、混合物を得て、その後、混合物を、不活性ガス雰囲気中、300℃〜1300℃の範囲内の温度で加熱することにより、原料中のマグネシウムを蒸発させ、蒸発したマグネシウムを、冷却して固体化させて回収する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含む原料からマグネシウムを回収する方法であって、
マグネシウムを含む原料と有機物を混合して、混合物を得て、
その後、前記混合物を、不活性ガス雰囲気中、300℃〜1300℃の範囲内の温度で加熱することにより、前記原料中のマグネシウムを蒸発させ、
蒸発したマグネシウムを、冷却して固体化させて回収する
マグネシウムの回収方法。
【請求項2】
前記原料としてグリーンサンドを使用する、請求項1に記載のマグネシウムの回収方法。
【請求項3】
前記混合物を加熱する温度を900℃〜1200℃の範囲内とする、請求項1または請求項2に記載のマグネシウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムの回収方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは、優れた性質を持つ金属であり、合金等にも多く利用されている。
【0003】
マグネシウムの優れた性質としては、例えば、以下の性質が挙げられる。
(1)金属の中で最も軽い。比重は1.8であり、Alの2/3、Tiの1/3、Feの1/4である。
(2)比強度が高く、薄肉でも高強度である。そのため、要求強度に対し部品の薄肉化、軽量化が可能になる。
(3)熱伝導性は150mW/mkと良好で、放熱性が良好である。
(4)30〜200MHz域で90〜100dBの安定した電磁シールド効果を有する。
(5)再生エネルギーは製造時の5%でAlの3%に次ぎ、リサイクル性が高い。
(6)比熱が小さく、寸法安定性が良好である。
(7)振動吸収に優れ、騒音を減衰できる。振動吸収により製品寿命を長くすることが可能になる。
(8)加工硬化率が高いため、変形抵抗が高く、衝撃に対してへこみにくい。
(9)機械加工や切削加工が容易である。そのため、加工時間の短縮や加工費の低減が可能になる。
(10)クラーク数が8番目に大きく、地殻にも海水にも豊富に含まれる。
【0004】
マグネシウムの需要量は近年増加してきており、需要量のうちAlを主体とした合金添加材への用途が40%程度を占めている。今後は、自動車用ダイカストを始めとした構造材への需要拡大が予想される。
【0005】
マグネシウムの精錬方法としては、溶融塩電解法と熱還元法が行われている。
【0006】
溶融塩電解法としては、IG法(Alcan法)やDow法が挙げられる。
IG法(Alcan法)は、MgCOからMgOを製造し、MgOから無水MgClを製造し、NaCl−KCl−CaCl+無水MgClを電解する。
Dow法は、海水に石灰乳を加えてMg(OH)を沈殿・濾過後、HClを加えて加熱・脱水によりMgCl・1.25HOを製造し、それを黒鉛陽極と銅陰極間で電解する。
【0007】
熱還元法は、ドロマイト鉱石を1270K以上に加熱し、珪素鉄(Fe−(75−80%)Si)で還元する。
具体的には、外熱法(ピジョン法)や内熱式(スラグ利用内熱炉)が挙げられる。
外熱法(ピジョン法)は、円筒レトルト内に原料を挿入し、外部加熱で還元し、レトルト内の水冷コンデンサーでMgを凝縮する。
内熱式(スラグ利用内熱炉)は、Alを原料に添加して、低融点スラグを生成させ、スラグを1773K以上に加熱し還元する。
【0008】
また、海水を原料として使用して、イオン交換によりマグネシウム等を回収する方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−213767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
溶融塩電解法は、エネルギーとしての電気代が高くなり、電解に使用する炭素電極や塩素も比較的高価であるため、現在ではほとんど採用されていない。
ピジョン法は、石炭を使用した高温加熱法であるため、加熱のコストが大きくなる。また、石炭を燃焼することによる、大量のCOの発生が問題となる。
【0011】
また、特許文献1で提案されたイオン交換による回収方法は、塩化物や水酸化物としてマグネシウムを回収するので、マグネシウム金属を利用するには、さらに塩化物や水酸化物を金属に変える必要がある。
【0012】
上述した問題の解決のために、本発明においては、比較的低いコストでマグネシウムを回収することを可能にする、マグネシウムの回収方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のマグネシウムの回収方法は、マグネシウムを含む原料からマグネシウムを回収する方法であって、マグネシウムを含む原料と有機物を混合して、混合物を得て、その後、混合物を不活性ガス雰囲気中で300℃〜1300℃で加熱することにより、原料中のマグネシウムを蒸発させ、蒸発したマグネシウムを冷却して固体化させて回収する。
【発明の効果】
【0014】
上述の本発明によれば、還元剤として安価な有機物を使用しており、還元剤のコストを低減することができる。また、有機物中の炭素や水素等の還元作用によって、従来の熱還元法よりも低い温度の加熱でマグネシウムを蒸発させて回収することが可能になる。
これにより、比較的低いコストで、マグネシウムを回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のマグネシウムの回収方法を説明するフローチャートである。
図2】本発明の回収方法に用いる回収装置の一形態の概略構成図(断面図)である。
図3】グリーンサンドをXPSで測定して得られたXPSスペクトルである。
図4】A〜D 図3のXPSスペクトルの一部の領域のスペクトルである。
図5】E〜H 図3のXPSスペクトルの一部の領域のスペクトルである。
図6】グラファイトを還元剤に用いた場合のMg/Si比と温度の関係を示す図である。
図7】コーヒー殻を還元剤に用いた場合のMg/Si比と温度の関係を示す図である。
図8】茶殻を還元剤に用いた場合のMg/Si比と温度の関係を示す図である。
図9】表4の「*1000」と記載した試料におけるSi2pスペクトルである。
図10】キャベツの芯を還元剤に用いた場合のMg/Si比と温度の関係を示す図である。
図11】コーヒー殻、茶殻、キャベツの芯、グラファイトをそれぞれ還元剤に用いた場合のXPSで測定されるMg/Siの変化を纏めて示した図である。
図12図11から求めたMg回収率と温度の関係を示す図である。
図13】キャベツの芯を還元剤に用いた場合のMg/Si比と温度の関係を示す図である。
図14】キャベツの芯、グラファイトをそれぞれ還元剤に用いた場合のMg回収率を比較して示した図である。
図15】A〜D キャベツの芯を還元剤に用いた場合に得られた炭素化合物を解析したXPSスペクトルのMg1sのピーク付近の領域のスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のマグネシウムの回収方法は、マグネシウムを含む原料からマグネシウムを回収する方法であって、マグネシウムを含む原料と有機物を混合して、混合物を得て、その後、混合物を不活性ガス雰囲気中で300℃〜1300℃で加熱することにより、原料中のマグネシウムを蒸発させ、蒸発したマグネシウムを冷却して、マグネシウムを固体化して回収する。
【0017】
上述した本発明のマグネシウムの回収方法について、図1のフローチャートを参照して説明する。
図1に示すように、まず、ステップS1において、マグネシウムを含む原料と有機物を混合して、混合部を得る。
次に、ステップS2において、混合物を、不活性ガス雰囲気中で加熱して、原料中のマグネシウムを蒸発させる。加熱の温度は上述した300℃〜1300℃の範囲内とする。
次に、ステップS3において、ステップS2で蒸発したマグネシウムを、冷却して固体化させて回収する。これにより、固体化したマグネシウム(金属マグネシウム)を回収することができる。
【0018】
本発明のマグネシウムの回収方法において、マグネシウムを含む原料としては、例えば、グリーンサンド、ドロマイト、その他のマグネシウムを含む鉱物を使用することができる。その他のマグネシウムを含む鉱物としては、ペリクレーズ(組成:MgO、Mg60%)、ブルーサイト(Mg(OH)、Mg41%)、マグネサイト(MgCO、Mg28%)、かんらん岩((MgFe)SiO、Mg28%)、蛇紋岩(3MgO・2SiO・2HO、Mg26%)、滑石(3MgO・4SiO・HO、Mg23%)等が挙げられる。
【0019】
グリーンサンドは、ステンレス鋼、特殊鋼、耐熱鋳物の原料となるフェロニッケルを精錬する際に、スラグを水砕し細粒化して得られる人工製品である。そのため、グリーンサンドは、比較的安価に得られる。
また、グリーンサンドは、マグネシウムの含有量が比較的多い。
グリーンサンドの化学組成は、住友金属鉱山株式会社HP(http://www.smm.co.jp/business/refining/product/fnickel/)の表の記載によれば、シリコン21〜27%、マグネシウム16〜23%、鉄3〜9%、酸素36〜50%である。これらの値から、MgOに換算すると、MgOを28〜38%含有していることになる。また、上記のHPの表には記載されていないが、AlやCaを含有していることもある。
【0020】
ドロマイトは、MgCOとCaCOを含む鉱物であり、Mg13%である。従来からピジョン法によるマグネシウムの精錬の原料として、ドロマイトが使用されている。
【0021】
グリーンサンドは、ドロマイトよりもMgの含有量が多い。また、グリーンサンドは、その他のマグネシウムを含有する鉱物よりも、安価に入手することができる。
従って、本発明の回収方法において、マグネシウムを含有する原料としてグリーンサンドを使用することにより、原料コストを低減することができる。
【0022】
本発明のマグネシウムの回収方法において、有機物としては、様々な種類の有機物を使用することが可能である。
特に、有機物として、有機廃棄物、例えば、生ゴミとして廃棄される食物廃棄物、木屑等の植物廃棄物、を使用すると、回収コストを低減することができる。
また、マグネシウムを含む原料と有機物との反応性を良好にするために、有機物は、原料と混合しやすい程度の大きさであることが望ましい。使用する有機物によっては、必要に応じて、原料と混合する前に粉砕等により細かくしておくと良い。
また、水分の多い有機物を使用する場合等において、原料と混合する前に、予め乾燥して水分を除去してもよい。
【0023】
本発明のマグネシウムの回収方法において、より好ましくは、混合物を加熱する温度を900℃〜1200℃の範囲内とする。
加熱する温度が1200℃を超えると、加熱のコストが大きくなり、また、回収されるマグネシウムに、マグネシウムシリケートが混ざることがある。
加熱する温度が900℃未満では、900℃以上と比較して、マグネシウムの回収率が10%〜20%程度低くなってしまう。
【0024】
次に、本発明のマグネシウムの回収方法における、マグネシウムを含む原料と有機物の反応について考察する。
【0025】
あるAという金属酸化物を還元する際に、Bという金属と反応させ、Bの酸化物とAから得られる金属を得ることができる。しかし、その場合はAよりBの酸化物の方が安定(標準生成自由エネルギーがマイナスで大きい)必要がある。様々な金属酸化物に対して、温度と金属酸化物の標準生成自由エネルギーの関係を調べたデータとして、エリンガムダイヤグラムがある。酸化物のエリンガムダイヤグラム(H. T. T. Ellingham: J. Soc. Chem. Ind. [London], 63, (1944), p.125等を参照)によれば、MgOと特定の金属を反応させてMgを得る場合に、MgOより安定な酸化物はCaOだけであることから、MgOの還元に関しては金属Caと反応させ、金属MgとCaOを生成させる反応のみとなってしまう。
【0026】
金属酸化物の還元剤としては、炭素Cが良く知られている。半導体SiをSiOから得る際に、金属炭素棒を1900℃に加熱してSiを得るMG法が知られている。
しかし、上述のエリンガムダイヤグラムにおいて、MgOはCOよりも安定であるため、このデータからではCとMgOからMgを得ることは困難と想定される。
そこで、MgOの還元に際して、Cとの反応で生成するCOを反応系外に取り除くことにより、反応の平衡を生成物側にずらして、連続的にMgOをMgに還元することが考えられる。
【0027】
本発明の回収方法では、マグネシウムの還元剤として、有機物を使用する。
有機物は、炭素Cの他に水素Hも含有しており、この水素Hも金属酸化物の還元剤として作用させることができる。有機物の分解、及びHとMgOとの反応で、それぞれ生成するHOを、COと同様に反応系外に取り除くことにより、反応の平衡を生成物側にずらして、連続的にMgOをMgに還元することが考えられる。
また、有機物を使用することによって、有機物中の水素Hやその他の成分(還元性を有する炭化水素やその他の有機化合物)も金属酸化物の還元剤として作用させることができるので、炭素棒やグラファイト粉末のような炭素のみの還元剤と比較して、還元作用を強めることができると考えられる。これにより、300℃という低い温度でも、マグネシウムを還元して、マグネシウムを回収することが可能になる。
【0028】
有機物に含まれる炭化水素(C)としては、主にエチレンCが還元反応に寄与すると考えられる。
また、特に有機物として、植物由来の有機物を使用した場合には、植物を構成していたセルロース(組成式CHO)の一部がガスとなり、このセルロースのガスも還元剤として作用すると考えられる。
【0029】
エチレンとセルロースのそれぞれの反応式を考えると、以下の通りである。いずれも、COとHOを生じて、還元反応によりMgを生成する。
a)エチレンの反応式
+6MgO→6Mg+2CO+2H
b)セルロースの反応式
n(CHO)+2MgO→2Mg+CO+HO+(n−1)(CHO)
ここで生じたCOとHOは、不活性ガスにより連続して系外に排出されることで還元反応が進む。従って、このHOは不活性ガスにより排出される限り、還元されたMg金属を再酸化する可能性は無い。
Oが系内に残存する場合は、逆反応が生じMgOが生成するが、同時に右向きの反応も生じることで平衡が成立する。この場合、固体で生成するMgO、炭化水素源ともにモル数で勝るため反応は右に進み、1気圧という条件下での反応を想定すると気体として生成した余剰のCOとHOは系外に排出されることになり、結果として平衡反応は右に進み還元反応は継続して進行する。
【0030】
一方、還元剤として、水素Hを用いた場合の反応式は以下の通りである。
+MgO→Mg+H
また、還元剤として、炭素Cを用いた場合の反応式は以下の通りである。
C+2MgO→2Mg+CO
なお、水素Hを単独で用いた場合、炭素Cを単独で用いた場合よりも還元が進む。このことから、水素の方が炭素よりも還元作用が強いと考えられる。
【0031】
キャベツ芯等の植物由来の有機物を用いて還元反応を行ったところ、植物由来の有機物が熱反応により300℃〜800℃で炭素化合物に変化した。なお、その他の有機物についても、還元反応後、同様に炭素化合物に変化すると考えられる。
そして、還元されたマグネシウムはマグネシウム蒸気となるが、300℃〜800℃では還元されたマグネシウムのうちの一部は、有機物が変化した炭素化合物に吸着される。
一方、800℃を超えると、炭素化合物に吸着されたマグネシウムも蒸発すると考えられる。900℃以上でマグネシウムの回収率が急激に上昇するのは、この炭素化合物に吸着されたマグネシウムの蒸発に起因すると考えられる。
【0032】
なお、本発明の回収方法において、グリーンサンドを原料として使用する場合、Mgとグリーンサンドに含まれる他の金属(Si,Fe,Al,Ca)を分離して、他の金属の含有量をできるだけ低くすることが望ましい。グリーンサンドに含まれる金属の沸点は、Mgが1095℃、Siが2357℃、Feが2863℃、Alが2520℃、Caが1503℃である。
従って、1300℃以下の温度では、グリーンサンドが還元される際に蒸発して単離、分離できる可能性のある金属はMgのみである。
【0033】
本発明のマグネシウムの回収方法に用いる回収装置の一形態の概略構成図(断面図)を、図2に示す。
図2に示す回収装置10は、反応管11を備え、この反応管11の左側の部分に加熱部21が構成され、反応管11の右側の部分に冷却部22が構成されている。
反応管11の左端に導入管12が設けられ、反応管11の右上に排出管13が設けられている。
加熱部21は、反応管11の外周に熱源14が設けられた構成である。熱源14としては、電熱線やランプ等を用いたヒーターが使用可能である。
冷却部22は、反応管11を熱が伝導しにくい材料で構成し、熱源14を設けない構成とする。これにより、反応管11内を冷却することができる。なお、反応管11の冷却部22の外部に、冷却源を設けることも可能である。
【0034】
この回収装置10では、例えば以下に述べるようにして、マグネシウムの回収を行うことができる。
まず、反応管11の加熱部21の内部に、原料と有機物の混合物16を入れる。
そして、導入管12から不活性ガス15を流しながら、熱源14によって混合物を加熱することにより、混合物16を還元反応させて、マグネシウム蒸気を発生させる。
発生したマグネシウム蒸気は、不活性ガス15と共に反応管11内を左から右に流れて、冷却部22に移動し、冷却部22で冷却されて、マグネシウム金属が析出する。図2では、反応管11の冷却部22で析出して堆積したMg17を示している。
還元反応で生じた、二酸化炭素や水やその他のガスは、不活性ガス15と共に、排出管13から排出される。
反応終了後、不活性ガス雰囲気で堆積したMg17を取り出せば、マグネシウムを回収することができる。
【0035】
なお、図2の熱源14を設ける代わりに、反応管11を透明として、太陽光又は光源からの光を、反射鏡やレンズ等を用いて反応管11内の混合物16の部分に集束させることによって、混合物16を加熱する構成とすることも可能である。
【0036】
本発明のマグネシウムの回収方法に用いる回収装置は、図2に示した構成に限定されるものではなく、その他の構成の回収装置を用いることも可能である。
例えば、反応管を閉鎖系として、冷却部の先で反応管内を真空引きして、還元反応で発生するガスを除去する構成も可能である。
また例えば、冷却部を、従来のマグネシウムの回収方法(ピジョン法、熱還元法)で採用されている構成と同様の構成とすることも可能である。
【実施例】
【0037】
実際に、グリーンサンドと有機物を使用して、グリーンサンドの還元反応の実験を行った。また、比較対照として、グラファイトや水素をそれぞれ還元剤に用いて、同様の実験を行った。
【0038】
なお、以下の実験では、図2の回収装置10の冷却部22に相当する構成は設けないで、還元反応後に試料を冷却する。そのため、還元反応後の生成物の状態は、図2の回収装置10のように冷却部22で冷却して回収する場合とは異なることがある。
【0039】
有機物として、抽出後のコーヒー粉、抽出後の茶殻、キャベツの芯を用意して、コーヒー粉及び茶殻は室温で乾燥して使用し、キャベツの芯はみじん切りして乾燥後に乳鉢で粉砕し2mm以下の大きさにして使用した。
【0040】
マグネシウムの原料としてグリーンサンドの粉を用いて、粉砕したグリーンサンドの粉0.5gと、それぞれの有機物(コーヒー粉等)1.0gを混合して、磁性ボート(70mm×15mm×15mm)の中心部に幅20mmで設置した。
長さ1mの磁性管を電気炉に設置し、電気炉の中心部に試料混合物が来るように、磁性ボートを置いた。磁性管の両端を、中心に開けた穴にステンレスパイプを通したシリコンゴムで閉じ、磁性管内に、不活性ガスとして窒素ガスを流した。窒素ガスの流量は50ml/分として、設定温度まで1時間で昇温し、設定温度で所定時間熱処理を行った。磁性管の出口側に繋いだビニール管を水の入ったトラップに通し、バブリングによる気体の流通を確認すると共に、逆流して空気が磁性管内の混合試料に触れないように設計した。
【0041】
グリーンサンド中に含まれる酸化物が金属まで還元されるのに必要な炭素の量(モル数)は、それぞれの分子量と含有量から計算すると、おおよそ以下の通りである。
FeO:0.035〜0.075mol
MgO:0.35〜0.47mol
SiO:0.76〜0.96mol
Al:0.2〜0.38mol
以上を合計すると、グリーンサンド100gを全て金属に還元するのに必要な炭素モル数は1.35〜1.89モルとなる。
一方、コーヒーの生豆の成分は、100g中に炭水化物41g、脂肪0.5g、たんぱく質12.2%等を含有する(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%92%E3%83%BCより)ので、抽出後のコーヒー粉は、組成式として「CHO」でグリーンサンドの還元に寄与するとみなした。CHOの1.35〜1.89モルの質量が40.5〜56.7gとなるため、グリーンサンドの質量の60%に相当するコーヒー粉を還元剤として混合すれば、炭素として十分な量であることがわかる。従って、上述のグリーンサンド0.5gとコーヒー粉1.0gの混合比の実験条件では、還元に十分な量の炭素及び水素がある。
【0042】
また、比較対照実験のグラファイトとしては、Newmet Koch A Division New metals and Chemicals Ltd.社製の高純度グラファイトパウダー(純度99.999%、<188μm)を使用した。グリーンサンドとグラファイトの質量比は、1:2、もしくは、2:1とした。グリーンサンド100gを全て金属に還元するのに必要なグラファイトは16.2〜22.7gであるので、2:1でも還元に十分な炭素があると考えられる。
原料とグリーンサンドとの混合比以外は、有機物と同様の実験条件とした。
【0043】
(X線光電子分光装置XPSによる評価)
X線光電子分光装置(VG社製220i-XL)を使用して、原料及び還元処理後の試料の評価を次の条件で行った。X線源をAl−Kα(hν=1486.6eV)として、グリーンサンド中に含まれているMg,Ca,Al,Si,Fe,C,Oについて、Mg1s(結合エネルギー領域1290〜1330eV、以下同様とする)、Ca2p(330〜370eV)、Al2p(70〜90eV)、Si2p(90〜120eV)、Fe2p(700〜740eV)、C1s(270〜300eV)、O1s(520〜550eV)の各スペクトルを測定した。
還元処理後の試料については、Mg1s,Si2pのスペクトル面積から求めたMg/Si比から、原料のグリーンサンドで測定したMg/Si比と比較した。Siはグリーンサンド中に多量含まれ、融点及び沸点が高いことから、還元処理後もグリーンサンド中に安定に存在すると仮定し、基準として用いた。
【0044】
(グリーンサンドのXPSスペクトル)
グリーンサンドをXPS測定して得られたXPSスペクトルを、図3に示す。また、0〜100eVの領域のスペクトルを図4Aに示し、Al2p,Ca2p,Si2p,Fe2p,Mg1s,C1s、O1sの各スペクトルの測定結果を、図4B図5Hに示す。なお、図4A図5Hでは、横軸の結合エネルギーは測定値を補正せずに示している。図4Cより、SiOのSi2pは、103〜104eVで3〜4eVチャージアップしていることがわかる。本実験では、Al,Si,Ca,Fe,Mgが金属酸化物状態であるので、以降は特に必要のある場合を除き、チャージアップによる結合エネルギーの補正と各元素の酸化状態には留意せず、主にSiとMgのスペクトルの面積から求めたMg/Si比の減少より、還元によるMg回収の可能性を考察した。また、グリーンサンド自体に含まれるMgとSiについてXPSで測定したスペクトルの面積からMg/Si比を求めると、12.8〜13.8であった。
【0045】
(グラファイトを還元剤に用いた還元反応)
比較対照のグラファイトの実験結果を、まとめて表1に示す。反応温度は、900℃,1000℃,1100℃,1200℃、混合比は1:2と2:1としている。なお、表1中、「Blank」は、上述したグリーンサンドのMg/Si比の測定値を示している。
【0046】
【表1】
【0047】
表1より、900℃〜1200℃で反応させると、グリーンサンド中のMgが処理温度の上昇に伴い徐々に減少しており、1200℃で3.3〜4.1と最小になった。この場合、グリーンサンドに含まれるMgからの回収率として考えると、69.0%〜75%の回収率となる。
また、グリーンサンドとグラファイトの質量比を1:2と2:1と変えたところ、1200℃では前者が3.3〜4.1であるのに対し、後者は5.4〜5.9となった。このことは、炭素源を少なくすると、Mgの回収率が下がることを意味する。
【0048】
表1のMg/Si比を温度に対してプロットして、図6に示す。
図6より、グラファイトを炭素源としてグリーンサンドからMgの除去を行うと、900℃〜1200℃にかけてほぼ直線的にMg/Siが減少するが、1200℃でも、Mg/Si比は3.3までしか下がっていないことがわかる。これをMg回収率に換算すれば、ほぼ75%にまでしか達しないことがわかる。
【0049】
(水素を還元剤に用いた還元反応)
比較対照として、水素ガスを用いた還元反応を、1200℃で5時間行った。
還元反応後のMg/Si比は2.9となり、Mgの除去率は78%となった。
このことから、グラファイトを用いた場合は、水素ガスを用いた場合と比べてグリーンサンドからのMg回収効率が劣ることがわかる。
【0050】
(コーヒー殻を還元剤に用いた還元反応)
抽出後のコーヒー殻を還元剤に用いて、グリーンサンドを還元した実験結果を、表2と表3に示す。反応温度は、900℃,1000℃,1100℃,1200℃,1300℃、混合比は1:2としている。900℃〜1200℃をまとめて表2に示し、1300℃のみ測定箇所別に分けて表3に示す。
また、表2と表3のMg/Si比を温度に対してプロットして、図7に示す。表3の1300℃については、内部を測定して得られたMg/Si比(2.1)のみを図7にプロットしている。
【0051】
【表2】
【表3】
【0052】
表2及び図7より、グリーンサンドと抽出後のコーヒー殻を反応させると、Mg/Si比は900℃で既に3.2〜3.9となり、回収率が64〜83%に達しており、グラファイトを還元剤として用いて1200℃で反応させた場合と同等或いはそれ以上のMg回収率が得られることがわかる。
Mgの沸点1095℃よりも低い900℃においてもMgの回収が生じているが、これは、900℃においても十分なMg金属の蒸気圧が得られるため、グリーンサンド中のMgOの還元反応が進み、Mg金属が生成すれば、Mg金属は蒸発してグリーンサンドから除去されていくことを示唆している。
1100℃での反応の結果を見ると、Mg/Si比は1.9〜2.7と最も小さな値を示し、この温度で最も効率良くMgの回収が可能であると考えられる。この結果は、1100℃という反応温度がMgの蒸発温度と近いため、グリーンサンド中のMgOが還元されてMg金属が生成次第、効率良くグリーンサンドからのMgの除去が起こる結果と推測される。
【0053】
1300℃でグリーンサンドとコーヒー殻を反応させると、白い繊維状物質が生成しており、かつ、磁性ボートの壁面に白い物質が付着していることが観察された。磁性ボートの内側に付いた白い物質は、極めて固く剥がし取ることができなかった。磁性ボートの内壁についた白い物質は、グリーンサンドの還元により生成したMgと推測される。
そこで、1300℃で反応させた場合については、白い繊維状物質と、反応後の混合物の表層及び内部の3つの箇所で採取した試料をXPSで測定を行った。
白い繊維状物質をXPSで測定した結果、MgだけでなくSiも観測され、Mg/Si比は5.2であった。XPS測定中、この繊維状物質は赤い発光を示し、Mgシリケートの生成が推測された。
混合物の表層はうっすらと白い部分で覆われており、Mg/Si比は6.9と大きな値を示し、この部分にMgが多く含まれていることが分かった。これに対し、混合物の内部はMgが除去されていてMg/Si比は2.1と小さな値を示した。
以上を纏めると、1300℃に反応温度を上昇させると、Mgの沸点より温度が高いため、グリーンサンド中のMgOの還元、Mgの蒸発とともに、MgOとSiOの反応によるシリケート物質の合成、昇華による結晶化が同時に生じていると考えられる。
本実験条件では、反応温度まで1時間という短時間で昇温させているため、Mgの蒸発温度1095℃付近でMgの蒸発が短時間で終了し、すぐに更に高温になるためシリケートの合成反応が急速に進むことが考えられる。
上述した実験結果から、1300℃でもMgの回収は可能であるが、シリケートが生じる可能性があることがわかる。
シリケートが合成されると、その分マグネシウムの回収量が減ることになる。従って、マグネシウムの回収率を高くする観点から、反応温度は1200℃以下がより好ましいと考えられる。
【0054】
(茶殻を還元剤に用いた還元反応)
抽出後の茶殻を還元剤に用いて、グリーンサンドを還元した実験結果を、まとめて表4に示す。反応温度は、900℃,1000℃,1100℃,1200℃、混合比は1:2としている。また、表4のMg/Si比を温度に対してプロットして、図8に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4及び図8より、茶殻を炭素源にしてグリーンサンドの還元反応を行うと、900℃ではMg/Si比が僅かに減少するだけであるが、1000℃以上ではMg/Si比はその値は急激に減少し3以下となり、Mg回収率としては76〜78%に達することがわかる。1100℃ではMg/Si比は最小1.5となり、Mg回収率は88〜89%と優れた結果を示した。1100℃で最も優れた結果を示す事実は、Mgの蒸発温度が1095℃であり、この温度に近い反応温度で還元反応を行ったことに起因すると推論される。
茶殻を用いると、1000℃の反応でSiOが還元されSiが観測された。表4の「*1000」と記載した試料におけるSi2pスペクトルを、図9に示す。図9より、結合エネルギーが102〜103eVのSiOの他に99.5eVにSiのピークが観測されている。グリーンサンド中のSiはSiOとなっていることから、1000℃で茶殻によりSiOがSiに還元されていることが分かった。コーヒー殻、茶殻、キャベツの芯の3種類の植物由来の有機物を用いた実験の中で、茶殻を用いて1000℃の反応温度の時のみSiOの還元によるSiが観測された。グリーンサンドの還元反応では、炭素源が充分存在すると、MgOの還元によりMgがグリーンサンドから除去されると、残りのSiO等の酸化物の還元反応も次々に生じると考えられる。この茶殻を用いたグリーンサンドの還元反応の実験から、グリーンサンド中のSiOの還元反応は1000℃で可能であることが分かった。
【0057】
(キャベツの芯を還元剤に用いた還元反応)
キャベツの芯を還元剤に用いて、グリーンサンドを還元した実験結果を、まとめて表5に示す。反応温度は、900℃,1000℃,1100℃,1200℃、混合比は1:2としている。また、表5のMg/Si比を温度に対してプロットして、図10に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5及び図10より、キャベツの芯を用いてグリーンサンドの還元反応を行うと、900℃で既にMg/Si比は1.1〜2.3と小さな値となることがわかる。即ち、900℃・5時間で、十分なMg回収が可能という結果が得られた。1000℃で2.2〜4.2となり、1100℃で最小値1.1を取り、1200℃で3.5となった。1100℃で最小値を取ることは、この温度がMgの蒸発温度の1095℃と近いことに起因すると考えられる。これは前述したコーヒー殻、茶殻を還元剤に用いた場合と同様であり、反応温度として1100℃以下が最適という推論に至った。
【0060】
特に、反応温度を1200℃とした場合には、反応後、混合物の表層に白い部分が観測された。そこで、この白い部分をXPSで観測したところ、Si2pの面積400に対してMg1sの面積7513であり、多量のMgが検出された。これは、グリーンサンドからキャベツの芯との反応により還元され、Mgが抽出された証左と考えられる。なお、Mgの部分のみを測定できず、グリーンサンドも同時に観測されたため、Siが含まれた測定値となっている。
【0061】
植物由来の有機物のコーヒー殻、茶殻、キャベツの芯を用いてグリーンサンドの還元を行い、XPSで測定されるMg/Siの変化を、まとめて図11に示す。なお、図11中、◎はグリーンサンドのMg/Si比を示し、比較としてグラファイトを用いた結果を加えている。ここでは、処理時間については5時間を標準としたが、この図では処理時間1時間、10時間の結果も含んでいる。
グラファイトの場合と比べ、植物由来の有機物を還元剤としてグリーンサンドの還元を行うと低温で充分なMg回収が可能という結果が得られた。1100℃でMg回収の効率が最も良くなった。これは、前述したように、Mgの蒸発温度が1095℃であることと関係があると考えられる。
使用した3種類の植物由来の有機物の中でも、特に、キャベツの芯では、900℃から十分なMg回収が可能という結果が得られた。キャベツの芯、茶殻で1000℃のMg/Si比が900℃の値より上昇し、1100℃の最小値となる現象が見られた。
出発物質の未処理グリーンサンドのMg/Si比に対する還元処理後におけるMg/Si比の減少分を回収できるはずのMgの割合として、Mg回収率と表すことができる。図11におけるMg/Si比の処理温度による値の変化から、この定義に従うMg回収率を求めて、図12に示す。図12より、上述した植物由来の有機物を用いたときに、900℃でもMg回収率が得られることがわかる。
【0062】
(低温でのマグネシウムの回収)
上述したように、キャベツの芯を還元剤として使用した場合に、900℃から十分なMg回収が可能であるという結果が得られたので、さらに低温での加熱でマグネシウムの回収が可能であるか調べた。
反応温度を300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃として、混合比は1:2としている。
実験結果を、表5に示した900℃〜1200℃の結果も併せて、まとめて表6に示す。また、表6のMg/Si比を温度に対してプロットして、図13に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
さらに、図13におけるMg/Si比の処理温度による値の変化から、この定義に従うMg回収率を求めて、図14に示す。また、図12に示した、グラファイトを還元剤とした場合のMg回収率の結果も、併せて図14に示す。
図14より、グラファイトでは900℃で回収率が20%程度と低いのに対し、キャベツの芯を用いると300℃においても回収率が50%以上の高い値が得られた。マグネシウムがグリーンサンドから除去されるためには、グリーンサンド中のMgOをMgに還元する必要がある。Mgがグリーンサンドから除去される事実は、MgOからMgへの還元が進んだことを意味する。
図14のキャベツの芯の結果の温度と回収率を、表7にまとめて示す。
【0065】
【表7】
【0066】
図14を見ると、Mg回収率は、以下の2通りから構成されると考えられる。
(1)300℃から800℃までの緩やかな回収率増加
(2)900℃以上の高い回収率
【0067】
また、以下に挙げる結果が得られた。
・300℃から800℃で反応させたキャベツの芯は、炭素化合物(活性炭の可能性あり)となっていた。XPSで解析した結果、炭素化合物上にMgが吸着していることが分かった。
・300℃から800℃でグリーンサンドを反応させた後に、油状の生成物が炉心管の出口側の内面に付着していた。
【0068】
Mgの蒸気圧は800℃以下ではかなり低いことが想定される。従って、上記(1)の傾向は、昇温中にキャベツの芯から蒸発した炭化水素がグリーンサンドのMgOをMgに還元すると共に反応して油状物質に変化し、蒸発したMg蒸気が500℃以上で変化した炭素化合物(活性炭等)に吸着することが示唆される。
これに対して、(2)の傾向は、この炭化水素によるMgOの還元と共に、900℃以上で高いMg蒸気圧が得られると推測されることから、以下の両方が生じると考えられる。
・800℃以下で起こる、有機物から生じる炭化水素によるグリーンサンド中のMgOの還元と、有機物から変化した炭素化合物(活性炭等)に吸着したMgの蒸発
・900℃以上で生じる炭素化合物(活性炭等)自体によるグリーンサンド中のMgOの還元と、生成するMgの蒸発
【0069】
ここで、グリーンサンドとキャベツ芯を、500℃、600℃、700℃、800℃でそれぞれ反応させた試料の、反応後に得られた炭素化合物をXPSで解析した。解析して得られたMg1sのピーク付近のXPSスペクトルを、図15A図15Dに示す。500℃の試料のスペクトルを図15Aに示し、600℃の試料のスペクトルを図15Bに示し、700℃の試料のスペクトルを図15Cに示し、800℃の試料のスペクトルを図15Dに示す。
【0070】
図15A図15Dより、いずれの試料もMgが検出され、グリーンサンドから除去されたMgが炭素化合物に吸着していることが分かる。
【0071】
(他のMg含有鉱物からのMg回収)
次に、グリーンサンド以外の他のMgを含む鉱物からのMg回収の可能性を調べた。
Mgを含む鉱物として、蛇紋岩とタルクを用意した。蛇紋岩とタルクは、いずれもSiOとMgOを含む鉱物である。蛇紋岩は、鉱物標本を試料として、粉々に破砕粉砕した粒子と切断機を用いて得られる粉末の混合試料を作成し使用した。タルクは、パナソニックポリテクノロジー社製の「タイヤパウダー」を使用した。この「タイヤパウダー」は、成分としてタルクの他に酸化チタン、ミネラルオイル、グンジョウを含んでいる。
有機物としてキャベツ芯とコーヒー殻を使用して、Mg含有鉱物(蛇紋岩、タルク)と有機物(キャベツ芯、コーヒー殻)を、それぞれ0.2gと0.4g混合して、800℃で反応させた。蛇紋岩の結果を表8に示し、タルクの結果を表9に示す。
【0072】
【表8】
【0073】
【表9】
【0074】
表8及び表9より、蛇紋岩及びタルクのいずれの鉱物中のMgOも、キャベツの芯、コーヒー殻により800℃でMgに還元されて除去されていることがわかる。
以上の事実から、本発明の回収方法によるMgOの還元とMgの回収は一般性があり、他の鉱物中に含まれるMgOからのMgの回収にも、本発明を適用できることが示された。
【0075】
なお、グリーンサンドを使用した場合と同様に、反応後に得られた炭素化合物をXPSで解析したところ、Mg1sスペクトルが観測された。
従って、グリーンサンドを使用した場合と同様に、生成したMgの一部が炭素化合物(活性炭等)上に吸着していることが分かった。即ち、蛇紋岩やタルク等、他の鉱物を原料に使用した場合でも、Mg金属を効率よく短時間で単離するには、900℃以上というMgの蒸発が活発である温度での処理が必要と考えられる。
【0076】
上述した各実験では、マグネシウムを含む原料と有機物を、1:2や2:1等、特定の比率で混合していた。
本発明では、原料と有機物を混合する際の混合比は、特定の比率に限定されるものではない。そして、有機物は、原料のマグネシウムの全てを還元するのに必要な量以上有ればよく、量の上限無く使用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 回収装置、11 反応管、12 導入管、13 排出管、14 熱源、15 不活性ガス、16 混合物、17 堆積したMg、21 加熱部、22 冷却部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15